Legend10
「敗北」

 


 

 

「あー、やっと帰ってきたぁ……」
 バイクを自宅の駐輪場に停め、ジュンイチは大きく伸びをする。
 そして、家の前に停められた青木の車から、ジーナとライム、あずさとブイリュウ――さらにファイとソニックも降りてくる。
 ジーナ達に加え、ファイとソニックもまた、ジュンイチの家に世話になることになったのだ。
 鈴香とガルダー、ライカと鳳龍に関しては、幸いにも鈴香の家の者が管理している神社“水隠神社”がこの府中にあったため、そこに厄介になることになっている。
「じゃ、今日はみんな、届いた荷物の荷解きしなくちゃならないから、今後のことはまた明日集まって話し合うってことでいいな?」
「OK、了解よ。
 あたしも編入試験に向けて勉強教えてもらわなきゃいけないし。いやホント切実に」
 帰ってくるなりヤマトとじゃれ合うあずさを尻目に明日の予定を確認するジュンイチにライカが答えると、
「……あら?」
 ジーナが何かに気づいた。
 郵便受けに何かメモが入っているのだ。
 とりあえず、ジーナはそのメモを取り出して目を通し――
「ジュンイチさん、これ……」
 言って、ジュンイチにそのメモを渡した。
「龍牙さんからです」
「親父から……?」
 ジーナに聞き返し、ジュンイチはジーナと同じようにメモに目を通すと、
「あー、みんな」
 一同を見回し、言った。
「すまないけど予定変更。
 今からちょっとついて来てくれないか?」
『………………?』

 そしてジュンイチが一同を連れてやってきたのは、龍雷学園・高等部の裏山だった。
 そう、以前ジュンイチがゴッドドラゴンを隠していたあの山である。
「いいんですか? ここ私有地ですよ?」
 一同を先導し、遠慮なく山道を行くジュンイチに、ジーナが入口にあった看板の内容を思い出して尋ねるが、
「あぁ、いいんだよ」
 笑顔でジーナに答えたのはジュンイチではなく、青木だった。
 見ると、あずさも何がおかしいのか笑い出すのをこらえている。背中越しで見えないが、肩が震えている辺りジュンイチも同様だろう。
「いいって……何でですか?」
 ガルダーの問いに、青木は笑って答えた。
「ここ、ジュンイチんちの山」
『えぇっ!?』
 青木の言葉に、一同は思わず驚きの声を上げる。
「ここって、ジュンイチの家が持ってる山なの!?」
「あぁ」
 聞き返すライカに答え、青木は苦笑して、
「お前らも……ジュンイチの家の事は少なからず知ってるはずなんだがな」
 その言葉の意味するところをはかりかね、ライカ達は一様に顔を見合わせた。

「えーっと……メモによるとこの奥に来いってことなってんだよなぁ……」
 言って、ジュンイチがのぞき込むのは、ゴッドドラゴンを隠していた例の洞窟の入口である。
「こんなところに呼び出して、お父さん、何の用なんだろ……?」
「ンなコト、オレだってわかんねぇよ」
 あずさに答え、ジュンイチは視線を洞窟の奥に向け、
「……ま、行けばわかるだろ。
 足元湿って滑りやすくなってるから気をつけろよ」
 言って、洞窟に入るジュンイチに一同が続き――
「ふみゃっ!?」
 言ってる側からライムがコケた。

 そしてしばし歩いた後――ジュンイチ達は洞窟の奥の地下空洞へと到着した。
 ちなみにここまでの道中、プラネル達は全員転んでいたりする(ソニックに至ってはファイを巻き込んだ)。
 と――
「………………?」
 眉をひそめ、ジュンイチが足を止めた。
「……ジュンイチさん?」
 鈴香が尋ねると、ジュンイチが答えた。
「……風の流れが変わった。
 ここは、反対側にも出口があって、向こうからこっちへ風が吹き抜ける形になっててさ、けっこう涼しかったんだぜ。
 けど――今はその風の流れが変わってる」
「そうですね。ジュンイチさんの言う通りここが一本道なんだとしたら、この風の流れ、少し変です。
 まるで、壁か何かにさえぎられて回り込んできてるような、そんな感じがします……」
 ジュンイチの言葉に“風”のプラネルであるソニックが同意すると、
「その通りだ」
 その言葉と同時――頭上から照らされた一条の光によって、彼らの前に龍牙が姿を現した。
「親父……?
 何なんだよ、いきなり呼び出して。
 それにその照明。いつの間にンなもん……」
 ジュンイチが尋ねると、龍牙は笑って、
「ハッハッハッ、この照明か?
 ここに設置したものの内のほんのひとつだよ。演出がてら私の頭上のものだけつけてみたんだ」
 そう言うと同時、龍牙が指をパチンと鳴らし――
 ――カッ!
 音を立て、地下空洞内が明るく照らし出された。
 地下空洞の各所に設置されていた照明機器が一斉に点灯されたのだ。
 龍雷学園・高等部の校舎ですら楽々入るほどの広さ、10階建のビルが入るほどの高さがある地下空洞が明るく照らされ――彼らの目の前にそれは現れた。
 巨大な地下空洞の中央に建造された、巨大な近代型建造物――
 呆然とするジュンイチ達に、龍牙は笑って言った。
「ようこそ、諸君。
 ブレイカーベースへ」

「このブレイカーベースは、キミ達ブレイカーのサポートのために建造した専用の施設だ」
 ジュンイチ達を案内して廊下を歩きながら、龍牙が解説する。
 一方、アニメ、はたまたSF映画の中にいるかのようなその光景に、コンピュータ好きのジーナやメカ好きの鈴香は先ほどから目を輝かせっぱなしである。
「その技術には最新の現代科学技術だけでなく、ジーナくんから渡された、ブレイカービーストの技術概念データが役立てられている」
「あぁ、鈴香さんが解析してくれたものですね」
 龍牙の説明に我に返ったジーナが納得すると、ジュンイチがジーナに尋ねる。
「いつの間に?」
「出かける少し前です」
「だとしたら、まだお前がブレイカービースト持ってなかった頃じゃないか。
 なんでそんな頃にブレイカービーストの技術概念データを手に入れていたんだよ? 鈴香さんからってことはゴッドドラゴンからデータ取ったってワケじゃないだろ?」
「まぁ、その話は追々」
 ジーナがジュンイチに答えると、龍牙はとあるドアの前で立ち止まった。
「さぁ、そこのお嬢さん方にとっては一番お待ちかねの部屋だぞ」
 そう言って、龍牙がドアを開け――その中は司令室だった。
『きゃあぁぁぁぁぁっ♪』
 黄色い歓声を上げ、最新技術の詰め込まれた司令室のシステムを見て回るジーナと鈴香を尻目に、龍牙が残されたジュンイチ達に説明を始めた。
「ここがブレイカーベースの中枢だ。
 まだデータ不足なので完全には稼動できないが、瘴魔の持つ特殊な波動を捉え、その存在を補足する専用のレーダーもある」
「瘴魔の波動?
 ヤツらが現れるとジュンイチ達が感じ取る、アレか?」
「そう。
 あたし達は、『瘴魔力』って呼んでるんだけどね」
 龍牙に聞き返す青木に、ライカが説明する。
「データなら、今回の旅でかなりの量が確保できましたから、それを使えば何とかなると思います」
「そうか? 助かる」
 こちらの話が耳に入ったか、我に返ったジーナの言葉に龍牙が言うと、
《ようこそ、みなさん、ブレイカーベースへ》
「え? な、何?」
 突然一同にかけられた声に、ファイがあわてて周囲を見回す。
 が――ジュンイチや青木、あずさは心当たりがあったようだ。平然と声に答える。
「あれ? この声、ひょっとしてクロノスか?」
「そーいやしばらく会ってなかったっけな」
「ヤッホー、クロノス! 久しぶり♪」
《お久しぶりです、ジュンイチさん、青木さん、あずささん》
「……知り合い?」
「知り合い……っつーか親が同じっつーか……」
 ライカの問いに、ジュンイチは苦笑して答え、声の主を紹介した。
「紹介するよ。
 親父の作り上げたAIプログラム、『クロノス』だ」
《はじめまして、皆さん。
 以後このブレイカーベースのメインオペレートを担当させていただく、AIプログラムのクロノスといいます》
「AI……人工知能なんですか?」
「ま、そんなトコ。
 最初は自律プログラムの試作だったんだけど、オレ達が時間をかけてじっくり教育した結果……」
《人格を持つに至ったワケです》
 鈴香の問いにジュンイチが答え、クロノスがそれを引き継ぐ。
「まるで洋画に出てきたスカイなんとかってコンピュータみたいね。
 ま、こっちは一応良識あるみたいだけど」
「その辺は、しつけに母さんも関わってたせいだな。ちょっと暴走気味だけど、愛情だけは無限大な人だし」
 ジュンイチがライカに答えると、青木が司令室の中を見回していくつかのシステムをチェックし、
「しっかし、クロノスはともかく、オレ達がいなかったほんのわずかの間に、よくここまでの施設が建造できたな」
「まぁ、そこはそれ。『コネ』を使ってな、人海戦術で昼夜フル回転で工事させた」
 青木の問いに龍牙が答え――それを聞いたジュンイチの顔が一気に青ざめた。
「……親父……
 『コネ』って、まさか……」
「あぁ」
 ジュンイチの問いにうなずき、龍牙はハッキリと言った。
「『実家』だ」
「やっぱりぃぃぃぃぃっ!」
 頭を抱えて絶叫するジュンイチを見て、ジーナは青木に尋ねた。
「青木さん、ジュンイチさん達の『実家』って?」
「さっきも言ったろ? 『お前らも覚えがあるはず』って」
「覚えが……?」
 青木の答えに考え込み――ライカはハッとした。
「あぁぁぁぁぁっ!
 『柾木』って、もしかして!」
「よーやく気づいたか」
 大声を上げたライカに、青木は笑って言った。
「お前らだって知ってるだろう?
 『柾木コンツェルン』の名は」
「ま、柾木コンツェルン!?」
 青木の言葉に声を上げたのはジーナである。
「ねぇ、まさきこんつぇるんって何?」
「えーっと、柾木コンツェルンっていうのは――」
 尋ねるブイリュウに、鈴香が説明を始めた。
「『柾木コンツェルン』とは、世界でも指折りの巨大企業のひとつです。
 総帥・柾木天神さんによってわずか一代で急成長を遂げた複合企業体で、工業・商業、運送業など多彩な分野に進出しています。
 まぁ、強引な急成長振りの代償として、一時期かなり内部の不正が横行していたみたいですけど……天神さん自身が毒抜きを行ったこともあって、むしろ不正によるマイナスポイントを利用して世間に好印象を得た好例としても知られています。
 また、自営業や農業の支援を行なうなど他企業、とりわけ中小企業や農家への協力を惜しみなく行なっていて、良心的な巨大企業としても有名ですね。
 中小企業あっての経済、その辺を天神さんはよくわかってらっしゃるみたいですね」
「じゃあ、ジュンイチ達ってそこの御曹司なの!?」
「正確には少し違うな」
 ライカの問いに答え、ジュンイチは続ける。
「出奔中なんだよ、オレ達。
 ――いや、出奔ってのもちょっと違うな、相続権放棄してるだけだから。
 もっとも、ジジィは納得してくれたけど、周りまでは納得してくれなかった。今回みたいな『貸し』を迂闊に作れば、ヘタすりゃSSが大挙して押し寄せてくることになる。その『貸し』を材料にして、オレを連れ戻すためにな」
「え? 継がないんですか?」
「継いでも楽しそうじゃないだろうが」
 意外そうに尋ねる鈴香に、ジュンイチは答えてため息をつく。
 と、なぜかライカとジーナがうんうんとうなずき、
「わかるわかる、その気持ち」
「実家継いでも、社員さん達養わなきゃいけないから、責任重大なんですよねー」
「………………?
 なんでお前らそんなにしみじみ実感してんだ?」
 ジュンイチが尋ねると、
「なんだ、まだ気づいてなかったのか?
 お前もジーナくん達のことを笑えないぞ」
 龍牙がそんなジュンイチに言う。
「『ハイングラム』に『光凰院』、お前だって知ってる名だぞ」
 龍牙の言葉に、ジュンイチはしばし考え込み――
 ――ぴしっ。
 音を立てて固まった。
 ぎぎぎぃっ、と振り向き、ジーナを指さし、
『ハイングラム・グループ』に……」
 そのままライカへと向き直り、
『華僑』の名家の、光凰院家?」
 そのジュンイチの問いに、ジーナもライカも『うん』とばかりにうなずいてみせる。
「ハイングラム・グループって、たしか実家ウチと肩を並べる大財閥だよね?」
「えぇ。
 言い出せなくてごめんね、言い出し辛くって……」
 あずさの問いにジーナがうなずくと、
「ねぇねぇ」
 そんな彼らに、今度はファイが疑問の声を上げた。
「華僑って……何?」
 その問いには当事者であるライカが答えた。
「あぁ、それはね……」

【ライカちゃんの雑学講座:「華僑ってなーに?」】
 『華僑』とは、中国人の海外移住者の総称である。
 俗に『中国四千年』と言われる長い歴史を持つ中国人の中にあって、華僑はその中でも極めて商才に長けた民族であり、「中国人から派生した新たな民族」と考える意見も存在している。
 当然、その才を活かして商業を基盤に巨富を築いた者も数多く、その手腕はユダヤ・インドと並ぶ世界三代商法のひとつに数えられてきた。
 その財力はすでに一企業のレベルを大きく凌駕し、特に東南アジアでの経済的影響力は絶大。その力は一国の政治すらも左右する。
 さらに、東南アジアのみならず『海水の及ぶところ華僑あり』と言われる通り華僑は世界中いたるところに進出しているのである。

「世界的な影響力なら、うちやジーナんトコすら上回る。
 いつぞやジジィが『目の上のコブ』だってボヤいてたっけ……光凰院家の名前もその時聞いたんだけどな」
「ふーん……」
 ライカの説明に付け加えるジュンイチの言葉にファイが納得すると、
「あー、みなさんの家が名家ぞろいなのはわかりましたけど……」
 突然、鈴香が声をかけた。
「どうしたの?」
 ライムが尋ねると、鈴香はジュンイチに尋ねた。
「さっきからずっと気になってたんですけど……ここ――っていうかこの地下空洞、やけに霊的な力が濃くありませんか?」
「え――――――?」
 鈴香の問いに、ライカは疑問の声を上げながら精神を集中し――
「……ホントだ。
 やけに霊力が濃いわね、ココ……」
「あぁ、そのことね」
 つぶやくライカの脇でジュンイチが笑って、
「説明するから――まずは屋上に出ようか」

「で、屋上に出て、何がわかるんですか?」
 ジーナがジュンイチに尋ねると、ジュンイチはブレイカーブレスの通信機能で司令室に残った龍牙に伝えた。
「いいぜ、親父。
 天井からの照明消してくれ」
 ジュンイチが言うと、天井から自分達を照らしていた照明が消え、地面からの照明だけが地下空洞を照らし――
「あ、あれは……?」
 その天井を見上げたジーナが言葉を失った。
 天井に一面、ビッシリと太い木の根が張り巡らされているのだ。
「ウソでしょ……この上の――あれだけの質量を支えてるっての? あの根!
 ってことは相当の太さってことよね? 根がここまで成長するなんて、並の樹齢じゃないわよ!」
「これだけの地下空洞、いくら何でも大きすぎると思ってましたけど……あの木の根が天井を支えてたんですね……」
「けど、あれがここの霊力が強いのとどんな関係があるの?」
 納得するライカと鈴香のとなりで尋ねる鳳龍に、ジュンイチは答えた。
「ありゃ、この山の頂上にある大木の根なんだけどね、その木がただの木じゃないんだよ」
「ただの木じゃない……?」
 尋ねるジーナにうなずき、ジュンイチは続ける。
「神社に生まれた鈴香さんなら知ってるだろ?
 神籬ひもろぎってヤツを」
「ひもろぎ……?」
「神が降臨することのできる、聖なる『器』のことですよ」
 ジュンイチの言葉に首をひねるファイに、鈴香が説明する。
「じゃあ、その頂上にあるという木が、その神籬なんですか?」
「そう。
 樹齢は聞いたことないんでわからないけど、かなり『力』のある神木らしいぜ。
 その霊力は保障済み。この地下空洞に満ちた霊力が何よりの証拠だ。
 それに――」
 言って、ジュンイチはジーナに腰に差していた“紅夜叉丸”を投げ渡し、
「その木刀――“紅夜叉丸”も、あの神籬の加護を受けてる。
 手入れの時に取っ払った枝を削り出して作ったんだ」
 ジュンイチがそう言うと、
「まぁ、そういうことだ」
 言って、龍牙も司令室からやってきた。
「ここにブレイカーベースを建造した理由もそれだ。
 ジーナくんから受け取ったデータの中に、霊力を動力に変換するシステム――ブレイカービーストの動力システム『Bブレイン』のデータがあった。
 このブレイカーベースはそのデータを元に、現代技術で可能な限り再現したフェイクのBブレインを使用し、発生したエネルギーを電力に変換して使用しているんだ」
「じゃあ、この基地の動力源って……」
「そう。
 この地下空洞に満ちる、神籬の霊力だ」
 ライカに答え、龍牙はジュンイチ達ブレイカーの面々を見回し、
「ここなら、ブレイカービースト達も神籬の霊力を糧に最大限に力を蓄えていられる。
 対瘴魔の最前線として、これほど有効な地はないだろう」
「へぇ……」
 龍牙の言葉にライカが納得の声を上げると、
「……龍牙さん」
 そんな彼に青木が声をかけた。
「ちょっと……いいっスか?」

「……東京、か……」
 ビルの上で東京の街並を眺めつつ、シャドープリンスは静かにつぶやいた。
「ヤツらを追って日本各地を回ったが、この地がもっとも霊力が強いか……
 やはりこの地のどこかに……」
「“アレ”が眠ってるんだね?」
 聞き返してくるメギドに無言でうなずくと、シャドープリンスは身をひるがえし、その場から離れた。
「そろそろ、ヤツらと正面きってやり合ってみるか……」

 ジュンイチ達と別れ、青木と龍牙はブレイカーベース内に用意された司令官室にやって来ていた。
「……で、『例の件』についての調べはついたんスか?」
「少しは、な……」
 青木の問いに苦笑まじりに答え、龍牙は彼の言う『例の件』についてのデータを端末から呼び出す。
「あの時……クモ瘴魔ミールと戦った時、アイツが巨大化したら自衛隊だけじゃなくて在日米軍まで出てきた……
 ジュンイチは疑問に思ってないみたいだけど、どうも引っかかるんだよなぁ……」
「あぁ。案の定自衛隊側とは連携も何もあったものじゃなかったからな」
 青木に答え、龍牙は壁のモニターに調査結果を表示した。
「やはり予想通りだった。
 あの最初のクモ瘴魔との戦いの直後、在日だけじゃない、本国の米軍の高官達にも多額の裏金の流れが確認された」
「やっぱりそうか……
 で? 出所は?」
 青木が聞き返すと、龍牙は頭をかいて、
「それが問題なんだ……
 いくら調べても、ルートが浮かんでこない。
 どの相手にも複数のルートが確認されたが、そのすべてがダミーだった」
「……つまり……オンラインの金の流れは全部フェイクってことっスか?」
「あぁ。
 となると、直接渡された可能性が高いな」
「けど、普通は基地に出入りする時持ち物とかチェックされるだろ。基地の人間だろうと外部の人間だろうと。
 つまり……」
「あぁ。
 相手は何の疑いも持たれずに基地に出入りできるほどの権力と、米軍高官をかたっぱしから抱きこめるほどの財力の持ち主、ということになる……」
 青木に答え、龍牙は手元のマグカップにコーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ、
「……やはり、『ヤツら』の可能性が高いな……
 もう少し、“彼女”に探ってもらうか……」
 龍牙の言葉に、青木はギョッとして彼を見た。
「“彼女”……って……
 ……まさか、アイツを駆り出してるんスか!?」
「あぁ。
 こと諜報に関しては、うちの人間の中ではトップクラスだからな」
「で……そのこと、ジュンイチには?」
「もちろん、言ってないさ。
 彼女が動いてると知っていたら……」
「そうっスね……」
 龍牙の言葉に、青木は苦笑して付け加えた。
「知ってたら今ごろ全力で逃げてますね」

 話を済ませ、龍牙と青木が司令室に戻ると、ジュンイチ達はすでに基地内の見学を済ませて戻ってきていた。
「しっかし、ホントに金持ちばっかりそろったもんだよなぁ……」
 そうつぶやくと、ジュンイチは司令室でココアをすすりながら指折り数えて、
「柾木コンツェルンにハイングラムグループに華僑の名家、あげく北海道の大牧場主に水神を奉った神社の跡取りか……」
「そ、そんな、うちはそんなにお金持ちじゃないですよ。厳島神社に仕えている状態ですし……」
「けど、跡取り娘さんなのは事実でしょ?」
 ジュンイチの言葉に謙遜する鈴香にあずさが言うと、
 ――ピピッ。
 突然の電子音と共に、メインスクリーンの脇に常設されたレーダーモニターに赤い光点が現れた。
「何だ?」
《瘴魔力反応です。
 人間型瘴魔獣反応1、現場は――》
 クロノスが答えるよりも早く、ジュンイチはイスから立ち上がり、
「場所は後でいい! 移動しながら聞く!
 そうだ、あずさ! お前はここでおとなしく待ってろよ! 今までみたいにしゃしゃり出てくんなよ!」
「あ、待ちなさいよ! あたし達もいくってば!」
 言うなり、ブイリュウの首根っこを捕まえて司令室を駆け出していくジュンイチにライカが言い、彼女達もそれぞれのプラネルと共に司令室を駆け出していった。
 ――はずだった。
 しかし、何を思ったかジュンイチとブイリュウ以外の面々が突然戻ってきた。
「ん? どうした?」
 青木が尋ねると、
 ――ガシッ。
 その肩が、ジーナとライカによってつかまれた。
「? ? ??」
 疑問符を浮かべる青木だったが――そんな彼にジーナが言った。
「現場まで乗せてってください」
「あ、そゆコト」

「――見つけた!」
 ブイリュウを後ろに乗せ、ゴッドセクターで現場へと急行したジュンイチが、すでに到着していた警官隊と交戦している瘴魔獣を見つけた。
 沖縄で戦ったものと同じバッファロー種の瘴魔獣――ミノダラスである。
「またアイツか!
 だとしたら――」
 言って、ジュンイチはバイクを止め、周囲を見回して声を張り上げた。
「いやがるな!? シャドープリンス!」
《言われなくても出てやるさ》
 ジュンイチの言葉に、どこからともなく聞こえたその声が答え、
 ――グワッ!
 突然、ジュンイチ達の――いや、周囲のすべての人や物体の影が形を変えた。
 そして、ミノダラスのとなりにそれらの影が集まると、形を作り出すかのように盛り上がり――弾け飛ぶとその中からシャドープリンスが姿を現した。
「ずいぶんな御登場の仕方じゃないか」
「“影”のブレイカーだからな、それなりに演出させてもらった」
 ジュンイチの言葉に、シャドープリンスが不敵な笑みを浮かべ――
「ジュンイチさん!」
 ジーナが声を上げ、ライカ、鈴香、ファイと共に駆けつけてきた。
「アイツ! また性懲りもなく瘴魔獣引き連れて!」
 シャドープリンスの姿を見つけ、ライカが声を上げると、シャドープリンスは笑って、
「なに、心配するな。
 こいつは瘴魔獣じゃない」
 そう言うとシャドープリンスはパチンと指を鳴らし――突然ミノダラスの身体が漆黒に染まった。
 そして、それが影となって大地に戻ると、中に仕込まれていた岩がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「――なるほど。“力”を使った人形、か……
 オレ達は、まんまとおびき出されたワケだ」
「そういうことだ。
 お前達と、一度真っ向からぶつかっておきたくてな」
 ジュンイチに答え、シャドープリンスが指を鳴らした手をそのまま掲げ――
 ――ブワッ!
 突如上空から、広島で見たシャドープリンスのドラゴン型ブレイカービーストが飛来する!
「いくぞ! ソウルドラゴン!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 ソウル、ブレイカー!」
 シャドープリンスが叫び、ソウルドラゴンが翔ぶ。
 まず、両足がまっすぐに正され、スネの下方に位置していたアーマーパーツが倒れこむとつま先の爪をカバーし、両足の変形が完了する。
 続いて、バックパックに装備されていた2基のバーニアポッドが分離、両肩に合体すると肩アーマーとなり、両手の親指にあたる爪が腕の内側に収納、掌にあたる部分から拳が飛び出し、力強く握りしめる。
 頭部が胸へと移動し胸アーマーになり、ロボットの頭部が飛び出しアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「ソウル、ユナイト!」
 シャドープリンスが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し口元をフェイスガードが覆い、カメラアイと額のBブレインが輝く。
「影龍合身! ソウル、ブレイカァァァァァッ!」

「とうとうブレイカーロボでお出ましかよ!」
 合身したソウルブレイカーを前にジュンイチが叫ぶと、シャドープリンスはそんな彼らを見下ろし、
「さぁ、早く合身するがいい。
 攻撃しないで待ってやる」
「余裕のつもり……?」
「けど、このまま攻撃されるよりマシですよ。
 早くブレイカーロボを!」
「いくぜ、みんな!」
 うめくライカに鈴香が答え、ジュンイチの叫びを合図に一同がブレイカーブレスをかまえる。
 そして、
『オープン、ザ、ゲート!』
 プラネル達がブレイカービーストを召喚する!

「エヴォリューション、ブレイク!
 ゴッド、ブレイカー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドドラゴンが翔ぶ。
 まず、両足がまっすぐに正され、つま先の2本の爪が真ん中のアームに導かれる形で分離。アームはスネの中ほどを視点にヒザ側へと倒れ、自然と爪もヒザへと移動。そのままヒザに固定されてニーガードとなる。
 続いて、上腕部をガードするように倒れていた肩のパーツが跳ね上がり水平よりも少し上で固定され、内部にたたまれていた爪状のパーツが展開されて肩アーマーとなる。
 両手の爪がヒジの方へとたたまれると、続いて腕の中から拳が飛び出し、力強く握りしめる。
 頭部が分離すると胸に合体し直し胸アーマーになり、首部分は背中側へと倒れ、姿勢制御用のスタビライザーとなる。
 分離した尾が腰の後ろにラックされ、ロボットの頭部が飛び出すと人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
 最後にアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「ゴッド、ユナイト!」
 ジュンイチが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイと額のBブレインが輝く。
「龍神合身! ゴォォォッド! ブレイカァァァァァッ!」

 ――ズンッ!
 合身を完了し、ゴッドブレイカーが着地し、
「龍の力をその身に借りて、神の名の元悪を討つ!
 龍神合身ゴッドブレイカー、絶対無敵に只今見参!」
 あふれ出すエネルギーで周囲がスパークする中、ジュンイチが口上を述べる。
 そして、ライカもカイザーブレイカーに、ジーナ達もランドブレイカーに合身し、ジュンイチの両横でソウルブレイカーに向けてかまえる。
 だが――3体のブレイカーロボを前にしても、シャドープリンスの余裕は消えていない。自信に満ちた態度で超然と腕組みしている。
「とことん余裕ってワケね。
 いいわよ、その余裕タップリの顔、ブッ飛ばしてあげる!」
 叫んで、ライカが一直線にシャドープリンスソウルブレイカーへと突っ込み、
「カイザーソード!」
 素早く抜き放ったカイザーソードを振り下ろすが――そこにシャドープリンスソウルブレイカーの姿はない。
「なっ……!?」
 ライカが驚きの声を上げ――
 ズガァッ!
「きゃあっ!」
 シャドープリンスソウルブレイカーの蹴りを背中にくらい、弾き飛ばされる!
「ライカさん!」
 叫んで、ジーナが彼女を助けるべく突っ込んでいくが、シャドープリンスソウルブレイカーは背中の翼を広げて空中へと逃れる。
「逃がしません!
 ファイさん!」
「うん!」
 ジーナの言葉にファイが答え、ランドブレイカーが分離し――
「それを待っていた!
 ソウル、スコール!」
 叫ぶと同時、シャドープリンスソウルブレイカーは周囲にエネルギー弾を生み出すと一斉に彼女達に向けて爆撃、3人のブレイカービーストをまとめて蹴散らす!
『きゃああああっ!』
「ジーナ! 鈴香さん! ファイ!」
 大地に叩きつけられる3人の叫びにジュンイチが声を上げると、
「あたしを――倒したと思わないでよ!」
 叫んで、ライカカイザーブレイカーがシャドープリンスの背後で立ち上がる。
「カイザーランチャー、セットアップ!」
 叫んで、カイザーウィングをカイザーショットに合体させ、全身の武装を展開し――
「遅い!
 ソウルスマッシャー!」
 必殺技カイザースパルタンを撃つよりも速く、シャドープリンスソウルブレイカーが両肩から放った二条のビームがカイザーブレイカーを吹っ飛ばす!
「きゃあっ!」
 倒れ込み、なんとかライカは立ち上がろうとするが、シャドープリンスがそんな彼女カイザーブレイカーの身体を踏みつけ、
「――死ね」
 言って、尾部を分離・変形させたツインビーム砲を向け――
「させるかぁっ!」
 突っ込んで来たジュンイチの斬撃をかわし、ライカカイザーブレイカーの上から離脱する。
「大丈夫か?」
「くっ……!
 ……ダメ、ご丁寧に関節部にビームブチ込んでくれたみたい」
「生きてりゃよし!」
 ライカの答えに即答し、ジュンイチはシャドープリンスに向けてかまえる。
 一方、シャドープリンスは余裕タップリだ。ジュンイチに向けてゆっくりとツインビーム砲を向け、
「なぜ仲間達があっさりやられたか、わからないとでも言いたげだな」
「そうでもないぜ。
 一応予想はついてるが――説明してくれるとうれしいんだが?」
 言って、ジュンイチは警戒を解かないまま少しずつ移動、ライカから離れていく。
 ライカをシャドープリンスの攻撃に巻き込まないようにするためだ。シャドープリンスに説明を促したのも、そのための時間稼ぎの意味が強かった。
 一方、そのことに気づいているのかいないのか、シャドープリンスはそんなジュンイチに対してビーム砲を向けながら説明を始めた。
「なに、簡単な話さ。
 貴様らの戦いはずっと見させてもらった。そして、貴様らのデータ、戦法を集めさせてもらっていた。
 その結果――貴様らの弱点は大体把握させてもらった」
「弱点……だと……!?」
「そうだ。
 ランドライガー、スカイホーク、マリンガルーダ、この3機は単体での戦闘力はそう高くはない。しかも多機合体のためか合身も我々単機変形の機体に比べて多少時間がかかる。合体の際のスキをつけばそう怖い相手ではない。合身するにしろ爆裂武装するにしても、な」
 そして、シャドープリンスはチラリとカイザーブレイカーへと視線を向け、
「カイザーブレイカーは全身に火器を装備している。それ故に強力な印象を受けるが――それら一発一発に一撃必殺の破壊力はない上に武装の種類自体は多くはない。あげく近接兵装はブレードのみときた。
 結果、それぞれに対策を持つことは難しくはなく、各兵装を防がれた操者は自然と必殺技カイザースパルタンに頼らざるを得なくなる。
 が――カイザースパルタンは全弾発射という特性上、武装の展開時にスキができる。トドメでもないのに使用するのは自殺行為だ」
「……なるほどな。確かにその通りだ」
 シャドープリンスの説明に納得し、ジュンイチは尋ねた。
「で……オレは?」
「ゴッドブレイカーに弱点と言える弱点はない。どの能力もバランスよくまとまっている。あえて言うならゴッドウィングの武器使用中に飛べなくなることぐらいだが、最初の失敗以来貴様自身がうまくカバーしている。
 だが――」
 そこまで言い――シャドープリンスはフェイスガードの下の口に笑みを浮かべ、
「逆に言えば、恐れるべき長所もない!」
 言うなり――シャドープリンスは両肩のソウルスマッシャーでジュンイチを狙う!
 しかし、ジュンイチも敵の攻撃をずっと警戒していた。あっさりと飛来した閃光を回避する。
「――そこか!」
 叫んで、ジュンイチが舞い上がる土煙の中にシャドープリンスの気配を察知、ゴッドブラストを放ち――虚空を貫く!
「何っ!?」
 かわせるタイミングではなかった。そう。今までの相手なら……
 一瞬で相手の技量を感じ取り、ジュンイチの背筋に戦慄が走る。
 そして――
 ドゥッ! ドゥッ! ドゥッ!
「ぅわぁっ!」
 死角から放たれたソウルスマッシャーを、ジュンイチは紙一重で何とか回避する。
「こいつ!」
 回避しながらも、ジュンイチはゴッドキャノンを手にして反撃に出るが、火力では向こうの方が上をいっており、次第に劣勢に追い込まれていく。
「くそっ、こいつ、マジで強い……!」
「別に強くなどないさ!」
 驚愕するジュンイチに答え、シャドープリンスはさらにソウルスマッシャーによる砲撃を強める。
 接近戦ではゴッドブレイカーに分がある。近づけさせないつもりなのだろう。
 だが、ジュンイチもその程度で止められるほど甘くはない。
 ゴッドキャノンで牽制をかけつつ一気に間合いを詰めると、ゴッドキャノンを左手に持ち替えるとゴッドセイバーを取り出し――
 ガギィッ!
 横薙ぎに放たれた斬撃は、シャドープリンスのかまえた大鎌によって止められていた。
 ソウルブレイカーの放っていたソウルスマッシャーは両肩から放つ粒子砲。当然両手はフリーだ。
 シャドープリンスは最初から、ジュンイチが間合いを詰めてくることを読んでいたのだ。
「フンッ、さっきも言っただろう、戦術も把握させてもらったと!
 貴様の戦闘パターンなど……お見通しだ!」
 シャドープリンスが言い、ジュンイチゴッドブレイカーを弾き飛ばす!
「消え去れ!」
 そして、シャドープリンスが両肩のソウルスマッシャーをチャージし――
「させるかよ!」
 ドォンッ!
 ジュンイチが叫ぶと同時、シャドープリンスソウルブレイカーの背中で爆発が起きる。
 事前にジュンイチが放っていたフェザーファンネルの援護射撃である。
「くっ……!
 ゴッドブレイカーに特長がないとはいえ、やはり貴様は要注意だな。こういったデータにない思い切った攻撃をかけてくる……」
「へっ、ほめていただき、恐縮至極!」
 シャドープリンスに答え、ジュンイチが斬りかかるが、
「甘い!」
 それは読まれていたか、シャドープリンスはあえて受けずにバックダッシュで回避し、大鎌で背後を取ろうとしていたフェザーファンネルを叩き落とす。
「だからこそ……貴様はここで完全に叩きつぶす!」
 言うなり――シャドープリンスは再びソウルスマッシャーの体勢に入る。
 とっさにジュンイチが回避の体勢に入るが――それはフェイントだった。シャドープリンスは突然急加速をかけ、間合いを一気に詰めると大鎌による斬撃を繰り出す。
「くっ……!」
 なんとか反撃に転じようとするジュンイチだったが、剣で大鎌のような超重武器を受けるのは自殺行為だし、敵は大鎌の制空権ギリギリの間合いで攻撃をかけてくる。剣での攻撃は届かない。
「だったら!」
 叫んで、ジュンイチはゴッドキャノンを手放すとゴッドセイバーをそちらに持ち替え、シャドープリンスの斬撃をかわし、
「クラッシャー、ナックル!」
 大振りの攻撃を外し、スキだらけとなったシャドープリンスソウルブレイカーへとクラッシャーナックルを放つが、これもシャドープリンスはそのままわざと背後に姿勢を崩すことで回避して見せる。
 そして、
「ウィングセイバー!」
 ズガァッ!
「ぐあぁっ!」
 そこからさらにサマーソルトの要領で回転すると、刃のように研ぎ澄まされた翼でジュンイチゴッドブレイカーに斬りつける!
「くそっ!」
 舌打ちしつつ、ジュンイチはゴッドブラストでシャドープリンスを後退させつつこちらからも間合いを離す。
「まいったな……こっちは全力でやってるってのに、押され気味かよ……!
 やっぱ、向こうはこっちを知り尽くしてるのにこっちが向こうを知らないってのは大きいか……!」
 うめくジュンイチの脳裏で、シャドープリンスに対抗するための策が高速でいくつもシミュレートされていく。
 しかし、おそらくどの方法もシャドープリンスは想定してシミュレーションを済ませているだろう。
 つまり――どれも勝算が薄い。
「……こうなったら長引かせるとますます不利、か……
 なら、必殺技で一気に決めてやる!」

「爆天剣!」
 ジュンイチの叫びに呼応し、ゴッドセイバーは光の粒子となって霧散・再び収束して爆天剣へとその姿を変える。
「ブラスト、ホールド!」
 ジュンイチの言葉に、胸の龍が炎を吐き出し、その炎が爆天剣に宿り、余ったエネルギーがソウルブレイカーを押さえつける。
「いっけぇっ!」
 ジュンイチが一直線にシャドープリンスソウルブレイカーへと突っ込み、
「紅蓮――両断!
 カラミティ、プロミネンス!」
 叫んで、ジュンイチが爆天剣を振り下ろし――
「ソウルフィールド!」
 叫んで、シャドープリンスが自らの翼から放った力場が、ブラストホールドの結界を“中和”する!
「なんだと!?」
 驚愕しながらも、ジュンイチはそのまま爆天剣を振り下ろし――
 ズガァッ!
 その一撃は、シャドープリンスのソウルフィールドによって止められていた。
 なんと、ソウルフィールドの力場は爆天剣のまとったカラミティプロミネンスの力場まで中和してしまったのだ。
 そして、
「ソウルスマッシャー!」
 ドゴォッ!
「ぅわぁっ!」
 ソウルスマッシャーを直撃され、ジュンイチゴッドブレイカーが大きく弾き飛ばされる!
「くっ、くそぉ……っ!」
 うめきながらもなんとか立ち上がるジュンイチだったが、至近距離で受けたそのダメージは大きく、立っているのがやっとという状態である。
「フッ、では、そろそろとどめをさしてやろう!」

「ゆくぞ!」
 シャドープリンスが叫び、ソウルブレイカーがまるで照準を合わせるかのようにジュンイチゴッドブレイカーに向けて両手をかまえる。
 そして、胸の龍が大きく口を開け、そこに漆黒のエネルギーが収束していく。
「邪影……激震!」
 叫ぶと同時、シャドープリンスが大きく振りかぶり、
「ダークネス、サイクロン!」
 ドゴォッ!
 振り上げた腕を振り下ろすと同時、両肩のソウルスマッシャーを発射、さらに胸の龍から漆黒の竜巻の如きエネルギー波が放たれる!
 そして、それは束ねられて巨大なエネルギー竜巻となり、狙いたがわずジュンイチゴッドブレイカーを直撃し――
 ドガオォォォォォンッ!
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
 ジュンイチの叫びと共に、ゴッドブレイカーは大爆発の中に消えた。

「ジュンイチさん!」
 大爆発の中に消えたジュンイチゴッドブレイカーの姿を探し、機能の停止したランドライガーのコックピットでジーナが声を上げる。
 やがて、爆炎はおさまっていき、そこには――ボロボロになって機能を停止したゴッドドラゴンの姿があった。
「ジュンイチは……無事なの……!?」
 倒れたまま動けないカイザーブレイカーのコックピットで、ユナイトを解いたライカがつぶやくと、
 ――ドォッ!
 何も言う事なく、シャドープリンスソウルブレイカーは上昇。ソウルドラゴンに変形するといずこかへ飛び去っていった。
「……私達を……見逃してくれた……?」
「……らしいな……」
 つぶやく鈴香に答え、駆けつけてきた青木が彼女をコックピットから助け出す。
 そして、青木はゴッドドラゴンを見上げ、
「……今回は……完敗だな。完全に……」
 その青木のつぶやきが、一同に重くのしかかった。


Next "Brave Elements BREAKER"――

「紹介しよう。
 彼女は柾木流門下のひとりで、ジュンイチの姉弟子にあたる――」
緋河翼よ。
 よろしくね、ブレイカーのみなさん」

「あなた達だって――このままやられっぱなしで終わるつもりはないんでしょう?」

「ジュンイチが米軍に『アイツら』が絡んでいると知ったら――」

「それとも……あれが、あなたの戦い方だったのかな?」

「アンタはここで見てなさい。
 アイツは、あたし達が掃除してあげるからさ♪」

Legend11「熾烈」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2004/03/06)
(第2版:2005/05/22)