Legend11
「熾烈」

 


 

 

「ブレイカービースト達の様子は?」
「幸い、敵が効率優先で攻撃してくれたおかげで、ダメージ自体は軽く済んでいます。
 プラネルのみんなも中で休んでますし、この地下空洞の霊力なら、自己修復もそんなにかからないと思います」
 尋ねる龍牙に、司令室に戻ってきたジーナが答える。
「それより……ジュンイチさんは?」
「うむ……」
 ジーナの問いに、龍牙は表情を暗くして、
「医務室でずっと眠ったままだ。
 軽いケガではないが、あいつに限っては少し特殊でな。心配しなくても大丈夫なんだが……」
 そう答えると、龍牙はデータを見て、
「問題はゴッドドラゴンだ。
 ゴッドドラゴンのダメージが、全機の中でもっともひどい。何しろヤツの必殺技をまともに喰らってしまったワケだからな。
 しかも修理しようにもパーツがない、しばらくは休眠させ、自己修復能力に任せておくしかないだろう」
「そうですか……」
 ジーナがうなずくと、
「けど、気になるわね……」
 腕組みして、ライカがつぶやく。
「アイツ、あのままあたし達全員にトドメを刺すこともできたはずよ。
 なのに、何で見逃してくれたのかしら?」
「簡単な話さ」
 そう答えたのは青木である。
「『お前達なんかいつでも殺せる』、お前らに対する皮肉ってワケさ」
「けど……悔しいけど事実ですね、それ……」
「ぜんぜん、歯が立たなかったもんね。
 あたし達なんか合体の途中狙われて一発退場だったし……」
 青木の言葉に鈴香とファイが言うと、
「けどそれは『今のあなた達』でしょ?」
 突然、彼女達に声がかけられた。
 そして一同が振り向き――そこに彼女はいた。
 スラリとした長身にTシャツにジーパンというラフな格好の、長髪の女性である。
「けど、『明日のあなた達』ならわからないわよ」
 そして、そう言うと彼女は歩を進め、司令室に入ってくる。
 ジーナ達が怪訝な顔をする中、彼女は龍牙と青木へと微笑みを向けて言った。
「お久しぶりね。龍牙さん、青木くん」
「うむ。
 調べごと、ご苦労だったな」
「ま、オレとしては再会はうれしさ半分ってトコだがな」
 そんな彼女の言葉に、龍牙と青木はそれぞれ返事を返し――龍牙が事態についていけないでいるジーナ達に彼女を紹介した。
「紹介しよう。
 彼女は柾木流門下のひとりで、ジュンイチの姉弟子にあたる――」
緋河翼よ。
 よろしくね、ブレイカーのみなさん」
 龍牙の説明に答える形で、彼女は――翼は軽く会釈して名乗るが――
「――って、なんであたし達のこと知ってんのよ!?」
「それはもちろん、私が教えたからに決まっているだろう」
 翼の言葉からふと疑問に思い至り、驚くライカに龍牙は平然と答える。
 だがライカの驚きももっともだ。そのテのことをあまり気にしていないジュンイチはともかく、ライカ達は自分達がブレイカーであることはあまり語りたがらない。そんなことをすれば自分が普通の人間ではないと吹聴するようなものだ。信じられず変人扱いか信じられて奇異の目で見られるか、どちらにしてもロクなことにはなるまい。
 だが、龍牙はそんな彼女の驚きなど予測の内だった。笑いながら彼女達に答えた。
「心配するな。
 彼女は口が堅い。キミ達の正体をバラすことはないさ」
「なら、いいんだけど……」
 龍牙の言葉に、ライカがしぶしぶ納得すると、
「それより……話は聞いたわよ」
 そう切り出し、翼はジーナ達へと向き直り、
「敵に弱点突かれて、コテンパンにされちゃったんだって?」
「は、はい……」
「あ、いいのよ。責めてるワケじゃないから」
 シュンとなるジーナに言い、翼は笑って、
「それに、負けたことが損ってワケじゃないでしょ? この場合は」
「え……?
 それは、どういうことですか?」
 翼の言葉に、鈴香はその意味がわからずに思わず聞き返す。
 だが、翼はその疑問は予想済みだったようだ。平然と答える。
「考えてみれば単純よ。
 今回の戦いで、あなた達は自分達の欠点を知った。
 けどその分、『欠点を理解する』という成長が遂げられた。違う?
 なら、次は『欠点を克服する』というステップを踏めばいいだけよ」
 そして――ポカンとするジーナ達に翼は告げた。
「あなた達だって――このままやられっぱなしで終わるつもりはないんでしょう?」
 その翼の問いに、ジーナ達は互いに視線を交わし――全員が一様にうなずいた。

「すまなかったな」
「いいのよ、このくらい。
 あぁいうの、私自身見てられないしね」
 意気揚々と司令室を飛び出していったジーナ達を見送り、礼を言う龍牙に翼はそう答え、
「それより……頼まれてた『調べごと』だけど」
「そうだったな。
 聞かせてくれ」
 一転して表情を引き締めた翼の言葉に、龍牙は言って司令官席に座る。
「まず、公式な発表の部分をおさらい。
 最初の化け物――瘴魔だっけ? アイツが出現したことで、政府は緊急に第二、第三の瘴魔の出現に対応するために自衛隊の配備を即時決定。
 そして警戒していたものの次の瘴魔は人間大。結果的にまたしても警官隊による対応を余儀なくされる。
 が、ジュンイチに倒された後に巨大化したことで、ようやく自衛隊の出番になったワケだけど……」
「事前の打ち合わせもなく問答無用で投入された米軍の介入により、互いにフォーメーションを乱され無残にも惨敗」
 口を挟んだ青木の言葉に、翼は少しムッとしてみせる。
 その理由に心当たりはあったが、あえて地雷を踏みに行くこともあるまい。そこには触れずに青木は続けた。
「その件に関して、日本政府は正式にアメリカに抗議するがアメリカ政府は安保条約を盾に『日本の国土を守るため』の一点張りでこれを無視。
 かくて、現在日米は静かな対立状態。中東の反米組織は大喜び――だろ?」
「まぁ、多少表現に引っかかる部分はあったけど……だいたいそんな感じね」
 青木の説明に、翼はため息まじりにそう答え、
「結局、米軍に流れた裏資金のルートは特定できなかったわ。
 けど……やっぱり、『アイツら』が黒幕なのは間違いないわね。
 『本家』の方でもかなり問題視されてるらしくて、必死に対抗策を講じてるみたいだけど……今のところシェアの維持が精一杯なのが実情ね」
「確証は?」
「調べてる間に、『アイツら』のエージェントに3回ほど命狙われたわ」
 尋ねる青木に、翼はあっさりと物騒極まりない答えを返してくる。
「そうか……やはり現在のアメリカ政府は『アイツら』の傀儡同然か」
「堕ちたもんっスねー、天下のアメリカ合衆国も」
 龍牙の言葉に、青木は肩をすくめてそう言うが、そんな冗談もただの気休めでしかないことは彼自身も理解していた。
 何しろ相手は私用で一国の軍を動かせるほどの存在なのだ。それを金持ちぞろいのブレイカーズとはいえ個人レベルで相手しなければならないのだ。悲観的にもなるというものだ。
「とにかく、そういうことならなおさらだ。この話、絶対にジュンイチにはするなよ」
 大きく息をつき、龍牙はそう彼女達に念を押し、言った。
「ジュンイチが米軍に『アイツら』が絡んでいると知ったら――米軍基地に殴り込みをかけかねん」
「そりゃ、わかってるけどさ……」
 龍牙の言葉に答え、青木は思わずため息をつき、
「だけど、ジュンイチだってアレでいろいろ調べてるみたいだし、『アイツら』と米軍とのつながりにたどりつくのも時間の問題だと思うぜ。
 それに、米軍がヤツらの私兵同然だとすれば、最悪向こうからしかけてくることだって……」
「わかっている」
 その青木の言葉にうなずき、龍牙は断言した。
「だが、それでもジュンイチと米軍の衝突だけは避けなければならない。
 『8年前』のあの事件を、繰り返すワケにはいかない――そのことは、お前達もわかっているはずだ」

 その頃、港の廃倉庫の一角では――
「何の用だ」
 言って、シャドープリンスが姿を現していた。
 相手の姿は見えない。だが――
《……なぜ、トドメを刺さなかった?》
 どこからともなく聞こえた『声』が、シャドープリンスに告げた。
「理由など大したことではない。
 あの程度なら、生かしておいても問題はない」
《……そうか……
 ならば話題を変えよう。
 “例のもの”の探索はどうなっている?》
「未だに手がかりすらつかめん。
 だが、“あれ”を手に入れるという意味でも、ブレイカー達を泳がせておくのは都合がいい」
《……なるほどな》
「用件はそれだけか?」
《いや、後ひとつ》
 尋ねるシャドープリンスに答え、『声』は続けた。
《新たな瘴魔獣が生まれた。
 指揮は今まで通り貴様が取れ》
「わかった」
 そして、『声』の気配は消え――シャドープリンスはつぶやいた。
「……前線にも出ずに偉そうなことだ。
 まぁいい。せいぜい今のうちに殿様気分を味わっておくがいい……」

「――――――っ!」
 意識を取り戻すなり、ジュンイチは気を失う直前のことを思い出して飛び起きた。
 とたん、全身を激痛が襲い、その記憶が誤りではないことを教えてくれる。
「……そうか……負けたのか……」
 ため息をつき、ジュンイチがつぶやくと、
「そーね。完膚なきまでに」
 びしっ。
 となりから聞こえた声に、ジュンイチはまともに硬直した。
 幻聴であることを心から祈りつつ、ゆっくりと視線を動かし――
「まったく、なさけない。
 それでもあたしの弟弟子?」
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
 平然と告げる翼を見て、絶叫しながら後ずさり――
「ふぎゃっ!?」
 医務室のベッドから落下した。
「大丈夫?」
 そんなジュンイチをのぞき込み、翼が尋ねるが、
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
 もはや完全に恐怖で染め抜かれた悲鳴を上げ、ジュンイチはさらに翼から逃げ、窓際(地下なのだから不要な気もするがとにかく窓があり、しかも開けられるのだ)の壁に背中をぶつける。
「な、何でいるんだよ! 翼姉!」
「龍牙さんに呼ばれたからよ」
 尋ねるジュンイチに、翼は平然と答える。
 だが、ジュンイチにはそんな彼女の事情など本当はどうでもよかった。
 今の彼にとって問題なのは、今、ここに翼がいる――その事実だけだった。
 視線で逃げ道を探すが、出入り口は翼を挟んで反対側だ。このルートは使えない。となれば――選択肢はひとつしかなかった。
「さらばっ!」
 叫ぶと同時に医務室の窓を開け、ジュンイチは窓の外の地下空洞へとその身を放り出し――
 ――ぐいっ。
(………………?)
 突如右足が何か――少なくとも人の手ではない――に引っ張られるような、奇妙な弾性にジュンイチが脳裏に疑問符を浮かべ――
 ――びたぁ〜んっ!
「ぐはぁっ!?」
 いつの間にか右足に縛りつけられていたゴム紐によってジュンイチは医務室内に引き戻され、そのまま医務室の壁に激突した。

「鈴香さん、そっちのデータ貸してもらえますか?」
「はい」
 ディスプレイの前でキーボードを叩きながら告げるジーナに答え、同様に別のディスプレイの前に座る鈴香が彼女の端末へとデータを転送する。
 二人は今、ブレイカーベース内のデータ分析ルームで自分達の機体のデータを一から洗い直していた。
 一方で、ファイとライカは報道などから集められた自分達の戦闘の映像を繰り返し見て検討を続けている。
「ところで――」
 ふとライカが口を開いたのは、そんなことを1時間ほど続けた頃のことだった。
「あの翼さんって、ジュンイチの姉弟子って言ってたわよね?」
「えぇ。龍牙さんは確かにそう言ってましたけど……」
 ライカのつぶやきにジーナが答えると、
「なんだ、翼の話か?」
 言って、そこに青木がやってきた。
「あ、そうだ。
 青木さんは翼さんのこと知ってるのよね?」
「あぁ。付き合いも長いしな」
 尋ねるライカに答え、青木は一同に差し入れのドリンクを配る。
「どんな人なんですか?
 龍牙さんが信頼して私達の秘密を教えたからには、信用の置ける人だとは思うんですけど……」
「うーん、そうだな……
 少なくとも、ジュンイチにとっては……」
 鈴香の問いに、青木はそこまで言うと視線を中に泳がせて考え込む。が――やはり当初の案以外に適切な例えは思いつけなかった。ため息混じりに一同に告げた。
「……『天敵』だ」

「まったく、このあたしから逃げられると思ったの?」
「自信タップリに言うな」
 反省の色もなく告げる翼に答え、ジュンイチは足に縛り付けられたゴム紐を外す。
「だいたい、親父に用があって来たんなら来るトコ違うだろうが。
 さっさと用事済ませてこいよ。で、済んだんならとっとと帰ってくれ」
 憮然としたまま言うジュンイチだったが、
「あら、いいの? そんなコト言って」
 翼は平然と切り返してくる。
「……何が言いたいんだよ?」
「自分に足りないものがわからないままじゃ、あの敵には勝てないって言ってるのよ」
 聞き返すジュンイチに答え、翼は続けた。
「そんなことじゃ、また“あの時”みたいに――」
 しかし、翼の言葉はそこで止まった。
 瞬時に傍らの“紅夜叉丸”をつかみ、爆天剣に変えたジュンイチが、彼女の喉元に切っ先を突きつけたからだ。
「……そこから先は、オレの前で言うな」
 そう告げるジュンイチの目は――いつもののん気な表情の時のものでも、戦いの時に見せる『戦士の目』でもなかった。
 もっと重い――奥底に暗い輝きをたたえたものだった。

「お前らも聞いた通り、翼はジュンイチの姉弟子にあたるんだが、とにかくジュンイチは彼女に対して頭が上がらないんだ」
 ジーナ達を前に、青木はジュンイチと翼との関係の説明を続けていた。
「ジュンイチがブレイカーに覚醒する前の話になるが――全力のジュンイチを実力の半分も出さずに返り討ちにできるぐらいだ。どのくらいかは想像つくだろう?」
「『つくだろう?』って、覚醒前のジュンイチを知ってるのって、この場にはあんたとジーナしかいないんだけど」
 青木の言葉にライカが答え――全員の視線が自然とジーナへと集まった。
 一同の視線を浴び、ジーナは少し苦笑して答える。
「えぇ……覚醒前でも、ジュンイチさんの実力は普通の高校生のレベルじゃなくて、ビックリしました……それよりも上のランクの人が龍雷学園にはゴロゴロしてるって聞いてさらにビックリしましたけど
 ジーナの答え(特に最後の小声の部分)に、青木は彼女と同じく苦笑を返す。
「で……そのジュンイチを、翼は片手で笑いながらド突き倒せる。
 ブレイカーに覚醒した今でも勝てないんじゃないかな、ジュンイチ」
「はぁ!? ブレイカーに覚醒したのに勝てないっての!?」
 驚きの声を上げるライカに、青木は答えた。
「簡単だよ。
 『ヘビに睨まれたカエル』ってヤツ」
「あ、なるほど」
 納得するライカの言葉に、青木は息をつき――彼女らに聞こえない程度の小声でつぶやいた。

「けど、『8年前』のこと持ち出したら話は別なんだけどな」

「……そうね。私も言いすぎたわ」
 自身に爆天剣の切っ先と冷たく鋭い視線を向けるジュンイチに告げ、翼は刃をつまんで下ろし、
「けど、言ってることは間違ってないわよ。
 負けた原因、今のあなたはたぶんわかってない」
「え………………?」
 その言葉に我に返ったジュンイチに、翼は答えた。
「あなたが負けたのは、『あなたがあなたじゃなくなってしまったから』よ」
「オレが、オレじゃ……」
 翼の言葉に、ジュンイチはつぶやきながら考え込む。
 そんな彼にうなずき、翼は続けた。
「あなたのブレイカーとしての戦闘記録、見せてもらったわ。
 まったくひどいものじゃない。ブレイカーの“力”に振り回されっぱなし」
 そして――翼はジュンイチに尋ねた。
「それとも……あれが、あなたの戦い方だったのかな?」
「あ………………」
 翼の言葉に、ジュンイチはようやく、彼女の言わんとしていることに気づいた。
「あぁいうタイプは、『本来の戦い方』の方が戦いやすいんじゃない? あなたの場合」
「……そうだな。
 サンキュ。おかげで吹っ切れた」
 翼に答え、ジュンイチは爆天剣へと視線を落とし、
「オレ……ブレイカーの“力”しか使ってなかった。
 そのせいで戦い方見失って……オレ本来の戦い方をすっかり忘れてた……」
「そう。わかったならいいわ」
 翼がそう告げた時、
「――――――っ!?」
 突然、ジュンイチの表情が一変した。
「くそっ、こんな時に!」
「瘴魔なの!?」
「あぁ!」
 尋ねる翼に答え、ジュンイチが街に向かうべく駆け出し――
「待て、ジュンイチ」
 その前に龍牙が立ちふさがった。

『――――――っ!?』
 瘴魔の出現は、ジーナ達も感じ取っていた。一様に顔を上げる。
「ったく、せっかく『いいもの』見つけたのに、テストもなしに本番なワケ!?」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ!
 早く行かないと!」
 うめくライカに言うジーナの言葉にうなずき、鈴香は青木へと振り向き、
「青木さん!」
「アシになれってんだろ? わかってるよ」
 鈴香の言葉に答え、青木はポケットの中から車の鍵を取り出し、
「ったく、いつの間にかアッシーくんになってんなぁ……」
 苦笑まじりにボヤきながらも、ジーナ達を先導してデータルームを後にした。

 ドガァッ!
 猛スピードで転がってきた人の身の丈ほどもある球体の直撃を受け、停めてあったバスが大爆発を起こす。
 そして、巻き起こる炎の中で球体が動き――開いた中から四肢が現れ、人型の瘴魔獣となった。
 ダンゴムシを媒介とした、球体への変形能力を持つ瘴魔獣である。
 そんな瘴魔獣を食い止めるべく、警察が機動隊の装甲車で立ちはだかるが、
「ジャマするなぁっ!」
 ドガァンッ!
 瘴魔獣のパワーは彼らの予想を超えていた。再び球体となった瘴魔獣の突進を受け、装甲車は大きく吹っ飛ばされる!
「……アイツが、今回の瘴魔獣か……」
 その様子をビルの屋上から見つめ、シャドープリンスがつぶやくと、
「そこまでです!」
 声を上げ、現れたのはすでに着装を遂げているジーナだ。
 その後ろにはファイ、鈴香、そしてライカもいる。
「ほぉ……やはりあきらめるつもりはないか……」
 それを見て、シャドープリンスは――なぜかその口元に笑みを浮かべていた。
 まるで、彼らが再び自分達を阻むことがうれしくてしょうがないかのように――

「まったく、人の特訓のジャマすんじないわよ!
 ジーナ! ファイ! 鈴香! 一気に叩きのめして特訓再開よ!」
 ジャマをされたことがよほど不満なのか、明らかに不機嫌と感じられる口調でライカが瘴魔獣へと指を突きつけて言う。
 だがそれは、ジーナ達も同様だったようだ。一様に同意してうなずき――
「ほぉ」
 突然の声に、その表情は緊張をたたえたものに一変した。
「その『特訓』とやらは、オレを倒すためのもの……そう解釈してもいいのかな?」
 そう言って、彼女達の前に着地したのは、言わずと知れたシャドープリンスだ。
「そ、そうよ!
 あんたにとっては余計なことかもしれないわね、なんたって倒さなきゃいけない敵が強くなるんだから」
 彼の気迫に呑まれまいと、ライカがシャドープリンスに言い返し――
「ゴチャゴチャうるせぇっ!」
 ドガァッ!
 球体に変形し、転がりながら突進してくる瘴魔獣の体当たりをライカ達は素早くかわし、瘴魔獣は背後に止められていたバスに突っ込む。
「まったく、人様の会話の、ジャマしないでほしいわよね!」
 そう告げると、着地したライカは近くのガレキの中からコンクリートの芯に使われていたらしき鉄棒を引き抜き――それが彼女の精霊器、サーベル型の『光天刃』へと変化 する。
 そのまま、ライカは装重甲メタル・ブレストのバーニアで一気に加速し、瘴魔獣へと斬りかかるが、
 ガギィッ!
 その刃は瘴魔獣の腕の甲によって受け止められていた。
「へっ、その程度かよ!」
 言って、瘴魔獣が腕を振り回してライカを弾き飛ばすが、
「ライカさん!」
 それを受け止めたのはジーナだった。
「まったく……沖縄で偉そうに言っておいて、先走ってどうするんですか。
 それじゃジュンイチさんに文句言えませんよ」
「それもそうね」
 ジーナの言葉に苦笑し、ライカは彼女と共に着地し、
「じゃ、あたし達はアイツじゃできない戦いをしてやるとしましょうか!」
 そう告げると同時――ライカの光天刃の周囲の空間が歪んだ。

「そんな身体で戦いに行くつもりか? いくらお前でも、そのケガは決して軽くはないんだぞ」
 医務室を飛び出そうとしたジュンイチの前に立ちふさがり、龍牙がジュンイチに言う。
「それでは、行ったところでジーナくん達の力にはなれん」
「だからって……こんなところで寝てられるか!」
 言い返すジュンイチだが、龍牙も下がらない。
「彼女達もがんばっているんだ。今回は任せてやれ。
 しかし、どうしても行くというのなら……」
 言って、龍牙はジュンイチの前で両手を広げ、
「この私を倒してからにしてもらおう!」
「んじゃ遠慮なく!」
「………………え?」
 キッパリと答えるジュンイチの答えに、龍牙の顔に疑問符が浮かび――
 ドガオォォォォォンッ!
 病室に、精霊力によって生み出された炎が荒れ狂った。

「シャドープリンス!」
「現れたか……」
 マシンガンを携え、自らの前に立ちはだかった青木を前に、シャドープリンスは悠然と応える。
「だが……相変わらず愚かとしか言いようがないな。
 そんな銃で、ブレイカーに勝てるとでも思っているのか?」
「ンなもん――やってみないとわかんねぇだろ!」
 シャドープリンスに言い返し、青木はシャドープリンスに向けて銃撃を仕掛けるが、
「ムダだと言っているだろう」
 その銃弾のすべてが、シャドープリンスの眼前で静止する。
 シャドープリンスの周囲に展開された精霊力の力場が、不可視のバリアとなって銃弾を受け止めているのだ。
 が――青木はニヤリと笑みを浮かべ、
「だったら――これでどうだ!」
 叫んで、シャドープリンスに向けてナイフを投げつける!
「フン、バカか。
 銃の効かない相手にナイフなど……」
 シャドープリンスが言い、ナイフが力場に受け止められ――気づいた。
(ナイフに、手榴弾だと――!?)
「マズい!」
 ナイフの柄尻に付けられた、安全ピンの外された手榴弾に気づき、とっさにシャドープリンスは力場を前面に集中、強度を高め――
 ドゴォンッ!
 手榴弾が爆裂した。
 爆発自体は力場が防いでくれたが、その衝撃に耐えるには人間という存在は重量がなさすぎた。予測できていれば踏みとどまれもしただろうが、油断からただ立っていただけのシャドープリンスは耐える間もなく大きく吹き飛ばされ、背後のビルに叩きつけられる。
「ぐは……っ!」
 爆発に耐えるため、力場を前面に集中させていたのが仇になった。守るものもないままに背中を強打し、シャドープリンスがうめくと、
「へっ、どんなもんだ!」
 そんなシャドープリンスに、青木が告げる。
「能力がなくたって――翼みたいな化け物じみた強さがなくたって、それなりの戦い方ってもんがあるんだ!
 人間の底力をなめんな! この野郎っ!」
「くっ……!」

 ドガァッ!
「ぐっ……!」
 ジーナの一撃を受け止めたものの、その勢いに押された瘴魔獣は後方へ押し戻され、
「はぁっ!」
「くっ!」
 すかさず間合を詰めてきたライカの追撃を、瘴魔獣はとっさに跳んでかわす。
 しかし、攻撃はそれで終わりではなかった。
「鈴香!」
「はい!」
 ライカの合図で鈴香が自らの“力”で操った水竜巻を瘴魔獣へと放ち、
「たぁっ!」
「えぇいっ!」
 ジーナとファイが、鈴香の攻撃を防御して動きの止まった瘴魔獣に同時打撃を叩き込む!
 そして、
「はぁっ!」
 気合と共にライカが振るった光天刃が、瘴魔獣の甲を押し分けてその腕を切り裂く!
 光天刃の周囲に生み出された力場が空間を歪める湾曲場となり、瘴魔獣の甲をこじ開けて腕への直接攻撃を可能としたのだ。
「くっ、くそっ! なんだよコイツら! ひとりひとりだとたいしたことないクセして、徒党を組んだとたんむちゃくちゃ強くなりやがる!
 冗談じゃねぇ! やってられっかよ!」
 うめいて、瘴魔獣が逃亡すべく背を向け――
 ドゴォンッ!
 轟音と共に、瘴魔獣は大きく吹き飛ばされた。
 だが――
「……え?」
 疑問の声を上げ、ライカはジーナ達に尋ねた。
「あんた達……今誰か攻撃した?」
 その問いに、ジーナもファイも鈴香も一様に首を左右に振る。
 当然尋ねたライカにも攻撃した覚えはない。一体誰が――
 と、そこへ、
「とりあえず、見た目が人じゃないんで吹っ飛ばしたが……」
 言って、攻撃の主が姿を現し、
「瘴魔獣、ソイツでよかったんだよな? 着ぐるみとかいうオチはないよな?」
『ジュンイチさん!?』
 プスプスと焦げている瘴魔獣を指さして尋ねる、すでに着装済のジュンイチを前に一同の声が唱和した。

「あ、あんたねぇっ!」
 突然現れたジュンイチに驚き、最初に我に返ったのはライカだった。
「思いっきり遅刻して、何やってたのよ!
 あたし達だけで瘴魔とシャドープリンスを押さえられるとでも本気で思ってたワケ!?」
 その問いを平然と耳をふさいでやりすごし、ジュンイチは答えた。
「うるせぇなぁ。ついさっきまで医務室で絶対安静だったヤツにムリゆーな。
 それに、こっちはこっちで説教くらってたんだよ、翼姉に」
 とたん――ライカの動きが止まった。
 何事かと疑問の視線を向けるジュンイチの肩をポンポンと叩き、
「大変だったのね、アンタも……」
「ちょっと待て。何想像したか聞いてもいいか?」
 ライカに何やらワケもわからないままに同情され、ジュンイチが思わず半眼でうめく。
 が、すぐに気を取り直すとジュンイチは息をつき、
「ま、その辺のことは後にしようか。
 何しろ……」
 言って、ジュンイチは改めて瘴魔獣へと向き直り、
「人だとマズイんで手加減したから、アイツまだ生きてるし」
 言うなり、気絶していた瘴魔獣が意識を取り戻し、ムクリと立ち上がる。
「くっそぉ……!
 てめぇか! いきなり攻撃してきやがったのは!」
「まぁな」
 ジュンイチがあっさりと瘴魔獣に答えると、
 ――タッ。
 青木の銃撃をかわし、シャドープリンスがすぐ近くに着地した。
「むっ? 柾木ジュンイチだと……?
 オレのダークネスサイクロンを受けて、もう復帰したのか?」
「ご覧の通りさ」
 シャドープリンスの言葉に、ジュンイチは平然と答える。
「とはいえ、こっちは病み上がりでさぁ……ひとつお前に頼まれてほしいんだけど」
「敵であるオレに、頼み事だと……?
 面白い。言ってみろ」
 一度勝っているせいもあるだろうか、余裕で告げるシャドープリンスに、ジュンイチは言った。
「黙ってオレにぶちのめされろ」
「言ってくれるな。
 ではオレも答えてやろう。
 その頼みは――却下させてもらう!」
 ジュンイチに答え、シャドープリンスは手にした棍を再構成。自らの精霊器『影天棍』へと変化させる。
 そしてジュンイチも爆天剣をかまえ、しばし両者はにらみ合い――先に動いたのはシャドープリンスだった。すさまじい勢いで跳躍し、一足飛びにジュンイチへと襲いかかる!
 が――
 ――ドガァッ!
 シャドープリンスの振り下ろした影天棍は地面を砕いていた。
 そして、
「はっずれぇ♪」
 バギィッ!
 跳躍の勢いを影天棍をつかむことで相殺し、目の前に滞空していたジュンイチがシャドープリンスの顔面を蹴り飛ばす!
「くっ、おのれっ!」
 うめいて、受身を取ったシャドープリンスが影天棍を横薙ぎに振るうが、ジュンイチはムリに追撃せずに下がり、その攻撃をかわす。
 そして、さらに追撃をしかけるシャドープリンスだったが、ジュンイチは突き出された影天棍を紙一重でかわすとその棍をつかみ、動きを封じる。
 が――シャドープリンスの口元には笑みが浮かんだ。
「甘いぞ!」
 言って、シャドープリンスが影天棍の持ち手の部分をひねり――影天棍が五つに分割される!
 影天棍はただの棍型ではなく、五節棍の精霊器だったのだ。しっかりと棍の動きを封じていたジュンイチは勢い余って姿勢を崩す――はずだった。
 だが――すでにジュンイチは影天棍を手放していた。重力に従い分割された影天棍は力なく大地に垂れ下がる。
「何――!?」
 読みが外れ、シャドープリンスが動揺し――
「せー、のっ!」
 ドゴォッ!
「ぐはぁっ!?」
 懐に飛び込んだジュンイチの拳を腹に受け、シャドープリンスが吹っ飛ばされる!

「す……すごい……」
 先日の戦いとは一転、シャドープリンスを翻弄するジュンイチの戦いぶりに、ジーナは呆然としてつぶやくしかない。
「何よアイツ、ムチャクチャ強かったんじゃない……」
 ライカも同様に呆然とつぶやくと、
「別にあの子ジュンイチが強いワケじゃないわよ」
 言って、翼が現れた。
「見たところ、スピードといいパワーといい技といい、ジュンイチとあのシャドープリンスってヤツとの間にそれほど大きな差はないわ。
 差を生んでいるのは、二人の『戦い方の違い』よ」
「戦い方の……違い……?」
 聞き返すファイに、翼は答えて説明を始めた。
「あのシャドープリンスは、データをそろえた上で挑んできた昨日の戦いからもわかる通り、データを裏付けにして展開する理詰めの戦いを得意としてるみたいね。棍を使うのも、広い間合いで相手を観察しながら戦うためでもあるだろうし。
 対して、ジュンイチはその場で相手のリズムを認識、臨機応変にかき回すことで主導権を握るトリッキー系の戦いが本来のスタイル。今のジュンイチがまさにそれね。
 情報もないまま挑むから先読みが厳しくなるって言うデメリットはあるけど、今回みたいな理詰めの相手はデータにない予想外の事態には弱いからね、ジュンイチの戦い方は相性バツグンなのよ。
 今の戦いから例を挙げれば――あんた達、今まさに自分に向けて振り下ろされてる棍をジャンプの制動に使おうなんて思いつく? しくじれば確実にくらった部位の骨全壊するってのに」
 翼の問いに、ジーナ達はそろって首を左右に振る。
「そういう予想外の戦い方ができる、型にとらわれない奔放なファイトスタイルこそがジュンイチの本領。
 特にシャドープリンスみたいな、技が高次元でまとまってる相手はさらにやりやすいわね。正確に自分の弱点突いてくるから、逆に言えば自分の弱点にだけ気をつければいいんだから」
 そこまで言うと――翼はなぜか苦笑し、言った。
「ただ、あの子の場合『ペースの乱し方』が、ちょっと問題でね……」
『………………?』
 その言葉にジーナ達は首をかしげるが――合流していた青木はその意味に気づき、彼女と同様に苦笑をもらした。

「くっ……!」
 またもジュンイチの接近を許し、なんとか蹴りをガードしたシャドープリンスは一旦間合いを離す。
「どういうことだ……!
 正確に弱点をついているはずなのに、なぜすべて返される……!」
 うめくシャドープリンスに、ジュンイチは告げた。
「へへ、どうした? それで終わりかよ?」
「な、なんだと!?」
 ジュンイチの言葉に、シャドープリンスは影天棍を構え直し――ジュンイチが叫んだ。
「今だ、ジーナ!」
「何――――――っ!?」
 ジュンイチの言葉に、シャドープリンスはとっさに振り向く。
 そこには確かにジーナがいた。ただし――
「え………………?」
 彼女は突然名を呼ばれて首をかしげていた。
 だまされたと気づき、シャドープリンスが戦慄し――
「バカが見ぃるぅ〜〜っ♪」
 バギィッ!
 ジュンイチの蹴りが、シャドープリンスを弾き飛ばす!
「くっ、だまし討ちとは!」
 うめいて、シャドープリンスが受身を取って立ち上がると、
「足元、注意した方がいいぜ」
「またそれか! 二度目はないぞ!」
 ジュンイチの言葉に言い返し、シャドープリンスはジュンイチへと突っ込み――
 ボゴォッ!
「どわぁっ!?」
「だから言ったのに♪」
 突然足元が陥没し、落下するシャドープリンスを見て、ジュンイチは余裕の笑みを浮かべて言う。
 先ほどの蹴りで着地した時、アスファルトの下の地面を再構成リメイクの要領で分解していたのだ。
「くっ……! 卑怯な!」
 落とし穴の底でうめくシャドープリンスだったが――ジュンイチはキッパリと答えた。
「だからどうした」
 言うなり、ジュンイチは懐から次々に取り出した手榴弾を片っ端から落とし穴へと放り込み――手榴弾の爆音と力場でそれを防ぐシャドープリンスの悲鳴が響き渡った。

「………………あのー……」
「言いたいこと、わかるよ」
 呆然とジュンイチを指さして言うジーナに、翼は答えてため息をつく。
 そして、翼は一同に説明した。
「アレがジュンイチの『ペースの乱し方』。
 『ちょっと問題』の意味、わかったでしょ?」
「………………いいの? それで」
 尋ねるライカに、翼は答えた。
「当人がOKならいいんじゃないの?」

「貴様ぁっ! いい加減にしろ!」
 叫んで、シャドープリンスが影天棍を次々に繰り出すが、ジュンイチはそのすべてをことごとくかわし、
「鬼さんこちら、べろべろばぁ〜♪」
 むしろシャドープリンスをからかい放題。完全に遊んでいる。
「おぉのぉれぇぇぇぇぇっ!」
 それが挑発だとわかってはいるが、あまりにも子供じみたジュンイチの態度に、シャドープリンスは完全にペースを乱されていた。普段のクールさはどこに消えたか、影天棍を振り回して地団太を踏む。
「貴様、マジメに戦う気があるのか!?」
「ない!」
 シャドープリンスの怒りの言葉にも、ジュンイチはキッパリと答え、
「正々堂々と勝負しろ!」
「断る!」
「いいかげんにかかって来い!」
「イヤじゃ!」
 さらに言うシャドープリンスの言葉にも、ことごとく即答していく。
「貴様それでも正義の味方か!?」
「『正義』で勝てりゃ苦労しねぇよ!」
 とうとう『正義』まで持ち出したシャドープリンスに答え、ジュンイチは胸を張り、
「あぁそうさ! 正義の味方なんてまっぴらさ!
 死んじまったら正義もクソもねぇだろうが!
 勝てば官軍! 『正々堂々』なんてお上品にやってられるかぁっ!」

((最悪だこの男!))
 堂々と誉められたものじゃないことを宣言するジュンイチの言葉に、一同の心の声が唱和する。
「おのれぇっ!」
 完全に逆上し、シャドープリンスは影天棍を繰り出し――突き出された影天棍が分割、離れた間合いにいるジュンイチへと襲いかかる!
 が――
「お腹が――」
 それこそジュンイチの狙い通りだった。次の瞬間、ジュンイチは影天棍をかいくぐってシャドープリンスの懐に飛び込んでいた。
 そして、
「ガラ空きだぜ!」
 ドゴォッ!
 打ち込まれた拳が、シャドープリンスの鳩尾に突き刺さる!
「が……ぁ……っ!?」
 うめき、後ずさるシャドープリンスに対し、ジュンイチは悠然と身を起こし、
「戦いは冷静に。
 確か、お前さんのファイトスタイルじゃなかったっけ?」
「ぐっ……!」
「どうするよ? 完全にペース乱された状態でまだオレとやるってのかい?」
「あ、当たり前だ!」
 ジュンイチの言葉に言い返し、シャドープリンスが立ち上がる。
 だが、その足は明らかにふらついている。不意を突かれ続けた今の攻防、そして最後のボディへの一撃で、体力と共に集中力もごっそり持っていかれたようだ。
 それを見て、ジュンイチはため息をつき――意外な言葉を口にした。
「……あー、やるかどうか聞いといてなんだけど、やめた方がよくないか? そのザマじゃ」
 その言葉には、冷静さを失っていたシャドープリンスも思わず唖然とした。
 だがそれもある意味当然だ。ついさっきまで目に見えて闘志をみなぎらせていたクセに、こちらが戦闘の継続が難しくなってきたとたん、手の平を返したかのように気遣ってきたのだから。
 だが――ジュンイチのその言葉にシャドープリンスは笑みを浮かべ、
「フッ……敵であるはずの相手の心配とは、甘いことだな……! さっさとトドメを刺せばよかろう!」
「そうよ! 敵なんだから遠慮なくやっちゃえばいいでしょ!」
 ブレイカーの強靭な身体をもってしても未だダメージの抜けない腹部を押さえながらシャドープリンスが言い、ライカもそれに習うが、
「じゃあお前トドメ刺すか?」
「遠慮します。人殺しにはなりたくないんで」
 ジュンイチに聞き返され、ライカはあっさりと白旗を上げる。
 が――
「オレがブレイカーだから、人だから殺せんか……
 その甘さが、お前達の命取りだ!」
 シャドープリンスが言うと同時――ジュンイチの背後から瘴魔獣が襲いかかる!
 ジュンイチとシャドープリンスの戦いにジーナ達が呆けている間に、不意打ちの機会をずっとうかがっていたのだ。
 そしてその爪がジュンイチの首を狙うが、
「誰が甘いって?」
 平然とジュンイチが尋ね――次の瞬間、瘴魔獣の両手が斬り飛ばされた。
 ジュンイチがゴッドウィングを変化させ、刃として斬り払ったのだ。
 すでに瘴魔獣の不意打ちは読まれていたのである。しかも翼を刃にした今の攻撃は、先の戦いでシャドープリンスから受けたウィングセイバーからの発案だろう。自らの攻撃を応用されたことも、シャドープリンスにとって相当の屈辱だった。
「悪いが、こちとら不意討ちには慣れっこでね!」
 言って、ジュンイチは瘴魔獣を蹴り飛ばし、
「とはいえ残しとくのは厄介だな!
 これでも喰らってとっとと消えろ!」

「ゴッド、ウィィング!」
 ジュンイチが叫び、背中のゴッドウィングが展開され、そこへ精霊力が収束していく。
 すると、内部でエネルギーの高まったゴッドウィングが光を放ち、根元から炎に包まれる。
「燃え上がれ、龍の翼よ!」
 言って、ジュンイチが瘴魔獣へと突っ込み、
龍翼の轟炎ウィング・ギガフレア!」
 ドゴォッ!
 ジュンイチが翼から放った炎が龍の形となり、瘴魔獣へと叩きつけられる!
 だが――
「むぅんっ!」
 瘴魔獣はその頑強な甲羅で耐えていた。気合と共に、ギガフレアの炎を吹き飛ばす!
「あちゃー、両腕なくしてるクセしてギガフレアに耐えるかよ……
 けど、ゼロブラックは射程が長い分威力は弱いし……」
 うめいて、ジュンイチはしばし考え、
「――だったら!」
 言って、一足飛びにジーナ達の元へと跳び、
「みんな、力貸せ!」
「え?」
「聞こえなかったのか? 『力貸せ』って言ったんだよ!」
 突然のことに思わず聞き返すジーナに、ジュンイチが答える。
「ゼロブラックの応用で合体攻撃を仕掛ける!
 ウィングディバイダーにお前らの精霊力をよこせ!」

「ゴッドウイング!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドウィングがウィングディバイダーへと変形、さらに両バレル内側の装甲が展開され、一対の反応エネルギー砲となる。
 一方、ジーナ達はそれぞれのツールを合体。グランドトンファーにソニックダガーが合体し、さらにウォーターボウガンを合体させたカイザーヴァニッシャーに接続し、ジュンイチの正面、ウィングディバイダーの中央にエネルギーケーブルで接続する。
『完成、パイルディバイダー!』
 叫んで、5人は完成したパイルディバイダーの銃口を瘴魔獣に向け、すべての放熱ディバイスを開放。5人の精霊力を攻撃エネルギーに変換し、さらに高出力に収束し光球を作り出す。
 そして、ジュンイチはウィングディバイダー部分の下部にセットされたトリガーを握り、
『ゼロブラック・ファイナル――Fire!』
 5人が叫ぶと同時にトリガーを引き、
 ズドゴォッ!
 放たれた特大の光球が、瘴魔獣を直撃する!
 そして、瘴魔獣の身体に“封魔の印”が浮かび、
 ズドゴォォォォォンッ!
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
 大爆発を起こし、瘴魔獣は断末魔と共に四散した。

「ぐっ……!」
 ジュンイチのペースに振り回され、瘴魔獣まであっという間に倒される、前の戦いとは打って変わっての失態続きにシャドープリンスがうめき、
「さて、あとはテメェひとりだけだな」
 ジュンイチがそんな彼に向けて爆天剣を突きつけて言う。
「どうする? 逃げるか降参するか?」
「ふざけたことを、言うな!」
 ジュンイチの言葉に言い返し、シャドープリンスは頭上に向けて叫んだ。
「メギド!」
「うん!」
 シャドープリンスに答え、ビルの屋上からメギドが姿を現し、
「蘇えっちゃえ! デモンズハッグ!」
 言うと同時に“力”を放射、デモンズハッグと呼ばれた瘴魔獣が巨大化して復活する!
「お次はブレイカーロボ戦ってワケか!」
 言って、ジュンイチはブレイカーブレスで通信し、
「だったらむしろ好都合! こっちもリベンジしてやらぁっ!
 親父、ゴッドドラゴンこっちによこせ!」
 だが――
〈ムチャを言うな!
 ゴッドドラゴンはダメージが大きい! もうしばらく休ませなければムリだ!〉
「えぇ〜〜〜っ!?」
 龍牙の言葉にジュンイチが声を上げると、
「大丈夫ですよ」
 ジーナがそんなジュンイチに言う。
「ブレイカーロボ戦なら、むしろ私達の出番ですよ」
「そうそう」
 ジーナの言葉にうなずき、ライカもジュンイチの肩を叩き、
「アンタはここで見てなさい。
 アイツは、あたし達が掃除してあげるからさ♪」

「エヴォリューション、ブレイク!
 カイザー、ブレイカー!」
 ライカが叫び、カイザーフェニックスは急激に加速し、大空へと舞い上がる。
 そして、その両足の爪がスネの方へとたたまれると拳が飛び出し、大腿部のアーマーが起き上がり、人型の両腕へと変形する。
 続いて鳳凰の頭部が分離すると背中のメインバーニアが肩側へと起き上がり、そのままボディ前方へと展開。根元から180度回転した上でスライド式に伸びて大腿部が現れ、つま先が起き上がって人型の両足が完成する。
 背中のウィングの向きが根元から180度回転、バックパックとなると鳳凰の頭部が胸部に合体。その周囲の羽型の胸部装甲が広げられる。
 最後に人型の頭部が飛び出し、アンテナホーンが展開。額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「カイザー、ユナイト!」
 ライカが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し口元をフェイスガードが覆い、左手に尾部がシールドとなって合体。カメラアイと額のBブレインが輝く。
「凰神合身! カイザー、ブレイカー!」

 ――ブワッ!
 合身を完了し、ライカのカイザーブレイカーが同じく合身を遂げ、着地したジーナのランドブレイカーの頭上でデモンズハッグと対峙する。
「ジーナ、いける?」
「私は大丈夫です。
 ファイちゃんと鈴香さんはどうですか?」
「うん、大丈夫!」
「私も準備OKです!」
 尋ねるライカに答え、さらに尋ねるジーナの問いにファイと鈴香が答える。
「なら、一気に行くわよ!
 アンタ達には時間制限があるんだから、速攻で決めるわよ!」
「はい!」
「うん!」
「わかりました!」

「カイザーブレイカー、モード・エヴォリューション!」
 ライカが叫び、カイザーブレイカーが勢いよく大地に降り立ち、その機体に変化が現れた。
 脚部のカイザーミサイルポッドが展開され、翼の周囲にメーザースコール用の空間レンズが作り出される。
 そして、胸部の鳳凰の嘴も開き、内部の火炎噴射システムも起動する。
 最後に両肩に二丁のカイザーショットが合体し、ライカが高らかに名乗りを上げた。
「カイザーブレイカー、ライトニング・モード!」

「いきますよ、鈴香さん、ファイちゃん!」
「はい!」
「うん!」
 ジーナの言葉に鈴香とファイが叫び、3人は声をそろえて叫んだ。
『トリプル、ユナイト!』
 その言葉と同時、ジーナだけでなく鈴香とファイもランドブレイカーとユナイト、ランドブレイカーから放たれる“力”がその大きさを増す!
 続けて、両肩のスカイホーク、マリンガルーダの翼が分離、ランドブレイカーの背中に合体する。
 四枚の翼を広げて上空へと飛び立ち、ジーナ達3人が名乗りを上げた。
『三神合身、エレメント、ブレイカー!』

「バカな!? 別形態だと!?」
 新たに見せた2体のブレイカーロボの新形態に、シャドープリンスが思わず驚きの声を上げる。
 だが、ライカもジーナ達もそんなことにかまいはしない。目の前のデモンズハッグへと攻撃を開始した。
「いくわよ!
 カイザー、スパルタン!」
 ライカが叫ぶと同時、四肢から放たれたミサイルや閃光が雨のようにデモンズハッグへと降り注ぐ!
 すでに全武装が展開状態となっているため、カイザースパルタンの速射が可能となっているのだ。しかも両肩に追加されたカイザーショットの分、放たれる攻撃の数も増している。
 とはいえ、そのために空力は低下しており、空戦能力は低くなってしまっている。空戦能力を犠牲にして砲撃戦仕様に変化させた形態と言えるだろう。
 一方、放たれた攻撃は一斉にデモンズハッグへと突っ込むが、照準を合わせず拡散弾として放ったためすべてが直撃したワケではなかった。そのためデモンスハッグはなんとか耐えることができたが――
「いっけぇっ!」
 ファイのかけ声と共に、ライカの攻撃に耐えていたデモンズハッグをエレメントブレイカーが蹴り飛ばす。
 その威力はランドブレイカー時の比ではない。3人の同時ユナイトによって、機体のパワーが飛躍的に上がっているのだ。
 しかも、両腕にシールドとして装備されていた翼を背中に装着したことで、ランドブレイカーでは不可能だった空中戦も可能になっている。
「グオォォォォッ!」
 よろけながらもなんとか踏みとどまり、デモンズハッグは球体形態に変形、後方に着地したエレメントブレイカーよりも近くにいたライカカイザーブレイカーへと突撃をかけるが、
 ――ガシィッ!
 音を立て、ライカはその突撃を受け止める!
「悪いわね……思い通りにいかなくて!」
 言って、ライカが球体のままのデモンズハッグを持ち上げ、
「この形態、全身の武装振り回さなきゃいけないから、馬力パワーも上がってんのよ!」
 そのまま大きく投げ飛ばす!
「ジーナ、ファイ、鈴香!
 とっとと決めちゃいなさい!」
「はい!」
 代表してジーナがライカに答え、エレメントブレイカーがデモンズハッグへと突っ込む!

「エレメントカリバー!」
 言って――ジーナは胸の獅子の口から剣の柄を射出し、それをつかむと同時その両側に光が集まり、ランドカリバーが連結したような形のツインソードとなる。
 そして、ジーナがそれをかまえて、
『ストリーム、ホールド!』
 ファイと鈴香が叫ぶと同時、右肩のスカイホークの口から竜巻が、左肩のマリンガルーダの口から水竜巻が放たれて人型に戻ったデモンズハッグの動きを封じる。
「剣よ――大地の力をその身に宿し!」
「風の力を刃となし!」
「水の力を光と変えて!」
『我らが敵を討ち倒せ!』
 ジーナ達3人のその言葉に応え、エレメントカリバーの両刀身に“力”が収束、刀身が光に包まれる。
 そして、ジーナがデモンズハッグに向けて踏み出し――
 ――ドンッ!
 踏み込みと同時にライガーシューティングを発動、一気に加速する。
 そして、超絶的なスピードを発揮したエレメントブレイカーはデモンズハッグへと突っ込み、
「三神――瞬斬!
 エレメント、ブレイク!」

 ズガァッ!
 ジーナが刃を振り下ろし――瞬時にもう一方の刃で斬り上げ、デモンズハッグの身体を三つに斬り裂く!
 瞬時に放たれた二度の斬撃により、完全に三つに断ち切られたデモンズハッグの身体が外側へとバランスを崩すと、その切り口に“封魔の印”が現れ――
 ドガオォォォォォンッ!
 大爆発を起こし、デモンズハッグは消滅した。
 そして、ジーナ、ファイ、鈴香が声をそろえて勝ち鬨の声を上げた。
『爆裂、究極! エレメント、ブレイカァァァァァッ!』

「弱点の克服には至らずとも、新たな力は得たようだな……」
 デモンズハッグの敗北を見て、上空に呼び出したソウルドラゴンの上でシャドープリンスがつぶやくが、
《何をしている、シャドープリンス》
 突然、『声』が彼に告げた。
《なぜ戦わん?》
「他に、やることがあるだろう?」
 『声』に答え、シャドープリンスは告げた。
「ここでの敗北など、『例のもの』を手に入れてしまえば簡単に帳消しになる。
 今は、何としてもヤツらよりも先に次の『マスターブレイカー』を抑えることが先決だと思うが?」
《……いいだろう。
 お前の手並み、見せてもらおうか》
 『声』の言葉にうなずき、シャドープリンスはソウルドラゴンもろともその場から姿を消した。

 こうして、敵を退けたジュンイチ達だったが――
「あー、ジュンイチさん?」
「………………」
 ジーナが声をかけるが、ジュンイチからの返事はない。
「ねぇ、ジュンイチってば」
「………………」
 ライカの言葉にも、ジュンイチは答えない。
 そんなジュンイチを見て、翼はため息をついてつぶやいた。
「いいじゃない。ロボット戦で出番取られたぐらいでそんなにいぢけなくても」
「一度せっかく復活遂げたのに本領発揮する間もなく獲物取られてみろ。どれだけ拍子抜けかわかるぞ」
 翼の言葉に、ヒザを抱えてこちらに背を向けてソファに寝転んでいるジュンイチは振り向きもせず答える。
「まったく、そーゆーとこは子供っぽいんだから……
 いいじゃない。シャドープリンスへのリベンジは果たしたんだから」
 ライカが肩をすくめて言うと、
「ねーねー、みんな!」
 そんな彼らに、あずさが声をかけてきた。
「せっかく5人のブレイカーがそろったんだからさ、グループ名って必要じゃない?」
「グループ名?
 私達の……ですか?」
「うん!」
 聞き返す鈴香にうなずき、あずさは笑顔で続けた。
「でね、さっきファイちゃんやプラネルのみんなと考えてたんだけど……
 『ブレイカーズ』ってどう?」
「ブレイカーズ、ですか……」
「うん! シンプルでいいでしょ?」
 つぶやくジーナにファイが言うと、
「ってことで、チーム名『ブレイカーズ』に決まりそうなんだけど」
「あー、いーんじゃねーのぉー」
 尋ねるライカの問いに、ジュンイチはやはり振り向きもせずに答える。
「うっわー、すっごく投げやり……」
 あきれるあずさの隣でライカは振り向き、ジーナに尋ねた。
「ほんっとーにこんなのがリーダーで安心なの?」
 その問いに、ジーナは――
「……聞かないでください」
 フォローすることができなかった。


Next "Brave Elements BREAKER"――

「だから、ここにxの値を代入して、あとはそのまま式を解けばいい」
「ふんふん、なるほど……」

「だからって……そんなこと続けてていいワケないじゃない」

〈では、『Dサバイバル』……Fight!〉
 ずどぉぉぉぉぉんっ!

(これだけの狙撃のできる“火”の属性使い――)
「――橋本か!」

「“あいつら”の息のかかった議員が、アメリカ政府内にどれだけいると思ってる?」

Legend12「休息」
 そして、伝説は紡がれる――


 

(初版:2005/05/29)