目を覚ました時、彼は木造の天井を見上げる形で布団に寝かされていた。
ボンヤリとした頭で、意識の途切れる前のことを思い出し――よく生きていたものだと苦笑する。
しかし――疑問はいくつかある。そもそもここはどこなのか。そして――
「誰が、オレを助けた……?」
彼がポツリとつぶやいたその時、答えた声があった。
「私ですよ」
その声に視線を向けると、そこには見覚えのある少女が水の入ったオケを持って立っていた。
「目が覚めたみたいですね。
大丈夫ですか?」
「水隠……鈴香……?」
つぶやく彼に、鈴香は笑いながら部屋に入るとふすまを閉め、告げた。
「それにしても驚きましたよ。シャドープリンスの正体が、まさかあなただったなんて。
橋本くんが知ったら何て言うでしょうね――影山涼さん?」
目を覚ました時、彼はうっすらと光の差し込んでいる地下空洞にいた。
「な、何だ……?」
つぶやき、身を起こし――彼は自分が木製のベッドに寝かされているのに気づいた。
「どうなってやがる……?
確か瘴魔獣にやられて、それで……」
彼がつぶやくと、
「お目覚めですかな?」
突然かけられた声に振り向くと、そこにはローブに身を包んだ男達の集団がいた。
一見すると異様な集団だ。だが――彼にはそのローブに見覚えがあった。
「気分はどうですかな? 青木殿」
「お前ら……“AEGIS”か……?」
Legend14
「激闘の聖獣合身!」
「アンタはここにいなさい!」
鳳龍に告げてカイザーフェニックスから降り、ライカは周囲を見回した。
確かにここに瘴魔獣はいたようだ。だが――今はその姿も、気配もない。
だが――それよりもライカには気になることがあった。
交戦の跡があるのだ。瘴魔獣と、何者かとの。
「いったい、ここで何があったの……?」
彼らは、常に歴史の裏に存在していた。
長い歴史の中で次々に興り、消えていった数々の秘法――陰陽術、魔法、錬金術――使い方ひとつで国をひとつ滅ぼしかねないその力を秘密裏に回収し、封印することを目的とする彼らは、自らを世界を脅威から守護する『盾』と位置づけ、こう名乗った。
すなわち、“AEGIS”と――
「そっか……あの時瘴魔獣に攻撃を仕掛けてきたのはお前らか。
おかげでこっちは余計な気を取られて……いや、それはオレの自業自得か」
目の前の男達を前に、青木はひとり納得してつぶやく。
が――それ以上に青木は彼等がここにいること、それ自体に疑問があった。
「けど、“AEGIS”が今更何の用だよ?
まさか『キングストーン事件』の報復か? だったら恨むのはオレじゃなくてジュンイチだろ」
どうやら、彼と“AEGIS”は彼の言うところの『キングストーン事件』を通じて面識があるようだ。それもかなり『悪い形』で。
が――
「そんな何年も前のことを持ち出すほど、我々もヒマではないのですよ」
リーダー格の男の言葉は、青木の予想に反するものだった。
「ある人物から、貴方に渡すよう言われ、預かっているものがあります。
貴方に、必要な力だと……」
「オレに……?
一体誰が……」
つぶやき――青木はある可能性がよぎった。
「まさか……」
「ここは私達のお世話になっている神社です。
対魔結界も厳重に張られていますから、瘴魔にも簡単には見つかりませんよ」
言って、鈴香は涼のとなりにオケを置き、自らも腰かける。
「しかし――なぜオレを助けた?
オレは貴様らの敵だったはずだ」
なぜ自分を助けたのか理解できず、尋ねる涼に鈴香は答えた。
「貴方は、私達を助けてくれましたから」
――ドゴォッ!
「がは………………っ!?」
突然、背後から放たれた閃光に身体を貫かれ、ソウルブレイカーは――涼はその場に崩れ落ちた。
「な、何……!?」
状況が呑み込めず、ジーナが呆然とつぶやくと、
「よくもやってくれたな、シャドープリンス」
その言葉と同時、大地の一角に影が集まり、その中からそれは現れた。
全身に鎌を思わせる三日月形の刃を生やした、カマキリを彷彿とさせる人型の機動兵器――
新たなブレイカーかとも思ったが、そこから発せられるのは精霊力ではなく瘴魔力――しかもその強さがケタ違いだ。今まで戦ってきた瘴魔獣とは次元そのものが違う。
「き、貴様……シン……!」
涼がうめくと、シンと呼ばれたその機動兵器の搭乗者は彼に向けて告げた。
「まったく、貴様にはしてやられたぞ。
我ら瘴魔を、よくも今まで出し抜いてくれたな」
「何の、話だ……!」
「とぼけるな。
オレの目はごまかされんぞ」
うめく涼に答え、シンは改めて尋ねた。
「炎のブレイカーをどこへやった?」
「何をバカなことを……!
オレの『影龍抹消陣』はあらゆるものを消滅させる……それは、貴様とてよくわかっているだろう」
「あくまでシラをきるか……
いいだろう。どちらにしても今ヤツはここにはいない――好機であることに違いはない」
言って、シンは右手をかざし――そこに大鎌を生み出して握り締める。
「ここでお前達だけでも始末できれば、十分すぎる収穫だ!」
咆哮と共に刃が振り下ろされ――止められた。
割って入った、ジーナのランドカリバーによって。
「何のつもりだ?」
「すみませんが、彼はこちらに引き渡してもらいますよ」
シンに答え、ジーナは刃を握る手に力を込める。
「いろいろと――聞きたいことができましたからね!」
そのままシンを押し返し、ジーナは叫んだ。
「鈴香さん、ファイちゃん!」
「はい!」
「OK!」
『トリプル、ユナイト!』
ジーナ、鈴香、ファイ――3人のその言葉と同時、ジーナだけでなく鈴香とファイもランドブレイカーとユナイト、ランドブレイカーから放たれる“力”がその大きさを増す!
続けて、両肩のスカイホーク、マリンガルーダの翼が分離、ランドブレイカーの背中に合体する。
4枚の翼を広げて上空へと飛び立ち、ジーナ達3人が名乗りを上げた。
『三神合身、エレメント、ブレイカー!』
「たぁぁぁぁぁっ!」
ジーナが咆哮し、エレメントブレイカーはシンへと突っ込み、拳を繰り出す。が――
「フン」
パンッ!――と音を立て、シンはその拳をいともたやすく受け止めた。
「フム、なかなかのパワーだな。
3人が同時にユナイトすることで、機体の出力を高めているのか……マスター・ランクにも引けは取らんな」
「そんな……!?
エレメントブレイカーのパワーを、そんな簡単に……!?」
平然とつぶやくシンを前に、ジーナは思わず声を上げる。
「では……今度はこちらの番だな」
そんなジーナ達にシンが告げ――次の瞬間、
ドガァッ!
轟音と共に、エレメントブレイカーは大地に叩きつけられていた。
(な、何――!?)
(今、何をされたの――!?)
(攻撃が……見えない!?)
一体何をされたのかまったく理解できず、3人が胸中でうめく。
そんな彼女達に向け、シンは無造作に大鎌を振り上げ――
――ガギィッ!
振り下ろされたその一撃は、涼のかまえたソウルサイズによって受け止められていた。
「……やっと本性を現したか」
「今さらごまかしても、ムダのようだからな……!」
シンに答え、涼は胸の傷が痛むのもかまわずシンを押し返す。
―― | 影よ、我が意に従い縛鎖となりて 我らが敵を組み伏せよ! |
「影鎖縛!」
続けて涼は『精霊術』を使い、シンを周囲の影から作り出した鎖で縛り上げる。
そして――涼は右手の中にそれを作り出した。
漆黒に輝く、宝石のような結晶体である。
「貴様――それは!?」
それを見て、初めてシンの顔色が変わった。予想外の存在の出現に声を上げるが、涼はかまわず叫んだ。
「来い! 影鎌帝、シャドー・オブ・デスサイズ!」
その瞬間――周囲が漆黒に染まった。
結晶体からあふれ出した“影”が周辺一体にまき散らされたのだ。
そして、涼の背後にそれは出現した。
ブレイカーロボよりも巨大な、大鎌をたずさえた漆黒の異形である。その姿はまるでボロボロのマントのようにも見え、まさに『死神』と呼ぶに相応しい姿をしている。
そして、その異形は大鎌を振り上げ――振り下ろし、無数の漆黒の刃を放つ!
飛翔する無数の刃はそのすべてがシンへと降り注ぎ――舞い上がった土煙が晴れた時、シンはその姿を消していた。
「やっつけた、の……?」
つぶやくファイだったが、
「……逃がした、か……」
そんな彼女の意に反し、そうつぶやくと――涼はその場に倒れ伏した。
そして、難を逃れたジーナ達は、さすがに敵とはいえ自分達の命を救ってくれた涼を見捨てるワケにもいかず、助けることにした。
合身も解け、大地に倒れるソウルドラゴンのコックピットハッチを開け――その中にいた涼を見て、シャドープリンスの正体が彼であることを知ったのである。
「ですが……どうして私達を?」
「簡単な話だ。
利用価値があったからだ」
鈴香の問いに、涼は彼女へと視線を向けることなくそう答えた。
「オレの目的は瘴魔の組織壊滅だ。そのためにはお前達の力を伸ばすのが有効だと判断したから、お前達に強力な瘴魔獣をぶつけ、密度の高い実戦経験を積ませようとした」
「なぜ、私達と共に戦おうとしなかったんですか?」
その問いに、涼は沈黙をもって答えた。
「……わかりました。答えたくないならいいです。
じゃあ、次の質問。あの敵は何者ですか?」
「瘴魔神将のひとり、黒影のシン。
あの機動兵器はヤツの専用機、瘴魔機兵デスサイザーだ」
この問いにはあっさりと答える。が――次の言葉に、鈴香は自らの耳を疑った。
「ヤツらは、オレ達ブレイカーと同じ異能者――人間だ」
「瘴魔神将?」
「はい」
そこは単なる地下空洞ではなく、彼ら“AEGIS”の地下施設だった――その一角、廊下を案内されながらその名を聞かされ、眉をひそめる青木に男が答えた。
「彼らはあなた達ブレイカーが精霊の力を受け継ぐように、瘴魔の力を受け継ぐ人間……瘴魔であるがゆえに瘴魔力を操り、人間であるがゆえに精霊力で守られている……そのため、今までの敵のように、思うように攻撃を叩き込むことはできないでしょう」
「どういうことだ?」
「今までは、敵が瘴魔力しか持っていなかったからこそ、優位に戦えていたんです」
聞き返す青木に、男が答える。
「精霊力と瘴魔力はどちらも『気』、『魔力』、そして『霊力』――この3つが肉体という媒介によって統合された、生命エネルギーの一種であることに違いはありませんが、それぞれの特性は互いに相反しています。
そのため、ブレイカーは瘴魔力と相反する精霊力をぶつけることで敵の力場を対消滅で破り、攻撃していたのです」
「ちょっと待てよ。
対消滅で相手の力場を破ってたんなら、ジュンイチ達の力場も対消滅で消えてたってことか?」
「いえ。必ずしもそうとは限りません。
対消滅で消滅するエネルギー量は互いに等しい。より多くのエネルギーを持つ方の力場は消滅しきらず残ります。
元々生命体としては不完全な存在であり、『気』、『魔力』、『霊力』のバランスが取れていない瘴魔獣クラスならば、装重甲によって高められたブレイカーの攻撃で十分に打ち勝つことが可能です。
巨大化されても、ブレイカーロボに合身すれば条件は同じですね。
ただ、あの瘴魔神将は……」
「人間である以上、生命力の出力条件は五分……いや、精霊力と瘴魔力、両方を持つ分向こうが上、か……
しかも精霊力も持ってる以上、向こうの力場を対消滅で破ることもできない……
確かに強敵だな」
男の言葉につぶやき、青木は別の疑問を口にした。
「で? オレに渡すように言われていたものってのは?」
「あぁ、もう間もなくです」
男が答えると、確かに少しして彼らは大きなハッチの前に到着した。
男の指示でハッチが開けられると、その中は巨大な格納庫で――
「こ、これは……!?」
そこに収められていたそれを見て、青木はうめいた。
ランドライガーとほぼ同サイズの、馬型の巨大ロボットだ。
――いや、額にドリル状の角がある。馬というよりユニコーンか。
だが、それよりも青木にはこの機体の持つ雰囲気に覚えがあった。これは――
「ブレイカー、ビースト、か……?」
「その通りです」
つぶやく青木に、男が答えた。
「セイントユニコーン。
太古からこの京都の龍脈を守護してきたブレイカービーストの1体です」
「こいつが……」
言いかけ――青木は気づいた。
「……『1体』!?
他にもいるってのか!?」
「えぇ。
セイントユニコーンは龍脈の中枢を守護していたにすぎません。他に東方に『青龍』イーストドラゴン、西方に『白虎』ウェストタイガー、南方に『朱雀』サウススパロー、北方に『玄武』ノーストータス――四聖獣を模した4体が、それぞれに京都を守護していたのです」
「……さすが千年王都。そりゃ5体のブレイカービーストの精霊力が龍脈を守護してきたんなら、それだけ繁栄もするはずだよ」
男の言葉に、青木はため息まじりにつぶやき、
「で、だ。
話の流れからして、これをオレに託すつもりみたいだけど、オレは別にブレイカーでも何でも……」
「いえ」
しかし、青木の言葉に男はキッパリと答えた。
「貴方にも、ブレイカーとして覚醒する素養があるのですよ。
それも――マスター・ランクのね」
それは、しきりに探し続けていた。
それが主からの命令だったから。
そして――発見した。
ならば、次の段階に移る。
すなわち――奪う。
「オレが、マスター・ランクだってのか……?」
「えぇ。
彼は初めて対峙したその時に、すでに貴方がマスター・ランクとして覚醒する可能性があることに気づいていたのです。
そのため、敵として貴方がたに攻撃をしかける一方で貴方と同じ属性を持つブレイカービーストを探索し――発見したのです。
この、セイントユニコーンと、4体の聖獣を」
「って、ブレイカービーストは原則としてひとり1体じゃないのか?」
「そうとも限りませんよ」
聞き返す青木に答えると、男はコンソールを操作し、傍らのモニターにそのデータを表示した。
ブレイカーロボだ。ゴッドブレイカーやソウルブレイカー、そして見たことのない機体のデータもいくつかある。
「この地は太古の昔――精霊達が文明を築いていた頃にはブレイカーロボの開発施設だったようです。
そのため、このようなデータもあるのですが……彼らは当時、さまざまなアプローチによって機体の開発を行っていたようです。
複数の機体の合体、その合体シークエンスの入れ替えによる多用途化……ブレイカーとブレイカーロボが一体となるユナイトシステムも、ここで開発されたようです」
「そんなアプローチの一環で作られたのが、このセイントユニコーンと四聖獣……」
「その通りです。
貴方の機体は、セイントユニコーンと四聖獣が合体することで1体のブレイカーロボとなる、マスター・ランクとしては初の複数機合体の機体のようですね」
「なるほど……」
納得してつぶやき――青木は尋ねた。
「で……肝心なことをいくつか聞いてないんだが」
「何でしょうか?」
「まずは覚醒の手段。それから……オレの属性だ」
「それは――」
青木の問いに男が答えかけた、その時――
――ドガオォォォォォンッ!
爆発と共に天井が破られ、何かが落下してきた。
炎の中、屍と化した“AEGIS”のメンバーを放り出しつつ立ち上がったそれは――
「お前……さっきの!」
先程青木と交戦した、バラの瘴魔獣である。
「貴様……どうやってここまで!
ここは施設の最下層――幾重にも張られた警備網を抜けなければ、ここへは――」
そんな瘴魔獣に告げる男を、青木は無言で手をかざして制した。
「アンタの疑問はもっともだ。
けど――その答えはたぶん、やたらとシンプルだと思うぜ」
そう告げると、青木は瘴魔獣へとかまえた。
そう――答えは単純だ。
その警備網を、すべて突破してきたから、ヤツはここにいるのだ。
「――瘴魔!?」
その気配を感じ取り、ライカは思わず声を上げた。
「場所は――?」
気配を探り――見つけた。
「地下!?」
ドゴォッ!
瘴魔獣の振るったムチが器材を破壊、巻き起こった爆発が周囲を赤く照らし出す。
「くそっ、ムチャしやがって……」
うめくものの、武器がなくては戦えない――青木は男の胸倉をつかみ、告げた。
「おい、ここはお前らの施設だろ!
お前らが回収した『“力”付き』の武器はないのか!?」
「そんなもの、一般人に貸せるワケがない――と言いたいところですがね」
言って、男は青木にそれを渡した。
木製の芯を金属のカバーで補強したナックルである。
「あなたの精霊器の触媒用に用意された、霊木から削りだされた霊拳『拳皇』です。
これなら、まだ覚醒に至っていないあなたでもそれなりの戦いができるはずです」
「よっしゃ!」
男の言葉に、青木はナックルを受け取ると右手に装着し、
「いくぜ――力を貸せ、『拳皇』!」
その咆哮と同時、『拳皇』から“力”があふれ、青木の拳を包み込む。
「よっしゃ、これで――!」
言いながら、青木は瘴魔獣へと向き直り――
――ドガァッ!
「でぇぇぇぇぇっ!?」
すぐそばにムチが叩きつけられ、青木はその衝撃で吹き飛ばされる。
「よく考えたら、こっちはまだ覚醒してない一般人で、力場も何もないんじゃねぇか!
ンな状態でロクな防御手段もなしに、どーやって戦えっつーんだよ!?」
たまらず柱の影に退避して青木がうめくと、
「これを!」
言って、同じく退避していた男が青木にもうひとつ、『拳皇』と同じようなナックルを投げ渡してきた。
「『拳皇』と対である『盾皇』!
防御にはそれを!」
「あるなら、早くよこせってんだ!」
うめいて、左手に『盾皇』を装着し――
「防げ、『盾皇』!」
叫ぶと同時に『盾皇』を中心に防壁を展開、柱を砕いて襲いくる瘴魔獣のムチを防ぐ。
が――そんな青木を急速な脱力感が襲う。
ジュンイチといい橋本といい、霊木で作られた武具を頻繁に解放しない理由はここにある――その力を制御するため、その巨大な能力と引き換えに持ち主の“気”を大量に消費するのだ。
ブレイカーとして人並みはずれたジュンイチでさえあまり解放したがらないのだ。未覚醒の青木が、しかも二つも霊木製武具を使えば消耗はバカにならない。
(こりゃ、あまり時間はかけられないな……)
かと言って、うかつに突撃すれば先の戦闘の二の舞だ。誰も好き好んで相手のカウンターが明らかな状況で突っ込みたくはない。
『拳皇』『盾皇』の投入によって戦闘手段は確保できたが――未だ状況は悪いままだ。
(やっぱ――あのムチをなんとかするのが先決か)
事態の打開にはそれしかない――決意を固め、青木は跳躍、一気に瘴魔獣へと向かう。
対して、瘴魔獣もムチを繰り出し――瘴魔獣の右手からのムチを『盾皇』で防ぎながら『拳皇』で左手のムチを撃ち砕く。
そして、懐に飛び込んだ青木は右手に“力”を集め――気付いた。
瘴魔獣の足から伸びたバラの根が地面に突き刺さっている。これは――
「――マズい!」
だが、青木の反応は間に合わなかった。地中を掘り進んでいた瘴魔獣の根が飛び出し、青木の四肢を打ちのめす!
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた青木に向けて、瘴魔獣はとどめとばかりに再生させた両手のムチを繰り出し――!
だが、それが青木に突き刺さることはなかった。
青木に『拳皇』と『盾皇』を託したあの男が――青木をかばってその一撃に貫かれたからだ。
断末魔はない。だが、飛び散る鮮血と頭蓋を貫いたその一撃が男の絶命を明確に物語っていた。
「――――――っ!」
目を見張る青木の前で、男の骸は静かに崩れ落ち――青木の中で何かが弾けた。
「――ォォォオオオオオオッ!」
咆哮と共に、身体の中から力があふれ出すのがハッキリとわかる――解放されたその“力”に導かれるままに、青木は立ち上がり――
――ドゴォッ!
瘴魔獣の腹部に、青木の放った一撃が打ち込まれていた。
力場をあっさりと打ち抜いたその拳を引き抜くと、そこにはより大型に、より鋭利に変化したナックルが装着されている。
『拳皇』と『盾皇』から作り出された青木の手甲型精霊器『獣天牙』である。
「悪いが――恩のある相手を殺されても黙ってられるほど、こっちはおだやかな性格してないんだ……」
静かに告げて――青木は宣告を下した。
「お前は――死ね」
その左手には、ブレイカーブレスが装着されていた。
「ブレイク、アァップ!」
ジュンイチが叫び、眼前にかまえたブレイカーブレスが光を放つ。
その光は青龍、白虎、朱雀、玄武、そして麒麟――数々の聖獣の姿を形作ると、青木へと集結、その身体を包み込む。
――ブァッ!
青木が腕の光を振り払うと、その腕には右が青色に、左が純白に染め抜かれた、両肩に巨大な盾状のパーツを有するプロテクターが装着されている。
同様に、足の光も振り払い、緑色のプロテクターを装着した足がその姿を現す。
そして、背中に生まれた鳳凰の翼が自らにまとわりつく光を吹き飛ばし、さらに羽ばたきによって身体の光を払い、真紅の翼を持った黄金のボディアーマーが現れる。
最後に頭の光が立ち消え、さながら一角獣のような角を有するヘッドギアを装着した青木が叫ぶ。
「無限の野生は闘志の証! 怒れる牙が魔を砕く!
激震の獣王、ファング・スティンガー!」
「いくぜ!
スティンガーファング!」
青木の咆哮に答え、装重甲の両肩のパーツが分離、青木の両腕に装着される。
これこそが青木の使うメインツール、スティンガーファングである。
対して、瘴魔獣は青木に向けてムチを振るい、それが両手のスティンガーファングにからみつく。
そのまま、瘴魔獣は青木を引き寄せようとするが――
「そんなパワーで!」
青木はそんな瘴魔獣を逆に引き寄せ、さらに力任せに振り回し、大地に叩きつける!
とたん――瘴魔獣が悲鳴を上げた。
「きゃあっ!」
「な――――――っ!?」
それは、青木にとって予想外の声だった。
「お前――女か!?」
「そ、そうよ……!」
青木に答え、瘴魔獣は立ち上がり、
「けど、だから何だってのよ……!
このアルラウネ……シン様によってこの世に生み出された瘴魔の戦士! 男も女も関係ない!
それとも、『女だから』って手を抜くつもり!?
全力でかかってきなさいよ! アンタも戦士なら!」
そう瘴魔獣――アルラウネが宣言し――
「そうしよう」
「え――――――?」
あまりにも平然と答えられ、思わず疑問符が浮かぶ――が、次の瞬間、アルラウネは青木の拳によって天井近くの岩壁に叩きつけられていた。
「バカかお前。
男か女か、それ以前に――お前、オレ達の敵だろうが。
ま、お前が敵じゃなかったんなら、手心を加えてやる選択肢もあっただろうが――今となっちゃすべてが遅いか」
落下し、大地に叩きつけられるアルラウネに、青木は平然とそう告げた。
「男も女もガキもジジババも――相手の立場なんか関係ない。
敵に回るのなら全力でこれを排除する。それがオレ――“獣”のブレイカーだ。
しかもてめぇにヤな覚醒の仕方させられて気が立ってるんだ。自業自得と思うこったな」
そして、青木はスティンガーファングをかまえ、
「もう一度言うぞ。
お前は――死ね」
「――――――あれはっ!?」
瘴魔の気配を頼りに地下空洞に到着し――ライカは自分の目を疑った。
青木が着装し、瘴魔獣を圧倒している。
「ど、どういうことよ!?
青木さんがブレイカーに覚醒してて……しかも、あの精霊力、マスター・ランク並じゃない!」
「エナジー、ブリッド!」
告げて、青木は腰のツールボックスから1発の弾丸を取り出すと右手のスティンガーファングへと装填し、
「スティンガーファング――Standing by!」
青木の咆哮に応え、スティンガーファングがエネルギーをチャージ、周囲に巻き起こったエネルギーが高速で渦を巻く。
「くっ――!」
対して、アルラウネは前面に自らが生み出したツタを集結させ、防壁を形成する。
が――青木はかまわず地を蹴り、一直線にアルラウネへと突っ込み、
「聖獣――突貫!
スティンガー、インパクト!」
繰り出した右の一撃がアルラウネの防壁と衝突し――まるでのれんをかき分けるかのようにあっさりとその防壁を潜り抜け、アルラウネ本体に一撃を叩き込む!
「な――――――っ!?」
「悪いな。
ジュンイチはあまり好んでなかったが――オレ達マスター・ランクのツールには空間湾曲能力が備わってるんだ。
とりわけ、このスティンガーファングはそれが強力でな――必殺技クラスになれば、力場だろうが物理防壁だろうがおかまいなし――事実上ガード不可だ」
驚愕するアルラウネに告げると、青木は彼女の身体に突き刺さったスティンガーファングを引き抜き――その傷を中心に“封魔の印”が浮かび――
「The End」
青木が告げると同時――大爆発を起こし、瘴魔獣は断末魔と共に四散した。
「……ふぅっ」
覚醒後の初戦闘を圧倒的な力の差で締めくくり、青木は大きく息をついた。
と――そこでようやく、この場に到着し、自分を呆然と見つめているライカの姿に気づいた。
「あれ、ライカ……来てたのか?」
「『来てたのか?』じゃないですよ!」
尋ねる青木に、ライカは我に返って言い返す。
「どーして青木さんが覚醒してるんですか!
しかもマスター・ランクに!」
「いや、どーしてと言われても……」
「問答無用ですっ!」
(自分で質問しておいて……)
胸中でうめくが口には出さない――というか出すのが怖い。
「とにかく! このことはジュンイチには内密に!
アイツってば、リーダーやるのにノリ気じゃないんですから、このコトを知ったらこれ幸いとばかりに逃げますよ絶対!」
「そりゃ、そうなることは簡単に予想できるけど……」
力いっぱい断言するライカに、青木は眉をひそめて尋ねた。
「けど、お前さんにとっては好都合だったんじゃないか?
さんざん振り回してくれたジュンイチのお守りから解放されるんだぜ」
「え………………?」
その言葉に、ライカはふと動きを止めた。
(そういえば、そうよね……
ハッキリ言って、アイツがあたしにもたらしてくれてるメリットは勉強を教えてくれるってコトだけで……むしろ戦闘じゃ突出するわ他のメンバーのことちっとも把握してないわで、あたしに迷惑かけまくってくれてて、デメリットの方が多いのよね……)
だが――なぜか釈然としない。
(なんで? どうして?
どうしてあたしはアイツが抜けるのをためらってるの?)
「おーい、ライカ……?」
思考にふけるライカに、青木のかけた声は届かない。
「まったく……」
そんなライカに、青木は思わずため息をついて――
『――――――っ!?』
突然気配が生まれた。感じ取った青木はもちろん、旅立っていたライカもまたその気配に現実へと引き戻される。
巨大化・復活しようとしているのだ。アルラウネが。
気配の位置は地上――こちらがムダ口を叩いている間に暴れやすい場所に移ったのだろうか。
「あのヤロー、しぶといっ!」
うめいて、青木は振り向き、声を張り上げた。
「お前の主はここにいる!
出番だ、起きろ! セイントユニコーン!」
とたん――セイントユニコーンのカメラアイに輝きが生まれた。自身を拘束している固定用アームを振り払うと青木に向けて頭を垂れる。
そして、頭部のコックピットが開け放たれ――
「ぅ、うぅ〜〜ん……」
中から聞こえてきたのは、何やら眠たそうなうめき声だった。
予想外のリアクションに青木とライカが思わず顔を見合わせる中、姿を現したのはまるで某ビール会社のマークをディフォルメしたかのような、幼い麒麟の姿をしたプラネルだった。
しばし眠そうに勝気そうなその顔を両手(前足?)でこすっていたが――やがて意識がハッキリしてくると、その目の前にいる青木の姿に気づいた。
「えっと……
キミが“獣”のブレイカー?」
「あー、一応そうだが」
尋ねるプラネルに青木が答えると、彼はよいしょ、とばかりに後ろ足2本で立ち上がり、
「オレはファントム。説明の必要なんかないと思うけど、セイントユニコーンのプラネルだ。
――っと、ムダ口叩いてる場合じゃないよな」
そう言うと、ファントムは青木にセイントユニコーンに乗るよう促した。
「オレ達を起こしたってことは、キミ達の敵が巨大だってことだろ?
だったら、さっさと片付けてやろうじゃないか」
「グオォォォォォッ!」
咆哮し、巨大化したアルラウネは両手のムチを手近にビルに叩きつけ、粉砕する。
巨大化に伴って理性は完全になくなっている。そのまま次のビルへと狙いを定め――
――ドガァッ!
轟音と共に、アルラウネの足元の地面が陥没し、その中からセイントユニコーンがその姿を現した。
そのコックピットには青木の姿がある。
「ファントム! 他のブレイカービーストは!?」
「呼べばOK!」
「了解っ!」
後ろのシートで答えるファントムに即答し、青木は声を張り上げた。
「お前らの主がお呼びだ!
目覚めろ、四聖獣!」
その瞬間、東西南北――京都の四方で光があふれた。
それらの光は柱となって天に立ち昇り、セイントユニコーンのもとへと結集する。
そして光が消え――そこには4体のブレイカービーストが佇んでいた。
東方を守護していた『青龍』のイーストドラゴン。
西方を守護していた『白虎』のウェストタイガー。
南方を守護していた『朱雀』のサウススパロー。
北方を守護していた『玄武』のノーストータス。
そして、中央でそれらの力を束ねていた『麒麟』のセイントユニコーン。
今、この場に京都を守護してきた5体のブレイカービーストが集結したのだ。
「よぅし……いくぜ!」
「エヴォリューション、ブレイク!
セイント、ブレイカー!」
青木が叫び、セイントユニコーンが急上昇、その後を四聖獣のブレイカービースト達が追っていく。
まず、セイントユニコーンの四肢が折りたたまれ、両後ろ足のパーツが背中側へと移動、ロボットの上半身へと変形する。
続いて、イーストドラゴンとウェストタイガーの身体がまるで前屈でもするかのように折れ曲がり、それぞれの頭部を肩アーマーとした両腕へと変形する。
ノーストータスは四肢を収納、機体後部が後方へとスライド式に引き伸ばされると左右に分割され、後端の甲羅状の装甲が起き上がり、つま先となり下半身が完成する。
そして、セイントユニコーンにイーストドラゴン、ウェストタイガー、ノーストータスがそれぞれ合体、さらに背中に頭部を分離させ、バックパックに変形したサウススパローが合体する。
分離したサウススパローの頭部は胸部に合体し、それに連動する形でセイントユニコーンの喉仏にあたる部位の装甲がボディ内部へとスライドして収納、その中から人のそれをかたどった顔面が現れ、口がフェイスカバーで包まれる。
最後に額のユニコーンの角が周りのバイザーパーツごと起き上がり後方へと移動、現れた額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「セイント、ユナイト!」
青木が叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
システムが起動し、カメラアイと額のBブレインが輝く。
「聖獣合身! セイント、ブレイカァァァァァッ!」
――ズンッ!
地響きを立て、合身を遂げたセイントブレイカーがアルラウネの前に着地する。
「さぁて……いっちょやるか!」
咆哮と同時、跳躍した青木は一気に間合いを詰め――ガードを固めたアルラウネに、渾身の力を込めた拳を叩きつける!
まだ合身に慣れていないのか、理屈も何もなくただ力任せに振るった一撃――だが、それでもすくい上げるように放ったその一撃はアルラウネをガードもろとも上空へと叩き上げる。
ゴッドブレイカーすらも上回るそのパワーに、アルラウネは上空でなす術もなく錐揉み回転を繰り返し――
「お次っ!」
上昇の勢いが衰えた頃には、すでに跳び立った――『飛び立った』ではない。力任せに跳躍、その勢いで一気に上昇したのだ――青木が目の前に肉迫していた。真上から打ち落とすように放った蹴りが、今度は大地に向けてアルラウネを叩き落す!
着地し、再びかまえる青木に、立ち上がったアルラウネはムチを振るうが、青木はそれを避けるでもなく、あえて自らの腕に巻きつかせ、
「せーのっ!」
空いている側の手でそのムチをつかむと、アルラウネを力任せに振り回し、
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
咆哮と共に、大地に思い切り叩きつける!
そして、青木はアルラウネのムチを解くと、かざした右手に精霊力を集中、それを作り出した。
セイントブレイカーのサイズに合わせた、スティンガーファングである。
「エナジー、ブリッド!」
告げて、青木は腰のツールボックスから1発の弾丸を取り出すと右手のスティンガーファングへと装填し、
「スティンガーファング――Standing by!」
青木の咆哮に応え、スティンガーファングがエネルギーをチャージ、周囲に巻き起こったエネルギーが高速で渦を巻く。
そして――青木はかまわず地を蹴り、一直線にアルラウネへと突っ込み、
「聖獣――突貫!
スティンガー、インパクト!」
繰り出した右の一撃がアルラウネへと叩きつけられ――その体表を空間湾曲でこじ開けると内部に現れた中枢核に一撃を叩き込む!
そして、青木はアルラウネの身体に突き刺さったスティンガーファングを引き抜き――その傷を中心に“封魔の印”が浮かび――
「The End」
青木が告げると同時――
ドガオォォォォォンッ!
大爆発を起こし、瘴魔獣は断末魔と共に四散した。
その爆発に背を向け、青木が勝ち鬨の声を上げる。
「爆裂、究極! セイント、ブレイカァァァァッ!」
青木が京都において覚醒を果たし、初陣を飾った、同じ頃――
「よかった……涼のヤツ、昨夜帰ってこなかったから心配してたんですよ」
鈴香から連絡をもらい、水隠神社を訪れた橋本は安堵のため息と共につぶやいた。
「それで、ケガの具合はどうなんですか?」
「あまり楽観はできませんけど、安静にしていれば大丈夫ですよ」
尋ねる橋本に答え、鈴香は彼を案内して涼のいる部屋へと案内する。
そして、ふすまを開け――彼女は思わず息を呑んだ。
涼の姿はすでにそこにはなく、ただ開け放たれたままの窓からおだやかな風が吹き込んできていた。
ライカ | 「ついにマスター・ランクとして覚醒した青木さん。 一方、重傷の身体で姿を消した影山くん。 そして、ジュンイチがいなくなってすっかり落ち込んじゃったジーナ。 いろんな想いが交錯する中、また新しい敵が姿を現す! ――って、何よアイツ! 正真正銘のブレイカーじゃない! 次回、勇者精霊伝ブレイカー、 Legend15『烈光の刃』 そして、伝説は紡がれる――」 |
(初版:2005/08/28)