属性エレメントは“剣”。ランクはマスター。
 名は――そうだな、属性エレメントに合わせて『ブレード』とでも名乗っておこうか」
 そう言うと、ブレードと名乗った男はそのまま青木の様子をうかがい、自分から動く様子はない。
 いきなり仕掛けてくるほどに戦いたがっていた割には慎重なヤツなのか――と思ったが、青木はふと別の可能性に思い至った。
「こっちも名乗れってか」
「当然だ。
 相手が名乗ったら自分も名乗るのが、この国の戦士の作法だろう?」
「いつの時代の話だよ……」
 あっさりと返ってきた肯定に、青木はため息をつき、ブレードに告げた。
「属性は“獣”、ランクはマスター。
 “ファング・スティンガー”青木啓二だ」
「そうかそうか」
 名乗った青木の言葉に、ブレードはうんうんと楽しげにうなずいた。
 そこにあるのは何のことはない――単なる愉悦。
 戦いに嗜好を求め、命の取り合いに狂喜する、それこそが彼の存在意義だった。
「それじゃあ――楽しい殺し合いケンカを始めようか!」

 

 


 

Legend16
「その名はDaG!」

 


 

 

 ブレードが告げると同時、再び両者は跳躍する。
 間合いは瞬時に零となり、お互いの獲物が相手を狙ってぶつかり合う。
 どうやらスピードにおいてはブレードが有利だが、パワーにおいては青木の方に分があるらしい。それを瞬時に悟ったか、ブレードはムリに力比べをすることなく、まるで剣道の打ち方のように手首のスナップを利かせた斬撃を繰り返す。
 どうせこちらは真剣。力場と装重甲メタル・ブレストに守られているとはいえ、ガードを抜いて当てることができれば少しはダメージになる。大技はそのダメージによるスキをついて叩き込めばいい――戦い好きを自称するだけあって、ブレードは相手のスタイルから自分にできる最適な戦法を的確に選んでいる。
 そしてそれは的を得ていた。青木も一度でも攻撃を受ければそれを皮切りに怒涛の攻撃が来ることを直感的に悟っており、うかつにガードを解けずにいる。
「青木さん!」
 防戦一方な青木を見かね、乱入しようとウォーターボウガンをかまえる鈴香だったが、
「待って!」
 それを止めたのは橋本だった。
「二人ともものすごいスピードで動き回ってるけど――戦況は完全に硬直してる。
 今ヘタに手を出せば、最悪青木さんに不利に働くかもしれない」
「けど、だからって見てるだけじゃ……!」
「とにかく今は待って! 必ず状況は動くから!」
 少なくとも1対1の戦いでは“Dリーグ”で闘い続けている彼の方が経験者だ。それに『影武』の後継者である以上、ヘタをすれば能力者戦においても上かもしれない――そんな橋本の判断を信じ、鈴香は青木へと視線を戻す。
 一方、青木は次々に叩きつけられるブレードの斬撃を受け止めつつもそのスキを探るが、立て続けに放たれるその斬撃の合間に反撃、というはどうやら難しそうだとわかっただけだった。
(スピードがダメとなると、あとはパワーだけど……)
 防御にスキが出ないよう最小限に割いた思考の中で対処法を考える。
 できることは限られているが――できないことがないワケではない。
「――やってみるか!」
 告げると同時、青木は周囲の空間へと“力”を放出、とたん――周囲に変化が起きた。
 突然、上空に鳥が――カラスが集まり始めたのだ。
「なんだ……?」
 自然に群れを成すにはあまりにも唐突で不自然すぎるカラス達の集結に、ブレードは思わず眉をひそめ――そんな彼のスキをついて脱出し、青木は叫んだ。
「敵はそいつだ!
 煮るなり焼くなり好きにしろ!」
 そう青木が告げると同時、カラス達は一斉に急降下、ブレードへと襲いかかる!
「なんだと!?
 てめぇ、何しやがった!?」
「なぁに、ただカラス達にお願いしただけだよ。お前のジャマをしてくれるようにな!」
 そう――“獣”のブレイカーである青木は動物と意志を疎通させ、時には“力”を伴った言葉“言霊”によって命令を下すこともできるのだ。
 とはいえ、所詮はただのカラス、その攻撃がブレードの力場を破れるはずなどないのだが――群れを成して襲いかかるカラス達によってブレードの視界は完全にさえぎられてしまった。しかもカラス達は“言霊”に込められた精霊力をその身に帯びていた。その大群によって周囲の気配もメチャクチャに乱されて青木の気配を探ることもできない。
 そして――
「どっ、せぇいっ!」
 ブレードの背後に回り込んだ青木が、スティンガーファングで一撃を叩き込む!
「ぐぁっ!?
 やってくれるじゃねぇか!」
「おっと、やっぱこーゆーのは気に食わないか」
 だがすぐに反撃してきたブレードの斬撃をかわし、青木は後方に跳躍して間合いを離すとカラス達を下がらせる。
「なら――お前好みの直接攻撃いくぜ!」
 言うと同時、青木の両腕の獣天牙が“力”を発現し――青木の身体に力がみなぎる。
 そして、青木は重心を落とし――次の瞬間、その姿が消えた。
「何……!?」
 突然の青木の変化にブレードが疑問の声を上げ――次の瞬間、青木は地面を踏みしめてブレーキをかけつつ、“ブレードの背後へと”回り込んでいた。
「――――――っ!?」
 何度も背後から攻撃を受けてはいられない――とっさに反応してブレードは青木の攻撃をかわし、反撃とばかりに斬天刀を振るう。
 大振りの打撃をかわされた勢いで青木は身体を大きくひねっており、自分の斬撃は完全に彼の視界の外から迫っている。直撃は避けられない――はずだった。
 だが、青木はそれをかわした。しかも紙一重で。
 それは偶然ではなく、意図的なものとわかるムダのない動きだった――自分の斬撃とその軌道を正確に認識していた証拠だ。
「なんだと――!?」
 うめき、ブレードはとっさにガードをかまえ――叩きつけられた青木の打撃の威力にたまらず後ずさる。
「お前……さっきまで手ェ抜いてやがったってのか?」
 さっきまでのそれとはすべてが違う青木の動き――違和感をぬぐえず、尋ねるブレードだったが、
「別に。手なら抜いてないさ」
 青木はあっさりとそう答えた。
 だが、確かに青木は手を抜いてはいなかった。ただブレードに告げないだけで――自分の『能力』を使っただけだ。
 “言霊”と並ぶ“獣”のブレイカーの戦力のひとつ――獣天牙の能力“百獣憑依”である。身体の任意の場所に任意の動物の能力を憑依させることができるのだ。
 たとえば今の攻防では、最初のダッシュで両足にチーターの脚力を、ブレードの斬撃を感知した時は聴覚にコウモリの超音波レーダーを憑依させている。
 ブレードに告げないのは、わざわざこちらの手の内を明かすこともないという至極単純で当然な理由からである。
「さぁて、まだまだいくぜ!」
 叫んで、青木は先手を打って地を蹴り、ブレードの懐へと飛び込み――

 ――百獣憑依・灰色熊グリズリーin両腕アーム

 そのまま叩きつけた渾身の一撃を、ブレードはかろうじてライアットセイバーで受け止めるが、そのパワーの前に刃は粉々に砕け散り、ブレードもまた大きく弾き飛ばされる。
「くそっ、やってくれるじゃねぇか!」
 うめいて、ブレードは青木から距離をとり、
「どうやら……原理はわからねぇがてめぇかてめぇの精霊器の持つ能力の結果らしいな。そのパワーアップは」
「とりあえず――『Yes』とだけ答えとく」
 そう答えると、青木はブレードに対する警戒を解かぬまま尋ねる。
「で、だ……そっちの質問に答えてやったからには、そっちもこっちの質問に答えてもらうぞ。
 お前達が何者か――どうしてオレ達を狙うのか」
「別に狙ってるワケじゃねぇさ。
 てめぇらが強い。だから戦いを挑んだ、それだけさ」
 あっさりとブレードはそう答える。
「オレ達は戦いを好むブレイカーで寄り集まってな、『DaG』っていうグループを作ってんだ。
 ちなみに『DaG』ってのは『Destroy and Genocide』の略――別に破壊も殺戮も好みじゃないが、物騒な名前の方が後々伯がつくからな」
 そう言うと、ブレードは斬天刀をかまえ、
「さぁて、話はそれで終わりか?
 だったら、仕切り直しといこうか!」
「イヤだ、って言っても聞く気はなし、だろうな……」
「当然だ」
 青木の言葉に即答すると、ブレードは静かに息をつき、
「とはいえ、てめぇが自分の能力を使ってくれたのに、こっちが手の内を明かさないままってのもフェアじゃねぇ。
 っつーワケで――使ってやるよ。
 “剣”のブレイカー、ブレード様の愛刀“斬天刀”の能力をな!」
 言うと同時、ブレードは斬天刀を大きく振りかぶり、振り下ろし――そこから“力”で形成された刃を放つ。
「へっ、そんな程度、ジュンイチの爆天剣だってできるぜ!」
 対し、青木は余裕の表情で跳躍、“力”の刃をかわし――たつもりだった。
 だが、斬撃はその一撃だけではなかった。次いで新たな“力”の刃が――それもほぼ同時に多数が襲いかかり、青木をとらえ、吹き飛ばす!
「ぐぁ………………っ!」
 ビルに叩きつけられ、思わずうめく――が、すぐに青木は体勢を立て直す。
「なんてヤツだ……!
 あんな短時間に、あれだけ斬撃を放ってたのかよ……」
「いや、違うぜ」
 青木の言葉に、ブレードはあっさりと答えた。
「この斬天刀はオレの“力”を原料にして、オレの斬撃をいくつものエネルギー刃として『複製』する。速度、重さ、斬れ味――すべてを完璧に、な。
 ちなみに流し込む“力”を増やしても刃はデカくなったりせず、代わりに数が増える。
 その“斬撃の複製”こそが、オレの斬天刀の能力だ。“剣”のブレイカーとしちゃ、非常に“らしい”能力だろう?」
「確かに、敵に回すとこの上なくうっとうしい能力だな」
 ブレードの言葉に、青木は答えて再びかまえを取る。
「けどいいのか? あっさりそこまでバラしちまって。
 こっちはまだ、能力を見せただけで概要までは教えてないぜ」
「かまわねぇさ。どうせその内バレるんだ。それが早いか遅いか、自分でバラすか見抜かれるか、それだけの違いさ」
 尋ねる青木に答え、ブレードもまた斬天刀をかまえる。
「余裕か?」
「違うな。
 ハードルを上げてるのさ。楽しむためにな」
「そいつを余裕っつーんだよ」
「なるほど。
 日本語は難しいな」
「それだけ流暢に話しておいて何をほざくか」
 互いに告げ――再び地を蹴った両者の一撃が交錯。が――
「ぐぁ………………っ!」
 打ち負けたのは青木の方だった。相殺しきれなかった多数のエネルギー刃を受け、弾き飛ばされる。
「これで――終わりだ!」
 そんな青木にとどめを刺すべく、ブレードは刃を振り上げ――
「――――――っ!?」
 間一髪で気づいた。とっさに狙いを変え、横から迫った“津波を”無数のエネルギー刃で斬り裂き、その中から放たれた精霊力の矢も残さず叩き落す。
「……ノーマル・ランクか……」
「だからどうだというんですか?」
 つぶやくブレードに答え、鈴香は改めてウォーターボウガンの狙いを彼へと向ける。
 そのとなりでは橋本も同様に“金剛”と“白銀”をかまえ、ブレードに狙いを定めている。
 が――ブレードの意識はあくまで鈴香に向いていた。ブレイカーでもない、ただの一般人でしかない橋本よりもブレイカーとして覚醒している鈴香の方により興味を抱いたようだ。
「やめとけ。
 ノーマルとマスターとじゃ基本能力が違いすぎる――覚醒したての素人マスター相手ならまだしも、もうとっくに何戦もこなしてるオレが相手じゃ、てめぇに勝ち目はねぇ。死ぬだけ損だぞ」
「それでも、退くワケにはいきません」
 告げるブレードに、鈴香はキッパリと言い放つ。
「青木さんは私達の仲間です――かなわないからといって、彼だけに戦いを押し付けるつもりはありません。
 それに、実力で負けてるくらい何ですか。
 私達は今まで、自分達よりももっと強い瘴魔達を相手に戦ってきたんですから」
「……なるほど。
 それなりに覚悟はある、か……」
 鈴香の言葉に、ブレードはそうつぶやくと息をつき、
「なら、こっちも手を抜くのは失礼ってもんだな」
 言って、取り出したのは――茶色、いや、銅色に鈍い輝きを放つ結晶体だった。
「あれは――!?」
 それを見た鈴香は思わず驚愕の声を上げる――だがそれもムリはない。
 彼女はつい最近、それと極めて類似したものを見たばかりだったからだ。
(ブレイカーが持つ、特殊結晶体――
 もしかして、アレは影山さんがシンを退ける時に使ったものと同種のもの――?)
 だとすると、彼がそれを取り出した意味は――
「ロッド!」
「はいはいっと!」
 だが、思考が行きつくよりも早くブレードの方がその答えを提示しようとしていた。彼の言葉に従い、彼のプラネルであるロッドがその足元へと駆け寄ってくる。
 そして――ブレードは告げた。
「出番だ。出てきやがれ。
 螂刃皇――シュレッド・オブ・マンティス!」
 次の瞬間――鈴香と青木、そして橋本は自分達の目を疑った。
 突然、ロッドの姿が変貌を始めたのだ。
 全身が不自然に盛り上がり、渦巻くエネルギーの中でゆっくりとその大きさを増していく。
 筋肉の盛り上がった四肢にはエネルギーの渦が巻きつき、物質化して外骨格となる。
 変化が終わったその時――彼らの前には巨大なカマキリ型の異形がその姿を現していた。

 だが、驚愕する一同とは裏腹に、ブレードは余裕の笑みを浮かべ、異形へと命じた。
「さぁ……獲物はアイツらだ。
 存分に暴れていいぜ」
《言われなくても、そのつもりだっつーの!》
 そうブレードに答えた異形の声は、先ほどから幾度となくブレードに答えていた、あの姿なき声と同じである。つまり、先の声はコイツのものだったということだ。
 ともかく、異形――シュレッド・オブ・マンティスは青木達に向けて両腕のカマを振り上げ――振り下ろすと同時、そこから巨大なエネルギー刃を解き放つ!
「かわせ!」
 背後の青木の声に従うまでもなく、鈴香と橋本は左右に別れて跳び、その間を駆け抜けたエネルギー刃はビルに巨大な爪あとを穿つ。
「な、なんつーパワーだ……!
 ブレードの斬撃とは、威力が段違いじゃねぇか……!」
「失礼なヤツだな。
 オレだって斬天刀の能力に『斬撃の強化』、なんて項目があればあれぐらいのヤツ撃ってやるさ」
 ビルに刻まれた傷跡を前に、うめく青木の言葉にブレードは場違いにも関わらずムッとして不満をもらす。
 だが――青木が聞きとがめたのはむしろ、その後に続いた言葉だった。
「それに――そいつぁシュレッド・オブ・マンティスの能力じゃない」
「何――――――?」
 思わず聞き返そうとする青木だったが――それよりも早く、ブレードが青木へと斬りかかる!
 とっさに受け止めようとする青木だったが、次の瞬間、斬天刀の姿を見失い――
「――――――っ!?」
 気がついた時には、すでに刃は振り抜かれていた。青木の力場を深々と斬り裂き、彼の装重甲メタル・ブレストの表面に大きな傷を刻んでいる。
 幸いにも肉体には届いていないが、もし後一歩分でも接近を許していたら――
「何だ、今のは……!?」
 うめきながらも間合いを取り、青木は敵の能力の正体を探る。
(あの瞬間、確かに捉えていた刃が消えた……
 けど、今の斬撃……)
 胸中でうめき、青木は装重甲メタル・ブレストに刻まれ、彼の精霊力によって自己修復を始めている胸部の破損に視線を向けた。
 その斬撃の跡は間違いなく、先ほどのブレードの斬撃――見失う直前までのその軌跡の延長上を駆け抜けていた。
(斬撃は間違いなく最初に振ったその軌道を駆け抜けた……なのに見失った……
 刃の姿を消す力か? だけど、それにしては――)
 違和感が消えない。あの攻防では、未だ自分が気づいていない何かがズレていた、そんな気がする。
(何か、決定的にタイミングがズレていた……そんな感じ……)
 と、ふとある可能性が脳裏をよぎった。
“タイミングをズラす”!?)
 そうだ。あの斬撃、確実に防御が間に合うはずのタイミングだった。だが実際には防御が完成する前に斬られた。
 フェイントだろうか――いや、違う。今までの攻防でだいたいブレードの傾向は読めていたが、スピード任せの直接攻撃系だ。戦闘そのものを純粋に楽しんでいることから考えても、フェイントなんてまどろっこしいマネを好みそうにない。
 他に、タイミングを速める方向にズラす方法があるとすれば――
「『斬撃の加速』、か……」
《へぇ!》
 ポツリ、とつぶやいた青木の言葉に感嘆の声を上げたのはシュレッド・オブ・マンティス本人(?)だった。
《やっぱ当たりだぜ、コイツ!
 オレ様の能力、初見で見抜きやがった!》
「こっちも隠す気ナシかよ……」
 あっさりとこちらの仮説が正解であることを認めたシュレッド・オブ・マンティスの言葉に、青木は思わず毒気を抜かれてうめく。
《てめぇの想像の通りさ。
 オレの能力はブレードの放つ斬撃を加速させる力だ――あとはその加速に耐えるための身体補強だな。
 オレ様とブレードの精霊力の残量にもよるが、その気になれば音速並に加速させられる》
「さっきから自分達の能力をベラベラと……主従そろってなめやがって……
 ――けど!」
 うめいて、青木は地を蹴り、ブレード――ではなくシュレッド・オブ・マンティスへと突っ込む。
《へぇ、オレに来るかよ!》
「自分で言ったよな、『“ブレードの斬撃を”加速する』って!
 ってことは――自分の斬撃は加速できない!」
 迎撃するシュレッド・オブ・マンティスの鎌をかわすと背後に回り込み、一撃を繰り出すが相手もこれを跳躍してかわす。
「そして――お前を先に倒せば、ブレードの斬撃の加速も使えなくなる!
 となれば、先に狙うのはお前だろうが!」
《気づいたか、やるな!》
 青木に自分の能力の弱点を見抜かれても、シュレッド・オブ・マンティスは動じない――むしろ嬉々として青木の獣天牙を両手の鎌で受け止める。
「おいおい、オレもいるってことを忘れんなよ!」
 そんな青木へと、ブレードは斬天刀をかまえ――
「させません!」
「オレ達だっているんだ!」
 そうはさせまいと鈴香と橋本がブレードへ攻撃をしかける!
 一方、戦闘力のないプラネル達は、両者の戦いをただ見守ることしかできない。
「くっ、まさかブレイカー同士の戦闘になるなんて……!」
 こんな事態は想定していなかった――どうすることもできない今の状況を前に、ガルダーは悔しげにうめき――
「――あぁぁぁぁぁっ!」
 突然、ファントムが声を上げた。
「ど、どうしたんですか!?」
「悪い、ココ見てて!」
 驚き、尋ねるガルダーに答えることもなく、ファントムは一方的にそう告げてその場から駆け出す。
(思い出した!
 “影”のにーちゃんから渡せって言われてたヤツ!)
 そして、ファントムは青木達の戦いの場を離れると路地裏から脱出し、
「オープン、ザ、ゲート!」
 すぐさまゲートを開いてセイントユニコーンを召還。そのコックピットにもぐり込んで目的の品を探す。
 そして――
「見つけた!」

 だが、青木達の戦いがこれほどまでに局面が動いても、ライカやジーナ、ファイが参戦することはできずにいた。
 なぜなら――彼女達もまた襲撃を受けていたからだ。

「く………………っ!」
 まずは後方支援役のライカが狙われた――叩きつけられた巨大な鎚をかわし、ライカは間合いを取って着地する。
 が――相手もそれを見逃してはくれなかった。続けて放たれた氷の刃を再度の跳躍で回避する。
「ライカさん!」
「ライカお姉ちゃん!」
 そんな彼女を援護すべく、ジーナとファイが地を蹴るが、そんな彼女達にも氷の刃が飛翔する。
「くっ、なんなのよ、コイツら!?」
 それでもなんとかジーナ達の元へと後退し、ライカはうめいて相手を見据えた。
 装重甲メタル・ブレストを身にまとった二人の少女を。
 だが、相手の方はそんなことは知ったことではないらしい。嬉々として言葉を交わす。
「やっぱり、この子達がこの国で戦ってるブレイカー達みたいね。動きに慣れがしみ込んでるわ。
 どうする? 椿」
「そんなの決まってるじゃない――ブッ倒すだけよ。
 マリアこそ、遅れたら承知しないわよ」
 宝玉型の精霊器を手の上でもてあそびながら、椿と呼ばれたポニーテールの少女は巨大なハンマー型の精霊器を持つショートカットの少女、マリアへと答える。
 そして――二人は同時に跳躍、ジーナ達へと襲いかかる!

《オラよ!》
「くらいな!」
 咆哮し、シュレッド・オブ・マンティスとブレードが放ったエネルギー刃の雨を、青木達は散開して回避し、
「今度こそ!」
 鈴香、橋本の援護を受けながら青木が突っ込むが、シュレッド・オブ・マンティスの展開した強力な力場の前にその打撃が阻まれてしまう。
「くそっ、なんつー力場だ……!
 こうなったら、スティンガーインパクトで――」
 うめいて、エナジーブリッドを取り出そうとする青木だったが、
「大技か!? いいぜいいぜ、どんどん使え!
 けどな――使いどころは考えろよ!」
 そうはさせまいとブレードはエネルギー刃を乱射し、青木に反撃のスキを与えない。使うのは勝手だがこの攻撃をかい潜ってからにしろ、とでも言うつもりなのだろう。
「あー、もうっ! どうしろっつーんだよ!?」
 エネルギー刃をスティンガーファングで防御し、青木が苛立たしげに叫ぶと、
「なら――オレがスキを作ってやる!」
 言って、橋本が青木の脇を駆け抜け、ブレードへと迫る!
「へっ、ブレイカーでもないのにノコノコと!」
 対して、ブレードは橋本を完全にあなどっていた。余裕でエネルギー刃を放つが、橋本も退魔集団『影武』のトップエースだ。油断のもとに放たれたその斬撃をあっさりとかわし、懐へと飛び込む。
「な――――――っ!?」
 驚き、ブレードの動きが止まり――そのスキを橋本は見逃さなかった。霊力を帯びた“白銀”と“金剛”を力場の中に突き込み、内側まで銃口が届くなり霊力全開の一撃を撃ち込む!
「ぐぁ………………っ!」
 まともに攻撃を受け、吹き飛ばされたブレードが背後のビルに叩きつけられ、そんな彼の元にシュレッド・オブ・マンティスが降り立つ。
《油断したな、ブレード》
「やかましい。
 くそっ、ブレイカーじゃなくても、戦い方を知ってるヤツはいるってことか……」
 答えかけ――ブレードは気づいた。
 今自身の装重甲メタル・ブレストに叩きつけられた攻撃――霊力による攻撃だ。
 だが、ただ霊力で攻撃を受けたにしては何かが違う。何か異物が混じっているような、純粋な霊力とは明らかに違うとわかる違和感。これは――
「……そうか。
 アイツ……“そういうことだったのか”
「………………?
 何ひとりで納得してブツブツ言ってんだよ?
 言いたいことがあるんならハッキリ言えよ」
「その口ぶりだと、自分じゃ気づいてないみたいだな……」
 橋本に答え、ブレードは立ち上がり、
「ちょうどいいから教えてやる。
 お前は――」
「ケイジ!」
 だが、ブレードの言葉は横からかけられた声にさえぎられた。
 ファントムが戻ってきたのだ。
「ファントム――?」
「これ使って!」
 訝る青木にかまわず、ファントムは彼にそれを投げつけた。
 ブレードが持っていたものに似た――ただし色が違い、こちらは空色――結晶体である。
「ケイジと同じ“獣”属性の精霊獣が封印されてる!
 そいつと契約して戦わないと、アイツの精霊獣とまともに戦えないよ!」
「契約……?」
「へっ、そんなすぐに契約なんかできるかっつーの!
 だいたい、そんなスキも与えないしな!」
 つぶやくように聞き返す青木に答えるブレードだったが――
「――――――っ!?」
 直前で気づき、上空から迫ったそれを受け止めた。
 急降下してきた、何者かの振り下ろした棍である。
「何者だ、てめぇっ!」
 せっかくの戦いに乱入された横槍に、ブレードはうめいて相手を弾き飛ばし――着地した彼は静かにブレードと相対した。
「何者か、か……せっかくだから答えてやろう。
 そいつらとは別勢力のブレイカーだ」
 そして、シャドープリンス――いや、影山涼は影天棍をかまえた。
「り、涼……?」
 呆然とつぶやく橋本を背に、涼は青木に告げる。
「オレもケガ人だ――長くは押さえておけない。
 契約は手短に頼む」
「……了解だ」
 やはりシンから受けたダメージは回復していない――涼の言葉に青木は静かに答え、結晶体をかまえる。
「させねぇっつってんだろ!」
《オレ達を、無視すんじゃねぇ!》
 対して、そうはさせまいと襲いかかるブレードとシュレッド・オブ・マンティスだったが、
「それはこちらのセリフだ」
 告げ、涼がその前に立ちふさがる。その足元には彼のプラネル、メギドの姿もある。
 そして、彼もまた自分の結晶体を取り出し、告げた。
「あとしばしの間、付き合ってもらうぞ。
 出て来い。影鎌帝――シャドー・オブ・デスサイズ!」
 瞬間、結晶体から放たれた“影”がメギドを包み込み――その身体が変化した。
 子供の竜から――漆黒の死神へと。
《……あれが相手か? 主よ》
「そうだ。
 オレに余裕はない。貴様が主力だ」
《心得た》
 涼に答え、死神――シャドー・オブ・デスサイズは手にした鎌をかまえる。
「へぇ、てめぇは精霊獣を飼ってるのかよ?」
「『飼ってる』というのは適切ではないな」
 ブレードに答え、涼は影天棍をかまえる。
「ゆくぞ、“剣”のブレイカーよ。
 大義成す影龍――“シャドー・ヴォルテック”、参る!」


Next "Brave Elements BREAKER"――

橋本 「涼のヤツ……何考えてるんだよ!
 あんな身体で乱入して、まともに戦えるワケないじゃんか!
 ――って、言ってる間にオレ達もまとめて大ピンチ!
 青木さん、早く精霊獣との契約を!
 次回、勇者精霊伝ブレイカー、
 Legend17『激突する獣王』
 そして、伝説は紡がれる――」


 

(初版:2006/01/01)