「オォォォォォッ!」
 咆哮と同時、叩きつけられた一撃が大地を砕く。
 舞い上がる土煙の中、青木は大地に打ち込まれた獣天牙をゆっくりと引き抜き――
「い、いきなり何すんスか!」
「必殺の一撃」
 なんとかそれをかわした橋本の上げた抗議の声に、青木はあっさりとそう答えた。
 彼らがいるのはブレイカーベースのある地下空洞。なぜそんな場所でこんなことをしているのかというと――
「せっかくお前の覚醒のために一肌脱いでるんじゃないか。
 ありがたくくらっとけ」
「くらえるかぁっ!
 そんなのくらったら死、確定じゃないっスか!」
「うん」
「あっさりうなずかんでくださいっ!」
 即答する青木に、橋本は全力で言い返す。
 そう――彼らは状況からジュンイチが現在も無事であるとのアタリをつけ彼の捜索を一度中断。戦力を整えるため、橋本の覚醒を優先することにしたのだ。
 重傷を負ったまますがたを消している涼のことも気にはなったが、そちらはジーナがクロノスと協力し、柾木家が誇る大情報網を駆使して捜索にあたっている。
「とは言うがなぁ……」
 ともかく、橋本の抗議に、青木は困ったように頬をかき、
「実際、殺すつもりで撃ってるし」
「………………は?」
 その言葉に、橋本は思わず間の抜けた声を上げていた。
「オレとジュンイチの覚醒の時を思い出してさ。
 あの時……オレもアイツも結局それぞれの相手にかばわれたけど……状況はまさに絶体絶命の、あと数秒で死ぬ、って状況だった。
 だから、お前も死にかければとりあえず覚醒するかなー? と」
「『とりあえず』で致死攻撃撃ってたんですかアンタはっ!」
 全力で言い返す橋本だが、
「とにかく今思いつく手はそれしかない。
 だからやるしかないワケで……」
 青木はかまわなかった。そう言いながら獣天牙をかまえ、
「とりあえず――死ぬな」
 言うと同時、装重甲メタル・ブレストを着装した。

 

 


 

Legend18
「一閃・光刃合身!」

 


 

 

「攻めないのか?」
 アジトに姿を現すなり、シンに向けられた第一声がそれだった。
「……バベルか」
「あぁ」
 振り向くシンに答え、彼は姿を現した。
 シンよりも二回り以上も大柄な巨漢だ。
 森斬のバベル――“大地”の属性を持つ瘴魔神将である。情報を集め、冷静沈着に事を運ぶシンに対し力押しを好む傾向があるが、正反対にもかかわらずなぜかシンとはウマが合う相手だった。
「また、毎度おなじみの『情報収集』か?」
「戦いに必要なのは情報だ。
 相手のことを知ってこそ、貴様の好きな『力押し』ができる」
 バベルに答えると、シンはニヤリと笑みを浮かべ、
「とはいえ……今回に限っては貴様の予想はハズレだぞ、バベル」
「何?」
 訝るバベルに、シンは告げた。
「もう……とうに動いている」

「〜〜♪ 〜♪〜〜♪」
「……上機嫌ね」
 とりあえずの寝床にしている廃倉庫で、鼻唄を歌っていたブレードに椿が声をかけた。
 対して、ブレードの回答はシンプルだった。
「強いヤツがいたんだ。楽しいだろう?」
 『強いヤツ』――もちろん青木達のことだ。前回はあくまで様子見のつもりでいたが、予想以上の実力についつい楽しんでしまった。わざわざ日本までやってきた甲斐は十分にあったということだ。
 だが、その青木達と戦う機会を逃した椿達は不満げだ。口を尖らせてブレードに告げる。
「ったく、ひとりだけ楽しんで……
 あたし達ともやらせてよ」
「やりたきゃ自分で探して襲えばいいだろ?
 獲物は横取られる前に横取れ――オレ達の中の、唯一絶対のルールだろう?」
 マリアに答えると、ブレードは立ち上がり、
「散歩してくる」
「ついでに暴れてくるつもりでしょ?」
「正解」
「ロッドはどうするの?」
「まだ寝てんだろ。ほっとけ。
 連れてくと『アレ食わせろコレ食わせろ』ってうるせぇからな」
 あっさりとマリアや椿に答えると、ブレードはアジトを後にした。

 すでに東京近辺の地理は頭の中に叩き込んである――ブレードは手に入れたばかりのバイクで臨海副都心を訪れていた。
 目指したのはその中でも開発の終わっていない工事地区。なぜそんな場所にやってきたのかというと――
《……ここらでいいんじゃねぇか?》
「だな」
 工事も休みで人気のないエリアを選ぶと、ブレードはマンティスに答えてバイクを停め、工事現場の中央へと歩を進める。
「さて……もういいだろう?
 出てこいよ、遊んでやるから」
 告げるブレードの言葉と同時――彼の周囲の大地が砕け散った。

「なるほど……」
 その様子を、バベルはシンと共に離れたビルの屋上から眺めていた。
「ブレイカーズよりもヤツの方を優先したワケか」
「ヤツには一度、作戦のジャマをされたからな」
 バベルの言葉に、シンはその時のことを思い出しながら答える。
 シンが言っているのは先日の青木とブレードとの初めての対戦の時のことだ。
 あの時、シンは橋本の元にラヴァモスを差し向けることで、彼を救わんと涼が現れることを期待していた――しかし、乱入してきたブレードによって作戦は瓦解。結果的に涼は現れたものの、彼らが好き勝手に暴れ回ってくれたおかげでみすみす取り逃がすことになってしまった。
「今後の憂いは今のうちに断つ。
 ヤツには――ここで沈んでもらう」

「……不意打ちにしちゃやり口が粗いな。
 あいさつ代わりだっつーならまだわかるが、これで当てるつもりだったんなら、腹抱えて笑ってやるところだぞ」
 勢いよく跳ね上がった岩盤の上に着地し、ブレードは手にしたそれを肩に担いだ。
 漆黒の鞘に収められた、一振りの日本刀である。
 対して、襲撃の主は立ち込める土煙の中からその姿を現した。
 全身を覆う外骨格、頭部――口に目立つ、1対の巨大なハサミ……
「……媒介はアリジゴクか」
「見たまんまだがな」
 つぶやくブレードにそう答え、相手は――アリジゴク種瘴魔獣アンタヘルは静かに身構える。
 向こうはやる気マンマン――ブレードはため息をついて日本刀を持ち直すと鞘に左手をかけ、
「……ま、やるか」
 告げると同時、抜き放った刃が姿を消した。
 瞬時にして粒子となって霧散したそれが再び形となった時――刀は姿を変えていた。
 人の身の丈ほどもある、元の日本刀としての意匠を残した巨大な刀――ブレードの精霊器“斬天刀”である。
「『いい』と言うまで手は出すなよ、マンティス」
《おぅともよ!》
 相棒の返事に笑顔でうなずき――ブレードは地を蹴った。

「……始まったみたいね」
 アジトの屋根の上でポカポカと日向ぼっこを楽しみながら、椿はポツリとつぶやいた。
 先ほどからずっと、ブレードのことを追いかけている“力”の存在に気づいていた――それがついに、ブレードと激突したのだ。
「……ま、ブレードのことだから心配いらないけど」
 しかし、椿は彼の身を案じるつもりなどさらさらなかった。
 ブレードが勝つに決まっているのだから。

「ぅおぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」
 豪快な掛け声と共に、ブレードの振り下ろした斬天刀がアンタヘルへと迫る。
 だが――届かなかった。突然、何かに押し戻されるかのように刃が止められたのだ。
 力場で防いだにしては手応えに弾力がありすぎた。別の要因だと考え、ブレードは一旦後退。距離を取りエネルギー刃を放つ。
 しかし、やはりアンタヘルには届かない。突然途中で軌道を変え、エネルギー刃はアンタヘルをかわしてあさっての方向へと飛び去っていく。
「へぇ……おもしろい防壁持ってるじゃねぇか」
「まぁな」
 しかし、ブレードは動じない。答えるアンタヘルに対し、むしろ嬉々として斬天刀をかまえ直し、
「どんな仕組みか、どう破るか……
 楽しくなってきやがったぜ、まったくな!」
 叫ぶと同時――再びエネルギー刃を放つ!

「ムダなことを……」
 アンタヘルに対して攻撃を繰り返すブレードの様子を見ながら、シンは静かにつぶやいた。
「精霊力に対し強力な斥力を発生させる――特殊効果を持つ力場を発生させるアンタヘルは、精霊力を伴って放たれるあらゆる攻撃を受け流すことができる。
 貴様がどれだけあがこうが――攻撃は届かない」
 シンは確信していた。自分の放った刺客の勝利を。

 その確信が、すぐに覆るとも知らずに。

 再び刃が押し戻され、後退させられる――
 何度目かの激突の後、ブレードは距離をとって着地した。
「やれやれ、厄介な力場だな……」
 少なくとも、敵の防御が力場であることまではわかる――だが、弾力すら感じる不可思議な手応えの正体は未だわからない。
「さて、と、どうするか……」
(あの力場をなんとかしないことにはこっちの攻撃は届かない。
 となりゃまずはあの力場をどうにかするのが先決なんだが……)
 次の手を探るブレードだが――先にアンタヘルが動いた。突然土煙を巻き起こし、地中へと姿を消す。
 そして――
(――――――来た!)
 気づいてブレードが跳躍した、次の瞬間、彼のいた場を粉砕し、アンタヘルが飛び出してくる。
「さすがに、てめぇも焦れたか!」
 対し、空中から光刃を放つブレードだが、やはりアンタヘルの力場に受け流されてしまう。
 だが――それは単なる目くらましにすぎなかった。光刃がアンタヘルの視界を奪っているそのスキに、重力に従い落下したブレードは拳を繰り出し――
「ぐわぁっ!?」
 アンタヘルの甲羅を叩いていた。
「――――――っ!?」
(止まらなかった――?)
 予定では例の力場の弾力を利用し、跳ね返されて間合いを取るつもりだった――予想外の展開に、ブレードは脳天に一撃をもらい、よろめくアンタヘルから距離をとる。
(どういうことだ……?
 斬天刀は止められて、ただの拳は止められない――?)
 眉をひそめ、ブレードは推理を巡らせる。
(止める価値もない攻撃だった……ワケないよな。しっかり効いてるし)
 当のアンタヘルはまだ動けずにいる。脳震盪でも起こしたのだろうか。
(となると別の要因か……
 斬天刀にあって、ただの拳にないもの……)
 すぐに思い至った。
「……そういうことか」
 精霊力だ――アンタヘルの力場のカラクリを見抜くと、ブレードはそれに対抗すべく――再構成リメイクを解除し、斬天刀を元の刀へと戻す。
「精霊力の攻撃が弾かれるっつーなら――精霊力を使わずにブッタ斬ればいいってことだよな?」
「ふ、フンッ! バカが!
 そんなただの刀で、このオレの生体装甲が斬れるとでも思ってるのか!?」
 ブレードの言葉に言い返し、ようやく復活したアンタヘルが襲いかかるが――
「そういうセリフは――受けてみてからほざきやがれ!」
 対して、ブレードは刃を振るい――アンタヘルの右腕を斬り落としていた。
「な…………っ!?」
「残念だな。オレの“黒鬼”は特別製なんだ」
 驚くアンタヘルに告げ――ブレードは続けて振るった一閃でアンタヘルの首を斬り落としていた。

 本人も言っていた通り、ブレードの持つ刀“黒鬼”はただの刀ではない――特殊な合金で作られたその刃は精霊力を始めとするあらゆる生体エネルギーをよく通す性質を持ち、また“力”に頼らずとも通常の刀をはるかに上回る強度を持つ。
 その強度をもってすれば、たとえ外骨格生物を媒介にした瘴魔獣であろうと問題ではない。
「ま、こっちの戦力を見極める前にトドメを狙ったお前がバカってことで」
 倒れるアンタヘルにブレードはそう言い放ち――首から上を失ったアンタヘルは大爆発を巻き起こし、消滅する。
 だが――ブレードはブレイカーブレスで通信回線を開き、告げた。
「あー、ロッド」
〈何だよ?〉
 今さっきまで眠っていたのだろう、未だ眠たそうなロッドの問いに、ブレードは答えた。
「ブレイカービースト、よろしく」
 その言葉と同時――アンタヘルは巨大瘴魔獣となって復活した。

「まさか、アンタヘルがあっさりと倒されるとはな……」
 視線の先の戦いの意外な展開に、シンは少々呆気に取られてつぶやいた。
「この分では、巨大化したところで期待はできそうにも……
 仕方あるまい。オレも出るか」
 ため息まじりにつぶやき――シンは背後の空間を歪ませた。

 振り下ろされた拳が標的を外し、大地を粉々に粉砕する――
 巨大化したアンタヘルの攻撃をかわし、ブレードはその場に着地した。
「おー、やるやる♪」
 言って、斬天刀をかまえるブレードは余裕そのものだ。笑顔でアンタヘルの拳を、踏みつけをかわし続ける。
「さて、そろそろ、か……」
 何度目かの攻撃をかわし、ブレードはつぶやき――
 ガゴォッ!
 轟音と共に、アンタヘルの姿がその場から消えた。
 突然飛来した何かがアンタヘルへと体当たりを敢行、思い切り弾き飛ばしたのだ。
 そして、ブレードの前に体当たりの主が着地した。
 真っ青に染め抜かれた、ライオン型のブレイカービーストである。
 それこそが、ブレードを見出したブレイカービースト。その名も――
「いくぜ……セイバーライガー!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 セイバー、ブレイカー!」
 ブレードが叫び、セイバーライガーがブレードを飲み込み、そのボディが変形を始める。
 両後ろ足が折りたたまれ、後半身が後方へとスライド、左右に分かれてつま先とニーガードが起き上がり、ロボットの両足となる。
 一方、両前足はまっすぐに正され、つま先がたたまれ拳が飛び出し、ロボットの両腕になる。
 続いてライオンの頭部が分離し、右肩に合体、左肩のアーマーも起き上がる。
 ロボットの頭部が飛び出し、人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
 最後にアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「セイバー、ユナイト!」
 ブレードが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイが輝き、ブレードが咆哮する。
「光刃合身、セイバー、ブレイカァァァァァッ!」

 合身を完了し、ブレードは着地と同時にかざした右手に精霊力を集中、セイバーブレイカーのサイズに合わせた斬天刀を作り出す。
「さぁ……第2ラウンドの開始といこうじゃないか!」
 斬天刀の切っ先をアンタヘルに向け、ブレードが告げ――
「――――――っ!」
 気づくと同時に跳躍、背後からの斬撃を回避する。
「まだいたか!」
 セリフとは裏腹にその言葉に焦りはない――言いながら間合いを取ると、ブレードは新たな襲撃者の姿を確認する。
 彼にとっては初見となる――シンの駆る瘴魔機兵デスサイザーだ。
「へぇ……なかなかにおもしろそうなヤツが出てきたな」
「ずいぶんと余裕だな」
 ブレードに答えると、シンはデスサイザーの持つ巨大な大鎌をかまえる。
 前方にはデスサイザー、後方にはアンタヘル――ブレードにしてみれば完全に挟撃の体勢だ。
 だが――
「……フンッ」
 ブレードの余裕が消えることはなかった。悠々と斬天刀をかまえ、告げた。
“二人でいいのか?”
「………………何?」
「たった二人で足りるのか、って聞いてるんだ」
 シンに答え、ブレードは重心を落とし、
「助っ人がまだいるなら、今のうちに呼んでおけ。
 でなきゃ――」
 次の瞬間、ブレードの姿はそこにはなかった。
 神速とも言うべき踏み込みの速度で、シンの懐に飛び込んでいたのだ。
「な――――――っ!?」
 驚愕するシン――対して、ブレードは先程までの明るさなど微塵も感じさせない、鋭い声で告げた。
「死ぬぞ」
 次の瞬間――刃が閃いた。

「――――――ん?」
 感じ取れる“力”によって戦いの推移を見守っていた(見物していた、とも言う)椿は、ふと異変に気づいた。
 といっても、ブレード達の戦っている戦場ではない。もっと西だ。
 それも、1kmや2kmなどという程度の距離の開きではない。この距離だと現場はおそらく――
「………………大阪?」

「ぐ………………っ!」
 すんでのところで刃を受け止めた。うめきつつ間合いを取り、シンはブレードへと視線を戻す。
 そして――告げる。
「……精霊獣か」
《大正解っ!》
 シンに答え、マンティスはブレードの――セイバーブレイカーの背後にその巨体を現した。今の加速はマンティスの能力『加速』によるものだったのだ。
「なるほど……
 ブレイカーロボからの直接精霊力の供給を受けているワケか」
《そういうことだ。
 おかげで、オレ達ゃ主が合身している間は媒介なしで顕現できるって寸法よ!》
 シンに答え、マンティスは両手の鎌をかまえ、
《ブレード! こいつはオレが抑えてやる!
 さっさと後ろのヤツを片づけて、一緒にこいつと楽しもうや!》
「おぅ」
 マンティスの言葉にあっさりとうなずくと、ブレードはクルリとシンに背を向け、背後でこちらの様子をうかがっていたアンタヘルへと向き直る。
「させるか!」
 そうはさせまいと地を蹴るシンだったが、その前にはマンティスが立ちはだかる。
《そうはいかねぇよ!
 てめぇは、しばらくオレと遊んでもらうぜ!》
 告げるマンティスの背後で、ブレードは静かに斬天刀を構えた。
「十分楽しんでから斬ってやろうとも思ったんだがな……どうやら向こうのヤツと戦った方がおもしろそうだ。
 っつーワケで……とっとと斬られて消えやがれ!」

「斬天刀――全開稼動フルドライブ!」
 ブレードが告げると同時、セイバーブレイカーのかまえる斬天刀の刃――その輪郭がぼやけ始める。
 同時に聞こえる甲高い音――斬天刀の刃が高速で振動を始めたのだ。
 そして、ブレードは背中のバーニアを噴射してわずかに浮き上がり――次の瞬間、ホバー走行で一気にアンタヘルとの間合いを詰める。
 とっさに離脱しようとするアンタヘルだが――遅かった。
「刹刃――瞬斬!
 セイバー、テンペスト!」
 咆哮と同時、ブレードの振るった刃がアンタヘルを一刀の元に両断する!
 そのままアンタヘルの脇を駆け抜け、停止したブレードは刃についた鮮血を振り払い――
 ドガオォォォォォンッ!
 大爆発を起こし、アンタヘルは断末魔と共に四散した。

 ――ぎぃんっ!――
 耳障りな音を立て、シンとマンティスの刃がぶつかり合う――
 何度目かの激突の後、両者は再び間合いを取って着地した。
《やるじゃねぇか》
「ほめられてもうれしくはないがな」
 マンティスに答え、シンが大鎌を構え直すと、
「さて、と……」
 アンタヘルを撃破したブレードが、悠々とマンティスの傍らに合流した。
「必殺技で一発退場、か……
 アンタヘルにはあまりにも荷が重すぎたようだな……」
「そう思うんなら、もうちっとマシなヤツ差し向けて来いよ」
 シンに答え、ブレードは斬天刀の切っ先を彼に向け、
「さて、次はお前だ。
 さっきのヤツと違って、楽しませてくれることを期待してるぜ!」
 言うと同時に跳躍し、ブレードはシンへと刃を振り下ろし――

「――――――っ!?」
 その一撃はシンをとらえなかった――いきなりの事態の変化に、さすがのブレードの顔にも驚きの色が浮かぶ。
 突然シンとの間に巻き起こった炎の渦によって、ブレードの斬撃が阻まれたのである。
「何だ――?」
 さすがに正体がわからないままさらに斬りつけるつもりはない――距離をとるブレードの前で炎の渦は勢いを弱め、その中に存在していたものがその姿を現した。
 真紅に染め抜かれ、随所に竜の装飾があしらわれた人型の機動兵器である。
 そして――シンにとっては見覚えのある機体だった。
「“凱竜王”……!?
 何のマネだ、イクト!?」
「お前に用があって来た。それだけだ」
 声を上げるシンに、“凱竜王”と呼ばれた機体に乗っている、イクトと呼ばれたその少年は冷静にそう答えた。
 自分に用――何事かと眉をひそめるシンだが、そんなシンにイクトはあっさりと告げた。
「お前が探していた“影”のブレイカーだが……捕捉した」
「何……?」
 驚き、眉をひそめ――だが、それも一瞬だった。シンはかまえを解くとブレードに告げた。
「悪いな、“剣”のブレイカー。
 できれば決着をつけたいところだったが、こっちとしてもぜひとも優先しなければならない用事ができた。
 すまないが、勝負は持ち越しにさせてもらうぞ」
「用事、ねぇ……」
 シンの言葉に、ブレードは斬天刀を軽くもてあそびながらしばし考え、
「……悪いが、知ったこっちゃないね。
 オレは別に、そっちの都合で戦ってるワケじゃないんで、ね!」
 言いながら、ブレードは斬天刀を振りかぶって跳躍、渾身の力で斬撃を放つ。
 だが、その一撃は割って入ったイクトによって止められた。ブレードの斬撃を弾き返し、その突進を阻む。
「へぇ、代わりに戦ってくれるのか?」
「確かに、戦士として強者と戦うのは至福だとは思うが、今この状況で楽しむ気などない」
 ブレードに答え、イクトは背後のシンへと視線を向ける。
 その意図は探るまでもない――シンは静かにうなずくと、自身の周囲に“影”を生み出し、その中に消えていった。
「では、オレも引き上げさせてもらうか」
「おいおい、そりゃないだろう?」
 シンの離脱を確認し、つぶやくイクトの言葉に、ブレードはため息まじりに声をかけた。
「人の楽しみジャマしておいて、『はい、さよなら』かよ」
「悪いがそのつもりだ。
 因果応報――貴様が貴様の勝手で動くのであれば、こっちもこっちの勝手で動かせてもらうまでだ」
「はいはい、そう来たか。
 じゃあ――」
 イクトの言葉に苦笑すると、ブレードは斬天刀を肩にかつぎ――
「――こっちに、合わせざるをえなくしてやるぜ!」
 咆哮すると同時、イクトに向けて無数のエネルギー刃を放つ!
 放たれた無数の光刃は一直線にイクトの駆る凱竜王へと迫り――
「甘い」
 しかし、それらの斬撃はイクトの振るった剣によって、一撃のもとに薙ぎ払われていた。
「やるじゃねぇか!
 ますます、相手をしてもらいたくなったぜ!」
 だが、ブレードもそのまま逃がすつもりなどない。光刃にまぎれて接近し、斬天刀を振るう。
 対するイクトも刃を振るい、激突した斬撃の衝撃を活かして後退、空中へと飛び立ち、
「ここまでだ。
 こっちにも仕事がある。貴様にばかりかまってもいられない」
 その言葉に、ブレードはしばし彼をにらみつけ――
「………………チッ」
 舌打ちすると、唐突にかまえを解いた。
「仕方ねぇ、な。
 空に逃げられたら、飛ぶのがヘタなセイバーブレイカーじゃ抑えられねぇ――ここは帰らせてやるよ」
 ため息をついてそう告げ――ブレードはイクトに尋ねた。
「ただ、名前くらいは教えてくれてもいいだろう?」
「別に武人じゃない。名乗りを上げる趣味はないんだが……」
 思わずため息をつき――それでもイクトはブレードに告げた。
「……“炎”の瘴魔神将、炎滅のイクトだ。
 縁があれば、また会えるだろう、“剣”のマスターブレイカー」
 告げると同時、イクトは現れた時と同じように炎の渦を巻き起こし、その中に消えていった。
《……やれやれ、逃がしちまったな》
「まぁ、いいさ」
 マンティスにそう答えると、ブレードは合身を解除してセイバーライガーのコックピットにその姿を現した。
「アイツ、相当できそうだからな。他の神将どもよりもまたやり合える望みはありそうだ」
《おやおや、ずいぶんと買ってるな》
「実際、さっきの“影”のヤツよりも強いぜ」
 あっさりと答え、ブレードは告げた。
「たぶん――そう遠くない内に消えるぜ、“影”のヤツは」

「どぉこかなぁ〜〜?」
 緊張感のカケラも感じられないセリフと共に、青木は橋本の姿を探す。
 そしてその橋本は――
「やってられるかってぇの、あんな特訓……!」
 物陰に息を潜めていた。青木の様子をうかがいつつ小声で毒づく。
 と――そんな二人のもとに、突然ブレイカーブレスを介した通信が入った。
〈青木さん、橋本くん、聞こえる!?〉
 通信の主はライカだった。
「ライカ……?」
「どうしたんだよ?」
 眉をひそめ、それぞれの場所で尋ねる青木と橋本に、ライカは答えた。
〈影山さんの居場所がわかったのよ!
 捜索に出てたスカイホークの精霊力レーダーに、いきなり反応があって!〉
「えぇっ!?
 一体どこだよ、涼は!?」
 思わず声を上げ、尋ねる橋本に、ライカは答えた。
〈大阪よ!〉


Next "Brave Elements BREAKER"――

橋本 「ついに見つけた涼の足取り!
 それを追って、大阪に急行したオレ達だけど、そこにシンまで現れて大ピンチ!
 ――って、涼、何するつもりだよ!? やめろ!
 次回、勇者精霊伝ブレイカー、
 Legend19『真の死神』
 そして、伝説は紡がれる――」


 

(初版:2006/05/07)