「…………シンが敗れたか……」
「ザマァないね。
ブレイカーズだのDaGだの、手当たり次第に手ェ出すから、肝心なところで力を出し切れない」
つぶやくバベルの言葉に、彼は肩をすくめてそう告げた。
雷殺のヴォルト――“光”の属性を持つ瘴魔神将である。
「まー、ヴォルトに同意するワケじゃないけど、確かにマスター・ランクを手当たり次第に相手したのは失敗だったよね。
だって、覚醒した子を含めて一気に4人だよ――いくらあたし達の“力”の出力がマスター・ランク以上って言っても、他の条件は向こうとおなじなんだし」
続けて告げるのは風刃のミレイ。“風”の瘴魔神将であり、彼らの中では唯一の女性メンバーである。
「とにかく、これで残る瘴魔神将は6名。対してブレイカーズは6名、“DaG”が3名――」
「“DaG”に関しては情報が少ない。早計に戦力を把握しない方がいいですよ」
ヴォルトのつぶやきに“水”の瘴魔神将、幻水のザインが答えると、
「関係ない」
それだけ告げて、バベルは立ち上がった。
「倒せば終わりだ。関係ない。
シンの仇はオレが討つ」
そう告げると、バベルはその場を後にした。
「やれやれ、熱血しちゃって」
「ヤツはシンとよくつるんでたからな。
とりわけ悔しいんだろ」
肩をすくめるミレイにヴォルトが答えると、それまで黙っていたイクトが口を開いた。
「……グリフ」
その声に、彼以上に輪から離れていた最後のひとり――“獣”の瘴魔神将、撃獣のグリフが顔を上げた。
「バベルと組んで出ろ。
ヤツのフォローに回れ」
「オレが……?」
イクトの言葉に、グリフは眉をひそめ、
「別にかまわんが……なぜオレだ?
パワータイプのバベルのフォローなら、頭のキレるヴォルトかザインの仕事だろ」
「今のバベルを、パワータイプでないヴォルトやザインが止められると思うか?」
「……なるほど、了解だ」
イクトの言葉に納得し、グリフはその場を後にした。
Legend20
「襲来! 二大瘴魔神将」
「……ぅわぁ……」
その部屋に入り、鈴香は思わず声を上げた。
涼が遺していたのはシャドーグリフォン達だけではなかった――いずれ必要になるであろう、ブレイカーの能力についての資料や太古の術式に関するデータなどを、府中市郊外にかまえたアジトに大量に保管していた。
その存在を示すデータがシャドーグリフォンの中に残されていたのを知ったブレイカーズの面々は、その資料を確認すべく涼のアジトへとその足を踏み入れたのだ。
そして、資料に対する目利きを巫女であり退魔士でもある鈴香に頼んだのだが――
「質も量もとんでもないですよ、このデータ……」
それが彼女の最初の感想だった。
「属性に絡んだ“力”の質についてのデータ、及びその運用方法に関する戦術的観点からの実践データ……
涼さん自身の考察もけっこう入ってますけど……ものすごく的確です。
その気になれば、このデータでまったく新しい精霊術がダース単位で考案できますよ」
「そこまでかよ……」
思わずうめき、青木は周囲にうず高く積み上げられた資料の山を見渡した。
「あ、契約のための精霊獣の呼び出しの方法、ここに載ってますよ」
「何っ!?
それがあればオレの契約もすんなりいったんじゃねぇか!」
鈴香の言葉に青木は思わず声を上げ――そんな彼らの輪から外れたところにいる橋本に声がかけられた。
「タカノリ……大丈夫……?」
「大丈夫だよ」
不安そうにこちらを見上げる自分のプラネルに、橋本はそう答えて笑って見せる。
「いろいろあって、涼まで死んで……少し、頭の中がこんがらがってるだけ。
もう少し、いろいろ考えて整理がつけば……大丈夫だから」
ヴァイトにそう答える橋本の姿を、ライカは少し不安げに見つめていた。
「ったく、ヒマだなぁ……」
「ヒマよねぇ……」
アジトで退屈を持て余し、外で遊び回るプラネル達の姿を眺めながらボヤくブレードの言葉に、同様に退屈している椿は適当にそう相槌を打った。
「外を出歩いても、なかなか瘴魔にゃ出くわさないし……」
「組織立ってきてレベルが上がってくれたのは大歓迎だけど、その分あまり動き回ってくれなくなってきたものね……」
そう――瘴魔神将の台頭を知り、『強敵と戦える』と喜び勇んで日本に(密)入国した“DaG”の面々だったが、肝心の瘴魔神将達が瘴魔獣を統括してしまったため、外に出てもそう簡単に遭遇戦、というワケにはいかなくなっていた。
「さて、どうするか……」
「いっそ、この間みたいに襲ってきてくれればいいんだけどねぇ……」
ブレードのつぶやきに椿が答えると、
「だったらさ」
突然、その場にいる最後のひとり――マリアが口を開いた。
「ブレイカーズの方にちょっかい出してみたら?」
その言葉に、ブレードと椿は顔を見合わせ――同時に口を開いた。
『………………それだ』
「はぁ………………」
公園のベンチに座り、橋本はひとりため息をついた。
「ブレイカーとして戦うことには、特に文句はないんだけどなぁ……」
だが、どうにも気が乗らない。使命は理解しているが、そこに気持ちが追いつかない。
それに、そのことを考えようとすると、どうしても涼のことが脳裏をよぎる。
「やっぱり、引きずっているのかもな……」
橋本がつぶやくと、
「あーっ! ここにいた!」
「………………?」
突然上がった声に振り向くと、そこにいたのは――
「ファイちゃん……?」
「もう、いつの間にかいなくなってるから探しちゃったよ」
つぶやく橋本に答え、ソニックとヴァイトを連れたファイは彼のとなりに座り、
「涼お兄ちゃんのことでしょ? 考えてたのって」
「なんだ、バレてたのか」
ファイの言葉に答えると、橋本は思わず肩をすくめる。
「ファイちゃんの推測、大正解。
やっぱり、平静じゃいられないよ……涼とは、けっこう長い友達だったし。
こんなザマじゃいけないんだ、って……わかっちゃいるんだけどね……」
言って、苦笑する橋本だが――
「そう?
あたしは、別にいいと思うよ。引きずってても」
対して、ファイはあっさりとそう答えた。
「あたしだって、友達が死んじゃったら悲しいと思うもん。
だけど……その悲しみを忘れちゃったら、そっちの方が悲しいよ」
「悲しみを、忘れる方が……」
ファイの言葉に、橋本は思わず繰り返した。
「そうだな……
退魔の仕事で相手をする霊達も、自分のことを忘れないで欲しいから、っていうのがけっこういるし」
「あ、そうなんだ」
つぶやくファイにうなずくと、橋本は立ち上がり、
「死んだ人のためにできるのは、死んだ人達を忘れないこと。
そして――死んだ人達に、心配をかけないこと」
「そうだよ! 涼お兄ちゃんのためにもタカ兄ちゃんもがんばらないと!」
「あぁ」
答えて――橋本はふと眉をひそめた。
「ところで、今の『タカ兄ちゃん』って?」
「だって、『橋本お兄ちゃん』でも『崇徳お兄ちゃん』でも語呂悪いもん」
「それ言ったら、『ジュンイチお兄ちゃん』も語呂悪いだろ」
「前『ジュン兄ちゃん』って呼んだら、ヘソ曲げちゃってしばらく口きいてくれないし食事はあたしだけカップ麺だし……」
「意外にガキなんだよな、アイツも……」
ファイの言葉に、橋本は苦笑し――
『――――――っ!?』
二人がその気配を感じると同時――その場に光の弾丸が降り注いだ。
『――――――っ!?』
同じ気配を、ブレイカーベースに戻っていたライカ達もまた感じ取っていた。一様に顔を上げ、すぐさま立ち上がる。
「瘴魔………………!?」
「しかもこれは…………!」
うめくジーナに答え、青木は告げた。
「神将クラスだ……!」
「大丈夫か?」
かろうじてその攻撃は“影”の防壁によって防ぐことに成功した――ファイをかばい、橋本は周囲の気配をうかがいながらファイに尋ねる。
対して、ファイの反応は――
「いたたたた……コブできちゃった……!」
「ま、その程度で済んでいればいいか」
破片でも飛んできたのか、頭にできたコブを押さえてうめくファイの言葉に、橋本はため息まじりにつぶやく。
と――
「見つけたぜ、“影”の!」
その声と共に――彼らは姿を現した。
バベルとグリフだ。
「お前ら――瘴魔神将か……!」
「その通り!
“大地”の瘴魔神将、森斬のバベルとはオレ様のことさ!」
「“獣”の瘴魔神将、撃獣のグリフだ」
うめく橋本に答え、バベルとグリフは順にそう名乗りを上げる。
「瘴魔神将が、二人……!?」
思わずつぶやくファイの前に、橋本は彼女をかばうように進み出る。
「ヴァイト! いけるか!?」
「うん、いける!」
声をかける橋本に答え、ヴァイトが彼のとなりに飛び出すのと同時、橋本は精霊石を取り出し、
「出ろ、デスサイズ!」
《御意》
橋本の言葉に答え、デスサイズはヴァイトを媒介として顕現。彼らの前にその姿を現す。
《やれやれ、主よ、貴殿との初陣がよりにもよって神将二人か……
よほど、戦場運に見放されているようだな》
「そーいや、今までの仕事でも再三地獄のような依頼を回されたっけな……」
肩をすくめるデスサイズの言葉に、橋本は苦笑しながら右手に影天棍を、左手に“白銀”を媒介にした影天銃をかまえる。
「あたし達は?」
「かく乱お願い。
絶対に仕掛けちゃダメ――“今のまま”じゃ、ファイちゃんがヤツらと戦うには準備が足りなさ過ぎる」
尋ねるファイに答え――橋本はデスサイズと共に地を蹴り、バベルへとの間合いを一気に詰める。
「このぉっ!」
咆哮し、橋本の振り下ろした影天棍を、バベルは真横に飛んで回避する。
力ずくで受けるのはたやすいが――そんなことをすれば動きが止まる。デスサイズの攻撃をまともにくらうのは、いくら瘴魔神将といえど御免こうむりたい。
「もらった!」
そんな橋本の背後に回り込んだグリフが襲いかかるが――
《させん!》
その前にはデスサイズが立ちふさがった。手にした大鎌でグリフを牽制、後退させる。
「デスサイズ!」
《御意!》
橋本の言葉に答え、デスサイズは大地に大鎌を突き立て――グリフ達の影から無数の触手が飛び出し、彼らに襲いかかる。
それをかわそうとする二人の瘴魔神将。だが――
「逃がすもんか!」
阻んだのはファイの放った“風”だった――渦を巻いた空気の流れがグリフ達の動きを封じ、結果橋本はグリフ達の捕獲に成功する。
そして、橋本は影天銃をかまえ――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」
放たれた特大の閃光が、二人の瘴魔神将を直撃した。
「やった……?」
「なワケないって。
たかが精霊器の攻撃くらいでどうにかできる相手じゃないよ――ダメージを与えられていれば御の字、くらいだよ」
つぶやくファイに橋本が答えると、
「さすがはシャドープリンスの見込んだマスター・ランクだ。わかってるじゃねぇか」
「一筋縄ではいかないのは、お互い様ということか」
言って、バベルとグリフは爆煙の中から何事もなかったかのように現れた。
多少傷を負ってはいるようだが、倒すにはまだ程遠いものだ。
「時間、かかりそう……」
思わずファイがつぶやいた、その時――
「だったら、もっと面白くしてやろうか!?」
その声と同時――飛来したそれが橋本達とグリフ達、双方の中間を叩いた。
巨大な光の刃だ。ということは――
「――まさか!?」
声を上げ、光刃の飛来した方向へと振り向いた橋本の視線の先で――すでに着装を終えていたブレードは余裕の笑みを浮かべていた。
その頃、青木達もまた、“DaG”のメンバーを前に足止めを受けていた。
「えぇいっ!」
無邪気な掛け声と共に、凶悪な凶器が迫り来る――振り下ろされた巨大な鉄槌を、青木は片手で受け止めた。
――否。片手+“スティンガーファングに発生させた空間湾曲場で”、だ。空間を歪めて力のベクトルを捻じ曲げ、鉄槌を落下させていた力そのものを打ち消したのだ。
マスター・ランクの精霊器以上に高い空間湾曲能力を持つスティンガーファングだからこそ展開できるこの防壁は、相手側も同様に空間湾曲場をもって対抗、打ち消す以外に突破する手段はない。事実上マスター・ランクのブレイカー以外には突破することは不可能なのだ。
しかし、展開中は周囲にエネルギーの渦が巻き起こるため、術者である青木も動けなくなってしまうという弱点もある。だから青木も多用しないのだが――逆に言えば、この防壁でなければ防ぎきれないほどの一撃だったのだ。
しかし、それもムリのない話だ――何しろ相手の鉄槌には、接触した無機物を問答無用で破壊してしまう特殊能力が備わっているのだから――
舌打ちする青木の前で、鉄槌を引き戻したその一撃の主は心の底から楽しそうに声を上げた。
「すっごーい!
わたしの砕天鎚を受け止めたの、そっちのお姉ちゃんに続いて二人目だよ!」
言って、彼女は――マリアは青木と共に自分と対峙するライカへと視線を向ける。
ジーナと鈴香はマリアと共に姿を現した椿と交戦中――持ち主が攻撃すれば防御を、防御すれば攻撃を行う“反転攻防”の能力を持つ彼女の精霊器、凍天玉を前に攻めあぐねているようだ。
「くっ、こっちにこの二人がいるってことは、橋本くん達の方にはブレードが……!」
事態は一刻を争う――ライカは舌打ちし、青木に告げた。
「青木さん、こっちはあたしに任せて、橋本くんの方に行ってもらえる?」
「オレがか?」
「当たり前でしょ。
ブレードのこともあるし、向こうには神将達が二人もいるのよ――こっちよりも戦力がいるのは、どう考えても向こうじゃないのよ」
その言葉に、青木はしばし考え――
「……勝てるのか?」
「そりゃ、勝てるわよ。ダテにコマンダー・ランクをやってないわ」
答えて、ライカは肩をすくめ、
「けど……勝つ必要はないんじゃない?
そっちのジャマしに行かないように、きっちり引きつけといてあげるわよ♪」
「了解」
ライカに答え、青木はきびすを返してその場を離れる。
「あぁっ! 待ってよ!
お兄さんとの戦い、おもしろくなりそうなのに!」
そんな青木を追おうと、マリアも走り出し――その彼女の足元を光の弾丸が叩いた。
ライカの手にしたカイザーブロウニングからの威嚇射撃だ。
「残念ながら、アンタの相手はまたあたしよ」
「ぶー!」
ライカの言葉に頬をふくらまし――しかし、すぐにマリアは笑顔に戻った。
「ま、いいか。
お姉ちゃんとの戦いも、楽しいしね!」
告げると同時――マリアは砕天鎚を振りかぶり、ライカへと襲いかかる!
一方、舞台は府中を離れ――
「……準備、完了しました」
「そうか」
照明が落ちた部屋の中で、部下からの報告を受けた彼はただ一言でそれに答えた。
「ならば……すぐに取り掛かれ」
「はっ」
うなずく部下に、彼は改めて告げた。
「“プロジェクト・ジェネティック”始動だ」
「楽しいケンカの始まりだ――楽しませろよ!」
咆哮すると同時に跳躍――真上から力任せに振り下ろした彼の斬天刀を、バベルは手の中に生み出したトマホークで受け止める。
だが、ブレードは自分の一撃が防御されてもかまうことはなかった。すぐに後方に跳んで間合いを離し、着地と同時に斬天刀から光刃を放つ。
一方で、グリフは橋本と対峙していた。こちらはブレード達と違い素早く動き回るような戦いではなく、橋本は影天鎌を、グリフはハルバードをかまえたまま静かに相手の出方を伺う。
「……ずいぶんと、楽しい仲間を持っているようだな」
「いや、アイツ別グループ。むしろ迷惑してるし」
グリフに答え、橋本は静かに相手の動きを観察する。
……仕掛けることにした。このまま静かに状況を分析されて、こちらのスキを狙われてもつまらない。
「いくぜ、デスサイズ!」
《御意!》
「ファイちゃんはバックアップ!」
「はーい!」
それぞれの相手に告げ――橋本は先陣を切って突撃。カウンターを狙ったグリフのハルバードを真上に飛んでかわし、
《もらった!》
「なんの!」
追撃してきたデスサイズの大鎌を、グリフは自身の斬撃の勢いを活かして姿勢を崩し、回避する。
「いっけぇっ!」
そこに、ファイの放った空気の弾丸が迫るが――それはグリフの防壁に阻まれる。
だが、ファイの役目は元々援護だ。そしてその役目は十分に果たした。
「はぁぁぁぁぁっ!」
気合一閃。橋本の放った影天鎌の斬撃がグリフへと迫る!
かわせるタイミングではない。その一撃はグリフを斬り裂く――
はずだった。
「ぅわぁっ!」
次の瞬間、攻撃を受けたのは橋本だった――真横から放たれた閃光をまともに受け、巻き起こった爆発によって吹き飛ばされる!
「タカ兄ちゃん!」
それを見て、思わずファイが声を上げ――彼女や、さらにはグリフにも攻撃が降り注ぐ!
「何だ!?」
「新手か……?」
その様子はバベルやブレードも気づいた。訝しげに眉をひそめ――それは現れた。
「……アレは!?」
その時、ちょうど戦いの場に到着した青木はそれを見た。
「ラヴァモス……!?」
確か、広島で初めてジュンイチと戦い、先日も覚醒していなかった頃の橋本を襲った、トカゲに“火”の属性を付加された瘴魔獣だ。
しかも、1体だけではない。同じタイプのものが何体もその姿を現す。
だが――おかしい。
(瘴魔力を……感じない……?)
そうだ――瘴魔であるならば持つはずの、自分達の“力”と同じ、ただし正反対の特性を持つ“力”である瘴魔力を、目の前のラヴァモスからはまったく感じないのだ。
それに、瘴魔であれば主に当たるはずの瘴魔神将をも攻撃するのは明らかにおかしい。考えられるのは――
(あのラヴァモス達は――瘴魔獣じゃない!?)
その事実に思い至った瞬間、青木は愕然とした。全身から血の気が引いていくのがわかる。
「まさか……アイツら……!?」
「アイツらは!?」
戦いの様子はブレイカーベースでもモニターしていた。現れたラヴァモス達を前に、龍牙は思わず声を上げていた。
「クロノス!」
《現在データを分析中です》
龍牙の言葉に、ブレイカーベースのメインAI“クロノス”はそう答え――
《ですが……》
そう前置きし、クロノスは告げた。
《過去の“事例”から考えても――あのラヴァモスの姿をした者達が“彼ら”の手で作り出された可能性は、否定できません》
「そうか……」
クロノスのその言葉に、龍牙は思わず拳を握り締めた。
確かに、“彼ら”にとって今この東京、この首都圏は絶好の“狩り場”だろう。ブレイカーズに瘴魔神将、そして“DaG”――彼らならば喉から手が出るほどにほしい逸材がこれでもかというぐらいに集まってきているのだ。
「この場に……いや、あの場にジュンイチがいたら、どんな顔をしただろうな……!」
思わずそんなことを口にしてしまう。
「“8年前”の因縁が……ついに我々の前に現れたか……!」
「……目標を確認。
ターゲットの能力者、総数5。
……いえ、さらに1名参戦を確認。総数6です」
「そうか……
データ収集を開始しろ。こちらだけではない。相手のデータもだ」
部下の報告を受け、彼は告げた。
「今後の“商品開発”のための、貴重なデータだからな」
「くそっ、何だよ、アイツら……!」
「知るか……!」
巻き起こった爆煙に咳き込みながら、うめくバベルにグリフが答える。
「瘴魔獣じゃ、ねぇな……
けど、関係ねぇか」
対して、ブレードの戸惑いは少なかった。元々強ければ、自分を楽しませてくれれば相手が誰であろうと関係ないのだ――斬天刀をかまえ、ラヴァモスの姿をした異形達へと向き直る。
「待てよ、ブレード!
アイツが何者か、まだわかってないんだぞ!」
「知るかよ、そんなの!」
橋本に言い返し、ブレードは異形に向けて地を蹴り――対して異形達が動いた。一斉に両肩のコブを開き、その中から熱線を放つ!
やはり“力”が込められていない、ただの物理エネルギーでしかない熱線だ。力場で簡単に防げるレベルのものだ――
――単発なら。
だが、一斉に放たれた熱線は総合的に絶大な破壊力を発揮した。ほとんど同時に力場に叩きつけられた熱線はブレードの力場を力ずくで粉砕。ブレードを吹き飛ばす!
「ブレード!?」
思わず青木が声を上げるが――
「ってぇ……!」
どうやら無事のようだ。叩き込まれたガレキの山の中からうめき声が聞こえる。
やがてガレキがくずれ、ホコリまみれになったブレードがその姿を現す。
見ると、彼の装重甲“ブレード・ライアット”の左肩が砕け散っている。あの部分が盾となり、ブレードを救ったのだろう。
「くっそぉ……! ひどい目にあったぜ……
ロッドを連れてこなかったのは失敗だったぜ……マンティスを呼べやしねぇ」
「って、それ以前にあの数は厄介だって!」
思わずツッコみ、橋本は異形達に向けて影天銃をかまえる。飛び道具主体の、しかも雨あられと撃ってくる連中を相手に影天鎌で突っ込みたくはない。
「瘴魔獣じゃないってのか……?
けど、アイツら……」
「あぁ。
間違いなく、以前シンやシャドープリンスが作っていたラヴァモスだ。
だが……明らかにヤツらは瘴魔獣ではない」
一方、瘴魔側の動揺はこちらのそれを上回っていた。何しろ自分達の配下にそっくりな、しかし明らかに配下の者ではない連中に襲われたのだ。
その上、彼らは本来ならば自分達以外に生み出せるはずのない存在なのだ。混乱するなという方が難しい。
「ったく、最悪なタイミングで最悪な連中が出てきたもんだぜ……!」
混乱する戦場の中――ただひとり、青木だけは相手の正体に心当たりがあった。思わずうめき、ブレードに尋ねた。
「おい、ブレード。
お前としてもここでやられちまうのは本意じゃないだろ。
共同戦線、張る気はないか?」
「ない」
即答された。
「相手が誰だろうと関係ないね。
オレ達“DaG”は好き勝手に戦うだけさ――アイツらも、お前らも、オレにしてみれば全員獲物だ。
したがって、お前さんの提案は却下だ。アイツらはオレが斬る」
「って、それをやろうとしてさっきブッ飛ばされたんだろうが!」
「ちょっと、口ゲンカしてる場合じゃないでしょ!」
ブレードに言い返す青木の姿に、あわててファイが声を上げる。
「瘴魔神将の二人だってまだ帰ってないんだし、そもそもあのラヴァモスさんもどきだって……!」
ファイが告げた、その時――異形達が一斉に肩のコブを展開する!
そして――
『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
異形達の攻撃が放たれ――敵も味方もない叫び声が上がった。
to be continue...
ファイ | 「突然あたし達を襲った謎の軍団! 瘴魔獣にそっくりだけど、瘴魔獣じゃない……どういうことなの? その上、瘴魔神将の2人は機動兵器まで持ち出すし…… ――って、えぇっ!? あの謎の軍団さん達も機動兵器を!? もぉ、どうすればいいの!? 次回、勇者精霊伝ブレイカー、 Legend21『大いなる巨神』 そして、伝説は紡がれる――」 |
(初版:2006/08/27)