『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
 異形の放った熱線の一斉射撃を受け、青木達は大きく吹き飛ばされて大地に叩きつけられる。
 青木達だけではない――まとめて一斉射を受けた二人の瘴魔神将達も、そしてブレードも同様だ。
「くっ、そぉ……!」
 うめいて、なんとか立ち上がったのは橋本だ――防御力に特化した彼の力場が、ダメージを最小限に留めたのだ。
「厄介すぎるぞ、ホント……!」
《如何する?》
「ンなの決まってる」
 デスサイズに答え、橋本は影天鎌をかまえた。
「まずはアイツらをブッ倒す。
 瘴魔神将にブレードに、その上アイツら……まとめて相手してられない。
 速攻でアイツらを片付けて、その上で残りを叩くしかない」
《了解だ》
 橋本の言葉にデスサイズが答えると同時――異形達が一斉に熱線を放った。
 

「テストタイプにしては、上出来だな」
 橋本達の戦いの様子をモニターで見つめ、男は静かにつぶやいた。
「“タイプHG”の準備は?」
「間もなく」
 すぐさま返ってきた部下の答えにうなずき、男はモニターへと視線を戻した。
「では……今度は機動兵器の力を見せてもらおうか」

 

 


 

Legend21
「大いなる巨神」

 


 

 

「くそっ、人間どもの作った生物兵器を相手にこの体たらく――とんだ醜態だな……!」
 まだ目まいがする――クラクラする頭を振りながらグリフは身を起こした。
「バベル、お前は――」
 となりの仲間へと声をかけ――グリフは口を止めた。
 バベルの肩が震えている。
 それが何なのか――考えるまでもなかった。
「……どいつもこいつも……このオレ様をコケにしやがって……!」
 顔を上げたバベルの瞳は、怒りの炎に燃えていた。

「このぉっ!」
 咆哮し、橋本の振るった影天鎌から無数の漆黒の刃が放たれ、対峙する異形達に降り注ぎ、
「でぇりゃあっ!」
 橋本の援護を受けて突撃した青木が、右手の獣天牙に装着したスティンガーファングで異形を殴り飛ばす。
 重量に任せた豪快な巨大手甲の一撃は難なく首の骨をへし折った。とりあえずこれでまず1体――だが、異形はまだまだ数を残している。
「あー、くそっ、キリがねぇ!」
《しかし、片付けなければ終わるまい?》
「わかってるから憂鬱になるんだろうが……」
 となりで答える自らの精霊獣キマイラに青木が答えると、
「ふ、ざ、けん、なぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮が響くと同時――異形達の包囲陣形の一角が吹き飛んだ。
 怒りに燃えるバベルの一撃である。
「殺してやる……!
 どいつもこいつも、皆殺しだ!」
 抑えきれない――いや、最初から抑えるつもりなど微塵もない怒りのままにわめき散らし――バベルは咆哮した。
「来い! ファングカイザー!」

 瞬間、上空の空間が歪んだ。
 そして――その歪みの中心から、それはゆっくりとその姿を現した。
 カラーリングが虎を思わせる、サーベルタイガー型の機動兵器――地響きと共に大地に降り立つと額のコックピットハッチが開き、跳躍したバベルがその中に飛び込んでいく。
「もう容赦はしねぇ……!
 ファングカイザー! 全員まとめて、踏み潰しちまえ!」
 バベルのその言葉に力強く咆哮し、ファングカイザーと呼ばれたその機動兵器は橋本達やブレード、そして異形達に向けて一歩を踏み出す。
 すぐさま前足で一撃――異形達は一瞬にして無数の肉片と化し、ファングカイザーは続いて青木達へと向き直る。
「青木さん!」
「言われるまでもねぇ!」
 声を上げる橋本に答え、青木は彼と共に振り向き、
「ヴァイト! シャドーグリフォンを!」
「う、うん……!」
「ファントム、こっちもだ!」
「合点承知!」
 二人の言葉に、彼らのプラネル達は顔を見合わせ、同時に叫ぶ。
『オープン、ザ、ゲート!』

「ちっ、バベルめ、先走ってくれる……!」
 ブレイカービーストの召喚、そして合身――バベルの駆るファングカイザーと対峙するセイントブレイカーとシャドーブレイカー、そしてファイが呼び出し、飛来したスカイホークを見上げ、グリフは舌打ちしながらうめいた。
「いくらバベルでも、2対1では旗色も悪かろう……
 仕方あるまい。オレも出るか」
 そう告げると同時――グリフの背後にそれは現れた。
 発生した空間の歪みの中から現れた、重厚な鎧に身を包んだ人型の機動兵器だ。
「青木さん!」
「くそっ、もうひとりも出てきやがったか……!」
 それに気づいた橋本の言葉に、青木はうめきながらもすぐさま反転。グリフの搭乗したその機動兵器と対峙する。
「オレの相手はお前さんか」
「そのようだな。
 “獣”の瘴魔神将、撃獣のグリフ――瘴魔機兵ガングレイヴァーがお相手しよう」
 青木の言葉にグリフが答え――

 両者の拳が、激突した。
 

「出てきたか……意外に早かったな。
 連中の中に短気なヤツがいてくれて助かった、というところか」
 モニターに映し出された映像の中――姿を現したブレイカーロボと瘴魔機兵を眺め、男はつぶやいた。
 すぐに視線を動かし、傍らに控えていた部下に告げる。
「第2段階に移行だ。
 “タイプHG”を出せ」
「了解いたしました」
 答え、下がっていく部下に目もくれず、男はモニターに視線を戻した。
「貴様らが何者かは知らないが……我々よりも優れた兵器を持たれても困るんだ」
 つぶやくその口元に浮かんだのは冷たい笑み――
「我らの“商品”が売れなくなってしまうからな……」
 

「くらい、さらせぇっ!」
 咆哮と同時、急加速したバベルのファングカイザーは一直線に突撃。橋本シャドーブレイカーに向けて右の前足で一撃を見舞う。
 だが、橋本もその一撃をシャドーサイズで受け止め、
「くらって――たまるかぁっ!」
 言い返し、力任せにファングカイザーを押し返す。
 が――
「――――――っ!?」
 とっさに跳躍。頭上から襲いかかった斬撃を後退して回避する。
 そして着地したのは――
「オレをほったらかしにしてんじゃねぇ!
 こんな楽しいバトルロイヤル、参加しねぇ手はねぇだろ!」
 言って、ブレードの合身したセイバーブレイカーは嬉々として斬天刀をかまえる。
「後にしてくれよ、もうっ!」
「心配すんな!
 てめぇもすぐに殺してやるよ!」
 あくまでも自分本位で突っ走るブレードに橋本とバベルがそれぞれに答え――

 ピ――――――ッ!

『――――――っ!?』
 突然、それぞれの機体のレーダーシステムが警報を発した。その場にいた全員がその正体を確認するよりも早く跳躍し――彼らのいた地点、その中央に強烈なビームが叩きつけられ、爆発を巻き起こす。
「何だ!?」
 まだ他に乱入するようなヤツがいただろうか――着地し、ビームの飛来した方へと振り向いた青木の目の前で、それは空中で静かに佇んでいた。
 漆黒のカラーリングの、人型機動兵器だ。
 直線的で機能性を追及する方向でスラスターの配置されたボディ。
 背中のジェネレータに直結し、腰だめにかまえられた大型の砲。
 そして――まるで武将の兜のように角飾りのあしらわれた頭部のカメラアイが、眼下の者達をじっと見つめている。
 だが、そんな外見よりも気になることがあった。
「精霊力を、感じない……!?」
「瘴魔力もだ……
 ……いや、それどころか、生命力自体感じられない」
 青木に同意する形でグリフが答え、センサー類で確認するが、やはり生命力に類する各種の反応は目の前の機体からは一切検出されていない。
 つまり――
「搭乗者のいない――無人機だってのか……!?」
 橋本がつぶやくと、
「そういうことだ」
 機動兵器の口にあたる部分から音声が発せられた。
「オレの名はヘルガンナー。見てのとおり、通りすがりの自律型機動兵器さ。
 よく覚えておけよ――」
 言って、ヘルガンナーと名乗ったその機体は砲をかまえ、
「お前らを、地獄に送るヤツの名なんだからな!」
 言うと同時、上空からビームを放つ!

「何よ、アイツ!?」
 ヘルガンナーの出現はライカ達もとらえていた。上空からビームの雨を降らせるその姿を見上げて声を上げる。
「ブレイカーロボじゃない――けど、瘴魔でもない……!?」
「あれは、一体……!?」
 同様にヘルガンナーを見上げ、鈴香とジーナが疑問をあらわにし――
「何ナニ、アレ!?」
「なかなか面白そうね……」
「――って、この人達は……!」
 彼女達とは別の理由で興味を示すマリアと椿の言葉に、ジーナは思わず肩を落としてうめく。
「どうする? 椿」
「そうね……
 ぜひとも戦ってみたいものだけど、ヘタに手を出してブレードくんの機嫌を損ねてもつまらないしね……」
 マリアの問いにしばし考え――椿は息をついた。
「ここはやっぱり、私達の相手は引き続きブレイカーズのお嬢様達にお願いしましょうか。
 あのサイズの機体を繰り出してくる相手だもの。次がないとも思えないし」
「だね」
 言って、二人はライカ達へと振り向き――
「リズ!」
「はーい!」
「カノン!」
「ここに」
 椿の、そしてマリアの言葉に答え、虎、そして陸ガメの姿をしたプラネルが彼女達のもとへと駆けつける。
 そして――
『オープン、ザ、ゲート!』
 虎型のリズ、陸ガメ型のカノンが叫び――頭上の空間が歪み、開かれてゲートを展開。その中から2体のブレイカービーストが姿を現す。
 リズやカノンと同じ、虎型と陸ガメ型――彼らのブレイカービーストに間違いはない。
「いきますよ――アイスティーゲル!」
「やっちゃうよ――アイアントータス!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 アイス、ブレイカー!」
 椿の叫びに、アイスティーゲルが椿を頭上に乗せて疾走。頭部のコックピットに招き入れるとそのボディが変形を始める。
 両後ろ足が折りたたまれ、後半身が後方へとスライド、左右に分かれてつま先とニーガードが起き上がり、ロボットの両足となる。
 一方、両前足はまっすぐに正され、つま先がたたまれ拳が飛び出し、肩アーマーが起き上がるとロボットの両腕になる。
 続いて獅子の頭部が胸部へと移動。ロボットの頭部が飛び出し、人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。
 最後にアンテナホーンが展開、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「アイス、ユナイト!」
 椿が叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイが輝き、合身を遂げた椿が咆哮する。
「氷結合身、アイス、ブレイカー!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 アイアン、ブレイカー!」
 マリアが叫び、アイアントータスがホバー走行で疾走――と、その甲羅が分離し、ボディ下部のバーニアでアイアントータスは上空へと飛び立ち、変形を開始する。
 まずは背中が後方に起き上がり、そのまま後方に展開、左右に分かれて両足になる。
 カメの後ろ足が分離し、それぞれ前足に合体、拳が飛び出し、両腕が完成する。
 分離していた甲羅が中央と左右の三つに分かれ、左右の部分は両腕の外側を守るように合体してショルダーガードに、中央部分は背中に合体、バックパックを守る。
 頭部が飛び出し、アンテナホーンが前方へと展開。人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれ、額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「アイアン、ユナイト!」
 マリアが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し、カメラアイが輝き、合身を遂げたマリアが咆哮する。
「装甲合身、アイアン、ブレイカー!」

 ズンッ!――と地響きを立て、合身を完了した椿とマリアはライカ達の前に着地。悠然と彼女達を見下ろす。
「あれが、彼女達のブレイカーロボ……!」
「感心してる場合!?
 あたし達も合身するわよ!」
 うめくジーナにライカが告げると、
「そーそー、さっさとブレイカーロボを準備しちゃって♪」
「待っててあげますから、楽しませてくださいね♪」
「あー、もう、調子狂うわねぇ……!」
 気楽に告げる椿達の言葉に、ライカは苛立たしげに頭をかき、
「上等じゃない!
 そんなにロボ戦がお望みなら、ご希望どおり叩きつぶしてあげるわよ!」
 

「おぉりゃあっ!」
「ぅわぁっ!」
 力任せに殴りかかるバベルの打撃をかわし、橋本は前方に転がって難を逃れるとそのまま空中へ離脱し、
「シャドースマッシャー!
 シャドー、サーヴァント!」
 両肩の精霊力粒子砲“シャドースマッシャー”をバベルのファングカイザーに叩き込み、さらに射出した2基の多目的兵装ポッド“シャドーサーヴァント”でこちらに狙いを定めたヘルガンナーを牽制する。
 地上でグリフやブレードと戦う青木へと視線を向け――
「あれは!?」
 愛機を呼び出し、椿達と対峙するライカ達に気づいた。
「カイザーブレイカーに、スカイホーク――ランドライガーも!?
 じゃあ、相手は……!?」
 見慣れない機体だが、額にあるBブレインは紛れもなくブレイカーロボの証だ。新たな敵の出現に橋本が声を上げ――
「オレの、仲間だよ!」
 グリフの一撃をかわした青木との間合いが開いた一瞬を活かし、ブレードがそう答えつつ光刃を放ってくる。
「ぅわぁっ!?
 青木さん、そっちをしっかり抑えてくださいよ!」
「わかってるっての!」
 橋本に答える青木だが、元々彼の駆るセイントブレイカーは5体合体を活かしたパワーが一番の売りだ。当然そのシステムは接近戦に傾いており、火器関係の兵装も少ない仕様になっている。
 従って、多数の機体が入り乱れる機動戦はむしろ苦手分野だ。グリフ、ブレードを同時に相手にしては一方しか相手にできないのが現状だ。
 せめてスピードだけでも上げられれば――青木がそんなことを考えていると、
「青木さん!」
「おぅ!」
 意図を確認するまでもなかった――ファイの呼びかけに答え、青木は背中のバーニアで飛び立ち、彼女の元へと飛翔する。
 そして――

「セイントブレイカー!」
「スカイホーク!」
『爆裂武装!』
 青木とファイが叫び、セイントブレイカーを追ってスカイホークが加速していく。
 そして、翼が根元からボディ前面へとスライド、頭部が180度回転して後方に倒れ、バックパックユニットとなる。
 そのままバーニアで加速し、サウススパローの翼を下方に向けたセイントブレイカーに追いつくとその背中に合体、しっかりと固定され、Xの字に2対の翼が展開される。
「アーマード・ドライブ!」
 ファイが叫ぶと彼女の身体は光球に包まれ、青木がユナイトしているため無人となっているセイントブレイカーのコックピットへと転送。システムをスカイホークとリンクさせる。
『セイントブレイカー、スカイウィングモード!』

「さぁて、反撃開始!
 まずは――てめぇだ!」
 咆哮と共に急加速。新たな翼を得た青木は弾丸の如く飛翔し、橋本を狙うヘルガンナーを狙う。
「はっ、自殺志願かよ、てめぇ!」
 対し、ヘルガンナーはライフルをかまえるが――
「そんな照準スピードで――!」
 ファイが告げると同時――その姿がかき消えた。
 次の瞬間――
「――――――後ろ!?」
 レーダーに反応が現れると同時に急加速――背後に回り込んだ青木のスティンガーファングをかわす。
「浅い!?
 青木さん、スティンガーファングの間合いじゃ!」
「やっぱ届かせるにはちと間合いが狭いか……!
 なら!」
 ファイの言葉に応じると、青木は右手で左のスティンガーファングの甲、その中央のグリップに手をかけ、
「聖獣剣!」
 咆哮と共に抜き放つと、その正体は剣の柄――と、柄からエネルギーがあふれ出し、物質化して刃を作り出す。
「そんなのがあるんなら早く使ってよ!」
「瘴魔相手じゃ役に立たねぇんだよ、対魔攻撃力が低いから!
 コイツはあくまで物理攻撃用なんだよ!」
 ファイに答えながら、青木は勢いよくヘルガンナーに斬りかかり、回避で姿勢の崩れたヘルガンナーを蹴り飛ばす!
 痛烈な一撃を受け、ヘルガンナーは勢いよく吹き飛ばされ――
「きゃあっ!?」
 ライカの射撃をかわし、後退したマリア――アイアンブレイカーの背中に激突した。
「もう、ジャマしないでよ!」
 突然突っ込んできたヘルガンナーに告げ、マリアは背中のアーマーの中から一振りの棍を取り出し――両肩のアーマーが分離、その先端に合体、巨大なハンマーを作り出す。
「ブッ飛べぇっ!
 アイアン、ハンマー!」
 咆哮し、ハンマーを振るうマリアだが、ヘルガンナーもそれをかわし、
「ジャマするな、だと!?
 そいつはこっちのセリフだ! ウロチョロしてんじゃねぇ!」
 言い返すなり、手にしたライフルでマリアを牽制。さらに背中に固定していた実剣を抜き放つ。
 ライフルでの牽制を続けながら、間合いを詰めて刃を振るい――
「そんなの!」
 その刃は、マリアの眼前で止められていた。
 彼女の周りに展開された力場によって受け止められたのだ。
「へぇ……バリアか」
「バリアじゃなくて、力場だよ!」
 ヘルガンナーに言い返し、ハンマーを振るうマリアだが、ヘルガンナーもそれをかわし、
「けどな――破れないワケでもないだろうが!」
 今度は刃を腰だめに構え、バーニアを全開。高速で突撃し、マリアの力場に刃を突き立てる!
 強烈な推力を切っ先の一点に集中され、さすがのマリアの力場にも歪みが生じる。
(マズい――!?)
 さすがにこれは力場を破られかねない――マリアは思わず胸中で冷や汗を流し――
「スキだらけだぜ、てめぇら!」
 そんな彼女を、そしてヘルガンナーを、突っ込んできたバベルのファングカイザーが弾き飛ばす!
「こいつ――神将!?」
「そういうこと。
 その上、怒り心頭でブチキレてやがる――十分に気をつけろよ」
 バベルの乱入にうめくライカに青木が答え、橋本と共に合流したのを皮切りに、ブレードも椿やマリアと合流。グリフもバベルの元へと降り立つ。
 ブレイカーズ、DaG、ヘルガンナー、そして瘴魔――それぞれの勢力が各々に集結した形である。
「四つ巴か……!」
「ヘタに動くと、他全部から袋叩きですね……」
 うめく橋本に鈴香が告げると、
「そんな心配ないんじゃない?」
 ライカがつぶやくと同時――
「まずは、てめぇらからだ!」
 咆哮と共に突撃、ブレードが斬天刀をかまえてバベルやグリフへと襲いかかる。
「ね?
 あのバトルマニアがいる限り、こう着状態なんてありえないんだから」
「んー、まぁな……」
 『どうだ。言ったとおりだろ』と言わんばかりに胸を張るライカの言葉に、青木はため息まじりに同意して――
「ずいぶんと、余裕じゃねぇか!」
 そんな彼らに、上空からヘルガンナーが爆撃を開始する!
「くそっ、ファイ、ジーナ達と合体を!
 これじゃキリがねぇ――まずはアイツから叩き落すぞ!」
 とっさに爆撃をかわし、青木はそのままの流れで背中のスカイウィングを分離。スカイホークへと戻ったファイはジーナ、鈴香と合流する。
「さて、誰の合体で行きますか?」
「飛べる相手が多いですから、鈴香さんかファイちゃんで……」
 エレメントブレイカーへの合体は機体への負担が大きい。できれば避けたいと考え、ジーナは鈴香の問いにそう答え――
「そんなのんびり、話してる場合!?」
 そんな彼女達に向け、マリアがアイアンハンマーを振りかぶって襲いかかる!
「ジーナ、みんな!?」
「私達なら大丈夫です!」
 思わず声を上げるライカにジーナが答え、彼女の駆るランドライガーはマリアのハンマーをかわして着地する。
「それより、ライカさんは椿さんを!」
「OK!」
 彼女達についてはしばらく任せても大丈夫のようだ――そう判断し、ライカはジーナの言葉にうなずくと椿のアイスブレイカーと対峙する。
 そして――
「お前の相手は――」
「オレ達二人、ってワケだ」
 ヘルガンナーの前には、青木と橋本が立ちふさがった。
 

「ふむ……戦いは乱戦模様ですか……」
 激しくぶつかり合い、構図が頻繁に入れ替わる――乱戦の度を濃くしていくその戦いを、遠く離れた自分達のアジトに投影された映像で見守り、“水”の瘴魔神将、幻水のザインはどこか他人事のようにつぶやいた。
「まったく、バベルもグリフも考えが足りん。
 あの程度の相手、我が策をもってすればたやすく片付くものを……」
 真っ向からぶつかるなど、非効率的なことこの上ない――ため息まじりにザインがつぶやくと、
「ずいぶんな言い分だな」
 そう尋ね、姿を現した“炎”の瘴魔神将、炎滅のイクトは静かにその場に降り立った。
「そこまで言うのなら……貴様はどうする?」
「今回はあの二人の意気込みを買おうとは思いますが……」
 尋ねるイクトに、ザインは少し考えながらそう答え、
「ですが、これでは決着がつかないのも事実。
 我が水軍から、少し戦力を提供させていただくとしましょう」
 その言葉と同時――戦場の真ん中に空間の歪みが発生した。
 

「何だ!?」
 突然出現した空間の歪み――ヘルガンナーのブレードをかわし、青木は思わず声を上げた。
「転移系の空間湾曲……!?
 気をつけて、青木さん! 何か出てきます!」
「何か、って何だよ!?」
 上空から告げる橋本の言葉に青木が聞き返した、その時――突然、歪みの中から無数のミサイルが飛び出してくる!
 しかも――
「な、何だよ、コイツ!」
「手当たりしだいかよ!?」
 攻撃はブレードやヘルガンナーにも襲い掛かった。それぞれにミサイルをかわし、後退する。
 そして――それは空間の歪みの中から姿を現した。
 全身に無数の突起をそなえた、真紅の瘴魔獣。媒介は――
「イソギンチャク……か……!?
 ってことは……!」
 媒介を察し、バベルはこの瘴魔獣を差し向けた人物に思い至った。
 自らの属性にあわせ、水棲生物を媒介にした瘴魔獣のみを配下に持つ者――
「ザインめ……余計なことを……!」
 うめくようにそうつぶやくバベルの目の前で――瘴魔獣は全身の突起からミサイルをばら撒き始めた。
「くそっ、ムチャクチャやりやがって!」
 狙いも何もあったものじゃない――とりあえずこちらの周囲にばら撒けばいいと言わんばかりのミサイル乱射に、青木は舌打ちしながら瘴魔獣に突撃。スティンガーファングを繰り出し――
「――――――何っ!?」
 その一撃が瘴魔獣を吹き飛ばすことはなかった。その太い両腕でガッシリと受け止められ、青木は思わず驚きの声を上げる。
 が――その驚きが一瞬のスキにつながった。至近距離からミサイルの直撃を受け、吹き飛ばされる!
 

「フッ、そいつをただの瘴魔獣だと思っているからそうなる」
 ミサイルの直撃を受け、吹き飛ばされるセイントブレイカーの姿をアジトで見物し、ザインは余裕の笑みを浮かべてつぶやいた。
「その口ぶりから察すると――貴様、あの瘴魔獣に何かしたな?」
「えぇ」
 尋ねるイクトに、ザインは特に隠すこともせずにあっさりと答えた。
「あの瘴魔獣は、瘴魔獣として成り立った個体にさらに我が瘴魔力を注ぎ込み強化した進化体です。
 言わばハイパー瘴魔獣――マスターランクのブレイカーといえど、たやすく倒せる相手ではありませんよ」
 

「ちぃっ! やってくれるじゃねぇか!」
 見境なく無差別攻撃を続ける瘴魔獣を相手に、ヘルガンナーは立て続けにキャノン砲を撃ち放つ。
 さすがはコンピュータ制御の無人機というべきか、その射撃は実に正確で、迫り来るミサイルを次々に叩き落していく。
 しかし――さすがにミサイルの数が多すぎる。いくら撃墜しても瘴魔獣の全身の突起から次々に放たれるミサイルは一向にその数を減らしてはくれない。
 それに、ヘルガンナーが撃墜しているのはあくまで“自分に向かってきているミサイル”だけだ。当然青木達やブレード達にもミサイルは容赦なく降り注ぐ。
「ったく、うっとうしいな!」
「こっちにロクな飛び道具がないからって偉そうに!」
 うめき、光刃や氷柱でミサイルを迎撃するブレードや椿だが、元々攻撃一辺倒の彼らでは迎撃もままならず、完全に防戦一方だ。マリアに至っては二人の後ろでなす術なく見守るしかないという有様だ。
 一方、防戦一方なのは青木達も同様だった。ミサイルの迎撃についてはライカと橋本が弾幕を張ることで対応しているが、先ほどの手痛いカウンターで青木のセイントブレイカーが重大なダメージを受けてしまった。彼をかばいながらではまともに戦えない。
 激しいミサイルの嵐でバベル達もこちらに攻め込められないでいるのが幸いではあるが――完全に動きを止められた形だ。
「どーすんのよ!
 これじゃいつまで経っても片付かないわよ!」
「あの手の相手に対しては、懐に飛び込んでの接近戦が一番……
 最も適しているのはセイントブレイカーですけど……」
 うめくライカの言葉に、マリンブレイカーに合身し、そう答えた鈴香は不安げに青木のセイントブレイカーへと視線を向け、
「その青木さんが、これじゃあ……」
 自己修復機能促進フィールド“マリンヒーリング”による懸命の修復にもかかわらず、セイントブレイカーのダメージは一向に回復しない。至近距離から受けた多数のミサイルは、彼に予想以上のダメージを与えてしまっている。
「仮に回復したって、肝心の青木さんの突進はさっき止められちゃったのよ。
 なんとか、他の方法で攻めるしか……!」
 鈴香達や青木をかばい、橋本と二人で懸命にミサイルを迎撃しながらライカがうめくと、
「いや……!」
 うめくように答え、セイントブレイカーは――青木はゆっくりと身を起こした。
「青木さん、大丈夫なんですか?」
「まぁ、な……!
 なんとか、起死回生の一撃を叩き込むくらいには、動けそうだ……!」
 思わず声を上げる鈴香に答え、青木はスティンガーファングをかまえる。
「もう一度……一か八か突っ込むまでだ。
 橋本みたいな万能防壁は持ってないけど、物理防御に限れば橋本より上だ。ミサイルについては何とかなるだろ」
「け、けど……!」
 そんな青木に、鈴香は不安げに声を上げる――いかにセイントブレイカーが物理防御力に優れていようと、あの弾幕を突破するのはやはりかなりの危険が伴う。
 その上、先ほど突撃を止められ、至近距離からミサイルでの手痛いカウンターを受けたばかりなのだ。ヘタに突っ込んでは――
 だが、青木はそんな彼女を諭すように優しく告げた。
「心配してくれてありがと。ホレてる身としちゃ感謝感激だ。
 けど――それ以外にこの状況を打開する手はない」
 言って、青木は自らが一体化しているセイントブレイカーの鋼の右腕へと視線を落とした。
「オレの本分は突っ込んでいってぶん殴ること――それだけなんだ。
 だったら……オレはそうするだけだ」
「青木さん……」
 決意は固い――青木の本気を感じ取り、鈴香は静かに息をつき――
「…………わかりました。
 それなら、私はそれを全力でバックアップするだけです」
「サンキュ」
 鈴香のその言葉に、青木は口元に笑みを浮かべて応え、彼女の駆るマリンブレイカーとガッシリと握手を交わし――
「その策、あたしも乗らせてもらうわよ」
 言って、ライカもまた握手している二人の手に自らの手を重ねた。
 ミサイルの迎撃はどうしたのか――思わず視線を彼女のいた場所に向けると、
「ミサイル蹴散らすぐらいなら、オレひとりで十分だからね!
 バッチリ決めてくださいよ、青木さん!」
 言って、橋本は両肩のシャドースマッシャーで懸命にミサイルを迎撃しながら、左手だけをこちらに向けてサムズアップしてみせる。
「………………だそうだ。
 期待を背負っちまった以上、一発で決めるぞ!」
「はいっ!」
「もちろん!」
 改めて気合を入れる青木の言葉に鈴香とライカが答え――
 

 その想いに彼らのブレイカービーストは応えた。
 

「きゃあっ!?」
 異変は突然――いきなりユナイトが解除され、ライカはカイザーブレイカーのコクピットに放り出された。
「な、何!?
 どうしたの、鳳龍フォウロン!?」
「わ、わかんない……
 いきなり、見たことのないシステムが起動して……!」
「見たことのないシステム……?」
 答える自らのプラネルの言葉に、ライカは思わず眉をひそめ――
〈ら、ライカさん!〉
 そんな彼女に、あわてた様子の鈴香から通信が入った。
「ひょっとして、そっちもユナイトが!?」
〈はい……けど、ブレイカーロボ形態は維持されたままで……
 それに、何かが勝手に動いてて……!
 ジーナさん、どうなってるかわかりますか!?〉
〈待ってください! 今調べてます!〉
 尋ねる鈴香の問いに、ソフトウェア面担当のジーナはすぐに起動したシステムを検索し――
〈こ、これって……!?〉
 判明したその正体に、思わず言葉を失った。
〈今まで使ってきたものとは違う――まったく新しい合体システム!?〉

「ど、どうなってんだよ!?」
 異変はセイントブレイカーにも起きていた。ライカ達のようにユナイトこそ解除されていないものの、突然新たなシステムがメインシステムに割り込みをかけ、制御の主導権が奪われてしまった。
「これから反撃って時に、何がどうなってんだ!?」
 よりにもよってこんな時に――思わず歯噛みする青木だったが、
「…………こんな時だからこそ、だよ……」
「何………………?」
「セイントユニコーンがそう言ってるの」
 聞き返す青木に、ファントムはセイントブレイカーのコクピットでそう答える。
「こんな時だから――ケイジに、“新しい力”をくれる、って……」
「“新しい力”…………?」
 思わず聞き返した、その時――突然、自らの脳裏にとある情報が流れ込んできた。
 ユナイトしていることで、データが直接頭の中に流れ込んできたのだ――すぐにその内容を確認する。
 そして――
「………………なるほど、ね……」
 つぶやき、青木は不敵な笑みと共にライカ達に告げた。
「ライカ、鈴香。
 二人とも、いくぜ――合体だ!」
 

「超、聖獣合体!
 バスター、フォーメーション!」

 青木のその号令を合図に、セイントブレイカーが急上昇、カイザーブレイカー、マリンブレイカーがその後を追う。
 そして、マリンブレイカーは3体のブレイカービーストに分離。さらにスカイホークとマリンガルーダは通常の合体時と同様翼を切り離すと前後に分離、セイントブレイカーの周囲を飛翔する。
 最初に合体するのは通常の合体で両足となるそれぞれのバックユニット――側面に露出させたジョイントでセイントブレイカーの足の裏に合体、より巨大な脚部を形成する。
 通常の合体では両腕となる前部はヒジの関節部を覆うようにスライドして縮むと、ライガーショットに変形したランドライガーの両サイドに合体、まるでキメラを思わせるような風貌となったその主砲はセイントブレイカーの左肩に合体する。
 一方、カイザーブレイカーは両足が分離。それに呼応したセイントブレイカーが両腕を一旦分離させ、カイザーブレイカーの両足はボディと両腕の間に挟み込まれるかのように合体する。
 残るカイザーブレイカーの上半身はカイザーフェニックスのそれへと変形、頭部を背中側に折りたたむと分離していたスカイホーク、マリンガルーダの翼を首の両側に合体させ、3対の翼を供えたバックユニットとしてサウススパローの翼を下方に向けたセイントブレイカーの背中に合体する。
 合体して各部とのシステムリンクが完了、額の“Bブレイン”、そしてカメラアイに輝きが甦り、両の拳を力強く握り締める。
 胸部に用意された新たなコクピットにライカ達が各々のプラネルと共に転送され、すべての合体プロセスを完了した青木が高らかに咆哮する。
「バスタァァァァァッ! セイント、ブレイカァァァァァッ!」
 

「な、何だと!?」
 3体のブレイカーの合体、そんなものはデータにない――合体を完了し、その場の全員に対し圧倒的な存在感と共に立ちはだかるバスターセイントブレイカーの威容に、ヘルガンナーが思わず声を上げる。
「ヤツらに、まだあんな切り札があったとは……!」
「だからどうした!」
 驚いたのは彼らも同じだった。うめくグリフだったが、対してバベルはそれでも気丈に言い返す。
「合体しようがしまいが、ヤツはオレが倒す!
 ヤツらを全員ブチ殺して、シンの仇を討つ!」
「待て、バベル!」
 あわてて叫ぶグリフの制止を振り切り、バスターセイントブレイカーへと突撃したバベルのファングカイザーは渾身の力で右前足の一撃を繰り出し――バスターセイントブレイカーの眼前で、その一撃が動きを止めた。
 合体し、より強力になった力場がファングカイザーの一撃を受け止めたのだ。そして――
「それが――どうしたぁっ!」
 対し、青木が放ったのはたった一撃――真上に振り上げ、そこから振り下ろすように叩き落した右拳の一撃が、ファングカイザーの巨体を大地に叩き込む!
「す、すごい……!」
「瘴魔神将の操る機体を、一撃で……!?」
 自分達の得たすさまじいパワーに圧倒され、ジーナとライカが思わずうめくと、
「やるじゃねぇか!
 次は、オレとやろうぜ!」
 そんな彼らに対し、今度はブレードが突っ込むが、
「ジャマを――」
 青木は振り下ろされた斬天刀の一撃を左腕に作り出したスティンガーファングで受け止め、
「するなぁっ!」
 渾身の右フックで、ブレードを殴り飛ばす!
「青木さん、瘴魔獣を!
 その後各勢力がどう動くにせよ、それで確実に流れは変わります!」
「わかった!」
 告げる鈴香にそう答えると、青木は改めて瘴魔獣へと向き直り、
「悪いが――こっちは慣れない合身で力の加減が利かないんだ。
 そんなワケで――出し惜しみなしの一発で、一撃の下に消えてもらうぜ!」
 

「エナジー、ブリッド!」
 告げて、青木は腰のツールボックスから1発の弾丸を取り出すと右腕のスティンガーファングへと装填し、
「スティンガーファング――Standing by!」
 青木の咆哮に応え、スティンガーファングがエネルギーをチャージ、周囲に巻き起こったエネルギーが高速で渦を巻く。
 スティンガーインパクトの時よりもはるかに強力に荒れ狂うそのエネルギーは、竜巻となって瘴魔獣に襲いかかった。その周囲を包み込み、あっという間に逃げ場を奪い去る。
 そして――青木はすぐさま地を蹴り、自らの生み出したエネルギーの竜巻の中を一直線に瘴魔獣へと突っ込み、
「聖獣――超貫!
 バスター、インパクト!」

 繰り出した右の一撃が瘴魔獣へと叩きつけられ――その体表を空間湾曲でこじ開けると内部に現れた中枢核に一撃を叩き込む!
 そして、青木は瘴魔獣の身体に突き刺さったスティンガーファングを引き抜き――その傷を中心に“封魔の印”が浮かび、
「The End」
 青木が告げると同時――大爆発を起こし、瘴魔獣は断末魔と共に四散した。
 その爆発に背を向け、青木が勝ち鬨の声を上げる。
「爆裂、究極!
 バスター、セイント、ブレイカァァァァッ!」

 

「なんつーパワーアップだ……!
 さっき自分の攻撃を受け止めた相手を、今度は一撃かよ……!」
 まさに圧倒的なパワーで瘴魔獣を粉砕したバスターセイントブレイカーの姿に、その光景を上空から眺めていたヘルガンナーは思わず舌打ちした。
「こりゃ、今のままぶつかってもブッ壊されるのがオチだな……
 ……ま、所詮オレは試作機だ。やられてもかまわんか」
 つぶやき、ヘルガンナーは腰のキャノン砲をかまえ――突然、そんな彼のメインシステムに電文が届いた。
 自分を作り出した連中からの行動指示だ。内容は――
「撤退命令、だと……?」
 どうせ使い捨てなのだ。放っておいてもよさそうなものだが――
「……仕方ねぇか。
 マスター達の命令は最優先だからな」
 少しふざけ気味につぶやくと、ヘルガンナーは銃口を下ろし、
「マスター次第だが……また戦えることを祈るぜ。
 合体することでパワーアップするってわかった以上、やりようなんていくらでもあるんだからな」
 静かにそう告げると、ヘルガンナーはその場から飛び去っていった。
「青木さん!」
「アイツ……逃げたのか……?」
 その動きに気づき、声を上げる橋本に青木がつぶやくと、
「ちょっと、ブレードってば!」
「しっかりしてください!」
 そんな彼らの脇では、椿とマリアがブレードを助け起こしていた。
 セイバーブレイカーのボディはロボットモードのままだが、カメラアイに輝きが見られない。自分の一撃で気でも失ったのだろうか――そんなことを考えながら、青木は椿に尋ねた。
「で? どうする?
 まだやるか?」
「うーん……私達としては、ぜひお願いしたいところだけど……」
「それやっちゃうと、勝っても負けてもブレードがうるさそうだし。
 そんなワケだから、今日はサヨナラ!」
 青木の問いに椿と共に答え――マリアのアイアンブレイカーの各部から漆黒の煙が噴出した。展開した煙幕に紛れ、“DaG”の面々は戦場から離脱していき――
 

 気づけば、瘴魔神将達もその姿を消していた。
 

「つまり――マスター・ランクのブレイカーロボはコマンダー・ランク、ノーマル・ランク1体ずつと合体することで、バスター・ランクにパワーアップできる、ってことか?」
「そういうことですね」
 戦闘後のブレイカーベース――尋ねる青木に、鈴香はジーナがまとめ終えたデータに目を通しながらそう答えた。
「フレーム構造の違いから多少シークエンスは変わりますが、システムが互換してますからシャドーブレイカーとも当然合体が可能ですし――」
 プリントアウトしてもらったその紙面をパラパラとめくり、鈴香はそこで一度言葉を切り、
「……帰還してくれれば、ジュンイチくんのゴッドブレイカーとも合体が可能です」
「バスターシャドーブレイカーに、バスターゴッドブレイカー、ってことか……」
 そうつぶやく橋本から視線を外し――ファイはとなりのあずさに尋ねた。
「ねえねえ、あずさお姉ちゃん」
「何?」
「今の話の通りだと……ライカお姉ちゃんが合流した時点で、もう合体できる条件が整ってたことにならない?」
「そういえば……
 カイザーフェニックス達、どうして黙ってたのかしら……?」
 そんなファイの疑問の声を聞きつけ、ライカが腕組みをして考え込んでいると、
「ま、3パターンの中でやっぱり一番頼れるのはオレのセイントブレイカーかな?」
 ――ピクッ。
 自信タップリにつぶやく青木の言葉に、こめかみがわずかに歪んだのは橋本である。
「いやいや、遠距離戦ならシャドーブレイカーが一番っスよ」
「何言ってんだ。
 シャドーブレイカーなんて主力は砲撃兵装ばかりで、近寄られたらそれで終わりだろうが」
「それを言ったら、セイントブレイカーだって離れられたらアウトでしょ!」
 答える青木に橋本も反論、二人はそのまま口論に突入してしまう。
 しかしそれも無理もない。ブレイカーロボは、戦闘時は一心同体、自分自身と言ってもいい。
 すなわち、自分のブレイカーロボが劣ると言われるのは、自分の力量が劣っていると言われるのと同義なのだ。負けん気の強い彼らが黙っていられるワケがない。
 ともかく、言い争う二人を見ながら、ジーナはあずさとライカに告げた。
「……わかりましたね、今までランドライガー達が合体のことを教えてくれなかった理由」
「うん……」
「イマイチまとまりないもんねぇ、ウチのマスターブレイカーリーダー連中……」
 

「じゃあ、今日襲ってきたヤツらって……」
「おそらく……いや、ほぼ間違いないだろう」
 同時刻、ブレイカーベースの別の一室――呼び出され、一連の事情を聞かされた翼のつぶやきに、龍牙は深刻な面持ちでそう答えた。
「あの時現れた、ラヴァモスにそっくりに作られた生物兵器――そして、ヘルガンナーと名乗った機動兵器……
 あれは間違いなく――ジュンイチが仇として追っている、“ヤツら”の作り出したものだ」
 そう告げると、龍牙は深々と息をついた。
「ジュンイチが知ったら、何て言うでしょうね……」
「さぁな。
 だが……」
 翼に答え、龍牙は静かに続けた。
「今となっては、私はジュンイチに戻ってきてほしくないとまで考えてしまうよ……」
「そうですね……」
 龍牙の言葉は、翼にとっても同意見だった。彼と同じように、視線を落として続ける。
「あの子にとっては……」


“自分自身の次に”、憎い仇だものね……」


Next "Brave Elements BREAKER"――

ライカ 「出てきた瘴魔獣を、いつものようにスパーンッ! と倒したあたし達。
 けど、それが原因でブレイカーベースがとんでもないことに!
 この事態を解決できるのはアンタ達だけよ!
 がんばんなさい! ジーナ………………と橋本!」
橋本 「なんでオレだけそんな扱いなんだよ!?」
ライカ 「次回、勇者精霊伝ブレイカー、
 Legend22『奪われたブレイカーベース』
 そして、伝説は紡がれる――」


 

(初版:2007/05/03)