時間はしばしさかのぼり――
さらに世界の壁さえ飛び越える――
「…………こんなもの、か……」
目の前に展開されたそれを見て、ジュンイチは満足げにうなずいた。
だが、晴れやかな表情とは裏腹にその姿はボロボロだ。彼自身の傷は癒えているようだが、身にまとう道着はズタズタで、全身に汚れが目立つ――それも泥などによる、ありきたりな汚れではない。
彼自身の流した血が乾き、こびりついた結果だ。
そして、彼の目の前で口を開けているのは、人ひとりの背丈と同じぐらいの大きさに描き出された魔法陣だった。
サイズが違いすぎ、またその色も違うが――よく見てみると、かつて影山涼がジュンイチを“ここ”に飛ばした術を用いた、あの時に描いたものと同じであることがわかる。
「ほら、行け、ブイリュウ」
「け、けど……」
傍らの相棒を促すジュンイチだったが――その相棒は未だ納得がいかないようだ。ブイリュウはジュンイチを見上げ、不安げに言葉を濁す。
「ジュンイチ……ホントに一緒に帰れないの?」
「仕方ないだろ。
現時点において、オレの転移術にかかわる技能が壊滅的なのは、お前もここでの修行で思い知っただろうが。
『自分以外を飛ばす』ように設定したからこうして安定してるだけで――これでオレ自身を対象に含めたら、元の世界に返れるかどうか、どころか、そもそも術が発動するかどうか、って段階から心配しなきゃならなくなるだろうが。
まぁ、その辺りは今後の努力で上達することでフォーするとして……とりあえず、いつまでも“向こう”をほっとけない。上達を待ってる時間がない以上、今の時点で帰るには、この方法しかないんだ」
「そ、それはそうだけど……」
「だから、オレはオレで手を打つから、お前は先に帰ってろ」
「だ、だからって……」
そのジュンイチの言葉に、ブイリュウは自分の背中にくくりつけられた“荷物”へと視線を向けた。
「ホントにいいの? オイラが“紅夜叉丸”を持って帰っちゃって。
その上、苦無とかの武装一式や――精霊石と“オーガ”まで……」
「大丈夫だ。
とゆーか、むしろ持ってってくれ、是が非でも」
告げるブイリュウの言葉に、ジュンイチはキッパリと断言した。
「この際だから白状するが――実のところ、『オレひとりだけで』っていう前提なら、帰れるアテはあるんだ。
ただ――その方法だと、“紅夜叉丸”やブレイカーブレスのような装備品は持って帰れない。お前に持ってってもらうしかないんだ」
「むー……」
諭すように告げるジュンイチの言葉に、ブイリュウはしばし口を尖らせていたが、
「…………わかった。
じゃ、先に帰ってるね」
「おー。帰れ帰れ」
とうとう観念したブイリュウの言葉に、ジュンイチは手をパタパタと振りながらそう答え――
「……けど」
そんなジュンイチに、ブイリュウは付け加えた。
「どんな方法で戻ってくるのかは知らないけど……自分を傷つけるような方法だけは、しないでね。
そんなの、みんなが喜ぶワケないんだから」
「……善処しよう」
「約束だからね、絶対だからね!」
「えぇいっ、しつこいっ! とっとと帰れ!」
しぶとく食い下がるブイリュウに言い返すなり、ジュンイチはブイリュウの頭をつかむと大きく振りかぶり、そのまま魔法陣の向こうに投げ込んだ。
「絶対だからねぇぇ……!」
「ったく……」
声の残滓を残しながら魔法陣に溶け込んで消えていくブイリュウを見送り――ジュンイチは術の成功を確認すると魔法陣を打ち消した。
息をつき――つぶやく。
「まったく、あのバカプラネルが……」
「どーして、こーゆー時だけカンが鋭いんだか……」
Legend23
「復活の炎」
ズガァッ! と轟音を立て、それは大地に打ち込まれた。
槍のようにも見えるが――違う。突き立てられたものには継ぎ目というものが見られない。これが槍ならば刃と握りが一体化していることになる。
同じものを等間隔に、円を描くように6本を配置し――バベルは息をついた。
「さぁ、来るがいい、ブレイカー達よ……
オレの盟友を殺した罪、その命をもって償うがいい」
そう告げるバベルの背後で――6本の柱は互いを光のラインで結び合い、六芒星の魔法陣を描き出した。
『――――――っ!?』
夏休みであり、学校に通う必要などない――ライカ、ファイ、鈴香、この3人の“転校組”がブレイカーベースで編入試験の勉強をしていたところに、その気配は強烈に襲いかかった。彼女達(主にライカ)の勉強を教えていたジーナや橋本も含め、とっさに立ち上がって気配のした方へと視線を向ける。
「橋本くん、鈴香さん、これって……!」
「特定の誰かの“力”ってワケじゃない……
この人工的な感じ――単純な術式で、人為的に“力”を作り出してる……!」
「それに、何かの目的のために生み出して使っている、という感じでもないですね……
ただ生み出し、放出している――そんな感じです」
真っ先に尋ねた相手は、元々退魔士であり“力”の機微にはもっとも通じている二人――尋ねるジーナの問いに、橋本と鈴香は真剣な表情でそう答える。
もし、二人の言うとおりだとすれば、この“力”を解き放った主の目的は――
「『自分はここにいる。かかって来い』ってワケね……
安い挑発じゃないの」
「ここまでやるってことは神将さんだろうけど……あたし達だってここまで勝ってきてるんだもん!
今回だって負けないんだから!」
うめくライカの言葉にファイが告げ、二人は視線を交わしてうなずき合う。
「橋本くん、すぐに青木さんに連絡を。
今日は職場に出勤のはずですから、合流は少し遅くなるでしょうけど……その間に、私達もすぐに現場に向かいましょう!」
「ちょっと、どーしてジーナが仕切るのよ!?
ここはコマンダーのあたしが指揮を取る場面でしょ!?」
「いや、お前だってマスター・ランクの補佐が仕事だろ。なんでオレを差し置くんだよ」
ジーナに対して抗議の声を上げるライカに橋本がツッコみ――ともかく、そんなやり取りを交わしながら彼らは現場へと急行することにした。
「フンッ、ずいぶんと遅かったな」
ようやく自分の前に姿を現した橋本達の姿に、バベルは苛立ちを隠しもしないでそう告げた。
実は意外と待たされた――自分の背後の術式陣を展開してから、優に1時間は経過している。
しかし、そんなバベルの言葉に、橋本達は顔を見合わせ――バベルに向けて同時に吼えた。
『そう思うんなら……埼玉の山奥でなんか待ち構えるな!』
そう――現在彼らがいるのは埼玉の山奥にある、少し開けた岩場である。
青木という唯一の車所有者が不在の彼らがここに来るのは正直骨が折れる――少々かっこ悪い話になるが、電車を乗り継ぎ、街中を駆け抜け、やっとの思いでここまでたどり着いたのだ。1時間の遅れですんだのはむしろ早いと言えるくらいだ。
「やれやれ、せっかく招待してやったのに、そういうことを言うのか。
貴様らも全力を出せるよう、人気のないこの場を選んでやったというのに」
「迷惑なんだよ、そーゆー余計な気遣いは!」
「見たところ瘴魔獣もいないようですが――私達を相手に、たったひとりで戦うつもりなんですか!?」
「この前カッコ悪く逃げてったの、忘れてないよね!?」
余裕の笑みと共に告げるバベルに橋本と鈴香、そしてファイが言い返すが――
「そうだと言ったら?」
『――――――っ!?』
淡々と告げるバベル――しかし、その言葉と同時、彼から強烈なプレッシャーが解放された。解き放たれたその圧力を前に、橋本達の間に戦慄が走る。
「な、何よ、アイツ……!」
「なんて“力”……!
この間の戦いじゃ、本気じゃなかったって言うんですか……!?」
思わず身構え、うめくライカやジーナの前で、バベルはゆっくりとこちらと正対する。
「貴様らの考えている通りだ。
この間の戦いは余計な横槍によって全力を出すまでには至らなかった――だが、今こそ見せてやる。
シンも見せるには至らなかった――瘴魔神将の本当の全力を」
「上等よ!
そこまで言うなら、ブッ飛ばしてあげるわ!」
言い返すなり着装。“装重甲”のバーニアで一瞬にして加速し、ライカは一気にバベルとの間合いを詰め――直前で鋭角に軌道を変え、今度は後退しながらカイザーショット、カイザーブロウニングで攻撃を仕掛ける。
だが――バベルには届かない。放たれた精霊力の銃弾は、そのすべてがバベルの眼前に展開された力場によって受け止められてしまう。
「――だったら!」
舌打ちし、ライカは着地すると同時に再びバベルへと間合いを詰めた。カイザーショットを放り出し、カイザーブロウニングから変形させたカイザーソードを光天刃へと“再構成”し、渾身の力でバベルへと斬りかかり――
「そんなものか?」
その斬撃を、バベルは左手に収束した力場で受け止めてみせる!
(光天刃の空間湾曲が――効かない!?)
防御不可能なはずの光天刃の斬撃が通じない――平然と光天刃の刃を握り締めるバベルの姿に思わずライカが驚愕し――
「スティンガー、インパクト!」
咆哮と共に一撃――遅れて戦場に到着、そのまま飛び込んできた青木が、バベルへとスティンガーインパクトを放つ!
タイミングは完璧。奇襲ということもあり、バベルにこの攻撃をかわす手段はなかった――が、
「その程度の――奇襲で!」
バベルは空いている方の手に力場を収束し――スティンガーインパクトを受け止める!
「そんな!?」
「ウソだろ!?」
まさか、光天刃よりも強力な空間湾曲を引き起こす、青木のスティンガーインパクトのさえも通じないとは――驚愕する二人だったが、バベルはかまわない。先に捕まえていたライカを振り回し、青木に叩きつける!
「ライカ!」
「ケイジ!」
「バカか、貴様ら。
こっちは瘴魔力と精霊力、両方使える分だけお前らよりも高出力が出せるんだ。貴様らの必殺技を封じるレベルの空間湾曲など、術式の苦手なオレでも力ずくでどうにかなっちまうもんなんだよ」
鳳龍とファントムの悲鳴が響く中、吹っ飛ばされる青木とライカを見送り、バベルは吐き捨てるように告げ――
「だったら――」
「それを使わせなきゃいいだけだもん!」
その瞬間には、すでにジーナとファイがバベルの両脇に飛び込んでいた。バベルの反応よりも早くそれぞれの手の中のランドトンファーが、ソニックダガーが動き――
「遅い」
しかし、その一撃がバベルに届くことはなかった。一瞬早く“真下からの”一撃を受け、真上に吹っ飛ばされる!
バベルが地面に“力”を流し込み、ジーナとファイの真下の地面を瞬間的に隆起させたのだ――ジーナも攻撃手段として用いる“岩盤の武器化”である。
「どうした!? それで終わりか!?」
「そんなワケ――」
「ないだろ!」
吼えるバベルに言い返し、鈴香がウォーターボウガンを、橋本が影天銃をかまえた。同時にバベルに向けて斉射するが――やはりバベルには届かない。地面を隆起させ、盾として二人の攻撃を防ぐ。
「くそっ、硬い……!」
「“影”はともかく、“水”は“大地”と決して相性は悪くないはずなのに……!」
「言っただろうが――出力が違うと!」
うめく橋本と鈴香に答え、バベルは二人に一撃を見舞うべく地を蹴り――
――数多の牙の宿りし大地よ――
「――――――っ!?」
聞こえてきたのは明瞭な呪文詠唱――今までの能力を解き放つ攻撃とは違う、術としての攻撃の気配を聞き取り、バベルは声の聞こえた方へと――ジーナの方へと振り向いた。
「精霊術か――させるか!」
咆哮し、ジーナへと跳躍するバベルだが――ジーナの方が早かった。
――我が意に従いて我が敵を薙ぎ払え!
「轟虎破錐撃!」
バベルの拳が届くよりも早くジーナの術が完成――同時、彼女の周囲の地面に無数の岩の錐が放射状に発生、真下から一撃を受け、さすがのバベルも真上に跳ね飛ばされる。先程の一撃のお返しとなった形だ。
「橋本くん、青木さん!」
「おぅ!」
「了解!」
スキができた。一気に畳みかける――告げるライカに答え、ファントムやヴァイトを控えさせた青木と橋本はそれぞれ精霊石をかまえ、
「キマイラ!」
《うむ!》
「デスサイズ!」
《御意!》
咆哮と共にそれぞれのプラネルを媒介に精霊獣を呼び出し、バベルに向けて一撃をお見舞いする!
「どうだ!
こっちだってやられてばっかりじゃないんだ! 調子に乗ってると痛い目見るぜ!」
大地に叩きつけられたバベルに対し、自信たっぷりに言い放つ橋本だが――
「誰が、調子に乗ってるって……?」
答えて、バベルはゆっくりと身を起こした。
「じわじわといたぶって、シンを殺したことを後悔させながら殺してやろうと思っていたが……もうやめだ!
そんなに死にたいなら、望みどおり叩きつぶしてやる!」
《その前に――》
《我らが相手だ!》
咆哮するバベルに対し、キマイラとデスサイズが襲いかかるが――
「なめるなぁっ!」
バベルは止まらない。二人の一撃をかわし、逆に力任せの拳で殴り飛ばす!
意識を集中し、作り出したいもの、その能力をイメージする――
大地に手を当て、ジュンイチは精霊力を流し込んでそれを作り出した。
ナイフ――いや、小太刀である。
「ブイリュウは“向こう”に無事戻ったと思うし……後はオレだけ、なんだけど……」
ため息まじりに小太刀へと手を伸ばし、ジュンイチは逆手に刃を取って狙いを定める。
「この“能力”、帰還できなくなった時には便利なんだけど……あんまり気が進まないんだよなぁ……痛いし」
基本的に手段を選ばない彼でさえもためらう、その“手段”を前に、彼自身のためらいが伝わり、手にした刃が震える――だが、
「けど……他に方法はないんだ……やるしか!」
覚悟は決まった。刃を強く握って震えを殺し――
刃を、自らの心臓に突き立てた。
「おらぁっ!」
「きゃあっ!」
「ぅわぁっ!」
力任せに振るわれた両腕がうなりを上げ、一撃の元にジーナとファイを殴り飛ばし、
「今度こそっ!」
「くらえ!」
橋本と鈴香がウォーターボウガンと影天銃で攻撃を仕かけるが――やはり通じない。今度は防御すらされず、力場の強度のみでそのすべてを弾かれてしまい、
「今度は――こっちの番だ!」
バベルの言葉と同時――大地がうねりを上げた。突然足元の地面が跳ね上がって二人を跳ね上げ、さらに隆起した地面が触手となって二人を地面に叩き落す!
「さて、次は貴様らだ」
「く………………っ!」
告げて、こちらへと向き直るバベルの言葉に、青木は歯噛みしながらスティンガーファングをかまえる。
「どうするの? 青木さん」
「ンなの決まってる。
せっかく遠近分担できる組み合わせなんだ。オレが突っ込んでお前がフォロー、これしかないだろ」
横から尋ねるライカの言葉に、青木は迷うことなくそう答え――
「――普通ならな!」
そう付け加えた瞬間――背後から飛び込んできたキマイラが、渾身の一撃でバベルを大地に叩き込む!
「これなら効いただろ!」
文句なしの直撃だ――効果を確信し、青木が告げるが――
《ぐわぁっ!》
轟音と共に、キマイラの巨体が頭上高く跳ね飛ばされる!
そして――
「なかなか知恵が回るじゃないか……」
静かな怒りと共に、バベルはキマイラの攻撃でできたクレーターの中から再びその姿を現す。
「ウソでしょ!?
今の一発に、耐えたっての!?」
「いい加減、こっちの力を侮るのはやめたらどうだ?」
うめくライカの言葉に答え、バベルは拳を握り締め――
「みんな!」
新たな声が戦いの場に響いた。
それは、この場に現れるはずのない――“この世界にいるはずのない”者の声で――
『――――――っ!?』
驚く一同が声のした方へと視線を向け――
「よかった! 無事だった!」
「ブイリュウ!?」
背中に“紅夜叉丸”を背負ったブイリュウが駆けてくるのを見て、ライカが思わず声を上げる。
「ブイリュウくん! 無事だったんだ!」
久しぶりに出会う仲間を前に、ライムが思わず歓喜の声を上げてブイリュウに飛びつき――そんなブイリュウに駆け寄り、ジーナが尋ねた。
「ブイリュウ! ジュンイチさんは!?」
「え………………?」
だが、そんなジーナの問いに、ブイリュウは首をかしげた。
そして――聞き返す。
「ジュンイチ……まだ帰ってきてないの?」
『え………………?』
その言葉に、一同の目がテンになり――
「ほほぉ、まだひとり増えるのか……」
そんな彼らに、バベルは告げた。
「まったく、次から次にうっとうしいヤツだ。
まぁいい。来るなら来るで返り討ちだ。だが――」
言って、バベルは拳を握りしめ――
「それまで貴様らがもちこたえていられるかは、別問題だ!」
咆哮と共に拳を大地に叩きつけ――隆起した大地が、青木達に向けて岩石の弾丸を吐き放つ!
同時刻、柾木家の地下施設“柾木家地下帝国”――
コンピュータルームで、密かに起動したシステムがあった。
同時、さらに下層の施設最深部――いくつものカプセルが並ぶその前に置かれた端末が起動、ディスプレイにいくつかの文字の羅列が表示される。
〈Master Vital――Lost.〉
〈Back up――Stand by.〉
〈Next Master――Start up!〉
いくつかのメッセージが立て続けに表示され――カプセルのひとつが蒸気を噴出しながら解放されていく。
その中に収められていたのは、真紅に輝く8面体の結晶体で――
結晶体の影から、“何か”がにじみ出た。
「どうした? その程度か?」
「くっ、そぉ……!」
告げるバベルの言葉にうめき、何とか立ち上がろうとする橋本だが――傷ついた影天鎌の“再構成”が解けた。元に戻った多節棍の連結が外れ、支えを失った橋本はその場に倒れ込む。
他の面々もバベルに打ちのめされ満身創痍だ。なんとか立ち上がり、対峙している青木でさえ、“装重甲”はボロボロでスティンガーファングにも亀裂が走っている。
「ここまで、力の差があるなんて……!」
「当然だ」
うめく青木に淡々とそう答え――バベルは無造作に歩み寄り、立っているのもやっとの状態である青木を殴り飛ばす!
「タイミングが悪かったな。
マスター・ランクであるお前達なら、“力”の扱いに慣れてくればまだ戦えただろうが――覚醒したてのお前達じゃ、そこまでの“力”はまだ扱えない。
“力”に慣れる前にオレと出くわした、自分達の不幸を呪うがいい」
言って、バベルは握りしめた拳に“力”を込めた。とどめの一撃を放つべく、拳を頭上高く振り上げて――
「そうは――」
「させません!」
咆哮と共に攻撃が襲いかかった。飛来した雷光の弾丸がバベルの拳に集まった“力”を弾き飛ばし、さらに波打った大地がバベルの足元をすくい、跳ね飛ばす!
「これは……!
“光”のブレイカーと、“大地”のブレイカーか……!」
うめき、バベルが振り向いた先で――ジーナとライカはよろめきながらもその場に立ち上がる。
「まだあがくか。ロクに“力”もないクセに……
“力”のないヤツは、おとなしく後ろで引っ込んでいればいいものを!」
「“力”がないから……何だって言うんですか……!」
苛立ちを隠そうともせず、うめくように告げるバベルに答え、ジーナは右手にグランドトンファーを、左手に陸天扇をかまえる。
そして、ライカもカイザーショット、カイザーブロウニングをかまえ、
「“力”がないとか……弱いとか……それがどうしたってのよ。
何もする力がない……? それが何よ。
『何もできない』のと……『何もしない』のは同じじゃない!
たとえ何もできなくても、あたしは何かするわよ!
何もできなくたって……何もできないなりに、あがかせてもらうわよ!」
「そうか……」
決意と共にかまえる二人を前に、バベルは獰猛な笑みを浮かべ、
「そこまでの覚悟なら――本当に何もできなくしてやろうじゃないか!」
咆哮と共に、跳躍したバベルはライカとジーナに襲いかかり――
「スティンガー、インパクト!」
横から飛び込んできた青木の一撃がバベルを直撃、その巨体を弾き飛ばし――
「シャドー、ヴォーテックス!」
橋本が影天鎌をシャドーサイズへと“再構成”。全精霊力を込めて吹っ飛ぶバベルへと叩きつける。
そして――
「ったく、いいカッコしやがって」
「お前らがそこまで言うんなら、マスター・ランクのオレ達ががんばらないワケには行かないよな、やっぱり」
青木と橋本が告げ、ジーナとライカを守るようにバベルの前に立ちはだかる。
「そうだよ……!
あたし達の力じゃ、何もできないかもしれないけど……!」
「それでも、力を合わせて戦ってきたんです!
みんなの力をひとつに束ねれば――あなたにだって負けません!」
さらにはファイト鈴香も立ち上がった。青木達に加わり、再び6人そろったブレイカーズはバベルと対峙する。
だが――
「それが――どうした!」
バベルが言い放ち――その全身に瘴魔力と精霊力、二つの力が混じり合った禍々しいオーラがみなぎっていく。
「確かに、オレ達の力は意志の強さがものを言う。
だが、意志の力だけでは覆せない力の差もあることを、その身に刻み込め!」
咆哮と同時――バベルが“力”を解き放った。解放された“力”は凶悪な渦となり、青木達を吹き飛ばす!
「ジーナ!」
「ファイ!」
ライムやソニックが叫び、プラネル達が思わず駆け寄るが、そんな彼らにかまわずバベルは再び力を高め、
「“助っ人”とやらは間に合わなかったな……
無念の内に、消え去るがいい!」
咆哮と共に、バベルはとどめの一撃を解き放ち――
飲み込まれた。
突然青木達の前に巻き起こった“炎の渦に”巻き込まれて。
「ほ、炎……!?」
「ま、まさか……」
突然の異変――だが、その正体には心当たりがあった。ジーナとライカが期待と共につぶやき――
「“炎”属性の防御系精霊術――“炎梱包”っつーんだ。
単純な防壁術じゃないっていうところが気に入った♪」
静かに告げ、“彼”はブイリュウのとなりを通り過ぎざまに彼の背中に差した“紅夜叉丸”を抜き放つ。
「くそっ、“助っ人”の到着か!」
うめき、かまえるバベルだが――
「青木ちゃん、ちょーっと“オツム”借りるね♪」
「お、おい、ちょっと待て!」
“彼”はバベルにかまわない。その言葉に青木が思わず声を上げるが、彼はかまわず左手を彼の頭の上に乗せ――
「…………ふーん、そーゆー状況なワケだ」
「って、お前なぁ!」
ひとり納得する“彼”の言葉に、青木はその手を振り払いながら立ち上がり、
「お前、“左手”をそんな簡単に!
お前のその手は……!」
「だ、大丈夫だって。
オレだって少しは使いこなせるようになってるんだし」
抗議の声を上げる青木の言葉に、“彼”は少しばかり気圧されながら答え――
「貴様……このオレを無視しようとは、いい度胸だな!」
そんな“彼”の態度に、無視されたバベルが怒りの声を上げるが――瞬間、“彼”は素早く呪文を唱えた。
―― | 全ての力を生み出すものよ 命燃やせし紅き炎よ 我が意に従い我が敵を撃て! |
「炎弾丸!」
詠唱からそのまま術を解放――放たれた炎が凝縮され、多数の炎の弾丸となってバベルに降り注ぐ!
「そんなもので!」
だが、バベルは止まらない。降り注ぐ炎弾をものともしないで“彼”に襲いかかるが――
「――なめんな!」
“彼”はバベルの拳をかいくぐり、逆にその腹に“紅夜叉丸”で一撃を叩き込む。
「ったく、今の“炎弾丸”、オレが無詠唱で撃てる数少ない術なんだぜ。
それをわざわざ詠唱バージョンで披露してやったんだ――くらって吹っ飛んでくれてもいいじゃねぇか」
言って、“彼”はバベルを蹴り飛ばし、
「今風で言うなら『最初からクライマックス』ってヤツだろうが。
場の盛り上がりをシカトしやがって。サービス精神のないヤツだぜ」
舌打ちまじりにつぶやくと、“彼”の手の中で“紅夜叉丸”がその姿を変える。
「覚悟しとけよ、クソ神将。
どーも、“力”のあるなし云々を話してたみたいだし、その話の流れから考えりゃ、『力を合わせたオレ達の強さを見せてやる』ってところなんだろうが――残念ながらそいつぁカットだ」
木刀が一瞬にして霧散。次の瞬間、再び収束して太刀へ。そして――
「オレは今、ひっじょぉ〜〜に機嫌が悪い。
しばらく出番がなかったし、かなりイヤな帰り方しなきゃならんかったし。
あげくの果てに、そんな思いして帰ってきてみればオレの仲間がそろいもそろってボコ殴りにされてるときた。
そんなワケだから――」
「前者二つの八つ当たりと後者ひとつの仕返し、思いっきりさせてもらうぜ」
言い放ち――ジュンイチは爆天剣の切っ先をバベルに向けた。
ジュンイチ | 「待たせたな、みんな! 帰ってきたぜ、このオレが! ……っと、なかなかやるじゃねぇか、瘴魔神将ってのも! おもしれぇ! だったらこっちも見せてやる! オレの自慢の――精霊獣をな! 次回、勇者精霊伝ブレイカー、 Legend24『反撃の時』 そして、伝説は紡がれる――」 |
(初版:2007/08/07)