「ふーん……」
ブレイカーベースのコマンドルーム――ライカは何の気なしに、手の中のA4レポート用紙をもてあそんでいた。
ジュンイチから、不在の間彼の身に起きた事を聞き出し、書き留めたものだ。
「飛ばされた先の異世界には精霊獣がウジャウジャ。
で、涼が用意してくれていたメッセージがあって、それで大体の事情を把握して、修行を開始。
精霊獣を相手に大暴れして、最終的にフレイム・オブ・オーガを使役して、帰ってきた、と……」
もう一度内容に目を通し、改めて口に出して確認する。
「ブイリュウも同じ証言してるから、信憑性はあるんだけど……」
そう――信憑性はある。
しかし、腑に落ちない。
素直なブイリュウの性格を考えれば、何かを隠していればすぐに表情に出るだろう。ということは――
「ブイリュウの知らないところで――ジュンイチは何かを隠してる……」
つぶやき――ライカは手元の端末を捜査し、目的のデータを呼び出した。
自分が疑念を抱くに至った“根拠”となるデータを。
(記録によれば、ジュンイチはあたしと出会う前――ブレイカーとして覚醒したばかりの頃に、クモ種瘴魔獣ミール、ノミ種瘴魔獣ハイジャーによって立て続けに病院送りにされてる……
なのに……)
胸中でつぶやき、ライカは先日のバベルとの戦いを思い出した。
あの時、ジュンイチはバベルによって強烈な一撃をお見舞いされている。
しかし――常人ならば即死であろうその一撃を受けても、ジュンイチは平然と立ち上がった。
ジュンイチの覚醒が7月中旬の夏休み直前。自分と出会ったのが8月の頭で涼によって異界に飛ばされたのがその直後。そして――夏休みもラストスパートに入り、自分達の龍雷学園の編入試験も直前に控えた8月下旬、ジュンイチは帰ってきた。
時間にすればわずか1ヶ月――ブレイカーという“人”を超えた存在であることを考慮したとしても、ジュンイチの成長速度は明らかに異常だと言わざるを得ない。能力者うんぬん以前に、生物として見ても明らかに間違っている。成長前との強化比率で考えればどこぞの戦闘民族も真っ青の成長ぶりだ。
(ジュンイチ……あんた、一体どんな身体してるのよ……?)
考えれば考えるほど、謎は深まる一方で――ふと気づいた。
「そういえば……その本人は?」
Legend25
「重なる鬼神」
「………………」
モニタに表示されたそのデータを、イクトはひとり、静かに見つめていた。
能力、武装、技――これまでに確認されている“彼”についてのデータ、ひとつひとつに目を通し、頭の中に叩き込んでいく。
と――
「あの“炎”のブレイカーのデータか?」
「あぁ」
現れたヴォルトの問いに、イクトは振り向きもしないでそう答えた。
「先日、バベルを連れ戻す際に一瞬だったがやり合った」
「知ってる。
あっさりと貴様に叩き伏せられていたな」
イクトの言葉にうなずくヴォルトだが――
「……『あっさり』というほど楽だったワケではないさ」
モニタから視線を外すことなく、イクトはヴォルトの言葉を訂正した。
「確かに苦もなく一撃を叩き込んだが――クリーンヒットは出来なかった。
おそらくはヤツ自身の意識も追いついていない、無意識下の反射神経レベルでの反応だろうが、明らかにヤツの方から急所を外してきた。
それに……」
そこで一度言葉を切り、イクトはハッキリと断言した。
「あの手合わせでヤツの力を測るのは得策ではない。
まだ、ヤツのすべての力を見たワケではないしな」
「手を抜いていたのか?」
「バベルとやり合った後だぞ。消耗がないはずがないだろう。
だからこそ――こうしてデータからヤツの“全力”を測っている」
ヴォルトに答え、イクトは再びモニタへと視線を向けた。ジュンイチの“ギガフレア三連”の映像を見て――断言する。
「…………砲撃だな、この攻撃は」
「砲撃か?
これが?」
「あぁ」
聞き返すヴォルトにあっさりと答える。
「本来砲撃として放たれるはずの攻撃を拳に乗せ、目標に叩き込んでいる。
オリジナルである“龍翼の轟炎”が中距離砲撃であることから考えても、その点は間違いあるまい」
「つまり、零距離砲撃、というヤツか……」
イクトの言葉に、ヴォルトは映像へと視線を戻し、
「だが、それでは本人も危険なんじゃないのか?
砲撃を零距離で叩き込むということは、当然直撃による爆発に自身もさらされることになる――」
「その問題を解決しているのが、ヤツの力場だ」
ヴォルトの疑問の声にも、イクトはあっさりと答えた。
「おそらくヤツの力場は対物防御を犠牲に対エネルギー防御を極限まで追及したものだ。
それが零距離砲撃に対する自身の危険を完全に排除している。
すべてに通用する万能の防御などありえないとは言え、ずいぶんと思い切ったことをする……」
言って、イクトは映像の中のジュンイチを見つめ、
「遠中近零――あらゆる距離において砲撃を可能とする者……
“全距離砲撃”――それがヤツの戦闘スタイルと考えていいだろう」
「なるほど、な……」
「この他にも、ヤツの力には未知数の部分が多い――ヤツの真価を見極めないうちから仕掛けるのはリスクが大きすぎる」
「ずいぶんと慎重だな」
「すでにひとり、シンが討たれていることを忘れるな。
うかつな憶測はミスを招くぞ」
冷静に答えるイクトの言葉に肩をすくめ――ヴォルトは彼に尋ねた。
「しかし――どうやってヤツの全力をさらけ出す?
この間の戦いでさえ、ヤツは最終的にバベルを打ちのめした――瘴魔獣レベルでは、ヤツの本気を引き出すには足りないぞ」
「わかっている」
あっさりとイクトは答え――告げた。
「それなら――」
「本気を引き出せるヤツをぶつければいい」
「…………あれ?」
なんとなくジュンイチを探してブレイカーベース内を歩いていると、珍しい顔を見つけた――首をかしげて、ライカは声をかけた。
「あずさじゃないの。
ブレイカーベースに来てるなんて珍しいわね」
「あ、ライカさん」
ライカの言葉に、あずさはようやくこちらに気づいたようだ。パタパタと駆けてくる。
「どうしたんですか?」
「あ、うん……ちょっとジュンイチを探してて。
あずさは知らない?」
「あちゃー……タイミング悪いですね」
ライカの言葉に、あずさはそう答えて苦笑した。
「お兄ちゃん、さっきまでトレーニングルームのバーチャルシミュレータでトレーニングしてたんだけど……ついさっき、終わらせて出かけちゃったの」
「そっか……入れ違いってワケか……」
あずさの言葉にうなずき――ライカは眉をひそめた。
「――って、珍しいわね、アイツが真っ昼間から自主トレなんて。
いつもは隠れてコソコソやってるヤツが」
「んー、まぁ、仕方ないんじゃないかな?」
「バレてないとでも思ってるのかしら」と肩をすくめるライカに答え、あずさは息をつき、
「こないだの戦いで、帰ってくるなり新しい神将さんにブッ飛ばされちゃったんでしょ?
やっぱり、悔しかったんじゃないかな?」
「それはそうだけどねぇ……」
あずさの言葉にうなずくライカだったが――彼女の懸念は別にあった。
「けど、あたしが言ってるのはそこじゃなくて、“バーチャルシミュレータで”って点。
あたしもここのバーチャルシミュレータを使ったことがあるけど、正直なところ……」
「チャチ?」
「ミもフタもないわね……その通りだけど」
あっさりと返ってきたあずさの答えに思わず苦笑する。
「プログラムは独自のものみたいだし、ハイレベルなのは認めるけど――正直、そこらで研究されてるバーチャル技術よりちょっと進んでる、くらいの印象しか受けなかったわね。
本音を言わせてもらえば、あれを使うくらいなら普通に修行した方がよっぽど効果的だと思うわよ。
アイツだって、それはわかってるはず――なのにあえてバーチャルシミュレータを使う必要があるとは思えないんだけど」
「うん、そうだね」
あっさりとうなずき――あずさはその上でライカに告げた。
「けど、それはしょうがないよ。
みんなが使ってるのは――おにいちゃんが使ってるヤツのグレードを落としたヤツだし」
「へ………………?
ちょっと待って! まさか、まだ上があるの!? アレ!」
「あまりお勧めできるものでもないんだけどね」
驚き、声を上げるライカの言葉に、あずさはそう答えて苦笑してみせる。
「お兄ちゃんが使ってるのは、データ処理のレベルが格段に上のバージョンでね――訓練効果は折り紙つきなんだけど、いろいろと危ない部分の問題が解決していなくて、いくらお兄ちゃんでも、あまり多用はしてほしくないくらいのシロモノなんだけど……」
「逆に言えば、そんなのを持ち出さなきゃいけないほどの相手、ってことよね。あのイクトって神将は……」
あずさの言葉につぶやき――ライカはふと、彼女に告げた。
「…………ねぇ。
あたしもそのバージョン……使ってみたいんだけど」
〈ホントにやるんですか?
やめといた方が……〉
「いーのいーの。どーんと来なさいっ!」
それなりの規模のあるブレイカーベースの中、実に数階を確保しているトレーニングフロアの中でも、1フロアを丸ごと占拠しているバーチャルシミュレータ――そのオペレータルームからに尋ねるあずさの問いに、ライカは気楽にそう答える。
そんな彼女の態度に、説得はムダと悟ったのかあずさは設定を始めた。
〈じゃあ……シチュエーションはお兄ちゃんのよくやる屋内制圧戦闘ね。
難易度は“NORMAL”にしとくね。仕様の違いで、いつもの“HARD”と同じくらいに感じるはずだから〉
「OK。
じゃ、始めて」
シミュレータ専用の模擬銃――いかにガンナーであるライカといえど、通常の実銃の使用経験はないからだ――をかまえてライカが答えると、あずさの操作でシミュレータが起動。室内の照明が落ち、ビルの内部がリアルなバーチャル空間として再現された。
このバーチャル空間だけでも、いつものシミュレータとは段違いのシロモノであるとがわかる――が、ライカはそのことを実感する余裕などなかった。
「――――――っ!?」
突然、強烈なプレッシャーに襲われたからだ――まるで全身に重りをつけられたかのような重圧がライカにのしかかる。
(な、何よ、このプレッシャー!?
これ――殺気!? シミュレーションでしょ!?)
驚き、ライカは思わず身を固め――背後で何かの動きを感じた。
「く――――――っ!」
至近だ。銃は使えない――とっさに身をひるがえし、ライカは肘で一撃。気配に向けてカウンターを叩き込む。
瞬間、肘に伝わってくる打撃の感覚――
(ちょっ、気配!? 手応え!?
何よコレ――あまりにも“リアルすぎる”!)
胸中でうめくと同時、新たな気配が生まれた。すぐに模擬銃で撃ち倒す。
が――そんなライカめがけて、背後の物陰から飛び出してきた新たな敵が襲いかかってきた。とっさに振り向くが――敵の一撃が頬をかすめたのがわかった。鋭く、熱い痛みが頬を走る。
それでも顔面に左ジャブ。のけぞった相手にハイキックをお見舞いし――次の瞬間、後頭部に衝撃が走ったのを感じると同時、ライカの意識は闇に沈んでいった。
「……撃破数3。内ターゲットの殺傷0。背後からの一撃による昏倒でゲームオーバー。
よかったね、殺されなくて」
それが、意識を取り戻したライカにあずさが伝えたシミュレーションの成績だった。
「どうだった? ご感想は」
「どうもこうもないわよ。
気配から手応えからダメージから、何から何まで全部リアルで……」
あずさに答え、ライカは一撃がかすめた頬をなで――止まった。
「……何よ、コレ……」
そこに貼られた、絆創膏の存在に気づいて。
そんなライカに対し、あずさは息をついて告げた。
「それがさっき言った“解決してない危ない部分”。
ムダにリアルすぎるせいで、シミュレーション中に傷を受けると、脳の方がホントに傷つけられたと誤解しちゃうの。
結局のところ、肉体なんて脳からの信号で支配されちゃってるワケだから、脳が『傷を受けた』と思い込んじゃったらそれがフィードバックされちゃって……」
「こうなるワケね」
あずさの言葉にうなずき、ライカは頬の絆創膏をもう一度なで――
「――――って、ちょっと待って!
ダメージがフィードバックされるってコトは、もし、シミュレーション中に殺されちゃったら……!」
「うん。
言ったでしょ? 『殺されなくてよかった』って」
あっさりとうなずくあずさだが、言ってることはとんでもなくて――ひとつ間違えば死んでいたと聞かされ、ライカは思わず青ざめて――
「……まぁ、実際は死なないらしいけど」
「………………は?」
だからこそ、その先に続いたあずさの言葉に目を丸くした。
「お兄ちゃんが言うには、殺された時のダメージのような強烈すぎる情報は、脳の方が処理しきれないらしくって……えっと、オーバー……何だっけ……?」
「オーバーフローする、ってこと?」
「そう、それそれ」
ライカの言葉に、あずさは手をポンと叩いてうなずく。
「もちろん、ホントに死んじゃったりしないからって、安全ってワケでもないんだし……」
「それは、まぁ、ね……
オーバーフローするような情報量をいきなり叩き込まれれば、脳への負担もバカデカイだろうし……
あんたがジュンイチを心配する気持ちも、わからないでもないわね」
あずさの言葉にうなずき、ライカは息をついてつぶやいた。
「アイツの強さがバケモノじみてる理由がわかった気がするわ……
こんなシミュレータで訓練していれば、そりゃ強くもなるわよね」
ため息まじりにつぶやくと、ライカはその場に大の字に寝転がった。
「けど……」
そして――思う。
(アイツ……どこでこんなバケモノシミュレータを手に入れてきたんだろ……)
「………………」
“柾木家地下帝国”――パソコンルームの一角で、ジュンイチは端末のひとつと向き合っていた。
しかし――その様子は明らかに異質と言えるものだった。
まず、彼の使用している端末に入出力機器がない――キーボードもマウスも、ディスプレイすらも接続されておらず、ただパソコンの本体だけがドンと置かれているだけだ。たまにここを使わせてもらうジーナ達も、予備のパソコンだろうと考えて放置していた端末である。
一方のジュンイチもまた、目を閉じ、ただ右手でパソコンに触れているだけ――しかし、彼がそうして触れているだけで、パソコンはカリカリと音を立てて稼動している。
そして、そんなジュンイチの脳裏に映し出されるのは、次々に目まぐるしく表示される膨大なデータの数々――
「……やっぱり、ネットワーク上から追いかけるのはムリ、か……
相変わらず、ヤバイデータはネットワーク上から切り離していると見るべきか……」
しかし、そこに彼の求めているデータは存在してない。目を閉じたままつぶやき、ジュンイチは脳裏に投影されているデータをある画面で停止させた。
インターネットニュースの一画面――先日、青木達と交戦したヘルガンナーやバイオラヴァモスらの写真が掲載されている。おそらくは目撃者による投稿だろう。
(こいつらが“ヤツら”の作ったものだっつーのは間違いない……
ブレイカーや瘴魔の“力”を研究して、自分達の“商品開発”に活かしたい、ってところか……)
パソコンに触れていた右手を放し――脳裏を駆け巡っていた情報の奔流がピタリと停止した。
静かに息をつき、ジュンイチは目を開き――
「…………上等だ」
そうつぶやく彼の視線は、感情の宿っていない冷たいものった。
「てめぇらの方から出てきてくれるっつーなら好都合だ。自分達の“しでかしたこと”の始末、きっちりつけさせてやるさ――」
「“てめぇらの最高傑作”の力で、な……」
静かにそうつぶやいた、その時――
「――――――っ!?」
それを感じ取り、ジュンイチは顔を上げた。
(精霊力が3つと、瘴魔力が2つ……
別々の場所で1対1と2対1……あ、瘴魔力がひとつ消えた。これで3対1か……
誰かが、瘴魔と戦ってるのか……?)
つぶやき、ジュンイチは意志を集中させ、まるでレーダーでもついているかのように仲間達の“力”を探る。
――全員まだ戦闘態勢には入っていない。自分同様今の“力”を感じ取ったらしく、現場に向けて移動を開始している。
「みんなじゃない……青木ちゃんの記憶にあった“DaG”とかいう連中か……
でもって、残ってる瘴魔は……」
ひとつ残された瘴魔力には覚えがあった。
「……あのイクトってヤツか……!」
「オラぁっ!」
咆哮し、振り下ろしたブレードの斬天刀を、イクトは半歩下がって受け流す――巨大な刃は目標を外れ、轟音と共に大地を穿つ。
「いい斬撃だ――しかしせっかくの剣の重量を活かしきれていないな」
「ぬかせ!」
淡々と告げるイクトに答え、ブレードは今度は横薙ぎに刃を振るった。後方に飛んでそれをかわし、イクトは間合いを取って着地する――
最初にブレード達が見つけたのは、ただの瘴魔獣の気配だった。久々の獲物に喜び勇んで駆けつけたが――そこに現れたのがイクトだったのだ。
イクトには一度、いいようにあしらわれた経緯がある――瘴魔獣を椿とマリアに任せ、イクトへと襲いかかったブレードだったが、イクトは先ほどからのらりくらりとこちらの攻撃をさばいてばかりだ。
「てめぇ……何のつもりだ!
なんでマジメに戦わねぇ!」
「貴様と戦うつもりはない――それだけだ」
ブレードに答え、彼の斬撃をかわしたイクトは静かに大地に着地する。
「“ブレイカーズ”――貴様も何度か、やり合ったことがあるはずだな?」
「ん? あぁ、キマイラのマスターがいたチームか。
あぁ、確かに何度か殺り合ったぜ」
そのブレードの答えに、イクトは満足げにうなずき、
「そのリーダーが――つい先日帰還した。
貴様と戦った、あのキマイラのマスターよりも強い力を携えて、だ」
「何だと……?」
そのイクトの言葉に――ブレードの表情が変わった。
「なかなかに面白そうな話だが――気に入らねぇな。
オレ達を同士討ちさせようってのか?」
「そう受け取ってもらってもかまわん。
オレと貴様は敵同士――そう考えるのは当然の反応だ」
ブレードの問いにあっさりとうなずき、イクトは彼に告げた。
「しかし――この提案を蹴られたところで、こちらは痛くもかゆくもない。
多少リスクを負う形になるが――オレが直接叩くまでだ」
「ふーん……」
そのイクトの言葉に、ブレードは思考をめぐらせた。
連中の思惑を蹴り、ジュンイチとイクトを戦わせる――普通に考えればこれがベストな選択だ。
しかし――自分達“DaG”の目的は勝利ではない。
強いヤツと戦うこと――戦うことそのものが自分達の目的なのだ。
そういった観点から見ると、ぜひとも戦ってみたい“強いヤツ”同士でつぶし合われるのはむしろ不都合と言うものだ。
だから――
「………………いいぜ。
てめぇの思惑に、乗ってやろうじゃねぇか」
「そうか……
では、オレはそろそろ消えるとしよう」
言って、イクトは跳躍。手近なビルの上へと飛び移り、
「…………そろそろ、主賓の到着のようだからな」
その言葉と同時――通りの角から、ゲイルに乗ったジュンイチが飛び出してきた。
「イクトは――!?」
度重なる瘴魔の出現ですっかり手馴れた対策本部の活躍により、すでに避難は終わっているらしい――無人と化した大通りにブレードの姿を見つけ、ジュンイチはゲイルを停車させて周囲を見回す。
しかし、そこにイクトの姿はなく――
「ヤツなら帰ったぜ」
そんなジュンイチに、ブレードが斬天刀を肩に担いで答える。
未だに戦闘態勢を解いていない――その意味は明白だ。
「…………オレと、やるってのか?」
「よくわかってんじゃねぇか」
「青木ちゃん経由で、てめぇのことはよく知ってんだよ」
正確には『青木“の記憶”経由』だが。
「ま、それなら話は早いか……」
言って、ブレードは斬天刀を振りかざし――
「とっとと――始めようぜ!」
咆哮と共に斬りかかり――ジュンイチも瞬時に対応した。“紅夜叉丸”を爆天剣に“再構成”し、ブレードの斬撃を受け止める。
「へぇ、いい反応じゃねぇか!」
「そう言うてめぇは、技も何も関係ナシの力任せかよ……!」
ブレードの言葉に言い返し、ジュンイチは斬天刀の刃を押し返し、後方に跳んで間合いを取る。
「こーゆーヤツって、小細工効かない分やりづらいんだよなぁ……」
「だが……引く気はねぇだろ?」
「たりめーだ」
告げるブレードにあっさり答え、ジュンイチはブレイカーブレスをかまえる。
「現在進行形で、青木ちゃん達やジーナ達がこっちに向かってきてるからな……てめぇみたいなアブナイ相手をぶつけられるか。
悪いが……この場でつぶされてもらうぜ!」
そして――咆哮した。
「ブレイク――アップ!」
「始まってる!?」
「ジュンイチさんと……相手は、ブレードさん!?」
現場に急行する道中、爆発的に膨れ上がった“力”の気配を感じた――その“力”の主を察し、ジーナと鈴香が声を上げる。
「ったく、よりにもよって手加減知らずのあの二人がぶつかるなんて!」
「マズイよこれ、いろんな意味で!」
共に攻撃力特化の戦闘を展開する二人だ。あの二人がぶつかれば当事者達はもちろん、周囲もただではすまない――舌打ちするライカにファイが答えると、
「とにかく……行かなくちゃ!」
そう告げるのはライムともどもジーナに背負われているブイリュウだ。
「向こうだって、精霊獣を持ってるんでしょ!? オイラがいなくちゃ、ジュンイチはオーガを呼べないよ!」
「……そうですね……
ライム、ブイリュウ、着装して一気に駆けるから――振り落とされないように、しっかり捕まってて!」
「うん!」
ライムがうなずくのを確認し、ジーナは一際大きく跳躍し、
「ブレイク――アップ!」
“装重甲”を着装、着地すると同時、爆発的な加速で現場に向けて走り出す。
同様に、ライカ達もまた着装し、急いで現場に急行する。急激に加速され、ジーナの背で振り落とされそうになるのを懸命にこらえ――ブイリュウはつぶやいた。
「そう……オーガを呼べる状況にしないと……!」
「ジュンイチが、“あの姿”になる前に……!」
「ずぁありゃあっ!」
気合の入った咆哮と共に突撃。重量と腕力に任せた一撃が大地を砕く――ガレキと化した大地の破片が舞い散る中、ジュンイチはブレードに向けて横薙ぎに刃を振るうが――
「その程度で!」
ブレードはその攻撃に素早く対応した。無理に斬天刀を持ち上げるようなことをせず、切っ先を大地に突き立てたまま柄側を持ち上げることで刃を立て、ジュンイチの斬撃を受け止める。
そして――
「どぉりゃあっ!」
そのまま斬天刀の峰を蹴り上げた。力任せに斬り上げられた刃がジュンイチを跳ね飛ばす!
「ぐぅ…………っ!」
完全にパワー負けし、押し戻されるジュンイチ――その“装重甲”のブレストプレートには、斬天刀の切っ先が引っかいた痕がクッキリと残されている。
「くっそぉ……バカ力だけかと思いきや、しっかり力学考えてやがる……!
……いや、考えてるっつーより経験任せか……!」
舌打ちし、爆天剣をかまえ直すジュンイチに対し、ブレードの追撃が襲いかかる。大上段からの一撃を左へのサイドステップでかわし、真横に薙ぎ払われた追撃を受け止め、その衝撃を利用して間合いを取る。
「間合いの中はまるで台風だぜ……!
それなら!」
接近戦はリスクが大きいと判断。ジュンイチはすぐに戦法を切り替えた。距離をとり、生み出した炎を右手にまとめ上げ――解き放つ!
しかし――
「その程度かよ!」
このくらいの炎ではブレードは止められない。振り回した斬天刀から光刃を連発、ジュンイチの炎を吹き散らす!
さらに、光刃の群れはジュンイチに向けて殺到するが――
「しゃらくせぇっ!」
ジュンイチは前面に力場を収束、防壁として光刃を受け止め――そのまま後方に受け流す!
弾かれた光刃がビル群に突っ込み、衝撃と共にビルが砕け散る中をジュンイチは再度突撃、斬天刀を振り抜いたブレードへと襲いかかるが――
「そう――そう来るよな!」
「――――――っ!」
ブレードの言葉と同時、ジュンイチは見た。
振り抜いた姿勢そのままに――ブレードが刃だけを返したのを。
(ヤバ――――!)
とっさに離脱を試みるが――間に合わない。直撃は避けたものの、ブレードの斬天刀をガードし、突撃を防がれたジュンイチはまともに弾き飛ばされ、先ほどの光刃で崩壊したビルの残骸の中に叩き込まれる。
衝撃で土煙が舞い上がり――そんな中で、ブレードは告げた。
「…………おいコラ、立てよ。
まだ死んじゃいないだろ」
「…………やれやれ、お見通しか」
あっさりと答えが返ってきた――頭上のガレキを殴り飛ばし、ジュンイチはガレキの山の上に姿を現した。
「せっかくやられたフリして不意打ちしてやろうと思ったのによ」
「ンなこったろうと思ったぜ」
苦笑するジュンイチの言葉に、ブレードもまた笑みを浮かべて答える。
「けどな……」
しかし――そんなブレードの眉が不満げにつり上がった。無造作に斬天刀をかまえ、ジュンイチに告げる。
「やり合ってわかった。てめぇは文句なしに強い。
そういうヤツが、そんなケンカの仕方をするもんじゃねぇ」
「そいつぁてめぇの考え方だろ?
あいにく、そんなの知ったこっちゃねぇんだよ」
告げるブレードの言葉に、ジュンイチはあっさりと答える。
「ケンカも戦争も同じだ。力も技も根性も、知恵も総動員してやり合うんだ。
卑怯も卑劣も大いに結構。勝つために必要だっつーなら、外道以外は何でもやるさ」
「…………つまんねぇな」
「心配すんな。それなりに楽しんでる」
ブレードに答え、ジュンイチは爆天剣を肩に担ぐ。
「考え方の違いってヤツか……まぁいい。
そういうことなら、どっちの考え方が上かハッキリさせてやろうじゃねぇか!
ロッド!」
「はーい!」
ブレードの言葉に答え、彼のパートナープラネル、ライオン型のロッドが駆けてくる。
そして、ブレードは懐からそれを取り出した。
茶色に輝く、自分の精霊石を。
「……そーいや、お前も精霊石を持ってたんだっけな」
「あぁ。
オレの相棒の宿る“アイアン・ブラウン”だ」
告げるジュンイチに答え――ブレードは“アイアン・ブラウン”をかざし、吼えた。
「出番だ。出てきやがれ。
螂刃皇――シュレッド・オブ・マンティス!」
その言葉と同時――ロッドの身体が変貌した。肉体が膨張し、物質化した“力”の外骨格をまとい、自らと一体化したブレードの精霊獣、シュレッド・オブ・マンティスとなる。
《やれやれ、ようやく出番か。待ちくたびれたぜ》
「そう言うな。
多少戦い方はみみっちいが、文句なしに強いヤツだぜ」
《あぁ、まったくもって楽しみだぜ》
ブレードの言葉に答え、マンティスは彼と共にジュンイチと対峙し、
「言ったな? 『力も技も根性も、知恵も総動員してやり合う』って。
だったら――この戦力差、てめぇの知恵で切り抜けてみやがれ!」
ブレードが告げると同時――マンティスが地を蹴った。一直線にジュンイチに襲いかかる!
「にゃろうっ!」
対し、炎を解き放って応戦するジュンイチだが――
《そんな炎が、このオレに通じるかよ!?》
マンティスには通じない。真っ向から炎を受けながらもかまわず突撃、ジュンイチに向けてその両手の鎌を振るう!
とっさに前転し、マンティスの鎌をかわすジュンイチだったが――
「オレもいるんだぜ!」
そんな彼にブレードが襲いかかった。振り回される斬天刀をとっさに受け止めるが、そこにさらにマンティスが突っ込んできた。真横から体当たりを受け、ジュンイチが弾き飛ばされる!
そして――
「これでも――」
《くらいやがれっ!》
ブレードとマンティスが同時に光刃を解き放った、飛翔する無数の光刃がジュンイチに向けて襲いかかる!
「…………戦況は不利のようだな……」
その光景を、イクトは少し離れたビルの上からヴォルトと共に眺めていた。
「バベルを手玉に取ったにしては、いささか苦戦しているようだな……」
「“炎”の属性の真髄は炎そのものではなく、その熱量の奔流によって相手を押し流し、焼き尽くすことにある。
焼くよりも早く飛び込んでくる相手とは、どうしても相性が悪い」
つぶやくヴォルトに答え、イクトは戦いの続く大通りへと視線を戻した。
「さて……“炎”のブレイカー、柾木ジュンイチよ。
果たして貴様は、この不利を知力によって打開するのか、それとも……」
「出すか? 切り札を……」
「くっ、そぉ…………!」
うめき、大地にヒザをついたジュンイチは顔を上げ――その額から流れる血が彼の頬にいくつもの赤い線を描き出す。
ブレードとマンティスの光刃の雨は彼の身体を切り刻んだ。致命的な傷こそ受けなかったが、その全身にはいくつもの切り傷が刻まれている。
「どうしたどうした? それで終わりか?」
《変な小細工がなきゃ、まともに戦えもしねぇのか?》
「るせぇ……!」
ブレードとマンティスに言い返し、ジュンイチはその場に立ち上がった。
爆天剣を握り直し、ブレード達に告げる。
「やってくれるな。多少の小細工は力で押し流すか……
けどな、そいつぁ相手をはるかに上回るパワーがあって、初めて実現できるもんだ」
「………………?
何が言いたい?」
「なに、簡単な話さ。
相手との実力が近けりゃ、結局は知恵を使った者が勝つ。
相手の方が強かったら――考えるまでもないだろう?」
「へぇ…………」
そのジュンイチの言葉に、ブレードの口元に笑みが浮かんだ。
「つまり何か?
てめぇ、オレ達と対等に戦えるつもりでいるってのか?」
《それとも、オレ達よりも強いとでもほざく気か?》
告げるブレードとマンティスだが――ジュンイチは答えた。
「あぁ。
今のてめぇらより――強くなる手段がオレにはある」
《言ってくれるな。
確かにてめぇも精霊獣を連れてるみてぇだが……プラネルがいねぇだろ。
プラネルがいない状態で顕現させたって、マスター・ランクの精霊力でもせいぜい数分が限界だろうが。
それとも、その数分でオレ達を叩きつぶせるとでも言うつもりか?》
ジュンイチの言葉に告げるマンティスだが――
「そこまでは言わねぇよ。
けど――」
「“プラネルなしでも顕現できる”っつったら?」
対し、ジュンイチはあっさりとそう告げた。爆天剣を肩に担ぎ、ブレードとマンティスに告げる。
「精霊獣の顕現は、通常プラネルを媒介にして行われる。
そいつぁ、精霊力の集合体であるプラネルはその肉体を維持するため、常時ブレイカービーストから精霊力の供給を受けている――そのことを利用しているからだ。
そうすることで、マスターが顕現に必要な精霊力を提供する必要もなく、戦闘能力を維持したまま精霊獣を顕現させることに成功しているワケだが――逆に言えば、『常時精霊力の供給を受けられる存在ならば、顕現の媒介に使える』ってことでもある」
「確かにな。
だが、プラネル以外にねぇだろ。そんなの」
告げるブレードだが――
「それがあるんだよ」
ジュンイチはあっさりと答えた。
「中継点をひとつ挟んじまうが――常時ブレイカービーストから精霊力の供給を受けているものが、もうひとつ」
言って、ジュンイチは腰のツールボックスからブレインストーラーを取り出した。
「そいつを使って顕現させればどうなるか――
それを今、見せてやる」
言いながらブレインストーラーを開き、ジュンイチは上側のモードボタンを押し込む。
〈Mode-Install.〉
そんな彼にブレインストーラーのシステムボイスが告げ――その瞬間、彼の周囲に“力”の渦が巻き起こった。
ブレインストーラーに収められた彼の精霊石“スカーレット・フレア”が――フレイム・オブ・オーガがその“力”を解き放ったのだ。
そして、ジュンイチの“装重甲”に変化が起きた。ベルトのバックルの形状が変化。何かをはめ込むようなくぼみが形成される。
それはまるで、携帯電話がひとつ収まるくらいの――そこまで考え、ブレードは気づいた。
その視線が、自然とジュンイチの手の中のブレインストーラーに向けられる。その大きさは――
(そうか……!
ヤツが媒介にしようとしているのは――)
そうだ――彼の言う通り、ブレイカービーストから精霊力の供給を受けているのはプラネルだけではない。
そのプラネルを中継点として、常に精霊力の供給を受けているもうひとつの存在、それは――
「“装重甲”を媒介にして、顕現させるつもりか!?」
「そういうこと」
あっさりとジュンイチは答える。
〈Standing-by.〉
ブレインストーラーを閉じ、システムボイスが告げる中、ジュンイチはブレードに対して続ける。
「気づいたのは“向こう”での修行中だったんだけどさ……とりあえず、オレなりに名づけさせてもらった」
言って、ジュンイチはブレインストーラーをベルトのくぼみに横からスライドさせるようにはめ込んだ。
そして――告げる。
戦力の差を決定づける一言を。
「精霊獣融合!」
〈Install of OGRE!〉
瞬間――炎が荒れ狂った。
ジュンイチの周囲で荒れ狂う炎が、突如として燃え上がったのだ。
巻き起こる炎は一瞬にしてジュンイチの姿を覆い隠す――しかし、次の瞬間、強烈な衝撃と共にその炎の渦が縦一文字に両断された。
そして、姿を現したジュンイチは――その姿を変えていた。
いや、正確には、彼の“装重甲”が変貌していた。
半全身鎧タイプはそのままに、全体的により巨大に、より禍々しく変貌した鎧。
白地に青色を基調としていたカラーリングは青色のアクセントが真紅に染まり、彼の灼熱の炎を如実に連想させる。
そして何より――自分の身の丈ほどの大きさにまで巨大化、グリップを中心に前後に伸びる、湾刀と直刀のツインブレードとなった爆天剣。
真上から振り下ろした一撃によって吹き飛ばされながらもなお周囲で燃え盛る炎の中、ジュンイチは静かに閉じていた目を開き、ブレードと対峙する。
「……とりあえず、教えとくよ。
オレの相棒の、新たな姿の名を」
言って、ジュンイチはブレードに対し高らかに告げた。
「真紅の鬼龍“ウィング・オブ・ゴッド”オーグリッシュ・フォーム!
そして――」
「皇牙爆天剣・“鬼刃”!」
「ほぉ……」
その様子を前に、イクトは思わず感嘆の声を上げた。
「プラネルがいなければ精霊獣を顕現できない――それが従来の精霊獣闘法の欠点だ。
ならば自身の装備に精霊獣を宿せばいい、か……大した発想の転換だな」
「どう見る? イクト」
「決まっている」
ヴォルトの問いにあっさりと答え、イクトは告げた。
「“炎”のブレイカーの勝ちだ」
「な、何よ、アレ!?」
一方、ジュンイチの変貌を目の当たりにしたのはブレード達やイクト達だけではなかった。
ちょうどその場に到着したライカ達もまた、“精霊獣融合”を遂げたジュンイチの姿を見届けていた――巨大化し、圧倒的な威圧感を放つジュンイチの新たな“装重甲”を前に、ライカが思わず声を上げた。
と――
「あっちゃー……やっちゃった……」
ジーナの背の上から飛び降り、ブイリュウは思わず頭を抱えた。
「知らないよ、あぁなっちゃったら……」
「何かマズイの?」
「マズイよ、すっごく」
尋ねるライムに答え、ブイリュウはジュンイチへと視線を向けた。
「あぁなったら、ジュンイチにだって手加減できない……
無事じゃすまないよ、あのブレードって人……」
「へぇ……オーガが宿ったから“皇牙”か……」
新たな姿となったジュンイチから発せられるすさまじい精霊力にも臆することなく、ブレードはそうつぶやくと斬天刀の切っ先をジュンイチに向けた。
「安直だが、そう名乗るにゃ十分すぎるパワーがありそうだな」
「試してみるか?
オススメはしないけど」
「言われるまでも――ねぇぜ!」
ジュンイチの問いに答え、ブレードは跳躍。一瞬にしてジュンイチとの距離を詰める。
絶妙なタイミングで一閃。新たな爆天剣に勝るとも劣らない巨大な刃がジュンイチに襲いかかり――弾かれた。
“鬼刃”によって――ではない。
刃を握る右手ではなく――左手の篭手によって。
「斬天刀の斬撃に耐える強度だと……!?」
「たりめーだ。
オレの力場は対物防御が紙キレ同然なんだぞ。当然そっちは“装重甲”の担当になる。
後は相手の攻撃に対して踏んばれる身体強化――と、そーゆーカラクリなワケだ」
うめくブレードに答え、ジュンイチは“鬼刃”を一閃。紙一重でかわし、ブレードは距離をとる。
「今までもやってたこと――それがオーガのおかげで強化されただけだぜ、こいつぁ」
「なるほど、な……
今のてめぇの真価を引き出すにゃ、ただぶった斬りに行くだけじゃダメってことか……」
ジュンイチに答え、ブレードは斬天刀をかまえ――
「だったら――これでどうだ!?」
告げると同時――ジュンイチに向けて光刃を解き放つ!
が――
「あのさぁ……ひとつ忘れてない?」
ジュンイチが告げると同時、光刃は彼の力場に激突し――跳ね飛ばされた。軌道が乱れ、クルクルと回転しながらジュンイチの背後に落下する。
「な…………!?」
呆然とするブレードに対し――困ったように頬をかき、ジュンイチは告げる。
「オレの力場……対エネルギー防御は鉄壁なんだぜ。
その上、今はオーガの“力”で強化されてるワケだし」
「だったら!
マンティス!」
《おぅよ!》
ジュンイチに言い返し、ブレードはマンティスを呼び寄せた。マンティスは嬉々としてブレードの背後に降り立ち、
「一発じゃ抜けないっつーなら――」
《抜けるまで叩き込んでやるぜ!》
言って、ジュンイチに向けて無数の光刃を解き放つ!
「フレイム・オブ・オーガはただの精霊獣ではない。
精霊獣の中でもとりわけ巨大な力を持つ、“王”と呼ぶにふさわしき精霊獣のひとりだ」
「“剣”のブレイカーのシュレッド・オブ・マンティスも“王”クラスと見たが?」
そう聞き返すヴォルトだったが――
「だが、“精霊獣融合”はできない」
あっさりとイクトはそう答えた。
「同じく“王”を使役していようと、その差は大きい」
そして――
「“剣”のブレイカーも、今の“炎”のブレイカーの前には雑兵にすぎん」
その言葉と同時――すべての光刃がジュンイチの力場に弾かれた。
「マジかよ……!?」
《オレ達の力が、通じないだと……!?》
「当然だ。
てめぇらのその顕現とは、“力”の収束率がダンチなんだよ」
自分達の攻撃が通じない――呆然とするブレードとマンティスに、ジュンイチは淡々と告げる。
と――そんな彼らに対しオーガが口を開いた。ジュンイチのヘッドギアから発声し、ブレード達に告げる。
《現在の我は、通常の顕現の姿よりもさらに凝縮された形態となっている。
持っている“力”の量が同等なら――より凝縮された方が高い出力を発揮できるというものだ》
「てめぇらはただ“力”をぶちまているだけ――より力を圧縮して解放しているオレとは、そもそもの土台からして違うんだよ!」
言い放つと同時――ジュンイチが“鬼刃”を振るった。解き放たれた紅蓮の炎が渦を巻き、ブレードとマンティスを押し流す!
「仕上げだ!」
そして、ジュンイチは“鬼刃”をまっすぐにかまえた。“力”が周囲で渦巻く中――ブレードに告げる。
「特別出血大サービスだ。
てめぇの得意な斬撃で――ブッ飛ばしてやらぁっ!」
そう告げて、ジュンイチは静かに詠唱を始めた。
―― | 全ての力を生み出すものよ 命燃やせし紅き炎よ 今こそ我らの盟約の元 我が敵を断つ刃となれ! |
ジュンイチの呪文に従い、彼のかまえた“鬼刃”の前方側、湾刀の刃が巻き起こった炎の渦によって覆われる。
「ち、ちちち、ちょっとぉ!?」
それを見てあわてたのがブイリュウだ。すぐに振り向き、ジーナ達に告げる。
「みんな、すぐに伏せて!」
「え…………?」
「いいから早く!」
戸惑うファイに言い返し、ブイリュウが地面に伏せ、他の面々もそれに習う。
そして――
「精霊術か……!?
だが、精霊器との併用なんて、見たことも聞いたこともねぇぞ!」
「たりめーだ!
こいつぁオレのオリジナル! 精霊術と剣術の合わせ技――精霊剣術だ!」
うめくブレードに言い返し、ジュンイチは“鬼刃”を振りかぶり――
「いっ、けぇぇぇぇぇっ!
竜皇、牙斬!」
咆哮と同時――振り下ろした“鬼刃”から、巨大な炎の刃が撃ち出される!
「ちぃっ!」
《なめんな!》
とっさに光刃を放ち、迎撃を試みるブレードとマンティスだが――止められない。巨大すぎる炎の刃はブレード達の光刃を薙ぎ払い、一直線に彼らを襲い――直撃、大爆発を巻き起こす!
「やった――!?」
「ブレード達は!?」
爆風に耐えながら、鈴香と青木が声を上げ――
「――――――っ!
無事だ、アイツら!」
橋本が告げると同時――爆炎の中からマンティスが飛び出してきた。ブレードを抱え、ビルの上まで飛び上がる。
「やってくれるじゃねぇか……
確かに宣言どおり、オレ達の“力”を超えやがった」
ジュンイチに対し、告げるブレードだが――様子がおかしい。
強敵との戦いを楽しむブレードにしてみれば、自分よりも強い敵との戦いはむしろ望むところのはず。しかし――その視線は強敵と巡り合えた喜びではなく、明らかに怒りに染まっている。
「それなのに――どうして最後の一撃を外しやがった!?」
「たりめーだ。
本来、てめぇらなんぞに振るうつもりで得た“力”じゃねぇんだからな」
手加減された――怒りをあらわに告げるブレードに対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「こいつぁ対瘴魔、対神将を想定して編み出した“力”だ。
同じブレイカーをブッ飛ばすために得た“力”じゃない」
「…………それがてめぇの流儀かよ……!」
「文句があるならいつでも来いよ。相手してやっからさ」
うめくブレードに、ジュンイチは余裕の態度でそう告げて――
「……だったら、また相手してもらおうじゃねぇか」
「………………は?」
返ってきた答えに目を丸くした。
と言ってもその内容に、ではない。むしろ売り言葉に買い言葉的なノリで予測していたものだ。
予想外なのはむしろ、その声色が妙にうれしそうなものになっていたことで――
「次こそてめぇに本気を出させてやる!
覚悟しとけよ!」
「え? あ、おい? ちょっと?
何でそんなにうれしそうなのさ! ここって会話の流れ的にナメられて悔しがるところなんじゃないの!? ねぇ!?」
あわてて疑問の声を上げるジュンイチだったが――ブレードとマンティスはかまわずその場から離脱していってしまった。
「……あー、えーっと……」
とりあえず“精霊獣融合”を、着装を解いたものの、ジュンイチはリアクションに困って困惑の声を上げ――
「おめでとう」
そんなことを言いながら、青木はジュンイチの肩をポンと叩いた。
「見事に目ェつけられたな」
「かんべんしてくれぇ……
この期に及んで、なんでいらん因縁まで抱えなきゃなんねぇんだよ……」
思わず頭を抱えるジュンイチの言葉に――青木と橋本は顔を見合わせ、ジュンイチに告げた。
「そりゃもちろん……」
「『お前だから』だろ」
なぜか納得できてしまう自分がイヤになるジュンイチであった。
「……“精霊獣融合”……あれがヤツの“切り札”というワケか……」
ビルの上で一部始終を見守り、イクトは満足げにつぶやいた。
「厄介な力だな……
精霊獣の“力”を借りてのものとはいえ、あの出力はオレ達神将――その中でも最大出力を誇る貴様にも匹敵するぞ」
「あぁ……」
ヴォルトに答え、イクトは身をひるがえしてジュンイチ達に背を向け、
「しかし……勝敗は別物だ。
戦うならば……オレが勝つ」
「おーい、メシだぞー……って、アレ?」
その晩、夕飯の支度を済ませてリビングに顔を出したジュンイチは、そこにメンツが足りていないことに気づいた。
キョロキョロとリビング内を見回し――プラネル達に囲まれてゲームに興じているあずさとファイに尋ねる。
「あずさ、ファイ。
ジーナはどこ行った? ライムしかいないように見えるんだが」
「あぁ、ジーナさんならブレイカーベースにお泊りだそうです」
「ライカお姉ちゃんもだね」
「あの二人が……?」
二人の答えに、ジュンイチは思わず眉をひそめた。
「…………今日の宿直って、青木ちゃんと橋本じゃなかったっけ?」
「ブレイカーベースの機器を使いたいから代わってもらったんだって」
「………………?」
答えるあずさだが、肝心の意図がわからない。結局ジュンイチは首をかしげるしかなく――「ま、いっか」と自己完結し、盛り付けを行うべく台所へと戻っていった。
「………………どう?」
「とんでもないですよ、このプログラム……」
尋ねるライカに、ジーナはモニタをのぞき込みながらそう答えた。
「まず、バーチャル空間の発生技術がとてつもなく高度です。
このブレイカーベースのシミュレータに使われているハードそのものは……別に今現在世間で研究されているものをそのまま使ってるだけなんです。ウチの――ハイングラム・グループで開発されている最新モデルですね」
「一応、よそよりも数年分進んでる自信があったりしますけど」と自慢げに告げて、ジーナは説明を続けた。
「けど――そこに使われているプログラムのレベルがハンパじゃないです。
バーチャル空間の発生に関わる部分も極端にハイレベルです。ウチのシミュレータでこれを使えば――現行のバーチャルシステムの10年先のレベルが引き出せます」
「それは十分にわかってるわ」
ジーナの言葉に、そのことを身をもって体験したライカは肩をすくめてそう答えた。
「けど……それだけじゃ、ただ単なる“よくできたバーチャルシステム”でしかない――そうでしょ?」
「はい……
この部分だけじゃ、ただ視覚的にリアルなバーチャル映像が展開されるだけです」
答えて、ジーナはモニタへと視線を戻し、
「システムの一部に、バーチャル映像の中に一種のサブリミナル信号を組み込むルーチンがあります。
そのルーチンで視覚を経由、脳に暗示をすり込むことによって、本来視覚的なリアルさしか持たないバーチャルシステムに他の4感を加え、完全なバーチャル空間を作り出すことを可能にしているんです」
「それがあのリアルさの正体ってワケね……」
「けど……」
ライカに答え、ジーナは深刻な表情で続けた。
「問題は――なぜこんなものが作れたか、です。
こんなの――バーチャルシステムが感覚に与える影響を知り尽くしていないと作れません。
それに感覚器官と脳の知覚に関するメカニズムも……断言してもいいですけど、これを作った人はプログラムだけじゃなく、人の脳の仕組みも、それも脳細胞レベルから知り尽くしているとしか思えません」
「作った人、ねぇ……」
ジーナの言葉に、ライカはしばし思考をめぐらせ、
「……ねぇ、ジーナ。
これを作った人、調べられない?
プログラムの中に、版権的な扱いで署名とかないかな?」
「ちょっと待ってください。
今調べてみます」
ライカの提案になずき、ジーナは検索をかけ――該当があった。
「ありました」
「誰?」
そして、二人はモニタをのぞき込み――言葉を失った。
「ねぇ、これ……」
「そんな……!?」
そこにあったのは意外な人物の署名――声をそろえ、その名をつぶやいた。
『“グレムリン”……!?』
ファイ | 「この間の戦いでジュンイチおにいちゃんにコテンパンにやられちゃったバベル。 けど、そのバベルがまたまたこりずに襲ってきたの! しかも! 自分の軍団の瘴魔獣オールスター! 今までにない大軍団だよ! …………え? ジュンイチお兄ちゃん、『任せろ』って……どういうこと? え!? まさか、合身状態で“精霊獣融合”!? 次回、勇者精霊伝ブレイカー、 Legend26『太平洋を炎に染めて』 そして、伝説は紡がれる――」 |
(初版:2007/11/03)