序章

 


 

 

 それは、あるひどい嵐の夜のことだった。

 小笠原諸島、その近海。
 夜、荒れ狂う海上に、必死に荒波に耐えている一隻の漁船の姿があった。
「くっそっ、なんて波だ!」
「荷物しっかり固定しろ!」
 口々に怒号や指示が飛び交う中、漁師のひとりが操舵室へと向かう。
「おい! いったいいつになったらこの嵐を抜けられるんだよ!?」
「こっちもそれどころじゃねぇんだよ!」
 さっさと安全なところまで脱出できないのかと声を上げるが、舵を取る別の漁師が反論してくる。
「舵がきかねぇんだよ!」
「何だって!?
 確かに荒れちゃいるけど、舵がダメになるほどでもねぇだろ!」
「そんなこと言われたって、実際にきかねぇんだからしょうがねぇだろ!」
「おいおい、かんべんしてくれよ。
 こんな時に故障か?」
 うめいて、文句を言いに来た漁師は窓の外で荒れ狂っている夜の海へと視線を向けて――気づいた。
「おい……あの島に引き寄せられてないか?」
「あぁ? 何言って……いや、ホントだ! 島にどんどん近づいてる!」
 さらなる悪い知らせに場は騒然となる。万が一、座礁したり、島の岸壁に叩きつけられたりしたら――
 そんな最悪の事態を回避しようとそれぞれが動きだした、その時だった。
 突如、島の一部が爆発したのだ。
 それは、このまま船が引き寄せられて行ったら向かっていたであろう場所だった。“まるで内側から吹き飛んだかのように”吹き飛ばされた岩や岩盤が海に落下して、嵐の中でも明らかにわかるほどに大きな水しぶきを挙げる。
 いったい何の爆発か、まさかあの島に新しく火山でも生まれたのか――思わず見入る漁師達の耳が、新たに響いた音を捉えた。
 ――否、“音”ではない。



 ――ガァアオォォォォォッ!



 “咆哮”だ。



    ◇



「漁船が?」
「はい。
 太平洋側の領海内で、次々に行方不明になってるんです」
 ここはブレイカーベースのコマンドルーム――聞き返すライカに対し、ジーナはそう答えて問題のデータのプリントアウトを差し出した。
 九州から小笠原にかけての広い範囲にポツポツと、しかしけっこうな数のマーキングがされている。問題の漁船群がそれぞれに消息を絶った、最後に位置が確認されたポイントということか。
「これが瘴魔の仕業だっての?」
「まだそこまでは断定できませんけど……もしこれが瘴魔の仕業だった場合……」
 ジーナの言いたいことはすぐに察しがついた。
「なるほど。
 現場は海。つまり水場……犯人が瘴魔だった場合、ザインが動いてる可能性が高いってことね」
 納得して、ライカは改めてプリントアウトされた地図へと視線を戻した。
「でも……まだ何もわからない内からザインの仕業と決めつけるのも早計ね。
 これが瘴魔の仕業じゃなかったと仮定した場合、どんな原因が考えられるか……」
 つぶやいて――ふと気づいた。
「…………」
 自分とは別に、真剣な顔で紙面を見つめている仲間の様子に。
「どうかしたの、鈴香?」
「いえ……
 今ライカさんが言った、『これが瘴魔の仕業じゃなかった場合』のことを考えていて……」
 そう答える鈴香だが、その表情は何やら深刻そうだ。
「何か……気になることでも?」
「似てるんです」
 尋ねるライカに、鈴香はそう前置きして――



「ゴジラの一件の時と」



『…………っ』
 その言葉に、ジーナの、ライカの顔色が変わった。
「……?
 ねぇ、ゴジラって?」
「あー……
 まぁ、ファイさんくらいの年じゃ知らなくてもおかしくないですね。学校で習うのも小六の日本史からのはずですし」
 一方で首をかしげるのはメンバー最年少、小学四年生のファイだ――納得する鈴香を横目に、ライカは軽くため息をついた。
「ゴジラっていうのは、今からだいたい50年くらい前に出現した、最初の“怪獣”よ」
「最初の怪獣……?」
「そう。
 ネッシーやらビッグフットやらチュパカブラやらツチノコやら……いわゆるUMAの話は昔から、世界中に伝わってるけど、ハッキリ人類の前に姿を現して、実際に人類の目の前で被害を出したのはゴジラが初めて。
 記録上は、ゴジラが初めての怪獣災害の案件と言われているわ」
「そのゴジラが出てきた時の話と、今回の話が似てるの?」
「そうですね」
 聞き返すファイには鈴香が答えた。
「正確には今から48年前の1954年、太平洋上で漁船が、その捜索に出たものも含めて次々に行方不明になる事件が起きました。
 その犯人こそが、ゴジラ……その名前は、最初に発見された大戸島に伝わる伝説に登場する龍神様の名前にちなんだそうです」
「漁船が次々に……あっ」
「ね? 似てるでしょ?」
 鈴香の説明にピンときたファイに声をかけ、ライカは肩をすくめる。
「まぁ、瘴魔の仕業って話もゴジラの仕業って話も、今はまだ何の確証もないわ。
 もちろん、それ以外の何かが原因の可能性だって……だから、まずはそれを確かめる。
 ファイ、ウチの男衆に連絡をお願い。私達はみんなが集まるまでにわかってる情報まとめとくから」
「はーい」
 うなずいて、ファイはコマンドルームを出ていく――それを見送ると、ライカは改めてジーナへと振り向いた。
「じゃあ……とりあえず、被害の一番古いエリアは?
 瘴魔の仕業にしても他の何かが原因にしても、一番手掛かりがありそうなのはそこでしょ」
「そうですね。
 最初期の事件が起きた海域にあるのは……」
 そうしてジーナがモニター上のマップを拡大。その中心にあったのはひとつの島。
 名前は――



 姫神島。



    ◇



 その頃、青木啓二は――
「えっと……」
 困惑していた。
 その理由は単純。
「長崎県警の方が……東京までわざわざ?」
 およそ東京での対面の機会などなさそうな相手であったからだ。
 困惑まじりに、目の前の刑事を連れてきた張本人――友人にして空自のイーグルドライバー、現在は警察と合同で設立された瘴魔対策本部に出向中の神威和馬へと視線を向けた。
「……どういうことだよ?」
「九州大学の平田教授……知ってるな?」
「え……?」
 和馬の挙げた名前には確かに覚えがある――国内でも指折りの、鳥類学者の権威だ。
 “獣”のブレイカーとして覚醒したことで、自身の能力の行使に関わる動物のことをよく知ろうと考えた啓二は、本やネットで調べるだけでなく最新の研究情報を目当てに大学の公開講義などにも顔を出していた。平田教授も、そうした公開講義を開いていたひとりだ。
 だが、啓二がブレイカー絡みで接触した人物のことを、どうして彼がブレイカーだと知らない和馬が結びつけてきたのか――
「教授の研究室の人が、この刑事さんに話したそうだ。
 『最近大学外の人間と接触があったか』って話で、公開講義に来ていたお前のことを思い出したそうだ。
 熱心に質問してたから印象に残ってたとか……何だ、お前そんなに動物に興味があったのか?」
「いや、最近ちょっとな……」
 大学に出向いた理由については適当にぼかしておく――が、無視できないこともある。
「でも、警察の人が本人じゃなくて研究室の人にそんなことを聞くって……
 まさか、平田教授に何かあったのか?」
「あぁ、あった。
 連絡が取れなくなってる……それで向こうの警察が動いてな。
 事件性の確認の一環から部外の人間との接触について調べていたところで、お前の名前が出た」
「で、瘴魔絡みで広域捜査権を持ってる対策本部に話が持ち込まれて、そこからオレの知り合いの和馬に、ってワケか……ん?」
 和馬の答えに納得し――かけたところで、啓二はふと気づいて眉をひそめた。
「いや、ちょっと待て。
 単に広域捜査ってだけなら、普通は警視庁の管轄だろ。
 なんでそれが瘴魔対策本部に話が持ち込まれてるんだ?
 まさか……」
「そのまさかだ。
 瘴魔が絡んでる可能性があるんだ……そして、その話の経緯的に、教授の失踪前に会っていた人が、そうとは知らないまま何か聞いてる可能性があると判断されたんだ」
「なるほど……その経緯って?」
「お前、何か聞いてないか?
 教授が近々調査に出るとか」
「えっと……」
 和馬の問いに、啓二は頭の中で自らの記憶を掘り返す。
 該当する情報は――あった。
「そういえば……調査の話をしてたな。
 『珍しい、大きな雛が見つかった』って」
 その啓二の答えに、和馬と刑事は顔を見合わせる――そのリアクションは、啓二に気づかせるには十分すぎた。
「まさか……その“鳥”か?」
「おそらく……」
 答えたのは刑事の方だった――それに続く形で和馬が説明する。
「行方不明になったのは教授だけじゃない。調査隊や、調査先の島の住民達まで……
 そんな中で、最後に消息を絶った男が漁船の無線で助けを求めてきたんだが、その中で『鳥』と……な。
 どうだ? 一気にきな臭くなったろう?」
「つまり……その“鳥”が瘴魔か、違うにしても何かしらの超常枠だと、そう上は判断したワケか」
 一応事情は理解できた啓二だったが――まだ肝心なことを聞いてない。
「で? その島ってどこなんだ?」
「それを聞いたら、もう引き返せないぞ。
 いくら貢献していても、お前はあくまで民間協力者。本来なら現場まで出てきてもらったらいけない人間なんだぞ」
「今さらそれ言う?」
「…………そうだな」
 啓二に答えて、和馬は告げた。
「その島の名前は……」



「姫神島だ」



    ◇



 時を同じくして、南の最果てに広がる氷の大地――南極大陸。
 その一角に、まるで工事でもしているかのように大規模に氷が掘り返され、地面が露出している場所があった。
 掘り返された地面、地中からのぞいているのは石造りの古い建造物。どうやらここは何かしらの遺跡、その発掘現場のようだが――



 そこは現在、銃弾や光弾が飛び交う戦場と化していた。



 撃ち合っているのは二つのグループ。近代的な装備に身を包んだ一団と、マントとフードで容姿を隠した、いかにもファンタジーに出てくる魔法使いのような一団。
 服装といい場所といい、日常の中ではまずお目にかかれないような状況だが、これは映画の撮影などでもなければ何らかのイベントというワケでもない。
 正真正銘、本気の殺し合いだ――具体的には近代的装備の側が魔法使い風の側に攻められている形だ。
 戦況は今のところ一進一退。守る側はよく防ぎ、攻め手もあきらめる気配はなく、戦いは長引きそうな様相だ。
 ただし――



 そこに乱入者が現れれば話は別だが。



 それは突然のことだった。
 何の前触れもなく、炎弾による爆撃が雨あられと降り注いだのだ。ただし、無差別な爆撃ではない。炎弾はその場で戦っている全員を正確に狙い、撃ち倒していく。
 そう、“全員”だ。敵味方関係なく、両陣営を瞬く間に壊滅させて――
「ちょっとゴメンねー。
 悪いけど、ちょっと眠っててちょーだいな♪」
 そんな彼らを見下ろし、“装重甲メタル・ブレスト”をまとったジュンイチが上空から言い放った。







「ふーむ……」
 予想通り、遺跡は地下へと広がる構造となっていた――内部に入り、ジュンイチは軽くため息をついた。
「中もフツーの石造りか……
 “裏”のみなさんが争奪戦に動くような状況だし、遺失技術ロスト・テクノロジーのひとつもあると思ったんだけどなー」
 今回ジュンイチがつかんだ情報の中で確定情報と言えるのは「裏社会のいくつかの組織が奪取に動いている」というところまで。その『裏社会のいくつかの組織』の内のひとつがいわゆる魔術結社に分類されるものだったことから何かしらの古代遺物が絡んでいるのではと考え、こうして出向いてきたのだが……今のところ、それらしいものは何も見つからない。
 とりあえずもっと奥の方を調べてみようと先に進む。特に分岐にも出くわさないまま、足跡ひとつなく降り積もった埃が前人未到であることを示すその通路をしばらく進んで――その先の部屋で行き止まりとなった。
 が――
「……うっわー……
 祭壇ときましたかー」
 その中央に鎮座しているものが大問題であった。
 ここがそんじょそこらの宗教施設であれば何の問題もなかったであろうが――古代遺跡にコレがあるとなれば話は別だ。
 祭壇とはすなわち信仰や崇拝の対象を祀る場所――であると同時に、その対象が降臨する際の目印、または門となる場所だ。前者であればまだいいが、後者となるとその危険度は桁違いに跳ね上がる。
 もし何かの弾みでその降臨の儀式の術式などが発動してしまったら目も当てられない。“力”の流れに注意しながら祭壇を調べてみる。
 幸い、術式の類はなく、ただの信仰の上でのシンボルらしいということはわかったが、
「……ん?
 開く……?」
 祭壇の上部が固定されていない。乗っているだけだ――試しにずらしてみると、その下は空洞。どうやらこれは何かを安置しておくための祭壇だったようだ。
「ヤバいものが入ってたりしないだろうな……?」
 とはいえ今まで手つかずであった以上油断は禁物だ。警戒しながら祭壇の上部を脇にどける。
 その中に入っていたのは――
「……勾玉?」
 金属製の勾玉。それもかなりの数だ。
 試しにそのひとつを手に取って、気づく。
「これ……オリハルコンか?」
 “気”、魔力、霊力、そして精霊力……種類を問わず、いわゆる生命エネルギーの類の伝導性においては、自然界で最も優秀とされる金属である銀すらもしのぐ超金属。ジュンイチ達ブレイカーの装備に使われる精霊文明製の超金属エレメンタリウムと同じく古代文明産の特殊合金のひとつ。
 現代においてはその製法は失われ、ブレイカーの“再構成リメイク”をもってしても作り出すことは超高難易度。入手するには古代に精製され、各地の遺跡に眠るそれを見つけるしかないという超希少素材だ。
「奪い合いが起きるワケだぜ……ん?」
 つぶやいたところで、ジュンイチは気づいた。
 勾玉の箱の内側に、何かが掘られている。
 模様……ではない。これは――
「ルーン文字……?」
 少なくとも術式ではない、ただの文章のようだ。勾玉をすべて取り出し全文を確認する。
 元々魔術関係のゴタゴタ対策でルーン文字は勉強済み。固有名詞と思しき部分に多少手こずったものの、それでもそう時間をかけずに解読することができた。
 そうして明らかになった文面は――

 最後の希望 ガメラ
 時の揺りかごに託す
 わざわいの影 ギャオスと共に目覚めん

「ガメラ……? ギャオス……?
 というか、どうしてこんなところに……?」
 「最後の希望」「禍」なんて言葉が入った文章も不吉だが、そもそもどうして器の内側なんて読みにくいところにこの文面が彫られていたのか。
 この場で今パッと思いつく仮説としては――
「この勾玉を取り出すことで全文確認できる場所……
 勾玉を手にした人間へのメッセージってことか……?」
 ジュンイチがつぶやいた――その時だった。
 突如、遺跡が地響きを立てて鳴動を始めた。石造りの天井の隙間からパラパラと詰め物の砂がこぼれ始める。
「トラップか……?」
(いや……それにしては勾玉を取り出してからのタイムラグが長すぎる。
 それに、遺跡全体が揺れてるって感じじゃない。遺跡を崩して盗掘者を生き埋めに……とかいう類じゃないな、コレ)
 とっさに頭をよぎった仮説には矛盾があった。確かめるべく地面に手をあて、直に振動を感じ取る。
 ……発生源が遠い。別口で発生した振動がここまで伝わってきているようだ。
 やはり罠ではなかったようだが……
「うん、出よう」
 この振動が、この遺跡を揺るがすほどの規模のものであることには違いない。罠ではないのなら速さ最優先、全力疾走でなりふりかまわず脱出してしまってもかまわないだろうと、ジュンイチは全速力で遺跡の出口へと走る。
 幸い、遺跡が崩落するようなことはなく、無事脱出することができたが……
「うげ」
 外の方が大変だった。遺跡を埋めていた分厚い氷の層、掘り返されていなかった周囲のそれが崩れ始めており、砕けた、しかしそれでもまだ人の身の丈ほどもある氷塊が次々にこちらに向けて転がり落ちてきている。
 もちろんここにいては危険だ。すぐさま装重甲メタル・ブレストを身にまとい、空中に逃れようとするが、
「…………っ」
 周りを見て眉をひそめる――そこには、自分の到着前にここで戦っていた、そして自分が先ほど全滅させた連中が死屍累々と倒れている。
 まぁ、「死屍累々」なんて言ってはいるが、実際には誰ひとり殺していなかったりする――のだが、今はそれが災いした。
 周りの氷の崩落がこのまま続けば、彼らは全員生き埋めだ。そんなことになれば、全員凍死は免れまい。
「……あー、もうっ!」
 そうなるとせっかく不殺で制圧した意味がなくなる――もちろん、それを黙って許容できるジュンイチではない。手にした両刃の直剣、精霊器“爆天剣”に自らの“力”を流し込み、炎として燃焼させ、
「こんっ、のぉっ!」
 周囲にぶちまけた。超高温の炎が周囲に展開され、転げ落ちてくる氷塊を片っ端から融かして――否、蒸発させていく。
 これでこの場は大丈夫だろうと息をつき――



 ――――――



「――っ!?」
 “それ”を、感じ取った。
「何だ、この“力”……!?
 とんでもなくデカい……!?」
 そう――突然とてつもない大きさの“力”の気配を感じ取ったのだ。
(増大具合は加速度的……眠っていたものが何かの弾みに目覚めた、って感じだな。
 というか……)
「コイツ……サイズの方もバカデカくないか?」
 “力”の大きさ、それは出力的な意味での「大きさ」だけの話ではなかった。
 通常、正負を問わず生命エネルギーというものは対象の体表全体から少しずつ発散され、それが周囲に滞留して力場を形成している。ジュンイチ達が感知の足がかりにしているのがそれであり、その仕組み上放出範囲を把握することで相手の体格も推し測ることができる。
 なので、相手の体格も概ね把握できたのだが――それは文字通りの“巨体”であった。
 自分達が主に戦っている相手、瘴魔獣の巨大化態よりも、そしてそれに対抗する自分達の巨大戦力、ブレイカーロボよりもさらに大きい。
 その推定身長――60メートル前後。
 幸い、感じ取れる“力”は瘴魔力のような負の生命エネルギーではなく自分達と同じ精霊力だ。禍物でないだけでもありがたいが、それでもその巨体だけで十分に脅威となり得る相手には違いない。
「何が来る……!?」
 警戒し、身がまえる――が、“力”の主が姿を現すことはなかった。
 気配は氷の中からの脱出には成功したようだが、そこからこちらへ出てくることはなく、そのまま海中にもぐったようだ。気配の位置はどんどん下降、やがてその存在感も薄まり、消えていく。



 海中に潜る前に、こちらに届くほど高らかに響かせた甲高い咆哮を残して――


 

(初版:2022/07/18)