プロローグ
暴かれた封印
今日もまた、大した事件もなく平穏な一日が続いていた。
快晴の青空、そして太陽が柔らかい光を振りまく中、ジュンイチは道場の縁側でいつものように惰眠をむさぼっていた。
そのまま、ポカポカと暖かい日差しの中で意識を手放――
「ジュンイチぃっ!」
「ぐはぁっ!?」
――せなかった。飛び乗ってきたブイリュウによって、ジュンイチの意識は一瞬にして現実へと引き戻された。
「ってぇっ!
ブイリュウ、何すんだよ!」
「エヘヘ……ごめん」
ジュンイチに叱られ、ブイリュウは素直に謝ってジュンイチの上から降りると、
「けど、ジュンイチが悪いんだよ。
今日はゴッドドラゴンの新しい追加パーツの調整をするはずだったじゃないか」
「……そうだっけ?」
「やっぱり忘れてたんだ……」
真顔で聞き返すジュンイチに、ブイリュウはあきれてため息をつき、
「ホラ、行くよ、ジュンイチ」
「へぇへぇ」
◇
「って、何作ったかと思えばただのコンテナじゃねぇか……」
ゴッドドラゴンのコックピットで、愛機の背中にランドセルのように装着されたコンテナを見て、ジュンイチはため息まじりにそうつぶやいた。
今いるのは龍雷学園の裏にある、柾木家所有の山の洞窟である。内部には山頂にある御神木“神籬”の根に支えられた大規模な地下空洞が存在し、現在はここに龍牙が実家のコネをフル回転させて建造した秘密基地“ブレイカーベース”があるのだ。
それはともかく、ジュンイチのそのボヤきにはブレイカーベースの指令室にいるジーナが答えた。
〈いいじゃないですか。遠出の時にはそういう物資運送のコンテナは便利ですから〉
「そりゃそーだけどさぁ、だからってテストの時までいろいろ詰め込まなくてもいいじゃんかよ。オレのバイクまで……」
〈実際の使用状態に近づけるためですよ。文句言わないでください〉
「ったく、わかったよ……」
ジーナの言葉に、ジュンイチはそう答えると大きくのびをして――
「……ん?」
ふと、地下空洞の天井で何かが光っているのに気づいた。
「何だ……?」
「何だ、コレ?」
着装して飛び立ち、ジュンイチが手にとって見た光の正体は、手の平に収まるほどの大きさをした、青色の結晶体だった。
「“神籬”の霊力が隠してたのか……?」
結晶体をまじまじと見つめ、ジュンイチがつぶやき――その時だった。
「ぅわぁっ!?」
突如、結晶体が輝きと共にすさまじい“力”の奔流を放ったのは。
「こ、こいつぁ……!?」
そして、その光と“力”はジュンイチを、そして地下空洞そのものを飲み込んでいく――
「ジュンイチさん!?」
「ジュンイチ!?」
「な、何これーっ!?」
異変をモニター越しに目撃したジーナとブイリュウ、ライムも。
「………………ん?」
居住区の自室でのんびりしていた鷲悟も。
「……あれ……?」
「ほぇ……?」
学校の宿題の合間に飲み物を、とドリンクサーバーに向かっていたライカや、彼女と共にいた鳳龍も。
「……ふにゃあ……」
「むにゃむにゃ……」
自室でそろって昼寝しているファイやソニックも。
「あら……?」
「鈴香、これは……?」
格納庫で機械いじりに没頭していた鈴香やガルダーも。
「何だ……?」
「タカノリ……?」
廊下を歩いていた崇徳とヴァイトも。
「………………?」
「け、ケイジ!?」
シューティングブースで射撃練習をしていた青木と見学していたファントムも。
その時ブレイカーベースにいた者達が、次々に光に包まれていく。
さらに、光の中に宿っていた力は地下空洞のある山の地面をも突き抜け、周辺一帯にも広がっていく。
そして、その波動が世界に溶け込み、消えたその後――
“彼ら”は、この世界から姿を消していた。
(初版:2006/03/05)
(第2版:2012/10/09)(加筆修正)