「……受けて立つに、決まってる!」
 突如として現れ、ミルヒを拉致。奪還戦として戦興行の宣戦布告を行ったのは、ガレット獅子団の秘密諜報部隊“ジェノワーズ”を名乗る少女三人組――そんな三人に、シンクは力強く言い放った。
「僕は、姫様に呼んでもらった、この国の勇者シンクだ!
 どこの誰とだって、戦ってやる!」
「……宣戦布告を受諾していただき、ありがとうございます」
「ほんなら、ウチらは先にミオン砦に引き上げて待ってるからな!」
「姫様を無事奪還できるか……その腕前、期待していますよ♪」
 そんなシンクに対し、ジェノワーズの三人は口々にそう告げて――







「そんなこと言わないでさぁ……」







『――――――っ!?』
 聞こえた声に警戒を強めると同時、彼女達の頭上に影が落ち――
「“今からやろうぜ”」
 着装した崇徳の振り下ろした影天棍が、彼女達のいた地点に叩きつけられた。
 そう、『彼女達の“いた”』――過去形だ。すでにジェノワーズの三人は散開し、崇徳の攻撃を回避している。
 だが、三人が今の一撃をかわすことは崇徳にとっても予定調和の内だった。ゆっくりと立ち上がり、告げる。
「一国の姫様を拉致しておいて、無事に引き上げられると思ってる時点で甘くない?
 “姫様“奪還”戦”の前に、まず無事にこの場を引き上げられるか……“姫様“誘拐”戦”といこうじゃないの」
「おぉっ!? ここでまさかの逆宣戦布告かいな!?」
「これは予想外……」
「なかなか面白い提案ですね……」
 崇徳のその提案に、ジェノワーズの三人、ジョーヌ、ノワール、ベールが口々に答える――ちなみにミルヒはノワールに保護されている。
 だが――
「けど、残念ですね……
 その戦については、もう私達の勝ちが決定してますよ!」
 そう言い放ち――ベールが唐突に弓をかまえた。
 プロテクターの形状から弓術士だろうと予測してたけど、ビンゴか――などと納得する間もない。放たれた矢が、着装した崇徳の展開する絶対防御の力場に命中して――炸裂した。瞬間、周囲に激しい光が放たれる。
 そして、その光が消えた時――ジェノワーズとミルヒの姿は忽然と消えていた。
「……逃げられたか……」
 置いてきぼりをくらったガレットの放送スタッフがあわてて撤収を始めるのを尻目に、崇徳は高速で去っていくジェノワーズ(と捕まったミルヒ)の気配を正確に捉えてつぶやく――が、
「お、追いかけないと!
 タカノリ、その鎧の能力で追いつけない!?」
「あー、それムリ」
 あわてるシンクに対し、崇徳は「お手上げ」とばかりに軽く両手を挙げてみせた。
「昼間の戦の時も言っただろ?
 オレのこの“装重甲メタル・ブレスト”は、“守り”に重点を置いた仕様になってる」
「うん」
「“守り”……つまり、それは“襲ってくる相手を迎え撃つ”ってことだ」
「じゃあ……」
「そう」
 なんとなく、言いたいことはわかった。つぶやくシンクに、崇徳はうなずいた。
「逃げる相手を追いかけて、トドメを刺すようにはできてないんだよ、オレの“装重甲メタル・ブレスト”は。
 “広い範囲を”攻撃するのは得意でも“長い距離を”攻撃できる手段なんてシャドーサーヴァントくらいしかないし、長射程の精霊術の手持ちもない。
 飛行ユニットにしたって、制空圏内での機動性を確保してあるだけで、巡航速度は遅いし航続距離もそんなにない。追跡戦にはこれでもかってくらいに不向きなんだよ。
 一応、影を媒介にした転移術もあるにはあるけど……走ってる人間の影に転移するなんて自殺行為。
 影を介する以上、どうしても地面から顔を出す形になるからな……相手も気づかない内にさんざんに踏みつけられて、こっち側に叩き帰されるのがオチだよ」
「つまり……逃げの一手に出られたら、タカノリにはもうどうすることもできない、と……」
「そういうこと。
 そうなる前に『姫様を連れて行くなら、まずオレを倒してからにしてもらおうか』的なノリに持っていこうとしたんだけど……」
 「残念。狙いは見抜かれてたみたい」と、崇徳は軽くため息をつく。
「こうなったら、連中の思惑に乗って奪還作戦に応じてやるしかないよ。
 話の流れ的に、さっきの宣戦布告は間違いなく生中継だったはず……となれば、エクレールも事態には気づいてるはずだ。すぐに合流してセルクルを貸してもらって……」
 崇徳がそう告げた、その時だった。
「お前らぁっ!」
「あ、ウワサをすれば何とやら」
 放送を見ていたのだろう。全速力でこちらに向けて駆けてくるエクレールの姿に、崇徳が「ちょうどいい」と口笛を鳴らす。
「エクレール!
 大変だ! 姫様が……!」
 そんなエクレールに対し、シンクがさっそく話しかけて――



「この、バカ勇者がぁぁぁぁぁっ!」



「ふぎゃんっ!?」
 エクレールの飛び蹴りが、シンクの顔面に突き刺さった。

 

 


 

EPISODE 4

大暴れ! シャドー・ターミネーター

 


 

 

『えぇっ!?』
 エクレールからその“事実”を知らされ、崇徳と(エクレールの足型を顔面に残した)シンクが声を上げる。
「宣戦布告って……」
「断ってもよかったの!?」
「あぁ、そうだ!」
 そして、驚く二人に対し、エクレールは力いっぱいそう答えた。
「宣戦布告を受ければ、正式な戦と認めることになる!
 平時ならまだしも、よりによって姫様を、しかもコンサートを目前に控えたこんなタイミングで……っ!」
「エクレ、あんまり怒ると血管切れるでありますよ?」
 言いながら、人数分のセルクルを連れて現れたのは、この騒ぎが起きるまでエクレールと一緒にいたというリコッタである。
「それにエクレも、宣戦布告の仕組みについては教えてなかったんでありますよね?」
「う゛…………っ」
 確かに教えていなかった――リコッタに痛いところを突かれて、エクレールは思わず反論に詰まる。
「えっと……つまりはこういうこと?
 今回の、あの宣戦布告に対しては、『姫様はコンサートがあって忙しいからパス。ガウ様とやらとの一騎討ちはまた別の機会に』っていうのが、回答としては正解だった……と」
「でありますな」
 要点をまとめ、確認する崇徳にリコッタがうなずいて――
「…………ゴメン、エクレール。勝手なコトして」
 そう告げて、シンクは素直にエクレールに対して頭を下げた。
「けど、僕らの世界じゃ、お姫様が悪者にさらわれるなんて、すごく大変なことなんだ。
 だから……ほっとけなかった」
「そ、そうなのか……」
 真剣な表情で語るシンクに対して、エクレールもさすがにバツが悪くなってきたか、少しテンションを落としてうなずく。
「オレ達の方の地球も同じく……な。
 戦は戦。イベント興行でもなんでもない、純然たる戦い……宣戦布告とその受諾のやりとりさえあれば要人誘拐すら合法、なんていうのはオレ達の世界じゃ考えられないことなんだ。
 だから、シンクの反応はオレ達の世界じゃむしろ普通なんだ。その辺りのことは、察してやってくれないか?」
「う゛っ…………
 す、すまない……そんなことも知らないで……」
 さらに崇徳のフォローまで加わり、エクレールの敗訴は決定的――ここまできた以上食い下がるようなことはするつもりはないのか、エクレールは素直に頭を下げた。
「……さて、それはそうと、こうなった以上、急いで姫様の奪還に動かないとな。
 エクレール――ロランさんは、もうこの事態のことは知ってるんだろう?」
「あぁ」
 お互いの謝罪が済んだ以上、これ以上この問題を掘り下げる必要はない。気を取り直して尋ねる崇徳に、エクレールは渋い顔でうなずく。
「すでに騎士団には召集がかかっているはずだが……正直、待っている時間すら惜しいな。
 ここからミオン砦までの距離を考えると、今からすぐに動いたとしても行って帰ってくるだけで猶予時間のほぼすべてを使い切る。戦っている時間は、ハッキリ言ってほとんどない」
「じゃあ、僕らだけでなんとかするしかないってこと?」
「残念ながら、そういうことだ。
 時間が惜しい。すぐにつぞ」
「自分も微力ながら、お手伝いするでありますよ!」
 シンクに答えるエクレールのとなりで、リコッタもまた手を挙げて参戦を表明する。
「よし、それじゃあ行こうか」
 言って、崇徳はリコッタの用意してくれたセルクルの手綱を握り、
「姫様奪還作戦、開始だ!」
『オーッ!』
 崇徳の宣言に、一同が力強く拳を突き上げた。



   ◇



「すまない、アメリタ。
 勇者殿に、宣戦布告の仕組みについて教えていなかった……」
「そうだったんですか……」
 一方こちらでも、シンクが宣戦布告を受諾したことは相応の騒ぎになっていた――コンサート会場でロランに頭を下げられ、アメリタは静かに息をついた。
「大丈夫。
 姫様は、我々が必ず助け出す!」
「しかし……間に合うでしょうか……?
 姫様のコンサートまで、あと一刻半しかないというのに……姫様の歌を楽しみにしてくれている人々を、悲しませるワケにはまいりませんし……」
 だが、事態は何ひとつ好転していない。ロランの励ましにもアメリタは一番の問題が気にかかり――
「ワンッ!」
 突然、二人の足元から声がした。
 見れば、そこにはタツマキとは別の、一匹の成犬の姿があった。
 そして――
「お前は……」
「ホムラ……?」
 ロランにもアメリタにも、その犬に見覚えがあった。



   ◇



 そしてこちらは、ガレット側が今回の戦場として指定してきたミオン砦――
「いやぁ、ガウル殿下直々にご指名いただき、このゴドウィン、光栄でありますぞ」
「なぁに、昼間の戦を見た限り、お前もまだまだ暴れ足りねぇだろうと思ってな」
 その中央、謁見の間において、ガウル・ガレット・デ・ロワはかしずくゴドウィンにそう答えた。
 年の頃ならシンクと同じくらい。短く切りそろえられた髪は透き通るような銀色。強い意志を宿した瞳とあわせて、確かに姉であるレオの面影がある――ただ残念ながら、その立ち振る舞いから感じさせる貫録はまだまだ姉には及ばないようだが。
「確かに、砦攻めも悪くはありませんが、自分はやはり野戦が得意で御座いますれば……」
「おぅ、ガッツリ暴れてくれや」
 ゴドウィンの言葉に不敵な笑みと共にガウルが答え――今度はゴドウィンがガウルに尋ねた。
「そういえば……ミルヒオーレ姫は、今どちらに……?」
「ルージュに任せてあるよ。接待態勢は万全さ」
「なるほど……」
「後は……」
 ゴドウィンがうなずくと、ガウルは不意に思考に沈むかのように彼から視線を外し、
「オレにもちょいと、思うところがあってな……」
「………………」
 そのガウルの“思うところ”にはゴドウィンにも心当たりがあった。ただ無言でうなずき、ガウルのつぶやきに同意するのだった。



   ◇



 そんなミオン砦の一角――来賓をもてなす接遇室で、さらわれてきたミルヒはガウル付きのメイド達の接待を受けていた。
 今はミルヒの希望で“ある者”を呼びに行っているため、室内には彼女しかいないものの、お菓子やお茶の準備も万全。暖炉の火もちょうどよく室温も快適そのものと何の不満の余地も許さない完璧な接待ぶりである。
 と――その時、彼女のいる接遇室の扉がていねいにノックされた。
「はい」
「失礼します、ひい様」
 ミルヒの返事を確認の上扉を開け、入室してきたのはガウル付のメイドを束ねる近衛メイド長のひとり、ルージュ・ピエスモンテである。
 そんな彼女は、傍らに一頭の雌ライオンを控えさせていて――
「お待たせいたしました。
 ヴァノン一家をお連れしました」
 その雌ライオン――ヴァノンこそがミルヒが対面を希望していた相手だった。「一家」と言った通り、ルージュの後ろには他のメイド達がヴァノンの子供達を抱きかかえて控えている。
「ありがとう、ルージュ!」
 待ち人の登場に、ミルヒの表情は一気に輝いた。ルージュに礼を言いながら寄ってきたヴァノンの前にかがみ込み、その頭をなでてやる。
「しばらくでした、ヴァノン。元気そうで何よりです。
 それに、今年の子供達も、元気でかわいいですね」
「はい。
 『ヴァノンも、自分の子供達の元気な様子をひい様に見ていただきたいだろう』と、ガウル様が連れてきてくださって……」
「ガウル殿下にはいつもよくしていただいて……ありがとうございます」
 主君への礼を口にするミルヒに対し、ルージュはメイドとして完成されたきれいな所作で一礼、主に代わって謝辞を示す。
「戦はまだ始まらないようですし……よければ少し、ガウル殿下とお話でもしてあげてください。
 今、呼んで参りますので」
「はい。
 お願いします、ルージュ」
 ミルヒが了承を伝えると、ルージュは再びきれいな一礼をした上で退室していった――自分とヴァノン一家だけが残された室内で、ミルヒは軽く息をつくと改めてヴァノンの頭をなでてやる。
「ヴァノン……あなたのご主人様、レオ様は、ご壮健でいらっしゃいますか?
 以前は、いつもお互いの国を行き来して、仲良くしていただいていたはずなのに……」
 ヴァノンの頭をなでる手は穏やかそのもの――しかし、ミルヒの表情はどこか物悲しいものが宿っていた。
「近頃は、お会いすることも、すっかりなくなってしまって……お聞きする言葉も、戦の口上ばかりで……」
「………………」
 そして、ヴァノンもそんなミルヒの心情を察しているのか、声を発することなく彼女の顔を心配そうに見上げている。
「『ミルヒは、とても寂しがっている』と……伝えていただけますか?」
 寂しそうにそう告げるミルヒに対し、ヴァノンは静かにこうべを垂れるしかなかった。



   ◇



 そして、ミオン砦の外では、すでにガレット戦士達によって防衛線がしかれていた。
 戦闘準備完了。いつ襲われたとしても万全の備えをもって対応できる――そんな彼らの元に、全速力で突っ込んでいく者達がいた。
 そう――言わずと知れたビスコッティ勇者一行である。
「悔しいが、砦を守るガウル殿下直属部隊は精鋭ぞろいだ。
 それが200。しかも我々は援軍を待っている時間はなく、このまま仕掛けるしかない!」
 その先頭を行くのは親衛隊長エクレール――後に続くシンクや崇徳、そして崇徳の後ろに便乗しているヴァイトに告げる。
「この人数で野戦に持ち込むのはぶっちゃけ辛い!
 だが……先の大戦では一千を超える騎兵隊を単騎で突破し、見事な一騎駆けで敵将のもとにまでたどり着いた猛者だっている!」
「まぢで!?」
「あぁ!
 それを思えば、敵の200程度、どうということはない!」
 驚くシンクに対して、エクレールは彼のみならず自分をも鼓舞するようにそう宣言して――
「……あのさぁ」
 唐突に口を開いたのはヴァイトだった。
「実は、ずっと気になってたことがあるんだけど……」
「何だ、こんな時に!?」
「うん……
 みんなの言ってる『敵兵200』って、ガウルって子の直属部隊だよね? エクレールが今そう言ってたよね?
 つまり……“ガウルがミオン砦に連れてきた”兵だってことで……」
「………………あ」
「え? 何? 何??」
 ヴァイトの言葉に、エクレールの表情が固まる――対し、意味がわからずにいるシンクには崇徳が答えた。
「あー、つまり、ヴァイトはこう言ってるワケだ――」



『砦に元々常駐してた兵はカウントに入ってないんじゃないか』ってな」



「………………あぁっ!?」
 ハッキリと言葉にして示され、シンクもようやくそのことに気づいた。驚くシンクの前方で、エクレは器用にセルクルを駆りながら頭を抱えた。
「しまった……そのことをすっかり忘れていた……っ!
 いや、しかし……ガウル殿下なら、堂々と事前に報せてきた直属部隊200しか使わないということも……っ!」
 ガウルの正々堂々とした戦いに期待したいところだが、空気も読まずに要人誘拐・奪還戦なんてしかけてきたジェノワーズの存在が不安材料だ。ヘタをしたら、その辺りのこともすっかり忘却の彼方に捨て去って砦の常駐戦力まで投入しかねない。
 状況が読めず、動揺するエクレールだったが――



「けど……ま、そのくらいならなんとかなるでしょ」



 あっさりと――本当にあっさりと崇徳がそんなことを言い出した。
「エクレールやリコッタの教えてくれたミオン砦の規模から考えて、そんな大軍を常駐させられるような砦とも思えないしね。
 この世界の戦のシリアス度の低さを考えても、大軍を置いておく意味はあまりなさそうだし……そうだな、せいぜい100前後。多く見積もっても200ってところか。
 宣戦布告にあった兵力とあわせても“たかだか”400。どうにもならない数じゃない」
「な…………っ!?
 お、お前、何を言っているのかわからないのか!?
 400だぞ、400! 200の想定ですら『ぶっちゃけ厳しい』と言ったのを聞いてなかったのか!?」
「んー? そっちこそ、何言ってるのさ?」
 あっさりと『“たかだか”400』と言い切った崇徳に、驚いたエクレールがツッコむ――が、崇徳はあくまで落ち着いた様子でそう返した。
「ひょっとして、忘れてない?
 オレが――」





















「来ました!
 タレミミ隊長と勇者二人、マジで来ます! 真っ正面です!」
「来よったか!」
 対し、こちらはミオン砦の砦外防衛線――最前線の盾役からの報告に、部隊長は獰猛な笑みを浮かべた。
「総員、かまえぇっ!
 遠慮はいらん! いてこましたれぇっ!」
 威勢良く指示を出し、隊長は自らも片手剣を掲げ――



 背後の部下達が“薙ぎ払われた”。



 突如、背後で巻き起こった爆発が、自分の背後に配置されていた防衛線の戦士達をまとめて吹っ飛ばしたのだ。
「勇者の片割れの仕業か!?」
 昼間の戦では、勇者の一方が広域攻撃でこちらの戦士達をまとめて薙ぎ払っていた。まさか彼の仕業か――そう思い、前方に視線を向けるが、遠くに見える崇徳が何かを仕掛けたような様子は見られない。
 それに、自分達を襲う攻撃は今も、頭上から次々に“放物線を描きながら”降り注いできている。
 これは――
「支援砲撃……!?
 砲兵がいるのか!?」



   ◇



「いるでありますよー♪」
 防衛線隊長の言葉が聞こえたワケではないが、“そう”言っているであろうことは容易に想像できた――なので、とりあえず話を合わせてそう答えながら、リコッタは再び自らの輝力を高めた。
 その力は自らの周囲に配置された、多数の小型砲台へと流し込まれていく――これが、先ほどから防衛線を襲っている砲撃の正体である。
「王立学院主席、リコッタ・エルマール。
 戦場では、砲術師をやらせていただいているであります」
 自信に満ちた笑みと共にそう告げて、指をパチンと鳴らす――それをトリガーに、再び砲撃が放たれた。



   ◇



「始まった!」
「リコッタの砲撃だね!」
 その光景は、真っ正面から突撃しているシンク達にも見えていた。防衛線に砲撃が降り注ぎ、多数のねこだまが宙を舞う光景に、エクレールとシンクが声を上げる。
「タカノリ、いける?」
「いけるに決まってるだろ!」
 一方、すでに“装重甲メタル・ブレスト”を装着している崇徳も自らの“仕事”に取りかかる。ヴァイトに答えると前方に突き出した両手を重ねるようにかまえ――彼を乗せて走るセルクルの足元に、円形の術式陣が浮かび上がった。
「ちょうど今――射程に捉えた!」

 

 ―― 光のそばに生まれものよ
すべての存在モノに寄り添うものよ
我が意に従い 我が敵を絡め
我が意のもとに打ち砕け!



万影爆砕陣シャドー・マイン!」
 それは、昼間の戦でも使った広域爆砕術――同時、前方の防衛線で一際大きな爆発が巻き起こる。
 崇徳の力の影響を受けた防衛線の戦士達の影が、自らの主に絡みつき、自爆したのだ。
 と、今度は上空で爆発音――それに伴い、周囲が煌々と明るく照らし出される。
 リコッタお手製の照明弾だ。事前に打ち合わせして、崇徳の“万影爆砕陣シャドー・マイン”を合図に打ち上げてもらうよう頼んでおいたのである。
 さらに打ち上げられたのはそれだけではない――防衛線の上空に飛来した砲弾のいくつかが空中で破裂。中から落下傘を開き、フワフワと防衛線目がけて降下していく。
 そう。いわゆる“落下傘花火”というヤツだ。別に爆弾をぶら下げているワケでもなく、ただ降っていくだけのシロモノだが――
「おい、タカノリ!
 リコにあんなものまで撃たせて、何のつもりだ!?」
「まぁ、見てなって」
 意図がわからず、声を上げるエクレールに答えると、崇徳は再び精霊術の態勢に入る。
「照明弾は言うまでもなく、オレの術の媒介である“影”をよりクッキリと浮かび上がらせるため。
 そして、落下傘は――“空中に影を作り出すため”」
「空中に、影を……!?」
 思わず聞き返してくるシンクに、崇徳はそう答えた。
「物に光が当たれば影ができる――けど、それは光が降り注いだ先、壁や地面に限った話じゃない。
 月が欠けて見えるのと理屈は同じさ。つまり――“光が当たらない反対側にも影は生まれる”」
「――そうか!」
 ようやく崇徳の意図を察し、エクレールが声を上げる――うなずき、崇徳が呪文を詠唱する。

 

 ―― 光のそばに生まれしものよ
すべての存在モノに寄り添うものよ
我が意に従い 天空より降り注ぎ
我らが敵を打ち払え!



万影降爆陣シャドー・スコール!」
 崇徳が術を発動し――落下傘から漆黒の雨が降り注いだ。落下傘の下側に生まれた影が自らの一部を弾丸として撃ち出し、眼下のガレット戦士達を爆撃したのだ。
 リコッタの砲撃に加え、崇徳の連続広域攻撃――もはや、砦の外の防衛線は壊滅状態。半数以上の戦士達がねこだまと化して地面に転がっている。
「す、すごい……」
 自分達が到達する前に初戦が終わってしまった――思わず感嘆の声をもらしながら、シンクは先ほどの崇徳の言葉を思い出した。

『ひょっとして、忘れてない?
 オレが――“広域殲滅系の能力者だ”ってこと』

 その言葉に偽りはなかった――リコッタの支援があったとはいえ、崇徳はその広域攻撃で、防衛線の戦士達を何ら労することなく、まとめて蹴散らして見せたのだ。
 と――
「何をしている、勇者!」
 そんな彼を叱咤するのはエクレールだ。
「今度は我々の番だ!
 砦に突入したら、細かな攻撃のできないリコの砲撃やタカノリの広域攻撃はあてにできん!」
「わかってる!」
 エクレールの言葉に、シンクは自らに気合を入れ直し、
「せっかくリコッタやタカノリが僕らを温存してくれたんだ。
 一気に砦に突入して――最短距離を突破する!」
「その意気だ!
 けど、その前にもう一仕事! 正門ぶち破るから、正面空けてくれるかな!?」
 力強く宣言するシンクには崇徳が告げた。エクレールやシンクが彼の前から退避する中、背中の翼に備えられたシャドーサーヴァントを切り離し、目の前に集中配置する。
「得意ってワケじゃないけどな……一点突破の砲撃だって、あるんだよ!」
 照準代わりに、そろえた右手の人さし指と中指で前方、ミオン砦の正門を指さす――それに伴い、環状に配置されたシャドーサーヴァントが目の前で円を描くように回転を始める。
 シャドーサーヴァント自身がエネルギーを発し、それは回転に巻き込まれるかのように環の流れに取り込まれていく。回転の加速に伴ってその力をますます強めていき――
「ぶち抜け――
 シャドー、グングニール!」
 解き放たれた。崇徳の言葉をトリガーにシャドーサーヴァントが一斉砲撃。それは環に取り込まれ、高められていたエネルギーをも巻き込んで、強烈な破壊の渦となってミオン砦正門に襲いかかる。
 どれだけ頑強に作られていようと、木製の扉で止められる一撃ではない。崇徳の一撃は正門を直撃し、いともたやすく爆砕する。
 正門を中心に巻き起こる土煙の中へと、シンク達が突入し――



「撃てぇぇぇぇぇっ!」



 そんな彼らを待っていたのは、城砦内を守る防衛部隊――隊長の合図と共に、正門に到達したであろう、煙の中にいるであろうシンク達に向け、紋章術を帯びた大量の槍が雨アラレと投げつけられ、降り注ぐ!
 巻き折る爆発の嵐に隊長が直撃を確信する中、爆煙が晴れていき――
「――――なっ!?」
 そこには勇者一行の影も形もなかった。彼らが正門を吹き飛ばした爆発の中に飛び込んだのは確かなはずなのに、だ。
 思わず周囲を見渡す隊長だが、その姿を見つけ出すことはできなくて――
「中に敵が待ちかまえてるのがわかりきってるっていうのに――」
「――――――っ!?」
 その声は頭上から――とっさに見上げた隊長は、ようやくセルクルに騎乗したまま砦の外壁の上に勢ぞろいしている崇徳達の姿を発見した。
 彼らは確かに爆煙の中に突入した。しかし、あくまで爆煙の中に突入“しただけ”。その動きはフェイクに過ぎなかった――正門から突入すると見せかけ、すぐに煙から出て外壁をセルクルで駆け上っていたのだ。
 そうすることで、正門に突入したところへの集中放火を狙ったこちらの攻撃をやりすごした――崇徳達の方が自分達の一枚上手をいっていたことを今さらながらに悟る隊長だったが、気づくにはあまりにも遅すぎた。
「わざわざ、位置を絞られる正門からバカ正直に突入するもんかよっ!」
 そう告げる崇徳は、すでにシャドーサーヴァントを再射出済みで――放たれた閃光の雨が、城砦内防衛部隊に痛烈な先制打をお見舞いした。



   ◇



「勇者様……っ!」
 一方、接遇室ではミルヒが映像盤で戦いの様子を見守っていた。
 戦いは砦の中での乱戦に移行。シンクもエクレールも崇徳も懸命に戦っているが、やはり数の差に圧されている。
 崇徳自慢の広域攻撃もこの状況ではシンク達を巻き込んでしまうために使えない。このままでは――
 と、そんなことを考えていたミルヒの耳に、扉をノックする音が聞こえた。
 振り向くと、接遇室の扉が開き、ガウルが姿を見せたところだった。
「よぅ、姫様」
「ガウル殿下」
 気さくにあいさつするガウルにミルヒが応じ、そのやり取りに気づいたヴァノンの子供達がガウルの足元にじゃれついていく――危うく蹴飛ばしてしまいそうになった子ライオン達に苦笑しながら、ガウルはミルヒに向けて申し訳なそうに頭を下げた。
「急な誘拐で悪かったな。
 でも一応、オレにも思うところがあってよ……悪いがひとまず、姫様の勇者達と戦わせてくれ。
 埋め合わせと、面倒な話はまた後で」
「はい……」
「本当にすまねぇな。
 じゃあ、ちょいと行ってくらぁ」
 ガウルの言う『思うところ』にはミルヒも心当たりがあった。素直にガウルへとうなずいて――そんなミルヒに改めて告げると、ガウルはさっそうとマントをなびかせ、戦場に向けて身を翻すのだった。



   ◇



「たはーっ、やっぱ乱戦は苦手だわ……
 広域攻撃の撃てない状況じゃ、我ながら決め手に欠けすぎだ」
 舌打ちまじりにボヤきながら、シンク達と背中合わせに合流する――突入時の先制攻撃もむなしく、崇徳達は相手の数の差によって完全に追い詰められていた。
「ふははははっ! 勇者も親衛隊長も、恐るるに足らず!」
 そんな、追い詰められた彼らを前に、余裕のゴドウィンが高笑いを上げる――崇徳がムッとする背後で、シンクとエクレールが耳打ちしている。
「リコからの砲撃……止まっちゃってるみたいなんだけど」
「仕方あるまい……砲術師は歩兵に詰められては無力なんだ。
 むしろよくもった方だと言ってやりたいくらいだ」
「…………リコ、近接できなさそうだもんね……」
 シンクとエクレールの会話に、崇徳の背中にしがみついていたヴァイトがつぶやく――確かに、砲撃が止んでからだいぶ経つ。今頃は砲撃していたその場で捕縛扱いか、捕虜待遇で敵陣、つまりこのミオン砦に連行されてきているかのどちらかだろう。
「勇者どもは我らが主、ガウル殿下のご指名だ。広間まで来てもらおう」
「だったら道開けろよな。自分達の足で行くからさぁ」
 ゴドウィンの言葉に、ガレット戦士達の包囲が一歩狭まる――軽口を叩く崇徳だが、この数に一斉にかかられたら反撃などおぼつかなくなるのは明らかだ。カメのように絶対防御の力場の中に閉じこもるしかなくなるだろう。
 だが、それではダメなのだ。一刻も早くミルヒを救出し、コンサート会場まで送り届けなくては――
「小娘の親衛隊長に用はない。降参するなら、許してやるぞ?」
「断るっ!」
「そうか……
 なら、少々痛い目を見てもらおうか!」
 崇徳がそんなことを考えている一方で、周りのやりとりは勝手に進んでいる――迷わず投降を拒否したエクレールに対し、ゴドウィンは自慢の鎖鉄球付きのハンドアックスをかまえる。
 そんなゴドウィンに対し、シンクとエクレールは視線を交わして――

『エクレール(勇者)!』

 互いを呼ぶ声は、タイミングもバッチリ、見事に重なっていた。
「……何だ?
 まぁいい、よく聞け」
「エクレこそ」
 期せずしてタイミングが重なったことに若干出鼻をくじかれ、それでも二人は気を取り直して話を進めて――

『僕(私)がここに残るから、勇者(エクレ)はタカノリと先に!』

『………………』
 ただ名前を呼ぶタイミングが重なっただけの先とは違う。一人称と相手の名を除いた部分がバッチリとハモった――周囲も呆気に取られる中、シンクとエクレールは顔を見合わせ、
「だぁぁぁぁぁっ! なんでかぶるの!?」
「それはこっちのセリフだ! スットコ勇者が!」
「いいから行けって!
 ここは危ないんだし、エクレなら砦の中とか詳しいでしょ!?」
「足止めなんて難しい戦場いくさば、貴様に務まるワケがなかろうが!
 貴様こそさっさと行け!」
「女の子を危険な目にあわせるワケにはいかないの!」
「いいから行けって!」
「ここは僕にまーかーせーてーっ!」
 背後で繰り広げられるのは実にしょーもない譲り合い……いったい何をやっているんだと、崇徳が文句を言おうと口を開きかけると、
「………………っ」
「あ、怒った」
 自分達と相対しているゴドウィンのこめかみにも血管マーク発見。崇徳の背中でヴァイトがポツリとつぶやいて――
「がぁぁぁぁぁっ!
 この土壇場で、楽しいやり取りしてんじゃねぇぇぇぇぇっ!」

 ゴドウィンがキレた。怒りの咆哮と共に鉄球を投げつけてきて――



「ホントだよねー」



 その鉄球は、崇徳の展開した絶対防御の力場に阻まれた。
「二人とも、あのオッサンの言う通りだよ。
 こんなところでじゃれ合ってないで、さっさと二人とも砦に突入!」
『じゃれ合ってないっ!』
 崇徳の言葉に声をそろえて言い返し――シンクとエクレールは同時に止まった。
「……って……」
「私達、二人か……?」
「そ。お前ら二人」
 言って、崇徳は絶対防御を解除すると影天棍を肩に担ぐようにかまえ、
「ここはオレが引き受けるのが最善でしょ、どう考えてもさ」
「ほぉ……言ってくれるな」
 余裕の笑みと共に告げる崇徳の言葉に、ゴドウィンもまた獰猛な笑みを浮かべ、
「このオレ様と、百騎を超えるガウル殿下親衛隊を前に、たったひとりで十分とぬかすか」
「あぁ。十分さ。
 ……ん、いや……ひとりじゃないか」
 ゴドウィンの言葉に答え、崇徳はふと思いつき、訂正した。
「正確にはオレひとりじゃない。
 オレとヴァイト――そしてさらにもうひとり!
 ヴァイト!」
「もう見せちゃうの?
 ……まぁいいけど」
 崇徳にそう答えると、ヴァイトは彼の背から飛び降りるとチョコチョコと崇徳の目の前に進み出てくる。
「んー? 何だ?
 こんなチビスケに、我らの相手が務まると?」
「そいつぁ見ればわかるさ」
 そんなヴァイトを鼻で笑うゴドウィンに答えて、崇徳は懐からそれを取り出した。
 携帯電話のような端末だ。二つ折りのそれを開き、携帯電話ならダイヤルボタンが並んでいるであろう下半分に並ぶ二つのボタン、その上側のボタンを押し込む。
《Mode-Summon.
 Standing-by.》

 端末からシステムボイスが発せられる中、崇徳は端末をかまえ、







召喚サモン――」



「シャドー・オブ・デスサイズ!」

《Summon, Shadow of Deathsysce!》







 瞬間――“力”が荒れ狂った。
 崇徳の掲げた端末から放たれた“力”がその周囲で渦を巻き、ゴドウィンらの前から崇徳達の姿を覆い隠していく。
 と、渦の流れが変わった。解放された“力”は崇徳の前に立つヴァイト、その身体へとものすごい勢いで流れ込んでいく。
 そして――ヴァイトの身体が“ふくらんだ”。
 まるで空気を入れられた風船がふくらむように、“力”が流れ込んだ分だけその身体が巨大化していく――やがてその姿も変化を起こし、ボロボロのフードをまとい、大鎌を手にした異形の存在へと変わっていく。
 完全にその変化を完了し、ヴァイトの変化した“死神”は大鎌を振るい、周囲に残っていた“力”の渦を吹き飛ばすと一同の前にその姿を現した。
「なっ、なななっ、何じゃあっ!?」
影鎌帝えいれんてい、シャドー・オブ・デスサイズ。
 オレの使役する“影”属性の精霊獣……ヴァイトに憑依して、その身体を変化させることで顕現したのさ」
 突然現れた巨大な“死神”――その姿に驚くゴドウィンに対し、その真下に立つ崇徳は悠々と説明してやる。
「デスサイズ。
 “ブレインストーラー”の中から見てて、状況はわかってるだろう?
 シンク達のために道を作る――“薙ぎ払え”」
《心得た》
 そして、崇徳の言葉にデスサイズが答える――ゆっくりと大鎌を振り上げ、その刃に“力”が収束していく。
「い、いかんっ!
 全員、正面からどけぇいっ!」
 こちらが何をしようとしているのか、察したゴドウィンが声を上げる――かまうことなく、デスサイズは大鎌を握る手に力を込め、



《オォォォォォッ!》



 振り下ろした。その一閃によって大鎌の刀身に宿っていた“力”が解放され、荒れ狂い――正面から逃げ遅れたガレット戦士達を巻き込んで砦の正面広場を“ぶった斬った”。
 破壊の渦が去り、残されたのは大量のねこだまが転がり、バックリと口を開けたガレット側の包囲網――
「行け! シンク、エクレール!」
「う、うんっ!」
「本当に任せていいんだな!?」
「とーぜんっ!」
 崇徳の言葉にシンクがうなずき、走り出す――その後ろに続きながらもこちらに尋ねるエクレールに答えつつ、崇徳もデスサイズを伴って二人の殿しんがりにつき、包囲網を抜ける。
 完全に包囲網を突破し、シンクとエクレールはそのまま砦の奥へ――そして崇徳は、態勢を立て直しつつあるゴドウィン以下ガレット戦士団へと向き直った。
「デスサイズ、もういいぞ」
《もういいのか?》
「あぁ。お疲れさん」
 崇徳の言葉にデスサイズが無言でうなずくと、その身体がまるでチリと化したかのように散っていく――数秒も経たないうちに、デスサイズがいたその場には元の姿に戻ったヴァイトだけが残されていた。
「ほぉ……?
 せっかく出した切り札、もう引っ込めるか……さては長時間出しているのは消耗が激しすぎるか?」
「半分正解、半分不正解……ってところか」
 その様子にカマをかけてくるゴドウィンに対し、改めてヴァイトを背中に背負った崇徳は素直に回答する。
「触媒なしに呼び出すと、確かに消耗はバカにならないよ。
 けど、今はヴァイトという媒介をはさんでいた……少なくとも、お前ら全員を蹴散らすには十分なくらいの時間は出していられたよ。
 オレがデスサイズに引っ込んでもらったのは、もっと別の理由さ」
「ほぉ……その理由とは?」
「何、簡単な話だよ」
 答えて、崇徳は不敵な笑みを浮かべて、
「圧倒的な存在がお前らを一方的に蹂躙じゅうりんするより、オレがこの手でお前ら全員ブッ飛ばした方が、興行としては盛り上がるでしょう?」
「ほぉ……ぬかすじゃないか!
 だが、言ったはずだ! お前ひとりで、この数を蹴散らせると思っているのか!」
 それは事実上の勝利宣言。安い挑発だとはわかっていたが、受けて立つ方が戦が盛り上がるのはゴドウィンにもわかっていた。定番ともいえるリアクションを崇徳に返して――



「思ってるさ」



 崇徳の言葉と同時――彼らのいる、砦の正面広場のあちこちで爆発が起きた。
 デスサイズ顕現のどさくさに紛れて射出していたシャドーサーヴァントが、ガレット戦士団に向けて先制爆撃をお見舞いしたのだ。
「ったく、シンク達といいお前らといい……オレが広域型だって何度言えば理解してくれるんだろうね?」
 巻き起こった爆炎が周囲に立ち込める中、崇徳はゴドウィンにその手に握る影天棍を突きつけた。
「一対一より、大勢を一気に薙ぎ払う方が得意なんだよ、オレは。
 今まではシンク達を巻き込めないから広域攻撃は撃てずにいたけど……ここからは、もうその心配もせずにガンガンぶっ放していけるってもんさ!」
 その言葉に、ゴドウィンは理解した。
 強がりなどではない。彼はしっかりと勝算を持って自分達の前に立っている。
 そしてその勝算を“作る”、そのためにシンク達を先に行かせたのだ。仲間を巻き込む心配なく戦える――自分が真に全力を出して戦うことができる、そんな状況を作り出すために。
 シンク達を先に行かせたのは戦を盛り上げる演出でもなければ、仲間に対するカッコつけなどでもなかった。あくまで、自分の持つ勝算を確かなものにするために――そんな冷静な判断による、適切な選択だったのだ。
「そんなオレを相手に100人以上でかかってくる――死亡フラグが立ってんのはそっちの方だ!」
「ぬかせっ!
 死亡フラグだか何だか知らんが、そんなもの、我が武勇で叩き折ってくれるわぁっ!」
 崇徳に言い返し、ゴドウィンがハンドアックスを振り上げて――







 ――“それ”が飛来した。







「――――――っ!?」
 明るい紫色の気力を帯び、円盤状に高速回転しながら飛来した“それ”はゴドウィンを狙っていた。一瞬早く気づいたゴドウィンがハンドアックスを叩きつけ、“それ”を弾き飛ばす。
「フンッ、バカのひとつ覚えか!
 あの空飛ぶ砲台にこんな攻撃があったとは意外だが、何度もやられれば不意打ちにもならんわっ!」
 不意打ちを防いだと勝ち誇るゴドウィンだったが――
「違う……オレじゃない……」
「………………何?」
 崇徳の答えに眉をひそめ、“それ”を目で追う――弾かれ、大地に突き刺さった“それ”は一振りの大剣。確かに崇徳の得物ではない。
 そして――崇徳は見た。
 剣の柄に刻まれた、おそらく持ち主の紋章であろう、二振りの剣を交差させたデザインのシンボルマーク。そして――“ビスコッティの紋章を”。
 つまり、この剣の持ち主は――



「遠間より失礼つかまつった」



 その時、頭上から声が降ってきた――崇徳だけではない。その場の一同が見上げ、注目した先にいたのは、和風の装備に身を固め、その上にマントに編み笠という渡世人スタイルで城壁に立つ女騎士だ。
 さらに、彼女のそばに控えているのは、先ほどロラン達のもとに駆けつけた、ホムラと呼ばれていた犬だ。
「そこの斧将軍と勇者殿にはお初にお目にかかる。
 ビスコッティ騎士団自由騎士、隠密部隊頭領――ブリオッシュ・ダルキアン!
 騎士団長、ロラン殿の要請を受け、助太刀に参った!」
「ロランさんの……要請!?」
 名乗りを上げる女騎士――ダルキアンの言葉に、崇徳は思わず声を上げた。
 そう――ロラン達のもとに駆けつけたホムラは彼女の遣いだったのだ。そこで、ロランはそのホムラに書状を託し、ダルキアンの元に届けさせることで、現時点で国外にいた、すなわち自分達よりもミオン砦に近い位置にいたダルキアンにこの戦における助っ人を依頼していたのだ。
「自分達の援軍が間に合わないと察して、速攻で次の手を打った、ってことか……
 いい仕事してくれるじゃないの、ロランさんも」
 状況を的確に把握し、適切な手を打ったロランの手腕に、崇徳が思わず感嘆の声を上げる――と、ダルキアンのいる城壁の一角にある塔の上、彼女から見て死角となる位置にある矢窓から彼女を狙う弓兵の姿が見えた。
 しかし、崇徳が彼女に危機を報せることはなかった。なぜなら――
「…………フッ」
 すでに、ダルキアンは気づいていたから――腰に差した、先ほど投げつけてきたものとは別の太刀に手をかけると紋章を発動させ、
「紋章剣……」



「烈空、一文字!」



 居合いの要領で一閃。一瞬の間を空け、放たれた輝力の刃が塔を中ほどから“斬り落とす”!
「へぇ、やるぅ♪」
「いやいや、大したことはないでござるよ」
 相手を塔ごと斬り倒すようなマネ、自分の“地元の仲間”以外にはいないと思っていたけど――そんなことを考えながら、崩れ落ちる塔をのん気に眺めて感嘆の口笛を吹く崇徳に、ダルキアンも笑いながらそう返す。
 これなら大丈夫そうだ――気を取り直して、崇徳は影天棍をかまえ、
「それじゃあ……なんか格上っぽいですし、“おかまいなしに暴れちゃってもいいですかね”?」
「うむ。かまわぬでござるよ。
 “拙者にかまわず”遠慮なく暴れてやるでござるよ」
 一部を強調して告げる崇徳に、ダルキアンもその意味を正しく理解して応じる――“巻き込む前提でやっていいですか?”“自分で何とかするから大丈夫”と確認を交わし、二人は改めて、それぞれの立ち位置からゴドウィン以下ガレットの戦士達に向けて告げた。
「それじゃ、再開といきますかっ!
 いざ、尋常に――」
「勝負でござるよ♪」



   ◇



「な、何だぁっ!?
 何が起きている!?」
 砦の中の派手な戦い――特に塔を切り落としたダルキアンの“烈空一文字”は外壁を隔てた外側からも確認できた。無事だった戦士を集めて態勢を立て直したところに見せつけられた豪快にもほどがある一撃に、砦外守備隊の隊長が思わず声を上げる。
「くそっ、我々も向かうぞ!
 砲兵を抑えた今、もう敵は中にいる数人だけだ!」
 何が起きたのかはわからないが、あんな一撃を放つ相手がいては、中の守備隊も苦戦は免れまい――そう判断して隊長が指示を下すが、部下達はなぜか誰ひとりとして動こうとしない。
 と、部下の内数人がいきなりよろめいて――それを合図にしたかのように、ぼぼぼぼぼんっ!と全員がまとめてねこだまへと姿を変えてしまう!
「な…………っ!?」
 “いつの間にか、自分以外の全員がK.O. されていた”――信じがたい事実に隊長が声を上げると、
「不意打ち、失礼するでござる」
 部下の“だま化”によって巻き起こった煙の向こうから、そう彼に告げる声が上がった。
 そして、晴れていく煙の中から姿を現したのは、抜群のスタイルを強調するかのような忍装束に身を包んだひとりの少女。ちなみに耳と尻尾はキツネのそれだ。
「拙者、ビスコッティ隠密部隊――」
「おのれ、何奴!?」
「――って、最後まで名乗らせてほしいでござる……」
 自分の名乗りをさえぎった隊長の言葉に思わず苦笑する――「今まさにあなたの疑問に答えようとしていたんでござるが」と内心で付け加えると、少女は落ち着いた様子で拳を握り、
「……紋章拳」
 静かにそう告げた、次の瞬間――地を蹴った少女は一瞬でトップスピードまで加速。隊長の眼前に飛び込んでいた。
 あっさりと懐への侵入を許し、隊長が驚愕に目を見開き――
「ユキカゼ式体術――」



狐流こりゅう蓮華昇れんげしょう!」



 拳が隊長の腹部の鎧を打ち砕き、強烈な一撃に苦悶する隊長を、追撃の蹴りが頭上高く蹴り飛ばす!
 しかもそれで終わりではない。跳躍し、空中で上昇ベクトルを失って一瞬だけ静止した隊長へと追いつき、
「――――斬っ!」
 懐に忍ばせていた小太刀を抜き放ち、一閃。トドメの一撃をくらい、隊長は今度こそ“だま化”して地面に墜落していった。
「……ビスコッティ騎士団、隠密部隊筆頭、ユキカゼ・パネトーネにござる。ニン♪」
 華麗に着地し、少女――ユキカゼが改めて名乗ると、
「ユッキー!」
 そんな彼女を愛称で呼ぶ声――見れば、リコッタが何やらいっぱいに詰め込まれた袋を両手に提げて駆けてくるところだった。
 だが、彼女はすでにガレット側の捕虜となって脱落していたはずだが――
「砲弾や花火、いっぱいゲットしてきたでありますよー♪」
「おぉ、でかしたでござる、リコ」
 そんなリコッタにこちらも愛称と共に答えると、ユキカゼはねこだまとなって地面に転がる隊長へと向き直り、
「そういえば……リコを捕まえていたそちらの方々には全員“眠ってもらっている”でござるから、後で助けてあげるのがよろしいかと」
 そう。捕虜となったはずのリコッタが無事解放されているのはユキカゼのおかげだ――彼女がここに来る前にリコッタを捕縛した部隊を急襲、リコッタを救出していたのだ。
 特殊ルールが別に定められたりしていない限り、基本的に敵に捕縛されただけでは“敵に抑えられ行動不能”という解釈でリタイア扱いにはならない。そのため、ユキカゼに無事救出されたリコッタは捕虜奪還扱いとして再び戦線に復帰できたのである。
「では、御館様達の援護に向かうでござる」
「了解であります!」
 ともあれ、今は戦の真っ最中。自分達のやるべきことをやらなければ――ユキカゼに答え、リコッタは両手に砲弾や花火を詰め込んだ袋を持ったまま彼女に背負われた。
 と、ユキカゼの足元に紋章が展開される――跳躍と同時に紋章術で自らを撃ち出し、一気に跳び上がったユキカゼは一足飛びに砦の外壁を跳び越え、戦場の上空へと飛び出す。
 そして、戦場の中央に差し掛かったあたりでリコッタが袋の中身をぶちまけて――
「ユッキー&リコ式砲術!」



『繚乱、大百華!』



 二人がそれぞれ自らの拳に紋章を展開。それをぶつけ合わせる――その動きをトリガーに解放された輝力がばらまいた砲弾や花火に引火。炸裂したそれらの爆発が爆撃となって戦場に降り注ぐ!
「ちょっ、待っ、いきなり何ーっ!?」
 当然、戦場のド真ん中にいた崇徳のもとにも爆撃は降り注ぐ――いくら絶対防御に守られると言っても、いきなりやられれば驚きもする。突然の爆撃に思わず防御を固めた崇徳が声を上げると、
「いやぁ、驚かせてしまったでござるな」
 そんな彼のもとに降り立ったのは、リコッタを背負ったままのユキカゼである。
「初めまして、でござるな。
 拙者、隠密部隊筆頭、ユキカゼ・パネトーネでござる」
「隠密……じゃあ、ダルキアンさんの……」
 改めて自己紹介するユキカゼの言葉に、崇徳は砦の外壁の上で大立ち回りを演じているダルキアンへと視線を向ける。
「つか、ずいぶんとハデにやってくれちゃって……
 広域爆撃はオレの専売特許だってのに、完全に持ってかれちゃってるよ」
 だが、すぐに意識を目の前の戦いに引き戻す――ユキカゼとリコッタの爆撃で混乱するその場を見渡し、
「おかげで、対抗意識刺激されちゃったじゃないのさ!
 つーワケで大技いくよ! 巻き込まれたくなかったら、しっかりオレにくっついてなよ!」
「り、了解でござる」
 崇徳の言葉に、ユキカゼは巻き込まれてはかなわないと崇徳に寄り添う。
 もちろん、崇徳の邪魔にならないよう、背後から――背中にやわらかい二つのふくらみを感じて一瞬だけ集中を削がれるが、すぐに気を取り直して“力”を高める。
「お前らが爆撃してくれたおかげで、どいつもこいつも、影がハッキリクッキリ!
 これなら詠唱飛ばしても……っ!」



地影瞬爆陣シャドー・エクスプロージョン!」



 イメージだけで術の構成を構築、詠唱を破棄して発動させる――瞬間、周囲でさらなる爆発の嵐が巻き起こった。
 爆発の元はもちろん、崇徳の“力”の干渉を受けたガレット戦士達の影。“万影爆砕陣シャドー・マイン”と違って自らの主に絡みつくことなく、“力”の干渉を受けた瞬間に爆発を起こしたのだ。
 余計な効果を付加することなく、即座に相手の影を爆破、その爆発でダメージを与える、速攻性重視の広域爆砕術である。
「おぉー、なかなかやるでござるな」
「言ったでしょ。『広域爆撃はオレの専売特許だ』って。
 お前らがあんなにハデにやらかしたのに、専門家として負けてられないでしょ!」
 感心するユキカゼに、崇徳が自信タップリに応える――術を撃つための集中状態から解放され、改めて背中に押しつけられている二つの柔らかい塊を意識してしまうが、なんとか表情に出すことなく押さえ込むことに成功する。
「そんじゃ……ま、だいぶ数も減ったみたいだし!」
「でござるな」
「はいであります!」
 ともあれ、気を取り直して告げる崇徳の言葉にユキカゼが彼から離れる。それに伴い、リコッタもユキカゼの背中から降りて紋章術用の銃を取り出す。
「こっからは各個撃破!
 斬って斬って、斬りまくる!」
「おーっ!」
「やってやるでありますよ!」
 それぞれに気合を入れ――崇徳、ユキカゼ、リコッタは同時に地を蹴った。



   ◇



「まったく、ガウルめ……勝手に誘拐などしおって!」
 一方、所変わってこちらはガレット軍本隊の野営地――本陣中央、自らの天幕で、レオはメイド達に自分の装備を用意させながら苛立ちもあらわに毒づいた。
「ルージュがちゃんとついていたはずなんですけど……ガウル殿下の“おいた”のようですね」
「“おいた”でこんな騒ぎを起こされてたまるか!」
 ビオレにそう答えると、装備を身に着け終えたレオはマントをひるがえして天幕を出た。
「国家と領主の計略を、ガキの遊びでつぶされてたまるか……っ!」
「止めに行きますか……
 手勢はいかほど?」
「こんな茶番、ワシひとりで十分じゃ!
 ビオレ! ここの指揮は任せる!」
 答えるなり、戦斧と楯を手にドーマの背に飛び乗る――本陣を飛び出し、一路ミオン砦を目指すレオの姿を、ビオレは複雑な表情で見送るのだった。



   ◇



「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮と共に、進路を閉ざす扉を渾身の一撃で打ち砕く――再びセルクルに騎乗し、砦の中に突入したシンクは、事前にエクレールから教わった通り砦の最奥部を目指していた。
 と、目の前にまた扉。迷うことなくパラディオンによる突きで粉砕し――



「よぅ」



 そこには先客がいた。
「お前がビスコッティの勇者だな。
 オレはガレットの――」
「でやぁぁぁぁぁっ!」
「……聞く耳、ねぇってか。
 おもしれぇっ!」
 名乗ろうとしたところに、最後まで聞くことなく迷わず突撃――こちらに向けて突っ込んでくるシンクに対し、ガウルは不敵に笑うと槍を手に傍らに控えさせていた自らのセルクルに飛び乗る。
 距離を詰めてくるシンクを迎え撃ち、戦棍と槍がぶつかり合う――そのままつばぜり合いに持ち込み、二人は至近距離でにらみ合う。
「悪いけど、自己紹介は後で聞く!
 今は姫様を連れて帰らせてもらうぞ!」
「へへへっ!
 いいぜぇ……やれるもんならなぁっ!」



   ◇



 一方、内部への突入をシンクに任せたエクレールもまた、自分の対峙すべき相手とにらみ合っていた。
「やはり、お前ら三馬鹿が出てくるか……」
「あーっ! エクレちゃんってばひどい!」
「バカって言う方がバカ」
「せやで! バーカバーカっ!」
「……お前らの相手は、いろんな意味で頭が痛い……」
 思わずつぶやいた言葉に、ずいぶんと低いレベルで反論が返ってくる――本当に頭が痛いのか、エクレールはジェノワーズの三人を前にして軽くこめかみを押さえた。
「同じ親衛隊同士、ここはこの、ノワール・ヴィノカカオが、通せんぼ」
「同じく、ベール・ファーブルトン。
 エクレちゃん、正々堂々、勝負です!」
「ま、三対一やけどな!
 ジョーヌ・クラフティ! がんばるよーっ!」
 しかし、そんなエクレールとは対照的にジェノワーズの面々はやる気だ。名乗りながらそれぞれにかまえる三人に対し、エクレールも騎士としての礼をもって応じる。
「ビスコッティ騎士団親衛隊長、エクレール・マルティノッジ!
 切り抜けて……進ませてもらう!」



   ◇



「おぉぉぉぉぉっ!」
 影天棍に光刃を生み出し、影天鎌へとモードチェンジ――振り上げた一閃で目の前のガレット戦士に斬りつけると、さらに横薙ぎにもう一閃。崇徳の一撃を受けたガレット戦士はあっさりとねこだまと化し、
「――不意打ち失敗、またどうぞっ!」
 背後に迫っていた別の戦士には石突で一撃。顔面にもらってたたらを踏んでいるところにトドメの一閃をお見舞いする。
「おぉっ! 普通に斬り合うのもなかなかの腕前でござるなっ!」
「ほめても何も出ないよっ! 報奨金でスイーツ一品くらいしかっ!」
「出す気じゃないのさ……」
 自らもその体術でガレット戦士を蹴散らしながら、ユキカゼが賞賛の声を上げる――答える崇徳にヴァイトがツッコむと、
「ぅおぉらぁっ!」
「――――――っ!?」
 咆哮と共に、他の連中とは明らかに段違いの一撃――とっさに発動させた絶対防御の防壁に、ゴドウィンの戦斧が強烈な一撃をお見舞いする。
 もちろん、空間そのものを切り離す絶対防御が力任せの一撃に破れるはずもない。崇徳の防壁はゴドウィンの戦斧を弾き返すが――
「……今ので刃こぼれひとつないとか、なんつー強度だよ。
 レオ姫の斧は、防壁の強度と姫様のパワーのサンドイッチで見事に砕け散ったってのに」
「当然だ。
 このくらいの強度がなければ、我が剛力に耐え切れんからなぁっ!」
 答えて、さらに仕掛けてくる――戦斧と鎖でつながった鉄球を投げつけてくると、動きを止められるのを嫌いあえて受けず、回避した崇徳を追い、戦斧を繰り出してくる。
 意外に鋭い踏み込みに絶対防御はもちろん、回避も通常の防壁の展開も間に合わない。覚悟を決めて影天鎌で受ける――武器破壊こそないが力負けし、押さえ込まれそうになるのをなんとか踏んばり、崇徳はゴドウィンとにらみ合う。
「他のザコと違って、けっこうやるじゃん……
 一応、名前くらいは聞いとこうか!」
「ガレット獅子団将軍がひとり、ゴドウィン・ドリュール!
 いざ尋常に勝負っ!」
「『いざ尋常に』ねぇ……
  悪いけどそのセリフ、もうオレとダルキアンさんが使用済みっ!」
 ゴドウィンに言い返し、崇徳はゴドウィンの戦斧を受け流して脱出し、
「二番煎じは、歓迎しないね!」
 水平に振るった影天鎌の一撃を、ゴドウィンも戦斧で受け止める。
「あと、一応返礼ねっ!
 属性エレメントは“影”! ランクは“マスター”!
 ビスコッティの勇者その2――橋本崇徳だっ!」



   ◇



「はぁぁぁぁぁっ!」
「でぁあぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮が、一撃が交錯する――すれ違いざまに一撃を交え、シンクとガウルは再びにらみ合う。
「へっ……
 騎士としちゃ、それなりに一丁前ってか」
(待ってて、姫様……っ!)
 不敵な笑みを浮かべるガウルに対し、シンクの方はここまでの連戦でかなり息が上がっている。
 しかし、退くワケにはいかない。シンクの脳裏をよぎるのは、自分達の助けを待っているであろうミルヒのこと――
(今すぐに……もうすぐに……)



「僕が絶対、助けるからっ!」


次回予告

エクレール 「親衛隊長きーっく!」
シンク 「だぁあぁぁぁぁぁっ!?」
ジェノワーズ 『我ら、ジェノワーズ!』
崇徳 「あー、もうっ、いろいろカオスだ……」
ダルキアン 「はっはっはっ、次回もよろしくでござるよ」

EPISODE 5「それぞれの歩幅」


 

(初版:2013/04/17)