「どうしたもんかねぇ、この状況」
「オレが知るか」
 つぶやくタクトに、レスターはキッパリと答えた。
 長い旅の末、なんとか反エオニア勢力との合流を果たしたエルシオール。

 しかし――現在、再び孤立無援の状態に逆戻りしていた。

 

 


 

第7話
「癒しと滅び」

 


 

 

 事の発端は数時間前――味方と合流したエルシオールを狙って無人艦隊が襲撃してきたことが始まりだった。

「やっちまえ! フルメタル・ドラゴン!」
 ジュンイチの指示を受け、鋼の龍王はその全身から閃光を放ち、エオニア軍の黒い艦隊を蹴散らしていく。
 もちろんジュンイチ自身も大暴れだ。ヘル・ハウンズの姿がないこともあり、厄介な相手のいないジュンイチは戦場をぬうように駆け抜け、その進路上で次々に爆発が巻き起こり漆黒の宇宙を鮮やかに彩っていく。
「はっ、相変わらずハデだねぇ!
 あたしらも負けてらんないよ!」
「バーンっていっちゃいます!」
 それを見て、フォルテやミルフィーユも負けじと敵中へと突っ込んでいき、他の面々も後に続く。
 両軍入り乱れての乱戦の中で――ジュンイチのゴッドブレイカーへと接近してきた機体があった。
 ヴァニラのハーベスターである。
「ジュンイチさん。
 私と爆裂武装を」
「ヴァニラ……?」
「傷ついた僚艦が増えています。
 合体することでゴッドブレイカーだけでなく紋章機の性能も向上します。ハーベスターを合体させ、リペアウェーブを強化すれば……」
 リペアウェーブ――ナノマシンを広範囲に放ち、複数の対象を同時に修復するハーベスターの得意技である。ヴァニラはハーベスターをゴッドブレイカーに爆裂武装させることでリペアウェーブを強化、より広範囲の味方を同時に修理しようというのだ。
「よっしゃ――了解だ!
 いくぜ、ヴァニラ!」
「はい」

「ゴッドブレイカー!」
「ハーベスター」
『爆裂武装!』
 ジュンイチとヴァニラの叫びが響き――二人の機体が合体モードへと移行する。
 そして、バーニアを吹かしてゴッドブレイカーが加速、さらにハーベスターがその後を追う。
 と、ハーベスターからナノマシンケージが分離、続いて左右の推進ユニットが分離し、それぞれのパーツの間にゴッドブレイカーが飛び込む。
 ゴッドブレイカーが滞空するパーツの中心に到達すると、背部スラスターが倒れてハーベスターのボディがそれをカバーするように合体、さらに両肩アーマーを装飾している爪がアーマー内に収納、代わりにハーベスターの推進ユニットが合体する。
 最後に、右肩アーマーの後ろ側にナノマシンケージが、左腕にシールドが合体し、両機のシステムがリンクする!
『ゴッドブレイカー、ハーベスターモード!』

「ぅわっ、追加武装少なっ!
 つくづく支援機なんだな、ハーベスターって……」
 合体を完了し、システムを確認したジュンイチはその追加武装の少なさ――レーザー砲と対空レーザーファランクス、大型シールドの3つだけ――に驚いて声を上げた。
「ま、主目的が僚機の支援だもんな。仕方ない、か……」
 気を取り直してジュンイチがつぶやくと、
「では、これより修理を行います」
 言って、ヴァニラがゴッドブレイカーの“右手に”ナノマシンを収束させ――それに気づいてギョッとしたのはジュンイチだ。
(右――!? ヤバい!)
「ち、ちょっと待て、ヴァニラ! ストップ!」
 ジュンイチが叫ぶが一瞬遅く、ナノマシンは虚空へと散布された。

「来た来た! 待ってたわよ!」
 緑色に輝くナノマシンの波動が放たれたのを見て、蘭花が声を上げた。
 元々機動性を追及したカンフーファイターは他の紋章機に比べて装甲も薄い。戦闘機による攻撃くらいなら何の支障もないが、相手が戦艦クラスともなれば、弾がかすめただけでもダメージはバカにならない。ハーベスターの修理は、彼女にとってなくてはならないものだった。
 が――その時、ジュンイチの叫びが全周波数帯で響き渡った。
〈緊急事態発生!
 敵も味方も関係ない! 全員、“ナノマシンをかわせ”!〉
「え――――――?」
 ジュンイチの言葉に、蘭花は半ば反射的にナノマシンの波をかわし――目撃した。
 逃げ遅れた敵の無人艦が、ナノマシンによって分解されて虚空に消えていくその様を――

 そのナノマシンの暴発は、敵味方関係なく甚大な被害をもたらした。
 味方は直前にジュンイチの警告があったおかげでなんとか死者は出さずにすんだが、それでも九死に一生を得たようなものだ。結局「味方も巻き込むような攻撃をこれ以上自分達の周りで使われてたまるか」と味方も退散してしまい、戦場跡にはエルシオールとフルメタル・ドラゴンだけが取り残されていた。

「……で、原因は何なんだい?」
「一言で言うなら『ハードウェアの問題』。
 ゴッドブレイカーとハーベスター、お互いのシステムが干渉し合ったんだ」
 尋ねるフォルテに、ジュンイチはため息をついてそう答える。
「ゴッドブレイカー本体は、攻撃と防御が明確に分担されている。
 ボディと右腕が攻撃、両肩と左腕が防御を担当していて、自然とそれぞれの場所はそれぞれの目的に見合った力場の扱いを行う」
「つまり……攻撃を担当している部分の力場は攻撃系に、防御を担当している部分の力場は防御系に変化する、ということですの?」
「デフォルトの設定ではそうだ。
 もちろん、ユナイトするオレの意思で変化させることは可能だがね」
 聞き返すミントに答え、ジュンイチは説明を続けた。
「けど、フォローできるのはあくまでソフト面の問題でハード面はどうしようもない――攻撃系の部位が攻撃に、防御系の部位が防御に特化したシステムを持っていることまでは変えられない。
 あの時、ヴァニラはゴッドブレイカーの右手にナノマシンを収束させた。みんなの機体を修復するためにね。
 けど、ゴッドブレイカーの右手は攻撃系で、オレの意思なしじゃ防御や修復みたいな“守りの力”は使えない。
 結果として、ゴッドブレイカーのシステムに干渉されたナノマシンは分解しかできず――“破壊の力”として発動されたんだ。
 ヴァニラとしちゃ、オレが右利きだってことに気を使ってくれたんだろうが、今回はそれが完全に裏目に出ちまったワケだ」
「それで……そのヴァニラは?」
「おこもり中」
 蘭花の問いに、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「部屋に閉じこもって反省中。
 幸い死者が出なかったとはいえ、シャレにならん被害をもたらしたからな――フルメタル・ドラゴンだって翼半分もがれたし、至近距離にいたらどうなってたか……」
 ま、その分は今後の戦闘で残骸確保して作り直せばいいか――そう付け加えると、ジュンイチは改めて本題に戻った。
「で、今ミルフィーユとブイリュウが見に行ってるが、果たして出てきてくれるかどうか……」
 ジュンイチが言った、ちょうどその時、ミルフィーユとブイリュウが戻ってきた。
 そこにヴァニラの姿はない。つまり――
「説得失敗、か……」
「はい……」
 ジュンイチの言葉に、ミルフィーユは力なくうなずいた。

「ぅおーい、ヴァニラぁっ!」
 インターホンを鳴らし、ジュンイチがヴァニラを呼ぶが、
 ――シーン……
 ヴァニラからの返事はない。
「……反応ゼロね」
「おにょれ、ちょこざいな……」
 つぶやく蘭花の言葉にジュンイチはうめき、
「おいコラ、ヴァニラ!
 出てくる気がなくても、せめて返事ぐらいはしやがれってんだ!」
 今度はインターホンのボタンを連打しながら言うが、
 ――シーン……
「………………」
 やはり反応がないのを見て、ジュンイチは深く息をつき――
「…………焼く」
『わぁぁぁぁぁっ!』
 右手に炎を生み出したジュンイチを、一同はあわてて制止する。
「ジュンイチ、落ちつけって!
 ここでどなり込んだって何にもならないだろう!」
「そ、そりゃ、そうだけどさぁ……」
 フォルテにさとされ、ジュンイチはしぶしぶ炎を収め、
「けど、どうするんだよ?
 修理しようとして放ったはずのナノマシンで、逆にみんなを危険にさらした……たぶん、相当ショックだと思うぜ。
 このままじゃ、たとえ出撃しても……」
「あぁ……同じことになるのを恐れて、リペアウェーブを使えないだろうね……
 そもそもリペアウェーブを使えるだけのテンションを発揮できるかどうか……」
 ジュンイチの言葉にフォルテがつぶやき、一同は思わず考え込む。
 そのまま、誰も言葉を発せないまま時は過ぎ――
「………………よし」
 最初に動いたのはジュンイチだった。壁際にどっかりと腰を下ろし、待ちの姿勢に入る。
「こうなったら持久戦だ。
 オレとヴァニラ、どっちの意地が勝つか試してやる」
 そのジュンイチの言葉に、一同は顔を見合わせ――
「ジュンイチが根負けするに1000ギャラ!」
「いやいや、意外とジュンイチもガンコなところがあるからねぇ。
 ってなワケであたしはヴァニラの負けに800ギャラ!」
「オイラはジュンイチの負けに500ギャラ!」
「ではわたくしは大穴としてドローに……」
「……どうやら、先にこっちを焼く必要がありそうだな」
 自分達をネタにトトカルチョを始めた一同にジュンイチがうめくと、
〈ジュンイチさん!〉
『ぅわぁっ!?』
 突然通信してきて、自動で展開されたウィンドウに大映しになったミルフィーユの声に、一同はそろって驚きの声を上げた。
「なっ、何だよ、ミルフィー!
 姿見ねぇとは思ってたけど、何してやがる!」
 驚き、ドキドキする胸を押さえながらジュンイチが言うが、ミルフィーユはそんな彼にかまわず告げた。
〈いいから来てください! 大変なんですから!
 あ、みんなも一緒に、ですからね!〉
 そのミルフィーユの言葉に、一同は彼女の真意が読めずに思わず顔を見合わせた。

「……ある意味、好都合かもしれないな」
「………………ん?」
 ブリッジでポツリ、とつぶやいたタクトの言葉に、レスターは思わず振り向いた。
「正直、このまま合流したらどうしようかって思ってた。
 ヘタを打てば、“向こう”へ連れて行かれかねないからね」
「連れて……シヴァ皇子のことですか?」
 タクトの言葉にココが尋ねるが、
「……ジュンイチのことか」
 レスターはタクトの心情を読み取り、そう口にした。
「考えてみれば、この劣勢の状況下で、ジュンイチの力はあまりにも大きい。
 皇国軍上層部にしてみれば、どの陣営ものどから手が出るほどに欲しい人材だってことか……」
「あぁ。
 正式に“白き月”の所属になっているエンジェル隊はともかく、ジュンイチは形式上はルフト先生の個人的な依頼でこの艦にいるにすぎない。その上エオニア軍の一個艦隊をも圧倒できるゴッドブレイカー&フルメタル・ドラゴンのオマケ付。
 引き抜くのに、これ以上の存在はないだろう?」
 レスターに答え、タクトはエルシオールと並行しているフルメタル・ドラゴンへと視線を向けた。
 ジュンイチがエオニア軍の無人艦隊の残骸から作り上げたこの鋼の龍王の力は自分達も目の当たりにしている。こいつと、そしてそれを支配しているジュンイチ――仮に彼と対戦したとすれば、勝敗に関わらずこちらに甚大な被害をもたらすだろう。
 それほどの力を、ジュンイチはたったひとりで有しているのだ。おそらく、もうエオニアを討った後の政権に思いを馳せているであろうこちら側の為政者達が、その力を放っておくとは思えない。
 何か手を打たなければ、ジュンイチはここを離れることになるだろう。そして、もしそうなったら――
「……放っておくと、取り返しのつかない事態になるぞ」
「レスターもそう思うか?」
「当然だ」
 あっさりとレスターが同意するのを見て、話についていけないでいるアルモが手を挙げた。
「あのー、話がぜんぜん見えてこないんですけど……
 どうして『取り返しのつかない事態』になるんですか?」
「あー、つまり、だ」
 アルモの問いに、レスターは順を追って説明を始めた。
「お前らも知っての通り、ジュンイチは他者に行動を制約されることを極端に嫌う。しかもそれが権力や武力――“力”によるものだと特に顕著だ。
 そんなジュンイチが、ドロドロの権力闘争におとなしく利用されると思うか?」
「あ………………」
 そのレスターの言葉に、アルモは彼らの言わんとしていることに気づいた。
 もし、ジュンイチがここを離れ、彼らの予想通りの展開となったら、その時はおそらく――
 青ざめるアルモに対し、レスターは告げた。
「ヘタをすれば……(オレ達以外の)皇国軍は、ジュンイチまで敵に回すことになる」

 一方、ミルフィーユの呼び出しを受け、銀河展望公園に集合したジュンイチとエンジェル隊(ヴァニラ除く)だったが――
「………………ぅをい」
「はい?」
「もう1回、言ってくれるか?」
「えぇ。
 見てくださいよ、この木!
 お花が満開で、キレイでしょ!?」
 ジュンイチの言葉に、ミルフィーユは公園の中央にある1本の木が満開に花を咲かせているのを指さして大喜びで答える。
 そんな彼女に、ジュンイチは息をつき、
「……コレが、呼び出しの理由か?」
「そうですよ」
「サラッとぬかすなボケェッ!」
 あっさりと答えるミルフィーユに、ジュンイチは力いっぱい言い返した。
「たかが花ごときで、どこが『大変』なんだ! 寝言もたいがいにしとけよコラ!」
「『たかが』じゃないですよ!
 このお花、スッゴイんですから!」
 ジュンイチの言葉に、ミルフィーユは珍しくムッとしてそう答えた。
「この木は“カフカフの木”って言って、“時空震クロノ・クェイク”で消滅した惑星スギノリアが原産地らしいんです。
 とっても珍しい植物で、今ではここにある1本しか確認されていないんですって」
「………………で?」
 眉をひそめて尋ねるジュンイチに、ミルフィーユは笑顔で答えた。
「なんと、この木は100年周期でしか花を咲かせないらしいんです。
 で、今がその100年目だったんですよ!」
「なるほど……確かに大事ね、ある意味では……」
 思わず蘭花がうめくと、ミルフィーユは告げた。
「だから……お花見しましょう!」
「今現在の状況わかって言ってんのかお前わ」

 すかさずジュンイチからツッコミが入る。
「いいか、今オレ達は花見どころじゃない。
 味方が逃げちまったこともあるし、何よりヴァニラを――」
 言いかけたジュンイチだったが――ふと口をつぐんだ。突然何やら思案を巡らせ始める。
「……ジュンイチさん?」
「何か思いついたのかい?」
 そんなジュンイチにミントとフォルテが声をかけると、
「……やろう、花見」
『えぇっ!?』
 突然方針を撤回したジュンイチの言葉に、一同は思わず驚きの声を上げる。
「っても今自分で『それどころじゃない』って――」
「言ったさ」
 ブイリュウの言葉に、ジュンイチはあっさりとうなずき、
「だからやるのさ。
 アイツだって状況はわかってるはず――にもかかわらず、こんな状況でドンチャン騒ぎやっててみろ。さすがのヴァニラも何事か気になって出てくるかもしれない」
「まるで“天岩戸”だね……」
「あまのいわと?
 何ソレ?」
「地球に伝わる神話でね……」
 首をかしげる蘭花にブイリュウが説明している傍らで、ジュンイチは一同を見回し、
「そうと決まればさっそく準備だ!
 ヴァニラ誘い出し作戦、名付けて“オペレーション・アマノイワト”開始だ!」

 そんなこんなで――
「隊長! 非番の乗組員の集合、完了したであります!」
「うむ、ご苦労っ!」
 すっかりノリノリのミルフィーユの報告に、ジュンイチもまたノリノリで答える。
 すでに花見の準備は完了。後は宴を始め、ヴァニラに感づかせるのみである――ミルフィーユは集まった一同を見回し、声をかける。
「みなさーん、グラスは行き渡りましたかー?
 それじゃあ、艦長であるタクトさんから、ごあいさつを!」
「あ、あぁ……」
 ミルフィーユの音頭に、タクトは少しばかり緊張しながら立ち上がり、
「あー、まぁ、さっきの戦闘でいろいろ大変なことになっちゃったけど……済んだことをいろいろ言ってもしょうがない」
 だが、そう告げる頃にはそんな緊張も吹き飛んでいた。
「ここは暗い空気を吹き飛ばして、名誉を挽回してやろうじゃないか!」
『おぉぉぉぉぉっ!』
 そしてそんな彼にクルーも答えた。声をそろえてグラスを掲げる。
 それを乾杯の代わりにし、宴はその幕を上げた。

「ノリがいいよなー、みんな……」
 提案した自分が言うセリフじゃないだろうけど、と胸中で付け加えつつ、ジュンイチはコップに注いだ麦茶を口に含んだ。
 好みから言えばココアなのだが、花見の準備で動きっぱなしだったため正直のどが渇いていた。『のどを潤す』という目的の上では麦茶の方が彼の好みだった。
 と――
「ほらよ」
 そんな彼の元に、紙皿に盛られた焼きそばが差し出された。
 フォルテである。
「さっきから食ってないだろ」
「あぁ、サンクスです」
 素直に礼を言い、ジュンイチは先に受け取った割り箸を割って焼きそばを受け取る。
「で……ヴァニラの動きは?」
「部屋にこもったままだね」
「ここからわかるのかい? 距離もあるしフロアすら違うのに」
「さすがにこの距離だとだいたいの位置までしかわかんないけどね。
 一応、正面の廊下にいろいろ仕掛けておいたけど、そっちにも反応はなし」
「………………そうかい」
 猛烈にツッコみたい部分があったがとりあえず無視し、フォルテはジュンイチの言葉にうなずく。
「ま、居住区の廊下にもここの音声は流してるから、さすがに気づいてるとは思うけど」
 ジュンイチがつぶやいた、その時――

 異変は始まった。

「……くしゅんっ」
 始まりはそのくしゃみ。
 主は――アルモだ。
「あれ、アルモさん、風邪?」
「うーん……そういうワケでもないと思うけど……」
 尋ねるミルフィーユにアルモが答えると、
「――くしゅんっ」
 別の場所でくしゃみ。
 今度は非番の整備クルーの誰かだ。
 だが――それで終わりではなかった。
 まるで二人のくしゃみを合図にしたかのように、周囲から次々にくしゃみが巻き起こる。
 しかも異変それだけではなく、多くのクルーが目のかゆみを訴えてくる。
「な、何よコレ!」
「……くしゅんっ!
 あぅ……くしゃみが止まりませぇ〜ん!」
「目もかゆくて……何なんですの……?」
 蘭花やミルフィーユ、ミントまでもがその犠牲になっている――突然の異常事態を前にジュンイチがあ然としていると、
「ジュンイチ!」
 そこにタクトがやってきた。
「タクトは大丈夫なのか?」
「あぁ……
 それより、これはどういうことだい?」
「うーん……」
 タクトの言葉にしばし考え――ジュンイチは告げた。
「たぶん、これって――」

『花粉症?』
 とりあえず医務室に移動、そこで説明したジュンイチの言葉に一同は声をそろえて聞き返した。
「……って、何?」
「花粉やハウスダスト――つまり微粒子系の外的刺激によって引き起こされるアレルギー症状の総称、簡単に説明するとそんなところか」
 聞き返す蘭花に、ジュンイチはそう答える。
 この場にいるのはヴァニラを除くエンジェル隊とケーラ――そしてなぜか平気だったタクトである。
 そしてその後ろには治療を待つ長蛇の列――先頭にエンジェル隊がいるのは別に彼女達を優先したワケではなく、彼女達が真っ先に列に並んだだけのことである。
 そういうところにばかり皇国軍エリートの実力を発揮しないでもらえるとありがたいのだが――かまわずジュンイチは話を進めた。
「ケーラ先生に確認をとったが、この世界じゃその手のアレルギーはすでに予防法が確立されているらしい。
 だが――花粉症ってのは原因となる微粒子によって治療法が異なる。他の花粉症はあらかた駆逐されていても、さすがに100年周期で花が咲くカフカフの木はノーチェックだったみたいだな」
「だからって、全員が全員そろって症状が出るっていうのは……」
「それにもちゃんと根拠がある」
 反論しかけたミルフィーユに、ジュンイチは答えた。
「さっきも言ったろ? 『すでに予防法が確立されている』って。
 それは確かにいいことだが、症状が出ないということは、その症状を身体が覚えないから、人が本来持つそれらの刺激に対する免疫力が低下しちまうんだ。
 風邪をめったにひかないヤツに限って、いざひくとバカデカいヤツをやらかすのと理屈は同じだ。みんながみんな、アレルギー反応に対する免疫力がついてなかったから、カフカフの木の花粉に対する刺激に過剰反応しちまったんだ」
「ジュンイチは、平気なのかい……?」
「生来花粉症とは縁がない身の上なんでね。
 まー、タクトについては……故郷が自然に囲まれた田舎だった上に本人もアウトドア派、っていうのが原因だろう。ガキのうちから、自然と免疫が鍛えられてたんだろうな」
 目をこすり、鼻をかみながら尋ねるフォルテにジュンイチはそう答え、
「にしても……さすがは100年周期の花。花粉も大した生命力だ。
 普通は花粉のないところじゃ症状は出ないはずなのに……」
「って、感心してないでなんとかしてよぉ!」
「わかったわかった。
 わかったからまず鼻をかめ」
 詰め寄ってくる蘭花に答え、ジュンイチは彼女にティッシュを渡してため息をつき、
「ヴァニラがいてくれれば手当てもすんなりできたんだろうが……こうなったら仕方ない、か……」

「とりあえず、こんなもんでいいか……」
 ゴッドドラゴンから降り、ジュンイチはそれを見上げた。
 一抱えもある鋼鉄の塊――フルメタル・ドラゴンの装甲を少しばかり拝借してきたのだ。
「で……これをどうするんだ?」
「材料にする」
 タクトにそう答えると、ジュンイチは装甲材に触れ――その一部が霧散した。
 そしてそれはすぐに収束し――下に敷いた紙の上に多数の丸薬が作り出されていた。
「……薬?」
「アレルギー反応を抑制する薬さ。
 とはいえ万人向けに作ったから効果は人によってまちまちだし、そもそもアレルギーってのは体質によるものだから、投薬治療で完全にどうこうできるものでもない――カフカフの木の花粉が納まるまでの一時しのぎにすぎないよ」
 答えて、ジュンイチは丸薬を拾い集めて、
「さて……オレは被害にあったクルー全員分を作らなきゃならんからな。その出来上がった丸薬は、タクトがみんなに配ってくれよ。
 適量は食後に1錠――飲みすぎはかえって身体に悪いってことは伝えてよ。薬も過ぎれば毒になるんだから」
「あぁ」
 ジュンイチに答え、タクトは丸薬を受け取ると格納庫を後にしかけ――
「あ、それから」
 言って、タクトはこちらへと振り向いた。
「ムリはしないようにね」
「はいはい」
 そして、今度こそタクトが出て行ったのを確認し――ため息をつく。
「やれやれ。
 大量の“再構成リメイク”が体力削るの、しっかりバレてやがる……
 ……けど」
 言って、ジュンイチは両手に“力”を集めた。
「悪いけど、ムリさせてもらうよ。
 ここでみんなに戦闘不能になられたら元も子もないからね」

 ジュンイチの丸薬の効果はてきめんだった。
 真っ先に試した(タクトから奪った、とも言う)エンジェル隊は完全に回復。次いでブリッジクルーが復活したことで、薬の評判はあっという間に広まっていた。
 そのおかげで――薬を作るジュンイチは大忙しなワケだが。
「ジュンイチさん、動力室整備班の人達の分はこれで全部ですか?」
「おぅ。運んどいてくれ」
 手伝いを申し出てくれたミルフィーユに答えながらも、“再構成リメイク”を続けるその手は止まらない。
「さーて、ジャンジャンいくぞ!
 片っぱしから作るから、ピストン輸送ヨロシク!」
「はーい!」

「………………ん?」
 ブイリュウと共に廊下を歩いていたところ、タクトは奇妙な光景に出くわした。
「えー?
 フォルテさん、それは変ですってば」
「何言ってんだい。
 こっちに決まってるだろ?」
 居住区の廊下で、蘭花とフォルテが何やら言い争っている。
「………………?
 二人とも、何の話?」
 思わず首をかしげ、声をかけるブイリュウだったが――
「あぁ、ブイリュウ、それにタクトも。
 いいところに来てくれたわ――聞いてよ、フォルテさんが……」
「そりゃこっちのセリフだよ!
 絶対あんたのは一般的じゃないね!」
「あー、えーっと……」
 二人の勢いに圧され、すごすごとタクトのところまで退散する。
「えーっと、何の話かな?」
 代わってタクトが尋ねると、今度は二人はタクトへと矛先を向けてきた。
 だが――
「タクト!
 白いご飯に合うのは、宇宙たくあんだよね!?」
「ご飯には宇宙明太子!
 そうでしょ、タクト?」
「………………
 ……はい?」
 二人の言葉に、タクトの目がテンになった。
 だが、そんなタクトを無視して二人の論争はヒートアップしていく。
「いーや、宇宙たくあんだ!
 こいつは譲れないね!」
「宇宙明太子です!
 宇宙たくあんなんて、なんかダサいじゃないですか」
「あーっ! アンタ、宇宙明太子をバカにしたね!?」
「ふ、二人とも落ち着いてよ!」
 際限なく暴走する二人のやりとりに、ついにブイリュウも声を上げた。
「何を話してるかと思ったら……
 いい!? 白いご飯に合うのは――宇宙梅干しだって決まってるじゃないか!」
『それ、絶対に変!』
「えーっ!?」
「……何やってるんだか……」
 そのままブイリュウまで論争に加わるのを見ながら、タクトは思わずため息をつく。
「……まぁ、元気になったみたいで何より、か……」
 ため息まじりにつぶやき――ふと気づいた。
「そういえば……ジュンイチはどうしただろう?」

 なんとなく気になって、タクトは格納庫をのぞいてみることにした。
 果たして、ジュンイチは――
「………………いたよ……」
 そこにいた。未だに丸薬を作り続けている。
「ジュンイチ」
「ん?
 あぁ、タクトか」
「『タクトか』じゃないよ。
 休憩は取ったのか? ムリはしないように言っただろう?」
「心配するなよ。
 ふらつくぐらいに疲れはしてるけど、戦闘に支障が出るほどじゃないし、増してや倒れるなんてコトはまずないよ」
 タクトの言葉に答え、ジュンイチは立ち上がって大きく背伸びして――
「………………あ」
 さすがに目まいを覚え、わずかに後ろへとふらつき――
「………………ん?」
 ふと、その背が誰かに支えられた。
 自分に比べてずいぶんと背が低い。ミントだろうか。
 気になって振り向いて――ジュンイチは目を丸くした。
「………………ヴァニラ!?」

「これをどうぞ。
 少しですが、疲れが取れるはずです」
「おぅ、サンキュ」
 ヴァニラが作ってくれた薬湯を受け取り、ジュンイチは彼女に礼を言う。
 あの後、タクトだけでなくヴァニラまでジュンイチに休息を進言。2対1で責められ、さすがのジュンイチも白旗を挙げ、医務室に休息を取りに来ていた。
「まったく……ジュンイチもムリをしすぎだよ。
 ヴァニラの穴を埋めるためとはいえ、少しは休まないと」
「はーい」
 タクトの言葉に、ジュンイチも反省しているのか、身をすくめてうなずく。
 彼のテンション低下に伴い、はねている髪まで垂れているのがなんだか微笑ましいが、今の話題はそこではない。そんなジュンイチへと、ヴァニラが声をかけた。
「すみません……
 私が不在だったために、ジュンイチさんに負担をかけて、迷惑をかけてしまいました……」
 だが、彼女の口から出たのは謝罪の言葉――そんな彼女に、ジュンイチはため息をつき、
「……阿呆」
 言って、ヴァニラの額に丸薬を指で弾き飛ばした。
「確かに負担はかかったが、それと『迷惑』を直結するな」
 額に命中した丸薬をキャッチし、突然のことに目を白黒させているヴァニラに、ジュンイチは告げた。
「迷惑かどうかなんて、相手の受け取り方次第だ。少なくともオレはぜんぜん迷惑だと思っとらん」
「ですが……」
「オレがやりたくて、お前の穴を埋めにかかったんだ。
 オレの勝手でやったことだ。お前が気に病む必要なんぞ細胞1個分もありゃしないよ」
 告げるジュンイチだったが――
「ですが……私はジュンイチさんを助けようとして、友軍のみなさんに迷惑を……」
「………………あー、そっちか……」
 まだ引きずっていたか――ヴァニラの言葉にジュンイチはなんとなく気まずくなって頭をかく。
 だが、避けられる問題でもない。意を決して告げた。
「アレだって、お前が悪いワケじゃない。
 ゴッドブレイカーのハードウェアについて、事前に知らせてなかったオレのミスだ。
 お前の性格を考えれば、右利きのオレに気を利かせて右手にナノマシンを収束させるに決まってる――そこまで読みきれてなかった」
「そう……でしょうか……?」
 だが、まだ納得できないようだ。うつむくヴァニラに、タクトはジュンイチに代わって告げた。
「確かに、ヴァニラの持つナノマシンの力は修復すると同時に破壊もできる。
 だが――ヴァニラはそれを望んじゃいないだろう?」
「はい」
 これにはすぐに答えが返ってきた。
「なら大丈夫さ。
 ヴァニラのナノマシンは持ち主の望みに従う――キミが破壊を望まない限り、それが破壊をもたらしたとしてもそれはキミ以外に責任がある」
「そーゆーこと。
 それでグダグダ言うヤツがいるなら、オレがちゃんと話をしておくさ」
「はい………………」
 タクトとジュンイチの言葉に、ヴァニラはうつむきながらつぶやき――
「ですが、ジュンイチさん……」
 言いながら顔を上げ――ヴァニラは告げた。
「ジュンイチさんの『お話』は少々過激なので、避けるのが懸命です」
「やかましいわい」
 少なくとも元の調子には戻ってくれたらしい――ヴァニラの言葉に少々安堵するものはあったが、ジュンイチは口を尖らせてうめく。
 と、その時――艦内に警報が響いた。
「敵襲――?」
「みたいだな」
 タクトに答え、立ち上がったジュンイチの表情はすでに戦闘モードに移行している。 
 そして、ジュンイチはヴァニラへと向き直り、告げた。
「んじゃ……この間の戦いの、汚名返上戦といこうか♪」

「えっと……巡洋艦に突撃艦、それからミサイル艦に……」
 出撃し、敵の構成を把握しようとデータを呼び出したジュンイチだが――そこに見慣れない敵影を発見した。
 ミサイル艦が牽引してきたのだろう、巨大な要塞じみた無人兵器である。
「エルシオール、コイツは?」
〈ココの分析だと、強力な攻撃衛星らしい。
 自身の移動能力は大したことはないが、火力には十分注意してくれ〉
「了解。
 フルメタル・ドラゴンでブッ飛ばせればいいけど……この位置じゃちと遠いな。
 こっちから行こうにも翼をもがれたままだしなぁ……」
 レスターの答えにしばし考え――ジュンイチはタクトに告げた。
「なら、オレ達で取りついてブッ叩く。
 フルメタル・ドラゴンはエルシオールの直衛に残す――タクト、コントロールそっちに回すから、うまく使ってくれよ」
〈了解だ〉
 タクトの答えにうなずき、ジュンイチは告げた。
「んじゃ――いこうか、みんな!」
『お――っ!』

「いっくわよぉっ!」
 先陣を切ったのはやはり蘭花だ。真っ先に戦場に飛び込んだカンフーファイターが、ミサイル艦へとアンカークローを叩き込み、砕かれた装甲の隙間にバルカンでとどめの一撃をお見舞いする。
 そしてミルフィーユが、ミントが、そしてフォルテが次々に戦場に突入、次々に敵艦を撃破し始める。
「……なんかもー、ここまでくるとイヂメだな、マジで」
 他人事のようにつぶやくジュンイチだが――彼も攻撃の手を緩めない。次々に無人艦を叩き落していく。
 が――
〈カンフーファイター、突出して囲まれてます!〉
「あのバカ!
 プローブ騒動の時のポカ、繰り返してどーすんだよ!?」
 アルモからの報告に、ジュンイチはすぐに援護に向かおうとするが、そんな彼の目の前にもミサイル艦が立ちふさがる。
 いかにゴッドブレイカーであろうとコイツを一撃で倒すには紋章機同様必殺技で挑む必要がある。そうでなければ5、6発は叩き込まなければ沈んでくれない。消耗かタイムロスか――刹那の間ジュンイチの中で迷いが生じ――決断した。
「ヴァニラ! すぐに来い!
 爆裂武装するぞ!」
「え………………?」
 ジュンイチのその言葉に、ヴァニラは思わず息を呑んだ。
 その脳裏に先の戦闘がどうしても思い出される。もし、あの時のようにナノマシンが暴発すれば――
「大丈夫」
 だが、そんなヴァニラにジュンイチはハッキリと告げた。
「ビビるな。
 破壊はお前の望みじゃない――それを望んでいないお前に、もう二度と破壊の力は使わせない」
 そう告げ、ジュンイチは炎を放ってミサイル艦からの攻撃を薙ぎ払う。
「それでも必要な時は――オレがやる。
 お前は安心して、仲間のために癒しの力を振るえばいい」
「ジュンイチさん……」
 ハッキリと告げるジュンイチに、ヴァニラはしばし視線を落とし――決断した。
「わかりました。
 爆裂武装、座標軸調整に入ります」
「そう来なくっちゃな!」

「ゴッドブレイカー!」
「ハーベスター」
『爆裂武装!』
 ジュンイチとヴァニラの叫びが響き――二人の機体が合体モードへと移行する。
 そして、バーニアを吹かしてゴッドブレイカーが加速、さらにハーベスターがその後を追う。
 と、ハーベスターからナノマシンケージが分離、続いて左右の推進ユニットが分離し、それぞれのパーツの間にゴッドブレイカーが飛び込む。
 ゴッドブレイカーが滞空するパーツの中心に到達すると、背部スラスターが倒れてハーベスターのボディがそれをカバーするように合体、さらに両肩アーマーを装飾している爪がアーマー内に収納、代わりにハーベスターの推進ユニットが合体する。
 最後に、右肩アーマーの後ろ側にナノマシンケージが、左腕にシールドが合体し、両機のシステムがリンクする!
『ゴッドブレイカー、ハーベスターモード!』

「全ターゲット補足・分類完了」
「よっしゃ!」
 ヴァニラの報告に、ジュンイチは両手を左右に広げて構え、
「左方に輝け、癒しの輝き!
 右方で荒れよ、滅びの炎!」
 ジュンイチの叫びに従い、ゴッドブレイカーの両手にナノマシンの輝きが収束していく。
 そして、ジュンイチはそれを大きく振りかぶり、
「光癒――」
「――炎滅!」
『リペア、イレイザー!』
 二人の咆哮と共に、ナノマシンが放たれる!
 しかしそれは、今までのような放射状に放たれるものではない。まるで何かに導かれるかのように光の帯となって流れていく。
 まず真っ先に目標に達したのは右手から放たれたナノマシン――敵艦を包み込むと、まるで風化させるかのように分解していく。
 同時に、左手から放たれたナノマシンは紋章機各機の元へと飛翔。今までとは比べ物にならない速度で、一瞬にしてダメージを修復していく。
 修復と破壊、すべてを終えたゴッドブレイカーがナノマシンを解放した時には――攻撃衛星も含め、すべての敵戦力が沈黙していた。

「えーっと……
 なんか、今までの爆裂武装の中で一番エゲツない気がするんだけど……」
「ま、ナノマシンに指向性を持たせて、敵だけ分解して味方は修復、だからねぇ……」
 戦闘結果の報告に訪れたブリッジで、どことなく青い顔をしてつぶやく蘭花にタクトが同意する。
 だが、当のジュンイチは平然としている。カラカラと笑いながら答える。
「だってさ、右手で使えば攻撃に転用できるんだぜ。使わない手はないだろ。
 左手で使えば今までどおりの癒しの力、右手で使えば滅びの力――要は使いどころさ。
 ついでに言えば、この方法なら分解した敵さんの残骸も修復の素材に使える」
「あー、それで……」
 ジュンイチの言葉に、アルモはちゃっかり修復されていたフルメタル・ドラゴンの翼を見ながら納得してつぶやく。
 そして、ジュンイチは後ろに控えていたヴァニラへと振り向き、
「っつーワケでヴァニラ。
 破壊の力を怖がる必要はない――そーゆーのはオレが、オレがいなくても仲間がなんとかしてくれる。
 お前はひとりじゃない。そのことを忘れるな」
「……はい」
 ジュンイチの言葉にうなずくと、ヴァニラはクルリと振り向いてブリッジを後にしていく。
「おい、どこ行くんだよ?」
「クジラルームへ。
 クロミエさんのところの、動物達の世話がありますので」
「お、あのチビスケどもか。
 待てよ、オレも行くって!」
「オイラもー♪」
 言って、ジュンイチやブイリュウもその後を追い、彼らがブリッジを出て行くのを見送りながら、フォルテはタクトに尋ねた。
「……吹っ切れたかね?」
「さぁ?」
 答えて、タクトは肩をすくめる。
「けど……」
 だが、その表情に不安はなかった。
「きっと大丈夫だよ。
 ジュンイチが言ったように、ヴァニラはひとりじゃないんだから……」


 

(初版:2006/07/16)