「地球へ?」
「そ。
レティ提督と話をつけてね――渡航許可をもらってきた。仕事って形でね」
思わず声を上げるゲンヤに対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
管理局への“お遣い”を終えて帰還した、ゲンヤのオフィスでの一幕である。
「依頼内容は“移民トランスフォーマーの潜伏状況の実態調査”――連中と直接対面してる提督さんがサイバトロンのお偉いさんから頼まれてたらしいんだけど、人手不足でどうにもならなくなってたらしい」
「いや、それはいいんだが……」
ジュンイチの説明に答え、ゲンヤは息をつき、
「どういう心境の変化だ?
こないだクイントが話した時には、『興味がない』ようなことを言ってたのに」
「今でもねぇよ。
“あいつら自身には”ね」
あっさりとそう答える。
「けど……ヤツらの技術と、そこからつながる発想には興味がある。
宇宙を叉にかけて活動しているあいつらなら、管理局とは別の視点からオレの生まれた世界を探す方法を見つけ出せるかもしれない」
「そういうことか……」
「汚いやり口だとは思うぜ――連中を利用することになるからな。
けど……」
息をつくゲンヤに答え――ジュンイチは肩をすくめて告げた。
「ゴメンね、オレ、使えるものは神でも使う主義なんだ」
「そんなことはとっくの昔にわかってる」
ジュンイチの言葉に苦笑し、ゲンヤは彼に告げた。
「どこが汚いもんかよ。
彼らから受けた依頼をこなして、その対価として力を借りる……立派な等価交換だろ。
正式に依頼された仕事である以上、それをキッチリこなせばこっちは何も言わねぇよ。
気にせず行ってこい」
言って――ゲンヤは不意に表情を引き締めた。
「だが――わかってるな?」
「わかってるっての」
答えるゲンヤに、ジュンイチもまたうなずいた。
「行くからには――」
「ウチのお姫様が機嫌を損ねるのは必至だからな」
第5話
「出現・恐怖大帝!」
しばらく家を空けることを寂しがり、しまいには「あたしも行く!」と駄々をこねるスバルをクイント、ギンガを加えた3人がかりで何とか説得、お土産の購入を確約し、ジュンイチは無事第97管理外世界の地球へと降り立った。
調査自体は抜き打ちで行ってほしい、とのことだった。生の実態を調査するためらしく、移民トランスフォーマー達にその存在を知られてしまう可能性を憂慮し、管理局側ともトランスフォーマー側とも、接触は極力控えてほしい、とも言われた。
最初は「それでどうやって移民トランスフォーマーを見つけて調べろって言うんだ」とも思ったが――現地に着いてみると意外とあっさり見つかった。元々探知能力にかけても人外級のジュンイチからしてみれば、トランスフォーマーといえど民間人レベルの連中を見つけ出すのはそう難しい話ではなかった。
これ幸いと彼らの様子を観察、とりあえず上手くやっているようでホッと胸をなで下ろすジュンイチだったが――
のん気に調査員気分でいられたのは、初日だけだった。
「ちぃ………………っ!」
タンッ! と音を立てて屋根を蹴り、ジュンイチは夜空に身を躍らせた。
そのままより高い建物へ、より高い建物へと飛び移っていき、近辺で一番高いビルの屋上へ降り立つと、ジュンイチは“力”の気配を探る。
「何だ……この気配は……!?」
はるか北の方で突如現れた大きな“力”――いくつも現れたそれがしばらく小競り合いをしていたかと思うと、突然新たな気配が、それも大量に出現したのだ。
それは昼間調査した連中と同じ、しかしはるかに禍々しいものばかり――トランスフォーマーなのは間違いないだろうが、少なくとも“いいヤツ”とは思えない。
(この気配の位置……北極圏か……?
少なくとも、陸地みたいだけど……あんなところで、何が起きてやがるんだ……!?
ってゆーか……)
「なんで、オレがこっちに来たその日にこんなトラブルが起きるんだよ!」
こちらはまだ、拠点となるねぐらも見つけていないのに――声に出して悪態をつき、ジュンイチは再び地を蹴った。
場所が場所だ。現場に向かうには飛ぶしかない――仕方なく“装重甲”を着装し、ジュンイチは北極を目指して海上を飛翔する。
上空は空全体を覆い尽くさんばかりにトランスフォーマー達が飛び交っている――それがスタースクリームによって解放された地球デストロン達であることを知るのはまだ先の話――とりあえずこちらを気にする様子もないので、こちらとしても無視することにする。
(いちいち相手をしててもキリがねぇ。
頭をつぶすためにも――まずは発生源に向かう!)
対集団戦闘のセオリーに則り、ジュンイチは“頭”を探す手がかりを求めて北極を目指し――
「――――――っ!?」
直前で気づき、離脱――とっさに左に進路を変え、身をひねったジュンイチの視線の先で、突如海面が弾ける。
(海中――水中タイプもいたか!?)
内心で舌打ちし、身がまえるジュンイチの目の前で、彼らは海上に姿を現した。
カメ、サメ、エイ、エビ、シーラカンス、イカ――海洋生物をモチーフにしたモンスタートランスフォーマーの一団――タートラー率いる“シーコンズ”だ。
「油断したぜ……
上ばっかりに気をとられてたからな、まさか下から来るとは思わなかったぜ」
「しっかり反応しておいてよく言うぜ」
つぶやくジュンイチの言葉に、タートラーはそう答えて肩をすくめる。
「で、何の用?
オレ、今ちょっと急いでんだけど」
「急がれたら、なんとなくヤバそうな気がしたんでな」
ジュンイチの言葉に答えるのはイカ型のテンタキルだ。そのとなりで、リーダーであるカメ型のタートラーがジュンイチに告げる。
「単独で空を飛べるような能力者が、この騒ぎの中脇目も振らずに一直線だぜ。
人間どもがオレ達みたいなのにいい感情を持ってるとも思えねぇしな――こっちにとって何かマズイことでも考えてんじゃねぇかと思ってな」
「だから念のためにオレをつぶしておこうってハラか……!」
納得してつぶやき、ジュンイチはタートラーに尋ねる。
「となると――オレを通してくれるっつー選択肢、ないんだよな?」
「あぁ、そうだな」
あっさりとタートラーは答えた。
「なんでオレ達、天下無敵のシーコンズが人間なんかの言うことを聞かなきゃならねぇんだよ?」
「……イカす答えをありがとう」
言って、ジュンイチはため息をつき――
「おかげで……思いっきり戦えそうだ」
その言葉と同時――ジュンイチは抜き放った“紅夜叉丸”を爆天剣へと“再構成”、一気にタートラーへと間合いを詰め――
「――と見せかけて!」
いきなり急制動をかけ――タートラーの背後から飛び出してきたサメ型、オーバーバイトへと爆天剣でカウンターの一撃を叩き込む!
「不意打ち狙いだったんだろうが――引きつけが甘いんだよ!」
ブッ飛ぶオーバーバイトに言い放つと、ジュンイチは間髪入れずに苦無を取り出し、テンタキルに向けて投げつける!
が――相手は金属の装甲を持つトランスフォーマーだ。ジュンイチの投げた苦無はその装甲に突き刺さるものの、打ち貫くには至らない。
「へっ、ムダムダ! 効かねぇよ!」
攻撃を失敗したジュンイチに向け、余裕の態度で告げるテンタキルだったが、
「これ、なぁんだ?」
ジュンイチがそんな彼に見せたのは、針金でできた何かのピンだ。
ワケがわからず、テンタキルは首をかしげ――
「手榴弾のピンだよ、バーカ」
答えを示したのは連続爆発――装甲に突き刺さった苦無に括りつけられていた手榴弾が次々に爆発。吹っ飛ばされた挙句海中に没するテンタキルに、ジュンイチは軽い口調で言い放つ。
「な、何だよ、アイツ!
パワーといい戦い方といい、ムチャクチャじゃねぇか!」
「確かに、なめてかかると手こずりそうだな……」
小型とはいえ、トランスフォーマーであるオーバーバイトを真っ向から殴り飛ばすとは、何という腕力か――エイ型のクラーケンがうめくとなりで、タートラーもうなずき――すぐに決断した。
「よぅし!
野郎ども、集まれ!
“合体するぞ”!」
「合体……!?」
タートラーの言葉にシーコンズの面々が終結するのを見て、ジュンイチは眉をひそめ――
「――って、ひとり欠けたままだろ」
テンタキルは未だ海中に没したままだ。
しかし、そんなジュンイチの指摘にも、タートラーは笑みを浮かべ、
「心配ならいらねぇよ。
オレ達シーコンズは5体合体――残り1体は武器に変形するのさ。
しかも手足は自在に入れ替え可能! ひとり欠けたぐらいなら、まだまだ合体は可能なんd――」
「じゃあもうひとり」
「ぐはぁっ!?」
言葉と同時に衝撃と悲鳴――タートラーの言葉を待たずにジュンイチが一撃。爆天剣でオーバーバイトを殴り倒す。
「な、何でオレばっか……!?」
「なんとなく」
うめき、海中に没するオーバーバイトに言い放つと、ジュンイチはもう一度爆天剣をかざし――
「てめぇ、よくもやってk――」
「ていっ」
次の瞬間、足元の海面がふくらみ、弾けた。咆哮し、テンタキルが飛び出してくるが――すでに読んでいたジュンイチに脳天を殴られ、再び海中へと沈む。
「これで事実上2名脱落、と……
さて、これでも合体できるのかな?」
「ぐ………………っ!」
「できないみたいだね♪」
うめくタートラーの言葉に確信し、ジュンイチは爆天剣を“紅夜叉丸”に戻すと準備運動とばかりに両腕を振り回し、
「さて、それじゃあ……」
「鉄拳制裁タイムとまいろーか♪」
5分後――
時間が惜しいのでジュンイチは殴るのをやめた。
「なんとか、時間切れまでには陸地に降りられたか……」
安堵のつぶやきと共に海岸に降り立ち、ジュンイチは着装を解いてつぶやいた。
「あの海鮮ズをド突き回すのに、ついつい夢中になっちまったからなぁ……
ガス欠前に降りられて良かったぜ、ホント」
基本、バリアジャケットと違いそれ自体に武装や推進システムを有する“装重甲”は構造が複雑な分、生成においても維持においてもとにかく燃費が悪い。
いかにブレイカーが周囲の“力”をも身の内に取り込み、行使できる存在と言っても、一定時間内において取り込める量には限界がある。燃費の悪い“装重甲”の維持は明らかに消費量が供給量を上回っており、自然と着装時間にも限界が発声する。当然、それに加えて戦闘まで行えばその限界はさらに短くなる。
マスター・ランクの中でも特に高出力のジュンイチにおいてはその影響が特に顕著に現れる。単独では非戦闘行動のみでも30分、戦闘行動を行えば5分しか着装状態を維持できない。ブレイカーブレスにチャージできる非常用の予備精霊力を加えてもその倍の1時間/10分がせいぜいという有様だ。
本来はガス欠を防ぐために、プラネルという中継点的存在を通じてブレイカービーストからの精霊力の供給を受けているのだが――そのどちらも自分のそばにいない現状では、常に省エネを心がけなければならない。しかし、今回はつい調子に乗ってしまった、というワケだ。
(ブレイカーブレスのチャージ残量5%……まさにギリギリだったな。
この世界の精霊力濃度から逆算すると、再チャージ完了まで5時間……目的地に着くまでには、なんて甘い考えは持ってもムダだな。どう考えても間に合わねぇ)
行く手は完全に雪に覆われているが――こちとら雪上行軍訓練もバッチリこなしてきた身だ。1時間もあれば余裕で目的地に到着してしまうだろう。
「……ま、飛ぶ必要はないんだ。着装しなくても戦いようはいくらでもある、か……」
何かあったならあったで、その時、その状況をフル活用して立ち回ればいい――ため息まじりにつぶやくと、ジュンイチは雪原に向けて一歩を踏み出した。
今日この時ほど、自分が“炎”属性であることを神に感謝したことは多分ない――お得意の熱エネルギー制御で寒さをしのぎつつ、ジュンイチはついに目的地へとやってきた。
「あの穴か……」
氷に閉ざされた盆地の中央に空いた巨大な竪穴――地球デストロンの封印されていた“地球のヘソ”である。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
“悪党ども”の気配は一度日本に集まり、そこで一戦交えたっきりそのすべてが気配を消している。今のうちに調査を終わらせてしまおうと、ジュンイチは一歩を踏み出し――
「――――――っ!?」
突然生まれた新たな気配――思わず全身総毛立つほどのプレッシャーを感じ、ジュンイチはとっさに身がまえた。
「何だ……!?
このバカみたいにデカい“力”は……!?」
気配は目の前の縦穴の中から――ジュンイチがうめく中、その気配の主はゆっくりとその姿を現した。
胸部に竜の頭部をあしらった、巨大な翼を持つ大型のトランスフォーマーである。
「あいつは……!?」
先ほど戦ったシーコンズとは、明らかにレベルが違う――相手の強さを感じ取り、ジュンイチがうめくと、
「………………む?」
向こうもこちらに気づいた。ジュンイチの姿を見とめ、トランスフォーマーはこちらに向けて降下してくる。
「防寒装備もなく、生身でこんなところにいる、か……
能力者か、貴様」
「ま、そんなところだね。
そっちはトランスフォーマーか。ずいぶんとデカイね」
トランスフォーマーの問いに答え――ジュンイチは逆に彼に尋ねた。
「ところで……ひとつ聞きたいんだけど。
ここにいた連中の親玉って……お前か?」
「あぁ、そうだ。
恐怖大帝スカイクェイク――それがオレの名だ」
「ふーん……」
あっさりうなずき――それっきり。そこから会話を発展させるつもりのないジュンイチに対し、スカイクェイクは眉をひそめた。
「……こっちが名乗ったんだ。貴様も名乗ったらどうだ?
人間どもにとっても共通する礼儀のはずだが?」
「名乗る相手は選ぶことにしてるんだよ、オレは」
告げるスカイクェイクだが――ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「こっちはお前と長々付き合うつもりはないんだよ。
互いに名を知れば、そこに縁が生まれる――ヘタに名乗って、後々まで続くような因縁をこしらえるつもりはねぇよ」
「……なるほど、そういうことか」
ジュンイチの言葉に納得し――スカイクェイクのまとう雰囲気が変わった。真っ向からジュンイチと対峙し、静かに“力”を高めていく。
「そういうことさ」
対し、ジュンイチも抜き放った“紅夜叉丸”を爆天剣へと“再構成”し――
「オレが――」
「貴様を――」
『倒して終わりだ!』
咆哮と同時――ジュンイチの刃とスカイクェイクの拳が激突する!
「ほう!
さすがは能力者! 生身のままでオレの一撃を受けるか!」
拳に伝わる衝撃波、彼がトランスフォーマーに勝るとも劣らぬパワーを有することを十分に伝えてきた――ジュンイチの実力を推し量り、スカイクェイクは思わず感嘆の声を上げ――
「――だが、重量の差は致命的だ!」
そのまま、力押しでジュンイチを押し返し、弾き飛ばす!
「にゃろう……!」
うめき、なんとか体勢を立て直して着地するジュンイチだったが――
「逃がさん!」
「逃げねぇよ!」
すかさずスカイクェイクの追撃――真上から振り下ろされた拳を爆天剣で受け止めるが、そのパワーと重量の前に動きを止められたところを蹴り飛ばされた。真横に吹っ飛ばされ、その先の氷塊に叩き込まれる。
「他愛もない……
オレの一撃を受け止めることができても、所詮は人間だったか――」
並の人間の耐えられる一撃を叩き込んだつもりはない――ジュンイチが突っ込み、崩壊した氷塊を見つめ、スカイクェイクはため息まじりにつぶやいた。
「結局、人間がトランスフォーマーを上回ることなど不可能だ。
そんな弱い種族が、この星の支配者などとは片腹痛い。やはりオレ達トランスフォーマーがこの星の頂点に立たねば……」
つぶやき、スカイクェイクは氷塊に背を向け――
「待てやコラ」
「――――――っ!?」
その背にかけられた声に、スカイクェイクは思わず動きを止める。
驚き、振り向くスカイクェイクの目の前で、崩れた氷塊の一角の氷が転げ落ち――
「確かに、パワーじゃ勝てねぇな、どう逆立ちしたって。
けどさ、だからって、それイコール『弱い』ってワケじゃねぇだろ。
せめて……能力者として、くらいは、お前らを上回らせてもらいたいんだけど?」
その下から姿を現し、ジュンイチはスカイクェイクに向けてそう言い放つ。
さすがに無傷というワケにはいかず、頭から血を流しているが――少なくとも命に別状はなさそうだ。
「バカな……!?
並の人間ならグシャグシャになっているところだぞ!? その程度にしか効いてないのか!?」
「ムチャクチャ効いてるに決まってんだろ、バーカ」
思わずうめくスカイクェイクに対し、ジュンイチは迷わず即答する。
「耐えられた、ってだけで、身体中あちこちべらぼうに痛ぇよ。
それだけの一撃を自分で叩っ込んでおいて『効いてないのか!?』だぁ? てめぇも戦士なら、見た目だけでダメージ判断してんじゃねぇよ。
だいたい、てめぇはトランスフォーマーだろうが。ロボットだろうが。センサー使えよ、センサー」
「むぅ……」
一方的に言い放つジュンイチの言葉に、スカイクェイクはぐぅの音も出ず――
「――って、ちょっと待て!
なんで攻撃を叩き込まれた本人にダメ出しをされなければならんのだ!?」
「チッ、気づきやがったか」
気づき、声を上げるスカイクェイクに、ジュンイチは露骨に舌打ちして見せる。
「そもそも、そこはダメージがあるのを隠して、戦いを有利に運ぶことを考えるところじゃないのか!?
なぜわざわざ自分の不利をさらす!? オレをなめているのか!?」
「別に、ンなつもりはねぇよ」
バカにしているのか、と声を荒らげるスカイクェイクだが、ジュンイチは肩をすくめてそう答える。
「単に――見せてやるだけだよ。
パワー負けしてようが、身体がボロボロだろうが――てめぇに勝つくらいなら余裕でできる、ってことをな」
「そういう言い方が、なめているって言っているんだ!」
その言葉に激昂し、スカイクェイクはジュンイチへと殴りかかり――
宙を舞った。
「な――――――っ!?」
一瞬にして視界が回転した。驚愕の声も、反応もすでに遅く、スカイクェイクは頭から地面に突っ込んだ。
「チッ、頭からか。
顔面から“車田落ち”するように投げたつもりだったんだけどな」
「何、だと……!?」
思い通りにいかなかったのか、落胆するジュンイチの言葉に、スカイクェイクはうめきながら身を起こし、
「貴様が、オレを投げた、だと……!?
そんなことが、あってたまるか!」
言い放ち、再びジュンイチに殴りかかるスカイクェイクだが――まただ。再び宙を舞い、大地に叩きつけられる。
だが――今度は気づけた。
「こいつは……合気か……!?」
「あ、知ってるんだ」
起き上がり、うめくスカイクェイクの言葉に、ジュンイチは意外そうにつぶやき――
「こんなに体格差があってもできるとはさすがに思ってなかったんだけどね――使った本人もビックリだ。
それに――お前さんもだ。こんな北国に住んでるくらいだから、知らないと思ってたよ」
「いや、別に住んでるワケじゃないんだが……」
つぶやくジュンイチに、スカイクェイクは思わずツッコミを入れる。
「で? どうする?
合気のことを知ってるんならわかるだろ――力学のカタマリみたいな技だからな、パワーがあればあるほど、返ってくるダメージはデカいぜ」
「フンッそれがどうした」
告げるジュンイチだったが――スカイクェイクは臆することなくそう答える。
「こっちは貴様にかまっている場合じゃないんだ。
ようやく封印が解けたと思ったら人っ子ひとりいやしない――行方不明の部下を、今すぐにでも探しにいかなければならんからな」
「………………は?」
その言葉に――今度はジュンイチが目を丸くする番だった。
「お、おい、ちょっと待て!
お前、今ひとりなのか!?」
てっきり、あのトランスフォーマーの大軍を指揮していた黒幕が動き出したと思っていたのだが――自分の読みと食い違うスカイクェイクの言葉に、あわてて待ったをかけるジュンイチだったが――
「しかし、降りかかる火の粉は払わなければな!」
「聞けよ人の話!」
「全力でいく――あっさりやられて落胆させるなよ!」
「しかもノリノリだし!?」
かまわず身がまえるスカイクェイクに、ジュンイチは力いっぱいツッコミの声を上げる。
だが、スカイクェイクはあくまでジュンイチと戦うつもりだ。彼を真っ向からにらみつけ、叫ぶ。
「フォースチップ、イグニッション!」
瞬間、飛来した光の塊がスカイクェイクの背中のスロットに飛び込んだ――それに伴い、スカイクェイクの翼が分離し、大剣に変形すると彼の手の中に納まる。
その名も――
「デスシザース、ブレードモード!」
大剣と化した翼――デスシザースをかまえてスカイクェイクが咆哮、その全身からすさまじい“力”があふれ出す。
「何だ……!?
今の光を取り込んだとたん、いきなりパワーが跳ね上がりやがった……!」
「ほぉ……
トランスフォーマーのことは知っていても、フォースチップのことは知らなかったか」
思わずうめくジュンイチの言葉に、スカイクェイクは余裕を取り戻してそう告げる。
「これがオレ達トランスフォーマーの切り札、フォースチップの力だ。
オレ達トランスフォーマーは、フォースチップを発動することで、普段使うことのない潜在能力を最大限に引き出すことが出来るのだ!」
「潜在能力のありがたみがないなぁ……」
「そこにツッコむのか、お前は……」
迷わず放たれたジュンイチの言葉にうめくが――スカイクェイクは警戒を解かない。
口調とは裏腹に――ジュンイチが一切のスキを見せていないことに気づいているからだ。
「……まぁいい。
いずれにせよ、オレがイグニッションした以上これで詰みだ」
言って、スカイクェイクはデスシザースをかまえ――
「イグニッションを遂げた今、こちらは本当の意味で全力だ!
貴様ごときが、さばける攻撃ではないと思え!」
「ちぃ――――――っ!」
一気に間合いを詰め、斬りかかってくるスカイクェイクの刃を、ジュンイチは身をひるがえしてかわし――目標を見失った刃は大地に叩きつけられ、周囲の大地をその上に降り積もった雪や氷の層もろとも粉々に打ち砕く!
「クソッ、なんつーパワーだ……!
こんなの、合気で投げようにもパワーで押し切られる――これが、フォースチップの“力”か……!」
飛び散る大地の破片の中、ジュンイチは思わず毒づいて――
「どこを見ている?」
「――――――っ!?」
その背後に、スカイクェイクが回りこんでいる――とっさに反応するが、スカイクェイクの一撃はジュンイチをガードの上から弾き飛ばし、大地に叩きつける!
「っつー…………!
やってくれるぜ……!」
「バカめ。
パワーが上がったということは、バーニア出力も、大地を蹴る脚力もアップしたということだろう」
身を起こし、うめくジュンイチに答えると、スカイクェイクはデスシザースを銃形態へと変形させ、
「デスシザース――バスターモード!」
「ぅわっと!?」
ジュンイチに向けて強烈なビームが放たれた。とっさに地を蹴り、閃光をかわすジュンイチだったが――
「――――またかよ!?」
またしてもデスシザースが姿を変えた――弓形態に変形したデスシザースをかまえるスカイクェイクの姿に、ジュンイチの背筋を戦慄が走る。
“遠距離攻撃”という括りなら、バスターモードから別形態に変形させる必要はない。あえて切り替える必要があるとすれば――
(確実にオレを仕留めるため――
だとしたら威力重視の“砲撃”じゃねぇ、速力重視の――“射撃”が来る!)
「くそ――――――っ!」
「デスシザース、アーチャーモード!」
着地の瞬間を狙われては、こちらの回避は間に合わない――スカイクェイクの放ったエネルギーの矢がジュンイチを直撃、大爆発を巻き起こす!
「…………さすがに死んだか」
少しずつ晴れていく爆炎を見つめ、スカイクェイクは静かにつぶやき――
「今くらったのがブレードモードだったら――な」
そんな彼に告げたのは、煙の向こうから姿を現したジュンイチだった。
「何――――――っ!?」
(バスターモードに威力で劣るとは言え、アーチャーモードの一撃に耐えたのか――!?)
ただ蹴り飛ばしただけの先ほどの攻防とはワケが違う――自らの切り札による一撃を受けてもなお健在のジュンイチの姿に、スカイクェイクは思わず声を上げ――気づいた。
ジュンイチの周囲に展開された“力”のフィールドに。
「…………さすがに、今度は防いだか」
「正解♪」
スカイクェイクの言葉に、ジュンイチは笑顔でうなずいた。
「オレの力場の特性は“エネルギー制御特化”――物理的な干渉力を極限まで犠牲にしてる代わりに、“力”の扱いについてはズバ抜けてるんだ。
そして――それは防御力においても例外じゃない」
告げるジュンイチだったが――その言葉に、スカイクェイクはまたしても不愉快そうに唇をゆがめた。
「またそうやって手の内を明かすか……
どこまでこちらをバカにするつもりだ!」
「別に、バカにしてるつもりはないさ――今度こそ正真正銘、ね」
苛立ち、声を荒らげるスカイクェイクに答え――ジュンイチは爆天剣を大地に突き立てた。そのまま“再構成”を解き、“紅夜叉丸”に戻す。
「……何のつもりだ?」
「戦う理由がなくなったっぽいからね。
カン違いしてケンカ売った侘びだ――先にこっちから武装解除だ」
意図がわからず、尋ねるスカイクェイクに、ジュンイチは軽く肩をすくめてそう答える。
「お前、言ったよな?
『目が覚めたら誰もいなかった』って」
「あぁ」
「つまり、さっきまで世界中を飛び回っていたトランスフォーマーどもは、お前の差し金じゃなかった、ってことだろう?」
「何だと!?」
ジュンイチの言葉に、スカイクェイクの目の色が変わった。
「どういうことだ、それは!?」
「オレもそれを確かめるために、ヤツらの出てきたこの場所を調べに来たんだよ」
スカイクェイクに答え、ジュンイチは息をつき、
「とりあえず、オレの見たものとお前さんの証言から考えると……ここに“封印”されてたって言うお前の部下を別の誰かが起こして、使いっぱとしてこき使ってた――そんなところだろうな」
スカイクェイクの発言を疑うつもりはない――先の戦闘や会話の流れから、ジュンイチはそう判断していた。
こちらの不真面目とも言える戦闘態度にいちいち目くじらを立てていたこと、今もこうしてこちらの仮説に付き合ってくれていることから考えても、戦士としてはかなり真摯な性格のようだ。自分なら嬉々として仕掛けるようなだまし討ちも、彼の場合はあまりやりそうなタイプには見えない。
(“戦士”としては優秀でも、“軍人”としては大成しないタイプだね、きっと)
内心で苦笑するジュンイチの前で、スカイクェイクはしばし思考をめぐらせていたが、
「……そういうことなら、確かに貴様と戦う理由はないな」
そう言うと、ジュンイチに対しクルリと背を向けた。
「信用するのか?」
「あぁ」
尋ねるジュンイチに、スカイクェイクはあっさりとうなずいた。
「貴様は……“戦いに勝つためのウソ”はついても、“戦いを避けるためのウソ”をつくタイプではあるまい。
今の話をウソだとするなら、それは“戦いを避けるためのウソ”につながる――今この場で貴様の話を疑う要素はないさ」
「ありゃりゃ。
そーゆー信用の仕方をしてくれるか」
思わず肩をすくめ、ジュンイチはスカイクェイクの言葉に苦笑してみせる。
「じゃあな。
オレは部下を探しに行く」
言って、スカイクェイクはデスシザースを背中に戻し――
「待てよ」
そんなスカイクェイクを、ジュンイチは呼び止めた。
「連中は、一度日本に集まって、そこから行方が途絶えた。
探すんなら、まず日本に行ってみるのをオススメするよ」
「……情報、感謝する」
「それから……」
素直に謝意を述べるスカイクェイクに対し、ジュンイチはひとつ付け加えた。
「ジュンイチだ」
「………………何?」
「柾木ジュンイチ――オレの名前だよ」
「…………そうか。
覚えておこう」
言って、スカイクェイクは今度こそ翼を広げて飛び去っていき――ジュンイチは通信回線を開いた。
「…………あ、本局のオペレータさん?
ちょっとレティ提督呼んでもらえる? オレの認識コードは――」
そして、応答したオペレータに手早く用件を告げ――数秒の後、展開されたウィンドウにレティの姿が現れた。
〈無事だったのね……よかったわ〉
「その様子だと、こっちの状況はわかってるみたいだね」
レティの言葉に苦笑し、ジュンイチは彼女に尋ねた。
「で……これからどうしようか?
こんな大事になっちゃ、もうトランスフォーマーどもだって潜伏もクソもあったもんじゃねぇだろ」
〈そうねぇ……
こうなったら、もうトランスフォーマーの存在は公表する方向で動くしかないでしょうね……〉
「でしょ?
もうオレの仕事はもう終わりなんじゃね?」
〈えぇ…………〉
ジュンイチの言葉にうなずき――レティは尋ねた。
〈……首、突っ込みたくてしょうがないって顔ね?〉
「突っ込みたいけどさ……」
答えて、ジュンイチは気まずそうに頭をかき、
「オレが首を突っ込むのは、ちょっと『小さな親切・巨大なお世話』になりそうでさ」
〈………………?〉
ジュンイチの言葉に首をかしげるが――気を取り直して、レティは告げた。
〈とにかく、首を突っ込むつもりがないのなら一度戻ってきて。
そっちであれこれ考えるよりも、全体を把握してから方針を決めた方がいいと思うんだけど〉
「まぁ、それもそうっスね」
レティの言葉にジュンイチがうなずき――
〈何より、すぐに帰ってあげた方がスバルちゃんも喜ぶんじゃない?〉
「一番耳の痛い話題を持ってくるなぁ……」
付け加えられた一言に思わず肩を落とし――ジュンイチはそれでもレティに転送回収を依頼し、通信を切った。
「…………やれやれ……」
そして、ため息まじりに南へと――スカイクェイクの飛び去った方角へと視線を向けた。
「……スカイクェイク、ね……
“恐怖大帝”を名乗る割には、ずいぶんとまっすぐで、部下想いなヤツじゃねぇか……」
つぶやき――同時に不安も抱いた。
(けど……戦争の中じゃ、そのまっすぐさは危険な火種でしかねぇ。
理想が堕ちた時、心ってヤツは簡単に壊れる――)
(ガキの頃の、オレみたいに……)
日本で激突するサイバトロン/管理局/ヴォルケンリッター混成部隊、マスターメガトロン軍、混成デストロン軍の三つ巴の戦いの場にスカイクェイクが乱入。彼によって瀕死の重傷を負ったエクシリオン達がバンガードチームへと転生したのは、ジュンイチが第97管理外世界を後にした、その数時間後の話だった。
そして――
スバルへのお土産を買い忘れたジュンイチがあわてて舞い戻ってきたのは、それからさらに数時間後のことであった。
ジュンイチ | 「さーて、一度忘れかけた分、気合入れてお土産買っていかなくちゃな。 スバルにはアイス、ギンガにはこっちのキャラクターのぬいぐるみ。ゼストのオッサンには……訓練相手にスカイクェイクでも連れてってあげれば喜ぶかな?」 |
レティ | 「キミ……けっこうえげつないこと考えるのね」 |
ジュンイチ | 「何を今さら」 |
レティ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Galaxy Moon〜異聞、 第6話『命の“権利”』に――」 |
レティ&ジュンイチ | 『ブレイク、アァップ!』 |
(初版:2007/12/14)
(第2版:2008/01/19)(予告を加筆)