「…………ん……」
意識を取り戻し、スカイクェイクはゆっくりと目のピントを合わせた。
まだ狭い視界に映るのは、一面の青空で――そして、思い出した。
「シュトゥルム、ウント、ドランク!」
「ヘキサ、スマッシャー!」
己のすべてをかけて挑んだ、ビッグコンボイとの最終決戦――
「……死んだのか、オレは……」
ポツリ、とつぶやいた、その時――
「勝手に死ぬな」
その言葉と同時、彼の顔面に強烈な一撃が叩きつけられた。
「%※☆&*〜〜っ!」
言葉にならない悲鳴と共に、スカイクェイクは顔面を押さえてゴロゴロと転げ回り――
「ったく……
てめぇが死んでんなら、そのてめぇと一緒にいるオレはどーなんだよ?」
「――――っ!?」
改めてかけられた声に、スカイクェイクは驚愕し、動きを止めた。
「ま、まさか――」
あわてて起き上がると声の主の姿を探し――そこに“彼”がいるのを見て声を上げた。
「柾木ジュンイチ!?」
「よっ♪」
第7話
「対峙の時」
「久しぶりだな、スカイクェイク」
「ち、ちょっと待て!」
何事もないかのように平然と告げるジュンイチだが――スカイクェイクにしてみれば彼の登場は正に予想外だった。
周囲を見まわし、自分達の居場所を確かめ、尋ねる。
「どういうことだ……?
なぜ貴様が、このギガロニアにいる!?」
「仕事に決まってんだろ」
「仕事だと……!?」
あっさりとそう答えるジュンイチの言葉に、スカイクェイクは思わず眉をひそめた。
「こんなところまで、一体何の仕事できたんだ?
そもそも、こんなところまで出向いてくるような依頼を、一体誰が……?」
「んー……本来、依頼人については守秘義務っつーのがあるんだけど……ま、今回の“お仕事”はスカイクェイクにとっても無関係じゃねぇし、教えても大丈夫かな?」
スカイクェイクの問いにそうつぶやくと、ジュンイチは彼に告げた。
「依頼人は……」
「お前さん達の神様さ」
「さっすが、星ひとつトランスフォームしたってだけのことはあるね……表面に降りると人型って感じが全然しねぇや」
プライマスへとトランスフォームした、トランスフォーマー発祥の地“セイバートロン星”――転送魔法によってその地に降り立ち、ジュンイチは辺りを見回してつぶやいた。
彼がいるのはセイバートロン星の極点――“聖地”と呼ばれ、プライマス復活の際プラネットフォースを設置したあの場所である。
しかし――
「ここならコンタクトがとれる、って話だったんだけどな……
何もねぇじゃねぇか」
そう。そこには何もない――プライマスの覚醒に伴い巨大化、彼にエネルギーを供給していたチップスクエアの姿もそこにはない。
「……オマケに、このプライマス様とやらも、さっきからピクリともしねぇし。
寝てんのか?」
ジュンイチは知らない。
プライマスにエネルギーを供給していたチップスクェアとプラネットフォースは、現在ギガロニアに旅立っているサイバトロンの元にあることを。
そして、ひとり残ったプライマスはグランドブラックホール消滅のために奮戦、現在エネルギーの再チャージのために動きを止めていることを。
ともあれ、沈黙の中、ジュンイチはしばし考えて――
「……目玉にでも一撃入れれば、さすがに起きるか」
サラリと恐ろしいことを言い出した。
しかも本気でだ。実行のためにプライマスの顔面へと移動すべく、“装重甲”を着装、翼を広げて――――何用だ。異能の者よ――
突然、周囲に声が響いた。
「誰だ? アンタは」――我が名は、プライマス――
「あぁ、あんたが神サマ?」
名乗る“声”――プライマスの言葉に、ジュンイチは納得し、告げた。
「じゃ、こっちも名前と用件。
柾木ジュンイチ。異世界出身。元の世界に帰りたい。元の世界を探してくれるか探し方教えて。以上」――むぅ――
礼儀も何もあったものではない、ド真ん中ストレートの直球勝負――真っ向から言い放つジュンイチの言葉に、プライマスはしばし沈黙し――告げた。
――ならば……ひとつ、頼まれてはくれないか?――
「……で、オレがここに来た、ってワケ」
「………………」
サラリと事情を説明するジュンイチの言葉に、スカイクェイクは思わず絶句した。
「お、お前……神を相手になんて態度を……」
「目の前にちゃんと存在しているからにゃ、それはれっきとした一個の存在だ――別に神だろうが魔王だろうが知ったことか。
むしろ実体ゼロでフワフワしてるお化けや幽霊の方がよっぽど怖い」
うめくスカイクェイクにあっさりと答え、ジュンイチは彼に言葉を返した。
「だいたいさぁ、その神サマに襲いかかった人がそーゆーコト言うか。プライマスから聞いたぞ」
「襲いかかったから言っているんだ!
あの反則的な攻撃を見ていないからそんなことが言えるんだ! 今のオレですら勝てる気がせんぞ!」
ジュンイチに言い返し――スカイクェイクはふと気づいた。
「……ちょっと待て。
なぜオレは“この姿で生きている”!?」
そうだ――自分はこのギガロニアにおいてデスザラスへと転生し、紆余曲折を経てビッグコンボイと戦い、敗れたはずだ。
それがなぜ元のスカイクェイクの姿に戻っているのか? そもそも、なぜ生きているのか――?
ワケがわからず首をひねるスカイクェイクだが――その疑問にはジュンイチが答えた。
「自分の内側に意識を向けてみなよ。
今現在、必死こいてアンタの命をつなぎ止めている子がいるでしょうが」
「何…………?」
その言葉に――ようやくスカイクェイクは気づいた。
自分の内側で、懸命に自分の自己修復システムに働きかけている存在に。
「……“闇の書”の……防御プログラムか……?」
「そゆこと。
そいつがお前さんのシステムに干渉して、自己再生を強化してくれてたんだよ」
答えるジュンイチだが、それに対するスカイクェイクの反応は――
「…………そうか……」
「って、何かテンション低いな。
うれしくねぇのか? 命が助かったってのに」
首をかしげ、尋ねるジュンイチに対し――スカイクェイクは尋ねた。
「……柾木……
オレは……生き延びるべきだったのか?」
「はぁ?」
「武人としてすべてを尽くして戦い――オレは敗れた。
そんなオレが、こうして生きていていいのか?」
「おいおい、めったなこと言うなよ」
スカイクェイクの言葉に、ジュンイチはそう彼をいさめた。
「せっかく命を拾ったんだ。もっと素直に生きてることを受け入れろよ。
だいたい、お前がくたばったら、お前に宿ってる“闇の書”の防御プログラムだって……」
「元々別個の存在だ。
オレの死がこいつの死につながるワケじゃない」
言いかけたジュンイチに対し、スカイクェイクは静かに自らの言葉を被せた。
「オレが死ねば、オレの中に取り込まれたこいつは晴れて自由の身だったんだ。
オレの手で生かすことは叶わずとも、新たな主を見つけ、その主と共に再び新たな世界で生きていくことだってできたんだ。
敗者であるオレに……しがみつき続ける必要などなかったものを……」
「………………」
あくまで自分が今生きていることに納得のいかない様子のスカイクェイクの言葉に、ジュンイチはため息をつき――
「阿呆」
言うと同時に跳躍、スカイクェイクのアゴを無造作に蹴り上げた。
『無造作に』といっても、それはあくまで動きに限った話――“力”のふんだんに込められた蹴りは、見た目からは想像もつかないような衝撃でスカイクェイクの身体を空中に跳ね上げ、大地に叩きつける。
「な、何を……!?」
「るせぇ。
お前がイジイジイジイジ……(中略)……とザケたことほざいてっからだろうが」
言って、ジュンイチはスカイクェイクをビシィッ! と指さし、
「『負けたけど生きてる』? だから何だよ。
実際問題として、殺そうとしたって殺しきれず、結局相手が生き残る事だってあるんだ。そんなの不可抗力で誰が悪いワケでもなかろうが。
それに、だ――戦いの場じゃ、生殺与奪の権利は勝者にある。そんなの、お前だってわかってるはずだ。
その理屈で言うなら、負けたヤツは殺されたって文句は言えないけど――」
言って、ジュンイチは息をつき――改めてスカイクェイクに告げた。
「逆に言えば、生かされたって文句は言えないんだぞ」
「――――――っ!」
その言葉に、スカイクェイクは思わず息を呑み――ジュンイチはかまわず続ける。
「地球で“闇の書”に取り込まれたビッグコンボイに瞬殺された挙句にシカトされて、それでブチキレた挙句、一時はその怒りで転生までやらかしたお前だ――なんかいろいろ吹っ切れてるっぽいけど、だからってその場でいきなり性格が改まる、なんてコトぁねぇ。負けたのに生き残ってる、っつー状況が納得できないのもムリはねぇよ。正常な反応だ。安心しろ。
けどな――たぶん、ビッグコンボイはお前を殺すつもりで……っつーか、全力でブッ倒すつもりで最後の一撃を放ったはずだ。その挙句命を拾ったお前には、生きる資格は十分あるよ」
「生きる……資格……?」
「『資格』って言葉が不適切なら、『権利』って言い換えてもいいかな?
とにかく、お互い殺す気で撃った一撃の果ての結果なんだ。生き残ったとしてもどっちにも罪はねぇ――『殺し損ねた』ってことで、ビッグコンボイに過失は発生するかもしれねぇけどな」
スカイクェイクに答え――最後に軽く茶化すとジュンイチは肩をすくめ、
「だいたい……お前、言ったよな? 『自分が死ねば、防御プログラムは自由になれてたはずだ』って。
当事者なんだ――お前と同様に、そのことはそいつだってわかってたはずだ。
なのに、なんでお前を治したと思う? 今の自我意識の部分の処理をダウンさせてまで、お前の回復にパワーを回してるのは何でだ?
お前に――生きていてほしいからなんじゃないのかよ?」
「………………」
ジュンイチの言葉に、スカイクェイクはしばし黙り込み――尋ねた。
「あの戦いの果て、命を拾ったオレは……まだ生きていかなければならない――そういうことか?」
「おぅ。もう義務だね、ギム。
お前に、生きていてほしいと願ってるヤツはちゃんといるんだ。だったら、それに応えてやらねぇとな。
その防御プログラムに対してはもちろん――」
言って、ジュンイチは振り向いて――
「スカイクェイク様ぁーっ!」
「ご無事でしたかーっ!?」
「……アイツらに対しても、ね」
やっとこちらを発見したのだろう。口々に声を上げながら駆けてくるレーザークローやハングルー達――ホラートロンの面々を見ながら告げる。
そして――
「なんだ、生きていたのか」
「墓でも作ってやろうと思ったんだがな」
言って現れたのは――スカイクェイクと同じ大帝級のトランスフォーマー、惑星スピーディアの爆走大帝オーバーロードと惑星アニマトロスの暴虐大帝ギガストームだ。それぞれ部下を引き連れて(『飛べないヤツらにしがみつかれて』とも言う)頭上から降下してくる。
そして、ジュンイチは改めてスカイクェイクへと向き直り、
「お前が死んだと思って、これだけのメンツが集まってきたんだぜ。
自分の生を望んでくれてるヤツがいるのに、そう簡単に死にたがってんじゃねぇよ」
「………………」
ジュンイチの言葉に、スカイクェイクはしばし沈黙し――
「……そうだな。
将たる者が、部下を見捨ててひとりだけくたばるワケにはいかんか」
苦笑まじりにつぶやくと、改めて立ち上がり、集まってきたメンバーに対し高らかに宣言した。
「お前ら――心配はいらん! オレは無事だ!
ホラートロンを統べる恐怖大帝の名にかけて、そう簡単にはくたばらん!」
その言葉に、ホラートロンの面々から歓声が上がる――そんな中、スカイクェイクはジュンイチへと向き直り、
「すまないな、柾木。
貴様のおかげで吹っ切れたぞ」
「ひとりで乗り切れ、このくらい」
サラリと言い放つと、ジュンイチは右手を振るい――スカイクェイクにそれを投げ渡した。
「これは……?」
「プライマスの作ってくれた……簡易的なワープシステムだ」
尋ねるスカイクェイクに、ジュンイチはそう答え――唐突に視線を伏せた。
「プライマスの話を信じるなら……サイバトロンは、仲間のひとりが犠牲となって、元の宇宙に戻ったらしい」
「何…………?」
「自分の命と引き換えに時間を戻せる能力者がいたらしくてな……周りが止めたのも振り切って、その力で自分達を“時空トンネルが安定していた時間”までリバースさせたらしい」
こちらの話を聞きつけ、声を上げるギガストームに、ジュンイチはそう説明した。
「プライマスはお前らがその二の舞になるのを危惧してた。
同じ能力を持つ者がいなくても……別の形でムチャして、犠牲を払って戻ってくるんじゃないか、ってな。
だから、オレにこれを持たせて、お前らに届けてくれ、って言ってきたんだ」
告げるジュンイチだが――スカイクェイクは手渡されたワープシステムへと視線を落とし、
「しかし、ワープシステムだけ渡されても……」
「………………?
何か問題でもあるのか?」
「ワープするには、自分達の現在位置と同時に移動先の座標も知らなければならない」
尋ねるジュンイチにはオーバーロードが答えた。
「オレ達は時空トンネルを頼りにこっちの宇宙に来たからな……元の宇宙の座標を知らない。
ワープシステムだけ渡されても、戻りようがない」
「なるほど……」
オーバーロードのその説明に、ジュンイチは考え込み、
「ただ元の宇宙に戻るだけなら……管理局に居座ってるオレがいるんだ。管理局に頼んで、ミッドチルダに転送回収してもらって、そこから、って手が使えたはずだ。実際、オレは最初そうやってお前らをプライマスのところまで連れてくつもりだったし。
けど、そんなオレにプライマスはそいつを渡してきた……直接つれて来い、って意味だと思ってたけど、そう聞くと他の意味がありそうな気がしてきたな……」
「プライマスは、何か言っていなかったのか?」
推理をめぐらせるジュンイチにスカイクェイクが尋ねると、ジュンイチはさらに考え、
「…………多分、それはこっちから自発的に戻るためのものじゃないんじゃないかな?」
「どういうことだ?」
「プライマスは言ってた。
『これを持って、時を待て。
時が来れば、彼らの“絆”がこの宇宙へと導いてくれるだろう』って……
たぶん、こいつはその“時”とやらが来た時に必要になるんじゃないか?
けど、“絆”っていうのが何なのか……」
ジュンイチがスカイクェイクに答えた、その時――
「す、スカイクェイク様!」
突然レーザークローが声を上げた――と、同時に彼らの周囲に緑色の光の渦が巻き起こる!
「こ、これは……!?」
「一体……!?」
状況が理解できず、オーバーロードやその部下、メナゾールが声を上げ――
「…………なーるほど、そういうワケか」
ただひとり納得し、ジュンイチがうなずいた。
「どういうことだ?」
「プライマスが用意したワープシステムは……単なる目印だったんだよ」
尋ねるスカイクェイクに、ジュンイチはあっさりと答える。
「向こうの宇宙で、誰かがお前らを連れ戻そうとしてる――ワープシステムは、ワープシステムであるがゆえに空間を歪ませることが可能だ。それを利用して、お前らを連れ戻そうとしてるこの効果をこの場に導くためのビーコンとして利用したんだ」
「なぜそんな回りくどいマネを……」
「たぶん、ワープによる消耗を避けてほしかったんだろうね」
こうなるとジュンイチの推理もスムーズに進む――首をひねるギガストームに、ジュンイチはあっさりと答えた。
「お前らのワープって、お前ら自身のエネルギーを使ってやるんだろ?
これだけの人数をワープさせようとしたら、分担するにしろ少数が負担を引き受けるにせよ、ドデカイ消耗は避けられない。それを避けるために、誰かが向こうからお前らを連れ戻そうとすることにプライマスは賭けたんだ。
向こうは今、グランドブラックホールのせいでドタバタしてる。とてもそんなことをやるヤツがいるとは思えなかったけど――とにかく、プライマスはこうして賭けに勝ったワケだ」
そう言うと、ジュンイチは――唐突にきびすを返し、緑の光の中から外に出てしまう。
「柾木!?」
「このまま連れ戻されたら、どこに行くと思ってる?
お前らの消耗を避けたまま連れ戻そうとプライマスは画策したんだぞ――出る先はほぼまちがいなく決戦の現場だよ」
声を上げるスカイクェイクに対し、ジュンイチはそう答える。
「たぶん、決戦の場はグランドブラックホール、すなわち宇宙空間だ――パワーは強力でも、その使用に時間制限のあるオレは足手まといにしかならねぇよ。
ミッドの出身でも第97管理外世界の地球の出身でもないオレには、イグニッションをサポートする能力も備わってないしね。
幸い、オレの位置は管理局もつかんでるはず……素直に回収してもらって、ミッドチルダでオレのできることをするよ」
言って、ジュンイチはスカイクェイクに対し不敵な笑みを浮かべ、
「決戦で暴れる権利をゆずってやるんだ……ハデに暴れてやんな」
「フンッ、言われるまでもない」
ジュンイチの言葉に、スカイクェイクもまた笑みを浮かべて答え――
「あ、それから」
「………………?」
「防御プログラム、お前さんの修復でだいぶパワーダウンしてるから、早く助けてやらないとマヂで消滅しちまうぞ」
「な――――――っ!?
貴様、そんな大事なことをこんな土壇場d――」
ジュンイチの言葉に、スカイクェイクの顔が引きつる――抗議の声が上がるが、それが最後まで告げられる前に彼らの姿はギガロニアの最下層から消えていった。
「うんうん。最後の最後でいい顔が見れたね。言うのをギリギリまで引っ張った甲斐があったよ♪」
満足げにうなずき、ジュンイチはそうつぶやくと胸中で付け加えた。
それは、あえて彼らに告げなかった、プライマスの“予言”に対する推理の一部――
(プライマスは『彼らの“絆”が元の宇宙へと導いてくれる』って言ってた。
たぶん……プライマスはオレをパシリに使いはしたけど、自分の手で連れ戻すことをしたくなかったんだよ――あくまで、サイバトロンとお前らの“絆”によって連れ戻されることを願って、オレに目印を届けさせるだけに留めたんだろうさ、きっとね)
彼らのことだ。これを教えたら絶対に意地を張って厚意を受けはしなかっただろう――その光景がなんだかリアルに想像できて、ジュンイチは思わず苦笑して――
「………………で、だ」
唐突に表情を引き締めた。真上へと視線を向け――告げる。
「どーせ、この声だって聞こえてるんだろ?
さっきから階層の監視システムに潜り込んで、こっちをずっと観察してるヤツ。
てめぇと話すためにわざわざ残ってやったんだ――とっとと出て来い」
――ほぉ、気づいたか――
ジュンイチのその言葉に、どこからともなく聞こえてきたその声が答え――ジュンイチの目の前に魔法陣が展開された。
しかし――それはジュンイチの見たことのないものだった。
ミッドチルダ式の円形を基本にしたものでも、ベルカ式の三角形を基本にしたものでもない。
「……五角形、だと……!?」
思わずジュンイチが眉をひそめるが――そんな彼の目の前で、そいつは魔法陣の中から姿を現した。
漆黒に染め上げられたボディに巨大な翼を持つ、1体の大型トランスフォーマーである。
「何者だ、てめぇ」
「そう焦らずとも、今名乗ってやるさ」
尋ねるジュンイチにそう答えると、トランスフォーマーは胸を張り、
「オレの名はギガトロン。
セイバートロン星の――」
「正統な破壊大帝だ」
「『正統な』だと……?」
「あぁ。
力ずくでオレから大帝の座を奪ったマスターメガトロンなどとは違う、ということだ」
眉をひそめるジュンイチに対し、ギガトロンは自信たっぷりにそう答えた。
「で? その本家破壊大帝サマが、オレに何の用だ?」
「何、用件は単純さ」
そう答え――ギガトロンはジュンイチに告げた。
「オレは、オレから破壊大帝の地位を奪ったマスターメガトロンから、再びその地位を取り戻すために動いている。
貴様のその力……実に興味深い。このオレに力を貸してもらいたい」
「断る」
「………………」
一瞬、場の空気が停止した。
「……即答か」
「たりめーだ。
先が見えた時点で話ブッタ斬って断ってやってもよかったんだ――むしろ話を最後まで聞いてやった分だけ感謝してもらいたいもんだね」
うめくギガトロンに答え、ジュンイチは不機嫌そうに肩をすくめてみせる。
「悪いが、オレはお前に協力する気はさらさらねぇ。
デストロンなんぞにゃ別に用はないしな」
「……その割には、いろいろな惑星の大帝達と仲がいいようだが」
「あいつら個人と縁があるだけだ。別にデストロンの一員になる気はねぇよ。
ま、かと言ってサイバトロンに入って正義の味方面する気もねぇけどな」
ギガトロンに答え、ジュンイチは逆に彼に聞き返した。
「だいたいさぁ、お前に協力して、オレに何のメリットがあるんだよ?
『宇宙征服後には宇宙の半分をくれてやろう』とか言われても乗る気はねぇからな。ンなもんいらねぇし」
「フンッ、見返りならあるさ」
そのジュンイチの問いに対し、ギガトロンは不敵な笑みを浮かべ、
「貴様……聞けば異界からの漂流者だそうじゃないか。
これでも科学については相応の才を自負していてな――オレならば、貴様を元の世界に帰す手段を見つけてやれるぞ」
「神サマに探してもらう約束取り付けたから結構だ」
「………………」
その言葉に、ギガトロンの動きが止まる――しばしの沈黙の後、気まずそうに尋ねる。
「……神に仕事をさせるのか? 貴様は」
「スカイクェイクと同じようなこと聞くなぁ。
別に、実際その場に存在してるなら神サマだろうが魔王だろうが、世界の中の一個の存在にすぎねぇだろ。オレ達とどれだけ違うっつーんだ?」
あっさりと答えると、ジュンイチはギガトロンをにらみ返し、
「で……交渉のカードをツブされたてめぇにもう一度だけ言っておく。
オレはお前に協力するつもりはねぇ。マスターメガトロンとやらに復讐したいなら勝手にやれ。
これ以上ガタガタほざくなら……マスターメガトロンへのリベンジの叶わない身体にしてやるぞ」
「……言うじゃないか。能力があるだけの人間風情が」
ジュンイチのその言葉に、ギガトロンの顔に怒りの色が浮かんだ。
「図に乗るなよ、小僧。
多少特殊な“力”を持っているようだから声をかけてやったものを、調子に乗りおって……
オレが用があるのは貴様のその能力だ――その気になれば、貴様を捕らえ、細切れにして調べ上げることだってできるんだぞ」
「………………へぇ」
その言葉に、初めてジュンイチの顔から笑みが――
――いや、表情が消えた。
「つまり……てめぇは“そういうこと”をする種類の人種なワケだ」
そう告げると、ジュンイチはパチパチと軽く手を叩き、
「…………おめでとう」
「何…………?」
「てめぇ……」
「瞬殺決定だわ」
その言葉と同時――ジュンイチの周囲に炎が巻き起こった。その中で、ジュンイチは“装重甲”を着装、戦闘態勢に入る。
「フンッ、知っているぞ。
それが貴様の戦闘形態――しかし、ずいぶんと燃費が悪いらしいな」
「あぁ」
告げるギガトロンに対し、ジュンイチはあっさりと答え――
「そして……“もう一段階”」
「何――――――!?」
ジュンイチの言葉に声を上げるギガトロンの目の前で、炎の渦は再びジュンイチの姿を覆い隠し――
ギガトロンの身体が、大地に叩き込まれていた。
「な………………っ!?」
「言ったはずだぜ。
『瞬殺』だって」
何が起きたかわからなかった――驚愕するギガトロンに対し、一瞬にして上空に移動していた炎の塊の中からジュンイチが告げる。
「“コイツ”は、パワーをバカ食いするわ強力すぎて加減が効かないわで、クイントさん達にすらその存在を教えてないんだ。
一応、見せないようにこうして炎で隠しちゃいるけど……」
言って、ジュンイチは炎の中で右手をギガトロンに向け――
「たとえ見えても……誰にも言うなよ」
「――――――っ!?」
言葉と同時に炎がふくれ上がる――ギガトロンの顔が驚愕に歪むのにかまわず、ジュンイチは彼に向けて炎を放ち――
「………………チッ」
真っ黒に焼け焦げた大地の真ん中で、着装を解いたジュンイチは軽く舌打ちした。
「逃げたか……」
そう。最後に放った炎はギガトロンを直撃しなかった――どうやら離脱したらしい。
その手段はおそらく――
「転送魔法で逃げやがったな……
けど……ヤツの名乗りを信用するなら、ヤツはセイバートロン星の生まれのはず……それが、管理局との接触もなしに魔法を使った……?
それに、ヤツが現れた時のあの魔法陣……」
つぶやき、ジュンイチはギガトロンが出現の際に展開した魔法陣を思い返した。
(ミッドチルダ式ともベルカ式とも違う、五角形の魔法陣……
まさかとは思うけど……)
「独自に魔法技術を解析して、自分なりの形に昇華させやがったとでも言うのか……?」
もしそうだとすれば、敵はきわめて高度な技術を下地に、さらに魔導の力まで手に入れたことになる――強敵の出現の予感に、ジュンイチは思わずため息をつかずにはいられなくて――
その予感は、そう遠くない内に現実のものとなるのだった。
クイント | 「ギガトロンの狙いがジュンイチくんなんてね……」 |
レティ | 「驚きよね…… ……ギガトロンがそっち方面のシュミだったなんて!」 |
ジュンイチ | 「………………おい?」 |
クイント | 「大変よ! ジュンイチくんの貞操は私達で守るのよ!」 |
レティ | 「もちろんよ!」 |
ジュンイチ | 「何勝手に暴走してやがる、そこの熟女二人!?」 |
クイント | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Galaxy Moon〜異聞、 第8話『奪われた笑顔』に――」 |
3人 | 『ブレイク、アァップ!』 |
(初版:2007/12/29)
(第2版:2008/01/19)(予告を加筆)
おまけエピソード
「次回ついに!」
ジュンイチ | 「…………何だ? 今回はいつもみたいに素直に終わらないのか」 |
なのは | 「しかも……なんでわたしまで呼ばれてるんでしょうか……?」 |
モリビト | 「フッフッフッ……」 |
ジュンイチ | 「ぅを、作者!?」 |
なのは | 「どうしたんですか!?」 |
モリビト | 「『〜Galaxy Moon〜』の本編って、プロローグ含めると、全92話だな?」 |
なのは | 「えっと……本編が91話あって、プロローグの分で+1、だから…… はい、そうですね。全92話です」 |
ジュンイチ | 「それがどうかしたのか?」 |
モリビト | 「で、今回の『〜Galaxy Moon〜異聞』が第7話……」 |
ジュンイチ | 「そうだな…… ………………あ」 |
なのは | 「それって、まさか……」 |
モリビト | 「そう。 今回で99話目なんだよ、『GM』シリーズ。 さーて、次回に向けて準備、準備♪」 |
ジュンイチ | 「えっ!? ちょっ!? 待っ!?」 |
なのは | 「こ、今回が99話目ってことは…… って、次回って!? えぇっ!? えぇ――っ!?」 |