「クラナガンとその周辺、ほぼ全域をくまなく捜索していますが、ギガトロン、そしてスバルちゃんとギンガちゃんの行方はまだ……」
「そうか……」
 部下の伝える捜索の結果はやはり芳しくない――報告を聞き、ゼストはデスクの上に広げた地図へと視線を落とした。
 陸士108部隊、指令室――108部隊とゼスト隊が合同で設立した“ナカジマ姉妹誘拐事件合同捜査本部”は重苦しい空気に包まれていた。さらわれた二人の行方を懸命に追い続けながら、その手がかりすらつかむことができないでいるからだ。
 ゼスト隊の知恵袋とも言うべき部隊の捜査主任、クイントの知恵を借りられないのも痛かった。『事件関係者の身内は捜査に参加できない』という管理局の職務規定によってこの事件には関わることができず、夫ゲンヤと共にとなりの隊長室で待機を言い渡されている。
(ギガトロンが柾木のことを調べ上げていたとすれば、彼が単独で転送できないことは当然知っているはず。彼が独断で動く可能性を考慮すれば、別の次元世界や離れた場所にアジトをかまえているとは考えづらい。
 だが、これだけ探しても足取りひとつつかめないとは――大型トランスフォーマーであるギガトロンの潜伏できるような場所はそう多くはないはずだが……)
 一体ギガトロンは、スバルとギンガはどこにいるのか――少しでも手がかりを見つけようと、ゼストは懸命に思考をめぐらせ――
「ゼスト隊長!」
 そんな彼の思考を断ち切ったのは、108部隊の通信士だった。
「通信です!」
 たったそれだけで事足りた――その相手が誰であるかを瞬時に悟り、ゼストは部下に目配せし、自らインカムを手に取った。
 ある者は逆探知の体勢に入り、別の者はクイントやゲンヤを呼びに行く――目配せされた部下達が一斉に動き出すのを横目に、ゼストは通信に応答する。
「首都防衛隊所属、ゼスト・グランガイツだ」
〈あぁ、小娘どもの母親のいる隊の隊長殿か〉
 名乗るゼストに対し、通信の主は余裕の声色でそう応える。
〈お初にお目にかかる――という言葉は、サウンドオンリーの通信では不適切かな?
 デストロンの正統なる破壊大帝――ギガトロンだ〉
 

「なぜオレが通信したか――わかっているな?」
〈あぁ〉
 アジトの中枢で中央の玉座に座り、悠々と尋ねるギガトロンの問いに、ゼストの声は落ち着いた様子でそう答える。
〈子供達は無事だろうな?〉
「ここであのガキどもを傷つけることに何の意味がある?
 あまりこちらをバカにしないでもらいたいな」
 ゼストの問いに答え、ギガトロンはニヤリと笑みを浮かべ、
「まぁ、くだらん話をしていてもしょうがない。本題に入ろう。
 もう用件はわかっているはずだ――例の小僧を、こちらに引き渡してもらおう。小娘どもはあの小僧と引きかえだ」
〈逆に言えば、彼を引き渡さなければスバル達は返さない――か?〉
「そういうことだ」
 聞き返すゼストに対しても、ギガトロンは余裕の態度でそう答える。
「心配するな。返さんだけで小娘どもには危害は加えん――交渉のための大事なカードなんだからな。
 それに、そんなことをしなくても、小僧がどの道黙ってはいまい――大方、オレから受けたケガも治らない内から動いているんじゃないのか?」
〈……大した読みだな。
 止めようとしたこっちは、そのおかげでひどい目に合わされた〉
「だろうな。
 それがわかっているなら、素直に小僧を――」
〈だから――〉
 言いかけたギガトロンの言葉をさえぎり――ゼストは告げた。
〈彼を、故郷の世界に強制送還させてもらった〉
「…………何だと?」
〈わからないのか?
 彼は転送ができない――彼をおとなしくさせるには、どうあがいても事件に関われないよう、別の次元世界に転送してしまうのが一番だ〉
 思わず眉をひそめるギガトロンに対し、ゼストは淡々とそう告げる。
「つまり……ヤツをこちらに引き渡すつもりはない、と?」
〈人聞きが悪いな。
 ケガが治るまで、おとなしくしていてもらうだけだ〉
 尋ねるギガトロンにそう答えるゼストだったが――
〈心配しなくても、彼を引き渡さなければスバルとギンガが返ってこないというのであれば、引き渡すしかあるまい。
 完治したなら、すぐにでもそちらに引きw――〉
 

「第108管理外世界」
 

〈――――――っ!?〉
 自らの言葉をさえぎったギガトロンの言葉に、ゼストは思わず言葉を失った。
「こちらをナメてもらっては困るな。
 ヤツがプライマスに調べさせ、お前達管理局がその裏づけを取った――すでに調べはついているんだ。
 どうせ、今もこちらを逆探知しようと悪戦苦闘しているんだろうが――できていないだろう? すでにこちらは対策済みだからな」
 ゼストからの答えはない――気をよくしてギガトロンは続ける。
「わかっただろう? お前達の思いつくようなことなど、オレにとっては“たかが小細工”でしかないんだ。
 あの小僧が向こうに帰ったというのなら、こっちから出迎えに――」

 

〈来んじゃねぇよ。迷惑だ〉

 

「〈――――――っ!?〉」
 通信に突然割り込んできたのは、その場に“割り込めないはずの”人物の声――思わずギガトロンとゼストが絶句する中、声は続ける。
〈さっきから聞いてりゃ、『渡す』だの『渡さない』だの『返す』だの『返さない』だの……人を何だと思ってやがる。
 さすがのオレもひっじょぉ〜〜にムカついたので――〉
 その言葉と同時――ギガトロンの目の前、窓の外に広がる森林の中からそれは飛び出してきた。
 30mを超える巨体の、青いドラゴン型の機動兵器だ。
 そして――

 

 

「まずは、ギガトロンから“オシオキ”だ」

 

 ドラゴン型機動兵器――ブレイカービースト“ゴッドドラゴン”の頭上で、ジュンイチはギガトロンに向けてそう言い放った。

 

 


 

第11話
「集う絆」

 


 

 

「じ、ジュンイチくん……!?」
 なぜ彼がミッドチルダにいるのか――ワケがわからず、指令室へと連れてこられていたクイントはゼストの背後で呆然と声をしぼり出した。
「どうして、ミッドチルダに……!?」
〈帰ってきたから!〉
 シンプルすぎる答えが返ってきた。
〈オレを甘く見すぎてたな。
 スバル達をさらわれたまま、黙って引っ込んでるオレじゃねぇ。戻ってくるためなら、どんな裏技だって使ってやるさ〉
 ジュンイチがクイントに対してそう告げると、
〈だ、だが、この場に現れたことはどう説明する!?〉
 そんな彼らのやり取りに、ギガトロンが割って入ってきた。
 

「この場のステルスもカモフラージュも完璧だったはずだ!
 なのに、どうして……!?」
〈そうだな。
 確かに完璧。大したもんだよ――現に、こうしてテメェのアジトの目の前にいるってのに、レーダーやセンサーには反応しないし、オレの目から見ても、注意して見ないとアジトがあるようには見えねぇ〉
 アジトでうめくギガトロンに対し、ジュンイチはあっさりと相手の優秀ぶりを認め、
〈でもな。
 いくらセンサーや目視を無力化しても――〉

〈居場所を読まれて、重点的に捜索されたらいくらなんでもバレるだろうが〉

 

〈推理、だと……!?
 まさか貴様、推測だけでこの場を特定したというのか!?〉
「“いくつかの推理材料からの推測”だよ、正確には。
 幸い、オレとお前は似た者同士だからな――『オレならこうする』って発想で考えれば、居場所の絞り込みはそう難しくなかったさ」
 ゴッドドラゴンの頭上で余裕の笑みを浮かべ、ジュンイチは声を上げるギガトロンに向けてそう答える。
「遠征において、まず真っ先にやらなきゃなんないのは“拠点の確保”――どれだけセオリーを無視した戦いを展開するヤツでも、足がかりとなるところがなきゃ戦えないからな、自然と誰もが通る道になる。
 けど、トランスフォーマーの存在が明らかになってまだ日の浅いミッドチルダじゃ、お前みたいな大型トランスフォーマーが誰にも気づかれずに潜伏できるような場所は限られてる。
 当然、管理局もそういう“限られた場所”には真っ先に捜査の手を伸ばすはずだ――つまり、その“限られた場所”も隠れ家には使えない。
 結果、お前は新規にアジトを用意するしかないワケだけど――たったひとりでそうそう基地なんて作れるもんじゃない。作れたとしてもひとりじゃ時間がかかりすぎる。
 けど――ひとつだけ、そんな状況下でもアジトを確保する手段がある」
 言って、ジュンイチは右手を目の前に差し出すと、ピッ、と人差し指を立ててみせ、
「推理材料その1。
 お前が独自の魔法を展開したこと。
 これは、お前がただ魔法と接触しただけじゃない――腰を据えて魔法のことを調べられる環境にいたことを示してる。
 それも、短期間で調べ上げれるほどに充実した環境だったはずだ。管理局がお前らの次元世界に本格的に絡み始めたのはつい最近、グランドブラックホールの問題が浮上してからだからな――それ以前に、セイバートロン星出身のお前が魔法に接触できる機会があったとは考えづらい。研究環境が充実してなきゃ、お前が現時点でそこまで魔法を習熟してることに対する辻褄が合わないんだ」
 続けて、中指を立ててピースサインを描き、
「推理材料その2。
 サイバトロンとつるんでたメンツについて調べた時に、面白いものを見かけてね。
 連中に協力していた民間協力者、高町なのはとフェイト・T・高町――二人の関わった“プレシア・テスタロッサ事件”で主犯とされた魔導師、プレシア・テスタロッサの所有していた拠点、“時の庭園”と呼ばれる移動庭園だ。
 こいつがなかなかに興味深い――何しろそれ自体が遺跡級の年代モノで、動力炉に至ってはそれこそ“古代遺物ロストロギア”級だったらしい。
 その上、実はミッドチルダのプラネットフォースの隠し場所だったらしいじゃねぇか――まさに、今は失われた高度な魔導技術の集大成。それ自体が“古代遺物ロストロギア”とも言える。
 “そういうところ”で魔法の研究なんかしたら――さぞかし成果が挙がると思わないか?」
〈――――――っ!〉
「何が言いたいか、わかったみたいだな」
 ウィンドウの中のギガトロンが歯がみするのを見逃さず、ジュンイチは笑みを深くして告げる。
「魔法の力を、しかも“古代遺物ロストロギア”クラスの高度なものを研究すれば、短期間で絶大な成果を挙げられるだろうし、その技術を元に高度なステルスシステムを作り出し、身を隠すことも可能になる。
 その上、その魔導の技術が拠点として使えるものなら――しかもそれが移動できるものなら、管理局の追及をかわすのも比較的容易になる。
 “お前の持ってる魔導の力の特異性”、そして“管理局の部隊が丸ごとひとつ捜索に出てるのに、手がかりひとつつかめないでいたという事実”。
 この二つの要素――」
 

「お前が、移動拠点型の“古代遺物ロストロギア”を持っている――そう仮定すれば、すんなり辻褄が合っちゃったりするんだよ」
 

「で、そこまで考えが至れば後は簡単だ。
 まず、オレを確保する、とい目的がある以上、オレがいると思われるクラナガンからはあまり離れられない――転送魔法は管理局に居場所を特定される可能性がある以上は多用できないからな。だから捜索範囲はクラナガン周辺に絞られる。
 次に潜伏している場所――海はいくら姿を隠しても移動すれば航跡が生まれるから隠れきれない。空は天気と相談になる。快晴になられたら雲に隠れる、ってこともできないから論外。というワケで潜伏場所は陸に限定。
 で、後は隠れ方。ステルスシステムでセンサーをごまかしても、魔法で目視をだまくらかしても、“そこにそいつが存在している”という事実は隠しきれない。
 雨が降っても、砂嵐に見舞われても、煙や霧に巻き込まれてもそれらが姿を隠してる自分をかき分けちまう――それを念頭に置けば探し出すのは難しくないから、ステルスや魔法に頼りきるのは危険だ。自然とカモフラージュの手段はアナログな手に頼るハメになる。
 で、比較的緑の多いクラナガン周辺の自然環境を考えれば、カモフラージュ手段は――」
〈森の中に隠れ、木の枝を被せる――か?〉
「正解♪」
 口を挟んできたゲンヤに、ジュンイチはカルい口調でそう答える。
〈け、けど、ギガトロンがそれを読んで別のカモフラージュ手段を使ってたら……〉
「使えないよ」
 疑問の声を上げるクイントにも、ジュンイチはあっさりと答えた。
「ヘタに環境に合わない隠れ方をすればそれこそ目立つ――その場の環境に合わせてカモフラージュするのは、セオリーっていうよりも必然なんだ」
 そう説明すると、ジュンイチはウィンドウのギガトロンへと視線を戻し、
「と、ゆーワケで、捜索範囲は“お前が拠点として使えるサイズの移動設備”が隠れられるような森林地帯、ってことで決定。
 何か質問はある?」
〈あるな〉
 わざわざ質問を投げかけたジュンイチの態度を、智将たる自分への挑戦と受け取ったのだろう。不機嫌そうな顔でギガトロンは答える。
〈貴様の推理では、“森林地帯”というところまでしか特定できん。
 だが――このあたりは一面の森林地帯。ただ“森の中”というだけで捜索するには広すぎる。
 そんな中で、どうやってオレのアジトの場所をピンポイントで見つけ出した?〉
 しかし、その問いに対するジュンイチの答えはギガトロンの予想だにしないものだった。
「あ、それはオレの仕業じゃない」
〈………………何?〉
「だから、お前のアジトをピンポイントで見つけたのはオレのアイデアじゃねぇんだよ」
 思わず聞き返したギガトロンにジュンイチが答えると、
〈オイラだよ!〉
 言って、通信に割り込んできたのは、ゴッドドラゴンのコックピットに座るブイリュウだ。
〈地元で見たアニメでね、通信やレーダーを妨害する相手を探し出すために、広範囲に通信波をばらまいて、通信が妨害されているエリアに狙いを絞った――ってのがあったの〉
「ここで重要なのは、“相手の妨害を逆に利用して捜索した”って点だ。
 そして――その条件はそっくりそのまま今回のシチュエーションに当てはめることができる」
 ブイリュウの言葉に続き、ジュンイチは余裕の態度で告げる。
「魔導の概念における“ステルス”っつーのはフィールド効果だからな。相手の索敵を妨害、またはごまかすフィールドを展開することで身を隠す。
 まぁ、今回の場合はあからさまに妨害すると居場所を教えるようなものだから、後者の“ごまかす”フィールドになる。
 当然、お前をセンサーで見つけ出すのは困難になるけど――そこでブイリュウのアイデアだ。 発想を逆転させて、“お前のアジト”じゃなくて、“センサーをごまかしてるフィールドそのもの”を探したのさ。
 ま、それがここまで見事にビンゴるとは、オレも思ってなかったけどな♪」
 そう告げて――ジュンイチは不意に表情を引き締めた。
「さて、と……オレの解説タイムはここまででいいだろう。
 とっとと本題に入ろうか」
〈っと、そうだったな〉
 そのジュンイチの言葉に、ギガトロンも自らの目的を思い出した。余裕を取り戻し、ジュンイチに告げる。
〈柾木ジュンイチ、貴様の大切な小娘どもはオレの手の中だ。
 無事に帰してほしければ、こちらの軍門に下ってもらおうか〉
「断ったら、その代償として二人の命はない、か?」
〈そういうことだ。
 ヤツらの命を盾にされては、さすがの貴様も抵抗できまい。おとなしく、こちらに従ってもらおうか〉
 そのギガトロンの言葉に、ジュンイチは深く息をつき――
 

「おととい来やがれ、このスカポンタン」
 

〈な………………っ!?〉
「ここでオレが素直にお前に従ったとして――お前、その後はどうするつもりなんだよ?
 スバル達がクイントさんとゲンヤのオッサンのところに帰りさえすれば、オレがお前に従う理由は消滅するんだぞ。反乱起こし放題じゃんか。
 てめぇもバカじゃねぇ。ンなことくらい百も承知のはず――結局、オレに対する“首輪”として、スバルとギンガの身柄はどうしても必要になる。
 帰してもらえないのがわかりきってるのに、誰が従うんだっつーの。プロの傭兵ナメんな」
 あっさりと突っぱねられ、言葉を失うギガトロンに、ジュンイチはさらに言葉を重ねて“紅夜叉丸”を抜き放つ。
「最初から、オレはテメェを叩きのめして、力ずくで帰してもらう予定でここにいるんだ。
 交渉の余地なんか、ハナからねぇんだよ!」
〈な、何をバカなことを!
 抵抗すれば、小娘どもの無事は保障できないんだぞ!〉
 ジュンイチの言葉に、あわてて声を上げるギガトロンだったが――
 

「手、出せるの?」
 

〈ぐ………………っ!?〉
 逆にあっさりと聞き返すジュンイチの言葉に、ギガトロンはなぜか言葉に詰まった。
〈どういうこと?〉
「簡単な話さ」
 尋ねるブイリュウに、ジュンイチはそう答えた。
「人質ってのは、確かに強力な交渉のカードだけど……その効果を最大限に引き出すには、“人質が無事”ってのが絶対の条件になる。
 人質を傷つければ、確かに自分の本気を示すことはできるが――それだけだ。“無事に返してほしければ”っていう前提条件を自分から崩すことになるし、相手の怒りも買う。
 その上逃げる時の盾にしようにも、傷ついていれば逃走の時の足手まといになるし、殺したらそもそも盾にすらならん。ハッキリ言って、メリットよりもデメリットの方がはるかにデカイ。大赤字もいいトコだ。
 もっとも、テレビの刑事ドラマに出てくるようなおバカな犯罪者とかだと、そういうことを考えずに人質に手を出しちまうワケだけど……」
 と、そこで一度言葉を切ると、ジュンイチはニヤリ、と笑みを浮かべ、
「賢いヤツは、ちゃんとその収支計算ができるから、口ではどう言おうと人質への手出しは絶対にしない、っつーかできない。
 わざわざ自分から状況を不利に持ち込むようなバカはやらない――そうだろ? ギガトロン」
〈……確かにな。
 こちらの弱みをよく理解している〉
“人質は最強の武器にして最凶の足枷”――ウチの世界の“業界”じゃ常識だぜ♪
 後学のために覚えとけ――もっとも、次はねぇだろうがな」
 ギガトロンに言い放つと、ジュンイチは“紅夜叉丸”を爆天剣へと“再構成リメイク”し、
「そーゆーことだから、遠慮なくいくぜ!
 覚悟しやがれ、ギガトロン!」
 その切っ先をギガトロンのアジトのある位置へと向け、言い放つジュンイチだったが――
〈いいだろう。そこまで言うなら、相手をしてやろう。
 ……だが!〉
 ジュンイチの言葉にギガトロンが答えた、その時――大地が突然鳴動を始めた。
 そして――眼下の森林を薙ぎ倒しながら、“それ”はゆっくりと動き始めた。
 上に積み上げられた木の枝を振り払い、姿を現すのは多数の砲塔。
 カモフラージュの木々を吹き飛ばし、全体像をあらわにした“それ”の正体は――
〈陸上戦艦!?〉
「“移動拠点”どころか“移動要塞”かよ!?」
 そう。ジュンイチ達の前に全貌を現した“それ”は、下部に巨大なタイヤを備えた、“大地を走る”戦艦だったのだ。
 しかも――甲板のハッチが一斉に開き、中から多数の人型機動兵器が飛び出してくる!
〈何アレ!? トランスフォーマー!?〉
「いや……スパークの“力”を感じない。トランスフォーマーじゃない!」
 思わず声を上げるブイリュウに、機動兵器に宿る“力”を感じ取ったジュンイチが答える。
「魔力で動いてる――傀儡兵だ!
 さしずめ、あの戦艦“古代遺物ロストロギア”が生み出した、ヤツを守るための守護者ガーディアンってところか……!」
〈そういうことだ!〉
 うめくジュンイチに答えるのは、余裕の笑みを浮かべたギガトロンだ。
〈さすがの貴様も、この数が相手ではどうしようもあるまい!
 のん気にご高説を垂れて、こちらの迎撃体勢を整える時間を与えてしまったのは失敗だったな!
 ガーディアンの大群の前に、押しつぶされるがいい!〉
 ギガトロンが言い放ち――ガーディアン達が一斉にジュンイチとゴッドドラゴンへと襲いかかる!
 

「ジュンイチくん!」
〈心配無用っ!〉
 思わず声を上げるクイントに対し、ジュンイチはウィンドウの向こうで即答する。
〈あの程度でオレが止められると思ってんなら大間違い!
 スバルとギンガは必ず連れ戻す! 安心して待ってなさいな!〉
「あ、ちょっと!?」
 突撃する気マンマンだ――あわてるクイントだったが、ジュンイチは彼女の言葉も聞かずに通信を切ってしまった。
「あいつ、またムチャなことを……!
 スバルとギンガが捕まってるんだ。正面からしかけるなんて、何を考えてるんだ……!」
 人質救出に関するセオリーとは真逆を行くジュンイチの行動に、ゲンヤは思わず拳を打ち合わせてうめくが――
「少なくとも、無策ではないはずだ」
 そんな彼に、ゼストは静かにそう答えた。
「けど、ギンガ達はまだギガトロンの手の内なんだ。うかつな挑発をすれば、二人に危険が及ぶ場合だって――」
 ゲンヤがゼストに告げると、
「逆ね」
 その声は、今までその場にいなかった人物のもの――振り向くと、ちょうど別班での捜査を指揮していたリンディがレティと共に入室してきたところだった。
「たぶん……ジュンイチくんは“だからこそ”挑発したのよ。
 相手に迎撃体勢を整える時間を与えてしまうリスクを犯してまで、ね」
「どういうことですか?」
「あのジュンイチくんを出し抜いたのよ――ギガトロンの智略は、相当に高いレベルにあるわ。
 そして当然、それだけの智略を持っていることに、ギガトロン自身それ相応のプライドを持っているはずよ」
 尋ねるゲンヤに答えると、リンディはクイントへと向き直り、
「だからこそ、ジュンイチくんはギガトロンを挑発し、そのプライドを刺激した。
 人質を傷つけることのメリットとデメリットを説明し、『わかってるよね?』と念まで押した――そこまでされたんだもの。この上で人質を傷つければ、ギガトロンはジュンイチくんの説明したことを理解していないことになってしまう。
 そしてそれは、自分を“人質を取ることのデメリットを知らないバカ”だと認めるのと同じ……」
「絶対の自信を持ち、さらにその自信に見合うだけの智略を実際に有しているがために、ギガトロンはその自信に縛られ、ギンガ達への手出しを封じられてしまう」
 リンディに続き、ゼストはそう告げるとレーダー画面へと――ジュンイチの反応を頼りに急速にギガトロンのアジトの場所の特定を進めているその様子へと視線を向けた。
「事実上、これでギガトロンの人質による優位は失われた……
 ここからは、完全な真っ向勝負だが……」
 つぶやくゼストの表情はどこか不安げで――それを見て、クイントはすぐに彼の懸念に思い至った。
「そうだ……ジュンイチくん、ギガトロンにやられたケガがまだ!」
「そんな状態で、ギガトロンに向けて真っ向勝負なんて……やっぱりムチャだろ!」
「あぁ。
 ヤツなら、戦いながらでも策のひとつや二つひねり出せるだろうが……それでも不利は否めまい」
 クイントとゲンヤの言葉にうなずくと、ゼストは指令室を見回し、
「出動準備だ!
 場所の特定が完了次第、柾木を救援、スバル・ナカジマとギンガ・ナカジマ、両名を救出する!」
『了解!』
 室内の全員が力強くうなずく中、ゼストはゲンヤへと向き直り、
「ゲンヤ、オレが108部隊を仕切るのはここまでだ。後はお前に任せる。
 クイント、お前も待機を解く。一緒に行くぞ」
「いいのか?
 管理局の職務規定違反だぞ――ジュンイチとやり合ってまでそれに従おうとしたお前が、どういう風の吹き回しだ?」
 聞き返すゲンヤの問いに、ゼストは笑みを浮かべて答えた。
「どうやら、オレにも柾木のいい加減さが伝染うつったらしくてな」
 

「グォオォォォォォッ!」
 咆哮し、火球を連射――ゴッドドラゴンの吐き放ったドラゴンブラストが、ガーディアンの群れを次々に吹き飛ばしていく。
 その火力はすさまじく、一発一発が数体のガーディアンをまとめて吹き飛ばす――しかし、目の前のガーディアン達の防衛ラインは一向に厚みを失わない。
 内部にプラントでも備えているのか、ギガトロンの陸上戦艦からは次々にガーディアンが姿を現しているのだ。これではいくら倒してもキリがない。
 さらに、陸上戦艦自体もゴッドドラゴンに向けて対空砲火。ゴッドドラゴンは完全に進撃を止められてしまう。
「フンッ、なかなかにねばるものだな……」
 そして――そんな戦いの様子を、ギガトロンは陸上戦艦のブリッジでのんびりと見物していた。
「あのデカブツの登場は予想外だったが――それでも許容範囲内だ。
 ガーディアンの数に任せて、一気に押しつぶしてくれる」
 言って、ギガトロンは端末を操作。ガーディアンの配備状況を確認し、つぶやく。
「いい加減、思い知るがいい。
 オレと貴様……どちらが上なのか、な……」
 

「さて……ドハデに暴れてくれるね、と……」
 その頃、そうつぶやくジュンイチは“装重甲メタル・ブレスト”を着装し――“地上の森の中”にいた。
 そう――ゴッドドラゴンの頭上のジュンイチは立体映像ホログラムのニセモノ。本物はずっと地上で自分のホログラムを操りながらギガトロンの陸上戦艦を目指していたのだ。
 ゴッドドラゴンの陽動が功を奏したのか、現時点では自分を狙う動きはない。
「今のところは順調だな……
 ギガトロン気づいてないみたいだし、このまま一気に――」
 

〈行けるとでも思ったのか?〉
 

「――――――っ!?」
 突然の声に背筋が凍りつく――しかし、身体はすぐに反応した。とっさに右へ跳んだジュンイチの目の前で、放たれた閃光が空間を貫く。
 そして――ジュンイチの前に、襲撃者達が姿を現した。
 ギガトロンのガーディアンだ――ただし、上空で戦っている連中とは違い、それぞれに武装が強化されている。
 数は5。徹底的に軽量化を施されたスピード型、小型ミサイルポッドを全身に満載したもの、棍棒を持った大型のパワータイプ。六本の腕がそれぞれ鋭利な刃と化しているもの、そして、先程ジュンイチを狙ったと思われる、大型のキャノン砲を備えたもの――
(上のヤツらとは違う――カスタムタイプか!)
 いくらプラントが存在する可能性があるといっても、それはあくまで量産のためのもののはず。こんな強化タイプ、そう数はいまい――それがこの場に現れた、それが意味することはただひとつ。
「こっちの動きを、読まれた……!?」
〈その通りだ〉
 うめくジュンイチに答え、ギガトロンはカスタムガーディアンの投影したウィンドウの中にその姿を現した。
〈前回あれだけ痛めつけてやったんだ。その傷が癒えない内から、真っ向勝負をしてくるとはこっちも思ってないさ。
 そうした視点で見ていれば、あのデカブツの上の貴様がホログラムであることくらいすぐにわかったぞ。
 大方、『自分達のレベルの読み合いで、こんな稚拙な手を使うとは思うまい』と踏んだんだろうが――そもそも、貴様は“だからこそ”仕掛ける男だろうが〉

「どうやら、今回もオレの勝ちのようだな。
 心配するな、殺しはしない――ズタボロの貴様がオレの前に引きずり出されるのを、楽しみにしているぞ」
 言って、ギガトロンはカスタムガーディアン達にジュンイチの捕獲を命じると通信を切り、
「……あぁは言ったが、ヤツがカスタムガーディアンどもを突破するのと、敗れてオレの前に連行されるのと……現状では、可能性は五分五分といったところか……」
 つぶやくと同時に席を立ち、出口に向けてきびすを返す。
「……まぁいい。どちらに転ぼうと、こちらの勝利は揺るがん。
 ヤツにはせいぜい苦しんでもらうとしようか――」

「他ならぬ、“助けに来た相手”の手によって、な……」

 ニヤリ、と邪悪な笑みを浮かべて――ギガトロンは“最後の仕込み”を施すためにブリッジを後にした。

 

「ジュンイチくん……大丈夫かしら……?」
「心配しなくても、きっと大丈夫よ」
 後方指揮でゼストやゲンヤらをサポートすべく残った108部隊の指令室で、リンディは不安げにつぶやくレティにそう答えた。
「私はあの子のことはよく知らないけど……親友の見る目の正しさは、良くわかってるつもりよ。
 あなたが全幅の信頼を寄せるくらいの子だもの……だから、きっと……」
「そうね……」
 リンディのその言葉に、幾分か不安の和らいだレティの口元に笑みが戻り――
〈108部隊指令室、聞こえるか!?〉
 突然、彼女達の元へと通信が入った。
 だが、それはゼスト達からのものではなく――
〈現状を確認したい!〉
〈ヤツは――柾木ジュンイチはギガトロンと交戦中か!?〉
〈でもって、そっちはどれだけの戦力を動かしてんだ!?
 相手は大帝なんだ! まさか下っ端しか動かしてない、とかじゃないだろうな!?〉
「リンディ、この声……!?」
「えぇ……」
 しかし、次々に聞こえてきた声は、どれも聞き覚えのあるものだった。レティとリンディは思わず顔を見合わせ――リンディが応答する。
「こちら108部隊指令室――リンディ・ハラオウンよ。
 どういうこと? どうして――」
 

“貴方達”がこのタイミングで通信してくるの!?」

 

 飛来するミサイルを、ビームをかわし、襲いくる刃を、棍棒を弾き、背後に回り込む影から距離をとり――
 5体のカスタムガーディアンの攻撃をしのぎ、ジュンイチは距離をとって着地した。
 しかし――その姿はお世辞にも余裕とは言えなかった。一度始まると絶え間なく襲いくるカスタムガーディアン達の波状攻撃で、“装重甲メタル・ブレスト”はすでに傷だらけになっている。
 これが普段の戦いならば、余裕でかわせるような攻撃なのだが――
(――くそっ、また開いたか……!)
 全身に走る痛みが動きを鈍らせてしまう――胸部の、そして腹部の傷が開き、アンダーシャツを真っ赤に染めている。
 腹を貫かれ、真っ向から身体に太刀を受けた――ジュンイチの受けた傷は、普通の人間ならば動くこともできないような傷なのだ。
 正直なところ、『ジュンイチだからこそ“かろうじて”動けている』というレベルのダメージ――さらに度重なるムリが傷がふさがることを阻み、それによる大量の出血が同時に彼の体力の回復をも阻んでいる。いかにジュンイチといえど、悪条件があまりにも積み重なりすぎた今の状態ではまともな戦闘機動は難しい。
 実際、今にもヒザが落ちそうな状態だが――
(倒れて、られるか……!
 スバルと……ギンガが待ってるんだ……!)
 その想いだけが今の彼を支えている――震える右手に喝を入れ、爆天剣をかまえる。
「てめぇらなんぞにかまってられねぇんだ!
 とっとと引っ込め、ブリキ人形どもが!」
 ジュンイチのその言葉に気分を害したワケではないだろうが――少なくとも合図にはなった。カスタムガーディアン達は一斉にジュンイチへと襲いかかり――

 

 

 “押し流された”。

 

 巻き起こった炎の奔流に呑まれ、破壊されこそしないが大きく後退させられる。
 しかし――その炎はジュンイチの放ったものではなかった。
 なぜなら、ジュンイチは放ちはしないからだ。
 自然の炎ではあり得ない――“青い炎”など。
 この色の炎を放つのは――
「こ、この炎は……!?」
 その炎の色から“心当たり”に思い至り、ジュンイチは思わず声を上げ――
「何とか、間に合ったようだな……」
 そうつぶやきながら、彼はジュンイチの目の前に降り立った。
「やれやれ……
 さすがの貴様も、そのケガでは攻めきれんか」
 そして――
「まぁいい。
 それはそれで、オレが来たのがムダにならなかった、ということだからな」
 そう言って――
 

 イクトは愛刀“凱竜剣”を抜き放った。

 

「ど、どうして……お前がミッドチルダこっちにいるんだよ!?」
 なぜイクトが現れるのか――ワケがわからず、ジュンイチが思わず声を上げるが、
「『お前が』じゃないな」
 そんな、困惑するジュンイチに対し、イクトは彼にしては珍しく、イタズラをする子供のような笑みを浮かべて告げた。
「正しくは……『お前“達”が』だ」
「………………は?」
 その言葉に、ジュンイチが思わず間の抜けた声を上げ――次の瞬間、彼らの脇を鋼色の“何か”が駆け抜けた。
 同時、周囲に強烈な“力”が満ちる。これは――
「ブレード!?」
「どぉりゃあっ!」
 ジュンイチが上げた声にかまうつもりはない――そのまま一直線に正面の、6本の刃を携えたカスタムガーディアンに肉迫。“装重甲メタル・ブレスト”を着装したブレードが、手にした斬天刀の一撃でカスタムガーディアンを弾き飛ばす!
「ちょっ、待っ、えぇっ!?」
 イクトだけでなく、ブレードまで姿を現したことに、ジュンイチの頭は完全に混乱のドツボへと放り込まれた。まともに問いかけることもできず、口をパクパクさせているが――
「まったく、何を混乱しているんだか」
「混乱のひとつもするわいっ!」
 ため息をつくイクトの言葉に、ジュンイチはようやくまともに言い返すことに成功した。
「もっかい聞くぞ! 何でお前らがミッドチルダにいるんだよ!?」
「もちろん、イクトの野郎の転移術に決まってんだろ」
「貴様の転移先をトレースさせてもらった――追ってくるのは難しくはなかったさ」
「そうじゃなくて……理由を聞いてるんだ、理由を!」
 『何を聞いてるんだ、この男は』と視線が雄弁に物語っている――それが当然だとばかりに答えるイクトとブレードに、ジュンイチはイライラしながら答えるが、
「あのまま素直に野放しにしたら、あっさりと決着の約束を先送りにしかねないからな、貴様は」
「うぐっ………………」
 即答するイクトの言葉に思わず後ずさり――どうやら図星だったらしい。
「オレは単に、戦いに来ただけだぜ」
 一方、ブレードの答えは極めて彼らしいもの――斬天刀を頭上でブンブンと振り回しながら、カスタムガーディアン達に対したままそう答えるが――
「何しろ……てめぇ、肝心なことを言ってなかったからな。
 てめぇが、たかだか人質取られたぐらいであっさりとそんな傷をつけられるかよ。
 たいがいの相手なら、ウラ技駆使してあっさりその場で助け出すに決まってるし――そもそもてめぇから人質を取ること自体が難しい。
 つまり――相手は“てめぇを出し抜いて人質を取れるほどの相手”だ、ってことだ。
 どうせ、オレを連れてくと作戦メチャクチャにされると思って黙ってやがったんだろう?」
「ぐぅ………………」
 ブレードの言葉にも言い返すことができない。図星の上塗りだ。
「そんなワケで、それぞれの“目的”のための“手段”が一致したからな――二人して追ってきたワケだ」
「に、にしても……よくすんなりここまで来れたな。
 居場所は“力”を感じ取ればいいとしても、地理なんてほとんど手探りだったろうに」
「あぁ、それなら……」
 ブレードに告げるジュンイチにイクトが答えかけ――そんな彼らに向け、パワー型と斬撃型、2体のカスタムガーディアンが襲いかかる!
「ったく、話のジャマしやがって!」
 うめいて、ジュンイチが爆天剣をかまえ――

 

 弾き飛ばされた。
 

 2体のカスタムガーディアンが――

 

 ジュンイチ達の背後から伸びた、2本の鋼の腕に一撃を受けて――
 

 さらに、吹っ飛んだ先で強烈な閃光を受けて。

 

「……あ、あれ?」
 自分のカウンターが不発に終わり、ジュンイチが間の抜けた声を上げると、
「やれやれ……何を呆けた顔をしている」
 言って、彼は愛槍を手にジュンイチの前へと進み出た。
「まぁ、こっちとしては、お前のそんな顔が見れて、少しは溜飲が下がった気分ではあるがな。
 何かと振り回された苦労も報われる」
 続いて、もうひとりもまた、背中の翼が分離、変形した大剣を手にジュンイチの前へ。
「オレは、2回ほどブッ飛ばされてっからなおさらってヤツだな」
 そして、さらに3人目――その姿を前に、ジュンイチは驚きのあまり目を丸くした。
「め、メガザラック……スカイクェイク!?」
「オレは無視かよ」
 現れた二人の大帝に対し、驚きの声を上げるジュンイチへと不満の声を上げるのは、メガザラック達にブッ飛ばされたカスタムガーディアンに追撃を叩き込んだ“3人目”――ブリッツクラッカーだ。
 と――
「あたしもいるよ!」
 言って、アリシアがメガザラックの後ろから姿を現し――
《この中では、唯一の『初めまして』ですね。
 スカイクェイクのパートナーをさせていただいている、ユニゾンデバイスのアルテミスといいます》
「あ、ども。ごていねいに……」
 最後に姿を現すのは白金の髪をなびかせた美しき女性。
 スカイクェイクのユニゾンデバイス、アルテミスだ。丁寧なそのあいさつに、ジュンイチも思わずペコリと一礼を返し――
「って、そうじゃなくて!
 まさか、お前らがイクト達をここに!?」
「まぁな。
 来る途中で拾ったんだ――まさか貴様の知り合いだとは思いもしなかったがな」
 我に返り、尋ねるジュンイチにはメガザラックが答える。
「けど、どうしてお前らまで、ここに……?」
 『来る途中で』――メガザラックはそう言った。それはつまり、イクト達を拾う拾わないに関わらず、最初からこの場に来るつもりだったということだ。
 イクト達の理由は今しがた聞いたばかりだが、メガザラック達の方はそれこそ心当たりがない――またしても得心のいかないジュンイチの問いに、メガザラックとスカイクェイクは顔を見合わせ、
「そんなのは――」
「決まってる」
 そう言うと、二人はそれぞれの獲物を手にカスタムガーディアン達へと向き直り、口をそろえてジュンイチの疑問に答えた。

 すなわち――

 

 

 

 

 

『貴様を助けに来たんだろうが』

 

 

 

 

「スバル……大丈夫?」
「うん……」
 尋ねるギンガの問いに、スバルは小さくうなずく。
 ギガトロンのアジトの一室――どうやら私室のひとつなのだろう。すべてがトランスフォーマー用のサイズの部屋の中、スバルとギンガはベッドの上で身を寄せ合っていた。
「大丈夫だよ、スバル。
 きっと、お父さんや、お母さんや……ジュンイチさんが助けに来てくれる」
「うん……」
 自分を励ましてくれるギンガの言葉に、スバルはうなずき、それでも不安なのか、ギンガに強くしがみつく。
 と――
「入るぞ、小娘ども」
 その言葉と共に入り口の扉が開き、ギガトロンが姿を見せた。
「………………っ!」
「フンッ、そうにらむな。
 オレは貴様らなどどうでもいい――あの小僧を逃がさないためのエサとしてここに置いているだけだ」
 無言でこちらをにらみつけてくるギンガに、ギガトロンは肩をすくめてそう答え、続ける。
「だから、お前達に危害を加えるつもりはないし――」
 言って――ギガトロンは笑みを浮かべ、
「お前達の身体のことも、教えてやろう」
「わたし達の身体の……!?」
「そうだ」
 聞き返すギンガに、ギガトロンはあっさりとうなずいてみせる。
「お前達の――」

 

 

「そして、あの“炎”のガキのこともな」


次回予告
 
リンディ 「ジュンイチくんのお友達の……イクトくんだったかしら、いいところで出てきたわねー……」
レティ 「最高の登場チャンスを待ってたのかしら?」
クイント 「抜け目ないわね。
 自分を効果的に演出する方法をよく知ってるわ」
レティ 「ただ自分の地位にふんぞり返ってるだけのバカじゃないってことね」
ジュンイチ 「あんたら……後で消し炭にされても知らねぇぞ……(怖)」
リンディ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Galaxy Moon〜異聞、
 第12話『本当の願い』に――」
4人 『ブレイク、アァップ!』

 

(初版:2008/02/09)