「お、お前ら……!?」
「まったく……大帝クラスを相手にひとりで突撃するとはな。
しかもそんな身体で……相変わらず、ムチャをするヤツだ」
ギガトロンの放ったカスタムガーディアンとの戦闘中、突然現れた助っ人達――思わずうめくジュンイチに、スカイクェイクは呆れて肩をすくめてみせる。
「お前だけ楽しくバトろうなんて、そうはいかないぜ」
「そーだそーだ!」
「……言っておくが、そんな考えでここにいるのは貴様らだけだからな」
一方、こちらはいつも通りだ――早く戦闘を始めたくてウズウズしているブレードや彼のパートナープラネル、ライオン型のロッドの言葉に、イクトはため息まじりに二人に告げる。
「柾木――お前はギガトロンのところに行け。
ヤツを倒し、お前の守りたいヤツらを連れ戻して来い」
「こいつらは、オレが引き受けてやるからさ」
「け、けど……」
メガザラックとブリッツクラッカーの言葉に、ジュンイチは思わず上空を見上げた。
立ちふさがるのはカスタムガーディアン達だけではない。上空でゴッドドラゴンやブイリュウと戦っている量産型ガーディアンの大群だっているのだ。
ヤツらはギガトロンの陸上要塞から次々と現在進行形で現れ続けている――その一部がいつこちらにとって返してくるかわからないのだ。
彼らの一斉攻撃を受ければ、いくら彼らでも――そんな懸念がジュンイチの足を押しとどめていた。
だが――
「大丈夫だよ」
そんなジュンイチに告げるのはアリシアだ。
「心配しなくても――」
「助けに来たのはもあたし達だけじゃないから♪」
その言葉と同時――上空のガーディアンの群れが蹴散らされた。
戦場を一直線に駆け抜けた――ゼストの槍によって。
さらに、多数の魔導師達が彼の後に続き、上空のガーディアン達に攻撃を開始する。
その顔ぶれには見覚えがある――ゼストの隊や陸士108部隊に所属する空戦魔導師達だ。
「お、オッサン達まで!?」
突然の援軍の登場に、思わずジュンイチが声を上げ――
「もちろん……」
「私達もいるわよ」
「――――――っ!?」
突然の背後からの声に、ジュンイチの思考が停止した。
ゆっくりと振り向き――うめくようにその名を呼ぶ。
「……ゲンヤの、オッサン……
それに……」
「…………クイント……さん……!」
第12話
「本当の願い」
「…………ジュンイチくん……」
「………………」
自分を呼ぶその声はとても静かなものだった――クイントの呼びかけに、ジュンイチは思わず視線をそらした。
「……心配、したぞ……
まだケガだって治ってねぇのに、お前がギガトロンに突っかかっていったりするからな……」
「……いらねぇよ、心配なんて……」
続くゲンヤの言葉にも、ジュンイチは吐き捨てるかのようにそう答える。
「心配しなくても……ギンガとスバルは必ず助け出すさ。
オレがケガしてようが死にかけてようが関係ねぇ――どんな手を使ってでも二人のところに無事帰す。
だから、二人はそれを待っt――」
待ってればいいんだ――そう告げようとしたジュンイチの言葉は、突然の衝撃によってさえぎられた。
突如放たれた、クイントの拳を受け止めた衝撃によって。
「………………どう?
ギガトロンを相手にするのに……私の力が不足だとか、今のを受けてまだ言うつもり?」
ジュンイチにそう告げるクイントの表情は、とても哀しそうで――
「どうして、ひとりで背負うのよ……?
どうして、私達を頼ってくれないの……!?
キミがどう思ってるかはわからないけど……」
そのまま拳を解くと、クイントはジュンイチへと手を伸ばし――
「私にとっては……キミだって、大事な家族の一員なんだからね……!」
そう言って――ジュンイチを優しく抱きしめていた。
「キミ独りだけで背負わないで……私達にも、その苦しみを分けてくれればいいじゃない……!
家族でも、仲間でも……そういうものなんじゃないの……?」
その言葉に、ジュンイチは――
「………………」
無言のまま、クイントの手を振り払った。
「ジュンイチくん!?」
思わずクイントが声を上げるが、ジュンイチはカスタムガーディアン達をにらみつけ――告げた。
「……みんな……」
「………………こいつらを……頼む」
「ジュンイチくん……!」
「『頼れ』っつったのはそっちでしょ?
言質を取ったからには容赦なくこき使うぞ、オレは」
先程とは違う想いでその名を呼ぶクイントに、ジュンイチは面倒くさそうに頭をかきながらそう答える。
「オレに対して『頼れ』とまでタンカを切ったんだ――そこまで言っといてこいつらに墜とされたりしたら、全部終わった後ではっ倒すからな」
言って、ジュンイチは背中のゴッドウィングを広げ、
「そんじゃ、こっちは任せるぜ!」
ギガトロンの陸上戦艦に向けて飛び立――
「はーい、ストーップ♪」
「がはぁっ!?」
――とうとしたところで後ろ髪を思い切り引っぱられた。その拍子にイヤな音の響いた首筋を押さえ、ジュンイチは“犯人”をにらみつける。
「…………何のつもりだ、クソチビ……!?」
「その前に、まだやることがあるでしょ?」
うめくジュンイチに、アリシアはため息まじりにそう答えた。
「そんな身体で、ギガトロンと戦うつもり?
まずはそのケガをなんとかしないと」
言って、アリシアが目配せし――それを受けて、前に進み出たのはアルテミスだ。ジュンイチに向けて呪文を詠唱する。
―― | 永遠にとなりに寄り添う者よ 優しき輝き、きらめく月よ 傷つきし彼の者に、癒しの光を! |
《月光の癒し!》
詠唱を終え、魔法を発動させるアルテミス――同時、放たれた光がジュンイチを包み込み、その身体に刻まれた傷を瞬く間に癒していく。
「すげぇ……! 気功治療どころか、オレの超回復よりも治癒が速い……!?」
《当然です。
私は“夜天の魔導書”の防御プログラム。“守りの力”こそが真髄なのですから》
見る見るうちに痛みが退いていく――思わずうめいたジュンイチの言葉に、賛辞を受けたアルテミスは誇らしげに答え、微笑んでみせる。
一方、カスタムガーディアン達もジュンイチの回復をおとなしく待っているつもりはなかった。アルテミスの治療を妨害しようと、砲撃型が魔力砲を放ち――
「その程度の砲撃で!」
スカイクェイクがそれを阻んだ。シールドモードのデスシザースで、迫り来る閃光を受け止め、弾き飛ばす!
「フンッ、どうやら、敵さんはやる気十分のようだな」
「そんなの、こっちだって同じだぜ。
向こうが殺りたいっつーなら、思う存分相手してやるぜ!」
そして、その一撃は先程から戦いたくてウズウズしていた若干名には格好の狼煙となった。つぶやくイクトに答えると、ブレードは斬天刀をかまえ、ロッドを肩にしがみつかせたまま砲撃型へと襲いかかり――
「――――おっと!?」
しかし、突然足を止めた――すぐさま身をひるがえし、背後に迫っていた斬撃型の刺突をかわす。
「へっ、そんな見え見えの不意打ちに引っかかるかよ!
そんなに死にたきゃ――まずはてめぇからだ!」
獰猛な笑みを浮かべて言い放つと、ブレードはあっさりと標的を変更。今度は斬撃型へと襲いかかる――まさに手当たり次第と言うに相応しい戦いぶりを見せるブレードに対し、ミサイルポッドを全身に配した乱射型
カスタムガーディアンはすべてのミサイルの狙いを彼に合わせた。
そのまま間髪入れずに斉射。放たれたミサイルは一斉にブレードへと襲いかかる。
だが、ミサイル群がブレードに届くことはなかった。突然巻き起こった雷光の渦がミサイルを薙ぎ払い、そのまま乱射型へと襲いかかる!
迫り来る雷光をかわし、乱射型は後方へ跳躍――しかし、危険は去ってはいなかった。真上からの一撃を受け、勢い良く大地に叩きつけられる。
衝撃で大地が砕け、周囲の木々が倒れていく中――
「これは決闘じゃない。横槍は大いに結構だが――それは周りを見てからにするんだな」
そう告げて――メガザラックは“雷の魔槍”ブリューナクを手に乱射型の前に降り立った。
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮と共に飛来するのは青色の、地球のフォースチップ――頭上にかざした愛銃にフォースチップをイグニッションすると、ブリッツクラッカーは砲撃型カスタムガーディアンへと狙いを定め、
「ブリッツ、ヘル!」
得意技“ブリッツヘル”を放つが――相手もダテに“カスタム”なワケではない。いともたやすく回避するとブリッツクラッカーから距離を取ろうとする。
が――
「遅いんだよ!」
それすらブリッツクラッカーの計算の内――回避機動の分後退の遅れた砲撃型へと襲いかかり、
「フォースチップ、イグニッション!
ブリッツ、ヒール、クラァッシュ!」
再びフォースチップをイグニッション。展開されたカカトの刃“ライザーブレード”によるカカト落としはかろうじて回避されたが――その一撃は代わりに大地を粉々に打ち砕いた。衝撃と砕け散った大地の破片が砲撃型を吹き飛ばす!
「何やってんだ、ジュンイチ! 手当てが終わったんなら早く行け!
アリシア、お前もだ! そのバカのフォロー頼むぞ!」
「わかってるよ!
ジュンイチさん!」
「おぅよ!
それとブリッツクラッカー! てめぇも後でシメる!」
ブリッツクラッカーの言葉にアリシアが、そして治療を終えたジュンイチがうなずき――
「ジュンイチくん!」
そんなジュンイチを、クイントが呼び止めた。
「私も行くわよ。
まさか――『来るな』とは言わないわよね?」
自分もスバルやギンガを助けたい――そんな想いと共に告げるクイントだったが――
「ゴメン、その『まさか』。
ゲンヤのオッサンと一緒に帰ってて」
そんなクイントに、ジュンイチはあっさりと答えた。
「なんで!?
私だって――」
「やっといてもらいたいことがあるんだよ」
どうして自分だけ外すのか――声を上げかけたクイントに対し、ジュンイチはそう答えた。
「メシ……作っといてくれよ。スバルとギンガに。
二人とも、腹すかせてるだろうからな――オレの、じゃなくて、母親のアンタの手料理、たっぷり味わってもらおうじゃねぇの♪」
「ジュンイチくん……」
笑顔で告げるジュンイチに対し、クイントも思わず苦笑し、
「……わかったわ。
ちゃんと……“全員分”作っておくからね」
「全員…………?」
その『全員』に自分が含まれているのは明白だ――暗に“ジュンイチも無事に帰ってこい”と告げるクイントの言葉に、ジュンイチは思わずつぶやくが、
「…………そうだね」
つぶやくその口元に笑みが浮かんだ。
「ちゃんと“全員分”作っといてくれよな」
「えぇ」
ジュンイチの言葉に、クイント迷わずうなずき――
「…………Yeah-ha……」
その口元の笑みが邪悪に歪んだ。大きく息を吸い込み――叫ぶように全員に告げる。
「聞いたな、野郎ども!
今夜のメシは――“全員”クイントさんのおごりだぁっ!」
「ぅえ゛ぇぇぇぇぇっ!?」
まさか、彼が“全員”と言ったのは――その意味を悟り、クイントは思わず声を上げた。
「えっ!? ちょっと、ジュンイチくん!?」
あわてて弁明の声を上げるクイントだったが、当のジュンイチは――
「じゃ、楽しみにさせてもらうんで夜露死苦ぅっ!」
「あぁっ!? 逃げた!?」
言質を取るだけ取って、さっさとトンズラしてくれた。アリシアの首根っこをつかんでギガトロンの陸上戦艦へと飛ぶその姿に、クイントはあわてて後を追おうと一歩を踏み出し――
「――――――っ!?
危ないっ!」
その表情が別の焦りに染められた。スピード型とパワー型、残る2体のカスタムガーディアンがジュンイチ達の後を追い――
「オレ達を無視するとは――」
「大した根性をしているな」
そんな2体の前にイクトが、そしてアルテミスを伴ったスカイクェイクが立ちふさがった。
当然、ジャマをするなとばかりに彼らに襲いかかるカスタムガーディアン達だったが、
「なめるな!」
スカイクェイクがその前に立ちふさがった。スピード型の小型ナイフ、パワー型の棍棒をその手で受け止め、
「アルテミス!」
《はい!》
「《ユニゾン――イン!》」
咆哮と共にアルテミスとユニゾン。巻き起こった“力”の渦がカスタムガーディアンを吹き飛ばし――
「《絆がもたらす敵への絶望!
“絆の果てに高みあり”――覇道大帝、デスザラス!》」
ユニゾンによってスカイクェイクが転生したデスザラスが、アルテミスと共に高らかに名乗りを上げる。
「やれやれ、お前達ばかり目立つな。
獲物のひとり占めはなしだぞ」
「わかっているさ」
そんな彼らに釘を刺し、並び立つイクトに対し、デスザラスは苦笑しながらこちらに対し警戒を強めるカスタムガーディアン達へと視線を向けた。
ふと思いつき――イクトに対して提案する。
「なぁ……
今、ちょっと余所から引用して、ヤツらにくれてやりたいセリフがあるんだが」
「奇遇だな。オレもだ」
イクトもまた同じ想いだったのか、あっさりとうなずく。
「今回の主役はヤツだということもある――たまには、柾木のシュミに付き合ってやるのもまた一興だ」
そして、イクトが、そしてデスザラスとアルテミスが2体のカスタムガーディアンに向け、高らかに言い放つ――
「焼き尽くしてやるが、かまわないな!?
答えは一切聞いていない!」
《最初に言っておきます!》
「オレ達はかーなーり、強いっ!」
一方、アリシアを捕獲して離脱したジュンイチは、一直線にギガトロンの陸上戦艦へと向かっていた。
当然、陸上戦艦側も一斉射撃で対抗、無数の砲撃が彼らに向けて襲いかかるが――
「そんなぬるい砲撃が当たるかよ!」
機械任せの自動照準などで捉えられるジュンイチではない。アリシアを抱えたままにも関わらず、目にも留まらぬ高速機動で陸上戦艦の弾幕をくぐり抜けていく。
「このまま突入すっぜ!
しっかりつかまってろよ!」
「うん!」
元気なアリシアの答えにうなずくと、ジュンイチはゴッドウィングの周囲で炎を燃焼させる。
炎はジュンイチの右拳に集まり、渦を巻き――
「螺旋龍炎!」
渾身の力で叩き込んだ一撃が陸上戦艦の甲板を打ち貫いた。灼熱の炎の中、ジュンイチとアリシアは艦内の通路へと降り立った。
「…………通路か。
ずいぶんと広いな……トランスフォーマーが楽々通れるサイズだぜ」
「ミッドかベルカ……人間とトランスフォーマーが共存していた時代のものらしいね……」
つぶやくジュンイチに答え、アリシアは通路の内装を調べながらそう答える。
「とにかく、二人を探そう。
あのギガトロンっていうのが途中からだんまり決め込んでるのが気になるよ……何か仕掛けてくるつもりかも」
「だな」
アリシアの提案にジュンイチがうなずいた、その時――
「――――――っ!
ジュンイチさん!」
「何――――っ!?」
アリシアが気づくが――遅かった。二人の間の隔壁が突然下ろされ、ジュンイチとアリシアを引き離してしまう。
「アリシア!?
……ちょっと離れてろ! ブチ破る!」
このまま引き離されるワケにはいかない。すぐにでもアリシアと合流しようとゴッドウィングを広げるジュンイチだったが――そんな彼の背後で新たな隔壁が降りた。
一瞬、閉じ込められたのかとも思ったが――次の瞬間、床が動き出し、自らの予想が間違っていたのだと気づいた。
これは――
(床……いや、オレのいた区画だけか……
エレベータみたく、降下してやがる……!)
《ちょっと、ジュンイチさん!?》
いきなり隔壁が降りたと思ったら、今度はジュンイチの気配まで下降を始めた――あわてて念話を飛ばしてみるが、艦内にも敵のジャミングが及んでいるのか、ジュンイチからの反応はない。
「どうしよう……!
ギガトロンの狙いはジュンイチさん自身だっていうし……!」
そんな彼を敵陣のど真ん中で孤立させるのはリスクが大きすぎる。うめいて、アリシアはしばし思考をめぐらせて――
「…………よぅし!」
意を決してきびすを返し、アリシアは駆け出した。
「こんなところでジッとしてても始まらない……
まずは行動あるのみ――今行くよ、ジュンイチさん!」
「…………ここか……」
床の動きが止まり、一方の隔壁の開いた先は一直線の通路だった――道なりに進んだ末、ホールのような場所に出て、ジュンイチは周囲の気配を探り――
「――――――っ!?」
気づいた。
今自分のいるホール、その奥にいる人物に。
「…………ギンガ!?」
「……来たんですね、ジュンイチさん……」
声を上げるジュンイチに答えると、彼女は――ギンガはホールの奥の暗がりの中からその姿を現した。
「よかった、無事だったのか!」
そんなギンガの姿に、ジュンイチはギンガに駆け寄り、
「けど……どうしてこんなところに?
スバルはどうしたんだ?」
尋ねるジュンイチの問いに、ギンガは視線を落とした。
そして――告げる。
「スバルは……艦内の部屋のひとつにいます。
それと、わたしがここにいるのは……わたしが頼んだからです」
「最後に、少しだけお話させてほしいって……」
「………………え?」
そのギンガの言葉に、ジュンイチは思わず目を丸くした。
「ど、どういうことだよ? 『最後』って……?
それに、頼んだ、って、まさかギガトロンに……!?」
さすがに混乱し、ジュンイチがうめき――ギンガはそんな彼にさらに告げた。
「ジュンイチさん。
わたし達は……」
「もう、帰りません」
「ぅおぉらぁっ!」
咆哮と共に刃を一閃――ロッドを下ろし、単独で戦うブレードの振るった斬天刀を、斬撃型カスタムスガーディアンは素早く後退してやりすごす。
そのまま、大剣を空振りしたブレードへと斬りかかるが、ブレードも負けてはいない。振り抜いた斬天刀をそのまま引き戻し、素早く防御する。
「いいぞ! いい反応するじゃねぇか!」
どちらも退かない一進一退の攻防――しかし、ブレードは気を引きしめるどころか満面の笑みで歓喜の声を上げた。
「剣技の基本がしっかり再現されてやがるじゃねぇか! いい戦闘プログラムを使ってる証拠だ!
その上機械だから、集中が切れることも、油断することもねぇ!
てめぇみてぇなヤツなら――」
言うと同時、ブレードは後方に跳躍して間合いを取り、
「こっちも、思いっきり殺れるってもんだぜ!」
思い切り“力”を込めた斬天刀で虚空を斬り裂き――同時、ブレードの周囲に多数の光刃が出現した。一斉に飛翔し、斬撃型へと襲いかかる!
“剣”のブレイカーであるブレードの精霊器・斬天刀の固有能力“斬撃複製”――生み出した光刃に直前に振るったブレードの斬撃をそのまま再現する能力である。
質量を得るまでに高密度に圧縮されたその光刃は斬撃の衝撃、切れ味、重さ、速さに至るまで完璧にコピーすることができる。この能力により、ブレードは自身の最高の一撃を立て続けに、しかも距離を問わずに目標に叩き込むことができるのだ。
生み出された光刃は一直線に斬撃型に向けて飛翔するが――斬撃型はその6本腕でそれに対抗。次々に光刃に斬りつけ、打ち砕いていく。
しかし――それこそがブレードの狙いだった。斬撃型が光刃の迎撃にかかり切りになっているスキに、一気に間合いを詰めていく。
「腕一本、もらうぜ!」
斬撃型は光刃の迎撃で動けない。斬天刀を振り上げ、ブレードが咆哮し――
斬られた。
今まさに斬天刀を振り下ろそうとしていたブレードが――
斬撃型の振るった――“7本目の刃”によって。
「な…………っ!?」
どこから刃が――斬撃の衝撃で後方に弾かれる中、ブレードは目を見開き、新たな刃の出所へと視線を向けた。
見れば、斬撃型のバックパック、その左半分が展開され、新たな腕となっていて――
(あのバックパック――偽装した隠し腕か!)
内心で舌打ちするブレードの目の前で、バックパックの残り、右半分も新たな隠し腕へと展開され――
8本目の刃が、ブレードの胸元を斬り裂いた。
「居住区……?」
一方、分断されてしまったジュンイチの後を追うアリシアは、下の階層への道を探す内に艦内の居住区へと迷い込んでいた。
(ここが居住区なら、艦内の生活の中心部……どこかに各階層に行けるエレベータか何かあるはずだけど……)
そんなことを考えながら、アリシアは居住区の中を進んでいき――
「――――――?」
気づいた。足を止め、周囲を見回す。
「この魔力……?」
ジュエルシードの膨大な魔力によって蘇生した身の上はダテではない。その際に異常発達したリンカーコアの持つ鋭敏な魔力知覚は、居住区に潜む微弱な魔力の存在を感じ取っていた。
「……ひょっとして……」
確かめてみる価値はありそうだ。アリシアはすぐにその魔力を追い、居住区の中を探っていく。
すぐに目的の部屋は見つかった。電子ロックを愛槍ロンギヌスで叩き壊すと、巨大な扉はゆっくりと開いていき――
「…………キミ……誰……?」
そんなアリシアに気づき、部屋に独り残されていたスバルは不安げな表情で彼女に尋ねた。
「か、帰らないって……!?」
ギンガの口から放たれた言葉は、助けに来た自分に対する明確な拒絶――信じたくない、そんな想いから大きく目を見開き、ジュンイチはギンガに聞き返した。
「どういうことだよ!?
クイントさんも、ゲンヤのオッサンも……お前らのことをずっと心配してんだぞ!
お前だって、二人のこと、大好きだったじゃねぇか! なんで『帰らない』なんて言うんだよ!?
ギガトロンのヤツに、何か脅されてんのか!?」
しかし、ジュンイチのその問いに、ギンガは首を左右に振った。
「ギガトロンさんからは……何も言われてません。
ただ……“教えてもらった”だけです」
「教えて……もらった……?」
ギンガの言葉に思わず聞き返し――
「――――――って!?」
気づいた。
「……おい……まさか……?」
「……やっぱり、知ってたんですか……?」
「薄々な」
静かに答え、ジュンイチはうつむき、続ける。
「出会った時……小さな、けど確かに違和感を感じた。
だから……あの晩、さっそくゲンヤのオッサンにカマをかけたらあっさりとゲロったよ。
お前ら二人が……直接血のつながった親子じゃない、って……」
そう告げるジュンイチだったが――
「………………“それだけ”……ですか?」
「え………………?」
尋ねるギンガの言葉に、ジュンイチは顔を上げた。
「……それ、だけ……?」
ギンガの言葉のもつ意味を、ゆっくりと頭の中で整理し――
「――――――っ!」
次の瞬間、その顔から血の気が引いた。
「…………どういう……ことだ……!?」
極力平静を装い、尋ねるジュンイチだったが、その声は小さく震えていて――
「……本当に……わたし達にはウソがつけないですね、ジュンイチさんは」
年齢以上に聡明なギンガは、そんなジュンイチの動揺を見逃さなかった。哀しげな表情でそう告げる。
「本当に、お父さん達には、聞いてないかもしれない……
けど……少なくとも、気づいてるんじゃないんですか?」
そして――告げる。
「わたし達が……“人間じゃなかった”って……」
ジュンイチが最も恐れていた事実を――
「ジュンイチさんと、同じように」
ジュンイチが恐れていた以上の、最悪の形で。
「…………な……に……!?」
ギンガのその言葉は、覚悟していた以上の衝撃をもってジュンイチに叩きつけられた。完全に思考を停止させられ、ジュンイチは呆然とその場に立ち尽くす。
「……ギガトロンさんが、調べたんです……
あの遊園地で、ジュンイチさんがやられちゃったあの時に――自分にかかったジュンイチさんの血を……」
そんなジュンイチに対し、ギンガは淡々と続ける。
「わたし達のことも、ここの機械で調べたんだそうです……
それで……全部、教えてくれました……」
そう告げるギンガの表情は哀しみに沈んでいる――とても、まだ7歳の子供がするような顔ではない。
「ギガトロンさん……言ってました。
わたし達を作ったのは、とてもすごいことで……そういうことを勉強してる人は、自分達の勉強のためにわたし達のことをすごく欲しがってる……近くにいる人達をやっつけてでも、わたし達の事が欲しいんだって……
だから、わたし達のそばにいる人達は、みんな危ないんだって……!」
「………………っ!」
ギンガの言葉に、ジュンイチは思わず唇をかみしめた。
(ギガトロンのヤツ……!
見事なくらい、事実だけを突きつけやがって……!)
そう――今ギンガが語った“ギガトロンが教えてくれたこと”には一切のウソが存在しない。
気づいていた――スバルとギンガの中に潜む、“人”であることに対するかすかな違和感に。
だが、それを確かめることができなかった。
そして、自分のことを語ることもできなかった。
スバルとギンガが“自分と同類”であると確かめることが――たまらなく恐ろしかった。
(そうやってビビって尻込みして、チキン全開でいた結果がコレかよ……!)
ギガトロンの言う通り――自分やギンガ達のような存在は魔法の技術の発達したこの世界においても異質な存在だ。研究者達の中にはそんな自分達のことを知れば、絶対に放っておかないタイプの輩もいる。
そして――そんな連中は自分達を手に入れるためなら手段は選ばない。周りの人間を巻き込んででも、傷つけてでも、殺してでも自分達を手に入れようとするだろう。
実際、ギガトロンがジュンイチに目をつけ、手に入れようとしたがために今のこの状況があるのだ。説得力が十分すぎるにも程がある。
何から何までギガトロンの言う通りだ。自分達と一緒にいることで周りの人間が危険にさらされると知れば、心の優しいギンガは絶対にこちらへ帰ってくることをためらう。
それでも、自分を支えてくれる家族がいればまだ違っただろうが――ギガトロンはギンガ達とクイント達との親子の絆が“作られたもの”であることを知らせることで、その退路までも断ってしまった。ウソをつくどころか、逆に真実のみを話すことでギンガの心を自分達から引き離してしまったギガトロンの狡猾さに、ジュンイチは思わず歯がみする。
「わたし達は……みんなのところにいちゃいけないんです……!
わたし達がこのまま帰っても、ギガトロンさんはまた来る――お父さんや、お母さんをやっつけてでも、わたし達を手に入れようとする……」
「なら、ギガトロンを倒せば終わりだろ!」
「終わらないよ」
反論するジュンイチだったが、そんなジュンイチにギンガはキッパリと答えた。
「ギガトロンさん、言ってた……わたし達みたいな子について勉強してる人達は、みんなわたし達のことが欲しいんだって……
ギガトロンさんがいなくなっても、同じような悪い人達はまた来る……いつまで経っても、終わらないよ……!」
「………………っ!」
ギンガの言葉に、ジュンイチは反論できない――それが事実だとわかっているがために。
「わたし達と一緒にいても……お父さんとお母さんが危ない目にあっちゃう……
わたし達も、ジュンイチさんも……みんなと一緒にいちゃ、いけないんです……!」
「…………ギンガ……!」
しかし――それでも何か言わずにはいられなかった。ジュンイチは苦しげにギンガの名を呼び――
「そこまでだ」
「――――――っ!?」
突然背後に気配が現れた。ジュンイチが振り向くよりも早く、強烈な衝撃が彼の身体を弾き飛ばす!
「前回と同じだな。
さすがの貴様も、動揺しては反応が鈍るか」
ホールの壁に叩きつけられるジュンイチに告げ、現れたのは――
「ギガトロン……!」
「どうだ? 助けに来た人質に拒絶された気分は」
うめき、身を起こすジュンイチに、ギガトロンは余裕の態度でそう応える。
「……よくも、ギンガにいらんことを言ってくれたな!
まだ7歳のガキに『実は自分の親は本当の親じゃなかった』とか『自分達は実は人間じゃなかった』なんて教えれば、どうなるかくらいわからねぇのか!」
「わかっているさ。
それに……“そうなって”もらわなければ話した意味がないというものだ」
「てめぇ……!」
「別に、ウソは言ってないだろう?」
あっさりと答え、ギガトロンは肩をすくめてみせる。
「その娘はすべてを知った。
自分の周りの世界の真実を知り、その上で決断したんだ。
その決定に、文句を言う資格が貴様にあるのか?」
「…………ねぇな」
そう認めざるを得ない。吐き捨てるようにギガトロンに答えるジュンイチだったが――
「………………けど」
静かに、ジュンイチは付け加えた。
あきらめるワケにはいかない――そんな想いに後押しされ、告げる。
「そういう理屈をこねるなら――」
「同じように、オレの決めたことにお前やギンガが文句を言う資格もねぇはずだな?」
「何…………?」
「オレは曲げねぇぞ。
ゲンヤのオッサンや、ゼストのオッサン……クイントさんが、スバルとギンガの帰りを待ってんだ。
スカイクェイクとアルテミス、メガザラックとアリシア、イクトにブレード、ブリッツクラッカー……それにブイリュウにゴッドドラゴン。
リンディさんや、レティさんや……ゼスト隊、108部隊の連中……みんなが、二人の救出のために力を貸してくれてるんだ!」
ギガトロンに言い放ち、ジュンイチは爆天剣をかまえ、
「そっちがそうならこっちもその気! お前の都合も、ギンガの都合もガン無視だ!
ギンガとスバルは――オレが助ける!」
その宣言と同時、ジュンイチはギガトロンへと突っ込むが――
「ギンガ・ナカジマを泣かせても、か?」
「――――――っ!?」
ギガトロンの言葉に一瞬の動揺が生まれ――そのスキが命取りとなった。ギガトロンに殴り飛ばされて再びホールの壁面に叩きつけられ、
「フォースチップ、イグニッション!
デス、ランス!」
素早くフォースチップをイグニッション。ギガトロンは発動させたデスランスに光刃を生み出し――投げつけた。壁に叩きつけられたジュンイチの身体を貫き、その身体を壁に磔にしてしまう。
「……が……は…………っ!?」
「こいつは――オマケだ!」
さらに、エネルギーミサイルによる追撃――さすがのジュンイチもデスランスによって破られたままの力場では防ぎきれず、そのすべてがジュンイチを直撃する!
「ジュンイチさん!」
まるで公園の戦いの再現だ――思わず声を上げるギンガだったが、
「…………ギンガ……!」
そんなギンガに、ジュンイチは磔になったまま、弱々しくもハッキリと告げた。
「確かに、お前らとクイントさん達は血はつながってねぇよ……!
お前らだって、人間じゃないかもしれない……!
ンなお前らの家庭は、確かに“家族ごっこ”だったのかもしれない……!
けどな……!」
その言葉と共に、右手に――爆天剣を握る手に力が込められる。
「……けど、だから何だってんだ!
血のつながりがニセモノだとしても――」
「その中でお前が感じた気持ちは、ニセモノなんかじゃねぇだろうが!」
「――――――っ!?」
ジュンイチのその言葉に、ギンガは思わず目を見開いた。
「お前は、クイントさんやゲンヤのオッサンが大好きだったんだろ! 親として愛してたんだろ!
だったら、それでいいじゃねぇか! 二人が親でいいじゃねぇか!」
言って、ジュンイチは爆天剣を振り上げ――柄尻をデスランスの光刃に叩きつけた。光刃が打ち砕かれ、デスランス本体がギガトロンの手元に戻っていくのを見送りながらギンガに告げる。
「血がつながってねぇぐらいなんだ! 夫婦なんてハナから血がつながってねぇじゃねぇか!
人間じゃねぇくらいなんだ! ブリッツクラッカーなんか人間じゃない身の上でパートナーにベタボレだって聞いたぞ!
家族のつながりは血じゃねぇ――心でつながるもんなんだ!
1回や2回、想いが裏切られたぐらい何だ――たかが愛じゃねぇか! もう1回信じ直せばいいじゃねぇか! 何回だって信じてやればいいじゃねぇか!」
ダメージからヒザが落ちかけるが――何とか持ち直して続ける。
「確かにオレは人間じゃねぇ!
それも……たぶん、お前らとも違う形でだ!
けど――これだけはハッキリ言えるぞ!」
その言葉通り――ハッキリと告げた。
「オレは――」
「お前が好きだ!」
「え………………!?」
聞き間違いなどありえないほどに明瞭に告げられたのは自分への想い――ジュンイチのその言葉に、ギンガは思わず息を呑んだ。
「好きなヤツのそばにいたい――その気持ちのどこが悪いってんだ!
『一緒にいると危ない』!? かまうもんかよ!
『迷惑をかける』!? オレの方がよっぽど迷惑かけてるだろ!
“お前のことを守りたい”――オレのこの気持ちは、ンなもんで折れるようなチャチなもんじゃねぇんだ!」
そんなギンガに告げ、ジュンイチは爆天剣を握りしめ、
「約束する。
その生まれのせいなんかで、お前に哀しい想いは絶対させない。
お前らを狙ってくるヤツがいるっつーなら、そいつら全部叩きつぶす――叩きつぶして、お前を必ず守り抜く」
その言葉と共に、ジュンイチはギガトロンへと振り向き、
「喜べ、ギガトロン。
記念すべき“叩きつぶされるヤツら”第1号は――てめぇだ」
「誰が喜ぶか、そんなもので」
ジュンイチに答え、ギガトロンはデスランスをかまえる。
「貴様こそ、自分の状態をわかっているのか?
どうやら、傷を癒してから突入してきたようだが――せっかくの治療も、さっきオレにやられてめでたくズタボロ状態に逆戻りだ。
そんな貴様が、今さらオレを倒せるものか」
「倒すさ」
しかし、ジュンイチも退かない。真っ向からギガトロンをにらみ返し、告げる。
「ギンガとスバル、素直に帰してくれればいいんだけど、ンな気なんてさらさらないんだろ?
だったら倒すさ――てめぇを倒して、力ずくでも帰してもらうぜ!」
咆哮し――ジュンイチはギガトロンに向けて地を蹴った。一瞬にして間合いを詰め、爆天剣を振るうが――
「そんなもので!」
ギガトロンはそんなジュンイチの斬撃をデスランスで受け止め――弾き返す!
「もう一度言ってやる――再び傷ついたその身体で、このオレに勝てるものか!
貴様はオレには勝てん――その現実を、その身体にイヤというほど叩き込んでくれる!」
「それは――こっちのセリフだ!」
ギガトロンの言葉にジュンイチが言い返し――二人は同時に地を蹴った。
「ぅわっとぉ!?」
跳びのいた直後、自分のいた空間を閃光が貫く――砲撃型カスタムガーディアンの放った強烈な砲撃を何とかかわし、ブリッツクラッカーは素早くその場から離脱する。
振り向き、上空の敵に向けてエネルギーミサイルを放つが、砲撃型も両腕に備えられた小型ビーム砲で迎撃。再びこちらに向けて主砲を撃ち放つ。
当初は機動性に優れるブリッツクラッカーの圧勝かと思われた両者の戦いだったが、強力な火力にモノを言わせる砲撃型の猛攻を前に、ブリッツクラッカーは思わぬ苦戦を強いられていた。
(こっちの反撃も何もかも、火力任せに強引にねじ伏せてきやがる……!
なのはみたいに牽制も回避もねぇ、バカ丸出しの力押しだけど――)
「それだけに、止め切れねぇかよ!
こうなったら――!」
絡め手は力ずくで叩きつぶされる。ならばこちらも真っ向勝負でいくしかない――ブリッツヘルを放つべく、フォースチップをイグニッションしようとするブリッツクラッカーだったが、
「っだぁっ!?」
それゆえに動きが一瞬鈍った。背中の翼をビームがかすめ、バランスを崩して大地に叩きつけられ――
砲撃型の主砲が、ブリッツクラッカーを直撃した。
「がぁ…………っ!」
防御するが、その上から吹っ飛ばされる――ギガトロンの繰り出したデスランスによる一撃を受け、ジュンイチはホールの床に叩きつけられ、そこからさらに蹴り飛ばされる。
なんとか受け身を取り、身を起こすが――そこへギガトロンのエネルギーミサイルが襲いかかった。とっさに力場を強化して耐えしのぐが、突撃してきたギガトロンのデスランスがジュンイチを弾き飛ばす!
「どうした?
ずいぶんと余裕がないぞ、柾木ジュンイチ」
「そうか!?
こっちはまだまだ暴れられるぜ!」
ギガトロンに言い返し、身を起こすジュンイチだが――明らかにダメージが深い。息も荒く、目に見えて消耗しているのがわかる。
「フェザー、ファンネル!」
しかし、それで守りに回るジュンイチではない。多数の遠隔射撃端末“フェザーファンネル”を生み出すとギガトロンへと突撃させ、
「ウィング、ディバイダー!」
一方で、自身もゴッドウィングを形状変化させ、反応エネルギー砲“ウィングディバイダー”を作り出した。ギガトロンに対し砲撃体勢に入るが――
「なめるなぁっ!」
ギガトロンはデスランスの光刃を伸ばして一閃。フェザーファンネルを無視し、ジュンイチを直接弾き飛ばす!
ホールの壁に叩きつけられ――それでもなんとかかまえ直すジュンイチだが、その身体には新たな傷が刻まれ、その足元を鮮血で染めていく。
「もうやめて!
それ以上戦ったら……ジュンイチさんが死んじゃうよ!」
そんな、ボロボロになっても戦うことをやめないジュンイチの姿に、ギンガがたまらず声を上げ――
「……知るかよ、そんなの……!」
うめくようにそう答え、ジュンイチは再び爆天剣をかまえた。
「言っただろ――てめぇの言い分なんか知らねぇ。
オレは自分の意思で、みんなに支えられて、ここに来たんだ。
好きでお前を、助けに来たんだ!」
「ぬかせ!」
そんなジュンイチをギガトロンが蹴り飛ばす――が、受け身を取って着地、ジュンイチは言葉を重ねる。
「オレは自分のワガママを通しに来てるだけだ! 今も現在進行形でワガママ突き通してんだ!
だから――ギンガも、自分のワガママ貫きやがれ!
ギガトロンの言葉なんか関係ない――自分の、“本当の”ワガママを貫きやがれ!」
その言葉と同時、ギガトロンの放ったビームをかわす――が、回避先に回り込んでいたギガトロンに殴り飛ばされる。
それでも、ジュンイチは受け身を取り、再びギガトロンと対峙する。
「いい加減わかっただろう。
今のお前ではオレには勝てん」
「ったく、再三言ってるコトをわかってないのかよ?
てめぇの強さも都合も、オレのコンディションすら関係ねぇ。オレは、“オレが”ギンガ達を助けたくてここに来てんだよ。
それが――オレの貫く、ワガママだ!」
「そうか。
ならば、そのワガママのもとに――死ね」
答えるジュンイチに告げて、ギガトロンは“力”を高め――
「…………帰りたい……!」
二人の耳に、その声が届いた。
声の主は――
「スバル……!?」
「……おうちに、帰りたいよ……!」
スバルだ。呆然とつぶやくギンガの視線の先で、連れてきてくれたアリシアに抱きしめられたまま、涙ながらにつぶやく。
「おとーさんや、おかーさんや……みんなのところに、帰りたいよ……!」
「……だってさ、ギンガちゃん」
今までの会話を聞いていたのだろうか、スバルの言葉に、アリシアがギンガに告げるが――
「健気なことだな。
だが、その願いが叶うことはない」
だが、突然のスバル達の登場に対しても、ギガトロンは余裕の態度を崩すこともなくそう答えた。
「柾木ジュンイチはオレには勝てん。
オレが倒れない限り、お前達が解放されることもない。
つまり――お前達は逃げられない」
言って、ギガトロンは眼下で息を切らしてこちらをにらみつけるジュンイチに向けてデスランスを振り上げ――
「そんなのウソだ!」
そんなギガトロンに対し、スバルは大声で否定の声を上げた。
「前に……言ってたもん!
『心配いらない』って……『絶対大丈夫だ』って!
だから……だから……!」
しかし、ギガトロンはかまわずジュンイチへとデスランスを振り下ろし――
「勝って、お兄ちゃん!」
「了解だ」
「――――――っ!?」
その瞬間――ギガトロンは自らの目を疑った。
止められた。
絶対に止められないと確信していた、その一撃が――
爆天剣をかまえた、ジュンイチによって。
「バカな……!?」
必殺のはずの一撃を止められ、ギガトロンが思わず声を上げ――
「悪いな、クソギガトロン」
そんなギガトロンに、ジュンイチは静かに告げた。
「ウチの妹分に『勝て』って言われちまった」
「だから何だ」
「なに、簡単な話さ」
ギガトロンに答え、ジュンイチは間合いを取り――
「勝つぜ、てめぇに」
その言葉と同時、腰のツールボックスから携帯電話型の端末ツール――“ブレインストーラー”を取り出した。
「フンッ、何のつもりだ?
貴様の“力”の行使には時間制限があることはすでにわかってる――もうどのくらい“力”を使った? 何をするにせよ、もうほとんど“力”は残されていないはずだ」
そんなジュンイチの行動を鼻で笑い、告げるギガトロンだが――
「……残念だったな」
対し、ジュンイチは笑みを浮かべてそう告げた。
「こないだまでは“力”の供給が安定してなかった――けど、今は外に供給源がいる。
つまり――」
言って、ジュンイチは折りたたまれていたブレインストーラーを開き、
「ガス欠の心配は――もうないんだよ」
二つ並んだモードボタン、その上側のボタンを押し込む。
〈Mode-Install.〉
そんな彼にブレインストーラーのシステムボイスが告げ――その瞬間、彼の周囲に“力”の渦が巻き起こった。
ブレインストーラーに収められた彼の精霊石“スカーレット・フレア”が――フレイム・オブ・オーガがその“力”を解き放ったのだ。
そして、ジュンイチの“装重甲”に変化が起きた。ベルトのバックルの形状が変化。ブレインストーラーをはめ込む接続部が形成される。
〈Standing-by.〉
ブレインストーラーを閉じるとシステムボイスがジュンイチに告げ、ジュンイチはブレインストーラーをベルトのくぼみに横からスライドさせるようにはめ込んだ。
そして――告げる。
「――精霊獣融合!」
〈Install of OGRE!〉
瞬間――“力”が放たれた。炎の渦となってギガトロンを押し返し、ジュンイチの姿を覆い隠す。
「な、何……!?」
「アイツ――何をした!?」
突然の異変にギンガが、ギガトロンが声を上げ――次の瞬間、炎の渦が縦一文字に斬り裂かれ、吹き飛ばされた。
そして――もうもうと立ちこめる煙の中からジュンイチが姿を現した。
真紅に染まり、より大きく、より禍々しく変化した、新たな“装重甲”を身にまとって。
同様に、爆天剣もまた変化している――刃はより巨大な湾刀となり、握りをはさんだ反対側にも直刀の刃が追加。大型化した“装重甲”に優るとも劣らぬ威容を見せつけている。
「……それが、“精霊獣融合”とやらの成果か」
「あぁ、そうさ」
告げるギガトロンに答え、ジュンイチは名乗る。
「属性は“炎”、ランクは“ブラスター”。
真紅の鬼龍“ウィング・オブ・ゴッド”オーグリッシュ・フォーム!
with――」
新たな爆天剣を頭上高く掲げ、その名を告げる。
「皇牙爆天剣・“鬼刃”!」
「“皇の牙”か……
ずいぶんと大それた名前じゃないか」
しかし、ジュンイチの新たな姿を前にしても、ギガトロンは臆することなく対峙する。
「おごるなよ、人間風情が。
どうやら、それがギガロニアでオレに見せた姿の正体らしいが……どれだけ“力”を増そうが所詮人間だ。
トランスフォーマーの、しかも大帝にまで上り詰めたオレの敵じゃ――」
しかし、ギガトロンがその先を告げることはなかった。
瞬時に間合いを詰めたジュンイチによって――
一撃でその場に叩きつけられて。
「おごってんのはテメェの方だろうが。トランスフォーマー風情が」
床を砕き、砕けた破片の中に消えたギガトロンに対し、ジュンイチは先程の彼のセリフを真似て言い放つ。
「オレが何のためにこの姿になったと思ってやがる」
「何、だと……!?」
「お前をこの手で、叩きつぶしてやるためだろうが。
マジでかかってこねぇと、てめぇだろうが秒殺だぞコラ」
身を起こし、うめくギガトロンに答え、ジュンイチは“鬼刃”を肩に担ぐ。
そして――ギンガに視線を向け、告げる。
「ギンガ!」
「は、はい!?」
「聞いての通りだ。
オレはコイツをブッ倒す。
アリシアはオレを手伝いに来てくれた。
スバルは『帰りたい』って言った。
そしてギガトロンはそれを許すつもりはない。
ここにいる5人、その内の4人が“道”を決めた――残りはお前だ。
さて、お前はどうしたい?」
「え………………?」
ジュンイチによって向けられた問いに、ギンガは思わず身を起こすギガトロンへと視線を向けた。
一撃を許したと言っても、ギガトロンの力は強大だ。いくらジュンイチがパワーアップを遂げたとしても、果たして勝てるかどうか――
「言っとくけど、『ムチャだ』とか『勝てっこない』とかいう意見なら全部却下だからな。
もちろんさっきゴネた理屈も全部だ――とっくに全否定してやったんだ。今さらさっき言ってたことなんか繰り返したって聞く気はねぇぞ」
だが、そんなギンガの思考はすでにジュンイチによって読まれていた。その言葉によってあっけなく封じ込められる。
「オレが聞きたいのは――本当の意味で、“お前がどうしたいか”なんだよ」
言って、ジュンイチは油断なくこちらの様子を伺うギガトロンをにらみつける。
「心配しなくてもオレは負けない。
ギガトロンに勝って……こいつの“道”を叩きつぶして、必ずここから連れ出してやる。
もちろん、この先お前らを狙ってくるヤツらからも守ってやる。
お前が望んでることがあるなら――オレの全力で叶えてやるさ」
その言葉に――ギンガは改めて感じた。
迷いのないその視線が――力強いその言葉が、自分の中に、強い安心感を与えてくれる。
『絶対に大丈夫』だと確信させてくれる。
だから――
「……わたしも、帰りたい……!」
いともたやすく、本心を引きずり出されてしまう。
「スバルと一緒に、帰りたい……!
お父さんや……お母さんや……」
「ジュンイチさんのところに、帰りたい!」
「……お安い御用だ」
ようやく聞けた本音に、ジュンイチは満足げにうなずき――
「いつまでくだらないことをほざくつもりだ?」
そんな彼に、ギガトロンが怒りの声を上げた。
「確かにそれなりの強化は遂げたようだが……今の一撃で大体は知れた。
その程度で、このオレに勝てるとでも思ってるのか?」
「思ってるさ」
あっさりと答える――“鬼刃”をかまえ、ジュンイチはギガトロンに向けて告げる。
「お前を倒す。
スバルとギンガは返してもらう――」
「そのための、“精霊獣融合”だ」
ジュンイチ | 「スカイクェイク……じゃねぇ、今はデスザラスだっけか。 気分良く戦ってるトコ悪いんだけど、その悪役丸出しのボディデザイン何とかならないか? せっかく“セイギノミカタ”側の参戦なんだからさぁ」 |
デスザラス | 「何を言っている! これこそ真の武人の出で立ち! 敵を恐怖させ、味方を鼓舞するこの迫力! お前にはこの良さがわからないのか!?」 |
ジュンイチ | 「いや、オレはいいんだけど…… スバルがお前見たら怖がって大泣きしそうでさぁ……」 |
アルテミス | 《確かに……女の子受けする見た目ではないですね……》 |
デスザラス | 「アルテミス、お前もそういうことを言うのか!?」 |
ジュンイチ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Galaxy Moon〜異聞、 第13話『オレが“暴君”である限り』に――」 |
3人 | 『《ブレイク、アァップ!》』 |
(初版:2008/02/16)