時空管理局地上本部、特別医療施設・集中治療室――かつてギガトロンに敗れた際、手当てのために運び込まれたその部屋に、ギガトロンとの戦いを終えたジュンイチは再び収容されていた。
確かに、今回の戦いで受けた傷も前回のそれと遜色ないほどの重傷ではあるが、前回と違い意識を失わずにすんだ自分を集中治療室に放り込むのはいかがなものか――そう考え、一般病棟入りを提言したジュンイチだったが、その意見はあえなく却下された。
おそらく前回脱走を試みた“前科”から、より出入りの管理が徹底しているこの部屋が選ばれたのだろう。実際にやらかした立場上あまり強く言うことも出来ず、ジュンイチは最終的にはおとなしくこの部屋に入院、傷の治療にあたることとなった。
そして、その部屋で――
「………………なるほどね。
キミの身体の状態については、おおむね把握したわ」
ジュンイチから彼の身体の状態について説明を受け、クイントは重々しくうなずいて見せた。
戦いの事後処理も大体の部分が済み、ジュンイチはクイントとゲンヤを呼び出してもらい、自身の身体について“どういう状態”にあるのかを改めて説明したのだ。
ちなみに、スバルとギンガは病院の庭でブイリュウと遊んでいる――先程ブイリュウの悲鳴が聞こえた気がしたが、とりあえず無視を決め込むことにする。
「メディカルチェックを嫌がるワケだ……
遺伝子レベルで変化してるんじゃ、一発で普通じゃねぇのがわかっちまう……」
そんなクイントのとなりで、ゲンヤはジュンイチの身体についてのデータ(ジュンイチが端末を借りてまとめてくれた)に目を通していたが、不意に顔を上げ、尋ねる。
「で…………元の身体に戻るあてはないのか?」
「ないね」
あっさりとジュンイチはそう答えた。
「オレの、元の身体の時の遺伝子データがあれば、まだ目もあったんだろうけど……もう、そのデータも残ってない。
どんなに腕のいい修理工も、元の形を知らなきゃ直しようがない――それと同じだよ」
言って、ジュンイチは自らの右手へと視線を落とし、
「心配しなくても、この身体とは一生つき合っていくつもりさ。
少なくとも――オレが“オレ”でいられる内はね」
「…………そうか」
ジュンイチの言葉にゲンヤがうなずくと、そのとなりでクイントが口を開いた。
「ゴメンね……
あまり、話したい話題じゃなかったんじゃない?」
「オレなりに筋を通しただけだよ」
あっさりと答え、ジュンイチは肩をすくめてみせる。
「ギガトロンの小細工の結果とはいえ、オレはスバルとギンガのことを知っちまった。
アイツらのことを知らされてもオレのことを話さない、っつーのはフェアじゃない」
「なるほどな」
“つき合うからには対等”を心がけるジュンイチらしい考え方だ――思わずゲンヤが苦笑すると、そんな彼に今度はジュンイチが尋ねた。
「それで……ギンガ達とは?」
「あぁ、ちゃんと話をしたよ」
ゲンヤの苦笑は変わらないが――答えるその口調はどこか楽しそうだ。
「こっちとしちゃ、少なからず引け目はあったんだがな……逆にギンガから説教されちまったよ。
『家族は血じゃなくて心でつながるものだ』ってな――お前がアイツに言ったセリフなんだって?」
「あんにゃろめ、勝手に人のセリフを……
著作権料とってやろうか」
「コラコラ、義妹相手にカツアゲを画策しないの」
「言った後で後悔してんスよ。クサいセリフを吐いた恥ずかしさで。
ンなセリフを引用されたんだ――そのくらいの仕返しはさせてください」
すかさずツッコむクイントの言葉に、ジュンイチはそう答えて口を尖らせる。
と――その時、病室のドアがノックされ、
「失礼します……
……あら、ナカジマ隊長達もいらしたんですか」
入室と共にゲンヤとクイントに気づき、リンディは二人に対して一礼してみせた。
エピローグ
「これからも、家族で……」
「一週間の捜索の結果、装甲材の残骸はいくつか見つかったけど……結局、ギガトロン自身は行方不明のまま……
この件は、被疑者死亡のまま処置されることとなったわ」
「そっスか」
すでに予測していたのだろう。リンディに答えるジュンイチの言葉はあっさりしたものだった。
と――そんな彼らの会話にゲンヤが口を挟んだ。
「それで……ジュンイチ達はどうなる?」
彼が気にしているのはジュンイチ達の今後――“元”とはいえ大帝級のトランスフォーマーであるギガトロンやその軍勢を相手にあれだけの大立ち回りを演じたのだ。コトが公になれば、上層部の中にもその力に目をつける者が現れないとも限らない。
できることならジュンイチや恩人であるイクト達を厄介ごとに巻き込みたくはないのだが――そう考えるゲンヤだったが、
「何もないわ」
そんなゲンヤに対し、リンディはあっさりとそう答えた。
「どういうことですか?」
「……ジュンイチくん達は、今回の件の中心にはいない――そういうことですよ」
聞き返すクイントに対しても、リンディはやはり平然とそう答えた。
「今回の件は、最初こそジュンイチくんを狙って動いていたギガトロンだけど、最終的には私達全員に戦いを挑んだようなものだもの。
ジュンイチくん達は、戦いを挑まれた中のひとり……そうは見られないかしら?」
その言葉に、クイントはゲンヤと顔を見合わせ――
「…………ジュンイチくん……」
「お前の差し金だな?」
「『差し金』とは失敬な。正解だけど」
同時に自分へと視線を向け、尋ねる二人に対し、ジュンイチは悪びれることもなくそう答えた。
「身に合わない袈裟だったとはいえ、ギガトロンは大帝を名乗るだけの“力”だけは持ってた……それを一個人が倒した、となれば、サイバトロンはともかく管理局の上の方がどんな目を向けるか、だいたい想像はつくからな。
だからリンディさんに頼んで、オレ達のことは極力表に出さないように配慮してもらったんだ――本来はオレが手を打ちたいところだけど、ここに隔離されてちゃどうしようもないからね。
ちなみに筋書きはリンディさんのアイデアだよ」
「そうだったの……」
ジュンイチの説明に納得すると、クイントはリンディへと向き直り、
「すみません、リンディ提督……
なんだか、余計な手間を取らせてしまったようで……大変だったんじゃないですか?」
「まぁ、確かにウチの艦で執務官をしている息子には小言を言われちゃいましたけど……」
頭を下げるクイントに対し、リンディは苦笑まじりにそう答え、
「この手の件に関しては、私にとっても他人事とは言えませんから……」
そう答えるリンディの脳裏をよぎるのは、つい先日まで共に戦っていた、まだ幼き魔導師の少女達――
高い才能を持っていた彼女達ならば、管理局に入れば輝かしい実績を残していけるだろう――しかし、彼女達は入局前から名前を知られすぎてしまった。このまま素直に入局を許しても、出世欲にまみれた汚い大人達の権謀術数の渦に巻き込まれてしまうのは目に見えている。その才を疎むにせよ利用しようとしているにせよ、彼女達にいい影響を与えないことは明らかだ。
だから、自分達は彼女達の局入りを阻んだ。彼女達がその才を活かせる場への道を閉ざすしかなかった。
リンディがジュンイチの提案に乗ったのも、そうした経緯があったからで――
「…………ん?」
そんな中、ふとゲンヤはあることに気づいた。ジュンイチへと視線を戻し、たずねる。
「おい、ジュンイチ……
『オレ“達”のことは』って、まさか……?」
「あぁ。
ブイリュウはもちろん、ブレードやイクトについても同じような処置をお願いしたよ」
ゲンヤの問いに、ジュンイチは当然のことのようにそう答えた。
「まぁ、オレ的にはブレードやイクトは立場上“敵”だから、どうなろうが知ったこっちゃない――二人をスケープゴートにして、自分達だけ身を隠す、ってのもアリだったんだけど……ブレードはあんな性格だし、イクトに至っては瘴魔の指揮官だ。
そんな二人を“表”に出してもロクなことになりそうにないから、オレと一緒にごまかしてもらったんだよ」
そう説明し――ジュンイチは何かに気づいて動きを止めた。振り向き、リンディに尋ねる。
「そーいやリンディさん。
アイツら二人……今どうしてるの?
イクトは無傷だったし、ブレードももう退院してるだろ?」
「あぁ、あの二人なら……」
「ぅおぉらぁっ!」
咆哮と共に刃を一閃。力任せの一撃を受けた局員が衝撃に耐え切れずに宙を舞う。
大地に叩きつけられ、さらにゴロゴロと訓練場を転がっていく局員にはすでに興味を示さず、ブレードは斬天刀を肩に担いだ。
「オラ、次のヤツ、誰かいねぇのか?」
グルリと見回すブレードだったが、周囲で今の模擬戦を見守っていた局員達は気まずそうに視線を交わすのみだ。
「ンだよ……根性ねぇな。
人がせっかく訓練の相手をしてやろうってのに」
そんな局員達の様子に、ブレードは退屈そうにため息をつき――
「まぁ、そんなワケだ。
いい加減、あんたが相手してくれねぇか?」
「最初からそれが目当てで来たんだろうに、よくも言う」
ブレードの言葉に苦笑し、ゼストは自らの槍を手にして彼の前に進み出る。
「そうこなくっちゃな。
最初から全開でいくぜ! 死にたくねぇなら本気になりな!」
ようやく待ちこがれた相手との対戦だ。うれしそうに告げると、ブレードは楽しそうに斬天刀をかまえ、ゼストへと襲いかかる――
「やれやれ、相変わらず騒がしい男だ……」
そんな光景も、彼をよく知る者からすれば“いつものこと”でしかない――ブレードの繰り出す強烈な斬撃をゼストが受け流す光景を前に、イクトはため息まじりにつぶやいて――
「そう言うキミも、ごくごく自然にここに馴染んでるじゃない」
「おとなしくしているだけだ」
ツッコんでくるその言葉に、イクトはあっさりとそう答え、
「第一、それは貴様もだろうが。
貴様のいる本局とここの部隊を始めとした地上部隊は仲が悪いと聞いたが?」
「個人的な付き合いは、その限りじゃないでしょう?」
反撃とばかりに告げるイクトにも、レティはあっさりとそう答える。
せっかくの反論も不発に終わり、イクトは憮然とした表情でブレードとゼストの模擬戦へと視線を戻し、
「それにしても、のん気なものだ。
ブレードは、強い相手となれば誰彼かまわず戦いを挑む戦闘狂、オレは元の世界では人間に敵対する瘴魔を率いる神将の長……そんな連中を、よく平気で野放しにしていられるものだ」
「だって、キミ達はまだ、ミッドチルダでは何もしていないでしょう?」
しかし、イクトのその言葉に対し、レティは笑顔でそう答えた。
「私達が相手をするのは基本的に次元犯罪や管理世界内の犯罪だけ――管理外世界の事件については、複数の次元世界を又にかけて展開されるものや、魔法や“古代遺物”の流入によって起きたような事件にしか介入を許されていないの。
キミ達が元の世界でどれほどの悪人であろうと、こちらの世界で何もしていないのであれば、それを裁くのはあくまでもキミ達の世界の問題。私達には関与する権限はないわ――裁く罪があるとしても、せいぜい管理外世界からミッドチルダへの無断渡航くらいかしら」
「なるほどな……」
「だから、私達にとって、キミは“瘴魔神将”である前に“ひとりの人間”の――」
相づちを打つイクトにそう答えかけ――レティは不意に動きを止めた。どうしたのかと見返してくるイクトの目の前でしばし考え、
「…………ゴメン、本名、何ていったっけ?」
「……会話の流れが台無しだな……」
バツの悪そうに尋ねるレティの言葉に、イクトはため息まじりにつぶやいて――
「……炎皇寺、往人だ」
苦笑と共に、そう答えた。
「ふーん……
ま、とりあえず帰るまでおとなしくしててくれればそれでいいや」
「ブレードの場合、『おとなしくしてる』って言えるのか……?
一昨日はウチの部隊で大暴れしてたぞ、アイツ」
「してるしてる。
本来のアイツ、もっと手当たり次第なんだから」
“おとなしくする”どころか、むしろあちこちにケンカを売り歩いているのだが――ここ数日のブレードの素行を思い出し、思わずうめくゲンヤに対し、ジュンイチは笑いながら手をパタパタと振ってそう答える。
と――突然クルリと振り向き、ジュンイチはリンディに尋ねた。
「でもって、リンディさん……
“もう一件”の方については、どうなったんスか?」
「………………?
“もう一件”?」
思わずクイントが聞き返すと、ジュンイチはため息をつき、
「あんねぇ……ついこないだ、この部屋でゼストのオッサン達とやり合ったの、もう忘れたの?
さすがにこっちはパンピーの目撃者が多かったからね……ごまかしようがなかったから、観念してリンディさんに送検をお願いしたんだよ」
「それって――」
ジュンイチが処罰される、ということではないか――思わず腰を浮かせかけたクイントに対し、ジュンイチは手をかざしてそれを制するとリンディへと視線を戻した。
「最終的には、オレは自分の意思でここに戻ってきた――扱いとしちゃ、自首扱いになってるはずだ。
でもって、あの乱闘のそもそもの原因がギンガ達の救出方針を巡る対立だったことを考えれば、情状酌量もそこに加味されたはず……
違います? リンディさん♪」
「…………キミの場合、全部計算ずくで動いていそうで怖いわね……」
含みのある笑みと共に告げるジュンイチの言葉に苦笑し、リンディは軽く肩をすくめてみせる。
「ジュンイチくんの言う通りよ。
いろいろと減刑の要素があったから、1ヶ月の保護観察、って形で決着したわ」
「やれやれ、また保護観察っスか」
「そう言うな。
実刑が下るよりもマシだろう?」
「それはそうだけどさ……」
ゲンヤの言葉に、ジュンイチは口を尖らせ、
「けど、前回も保護観察で、今回も保護観察だよ。
ぶっちゃけ飽きた。芸がないでしょ。芸が」
「いや、飽きられても困るし、芸を求められても困るんだけど……」
「心配無用。
ツッコミ狙いで言ってる」
肩をコケさせるリンディに答えると、ジュンイチはため息まじりに肩をすくめ、尋ねた。
「で――保護観察官は?」
そんな彼の問いに――リンディは答えた。
「そんなの……もう想像はついているんじゃないかしら?」
そんなやり取りから、2ヶ月の時が流れ――
〈今回はご苦労様〉
「ホントに『ご苦労様』だったよ」
第97管理外世界、地球――東京郊外のとあるビルの一室で、ジュンイチは通信ウィンドウの中で笑顔で告げるレティに対して不機嫌そうにそう答えた。
なぜ彼がこんなところにいるのか? それは、再度の保護観察が終わろうとしていた頃、ジュンイチへと持ち込まれたある“依頼”が原因で――
「とりあえず、いろいろと裏から政治・経済両面に手を回して、ミッドや管理局、魔法のことについては97管理外世界の地球じゃ極秘扱い。民間には知れないよう手は打った。
トランスフォーマーの存在がうまくカモフラージュとして機能しててくれるし――匿名とはいえ、それぞれの利害がうまくけん制し合うように仕向けたから、理をもって説くよりは効果が上がるはずだ」
そう。ジュンイチの持つ智謀、智略に目をつけたレティは、彼を第97管理外世界の地球における、ミッドとベルカ、両魔法の情報が社会に流出することを防ぐ監視役に抜擢したのだ。
間違いなく長期の依頼になる。本人は当然不服を申し立てたが――この仕事をこなす上で、ジュンイチが最適であることは誰の目にも明らかだった。レティだけでなくゲンヤ達からも薦められ、結局ジュンイチが陥落するのに大した時間はかからなかった。
もちろん、「保護観察が終われば元の世界に帰って決着をつけられる」と期待していたイクトやブレードは憤慨したが――レティに「だったら代わりにやる?」と言われたとたんにあっさりと裏切ってくれた。今頃は元の世界でおとなしく(?)暴れていることだろう。
「まぁ、しばらくは滞在して、明かそうとしたり、魔法の力を悪用しようとするバカが出ないか監視しようと思うけど……」
〈じゃあ、しばらくはそのままなのはさん達の世界に?
そっちではどこに滞在を?〉
「東京近郊にアジトを用意した。
故郷の次元世界じゃ近辺で暮らしてたから勝手も知ってるし、何より日本が誇る中心地だからな。情報集めにゃ立地条件が整ってる」
〈そう……手間をかけさせるわね〉
「そう思うんならオレを引っ張り出さないでくれ。
オレはよその管理外世界の生まれだぞ。『次元世界は違っても同じ地球出身でしょ♪』とか言って引きずり出しやがって。
こっちだってこっちの戦いってもんがあるんだ。ゲンヤのオッサンの口ぞえがなかったら焼かれてたよ、レティさん」
〈それは幸運だったわね〉
「…………今すぐにでもそっち行って焼いてやろうか」
まったく悪びれた様子もなく告げるレティに、ジュンイチは声を震わせてうめくが――
〈こちらはもちろん大歓迎よ。
あなたから来てくれるなら“交渉”もしやすいし〉
「だぁかぁらぁっ! 何度誘われようと、オレは管理局なんざまっぴらなんだよ!
それでなくてもゲンヤのオッサンの方断るのに毎回難儀してるのに!」
レティの言葉に対し、ジュンイチはイスを蹴って立ち上がり、力いっぱい反論する。
「アンタといいリンディさんといいオッサンといい、管理局の上層部はスカウト魔の巣窟か!?」
そう――あのギガトロンとの戦い以降、ジュンイチは知人の管理局幹部からひっきりなしに勧誘を受けていた。
特にゲンヤからは“家族”として認められている分さらに熱烈だ。ゲンヤとしては、ギンガやスバルになつかれている彼を手放したくないのだろうが――すでにこちらとしても縁を切るつもりなどない。そんなことをされても正直困る。
「ったく……
とにかく、依頼は果たしたからな――ゲンヤのオッサンにもよろしく言っといてくれ」
〈あら、あなたが連絡すればいいのに〉
「そうもいかねぇよ」
告げるレティに、ジュンイチはため息をついてそう答え、
「あくまでプライベートな線での依頼だったんだ。仕事中に連絡するワケにもいかねぇでしょ。
となりゃ。当然課業後になるけど――オッサンちに連絡すると娘っ子どもがうるせぇ」
〈なつかれてる証拠じゃない〉
「やかまし。
話がややこしくなるだけだ」
レティに即答するジュンイチだが――言葉に反してその表情はまんざらでもなさそうだ。レティもまた、そんなジュンイチの心情はすでに見透かしている。意味ありげな笑みと共にそんなジュンイチを見守るのみだ。
「っつーワケでオレはゲンヤさんには報告しない。後はヨロシク」
〈えぇ。
それじゃあ、そっちも大変だろうけどがんばって。
何だったら、神のご加護でもお祈りしましょうか?〉
「神サマっつってもプライマスだろ? あんな超弩級をこんな細かい仕事であてにできるか」
相変わらず、相手が神様であろうと容赦がない物言いだ――そんなジュンイチに、レティは笑顔で告げた。
〈それじゃあ……気をつけてね〉
「らしくねぇな。リンディさんと肩を並べる敏腕提督と言われる御方が」
〈そうね。
あなたに気遣いは無用ね――“ブレイカーズの黒き暴君”殿には♪〉
「そういうこった♪」
レティに答え、ジュンイチは通信を切り――つぶやく。
「もっとも……『オレから連絡する必要がない』って理由もあるんだけどさ」
肩をすくめながらそう告げて、ジュンイチは視線を動かし――予備として用意していたもう1基の通信端末へと向き直った。
呼び出しを示す赤色のLEDが点灯しているのを見て、苦笑しながら通話ボタンを押し――
〈ジュンイチさん!〉
「おぅよ」
同時、展開されたウィンドウいっぱいに現れたスバルの笑顔を前に、ジュンイチは軽く手を挙げてそう応じた。
「しっかし、お前らもマメだねぇ。毎日連絡をよこしやがって」
〈えへへ……♪
だってお話したいもん!〉
〈家族ですから、当たり前です♪〉
ジュンイチの言葉にスバルが、そしてその傍らから姿を現したギンガがそう答え――
「あー!
スバル、ギンガ、1日ぶり!」
〈ブイリュウ、1日ぶりー!〉
〈こんにちは、ブイリュウくん〉
部屋に入ってくるなりウィンドウ内のスバル達に気づき、声を上げるブイリュウに対し、スバルとギンガも元気に答える
「二人とも、今日も1日、ちゃんといい子にしてた?」
〈うん!〉
〈はい!〉
「うんうん、よろしい♪」
元気にうなずく二人に対し、すっかりお兄ちゃん風を吹かせているブイリュウは笑顔でうなずき、
「悪い子にしてると、ジュンイチがオシオキに行くかもよ?
“精霊獣融合”して、『悪い子はいねがぁっ!』って」
「オーグリッシュ・フォームはなまはげじゃねぇ」
絶妙なタイミングでツッコミを入れ、ジュンイチはブイリュウの頭に軽くゲンコツを落とす。
「で? 何の用だ? ブイリュウ」
「うん……コレ」
気を取り直し、尋ねるジュンイチにそう答えると、ブイリュウは数枚のA4用紙を差し出した。
受け取り、1枚目に軽く目を通し――ジュンイチの表情が変わった。思わずイヤそうな顔でため息をつく。
〈どうしたの?〉
〈お仕事の方で何かあったんですか?〉
「んにゃ、レティさんからの“仕事”とは別だよ」
そんなジュンイチの態度に不安を抱き、心配そうに尋ねるスバルとギンガに対し、ジュンイチは二人を安心させるように笑顔で答える。
「ちょっと、ご近所で悪いコトしようとしてる人達の情報を拾っちゃってね……
まぁ、ネットワークをずっと見張ってるワケだから、仕方ないことではあるんだけど……」
言って――ジュンイチはウィンドウの中のスバルとギンガが何やらワクワクしながらこちらを見ているのに気づいた。
「……あんだよ?」
〈悪い人、見つけたんでしょ?
だったら、お兄ちゃんのすることはひとぉつ!〉
思わず尋ねるジュンイチだが、そんな彼にスバルは元気にそう答える。
「おいおい、やっつけに行ってこいってか?
お前らをいぢめたワケでも、オレにケンカ売ってきたワケでもねぇんだぞ。
正直、ツブしに行く理由がねぇんだけど」
〈じゃあ、行かないんですか?〉
「む…………」
すかさず切り返してきたギンガの言葉に、ジュンイチは思わずうめいた。
〈私の知ってるジュンイチさんは、そういう人達が周りで誰かを泣かすのを、放っておける人じゃないですよね?〉
〈やっちゃえ、お兄ちゃん!〉
「ぐぅ…………!」
ギンガに理詰めで、スバルにストレートにそう言われ、二面口撃にさらされたジュンイチは反論もままならず――
「……わかりました。
悪い人達に“オシオキ”しに行ってきます」
結局、成す術なく白旗を掲げるしかなかった。
「コイツら、まだガキの内からいらん知恵を……!」
「間違いなくジュンイチの影響だと思うけど――むぎゅっ!?」
余計なことを言ったブイリュウは容赦なく踏みつける。
〈お兄ちゃん、ガンバ!〉
〈やっぱり、そうじゃなきゃジュンイチさんじゃないです。
わたし達のお兄さんは、悪い人達をやっつけるヒーローなんですから♪〉
「へぇへぇ、わかりましたよ」
そんなこちらの気持ちを知ってか知らずか、笑顔でエールを送ってくれるスバルとギンガに、ジュンイチはため息まじりにそう答え――
「ただな、ギンガ……
ひとつだけ、言い直させてくれ」
そう言って、ジュンイチはニヤリと笑い、告げた。
「オレは“ヒーロー”じゃねぇ。
お前らのために戦う“暴君”で――」
「お前らの“家族”だよ♪」
“暴君”爆誕編:完
???? | 「みんな、元気!? 次回からはいよいよ、『とらハ』界No.1裏ヒロインのあたしが登場よ!」 |
ジュンイチ | 「お前が『No.1裏ヒロイン』……?」 |
???? | 「何よ? 文句あるの?」 |
ジュンイチ | 「文句っつーかさぁ…… その割にはお前、『リリカル』シリーズで再演できてねぇなぁ、と……」 |
???? | 「う、うるさいわね! 4期があれば、あたしだってきっと!」 |
ジュンイチ | 「出れればいいよなー♪」 |
???? | 「ムッカーっ! 何よ、その意味ありげな笑いわっ!」 |
ブイリュウ | 「……なんでもアリの予告だからって、原作の楽屋ネタはやめようよ……」 |
ジュンイチ | 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Galaxy Moon〜異聞、 第14話『危険な拾い物』に――」 |
3人 | 『ブレイク、アァップ!』 |
(初版:2008/03/01)