白いバンダナを額に巻き直し、赤いシャツの上からバンダナと同じ白い道着を身にまとう。
 両手首に巻いた白いリストバンドの位置を直すと、左手のリストバンドの上に腕時計型の専用端末“ブレイカーブレス”を着ける。
 鉄骨仕込みの白いブーツをはき、つま先でトントンと地面を叩いて位置を合わせる――
「……うし、準備完了」
 普段着を兼ねた道着姿――双子の弟とおそろい、ただし色違いのコスチュームを身にまとい、鷲悟は第三アリーナ・Aピットにて姿見を前にクルリとターン。服装や装備におかしなところがないかチェックする。
 と、そんな彼の元に、真耶を連れた千冬がやってきた。
「ルールを確認するぞ。
 基本、ISバトルは相手のシールドエネルギーを0にすれば勝ちだ――つまり、柾木はオルコットのISのシールドエネルギーを0にすれば勝ちとなる。
 だが、柾木の装備にはシールドエネルギーの概念はない。そこで、今回柾木についてはこちらで仮想のシールドエネルギーを設定し、受けた攻撃の威力に応じ消耗を算出、その値が0となったら負けとする」
「ノックダウン負けでかまわないのに……」
「だ、ダメですよ。
 ISの武装は、操縦者が“絶対防御”で守られるのを前提にかなりの高威力のものが使われています。“絶対防御”なしで受ければ、ただじゃすみませんよ」
 自分は実戦同様のルールでかまわないのだが――そんな不満と共に肩をすくめる鷲悟に対し、真耶があわてて声を上げる。
「“絶対防御”……ISの搭乗者を危険から守るための、シールドバリアとは別個の高強度防壁、でしたっけ」
「あぁ。その解釈でだいたい正解だ。
 この“絶対防御”のおかげで、搭乗者はISを大破させられるようなダメージを受けてもほぼ無事が約束されている。
 ただ、エネルギー消耗が激しく、発動させられれば一気にシールドエネルギーを持っていかれる……
 つまり、ISバトルにおいて勝つための一番の近道は、相手のISの“絶対防御”を発動させること……ということになる」
 確認する鷲悟に千冬が答えると、
「鷲悟……本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。任せなさい♪」
 声をかけてきたのは一夏だった――彼についてきた形で箒もいる。
「ま、心配しないで見てなよ。
 代表候補生が、たかだか“候補”にすぎないってことを証明してやるからさ。
 ついでに……」











「のぼせ上がったあのたかびー嬢ちゃんを、少しは反省させてやっからさ♪」

 

 


 

第2話

鷲悟初陣!
激突・蒼き雫と黒き竜

 


 

 

「………………バカにしていますの?」
 ピットゲートから姿を現した鷲悟を前に、セシリアがそううめいたのもムリはない。
 なぜなら――鷲悟は武装もせず、生身のままで、歩いてアリーナに足を踏み入れてきたのだから。
 対する自分はすでに専用IS、ブルー・ティアーズを展開、装着し、戦闘準備は万端だというのに――
「まさか、このわたくしのブルー・ティアーズを相手に、生身で勝てるとでも?」
「まっさかー。さすがにそこまでうぬぼれちゃいないよ」
 セシリアの問いに、鷲悟は笑いながらそう答える。
「ただ……ちょうどいいから、確かめてみようと思って。
 オレ自身の力が、IS相手にどこまで通用するのか……ね。
 だから安心していいよ。『危ない』と思ったらいつでも着装……あ、お前らの言い方だと『展開』か、とにかく武装するからさ」
 鷲悟の呼び方が「オルコットさん」から「お前」にシフトしている……水面下で鷲悟の意識が戦士としてのそれに切り替わっていることに、セシリアは気づくことができないでいる。
 だから――こんな発言も出る。
「わたくしは、あなたの今の実力を測るためのものさしというワケですのね……
 どちらにしても、なめられたものですわね!」
 言うと同時、セシリアは主力武器、67口径特殊レーザーライフル“スターライトmkV”の銃口を向けた。
 あえて一拍おいた後、トリガーを引く――ただ脅かすだけのつもりの、回避を前提として放ったけん制の閃光が鷲悟へと迫り――







 パンッ!と音を立てて弾かれた。



 鷲悟の――











 無造作に払った右手によって。











「な………………っ!?」
「何驚いてんのさ?」
 まさか生身の腕で弾くとは――驚くセシリアだったが、当の鷲悟は平然とそう聞き返してきた。
「まさか、生身だから防御できないとでも……他に防御手段がないとでも思ってた?
 それこそナンセンスだね。“武装してない”のと“防御できない”のとは意味が違うでしょうが」
「だからと言って、生身の腕で弾くなんて……」
「そこまでは読めなかったとしても、他に防御の手段があると考えることはできたはずだよね?
 フル装備のお前を前にして、あえて生身で出てきたんだ。『何か裏がある』『生身で出てきても大丈夫だから生身で出てきた』と考えておくべきだったんだよ、お前はね。
 そして――それは防御だけじゃない。攻撃においても同じことが言える」
「“武装してない”のと“攻撃できない”のとは意味が違う――ですか?」
「理解が早くて助かるよ」
「えぇ、よくわかりましたわ。
 生身だからどうこう、という考えは――捨ててもかまわないということが!」
 その言葉と同時、セシリアのIS、その両翼――非固定浮遊部位アンロック・ユニットの一部が分離した。それ自体が飛翔し、鷲悟へと襲いかかる。
「ビット兵器――っ!?」
 驚きながらも身体は動く。とっさにビット――セシリアのISの名前の由来ともなったオールレンジ兵装“ブルー・ティアーズ”の放ったレーザーをかわし、続けてこちらを狙ってくるスターライトのビームも回避する。
「さぁ、踊りなさい。
 わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲ワルツで!」
円舞曲ワルツときたか……悪くないね!」
 セシリアに答えて、鷲悟は体勢を立て直し、
「けどさ……社交ダンスなんて、ガキの頃に習ったっきりでね――悪いけど、エスコートをお願いしようか!」
「えぇ、よくってよ!」
 セシリアが答え、ビットが一斉に動いた。鷲悟の周りを目まぐるしく飛び回り、レーザーで攻撃してくる。
 対し、鷲悟は軽快なステップでそれらの攻撃をかわしていく。セシリア自身もスターライトで狙ってくるが、鷲悟はものともしていない。
「なかなかすばしっこいですわね……
 けど、どこまでしのげるかしら!?」
 しかし、セシリアもまた、余裕の態度を崩してはいなかった。
(いくらビームを防げても、仮に攻撃手段があったとしても……)
「飛べなくては、どうしようもなくてよ!」
 そう。ISは宇宙での活動を想定したシステムであり、当然ISバトルも空中戦が主体だ。飛べない鷲悟に、空を舞う自分を攻撃することはできない。
 それに、回避などで大きく跳躍すれば空中で身動きがとれなくなる。そうなれば自分にとってはいい的だ。
 足元を狙ってジャンプで回避させ、空中で身動きのできない鷲悟を叩く――それがセシリアの筋書きだった。
「――もらいましたわ!」
 そして、そのチャンスは早速訪れた。足元を狙ったスターライトの狙撃をかわし、空中に跳んだ鷲悟に向け、ビットの狙いを定める。
「これで終わりですわ!」
 ビット4機で四肢をつぶす。生身では大ケガは免れないだろうが、向こうもそれをわかった上で生身で出てきているのだろう。自分をなめて生身で挑んできた代償と思ってもらおうと自らを納得させる。
 勝利を確信したセシリアの指示で、4機のビットが一斉にビームを放ち――







 かわされた。



 鷲悟が――











 “空中でさらに上昇したことによって”。











「な………………っ!?」
「おいおい、何呆けてんの?
 これじゃさっき攻撃を防いだ時と同じじゃないのさ」
 予想外の動きに目を見張るセシリアに、鷲悟は空中に身を留めたまま答える。
「オレ、言ったよね? 『“武装してない”のと“防御できない”のとは意味が違う』って。
 お前、言ったよな? 『“武装してない”のと“攻撃できない”のとは意味が違う』って。
 それと同じだ――『“翼がない”のと“飛ぶ方法がない”のとは意味が違う』んだよ」
「あ、あなた……超能力者か何かですの!?」
「んー、似たようなものだけど、ちょっと違うかな?」
 戸惑うセシリアに答え、鷲悟はセシリアに向けてかまえ、
「とりあえず……今語れるのはそのくらいさ。
 この先を知りたいのなら、方法は二つ。
 “終わってから聞く”か……“戦いの中で気づくか”だ」
「……いいですわ。
 では……終わった後、保健室でゆっくり説明していただきますわっ!」
「あぁ、いいぜ。
 どっちが“担ぎ込まれる側”かは、意見の分かれるところだけど……ねっ!」
 言って、鷲悟が突撃し、セシリアの指示でビットが飛翔する――放たれるビームの雨をかいくぐり、鷲悟はセシリアとの距離を詰めていく。
「く…………っ! すばしっこいっ!
 ISもなしに、こんな機動ができるなんて……っ!」
「おほめに預かり、恐縮至極っ!」
 舌打ちするセシリアに答え、鷲悟はさらにビームをかいくぐる。
 その動きはビットの機動を完璧に把握している。これは――
「あなた――初めてではありませんわね、ビット兵器との戦いは!」
「ご明察っ!
 身内に使い手がいてね――しかもっ!」
 セシリアに答え――鷲悟は一瞬にして反転、死角から自分を狙ったビットのビームを回避する。
「アイツはお前よりも大量に操りやがるしっ!」
 さらにもう一機のビームもかわし、
「キレだって、ずっと鋭いっ!」
 三機目の放ったビームを右手の一振りで弾き飛ばす。
「そして何より――
 アイツは、自分も動きながらビットも操れるっ!」
 そう。鷲悟がセシリアを翻弄できている、その最大の理由がそれだ。
 セシリアのビット“ブルー・ティアーズ”はセシリアが指示を下さなければ動かない。しかも、その間は制御に集中するセシリアの動きが止まる――つまり、“どちらか一方しか動けない”。付け入るスキなど、いくらでもあろうというものだ。
 そして――
「もらいっ!」
 最後のビットのビームも回避し、鷲悟はついにセシリアを間合いに捉えた。
 セシリアのライフルの照準も間に合うタイミングではない。先制打は鷲悟か――鷲悟本人も含め、誰もがそう思った瞬間、
「――かかりましたわね」
 セシリアが笑った。
 同時、彼女のISアーマーのサイドスカートが動く。
「おあいにく様。“ブルー・ティアーズ”は6機あってよ!」
 サイドスカートの先端の砲口からミサイルが放たれた。そして――回避の間に合わなかった鷲悟を直撃した。



「鷲悟!?」
 その光景は、ピットでリアルタイムモニターを見つめていた一夏達も目の当たりにしていた。爆発の中に消えた鷲悟の姿に、一夏が思わず声を上げる。
「織斑先生……」
「黙って見ていろ」
 真耶に至っては今にも泣き出しそうだ――しかし、千冬はあっさりとそう答えた。
「忘れたか?
 柾木はまだ“切り札を切っていない”」
 やがて、煙が晴れていき――千冬は不敵な笑みと共につぶやいた。
「しかし、このタイミングでお披露目とはな……
 ムダに盛り上げすぎだ、馬鹿者が」



「やれやれ、もーちょっといけるかと思ったんだけどね……さすがに、この世界最強の兵器を相手にそれは高望みしすぎか」
 そう告げる間にも、爆発によって巻き起こった煙が晴れていく――残った煙を振り払い、鷲悟は姿を現した。
 その全身には、ISとは明らかに趣の異なる鎧が装着されている。
 半全身鎧セミ・アーマーと表現するのはためらわれる、全身鎧フル・アーマーの一歩手前というくらいに重装甲の鎧。
 両肩アーマーの先端に直結した、今は待機状態で下を向いている二連装の大型砲“グラヴィティキャノン”。
 両手に握られた二門の大型ライフル“グラヴィティランチャー”に、その両腕を守る分厚い楯“バスターシールド”。
 そして背中に装備された、待機状態で下方に砲門を向けている長砲身の大型砲“カラミティキャノン”――
「それがあなたのパワードスーツですの?」
「あぁ。“装重甲メタル・ブレスト”っつーんだ。
 固有名称は“グラヴィティ・ジェノサイダー”」
 セシリアに答え、鷲悟はグラヴィティランチャーの一方、右手に握ったそれを彼女に向ける。
「さて……踏みつぶすか」
 告げると同時にトリガーを引く――放たれた漆黒のエネルギーの渦が、セシリアに向けて襲いかかる!
「く………………っ!」
 とっさに離脱し、反撃しようとスターライトをかまえるセシリアだったが、そんな彼女に向け、今度は左手のグラヴィティランチャーで発砲。再びの砲撃がセシリアに向けて放たれる。
「ちょっ、なんて火力ですの!?」
 その威力たるや、回避してもなお衝撃が伝わってくるほどのもの――驚きながらもセシリアはビットに指示を出し、飛翔する4機のビットが鷲悟を狙うが、
「グラヴィティキャン!」
 鷲悟の両肩のグラヴィティキャノンが前方を向き、火を吹いた。放たれた漆黒の渦が空中を駆け抜け、その余波がビットを吹き飛ばしていく。
 続けてその狙いがセシリアに向く――グラヴィティランチャーとグラヴィティキャノン、さらに両腕のバスターシールドに備えられた内蔵砲までもが立て続けに火を吹き、セシリアに苛烈な砲火の嵐が襲いかかる。
 その激しさに、セシリアはまさに防戦一方。ビットに指示を下す余裕もない。
「く…………っ、なめないでいただけます!?」
 それでも、抵抗の手段は残されている――スターライトをかまえて反撃。放たれたビームを、鷲悟は砲撃を中断して回避する。
 そのチャンスを見逃すセシリアではない。すかさずビットに指示を下し、4機のビットが鷲悟を狙う。
「その重装甲で……これがかわせますの!?」
 鷲悟の装備は重装甲且つ重装備。機動性など期待できるシロモノではない。今度こそ直撃を確信したセシリアの指示で、ビットが一斉にビームを放ち――



「あらよっと」



 鷲悟は実にあっさりとその攻撃を回避して見せた。
 素早く上昇、さらにそこから左肩アーマー後部のスラスターをふかすことで身をひるがえし、次々に放たれるビームをやりすごしたのだ――身をひるがえしたきりもみ回転はまだわかるが、急上昇などはどう考えてもあの重量級装備でできる動きではない。
「なんてデタラメなっ!」
「いいかげん、オレが別規格だってのを認識しなさいって!」
 舌打ちするセシリアに鷲悟が答え、二人は目まぐるしく飛び回りながら砲火を交える。
 だが、その流れは完全に鷲悟側にかたむいている。セシリアが鷲悟の特異性に対応し切れていないのもあるが――
「火力が、違いすぎる……っ!」
 最大の問題は彼我の火力の差にあった。何しろ向こうの砲撃は近くを駆け抜けただけで強烈な余波を叩きつけてくる。おかげでこちらはその度に対衝撃防御を余儀なくされるのだ。増してや、自分でさえそうなのだからビットがフォーメーションを維持できるかどうかなど考えるまでもない。
 舌打ちし、セシリアは一旦後退。鷲悟から距離を取る――そんなことをすれば、砲撃一辺倒の鷲悟のやりたい放題を許すことになるが、あの砲撃が連射可能であることを考えると、ヘタに距離を詰めている方がむしろ危ない。回避のしやすさを優先するのは判断としては悪くない。
 それに、理由はもうひとつ――
(たとえどれだけ強力な砲撃でも、ビームである以上距離を取れば減衰して威力は落ちる!
 有効射程の外に出れば……っ!)
 距離を取って回避と防御を容易にし、“ブルー・ティアーズ”で動きを止め、まだ有効射程内であるスターライトで仕留める――そう考えるセシリアだったが、
「…………なるほどね。
 この短時間でオレの“今までの”砲撃の有効射程を見切って、その外に逃げたのは、まぁさすがだけどさ……」
 言いながら、鷲悟は地上まで降下すると右のグラヴィティキャノン、その二つ並んだ砲の間に右手に握っていたグラヴィティランチャーの銃尾を差し込み、連結した。
 左のグラヴィティキャノン、ランチャーも同様に連結すると、グラヴィティキャノンが肩アーマーから切り離された。グラヴィティキャノンを肩アーマーに留めていたジョイントを使って二つの砲を重ねるように合体させ、一 基の大型砲が完成する。
「残念ながら……この“ツイングラヴィティバスター”の前には、そこも十分射程内だっ!」
 言って、鷲悟は完成したツイングラヴィティバスターの砲口をセシリアに向けた。
 バイザーが下りて鷲悟の両目を覆うと、砲狙撃用のターゲッティングデバイスとしてセシリアに照準を合わせる。
 そうして狙いを定めている間に、ツイングラヴィティバスターも臨界へとチャージされ――
「グラヴィティ、ブラスト!」
 発射の衝撃で鷲悟の身体は大きく押し戻され、踏ん張った足がアリーナのグラウンドを抉る――放たれた漆黒のエネルギーの渦は信じられない速度で一瞬にしてアリーナを横断、セシリアを直撃した。
 シールドバリアは難なく突破され、発動した絶対防御がシールドエネルギーを大きく削っていく。
「く………………っ!
 ま、まだまだっ!」
 なんとか身をひねり、セシリアがグラヴィティブラストの火線から逃れる――目標を見失った破壊の渦はアリーナの遮断シールドを直撃。観客席を守るため強靭に構築されたエネルギー壁が大きく歪むその光景に戦慄しながらも、反撃すべくスターライトをかまえるセシリアだったが、
「残念ながら……」
 言って、鷲悟はツイングラヴィティバスターを二つに分割。両肩にマウントすると右手を地面に押し当てた。
「もう、お前のターンは回ってこないよ」
 その言葉と同時、触れられた部分の地面が消失し始めた。
 鷲悟の“力”による干渉を受け、分解されているのだ――それらはすぐに鷲悟の右手の中に収束、結合を始めた。そのまま、まるで鷲悟の持ち上げていく右手によって導かれ、足元の地面から引き抜かれていくかのように、徐々に棒状の“何か”を作り上げていく。
 最終的にそれは、独特の形状の巨大な添刃を持つ槍――“げき”としてその姿を現した。作り上げたそれを手にし、鷲悟はまるで棒切れでも振り回すかのように、右手一本で軽々と振り回してみせる。
「…………“重天戟じゅうてんげき”」
 作り上げた戟の名を告げつつ、鷲悟はその切っ先をセシリアに向け、
「さぁ……チェックメイトの時間だ。
 お前の勝利の可能性……踏みつぶさせてもらうっ!」
 そう鷲悟が告げた、その瞬間――
「きゃあっ!?」
 突然、セシリアが身にまとうISアーマーの重量が急増した。戸惑い、対応できないセシリアはそのまま地面に叩きつけられてしまう。
「こ、これは……!?」
「オレの能力だよ」
 地に倒れ伏したセシリアに答えるのは、その間に距離を詰めてきた鷲悟である。
「能力……!?
 わたくしのISを重くしたのが、あなたの――」
 言いかけて――セシリアは気づいた。



 先ほど何の装備もなしに空を飛んだこと。

 重量級とは思えない軽快な機動。

 そして、今とてつもない重量となっている自分のIS。



 それらの事実が、セシリアの頭の中でひとつの可能性を組み立てる。
「重力、制御……!?
 反重力によって生身でも空を飛び、さらに重量級の装備での高機動を実現、逆に超重力によってわたくしのISの重量を増し、動きを封じた……」
「正解」
 あっさりと鷲悟は肯定した。
「今、お前のISアーマーひとつひとつには通常の10倍の重力がかかってる。
 いくら宇宙進出を目的として開発されたISだろうが、今は地上での、1G環境下での運用を前提にしたセッティングのはずだ。高重力下環境を想定してないセッティングで、対応できる重さじゃない」
「そんな……っ!?
 ただ重力を操るだけでも考えられないのに、それを私のIS“だけ”を対象にしているといいますの……!?」
「あ、ヘタに顔上げたら……」
 倒れたまま鷲悟を見上げ、うめくセシリアに鷲悟が声を上げ――
「ぶっ!?」
「だから言ったのに……
 『“ISアーマーに”重力かけてる』って言ったでしょ――当然、そのヘッドギアの重さだって10倍になってるのに……」
 ヘッドギアの重さに負け、顔面を地面に叩きつける形になったセシリアの姿に、鷲悟は「あちゃー」と思わずため息をつくが、
「……ま、いっか。
 とりあえず……決着だけ先につけておこうか」
 気を取り直して、鷲悟はセシリアに向けて右のグラヴィティバスターの砲口を向けた。
「正解のごほうびだ――選ばせてあげるよ。
 オレに撃たれて、シールドエネルギーを0にされて終わるか、それとも自ら負けを認めて、ギブアップするか。
 自分が誇り高い負け方だと思う方で負けさせてあげるよ」
「その選択は――少し早すぎませんこと!?」
 セシリアが言い返すと同時――重力倍加から逃れていたビットが鷲悟に向けて飛翔した。放たれたビームをかわして鷲悟は後退。集中の乱れによって超重力も解除され、自由になったセシリアも再び空へと舞い上がる。
「わたくしは、負けるワケにはまいりませんの……っ!
 わたくしは、イギリスの代表候補生なんですのよっ!」
 言って、反撃とばかりにスターライトを連射するセシリアに対し、鷲悟はそれらのビームを地をすべるようなホバリング機動でかわしていく。もちろん、時折混ぜてくるビットの射撃への対応も忘れない。
「テンション盛り上がってるところを悪いんだけどさ……オレにとっては、その辺まったく眼中ないんだよね」
「なんですって!?」
 淡々と放たれたその言葉にセシリアの頭に血が上り、狙いが乱れる――そのスキをついて鷲悟は上空へと舞い上がり、
「オレは“イギリス代表候補生”と戦ってるんじゃない――」







「“セシリア・オルコット”と戦ってるんだ!」







「――――――っ!?」
 その言葉が、セシリアの中の何かを貫く――次に彼女の思考が再起動したのは、鷲悟がビットの群れに向けて両肩にマウントしたままのグラヴィティバスターをかまえたところだった。
「ひとつ、教えてあげるよ。
 この状態――シングルのグラヴィティバスター2基でさっき撃ったグラヴィティブラストを撃つとさ……拡散モードになるんだよっ!」
 告げると同時――漆黒の渦が鷲悟の前面に、かなりの広範囲に渡ってぶちまけられた。その渦に飲まれ、ビットは次々にひしゃげ、ねじ切られ、爆発していく。
 さらに、その破壊の渦はセシリアにまで届いた。逃げ場もないほどに拡散して放たれた漆黒の嵐がセシリアを打ち据え、吹き飛ばす。
 それでも、なんとか撃墜だけは免れ、体勢を立て直すセシリアだったが――

 ――警告! 敵性対象、砲撃体勢に移行。トリガー確認、エネルギー充填。

 彼女のISが警告した通り、鷲悟はグラヴィティバスターをキャノンとランチャーに分離させ、バスターシールドと併せてセシリアに狙いを定めていた。
 しかも――セシリアのすぐ目の前で。彼女が拡散グラヴィティブラストの衝撃に耐えている間に距離を詰めていたのだ。
「どうする?
 二発目は拡散だったとはいえ、オレのグラヴィティブラストの直撃を二発も受けたんだ――正直、今飛んでられること自体賞賛に値するくらいなんだけど」
「……それほどにボロボロなのがわかっていて、なおそれだけの砲をわたくしに向けるんですのね……」
「撃墜するまでは油断できないからね」
 息を切らせながら返してくるセシリアに、鷲悟は笑顔でそう答える。
「相手が戦意を失わない限り、戦いは終わらない。必ず何かをしてくる――そんな前提でいなくちゃ、相手の反撃を許して勝てる勝負も落とすことになる。
 戦いの場にいる限り、どれだけふざけた態度を取っていても、その裏では常に警戒し続けなくちゃならない――勝ちが目前だからって警戒を解くのはバカのやることさ」
 そうやって警戒を解かずにいたからこそ、さっきセシリアを重力で拘束した時のビットの反撃も回避できた――そう付け加える鷲悟の言葉に、セシリアは静かに息をついた。
 格が違う――そう思わずにはいられなかった。
 実力ではない、その在り方において、セシリアは鷲悟との間に容易には埋められない“差”を感じていた。
 自分は完全に鷲悟を侮っていた。ISに勝る力などない。代表候補生であり、専用機持ちでもある自分が負けるはずがない――そうやって相手を見下し、おごっていた時点で、自分は勝ちの目を自ら手放していたのだ。
 この結果は当然だったのだ――そう。負けて当然。
 それなのに――鷲悟はなおも自分に砲を向けている。こんな自分でも、まだ反撃の目が残されていると警戒し、確実な勝利を手にすべく攻撃の支度を整えている。
 それはつまり――
(わたくしの力なら、ここからの逆転も可能だと信じている……
 こんな驕り高ぶっていたわたくしでも、あなたのような強者に打ち勝つ道がまだ残されていると……)
 一度目を閉じ、開く――鷲悟は依然、そこにいた。
「………………先ほどの選択、答えていませんでしたね」
 さっきまでの焦りがウソのように晴れていく――スッキリした自分の中の何かに心地よいものを感じながら、セシリアは鷲悟に告げた。
「ギブアップよりは……あなたに討たれて終わる方が、誇り高い敗北と言えそうですわね」
「そっか」
「……ただし」
 うなずく鷲悟に答え――セシリアは微笑みを浮かべ、告げた。
「次は……負けませんわよ」
 それは一切の憑き物が落ちた、セシリア・オルコットという人物のすべてをさらけ出した最高の笑顔――その美しさに一瞬見惚れ、鷲悟の頬に朱が散る。
 だが――あくまで一瞬。気を取り直し鷲悟は答えた。
「また返り討ちだよ、その時は」
 次の瞬間、セシリアがスターライトをかまえ――引き金が引かれるよりも早く、鷲悟の全門斉射フルバーストが彼女を吹き飛ばした。
 再びセシリアのISの絶対防御が発動し、今度こそシールドエネルギーが0になる。爆煙の中、衝撃で意識を刈り取られたセシリアがゆっくりと落下していき――停止した。
 鷲悟が、反重力で彼女の落下を食い止めたのだ。そのまま穏やかな機動で彼女の元へと舞い降り、お姫様抱っこの要領で彼女を抱きとめる。
 なお、両手にかまえていたグラヴィティランチャーはセシリアの気絶と落下に気づいた時点で放り出している。
 セシリアにケガがないことを確認し、安心して――もれるのはため息。
 なぜなら――
「けっこう全力で撃ってたのに……ケガひとつないってのは、砲手バスターとしてのプライドがちょっと傷つくんだけど」
 もっとも、今回はケガしない方がよかったのだが――納得すべきかせざるべきか、複雑な心境のまま、鷲悟はピットに戻るべく反転した。



「さすがと言うべきか……圧倒的じゃないか」
「セシリアがオレのことを“知らなかった”からですよ」
 ピットに戻ってきたところを出迎えた千冬の言葉に、鷲悟は待機していた救護班にセシリアを預け、そう答えた。
「今回の対戦で、オレが重力使いだってことも、砲手バスターだってことも、武装の一部についても知られた……アイツもバカじゃない。次は作戦立てなきゃオレでも厳しいでしょうね」
「あれだけの圧勝をしておいて、ずいぶんと褒めちぎるじゃないか。
 さては惚れたか?」
「そ、そんなんじゃないですよ。
 ただ……」
 千冬の言葉にあわてて否定し、鷲悟が思い出すのは最後にセシリアが見せたあの笑顔――見惚れるほどにきれいだったことを思い出して思わず頬が熱くなるが、その“笑顔”について論じたいのはそこではない。務めて平静を装って続ける。
「最後のあの笑顔……あのスッキリした様子を見るに、精神的な部分でつっかえてたモノは取れたみたいですからね。
 今まではプライドがジャマして実力の半分も発揮できてなかったみたいだけど……あぁいうタイプは吹っ切れると怖いですよ」
「そうか。
 では負けないよう、お前も精進することだ」
「もちろんですよ」
 千冬のその言葉に鷲悟がうなずくと、
「…………鷲悟」
 声をかけてきたのは一夏だった。
「すごいな、お前」
「へへん、どんなもんだい♪」
 一夏の賛辞に照れながら、鷲悟は軽くおどけてみせるが、
「オレも……お前みたいに強くなれるのか……?」
「一夏……?」
 どこか力のない一夏の問いに、鷲悟は思わず首をかしげる。
 人の気持ちを汲み取るのが苦手な鷲悟には知る由もないが、一夏のこの反応はある意味当然――ブレイカーである鷲悟と違い、一夏はつい先日までまったく普通の学生だったのだ。当然、ISについてだけでなく戦闘についても素人だということだ。
 そんな一夏が、今しがた鷲悟とセシリアが見せたような戦いの繰り広げられる世界に足を踏み入れようとしているのだ。不安にならない方がおかしい。
 だが――
「なれるよ」
 それでも、鷲悟はあっさりとそう答えた。
「お前も、篠ノ之さんも、あのセシリアも……そして織斑先生や山田先生も、みんなもっと強くなれる。
 人間の可能性なんて、正真正銘、無限大なんだからさ……」
 鷲悟の言葉に、名前の挙がった箒や千冬、真耶もまた彼へと視線を向ける――それらの視線に気づいているのかいないのか、鷲悟は苦笑まじりに肩をすくめてみせるのだった。



「…………あれ?」
 更衣室で制服への着替えを済ませ、鷲悟が廊下に出てくると、そこには一夏の姿があった。
「何だ、待っててくれたのか?」
「いや、山田先生がここで鷲悟と待っててくれって……」
「山田先生が……?」
 一夏の言葉に鷲悟が首をかしげていると、
「あぁ、柾木くん、着替え終わったんですね」
 その声に振り向くと、ちょうど廊下の向こうから真耶がやってきたところだった。
「オレと一夏に用だったみたいですけど……どうしたんですか?」
「あ、はい。えっとですね……
 実は、お二人の寮の部屋が決まりました」
 言って、真耶は部屋番号の書かれたメモとキーを鷲悟と一夏に手渡した。
 そう。ここIS学園は全寮制。生徒はすべて寮で生活を送ることが義務づけられている。
 だが――
「オレの部屋、決まってないんじゃなかったですか?
 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」
「オレも、当分は今間借りしてる教員寮の部屋をそのまま……って聞いてたんだけど」
「そうなんですけど、事情が事情なので、一時的な処置として部屋割をムリヤリ変更したらしいです」
「あぁ、なるほど。
 でも、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰ってもいいですか?」
「あ、いえ、荷物なら……」
「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え」
 真耶の言葉をさえぎって現れたのはもちろん千冬である。
「まぁ、生活用品だけだがな。着替えと携帯電話の充電器があればいいだろう」
「いや、もーちょっとアレコレ……せめてマイ洗面用具くらいは入れてあげましょうよ」
 大雑把にもほどがある千冬に鷲悟がツッコむが、そんなものは当然スルーだ。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。
 夕食は6時から7時、寮の一年生食堂で取ってください。
 ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、織斑くんと柾木くんは今のところ使えません」
「え? なんでですか?
 オレ、大浴場とか好きなのに」
「アホかお前は。
 まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
「あ…………」
 ここには自分達しか男はいないということを忘れていた。千冬に言われ、ようやくそのことに思い当たった一夏の動きが止まる。
「おっ、織斑くん、女子とお風呂に入りたいんですか!? だっ、ダメですよっ!」
「い、いや、入りたくないです」
「えぇっ!? 女の子に興味ないんですか!? それはそれで問題のような……」
 答える一夏だが、どうも真耶には微妙に正しく伝わっていない――騒ぐ彼女の声が伝わったのか、いつの間にか様子をうかがっていた女子達の間で“腐女子談議”が始まっている。
「織斑くん、男にしか興味ないのかしら……?」
「それはそれで……いいわね」
「柾木くんはどうなんだろ……」
「中学時代の交友関係を洗って! すぐにね! 明後日あさってまでには裏付けとって!」
(裏付けとってどうするつもりだろ……)
 疑問に思った鷲悟だが、なんとなく聞くのが怖かったのでやめておく。
「えっと、それじゃあ私達は会議があるのでこれで。
 二人とも、ちゃんと家に帰るんですよ。道草食っちゃダメですよ」
 最後にこちらを何歳だと思っているのか非常に問いただしたくなるようなことを真耶が言い残し、千冬と二人で去っていく――野次馬の女子達がまだ残っているのを気配で察しながら、鷲悟は一夏に声をかけた。
「……帰ろっか」
「そうだな」



 サァァァァァ……

 シャワーノズルから熱めのお湯が噴き出す――それを全身に浴びながら、意識を取り戻し、部屋に戻ったセシリアは物思いにふけっていた。
(今日の試合……)
 正直、自分の勝利は間違いないと思っていた。
 相手の能力が未知数とはいえ、ISこそが世界最強の兵器であり、そのISの使い手の中でもエリートである代表候補生の自分が負けるはずはないと――そう思っていた。
 しかし、それは自分の驕りでしかなかった。そしてその驕りは鷲悟によって粉砕された。
 いや……“鷲悟が粉砕してくれた”と言い換えた方がいいだろうか。
(柾木、鷲悟……)
 ふと、自分を下した彼のことを思い出す。



 『オレは“イギリス代表候補生”と戦ってるんじゃない――』

 『“セシリア・オルコット”と戦ってるんだ!』



 代表候補生としてではなく、一個人としての自分に向けられたあの言葉を思い出す。
 ただまっすぐな、強い眼差し――それは、不意にセシリアの父親を逆連想させた。
 名家に婿入りした父。母には多くの引け目を感じていたのだろう。幼少の頃から母の顔色ばかりをうかがっていた父親を見て、セシリアは『将来は情けない男とは結婚しない』という思いを幼いながらに抱かずにはいられなかった。
 そう思い続け――出逢ってしまった。

 柾木鷲悟と。理想の、強い瞳をした男と。

「柾木、鷲悟……」
 その名前を口にしただけで、不思議と胸が熱くなる。

 ――なんだろう、この気持ちは。

 ――知りたい。

 ――知りたい。鷲悟のことを、もっと。

 ――もっと……



「………………」
 目の前の光景に、鷲悟は思わず言葉を失っていた。
 自分がいるのは、割り当てられた寮の一室だったはずだ。
 なのに……なんで天蓋付きのベッドがあるんだろう。どうしてテーブルやイスが特注品なんだろう。なんで壁紙や照明まで取り替えられているんだろう。
 と……鷲悟は天蓋付きベッドの向こうにごく普通のベッドが置かれているのに気づいた。「え? こんなアンバランスな二人部屋ってあっていいの?」などと考えていると、

「誰かいるんですの?」

 奥の方から声がした。
 女子の声だ。というか――ものすごく覚えのある声だった。
 しかし、覚えがあるのも当然だ。何しろ――“夕方戦っていた相手なのだから”。
「こんな格好で失礼しますわ。
 わたくし、あなたと同室になる――」
「…………セシリア……?」
「え……?」
 そう。シャワールームから出てきたのはセシリアだった。
 相手が女子だと思ってそのままの格好で出てきたのだろう。その身体はバスタオル一枚が巻かれただけだ。
 白いバスタオルの面積はいろいろな意味でギリギリで、その端から下はしゅっと伸びたスタイリッシュな太ももが露出している。シャワーを浴びていたのを証明するように、つぅっ……と水滴が脚線をすべり落ちる。健康的な白い肌がまぶしい。
「………………」
「………………」
 セシリアも無言。鷲悟も無言……二人ともきょとんとした顔でしばし固まり――
「……キャアァァァァァッ!」
「ごっ、ごめんっ!」
 我に返り、悲鳴を上げてしゃがみ込むセシリアに、鷲悟はあわてて後ろを向いた。
「ど、どうしてここに……!?」
「それはこっちのセリフだよっ!
 なんで男子のオレが割り当てられた部屋にお前がいるんだよっ!?」
「わ、わたくしもこの部屋なんですのよ!?」
「まぢでかっ!? 何考えて部屋割してんのさ教師陣っ!
 つか、これで納得したわっ! このひとり分だけムダに豪華な家具の数々はお前の仕業かっ!」
 お互い悲鳴同然の勢いで情報交換。とりあえず現状を作り出した犯人は教師陣ということはわかった。
「と、とにかく……山田先生辺りに話してなんとかしてもらおう。
 千冬さんじゃ問答無用でこのまま通されそうだ」
 いずれにせよこのままではマズイ。セシリアに背を向けたまま、鷲悟は目の前のドアへと向かい――
「――あ、あのっ!」
 その背中に、セシリアの声が投げかけられた。
「わ、わたくしも……年頃の男女が同室というのは問題だと思いますわ。
 で、でも、先生方もそんなことはわかっていると思いますし、その上でこれというのは、何かやむにやまれぬ事情というものがあってのことではないかと……
 ということは、先生にお話ししても、解決は難しいかもしれなくて……」
「………………で?」
「あ、あの、その……」
 直視するワケにもいかず、背を向けたまま返す鷲悟の問いに、セシリアは顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていたが、
「……い……一年間……よろしくお願いいたしますわ……」
「……………………………………………………まぢ?」



バトル後の
  この再会は
    予想外


次回予告

鷲悟 「鷲悟だ。
 一夏、お前のISも、セシリアのと同じ専用機なんだって?」
一夏 「そうらしいな。
 とはいえ、素人のオレに使いこなせるのか……?」
「まったく、弱音を吐くとは情けない。
 この私が、その性根を叩き直してくれるっ!」
鷲悟 「次回、IB〈インフィニット・ブレイカー〉!
   鮮烈Vividデビュー! 一夏のIS、その名は白式びゃくしき
   
一夏 「白式って言っても、ホワイトカラーの百式じゃないからな!」
鷲悟 「あ、こっちの世界にも『ガンダム』あるんだ」

 

(初版:2011/04/09)