「織斑先生……」
「柾木の言う通り、今は観客の安全確保が最優先だ。
山田先生、突入部隊を避難誘導の支援に」
「は、はい!」
千冬の言葉に、真耶はあわてて指示を伝達する――息をつき、千冬はモニターに映る、黒いISを鷲悟達が包囲する光景へと視線を向けた。
あの黒いISの動き、そしてその手に握る、かつて自分が振るっていたものと同じ形状の刀。
間違いない。アレは……
「“VTシステム”、か……」
その正体に、千冬は心当たりがあった。もし自分のこの予想が当たりだとしたら、鷲悟達には厳しい戦いになるかもしれない。
だが――
「……『私は自分にとっても姉』か……」
同時に、彼らならあるいは……そんな期待も確かにあった。
そう思わせるのは、先の宣言をぶち上げた張本人――
(私の“弟”を自称するからには、その肩書きに恥じない戦いを見せてくれるんだろうな、柾木?
それに――)
「本来、お前達は“こういう戦い”の方が本分のはずだ。
見せてもらうぞ、お前達の……」
「ブレイカーの、“守るための戦い”を」
第12話
ラウラ救出作戦!
ホントの強さを見せてやれ
「そんじゃ――まずは、小手調べといきますか!」
言い放ち、鷲悟が両肩のグラヴィティキャノンを斉射――それに反応し、ラウラを取り込んだ黒いISは身をひるがえして砲撃をかわすと鷲悟に向けて襲いかかり――
「そうは――」
「させるかぁっ!」
一夏と鈴が突っ込んだ。それぞれの獲物を振り下ろすが、黒いISは瞬時に二人へと意識を切り換えた。身体ごと回転しての斬り払いで二人の一撃を弾くと、続く鈴の衝撃砲も回避する。
そのまま、今度は一夏に向けて襲いかかり――
「させませんわ!」
「一夏、離れて!」
セシリアとシャルルが援護射撃。二人の射撃やセシリアのビットによる攻撃をかわし、セシリアに向けて斬りかかる。
「オルコットさん!」
それを救ったのはシャルルだ。手持ちの武器をアサルトライフルからショットガンへと切り換え、黒いISの持つ雪片を撃ち、弾き飛ばす。
その切り換えは素早く、通常なら前の武装の収納と新たな武器の展開、あわせて1〜2秒はかかるその作業をほぼ瞬時に行なっている。
これこそがシャルルの得意としているIS操縦技術のひとつ、その名も“高速切替”である。
「もらったわよ!」
雪片を弾かれ、丸腰となった黒いISに鈴が突っ込む。双天牙月を連結し、重量と勢いを十分に乗せた一撃を繰り出す。
が――かわされた。黒いISは紙一重で鈴の斬撃をかわすとボクシングのようなかまえを取り、鈴に向けてマシンガンの如き勢いで左ジャブの嵐をお見舞いする。
そのまま鈴を釘づけにしながら、本命のストレートを打ち込むべく右拳を握りしめ――
「オレの友達に――何すんじゃワレぇっ!」
鷲悟が飛び込んできた。最上段に振りかぶり、振り下ろした重天戟の一撃を、黒いISは素早く後退して回避する。
その身体の一部が千切れ、変化し、先に握っていたものと同じ雪片を作り出す――追撃をかける鷲悟の斬撃を受け止めるが、
「もらいっ!」
それはむしろ鷲悟の狙い通りの展開――両肩のグラヴィティキャノンで黒いISを狙う。
こちらの狙いに気づいた黒いISも後退して逃れようとするが――遅い。
「逃がすか!」
敵の後退よりも早く鷲悟が砲撃。誰もが直撃を確信した、その時――
『――――――なっ!?』
結論から言うと――防がれた。
黒いISが雪片を収納、新たに盾を作り出して砲撃を受け止めたのだ。
だが――問題はその盾を作り出した時の一連の動きである。
雪片の収納から盾を展開するまで“1秒もかかっていない”。これは――
「“高速切替”!?」
同じ技能を持つシャルルが声を上げる。他の面々も相手の意外な反応に驚きを隠しきれず――その一瞬のスキをつき、黒いISがその盾で鷲悟を殴り飛ばす!
「ぅわぁっ!?」
「鷲悟さん!?」
吹っ飛ぶ鷲悟をセシリアが受け止め、一夏達もそんな二人を中心に集結、体勢を立て直す。
「大丈夫ですか、鷲悟さん?」
「なんとか、な……
あんにゃろ、思いっきり脳を揺さぶりに来やがった……とっさに打点をずらしてなかったら、今頃重度の脳震盪だ」
それでも少しは効いたのだろう。セシリアに答え、鷲悟は頭を振りながら彼女から離れる。
「っていうか……何だよ、アイツのあの動き……
おい、一夏。アイツ千冬さんのデータ使ってんだよな? あの人“高速切替”なんかできたのか?」
「いや……千冬姉はずっと雪片一本で戦ってた。
武装を切り替える必要なんかなかったんだ。当然“高速切替”なんて……」
「それを言うなら、鈴さんや鷲悟さんへの攻撃もですわ。
織斑先生の現役時代の試合は、わたくしも後学のために拝見したことがありますけど、あの方がボクシングスタイルで戦ったところなど見たことがありませんもの。
盾での打撃も同様ですわ。あの方が公式戦で盾を使ったこと自体一度もない……まぁ、装備されていたものを苦し紛れで使った、と言われればそれまでですけど……」
「そんな行き当たりばったりな攻撃で、格闘だってこなせる鷲悟のアゴを確実に狙うなんてできるはずないよ。
間違いなく、アレは狙って放たれた、熟練者の動きだった……」
付け加えるシャルルにセシリアがうなずくと、
「………………対戦相手……」
ぽつり、とつぶやいたのは鈴だった。
「“モンド・グロッソ”第一回大会……当時はまだISの技術もこなれてなくて、ISバトルも“銃器使用が認められた異種格闘技”の延長みたいなものだった。
当然、ISも格闘型が多くて……確か、千冬さんの準決勝の相手がボクシングスタイルだったはずよ」
「そういえば……第二回大会の決勝で織斑先生と戦うはずだった方が、“高速切替”の使い手でしたわね」
「その第二回大会の3位の人、盾を武器に戦ってた!」
「おいおい、それって……」
セシリアやシャルルも追随するのを聞いて、鷲悟は気づいた。恐る恐る鈴に尋ねる。
「鈴。
さっき言ってたボクサーさん、最終的には何位だった?」
「え?
確か、千冬さんに負けた後、3位決定戦で勝ってたはずだから……」
答えて――鈴も気づいた。口を開いたままその動きが止まる。
一同の脳裏に、共通するひとつの答えが浮上する――それを言葉にしたのは一夏だった。
「…………“モンド・グロッソ”の、上位入賞者……」
「つまり……アイツは千冬さんだけじゃなく、過去の大会の成績優秀者達のデータを元に動いてる……」
うめいて、鷲悟は黒いISをにらみつけ、
「冗談じゃないぞ、くそったれが……
要するに、“モンド・グロッソ”オールスターズを、まとめて相手にしているようなものじゃないか……!」
「…………うん。発動を確認したよ」
緊急事態宣言によって騒然となる観客席――避難する人の流れの中で、少女は携帯電話に向けてそう告げた。
観客席で、セシリアや鈴に口をはさんだあの少女である。
「だから……あぁ、もう動いたの? 仕事早いなー。
……あぁ、わたしは大丈夫。もう会場から避難してるから。
とりあえず、映像データは発動した時のだけあればいいよね?
うん、じゃあ」
言って、通話を終えると、少女はアリーナの廊下に点在している備え付けモニターのひとつに目をやった。
そこには、黒いISを相手に苦戦を強いられる鷲悟達の姿が映し出されていて――
「…………腕、なまっちゃってるのかな……?
ホントに本気でやってるなら……」
「あんなニセモノのお人形さんなんか、まるで問題にならないはずなのに……」
「ぐぁあっ!?」
「一夏!?」
防御の上から強烈な一撃を叩きつけられ、吹っ飛ぶ一夏の姿に鈴が声を上げた。双天牙月を手に黒いISへと襲いかかるが、
「――って、きゃあっ!?」
彼女もまた返り討ち。斬撃をかわされ、上空に逃れた黒いISから銃弾の雨を浴びせかけられる。
さらに、突っ込んできた黒いISに斬りつけられる。絶対防御の発動によってシールドエネルギーをごっそりと削り取られ、弾き飛ばされるが、
「鈴さん!」
セシリアがカバーに入った。鈴の身体を受け止めると、ビットで黒いISを狙う。
が、黒いISも武装を切り換えて応戦。二丁拳銃でビットを次々に撃墜、さらにスナイパーライフルに切り換えて鈴を守るセシリアを狙う。
「このぉっ!」
次いで仕掛けるのはシャルルだ。近接ブレードで黒いISに斬りかかり、相手がかわし、距離を取ろうとしたところを左手に展開したショットガンで狙う。
「“高速切替”が使えるのは、キミだけじゃない!」
叫びながら引き金を引く――が、すでに敵はショットガンの攻撃範囲にはいなかった。サイドステップの要領で射線から逃れると、両手に展開した近接ブレードで立て続けの斬撃、さらに仕上げとばかりにシャルルを蹴り飛ばす。
が――
「――鷲悟!」
「応っ!」
それはシャルルの計算の内――砲撃のチャージを終えていた鷲悟が、両肩のグラヴィティキャノンと両腕のバスターシールドを、シャルルの相手で動きを制限されていた黒いISに向ける。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
咆哮と同時に四門斉射。放たれた閃光が黒いISを狙い――黒いISは迫る閃光に向けて右手をかざし、そこに発生したシールドバリアが鷲悟の砲撃を受け止める!
箒が鷲悟の一斉砲撃に耐えたのと同じ、シールドバリアのフルパワー……ではなく、
「シールドバリアの前面一極集中!?
アイツ、あんなマネもできたワケ!?」
「くそっ、ウチの弟みたいな器用なマネをっ!」
驚き、声を上げる鈴や鷲悟に対し、黒いISは両手に大型砲を展開。放たれた砲撃を、一同は散開して回避する。
そこへ、黒いISが距離を詰めてくる。狙いは――
「鷲悟!」
「こなくそっ!」
シャルルが叫ぶ中、鷲悟は重天戟で応戦するが、雪片を展開し、千冬の動きで繰り出された斬撃によって重天戟を弾かれてしまう。
「――だからって!」
さらに追撃を狙われるが、とっさの判断で前進。懐に飛び込むことで斬撃から逃れると、そのまま黒いISの腕をつかみ、力いっぱい振り回して投げ飛ばし――
――タスケテ――
「――――――っ!?」
声が聞こえたような気がした――驚いた一瞬のスキに、再び黒いISが襲いかかってくる。
雪片による斬撃をその腕を受け流すことでやりすごし、続く蹴りをガード。もう一度投げ飛ばしてやろうとその蹴り足をつかみ――
――タスケテ――
また聞こえた。とりあえず投げ飛ばし、鷲悟は今の感覚を思い返す。
(今の……ヤツから伝わってきた……?
ということは、ラウラの……いや、アイツの声じゃなかった。だとすると、誰の……?)
思考を巡らせる間にも戦いは続いている。黒いISは一夏や鈴と斬り結びながらもシャルルやセシリアを牽制。専用機持ちを4人も同時に相手しているというのに、互角以上に渡り合っている。
「…………『タスケテ』、か……」
誰かは知らないが……あの黒いISの中で誰かが助けを求めている。つぶやき、鷲悟は静かに息をつき――
「………………了解だ……“誰かさん”!」
宣言すると同時、“カラミティシステムを起動した”。背中に光翼が展開され、勢い余って振り飛ばされた光の欠片が羽のように周囲に舞い散る。
「鷲悟!?」
「アンタ、また!?」
「残念! カラミティバスターじゃないんだな、これが!」
驚く一夏や鈴に答え、鷲悟は改めてグラヴィティランチャーを作り出し、
「いい機会だからよく見とけ!
カラミティシステムには、こういう使い方もあるんだ!」
その言葉と同時、鷲悟の全身に力がみなぎる――本来カラミティキャノンに回されるはずの、カラミティシステムによって得られた莫大なエネルギーが、“装重甲”を通じて鷲悟に注ぎ込まれているのだ。
これぞ、本来大技のために用意された出力補助システムを自らの戦闘能力の底上げに使用する、“力”の扱いに長けた鷲悟達ブレイカーならではのお家芸。その名も――
「バーストモード、スタート!」
宣言と同時、その“力”がさらに、爆発的に増大する――自らの力を引き上げ、鷲悟は今までとは段違いのスピードで黒いISに向けて飛翔する。
「出力、機動性、各種増強を確認――これならっ!」
そのまま黒いISに向けて砲撃。その攻撃を回避し、黒いISもまたショットガンを展開して反撃に出る――が、止められた。鷲悟の目の前に発生した“力”の壁が散弾を防いでみせたのだ。
「シールドバリア!?」
「今まで、鷲悟がバリアを使ったことなんかなかったのに!?」
「使ってなかったからな!
オレの力場は必要な時だけ、オレの意思でオン・オフが切り替えられる任意展開型――いつもはその分のエネルギーも火力に回してるんでね!」
セシリアやシャルルに答え、鷲悟は黒いISへと右のグラヴィティランチャーを撃ち放った。さっきよりもさらに強力な“力”の奔流が迫るが、黒いISにはかわされてしまい――
「けど――バーストモードで出力の上がってる今なら、展開しっぱなしでも十分お釣りが来るんだよ!」
回避した先で本命が直撃。先の発言の続きを告げながら放った左のグラヴィティランチャーの砲撃が黒いISを捉える。
「一気に削る!」
衝撃に耐えている黒いISの目の前に飛び込むとグラヴィティランチャーにキャノン、そしてバスターシールド、そのすべてで黒いISを狙い、
「フル、バースト!」
全門斉射で、黒いISを吹き飛ばす!
――が、黒いISも上空に逃れることで射線から退避。そのまま鷲悟に襲いかかり、力場の上からの一撃で鷲悟を地上に向けて叩き落とす。
(こっちに近接戦装備がないのを見越して、接近戦で叩きに来たか!)
「――けどっ!」
しかし、鷲悟も負けてはいない。さらに襲いかかってきた黒いISの振り下ろした雪片をかいくぐり、
「『近接戦装備がない』のと、『近接戦闘ができない』のとは――意味が違うんだよ!」
体躯で優る黒いISの顔目がけて跳躍。右のグラヴィティランチャーでその顔面を思い切り殴り飛ばす!
間髪入れず、自らに超重力をかけて真下に降下、着地と同時に足払いでその両足を刈り払い、体勢の崩れた黒いISを真上に向けて蹴り上げる。
対し、空中で体勢を立て直す黒いISだが――鷲悟はその後を追ってきていた。黒いISを追い抜いて頭上に回り込むと、黒いISを地上に向けて蹴り落とす!
そして、鷲悟は右のグラヴィティランチャーを放り出し、
「セシリア!」
「はい!」
答えたセシリアが投げてよこしたのは、使用許諾を発行したブルー・ティアーズの近接ナイフ“インターセプター”である。
「以心伝心大いにけっこうっ!
スターライト渡されたらどうしようかと思ったぜ!」
言って、鷲悟は黒いISに向けて突撃。周りを飛び回りながら左のグラヴィティランチャーの連射を浴びせかけ、
「どこ見てやがる! オレはここだぁっ!」
死角に回り込みながら着地。地面を抉りながらブレーキをかけると、再度黒いISへと突撃、振り向いた黒いISの顔面を狙ってインターセプターを突き込む。
だが――黒いISはシールドバリアの一点集中でそれを受け止めた。さらにシールドバリアの密度を上げ、鷲悟が押し込もうとするインターセプターの切っ先を押し返そうとする。
「こいつ……っ!
バーストモードのリミットまで、持ちこたえるつもりか……っ!?」
強力な切り札であるバーストモードだが、当然切り札であるがゆえに制約も大きい。ひとつはムリヤリ“力”を引き上げることによる使い手や使用機体に対する負担。そしてもうひとつが――エネルギー残量である。
元々が大技のために高めたエネルギーを転用してのパワーアップなのだ。そのエネルギーを使い切ってしまっては強化状態が解けてしまうのは当然のこと――そして今まさに、その“限界”が訪れようとしていた。インターセプターを押し込もうとする鷲悟の背中、推進ユニットからの推進ガスの噴射がその勢いを弱め始める。
「万事、休すか……!」
もはや、バーストモードが解けるのも時間の問題だ。悔しげに鷲悟がうめき――
「……なんて、言うと思ったかよ?」
一転、口元に笑みを浮かべて言い放ち――彼の真下、黒いISの腹を狙ってシャルルが飛び込む!
「虎の子を使ったからって、バーストモードで仕留めなきゃならない理由はないんだよ!
やったれ、シャルル!」
「大丈夫!
この距離……ボク向きだよ!」
その言葉と同時、シャルルの左手の盾、その装甲が弾け飛んだ。そして姿を現したのは、リボルバー機構を備えた杭の射出システム。
威力だけならば第二世代最強とすら謳われた、69口径パイルバンカー、“灰色の鱗殻”。通称――“盾殺し”。
「多少古臭い武装だけど……威力は関係ない!」
ズガンッ!と轟音を立てて杭が打ち込まれる。しかも、リボルバー機構によって次々に炸薬を装填し、立て続けに、何発も。
強烈な連続攻撃を、鷲悟の一撃に対しシールドエネルギーを集中させた状態でしのげるはずもなかった。その衝撃をダイレクトに受け、シュヴァルツェア・レーゲンの装甲でできた黒いISの外殻に亀裂が走り――
「上出来よ、シャルル!」
「後は、オレ達に任せろ!」
一夏と鈴が狙うのは、クラス対抗戦でも使用した“龍咆”と“零落白夜”の合体技――後退するシャルルと入れ替わるように、衝撃砲のエネルギーを取り込んだ一夏が飛び込み、“零落白夜”の一撃で黒いISの外殻を斬り裂く。
打ち込まれた太刀筋にそって、黒いISの機体が裂けていく。そのすき間からラウラの姿がのぞき――
「鷲悟!」
「応っ!」
一夏に答え、黒いISのシールドバリアを抑えていた鷲悟がそのまま救出に動いた。気を失ったまま、すき間からこぼれ落ちそうになっているラウラの身体を抱きとめ、黒いISから引きずり出す。
と――
――アリガトウ――
また声が聞こえた。
ラウラから――ではなく、黒いISに触れている右手を通じて。
(……あぁ、“そういうこと”か)
そのことから、鷲悟は理解した。
『タスケテ』というその言葉。それは『“自分を”助けてほしい』のではなく――『“ラウラを”助けてほしい』という意味だったのだ。
そして、その声の主は――
「………………まだだ」
だからこそ、鷲悟はそう告げて、右の拳を握りしめた。
「まだ……“お前”を助けてない」
その拳に、鷲悟の“力”が、重力の渦が収束し――
「“お前”も、助けてやるよ――」
「シュヴァルツェア・レーゲン!」
ラウラを抱きしめたまま、黒いISにその拳を叩き込む!
そして、拳を引き抜いて――その手にはシュヴァルツェア・レーゲンのISコアが収められたブラックボックスが握られていた。
「要救助者“2名”……確保」
ラウラとブラックボックス、共に無傷であることを確認し、鷲悟はふぅと息をつき――
「鷲悟! まだ動いてる!」
「――――――っ!?」
シャルルの警告に身体が反応する――とっさに後退した鷲悟の目の前に、黒いISの腕“だったもの”が叩きつけられた。
「何だよ、コイツ!?
無人機でもないのに、ラウラもコアも引きはがしたのになんで動いてんだよ!?」
「残ったエネルギーをふりしぼってるんですわ。
制御も、まだサブ回路が残っているはずですし……」
うめく鷲悟やそれに答えるセシリアの前で、黒いISがその形を崩していく――コピーしていたIS操縦者の武器を次々に切り換えていく。形状の選別システムが安定を失っているのだろう。
「悪あがきしやがって……っ!
ラウラとコアを取り戻して、復活するつもりか!」
うめいて、鷲悟はラウラとシュヴァルツェア・レーゲンのコアを抱えて距離をとり、
「オレはラウラと戦いたいんだ! ジャマすんな!」
迫ってくる黒いISに対し、両肩のグラヴィティキャノンに“力”を集中させ、
「お前なんか、消えちまえぇっ!」
放った閃光が、黒いISを直撃する!
シールドバリアもなく、まともにくらいながら、それでも黒いISは鷲悟へと触手と化した両腕を伸ばし――
「その汚い手を、引っ込めなさい!」
セシリアが援護してくれた。ミサイルビットを叩き込み、触手を粉砕する。
「鷲悟さん、そのまま!」
「あぁ!
フルパワーだ! 残りカスみたいなエネルギーだが――全部持ってけぇっ!」
セシリアに答え、最大出力――勢いを増した閃光は、ついに黒いISを飲み込み、粉みじんに爆砕した。
「………………ふぅっ」
今度こそ終わった――深く息をつき、鷲悟はその場に尻もちをついた。
「鷲悟さん!?」
「大丈夫。
ちょっと、体力使い果たしただけだから」
いきなりへたり込んだこちらの姿に驚いたのだろう、声を上げるセシリアにそう答えると、鷲悟は自分の腕の中で眠るラウラへと視線を落とした。
「……千載一遇のチャンスを逃したな。
今目ェ覚ませば、ガス欠のオレを思う存分に殴れたのに、な……」
そう告げるのが限界だった――全身を襲う疲労感に白旗を掲げ、鷲悟はその場に仰向けにひっくり返り、その意識を手放した。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。“識別上の記号”。
一番最初につけられた記号は――遺伝子強化試験体C-0037。
人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。
ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。
知っているのは、いかにして人体を攻撃するかという知識。
わかっているのは、どうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。
格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法を体得した。
私は優秀であった。性能面において、最高レベルを記録し続けた。
それがある時、世界最強の兵器――ISが現れたことで世界は一変した。
その適合性向上のために行なわれた処置“越界の瞳”によって異変が生まれたのだ。
擬似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況かにおける動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処置であった。
危険性はまったくない――はずだった。
しかし、この処置によって、私の左目は金色へと変質し、常に稼動状態のままカットできない制御不能に陥った。
この“事故”により、私は部隊の中でもIS訓練において遅れをとることとなる。
いつしかトップの座から転げ落ちた私を待っていたのは、同じ部隊の隊員達からの嘲笑と侮蔑、そして“出来損ない”の烙印だった。
そんな私が初めて目にした“光”。それが教官との……織斑千冬との出会いだった。
「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」
その言葉に偽りはなかった。あの人の教えを忠実に実行するだけで、私は部隊の中で再び最強の座に君臨した。
しかし、安堵はなかった。それよりもずっと、強烈に、深く――あの人に、憧れた。
――あぁ、こうなりたい。この人のようになりたい。
この人のように、強く――
目標があった。「こうなりたい」と思える人がいた。
その人のように強くなりたいと思い、どうすれば強くなれるのか知りたかった。
そして、私は――出逢ったのかもしれない。
“強さ”という概念――その答えのひとつに。
〔……“強さ”なんて言われても、正直ピンと来ないんだよな。
ただ、守りたくて……傷ついてほしくなくて……だから、傷つけるヤツらが許せなくて……
そうやって、ひとつひとつの戦いをきっちりやってきた。それだけだ〕
強くなりたかったワケではない。ただ、守りたかっただけ。
ただそれだけのために戦い抜く――そのブレない姿こそが、お前の“強さ”か。
〔そう……なのかな?
まぁ、いいじゃないのさ。やることは変わらないんだし〕
ただ、守る……か?
〔あぁ。
セシリアを、シャルルを、鈴を、篠ノ之さんを、一夏を……手の届く範囲のすべての人を。
だから……〕
〔お前のことも守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ〕
「…………ぅ……ぁ……」
「気がついたか」
ぼんやりとした思考の中にするりと入ってくる声――その声に、一瞬にして意識が覚醒する。
自らが敬愛してやまない織斑千冬、その人だ。
「私……は……?」
「全身にムリな負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。
しばらくは動けないだろう。ムリをするな」
応える千冬だったが、ラウラはかまわず身を起こした。全身の痛みに顔をしかめるが、それをガマンして千冬に尋ねる。
「何が……起きたのですか……?」
「……一応、重要案件で機密事項だ。
当事者ということで話しはするが、他言無用だぞ」
「わかりました」
すでに同じ条件で鷲悟達にも話したことだ。ラウラがうなずくのを確かめた上で、千冬は口を開いた。
「……“VTシステム”は知っているな?」
「はい。
正式名称“ヴァルキリー・トレース・システム”。過去の“モンド・グロッソ”の部門受賞者の動きをトレースするシステムで……しかし、アレは……」
「そう。IS条約で現在どの国家、組織、企業においても研究開発、使用すべてが禁止されている」
理由は簡単。使った者は今のラウラのようになるからだ。
もちろん、使いすぎればもっとひどいことになるし、最悪――
「それがお前のISに積まれていた――巧妙に隠されていたがな。
操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや、願望か。それらがそろうと発動するようになっていたらしい」
千冬の説明を聞きながら、ラウラはいつしかうつむいていた。ぎゅっ、とシーツを握る手に力がこもる。
「私が……望んだからですね」
あなたに、なることを――そこまで言葉にすることはなかったが、千冬には伝わったようだ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はいっ!」
「お前は“誰”だ?」
「わ、私は……私は……」
“ラウラ・ボーデヴィッヒ”である、とは言えなかった。自分は“織斑千冬”になろうとしていたのだから。
「誰でもないのならちょうどいい。お前は“これから”ラウラ・ボーデヴィッヒになればいい。
おそらく……“コイツ”もそれを望んでいる」
言って、ベッドサイドのテーブルの上に千冬が置いたのは、シュヴァルツェア・レーゲンのブラックボックスだ。
「“VTシステム”にシステムの大半を乗っ取られていながら、それでもコイツはSOSを発していたそうだ。『お前を助けてくれ』とな。
ずいぶんと献身的なISじゃないか。お前にはもったいないくらいだ……大切にしてやれ」
そう言って、千冬は保健室を出ていき――ラウラだけがその場に残された。
「……お互い、無様をさらしたな」
いや――彼女ひとりではない。シュヴァルツェア・レーゲンも一緒だ。ブラックボックスに向けてそう告げて、ラウラはベッドに身を預けた。
「……『みんなを守りたい』……その想いが、アイツの“強さ”の源……
私は……何を守れば、強くなれるのだろうな……」
ブラックボックスだけのシュヴァルツェア・レーゲンからの答えはない。だが――
「…………そうだな。
これから見つけていけばいい……お前と共にな」
なんとなく、何を考えているのかわかったような気がする――初めて感じる、相棒との心地よい一体感に身を任せ、ラウラは身体を休めるべく瞳を閉じた。
「あだだだだっ!?」
「あー、ほら、じっとして。うまく貼れないよ」
教師による事情聴取も、そのせいで遅くなった夕食も終わった後の自室――ベッドの上でうつ伏せになり、悲鳴を上げる鷲悟をシャルルがたしなめる。
鷲悟がどうしてそんなことになっているのかというと――
「まったく……こんな身体で、よく平気な顔できてたよね。
身体中の筋肉が張っちゃってるよ……バーストモードの反動……なんだよね? これ」
「まぁな」
そう――ラウラを取り込んだ黒いISとの戦いの中、ラウラを救出するために使った“バーストモード”の反動である。
ムリヤリ引き上げたパワーで思い切り動いたせいで、全身の筋肉が悲鳴を上げていたのだ。一応、鷲悟も表に出さないようにしていたのだが、そこは今回のタッグトーナメントに備えて徹底的にコンビネーションを磨いていた間柄。しっかりシャルルにはバレていたようで、こうして取り押さえられ、服を引んむかれた上全身に湿布を貼られているのだ。
「こればっかりはどうしようもないよ――どれだけ事前に鍛えていようと、バーストモードはその“鍛えた体の”限界まで酷使させるシロモノだ。
そういう仕組みである以上、使ったが最後どうしてもこうなる――全力で動かなければ話は別だろうけど、バーストモードが必要になるような状況でそんな余裕はないしねー」
そもそもバーストモード自体、本来は機動兵器用のシステムであり、生身で使っていいシロモノですらないのだが――そんなことがシャルルに知られようものなら、今までの比じゃないレベルでのお説教が待っているのは間違いない。
気遣い関係には疎い鷲悟も、連携訓練を積み重ねたシャルルに対してはなんとかその程度は読めるようになっていた。
「こんなになってまで……ボーデヴィッヒさんを助けたかったの?」
「………………?
そりゃ、まぁ……『助けてやる』って決めたからなー。意地でも助ける……そんな感じにムキになってたのは、否定しない」
だから、シャルルの口調に少しばかり棘が含まれ始めたことにも気づいた。何か機嫌を損ねてしまったかと首をかしげるが、ラウラを助けることに反対だったとも思えない。結局原因がわからないで素直にそう答える。
「……そうだよね。
鷲悟はそういう子だもんね」
「は? どういう意味?」
「ボクを助けてくれた時と同じだってこ、とっ!」
「あだーっ!?」
最後の一枚を貼り、背中をぴしゃりと叩く――鷲悟が悶絶しているが、シャルルにしてみれば自分よりラウラを優先されたようでおもしろくないのだ。このくらいの“八つ当たり”はさせてもらいたいところだ。
その上――
「『助けた』……?
オレ、シャルルを何か助けたっけ?」
当の本人にはシャルルを助けた覚えが一切なしと来た。自分は彼の言葉に心から救われたというのに……
「ボクの居場所になってくれるって言ったじゃない。
ボク、本当にうれしかったんだよ?」
「んー、そんな特別なことをした覚えはないんだけどなぁ……」
「特別なことだよ。
少なくとも……ボクにとってはね」
これだ。この男は人ひとり救ってもそれが当然だと思っている。こちらがどれだけ恩を感じ、返そうとしてもこの態度のせいで空回りに終わってしまうのだから始末に負えない。
「ぅうっ、鷲悟のあの言葉のおかげでボクがどれだけ救われたかも知らないで……」
「あー、なんか肩すかしさせちまったみたいで……ゴメン、シャルル」
「シャルロット」
ピッ、と鷲悟の鼻先に人さし指を突きつけ、シャルルはそう訂正した。
「シャルロット……?
もしかして、本当の……?」
「うん。ボクの名前。
お母さんがくれた、本当の名前……二人っきりの時は、そう呼んでくれるかな?」
「お安い御用だ、シャルル……じゃない、シャルロット」
「クスッ、すっかり『シャルル』の方が定着しちゃってるね」
「で、でも、お前は本当の名前で呼んでほしいんだろ?
だったらちゃんと呼べるようにならないと……うん、がんばる」
自分に気合を入れるように小さくガッツポーズ――自分を救ってくれた時の大人っぽさとは裏腹な、子供っぽさをうかがわせるその姿を、シャルル改めシャルロットは微笑ましく見守るのだった。
翌日、朝のホームルームにはシャルロットの姿はなかった。『先に行ってて』と言うから食堂で別れたのだが――
ちなみにラウラの姿もないが、こちらは先日の負傷による休養か、知らなかったとはいえ“VTシステム”搭載機を運用していた件についての事情聴取か、そのどちらかだろうと鷲悟はあたりをつけていた。
と――
「み、みなさん、おはようございます……」
教室に入ってきた真耶はなぜかフラフラしていた。
(何かあったのかな……?
目玉焼きが半熟じなくてテンション上がりません、とか? オレは完熟の方が好きなんだけど)
「柾木くん、何を考えているのかはわかりませんが、私を子供扱いしようとしているのはわかりますよ。
先生、怒りますよ。はぁ……」
『怒る』と言うのならその直後にため息をつかないでほしい。どうやらそうとうに重症のようだ。
「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。
……転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、えぇと……」
その真耶の言葉に、教室内がにわかにざわめき始める――ムリのない話だ。シャルロットとラウラが転入してきてからまだ一月も経っていないのだ。こんな立て続けに、今度は誰が転入してきたというのか――
「じゃあ、入ってください」
「失礼します」
混乱する教室だが、その“転校生”の姿を見たとたん、騒ぎはピタリと収まった。
理由は単純。誰もが驚き、言葉を失ったから。なぜなら、その“転校生”というのは――
「シャルロット・デュノアです。
みなさん、改めてよろしくお願いします」
そう。スカート姿のシャルロットである。
「えぇと、デュノアくんはデュノアさんでした……ということです。
はぁぁ……また寮の部屋割を組み立て直す作業が始まります……」
あぁ……山田先生の憂いはそこにあったのか。
すっかり凹んでいる真耶の姿に一同がそんなことを確信する――が、すぐにそんなことよりも重大な問題があることに気づいた。
「え? デュノアくんって女……?」
「おかしいと思った! 美少年じゃなくて、美少女だったワケね」
「って、織斑くんと柾木くんはずっと一緒だったんだし、知らないってことは……」
「柾木くんなんて同室よ、同室!」
口々に騒ぎ立てるその内容が、次第に鷲悟ひとりに集約されていく。一夏も含めた一同の視線が窓際の鷲悟の席へと集まり――
「え!? あ、あれ!?」
シャルロットの登場に全員の意識が向いた一瞬のスキを突いたのだろう。後ろの女子すら気づかぬうちに、鷲悟は姿を消していた。
窓が開け放たれ、机の上にヒラヒラと舞い降りる一枚の書き置き――そこには達筆でこう書かれていた。
【処女宮の娑羅双樹が見たくなったので、聖域まで行ってきます】
『………………逃げたぁぁぁぁぁっ!?』
一同の叫びが響き――次いで注目が集まったのは残るひとりの男子、一夏である。
「ち、ちょっと待て!
鷲悟はともかく、オレは何も知らないって! 無実だ!」
自分に矛先が向いたことに気づき、あわてて弁明する一夏だったが、
「一夏ぁっ!」
話の通じない人、登場――扉を蹴破らんばかりの勢いで乱入してきたのは鈴である。
シャルロットが女であることを聞きつけ、一夏との関係を思うといても立ってもいられなかったのだろう。ホームルームをぶっちぎられた二組の担任がかわいそうな気もするが、正直この場ではどうでもいい。
「待て! 落ち着け、鈴!」
「問答ぉ無用ぉ――――っ!」
ISアーマーを素早く展開。それと同時に衝撃砲がフルパワーで解放される。
「でぇっ!?」
とっさにのけぞってマトリックス的回避。砲弾は他の誰も巻き込むことなく教室の後ろの掲示板を穿つ――立て直せずにひっくり返ってしまったが、一夏にしてみればそれどころではない。
とにかく、今はこの場を離れて鈴の頭が冷えるのを待つのが得策か――あわてて教室の後ろに回り、後方のドアから脱出を図る。
「あぁっ! 逃げた!」
「やはり後ろ暗いことが!?」
「追いかけるわよ!」
「柾木くんも探さなきゃ!」
鈴が、箒が声を上げ、清子や癒子がそれを無責任にはやし立てた結果、クラスの面々の大半が一夏を追いかけ始めた。真耶の制止もむなしくその騒ぐ声はみるみる内に遠くなっていき――静寂の戻った教室内、鷲悟の席の下からピョコンッ、と髪の毛がはねた。
「……ふぅっ、行ったか」
そう――外に逃げたと見せかけて机の下に隠れていた鷲悟である。
「うまく一夏にみんなを押しつけられたか……
とりあえず、アイツらの頭が冷えるまでのんびりするかね」
言って、鷲悟が席に着こうとした、その時――ジャキンッ、となんかイヤな音と共に、その横っ面にゴツイ銃口が突きつけられた。
「では、その間に知っていることを洗いざらい話していただきましょうか?」
「せ、セシリア……?
お前、みんなについていかなかったのか?」
「鷲悟さんの考えそうなことなどお見通しですわ」
口調は落ち着いているが、スターライトをかまえたセシリアの頭には血管マークがざっと五つは確認できる。どう考えても怒っている。
「あ、アハハ………………さらばっ!」
「逃がしませんわっ!」
迷わず逃げ出す鷲悟だが、それを見逃すセシリアではない。逃亡を図る鷲悟の背中に向けてスターライトを撃ち放ち――止められた。
「ら、ラウラ……!?」
そう。シュヴァルツェア・レーゲンを身にまとったラウラだ――AICではビームは止められないから、普通にシールドバリアで受け止めたのだろう。
「た、助かった、ありがと……つか、もう直ったのか? シュヴァルツェア・レーゲン」
「お前がレーゲンを救ってくれたおかげだ。
ブラックボックス以外はキレイサッパリなくなっていたからな。破損パーツを取り外す手間もなく、予備パーツの組み上げに専念できた」
「あー、だからこそのスピード復活なワk
そこから先を告げることはできなかった。
なぜなら、ラウラに胸倉をつかまれ、引き寄せられ――
唇を奪われたから。
『――――――っ!?』
一夏の追跡に参加せず、その場に残った面々の思考が停止する――数秒後、ラウラは鷲悟を解放し、告げる。
「お、お前は私の嫁にする! 禁則……じゃない、決定事項だ! 答えは聞いてないっ!」
「…………“婿”じゃなくて?」
「日本では気に入った相手を『嫁にする』という慣わしがあると聞いた」
上がったツッコミの声は誰のものだったか――その声に答え、ラウラは「どうだ、よく勉強しているだろう」とばかりに胸を張る。
「…………ハッ!
し、ししし、鷲悟さぁ――んっ!?」
そんな中、我に返ったのがこの人。怒りの形相でスターライトをかまえるが、その前にラウラが割って入る。
「私の嫁に何をする」
「あなたのものでもなければ嫁でもありませんわっ!」
「ま、柾木くん……」
火花を散らすラウラとセシリアの姿に、すっかり恐れをなした真耶が騒ぎの中心である鷲悟へと助けを求めるが――
「ラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされたラウラにキスされた……」
「あああああ、柾木くんが壊れたーっ!?」
当の鷲悟も全力で混乱中。頭を抱える真耶だったが――そんな状態にかまうことなく、彼の肩をちょんちょん、と叩く勇者が現れた。
「鷲悟」
「――――――っ!?
し、シャルロット……?」
ビクリ、と肩をすくませ、我に返った鷲悟が振り向いた先にいたのはシャルロットだ。鷲悟に向けてとびっきりの笑顔を見せる――左腕に部分展開したISアーマーがなければ完璧だった。
「鷲悟って、他の女の子の前でキスしちゃうんだね。ボク、ビックリしちゃったよ」
「そのセリフはオレよりもラウラに言うべきだと思う……」
ツッコミを入れても未来は変わらないらしい――シャルロットの左腕の盾がパージされ、姿を現すのは69口径パイルバンカー、“灰色の鱗殻”。通称“盾殺し”。
「は、はは、ははは……」
人間、極限を超えると笑うしかないってホントだねぇ〜――事の成り行きを見物していた本音がそんなことを考えて――
以下、惨劇。
問いかける
オレが一体
何をした!?
次回予告
鷲悟 | 「おぅ、鷲悟だ。 むぅ、また今回も手札さらしちゃったな……」 |
一夏 | 「バーストモードか…… お前の能力といい、“装重甲”といい……いったい何者なんだ? お前」 |
鷲悟 | 「あー、とうとう来たか、その質問…… しょうがない。みんなを集めて説明しようか。 次回、IB〈インフィニット・ブレイカー〉! |
『教えて鷲悟先生! ブレイカーの秘密に迫れ』」 | |
セシリア | 「鷲悟さんの秘密……ドキドキ」 |
(初版:2011/06/16)