「…………ふむ。
事情はだいたいわかった」
IS学園、生徒指導室――鷲悟から話を聞き、千冬は納得して息をついた。
「つまり、デュノアは愛人の娘という境遇をいいことに、男装の上デュノア社の広告塔にまつり上げられていたワケか……」
「えぇ、まぁ……そんなところです。
バレたら実家との確執的な意味でも代表候補生的な意味でもヤバイと思ったんで、オレもグルになって黙ってることに」
話題に挙がっているのはシャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアのこと。シャルロットの再転入の際の騒ぎから鷲悟があらかじめシャルロットの正体を知っていたことはほぼ確実と見られたため、千冬が直々に事情聴取を行なっていたのだ。
「確認するが……織斑は本当に知らなかったんだな?」
「知らせたら最初のオレ同様キレると思いまして……オレがフォローする形で一夏にも秘密に」
ついでに言えば、シャルロットが白式やG・ジェノサイダーのデータを盗んでくるように言われていたことは千冬にも内緒である。この人に知られたが最後、それこそどうなるかわかったものではない。
「そうか……
てっきり白式やG・ジェノサイダーのデータを狙って送り込まれてきたのかと思ったのだが、私の考えすぎだったか」
「そ、そうですね。考えすぎですよ、考えすぎ。ハハハ……」
もっとも――もう半ばバレたも同然の状態であったが。
「………………で、千冬さん」
「織斑先生だ。
それで……何だ?」
しかし、千冬のこの話の振りは正直ありがたかった。便乗する形で鷲悟は口を開いた。
「その“G・ジェノサイダーのデータ”について、話があります」
第13話
教えて鷲悟先生!
ブレイカーの秘密に迫れ
「はい、シャルロット」
「いや、『はい』って……何コレ?」
その晩、自室――いきなり差し出されたそのメモリーカードを受け取り、シャルロットは首をかしげた。
シャルロットが女であることが知れ渡り、一時は鷲悟とのことで「男女が相部屋なんて」という話になりはしたものの、「元々鷲悟は女子と相部屋がデフォじゃないか」ということで
意外にあっさり騒ぎは終息。当初の予定通り転入から一ヶ月は鷲悟の世話係と今の部屋割は維持されることになった(セシリアは大いに不満そうだったが)。
それはともかく、今は手渡されたメモリーカードだ。いったい何なのかと首をかしげるシャルロットだったが――
「ん。G・ジェノサイダーのデータ」
「ぅえぇっ!?」
鷲悟の答えは自分の予想の斜め上を行っていた。驚き、シャルロットは思わずメモリーカードを取り落としそうになる。
「ど、どうしてこれを……?」
「まぁ……何だ。
お前にヤな役回りを押しつけた親父さんへの、オレなりの“嫌がらせ”ってところだ」
「『嫌がらせ』……?」
「そう、嫌がらせ……“挑戦状”と言い換えてもいいかな?
だからさ、オレからの伝言、付け加えといて」
「伝言……?」
「『パクれるものならパクってみやがれ』」
「………………あー……」
納得した。
「安心しろ。千冬さんからちゃんとデータの開示許可はとった――あの人も納得ずくのことだから。
伝言の通り、ちょっとやそっとでパクれるようなシロモノじゃない……っていう打算もあるんだけどね」
言って、鷲悟はイスに腰かけ、
「ま、オレからデュノア社にくれてやれる、最後のチャンス――そう思ってくれ。
そいつを活用できると思っていつまでも悪あがきしてるようなら、再建のチャンスを逃してつぶれるだろうし、逆にそいつが“ISと相容れないとわかるくらい”の技術力があるなら、その技術力を足がかりにいくらでも再起を図れるだろうよ」
「そっか……そうだよね。
うん、ありがとう、鷲悟」
鷲悟の言葉に、シャルロットは笑顔でうなずく――そんな彼女に、鷲悟は意地の悪い笑みを浮かべ、
「なんだよ、ずいぶんうれしそうじゃないか。
親父さん、嫌いなんじゃなかったの?」
「そ、そこまで嫌ってないよ!?
鷲悟はボクのことをどんなふうに見てるのかな!?」
「いやいや、お前って意外とキツイところがあるからなー」
「そんなことないよ!
うー、鷲悟の意地悪!」
鷲悟にいじられ、ぷぅと頬をふくらませるシャルロットだったが、
「……でも、本当にありがとう」
気を取り直し、鷲悟に対して頭を下げた。
「ボクの顔も……立ててくれたんだよね?
女の子であることは明かしたけど……実家にとって、ボクの“鷲悟や一夏のデータを盗ってくる”っていう役目はそのままだし……目的、バレてないと思ってるから」
「まぁ、だからこそ“伝言”で泡食ってもらおう、って嫌がらせなんだけどね。
それに気にすることないよ。繰り返しになるけど、一夏の白式ならともかく、オレの“装重甲”の技術をISに取り入れるには、今のISの技術水準じゃ難しいと思う――そのくらい、方向性が違いすぎる。
それこそ、ISの開発者である篠ノ之さんのお姉さんクラスじゃないとムリだろうね――だからこそ、データを活用される心配をすることなくお前にデータを渡せる」
「あー、なるほど……」
鷲悟の言葉に苦笑して――不意にシャルロットは真剣な表情を見せた。
「けど……そんなすごい技術を、鷲悟はいったいどこで手に入れたの?
鷲悟が開発した……っていうワケじゃないよね? だとすると、技術を開発したところがどこかにある……でも、そんなすごい技術開発をしている、なんて話はどこからも伝わってきていない……
全体はムリでも、一部くらいは伝わってきてもよさそうなものなのに……」
「あー、まぁ、そこはいろいろあるのよ、うん」
「……話せない、ってことだね……まぁ、機密保持ってことなんだろうけど」
「それなのにこんな簡単にデータ渡しちゃって……」などと続けながらメモリーカードをヒラヒラと振ってみせるシャルロットに対して、鷲悟はただ苦笑するしかなかった。
「……とはいえ、そろそろ隠しておくのも限界かなー……」
翌日――みんなで昼食を食べた後、ひとりで食後の散歩としゃれ込みながら、鷲悟はポツリとつぶやいた。
考えているのは自分の素性について――自分が別の世界の地球の人間であることを知るのは、自分の他には千冬と、彼女の信頼が厚く、特別に打ち明けられた真耶だけだ。
他の者達には、教師達も含め「なんだかよくわからない新技術を引っさげて現れた千冬の秘蔵っ子」という認識で通っている。怪しむ人間が現れそうなものだが、それでも有無を言わせないあたり、千冬の影響力の大きさがうかがえる。
鷲悟は知る良しもないが、千冬が「“あの”篠ノ之束の幼なじみ」ということも大きいのだが。あの“天災”篠ノ之束と親交のある千冬なら何を持ち出してきても不思議ではないというワケだ。
しかし――生徒の側で事情を知る者が当事者以外にいないというのは少々ごまかす上で手間がかかる。昨日シャルロットに怪しまれたこともあるし、ある程度口裏を合わせてくれる人間がほしいところだ。
彼女を送り込んできたデュノア社は一夏だけでなく自分もターゲットにしていた。早急に手を打っておかなければ――
「……話して……おくべきだろうな……」
つぶやき、鷲悟はため息をつき――
「何を話すんですの?」
「セシリア……?」
現れたのはセシリア――と、ここでようやく、鷲悟は自分が1-1の教室の前まで戻ってきていたことに気づいた。
「あぁ、答えづらいというのでしたら、わたくしは別に……」
「あー、いや、そういう話じゃないから、大丈夫。
つか……」
決意を固めた、ちょうどそのタイミングで現れてくれたのはむしろ都合がいい。気を取り直し、鷲悟はセシリアに声をかけた。
「セシリア……今日の放課後、空いてるか?」
「え……?
あ、はい、大丈夫ですけど……」
「そっか。よかった」
セシリアの言葉に満足にうなずくと、鷲悟は改めて彼女に告げた。
「実は……大事な話がある」
「だ、大事な……話……?」
鷲悟の言葉に思わず聞き返し――その言葉の意味を“自分なりに”解釈したセシリアはボンッ!と頭から湯気を上げて赤面した。
「だ、ダメですわ、鷲悟さん……
いきなりそんなことを言われましても、わたくし、心の準備が……」
「オレだってそうだ。
けど……それでも、これ以上先送りにしていい話でもない。
もうここまで来たら、どこかで腹括るしかないんだよ――オレも、お前も」
「鷲悟さん……
……わかりましたわ。このセシリア・オルコット。鷲悟さんがどのようなお話をされても、受け入れる覚悟を決めてみせますわ」
「ん。ありがと。
じゃあ、放課後、オレとシャルロットの部屋でな」
「はい」
うなずいて、スキップしそうなほどに浮かれて教室に戻っていくセシリアの姿を見送ると、鷲悟は軽く息をつき、
「……よし、それじゃあ……」
そして放課後、鷲悟とシャルロットの部屋では――
「私との大事な話に他の女まで呼ぶとはいい度胸だな。
だから貴様はアホなのだ!」
「さんざん期待させといて……覚悟はできてるんだろうね、鷲悟?
打ち貫く――止めてみなよっ!」
「乙女心のわからぬ愚者に天罰を!
セシリア・オルコット、狙い撃ちますわ!」
「……何? この修羅場」
「オレが聞きたいよっ!
“みんなに”大事な話があるから呼び集めたのにっ! みんな納得してたのにっ!
一夏ぁ〜っ! へるぷみぃ〜っ!」
地獄が展開されていた。
「……で? あたし達全員に大事な話って何よ?」
「あー、ちょっと待って」
もう少しでいろいろぶちまけられるところだったが、割と冷静だった鈴が取り成してくれたおかげでなんとか助かった――改めて尋ねる鈴に答え、鷲悟は部屋の入り口に向かう。
外の様子をうかがい、誰もいないのを確かめると扉に鍵までかける。いつになく慎重な鷲悟の姿に、一夏達は思わず顔を見合わせる。
ちなみに集まったのはいつものメンバー。すなわちセシリア、シャルロット、ラウラ、一夏、箒、鈴といった顔ぶれである。
「え? 何?
『大事な話』って……もしかして“重要な”って意味で?」
「まぁ、ね……
これからする話を知ってるのは、千冬さんと山田先生だけ……他の先生達はもちろん、学園長や日本政府、IS委員会ですら知らないことだ。
連中にすら“話せない”レベルの話――そういう前提で聞いてほしい」
シャルロットに答える鷲悟の言葉に、事の重大さを理解したらしい。全員が表情を引きしめる。
「じゃあ、本題の前に予備知識の確認――ここを知っててくれないとお話にならないからね。
みんなも、少しは量子物理学について勉強してるよね?――ISの技術概念とちょっと関係してる部分あるし。
で……ISとはちょっと関係ない分野になってくるけど、その量子物理学の理論の中には、“多世界解釈”というものがある……こっちについてはどうかな?」
「いわゆるパラレルワールド、という考え方ですわね。
世界はひとつだけではない。私達の住む世界の他にも、様々な世界があるという……」
「だが、アレは机上の空論のはずだ。
別の世界が実在したとしても、それを証明する手段がないからだ」
「そう。机上の空論だね。証明する手段がないから」
セシリアとラウラの答えにうなずく鷲悟だったが、
「けど……だ。
“生き証人が現れたなら、机上の空論は机上の空論ではなくなる”と思わない?」
『え………………?』
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。一同が思わず呆けて――気づき、声を上げたのは一夏だった。
「ち、ちょっと待ってくれ、鷲悟。
今の話の流れで行くと、その“生き証人”って……」
「あぁ……オレだ」
あっさりとうなずき――鷲悟は告げた。
「オレは……」
「別の世界の出身だ」
「…………い、いきなり何言い出すのよ?
別の世界の人間だって、異世界人だって言われたって、信じられるはずないじゃない」
鷲悟の告白に、場の空気が固まる――空気の重苦しさに耐えかねたかのように口を開く鈴だったが、彼女も、他の面々も気づいていた。
彼の言っていた“千冬もこの話を知っている”ということ。その事実が意味することに。
千冬は鷲悟の法的な保護者、後見人でもある。もし鷲悟の話が口からでまかせだとしたら、そんな“イタイ”人間を彼女が保護したりするだろうか。
答えは……ノーだ。つまり――
「…………マヂ話?」
「ん。マジ話」
恐る恐る尋ねる鈴に、鷲悟はあっさりとうなずいた。
「オレがどうして“こっち”に来てしまったのか……原因は不明だ。何しろ、のんびりしていたところにいきなり“何か”が起きて、気づけばこのIS学園の敷地内に放り出されていたんだからさ。
で、千冬さんに拾われて……ここがオレの生まれた世界じゃないとわかって、千冬さんは機密保持の意味合いも兼ねてオレを保護することにした。
そして……」
「外からの干渉を極力抑えられる、このIS学園に入学させ、正式にここの所属とした……
なるほど、前にボクに特記事項の話を持ち出してこれたのは、実際にルールを鷲悟自身が利用していたから、だったんだね」
「まぁ……そういうことだ」
シャルロットの言葉に苦笑し、鷲悟は軽く肩をすくめてみせる。
「では……“装重甲”は鷲悟さんの世界の最新兵器、というワケですか……?」
「ISは、お前達の世界には存在しないのか?」
「んー、まずは篠ノ之さん正解。オレ達の世界にISは存在しない。
で、セシリアだけど……微妙に正解。
というのも、“装重甲”の技術は、確かにオレ達の世界の技術なんだけど……一般的な技術でもなければ最新技術でもない。
昔からある技術なんだけど、一般的には知られていない技術、と言い換えることもできる――太古の昔から存在しながら、現代に至るまで秘匿され続けてきた」
「『太古の昔』って……それはちょっとオーバーなんじゃないのか?」
セシリアや箒に答える鷲悟に、今度は一夏が口をはさんできた。
「だって、“装重甲”にはISと比べても決して負けてない、そのくらいの技術が使われてるっていうのは、IS歴1年未満のオレにもわかる。
そんな技術が『大昔から』使われていたなんて、それじゃまるでオーパーツじゃないk
「まさにそのオーパーツなんだよ」
「…………って、え?」
あっさりと返され、一夏の目がテンになった。
「実際、“装重甲”は人類にとって科学技術なんてほぼ無縁、なんて頃からすでに存在していた。
そして……オレ達の世界の技術水準は、未だにその技術に追いつけていない。
現代においても世界に不釣合いなオーバーテクノロジーの塊……まさに“時代錯誤遺物”だ」
「そうなんだ……
なんか、そういうのってワクワクしてくるね。大昔、どんな文明が栄えていたのか、とか想像がふくらむよ」
「まぁ、そういった想像に思いを馳せるのがオーパーツの魅力ですものね」
どこか楽しそうなシャルロットにセシリアが同意するが――
「あー、期待に胸ふくらませているところ悪いんだけどさ、作った連中のことならわかってる」
『そうな(んです)の!?』
鷲悟は、申し訳なそうに二人の夢をぶち壊した。
「ただ……そいつらが、ちょっとな……」
「…………?
どうした? 急に歯切れが悪くなったな」
しかし、なぜかその先を言いよどむ……何かをためらっている鷲悟に、ラウラが首をかしげ、尋ねる。
「あのさ……ここから先、急に話の方向性が変わってくるんだけど……ついてこれる?」
「はぁ?
それだけ言われても判断できるワケないじゃない。いいから話してみなさいよ」
「そ、それじゃあ……」
鈴に背中を押される形で、鷲悟は深く息をつき、
「“装重甲”を始めとするオーバーテクノロジーを生み出したのは……」
「精霊だ」
『………………は?』
鷲悟の言葉に、一同は思わず間の抜けた声を上げていた。
「精霊というと……アレか?
エレメントとかスピリットとか……」
「ホントに方向性変わったね……
SFからファンタジーへ。まさに北極から南極だよ」
「ん。極端なのは話してるオレ自身極めて同感だよ」
ラウラの言葉に、鷲悟はため息まじりに苦笑する。
「けど……こっちの世界じゃどうかは知らないけど、少なくともオレ達の世界には精霊と呼ぶに相応しいヤツらが実在していたも確かなんだ。
それぞれが自然に干渉できる特殊な力を持ち、またその力を最大限に活かすために科学技術をも発展させた……さっきのシャルロットの言葉を借りるなら、オレ達の認識でいうところの“SF”と“ファンタジー”が融合したのが、彼らの文明だったんだよ。
とにかく、彼らが当時の地球でもっとも発展した知的生命体であったことは間違いない……人類が現れるまでは」
「なぜ人類の誕生が境目になるのだ?」
「まさか……人類が精霊達を追い出してしまった……とか?」
「んにゃ、もっと穏やかな世代交代だったよ」
眉をひそめる箒や一夏にそう答え、続ける。
「精霊達は、むしろ新たに現れた人類という種に注目した。世界の新たな進化の始まりだとね。
だが……だからこそ、自分達の文明が人類の甘えを招き、その進化の妨げになってしまうことを恐れた。
その結果……彼らは世界を人類に明け渡すことにした。
大洪水によって自分達の文明をリセットし、自然に干渉することのできる自分達の力を用いて自然と、世界とひとつになって……彼らはオレ達の世界の地球そのものになった。
世界を見守る役目を負い、人間として生きることになった一部の精霊を残して、ね……」
「大洪水による世界のリセットって、ちっとも穏便じゃないと思う……まるでノアの箱舟だよ」
「戦争やらかして生存権奪い合うよりはマシだろ?
とにかく、オレ達の地球ではそんな感じで人間が精霊に成り代わり、世界に文明を築くに至ったワケだ」
「いや、『至ったワケだ』って……」
シャルロットに答え、説明に区切りをつける鷲悟だったが、鈴は渋い顔で頭をかく。
「あー、やっぱり信じられない?」
「そりゃそうでしょ。異世界生まれって話だけでもアレなのに、その上精霊に古代文明……
千冬さんが信じてるってことは、まぁ、信じるに足るものがあるんでしょうけど……たとえばアンタの重力制御とか」
「そうだね。オレの能力が根拠のひとつになったことは間違いないかな。
実際に能力使ってるところをいろいろな視点から観測してね。で、オレ自身の“力”だって納得してもらって……けど、その時点ではまだ『ワケのわからないヤツだからとりあえず監視下に置いとこう』って感じだったと思う。
おかげで千冬さん直々の監視のもとで針のむしろな生活が一月……その間にオレの身辺調査も徹底的にやってたらしくて、オレがこの世界で生きてきた“痕跡”が何ひとつないことが判明。そこでようやく異世界生まれだって納得してもらった……と、そんな感じの流れだね。
精霊関係については、『異世界なんだし、そういうのもアリだろう』ってことで……ってラウラ、なぜそこでオレをにらむ?」
「織斑教官直々に監視していた、だと……?」
「おぅ」
「一ヶ月の間……?」
「あぁ」
「つまり……」
「一ヶ月間、教官と寝食を共にしていた、と?」
『………………』
瞬間――空気が固まった。
若干名からのまるで責めるような視線が突き刺さる。具体的には西洋組の三人、そして――
「千冬姉と……」
「って、なんでお前からの視線が一番キツイんだよ、一夏!?
ただ千冬さんに監視されてただけだぜ、オレ!」
「それ以上のことはなかったんですの!?」
「そっ…………!?
お前も何言い出すんだよ、セシリア! 別に何もなかったってば!」
「鷲悟って誰にでも優しいからなぁ。
心当たりはなくても、織斑先生の気を引くようなことをしちゃってた可能性も……」
「シャルロットにまで信用されてないっ!?」
「やっぱりお前、千冬姉に……」
「だからいちいち反応するな、一夏!」
力いっぱい言い返すと、鷲悟はコホンと咳払いし、
「と・に・か・くっ! オレ達の世界についての予備知識はそんなところ。
で、それを踏まえた上でオレ自身の話になるんだけど」
「あぁ、そういえば、柾木自身についてはほとんど語っていないな」
反応した箒の言葉に、ようやく一夏達はプレッシャーを引っ込めてくれた。居心地の悪さから解放され、安堵の息がもれる。
「さっきのお話ですと、精霊の一部は地球に残った、とのことでしたわね……
鷲悟さんの超常の力が精霊の力だとすると……鷲悟さん、まさか……」
「残念。オレ自身が精霊……って話じゃないよ。
オレはれっきとした人間だ……少なくとも、人間として生まれてる」
セシリアに答えると、鷲悟は右の人さし指をピッと立て――そこに“力”を集中、まるでろうそくの明かりのような小粒の光球を作り出した。
「オレ達は肉体的にはただの人間だ。
この“力”だって、エネルギー自体はお前らも持ってる、一般的な生命エネルギーにすぎない。ただみんなが扱い方を知らないだけでね。
オレ達と普通の人間とを分けているのは、精神とか魂とか、そっち方面になる」
「魂……か?」
「そう。
精霊達は、人間達の一部に自分達に代わる世界の守護者たれと自らの魂の一部を分け与えた。
その魂を受け継いだ者は先天的に“力”の総量が増し、その扱い方を知り、その発展として周囲の自然に宿る同種の“力”すらも扱えるようになり……さらに生まれ変わりの際前世の記憶を引き継ぐことで世代を超えての経験の蓄積を可能とした。
そうして転生を繰り返した末、現代に生まれたのがオレ達……“ブレイカー”だ」
「ブレイカー……“破壊者”?」
「この場合、ぶち壊してんは人という種の限界だと思うけどね」
ラウラやシャルロットの相槌に答え、鷲悟は指先でコントロールし、目の前でもてあそんでいた光球を打ち消した。
そして、左手首に巻いたブレイカーブレスを見せ、
「“装重甲”も、ブレイカー用パワードスーツとして精霊達が遺してくれたものだ。
覚醒したブレイカーの能力特性やそいつ自身の向き、不向きをこのブレイカーブレスが総合的に分析、そいつの戦闘スキルに最も適合できる装備を設計、構築する」
「って、その都度設計してんの、それ!?」
「いや、設計は覚醒してから最初の起動、その一回だけ。
それ以降はその初回起動時に設計したデータを元に、オレ達がブレスに蓄積していた“力”を物質化して“装重甲”を構築する……ISみたく量子化して収納するんじゃなくて、その都度作って、その都度バラしてる感じかな?」
驚く鈴に鷲悟が答え――
「――って、ちょっと待て!」
今度は箒が声を上げた。
「ブレイカー各自の資質に応じて、その都度設計される、だと……!?
それは、つまり……」
「すべての“装重甲”が、それぞれのブレイカーの専用機、ということか……!?」
『………………っ』
「ん。そういうことだな」
箒の言葉の意味するところに気づき、一夏達が息を呑む――対し、鷲悟は実にあっさりとうなずいてみせた。
「オレ達ブレイカーの使う“装重甲”は使い手“だけ”に合わせて作り出されるからな。その特性上、一機として同じ機体は存在しない。
だから……篠ノ之さんの言う通り、“装重甲”はそのすべてがISで言うところの専用機にあたる……と言えない事もない」
「………………っ」
鷲悟のその言葉に、箒は思わず唇をかんだ。
クラス対抗戦の時も、ラウラがセシリアと鈴を打ち負かしたあの乱闘の時も、先日のVTシステムとの戦いも……自分は力を、ISを持たないがために何もできなかった。
その度に思った。自分にも力が、専用機があれば……と。
そんな、自分がどれほど望んでも手に入らない専用機を、彼らはブレイカーであるという、ただそれだけで何の苦労もなく手に入れられると言う。それも完璧に自分用にチューンされた、文字通りの“専用”機を。
在り方が違うのだから仕方がない。あちらはそれが普通なのだ……などと納得することはできなかった。羨望と妬み、どす黒い感情が箒の中で渦を巻いて――
「んー、鷲悟がどういう身の上なのか、っていうのはだいたいわかった」
闇に沈みかけた箒の思考を現実に引き戻したのは、一夏のそんな言葉だった。
「けど……どうしてそんな話を、今になってオレ達に?
だって、千冬姉や山田先生しか知らなかったんだろう? そんな重要な話を、単なる自慢話でするとは思えない。
何か……理由があるんだろう?」
「まぁ、ね……
直接的なきっかけは、学年別トーナメントだ」
一夏に答えた鷲悟の言葉に、ラウラがビクリと肩をすくませる――自分の“やらかした”ことを思い出したのだろう。そんな彼女の頭を、鷲悟は笑いながらなでてやる。
「別にラウラがどうこうって話じゃないから安心しろ。
ただ……あの大暴れで、“こっちの世界”で唯一“装重甲”を持ってるオレの存在が、正式に世界各国のIS関係者相手にお披露目になったワケだろ?
シャルロットはほとんど最初から気にかけてくれていたけど、そんなオレを手元に置いておきたい、その技術を手に入れたい……そう考えるヤツは絶対に出てくる。
一応、『オレはお前らなんかの手に負える相手じゃありませんよ』的なアピールができそうな暴れ方を心がけたつもりだけど、うまくいったかどうかはわからないし……“それでも”、“だからこそ”手に入れたい、そういうヤツらもいるだろう。
そして……そういうヤツらは、得てして手段を選ばない」
「VTシステムを退けるほどの戦闘能力――実力的な意味でも手に負えないことに加え、そもそも外部組織の圧力を抑えられるIS学園の生徒だということ……
事実上、直接的な手出しはできないも同然。となると……」
「鷲悟本人ではなく、その周り……あたし達が狙われるってことね。
第二回“モンド・グロッソ”決勝で、一夏が誘拐されたように」
ラウラと鈴――とりわけ鈴の言葉に一夏が身体を強張らせたのがわかったが、鷲悟は彼にかまうことなくうなずくことで肯定を示した。
「だからこそ……もうオレとは無関係とは言えない立場にいるお前らも知っておくべきことだと思った。
向こうはそんなこと知ったことじゃないだろうから、本当に“そういうこと”になったら巻き込まれること自体は避けられないかもしれない。けど、“何も知らずに巻き込まれる”のと“事情を知った上で巻き込まれる”のとでは、危険度はおのずと違ってくる。
もちろん、巻き込まないように全力は尽くす。元凶なんだし、そこやらないのはバカだろ。
けど……巻き込まないようにするからって、それでも巻き込まれた時のことを考えず対策も立てない、なんていうのはそれ以上にバカでしょうが」
「だからボク達にも自分のことを教えてくれたんだね……
でも、織斑先生と山田先生との間だけで留めていたほどの機密レベルなんだよね? 事情が事情とはいえ、話しちゃってもよかったの……?」
「もちろん、千冬さんに頭下げ倒して許可をいただいたさ。
お前らを守る上で必要な情報だったんだし、それに……」
シャルロットに答え、鷲悟は少し恥ずかしそうに頭をかき、
「お前ら相手に隠し事してるのも、いい加減ヤだったしさ……」
照れてそっぽを向いたまま告げられたその言葉に、一夏は手のひらサイズの鷲悟がセシリアやシャルロット、ラウラの胸をツインカラミティバスターで撃ち貫くのを幻視した気がした。ずいぶんとまぁ物騒なキューピットの矢である。
(あ、危なかったーっ!
あの照れ顔は反則でしょ。あたしも本命がいなかったらヤバかったかも……)
撃ち貫かれたのは三人だけではない。一夏の後ろでは、鈴が思いっきり高鳴った胸の鼓動をなんとか収めようとがんばっていたりするが――
(『私達を守るために』情報を明かした、か……)
箒の反応は、そんな彼女達とはまったく違うものだった。
(つまり貴様にとって……私達は“守らなければならない弱者”ということか……)
自分の無力に吐き気がするほど嫌気が差していた箒にとっては、鷲悟の気遣いも“強者の余裕”にしか見えなかった。悔しさと、力への渇望――人知れず、彼女は拳を握りしめていた。
(こうなったら……)
ある決意を固めながら、強く――
「何度見ても、すごいですね……」
「あぁ。
ISとはまったく違う……まぁ、起源となる文明が違うんだ。そこは当たり前だがな」
学園地下の極秘区画――千冬と真耶は、そこであるデータに改めて目を通していた。
ISのものではない。徹底した砲戦仕様の強化スーツ――鷲悟の“装重甲”、G・ジェノサイダーのデータである。
「基本スペックだけでも第三世代型ISに相当。得意分野である砲撃においては文字通り群を抜く……
その能力の高さは、わかっていたつもりだったんだがな……」
「バーストモード……ですね?」
「あぁ。
まさか、あんな隠し技があったとはな……」
「柾木くん、私達にすべてのデータを渡してくれたワケじゃなかったんですね……」
「いや、そういうことではないだろう。
バーストモードは言わば裏技……本来火力に転用される、システム上でもそうなっているカラミティシステムを、ムリヤリ本来とは違う形で運用しているんだ。
システム上は想定されていない運用方法……データに載っていなくて当然だ。
それに……本当に隠すつもりがあったのなら、隠すべきはバーストモードよりも、むしろ“こちら”だろう」
言って、千冬が表示したのは、より大型の“装重甲”のデータだった。
シルエットは大幅に変わっているが、確かにG・ジェノサイダーの流れを汲む――より強大な力を持っているであろうことを容易に想像させるその威容を前に、真耶は心なしか震える声でその機体の名を口にした。
「G・ジェノサイダー……」
「“ドラグーンフォーム”……」
「………………ふぅっ」
消灯時間まではあと1時間ほど――寮の屋上で仰向けに寝転がり、鷲悟は独り息をついた
あの暴露大会はあくまで自分の素性を“知ってもらう”ためだけのもの。知ったことを口外さえしなければ、後は自分との付き合い方をどんな風に変えてもかまわない――そう締めくくる形で解散となった。今は夕食も風呂も済み、ひとりで天体観測としゃれ込んでいたところである。
と――
「そのまま寝ちまいそうな勢いだな、お前」
「一夏……?」
そんな彼のもとに現れたは一夏だった。
「シャルロットが気にしてたぞ。『行き先も告げずにどこかに行った』って」
「…………ヘアブラシとドライヤー持ってなかった?」
「あぁ、持ってたな。
ついでに言えばけっこうご立腹だった」
「……髪の手入れから逃げたの、根に持ってやがるな」
「ハハハ、早いうちに戻ってやれよ」
鷲悟のつぶやきに苦笑し、一夏は彼のとなりに立ち、
「しかし、鷲悟が別の世界の人間だったなんてな……」
「あっさり信じるねぇ。
鈴なんて最後まで半信半疑だったのに」
「あれは信じてないんじゃなくて、理解しようとがんばってるんだよ。
鷲悟は無意味なウソなんかつかないからな……そこは鈴もちゃんとわかってるさ。
それに……千冬姉が信じたんだろ? だったら信じるさ」
「結局お前はそこが基準なのな。このシスコンが」
「うるせぇ」
そこで会話が一度止まる。
「………………なぁ、鷲悟」
「ん?」
「お前……違う世界から何かの事故で飛ばされてきたんだろ?
だったら……」
「やっぱり……帰りたいよな?」
「………………っ」
その一夏の言葉の意味を読み取り、鷲悟の顔から笑顔が消える――その場に上半身を起こし、答える。
「あぁ、帰りたいね。
向こうには家族だっているし……向こうでやることだって残ってる」
「…………そうか」
「けど」
一夏の表情が曇る――友人として寂しく思ってくれていることにうぬぼれまじりにうれしく思いながら、鷲悟はさらに付け加えた。
「今は……ただ“帰る”だけじゃダメだと思ってる」
「え………………?」
「オレも、こっちの世界にそれなりに愛着がわいてる、ってことだよ」
聞き返す一夏に笑顔でうなずく。
「だからオレは……“帰る”方法を見つけるつもりはない。
オレ達の世界と、こっちの世界……二つの世界を“行き来できる”方法を見つけることにする」
「……そうか。
聞きたかったのはそれだけ。さっき、解散した後で気づいて、ちょっと気になってたからさ。
ジャマしたな――早めに部屋に戻ってやれよ」
最後に一言付け加え、一夏は寮の中へと戻っていく。
屋上の出入り口に入り――そこで一言。
「……だ、そうだぞ。
あと、たぶんお前らがいるの、気づかれてるからな」
『………………』
言って、改めて一夏は去っていく――その言葉に、出入り口の陰に隠れて様子をうかがっていたセシリア、シャルロット、ラウラの三人は思わず顔を見合わせ、鷲悟自身にツッコまれる前にとそそくさと退散していくのだった。
「むーん……」
そこは奇妙な空間であった。
部屋のいたるところには機械の備品が散りばめられ、ケーブルがさながら樹海のように広がっている。
その金属の根の上をチョコチョコと歩いていくのは、機械仕掛けの丸々と太ったスズメだった。時折床に転がっているボルトやナットをくわえ上げ、パクリと一飲みにしてしまう。
不要な部品を識別、その構成素材を分解して吸収し、別の形へと再構成できる機械仕掛けのデ○スズメなど、世界中のどこを探してもここにしかいない。
そう。ここは――篠ノ之束、その秘密ラボである。
「おー、おー」
その姿は、そのラボと同様に異色そのものであった。空のように真っ青なブルーのワンピースにエプロン、背中の大きなリボンと、まるで童話『不思議の国のアリス』のアリスのようであるが……着る人間のスタイルがあまりにも秀でているものだから、清純なアリスのイメージを完璧にぶち壊し、妖艶にすら見せている。特に胸などはサイズすら合っていないのか今にもはちきれんばかりに胸元を留めるボタンを引っ張っている。
それに加えて頭のカチューシャには白ウサギの耳がついている――アリスも白ウサギも同居した、言わば“一人『不思議の国のアリス』”とも言うべきその服装は束の趣味であり、また“一人『〜〜』シリーズ”の中でも特に好きな服装でもあった。
そしてそんな束は、空中に展開したディスプレイに対し、すさまじいスピードで指を走らせていた。
それに伴い、画面上では様々な映像が目まぐるしく切り替わっている――常人であればその目に捉えることすら困難な勢いの画面の変化も、自他共に認める“非”常人たる彼女にとってはその内容を一から十まですべてを認識することなど雑作もないことであった。
「ふむふむ、なるほどね〜♪」
彼女なりにそれらの映像に何らかの結論を得たようだ。楽しそうにうんうんとうなずいていると、
《“CYCLONE”! “JOKER”! じゃんじゃかじゃーん、じゃじゃじゃ、じゃんじゃん、じゃんじゃ・じゃんっ! 『さぁ、お前の罪を数えろ』!》
どこかで二人でひとりの探偵が変身していそうな着信音が鳴り響く。それを聞いた瞬間、束の頭のウサ耳がピクンとはねた。
「こ、この着信音は! シュワッ!」
カップラーメンを作っている間しか戦えない銀色の巨人の如く大ジャンプ――やってることはただ携帯電話目がけてダイブしただけだが。
下敷きにされそうになったメカデボ○ズメがあわてて彼女の身体を受け止める――自身のスペックで支えられる限界ギリギリの重量を支え、全身をプルプルさせているが、そんなメカデボス○メにもかまわず充電スタンドからひったくった携帯電話を耳に当てる。
「も、もすもす? ラモス? 終日?」
《………………》
ぶつっ。つーっ、つーっ――切れた。二重の意味で。
「わ〜っ! 待って待ってぇ〜っ!」
束の祈りが通じたか、はたまた相手がこの程度でキレていては話が進まないとあきらめたのか――たぶん後者だろう。とにかくもう一度携帯電話は鳴り響いた。
《“CYCLONE”! “JOK「はーい! みんなのアイドル・篠ノ之束ここに――待って待ってぇ! ちーちゃん!」
《その名で呼ぶな》
「おっけぃ、ちーちゃん!」
《……はぁ、まぁいい。
今日は聞きたいことがある》
「何かしらん?」
《お前は今回の件に“も”一枚かんでいるのか?》
「今回? 今回……はて?」
とぼけているワケではない。本当に心当たりがないのだ。
《VTシステムだ》
「あぁ、あれのこと?
甘いねぇ、ちーちゃん。あんな不細工なシロモノ、この私が作ると思うかな?
私は完璧にして十全な篠ノ之束だよ? すなわち、“作るものも完璧にして十全でなければ意味がない”」
《………………》
「っていうか忘れてたけど、昨日の内にアレを作った研究所には地上から消えてもらったよ。
……あぁ、言わなくてもわかってると思うけど、死亡者はゼロね。赤子のご飯を横取りするより簡単だね」
《……それだと幼児虐待だぞ。正しい言い回しも十分に幼児虐待だが》
いちいちツッコむ辺り、向こうも束の扱いを心得ているようだ。
《では、ジャマしたな》
「いやいや、ジャマだなんてとんでもない! 私の時間はちーちゃんのためならいつでもどこでも24時間フルオープンアタック! 撃ち尽くしてアーミーナイフ一本になってからが本番だぁっ!」
《…………では、またな》
ぶつっ、と電話が切れる。今度はもう一度かかってくることはないだろう。
束は名残惜しそうに一度携帯電話を眺めたが、二秒後にはケロッとした顔で身を起こした。ポイと携帯電話を放り出し、束の下から開放されたメカデボス○メがあわててそれを拾って充電スタンドまで持っていこうとするが、
《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ・タ・ト・バ!》
「デュワッ!」
携帯電話ダイブ再び。メカ○ボスズメをはね飛ばし、どこかで明日のパンツを愛する風来坊が変身していそうな着信音を鳴らす携帯電話を奪い取ると耳に当てる。
「やあやあやあ! 久しぶりだね! ずっとず――――っと待ってたよ!」
《…………姉さん》
「うんうん、用件はわかっているよ。
欲しいんだね? キミだけのオンリーワン、代用無きもの、箒ちゃんだけの専用機が。
モチロン用意してあるよ。最高性能にして規格外。
そして――“異質を超えしもの”」
《――――――っ》
電話の向こうで、相手が息を呑むのがわかった――相手に見えもしないVサインをしながら、束は先ほどまで自分が見ていたモニターへと視線を向けた。
「白と並び立つもの。その機体の名前は――」
そのモニターには――
「――“紅椿”」
VTシステムをバーストモードで圧倒する鷲悟の姿が映し出されていた。
加速する
運命の糸が
からみだす
次回予告
鷲悟 | 「おぅ、鷲悟だ。 ラウラとのアレコレも決着……決着? とにかく区切りもついて、さぁて、次の行事は!?」 |
一夏 | 「えっと……臨海学校だな。 自由時間には海で泳げるらしいぞ」 |
鷲悟 | 「海!? 海水浴なんて久しぶりだ〜っ! おっと、こうしちゃいられない! さっそく水着を買いに行かなくちゃ!」 |
一夏 | 「お、おい、鷲悟!?」 |
鷲悟 | 「次回、IB〈インフィニット・ブレイカー〉! |
『訪れた休息 鷲悟とあの子の初デート!?』」 | |
セシリア | 「で、デートですか!? そんな、わたくし、まだ心の準備が……」 |
(初版:2011/06/23)