時刻は11時半。
 一夏と箒はすべての準備を終え、砂浜に並び立った。
「来い、白式」
「いくぞ、紅椿」
 それぞれが告げると同時、二人の身体が光に包まれ、次の瞬間にはISの展開を完了する。
「じゃあ、箒、よろしく頼む」
「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」
 作戦の性質上、福音との接触ポイントまでは箒が一夏を運ぶことになる――告げる一夏に答える箒の声は、普段の彼女のそれとは明らかに違った。
 妙に機嫌がいいのだ。言葉のひとつひとつが弾んでいる――鈍い、鈍いと言われる一夏にも、箒が浮かれているのはハッキリとわかった。
「それにしても、たまたま私達がいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろう?」
「あぁ、そうだな。
 でも箒、先生達も言ってたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない。十分に注意して――」
「無論わかっているさ。ふふ、どうした? 怖いのか?」
「そうじゃねぇって。あのな、箒――」
「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」
「………………」
 明らかに浮かれすぎなのだが、だからこそ一夏の忠告の言葉も届かない――説得は不可能。ならば現場で自分がフォローするしかないと決意を固め、一夏は箒の背中の上に乗った。
《織斑、篠ノ之、聞こえるか?》
 開放回線オープン・チャンネルから千冬の声がする。
《今回の作戦の要は一撃必殺ワンアプローチ・ワンダウンだ。短時間での決着を心がけろ》
「了解」
「織斑先生。私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」
《そうだな。
 だが、ムリはするな。お前はその専用機を使い始めてから実戦経験は皆無だ。何かしらの不具合が出るとも限らない》
「わかりました。
 できる範囲で支援をします」
《………………》
 やはりどこか弾んでいる箒の声に、千冬はため息をつくと個人間秘匿通信プライベート・チャンネルに切り換えて一夏に告げる。
《……織斑》
《は、はい》
《どうも篠ノ之は浮かれているな。
 あんな状態では何かをし損じるやもしれん。いざという時はサポートしてやれ》
《わかりました。ちゃんと意識しておきます》
《頼むぞ》
 そして、改めて千冬が作戦開始を告げ、箒は一夏を乗せて大空へと飛び立った。

 

 


 

第17話

暴走ISを追え!
超音速の死闘

 


 

 

「出発、したみたいよ」
「………………?」
 みんなが作戦室と化した大広間に詰めている中、千冬に断りを入れて外に出る――と、そんな鷲悟の後を追い、鈴が声をかけてきた。
「どうしたよ? 一夏がいなくて寂しいか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
 からかい半分に告げる鷲悟に言い返し――不意に真剣な表情になり、鈴は尋ねた。
「ねぇ……鷲悟」
「ん?」
「この作戦……うまくいくと思う?」
「しくじるだろうな」
 鷲悟の答えに迷いはなかった。
「理由……聞いてもいい?」
「篠ノ之さんだよ」
 またしても迷うことなく鷲悟は答えた。
「一夏だって本物の作戦行動は初めてだけど、それでも無人ISなりVTシステムなりでそれなりに『実戦』と呼べる修羅場はくぐってきてる……だけど、篠ノ之さんは修羅場どころか紅椿での実戦自体が初めてだ。
 その上、実稼働時間は5分足らずで機体のクセすらつかめてない……浜辺でのテスト稼動の時、篠ノ之束に『思った以上に動く』って言われてうなずいてたろ? それって、要するに紅椿の反応速度に篠ノ之さんの反応速度がついていけてない、ってことじゃないか。
 篠ノ之さん本人は『紅椿がそれだけすごいISだ』って納得してたみたいだけど、裏を返してみれば“紅椿を扱いきれていない”ってことに気づけてないってことになる――機体についていけてないだけならまだ許せるけど、そのことに気づけてないっていうのは最悪だ。篠ノ之束的には『そんな不利は機体性能でひっくり返せばいい』ってところなんだろうけど、どこまで補えるか……
 そして何より、篠ノ之さん自身が紅椿を手に入れて有頂天――あれで大丈夫と思えっていう方がムリだ。
 断言してもいい。絶対に失敗するね――それも、篠ノ之さんが足を引っ張る形で」
「って、それがわかっててなんで行かせたのよ?」
「他に方法があった?
 セシリアのストライクガンナーは量子変換インストールが終わってなくて、作戦にはどう考えても間に合わなかった。そしてオレの“装重甲メタル・ブレスト”やお前らの機体の巡航速度じゃ、超音速飛行状態の福音に追いつくのはムリだ。追いついた後、戦場で追い回す段階の話をするなら、話は別だろうけどね。
 あの状況じゃ、たとえ不安要素とマイナス因子のカタマリだろうと、篠ノ之さんの紅椿を作戦に組み込むしかなかった――“そうなるように仕組まれていた”
「仕組っ……!?」
 鷲悟の言葉に、その裏にあるものを感じ取った鈴が息を呑む――が、すぐに気を取り直し、改めて尋ねる。
「それで……どうするの?」
「どうもしないよ」
 やはりあっさりと鷲悟は答えた。
「ゴチャゴチャ考える必要なんかない。ただ、できることをするだけだ。
 とりあえず、今は……」
「今は……?」
 聞き返す鈴に対し、鷲悟は人さし指をピッ、と立てて告げた。



「ジュースを買いに行ってくる」







「暫定衛星リンク確立……情報照合完了」
「目標の現在位置、確認……」
 一方、一夏と箒は目標高度500mへと到達。“銀の福音シルバリオ・ゴスペル”を捕捉すべく、その位置を追跡している衛星とのデータリンクを行なっていた。
「――見つけた!
 一夏、一気にいくぞ!」
「お、おぅっ!」
 一夏の返事を聞くなり、箒は紅椿を加速させる――脚部と背中の装甲が開き、そこから噴出した強力な推進エネルギーが爆発的な加速力を生み出す。
(これが、雪片弐型と同じ展開装甲――その完成形か)
 束の説明によれば、紅椿のISアーマーはほぼすべてがこの展開装甲らしい。脚部と背中だけでこれでは、全身を展開した時のパワーはどれほどになるのか――
(っていうか、そもそもそれだけのエネルギーをどこから……?)
「見えたぞ、一夏!」
「――――――っ」
 箒の声が、一夏の思考を現実に引き戻す――同時、ハイパーセンサーの捉えた目標の姿が視覚に反映される。
 その名の通り銀色に輝く全身装甲フルスキンタイプのIS――“銀の福音シルバリオ・ゴスペル”。
 特徴的なのが頭部から生えた一対の巨大な翼だ。資料によれば、大型スラスターと広域射撃兵装を融合させた新型システムだそうだ。
(資料にあった“多方向同時射撃”っていうのが気になるけど……)
 多方向同時。つまり同時に、多数の方向に攻撃ができるということ――それは、福音は現在の位置関係でも、こちらに気づきさえすればすぐにでも攻撃が可能であることを示していた。
(だからこそ――見つかる前に叩く)
 当初のプラン通り、こちらに気づかれる前に一撃で決める。気を引きしめ、雪片弐型を強く握りしめる。
「加速するぞ! 目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」
「あぁ!」
 箒の声と共にさらに加速。福音との距離を詰めていく。
 そして――
「っ、オォォォォォッ!」
 一夏が飛び出した。“瞬時加速イグニッション・ブースト”を使い、突撃をしかける。
 瞬く間に距離が縮まり、一夏が福音に向けて雪片を振り下ろした、その瞬間――
《敵機、確認》
「なっ!?」
 福音が身体全体を反転。後退する体勢となって一夏の方へと振り向いた。
(一度体勢を立て直し――いや、このまま押し切る!)
 今さら行動を改めるには遅すぎた。ならばせめて相手の反撃が来る前に叩く。そう決意し、そのまま雪片を振り下ろすが、
《迎撃モードへ移行。
 “銀の鐘シルバー・ベル”、稼動開始》
 福音は身体を一回転させ、“零落白夜”の一撃を文字通りの紙一重、わずか数ミリという精度で回避する。初撃が――かわされた。
(く…………っ! あの翼が急加速をしているか!?)
 ここまで精密な急加速、急旋回というのは見たことがない。“重要軍事機密”は伊達ではないということか。
 これも開示された資料ではわからなかったこと――鷲悟が情報不足を最も問題視していた、その理由を思い知らされる。
「箒! 援護を頼む!」
「任せろ!」
 とにかく、時間をかける分だけこちらが不利になる。箒に背中を預け、一夏は再び福音へと斬りかかる。
「くっ、このっ!」
 しかし――当たらない。福音はヒラリ、ヒラリと身をひるがえし、一夏の攻撃をまるでダンスでも踊るかのようにかわしていく。
 そうしている間にも“零落白夜”のエネルギーはどんどん消費されていく。焦りから、一夏の攻撃が大振りになり――そのスキを見逃す福音ではなかった。
「――――――っ!?」
 推進システムである銀色の翼、その装甲の一部が開く。そこから顔をのぞかせたのは――
(――砲口!?)
 まるで羽ばたくような動きで、福音が口を開けた“すべての”砲口を一夏に向ける。次の瞬間、大量の光弾が一夏に向けてばらまかれた。
「うおぉぉっ!?」
 とっさにかわそうとする一夏だったが、何発かもらってしまう。羽のような形をした光弾が白式のISアーマーに突き刺さり――弾けた。
 炸裂性のエネルギー弾。これが福音の主兵装らしい。ひとまず持ちこたえた一夏に向け、再び大量にばらまいてくる。
「箒、左右から同時に攻めるぞ! 左は頼んだ!」
「了解した!」
 降り注ぐ光弾の雨から散開して逃れ、一夏と箒は二面攻撃をしかける。
 が、やはり福音には当たらない。回避に特化した動きで二人の攻撃をかわし、その上光弾までばらまいてくる。回避を優先しているせいか狙いは粗いが、炸裂性というのが厄介だ。一発でももらえばそこで体勢が崩れ、追撃のチャンスを与えることになってしまう。つまり、一夏も箒も一発の被弾も許されない。
 ただ時間だけが過ぎていき――焦りばかりが募っていた。



「急げ! こっちにもタンカだ!」
「ISは最悪コアが無事ならいい! 操縦者の保護を優先しろ!」
 時間は一時間ほどさかのぼり――ハワイ沖では、米軍ならびにイスラエル軍による、暴走した福音によって壊滅させられた試験部隊の救助が行なわれていた。
 大破した艦船から、海上から、負傷したクルーや試験のスタッフ、ISによって守られた操縦者達が次々に救助され、医療スタッフのもとへと運ばれていく。
 そんな中、新たに一機のISが操縦者と共に引き上げられた。
 福音と同じく全身装甲フルスキンタイプの、金色に輝く装甲を持つそのISの名は“金の夜明ゴルデイオ・デイライト”。福音と対となる最新型試作ISで、福音のテスト相手を務めていたことから暴走した福音に真っ先に撃墜された機体である。
「操縦者は無事か!?」
「大丈夫だ! 致命領域対応は働いていない!
 今装着を解除して――」
 口々に言いながら、救助隊員は夜明に駆け寄り――
「がっ!?」
 そのひとりの顔面がつかまれた。何が起きたのか理解する前に投げ飛ばされ、救助艇の外、海中に没する。
 『致命領域対応は働いていない』――救助スタッフの言葉に間違いはなかった。
 当然だ。そんなものは必要ない。
 なぜなら――



 夜明は、“まだ戦えるのだから”





「くっ、このっ!」
「チョコマカと……っ!」
 時間は現在に戻り――暴走する福音を相手に、一夏と箒は苦戦を強いられていた。
「一夏! 私が動きを止める!」
「わかった!」
 言葉を交わし、二人が動く――福音へと突っ込み、箒は二刀流でたて続けに攻撃を繰り出す。
 さらに、腕部展開装甲が開き、そこから発生したエネルギー刃が攻撃に合わせて自動で射出、福音を狙う――束の言っていた自動支援装備のなせる業だ。
(こっちもこっちでバケモノだな……)
 一夏が失礼なことを考えている間にも、箒による猛攻は続く。紅椿の高い機動性を武器に、福音との間合いを詰めていく。
「一夏!」
「あぁ!」
 箒の合図で一夏が突っ込むが、福音も負けてはいない。
「La…………♪」
 電子音声で何事かつぶやくと、福音はウィングスラスターに36基備えられた全砲門を開いた――全方位への無差別砲撃。孤立無援の福音だからこそできる攻撃だ。
「やるな……だが、押し切る!」
 箒が光弾の雨の中を突っ切り、雨月あまづきで一撃。そこにスキが生まれる。
「今だ、いt――っ、一夏!?」
「オォォォォォッ!」
 しかし、一夏は福音を見てはいなかった。直下の海面へと“瞬時加速イグニッション・ブースト”まで使って急降下。光弾の一発に追いつき、“零落白夜”で消滅させる。
「何をしている!? せっかくのチャンスに――」
「船がいるんだよ!」
 箒に答え、一夏の見やった先には確かに一隻の漁船の姿があった。
「海上は先生達が封鎖したはずなのに……あぁ、くそっ、密漁船か!」
 封鎖する海域が広いからすべてはカバーしきれない。先生達の封鎖をあまりあてにするな――鷲悟に言われていたことを今らながらに思い出し、同時に忘れていた自分自身に舌打ちする。
 そんな一夏の手の中で、雪片の光刃が消える――“零落白夜”のエネルギー切れだ。
 そして、それはこの作戦の要が失われたことを、すなわち、作戦失敗を意味していた。
「馬鹿者! 犯罪者などをかばって! そんなヤツらは――」
「箒!」
「――――――っ!?」
 一夏の放った叫びが、箒にその先を言わせなかった。
「箒……そんな寂しいこと言うな。言うなよ。
 力を手にしたら、弱いヤツのことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない。ぜんぜんらしくないぜ」
「わ、私、は……」
 一夏の言葉は、箒の胸の奥に潜む闇を日の光のもとに暴き立てた。明らかに動揺し、箒は両手で自らの顔を一夏の視線から覆い隠した。
 それによって、雨月と空裂からわれは箒の手からこぼれ――“消滅した”
「――――――っ!?」
 そしてそれは、一夏の背筋を凍らせる“ある事実”を示していた。
(まさか、具現維持限界リミット・ダウン――マズイ!)
 要するに、ISの展開を維持するのも危ういレベルまでエネルギーを使い切ってしまった、ということだ。つまり――今の紅椿には“シールドバリアを張るエネルギーも残っていない”
 しかも、福音は箒に向けてすべての砲門をかまえている。ハイパーセンサーで紅椿のエネルギー切れに気づいたのだろう。
「箒ぃぃぃぃぃっ!」
 もうなりふりかまっていられない。残された最後のエネルギーをふりしぼっての“瞬時加速イグニッション・ブースト”で箒の前へと飛び出し――







 エネルギーの尽きた白式いちかの背中に、福音の一斉砲撃が降り注いだ。







 かろうじて発動した絶対防御も、致命傷を避けるので精一杯だった。ISアーマーが破壊され、熱波で肌が焼け、全身を貫く衝撃で骨がミシミシときしむ。
「……い、ち……か……?」
 呆然とつぶやく箒の目の前で、一夏の身体がよろめいた。思わず差し出した手もその身体を抱きとめることは叶わず、一夏は眼下の海へと落下していく。
「一夏ぁ――――――っ!」
 箒の悲鳴が響く中、一夏は――



 受け止められていた。



 突如落下軌道に飛び込んできた人物によって受け止められ、海中への落下を免れたのだ。
 その人物とは――
「……鈴……!?」
 気づき、つぶやく箒の頭上に影が落ちた。見上げた彼女の視線の先で――



「おいおい、どうなってんだ? コイツは」



 つぶやき、鷲悟はため息まじりに福音をにらみつけた。







「ま、柾木くん!? 凰さん!?」
「何をやっているんだ、あの馬鹿者どもが……」
 こちらから状況を把握する手段など、通信管制や追尾している衛星からの識別信号くらいがせいぜい――しかし、それでも誰が乱入してきたか、くらいは読み取れた。驚く真耶のとなりで、千冬も眉間を押さえてため息をつく。
 『ジュースを買いにいくついでに他のみんなをごまかしに行ってくる』と言って鷲悟が出ていったのが、一夏達が出発してすぐのこと。現状、特に彼に割り振れる仕事もなかったから、直後に合流したという鈴共々好きにさせていた。てっきり向こうで話し込んでいるかと思いきや……
 だが、一夏が撃墜され、箒もエネルギー切れというこの状況で、二人の登場は正直ありがたい。すぐに一夏と箒を連れて下がらせようと千冬が口を開き――
「お、織斑先生!」
 通信管制を担当していた教師が、さらなる事態の急変を伝えてきた。




「おいおい、どうなってんだ? コイツは」
 箒の、そして旅館での千冬達の驚きもなんのその。撃墜された一夏を鈴に任せ、鷲悟は福音をにらみつけた。
「ちょっと本場アメリカのコーラが飲みたくなって、鈴と二人でアメリカ目指してカッ飛んでただけなのに、なぁんか厄介な場面に出くわしちゃったみたいだな」
 旅館を抜け出してきた言い訳も、ここまでくるといっそ清々しい。言いながら、鷲悟は眼下の鈴へと声をかけた。
「鈴! 一夏は大丈夫か!?」
「大丈夫なワケないでしょ! 絶対防御すらほとんど働いてない状態であれだけの光弾をもらったのよ!?
 白式が致命領域対応を働かせてるから、大丈夫だとは思うけど……」
「死んでなきゃよし!
 なら、一夏と篠ノ之さんを連れて下がってろ! オレはコイツを片づけて米軍に引き渡したら、そのままコーラを買いに行く!」
「あくまでコーラは買うんだ!?」
「飲みたいのは本当だ!」

「引き渡した米軍の人達に売ってもらえばいいじゃないっ!
 軍艦持ってきてるんなら艦内売店くらいあるでしょっ!」
「なるほどっ!」
 ツッコむ鈴に相手に頭の悪い会話を繰り広げながら、鷲悟は福音に向けてかまえ――
「ま、待て、柾木!」
 そんな鷲悟に対し、箒が声を上げた。
「私も戦う!
 アイツは一夏を――」
「違うな」
 静かな――しかし、有無を言わせぬプレッシャーと共に、鷲悟は箒を黙らせた。
「一夏はお前をかばって墜とされたんだ。
 “陥らなくてもよかったピンチに陥ったお前をかばって”
「――――――っ」
 鷲悟の言葉は、箒の胸を、その心をこれ以上なく深々とえぐっていた。
「戦いを自分の力を見せつける自慢の場としてしか見られない傲慢ごうまんさが。
 一夏の目の前でさらした醜態を認められず、敵前だろうがおかまいなしに自分の殻にこもろうとするその身勝手さが。
 自分が強者の側に回ったとたん、かつて自分もそうだった弱者を容赦なく斬り捨てようとするそのおごりが。
 それらが無自覚の悪意となって積み重なり、結果一夏を撃墜に追いやった。
 見誤るな。一夏を撃墜したのは福音じゃない」



「お前の、弱さだ」



「――――――っ!?」
 ダメ押しとばかりに放たれた一言が、箒を容赦なく貫く――完全に戦意を失った箒に背を向け、福音へと視線を戻す。
「どの道、エネルギー切れのお前がいたってジャマにしかならないんだよ。むしろ足手まといだ。
 いい加減に自覚しろ。
 お前は――オレ達の中で、一番弱い」
 言って、鷲悟は箒達から離れるために前方に加速。そこから急上昇して福音に向けて突撃していく。
 対する福音も鷲悟に向けて光弾の雨を降らせるが、
巡航速度マラソンはそっちが上でも!」
 言って、鷲悟は福音の弾幕をかいくぐり、
機動性おいかけっこで負けるつもりは、ないんだよ!」
 グラヴィティランチャー、グラヴィティキャノン、バスターシールドをたて続けに連射。福音との激しいドッグファイトに突入する。
「箒、下がるわよ!
 一夏を早く連れて帰らないと!」
 一方、一夏を抱えた鈴は一刻も早くこの場を離れようと箒に声をかけるが、
「――って、箒!?」
 その箒は、上空の戦いをただ見つめるだけだった。



(どうして、こうなった……?)
 箒の胸の内を締めているのは、その一言だった。
 自分は紅椿を、念願の専用機を手に入れた。
 最高の性能を持つISを、最強の力を手に入れたはずだ。



 それなのに――自分はやはり、戦いを見守るしかない状況にさらされている。
 あの福音を“仕留める”のは、一夏と自分だったはずなのに……



 いったい、どこで歯車が狂ったのだろう?
 なぜ、力を手に入れたはずの自分がこうして無力をかみ締めなければならないのだろう?



 なぜ――あの男が未だに自分の上にいるのだろう?



『自分の無力をわきまえろ、この身の程知らずがっ!』



 あの時から、あの男は自分の無力を嘲笑わらっていた。



 無人ISを、わずか一年で代表候補生中国国内最強まで上り詰めた天才・鈴を、一年生最強とうたわれたラウラを、歴代ヴァルキリーの力を結集したVTシステムを……彼は次々に打ち破り、その強さを見せつけてきた。



『お前は――オレ達の中で、一番弱い』



 そして――紅椿を手に入れた自分すら、自らには及ばないと言い切った。



 いつだって、あの男は自分を上から見下ろしてくる。



 いつだって、あの男は自分の努力を無意味にする。



 いつだって、あの男が自分をみじめにする。



 いつだって――







 あの男が、ジャマをする。







 そうだ――アイツのせいだ。



 自分が勝てないのも。



 自分が頂点に立てないのも。



 自分がみじめなのも。







 全部、全部――











「お前の、せいでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」











 もう、自分を抑えておくことなどできなかった。爆発する感情と共に咆哮し――紅椿から“力”がほとばしった。
 ハイパーセンサーが何かのメッセージを表示している気がするが、そんなことはどうでもよかった。渾身の力で加速、上昇し――







 再構築した雨月の一撃を、“鷲悟の背中に叩き込んだ”







「ちょっ、アンタ何を――」
「ゥアァァァァァァァァァァッ!」
 鈴の制止の声も箒の耳には届かない。雨月を、続けて再構築した空裂をただがむしゃらに振るい、発生した赤い閃光の雨が鷲悟へと降り注ぐ。
「お前さえ……お前さえ……っ!」











「お前さえ、いなければぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」











 最後の一撃とばかりに、空裂でのフルパワーの一撃を叩き込み――ようやく箒は止まった。
「ハァッ……ハァッ……!」
 考えなしに全力で暴れ、ISの補助があったはずなのに息が切れる。目の前に立ち込める爆煙を、箒はただにらみつけ――



 その背後に、福音が回り込んでいた。



「………………え?」
 完全にその存在を失念していた箒の反応は間に合わない。呆然と声を上げる彼女に向け、福音が右手の爪を振り下ろし――











 飛び散った“鷲悟の”鮮血が、箒の頬を汚していた。











「……よかった……無事か、篠ノ之さん……っ!」
 つぶやく鷲悟の腹からは、銀色の装甲を真っ赤に染めた福音の腕が“生えて”いる――背中からその身を貫かれ、それでも鷲悟は箒の無事を確認し、安堵のつぶやきをもらした。
 福音に貫かれた傷だけではない。“装重甲メタル・ブレスト”はボロボロにひび割れ、カラミティキャノンも損失。さらに全身が熱波に焼かれ、焼け焦げた刀傷があちこちに刻まれている。
 そう、“焼け焦げた刀傷”――箒の雨月、空裂の斬撃を、発生した攻性エネルギーもろとも受けた証拠だ。
 いや――それだけではない。鷲悟の姿を見て箒が気づいたのはもうひとつ。
(盾が……無傷……!?)
 そう。自分があれだけ攻撃を叩き込んだというのに、“装重甲メタル・ブレスト”がズタズタになるほどの攻撃を受けたというのに、鷲悟の使う盾、バスターシールドはほとんど傷ついていなかった。
 それは、鷲悟が盾を使わなかった――あれだけ叩き込まれた箒の攻撃を、防御しなかったことを意味していた。
「ま、柾木……お前、どうして……!?
 私は、お前を……」
「ンなの……どうでもいいね……」
 胃を満たした血液が食道を逆流し、口からあふれ出る――口元を真っ赤に汚しながらも、鷲悟は箒に答えた。
「どれだけ、オレを嫌っていようが……お前は、“一夏の幼なじみ”なんだから……
 お前に何かあったら……オレが、アイツに、顔向けできないんだよ……っ!」
 告げる鷲悟の身体から、福音がその手を引き抜く――おびただしい量の血を流しながら、鷲悟は福音へと向き直る。
「ちょっ、鷲悟!?
 そんな身体で、まだ戦うつもり!?」
「大丈夫……! 内臓2、3個つぶれただけっ!」
「ちっとも大丈夫じゃないわよ、それっ!」
 答える鷲悟に鈴がツッコんだ、その時――
《柾木! 凰!》
 突如、千冬から個人間秘匿通信プライベート・チャンネルで通信が入った。
「何スか、織斑先生。
 こっちはジュースを買いに外出した先でチンピラにからまれて取り込み中なんですけど?」
《バカを言っている場合ではないっ!
 作戦中止だ! 今すぐ織斑と篠ノ之を連れて“そこから逃げろ”!
「『中止』……?」
 一夏が撃墜された時点で作戦は『失敗』に終わったはずだ。その上で『中止』と言い切った千冬の言葉に、鷲悟は痛みに耐える一方で眉をひそめた。
 それはつまり――
「そいつはミッション自体の中止――立て直しもなしってことですか? その上『逃げろ』……?
 いったい何が――」
《2体目だ!》
「え………………?」
《アメリカ大使館から学園上層部を通じて緊急連絡が入った!
 暴走した福音に撃墜された“もう一機の試作機までもが暴走した”!
 名は“金の夜明ゴルデイオ・デイライト”! 救助部隊を壊滅させた後、福音に引き寄せられているのか、まっすぐそちらに向かっている!
 現状の戦力で、しかもお前が負傷している状態でどうにかなる戦況ではない! 夜明の到着前にそこから離脱、封鎖部隊と合流して――》



「――ぅわぁっ!?」



《――――――っ!? 今の悲鳴は篠ノ之か!?
 どうした!? 福音か!?》
「…………スンマセン。
 もう、手遅れみたいです……」
 千冬に答え、鷲悟が見上げた先で――







 箒を叩き落とした“金の夜明ゴルデイオ・デイライト”が、ゆっくりと鷲悟へと向き直った。







 銀色に輝く福音に対し、金色に輝く装甲。
 流線的でスマートな福音に対し、直線的で重厚な体躯。

 金と銀、スピードと防御力、火力と腕力。
 全身装甲フルスキンという唯一の共通項を除けばすべてが福音と対極の存在――それが夜明だった。
(……くそっ、こんな時に……っ!)
 一夏は撃墜。自身も重傷。箒も今の一撃による撃墜こそ免れたものの、今や戦える精神状態ではない。
 五体満足なのは鈴ただひとり。その上福音と対、すなわち同等の戦闘能力を持つであろう敵が増えた――千冬に指摘されるまでもなく、状況は最悪だった。
(いや、愚痴ってる場合じゃない。
 最悪な状況なのは“今”だ。“これから”じゃない。なんとかこの状況からみんなを生還させる……!)
「鷲悟」
 密かに決意を固める鷲悟に、不意に鈴が声をかけてきた。
「アンタ……自分が残ってあたし達を逃がそう、とか思ってないでしょうね?」
「――――――っ!?」
「やっぱりね。
 わかりやすいのよ。アンタの考えてることなんて」
 言って、鈴は鷲悟の前に出て、
「……アタシがこいつらの気を引く。
 その間に、一夏達を連れて離脱しなさい」
「鈴!?」
「今のアンタよりは、まともに戦えるわよ」
 声を上げる鷲悟に答え、鈴は彼に一夏を押しつける。
「何言ってんだ!
 一夏と篠ノ之さんを無事に逃がすことを第一に考えるなら、一番余力があるヤツを二人の直衛につけるべきだろ!」
「それでアンタが残って、瞬殺されたんじゃ意味ないでしょうが!」
 反論する鷲悟だったが、鈴も気丈に言い返してくる。
「どうやって持ちこたえてるのか知らないけど、アンタだってすぐにでも手当てしなきゃならない重傷なのよ。
 箒にアレコレ言いたいなら、アンタこそ自分が今は守られる側だって自覚しなさい」
「――――――っ」
 鈴の言葉に歯がみして――それでも鷲悟は動いた。
「……死ぬなよ。
 一夏に作ってやる酢豚の材料費、おごってやるから!」
 告げると同時に急降下。そこにいた箒の手を取り、空域からの離脱を図る。
「……やれやれ。
 命をかけるにしては、ずいぶんと安っぽい報酬よね」
 そんな鷲悟を見送り、鈴は苦笑まじりにつぶやいて、
「さぁ……始めましょうか。
 最新鋭機だか軍用だか知らないけど……代表候補生、ナメんじゃないわよ!」
 咆哮し――福音と夜明に向けて飛翔した。



「――柾木くん!」
 一夏を抱え、箒の手を引き――離脱してきた鷲悟のもとに、近くを封鎖していた教師が飛んできた。
「一夏と篠ノ之さんを、頼みます」
「あ、あぁ……って!?」
 引き渡された二人、とりわけ一夏の負傷に息を呑む――彼女がひるんだ、わずか一瞬のスキをつき、鷲悟は彼女の手の届かない距離までその身を離した。
「柾木くん、何を!?」
「鈴を……助けに行きます」
 痛みに顔をしかめながらも、それでも鷲悟はハッキリとそう答えた。
「なっ、何をバカなことを……!
 そんな重傷で、まともに戦えるワケがないだろう!」
「確かに、まともに戦うのはムリですね」
 教師の言葉をあっさりと認め――それでも、鷲悟は続けた。
「でも、ですよ……
 “まともに戦う”ことはできなくても……“鈴を守る”くらいのことはできますから」
 言って、鷲悟は推進ユニットの推進ガス噴射口を開き――
「待て、柾木!」
 箒が、鷲悟を呼び止めた。
「私も行く!
 お前の言う通りだ。一夏は、私のせいで……ならばせめて、一夏の仇は私が!」
「ダメ」
 しかし、鷲悟は迷わず箒の言葉を両断した。
「もう戦えない篠ノ之さんを連れてなんていけない。
 一夏と一緒に、先に帰ってろ」
「何をバカなことを!」
 言い返し、箒は鷲悟につかみかかった。
「『もう戦えない』だと!? 貴様はそんな傷でも戦えて、私はムリだと……何を根拠にそんなことを!?
 紅椿がエネルギー切れだからか!? 私が、お前より弱いからか!?
 それとも、私がお前をころs――」
 そこで、箒の言葉が止まった。
「……そんなんじゃ、ないよ」
 彼女の腹に打ち込まれた、掌底によって。
 もはや紅椿の展開の維持すら困難な状態だった箒には、防ぐ術も耐える術も残されてはいなかった。ゆっくりと意識が遠のいていく箒に対し、鷲悟が告げる。
「いつだって、篠ノ之さんは“一夏のために”がんばってきた。
 一夏のために弁当を作って、一夏のためにISの特訓にも付き合って……
 お前はいつだって一夏がすべてなんだ。一夏のいないところでは……お前は、戦えない」
「…………っ、く……っ!」
 そのまま、意識を失った箒が真っ逆さまに墜落していく――教師があわてて箒を拾いに行っている間に、鷲悟は反転、鈴の戦う戦場へと飛翔した。



「く……っ、このぉっ!」
 降り注ぐ光弾の雨をかいくぐり、“双天牙月”で斬りかかる――しかし、福音はそんな鈴の斬撃をヒラリとかわし、自分“と夜明”を狙って再び光弾をばらまいてくる。
 なんとかそれをかわしていく鈴だったが、今度は夜明が彼女に向けてつかみかかってくる。とっさに鈴はその腕をかいくぐり、目標をつかみ損ねた夜明の手の中で光が炸裂する。
 夜明の手のひらに装備されたビーム砲が火を噴いたのだ。つかんだ相手に零距離からビームを叩き込む“金の夜明ゴルデイオ・デイライト”の主武装“金の陽光ゴールド・サン”である。
 さらに夜明はそのモードを切り換え、大出力ビーム砲として上空の福音を狙う――そのスキに鈴は離脱しようとするが、福音がばらまいた光弾の雨が、鈴の逃げ道をふさいでしまう。
「く……っ! どうあっても逃がさないつもり!?」
 先ほどから何度も離脱を図っているのだが、その度に福音なり夜明なりに阻まれる。その上ちょっとでも手を出せばものすごい勢いで反撃してくるため、牽制もうかつに行なえない。ヘタをすればその反撃で自分が撃墜されてしまいかねない。
「ったく、お互いに加えてあたしまで墜とそうなんて――」
 毒づく鈴の背後に夜明が回り込んできた。鈴に一撃を加えるべく、その両腕でつかみかかってくる。
「――欲張りすぎなんじゃないの!?」
 対し、鈴も双天牙月でカウンターを狙い――



 両者の間を、“漆黒のエネルギーの渦が”駆け抜けた。



「――重力波ビーム!?」
 その正体に気づいた鈴が声を上げると、
「鈴!」
 声を上げ、鷲悟が彼女のもとへと飛来した。
「鷲悟!?
 何やってんのよ!? 逃げろっつったでしょ!?」
「言われたな!」
 鈴に答え、改めて一斉砲撃で夜明を追い散らすと両肩のグラヴィティキャノンにグラヴィティランチャーを接続。2門のグラヴィティバスターを作り出し、
「けど……『戻ってくるな』とは言われてない!」
 放たれた拡散グラヴィティブラストが、夜明と福音をまとめて吹っ飛ばす!
「篠ノ之さんにも言ったろ。『何かあったら、一夏に顔向けできない』って。
 そいつはな……鈴、お前にだって言えることなんだ」
 言って、鷲悟はグラヴィティバスターを分離させると鈴へと向き直り、
「確かに、今のオレは守られる側かもしれないけどな……だからって、大人しく守られてばっかりいられるか!」
 そうこうしている間に、福音と夜明が体勢を立て直してきた。上昇してくる2体を鷲悟は改めてにらみつけ、
「オレを守りたいなら守ればいいさ。
 けどな……オレだってお前を守る。一方的に守られてなんかやるもんかよ」
「……ったく、好きにしなさいよ」
 鈴の言葉にうなずき返し――と、鷲悟は福音が自分達を見ていないことに気づいた。
 顔全体を覆うバイザーのせいで視線は追えないが、その顔は明らかに眼下の海面を見ている。どうしたのかと鷲悟がサーチをかけ――
「――――――っ! あの船!」
 一夏がかばい、作戦失敗のきっかけになった密漁船だ。さすがにこの場から逃げ出そうとはしているようだが、戦いの余波で荒れ狂う海上ではそれもままならないらしい。
 そして、福音はその密漁船をじっと見つめている――気づいた鷲悟が動くのと、福音が光弾をばらまいたのはまったくの同時だった。
 その狙いは海上の密漁船。とっに鷲悟は射線上に割り込み、盾となって直撃弾をその身に受ける。
「ぐぁ……っ!」
(コイツ……一夏がこの船を守ったのを見てやがったのか……! だからこの船を狙えばオレ達が盾になるって……っ!)
 暴走していても戦術という意味ではちゃんと頭は回るらしい。こちらの性格までも読んで仕掛けてきた福音に鷲悟は内心毒づいて――
「――――――っ! がぁっ!?」
 その一瞬のスキに飛び込んでくる影――とっさに距離を取ろうとする鷲悟を逃がさず、夜明は彼の頭をその両腕で捕まえる。
 間髪入れず、反撃しようとした鷲悟の腹にヒザ蹴り――箒をかばって福音に貫かれた腹の傷に一撃をもらい、さすがの鷲悟もたまらず両手のグラヴィティランチャーを取り落としてしまう。
 それどころか、抵抗する余力すらごっそりと削り落とされてしまったようだ。四肢に力が入らず、だらんと手足を投げ出してしまった鷲悟に対し、夜明は彼の頭をつかんだ両腕、その手のひらに装備されたビーム砲にエネルギーをチャージし始める。
「鷲悟!」
 そんな鷲悟を助けに向かおうとした鈴だったが、福音に光弾をばらまかれて救援もままならない。
 そして、夜明のエネルギーチャージが完了し――
「…………オイ、コラ」
 鷲悟が、弱々しいながらも口を開いた。
「覚えとけ……
 お前は、オレが絶対ブッ飛ばす」
 その言葉に、表情などないはずの夜明のマスクが笑ったように鈴には見えて――



 夜明の“金の陽光ゴールド・サン”が、鷲悟の頭部に炸裂した。



「鷲悟ォ――――――ッ!」
 巻き起こる爆発の中、鷲悟が海中に没する――しかし、鈴の、甲龍のハイパーセンサーはハッキリと捉えていた。
 海中に没した鷲悟。“金の陽光ゴールド・サン”をまともにくらったその頭は――
「……よくも……よくも……っ!」







「よくも、鷲悟をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」







 その瞬間、思考のすべてが吹っ飛んだ。ただひとつの感情、すなわち怒りに支配され、鈴は夜明へと襲いかかる。
 しかし――彼女の双天牙月が夜明を捉えることはなかった。福音の光弾の雨に全身を打たれ、砲撃モードに切り換えた夜明のビーム砲をまともにくらった鈴もまた海中に没する。
 邪魔者を排除し、改めてお互いを獲物として認識して対峙する福音と夜明――2体の暴走ISを海面越しににらみつけながら、鈴は意識を手放した。











〈Brain waves ...... Lost.〉

〈All vital signs ...... Lost.〉

〈The death is confirmed.〉



〈The refurbishing operation ...... start.〉





……………
  ……………
    ……………


次回予告

「……篠ノ之箒だ。
 私のせいで一夏は倒れ、そして柾木や鈴までもが……」
「ちょっと、勝手に殺さないでくれる?
 で? アンタはこれからどうするのよ? まさかこのまま尻尾を巻くつもりじゃないでしょうね?」
「だが、私のせいでこんなことに……っ!
 私は、いったいどうすればいいんだ……?」
「次回、IB〈インフィニット・ブレイカー〉!
   『遺された者の意地 やられたままじゃ終われない!』
   
「そうだ……このまま終わってなるものか!」

 

(初版:2011/07/21)