「敵、だって……!?」
「んー、まぁ、単純に区分けしちまえばな」
いきなり試合に乱入してきたのは友人の弟。何かあったのかと問いただしに近寄ってみれば、待っていたのは裏拳一発――アリーナのフェンスに叩きつけられ、うめきながら身を起こす一夏に対し、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「今回のオレの目的、お前らとは相容れるモノじゃなくってな。敵対もやむなし、ってワケだ。
ま、ちょっかい出さなきゃブッ飛ばしたりしないからさ――おとなしく見ていることをオススメするよ」
そう告げると、ジュンイチは上空からこちらを見下ろすカレンを見上げた。
ゆっくりと右手を上げると、彼女を指さし、告げる。
「ターゲット……」
「ロック、オン」
第25話
ジュンイチ強襲!
ここがカレンの正念場
「なるほど……狙いは私というワケね」
「ま、そういうことだ」
納得し、うなずくカレンに対し、ジュンイチはうなずき、腰に差していた木刀を抜き放った。
と――その木刀が霧散した。ジュンイチの、ブレイカーの能力によって分解、再構築され、両刃のロングソード“爆天剣”へと変化する。
「一応聞いておくけど……狙われる理由、知りたいか?」
「必要ないわ。
心当たり、ないワケじゃないから」
「そっか」
即答するカレンに笑みをもらし、ジュンイチは息をつき、
「じゃあ、さっそく――」
次の瞬間、
ジュンイチに向け、箒の一撃が叩きつけられた。
「篠ノ之箒!?」
「間違うなよ、カレン・ヴィヴァルディ。
お前を助けたワケじゃない」
入場ゲートに控えていたことが幸いし、いち早く駆けつけることができた――驚くカレンに答え、紅椿を展開、両手に刀をかまえた箒がそう答える。
「私はただ、一夏に手を上げたあの男に制裁を――何っ!?」
しかし、そんな箒の顔が驚愕に染まる――自分が一撃を叩き込んだ位置に、目標の姿が影も形もないことに気づいて。
そして――
「いいねぇ、不意討ち上等。
そーゆー手段選ばないの、お兄さん大好きだ♪」
姿を消した目標は上空に逃れていた。空中で、まるで見えないイスに腰かけるように組んだ足の上で頬杖をつき、ジュンイチは笑いながら箒に告げる。
「フンッ、何が『お兄さん』だ。柾木と双子ということは同い年だろうに」
「ところがどっこい。
お前7月生まれ、オレ達4月生まれ。つまりオレ達が3か月分お兄さん♪」
「何を屁理屈を……」
「ちなみに織斑一夏は9月生まれだから、お前の方がお姉さん♪
よかったなー。“姉さん女房”ネタとかできるぞ」
「………………」
「あ、止まった」
ジュンイチの言葉に“その光景”を想像してしまったか、箒は顔を真っ赤にしてフリーズして――
「何バカ言ってんのよ!」
「おっと」
飛び込んできた鈴の振り下ろした双天牙月の一撃を、ジュンイチはあっさりと回避する。
「ま、そうだよな。
入場ゲートで待機してた篠ノ之箒が乱入してこれたんなら、当然反対のゲートで待機してたお前も飛び込んでこれるよな」
「何をのん気なことを……
箒も何トリップしてんのよ! 戻ってきなさい!」
「――ハッ!?」
ジュンイチに言い返した鈴の言葉に、箒はようやく現実に帰ってきた。
「ずいぶん幸せそうにトリップしてたじゃないのさ。
何? そーゆーシチュエーションとかツボだったりするのか?」
「そ、そんなことは今この場には関係ないだろう!
戦いに来たんだろう!? だったらマジメに仕合え!」
からかわれた怒りから、さっきまでとは別の意味で顔を真っ赤にした箒がジュンイチに襲いかかる。思い切り右の刀を振り下ろすが、
「そりゃ、ふざけたくもなるって」
刀が触れたと思った瞬間、ジュンイチの姿が箒の視界からかき消えた。次に彼女に告げる声は、箒のすぐ背後から聞こえてくる。
「――――――っ!?」
「お前らの中でも、特にお前とはやりたくないんだからさ」
とっさに左の刀を水平に振るって背後のジュンイチを狙うが、またしてもジュンイチの姿を見失い、
「だって、お前を墜としたりしたら、後で束に怒られるのはオレなんだぜ?」
箒の頭上でジュンイチが告げる。オーバーヘッドキックの要領で宙返りからの蹴り、右足の展開装甲が生み出した光刃でジュンイチを狙う箒だったが、ジュンイチはまたしてもその姿を見失うほどのスピードでかわし、少し離れたところに着地する。
「大したスピードだな。
だが、やはりその態度が気に入らないな。そんなふざけた態度で、私に勝てるとでも思っているのか?」
「あぁ、勝てるさ」
苛立ちを募らせながら告げる箒に対し、ジュンイチはあっさりと答えた。
「確かに、おふざけモードのままじゃ“紅椿には”勝てないだろうな。
けど――」
「“篠ノ之箒になら”、ふざけてたって勝てるさ」
「――――――っ!」
「ちょっ、箒!」
その言葉に、一気に箒の頭に血が上った。鈴が止めるのも聞かず、上空に跳んだジュンイチに襲いかかり、斬りかかる。
両手の雨月、空裂、さらに両足にも光刃を生み出しての連続攻撃。息もつかせぬ斬撃の嵐がジュンイチに襲いかかる!
「よし、箒が押してる!」
「あの調子なら、勝てる……」
箒の怒涛の攻撃に、ジュンイチは反撃もせず回避に徹している。一方的とも言える攻防にシャルロットや簪がつぶやくが、
「………………ダメだな」
ポツリ、とつぶやいたのは鷲悟だった。
「この勝負……篠ノ之さんの負けだ」
「え…………?」
「そ、そんなことないでしょ。
だって、箒が一方的に押してるのに――」
「けど、一発も当たってない」
『――――――っ!?』
鷲悟の言葉に眉をひそめる簪とシャルロットにはあずさが答えた。気づき、目を見開く二人にうなずき、鷲悟は続ける。
「両手両足から繰り出される、上下左右からの連続攻撃――それでも、ジュンイチには一発も当てられていない。完璧に見切られてるんだよ、篠ノ之さんの動き。
確かに、装備の性能って意味じゃ、第四世代型ISである篠ノ之さんの紅椿の方がはるかに上。はるかに有利だろう。
けど……」
「使い手の戦闘能力は、ジュンイチの方がはるかに上だ」
「おぉぉぉぉぉっ!」
咆哮し、箒の繰り出す斬撃の嵐が激しさを増す――だが、彼女は未だ、ただの一閃の斬撃すらもジュンイチには入れられないでいた。
「くっ、チョコマカと……っ!
だが、かわすのが精一杯では私には勝てんぞ!」
しかし、ジュンイチからの反撃もただの一撃も許していない――まだ勝ちの目は残されていると、己に気合を入れ直した箒はさらに斬撃を繰り出し続ける。
(紅椿は現行IS最強――確かに今の私ではその性能を存分に引き出せているとは言えないが、それでもヤツの“装重甲”よりは上のはず!
一撃さえ入れられれば、そこから一気に打ち崩せる!)
「最後に勝つのは、この私だ!」
戦いは自分のペース。このまま押し切る――そう考える箒だったが、
「…………やれやれ」
「――――――っ」
対するジュンイチは、自分の斬撃を次々にかわしながら、いかにも退屈といったふうにため息をついてみせた。それを見た箒は「なめられている」と一瞬頭に血が上り――
「――――っ!? しまった!?」
その一瞬で、ジュンイチの姿が視界から消えた。どこに消えたのかと箒が周囲を見回し――
「ま……こんなもんか」
ジュンイチの姿は、箒の背後にあった。
気づき、振り向く箒と一瞬だけ目が合う――セリフの気の抜けようとはまるで正反対の、それだけでこちらを撃ち貫けそうな鋭い視線に射抜かれた瞬間、箒は理解した。
自分の方が有利。このまま押し切り、勝てる――そんな考えはただの思い上がりに過ぎなかったのだということを。
ジュンイチは自分の攻撃に対し反撃“できなかった”のではない。ただ反撃“しなかった”だけなのだということを。
そして――ふざけた態度の裏で、自分を一撃で屠れるだけの“牙”をずっと研ぎ澄ませていたのだということを理解して――
「じゃ、もういいや」
ジュンイチが拳に乗せて解放した炎は、たった一撃で紅椿のシールドエネルギーを根こそぎ削り取り、箒の身体をアリーナのフェンスに叩き込んだのだった。
「そんな!?
第四世代型の……スペック上では現行機をはるかに上回る紅椿が……たったの一撃で!?」
観測室でも、箒が一撃で撃墜される光景はモニターしていた。その衝撃的な光景を目の当たりにして、真耶は思わずイスを蹴って立ち上がった。
これでもIS学園の教師の端くれだ。紅椿が現行のどのISとも一線を画す機体であることはよく理解している。おそらく、実際に使っている箒以上に。
だからこそ、その紅椿をあっさりと、しかも一撃で叩き墜としたジュンイチのパワーが信じられない。
だが――
「……やってくれるな」
千冬は気づいていた。すぐに真耶の脇から端末を操作し、今のジュンイチの一撃を観測したデータを表示して――
「な、何ですか!? これ……」
そのデータを見て、真耶はますます目を丸くした。
「今の一撃のエネルギー量、“たったこれだけ”なんですか!?」
「あぁ。
あれだけハデな攻撃だった割には、今の一撃に込められたエネルギー量は、織斑の“零落白夜”一発分とさして変わるものじゃない」
驚く真耶に答え、千冬は「だが」と続けた。
「問題は、そのエネルギーの“打ち込み方”だ。
あの攻撃――見た目のハデさとは裏腹に、柾木弟はそのエネルギーのほとんどを針の穴ほどの一点に集中。さらにそれをもっともシールドバリアの防御に依存する部分、つまりISアーマーがなく、重要な臓器が集中する腹部に、展開装甲による自動防御も間に合わないほどの速度で叩き込んだんだ。
結果、絶対防御がより強く働き、一気にシールドエネルギーを使い果たした……」
「そんな……ムチャですよ!
もしそんな一撃を叩き込んで、絶対防御が撃ち抜かれたら、篠ノ之さんは……」
「あぁ……
だからこそ、“零落白夜”一発分“しか”エネルギーを放たなかった。ヤツらなら、もっと大きなエネルギーを扱えるはずなのに」
真耶に答え、千冬は息をついた。
「にわかには信じがたいが……柾木弟は意図的にエネルギー量を調整したんだ。
紅椿のシールドエネルギーを一撃で根こそぎ削り取り、それでいて絶対防御を抜かない、そんなギリギリのラインで」
「そ、そんな精密な制御ができるんですか……?」
「柾木が語った、ヤツの話を思い出せ」
うめく真耶に対し、千冬はそう答えた。
「“エネルギー制御特化能力者”……
あの男のエネルギー制御の精度が、それを可能とするほどのものだった――そういうことだ」
「う…………っ、くっ……!
まさか、あのふざけた態度が芝居だったとは……っ!」
「たりめーだ。
紅椿の能力は、間違いなくオレの“装重甲”よりも上――いくらお前自身がオレより弱くても、その紅椿がある限りラッキーパンチの可能性はある。警戒するのがむしろ普通だろうが」
試合用の設定のままだった紅椿は、シールドエネルギーがゼロになったことで撃墜判定を受け、パワーアシストを解除してしまった。動けなくなり、悔しげにうめく箒に対し、ジュンイチはあっりとそう告げた。
「お前がこの間まで表面的な“強さ”にばっかり捉われていたのと同じだ。相手の強さを表面的な態度だけで判断するからそうなる。
お前、もっとだまし、だまされを経験した方がいいわ。相手と腹の探り合いをすることも覚えな」
言って、ジュンイチはカレンへと向き直り、
「さて、お待たせ……と言うべきかな?
やっと本来の“お仕事”に戻れそうだ」
カレンに向けて一歩を踏み出し――しかし、そこでジュンイチは動きを止めた。
「おいおい……お前らもかよ」
鈴と、先のダメージから回復した一夏が自分の前に立ちふさがったのを見て。
「お前がどういうつもりなのかは知らないけどな……カレンはオレと対戦することになってるんだ」
「悪いけど、カレンをやらせるワケにはいかないわね」
「……ま、個人的な感情でモノ言わせてもらえば、オレもどっちかっつーとお前らに全面同意なんだけどね」
一夏と鈴の言葉に、ジュンイチは軽くため息をつき――
「けど、これも“仕事”でね。オレとしてもやるしかないのよ。
ジャマするって言うなら――」
「てめぇらからつぶすぞ」
箒にも向けられた絶対零度の視線が、一夏と鈴を貫いた。
「ま、マズイよ!
お兄ちゃん、完全にやる気だよ!」
「あぁ。
このままじゃ、一夏と鈴も篠ノ之さんの二の舞だ」
ピットで事態の推移を見守っていたあずさのあわてた声に、となりの鷲悟も焦りをあらわにしてそう答える。
「だ、大丈夫なんじゃないかな?
だって、一夏と鈴だよ? コンビネーションの相性だっていいし、合体攻撃の“龍咆白夜”もあるし……」
「“だからこそ”だよ」
異論を唱えるシャルロットだったが、対する鷲悟の答えは彼女の予想していたものではなかった。
「あの二人だからこそ、ジュンイチ相手に連携して当たるだろう。
けど、“ジュンイチに限ってはそれじゃダメ”なんだよ」
「どういうこと?」
「説明は後。モタモタしてられなさそうだ。
山田先生。ピットゲート開けてください。オレ達も出ます――セシリア、ラウラ、お前らもいいな?」
〈もちろんですわ!〉
〈いつでもいける!〉
シャルロットに答え、真耶に呼びかける鷲悟に話を振られたセシリアとラウラが反対側のピットでうなずくが、
〈そ、それが……〉
そんな彼らに対し、真耶が答えた。
〈ピットゲートが、何度開放指示を出しても開かないんですよ!〉
「まさか、前みたいなハッキング……?」
〈いえ、システムは正常です。コマンドも送れて、システムもゲートを開こうとします。
でも、ゲートの開閉を制御してる油圧シリンダーが物理的な不具合を起こしてるみたいで……〉
「そんな……だって、一夏達が入る時には異常はなかったんですよね!?
それが、一夏達が入ったとたんに、両方とも、同時に壊れたっていうんですか!?」
簪に答えた真耶の言葉に、シャルロットが思わず声を上げる。
「そんなバカなことが――」
〈あったりするんだなー、これが♪〉
シャルロットに答えたのは鷲悟――ではなかった。
「ジュンイチ……!?
まさか、お前の仕業か!?」
〈ピンポンパンポン、大正解〜♪
言ったろ? 『いろいろ準備してた』って――ちょいと、ピットゲートに細工させてもらったよ。
物理的な故障じゃ、システム側から何やったって復帰はムリだからな〉
気づき、声を上げる鷲悟に、ジュンイチの声はあくまでも明るく答える。
〈フンッ、だったら話は早い。
どうせ壊れて開かないと言うなら、破壊して押し通るまでだ!〉
そんな鷲悟の言葉に、向こうのピットから答えるラウラだったが、
〈おっと、それをやるのは、“どうやってゲートを開かなくしているのか”を聞いてからの方がいいぜ?〉
対するジュンイチはあっさりとそう答えた。
〈ゲートの開閉を行なっている、閉じている時は扉を押し上げている油圧シリンダー、その、油の流入側の弁をひとつ残らず閉じなくしたのさ――最初の織斑一夏、カレン・ヴィヴァルディ組と、次に試合を控えた凰鈴音、篠ノ之箒組がピットゲートに入って、ゲートが閉じられた後にね。
結果、油はシリンダー内に送り込まれっぱなし。満タン状態だし、ゲート開放のために流出側の弁を開いても次から次に油が流れ込んで内部の油圧が下がらないから、ゲートはいつまで経っても開かない……と、まぁ、そういうことだ。
さて、ここで問題だ。
圧力MAX、パンパンにふくれてる油圧シリンダーがビッシリと並んでいるそばで、ゲートをぶち破れるだけの火力をぶちかましたりしたら……どうなるだろうな?〉
『<<――――――っ!?>>』
ジュンイチの言いたいことを理解し、一同の間に戦慄が走る。
「そんなことしたら、最悪爆発に巻き込まれたシリンダーが吹っ飛んで……」
「ピットゲートどころか、すぐそばの観客席まで巻き込まれる……!」
〈ま、そーゆーこった。
わかったら、ゲートをぶっ壊すのはあきらめな〉
シャルロットや簪のつぶやきに対し、ジュンイチは笑顔でそう答え――
〈思い上がるなよ、若造が〉
千冬が告げて――アリーナ内を映し出した映像の中で、ラファール・リヴァイヴや打鉄を身にまとった教師達がジュンイチを取り囲んだ。
〈ひよっこどもを抑え込んで勝ったつもりか?
一度乱入されてるんだ。鎮圧用の教師部隊を配置していないとでも思ったか〉
「さすが織斑先生、冷静だなぁ……」
つい自分達でなんとかしようと考えてしまい、先生達の存在を忘れていた――思わずつぶやくシャルロットだったが、
「……ダメだ」
鷲悟が渋い顔をしてつぶやいた。観測室に通信をつなぎ、千冬に告げる。
「姐さん、それミスジャッジ。
被害者増やしたくなかったら、今すぐ先生達下がらせて」
〈織斑先生、だ。
そして下がらせろとはどういうことだ? 説明しろ〉
「先生達の鎮圧部隊は、学年別トーナメントの時にはもう配備されていた……ラウラが暴走した時、オレ達が待ったをかけたから出番はなかったけど、場内アナウンスでその出動を宣言していたから、その存在はみんなが知るところだ。
そして――あのトーナメントには、オレのとなりの“あずさが見に来ていたんですよ”?」
〈――――っ!?
まさか!?〉
「えぇ。
あずさからその時の報告を受けているジュンイチは、当然教師部隊の配備のことを知ってる。知っていて、その上で仕掛けてきた。
つまり――」
「間違いなく、対策済みです」
「あ、バレた」
さっき会話に乱入したことからもわかる通り、ピットでのやり取りはこの男には筒抜け状態――千冬と鷲悟の会話を聞き、ジュンイチは特に気にすることもなくつぶやく。
一方、周りの教師達も今のやり取りは聞いていた。ジュンイチの“対策”を警戒して距離を取ろうとする者、“対策”を使われる前にジュンイチを取り押さえようとする者、教師達の対応に乱れが生じ――
「少し――手遅れだったけど」
上空から降り注いだ無数の閃光が、教師達のISの非固定浮遊部位をひとつ残らず、正確に撃ち抜いていた。
「な――っ!? 上から!?」
「まさか仲間が!?」
いきなりの不意討ちで非固定浮遊部位が破壊された。これでは素早く動けない――教師達の間で声が上がるが、
「『仲間』?
残念無念、不正解――オシオキぃっ!」
声を上げた教師達が宙を舞った。ジュンイチの手にした爆天剣によってブッ飛ばされ、ISアーマーを粉々に打ち砕かれながら大地に落下し、
「正解は――ビットだよ!」
その言葉と同時、上空から大量のビット、フェザーファンネルが飛来、残る教師達に向け、全方位から一斉にビームを発射する。
そう。鷲悟が指摘した通り、ジュンイチは教師部隊の投入の可能性は最初から想定していた。その対策として、事前にフェザーファンネルを作り出すと伏兵として上空に配置。それが今まさに教師達に襲いかかったのだ。
しかし、教師達もこのIS学園で教えているだけあって皆優秀なIS操縦者だ。この程度の攻撃にそうそうやられはしない――はずだった。
そう簡単にやられはしないと言っても、それは“ISが万全なら”の話――不意を突かれ、機動力の要である非固定浮遊部位を失い、さらに同僚をいきなり数名墜とされたことで動揺が広がった教師達に、ジュンイチに対抗する術は残されていなかった。ろくな反撃もできないままフェザーファンネルに翻弄され、連携も分断されたところへジュンイチが襲いかかる。
そして――
「オレだって、先生達とまともにやって勝てるだなんて思っちゃいないよ」
言いながら、ジュンイチは動きを止め、
「だったら――不意討ちかまして、立て直される前に一気に叩きつぶすまでだ」
退避すらも許されず、全員キレイに撃墜された教師達が大地に叩きつけられた。
「ウソでしょ……!?」
「先生達が、あっという間に……」
「どんな達人だろうが、実力出せなかったら一般人と変わりゃしねぇよ。おわかり?」
呆然とつぶやく鈴と一夏に答え、ジュンイチは彼らに向けて一歩を踏み出す。
「さて……お前らはどうする?
オレはカレン・ヴィヴァルディとやり合えればそれでいいんだ。ジャマしないなら、オレもお前らをブッ飛ばすつもりは――」
「それを聞いて安心したわ」
ジュンイチの言葉をさえぎり、そう告げたのはカレンだった。一夏と鈴の間を、ジュンイチに向けて進み出る。
「つまり……私が相手をすれば、織斑一夏達に手出しはしないのね?」
「少し語弊があるな。
そいつらがジャマをしないこと。それがブッ飛ばさない条件だ――お前が相手をしてくれても、その最中にジャマしてくればブッ飛ばす」
尋ねるカレンに対し、ジュンイチは迷うことなくそう答えた。
「ならもうひとつ。
私とやり合うのが目的――つまり、私が抵抗する分には何の問題もないのね?」
「あぁ。
別にかまわないぜ。依頼人は、お前さんの抵抗も想定の内だからな。
狙いはあくまでお前だけ。他のヤツらはぶっちゃけどーでもいいんだよ――仕事さえ済めばもう用はない。他はガン無視して、さっさと帰らせてもらうわ」
「あら、そう?
私を倒す以外にも、あなたが帰ることになるパターンが残っているわよ」
言って、カレンはジュンイチに向けてかまえ、
「私に負けて――逃げ帰るっていうパターンがね!」
思い切り地を蹴った。瞬間、“瞬時加速”で一気に距離を詰め、ジュンイチに向けて殴りかかる。
対し、ジュンイチは防御することもなく回避。目標を見失ったカレンの拳が地面を砕く中、彼女の背後に回り込む。
しかし、カレンもそれに気づいていた。すかさず裏拳で追撃。ジュンイチもこれはかわしきれず、爆天剣でスタジオーニ・エスターテの豪腕を受け止める。
「わかってるわよ。
大方、私の“本当の目的”を知った実家の人間の差し金でしょう!?」
「んー、間違っちゃいないな」
「やっぱりね……
悪いけど、そっちの思い通りにはいかせないわ!」
ジュンイチに言い放ち、カレンはスタジオーニ・エスターテのパワー任せにジュンイチを押し返し、
「あなたを倒して、私は私の目的を果たす!
ジャマは――させない!」
言って、カレンはジュンイチに向けて突撃し――
「――依頼人が、お前の親父さんでも、か?」
「――――え?」
ジュンイチのその言葉に、カレンの思考が停止した。
「……パパ、か……!?」
「あぁ、そうさ」
そのスキを見逃すジュンイチではない。一気に距離を詰め、カレンを思い切り殴り飛ばす。
幸いシールドバリアによって直撃はしなかったものの、その衝撃でカレンは大きくはね飛ばされ、そんな彼女に、ジュンイチはさらに告げる。
「もう一度言う。
今回のオレの依頼人はお前の親父さんだよ。
『バカやらかしてる娘を、しばき倒して目ェ覚まさせてくれ』ってな」
「そんな……っ!」
ジュンイチの言葉に、カレンはただ呆然とそうつぶやくしかなかった。
「パパが、あなたを差し向けた……!?
じゃあ、まさか急進派のトップって……」
「そこはまぁ、ご想像にお任せするよ」
その言葉と同時、衝撃……真上に蹴り飛ばされたカレンを追ってジュンイチが急上昇。失速したカレンを追い抜くと、今度は地面に向けて叩き落とす。
轟音と共にカレンが地面に突っ込み――そこへ容赦のない追撃が襲いかかる。うつ伏せに倒れたカレンの背中に両足でニードロップ。体重を乗せた一撃を受けた背中の追加推進ユニットが粉砕される。
飛び跳ねるようにして、ジュンイチがカレンから離れる――が、カレンは起き上がろうとしない。
「そんな……パパが……
パパが、私を……!?」
ただ、うわ言のようにそうくり返すばかり――ジュンイチを差し向けたのが自分の父親だったという事実にショックを受け、完全に気力を失ってしまっている。
「……やれやれ。オレを送り込んだのが自分の父親だと知ったとたんに戦意喪失か」
そんなカレンの姿に、ジュンイチは軽くため息をつき、
「しょうがない。
望んだ形じゃないけれど、もう終わらせて帰るか」
爆天剣をかまえ、ジュンイチは一足飛びにカレンに向けて突っ込み――
金属がぶつかり合う甲高い音が響き
“ジュンイチは”大きく吹っ飛ばされていた。
「――っ、とと……
へぇ、けっこう度胸あるじゃん。今の突撃の前に飛び込んでくるなんてな」
すぐに体勢を立て直し、ジュンイチは告げる――目の前に立ちはだかった鈴に向けて。
「で……今は、親父さんに代わってコイツをブッ飛ばすのは許さない。そういう決意表明と受け取ってもいいのか?」
「少し違うわね。
あたしが、カレンに代わってアンタをブッ飛ばす。そういう決意表明よ」
ジュンイチに答え、鈴は両手の双天牙月をかまえる。
「……鈴……!?」
「しっかりしなさいよ、カレン」
呆然と自分の名をつぶやくカレンに対し、鈴は力強く告げる。
「自分で決めたことなんでしょ? 実家にも、一夏達にも真相を話さず、嫌われ役になってでもやり通すって。
そこまで覚悟決めといて、父親が黒幕だったぐらいで崩れてんじゃないわよ」
「で、でも……」
「そもそも、アイツの言うとおり父親が黒幕だなんて証拠は何もない……ううん、むしろ、父親が黒幕だった時こそ、アンタが起たなくてどうするのよ?
娘として、父親止めなきゃダメでしょうが」
口ごもるカレンに鈴が続けると、
「なんか、オレの知らないところでいろいろあったみたいだな」
言って、一夏も鈴のとなりに並び立つ。
「こうなったからには、全部話してもらうからな。
アイツを……ブッ飛ばしてからな!」
「へぇ……」
宣言し、雪片をかまえる一夏に対し、ジュンイチは不敵な笑みを浮かべた。
「凰鈴音に続いて、お前も参戦ってワケか、織斑一夏」
「あぁ。
どんな理由があるか知らないけど、父親が人を雇って娘を倒そうなんて、認めるワケにはいかねぇよ」
ジュンイチの言葉に、一夏は迷わずそう答える。
「親ってのは、子供を守ってやらなくちゃいけないもんだろうが。
それなのに、こんな……絶対やらせねぇぞ!」
「両親に捨てられたお前らしいセリフだな。
けど残念。そいつぁ見解の相違ってヤツだ」
言って、ジュンイチは爆天剣を肩に担ぐようにかまえて続ける。
「親に求められるのは“守る”ことじゃない。“育てる”ことだ。
守るだけじゃない。時には厳しく当たり、成長を促すのも親の務めだ――ちょうど、千冬さんがお前にしているみたいにな。
よく言うだろう? 獅子は千尋の谷底に向けて子供にマッ○ルグラヴィティをぶちかまし、はい上がってくることができた子供だけを育てるって」
「いや、はい上がってくる前に子供死ぬよねそれっ!?」
鈴からツッコミが入った。シリアスな空気をぶち壊す、そんな両者のやり取りに苦笑しつつ、一夏はジュンイチに尋ねる。
「つまり、カレンの親父さんがお前をけしかけてきたのは、カレンのためだって言うのか?」
「そこは、まぁ、そこのお嬢さん次第だよ。
自分がどれだけバカなことをしでかしてるのか、そこに気づけるかどうか」
「『バカなこと』って……
私はただ、みんなを守りたくて……!」
「……ま、そこはいいさ。
気づけるかどうかはお前次第だ。オレはどうこう言わねぇよ。
ただ……織斑一夏と凰鈴音が墜とされる前に気づけばいいけど、とは思うけどな」
カレンに答えたその言葉に、一夏と鈴が身がまえる――そんな二人に対し、ジュンイチは告げた。
「いやー、二人まとめてかかってきてくれるみたいでけっこうけっこう。
二人別々に来られたらどうしようかと思ってたけど……」
「おかげで、少しは楽に勝てそうだ」
「……やっぱり……
一度ゲートが開かれて、油圧シリンダーの流入弁が開いたところで、メンテ用の外部操作レバーにつっかえ棒が入るようになってたんだ……
レバーは弁と一緒に動く仕組みになってるから、レバーを止めれば弁の方も止まっちゃう……やってくれるね」
ピット下に隠された、ピットゲートの整備スペース――簪の案内で入ったそこで、あずさは問題の油圧シリンダーの“細工”を見つけ、つぶやく。
「直せるか?」
「直すだけなら、つっかえ棒取るだけでOKだよ……はい、終わり」
鷲悟に答え、あずさは手際よくつっかえ棒を取り払うが、
「ただ、シリンダーの中に溜まった油が規定量まで排出されなきゃ、安全装置が働いて動かせない。そこは結局“待ち”だよ」
「そうか……
それまで、一夏と鈴がムチャしなきゃいいけど……」
「そういえば言ってたね。
『コンビネーションで挑む方がよほど危ない』って……あれ、どういう意味なの?」
「あぁ、それは……」
シャルロットに聞き返され、鷲悟が答えようとすると、
「し、鷲悟お兄ちゃん!」
そんな鷲悟に対し、あずさが声を上げた。
「一夏さんと鈴ちゃん、そのこと知ってるの!?」
「………………あ」
「ぐぁあっ!?」
「一夏!?」
ジュンイチから一撃を受け、一夏が吹っ飛ばされる――助けに入ろうとする鈴だったが、ジュンイチは彼女の斬撃をかわし、すかさず爆天剣で応戦する。
「鈴!」
一方、立て直した一夏も、鈴を援護しようと砲撃モードの雪羅でジュンイチの背中を狙う。
しかし、そのとたんにジュンイチは回り込むように自分と鈴の位置を入れ替えた。結果鈴が一夏とジュンイチの間に入ってしまい、これでは一夏からジュンイチを狙うことができない。
「くっ……!」
砲撃できないと悟り、一夏が雪羅を下ろし――
「チャンス逃したからって集中切らすなボケ」
そこへすかさず、ジュンイチの放ったフェザーファンネルが一夏に向けてビームの雨を降らせ、
「一夏!――きゃあっ!?」
そんな一夏に気を取られた鈴もまた、ジュンイチに蹴り飛ばされる。
「どうしたどうした!?
二人がかりでもそのザマか!?」
「なめんじゃないわよ……っ!
一夏! もう一度同時攻撃よ!」
「おぅっ!」
余裕と態度のジュンイチに対し、ムキになった鈴の提案に一夏が同意して――
〈ダメだ!〉
それを止めたのは鷲悟だった。
〈そいつは挑発だ! 乗るな!
ジュンイチ相手にコンビネーションでしかけちゃいけない! 戦うならひとりひとり、連携せずにバラバラに戦うんだ!〉
「どういうことだよ!?」
〈ジュンイチにとって、コンビネーションやチームプレイで挑んでくる相手はむしろ絶好のカモなんだよ!〉
聞き返す一夏に対し、鷲悟はそう答えた。
〈詳しいいきさつは省くけど、ジュンイチは能力者としてはともかく、一戦闘者としては対集団戦、対組織戦を想定した訓練を積んでる。
つまりジュンイチにとっては、一対一の戦いよりも一対多の方がむしろ得意分野なんだ――連携を分断することを得意としてるジュンイチに対して、コンビネーションなんて自殺行為でしかないんだよ!〉
「ったく……鷲悟兄のヤツ、人の手の内あっさりバラすなよなー……」
鷲悟の言葉に、地上に降り立ったジュンイチは軽く舌打ち――それは、鷲悟の指摘が事実であることを雄弁に物語っていた。
「そういえば、先生達もビットで分断してから攻撃してたわね……
なるほど。聞いてみれば納得だわ。うまいこと誘導してくれたもんよね」
「オレも鈴も、まんまとお前の挑発に乗っていたってことか。
ま、普通は一対一の方が戦いやすいもんだからな。まさかその逆方向に訓練を積んでるなんて思わないよな」
「バレちゃしょうがねぇ。
あぁ、そうだよ。鷲悟兄の言う通りだ」
鈴と一夏の言葉に、ジュンイチは観念したのか素直にそう認めた。
「けど、それがわかればこっちのもんよ!
一夏! こっから先はお互いのフォローはなし! ジャマになろうがおかまいなしで突っ込むわよ!」
「あぁ!」
そんなジュンイチに対し、鈴と一夏が突っ込む。“瞬時加速”で突っ込んだ一夏が雪片を振るい、遅れて距離を詰めた鈴もまた双天牙月を繰り出し――
「…………けど」
止められた。
かわされ、地面に叩きつけられた雪片の峰を踏みつけて動きを封じると、ジュンイチは鈴の双天牙月を爆天剣で受け止める。
「お前ら、ひとつ忘れてるだろ」
反撃開始と意気込んだ矢先に自分達の一撃をあっさりといなされ、驚愕する一夏と鈴に対し、ジュンイチは告げた。
「確かにオレは、一対一よりも対集団の方が得意だ。
けどな……」
「篠ノ之箒を紅椿ごとブッ飛ばせるくらいには、1 on 1も強いのよ」
「ゲートの開放にはあとどのくらいかかる?」
「まだ数分はかかります!」
一方、観測室で尋ねる千冬に対し、真耶は「早く、早く……」とそわそわしながらそう答える。
だがそんな彼女に対し、千冬はあくまで冷静であった。落ち着いた様子で真耶に告げる。
「落ちつけ、山田先生。
おそらく、柾木弟は本気でアイツらをつぶすつもりはない」
「え…………?」
「ヤツはヴィヴァルディを撃墜するために現れた――そこは間違いないだろう。
だが……おそらくそれは“手段”としてだ。彼女を撃墜することで、何か別の目的を果たすつもりだ」
「どうして……そう思うんですか?」
「ヤツの言動だ」
聞き返す真耶に対し、千冬はそう答えて解説を始めた。
「柾木弟は、こちらがピットゲートを開けないと気づいたとたん、自分が何をしたのかわざわざこちらに教えてきた。
なぜそんなことをした? 教えなければ、こちらはどうしてゲートが開かなくなったのかわからないままだったのに」
「それは、うかつにゲートを攻撃して、油圧シリンダーが吹き飛ぶのを防ぎたかったんじゃ……
標的であるヴィヴァルディさん以外は傷つけたくないと考えていたのなら、そういうことも……」
「それなら油圧シリンダーの異常だけを知らせればいい。“どうやって”異常を起こしたかまで解説する必要はないだろう。
そんなことをすれば、実際に柾木達がしたように修理され、対応される……」
言って、千冬はモニターに映る一夏達とジュンイチの戦いを見つめた。
「その気になれば、もっと完全に壊してピットゲートを開かなくすることもできたはずだ。なのにあえてそれをせず、こちらが対応できる方法を取り、なおかつそれをこちらに教えた……
おそらく、狙いはあくまで時間稼ぎだ。それも、こちらに“間に合ってもらう”ように調整された、な」
「『間に合ってもらう』……?」
「今突入されるワケにはいかないが、終わるまでには突入が間に合ってもらわなければ困る、ということ……つまり、柾木弟は最終的には柾木達に助けに入ってもらいたいんだ。
ただ、すぐに助けに入られるのも困る。だから時間稼ぎに回りくどい仕掛けをほどこした……」
真耶に答え、千冬はそこで口をつぐんで考え込む。
(だが、それに何の意味がある……?
ヴィヴァルディ撃墜の障害となる一夏達を先に叩く。そのためにアイツらを分断し、柾木達の突入前に一夏と鈴を叩く……か?
……いや、そんなことをすれば柾木を本気で怒らせるだけ。弟なんだ。そのデメリットを理解していないはずがない。
それに、ヴィヴァルディの前に柾木達を倒すという腹なら、ピットで足止めを受けて動きを封じられている状態の柾木達を直接攻撃すればよかったはずだ。柾木はともかく、他の連中はそれで終わらせられていたはず……
それなのに、こんな回りくどい……これではまるで……)
そこまで考え――千冬は気づいた。
(そうか……そういうことか!
柾木弟の狙いは……)
「きゃあっ!?」
「鈴!?――ぅわぁっ!」
「織斑一夏! 鈴!」
鈴が、一夏が次々に吹っ飛ばされる――カレンの目の前で地面に叩きつけられた二人を前に、ジュンイチは空中に佇んだまま余裕の眼差しで見下ろしてくる。
「つ、強い……っ!」
「まるで、千冬姉と戦ってるみたいだ……
力じゃない。技の部分でレベルが違いすぎる……!」
「ま、当然だな。
鷲悟兄から聞いてるだろう? ブレイカーは転生系の能力者。生まれ変わりの度にその実戦経験は積み重なり、実力を支える。
生まれ変わった時点で何もかもリセットされるお前らとは、土台の部分からして違うんだよ!」
うめく一夏と鈴に答え、ジュンイチが炎を放つ。目の前の地面を爆砕され、二人はカレンのすぐ目の前まで吹っ飛ばされてくる。
「鈴! しっかりして! 鈴!」
「だ、大丈夫よ……!」
あわてて駆け寄り、助け起こしてくれるカレンに答えると、鈴は一夏と共にヨロヨロと立ち上がる。
「安心して、見てなさいよ……
ここから、逆転してやるから……!」
「あぁ。
お前には、指一本触れさせないからな」
「……わからないな」
鈴と一夏のその言葉に、ジュンイチは軽くため息をついた。
「カレンは、お前らを倒すために、はるばるイタリアからやってきたんだぜ。
自分を狙ってきた相手を、守るっていうのか?」
「あぁ、守るさ」
ジュンイチの言葉に、一夏はキッパリと答えた。
「確かにカレンはオレ達を狙ってこの学園に来たのかもしれない。
けど……カレンは正々堂々と挑んできた。真正面から、一IS操縦者として!」
「……若干1名、耳が痛いだろうなー……」
かつてなりふりかまわず一夏を狙い、本人のみならず周りにも多大な迷惑をかけたことがある者がひとり――今頃Bピットでダメージを受けているであろうラウラの姿を想像し、苦笑するジュンイチに対し、一夏は続ける。
「純粋に力を、技を競ってるんだ……勝ち負けがつくからって、敵とか味方とか、そんなの違うだろ。
もしそんなので敵味方が決まっちまうんだとしたら、オレの周りには今頃誰もいなかった……っ!」
「そうね……
一夏の言う通りだわ」
鈴もまた、一夏の言葉に同意した。
「あたし達がカレンと戦うのは、カレンが敵だからじゃない。
カレンと競い合いたい……一緒に強くなりたい。だから戦うのよ」
そして、二人はジュンイチに向けて言い放つ。
「もう一度言ってやるよ!」
「カレンは、あたし達の敵なんかじゃない!」
『ライバルだ!』
「……あなた達……っ!」
自分を守り、ジュンイチと対峙する一夏と鈴、二人の姿に、カレンは思わず声を絞り出した。
「……ふむ」
一方、ジュンイチはそんな二人に対し、どこか困ったように息をつき、つぶやく。
「お前らを見くびっていたかな……?
まさかこの場でそこまで言い切るとはね……ここまでノリがいいとは思わなかったな」
「どういう意味だ!?」
「まぁいいや。
とりあえず最初の“くさび”にはなっただろ」
聞き返す一夏に答えることなく、ジュンイチはかまわず右手を頭上にかざし、
「じゃ、言いたいこと全部言ってスッキリしたろ。
もういいから……さっさと消えろや」
その手の上に巨大な光球を作り出した。自分の身の丈の倍以上もある巨大な火球が生まれ、巻き起こった強烈な熱風が一夏と鈴に叩きつけられる。
「ちょっ、何だよ、アレ!?
夜明の巨大エネルギー弾もメじゃないだろ!」
「ハッ、なめんじゃないわよ!
たかが火の玉ひとつ! 甲龍で押し出してやるわよ!」
「お、おいっ!? 鈴!?」
うめく一夏に答えると、鈴は一気に加速。そのままジュンイチに向けて突っ込んでいく。
「へぇ、真っ向から来るとはな!」
「あたしの甲龍は伊達じゃない!」
「いいねぇ、そういうノリ!
なら、そのノリのまま、ブッ飛ばされ――」
「――るのはあなたの方ですわ!」
その瞬間、火球が撃ち抜かれた。大爆発が鈴の足を止め、ジュンイチも爆発の中から飛び出してくるが、
「逃がしは――」
「――しないよ!」
二つの影が飛び込んできた。近接ブレードと光刃の一撃が、ガードの上からジュンイチを地面に叩き落とす!
轟音と共にジュンイチが大地に突っ込み、土煙が舞い上がる。そして一夏達の前に集結したのは――
「セシリア!」
「ラウラ、シャルロット!」
ピットに足止めされていた面々だ。駆けつけてきた三人に一夏と鈴が声を上げ、
「箒ちゃん、大丈夫!?」
「あずさか……すまない」
箒のもとへはあずさが向かった。持ってきたエネルギーパックで紅椿のエネルギーを補給する。
「やれやれ……ピットゲートが開放されたか。
ようやくのご登場、ご苦労さん、と」
そんな彼女達に対し、ジュンイチはそう告げながら、地面に突っ込んでできたクレーターの中から姿を現した。
「けど、お前らが加わったくらいでオレに勝てるとでも思ったのか?
鷲悟兄はどうしたよ、鷲悟兄は? まさか『兄弟ゲンカさせたくない』とか言って居残りでも命じたかよ?
つまんねぇ意地張ってねぇで、オレに勝ちたいなら鷲悟兄呼んで――」
「その必要はないさ」
瞬間――ジュンイチの“真下から”砲撃が放たれた。エネルギーの奔流がはジュンイチの力場によって防がれるが、その勢いで彼の身体を上空高く押し流す。
そして、
「お望み通り、出てきてやったよ」
言って、鷲悟は今の砲撃でできた穴から姿を現した。
その穴の底には、アリーナの地下を走るメンテナンス用の通路――これを使ってジュンイチの足元に潜み、砲撃をお見舞いしたのだ。
「あ、あなた達……」
「何も言わなくていいですわよ、カレンさん」
「ボクらの言いたい事は、全部一夏と鈴が言ってくれたからね」
「そういうことだ」
声を上げるカレンに対し、セシリア、シャルロット、ラウラが口々に答え、
「カレン」
声をかけ、鈴がカレンの肩をポンと叩く。
「わかったでしょ?
アンタはひとりじゃない。あたし達みんながついてる。
あたし達はアンタの味方。アンタに足りない力は、あたし達がみんなで補ってあげる――だから自信を持って、自分の決めたことを貫きなさい」
「鈴……
……わかった。やってみる」
鈴の励ましを受け、カレンは力強くうなずくとジュンイチの前に進み出て、
「柾木ジュンイチ。
あなたがパパの差し金でここへ……私を倒しにやってきたのだとしても、私はおとなしくやられてやるワケにはいかない。
私は私の選んだ道を行く。あなたを倒して、私のやるべきことをやり通す!
そのために――」
そして、カレンはクルリと振り向いた。鈴達や合流してきた鷲悟、箒、あずさを順に見渡し、
「みんな、お願い。
私に力を……貸してほしい」
「今さら、何言ってんだよ」
「オレ達みんな、そのためにこの場に出てきたんだぜ」
「……ありがとう」
迷うことなく即答する一夏や鷲悟の言葉に、カレンは礼を言ってジュンイチへと向き直り、
「オートクチュール、チェンジ。
スタジオーニ――」
「プリマヴェーラ!」
瞬間――カレンのスタジオーニが姿を変えた。
金色で重厚なエスターテから、真紅の、非固定浮遊部位とは別に肩アーマーに備えられた大型ウィングと背中のレドームアンテナが特徴的な追加装甲を身にまとって。
「もうやらせないわ、柾木ジュンイチ。
みんなを守るために……“みんなと一緒に”あなたを倒す!
カレン・ヴィヴァルディとして。ヴィヴァルディ・ファミリーを継ぐ者として。
そして……」
「みんなの、仲間として!」
負けられない
今こそ意地の
見せどころ
次回予告
鷲悟 | 「おぅ、鷲悟だ。 悪いな、ジュンイチ! ここからは思い切りブッ飛ばせてもらうぜ!」 |
ジュンイチ | 「やれるもんならやってみろ! もっとも、ここでオレに勝ったって、何の意味もないけどな!」 |
一夏 | 「どういうことだ!?」 |
ジュンイチ | 「最後に勝つのはこのオレだってことさ! さぁ、ケリをつけようぜ!」 |
カレン | 「上等よ! あなたを倒して、私はみんなを守ってみせる!」 |
鷲悟 | 「次回、IB〈インフィニット・ブレイカー〉! |
『別れの時 いつかまた会うその日まで……』」 | |
カレン | 「鈴ちゃん……あなたに会えて、本当によかった……」 |
(初版:2011/09/13)