「く…………っ!」
 かろうじて一撃は止めたが、その衝撃を受け止めきれず、ガードの上から吹っ飛ばされる――それでもなんとか体勢を立て直し、楯無は空中で制動をかけた。
 ランスをかまえ直し、目の前の相手を――青い全身装甲のIS“と思われる何者か”をにらみつける。
「フンッ、切り札すらもしのがれて、それでもよく踏んばるものだな」
「………………っ」
 青いIS(?)の言葉に、内心で歯がみする――そう。彼女の切り札は、目の前の相手には通じなかった。
 不意をつき、きれいに決まったかに見えた彼女のIS“ミステリアス・レイディ”の切り札、“清き熱情クリア・パッション”だったが、それすらも青いIS(?)にダメージを与えるには至らなかった。
 それどころか、その装甲には焦げ目ひとつつけられていない。いったいどんな防御をしたら、あそこまで完璧に防ぐことができるというのか――
「だが……それも、もう限界のようだな」
「何ですって……!?」
 だが、そんな楯無の疑問に気づくことなく、青いIS(?)は先のセリフに続けた。どういうことか、楯無が問い返し――

 ――ピシッ。

「――――――っ!?」
 ハイパーセンサーが拾った小さな音は手元から――見れば、彼女の手にしたランスに亀裂が走っている。
 青いIS(?)の強烈な攻撃に反応するので精一杯の楯無には、その攻撃を受け流す余裕などなかった。すべて正面からガードするしかなく、結果その衝撃をすべて受ける形となったランスの強度に限界がきているのだ。
 物理装甲の乏しいミステリアス・レイディでは青いIS(?)の攻撃は受けきれない。もしこのランスを失うようなことがあれば、それは攻撃だけでなく防御においても致命的な事態となる。それを防ぐには――
(――その前に、決着をつけるしかないっ!)
 相手の戦闘能力は『戦慄』の一言――さすがに千冬ほどではないと思いたいが、少なくとも歴代のヴァルキリーには確実に匹敵する。そんな相手と自分との実力差を考えれば、自然と取れうる選択肢は極端にしぼられる。
 その上ランスまでこの有様ではなおさらだ。無茶でも何でもそれしかないと判断し、楯無はランスをかまえ直した。
「……短期決戦しかないと判断したか。
 まぁ、確かにそれしか貴様の生き残る道はないがな」
 だが、そんな楯無の判断も相手には筒抜けだった。言って、青いIS(?)もまたかまえて――その時、ミステリアス・レイディのハイパーセンサーが急報を告げた。
 その内容は――
「――セシリアちゃんが!?」

 

 


 

第51話

あずさ覚醒!
解き放て“黄金の宝物庫ゲート・オブ・バビロン

 


 

 

「――セシリア!」
 予想だにしなかった事態に一瞬我を忘れるが、すぐに思考は再起動――墜落するセシリアの姿に、鷲悟も全速力で急降下、彼女を追う。
 が――
「逃がさんっ!」
 そんな鷲悟に向けてヴォイドが砲撃。無防備な背中に、その攻撃が容赦なく降り注ぐ!
「鷲悟!」
 直撃を受けた鷲悟に一夏が声を上げ――爆煙の中から鷲悟が飛び出してきた。むしろヴォイドの攻撃の直撃、その衝撃を利用して加速。セシリアに追いつき、その身体を抱きとめる。
 ――が、そこまでだった。セシリアを救うためになりふりかまわず急降下した勢いを止めきれず、鷲悟はセシリアを抱きしめたまま、轟音と共に地面に突っ込んだ。
「鷲悟! セシリア!」
 ヴォイドの砲撃をまともにくらった鷲悟、エムのライフルに撃ち抜かれたセシリア。二人とも無事なのか――あわてて鷲悟の墜落地点に駆けつける一夏だったが、
「セシリア! セシリア!」
 少なくとも鷲悟は無事だった。自身の墜落によって穿たれたクレーターの中心で、腕の中のセシリアに懸命に呼びかけている。
 彼自身も、ヴォイドの砲撃と今の墜落で傷だらけだ。額から流れる血が顔を縦断。滴り、セシリアの頬に落ちる――しかし、完全に意識を失っているのか、セシリアからの反応はない。
「そんな……っ!
 セシリア!」
「落ち着け、鷲悟!」
 呼びかけても無反応のセシリアの姿は鷲悟の動揺をさらにあおった。声を上げる鷲悟を、一夏はあわてて制止する。
「セシリアのバイタルは消えてない! 大丈夫だ!」
 言いながら、コア・ネットワークによってブルー・ティアーズからもたらされるセシリアの状態を改めて確認する。
 銃撃は至近距離からだったこともあり絶対防御を難なく突破しセシリアの身体を貫通。被弾は脇腹。内臓にも損傷が見られ、ビームによって撃ち抜かれたようで傷口は火傷も確認されている――ISの保護機能がなければ傷の深さ、出血、両方の意味で危なかったほどの重傷だ。
 だが、それは逆に言えば操縦者保護機能によって命に別状はないということでもある。ひとまず安堵の息がもれるが――
「…………オレのせいだ……っ!」
「鷲悟……?」
 歯ぎしりが聞こえてきそうなほどに強く歯がみしながら、鷲悟がうめいた。
「オレのせいだ……っ!
 サイレント・ゼフィルスを墜とすことで頭がいっぱいで、ジャマするヤツらに頭にきて……何も、見えなくなってた……
 そのせいで、セシリアが……っ!」
「鷲悟!? おい、鷲悟!?」
 うなだれたままうめく鷲悟の姿にただならないものを感じ、肩を揺すって呼びかける一夏だったが、鷲悟はそんな一夏には一切反応しない。
 セシリアの撃墜に思いのほかショックを受けているようだ。自分が原因で彼女を撃墜させてしまったようなものだし、責任を感じるのはわかるが、それにしたって日頃の彼からは考えられないほどの動揺ぶりだ。
「おい!? どうしちまったんだよ、鷲悟!?」
 なおも呼びかける一夏だったが、鷲悟からの反応はないままで――
「フンッ、もう終わりだな、そいつは」
「――――――っ! お前ら……っ!」
 だが、相手側にはそんな鷲悟が立ち直るまで待ってやる理由があるはずもない。こちらを見下ろし、淡々と告げるエムに対し、一夏は鷲悟とセシリアをかばうように立ち、鋭い視線を向ける。
 セシリアは気絶したままだし、鷲悟は戦意喪失。仲間達はそれぞれの場所で交戦中――この場で戦えるのは自分だけだと言い聞かせるが、
「へぇ、やる気かよ?」
「我ら三人を相手に、ずいぶんと余裕じゃないか」
「く…………っ!」
 白将やヴォイドの言葉に、思わず歯がみする――そう。相手は彼ら二人にエムまでいるのに対し、こちらはセシリアも鷲悟も戦えず、実質自分ひとりしかいない。
 事実上の三対一だ――いや、二人を守りながら戦わなければならないことを考えると、それ以上のハンデと判断していいだろう。
 だが、それでも――
「余裕なんかないさ」
 言って、一夏は雪片をかまえる。
「それでも、やるんだ。
 みんなを守るために、オレは戦う――守るために、強くなる。
 だから今、ここで……セシリアと鷲悟のことも守ってやる!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
 言い返し、白将が一夏へと突撃――それが、戦闘再開の合図となった。







「柾木くん!?
 どうしちゃったんですか、柾木くん!?」
 もちろん、鷲悟の戦意喪失にはこちらも気づいていた――アリーナ管制室から通信越しに呼びかける真耶だが、鷲悟からの応答はない。
「あんな柾木くん、初めて見る……
 セシリアが撃墜されたの、そんなにショックだったんだ……」
「けど、しょうがない、のかも……
 だって、今回は自分が原因みたいなものじゃない」
 こちらからも、今までにない鷲悟の意気消沈ぶりに戸惑いの声が上がる――オペレータのサポート要員として参加、この場に同席し、つぶやく清香に癒子が応えると、
「…………柾木弟」
 沈黙を保っていた千冬が、建物の外にいるはずのジュンイチへと呼びかけた。
「まさかとは思うが……貴様、助けに駆けつけるつもりじゃないだろうな?」



「それこそ『まさか』だよ」
 そのジュンイチは、未だアリーナの管制タワーの上で待機を継続していた。映像なし、音声のみの通信でそう答える。
「セシリアの命に別状なし。鷲悟兄も凹んでるだけ――ひとりであの三人を相手にしなきゃならなくなったとはいえ一夏もまだ健在。
 いつでも駆けつけられるようにはしとくべきだろうけど、この程度で参戦の必要性は感じないね」
〈こ、『この程度』って……〉
「『鷲悟兄達の成長のため、ギリギリまで手出しは控える』――そう事前に打ち合わせしたでしょーが」
 答える言葉に真耶から困惑の声が上がるが、あっさりと笑顔で一蹴するが――
「まぁ、安心したまえ山田センセー。
 出るべきじゃないっつーのは、あくまで『出るべきか否か』の話だから。
 『出たいか否か』を論ずるなら、むしろ駆けつけたくてウズウズしてるくらいだよ――実の、しかも双子の兄貴を凹まされて黙ってられるほど冷血人間に育った自覚はないんでね」
 一転して、その笑みが獰猛な、そして攻撃的なそれに変化する――怒りに満ちた声色からその変化を察したか、通信の向こうで真耶や清香達の引きつった悲鳴が聞こえるが、とりあえずそこはどうでもいい。
(というか――)
 しかし、個人的感情に任せて出るべきではないというのは今話した通りだ。表面化した怒りを胸の奥に押し戻し、平静を装いながらジュンイチは今もっとも懸念すべき事項に思いを馳せる。
(この状況、鷲悟兄にはまたとないチャンスなんだ……
 サイレント・ゼフィルスのせいで崩れた鷲悟兄の“力の源”を、この流れなら立て直せるかもしれない……)
 すでに通信は切られている。誰も聞く者のいない中、ひとりつぶやく。
「思い出せ、鷲悟兄……」



「自分が、“何を司るブレイカーなのか”を……」







「うぅぅぅぅぅぅっ、らぁっ!」
「こんっ、のぉっ!」
 こちらに向けて急降下。自身の重量も加えた大上段からの斬撃が繰り出される――ブラッディの一撃に対し、あずさはジェイソンを装備した桜吹雪で真っ向から受けて立った。両腕のチェーンソー、ボーヒーズを十字にかまえ、ブラッディの斬撃を受け止め、力ずくで押し返す。
「まだまだぁっ!」
 対し、ブラッディはこちらにブレードの切っ先を向ける形で刃を大きく引いた。刺突が来ると読み、あずさも身がまえて――予想通り繰り出された刺突を、ボーヒーズの外側に装備されたシールドで受け止める。
 が――
「ひっかかりやがったな!」
 ブラッディが告げると同時――ブレードが“開いた”
「ハサミ!?」
 ブレードだと思っていたのは、実際にはそう偽装した大型のハサミだったのだ。明らかにISや人体の切断を目的としている凶悪な刃が驚くあずさに迫り――止まった。
「下がれ、あずさ!」
「ありがと、ラウラちゃん!」
 ラウラがAICで凶刃を止めたのだ。礼を言いながら、あずさは素早く後退。退がりながらサイドアームズのナタ、ひぐらしを投げつけて牽制するのも忘れない。
「くらえ!」
 そんなあずさに代わってラウラがブラッディへと攻撃。持ち込んできていた携行型のグレネードランチャーを放つが、そちらは割って入ったノワールのAICで止められてしまう。
 先ほどから似たような流れの繰り返しだ。なんとか相手のどちらか一方を集中攻撃で撃墜しようとするラウラとあずさだったが、ブラッディとノワールも連携を駆使してなかなか二対一の状況を作らせてもらえない。
 相手側の連携が巧みであることもあるのだが――
「あずさ、突っ込みすぎだ。少し落ち着け」
「わ、わかってるけど……」
 こちらも微妙に息が合っていない。いさめるラウラに、あずさは思わず口ごもる。
 というか……息の“合わなさ”も普段と違う。いつもならむしろラウラが突っ込んであずさがフォローに回るのだが、今は完全に立場が逆転している。
 その理由は――
(鷲悟お兄ちゃん、セシリアちゃん……一夏さん……っ!)
 コア・ネットワークによってもたらされた、兄達の戦況――セシリアが撃墜され、それにショックを受けた鷲悟が戦意喪失。結果一夏が三対一という極めて不利な戦いを強いられている。そんなあちらの状況があり、気持ちばかりがはやってしまっているのだ。
 一刻も早くここを片づけ、一夏や兄達の支援に向かわなければ――そんな焦りがあずさを突出させ、生まなくてもいいスキを生んでしまう。それがノワール&ブラッディ組にチャンスを与え、戦いを長引かせてしまっているのだ。
「――あずさ!」
「――――――っ!」
 そしてまたスキが――ほんの一瞬、されど一瞬。意識をそらしてしまったスキをつかれ、ブラッディに懐に飛び込まれてしまう。
 しかも――
「その装備!?」
 自分が意識をそらしている間に、ブラッディは装備を切り替えていた――その装備の在りようもまた、あずさの驚きに拍車をかけていた。
(フレディと同じ――っ!?)
 そう。それはあずさのフレディと同じ、近接・高機動型装備――しかも五指に実体刃を装備させるグローブ型兵装という点までそっくりだ。
 驚きに加え奇襲で先手を打たれ、しかも高速戦闘に向かないジェイソンを装備した桜吹雪では太刀打ちできるワケもない。一旦距離を取り、こちらもフレディに換装しようとするが、
「……させない」
 先ほどまでの熱い咆哮がウソのような冷たい一言と同時、ブラッディの姿を一瞬見失い――次の瞬間には目の前まで詰められていた。
「“瞬時加速イグニッション・ブースト”!?」
「……死ね」
 そこから繰り出されるのは容赦なく急所を狙ってくる、一気に冷え込んだテンションに相応しく冷徹な斬撃の嵐。両手の刃で立て続けに斬りかかってくるブラッディに対し、あずさは離脱もままならず防戦一方に陥り――
「――――――っ!?」
 突如、あずさの動きが停止した。戸惑う間もなく、ブラッディに蹴り飛ばされ、大地に叩きつけられる。
 衝撃に肺から空気が叩き出されて――理解する。
(AIC――――!)
 そう。相手には自分の動きを止められるヤツがいた――ノワールがあずさの動きをAICで止め、そこにブラッディからの一撃をもらったのだろう。
 立ち上がる時間も惜しい。倒れたその姿勢から地面スレスレをすべるように飛び、上昇して上空に逃れる――が、
「待っていたぞ!」
「――――――っ!?」
 そこにはノワールが回り込んでいた。あずさに向け、腕のISアーマーと一体化する形で装備された実体ブレードを振り上げて――
「させんっ!」
 そこに飛び込んできたのはラウラだ。シュヴァルツェア・レーゲンのプラズマ手刀でノワールの一撃を弾く。
「……ジャマするな」
「それはこっちのセリフだよっ!」
 そんなラウラにはブラッディが向かうが、こちらには立て直したあずさが対応した。両腕のボーヒーズによる連続斬撃でブラッディを牽制、追い払う。
(そうだ……集中しなきゃ!)
 改めて気合を入れ直し、あずさは目の前で合流するノワールとブラッディをにらみつけた。
(あの二人がいる限り、鷲悟お兄ちゃんや一夏さん達のところには行けない……
 だから……さっさとこの子達には帰ってもらわなきゃ!)
「シャンブロ!」
 決意と共にその名を叫び、あずさが桜吹雪の装備を換装――赤紫色の、六基三対の円錐状のコーンを備えた追加非固定浮遊部位アンロック・ユニットを持つオートクチュールを装着し、さらに呼び出した大型の長射程ライフルを手にする。
「遠距離戦装備、か……
 ……この“ジャック”を装備したオレから、逃げられると思うな」
 そんなあずさの新たなオートクチュールから、距離をとって戦うつもりと判断したブラッディが一気に加速。あずさを狙って距離を詰めて――
「残念ながら……できちゃうんだな、これがっ!」
 あずさが言い返すと同時、彼女の背中、今の換装で新たに追加された非固定浮遊部位アンロック・ユニットからコーン状のパーツがひとつずつ分離した。それらは自ら飛翔し、ブラッディの死角に回り込もうとする。
「――――――っ!?」
 その動きに、何か警戒に足るものを感じ取ったのか、ブラッディが身を翻す――同時、さっきまでブラッディのいたところを、回り込んだ飛翔体から放たれたレーザーが撃ち貫いた。これは――
「ブルー・ティアーズと同じ――BTビットか!」
「そういうこと!
 いっけぇっ! “ブラスター・テンペスト”!」
 気づき、声を上げるラウラに答え、あずさが改めてビットに指示を下す。それを受けた桜吹雪の、オートクチュール“シャンブロ”に備わるBTビット“ブラスター・テンペスト”がブラッディを、ノワールを牽制する。
「我らを相手に、一基ずつのビットで十分だとでも言うつもりか!?
 なめられたものだな!」
「バカにしてるように見えたらゴメンねっ!
 セシリアちゃんほどうまく使えないから――」
 ノワールに言い返すと、あずさはビットに追加の指示。二基ともブラッディに向かわせると手にしたライフルをかまえ、
「一度に二基までしか使えないんだよ!」
 ブラッディをビットで抑える一方で、ブルー・ティアーズのスターライトと同じBTレーザーライフル、“カークス”が火を吹いた。放たれたレーザーに狙われたノワールがそれをかわすが、
「だから足りない分は、工夫でフォローだよっ!」
 レーザーは持続放射モードで放たれていた。あずさはそのままカークスを振り回し、薙ぎ払うように放たれたレーザーはビットの相手をしていた本命、ブラッディを狙う。
「ブラッディ!」
「く…………っ!」
 だが、あずさのギロチンバーストはギリギリで届かない――ノワールの声に反応、一瞬早く離脱したブラッディのシールドバリアをわずかにかすめるだけの結果に終わってしまう。
 とはいえ、先ほどまで防戦一方だったことを考えればかなり持ち直した方だ。一度後退させたビットを護衛につけ、あずさは改めてラウラと合流する。
「ラウラちゃん、いくよ!」
「あぁ!」
 ラウラとそれだけ言葉を交わし、あずさは対峙する二体の敵ISに向けて飛翔した。







「はぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と共に距離を詰め、斬撃を繰り出す――だが、箒の刃は目標を捉えない。
 対するクリムゾンは身体をわずかに傾けただけ。だが、そのわずかな動きで箒の斬撃は紙一重でかわされてしまう。
 続けて両手の刀で水平に二連の薙ぎ払い。しかしこれもわずかに後退、シールドバリアの間合いの数ミリ外で、刃が虚しく振り抜かれる。
「どうした、篠ノ之箒。
 ただ刀を振り回しているだけでは、我らは倒せんぞ?」
「うるさいっ!」
 クリムゾンに言い返し、箒は紅椿の展開装甲にコマンドを送る――両足の展開装甲を組み替え、つま先からも光刃を生み出して怒涛の連続攻撃。
 しかし、それすらもクリムゾンには当たらない。そのことごとくを、クリムゾンは間合いギリギリの紙一重でかわしていく。
(くっ、当たらん……っ!
 これではまるで――)
「柾木ジュンイチと戦った時の再現、か?」
「――――――っ!?」
 一撃も当てられない状況に焦りが募り――そんな箒の心情を、クリムゾンはあっさりと言い当ててみせた。
「それほど驚くこともなかろう。
 すでに示したはずだ。こちらは事前に貴様らのことを調べた上で襲撃している――当然、IS学園のデータベースに記録されている今までの戦闘記録にもクラックを仕掛け、確認している。
 知っているんだよ、我々は――貴様の、今までの無様な戦いぶりをな」
「だっ、黙れっ!」
 クリムゾンの言葉は明らかな挑発――しかし、箒はその挑発にまんまと乗ってしまった。怒りのままに繰り出された刃はあっけなくかわされ、
「ただ、ひとつフォローしてやるとすれば――」
 言いながら、クリムゾンは箒の背後に回り込んでいた。
「柾木ジュンイチとの戦いの時と今は違う、というところ――かっ!」
 箒が反応するよりも早く一撃――背中に蹴りをまともにくらい、箒は受け身すらも許されず、一直線に地面に叩きつけられた。
 そして、そんな彼女にクリムゾンは続ける。
「貴様が柾木ジュンイチに敗れたのは純粋な実力差だが、私に歯が立たないのは単純に貴様の手の内が知られているせいだ。
 つまり……私の知らない手でくれば、まだ貴様に勝ち目はあるということだ」
「敵に助言とは……余裕、だな……っ!」
 うめくように返し、箒はその場に身を起こした。
「すぐに後悔することになるぞ。
 この私に、そんな助言をしたことをな……っ!」
「ほぉ、そうなのか?」
 そんな箒の言葉に、クリムゾンは動揺することもなくそう答え、
「そう思うなら……後悔させてみろ」
「無論だ!」
 クリムゾンに言い返し、箒は再び紅椿を羽ばたかせた。







 ガキンッ!と音を立て、刃がぶつかり合う――衝撃砲を始めエネルギー効率の高い武装で身を固め、その分余力の生まれた出力をすべて近接攻撃用の馬力につぎ込んでいる甲龍シェンロンの一撃を、パープルは両手のハンドアックスで交差受け。真っ向から受け止めた。
「なかなかやるじゃないっ!
 だったらこれはどう!?」
 自分の一撃を受け止めるとは、相手も近接パワー型なのだろう。だとすると力比べで優劣はつかないか――そう判断すると同時、鈴は一撃重視からラッシュに切り替えた。双天牙月を分割、両手持ちで立て続けの斬撃を放つが、パープルはそんな鈴の攻撃にも対応、互角の斬り合いを演じてみせる。
「こんのぉっ!」
「っとっ!」
 それどころか、鈴に向かって反撃まで繰り出してきた。立て続けに自分を狙ってくるパープルの連続斬撃を、鈴も双天牙月でさばいていく。
「むむっ、今のを止めちゃうワケ!?
 お子ちゃまのクセに生意気なっ!」
「そんな言動してるアンタにお子ちゃま呼ばわれされたくないわよっ!
 つか、そもそも誰がお子ちゃまよっ!」
 パープルに言い返し、鈴は自分を狙う斬撃を弾き返してバックダッシュ。
「これでもくらいなさいっ!」
「ぅひゃあっ!?」
 そして、距離を取ると同時に衝撃砲を展開し、発射――不可視の空気の砲弾を、パープルはあわてた声を上げながら回避する。
「ハンッ、さすがに、龍咆の見えない砲弾はどうしようもないでしょ!」
 そのまま距離を保ちながら衝撃砲での追撃を続ける。回避に徹するパープルに言い放つ鈴だったが、
「やりたい放題やってくれちゃって……っ!
 もう頭に来たんだからっ!」
 言って、パープルがこちらに反転し――次の瞬間、鈴は自分の目を疑った。
 パープルの非固定浮遊部位アンロック・ユニットがスライド式に開いた。その内側に姿を現したのは――
「衝撃砲!? そんな!?」
「これでも、くらえぇぇぇぇぇっ!」
 自分の甲龍に備わるそれとまったく同じものを前に驚きの声を上げる――そんな鈴に向け、パープルが不可視の砲弾をばらまいた。







「く…………っ!」
「おっとっ!」
 こちらの戦いも一進一退――狙いを定め、シャルロットがばらまいたサブマシンガンの弾幕を、サンシャインは素早く後退してやり過ごす。
「今度はこっちの番だ!」
 そして、サンシャインの反撃。ショットガンを呼び出コールし、シャルロットを狙う。
 ばらまかれる散弾をシールドで防ぎながら突撃、近接ブレードで斬りかかるが、サンシャインはかろうじてショットガンで受けた。ショットガンを斬り裂かれながらも直撃は避け、その間に後退する。
 そして、さらに追撃に出たシャルロットに対し自身も近接ブレードを呼び出し応戦。刃と刃がぶつかり合って火花を散らす。
 と、そんなシャルロットの手から近接ブレードが霧散、次の瞬間にはショットガンが握られている――シャルロットの十八番、“高速切替ラピッド・スイッチ”だ。
 そのまま至近距離からサンシャインの顔面を狙う――が、サンシャインもそう簡単にくらってくれない。冷静に上半身を左にかたむけ、ショットガンの銃口から逃れると、そこから身を翻して近接ブレードで斬りかかってくる。
 なんとかそれをかわし、シャルロットはアサルトライフルをコールして――



「セシリア・オルコットが気になるか?」



「――――――っ!?」
 サンシャインの言葉に一瞬身体が強張る――そのスキを見逃さず、サンシャインは一気に距離を詰め、シャルロットを蹴り飛ばした。
「フンッ、たった一言で心を乱すとは甘いな。
 ハイパーセンサーからのデータで把握しているだろう――あの程度の負傷では命に別状はあるまいに」
「そんな問題じゃ、ないよ……っ!」
 サンシャインに言い返し、シャルロットは突っ込んだ地面に穿たれたクレーターの中心で身を起こした。
「セシリアは大事な友達なんだ……
 そのセシリアがやられて、落ち着いてなんかいられるもんか……っ!」
「フンッ、ならばどうする?」
「決まってる。
 キミをさっさと墜として、セシリアを助けに行かせてもらう!」
 言うと同時にアサルトライフルでサンシャインを狙う――が、サンシャインもまたその銃弾をあっさりかわし、逆にシャルロットへと突撃する。
「そう簡単に、私を墜とせると思うな!」
 言い返し、近接ブレードでシャルロットを狙う。対し、シャルロットは大上段から振り下ろされた斬撃を身を翻してかわし、
「思ってないけど――あえてそう思わせてもらうよっ!」
 一回転ターンした時には、もうすでにサブマシンガンをコールし終えていた。“高速切替ラピッド・スイッチ”の本領発揮だ。
 サンシャインの頭部装甲に銃口を突きつけ、引き金を引――



「だから甘い」



 ――こうとした瞬間、シャルロットの腹部を衝撃が襲った。
 絶対防御が発動し、シールドエネルギーが急激に減少する――たまらずたたらを踏んだシャルロットを、サンシャインが体当たりで吹っ飛ばす。
 なんとか踏んばり、転倒だけは免れた。状況を把握しようとサンシャインへと視線を向け――
「――いつの間に!?」
 そのサンシャインの手には近接ブレードではなくショットガンが握られていた。自分の腹部を狙ったのはあのショットガンによるものだろう。
 だが、自分が相手の頭にサブマシンガンを突きつけた、あの瞬間までサンシャインは確かに近接ブレード“しか持っていなかった”はずなのだ。
 いったいいつの間にショットガンをコールしていたというのか――と、そこでシャルロットは気づいた。
 そう――ひとつだけあるのだ。
 あの一瞬の刹那にショットガンへと武装を切り替え、自分に向けることのできる手段が。
 それは、自分が今まさに披露した――
「“高速切替ラピッド・スイッチ”!?」
「使い手が自分だけだと思わないことだ――シャルロット・デュノア!」
 目を見張るシャルロットに言い放ち――アサルトライフルをコールしたサンシャインが彼女に向けて引き金を引いた。







 もう何度目の交錯になるだろう。すれ違う瞬間、甲高い音と共に刃が打ち合わされる。
 駆け抜け、そのまま立ち止まらずにその場から離脱する――直後、一瞬前まで自分のいた場所にばらまかれた銃弾が降り注いだ。追撃から逃れると、忍はオータムと改めて対峙した。
「驚いたな。学園祭の時とは完全に別人だ。
 才能の開花的な意味ではすでにピークをすぎているだろうに、よくもこの短期間でここまで伸びたものだ――いや、慢心が消えて本来の実力を取り戻したと見るべきか」
「さてね」
 両手に、逆手に握る小太刀をかまえ直し、告げる忍にオータムは獰猛な笑みを浮かべながら肩をすくめ、
「そういうお前さんも、あの時とは大違いじゃないか。
 ずいぶんと饒舌だことで――人形みたいだったあの時のお前さんは演技か何かか?」
「意識して態度を変えているつもりはないのだがな……」
 返してくるオータムに答え、忍はオータムにしかけるスキを伺うが、
(あの時と……違う……?)
 同時に、内心疑問も頭をもたげていた。
 なぜなら、オータムに答えた通り、本当に意識してあの時と態度を変えているつもりはないのだから――あの時と同じように対応しているつもりなのに、明らかに違うと評されてどこか変わっただろうかと心の中で首をかしげる。
 オータムは饒舌になったと、口数が増えたと言っているが――
「いーや、変わってるねっ!」
「――――――っ!」
 突撃してきたオータムの声に、思考を中断して対応する――繰り出される近接モードの装甲脚による刺突、斬撃の嵐をさばくと同時、ホログラムとステルスの併用による“空蝉の術(命名:箒)”でオータムの側面に回り込む。
 光学迷彩が解除され、姿を現しながらサブマシンガンをコール。シャルロットほどではないがそうとうの速さで武装を切り替え、オータムを狙うが、
「そっちか!」
 オータムも忍の奇襲を警戒し、装甲脚の一部を温存していた。銃撃モードのまま待機していた一本の装甲脚で牽制、忍の反撃を出だしでつぶしてくる。
「てめぇに自覚はなくても、やり合ってみるとよくわかる――前より読みやすいんだよ、今のお前は!」
「何だと……っ!?」
「何考えてっか、てめぇの顔を見てればよくわかるぜ!
 要するに――感情が見えてんだよ!」
「――――――っ!?」
 そのオータムの一言に驚愕、一瞬だけ動きが止まる――しかし、今のオータムにはその一瞬で十分だった。懐に飛び込み、気づき、反撃に出ようとする忍を装甲脚による打撃で弾き飛ばす!
「ぐぅ……っ!」
 しかし、忍も黙ってやられはしなかった。自分に一撃を叩きつけてきた装甲脚に、カウンターで小太刀を突き立てていた――破壊された装甲脚が爆発、オータムが動きを止めている間に立て直し、上空に逃れる。
(感情が、出ているだと……!?)
 しかし、その内心ではオータムの言葉が引っかかっていた。
(バカな……私が、戦いの中で感情を表すなど――)
 それは、傭兵として生きる中でずっと封印してきたこと――戦いの場で相手に感情を読まれるということは、すなわち思考を読まれるということ。それはそのまま自分の死に直結する重大な問題だ。
 だから、彼女はずっと戦いの場では己の感情を封じ続けてきた。それはもはや条件反射のように、意識せずとも自然にこなせるレベルにまで達していたはず――しかし、オータムの話を信じるとするなら、それが今ここで崩れてきているということになる。
 なぜ崩れたのか――もっと言うなら、なぜ“今”崩れたのか。思わず自分に問いかけて――
「――っ、らぁっ!」
「くっ…………!」
 オータムはそんな思考の時間を与えてはくれなかった。装甲脚を一本失いながらも、忍に向けて突撃。怒涛の連続攻撃を繰り出してくる。
「そらそら、どうした!?
 集中できてねぇな――視線が泳いでるぜ!?」
「何をバカな――」
「そんなに――」
 反論しつつ、反撃に出ようとした忍だったが、繰り出した斬撃の狙う先からオータムの姿が消えた。
 身を沈めて忍の斬撃をかわしつつ、装甲脚の一本を振りかぶり、
「――あのイギリス女が気になるかよ!?」
 一撃を忍に叩き込んだ。攻撃を空振りしたところに強烈なカウンターをもらい、忍の華奢な身体が宙を一直線にブッ飛ばされる。
 それでもなんとか空中で停止。オータムへと向き直り――
(あぁ……そうか)
 忍は自分の中で、つっかえていたものがストンと落ちるのを感じていた。
 奇しくもオータムの言葉が、自分の中に生まれていた、自分では正体のわからなかったものに答えをくれたからだ。
(『セシリア・オルコットのことが気になっている』……そうか、そういうことか……)
 つまり――
(怒っているのか、私は……
 セシリア・オルコットが……“仲間”が墜とされたことに)
 今まで自分の周りにいたのは、任務のために行動を共にする“同業者”か潜入先の“標的”くらいのものだった――“仲間”というものを持たなかった自分が、自分の中に芽生えたこの感情の正体を測りかねていたのも、ある意味当然の結果と言えるのかもしれない。
 だが――
「……感謝するぞ、“亡国機業ファントム・タスク”のオータム」
「はぁっ!?
 いきなり、何言ってやがる!?」
 突如謝辞を口にした忍に対し、オータムが突撃し――
「おかげで疑問は晴れた」
 告げると同時、閃光が――否、閃光と錯覚するほどに鋭い斬撃が奔った。
 その一閃に触れたアラクネの装甲脚が、一瞬にしてバラバラに解体される――さらに勢い余ったその衝撃がオータムを大きく押し返した。
 突然の変化に戸惑い、オータムは警戒レベルを引き上げる――そんな彼女に対して、忍は小太刀をクルクルともてあそびながら、
「確かに、私はセシリア・オルコットのことが気にかかっていたようだ。
 そして――どうして気にかかっているのかがわからず、戸惑っていた。
 だが、お前のおかげで答えが見つかった――だから、『感謝する』」
 改めて礼を言い、小太刀を握り直す。オータムに向けてかまえ直し――告げる。
「せめてもの礼だ。
 ここからは――」



「迷いによる鈍りなしの、フルパフォーマンスの私がお相手しよう」







「きゃあっ!?」
 一撃をかいくぐられ、逆に腹部に反撃の一打――掌底によるカウンターをもらい、楯無は一直線に地面に突っ込んだ。轟音と共に地面が砕け、楯無を中心に大きなクレーターを穿つ。
「……もう寝ていろ。
 こちらは任務さえ果たせればいいんだ。好んで命まで奪おうとは言わない」
 そんな楯無に告げると、青いIS(?)は彼女に背を向けた。
 その視線の先には、運搬される打鉄の入ったコンテナ――教師達を、楯無を打ち倒し、護る者のいなくなったそれの上へと、静かに舞い降りる。
 そして、コンテナをこじ開けようと、こじ開けるための穴を開けようと、その拳を握りしめ、振り上げ――



 この時、青いIS(?)はひとつだけ判断を誤った。

 確かに、青いIS(?)は教師達を、楯無を圧倒し、撃破した。

 打鉄を守る者を蹴散らし、こうしてコンテナまでたどり着いた。



 ただ、たったひとつ――



 自分が蹴散らしたのが、コンテナを“外で”守る者達だけだという事実を見落としたまま。



 そのツケが、ここに来て青いIS(?)に襲いかかった――いざコンテナに一撃を叩き込もうとした瞬間、コンテナを“中から”突き破ってきた閃光が、青いIS(?)を直撃する!
「な…………っ!?」
 思いもしなかったカウンターに、対応などできるはずもなかった――まともに閃光をくらい、青いIS(?)は爆発の衝撃で宙高く吹っ飛ばされる。
 体勢を立て直し、何事かと視線を向けると、巻き起こった煙が晴れ、コンテナの中が見えてくる。
 そこには――
「これ以上は……やらせない……っ!」
 自分達が守っていた打鉄をその身にまとい、コンテナ越しに車両の動力につないだ大型エネルギーランチャーをかまえた簪の姿があった。
「本音! チャージは!?」
「始まってるよ〜。
 けど、時間かかるよ〜。あと一分くらいかな〜?」
「そう……
 未調整の機体を無理矢理動かしたんだし、当然だよね……」
 そして、簪の後ろでは本音が彼女のサポートについていた。簪の問いに、ランチャーの残りチャージ時間を伝える――が、芳しくないその内容に、簪は思わずため息をもらす。
 元々、二人のこの状況での参戦は想定されていなかった。二人とも、護衛の面々が使用するISのメンテナンススタッフとして同行したにすぎないのだから。
 当然ながら、二人のISなど用意されているはずもない。だが、楯無をも圧倒する青いIS(?)の登場という予期せぬ事態によってコンテナが危機に陥るに至り、簪は即興で決断したのだ。
 すなわち――



 守る対象である打鉄を直接身にまとい、“自衛”するという決断を。



 しかしながら、元々使われる予定のなかった機体だ。調整などされているはずもない。なんとか最低限の調整は間に合わせたものの、コアの出力も不安定で、武装へのエネルギーチャージなど夢のまた夢。仕方なくランチャーのチャージは輸送トレーラーの動力を利用させてもらったのだが、これではこれ以上使い物になりそうにない。
「更識簪……まさか伏兵として貴様が出てくるとはな」
 だが、青いIS(?)にそんな事情に配慮する理由などない。簪の思わぬ抵抗に不意打ちこそ許したが――否、不意打ちを許したからこそ、油断なく簪をにらみつけている。
「いいだろう。
 不意打ちとはいえ、姉ですら入れられなかった一撃を入れたこと――そこに敬意を表してやる。
 敬意を表し――“全開”で相手をしてやろう」
 そして――だからこそ、手札をさらす。そう簪に宣言して――青いIS(?)の“全身の”装甲が開いた。
 腕の装甲と同じように、スライド機構によってすき間を開けると、そこから吹き出した赤い炎が温度を上げ、青色へと変色する。
 いや――注目すべきは炎よりもむしろ“装甲の展開”か。これは――
「まさか……展開装甲!?」
 驚愕し、目を見開き――簪の視界から青いIS(?)の姿が消えた。
 とっさにその姿を探すが、見つけるよりも早く背中に衝撃――回り込んだ青いIS(?)に思い切り蹴り飛ばされ、簪は大きく跳ね飛ばされる。
 それでもなんとか制動をかけ、空中で停止――が、すでに相手はそんな簪の対応を読んでいた。動きが止まったところに、青いIS(?)の放った青い炎の弾丸が雨アラレと襲いかかる!
「く…………っ!」
 防御はなんとか間に合った。ハイパーセンサーを介してコマンドを送り、シールドバリアを調整。突き出した両手を起点に前面に集中展開することで炎の爆撃を耐えしのいで――
「甘い」
 爆撃を放ちながら、青いIS(?)はこちらに接近してきていた。一気に距離を詰め、至近距離から炎をまとった拳で一撃。バリアこそ抜かれなかったものの、踏んばりきれなかった簪が押し戻されて――そこに脳天から一撃。頭上に回り込んだ青いIS(?)の蹴りだと認識した時には、すでに簪の身体は轟音と共に地面に突っ込んでいた。
 シールドバリアに守られ負傷こそないが、まるで相手になってない――なんとか身を起こす簪に対し、青いIS(?)は淡々と続けた。
「どうした? 抵抗しないのか?
 したければ思う存分するがいい。
 どれだけ貴様があがこうが――」



「貴様があきらめるまで、何度でも叩き墜としてやるだけだ」







 飛び込み、一撃を繰り出すが、相手はそれをあっさりとかいくぐる――それどころか、きっちりカウンターまで合わせてきた。ブラッディの繰り出してくる、両手のグローブ状のガントレット、その五指にそれぞれ備えられた刃を、ラウラは両腕のプラズマ手刀でさばいていく。
「ラウラちゃん!」
「おっと、いかせんっ!」
 そんなラウラを援護しようとするあずさだったが、それをノワールが阻む――両手を振るい、飛ばしてくるAICの拘束エネルギーの筋をハイパーセンサーが検知する。
 一瞬、反射的に回避しようとするが、算出された予想軌道は自分の両脇を抜けるもの。当たらないならかわさなくても――と思った瞬間、強烈な衝撃に襲われる。
 AICのエネルギー波はこちらの逃げ場を奪うためのもの。本命は放った本人による体当たり――今さらながらに悟るがもう遅い。ノワールの体当たりをまともにくらって、あずさはノワールもろとも地面に突っ込んだ。
「BT兵器搭載機は確かにロングレンジには強いが、懐に飛び込まれるととたんにもろくなる」
 あずさを自分と地面の間でサンドイッチにすると、ノワールは彼女から離れて上空へ。痛みに顔をしかめながらも起き上がろうとするあずさに向け、まるで講義でもするかのように語り始める。
「それはビットを操るために集中を強いられるからだけではない――ビットへのエネルギー供給のために機体のパワーの大部分を割いてしまうため、接近された時に対応するための近接兵装を使いこなせないためだ。
 貴様のオートクチュールも、その欠点は変わらなかったようだな」
「痛いところを、ついてくれるね……っ!」
 うめくようにそう返し、あずさは立ち上がり、ノワールをにらみ返す。
 その一方で、コア・ネットワークの情報からラウラの様子を確認する――装備を大剣に戻し、再び烈火の如き咆哮と共に斬りかかるブラッディをよく抑えてくれている。
 他の仲間達はといえば――どこもここと似たようなものだ。優勢なところなどひとつもなく、かろうじて忍がオータムと互角に渡り合っているくらいだ。
 一夏などは三対一の戦いを強いられて機体のダメージ表示がどんどん増えているし、楯無に至っては情報画面を開いた瞬間レッドアラートで画面が埋め尽くされる始末だ。楯無をそんな状況に追い込んだ、しかも本気になった敵を調整不足の打鉄で相手にしている簪も危ない。
 そして何より――
(セシリアちゃん……っ!)
 ISの損害こそ軽微でも、腹部を撃ち抜かれて意識不明――そんなセシリアの安否が何よりも気がかりだった。
 鷲悟も鷲悟で、そんなセシリアの撃墜――というか、その原因になってしまったことにショックを受けて戦意喪失状態。彼が復帰してくれれば少しは楽になるのだろうが、今のところその兆しはない。
 やはりセシリアの治療と意識の回復が鍵か。一刻も早く治療に向かいたいところだが、目の前の相手がそれを許してくれそうにない。
(せめて、あたしがセシリアちゃんのところまで行ければ、ナイチンゲールで治せるのに……っ!)
 そんなことを思いながら、拳を強く握りしめる。
(みんなを、守りたい……っ!
 みんなの力に、なりたいのに……っ!)
 コア・ネットワークが伝えてくる仲間達の苦戦の様子――その情報を受け取るほどに、その想いは、あずさの中でどんどん大きくなっていく。
 そして――
(だから、お願い……)











(力を貸して――桜吹雪さくらふぶき!)



 弾けた。











 それは突然の変化だった。
 あずさの桜吹雪、その周囲に光が走ったのは。
 そしてそれはどんどん数を増やしていき、いくつかの塊になると何かの形を描いていく。
 いや――“何か”ではない。
「ボーヒーズ……!?
 こっちは、クルーガー……!?」
 彼女の操る各オートクチュール、その武装“だけが”空中にホログラムのように投影されているのだ。
 桜吹雪のシステム上、オートクチュールの武装は追加ISアーマーとセットで、選択しているパックのものしかコールできなかったはず。こんな現象は今まで見たことがない。
 と――そんな、状況がわからず混乱しているあずさの目の前にホログラムウィンドウが展開され、メッセージが表示された。

 ――“黄金の宝物庫ゲート・オブ・バビロン”、発動。

 ――全武装、全登録済みISに対し使用許諾を発行。遠隔展開リンク……完了。

「何、これ……?」
 初めて見る文面に、戸惑いの声が上がる――が、すぐにその意識は後半の文面に集中した。
 『全登録済みISに』、『使用許諾を発行』、『遠隔展開』。この三つの言葉が意味するものは――
「――――よしっ!」
 もし、この“意味”が自分の考えている通りだとしたら、この戦局をひっくり返せるかもしれない――決意と共に、あずさは右手を頭上にかざし、告げる。
「いくよっ!
 バビロニアの宝物庫よ――今こそ、その扉を開け!」
 宣言と共に、かざした右手を振り下ろす。それを合図に、周囲に浮かぶ武装のホログラムが再び光の塊へと還り――飛んだ。
 彼女の守りたい――



 支えたい、仲間達の元へ。







「あ〜ら、よっと!」
「なめないでよっ!」
 衝撃砲でこちらの動きを牽制する一方で、両手のハンドアックスを振り上げ、力任せに振り下ろしてくる――パープルの一撃を、鈴は真っ向から受けて立った。こちらも分割した双天牙月の同時斬りで対抗するが、
「きゃあっ!?」
 軍配は自身のパワーのみならず重力も味方につけたパープルの方に上がった。両手の双天牙月を弾き飛ばされ、まともにくらった鈴が地面に向けて叩き落とされる。
 それでもなんとか、直前で立て直して地面との激突だけは回避するが――
「もらったよっ!」
「――――――っ!?」
 そんな鈴の眼前に、パープルが“瞬時加速イグニッション・ブースト”で飛び込んでくる!
 双天牙月は先の一撃で弾かれてすでにない。繰り出される斬撃を喰らう、数秒後の自分の姿が鈴の脳裏をよぎって――
「ふぎゃあっ!?」
 つぶれた悲鳴と共に弾き飛ばされたのは――パープルの方だった。
 パープルの一撃が届くか否かという、その刹那、鈴の左手に“何かが現れた”――思わず、反射的に振るったそれで、鈴がパープルを弾き飛ばしたのだ。
 パープルが後退し、危機を脱したことで、改めて“それ”を確認する。
 腕部ISアーマーに固定するタイプの、二枚重ねの戦闘用・大型チェーンソー。これは――
「あずさの……ボーヒーズ!?」







「何……っ!?」
 弾幕をかいくぐり、肉迫――今まさに繰り出した近接ブレードの切っ先を止められ、サンシャインは思わず声を上げた。
 パープルと戦っていた鈴と同じだ――突如シャルロットの右腕にボーヒーズが出現。外側に装着されたシールドで、シャルロットがサンシャインの一撃を止めたのだ。
「これって……!?」
 一方、シャルロットにとってもボーヒーズの出現は予想外もいいところだった。思いも寄らない助けに、情報画面を開いて確認する。
 桜吹雪から、シャルロットのリヴァイヴへの使用許諾の発行がされている。このボーヒーズがあずさからの支援の手であることは間違いなさそうだ。
「……ありがとう、あずさ。
 おかげで助かったよ」
 後で改めて、直接お礼を言わなくちゃ――そう思いつつもひとまず謝辞を口にしながら、シャルロットは警戒し、後退したサンシャインに対しボーヒーズをかまえ、
「あと……チョイスが絶妙だね。
 一度使ってみたかったんだよね……これっ!」
 言って――改めて、シャルロットはサンシャインへと飛翔した。







 交錯と同時、金属がぶつかり合う甲高い音が響く――格闘モードの装甲脚と小太刀が交錯し、オータムと忍は互いに攻撃を防ぎ、防がれながらすれ違う。
「まだまだっ!」
 だが、忍と違いオータムにはすれ違った後にも攻撃手段は残されている。このタイミングを狙い、銃撃モードのまま待機させていた別の装甲脚で忍を狙い――次の瞬間、ハイパーセンサーが警告を発した。
「何――――っ!?」
 警告の内容を確認するよりも早く、直感に従って離脱――直後、一瞬前までオータムのいた場所で爆発が巻き起こった。
 おそらく、交錯の瞬間に仕掛けられたのだろう――オータムの気づかぬ内に、彼女の鼻っ柱を狙うように放り出されていた爆弾が炸裂したのだ。
「手投げ弾だと……!?
 アイツ、こんなもんまで装備してやがったのか……!?」
 この期に及んでまだ温存していた武装があったのか――警戒を強めるオータムだったが、
「残念ながら……その読みは若干外れているな」
 爆煙の向こうから忍が答え――煙が晴れたその先に現れた忍の姿に、オータムは思わず目を見開いた。
「たった今使えるようになった――が、正解だ」
 そう告げる忍のISに装備が追加されている――シルエット・ミラージュ本来のそれとは別に、新たに二基一対の非固定浮遊部位アンロック・ユニットが浮いている――具体的には忍の両側面、肩のISアームからつながっているかのようにも見える、そんな位置取りだ。
 だが、オータムが驚いた理由は非固定浮遊部位アンロック・ユニットが増えた、そのことについてではなかった。
 その非固定浮遊部位アンロック・ユニットの“出所”だ。
 事前に得ていたデータの通りなら――
「おい、ちょっと待て……
 それ、“お前の装備じゃないだろう”!?」
「あぁ、そうだな。
 これは柾木あずさの……桜吹雪のオートクチュールの武装のひとつだ」
 そう忍が答えると、追加の非固定浮遊部位アンロック・ユニットの内側、忍に面した側のカバーが開いた。その奥から転がり出てきた手投げ弾を、忍は両の手にキャッチする。
「彼女の爆撃用オートクチュール“吉影”が誇る爆薬自動生成システム“キラー・クイーン”……
 また、クセのある武装を回してくれる!」
 そしてそれを、オータムに向けて投げつける――ISのアシストを受け、文字通りの剛速球となって襲い来るそれらの爆弾から、オータムはすかさずバックダッシュで距離を取る。
 狙いを外した爆弾が爆発する中、反撃すべく装甲脚をかまえて――
「残念だが――」
「――――――っ!?」
「こちらが本命だ!」
 忍の声に、自分に向けて突っ込んでくる影の存在に気づく――バスケットボールほど大きさの飛翔体だ。
(ミサイルか――!?)
「そんなもんで!」
 だが、オータムもすかさず迎撃に転じた。アラクネの装甲脚で銃撃、飛翔体を直撃し――しかし、飛翔体は銃撃をいくら食らおうがものともしないでなおも突っ込んでくる。
 距離が詰まったことで、意外と手の込んだデザインだと判る。いかにも凶悪そうな髑髏どくろのレリーフが正面に飾られ、果たして意味があるのか否か、下部には二基一対のキャタピラが備わっている。
 どう考えても使い捨てとは思えないその凝ったデザイン。そしてそれ以上に、銃撃に耐えるなどというミサイルとしての用途を完全に放棄した強度。これらのことから考えられる結論は――
「ミサイルじゃない!?」
 とっさに離脱しようとするがすでに遅く、飛翔体に追いつかれて――次の瞬間、オータムが爆発に飲み込まれた。
 飛翔体の爆発――ではない。“飛翔体から射出された爆弾が”爆発したのだ。
「さすがの“亡国機業ファントム・タスク”も、今まで未使用でいた機能までは読み切れなかったようだな」
「読めるか、こんなもん……っ!」
 しかし、さすがにこれだけでは撃墜には至らず、オータムが爆発の中から飛び出してくる――してやったりとばかりに告げる忍に対し、うめくように答える。
「ミサイルかと思ったら、“爆弾を運ぶ”爆撃ビットだぁ……?
 また奇抜なモンを装備しやがって!」
 思わず毒づくオータムだが――正確には少し違う。
 “爆弾を運ぶ”のではなく、飛んでいったその先で“自ら作り出した爆弾を射出し、攻撃する”のが、このビットの真の能力――それ自体にキラー・クイーンと同じ爆弾生成システムを備えた遠隔爆撃システム。
 手投げ弾を生み出す“第一の爆弾キラー・クイーン”と対を成す、“第二の爆弾シア・ハート・アタック”――ビットすら爆弾攻撃という、徹底的に“爆弾を操る”ことに特化した爆撃用オートクチュール“吉影”の特性を、ある意味でもっとも象徴する武装だ。
「そう言うな。元々相手の虚をつくためのような装備だ。簡単に読まれていては意味がないだろう?」
「ま、そうだけどよ……
 けど、タネさえ割れちまえばっ!」
 応える忍にそう返して、オータムが装甲脚をかまえ――
「あぁ、そうだな」
 忍の落ち着いた言葉に――それよりも、“すでに何かを放り投げた後のような”忍の手を見て、気づく。
 同時、彼女の周囲に、放り投げられた“第一の爆弾キラー・クイーン”の爆弾が降ってきて――
「もっとも――対処できるかどうかは、別問題だと思うがな」
 忍の言葉を合図に、それらの爆弾がリモコン起爆、オータムを再びの爆発が飲み込んだ。







「…………何?」
 自分の装甲から、ピシッ、と亀裂の走る音――疑問の声を上げ、確認してみれば、クリムゾンのISアーマー、その右肩には確かな破損が見て取れた。
 彼女の太刀筋は完璧に見切っていた。今までの攻防でもただの一太刀すら許していなかったのだが、ここにきて初めての被弾、ということか。
 一瞬、まぐれ当たりかとも考えるが――クリムゾンはすぐにその仮説を捨て去った。
 “破損が刀傷ではなかったからだ”。
 短い間隔で走る数条の“引っかき傷”。これは――
「……こういう武装は、正直不慣れなんだがな」
 告げる箒の、紅椿の左手にも桜吹雪の武装が――五指に実体刃を備えたグローブ型斬撃兵装“クルーガー”だ。
「それは桜吹雪の……
 ……そうか、柾木あずさの手助けか」
「そのようだな。
 こんなことができるとは私も初耳だが……」
 状況を察し、つぶやくクリムゾンに対し、箒も「遠隔貸与できるなら事前に教えておいてくれれば」と軽く愚痴をこぼす。
「さぁ、どうする?
 言った通り、こういう武器は不慣れでな……どこまで使えるか、私にすら予想はできんぞっ!」
「不慣れゆえの不確定要素を利用する、か……
 いいだろう。少しはおもしろくなってきた!」
 箒に答え、クリムゾンが彼女に向けて飛翔。箒もそれを迎え撃ち――両者が、激突した。







「オォォォォォッ!」
 咆哮し、ラウラの全身から光が奔る――プロイツェンの荷電粒子砲“群”を身にまとい、ノワールやブラッディに向けて怒涛の砲撃の嵐を降り注がせる。
 両肩の大型荷電粒子砲“デス・ハウリング”を時間差で連続発射、かいくぐるノワール達を両手の携行型荷電粒子砲“ジェノ・ハウリング”でそれぞれに狙う。
「ヒュ〜♪ ラウラちゃん、やる〜♪」
「そうだろうそうだろう!
 伊達に、しゅうごの戦い方から学んじゃいないさ!」
 口笛を吹いて絶賛するあずさに答えて、ラウラはノワール達に向けて改めて斉射。突撃の出だしをつぶして追い払い、
「だが……そう言うお前は大丈夫か?
 みんなに装備を貸してしまって、自分の分がないんだろう?」
「まぁ、そこはしょうがないよ――だって“そういう能力”みたいだし」
 ラウラの指摘に対し、桜吹雪本体の標準装備であるエネルギーライフルとシールドを軽く振りながら答える――そう。現在のあずさの装備はこの二つとシールドにマウントされたプラズマソード、それだけである。
 仲間を助けたい、支えたいというあずさの想いから発現した桜吹雪の“単一仕様能力ワンオフ・アビリティ”、その名も“黄金の宝物庫ゲート・オブ・バビロン”。
 各オートクチュールの武装をそれぞれ単体で、使用許諾を発行した上で遠隔展開。このシステムによって、戦場各所で戦う仲間達に武装を貸し与え全体の能力を引き上げることが可能となるが――弱点がないワケでもなかった。
 仲間に貸し与える武装はあくまで桜吹雪の持っているオートクチュールのものであり、新たに生み出されているワケではない――当然ながら、能力を発動させ、武装を貸し与えている間、あずさ自身は貸し与えている武装を使うことができなくなる。
 言うまでもなくそれはあずさ自身の戦闘力の低下を意味する――自分の戦う力を引き換えに仲間達を支える、諸刃の剣とも行き過ぎた献身とも言える能力なのだ。
「ま、そういうワケだから、ここはがんばってよね、ラウラちゃん。
 その代わり……バッチリ援護してあげるから!」
「任せろ!」
「あと、終わったら鷲悟お兄ちゃんにお願いして手作りスイーツ用意してもらうからっ!」
「ますます任せろっ!」
 あずさの“報酬”の提案に一気にテンションが引き上げられる――危うく入れ過ぎそうなほどに気合を入れ直し、ラウラはノワールやブラッディめがけて荷電粒子の嵐をぶちまける。
(みんなに力を与える、あたしの……桜吹雪きんさんの、本当の力……
 あたしが願って……桜吹雪きんさんが応えてくれて、生まれた力……)
 そんなラウラを頼もしく思いながら、あずさはライフルの照準システムを調整し直す。
(一夏さん、鷲悟お兄ちゃん……こっちは任せて。
 たとえ離れていたって……)
「みんなと一緒に、絶対勝つから!」
 決意を言葉にして――ブラッディに照準を合わせ、引き金を引いた。



負けられない
  大事な仲間が
    いる限り


次回予告

セシリア 「セシリアですわ。
 うぅっ、最近わたくし、撃墜されてばっかりのような……」
「そういえばそうよね。
 まったく、何さっさと脱落して楽してるのよ?」
セシリア 「ら、楽なんてしてませんわよ!?
 たとえ撃墜されようと、わたくしにだって、できることはあるんですからっ!」
あずさ 「セシリアちゃん落ち着いて!
 もう撃墜されるのが前提になってるよ!?」
セシリア 「はぅっ!?」
鷲悟 「次回、IB〈インフィニット・ブレイカー〉!
   『復活の時! ホントの怒りを思い出せ!』
   
セシリア 「立ち上がってください、鷲悟さん!」

 

(初版:2014/02/01)