プロローグ

 


 

 

 この宇宙はひとつではない。
 歴史の中で人々が何かを選ぶたび、選ばれなかったもうひとつの可能性が新たな世界として分かたれていく。
 人々が生きている限り、様々な世界が生まれ、それは新たな歴史を紡いでいくのだ。
 そして我々はそんな未知なる「もしも」に夢を馳せ、新たな可能性を求めて物語を描く。それもまた、その世界では現実にあった事件として新たな世界を作り出す。
 これは、そんなはるかな時と世界の彼方で起きた、「もしも」の物語である――

 ――ザッ……
 ブレイカーベースの存在する地下空洞で、ジュンイチは静かにかまえをとった。
 気持ちを落ち着け、精神を集中し、己の中の“力”を高めていく。
 地下空洞にいるのは彼ひとり。彼の鍛錬をジャマする者はいない。
 無言で頭上に右手をかかげ、高めた“力”をその一点に導き――解放する!
 解放された“力”は破壊の力を伴った光の渦となり、勢いよく上昇していく。このままでは天井を直撃して爆砕することになる――のが普通だが、その心配が不要な理由があった。
 ――パンッ!
 破裂音と共に光の渦はその形状を崩し、四散した。
 この地下空洞は神木の巨大な根によってその天井を支えられており、その根に近い岩壁付近は強力な霊力が渦巻いている。その霊力に押し負けてジュンイチの光熱波が粉砕されたのだ。
 この霊力の渦を打ち破れるくらいにまで自身の“力”を高め、且つ制御する。それが現時点での目標なワケだが――
(そこまでいったら、確実にこの地下空洞崩壊させるんだろーなぁ……)
 冷静に考えて、かなり危険な修行をやっていることを改めて実感するジュンイチだった。
 いつもならば後は軽くシャドーをやって鍛錬は終了となる。が――この日はいつもと違った。
「………………あん?」
 気づいて、見上げるジュンイチの視線の先で、先ほど自分が放った“力”が妙に渦巻いている。今まではなかった現象だ。
(……オレの霊力、あの流れに巻き込まれたかなぁ……?)
 今までにない初めての事態ではあるが別に危険な感じはしない。なんとなくそんなことを推理しながらジュンイチがその力の渦を眺めていると――変化は突然訪れた。
 ――ドゴォンッ!
 轟音と共に乱れた流れがぶつかり合い、そのエネルギーが渦を飛び出して大地に突き刺さったのだ。
 幸い地下空洞の比較的外れの方に着弾したため、地下空洞にもブレイカーベースにも被害はなかったが――
「――――――ん?」
 それに気づいて、ジュンイチは警戒しつつかまえをとった。
 着弾によって巻き起こった煙の中に、人の気配を感じたからだ。
 数は――2。
(何者だ……?)
 警戒しつつ、ジュンイチがかまえ――
「ケホッ、ケホッ……
 何なんだよ、いったい……」
「ぼ、ボクだってわかんないよ……」
 煙の中から現れたのは、金髪の少年と全身鎧フル・アーマーの大男だった。
「え………………?」
 警戒どころか状況すら呑み込めていない様子の二人に、ジュンイチの目がテンになり――二人がジュンイチに気づいた。
「え、えーっと……」
「あー、うーんと……」
 ジュンイチと少年がうめき――同時に尋ねた。
『アンタ、誰?』


(初版:2005/04/24)