「え、えーっと……」
「あー、うーんと……」
 ジュンイチと少年がうめき――同時に尋ねた。
『アンタ、誰?』

 

 


 

第1話
「激突! 錬金術VS精霊力」

 


 

 

「オレはジュンイチ。柾木ジュンイチだ」
「ジュンイチ……?
 あまり聞かない名前のセンスだな」
 先に答えたジュンイチの言葉に、少年は眉をひそめてつぶやく。
「なぁ、アンタどこの生まれだよ?」
「アンタ、だと……?」
 少年の言葉に、今度はジュンイチが眉をひそめる番だった。
「ずいぶんに言いようじゃねぇか。
 こっちは名乗ったんだ。そっちも名乗るのが礼儀だろうが。チビのクセに態度が偉そうだぞ」
 その瞬間――少年の目がつり上がった。
「だぁれが――吹けば飛ぶような超軽量級ドチビかぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮と共に両手を打ち合わせ――少年の右手が形を変えた。
 そして、少年が右手の変化したハンマーを振るい、ジュンイチに殴りかかる!
「な………………っ!?」
 今までに見たことのない能力を前に、ジュンイチはとっさにハンマーをかわすと間合いを取る。
「コイツ、自分の右腕を……!?
 再構成リメイクだって、生きた肉体の再構築なんて不可能だぞ……!」
 うめき、ジュンイチは少年を観察し――気づいた。
 少年の右腕は肉体ではない――金属製の義手だ。それを再構築し、ハンマーへと作り変えたのだ。
 これで右腕を再構築できたことの謎は解けた。だが――右腕の変化の現象は再構成リメイクとは根本的に何かが違った。あれは一体――
「お前……いったい何者だ!?」
 尋ねるジュンイチに、少年は名乗った。
「オレはエドワード・エルリック――国家錬金術師だ!」
「錬金、術師……?」
 名前はわかったがまたワケのわからない単語が出てきた――混乱の連続にジュンイチが眉をひそめると、鎧の大男がエドワードをいさめた。
「や、やめなよ、兄さん!
 あの人だって、悪気があって言ったワケじゃないし、あの場合は確かにすぐ名乗らなかった兄さんが悪いよ」
「に、兄さん!?」
 大男の言葉に、ジュンイチは思わず声を上げた。
「お前の方が弟なのか?」
「あ、はい……
 アルフォンス・エルリックです……」
 答えるアルフォンスの言葉に、ジュンイチはエドワードへと視線を移し――告げた。
「弟より小さいのか? お前」
「やかましいわぁぁぁぁぁっ!」
 よせばいいのにジュンイチは余計な一言を放ってしまった。言い返しながら打ち合わせた両手を大地に叩きつけ――エドワードの“力”を受けて変化した大地が無数の拳となってジュンイチに襲いかかる!
「ち、ちょっと待て!」
 うめいて、ジュンイチはエドワードの攻撃をかわし、
「いきなり何ブチキレてんだ!
 ただ見た目の感想言っただけだろうが!」
「それが余計なお世話だっつってんだぁぁぁぁぁっ!」
 なんとか説得しようとするものの気づかぬままに『地雷』を踏みまくるジュンイチに、エドワードはなおも攻撃の手を強めていく。
「あー、もうっ!」
 うめいて、ジュンイチは右手から炎を放って岩の拳を薙ぎ払う。今はとにかくエドワードを説得する時間がほしい。だが――
「炎、だと……?」
 それを見て、エドワードは動きを止めた。
 何事かと見つめるジュンイチの目の前で、エドワードはワナワナと肩を震わせ――咆哮した。
「イヤなヤツ思い出させるなぁぁぁぁぁっ!」
「ちょっと待て! それはオレのせいじゃないだろうが!」
 答えるジュンイチだったが、エドワードは攻撃の手を緩めない。
「――しゃーない!
 力ずくで、黙ってもらうぜ!
 弟くん、下がってろ!」
 ついに決断し――ジュンイチはそう告げて叫んだ。
「ブレイク、アァップ!」

「ったく、さっきから何やってんのよ、アイツは!」
 外で連続して巻き起こる振動に、ライカは愚痴りながら外に出て――
 ――ギュオォンッ!
 その眼前を、エドワードの作り出した岩の拳がかすめていった。
「……何事?」
 つぶやき、ライカは戦闘を繰り広げるジュンイチとエドワード、そしてアルフォンスの姿に気づいた。
「な、何よ、アイツ!」
 うめいて、ライカは戦闘中の二人をオロオロと見つめているアルフォンスに声をかけた。
「ち、ちょっと、アンタ誰よ!?
 なんでウチのジュンイチとド突き合いなんかやってんのよ!」
「あ、あの人のお友達ですか?
 すみません、うちの兄がご迷惑かけて……」
「そ、それはいいけど……いや、よくないか」
 アルフォンスに意外に素直に謝られ、ライカは思わず面食らいながら答え、
「けど、いったい何がどーなってこんな……
 ……いや、いいわ。それも容易に想像つくから」
 どーせジュンイチが『地雷』を踏んだんだろうと見当をつけ、ライカはため息をついた。
「いつもながら、気づかない内に敵作るヤツよね、まったく……」
「は、はぁ……」
 ライカの言葉に、アルフォンスは答えに窮してそううなずくしかなかった。

「いっけぇぇぇぇぇっ!」
 咆哮と共に、エドワードは錬金術で岩の錐を練成、ジュンイチに向けて飛ばすが、
「しゃらくせぇっ!」
 ジュンイチはゴッドウィングから精霊力を放出、フェザーファンネルを作り出してそれらを迎撃する。
 このまま休ませない――連続攻撃を選択し、ジュンイチは続けてゴッドウィングを開き、
「燃え上がれ、龍の翼よ!
 龍翼の轟炎ウィング・ギガフレア!」
 翼の周囲に発生させた炎を解放、巻き起こった炎が龍の形となって襲いかかり、エドワードは大きく跳躍してそれをかわすが、
「――遅いっ!」
 ジュンイチはそのスキに間合いを詰めていた。至近距離からのヒザ蹴りを放ち――蹴りそのものは右手の義手でガードしたものの、エドワードは勢いに負けて弾き飛ばされる。
 ウィング・ギガフレアはジュンイチの持つ大技の中では比較的チャージ時間も短く、発動時の硬直も小さい。コンビネーションに組み込むにはもってこいの技であり、ジュンイチもまたこの技を使ったコンビネーションを好んでいた。
 そして、追撃の足刀でエドワードの姿勢を完全に崩し、
「――仕上げ!」
 足刀の姿勢のまま軸足とゴッドウィングの推進力で強引に跳躍、エドワードに真上から蹴りを落とし、大地に叩きつける。
「身体の小ささが祟ったな。
 体重ウェイトがなくて浮かせやすいぞ♪」
「だぁかぁらぁっ! 身長のことに触れるなぁぁぁぁぁっ!」
 余裕で告げるジュンイチだがまたしても『地雷』。エドワードはすぐに立ち上がり怒りのままにわめき散らす。
 だが、その言葉でようやくジュンイチは『地雷』の正体に気づくことができた。が――
「なんだ、背のコト気にしてたのか?」
「わかったんならあえて口に出すなぁぁぁぁぁっ!」

 確認をとったつもりがさらに『地雷』を踏んだ。おかげでエドワードを完全に怒らせてしまったようだ。
「もー勘弁ならんっ!
 てってー的に殺ってやる!」
「こら! 子供が危険な当て字を使うんじゃないっ!」
「うがぁぁぁぁぁっ! 背を避けたと思ったら今度はガキ扱いかぁぁぁぁぁっ!」
 あわてて叫ぶジュンイチに言い返し、エドワードは錬金術を発動、彼の周囲の地面が盛り上がっていく。
 その規模は今までのそれとはケタが違う。何か巨大なものを作り出そうとしているようだ。
「ったく! ちっとは落ち着けってんだ!」
 うめいて、ジュンイチもまたそれを迎撃するべくかまえ、
「ウィング、ディバイダー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドウィングがキャノン形態に変形、さらに両バレル内側の装甲が展開され、一対の反応エネルギー砲となる。
 エドワードはこちらに特大の一撃を放つつもりだ。生半可な一撃では相殺するどころか一方的に吹き散らされるだろう。
 ならば――こちらも特大の一撃で受けて立つしかない。
 そして、ジュンイチは銃口をエドワードに向け、
「ウィングディバイダー、チャージ!」
 ジュンイチの叫びと同時、ウィングディバイダーの放熱デバイスがすべて開放、精霊力を攻撃エネルギーに変換、さらに高出力に収束していく。
 それに対して、エドワードも巨大な大砲の練成を完了、ジュンイチへと狙いを定める。
 互いに互いを標的と定め、今、それぞれの全力をかけた一撃を――

 

「いいかげんに、しなさぁぁぁぁぁいっ!」

 

 新たな叫びが響き――次の瞬間、二人はカイザーブレイカーライカ必殺技カイザースパルタンによって天井近くまで吹き飛ばされていた。

「何考えてんのよ! こんなところでゼロブラックを撃とうとするなんて!
 そんなクラスの技を撃たなきゃ相殺できないような一撃とぶつけ合わせたりしたら、神籬ひもろぎの結界なんて役に立たないことぐらいわかるでしょ! そーゆー時は波○拳対策よろしく撃たせず止めるのがセオリーでしょーが!」
 これ以上暴れ回られてはたまらないと二人をがんじがらめに縛り上げたあげく逆さ吊りにし、ライカはミノムシのようになっているジュンイチに詰め寄って言う。
「っつってもしょーがねぇだろ。向こうが何言ってもキレまくるんだから」
「あんたが知ってか知らずか『地雷』踏みまくるせいでしょうが!」
 答えるジュンイチに言い返し、ライカはハリセンでジュンイチの頭を野球のスイングよろしくブッ叩く。
 そして、今度はエドワードへと向き直り、
「そっちもそっち! 見たところ、アンタの力は物質の構成を『組み替えて』別のものを作り出すみたいだけど――こんな場所で、地盤を材料にあんな大質量の大砲作ったりしたら、この地下空洞を支えてる地盤がもろくなることぐらいわかんないの!?」
「うっ……」
 ライカの言葉に、エドワードは思わずうめき声をもらした。
 別に彼女に諭されたからではない。彼女の言葉が意味するところを悟り、巻き込まれる自分の姿がイメージできたからだ。
「だいたいっ! それでなくてもこの被害、どーするつもりなの!?
 他のみんながいなかったからいいようなものの、青木さんなんかがいたらもっとハデに止められてるわよ!」
 合身して必殺技まで使ったことを棚に上げ、そう言ってライカが指さした先――先ほどの戦場跡は散々な有様だった。
 地面はあちこちが大きくえぐれ、ブレイカーベースへと続く車両用の舗装は完全に粉砕、流れ弾でブレイカーベースの外装板のあちこちがへこんでいる。
 その上先ほどの二人の一撃がぶつかり合っていたら、ライカの言うとおりシャレではすまないことになっていたのはほぼ間違いないだろう。
 そんな惨状を前に――ジュンイチとエドワードは同時につぶやいた。
『ひどいもんだな、こりゃ』
「アンタ達二人のせいでしょうがぁぁぁぁぁっ!」
 再びハリセン一発。一振りで的確に二人のこめかみを打ち抜いた。
「罰としてこの修理は二人でやること! 事情はそこの鎧くんから聞かせてもらうから!
 いいわね!」
『えー?』
「……いいわね?」
『Yes, sir』
「女性に『男性用敬称Sir』を使うなぁぁぁぁぁっ!」
 今度は生身のカイザースパルタンが炸裂した。

「……悪いな、アメストリスなんて地名は聞いたこともない」
「そっか……」
 後始末をしている内に頭もすっかり冷えた。作業の片手間に情報を交換し、答えるジュンイチにエドワードがうなずく。
 ちなみにかたわらではブイリュウが居座っている。ライカから二人がサボらないように見張りを言い渡されたのだ。
「こっちもテメェの錬金術なんて見たことも聞いたこともねぇ。
 実際目の当たりにした手前否定する気にもならんし……」
「あぁ……」
 二人の出した結論は一致していた。すなわち――

 ――エドワード達は異世界の住人。

「何らかの原因で、お前らは世界の壁ってヤツを越えて、別の世界からオレ達の世界に現れちまった可能性が高いな」
「さっき言ってた、お前の鍛錬の事故か?」
「いや、それはないだろう」
 尋ねるエドワードに、ジュンイチはあっさりと否定した。
「確かにかなりのエネルギーが発生していたけど、次元の壁そのものに穴を開ける、ってことをしでかすにはちと力不足な量だった。
 あの事故は、お前らの世界とをつなぐトンネルの出入り口――みたいなものをここに誘導する役目を果たしただけだろう」
「難しい話だな、まったく」
「多次元解釈はこっちの世界でも未だ解明されていない概念だ。理解しきれなくてもしょうがないさ」
 答えて、ジュンイチは再構成リメイクの手を休めて背伸びする。
「ま、お前らに関してはいろいろ事情が複雑みたいだが、こっちの技術をいろいろ吸収して役立てるといいだろうな」
「ずいぶんと気を使ってくれるじゃんか。
 さっきまで本気で殺り合ってたのにさ」
「お前が勝手にキレて襲いかかってきたからだろうが。
 お前が怒りを鎮めてくれれば、こっちに戦う理由はないさ」
 エドワードに答え――ジュンイチはため息をつき、
「それより、問題なのは今後のことだ。
 お前らの通貨はハッキリ言って役に立たんし、こっちじゃ身元だって定かじゃないんだ」
「そうなんだよなぁ……」
 ジュンイチの言葉にエドワードがつぶやいた、その時――
「………………ん?」
 作業に戻ろうとしたジュンイチの視界に何かが映った。
 先ほどエドワード達が出現した辺りの空間が歪んでいる。あれは――
「エド達の抜けてきたゲートか……?」
 それを見てジュンイチがつぶやくと、
「何!? 帰れるのか!?」
「わぁぁぁぁぁっ! ストップ、ストップ!」
 それを聞きつけて歪みへと走るエドワードを、ジュンイチはあわてて制止した。
「何考えてんだ、このバカ! 弟ほっといて帰るつもりか!
 それに、この空間がまだお前らの世界に通じてる保証はないんだぞ!」
「うっ……」
 ジュンイチの言葉にエドワードがうめき――それでもあきらめられないのか、提案してきた。
「じ、じゃあさ、オレがのぞいて様子見るから。それならいいだろ?」
「んー、まぁ、そのくらいならな」
 その提案を呑んでジュンイチはうなずき、エドワードは恐る恐る歪みをのぞき込み――
 ――グンッ!
「ぅわぁっ!?」
「エド!?」
 突然歪みに巻き込まれ、引っ張られたエドワードをジュンイチはあわてて捕まえるが、歪みの力は予想以上に強く、
『わぁぁぁぁぁっ!?』
 二人は、そのまま歪みの中に飲み込まれていってしまった。


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(初版:2005/04/24)