ジュンイチ 「お、おいおいおい!
 どーなってんだよ! 話続いちまってるじゃねぇか!? 1話限りの1発ネタじゃなかったのかよ!?」
八重 「な、なんだか……作者のモリビトさん、『書きたい』って誘惑に勝てなかったみたいで……」
ジュンイチ 「あのバカわぁぁぁぁぁっ!
 どーすんだよ!? オレ、前回の話の中で、これ以上続かないってのを前提でいろいろ暴言吐いてんだけど!?」
八重 「そ、その辺は、もうあきらめるしかないんじゃ……」
ジュンイチ 「だぁぁぁぁぁっ、もうっ!
 こーなったらモリビトはシメる! 後で楽屋に呼び出して絶対シメる!」
八重 「そ、そんなこんなで、『仮面ライダーディケイドDouble』、またまた始まります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁらぁっ!」
 気合いの入った咆哮と共に、赤い戦士へと姿を変えたノーヴェは勢いよく“未確認生命体”ラ・ドルド・グへと殴りかかった。強烈な一撃で、ゲンヤに迫っていたドルドを殴り飛ばす。
 そして、そのままドルドをゲンヤの元から引き離すと、スバル達と交戦していたもう1体の未確認生命体、メ・ギャリド・ギもまた、ノーヴェへと標的を移し、向かっていく。
「“4号”だ!」
「“4号”が出たぞ!」
 周囲の局員が声を上げ、両者の戦いに巻き込まれないようあわてて距離をとる――そんな中、陸曹の階級章をつけた局員がゲンヤに尋ねた。
「どうするんですか、ナカジマ三佐!?」
「“未確認生命体4号”が人間に味方しているのは明らかだ――実際、ウチの新人どもは共闘の経験もあるしな。
 ここはアイツらに任せて、負傷者の救助を」
「了解!」



   ◇



「このぉっ!」
 ドルドを殴り飛ばし、すぐさま身をひるがえして向かってきたギャリドに蹴りを叩き込む――二方向からの苛烈な攻撃を巧みにさばきつつ、“未確認生命体4号”ことノーヴェはなんとか大技を叩き込もうとそのスキをうかがっていた。
 と――
「あたし達を――」
「無視しないでください!」
 乱入してきたのはスバルとエリオだ、スバルの右拳のリボルバーナックル、エリオの愛槍ストラーダが、ギャリドとドルドを弾き飛ばし、
「ティア!」
「OK!」
 スバルの叫びにティアナが答える――クロスミラージュの引き金が引かれ、放たれた魔力弾が2体の未確認生命体へと降り注ぐ。
 そのスキに体勢を立て直し――ノーヴェはふと、すぐそばの窓から見える廃工場の中の様子に気づいた。
 そこに倒れているのは、周りの局員達と同じ制服を着た女性がひとり――
「こいつら……また女性局員を狙った……?
 けど、どうして……?」
 思わず眉をひそめるノーヴェだったが――今は未確認生命体の撃破が先決だ。すぐに気を取り直し、彼女もまた戦列に戻るべく地を蹴った。

 

 


 

(続いてしまった)仮面ライダーディケイドDouble

第2話
「Rider & Lyrical」

 


 

 

「ここって、本当に異世界なんでしょうか…?」
「うーん、どうなんやろ……」
「少なくとも私達がさっきまでいた場所じゃないわよね?」
 気づけば外の風景がガラリと変わっていた。七瀬家の縁側から両隣の商店を眺めながら、多汰美たたみとにわはそう八重やえに答えた。
「えっと……異世界って、どういうこと?」
「あぁ、実は……」
 そういえば彼女にはジュンイチに関する簡単な説明しかしていない。首をかしげる幸江に真紀子まきしが説明しようと口を開き――ちょうどその時、玄関の戸が開閉する音が聞こえた。
 外の様子を見に行ったジュンイチが帰ってきたのか――そう思い、出迎えようと廊下に出た八重達だったが、入ってきた人物の姿に目を丸くした。
 そこにいたのは管理局の制服に身を包んだ男。帽子のせいで、その顔はよくわからない。
 管理局がいったい何の用なのだろうかと、八重達はしばし考えて――最初に動いたのはにわだった。
「青野! おとなしく逮捕されなさい!」
「なんで私!?」
「きっとこの世界は青野の重量過多が罪なのよ!」
「私の体重は犯罪クラスか!?」

 迷わず言い切るにわに真紀子が言い返すと、
「何アホらしいコント繰り広げてんだよ?
 オレだよ、オレ」
 そんな二人にツッコみつつ、男は――ジュンイチは帽子を脱いで八重達に素顔をさらした。
「ジュンイチさん?
 なんでそんな恰好を?」
「知るか。勝手にこうなっちまったんだよ」
 尋ねる八重にそう答えると、ジュンイチは懐からIDカードを取り出して彼女に見せた。
「時空管理局、首都航空隊所属、一等空士、柾木ジュンイチ……
 これが、この世界でオレに与えられた役割らしい」
「役割……?」
「あぁ」
 首をかしげる多汰美に答え、ジュンイチは肩をすくめてみせる。
「というか、むしろそう思いたい。
 一応、『この世界にもパラレルワールド的なノリでオレがいて、そいつとオレがなり代わった』みたいな仮説も考えたけど……だとしたら、この階級は低すぎないかなー、と」
 言って、ジュンイチはIDカードを改めて見直し、
「だって一等空士だぜ。自衛隊で言えば下から3番目だぜ。
 これが並行世界のオレの実力だとしたら泣けてくるぜ。しっかりしろやこの世界のオレ、ってな感じだよ」
「だったらどのくらいの階級が妥当なのよ?」
「空将」
「思いっきりてっぺんじゃないのよ!」

 聞き返したところに即答され、にわは思わず全力でツッコんで――
「ンなことより」
 そんな彼女を手で制し、ジュンイチは尋ねた。
「お前ら……よくこの格好のオレを見て、管理局員だってわかったよな?
 しかも、管理局が警察みたいな役職だってこともすぐに理解できてた……
 どう見ても元の世界の警察とは似ても似つかない格好だろ」
「そういえば……なんでかな?」
「ひょっとしたら、オレのこの姿と同じように、お前らもこの世界で適応していくための、何らかの修正効果みたいなものを受けてるのかもな」
 首をかしげる真紀子の言葉に、ジュンイチが考え込みながらも自分の仮説を口にして――
〈番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです〉
 元の世界での騒ぎにより、先程まで何も映さなかったテレビの画面が突然回復した。画面に映し出されたキャスターが臨時ニュースを伝えてくる。
〈先程、旧市街西区画の廃棄工場にて、未確認生命体第7号が確認されました。
 ただいま、管理局がこの未確認に対応していますが、そこへ未確認生命体4号も現れ、激しい戦いを繰り広げているということで……〉
「未確認、生命体……?」
「らしいな」
 ニュースの内容に首をかしげる八重に答えると、ジュンイチは手元の新聞を取り上げ、彼女に差し出した。
 その新聞には、1面にデカデカと怪人の写真が掲載されていて――
「……この怪人達が、未確認生命体……?
 『学者はグロンギと呼んでいる』ともあるけど」
「この世界じゃ、未確認生命体、すなわちグロンギが現れて、管理局と戦ってるワケだ。
 で……こっち」
 新聞記事に目を通し、つぶやく真紀子に答えると、ジュンイチはすぐ脇の記事を指さした。
「『なお、現れた未確認生命体第6号は、後を追うように現れた第4号と交戦、倒されており』……」
「どうやら、この世界の仮面ライダーは、グロンギと十把一絡げにされちまってるみたいだな。
 まったく、当人にとっちゃ失礼な話だろうよ」
 答えて肩をすくめるジュンイチだったが、そんな彼に今度は八重が声をかけてきた。
「私達の世界を救うためには、9つの世界を巡らなければならない、ということでしたよね?
 でも、ここで何をすればいいんですか?」
「さぁな。
 何もわからねぇ。ノーヒントもいいところだ。
 けど……」
 答え、ジュンイチは自分のジャケットへと視線を落とし、
「とりあえず、この世界の治安組織の一員に割り当てられてるんだ。
 となれば、グロンギとの対峙も十分にあり得る……
 少なくとも、グロンギと接触することで、何か道が開けるかもしれない」
「そんな単純なことでしょうか……?」
「オレもそう簡単に行くとは思ってないさ。
 けど、他にあてがない以上、今はそういう前提で動くしかねぇよ。
 八重ちゃん達は、辺りを散策でもして、この辺の地理を把握しといてくれよ」
 首をかしげる八重にそう答えると、ジュンイチは外に停めてあった愛車ゲイル――それが自分がディケイドになったのに呼応して変化したマシンディケイダーにまたがると、一路現場へと向かうのだった。



   ◇



 ギャリドの拳をかわし、そのままドルドに殴りかかる――戦いの舞台を廃工場の中に移し、ノーヴェは2体のグロンギを相手に戦い続けていた。
 一見すると2対1。ノーヴェには不利な戦いになるかと思われたが――
「ノー……じゃない、4号!」
 彼女はひとりではない。飛び込んできたスバルが、その勢いのままにギャリドを蹴り飛ばす!
 さらに――
「たぁぁぁぁぁっ!」
 エリオもまた愛槍ストラーダを手に突撃。ドルドをけん制、後退させる。
「4号! 相手に合わせちゃダメ!
 もっと相手をよく見て!」
「わかってる!」
 ティアナやキャロと共に追いついてきたギンガの指示に答えると、ノーヴェは少し間合いを離し、変身時のそれと同様のかまえをとり、
「超変身っ!」
 その叫びと同時、その身体が赤から青へと変化した。
 クウガの形態のひとつ“ドラゴンフォーム”だ。素早く近くにあったパイプ棒を手にして身がまえると、パイプ棒は一瞬で青い棍棒“ドラゴンロッド”へと変わり、ノーヴェはそれを手にギャリドへと襲いかかる――

 

 マシンディケイダーに騎乗したジュンイチが到着したのは、ちょうどノーヴェがドラゴンフォームへと超変身を遂げた時だった。彼の視線の先で、ノーヴェの手にしたパイプ棒がドラゴンロッドへと姿を変える。
「仮面ライダークウガ……
 状況に応じてフォームチェンジ。オレ達ブレイカーの“再構成リメイク”と同じく、周囲の物質を再構築することで武器を構築。ただし素材は作り出す武器と形状が近いことが条件、か……
 なかなか合理的に出来てやがる」
 分析しながらジュンイチがそうつぶやくと、
「おい、そこのお前!」
 突然声がかけられた――振り向くと、ノーヴェやギンガ達を追ってきたゲンヤがこちらに向けて駆けてきていた。
「こんなところで何をしてやがる! 後退命令が聞こえなかったのか!?」
「固いコト言いなさんなって♪
 せっかくいいモノが見られるところに出くわしたんだ。後学のためにも、もーちっと見学させてくれたっていいでしょ?」
「見学、って、お前なぁ……」
 あっさり答えるジュンイチにゲンヤがうめくと、
「このぉっ!」
 ギンガの放った拳がギャリドを直撃。たまらずギャリドがたたらを踏んで後退し、
「4号! 今よ!」
「おぅよ!
 でぇりゃあっ!」
 そこへノーヴェがトドメの一撃――繰り出されたドラゴンロッドがギャリドの胸を痛打し、吹っ飛ばす!
 ゆうに数メートルを吹っ飛ばされ、ギャリドが倒れ込む――見れば、ドラゴンロッドの一撃を受けたところにはクウガの紋章が浮かび上がっている。
 そして、そこからクウガの“力”がギャリドの全身に浸透していき――ギャリドの身体は爆発を起こし、四散した。
「やったぁ!」
 まずは1体――思わずスバルが喜びの声を上げると、突然ドルドが背中の翼を広げて飛び立った。形勢不利と見たのか、天井を突き破り大空へと逃げだしていく。
「ティアさん、あのグロンギ、逃げるつもりです!」
「わかってるわよ!」
 そんなドルドの行動に声を上げるキャロに答えると、ティアナはノーヴェへと向き直り、
「4号!」
 迷わず自らの拳銃型デバイス、クロスミラージュを投げ渡した。それを受け取ると、ノーヴェは再びかまえをとり、
「超変身っ!」
 今度はその身を緑色に染めた――“ペガサスフォーム”へと変身すると、彼女の手の中のクロスミラージュもまた専用銃“ペガサスボウガン”へとその姿を変える。
 そして、ノーヴェはドルドを狙撃すべく、屋上へとひとっ跳び――それを見送ると、ゲンヤはジュンイチへと視線を向け、
「あー、悪いんだけどよ……ここで見たことは、できれば言いふらさないでくれると助かるんだけどな。
 実際は違うっつっても、未確認生命体として世間から見られてる4号に協力してる、っつーのは対外的にもアレなんでな」
「あいにくと、メリットのない情報をわざわざ吹聴して回るほど、こちとらヒマ人じゃなくってね」
 答えるジュンイチの言葉に納得したのか、ゲンヤはノーヴェの後を追うスバル達に続いて駆け出し――
「…………さて、と」
 そんなゲンヤ達に背を向け、ジュンイチはそのまま廃工場の外へと出て、
「いらんとは思うけど……とりあえず、ダメ押しのひとつくらいはしといてやるか」
 つぶやき――懐から苦無クナイを取り出した。

 

「っ、と……!」
 一足飛びに跳躍、廃工場の屋上へ――ペガサスフォームへの超変身を遂げたノーヴェはすぐに飛び去ろうとしているドルドの姿を発見。ペガサスボウガンの銃口を向けた。
 意識を集中し――その瞬間、彼女の視界からドルドの姿以外のすべてが消えた。
 ペガサスフォームへの変身によって極限まで鋭敏に磨き上げられた感覚器官を、ドルドの姿を捉えること、それだけのために総動員したのだ。
 これぞ先ほどジュンイチがつぶやいていたクウガの“特性”――先に変身したドラゴンフォームは腕力を犠牲にして脚力を強化したことで高機動戦に対応し、このペガサスフォームは感覚器官を研ぎ澄ませることで索敵、および狙撃に特化、といった具合に、クウガは様々な能力に特化したフォームを自在に使い分けることで、多彩な状況に対応することが可能なのである。
 そして、ノーヴェは狙いを定め、ペガサスボウガンの引き金を引く――次の瞬間、極限まで圧縮され、さらにクウガの“力”をふんだんに込めた圧縮空気弾がドルドに向けて襲いかかる。
 その狙いは精密で、空気弾は狙いたがわずドルドを直撃。その身体を粉々に爆砕し――
(え――――――?)
 しかし――空気弾が命中するその直前、ノーヴェはその研ぎ澄まされた超感覚で確かにそれを見た。
 真下から飛来した“何か”がドルドを直撃し、ドルドの動きが一瞬だけ鈍ったのを――

 

「………………ま、我ながら上出来かね?」
 肩をすくめてそうつぶやくと、ジュンイチは第二投目のために取り出していた苦無を改めて懐に戻した。
 ノーヴェがペガサスボウガンでドルドを狙撃しようとしている――それは今までの流れを見ていれば子供でも分かることだった。そこで、彼女が狙撃しやすくなるよう、苦無での援護を試みたのだ。
 自分の腕なら上空のドルドにも余裕で届く。苦無程度でドルドが倒せるとも思っていなかったが、トドメはあくまでノーヴェが刺せばいい――そう考えてのことだったが、どうやらうまくいってくれたようだ。
「さて……それじゃ、そろそろ退くとしようかな?
 この世界でのライダーとその敵、支援組織となる管理局……ここまでわかれば十分だ」
 そして、ドルドの撃破し同時に、この場でジュンイチがすべきことがすべて片づいたことを示していた――のん気につぶやくと、ジュンイチは停めておいたマシンディケイダーの元に戻るべくきびすを返すのだった。

 

「…………本職のガンナーの自信をぶち壊してくれる、見事な射撃よね、ホント」
「へへ、そいつぁどーも。
 サンキュ、助かったぜ」
 ノーヴェがドルドを撃墜したのと前後して、ティアナ達が姿を見せた――告げるティアナに応え、変身を解いたノーヴェは変身の解除に伴って元に戻ったクロスミラージュを彼女に返す。
 と――
「片づいたみてぇだな」
 言って、最後に姿を見せたのはゲンヤである。
「へっ、どうだよ、オッサン? 今日の変身」
 自分としてはなかなかの出来だった――自信タップリに尋ねるノーヴェだったが、
「犠牲者が出てんだ――あまり浮かれんな」
 逆にたしなめられてしまった。ノーヴェの額を軽く小突くと、ゲンヤはため息をついて頭をかき、
「けど……まぁ、確かによくやったじゃねぇか。
 お疲れさん、ノーヴェ」
「………………あぁ!」
 その一言は、ノーヴェの元気を取り戻すには十分すぎた。ゲンヤの賛辞に、ノーヴェは一発で笑顔を取り戻した。
「よっしゃ! やる気出てきたぁっ!
 グロンギども、来るなら来やがれ! このあたしがまとめてブッ飛ばしてやるぜ!」
「ち、ちょっと、ノーヴェさん!」
「きゅくくー!」
 すっかりテンションが上がり、いきり立つノーヴェをなだめようと、キャロや彼女の使役する竜、フリードリヒがあわてて声を上げ――
「ノーヴェ……」
 そんな彼女を抑えたのはゲンヤだった。彼女の肩を押さえて落ち着かせ、告げる。
「お前は少し休んでろ。
 お前の変身には、まだわからないことが多いんだからな」
「あ、あぁ……」
 せっかくやる気になったのに――上がったテンションに水を差され、口をとがらせるノーヴェだったが、ゲンヤが自分の体を気遣って言っていることがわからないほど子供でもない。結局、彼女はゲンヤの言葉に素直にうなずき、その場はそれで収まったのだった。



   ◇



「また被害者は女性局員だった。
 犠牲者は3人目……職務中の女性局員ばかりが襲われてる」
 首都クラナガンから離れた、ミッドチルダ東部――管理局地上部隊、東部方面隊司令部に設置された“未確認生命体対策本部”の会議室で、ゲンヤは集まったメンバーにそう告げた。
「つまり……敵は今回、女性局員を殺人のターゲットにしている、と?」
「あぁ」
 聞き返すのはこの対策本部の本部長、八神はやて――彼女の問いに、ゲンヤはハッキリとうなずいてみせる。
 だが、全員がそんなゲンヤの意見に肯定的なワケではなかった。
「しかし、ナカジマ三佐。
 我々管理局は対グロンギのために動いている――被害者が局員というのは、むしろ当然ではないですか?」
「今回の件については、まだ3例目……共通項を断定するには早計すぎませんか?
 もちろん、これ以上事例が増えないのが一番ではありますけど……」
 そう告げるのは、はやての直属の部下であるシグナムとシャマルで――
「でも……未確認生命体――グロンギは今まで、一定の手順に従って殺人を行っていて、被害者にも共通点があった……」
「私達の“グロンギ・ゲーム殺人説”に沿って考えるなら……あり得ない話じゃないと思うよ」
 対して肯定的な意見を挙げるのはフェイト・T・ハラオウンと高町なのはだ。
「ふーん……どっちにしても、情報が少なすぎるんが問題やなぁ……」
「それに、現実的な対処方法も問題だと思います」
 ため息をつくはやてに対し、ギンガもまた手を挙げて自らの意見を述べる。
「もし本当に女性局員が狙われているんだとしたら、敵の出現が予想される範囲があまりにも広すぎます」
「このミッドチルダの部隊だけでも、女性局員、多いもんねぇ……」
 ギンガのとなりでつぶやくスバルにうなずき、ティアナも口を開く。
「それに、もしそうだとしたら対策本部ウチだって危ないと思います。
 元“機動六課”と108部隊の混成で成り立ってるウチは、よその部隊よりも女性局員の比率が大きいです。もし、連中が本当に殺人をゲームとしていて、しかも女性局員を今回のターゲットにしているんだとしたら……」
「スコアを一気に稼ごうと、ここを狙ってくる可能性は十分にある、だね……」
 ティアナの言葉になのはがつぶやいた、その時――
「お茶が入りましたよー♪」
 気楽な――だが聞き覚えのない声が会議室に響いた。何事かとなのは達は声のした方へと振り向いて――
「――――てめぇは!?」
 そこにいた、トレイにコーヒーの注がれたコップを人数分乗せたジュンイチの姿に、ゲンヤは思わず声を上げた。
「お前、どうしてここに!?」
「どうして、って……根をつめて会議をしてるみんなに、差し入れ持ってきてやったに決まってるじゃん♪
 っつーワケで、はい、ゲンヤさんの分」
「お、おぉ……」
 詰め寄って尋ねるも、あっさり返された上にコップを差し出された――毒気を抜かれてしまったゲンヤは戸惑いまじりにコップを受け取り、試しに一口コーヒーを飲んでみて――
「…………旨いな」
「とーぜん♪
 オレだってシロートじゃありませんから♪」
 ゲンヤに答えると、ジュンイチはふと会議室正面のホワイトボード――そこに記されていた今回の犠牲者達の情報に視線を向けた。
 そこに記されていた内容からいくつかの情報を拾い上げ、つぶやく。
「いくつかの共通点を保ったまま、殺しを続けていく……まるでゲームだな」
「ち、ちょっと待って!」
 告げるジュンイチに対し、フェイトはあわてて待ったをかけた。
「ここは対策室の会議ですよ!
 キミ、所属は!?」
 つぶやくジュンイチの言葉は自分達の“グロンギ・ゲーム殺人説”を肯定するものだったが、彼が局員と言っても部外者であることは事実――立ち上がり、けじめとしてジュンイチを問い詰めるフェイトだったが、
「フェイトちゃん、待って!」
 そんなフェイトを止めたのはなのはだった。ジュンイチに向き直り、尋ねる。
「今、キミ……『いくつかの』って言ったよね?
 私達がこの事件で気づいてる“共通項”は、被害者が女性局員だってことだけ……他にも何かあるっていうの?」
「え………………?」
 だが――そんな彼女の問いに、今度はジュンイチが目を丸くする番だった。
「何ナニ? みんな、ひょっとして気づいてないの? 気づいてるのオレだけ?
 この殺された子達、みんな――」
〈緊急通報!〉
 しかし、答えかけたジュンイチの言葉を突然の放送がさえぎった。
〈先ほどとは別種の未確認生命体が、警邏中のパトロール隊員と接触した模様。
 繰り返す――〉
「みんな! この話はまた後で!
 今はグロンギをなんとかするよ!」
『了解!』
 告げるはやてに一同がうなずき、会議室を飛び出していく――ジュンイチに対し懐疑的な視線を向けていたゲンヤやフェイトも、若干のためらいを残しながらも会議室を出て行った。
「…………さて、と」
 それをただひとり見送り――ジュンイチは改めてホワイトボードへと向き直った。
 しばし、そこに書かれた内容に目を通し――
「………………よし」
 一度だけうなずくとホワイトボードマーカーを手に取り、キュポンッ、と音を立ててキャップを外した。



   ◇



 だが――結果としてなのは達の動きは間に合わなかった。
 通報を受け、なのは達が会議室を飛び出してからすでに30分――襲ってくるグロンギから懸命に逃げ回っていたパトロール隊員だったが、ここまできてついにその毒牙の犠牲となってしまっていた。
 パトロール隊員は2名の女性局員。そのうちのひとりの息の根を止めたことを確認すると、新たなグロンギ、ゴ・バベル・ダはすぐにその場を離れた。逃げるように行く手のトンネルの奥にその身を隠そうと駆けていく。
 が――
「よっ♪」
 そこには先客がいた――会議室での“用事”を済ませ、且つなのは達に先んじてこの場に駆けつけたジュンイチである。
 しかも、すでにディケイドへの変身も終えている――突然の介入者の出現に、バベルは露骨に警戒を強める。
『……クウガバ?』
「クウガ? 違うな。
 オレは単なる……通りすがりの仮面ライダー様だよ」
 うめくバベルに答え、ジュンイチはまたがっていたディケイダーから降り――ディケイダーを路肩に停めた。律儀に盗難防止のチェーンまでかけると、ようやくバベルへと向き直った。自分に動じることもなく“日常”のままに動いた、こちらの一連の行動に困惑しているバベルと改めて正対する。
『リントギ、ガサバダゲンギブギダボバ!』
「グギグギうるせぇな。ちょっと話を聞きたいだけだ」
 そうバベルに答えると、ジュンイチは静かにかまえをとり――
「あぁ、ひとつ言っとくよ」
 その姿勢のまま、バベルに告げた。
「別に、答えなくていいよ――」

 

「てめぇの脳に、直接“聞く”から」



   ◇



「4人目の、犠牲者……!」
 結局、自分達は間に合わなかった――相棒の亡骸を前に泣き崩れる、難を逃れた女性局員を前に、ゲンヤは思わず歯噛みした。
 その場に駆けつけたのは彼とスバル達、そして連絡を受けたノーヴェ――なのは以下他の面々は、グロンギ、すなわちバベルを探すために手分けして散ったのが災いし、この場には姿を見せていない。
「9号は!?」
 しかし、今は悲しんでいる時ではない。彼女達を襲ったグロンギをなんとかしなければ――尋ねるギンガに女性局員が答えようとした、その時――
『グアァァァァァッ!』
 突然、悲鳴と共にその“9号”――バベルがトンネルの中から吹っ飛ばされてきた。突然のことにゲンヤ達が思わず身がまえる中、ジュンイチの変身したディケイドがトンネルの中からゆっくりとその姿を現した。
「な、何だよ? アイツ……!」
「未確認……10号……!?」
 初めて見るディケイドの姿に警戒を強め、ノーヴェとティアナがうめく中、ジュンイチは反撃とばかりに殴りかかるバベルへとカウンターの拳を叩き込む。
 そのまま、ジュンイチはバベルへと追撃の拳を放――
「――――――っ!?」
 ――とうとしたその瞬間、気づいて右へ跳躍。真上から飛び降りてきた新たなグロンギの攻撃をかわして距離を取る。
 思いきりジュンイチを踏みつけようと飛び降りてきて、彼の代わりにアスファルトを粉々に砕いた新たなグロンギは――
「…………サイ、か……
 ズ種最強、ズ・ザイン・ダか」
 荒々しく肩を上下させている新たなグロンギを前に、ジュンイチは落ち着いた様子でそうつぶやき、
「なかなかの威力だけど……奇襲が甘い。
 前回2体も出てきてたんだぜ――今回は1体だけ、とか安易に考えたりするかよ。当然複数いる可能性だって考えるっつーの」
((ゴメンナサイ。思いっきり1体だけと思ってました!))
 ザインに対するジュンイチの指摘は、当人よりもむしろ背後のゲンヤ達に突き刺さった――思わず心の中で頭を下げるゲンヤ達に気づかず、ジュンイチは苦笑まじりに肩をすくめ、
「まぁ、いいさ。
 どうせ知りたいことは全部知った――とりあえず、お前達にはとっとと退場してもらうだけだ。
 と、ゆーワケでザインくん。せっかく出てきたところを悪いけど、かかってきてもいいコトないよ。首1本折られるだけ――」
『ガァァァァァッ!』
 あっさりと告げるジュンイチの言葉が終わるのを待たず、ザインは一気に彼へと殴りかかり――
「言ったでしょ? 『かかってきてもいいコトない』って」
 しかし、ジュンイチはあっさりとさばく――ザインの拳を受け流すとその手を取り、肩の関節を極めてそのまま大地に抑え込む。
 さらに、続く動きでザインの背中越しに肩ではなく首を極める形の関節技に移行――と、そこで動きを止めた。振り向き、スバル達に告げる。
「あー、そこのお嬢さん方。
 目と耳ふさげ」
『え………………?』
「でないと……夢に見るぞ」
 続く言葉に、スバル達は先ほどの彼の言葉を思い出した。

『かかってきてもいいコトないよ――“首1本折られるだけ”』

 そこから次の展開を予想すると、スバル達はすぐに彼の言葉に従った。彼女達が目を閉じ、両耳をふさいだのを確認すると、ジュンイチはザインの首を極めている腕に力を込め――

 

 へし折った。

 

 てこの原理により、腕力以上の力を加えられた頸椎はあっけなく限界を超えた――確かに慣れてない人間が聞いたら確実にトラウマになったであろう鈍い音と共に、ザインは一瞬ビクリと身体をけいれんさせた後、脱力、沈黙した。
「せっかく出てきたのに、見せ場なくてゴメンねー。
 恨んでくれてかまわないけど、化けて出るのだけは勘弁な。いやマヂで」
 もう何も聞こえていないであろうザインにそう告げると、ジュンイチは改めてこちらに対して警戒を強めているバベルへと向き直った。
「仲間がサブミッション食らって、首へし折られても知らんぷり、か……
 うかつに突っ込んでカウンターもらうのもバカらしいし、正しい判断ではあるけど……簡単にあきらめたのはちと許せんか」
 そう告げると、ジュンイチは腰のディケイドライバーを展開した。次いでライドブッカーから1枚のカードを取り出すと迷わずそれをディケイドライバーにセットし、

《FINAL-ATACK-RIDE!
 “DE《“DE《“DE《“DECADE”!》

「っつーワケで……オシオキタイム、いってみようか!」
 告げるディケイドライバーとジュンイチの言葉と同時――ジュンイチの目の前に今しがたセットしたカードを模したエネルギー盤が形成された。
 数は10枚。まるでドミノのように自分とバベルの間に整列し――ジュンイチがジャンプするのに伴い上昇、あくまでバベルとジュンイチの間に整列するように配置される。
 そして、ジュンイチが目の前のカードに飛び込み――カードがジュンイチを導いた。次のカードへ、次のカードへとジュンイチの身体を加速させながら運んでいく。
 当然、その先にはバベルの姿があり――
「くらいさらせ――!
 ディメンション、キック!」
 加速させられたジュンイチが、渾身の飛び蹴りを叩き込んだ。蹴りの勢いで大地に叩きつけられ、それでも勢いが収まらず、大きくバウンドしたバベルの身体はジュンイチの数メートル前方へと落下し――爆発を起こし、四散した。
「……Finish Completed.
 コンガリ焼かれて反省してな」
 吐き捨てるようにバベルの亡骸に言い放つと、ジュンイチはディケイドへの変身を解かないまま、停めておいたディケイダーへと向かった。盗難防止チェーンを外し、その背にまたがると、
「待ちやがれ!」
 そんなジュンイチの背に向け、ノーヴェが声をかけた。
「お前、なんで同じ未確認を倒しやがった!?
 仲間割れか!?」
「ちょっ、誰が未確認だ!?
 オレをグロンギと一緒にすんじゃねぇよ!」
 さすがにこれは聞き捨てならなかったか、ジュンイチは思わず振り向いて言い返す。
「いいか、ひとつだけ言っておく。
 さっきオレがズ・ザイン・ダを爆砕せずに倒した、その意味――よく考えてみるんだな」
 未確認呼ばわりされたことは納得がいかないが、この場でやるべきことは片づいた――ノーヴェやその背後のゲンヤ達に告げると、ジュンイチはそのままディケイダーを発進させ、その場を後にするのだった。



   ◇



「ジュンイチさん、遅いですね……」
「まったく、どこで油売ってるんやろな……」
 すっかり日も落ち、晩御飯の支度の進む七瀬家――今日の夕飯は母、幸江に任せ、ジュンイチの帰りを待つ八重に、多汰美はため息まじりに同意した。
「まさかとは思うけど、自分の使命、忘れちゃってるんじゃないでしょうね?」
「いくらなんでも、それはないやろ」
 つぶやくにわの言葉に真紀子が相槌を打つ――が、そこからの反論が返ってこなかった。不思議に思って振り向くと、にわは深刻そうな顔でうつむいている。
「……どないしたん?」
「…………アンタ達、忘れてない?」
 不思議に思い、尋ねる真紀子だが、そんな彼女に非難がましげな視線を向けてにわはそう返してきた。
「私達……“家族を元の世界に残してきてる”のよ」
「………………っ」
 それは、この世界に来てからずっと忘れていた――否、あえて忘れようと努めていたこと。にわの言葉に、真紀子は思わず言葉に詰まり――と、その時、突然玄関の方で扉が開く音がした。
「ジュンイチさん!?」
 彼が帰ってきたのかと、あわてて出迎えに出る八重だったが、そこにいたのは――
「…………あれ?
 ここ、喫茶店だったよね……?」
「どこがよ。
 まるっきり一軒家じゃない」
 不思議そうにつぶやくスバルと、彼女にツッコむティアナ――見れば、彼女達フォワードチームの面々やゲンヤ、そしてノーヴェが勢ぞろいしている。
「そ、そうですか……
 おジャマしました……」
 ともあれ、突然ぶしつけな来訪をしてしまったスバルは恥ずかしそうにきびすを返し――
「…………あ、あの!」
 そんな彼女に対し、八重はあわてて声をかけていた。

 

「どういうつもりよ?
 いきなり家に上げちゃって……」
「うーん……管理局の人みたいだったから……」
 結局、八重は「間違いとはいえ、何かの縁ですから」とゲンヤ達を居間に通していた――尋ねるにわに、八重は少し考えながらそう答えた。
「ほら、ジュンイチさん、管理局員としてグロンギと接触しに行ったじゃないですか。
 だから、ひょっとしたらジュンイチさんのことを知ってるかも……」
 つぶやき、八重が視線を向ける先では、ゲンヤ達が夕方の戦闘で姿を見せた新たな戦士――ディケイド、すなわちジュンイチのことを話していた。
「あの人は……一体何だったんでしょうか?」
「未確認10号、だろ?
 次は倒してやる」
 慣れない和室に居心地の悪さを感じながら、つぶやくエリオに答えてバシッ!と拳を打ち合わせるノーヴェだったが、
「そうでしょうか……?」
 不意に疑問の声をもらしたのはキャロだった。
「あの人は……グロンギよりも、ノーヴェさんの変身した、クウガに近いように感じました」
「召喚師としての……竜の巫女としてのカン、か?」
 聞き返すゲンヤに、キャロは無言でうなずいてみせる。
 それを受け、ゲンヤはしばし考え、
「もし……ヤツもまた、グロンギと戦う者なら、話を聞いてみる必要があるかもな」
「なんでさ!?」
 しかし、そのゲンヤの言葉はノーヴェにとってとうてい許容できるものではなかった。座卓を叩き、ノーヴェは声を荒らげた。
「まさか、あたしの代わりに戦わせようってのか!?」
「そういうワケじゃない。
 お前に協力してくれるかも……って、そう思っただけだ。だからそういきり立つな」
「そ、そっか……ゴメン……」
 答えるゲンヤの言葉に、カン違いに気づいたノーヴェは素直に頭を下げて――
「ふーん……
 短絡的な思考がちと引っかかるが、カン違いを素直に謝るくらいの礼は心得てるか。
 悪い子じゃ、ないみたいだな」
「そうだよー。
 なんたって、あたし達の新しい家族、なんだから♪」
 茶をすすりながらつぶやくジュンイチに、スバルは笑顔でそう答える。
「けどさ……対策室に、コイツいなかったよな?
 戦力なんだろ? 素直に加えてやりゃいいものを」
「それには、いろいろとあって……」
「はい……」
 首をかしげるジュンイチに、エリオとキャロはどこか言いにくそうに言葉をにごし――そこで全員の動きが止まった。
 ゆっくりと、様子をうかがっていた八重達も含めた全員の視線が“そちら”に集まり――
「………………? 何?
 気にせず話の続きをどうぞどうぞ」
「って、そういうワケにはいかないでしょーが!」
 平然と首をかしげつつ、話の先を促すジュンイチに、ティアナはすかさずツッコミを入れる。
「い、いつの間にあたし達の間に紛れ込んでたのよ……」
「ちっとも気づかなかったわ……」
「『紛れ込んでた』って失礼な」
 うめくティアナとギンガに答え、ジュンイチは軽く肩をすくめ、
「オレは普通に帰ってきて、普通にお前らに気づいて、普通に輪の中に入っただけだってのに――普通に気配を完全隠蔽して」
「最後ひとつ余計ーっ!」

 ジュンイチの言葉にツッコみ――ティアナは彼の顔に見覚えがあることに気づいた。
「……って、アンタ、夕方の捜査会議に口出ししてた……」
「はぁい♪
 通りすがりの一等空士、柾木ジュンイチ♪ 以後よろしゅー♪」
 あっさりとジュンイチがティアナに答え――周りの動揺などどこ吹く風といった様子の彼の態度に、ゲンヤ達は思わず顔を見合わせるが――
「夕方の乱入については大目に見てくんないかなー?
 オッサン達が、あの4号とかいう“バケモノ”に協力してるみたいだから、何か力になれればなー? と思っただけだから」
『――――――っ!?』
 続けてあっさりと言い放ったジュンイチの言葉に、ゲンヤ達の背筋が凍りついた。
 よりにもよってその“4号”の前で“バケモノ”呼ばわりなど――あわてて口を開くゲンヤだったが、
「おい! 今何て言った!?」
 すでに遅かった――ジュンイチの胸倉をつかみ、ノーヴェが彼に詰め寄る。
「もう一回言ってみろ!
 誰が何だって!?」
「ま、待て、ノーヴェ!」
 声を上げるノーヴェだが、そんな彼女をゲンヤが制止した。
「そーいや、お前さん、夕方にも何か気づいたようなことを言ってたな。
 話を聞かせてもらえるか?」
「ちょっ、おっさ――」
 一刻も早く話題を変えようと、ジュンイチに向けて意見を求めるゲンヤの言葉に思わず反論の声を上げかかるが――チラリとこちらを向いたゲンヤの視線に、ノーヴェは動きを止めざるを得なかった。
 黙ってろ――ゲンヤの視線がそう告げているような気がして――
「………………っ!」
 なんとなくその場に居づらくて、ノーヴェはドスドスと足音を立てて居間から――七瀬家から出て行ってしまった。
「………………なるほど。
 あのキレっぷり、アイツが4号ってワケか」
「……ったく、カマかけやがったのか、お前さん……」
 そんなノーヴェの態度は、ジュンイチに確信を抱かせるには十分だった。つぶやく彼の言葉にため息をつき、ゲンヤは改めて彼に尋ねた。
「で? お前さんの気づいたことってのは?」

 

「…………くそっ」
 何だかおもしろくない――苛立ちと共に、ノーヴェは自分のバイク、トライチェイサーのエンジンをかけようと奮闘していた。何度もキックスターターを踏み込んでいると、
「……ご機嫌ナナメね」
「………………何だよ?」
 声をかけてきたのはにわだった――振り向き、ノーヴェは鋭い視線を彼女に向けた。
「何か用かよ?」
「……今、ジュンイチが言ってた。
 アンタ……4号なの?」
「………………そうだよ」
 あっさりとノーヴェは認めた。
「で? それがどうしたんだよ?」
「戻らなくていいの?
 それか、せめて『帰る』って声をかけるとか」
 聞き返すノーヴェに、にわは七瀬家へと視線を向ける。
「あのゲンヤって人……本気でアンタを心配してるわよ」
「……なんで、会ったばっかのお前がそんなことわかるんだよ?」
 そんなの、単なる定型句じゃないのか――そんな思いと共に返すノーヴェだったが、
「………………私も、心配してる人がいるから……」
「………………」
 答えたにわのその言葉に、ノーヴェは思わず動きを止めた。
「私達……今、ちょっと家族と離れてて……
 その家族が、大変なことになってて……心配なの。
 だから……なんとなくわかるの。
 あのゲンヤさんが、アンタに向けてる心配も……」
「………………そうかよ」
 その一言だけしか、ノーヴェは返すことができなかった。



   ◇



「殺された子達、おかしな共通点があるなー、って思ってさ」
「共通点……?」
 舞台を捜査本部に移し、ゲンヤ達ははやて達も交えてジュンイチの考えを聞くことにした――告げるジュンイチに、はやてはじれったさを感じながらそう聞き返し、
「誕生日だよ」
 そんなはやての苛立ちもなんのその。ジュンイチはあっさりとそう答えた。ホワイトボードに書き込まれた被害者の情報――その右端に留められた被害者の写真のさらにとなりに、マーカーで新たに自分の気づいた情報を、上から順に書き足していく。
「この子が13日生まれ。
 次の子が27日。次が5日……そして夕方殺された子が、26日」
「それが……どうかしたの?」
「あってほしいワケじゃないけど……次があるとすれば、その子の誕生日はたぶん、この日付のどれか」
 聞き返すなのはに答えて、ジュンイチは今まで書きこんだ4つの日付の下にさらに書き込んだ。
 日付は三つ、4、14、24だ。赤色のマーカーに持ち替えると上の数字と4、5つの数字の1の位だけ――すなわち3、7、5、6、4だけを円で囲んでみせる。
「ここまで書けば、オレの言いたいことがわかるだろう?
 単なる語呂合わせだぜ、コレ」
「語呂合わせ、だと……?」
 ジュンイチの言葉に、シグナムが眉をひそめて考え込み――
37564……」
 つぶやいたのはフェイトだった。
「つまり……次は誕生日の1の位が“4”の子が狙われるってこと?」
「よっしゃ、そうとわかれば話は早い!
 誕生日が4日、14日、24日で終わる子をチェックして、重点的にガードや!」
 そのジュンイチの仮説になのはとはやてがうなずき、あわてて会議室を飛び出していく――それを見送り、ジュンイチは満足げにうなずいて――

 

 だが――

 

 

 明けて翌日、事態はまったく別方向に向けて動くことになる。



   ◇



 日の出からまだそれほど時間は経っていない――そんな早朝から、すでにジュンイチの姿は七瀬家にはなかった。
 今彼がいるのは、街を離れた山中の川辺。そこには彼がいるのみで、周囲に人の気配はない――
「…………来たか」
 ――はずだった。ジュンイチが気づき、振り向いた先で、ゲンヤ達が河原に降りてくるのが見える。
 ゲンヤ達の後にはノーヴェの姿もある――“役者”がそろったと判断し、ジュンイチはゲンヤに声をかける。
「あの部隊長さん達と違って、やっぱ疑ってやがったか。
 オレを見つけるのがかなり早い――夜のうちからオレのことを探してたんだろ?」
「気づいたのはオレじゃねぇ――娘の方さ」
 声をかけるジュンイチにゲンヤが答えると、ギンガが一歩前に出てジュンイチに告げる。
「……あなたが自分の仮説を説明した時……被害者の局員の情報の並びが、本来の殺害された順番じゃなかった。
 自分の説に都合のいいように、並び変えてたわね?
 たぶん、夕方のグロンギ出現の報せで私達が出動した後に……」
「さすがはギンガ・ナカジマ陸曹。よく見てらっしゃる♪」
 ギンガの言葉にジュンイチがうなずき――
「それだけじゃない」
「――――――っ!?」
 初めて聞く声がジュンイチに告げる――同時に生まれた殺気に対し後退するジュンイチを狙い、何本ものスローイングナイフが投げつけられる。
 それを懐から取り出した苦無で弾くジュンイチの前に、襲撃者は静かに降り立った。
 背丈はだいたいエリオ達と同程度か――しかし、銀髪をなびかせ、片目を眼帯で覆ったその少女の放つ貫禄が、彼女が只者ではないとジュンイチに知らしめていた。
「……てめぇは?」
「私はチンク。
 故あって、ナカジマ家に世話になっていてな――今は、彼らの私的な密偵をしている」
 尋ねるジュンイチに答え、チンクと名乗ったその少女は新たにナイフを取り出し、
「貴様のことは調べさせてもらった。
 柾木ジュンイチ――そんな名前の局員は、管理局の名簿には存在しなかった。
 何者だ、貴様?」
「あらら、なかったの? オレの名前」
 告げるチンクだったが、当のジュンイチは気にする風でもなく軽く首をかしげるのみだ。
「局員じゃ、ない……?
 身分を隠して、もぐり込んでたっていうの……!?」
「じゃあ、“ミナゴロシ”の暗号は……」
「もちろん、ウ・ソ♪」
 チンクの言葉に警戒を強めるティアナやスバルだが、やはりジュンイチは動じることはない。それどころか笑顔で二人にそう答える。
「どういうことですか!?」
「どうして、ウソの暗号なんか!?」
「ンなの、余計な犠牲を出さないようにするために決まってるだろう?」
 尋ねるエリオやキャロに答えると、ジュンイチは右手の人さし指をピッ、と立て、
「あぁ言っておけば、対象の女性局員の警護に人数を割かざるを得なくなる――必然的に一般の局員の動きは鈍り、敵が動いても即応はできなくなる。
 どーせヒラ局員の手に負える相手じゃねぇんだ。出てきて犠牲者リストに自分から名前を書き連ねるようなマネはしないでもらうに限るからな。
 そして――」

 

「同時に、ウソに気づいたアンタ達が独自にオレを追ってここに来るよう、仕向けることもできる」

 

「どういうことだ?」
「ここでケリをつけるためさ」
 ゲンヤに答えて、ジュンイチは視線を動かし――その視線をゲンヤが追うと、彼は自分達が今いる山岳地帯、その中でも最も高い山の頂上を見つめていた。
「今までの4つの殺人――その現場は、どれもあの山頂から等距離にあった。グロンギから隊員が逃げ回ってた4例目でも、ね。
 それが、オレが気づいて、アンタらが見落としていた共通点――つまり、次の殺人も、あの山頂から等距離の場所で行われることになる。
 そして――ここもその条件を満たしてる。次にヤツらが現れるとしたら、ここだ」
「どういうことだよ?
 あの山がどうしたってんだ?」
「あの山にはグロンギの遺跡があるんだ」
 尋ねるノーヴェに、ジュンイチはあっさりと答えた。
「そこに眠る“究極の闇”とやらを復活させるのが、連中の目的だったらしい」
「なんで、そんなことを知ってる?」
「聞いたのさ」
 聞き返すゲンヤに答え、ジュンイチは笑みを浮かべて付け加える。
「そう――“昨日のグロンギ9号から”な」
「聞いた……?
 でも、9号は10号に……」
 ジュンイチの言葉につぶやき――エリオは気づいた。ジュンイチを指さし、声を上げる。
「じ、じゃあ……あなたがあの時の、10号!?」
「そゆコト♪
 でも、その『10号』って呼び方、なんとかならない?
 そこの、4号やってるお嬢さんと違って、オレはグロンギと十把一絡げにされたくねぇんだけど」
 ノーヴェを指しつつエリオに答え、気を取り直したジュンイチが説明を続ける。
「あの山から等距離の5ヶ所で、戦う人間リントの女性……つまり女性局員を殺していくのがルールだったんだと。
 とりあえず、ヤツの記憶を直接読み取って得た情報だから、信用していいと思うぜ」
「なるほどな……
 それがわかってたから、お前さんはウソの推理で女性局員が狙われてるっつーオレ達の仮説に説得力を与え、警護を強化させて前線に出ないように仕向けた……」
 納得したゲンヤがつぶやいた、その時――
「ち、ちょっと待ってください!」
 あわてて声を上げたのはキャロだった。
「あの山から等距離の地点で、女性局員を殺していくのがルールなんですよね?
 じゃあ……」

 

「あの山から等距離のここにいる、女性局員のわたし達は?」

 

『………………あ』
 その言葉に、遅れて気づいたゲンヤ達が思わず声を上げ、
「だから言ったでしょ?
 『次にヤツらが現れるとしたら、ここだ』って」
 対し、ジュンイチは落ち着いたものだ。あっさりと告げると、背後の茂みに向けて声をかける。
セレボギレ、ビレスンザソフそこにいるんだろ、早く出てこいよ!」
 そのジュンイチの言葉が届いたか、新たな2体のグロンギ――ゴ・ベミウ・ギ、メ・ビラン・ギが茂みの中から姿を現した。



   ◇



 その頃、八重達は自分達が寝ている間に姿を消したジュンイチを探し、自宅の周囲を探し回っていた。
 そんな中――
「あれって……!」
 最初に気づいたのは八重だった――彼女の視線の先では、今まさにジュンイチ達のいる山の上に、自分達の世界で見た“黒いオーロラ”が出現していた。
「まさか……この世界にも!?」
 この世界でも自分達の世界で起きたようなことが起きるのか――妙な胸騒ぎを覚え、八重は自宅から自転車を引っ張り出し、急ぎ山の方へと走り出すのだった。



   ◇



ゲゲルゾ、ダジレスゾゲゲルを始めるぞ
オンダダバグゴンバン、リント、ザボソジゲゴバシダそのリントの女を殺せば終わりだ!」
 口々に言いながらこちらに向けて飛び降りてくるベミウとビランだが、ジュンイチは動じることもなく2体のグロンギを見返した。
ボンバギロ、ビダビガバシパ今回も二人か……」
「貴様、グロンギの言葉がわかるのか……!?
 言語学者が解析しようとしても出来なかったのに……」
「所詮は言語。音の並びの規則性を見切ればどうってことぁねぇ」
 あっさりとグロンギの言葉を使いこなすジュンイチの姿に、チンクが思わずうめく――彼女に答えると、ジュンイチはギンガ達へと視線を移し、告げる。
「それよりも、油断するなよ。
 ここで5人目を殺せば、“究極の闇”が復活する――だとさ。
 ターゲットが女性局員だっつーことを忘れるな」
 そう告げるジュンイチの言葉に、ギンガ達の表情に緊張が走り――
「おい、待て」
 すぐ傍らのチンクがジュンイチに告げた。
「貴様、なぜ今のセリフで私から視線を外した?
 今の理屈だと私にも向けられるセリフだと思うのだが」
「ただの偶然だ」
「そう思うならなぜ今現在も視線を合わせん!?」
 あっさり答えるジュンイチだが、チンクも食い下がってくる。
「だってさぁ……
 女“性”がターゲットだろう? 女“の子”なお前とキャロちゃんはどー考えたって対象外――」

 間。

「この私を子供扱いとは、いい度胸をしているな」
「失礼ですね。
 私だって子供じゃありません!」
「子供じゃないヤツはこーゆー反応せんわい」
 自分達を子供扱いしたジュンイチに、スローイングナイフと使役竜フリードの火球が雨アラレ――告げるチンクとキャロに、そのすべてをなんとかかわしきったジュンイチがうめくようにそう答える。
 だが、そんなバカをやっている間にも、2体のグロンギは彼らに向けて歩を進めてきており――
「ちょうどいいな!
 あたしらが狙いだっていうなら、ここで返り討ちにしてやる!」
「そうだよ!」
「これ以上、誰も殺させません!」
 それを黙って見過ごす彼女達ではない。ノーヴェの言葉にスバルやエリオがうなずき、一同がかまえ――
「あー、ちょい待ち」
 それを引きとめたのは、チンクとキャロの抗議をやり過ごしてきたジュンイチだった。スバル達が怪訝そうな顔をする中、苦無を逆手に握り、振り上げて――
「えいっ♪」
 無造作に――本当に平然と、自らの左手を刺し貫いた。
「ちょ……っ!?
 何してんのよ!?」
 突然のジュンイチの自傷にあわてるティアナだったが、ジュンイチはアゴをしゃくるようにグロンギ達を指し――
リント、ジグバザゼダリントの血が流れた!?」
“ゲギバス・ゲゲル”“聖なるゲゲル”パギママギギダは失敗だ!」
「え…………?
 動揺、してる……?」
 ビランもベミウも明らかにうろたえている――エリオが思わず声を上げると、
「思った通りだな」
 対し、ジュンイチは余裕の笑みと共にそう告げた。
「ヤツらの手口には、被害者が“戦うリントの女性”ってこと、“現場がグロンギの遺跡から等距離”ってこと以外に、もうひとつ共通点があった。
 “流血沙汰が1件もない”ってこと――現場検証の資料も見たけど、今回の事件。どの現場にも血痕はひとつもなかった。
 犠牲になった女性局員はもちろん、駆けつけた局員も、グロンギ達自身も、少なくとも殺害現場周辺では一切血を流していない。グロンギのヤツら、局員の迎撃も殺害現場からある程度離れたところまで移動してから行ってる。
 だから思ったんだ。今回のヤツらの手口――そのルールの中に、“血を流してはならない”ってのがあるんじゃないか、って……な。
 どうやら、当たりだったらしいな」
 言って、ジュンイチは左手を軽く振って血を払う――すでに傷がふさがっているのに気づき、ギンガが眉をひそめるが、かまわずジュンイチはグロンギ達へと踏み出し、
「“聖なるゲゲル”……自分、獲物、介入者を問わず、指定されたポイントでは一滴の血も流さずに標的を殺さなくてはならない――それが最大のルール。
 だが失敗だ。何しろ、血が流れちまったんだからな!」
 ジュンイチのその言葉に、図星を突かれたビランとベミウは思わず後ずさりする。
「結局、何がしたかったんですか? あなたは……」
「これ以上の犠牲を出すことなく、ゲゲルを終わらせてやったのさ」
 尋ねるエリオに、ジュンイチはあっさりとそう答えるとディケイドライバーとライドブッカーを腰に装着し、
「あとは――こいらを倒せば終わりだ!」
 ディケイドへの変身をつかさどるカードを取り出し、眼前にかまえて叫ぶ。

 

「変身!」

 

《KAMEN-RIDE!
 “DECADE”!》

 カードをディケイドライバーへとセット、読み込ませ――次の瞬間、周囲に現れたライダーの虚像がジュンイチに重なっていき、その姿をディケイドへと変身させる。
「いくぜ!」
 そして、ジュンイチは逃走するグロンギ達に向けて跳躍する――それを見送り、ノーヴェは静かにつぶやく。
「ディケイド、だって……!?」
「確かに……ヤツのベルトはそう発声したな」
 つぶやくノーヴェに並び立ち、チンクもまた同意する――うなずき、ノーヴェは走り去るジュンイチの、ディケイドの背中をにらみつけた。
「そうか……ヤツが、ディケイド……!」

 

『ガァァァァァッ!』
 一足飛びに自分達の逃走ルートに回り込んできたジュンイチ=ディケイドに対し、ビランとベミウはそれぞれの獲物を手に襲いかかってきた。繰り出されるベミウの槍をかわし、逆に蹴り飛ばすと、こちらに向けて振り下ろされるビランの剣へと向き直り、
「残念――でした!」
 自分に迫る斬撃を、腰から外したライドブッカーで受け止めた。そのまま折りたたまれていたグリップ部分を引き出すと、反対側に刃が展開――ソードモードへと変形したライドブッカーで、ビランの身体を思いきり斬りつける!
 たまらずビランが後退する中、振り向きざまにベミウへと一撃。完璧なカウンターとして決まったその斬撃は、ベミウの身体を深々と斬り裂き――
『グァアァァァァァッ!』
 断末魔の叫びを残し、ベミウは爆発、四散した。
「お次!
 ……って……」
 これで残るはビランのみ。一気にケリをつけようと振り向くが――すでにビランの姿はない。
「…………ま、いっか♪
 とりあえず、“聖なるゲゲル”は阻止したんだし……」
 つぶやき、ジュンイチは変身を解除しようとディケイドライバーに手をかけ――
「――――――っ!?」
 そんな彼の背筋を、突然の殺気が貫いた。とっさに身をそらしたジュンイチの眼前を、ノーヴェの繰り出した拳が突き抜けていく。
「お、おいっ!?
 いきなり何だよ!?」
「とぼけんな!
 てめぇがディケイドなんだろ!?」
 驚き、今の攻撃の意図を問いただすジュンイチだが、ノーヴェはかまわず腰に変身ベルト“アークル”を出現させ、
「変身!」
 素早くクウガへと変身、ジュンイチへと殴りかかる!
「聞いていた通りだな……悪魔!」
「悪魔だぁ?
 冗談じゃねぇ! 誰が悪魔だ!」
 拳を繰り出すと共に言い放つノーヴェに答え、ジュンイチは彼女の拳を受け止め、ガッチリと組み合うが、
「ノーヴェ!」
「――――――っ!?」
 そんな二人に向けて走るのはチンクだ――彼女の投げつけたスローイングナイフを、ジュンイチはとっさにノーヴェを押しのけて弾くが、
「IS発動――“ランブルデトネイター”」
 チンクが告げると同時――弾かれ、地面に突き刺さったチンクのナイフが彼女の能力によって爆発、ジュンイチを吹っ飛ばす!
「ったく、てめぇもか……!
 おい、どうして“ディケイド”を狙う!? お前ら、何を知ってる!?」
「いつか現れると聞いていた! すべてのライダーを滅ぼすために!」
「どういうことだ!?
 オレの事を、お前らに伝えたヤツがいるってのか!?」
 尋ねるが、チンクの答えは要領を得ない――ゲンヤ達の制止の声も聞かずに襲いかかってくる二人から逃れ、ジュンイチは山中に放置されていた廃寺を見つけ、その境内へとおどり出る。
「ここなら、少しは楽に立ち回れるかな……」
 せまい山道ではなく、ここならノーヴェとチンクを迎え撃つのに最適だ――そう判断し、追ってくる二人を待ち受けるジュンイチだったが、
『ガァッ!』
「って、こっちが来たかよ!?」
 そこに飛び出してきたのは逃げたはずのビラン――斬りかかってくるその斬撃をかわし、ジュンイチがうめくと、
「ジャマを――」
 そこに飛んできたのはチンクのナイフだ。ビランに突き刺さり、爆発を起こし――
「するなぁっ!」
 さらに、ノーヴェが飛び込んできて蹴りを叩き込む――クウガの“力”を存分に込められた蹴りを受け、ビランの身体は爆発、四散した。
「やれやれ……狙いはあくまでオレ、かよ」
 しかし、それでもノーヴェやチンクがジュンイチに向けての戦闘態勢を解くことはなかった。ノーヴェが静かにビランの残した剣を引き抜くと、その姿が紫色のパワー重視形態“タイタンフォーム”へと変化。剣も専用武器“タイタンソード”へと変化した。

 

「あ、あれは……!?」
 その光景は、ちょうど“黒いオーロラ”を探して通りかかった八重も目の当たりにしていた。ジュンイチ=ディケイドと対峙するノーヴェ=クウガの姿に、思わず声を上げる。
 だが、その光景が初めて見たものとは思えない――記憶の糸をたどるうち、八重は不意に既視感の正体に気づいた。
 元の世界で見た“夢”の中での光景だ。
 あの時、“ディケイド”は“クウガ”を始めとしたすべてのライダーと敵対していた。あの“ディケイド”と“クウガ”がジュンイチとノーヴェだったとは限らないが、もし、あの“夢”の通りに二人がぶつかり合ったりしたら――

「やめてください!
 このまま二人が戦ったら……!」
 なんとかして止めなければ――制止の声を上げる八重だったが、ジュンイチとノーヴェ、二人の間の緊張は増すばかりだ。
「ったく……仕方ねぇな」
 もはや激突は避けられそうにない――ため息をつき、ジュンイチはライドブッカーを手にして、

《ATACK-RIDE!
 “SLASH”!》

 斬撃強化のアタックライドを発動。ソードモードに変形したライドブッカーの刃に“力”が通う。
「少し……頭、冷やそうか」
「だぁあぁぁぁぁぁっ!」
 静かに告げるジュンイチに向けて、ノーヴェが渾身の力で斬りかかる――が、彼女自身が剣に不慣れなのか、ジュンイチからすればスキだらけだった。いともたやすくかいくぐり、逆にノーヴェを斬り飛ばす!
 頑強なタイタンフォームの生体装甲を斬り裂くには至らないものの、強烈なその一撃はノーヴェを弾き飛ばし――
「ノーヴェ! チンク!」
 そこへ、ようやくゲンヤ達が追いついてきた。ティアナ、ギンガと共に駆けつけたスバルが声を上げ――
「――――ティアナ! 銃を貸せ!」
「って、待ちなさいよ!」
 そんな彼女に構わず、ノーヴェはティアナの手のクロスミラージュに目を向けた。ティアナが止めるのも聞かずにクロスミラージュを奪い取るとペガサスフォームへと変身。クロスミラージュをペガサスボウガンへと変化させ、ジュンイチを狙う。
 さらに、そこへチンクも加勢。ペガサスボウガンの弾丸とチンクのナイフがジュンイチへと飛び――
「甘いっつーの!」

《ATACK-RIDE!
 “BLAST”!》

 ジュンイチが新たなアタックライドを発動。ライドブッカーがガンモードへと変形。さらに銃撃強化の“BLAST”によって分身し、放たれた弾丸がチンクやノーヴェの攻撃をまとめて叩き落とす!

 

 そんな戦いの様子を、廃寺に続く石段から人知れず見つめている男がいた。
 だが――その視線は決して穏やかなものではなかった。それどころか、敵意に満ちた視線をジュンイチに――いや、ディケイドに向けている。
「ディケイド……
 お前はこの世界にあってはならない……」
 “ディケイド”に向けた敵意のままに男がつぶやき――同時、周囲の空間が歪んだ。

 

「――――――っ!?」
「これは――!?」
 歪みはあの“黒いオーロラ”となり、ジュンイチ達の間を駆け抜けた――驚き、ジュンイチとチンクが声を上げる中、廃寺に向けて収束していく。
 そして、“黒いオーロラ”が消えた時、そこにいたのは二人の仮面ライダーだった。
 “ディケイド”とも“クウガ”とも違う意匠の元にデザインされた、緑と錆色、色違いのライダーである。
「何だ? アイツら……」
 突然現れた新たなライダーに、ノーヴェが思わず声を上げる――そのとなりで、ジュンイチは“ディケイド”の知識によって二人のライダーの正体を知らされていた。
「仮面ライダー、キックホッパーに、仮面ライダー、パンチホッパー……!?
 どういうことだ……!? 『カブト』の世界のホッパーライダーが、どうしてこの世界にいるんだよ!?」
 予想外の事態に、さすがのジュンイチも状況が把握できない――思わず声を上げるが、相手のライダー達はかまわない。
「……ここにもいたわね、ライダーが」
「あぁ……行くぞ」
 パンチホッパーからは女の声、キックホッパーからは男の声――口々に言いながら、二人は同時に地を蹴り――

 

 

 ジュンイチとノーヴェ達、双方に襲いかかった。
 

to be continued……


次回、仮面ライダーディケイドDouble!
 

????(1) 「すべてを破壊する存在“ディケイド”……」
   
ゲンヤ 「人間が、グロンギに……!?」
   
ノーヴェ 「あたしは……戦えない……!」
   
ジュンイチ 「ゴ・ガドル・バ……
 ゴ種最強のてめぇがお出ましとはな……!」
   
スバル 「ノーヴェは来るよ……絶対に!」
   
ジュンイチ 「誰もが、自分の大切な人のような笑顔でいられる、そんな世界を作るために!」
   
????(2) 「貴様……何者だ!?」
   
ノーヴェ 「だから見てろ! あたしの……変身!」

第3話「笑顔」

総てを滅ぼし、総てを生かせ!


 

(初版:2009/06/10)
(第2版:2012/04/15)
(書式修正)