「っ、とぉっ!?」
繰り出された強烈な蹴りは、ジュンイチですらガードの上から弾き飛ばした――なんとか受け身を取り、ジュンイチは素早く体勢を立て直すと続けて放たれたキックホッパーの追撃をかわす。
「くそっ、何なんだ!?」
一方、ノーヴェの変身したクウガもまた、パンチホッパーの猛攻を受けていた。次々に繰り出される拳をノーヴェがさばくと、そこにジュンイチが後退してきた。背中を預け合う形で二人のホッパーライダーと対峙する。
「こいつもお前のワナかよ!?」
「冗談じゃねぇ!
知らねぇよ、こんなヤツら!」
言い放つノーヴェに答え、ジュンイチはキックホッパーに向けてかまえ直し、
「とにかく、一時休戦だ――文句はないな?」
「あるけど後にしてやらぁ」
「上等!」
ノーヴェの答えにうなずき、ジュンイチはキックホッパーに向かっていく。
対し、カウンターを狙って蹴りを放つキックホッパーだったが――
「来るとわかってるカウンターなら――」
ジュンイチはそれを読んでいた。キックホッパーの放った蹴りを受け止め、
「そこにカウンターを重ねるだけだ!」
逆に、蹴りの姿勢で動きを止められたキックホッパーに自分の蹴りを叩き込む!
一方、ノーヴェもまたパンチホッパーと激しくぶつかり合っていた。殴りかかってくるパンチホッパーの拳をかわすと、逆にその背中を蹴り飛ばす。
「へっ、その程度で、このあたしが捕まるもんかよ!」
ようやくいつもの調子を取り戻し、余裕の態度で告げるノーヴェだったが――
「貴様ァ……今相棒を笑ったなぁ……?」
それが、ジュンイチと戦っていたキックホッパーには気に障ったらしい。突然ジュンイチを押しのけるように蹴り飛ばすと、ターゲットをジュンイチからノーヴェへと変更し、ノーヴェへと一直線に襲いかかっていった。
(結局長編化した)仮面ライダーディケイドDouble
第3話
「笑顔」
「オォォォォォッ!」
咆哮し、キックホッパーはノーヴェの背後から怒涛の襲撃をかけた――ノーヴェは耐えきれず吹っ飛ばされ、さらにホッパーライダー達はノーヴェに集中して追撃をかける。
「く…………っ! 誰を狙ってる……!」
そして、それはホッパーライダー達を呼び出した張本人である男にとっても気に入らない展開だった。ディケイドであるジュンイチを無視してノーヴェに襲いかかる二人の姿に、いらだちもあらわに舌打ちする。
だが――状況が気に入らないのはジュンイチも同じだった。自分を完全に無視してノーヴェに襲いかかるホッパーライダー達に舌打ちすると、ライドブッカーをガンモードにして引き金を引いた。放たれた光弾が、ノーヴェを正確に避けて二人のホッパーライダーだけに撃ち込まれる。
「ったく、人に襲いかかっておいて、気に食わないことがあるとガン無視かよ……
……まぁいいや。てめぇら、どこから来た?」
「地獄からよ……」
「貴様も、来い……!」
「フンッ、上等だ」
答えるホッパーライダー達の言葉に、ジュンイチは舌打ちまじりに“BLAST”のカードを引き、
「地獄なら、オレだってとうに見た。
オレが見たのとてめぇらが見たの、どっちが本当の地獄か……経験者同士、“地獄の品評会”といこうじゃねぇか!」
《ATACK-RIDE!
“BLAST”!》
言って、“BLAST”のアタックライドを発動させたジュンイチが光弾をばらまくが――自分達の間にあの“黒いオーロラ”が発生した。それが防壁となり、ジュンイチの射撃を阻んでしまう。
「……時間切れ、みたいね……
行きましょうか」
「あぁ。
また別の地獄が待っている……」
そして――それは彼らにとって“戦闘終了”を意味していた。口々に告げると、ホッパーライダー達は“黒いオーロラ”の歪みの中に溶け込んでいき――それが消えた後には、何の痕跡も残されてはいなかった。
そう――物陰から戦いを見つめていた、ホッパーライダーを呼び出した男の姿も含めて――
◇
こうして、なんとか危機を脱したジュンイチ達だったが――
「いだだだだっ!?
八重ちゃん、痛いって! 耳! 耳は弱いから!」
「やられて当然のことをしたからです!」
耳を思いきり引っ張られ、抗議の声を上げるジュンイチだが、八重は真剣な表情でジュンイチに告げる。
「私達の使命、忘れたんですか!?」
「忘れてねぇって!
お前らの世界を守るために、オレ達はこの世界に来てんだぜ」
「ジュンイチくんの世界でもあるんですよ! わかってますか!?
とにかく、世界を救うために来たのに、なんでこっちの世界のライダーとケンカしてるんですか!」
「オレに言うなよ。仕掛けてきたのは向こうなんだからさ」
八重に答えると、なんとか彼女の手を振りほどいたジュンイチはノーヴェとチンクへと視線を向けた。
その二人は、現在ゲンヤから説教を受けている真っ最中で――
「柾木ジュンイチは人間だった。
なぜ攻撃をしかけた?」
「人間だとしても……あたしらの“敵”なら、ブッ倒さなきゃならねぇだろ」
尋ねるゲンヤだったが、ノーヴェは口を尖らせてそう答えた。そんな彼女のとなりで、チンクもまたゲンヤに説明する。
「私達は聞いていたんだ。『やがて、クウガとなった者の前に“敵”が現れる』と。
その“敵”の名が……」
「“ディケイド”……アイツの変身した姿、か……」
ノーヴェだけならともかく、チンクまで口をそろえて同じことを言うとなると、真実はどうあれ何かしらの“根拠”があるのかもしれない――ともあれ、現状では断定は難しいと判断し、ゲンヤは気を取り直してジュンイチに声をかけた。
「おい、柾木のボウズ。
“聖なるゲゲル”――あの話は本当なのか?」
「あぁ、本当だ。
あの山に、グロンギが根城にしてる遺跡がある――そしてその遺跡に、グロンギにとって最強の切り札となり得る、“究極の闇”とやらが眠っていたらしい」
言って、ジュンイチが見つめるのは、今自分達がいる山岳地帯の中で最も高い山の山頂である。
「だが、その目覚めは阻止した……連中もここでの番狂わせは想定外のはずだ。
今なら、オレ達でも倒せるかもしれねぇ……!」
つぶやき、ゲンヤは対策本部に戻ろうときびすを返し――そこへスバルが声をかけた。
「父さん、あたし達も!」
「いや……お前らはもう休んでろ」
しかし、そんな彼女をゲンヤは迷うことなく制止した。予想外の申し出に戸惑うスバルの頭をなでてやり、
「“JS事件”といい今回といい、お前らには頼りっぱなしになっちまったからな。
最後くらい、オレ達にもカッコつけさせてくれよ。な?」
「……う、うん……」
ゲンヤのその言葉に、スバルはまだ不安を残しながらもうなずいた。
そして、一同は走り去るゲンヤの車を見送り――ふと、息をついたノーヴェとジュンイチの目が合った。
「………………フンッ!」
しかし、ついさっきまでモメていた相手を前に、ノーヴェは口を尖らせ、そっぽを向いてしまう。対するジュンイチも取りつく島もないとばかりに肩をすくめ――そんな二人の姿に、八重はティアナと顔を見合わせ、軽くため息をつくのだった。
◇
管理局の対策本部が本格的に動き出したというのなら、イレギュラーたる自分がそこに介入しても足並みを乱すだけだ。
それに八重をこのまま戦いの場まで連れていくことはできない――そう判断したジュンイチは、一度七瀬家へと戻り状況の推移を見守ることにした。
「はい、どうぞ」
『いただきまーす♪』
そして、家に戻ればちょうどお昼時。手際よく八重が作ってくれたチキンライスを前に、ジュンイチ達は一様に合掌し――
「…………すごーい!
ノーヴェ、このチキンライスおいしいよ!」
「ホントか、スバル!?
……ホントだ、マヂでうめぇ!」
「…………いや、それ以前に……なんでアンタ達までいるのよ?」
そこに当たり前のように居座っているのはスバルとノーヴェを始めとした対策本部のフォワードメンバー達。にわがツッコミを入れるが、みんな八重の料理に夢中で聞いちゃいない。
「まったく、みんなそろって……」
「それだけ美味い、ってことだろ、このチキンライスが。
オレだってこれ以上美味いのはちと作れん。迷わず白旗揚げてやってもいいくらいだ」
「そ、そんなにほめないでくださいよ……」
ため息をつくにわに対し、ジュンイチはあっさりとそう答える――料理をほめられた八重が思わず照れているが、気にせず自分の分のチキンライスを口に運ぶ。
「ってゆーか……アンタもよく平然としてられるわね。
ついさっき、アンタのことをブッ飛ばそうとした相手だってのに……」
だが、にわはそれでも食い下がる――言いながら視線を向けたのはノーヴェとチンクだ。二人とも気まずそうにチキンライスを口に運び――
「別にいーじゃん、そんなの」
そんな二人の心情を知ってか知らずか、ジュンイチはあっさりとそう答えた。
「いいの?」
「いーのいーの。
だって……」
思わず聞き返すスバルに答えると、ジュンイチは手をパタパタと振りながら、
「二人とも、もうオレにケンカ売ってねーじゃん」
「……ま、アンタがそれでいいならいいけどね……」
ごくごく平然と告げられ、ティアナは思わずため息をつくが――彼にとっては“当然のこと”なので、なぜ呆れられているのかわからない。ティアナに対し、ジュンイチは心底首をかしげてみせる。
肉食獣の本能ゆえか、キャロの使役している子竜フリードが七瀬家の飼い鳩“ななせ”に襲いかかり、逆にその巨体に押しつぶされそうになっているのを背後の気配で把握しつつ、ジュンイチは気を取り直し、ノーヴェ達の中でも一番事情を把握していそうな人物へと視線を向ける。
「えっと……チンクシャ、だったか」
「チンクだ。二文字、又は一音余計だ」
「いいじゃねぇか、“名は体を表す”ってコトで……」
「よくない!」
「それより、さっきの事なんだけど……」
「こら、何事もなかったかのように話を進めるな!」
猛然と抗議するチンクだったが、ジュンイチはそんな彼女の頭を抑えつけるかのように片手で巧みに制しつつ、改めて尋ねる。
「さっき、お前ら、オレのことを『悪魔』だとか言ってやがったな?
ありゃ、どういうことなんだ?」
「そうね、あたしも聞きたいわ」
ジュンイチの問いに同意する形で説明を求めるのはティアナだった。
「人のクロスミラージュまで勝手に使って……ちゃんとした説明、してもらうわよ」
「わ、わかったよ……」
ティアナににらみつけられ、さすがのノーヴェも反省したようだ。つぶやくように、ゆっくりと説明を始めた。
「言われたんだよ。
あたしがベルトを……“アークル”をもらった、その時に……」
ノーヴェの話を要約するとこうである。
今をさかのぼること数週間前――ノーヴェはある男から霊石“アマダム”の宿ったベルト“アークル”を託された。
その場に居合わせたチンクと共にベルトを珍しそうにいじっていると、それを託した男が“ディケイド”の出現を予言したと言うのだ。
彼はこう言っていたそうだ。
『いつかキミの前に悪魔が立ちはだかる。
すべてを破壊する存在“ディケイド”……それがキミの本当の敵だ――』
「…………つまり、何か?」
一通りの話を聞くと、ジュンイチは静かにそうつぶやいた。おもむろにノーヴェとチンクの頭に手を置いて――
「お、ま、え、ら、は! そんな正体も名前も明かさない怪しさ大爆発無限大のオッサンのヨタ話を真に受けて、全力全開でオレに襲いかかったってことか!? あぁ!?」
「い゛だだだだっ!? 痛いっ! 痛いっ!?」
「す、すまん! 私達が早計だった! 悪かった!」
怒りの抗議と共に思いきりその手に力を込めた。まるで万力のごとく強烈な握力で頭蓋を圧迫され、ミシミシとイヤな音が響く中、ノーヴェとチンクが悲鳴を上げる。
「まったく……考えなしに突っ走りやがって……
そんなにゲンヤのオッサンにほめてもらいたかったのか?」
二人の悲鳴を存分に堪能した後、ジュンイチは二人を解放した。圧砕されかかった頭を抱えるノーヴェとチンクを前にため息をつき――
「仕方ないよ、ジュンイチ」
そう彼に答えたのはスバルだった。
「ノーヴェやチンクにとって、父さんは特別だから……」
「どういうことなんだ?」
「うん……」
聞き返すジュンイチに対し、スバルはしばしの迷いを見せた後、まっすぐにジュンイチを見返し、尋ねた。
「……ジュンイチ、“JS事件”って覚えてる?」
「“JS事件”…………?
それ、さっきゲンヤさんも口にしてたような……」
脇から八重が口をはさんできたのにうなずき返し、スバルは続ける。
「数ヶ月前、次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが手勢に地上本部を襲撃させて、さらに超大型“古代遺物”を持ち出した大規模テロ事件……
ノーヴェとチンク、それから二人の姉妹の子達は、その時スカリエッティ側の戦力として、当時事件を担当していたあたし達の部隊、機動六課と戦ったの……」
「それが、なんで一緒に協力してるん?」
「事件後、管理局に保護されてな。
罪の償い、ということで局に協力しているんだ――今回の事件には個人的な協力者として秘密裏に加わっている形だがな」
スバルの話の通りなら、ノーヴェとチンクは犯罪者ということだ。それがなぜ――首をかしげる真紀子には、チンクが自ら説明する。
「そして、保護された時、チンクやノーヴェ、あと何人かの姉妹はウチに引き取られたの……
その時も、一番主導で動いたのが父さんで……だから、ノーヴェやチンクにとって、父さんは“お父さん”って以上に特別な恩人なんだよ」
「なるほどね……
恩返ししたい、って想いと謎のオッサンのウソ八百が重なって、オレを倒してほめてもらおうと暴走したワケだ」
「………………フンッ!」
スバルの話に納得するジュンイチだが、本音をツッコまれた当のノーヴェはプイとそっぽを向いてしまう。
「ごめんね、ジュンイチくん……
ホントは、姉の私がしっかり抑えなきゃいけなかったのに……」
「今の二人がベルトをもらった時の話、ギンガも知らなかったんだろ?
だったらいいさ――止められなくてもしかたねぇ」
そんなノーヴェに代わって頭を下げるギンガに、ジュンイチは肩をすくめてそう答え――
「み、みんな!」
一足先に食べ終わり、台所に食器を下げに行っていた多汰美があわてて戻ってきた。
「て、テレビで、なんか大変なことが!」
「大変なこと……?」
いつものんびりとした多汰美のあわてぶりに、にわは眉をひそめて首をかしげる――とにかく確かめてみようと、ジュンイチ達は居間に向かい、そこで流されていたニュース速報に目を丸くした。
〈……の山頂より、黒い煙が発生しているのが確認されました。
この黒い煙は、山火事などとは違う現象であることが確認されていて……〉
〈黒い煙の発生源が、特定されたとの情報が入りました。
管理局の、未確認生命体対策本部が、一時間ほど前から現地入りしているとの報告も入っており……〉
「対策本部、って……」
「父さんや、なのはさん達が!」
今の報道の通りなら、あの煙の中には今まさにゲンヤやなのは達がいることになる。つぶやくキャロの言葉にスバルが声を上げ――
「ゲンヤの……オッサン!」
声を上げるなり、ノーヴェはきびすを返して駆け出していた。七瀬家を飛び出すと、トライチェイサーに飛び乗って一路現場に向かう。
「ノーヴェ、待て!
ひとりじゃ……!」
ジュンイチが呼び止めるがもう遅い――舌打ちし、ジュンイチは黒い煙がここからでも確認できる山岳地帯へと視線を向け――
「――――――っ!
ジュンイチさん、アレ!」
「……“黒いオーロラ”だ……!」
そこには、黒い煙を守るかのように“黒いオーロラ”が発生していた。声を上げる八重にうなずき――気づき、ジュンイチは懐から絵柄の消失したままのカメンライドのカードを取り出した。
取り出したカードはすべてブランクのまま――事件を解決させたはずだった、この世界のライダー、クウガのカードすらも絵柄が消えたままなのを確認し、舌打ちする。
「…………もっと早くに気づくべきだった……!
この世界は、まだ救われてなんかいなかったんだ……!」
だとしたら、一刻も早く動かなければ大変なことになる――意を決し、ジュンイチはスバル達へと視線を向け、告げる。
「お前らも来い。
まず手始めに――現地入りしてるはずのオッサン達を助けに行くぞ!」
『うん(はい)!』
◇
だが――時すでに遅く、ゲンヤ達は絶体絶命の危機の中にあった。
グロンギの遺跡を中心に発生した黒い霧は徐々に広がり、巻き込まれた局員達は次々にその煙にまかれ、倒れていく。
そんな中、ゲンヤもまた、黒い霧を吸い込んでしまった。全身を脱力感が襲い、よろめいて――
「ゲンヤさん!」
そんなゲンヤを支えたのはなのはだ。身につけた防護服“バリアジャケット”によって黒い霧から身を守り、ゲンヤを救出。まだ黒い霧の届いていないところで待っていたフェイト達と合流する。
と――黒い霧の中で変化が起きた。倒れたはずの局員達が次々に身を起こし――
「な………………っ!?」
「そんな……!?」
次の瞬間、目の前で起きたその現象に、なのはとフェイトは思わず声を上げた。
なんと、立ち上がった局員達の姿が変化し、怪人の姿に――グロンギへとその姿を変えたのだ。
「人間が、グロンギに……!?」
ゲンヤがうめく中、局員達の変化したグロンギ達はゆっくりと彼らへと歩を進め――
「オッサン!」
「なのはさん!」
そんな彼らの前に手び出し、グロンギをにらみつけるのはノーヴェ、そして彼女に追いついてきたスバルだ。
「ここはあたしが……!」
「ま、待って、ノーヴェ、スバル! こんな状況じゃ戦えない!
ゲンヤさんも心配だし……一旦下がるよ!」
「わ、わかった!」
「下の方でティア達が救護班を誘導してくれてるはずだから、そこまで!」
しかし、ノーヴェが参戦しても戦える状態でないのは変わらない。飛び出そうとしたところに待ったをかけたなのはの言葉に従い、ノーヴェとスバルは彼女やフェイトと共にゲンヤを守りながら後退していく。
一方、その黒い霧の奥深く――グロンギの遺跡の中心で、ひとりのグロンギがゆっくりとその身を起こしていた。
彼こそがグロンギ達が“究極の闇”と呼んだ存在だ。ゆっくりと遺跡の外へと歩き出した、その時、
「だぁりゃあっ!」
そんな彼へと襲いかかったのは、スバル達とは別に遺跡に突入していたジュンイチだ。ディケイドへと変身し、飛び込んできた勢いのままに拳を繰り出すが――
「………………なっ!?」
なんと、彼の拳を受けてもグロンギはビクともしない。ジュンイチが驚愕の声を上げるが、それにもかまわず、ひとりつぶやく。
「……バセゴゼバレザレタ?」
「……何?」
「なぜ」と聞くということは、もしかしたら自分の置かれている状況がわかっていないのかもしれない――聞き返すジュンイチに対し、グロンギはようやく彼へと視線を向けた。そして、明瞭な日本語でジュンイチに告げる。
「オレは……“ン・ガミオ・ゼダ”……
そうだ……オレはかつて、この地に封印されたはず……二度と目覚めぬはずだった!」
「そうかよ……
だったら、もう一度眠らせてやるぜ!」
答え、さらに打撃を叩き込むジュンイチだったが、ガミオはやはりビクともしない。
彼の身体が頑丈というのもあるが――
(思うように“力”が練れない……!
この世界も、元の世界と同じように死にかけてるからか!)
自分自身の“力”に問題があった。ジュンイチが内心で舌打ちし――そんなジュンイチを、ガミオは無造作に弾き飛ばす!
「もう遅い!
リントはグロンギとなり、この世を“究極の闇”が覆い尽くす!
もはや、オレにもその流れは止められない!」
そうジュンイチに言い放つと、ガミオはそれ以上彼にかまうことなく、黒い霧と共に山を下山していった。
◇
「あの中で……人間がグロンギに変わる?」
「あぁ……確かに見た」
思わず聞き返す八重に、ノーヴェは深刻な表情でうなずく――ゲンヤが運び込まれたという話を聞きつけて(おそらくはジュンイチが連絡したのだろう)病院までやってきた八重達に、ノーヴェは病院のロビーで事情を説明していた。
と――
「ひょっとしたら……アレが柾木ジュンイチの言っていた、“究極の闇”とやらなのかもしれないな」
そう告げて姿を現したのは、別行動を取っていたチンクだ。
「チンク姉、どこ行ってたんだよ?
っつーか、アレが“究極の闇”って、どういうことだよ?」
「これを見ろ」
尋ねるノーヴェに答えると、チンクは手にした封筒を差し出した。ギンガがそれを受け取り、中の書類に目を通し――
「これ…………!?」
「柾木ジュンイチが倒した未確認11号……ヤツがズ・ザイン・ダと呼んでいたグロンギの解剖の結果だ」
その内容に驚がくし、目を見開くギンガに、チンクは静かにそう答えた。
「その体組織は、怪人態として変質している部分を除けば、人間と同じものだった……」
そして、一度言葉を切り――チンクは告げた。
「おそらく、グロンギは……古代の人間だ。
古代の人間が、今まさにあの黒い霧の中で起きているように、怪人に変えられたものだったんだ」
「そんな……!」
「じゃあ、“究極の闇”っていうのは……」
「たぶん……全人類の、グロンギ化……!」
キャロ、エリオ、ティアナ――3人のつぶやきにチンクがうなずくと、
「そんなの……絶対阻止しないとね」
「うん」
告げるのはなのはとフェイトだ。二人で赤い宝石と金色の宝石――待機状態のそれぞれのデバイスを手にする。
「出動ですか!?
なら、あたし達も……」
そんななのは達に追従しようとするスバルだったが、なのははそんな彼女を手で制した。
「スバル達は、まずは気持ちを落ち着けてからの方がいい」
「で、でも……」
「なのはの言う通りだよ。
ゲンヤさんが倒れて……冷静でいられるはずない。そんな精神状態じゃ、出てきても実力は出せない。危険なだけだよ」
なのはに食い下がろうとしたスバルをいさめると、フェイトはティアナ達を見回し、
「とにかく……最前線は私達でなんとか抑えてみる。
みんなは落ち着いてからでいいから、私達が取りこぼした分の対応をお願いできるかな?」
「はい」
ティアナがハッキリとうなずくのを確認し、なのはとフェイトは病院を出ていった――と、そんな彼女達の出ていった方とは反対側の入り口から、遺跡から戻ったジュンイチが姿を見せた。
「じ、ジュンイチくん!
ケガしとるやないの!」
「オレのことはいい!」
ガミオにやられたジュンイチのケガ(正確にはすでに傷はふさがり、出血の跡が残っているだけだが)に驚く多汰美を一喝すると、ジュンイチはノーヴェへと向き直り、
「ゲンヤのオッサンの容態は?」
「重傷だ……しかも、大量にあの“黒い霧”を吸ってる。
このままじゃ、グロンギに……!」
「……そっか……」
ノーヴェの言葉にうなずき、ジュンイチは息をついて続ける。
「グロンギは古代人の変異体……同じ人間である以上、今の時代でも、すべての人間にグロンギになり得る“素養”がある……
もし、人間すべてをグロンギに変えられたら……世界は終わりだ……」
「………………っ!
何のん気なこと言ってんだよ!」
冷静につぶやくジュンイチの態度が気に障り、ノーヴェはジュンイチに喰ってかかる――彼の胸倉をつかみ、苛立ちもあらわに声を荒らげる。
「ゲゲルは失敗させたんだろう!?
なのに、なんで!?」
「ヤツは……ガミオは元々目覚めるはずのない存在だったんだ」
そんなノーヴェに対し、ジュンイチはあくまでも冷静にそう答え得た。
「けど……オレ達の世界にも起きていた“滅びの現象”が、ヤツをムリヤリ目覚めさせちまったんだ。
“世界を滅ぼす存在”として……」
「『オレ達の世界』……?
どういうこと?」
「ジュンイチさん達は、別の次元世界から来たんですか?」
「あぁ」
聞き返すティアナとエリオに、ジュンイチは静かにうなずいた。
「それも、お前らの把握している次元世界群の、さらに外側から……」
「さらに、外側だと……?」
眉をひそめるチンクにうなずき、ジュンイチは続ける。
「オレ達がこの世界に来るきっかけを作ったヤツの話によると、この世界は仮面ライダーの物語の世界と、お前らの物語の世界が重なり合ってできているらしい。
つまり、お前らが言う『別の世界』とやらも、“お前らの物語の世界”の中だってことだ」
「え、えーっと……」
「要するに、オレ達はお前ら管理局が把握している次元世界すべてをひっくるめて“ひとつの世界”だと解釈してる、ってことだ」
ジュンイチの説明がチンプンカンプンで、しきりに首をひねるスバルに対し、ジュンイチはそう説明する。
「お前にわかる説明の仕方をすると……お前らの言う“ひとつの次元世界”はアイスのシングル。オレ達の言う“ひとつの世界”はダブル、トリプル……アイスひとつひとつじゃなくて、アイスクリーム全体を指して、オレ達はひとつのものとして考えてる、ってことだ」
「あー、そうなんだ」
「それでわかるのもどうかと……」
“世界”をアイスクリームにたとえたジュンイチの説明で、ようやくスバルは合点がいった。苦笑するキャロにかまわず、うんうんとうなずいてみせる。
「じゃあ……“滅びの現象”っていうのは?」
「そのままの意味さ」
一方、改めて尋ねるギンガに、ジュンイチはそう答えた。
「今、オレ達の世界は、この世界を始めとした、いくつもの世界が重なり合おうとしてる――そのせいで、世界のバランスが崩れ、消滅の危機にある。
それを止めるために、オレ達はこの世界に来たんだけど……正直、読みが甘かった。
この世界だって、もうすでに二つの世界が融合してるんだし、そもそもこの世界だって、オレ達が元々いた世界に重なろうとしてる世界のひとつだ。
世界の融合の影響である“滅びの現象”が、いつ起きてもおかしくない状態だったんだ」
「じゃあ、この世界はこれから……?」
「…………“止めなきゃ滅ぶ”。簡単な話さ」
エリオに答え、ジュンイチは周囲を見回した。
ロビーはグロンギに襲われたり、“黒い霧”に巻き込まれて運び込まれた人々でごった返している――苦しみうめく声や、彼らに付き添ってきた人達の嘆きで、まさに阿鼻叫喚といった様相を呈している。
そして、テレビでも、今まさに報道していたテレビクルー達がグロンギの群れに襲われ、映像が途切れた――「地獄」としか形容できないその光景に、ジュンイチは思わず歯噛みして――
「…………あたしは……」
そんなジュンイチのとなりで、ノーヴェはうつむき、静かにつぶやいた。
見れば、その拳が――いや、彼女の全身が震えていて――
「あたしは……戦えない……!」
「ちょっ、ノーヴェ!?」
「ほっとけ」
言って、踵を返して駆け出したノーヴェを追おうとしたスバルを、ジュンイチはあっさりと呼び止めた。
「アイツは、ゲンヤのオッサンのため、ただそれだけの理由で戦ってきたんだろう?
今のヤツは、そのゲンヤのオッサンが死にかけてることで、戦う理由を失いそうになって、心が折れちまってる。
いくら“クウガ”だからって、今のヤツを連れてっても足手まといにしかならねぇよ。アイツ自身が吹っ切るのを、期待するしかねぇ」
「でも……」
まだ納得がいかない様子のスバルだが、ジュンイチはかまわず病院の玄関へときびすを返し――
「……って、ちょっと待ちなさいよ!」
そんなジュンイチを、にわがあわてて止めた。
「あに考えてるのよ!?
あの霧は人間をグロンギに変えるのよ! アンタだって……」
「心配するな」
もし、ジュンイチまでグロンギになってしまったら――不安に駆られ、ジュンイチを止めようとするにわだったが、ジュンイチは笑いながら彼女の手を丁寧にほどき、
「…………そういう心配なら……もう、手遅れだ」
「え………………?」
意外な答えに動きを止めるにわにかまわず、ジュンイチは外に出ると停めてあったディケイダーにまたがり、
「ま、待って!」
そんなジュンイチを追って、スバルもまた病院を飛び出してきた。
「でも、何か手はあるの!?
アイツらをやっつけて、父さんを助けられる方法が!」
尋ねるスバルの問いに、ジュンイチは息をつき、
「…………ガミオを倒す」
静かに、そうスバルに告げた。
「アイツ、言ってたんだ。
『世界を“究極の闇”が覆い尽くす。もう自分にも止められない』って……
ヤツの言葉をそっくりそのまま解釈するなら、“究極の闇”そのものはガミオの意思によるものじゃないけど、“究極の闇”を起こしているのはガミオの“力”……そんなところだと思う。
だとしたら、“究極の闇”を止める一番確実な方法は、ガミオを倒してヤツの“力”の供給を断ち切ること――ゲンヤのオッサンがグロンギになっちまう前、もっと言うなら、オッサンが死んじまう前にガミオを倒す。
他にも方法はあるかもしれないけど、“オッサンが死ぬ前に”って制限がある以上、オッサンのグロンギ化を止めるには、もうその方法しかない」
「だったら、あたしも行く!」
告げるジュンイチに対し、スバルはハッキリとそう言い切った。
「なのはさんは『落ち着いてからでいい』って言ってたけど……そんなの待てない!
それに、アイツらと戦うのが父さんを助けることにつながるなら……!」
「私も、スバルに賛成よ」
そんなスバルに並び立ち、告げるのはギンガだ。さらに、ティアナやエリオ、キャロとフリード、チンクも同様にうなずくのを見て、ジュンイチはため息をつき、告げた。
「“絶対に死ぬな”――それが同行を許す条件だ」
◇
グロンギが人を殺し、死んだ人々がグロンギとなり新たに人を襲う――駆けつけた管理局の部隊もまた懸命に応戦しているが、倒していく以上に数を増やすグロンギ達を前に、その侵攻を食い止めるので精一杯の状況が続いていた。
「リントもグロンギもひとつに……」
そんな光景を、ガミオはひときわ高いビルの屋上から見下ろしていた。
「そして、世界は闇に包まれる……」
「そんなこと――」
「させない!」
しかし、ひとりつぶやいた彼の言葉に答える声――振り向くガミオの前に、バリアジャケットを装着したなのはとフェイトが飛来した。
「街の人達を、元に戻して!」
「それは不可能だ。
リントは全てグロンギと化し、戦いを求め続ける」
愛用のデバイス、レイジングハートをかまえて告げるなのはだが、ガミオもまたあっさりとそう答える。
「人もグロンギも、所詮戦いからは逃れられぬ存在……
お前達も、死してグロンギとなるのが運命……」
「そんなことない!」
告げるガミオに反論するフェイトだったが――
「ならば……身をもって知るがいい。
命を落とし、グロンギとなって!」
『――――――っ!?』
瞬間、生まれた殺気に反応し、なのは達が身をひるがえす――が、背後の別のビルの屋上から飛び込んできた者の一撃が、二人をガミオの足元のビルの屋上へと叩き落とす!
それでも、なんとか立ち上がる二人だが――そんな二人の前に、襲撃者は静かに降り立った。
カブトムシ型のグロンギだ。自らの身につけた装飾のひとつを無造作に引きちぎると、それは唐突に形を変え、一振りの剣へとその姿を変える。
「……フェイトちゃん……」
「ん。わかってる。
このグロンギ……ものすごく、強い……!」
容赦なく叩きつけられるプレッシャーが、相手の実力を雄弁に物語っていた――警戒を強め、それぞれのデバイスをかまえるなのはとフェイトに対し、カブトムシ型グロンギは迷うことなく地を蹴り、二人へと襲いかかる!
◇
「…………オッサン……!」
病院内の一室――ベッドに横たわるゲンヤを、ノーヴェは半ば泣きながら見つめていた。
死なないでほしい――その一心で彼の手を握りしめていると、
「………………ん……」
不意に、ゲンヤが意識を取り戻した。
「……ノーヴェ、か……?」
「オッサン、気がついたのか!?
今医者のセンセを――」
ゲンヤが気がついたのに気づき、すぐにきびすを返そうとしたノーヴェだったが、彼女が握っていたゲンヤの手が逆に彼女の手を握りしめ、引き止める。
「オッサン……?」
「バカ、ヤロウ……!
こんなところで、何してやがる……!
みんなは、戦ってんだろう……!?」
「…………あたしは……」
早くみんなを助けに行け――そう告げるゲンヤに対し、ノーヴェは力なく首を左右に振り、
「あたしは……ただ、アンタにほめてもらえるとうれしかった……
拾ってもらえた恩を、返せてるって……そう思えて、うれしかった……
オッサンに笑って欲しくて、あたしがその笑顔を見たくて、戦ってきただけなんだ……
だから、オッサンがいなきゃ、あたしは戦うことなんかできないんだよ!」
最後の方はほとんど悲鳴に近かった。そんなノーヴェの告白に、ゲンヤは――
「……バカ、言ってんじゃねぇよ……」
言って、泣いている彼女の頬をそっとなでてやった。
「確かに……お前は、オレのために戦ってきたのかもしれねぇ……
オレを笑顔にしたくて、戦ってきたのかもしれねぇ……
でもな……お前は、そうやって戦う中で、もっとたくさんのヤツを、笑顔にしてきたんだぜ……」
「え………………?」
「ギンガや、スバル……ティアナの嬢ちゃんや、チビスケども……
みんな、お前と一緒に戦って、一緒に笑って、そうしてやってきたんじゃねぇか……」
思わず顔をあげるノーヴェに答えると、ゲンヤは今自分ができる精いっぱいの笑みを見せ、
「でもよぉ、ノーヴェ……
外、見てみろよ」
ゲンヤにうながされ、ノーヴェは病室の外に意識を向ける――未だ泣き声やうめき声に満ちた廊下の様子に表情を曇らせるノーヴェに、ゲンヤはさらに続ける。
「お前が戦わねぇと……もっとたくさんのヤツが泣くぜ。
お前は、それでもいいのかよ?」
「…………あたし、は……!」
答えられず、視線を落とすノーヴェの頬を、ゲンヤはそっとなでてやる。
「オレひとりの笑顔のために、あれだけ強く戦えたお前だ……きっと、もっとたくさんのヤツの笑顔のためなら、お前はもっと強くなれる……
見せちゃ、くれねぇか……? お前の、本当の強さを……」
「…………わかったよ」
うなずき、ノーヴェは顔を上げた――クルリとゲンヤに背を向け、告げる。
「見せてやるよ、オッサン。
あたしの……本当の強さってヤツをさ」
◇
「だぁぁぁぁぁっ!」
咆哮するのは、対策本部のメンバー、ヴィータ――気合いと共に愛用のデバイス、ハンマー型のグラーフアイゼンでカブトムシ型グロンギへと殴りかかるが、
「…………ムンッ!」
グロンギは自らの大剣でその一撃を打ち返した。強烈な一撃はグラーフアイゼンどころかヴィータをも弾き飛ばし、向かいのビルへと叩き込む。
そのままその場に留まることはせず、続いてシグナムに向けて突撃――グロンギの斬撃を自身の大剣型デバイス、レヴァンティンで受け止めるシグナムだったが、
――ビシッ。
「――――――っ!?」
グロンギの一撃――たった一撃でレヴァンティンの刃に亀裂が走った。目を見張るシグナムだったが、そのパワーを前に離脱もままならない。結局彼女も弾き飛ばされ、ビルの屋上に叩きつけられる。
「シグナム!」
「ヴィータちゃん、大丈夫!?」
「も、問題ない……!」
「この程度で、あたしらがやられるかよ……!」
声を上げるフェイトやなのはに二人が答えるが、状況はハッキリ言って悪い。
「なんというヤツだ……!
私達の攻撃を何度もくらっているはずなのに、ほとんどビクともしないとは……」
「なのはの砲撃にも耐えるって、どういうデタラメだよ……!」
そう。こちらの攻撃を当てるのはそれほど難しいことではない――問題は、その直撃する攻撃がグロンギにほとんどダメージを与えられていないことだ。
「でも……『“ほとんど”効いてない』っていうだけで……まったく効いてないワケじゃないよ。
回復してる様子もないし、このまま何度も攻撃を当てていければ……!」
それでも、あきらめるワケにはいかない。一同を鼓舞し、なのははレイジングハートを握りしめる。
しかし、グロンギもそれを許すつもりはなかった。昆虫特有の半透明の翼を羽ばたかせ、なのは達へと襲いかかり――
「たぁぁぁぁぁっ!」
「ぅおんどりゃあぁぁぁぁぁっ!」
そんなグロンギの前に伸びてくる、藍色の帯状魔法陣――その出所を確かめるよりも早く、飛び込んできたギンガとジュンイチのダブルパンチがグロンギを弾き飛ばす!
「………………っ!」
それでも、空中でなんとか体勢を立て直すグロンギだったが、新たに空色の帯状魔法陣が伸びてきて、
「おぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
今度はスバルとエリオが飛び込んできた。スバルの拳とエリオのストラーダの追い討ちを受け、グロンギは今度こそ叩き落とされる。
「なのはさん!」
「フェイトさん、今手当てします!」
そして、なのは達の元にはフォワードチームのバックス陣――ティアナやフリードにガードしてもらいながらやってきたキャロが、治癒魔法でなのは達の手当てに取りかかる。
一方、グロンギは叩き落とされこそしたが、それでも未だ健在だった。叩き落とされた先のビルの屋上で、ゆっくりと身を起こして集結したジュンイチ達をにらみつける。
「ぅわ、今の連続攻撃を受けてまだ立つ?
今までのグロンギだったら、倒せないまでも意識くらいはトバせるくらいの攻撃だったのに……」
「フェイトさん達が苦戦するはずよ……」
そんなグロンギの姿にスバルとギンガがうめくと、
「まー、しゃぁねぇや。
相手が悪すぎらぁ」
そんな二人に答えると、ジュンイチはディケイドライバーをかまえながらグロンギをにらみつける。
「ゴ・ガドル・バ……
ゴ種最強のてめぇがお出ましとはな……!」
試しに声をかけてみるが、グロンギ――ガドルは答えるつもりはないようだ。無言で新たな装飾品を引きちぎると、それは二振り目の大剣へと形を変えた。二刀流のかまえで、ガドルはジュンイチ達と対峙する。
と――
「…………現れたか」
そんなガドルに代わりに口を開いたのはガミオである。ジュンイチ達――というかジュンイチをにらみつけ、告げる。
「お前はクウガでもリントでもない。
リントによって歪められし、“リントでなくなったリント”……」
「え………………?」
ガミオのその言葉に、ギンガは思わずジュンイチを見返した。
“リント”が人間を意味するグロンギ語の固有名詞であることは、今までのやり取りから疑いようがない。だとすると、“リントでなくなったリント”と呼ばれたジュンイチは――
「へぇ……わかるんだ、オレのこと」
しかし、そんなギンガの内心の動揺をよそに、ジュンイチはあっさりとうなずいた。
「そうだよ。
オレは人間として生まれ、人間の手によって人間を“やめさせられた”。
ムリな遺伝子操作によってこの身体をいぢくられ、さらに偶発的に生まれた自己進化能力によって、常に最強の“兵器”であることを運命づけられた“遺伝子強化人間”……
無限に進化し続ける結果、その力はいずれてめぇらグロンギすら超えることになるであろう、究極の“戦闘生物”……それがオレだ」
「ならばわかるだろう。
我らも、貴様らも、本来この世界にあってはならない存在だと。
消えよ。リントはすべて、殺し合うグロンギとなる――それが宿命だったのだ」
「あぁ、そうだろうな」
「じ、ジュンイチくん!」
あっさりと同意してみせたジュンイチに、ギンガは思わず声を上げ――しかし、ジュンイチはそんな彼女を手で制し、ガミオに告げた。
「けどな、ガミオ……
“わかる”からって、それが宿命に従わなきゃならない理由になるとは限らない――そうは思わねぇか?」
「何…………?」
「他のヤツらならともかく、“兵器”であるオレは、お前の言ってることなんかとうの昔に悟ってんだよ。
“3人集まれば派閥が起きる”なんて言葉もあるしな――人間ってのは、結局誰かと競い合わずにはいられない生き物なんだ。
誰かを屈服させ、その上にあぐらをかかずにはいられない。そのためだったら、他人の身体をいじくり回すのだって遠慮はしない――どれだけ奇麗事を並べ立てようが、それが人間ってヤツの本質だ。
でもな……」
と、そこでジュンイチは言葉を切った。ディケイドライバーを装着し、バックルを展開し、
「それでも……オレはコイツらが好きなんだよ。
だから守る――正義とか法とかじゃない。オレが守りたいから、守るんだ!
変身!」
《KAMEN-RIDE!
“DECADE”!》
カードを装填、読み込ませ――次の瞬間、ディケイドへと変身したジュンイチはライドブッカーをガンモードに切り替えて地を蹴る。
狙いはガミオ――ではなく、彼への行く手を阻んでいるガドルだ。ガンモードのライドブッカーを連射しながら突撃、至近距離で素早くソードモードに切り替えて一撃を狙うが、
「――――――ムンッ!」
「ぅわっとぉっ!?」
ライドブッカーの射撃程度ではビクともしなかったガドルは、あっさりとジュンイチの攻撃に対応した――左手の剣で斬撃を受け止め、右手の剣で反撃に移るが、ジュンイチもそれをかわして距離を取り、
「それなら!」
《ATACK-RIDE!
“BLAST”!》
“BLAST”のアタックライドで射撃能力を強化した上で再度射撃――さすがにこれはガドルも警戒したか、両手の剣でジュンイチの放った弾丸を弾き飛ばしていく。
だが――
「――もらいっ!」
先ほどの突撃の繰り返し――銃撃を続けながら、ジュンイチはガドルの懐に飛び込んでいた。素早く身をひるがえし、裏拳の要領でガドルの手から大剣を弾き飛ばす。
「――ガァッ!」
「ぐ………………っ!」
それでもガドルはすぐに反撃――繰り出された拳をなんとかガードするものの、ジュンイチは今自分がしたのと同様にその手からライドブッカーを弾かれてしまう。
「――だからって!」
ライドブッカーを取りに行く余裕はない。そんなことをすれば、ガドルにも次の武器を用意させてしまう――迷うことなく格闘戦を選択し、ジュンイチはガドルへと拳を繰り出し、同様の結論に達したのか、ガドルも素早くそれをガードする。
そのまま、ガドルの反撃を許すまいと拳を、蹴りを次々に繰り出していくジュンイチ――しかし、ガドルはそれをことごとくさばいている。
――いや、さばいているだけではない。高速で繰り出されるジュンイチの攻撃をさばきつつ、ガドルはさらに反撃まで繰り出し、しかもそれはジュンイチを確実にとらえている。
ジュンイチも防御できていないワケではないのだが、そのガードの上からも容赦のない衝撃が叩きつけられ、それが彼に確実なダメージを刻んでいるのだ。
「ジュンイチ!」
明らかにジュンイチの方が押されている――あわてて援護に向かおうとするスバルだったが、
「スバル、危ない!」
「――――――っ!?」
ティアナの上げた警告の声に、スバルはとっさに後退――次の瞬間、スバルのいたその場に、巨大な鉄球が叩きつけられた。
「上級クラスが、他にも……!?」
今まで相手をしてきたグロンギとは明らかに段違いの威力の一撃――スバルが合流、つぶやくエリオの前で、カメがベースとなったグロンギ、ゴ・ガメゴ・レは力任せに鉄球を引き寄せた。
◇
「――クソッ、ウジャウジャいやがる……!」
行く手には、道路を埋め尽くさんばかりに群れを成すグロンギの大群――ゲンヤの喝によって己を取り戻し、仲間達の元へと急ぐノーヴェだったが、ここから先はすんなり進めそうにない。舌打ちまじりに、こちらに気づいたグロンギ群をにらみつける。
「通してくれそうにねぇか……!
こっちは急いでるっつーのに!」
舌打ちするが――ためらっている時間すらも惜しい。ノーヴェは意を決してトライチェイサーを停め――
「降りるな」
「――――――っ!?」
突然の声がノーヴェに告げた。驚き、周囲を見回すが、そこには誰の姿もなく――
「上だ」
改めてそう告げて――声の主はノーヴェの傍らに舞い降りた。
マントで全身を隠したひとりの男だ――頭もフードをかぶっており、その表情をうかがい知ることはできない。
「だ、誰だ!?」
「オレのことなどどうでもいい」
ノーヴェの問いかけにそう答えると、男はすぐ右に伸びているわき道を指さし、
「向こうの通りはまだグロンギの数も少ない。貴様なら変身せずとも比較的安易に突破できる程度だ。
多少遠回りになるが――ここを突破していくよりは早く中心部にたどり着けるはずだ」
「お前、一体……!?」
「オレの正体の詮索とは……ずいぶんと余裕だな。
仲間達は大丈夫なのか?」
「………………っ!」
男の言葉に唇をかみ――しかし、ノーヴェの迷いは一瞬だった。
「しかたねぇ!
信じてやるよ!」
「そうしろ」
そっけなく答える男の言葉に、ノーヴェは舌打ちまじりにトライチェイサーを反転。わき道に飛び込んでいく。
それを追おうと地を蹴るグロンギ達だが――
「悪いな、ここから先へは行かせん」
言って、男はその進路をふさぐように彼らの前に立ちふさがった。
そんな彼に向け、グロンギ達は一斉に襲いかかり――
「…………バカめ」
言って――男は静かに右手を頭上にかざし、
「このオレを前にして……素直に退けばいいものを」
その言葉と同時――
通りを“青い炎”が埋め尽くした。
◇
「が…………ぁ……っ!」
こちらの打撃を防御力任せに受け止め、カウンターの一撃――ガドルの強烈な蹴りを腹に叩き込まれ、ジュンイチは変身も解除され、轟音と共にビルの外壁に激突。外壁を粉砕して内部に叩き込まれる。
逆流してきた胃の内容物を吐き出し、口元をぬぐいながらなんとか立ち上がるが、その表情にはダメージが色濃く表れている。
それはつまり、いつもひょひょうとして本音を見せない彼が“隠し切れないほどのダメージを受けている”ということに他ならず――
「…………解せんな」
そんな彼に対し、ガドルが初めて言葉を発した。
しかも、ガミオと同じく人間の言葉を。
「ここまで打ちのめされれば、力の差は歴然。
すでに敗北は決定されたこと……おとなしくグロンギとなるがいい」
「冗談じゃねぇ。
どんな怪人になるかもわかんねぇのに、ンなもんになってたまるか」
「前例がないから確証はないが……自らの意思でグロンギとなれば、あるいは任意の種の怪人になれるかもしれんぞ」
「………………」
「悩むなよ!」
倒れているヴィータからツッコミが飛んだ。
「いずれにせよ、未来は変わらない。
お前達も死してグロンギとなる――お前達に、勝機はない」
「そいつぁ、ちっとばかり気が早いってもんだぜ、ガドルさんよ」
告げるガドルに対し、ジュンイチは気を取り直してそう答えた。
「何しろ――こっちはまだ切り札を残してんだからな」
「クウガか……
だが、未だに姿を見せないではないか――臆病風にでも吹かれたか?」
「そんなことない!」
そうガドルに答えたのは、ガメゴと戦うスバルだった。
「ノーヴェは来るよ……絶対に!」
「対した自信だな。
だが――」
告げるスバルの言葉につぶやき――ガドルが動いた。一瞬にして距離を詰め、スバルを弾き飛ばす。
「がは…………っ!?」
「それも、間に合わねば意味はない。
ここで死して、グロンギとしてクウガと対するがいい」
「させるかよ!」
地面に叩きつけられるスバルへと告げるガドルに言い返し、背後から飛びかかるジュンイチだったが、ディケイドに変身してもかなわなかったガドルに、“力”を封じられた今のジュンイチがかなうはずもない。無造作に振るわれた拳によって大地に叩きつけられ、スバルの目の前に倒れ伏す。
そして、ガドルは身を起こし、スバルをかばうようにこちらをにらみつけるジュンイチへと拳を振り上げ、
「あきらめろ。
人は死して――すべてグロンギとなる!」
告げると同時、その拳を振り下ろし――
「でやぁぁぁぁぁぁっ!」
「――――――っ!?」
それは一瞬の出来事――咆哮と共に飛び込んできた影の体当たりを受け、ガドルは思い切り弾き飛ばされる。
そして、その体当たりの主はジュンイチとスバルの目の前で動きを止め――
「…………ノーヴェ!」
「待たせたな」
思わず声を上げるスバルに答え、ノーヴェはトライチェイサーから降り、ガドルを始めとしたグロンギの群れと対峙する。
「もう心配ない。
あたしは……戦う!」
「あのオッサンのためか?」
「お前らばっかりに戦わせてたら、笑ってくれないからな。
あの人も――他のヤツらも!」
聞き返すジュンイチに答え、ノーヴェは飛びかかってきたグロンギをカウンターで蹴り飛ばし、後に続く別のグロンギも殴り倒す。
「こんなヤツらのために、これ以上誰かの涙を見たくない!
みんなに笑顔で……オッサンみたいに、笑顔で、いてほしいんだ!」
言って、ノーヴェは周囲を取り囲むグロンギ達を威嚇するようににらみつけながら、ジュンイチ達に向けて改めて告げる。
「だから見てろ! あたしの……変身!」
その言葉と共に、両手を腰に添え――それに伴い、彼女の腹に戦士クウガの証、“アークル”が現れる。
右腕を腰だめにかまえ、左手を右前方に突き出す――左手を水平に動かし、自らを戦士に変える言葉を放つ。
「変身!」
瞬間――ノーヴェの姿が変わる。
真紅の体躯に、金色の角――古代から蘇った戦士、クウガとなってガドルやガミオと対峙する。
だが――クウガを前にしても、ガミオはむしろ余裕の笑みを浮かべていた。彼女ではなくジュンイチへと視線を向け、
「見たか! こやつは自らの意思でクウガとなり、自らの意思で戦いに現れた!
人間は強さを求め、戦いを求める! グロンギになるのも定めだ!」
先ほどの自分の言い分こそが正しかったとばかりに、勝ち誇って告げるガミオだが――
「るせぇ、犬っコロ」
淡々と言い放ち――ジュンイチはその場に立ち上がった。
「何カン違いしてやがる。所詮は畜生の脳ミソか?
こいつが戦うのは、戦いを求めているからじゃない」
変身が解除された時に弾き飛ばされていたディケイドライバーへと歩み寄り、無造作に拾い上げながらジュンイチは続ける。
「こいつが戦うのは……戦いの怖さを知ってるからだ。
かつて犯罪に加担し、戦い、過ちを犯した……戦いの中で、多くの人達を傷つけた。
だからこそ、こいつは戦うことがどういうものか……戦いがどんなに恐ろしいものであることを知ってる。
だからこいつは戦うんだ……“戦い”という過ちを犯すヤツが、自分ひとりになる、その日を目指して!
誰もが戦わなくてすむような――誰もが、自分の大切な人のような笑顔でいられる、そんな世界を作るために!
だから……」
しっかりと大地を踏みしめ、力強く拳を握りしめ、宣言する。
「オレは守る。
みんなのを守るばっかりに夢中になって、本人がちっとも守ろうとしてない、コイツ自身の笑顔をな」
言って、ジュンイチはノーヴェへと視線を向け、そのままガミオに告げる。
「知ってるか?
いつもブスッとしてるせいで、かーなーり、レアだけどさ……コイツの笑顔、けっこう悪くないぜ」
「………………っ!」
不敵に笑うジュンイチの笑顔に、期せずしてノーヴェの顔が朱に染まる――
笑顔をほめられるのも、「守ってやる」などと言われるのも、彼女にとっては初めての経験だ。どう応じればいいのかわからず、鼓動だけが速くなっていく。
「…………ふ、フンッ!
お前なんかに『守ってやる』なんて言われちまうなんてな!」
結局、彼女の口から出たのはいつもの強がりだった。プイとそっぽを向いてジュンイチに告げ――ため息まじりに苦笑し、
「やれやれ……一生の不覚だぜ」
「あー、それそれ。その笑顔がいいんだよなー♪」
「う、うっせぇ!」
ジュンイチにしてみれば「今しがた自慢したばかりの笑顔が見れて満足」ぐらいの認識しかなかったのだろうが――セリフ自体はほとんど口説き文句だ。顔を先ほど以上に真っ赤にしたノーヴェが声を上げ――
「………………?」
突然、ジュンイチのライドブッカーが震えた――ジュンイチが見下ろすと、中から数枚のカードが飛び出してきた。ジュンイチの手の中に収まると、そのすべてにクウガを描いたイラストが浮かび上がる。
「クウガの、“力”か……!」
それは、そのカードに本来宿っていたクウガの“力”が蘇ったことを示していた。笑みを浮かべ、ジュンイチはそれをライドブッカーに戻し、
「……なら、オレもちょいと気合いを入れ直しますか♪」
言いながら、ジュンイチはディケイドライバーを腰にあてた――同時、ディケイドライバーから伸びたベルトが腰に巻かれ、ライドブッカーもそのベルトに固定される。
「ムダだ。
“究極の闇”は、誰にも止められん!」
「知るかよ、ンなもん」
言い放つガミオだが、ジュンイチはそれでもキッパリと答えた。
「オレがお前をブッ飛ばすのは、お前がコイツらに牙を向けるからだ。
“究極の闇”なんか関係ねぇ――コイツらを傷つけようとするなら、それが光だったとしてもオレの敵だ。
オレの身内に手ェ出すヤツぁ……」
「光も闇も、叩きつぶす!」
「………………ガァッ!」
そんな彼の宣言に動いたのは、ガミオではなくそのしもべだった――周りを埋め尽くしているグロンギの1体が咆哮すると共に、彼の周りのグロンギ達が一斉にジュンイチへと襲いかかる!
「くそ――――っ!」
まだジュンイチはディケイドに変身していない。変身の時間を稼ごうと、グロンギ達に対して身がまえるノーヴェだったが――
「ジャマ!」
ジュンイチが咆哮――同時、振るった右手から灼熱の渦が放たれた。ジュンイチの放った炎の渦が、グロンギ達をまとめて焼き払う!
『な………………っ!?』
今までのディケイドの“力”とは明らかに違う。ジュンイチの予想外の反撃に、思わずガミオが、ガドルが、となりのノーヴェまでもが声を上げる――が、
「………………あれ?」
予想外だったのはジュンイチにとっても同じだった。自分でも反射の上での行動だったのか、炎を放った自分の右手に呆然と視線を落とす。
「お、お前、あんなコトできたのか!?」
「い、いや……できたことはできたけど……“滅びの現象”が起きて以降、まともに使えなくなってたのに……」
尋ねるノーヴェの問いにそう答え――
「………………ん?」
そこでふと、ジュンイチの脳裏にある可能性がよぎった。
自分の炎が使えなくなったのは、“滅びの現象”によって世界が死にかかっていたのが原因だった。
その自分の炎が再び使えるようになったということは――
(この世界での“滅びの現象”が、止まった……?
まさか、ノーヴェが“クウガ”として成長を遂げたことで……本当の意味で“仮面ライダー”となってことで……?)
考え込むジュンイチだったが――そんな彼の姿をスキと見たか、ティアナ達と対峙していたガメゴがジュンイチに襲いかかる!
「危ない!」
悲鳴に近いギンガの声が上がる中、ガメゴは鉄球を手にジュンイチに殴りかかり――
“ジュンイチの拳が”ガメゴの腹に突き刺さっていた。
繰り出された拳は、カウンターに気づき、ガードのためにかまえたガメゴの鉄球も難なく粉砕した。容赦なく叩き込まれた拳を受け、ガメゴの身体が「く」の字に折れ曲がる。
「……グ……ガ…………ッ!?」
予想だにしなかった一撃に、ガメゴの胃から、肺から空気が叩き出される――かまわず拳を引き、ジュンイチは身をひるがえし――
蹴飛ばした。
ガメゴの顔面に、ジュンイチの繰り出した後ろ回し蹴りがヒット――吹き飛ばされたガメゴは一直線に空を貫き、その先のビルのガラスを突き破ってその中に飛び込んでいった。
「………………うそぉ……」
ガメゴの死を示す爆発がビルの中で巻き起こる中、呆然とヴィータがつぶやくが、当のジュンイチは自分の身体の感触を確かめるように拳を握り、開いてを繰り返し、
「…………フッ」
その口元に笑みが浮かんだ。ゆっくりと振り向き、ガドル――そしてその先にいるガミオへと向き直る。
「喜べ、お前ら。
いろいろゴタゴタしちまったが――『本気』宣言して早々、さっそく見せてやれそうだ」
そう前置きし――告げる。
「これが“オレ”だ」
「貴様……何者だ!?」
「今言ったはずだ」
不敵な笑みと共に告げるジュンイチに、ガミオは思わずそう尋ねる――対し、ジュンイチはライドブッカーからディケイドのカメンライドカードを取り出し、答える。
「何者もクソもねぇ――オレはオレだ!」
そして、展開したディケイドライバーにカードを装填、セットし――
「変身!」
《KAMEN-RIDE!
“DECADE”!》
宣言と同時、ジュンイチの姿が変わる――ディケイドとクウガ、二人の仮面ライダーが並び立ち、ガミオをにらみつける。
「――――――っ!」
そんなジュンイチ達の姿に、ガドルが動く――地を蹴り、一気に間合いを詰めるとジュンイチに向けて刃を振り下ろし――
「残念」
ジュンイチが静かに告げ――ガドルの攻撃は止められていた。
彼が無造作に掲げた、ソードモードのライドブッカーによって。
「な………………っ!?」
まさか、自分の攻撃がこうも簡単に――驚愕するガドルだったが、
(あれは…………?)
一方で、ノーヴェは気づいていた。
ジュンイチの周囲で、今までとは明らかに違う“力”が――ジュンイチ自身の“力”があふれ出し、それがフィールドを形成している。おそらくこれが、ジュンイチの身体能力を強化しているのだろう。
「悪いな、ガドル。
さっきまでとは――気合いの入りが違うんだよ!」
そう告げると同時に身をひるがえし――ジュンイチが刃を振り下ろした。繰り出された斬撃が、ガドルの大剣を一撃のもとに叩っ斬る!
「く………………っ!」
とっさに距離を取り、次の武器を作り出そうとするガドルだが――
「逃がすかよ!」
ジュンイチの方が速い。ガドルの後退する以上のスピードで彼に肉迫し、
「せっかく“力”も戻ったし――ネタ技いきます!」
そう告げた瞬間、ジュンイチの手の中に炎が生まれた。両手に生み出したそれをつかむかのように、ジュンイチは拳を握りしめ――
「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
某少年漫画でおなじみの掛け声と共に、ガードを固めたガドルに向けて拳の雨をお見舞いする!
対し、ガドルは両腕の生体装甲で懸命にジュンイチのラッシュに耐えているが――
「ドラララララララララララララララァッ!」
掛け声が変化し、さらにラッシュの勢いが増す――立て続けに叩きつけられるその衝撃に、ガドルの生体装甲にヒビが走り――
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
砕け散った。腕をへし折られ、顔面といい胸部といい、上半身全体に拳を叩き込まれ、ガドルの身体は頭上高く跳ね飛ばされる。
「オレ的フェイバレットがひとつ――“オラオラ三段活用”」
ジュンイチが締めくくると同時、ガドルの巨体が大地に叩きつけられる――ヨロヨロと身を起こすガドルに対し、ジュンイチはライドブッカーからカードを取り出した。
そこに描かれているのは、イラスト面一面に描き出された紅蓮の炎――ジュンイチは迷うことなくそれをディケイドライバーに装填し、
「やいガドル!
黒焦げにしてやっから覚悟しな!」
《ASSIST-RIDE!
“BLAZE”!》
ディケイドライバーからのシステムボイスと共に――ジュンイチの、ディケイドの周囲の炎がその勢いを増した。
アシストライド“BLAZE”――ディケイドではなくジュンイチの力に干渉、彼の武器である炎を強化するカードである。
さらに、ジュンイチはもう一枚カードを装填、セットし――
《FINAL-ATACK-RIDE!
“DE〈“DE〈“DE〈“DECADE”!》
発動させたのはファイナルアタックライド。同時、ジュンイチの眼前に光で形作られた10枚のカードが自分とガドルの間に配置される。
そして、ジュンイチは拳を握りしめ、目の前のカードに飛び込み――カードがジュンイチと炎を導いた。カードの列の中を駆け抜けていく中、炎は勢いを増し、竜の姿を形作っていく。
そのまま、ジュンイチは一気にガドルへと距離を詰め――
「ディケイド、ギガフレア!」
炎をまとった拳を叩き込んだ。打ち込まれた拳に導かれ、炎の竜がガドルに襲いかかり――飲み込んだ。
竜は巨大な火柱となり――爆発。轟音と共に四散した後には、かつてゴ・ガドル・バという名のグロンギであった人型の消し炭だけが残されていた。
「フェイトちゃん、私達も!」
「うん!」
「ヴィータ、わかっているな?」
「当然だ!
ひよっこ達やぽっと出のヨソモノにばっかり、オイシイところを持ってかれてたまるかよ!」
“力”を取り戻し、ガドルを文字通り圧倒したジュンイチの姿に、周りで戦うなのは達もまた奮起していた。なのはとフェイト、シグナムとヴィータがそれぞれに言葉をかわし、グロンギの群れへと立ち向かっていく。
立ち向かうグロンギ達だが――ガドルらのようなゴ種でもなければなのは達の敵ではない。なのはの砲撃がグロンギの群れを薙ぎ払い、フェイトが、シグナムが、ヴィータが、生き残りを次々に叩いていく――
「ぅわぁ……なのはさん達、すごいなー……」
「自分達の勝てなかったガドルをジュンイチが倒しちゃったもんだから、対抗意識メラメラね……」
「おかげでボクら、出る幕ないんですけど」
「うん……」
そんななのは達の暴れっぷりにスバル達が口々につぶやくが――
「まったく……そんなこと言って、スバル達だってしっかり全力全開じゃない」
「お前もな」
そういうスバル達も、応えるギンガも、そんな言葉を交わす一方でしっかり手近なグロンギを叩き伏せている――ちなみにツッコむチンクも、ちょうど目の前のグロンギを自分の能力“ランブルデトネイター”で爆砕したところだったりする。
「さぁて……ザコの掃除はみなさんに任せるとして……」
「オッサンを助けるためにも、速攻で本命を叩く!」
そんな周りの奮闘に助けられ、ジュンイチとノーヴェは一気にガミオを叩こうとするが――いかんせん数が多すぎる。未だ幾重にも重なるグロンギ達の防衛ラインは、本調子に戻ったジュンイチと言えどそう簡単には突破できそうにない。
「くっそぉ……! キリがねぇぜ!
ジュンイチ、何か切り札になりそうなカードはねぇのかよ!?」
「うーん……一応あるけど……」
「なら使えよ!」
「………………いいの?」
「何でイチイチ確認すんだよ!?
いいからさっさとやっちまえ!」
「…………了解」
確認した上でOKが出たんだから問題ないだろう――ジュンイチはライドブッカーのカードホルダーから新たに1枚のカードを取り出した。ディケイドライバーに装填、セットし――
《FINAL-FORM-RIDE!
“KU《“KU《“KU《“KUUGA”!》
「さて……ちょいと柔軟体操、いってみようか!」
「は?」
いきなり声をかけられ、首をかしげるノーヴェだが――ジュンイチはかまうことなく彼女の背後に回り込み、その背中に手を添えた。
と――ノーヴェの背中が“割れた”。突然ノーヴェの背中がジュンイチの手によって開かれ、その中から漆黒の甲羅が姿を現したのだ。
「えっ!? ちょっ、何だぁっ!?」
驚き、ノーヴェが声を上げる中、彼女の、クウガの姿は巨大なカブトムシを思わせる生物へと変化していく。
これぞ、ノーヴェの変身するクウガがファイナルフォームライドによって変身した姿、名づけて“クウガゴウラム”である。
「こ、これは……!?」
「これが……オレと、お前の力だ」
突然の自分の変化に戸惑うノーヴェに答え、ジュンイチは彼女の、クウガゴウラムとしての頭を軽くなでてやる。
「そんなワケで――いったれ、ノーヴェ!」
「おぅよ!」
そして、ジュンイチの号令によって、ノーヴェはグロンギ達の群れへと突撃――そしてジュンイチも再び別のカードをディケイドライバーにセットし、
《ASSIST-RIDE!
“AIR-LINER”!》
新たなアシストライドのカードを発動――同時、ジュンイチの足元に帯状の魔法陣が展開された、それを足場にし、ジュンイチもグロンギ達の防衛ラインをその頭上から突破していく。
「く…………っ、おのれぇっ!」
そんなジュンイチやノーヴェに対し、ガミオが自身の“力”を波動として解き放つが――当たらない。ジュンイチもノーヴェもそれを回避。跳躍したジュンイチをノーヴェは自らの背中に乗せ、二人は一気にガミオへと突撃し、
『どぉりゃあっ!』
クウガゴウラムのハサミが腹に、ジュンイチの拳が顔面に炸裂。二人の同時攻撃をまともにくらい、ガミオの身体はビルの外壁へと叩きつけられる。
そして、ジュンイチはそのまま眼下の地面に着地し、ノーヴェはガミオの頭上へ上昇――ガミオがその身体をビルの中から引き抜くのを見ながら、ジュンイチはまたもや新たなカードをディケイドライバーにセットする。
《FINAL-ATACK-RIDE!
“NO《“NO《“NO《“NOVE”!》
発動するのはファイナルアタックライド――しかし、それはジュンイチの、ディケイドのものではなかった。上空でクウガゴウラムからクウガに戻ったノーヴェの足元に、先ほどジュンイチの足元に展開されたものと同種の帯状魔法陣が展開され、ノーヴェはそれを足場にガミオに肉迫し――
「オォォォォォッ!」
渾身の咆哮と共に、ガドルに向けて乱打を叩き込む!
しかも、ただの乱打ではない。そこにはノーヴェの、そしてクウガの力だけではなく――ジュンイチの発動させたファイナルアタックライドの力も込められている。強烈な乱打をまともにくらい、ガミオは空中で大きく姿勢を崩し――
「ブレイク、ライナー!」
フィニッシュの一撃が炸裂――全体重を乗せた蹴りがガミオの腹を捉えた。ガミオの身体は一直線に地面に向けて落下。轟音と共にアスファルトを粉砕し、地中に叩き込まれる。
「ぐ………………っ! クソッ!」
さすがに形勢不利と悟ったか、地中から脱出したガミオはそのまま上空へと離脱。戦場からの闘争を図るが――
「そうはさせへんよ」
そんな彼の前に立ちふさがったのはバリアジャケットを身にまとったはやてである。あわてて転進、別方向に逃げようとするが――
「逃がすか!」
一瞬の遅れが命取り――未だ残るファイナルフォームライドの効果で再びクウガゴウラムとなったノーヴェが、逃げるガミオをそのハサミで背後から捕獲する!
「ジュンイチ! いくぜ!」
「おぅよ!」
これでトドメだ――ノーヴェの声にうなずき、ジュンイチは勝負を決める“切り札”を切った。ライドブッカーから取り出したカードをライドブッカーに装填、セットする。
《FINAL-ATACK-RIDE!
“KU《“KU《“KU《“KUUGA”!》
読み込んだのはクウガのファイナルアタックライド――しかし、ファイナルフォームライドと組み合わせることで、それはより強力な必殺技へと姿を変える。カードの“力”を受け取ったノーヴェはガミオを捕まえたまま加速、上空から地上のジュンイチめがけて急降下していく。
そして、ジュンイチもまた重心を落としてかまえを取った。右足にカードの“力”が収束していき――さらにそこにジュンイチが自らの“力”をプラスした。カードの“力”で輝いていた右足が炎に包まれ、“力”の白い輝きと併せて白金の炎となってその勢いを増していく。
急降下してくるノーヴェ――正確には彼女の捕まえているガミオ――に向けて跳躍。筋力強化と“力”の噴射による加速で一気に標的との距離を詰めていく。
「くらいさらせ!」
「これが、あたし達の――!」
『全力、全開だ!』
そして――咆哮と共に一撃を放つ。
『ディケイドアサルト!』
急降下してきたガミオの顔面に渾身の一撃。叩き込まれたジュンイチの“力”が、ハサミを通じてガミオに流し込まれていたノーヴェの“力”と反応、大爆発を巻き起こす。
すさまじい衝撃がまき散らされる中、それを至近距離で受けたはずのジュンイチはバランスを崩すこともなく難なく着地。となりにクウガゴウラムへの“変形”を解除したノーヴェが降り立ち――ジュンイチがそろえた右の人さし指と中指で天を指し、告げる。
「Finish――completed.」
告げると同時――ディケイドアサルトを受け、炎に包まれたガミオが大地に落下した。
それでも、未だ絶命には至らない。身体を焼かれながらも身を起こすガミオに対し、ジュンイチは静かに歩み寄っていく。
もちろん――まだ抵抗してくるようなら全力でつぶすつもりだ。ファイナルアタックライドのカードを用意しながら、ガミオに告げる。
「お前も……かつては人だったのかもな」
「……な、なら貴様は、何処から来た……?」
息も絶え絶え、といったようすで、ガミオが聞き返してくる――が、ジュンイチはサラリと答えた。
「知るか」
「…………何……?」
「『どこから来た』? 『どこに行く』? 知らねぇよ、そんなの。
どこから来ようが、これからどこに行こうが……オレは今、ここにいる」
「…………そうか……」
ジュンイチの言葉にうなずくガミオだが――そんな二人のやり取りを少し下がったところで見ていたノーヴェには、そのガミオの顔がどこか憑き物の取れたような、スッキリした笑顔のように見えていた。
「貴様なら……グロンギになったとしても、貴様のままであり続けられたであろうな……
……グロンギとなったリントなのか、生まれながらのグロンギだったのか……己すら定まっていなかったオレが、勝てる相手ではなかったか……」
言って、ガミオはヨロヨロと立ち上がり――後退した。
まるで、これから起きることにジュンイチ達を巻き込むまいとするかのように。
「リント……
……闇が、晴れるぞ……!」
そう告げて――ガミオは爆発、四散した。それを確かに見届け、ジュンイチもディケイドライバーを腰から外して変身を解き、
「訂正だ。
闇は“晴れる”んじゃない……コイツらが“晴らす”んだ。
それから……」
告げながら、ライドブッカーで肩をトントンと叩き、続ける。
「オレはリントじゃない――」
「柾木ジュンイチだ」
◇
ガミオが倒れたことで、生き残っていたグロンギ達も消滅した――その確認に手間取り、少し遅れてしまったが、それでもノーヴェ達は病院に戻ってきた。
「オッサン!」
声を上げ、ノーヴェはあわててゲンヤの病室の扉を開け――
「――――――っ」
息を呑んだ。
取りつけられていたはずの人工呼吸器が外され、静かに眠るゲンヤの姿を見て。
呆然と――ベッドの傍らで、無言でゲンヤを見下ろしていたジュンイチへと視線を向ける。対し、ジュンイチも彼女の意図を汲んで口を開いた。
「オレが来た時には、もうこの状態だった……」
「……そんな……!」
「間に……合わなかった……」
ジュンイチの言葉に、ギンガやその場にへたり込んだスバルもまた、呆然と声を絞り出す。
チンクはもちろん、ティアナも、エリオも、キャロも何も言えない。しばし、その場を沈黙が支配し――
「…………くかぁー……」
『………………は?』
聞こえてきた寝息に、一同の目がテンになった。
「…………えっと……?」
恐る恐る、スバルがゲンヤの口元に手をあて――ゲンヤの口から吐き出された息が彼女の手にあたった。
「……ジュンイチ?」
「言ったぞ。
『オレが来た時には、もうこの状態だった』ってな」
声をかけるチンクに、ジュンイチはあっさりと答えた。
「誓って言おう。オレは何も手は出してない。
ただ単に、呼吸が安定して不要になった人工呼吸器を取り外されたオッサンを見たお前らが勝手にカン違いしただけで――」
間。
「…………ん……」
「父さん!」
しばしの後、ゲンヤは目を覚ました。ゆっくりと目を開けた彼の姿に、ギンガが歓喜の声を上げる。
「よかったです、ホントに……!」
「一時は、どうなることかと……!」
「心配かけちまったな、ちびっこのお前らにまでさ」
ゲンヤの無事に涙ぐむエリオにキャロに答え、ゲンヤは二人の頭をクシャクシャとなでてやり、
「ところで……」
意識を取り戻すなり、すさまじく気にかかる光景に出くわした気がする――“そちら”を指さし、尋ねる。
「アイツらは……人の病室で何してんだ?」
「気にしないでおいた方がいいですよ」
あっさりと答え、ティアナも“そちら”に視線を向け――
「だいたいなんで最初にオッサンが生きてるってことを言わねぇんだよ!?」
「やかましいっ!
オレだって先行して病室に入るなりビックリしたんだよ! 八重ちゃん達は気がついた時にオッサンに飲み食いさせるもの買いに行ってて留守だったし!
呼吸器外されてたオッサン見て心臓止まるかと思ったぞ! てめぇらも同じ目にあいやがれ!」
「知るかそんなの!
っつーか、お前それだけのために八重達に人払い頼んでたのかよ!? 徹底しすぎだろ!」
「当然だ!
この柾木ジュンイチ、人をハメるためなら修羅にもなろうぞ!」
「胸張って宣言するようなことかぁぁぁぁぁっ!」
場所が場所だけに飛び回るワケにもいかずに足を止めての打ち合い――防音結界まで張ってタイトルマッチ顔負けの殴り合いを繰り広げるジュンイチとノーヴェの姿に、一同はまったく同じタイミングで肩をすくめるのだった。
◇
「まぁ、何だかんだあったけど、これで事件も解決か」
「最後に思いっきり禍根を残した気もするんですけど……」
結局ノーヴェとの殴り合いは医者の乱入で水入り。エキサイトしたままのノーヴェにかまわず病室を辞し、七瀬家に戻ってきたジュンイチの言葉に八重はため息まじりにツッコみを入れる。
が――そんなことで反省するジュンイチではない。まったく気にすることなく肩をすくめ、告げる。
「いいじゃねぇかよ。
オレ達のこの世界での使命は終わったんだし」
「この世界の滅びを止めるのが、使命だったってこと?」
「たぶんな」
聞き返すにわに答えるジュンイチだったが――
(たぶん……違うと思いますけど)
そんなジュンイチ達の姿を見つめながら、八重は心の中でつぶやいた。
(きっと、ジュンイチくんが救ったのはこの世界じゃない。
この世界で、本当にジュンイチくんが救ったのは……この世界のライダー、ノーヴェさんの心だったんじゃないかな?)
だが、口にしたところであの意地っ張りは何食わぬ顔で否定するだけだろう。その光景を思い浮かべ、八重はクスリと笑みをもらし――
「………………?
何?」
「いえ、何も」
気づいた意地っ張りの問いにも適当にごまかしておく。首をかしげるジュンイチを伴い、八重は居間へのふすまを開け――
『でぇっ!?』
居間では、この世界に来た証である、ミッドチルダの風景の描かれたふすまが煌々と光り輝いていた。予想外の光景に、ジュンイチ達は思わず後ずさりし、ずっとそこにいたであろう七瀬家の家長、幸江に真紀子が尋ねる。
「あ、あのー……幸江さん?
これは一体……?」
「さぁ……
なんだか、外の騒ぎが収まってからずっとこうなのよ」
しかし、動揺しているジュンイチ達をよそに、幸江はいたって普通にそう答えた。
「まぁ、いいんじゃない? 綺麗だし」
「『綺麗』って……それでいいのか、七瀬母」
あっさりと状況を受け入れてしまっている幸江の言葉にジュンイチがツッコんだ、その時――ふすまの中からカードが飛び出してきた。ジュンイチがそれをキャッチし、内容を改める。
この世界に来る際、ふすまに溶け込んだあのカードだ――ただし、空白だったイラスト面には、ふすまに描かれていたはずのミッドチルダの風景が描かれている。
カードを裏返し、そこに記されているカードの分類名を読み取り、ジュンイチは静かにうなずいた。
「“JOURNEY-RIDE”……
なるほど。これが、このカードの本来の姿ってワケか……」
「どういうカードなん?」
「“JOURNEY”……すなわち“旅”だ。
効果はわからないけど……少なくとも、それぞれの世界でオレ達がやるべきことを果たした時、ライダーのカードと同じくこのカードも力を取り戻すみたいだな」
尋ねる多汰美にジュンイチが答えると、カードを吐き出したことで現象が安定したのか、ふすまの輝きが消えていく。
そして、光が完全に消えた時――ふすまの絵柄は一変していた。
満月の夜と高くそびえ立つ中華風の塔、そしてその塔からドラゴンの首と手足が生えている。
さらに、絵の下部には、無数の旗が並んでいる――その旗に記された文字を見て、ジュンイチはつぶやいた。
「“魏”、“呉”、“蜀”……
どうやら、次のライダーの世界には、三国志に類する物語がからんでるらしいな……」
◇
「グロンギとの戦いも決着か……
対策本部も解散かな?」
「そう簡単にはいかないわ。
ガミオが倒れた時に消滅したグロンギがすべて、とは限らないもの――生き残りがいないと確認されるまでは、対策本部はそのままなんじゃないかしら?」
ゲンヤも無事に退院し、戻ってきた日常――隊舎から出て背伸びするスバルを「はしたない」とたしなめ、ギンガはそう答える。
「ノーヴェはどうするの? これから」
「そんなの、決まってる。
グロンギの問題が完全に片づくまでは対策本部を手伝う。
でもって……」
尋ねるスバルに答え、ノーヴェは雲ひとつない青空を見上げた。
「この事件が終わったらさ……ちょっと、考えてみる。
管理局の仕事を手伝ってたの、“ドクターを手伝った罪滅ぼし”とか“オッサンのため”とか……そんな風に思ってたけどさ……なんつーか、もっと別の目的があってもいいと思ってさ」
「“笑顔のために”……とか?」
「それを挙げるな。あのバカを思い出す」
スバルの言葉にノーヴェが口を尖らせると、
「ほら、何してんの、アンタ達」
エリオやキャロと共に若干先行していたティアナが彼女達に向けて声をかけてきた。
「ゲンヤさんの退院祝いの買い出し、早く行かないとスーパーが混んじゃうじゃない。
それに、行きがけにジュンイチ達のトコにも寄るわよ。世話になったんだし、アイツらも誘わないと」
「わかってるよ、ティア!」
ティアナの言葉にスバルが答え、ノーヴェ達も後に続く――
しかし、彼女達は知らない。
ジュンイチ達との再会がもうすぐ、彼女達の思いもしない形で訪れることになるのを。
そして――
その再会をもたらすのが、上空から彼女達を見下ろす白いコウモリのような生物であることを――
Next World is “KIVA” and ……
次回、仮面ライダーディケイドDouble!
八重 | 「また別の世界に来たんでしょうか……?」 |
ジュンイチ | 「『キバ』の世界か…… けど、もうひとつの物語は何だ……?」 |
???? | 「ディケイド……ディケイドだと!?」 |
キバット | 「コイツ、キバーラが警告していた……!」 |
???? | 「貴様のことは聞いている! 悪魔め!」 |
ジュンイチ | 「やれやれ、また“悪魔”か……」 |
ジュンイチ | 「変身!」 |
八重 | 「ノーヴェさんと同じ、クウガ……!?」 |
???? | 「私は……王にはならない……!」 |
ジュンイチ | 「なんでオレと戦う!?」 |
カイザ | 「ジャマなんだよ……!」 |
第4話「苦悩姫君」
Wake up! 運命の鎖を、解き放て!
(初版:2009/08/19)
(第2版:2012/04/15)(書式修正)