「………………っ、とぉっ!」
言動は粗暴そのものでも、その戦闘力までなめてかかれるものではない――自分の首を正確に狙ってきたカイザの鋭い斬撃をかわし、ディケイドに変身したジュンイチはバックステップで距離をとった。
「オラオラ、逃げんなよ、ディケイドさんよ!
おとなしくオレに斬られろや!」
「誰がっ!」
言い返し、ソードモードのライドブッカーを振り下ろすジュンイチだったが――カイザはサイドステップでかわしながら、ジュンイチの懐にすべり込む!
「肩ロースいただきぃっ!」
そして、斬撃を空振りしたジュンイチを、カイザが振り下ろした肉切り包丁が斬り裂いて――
ジュンイチの姿が消えた。
「何………………っ!?」
自分が斬り裂いたはずのジュンイチの、ディケイドの姿が、まるで煙のようにかき消えた――驚愕し、カイザが声を上げると、
「残像拳っつーんだ――覚えておけっ!」
そう告げる声は背後から――残像だけを残し、超スピードで背後に回り込んでいたジュンイチが、カイザの背中を思い切り蹴り飛ばす!
「やってくれるじゃねぇか……!
けど、そうじゃなきゃおもしろくねぇっ!」
だが、カイザには大して効いた様子もない。すぐに体勢を立て直してジュンイチへと向き直り――突如、その周囲に“黒いオーロラ”が発生し、カイザの身体を包み込む!
「って、もう終わりかよ!? まだまだ暴れたりないってのに!
おいコラ! 出しやが……っ! こら、聞……てんの……っ!?」
だが、それはカイザにとっては不本意きわまるものだったらしい。“黒いオーロラ”の向こうで抗議の声を上げているのが聞こえるが、それも見る見るうちに小さくなって、やがて完全に聞こえなくなってしまった。
「こいつぁ……!?」
カイザが姿を消すと同時、周囲の光景も変化する――自身も“黒いオーロラ”に包まれ、ジュンイチは気づけばさっきまでいた夜の住宅街の一角に戻ってきていた。
「フフフ……アハハハハッ♪」
同時、スタジアムに飛ばされた時から姿を消していたキバーラも姿を現し、クスクスと笑いながらまたどこかへと飛び去っていった。
と――――
――ディケイド! 仮面ライダー達と戦う悪魔よ!――
「…………っ!?」
突然、どこからか聞き慣れない声が響いてきた。
――お前の存在こそが世界を破壊するのだ!――
――この『キバ』と『恋姫†無双』の世界は調和がとれていた。お前が来る前までは!――
「誰だ!?」
周囲を見回し、気配を探るジュンイチだったが、声の主の居場所を特定することができない。ジュンイチの気配察知の範囲外から、声だけを飛ばしてきているのかもしれない。
――新たなキバが誕生した……破壊を求めるキバが!――
「破壊を求める……キバ……!?」
声の告げたその内容に思わず眉をひそめるジュンイチだったが――その言葉に対し、返事が返ってくることはなかった。
第5話
「D.C.#王者の帰還」
「キバの鎧を渡せ!」
「くぅ……っ!」
キャッスルドラン、謁見の間――キバに変身し、襲いかかってくるビートルファンガイアの攻撃をさばいていく孫権だったが、そのパワーの前に次第に追い込まれていく。
「もう一度言う……キバの鎧を渡せ!」
「そうは、いかない!」
ビートルファンガイアの言葉に反論し、孫権はつかみかかってきた相手の腕を取り、そのままガッシリと組み合う。
「これは……王の証だ……っ!」
「だが、お前は王に即位していない……!」
「………………っ!」
「だから、オレが王になる!」
痛いところをつかれ、孫権が思わず歯がみする――そのスキをつき、ビートルファンガイアは孫権の重心を崩し、投げ飛ばす!
「孫権様!」
「何事ですか!?
――――――っ!?」
その騒ぎを聞きつけ、臣下が次々に駆けつける――周瑜と共に仲間達の先頭に立って駆けつけたガルルだったが、ビートルファイガイアの姿を見て思わず息を呑んだ。
「おのれ! 蓮華様に!」
「待て! 思春!」
一方、甘寧は孫権と戦うビートルファンガイアの姿にすぐさま飛び出――そうとしたが、それを周瑜が一喝して止めた。
「冥琳様!?」
「あの方は……っ!」
甘寧が声を上げるが、周瑜にも答える余裕はない――しぼり出すようにそうつぶやき、周瑜はビートルファンガイアへと視線を向ける。
「ガルル、力を貸せ!」
「………………っ!」
「ガルル! どうしたんだ!?」
同様に、ガルル達もまた動けずにいた。孫権がガルルフォームへの変身を促すが、それでも踏み出すことができずに――いや、“踏み出さずにいる”。
「お前達……どうして!?」
部下達の異変に思わず声を上げる孫権だったが――敵を前にその動揺は致命的だった。背後から体当たりを受け、弾き飛ばされてしまう。
「キバットバット三世よ!我に従え!」
「なっ!? ぐぁあぁぁぁぁぁっ!?」
倒れ伏す孫権、その腰のベルトに収まったキバットに向け、ビートルファンガイアが“力”を放出する――その“力”を受け、キバットは意識を封じられ、ベルトから離れてビートルファンガイアのもとへと舞い降りる。
そして、キバットが離れてしまっては人間である彼女にはキバの力を維持できない――変身が解除され、孫権は敵を前にして元の少女の姿に戻ってしまう。
「そ、そんな……」
「蓮華様!」
呆然とつぶやく孫権に今度こそ甘寧が駆け寄るのを尻目に、ビートルファンガイアは玉座へと座り、ガルル達怪人組はそんなビートルファンガイアの前でひざまずき、忠誠のかまえをとる。
「キバの鎧は受け継がれた」
「この方が、新たな王だ」
孫権を見捨て、新たな王へと忠誠を誓うガルル達――自分を選んだ彼らを見渡し、ビートルファンガイアはゆっくりと口を開いた。
「今からはオレが王だ。
だが……継承の資格を持つ者が他に残っていては、後々いらぬ災いの元となる……わかるな?」
『………………はっ!』
ビートルファンガイアの言葉が意味することは明白だった。自分達がこれからすることにさすがにためらいはあったが、それでもガルル達は頭を下げ――ゆっくりと孫権へと向き直った。
「お前達……まさか、蓮華様を!?」
「新たな王のご命令だ」
「ついさっきまで仕えてたんだもの。ためらいはあるよ、うん」
「しかし……いかにその意志がなくとも、王の地位につく資格を持つ者が他にいることは、それだけで禍根となる。
この国の安寧のため……消すもやむなし!」
とっさに孫権をかばう甘寧にドッガが、バッシャーが答え、ガルルが先頭に立って彼女達の前に立ちはだかる。
「王! あなたは……!」
「止めたければ止めればいい……“冥琳”」
まさか孫権を手にかけるつもりか――声を上げる周瑜だったが、ビートルファンガイアはそんな彼女の機先を制する形で、しかも彼女の真名を呼ぶ形で制止する。
「しかし、止められるか?……貴様のその智謀で」
「………………っ!」
まるですべてを見透かしたかのようなビートルファンガイアの言葉に、周瑜までもが反抗を封じられてしまう。
そのまま、ガルル達は孫権と甘寧へと迫り――
「そんな事させるか!」
謁見の間に駆け込んできたのはスバル達――先頭に立つノーヴェを中心にスバル、ティアナ、ギンガがビートルファンガイアをにらみつけ、エリオとキャロは傷ついた孫権を助け起こす。
「貴様ら、新たな王の御膳だぞ! 控えよ!」
「誰がっ!
王は……孫権だ!」
叫ぶガルルに言い返すノーヴェだったが、キバットを奪われた今の孫権にとって、その言葉は何より重かった。
「エリオ、キャロ! あたし達がこいつをなんとかするから、その間に!」
「は、はい!」
「わかりました!」
ティアナの指示で、エリオとキャロが甘寧と共に孫権を謁見の間から連れ出していく――4人が扉の向こうに消えたのを確認すると、ノーヴェはクウガのベルト、アークルを出現させ、
「変身っッ!」
高らかに宣言し、クウガへと変身したノーヴェはスバル達と共にビートルファンガイアやガルル達と対峙する。
「…………仕方あるまい。
まずは、貴様達からだ!」
そんなノーヴェ達に言い放ち、ガルルが先陣を切って襲いかかるが――繰り出したその一撃は、ノーヴェの変身したクウガを捉えることなくすり抜ける!
「何だと!?」
「これは――まさか、幻術!?」
思いもよらない展開にドッガとバッシャーが声を上げると、
「逃がすな!」
そんな彼らに向けて、ビートルファンガイアが鋭く言い放った。
「孫仲謀を探し出せ!
必ず、彼女を私の前に連れ戻してくるのだ!」
『ははっ!』
◇
「なんとか、脱出できたわね……」
「ティア、ナイスだよ!」
「あー、はいはい、スバルうっさい」
一方、本物のノーヴェ達はすでに城の外で孫権と合流済み――息をつくギンガのとなりではしゃぐスバルの額をぴしゃりと叩き、ティアナがスバルをたしなめる。
そう。ビートルファンガイア達と対峙していたノーヴェ達の姿はティアナの魔法、フェイクシルエットによる幻影――立ち向かうと見せかけてオプティックハイドで姿をくらませて、ノーヴェ達もまた城からの脱出を果たしていたのだ。
「くそっ、あんなヤツら、戦えば負けやしねぇのに……」
「そう言うな。
まずは蓮華様の安全の確保が先決だ」
ただ、ノーヴェとしてはあの場で決着をつけてしまうつもりだったようだ――不完全燃焼に終わり、不満げに口を尖らせるが、そんな彼女は甘寧がなだめている。
「さて……まずは身を隠さなければな。
お前達、どこかいい場所を知らないか?」
「い、いい場所って言われても……」
「わたし達も、このせか……国には来たばかりだし……」
しかし、相手も追っ手を出してくるはずだ。とにかくどこかに潜伏しなければ――尋ねる甘寧にエリオとキャロが顔を見合わせると、
「あるよ」
あっさりとそう言い切ったのはスバルだった。
「一ヵ所だけ、心当たりがある。
アイツらが知らなくて、しかも絶対安全な場所」
「…………確かに、ね……」
スバルの言いたいことにはすぐに思い至った。つぶやき、ギンガは思わずため息をつく。
「やれやれ、ね……
お礼を言うどころか、また借りを増やしちゃうわね……」
◇
「………………で、うちに来たワケだ」
「だって、ここならアイツらだって知らないだろうし」
カイザとの戦いを切り抜け、七瀬家に戻って八重の夕飯を待っていたら今度は大所帯の訪問――事情を聞き、ため息をつくジュンイチに対し、スバルはまるでそれが当然だとでも言いたげにあっさりとうなずいてみせる。
他の面々の反応はといえば――事の重大さに眉をひそめているのが真紀子とにわ、あまりわかってなさそうなのが多汰美。そして……
「スバルさん達とまた会えるなんて、私うれしいですよ♪」
「たくさん作ったから、たくさん食べてね」
事態の深刻さをカケラも理解しないまま純粋に彼女達の訪問を喜んでいるのが八重と幸江の七瀬母子だ。孫権やノーヴェ達の訪問に対し、心底うれしそうにテーブルに夕食を並べていく。
「……ま、とりあえず事情はわかった。
なるほどね。さっきの声が言ってた破壊を求めるキバってそういう意味だったのか」
「ジュンイチ……どうする?」
「そんなの決まってる」
「せやね!
キャッスルドランに乗り込んで、キバットも取り返して、孫権ちゃんから王の座を奪った悪いファンガイア退治や!」
「貴様っ! 蓮華様を“ちゃん”づけなどで呼ぶな!」
にわに答えるジュンイチに真紀子が張り切り、その言葉に甘寧がいきり立つ――その光景にノーヴェとスバルが顔を見合わせて――
「……いい」
ぽつり、とつぶやくように口を開いたのは孫権だった。
「結局、私にはムリだったんだ……
王になる決意もつかず、ズルズルと先延ばしにしていたあげくにその座を追われて……そんな私に、王の座なんて……」
「蓮華様、何をそのような弱気なことを……!」
ビートルファンガイアにキバの鎧を奪われたことでかなり弱気になっているようだ。視線を伏せたままの孫権を甘寧が叱咤するが、
「………………?
お前ら、何の話してるの?」
そんな彼女達のやり取りに、ジュンイチは不思議そうに首をかしげた。
「え? 何、って……」
「これから、キャッスルドランに乗り込むって話じゃ……」
「はぁ?
誰がそんなコト言ったよ?」
エリオやキャロの問いにも、ジュンイチは心外とばかりに声を上げる――その言葉に、最初にキャッスルドラン突入を言い出した真紀子に全員の視線が注目するが、ジュンイチは軽く首をかしげ、
「今しなきゃならないのは……」
「晩飯を食うことだろう?」
『………………は?』
「いや、今食わなきゃ冷めちゃうでしょうが」
意外な一言に思わず硬直する一同にかまわず、ジュンイチは八重の用意してくれた夕食を食べ始める。
「ち、ちょっと! 今そんなことしてる場合じゃないでしょ!?」
「孫権ちゃんを助けんと!」
「知らん」
我に変えるとそんなジュンイチをあわてて制止し、スバルや真紀子が声を上げるが、ジュンイチは迷うことなく即答する。
「じゃあ、このままでいいって言うんですか!?
王の座を追われた孫権さんはどうなるんですか!?」
「逆に聞きたいね。
ここで王座を取り返したところで、そいつはどーなるんだ?」
なんとかジュンイチを説得しようとするキャロだが、ジュンイチは平然とそう聞き返した。
「今までさんざん逃げ回って、目をそむけて……むしろこうなったのは必然で当たり前で自業自得だよ。
そんな状態で元に戻したところで、また同じことの繰り返し――ンなヤツに、守ってやるだけの理由なんてあるのかよ?」
「ある!」
あっさりと告げるジュンイチだったが、そんな彼に反論したのはノーヴェだった。
「孫権は……あたしの友達だ!
友達を助けるのに、何か特別な理由があるのかよ!?」
「………………っ!?
ノーヴェ……」
力強く言い切るノーヴェの言葉に、孫権が思わず顔を上げるが――
「じゃあお前が行けよ」
そんなノーヴェの言葉も、ジュンイチは迷うことなく突っぱねた。
「確かに孫権はお前の友達かもしれない。
けどな……オレの友達ではないんだ。無条件で助けなきゃならない理由はねぇよ」
「…………もういい! お前には頼らねぇ!
いくぜ、甘寧!」
「あぁ!
蓮華様、しばしお待ちを――必ずや、王座を取り戻してご覧に入れましょう!」
「って、待ちなさいよ、二人とも!」
あくまでやる気のないジュンイチに見切りをつけ、ノーヴェは甘寧と共に七瀬家の居間を飛び出していく――ティアナを先頭にスバルやギンガ、エリオやキャロもその後を追っていき、その場には八重達と孫権、そしてジュンイチが残された。
「ジュンイチ……アンタ、どういうつもりよ!?」
「どうもこうも……ねぇ?」
あっさりと突き放され、孫権は見てられないくらいに萎縮している――責めるにわだが、ジュンイチは軽く肩をすくめてみせる。
「ジュンイチくん……今のはちょっとひどないかな?
孫権ちゃんも、好きでこんな事態を招いたんじゃ……」
「たりめーだ。狙って引き起こしたなら今頃タコ殴りだぞ」
いつも気楽な多汰美ですらも責めるような視線を向けるが、やはりジュンイチは動じない。
「つか、さっきも言ったろ。コイツの王座なんか、取り戻したって意味ないよ。
キバットやキャッスルドランだってそうだ。取り返したって、今のコイツじゃ持て余すだけだ」
「そんなこと……!」
「それに」
自分の言葉に苦い顔をする八重だが、ジュンイチはそんな彼女も制する。
「アイツらのやろうとしてることは、案外的外れかもしれない……反撃に転ずるにしても、ブッ飛ばす相手は見極めないとな」
「どういうことよ?」
「敵は話にあったカブトムシのファンガイアやないの?」
「そうであれば、話は単純でいいんだけどね……」
尋ねるにわや真紀子の問いに答えるジュンイチの脳裏をよぎるのは、孫権の旧家で出会ったあの男――
「もし、今回の件がオレの考えてる通りなら……」
「本当に助けるべきは、孫権でもキバットでもキャッスルドランでもないよ」
◇
「孫権め……うまく身を隠したようだな……」
できる限り速やかに追っ手を差し向けたはずだが、発見の報せはない――玉座に腰かけ、ビートルファンガイアはため息まじりにそうつぶやいた。
「まぁ……その方が都合がいい。
ヤツが姿をくらましたのなら、それはそれで動きやすい」
言って、ビートルファンガイアは玉座から立ち上がり――
「いや。貴様がこれ以上くだらない企みをくわだてることはない」
彼以外誰もいないはずの部屋の奥から、淡々とした声がそう答えた。
対し、ビートルファンガイアは動じる様子もない――そんな彼の前に、二人の男が闇の中から進み出てきた。
どちらも導師風の服装に身を包み、一方は殺意に満ちた鋭い視線を、もうひとりは眼鏡越しにこちらを値踏みするかのような不気味な視線を向けてくる。
「くだらないまやかしで人間をだますのもこれまでだ。
邪悪なるファンガイアは、すべて滅ぼされなければならない!」
「そういうことです。
ですから……私達はあなた方に、最高の滅びをもたらして差し上げましょう」
導師達がそう告げると同時――二人のもとにそれは飛来した。
キバットと同種族の漆黒の個体と、まるで円盤のような生物だ――しかし、どちらもまるで夢うつつの状態であるかのように、その瞳から意志の色は完全に消え去っている。
そして――
「変身っ!」
「…………変身」
黒いキバットが好戦的な導師の、円盤状の生物が眼鏡の導師の腰に巻かれたベルトに納まった。ファンガイアの鎧の源である“魔皇力”が身体中を駆け巡り、それぞれの生物を介して制御され、二人の身体に“鎧”をまとわせていく。
やがて変身が完了し、二人の仮面ライダーが――
ダークキバとサガが、その姿を現した。
「さぁ、あなた達ファンガイアを守るために作られたこの鎧の力で、あなた達を滅ぼしてさしあげましょう!」
「まずはこの王宮を滅ぼす……そして貴様も討つ! 覚悟するんだな!」
「王よ! ご無事ですか!?」
「………………っ!?
ダークキバに、サガ!? なぜここに!?」
二人の仮面ライダーが告げる中、臣下が次々に到着――ドッガやガルルが驚きの声を上げるが、ビートルファンガイアは動じることもなく淡々と告げた。
「ガルル。
ドッガ。
バッシャー。
お前達……力を貸せ!
変身!」
そして、操り、捕まえたままのキバットを使ってキバへと変身――同時、ガルル、ドッガ、バッシャーを彫像形態で手にし、3体のアームズモンスターの力をすべて兼ね備えた姿“ドガバキフォーム”へと変身する。
「…………一応、貴様らの名を聞いておこうか」
「いいだろう。
オレは……左慈だ」
「干吉と申します。
しかし……今から死ぬ者に名乗ったところで、あまり意味はないかと」
「意味ならある」
干吉と名乗った、サガに変身した導師に答えると、ビートルファンガイアはゆっくりと一歩を踏み出した。
「貴様らの名を、ずっと知りたいと思っていた……」
「妻と娘を殺し、その鎧を奪った貴様らの名前をな!」
◇
「ちょっ、何よ、コレ……!?」
ノーヴェと甘寧の先導で、孫権の王座奪還のためにキャッスルドランへとやってきたティアナ達だが――目の前の光景に思わず言葉を失っていた。
見渡す限り死体、死体、死体……人間はことごとく殺され、ファンガイアの亡骸であるステンドグラスの欠片がそこら中に散らばっているのだ。
「皆、城の者達だ……!
ここで……何があったというんだ……!?」
状況がわからないのは彼女も同じだ。甘寧もまた、どういうことかとつぶやいて――
「――――――っ!
みなさん、上です!」
気づいたのはキャロだった――直後、キャッスルドランの城壁の一部が爆発し、その奥から吹っ飛ばされてきた何かが、自分達から少し離れたところに落下する。
もうもうと立ち込める土煙の中、ゆっくりと立ち上がるのは――
「アレ……キバ!?」
「じゃあ、あのカブトムシのファンガイア!?
けど、一体何が……!?」
その正体はドガバキフォームで戦うキバ――ギンガやスバルが声を上げると、
「ほぉ……これは驚いた」
「まだ生きている者がいたか」
『――――――っ!?』
いつの間にかすぐそばに現れたダークキバとサガが告げる――驚き、ノーヴェ達はあわてて二人から距離を取った。
「く、黒いキバ……!?」
「コイツらが、城の人達を……!?」
「そうだ」
思わずうめくエリオやスバルに、ダークキバに変身している左慈はあっさりと答えた。
「ファンガイアとの共存などできるはずがない。
それがわからない愚か者は、人間だろうがファンガイアだろうが、生きている価値などあるはずがない!」
「そんなことない!」
「何勝手なことを……っ!」
左慈に言い返し、ギンガとティアナが身がまえ、他の面々もそれぞれに戦闘態勢に入り――
「お前達は……下がっていろ」
そんな彼女達の間を抜け、ビートルファンガイアの変身したキバが前に出た。
「ちょっと、どういうことよ!?
何がどうなってるの!? なんで孫権から王座を奪ったアンタがあの黒いキバに襲われてるのよ!?」
「お前達に話すことなど……ない!」
事情を問いただそうとするティアナだったが、ビートルファンガイアはかまわずダークキバへと歩を進める――ドッガハンマーを力任せに振り下ろすが、左慈はあっさりかわしてビートルファンガイアを殴り飛ばす!
「あーっ、くそっ!
とりあえず、あの黒いキバと連れは悪者ってことでいいんだよな!?」
「ま、これだけ殺してればそうよね!
みんな、いくわよ!」
『了解!』
とにかく、自分達もただ黙って見ているワケには行かない。ノーヴェに答えたギンガの言葉に一同がうなずくが、
「おっと、あなた達の相手は私ですよ」
そんな彼女達の前には、干吉の変身したサガが立ちふさがる。
「ジャマすんな!
変身ッ!」
そんな干吉に言い返し、ノーヴェがクウガに変身し、
《レ・ディ・ー》
「変身!」
《イ・ク・サ、フィ・ス・ト・オ・ン!》
甘寧もまたイクサに変身。ノーヴェと共に干吉と対峙し――
「スバル! エリオ!」
「うん!」
「不意討ちで、ごめんなさいっ!」
干吉の注意がノーヴェと甘寧に向いた一瞬のスキをティアナは見逃さなかった。彼女の指示で、回り込んでいたスバルの拳とエリオのストラーダが干吉をブッ飛ばす!
「へっ、相手は仮面ライダーだけじゃないってことを忘れてたな!」
「まともに入った。これなら……!」
吹っ飛ばされた干吉は近くの壁に激突、崩れたガレキの下に消えた。ガッツポーズを決めるノーヴェだが、そのとなりのギンガは油断することなくガレキの山を警戒し――
「…………やってくれましたね。
変身していなければこの一撃で終わっていましたよ」
そのギンガの警戒は正解だった。ガレキを押しのけ、仮面ライダーサガが――干吉がその姿を現す。
「そんな!? 僕ら、本気で叩き込んだのに!?」
「気にすることないわ。ダメージ自体は通ってる!」
驚くエリオにそう答え、ティアナは頬をぴしゃりと叩いて気合を入れ、
「キャロ! ブーストと竜魂召喚で支援!
相手がライダーだからって気後れするんじゃないわよ!」
『了解!』
◇
「………………ふむ」
一方、外では、ひとりの男がキャッスルドランを見上げていた。
「すでに始まっているか……
さて、どうしたものか……」
そうつぶやく彼の姿は全身を覆うようにまとったマントによって隠されており、その正体はおろか、その表情をも読み取ることはできない。
しかし、もしノーヴェがこの場にいたら、きっと大声を上げて驚いていたことだろう。
なぜなら……彼は“『クウガ』×『なのは』の世界”で、決戦の場に向かおうとするノーヴェを援護した、あのマントの男だったのだから。
「………………む?」
しかし、彼がキャッスルドランに踏み込むことはなかった。
彼のいるところから少し離れたところを走り、キャッスルドランの内部に突入していく者達の姿を確認したからだ。
「…………やはり動いたか、あの男も……」
◇
「ぐわぁっ!?」
いかにドガバキフォームであろうと、“王の鎧”の中でも最高位に位置するダークキバの戦闘能力にはかろうじて届かなかった――左慈の変身したダークキバの蹴りを受け、ビートルファンガイアがはね飛ばされる。
「ウェイク、アップ、2!」
もちろん、その結果生じたスキを左慈が見逃すはずもない。ウェイクアップフエッスルを黒いキバット――キバットバットU世にセット。すさまじい魔皇力をまき散らしつつ頭上高く跳躍、必殺の蹴り、キングスバーストエンドを叩き込む!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
しかも、その拍子にキバットがベルトから離れて変身が解除。ビートルファンガイアが元のファンガイア態に戻り、ガルル達も元の姿に戻ってその場に放り出されてしまう。
「いかん! キバが!」
その光景に声を上げたのは甘寧だ。孫権のため、弾き飛ばされたキバットを回収しようと走るが、
「そうはいきませんっ!」
干吉がそれを阻んだ。手にしたジャコーダーロッドをイクサベルトに叩きつけ、弾き飛ばす――結果、彼女もまた変身を解除され、その場に投げ出されてしまう。
「干吉め、イクサを抑えたか……
貴様もなかなか粘ったみたいだが、所詮このダークキバの鎧の前には無力だ。
いさぎよく、運命を受け入れろ」
「残念ながら……そうもいかないのでな……!」
完全に上から目線で告げる左慈に答えると、ビートルファンガイアはよろめきながらも身を起こす。
「所詮、ファンガイアと人間がわかり合うことなどできんのだ。
どちらも、滅びるまで戦い合うしかないのだ」
「……そうだな。
オレもそう思うさ」
左慈の言葉に答え、ビートルファンガイアはガルルやバッシャーに支えられて立ち上がり、
「人を襲い、ライフエナジーを喰らう……それがファンガイアの本能だ。
そしてその本能ゆえに、ファンガイアは人間を襲うことをやめられない。そして人間はそれに抗い、殺し合う……
…………だがな、だからこそ、わかり合おうとするその行為、その想いがあること、それ自体が世界にとって救いとなる……
殺し合う二つの種族でも、いつか手を取り合える日が来ると、信じさせてくれる……っ!
本能を超え、新たな道を探る彼らの礎になれれば、この命が散ろうとも本望だ。
だが……それでも、その前にやらなければならないことがある」
言って、一歩を踏み出すビートルファンガイアに対し、左慈は余裕の態度でかまえをとる。
「あの日以来、ずっと貴様らのことが気にかかっていた……妻や雪蓮を殺し、二つの鎧を奪っていった貴様らのことがな。
貴様らの存在は必ず後の禍根となる……何としてもオレの手で決着をつけなければならなかった。
必要ないのだ……次の世代に……蓮華の治める呉に、貴様らは!」
「やっぱりねー」
『………………っ!?』
「それが……アンタの本当の狙いか」
突然の声は、彼ら二人の間だけでなく戦場全体に届いた。ビートルファンガイアと左慈だけでなくノーヴェ達や干吉までもが動きを止める中、ジュンイチは悠々と歩きながら一同の前に進み出てくる。
「要するに、アンタはこいつらの襲撃を警戒してたのか。
こいつらは人間とファンガイアの共存を阻む反対派……そしてかつて、アンタらを襲い、アンタの奥さんと長女……オレの予想の通りなら孫賢と孫策だろうね。とにかく二人を殺してダークキバとサガ、二つの鎧を持ち去った。
そんな連中を野放しにしたまま、王位を次に託すワケにはいかなかった……なぜなら、そんな連中をほったらかしにしたままじゃ、王位を継いだ者が連中に狙われることになる。
そしてアンタは、それを絶対に容認できなかった。だから王位を奪い、その動乱をエサに連中をおびき出し、自ら叩こうとした。自分が“王”になることで、ターゲットも自分に向くだろうしね。
すべては、孫権が……“アンタの義娘”が、連中に襲われることがないように」
「………………よくわかったな」
「ま、半分以上は今の話を聞いた限りでのカンだけどな」
しばしの沈黙の末、ビートルファンガイアは肯定を示した。肩をすくめてジュンイチもそう答える。
「孫権の家でアンタと出会った時のことが、どうにも引っかかってね。
ファンガイアと人間の共存を絶望視するあの言葉が、あきらめたような態度とは裏腹にどうにも積極的に思えてね。ひょっとしたらと思ったんだよ」
「お前……まさかあの時すでに、オレが孫権の養父だと……!?」
「まさか。そこまでオレはお見通しじゃないよ。気づいたのは今ここで。アンタの“力”を感じ取って初めてわかったんだよ。
何しろ……アンタの“力”が、あの館で出会った男と同一だったからね。
“力”の気配ってのは指紋みたいなもので、ひとりひとり違って同じものはない。同じ“力”を持ってるってことは……姿は違っても同一人物ってことになる。
……ま、こればっかりはオレ達“ブレイカー”の感知能力の問題だから、お前さんに口で説明しても実感はわかないと思うけどね」
ビートルファンガイアに説明すると、ジュンイチは突然背後へと視線を向け――
「ま、そういうことだ――孫権」
「何………………っ!?」
ジュンイチのその発言は、ビートルファンガイアを驚愕させるには十分すぎた。振り向く彼の視線の先で、孫権は物陰から姿を現した。
「…………蓮、華……!?」
驚き、声をもらすビートルファンガイアだが、驚いているのは孫権も同じだ。呆然とビートルファンガイアへと踏み出す。
そのスキを狙い、左慈が――ダークキバが孫権へと走り――
「はい、そこまで♪」
その眼前にはジュンイチが立ちふさがった。
「親子の会話に乱入するなんて、ちょいと無粋が過ぎるんじゃないですかね?」
「知ったことか!」
言い返すと同時に殴り返す左慈だが、ジュンイチも冷静にそれをさばき、
「ずぁりゃあっ!」
当身一発。豪快な一撃で左慈をブッ飛ばす!
だが――左慈には通じない。対して効いていない様子で、ムクリと身を起こす。
「やれやれ……やっぱ仮面ライダーはダテじゃねぇか。
まぁいいや、来いよ」
しかし、ジュンイチもそんなことは予想のうちだ。くいくいっ、と手招きし、左慈を挑発する。
そして――告げる。
「誰にケンカ売ったか……教えてやるぜ」
◇
「蓮華……っ!」
自分から“キバの鎧”を奪った目の前のファンガイアが自分の養父。しかもその行為も自分を守るためだった――自分を見て声をしぼり出すビートルファンガイアに対し、孫権はゆっくりと歩を進めていく。
そして、ビートルファンガイアのすぐ目の前で立ち止まると、静かに息をつき――
「…………大丈夫ですか? 父上」
倒れたビートルファンガイアに、その手を差し伸べた。
「…………蓮華……っ!
私のことを、父と……!?」
「えぇ……」
うめくビートルファンガイアを助け起こし、孫権は呆然とする彼に向けて微笑んでみせる。
「物心ついた時にはすでにいなかった、顔も知らない父……
でも……今ならばわかる。
家族のため、孫呉のために、心を虎として起ち上がった……あなたの内にあるものは、紛れもない孫家の“虎”の魂……っ!
そんなあなたを、どうして『父ではない』などと言えるのですか……っ!」
ダークキバのバーストエンドをまともにくらい、すでにビートルファンガイアの身体は崩壊が始まっている――少しずつ砕けていくその身体を、孫権は優しく抱きしめる。
「何度でも言います。
あなたは……私達の父だと……っ!」
「………………ありがとう……蓮華……っ!
その言葉で、救われた……蓮も、雪蓮も守れなかった私にも……守れたものがあったのだ……っ!」
◇
「バカな……っ!?
人間とファンガイアの絆だと……!?」
「おやおや、まぁだそんなこと言ってんのかねぇ、このバカチンが」
その光景は、周りで戦う面々も目にしていた。驚愕し、うめく左慈に対し、ジュンイチは余裕の態度でそう告げる。
「人間か人外か……その違いを身体の違いで分けるなんざこっけいなことさ。
人外でも、人間よりも人間らしい心を持ってるヤツはいる。
人間でも、人外よりも人外らしい人でなしなんてゴマンといる。
あえて基準を設けるなら……そいつは当人の心のあり方さ。
どれだけ人から外れた身体でも……心が人間なら、ソイツは人間だ!
ファンガイアも人間もない。人の心を持つ者を人として受け入れる――それができるコイツは本物の王だ。
見た目の違いだとか、種族の違いだとか……ンなちっぽけなモンにとらわれてるてめぇらよりも、はるかに大きな王の器だ!」
「貴様……何者だ……!?」
「何者もクソもねぇよ」
うめく左慈に答えると、ジュンイチは腰にディケイドライバーとライドブッカーを装着。“ディケイド”のカメンライドカードを取り出し、
「オレはオレだ!」
《KAMEN-RIDE!》
「変身!」
《“DECADE”!》
カードを装填、ディケイドへと変身する。
と――
「孫権!」
「ノーヴェ……!?」
その背後、孫権の元へと駆けてきたのはノーヴェだった。
「ノーヴェ……私は、まだお前の友達だろうか……!
一度は、お前の期待に応えられず、逃げ出したというのに……!」
「当たり前だろ!
それより、今は親父さんを」
「あ、あぁ……」
孫権に答え、ノーヴェは彼女と共にビートルファンガイアを離れたところへ運ぶ――戦いに巻き込まないよう、物陰にそのその身体を横たえる。
「…………父上」
「蓮華……行くがいい」
孫権に答え、ビートルファイガイアは彼女の頭をなでてやる。
「孫呉の王として、民を……人を、ファンガイアを守るのだ」
「はいっ!」
ビートルファンガイアの言葉にうなずき、孫権は立ち上がり、左慈と対峙するジュンイチに並び立つ。
「キバット!」
「………………んぁ……?
……蓮華! 無事だったのか!」
そして、孫権が呼び寄せるのは共に戦う“相棒”――孫権の呼びかけに、正気に戻ったキバットが彼女の元へと舞い降りる。
「目覚めていきなりで悪いんだけど」
「変身だな! 任せとけっ!
ガブッ!」
孫権に答え、彼女の手にかみついたキバットの牙から魔皇力が注入。孫権の顔にステンドグラス状の模様が浮かぶ。
そして、腰にキバットベルトが出現。孫権はキバットの身体をつかんで目の前にかざし、
「変身っ!」
キバットの身体をベルトにはめ込んだ。孫権の全身を魔皇力が包み込み、“キバの鎧”となって彼女の身を覆う。
「孫権……いくぜ!」
そしてそんな彼女のとなりに並び立つのはノーヴェだ。気合を入れてかまえる彼女に、孫権は苦笑まじりに告げた。
「…………蓮華だ」
「え………………?」
「ノーヴェ……柾木ジュンイチ。
お前達に私の真名を預ける。
だから……共に戦ってくれ。この孫呉の民を、守るために!」
「…………言われるまでもねぇ!」
「パンピーのことがなくても手伝うさ。
オレもコイツらのことは気に食わねぇ」
孫権のその言葉にノーヴェと共に答え、ジュンイチは左慈に向けて一歩を踏み出す。
「バカめ……貴様らごときがこのオレに勝つなどと。
ファンガイアの口先三寸に篭絡された小物が、世界を救わんとする、救世主たらんとするこのオレに勝てるとでも思ってるのか!?」
相手が何人いようと、ダークキバの敵ではない――不敵な態度で告げる左慈だったが、
「勝つに決まってんだろ」
それでも、ジュンイチは止まらない。迷うことなくそう即答する。
「てめぇは孫権やノーヴェに手ェ上げたからな……どんな理由があろうが、許すつもりは毛頭ねぇ。
覚えとけ。オレの身内に手ェ出すヤツぁ……」
「救世主でも叩きつぶす!」
「ぬかせっ!」
ジュンイチの言葉に、ついに左慈が動いた。鋭いダッシュでジュンイチの懐に飛び込み、
「ハァッ!」
「ん」
裂帛の気合と共に拳を放つ――が、ジュンイチは頭を軽くかたむけるだけでその一撃をかわし、
「たぁぁぁぁぁっ!」
「………………っ!」
そこに孫権が飛び込んできた。とっさに後退すると左慈は彼女の拳を受け止める。
「あくまでファンガイアの味方をするつもりか……っ!
王になる覚悟も持てなかった腰抜けがっ!」
「確かに、今朝までの私はそうだった……
けど、今は違う!」
孫権が左慈に言い返し――両者はまるで弾けるように同じタイミングで後退。それぞれに距離を取って仕切り直す。
「私は、もう迷わない。
貴様らのような者を二度と出さないために……孫呉の民を守るために……」
「私は……王になりたい!」
◇
「………………蓮華……」
孫権のその宣言は、彼の耳にも届いていた。壁に背を預けたまま、ビートルファンガイアは力なく、しかし満足げにうなずいた。
「今のお前なら……もう、心配あるまい。
“金色のキバの鎧”で……どんな困難からも、孫呉の民を守り、導いてゆけるだろう……」
視界がもやがかかったかのようにぼやけていく――しかし、彼にはハッキリと感じられていた。
孫呉の民を守るため、全力で戦うキバの……孫権の姿を。
「……私の役割は、終わった……
これで……安心して……逝ける……」
うっすらと闇に沈んでいく視界の中、彼は全身を包む虚脱感に身を任せ、そして――
◇
「甘寧さん、しっかり!」
「スバル……!」
一方、スバル達と干吉の戦闘も再開されていた。直前の攻防で変身を解除され、傷ついた甘寧を、スバルは壁際まで退避させる。
「ここでじっとしていてください。
あたしは……サガと戦ってきます」
「待て、スバル……!」
甘寧に告げ、その場を離れようとしたスバルだったが、そんな彼女の手を他ならぬ甘寧がつかんだ。
「お前も……薄々感じているはずだ。
相手はファイガイアの“王の鎧”……お前達だけでは、勝てる相手ではない。
だから……」
そう告げると、甘寧はスバルを引き寄せた。そして、彼女の手に託したのは――
「イクサベルトに、イクサナックル……!?」
「スバル……イクサをお前に託す。
私に代わり、蓮華様を……!」
「………………はいっ!」
甘寧の言葉にしばしの迷いを見せたものの、スバルは最終的にイクサのベルトとナックルを手にした。ティアナ達と戦うサガ――干吉の前に進み出る。
「ほぉ……今度はあなたが相手をしてくれる、と?」
「まぁ、そんなところかな?」
「って、スバル、それ!?」
干吉に答え、スバルが取り出したのはイクサベルトだ。ティアナが驚きの声を上げるのにかまわず腰に巻き、
「いくよっ!
変身っ!」
《イ・ク・サ、フィ・ス・ト・オ・ン!》
イクサナックルを起動、ベルトにセットした。電子音声が鳴り響き、スバルの身体を白銀の装甲が包み込んでいく。
「やれやれ。先ほどそのイクサが敗れるのを見ているでしょうに……
勝てないとわかっているのに挑んでくるとは、正直理解に苦しみますね」
「それは……どうかな!?」
余裕の態度の干吉だったが――そう答えたスバルの言葉と同時、目の前の白き師の全身に光が走った。
光にそって装甲が展開され、そのすき間から強烈な熱風が衝撃波と化して放たれる。
顔面に展開された大きなカメラアイが紅く輝き――イクサのもうひとつの姿、バーストモードが干吉の前にその姿を現したのだ。
「さぁ……いくよっ!」
そして、宣言すると同時にスバルが突撃。干吉に対し左右の拳で、蹴りで、すさまじい勢いのラッシュをかける!
「こっ、これは……さっきまでとは、違う……!?」
「当然だよっ!
このイクサには、あたしだけじゃない……甘寧さんの想いも、こもってるんだ!」
懸命にさばきながらうめく干吉に言い返し……スバルの拳が干吉のガードを打ち抜いた。顔面に一撃をもらい、のけぞる干吉の腹に続けてボディブローを叩き込む!
「く………………っ! このぉっ!」
それでも、懸命に反撃する干吉だったが、スバルは彼の拳を左手で受け止め、逆に引き寄せ……右のヒジ打ちとヒザ蹴りで、干吉の腕を思い切りへし折り、その身体を蹴り飛ばす。
「これで……終わりだよ!」
そして、スバルが取り出したのはイクサの専用フエッスル。ベルトにセットし、接続されたままのイクサナックルを押し込み、
《イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル、ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ!》
「はぁっ!」
電子音声が告げ、イクサナックルにエネルギーが注ぎ込まれる――ベルトから外したイクサナックルを右手に、スバルは後ずさりする干吉へと突っ込み、
「ブロウクン、ファング!」
渾身の一撃を、干吉に向けて叩き込むっ!
「ば、バカな……この私が……っ!」
うめき、よろめく干吉の身体の中で、打ち込まれたエネルギーが荒れ狂う……そんな干吉に、スバルは静かに背を向け、
「…………Knock Down.」
宣告と同時、大爆発……煙が晴れた後には、変身を解除され、意識を失った干吉が倒れ伏していた。
◇
「ずぁらぁっ!」
攻撃をかいくぐり、カウンターの一撃――拳を空振りしたところにジュンイチのヒジを脇腹にもらい、左慈はたまらず後退し、
「でぇりゃあっ!」
「はぁっ!」
ノーヴェと孫権の蹴りが、左慈を思い切りブッ飛ばす。
「く…………っ!」
倒れながらも、すぐに受け身を取って左慈が立ち上がり――直後、すぐ近くで爆発が起きた。
干吉へと叩き込まれた、スバルのブロウクンファングの爆発である。
「くっ、干吉が……っ!
…………ならば!」
一瞬だけ舌打ちして――左慈は地面に魔皇力を叩き込んだ。巻き起こる爆発に紛れてその場を離脱して向かうのは――
「アイツ……キャッスルドランにっ!?」
「キャッスルドランを奪うつもりだ!」
そう。左慈が向かったのはキャッスルドラン――その頭上に降り立った左慈の姿に、ノーヴェやジュンイチが声を上げるが、
「そんなことはさせない」
静かに……しかしハッキリと、孫権が二人に告げた。
「キャッスルドランは渡さない。
私の……いや、孫呉の王の名にかけて!」
「…………上等だ」
孫権の言葉に、ジュンイチがマスクの下で笑みを浮かべ――その時、ジュンイチのライドブッカーからカードが飛び出してきた。
キバのカメンライドカード、そして……
「………………よし。
さて……ちょいと柔軟体操、いってみようか!」
《FINAL-FORM-RIDE!》
「え゛っ!?」
そのジュンイチの言葉に、そしてカードをセットしたディケイドライバーの音声に頬をひきつらせたのはノーヴェだ。
何しろ彼女はガミオとの戦いで、ファイナルフォームライドによってクウガゴウラムへと“変形”させられている。またアレをやられるのかと思わず身がまえるノーヴェだったが――
《“KI《“KI《“KI《“KIVA”!》
「え………………?」
コールされたのはキバの名だった。戸惑う孫権の後ろに回ったジュンイチが彼女の背中を“開く”と、そこにキバットの顔を模したプレートが現れ、そのプレートを中心に孫権の身体が巨大な弓矢へと変形してしまう。
「キバが変身した弓矢だから、“キバアロー”ってところか……」
つぶやき、ジュンイチは手にしたキバアローをしばし見つめ――
「ノーヴェ」
静かに声をかけると、ジュンイチはキバアローをノーヴェへと差し出した。
「お前が撃て」
「え!?
あ、あたしがか!?」
「ファイナルアタックライドを使ってやる。
とどめの一撃、ぶちかましてやんな」
「で、でも、なんであたしが……?」
「友達、なんだろ?」
聞き返すノーヴェだったが、ジュンイチはあっさりと答えた。
「友達同士、仲良くアイツをブッ飛ばせ」
「…………あぁ!」
改めて告げるジュンイチの言葉にうなずき、ノーヴェはキバアローを受け取った。そして、ジュンイチも新たにカードを取り出し、ディケイドライバーに装填する。
《FINAL-ATACK-RIDE!
“KI《“KI《“KI《“KIVA”!》
「キバって、いくぜぇっ!」
ディケイドライバーのコールに伴い、キバアローに“力”がみなぎっていく――キバットの言葉と同時、矢に当たる部分に備えられたヘルズゲートが拘束の鎖をはね飛ばして展開され、
『ディケイド、ファング!』
ノーヴェ、孫権、そしてジュンイチ――三人の咆哮と共に、“力”の矢が放たれた。それは一直線に虚空を駆け抜け、キャッスルドランの頭上にいる左慈を直撃、吹っ飛ばす!
はね飛ばされ、左慈はそのまま地上へと落下し――
「逃がすつもり、あるワケねぇよな、お二人さんっ!?」
「当然っ!」
「母様の、姉様の仇……討たせてもらうっ!」
《FINAL-ATACK-RIDE!
“DE《“DE《“DE《“DECADE”!》
ジュンイチが。
「ウェイク、アァップ!」
孫権が。
「はぁぁぁぁぁっ!」
ノーヴェが。
それぞれが必殺技の体勢に入り、落下していく左慈へと跳躍。そして――
「ディケイド、ギガフレア!」
「ダークネス――ムーンブレイク!」
「マイティ、キック!」
三人のトリプルキックが、改めて左慈をブッ飛ばす!
宙を舞う左慈に先駆け、ジュンイチは危なげなくフワリと着地。その左右にノーヴェが、孫権が降り立ち――ジュンイチがそろえた右の人さし指と中指で天を指し、告げる。
「Finish――completed.」
告げて、天を指した指を地面に向けて振り下ろす――同時、左慈に打ち込まれた三人の“力”が爆発、炎に包まれた左慈が大地に落下した。
◇
「これで……この世界も平和になるとえぇんやけどな……」
「さぁな」
戦いも終わり、ジュンイチは七瀬家に戻った――事の顛末をジュンイチから聞かされ、つぶやく真紀子に、ジュンイチはあっさりとそう言い放った。
「確かに、孫権は孫呉の“王”として……仮面ライダーキバとして、人間とファンガイアのために生きていくことを決意した。
けど……まだアイツはそのための第一歩を踏み出しただけだ。この先この世界がどうなるかなんて、誰にも予想はできねぇよ」
「またまた、そうやって突き放すようなことを言うんやから……」
「突き放しもするさ」
多汰美に答え、ジュンイチはなんとなく天井を見上げて、
「どうも、オレは……ディケイドは“破壊者”らしいからな」
「“破壊者”……?」
「別の世界のライダーを差し向けてきた誰かさんがそう言ってた」
眉をひそめて聞き返すにわの問いに、天井を見上げたままそう答える。
「壊すばっかの存在が、世界の未来がどうとか、言ってられないだろ……」
そうつぶやくジュンイチの脳裏に浮かぶのはかつての記憶――
どしゃぶりの雨の中、“彼女”に抱きしめられる自分――
自分を抱きしめる“彼女”の体温が、どんどん失われていくのを感じながら、それでも何の反応も示せない自分――
そんな自分の右腕は――
「でも……」
「ん………………?」
そんなジュンイチの思考を現実に引き戻したのは、八重のもらしたつぶやきだった。
「でも……ジュンイチさんは、孫権さんのために戦ったんでしょう?」
「べ、別に、アイツのためってワケじゃ……」
「誰かを守るために、ジュンイチさんは悪い人達を“破壊”した……
たとえ、破壊者だったとしても……“優しい破壊者”ですよ。ジュンイチさんは」
「優しい破壊者、ねぇ……」
八重の言葉に、ジュンイチは軽くため息をついて――
「何やってんだよ?
早く次の世界に行こうぜ」
「そしてお前らは何を当然のように居座ってやがるっ!?」
ごくごく自然に声をかけてくるノーヴェに、ジュンイチの渾身のツッコミが飛んだ。
しかも、ジュンイチが「お前“ら”」と言ったように、彼らの輪に加わったのはノーヴェだけではない。スバル、ティアナ、エリオ、キャロにフリード、そしてギンガ……“『クウガ』×『なのは』の世界”からやって来た面々が、見事に勢ぞろいしている。
「あによ。まさかアンタ達、ついて来るつもりなワケ?」
「とーぜん。
だって、あたしはクウガだし」
「いや、理由になってへんから……」
にわに答えるノーヴェに真紀子がツッコむ一方で――
「そしてあたしはイクサだしっ!」
「って、イクサシステムそのまま持ってきちまったのか、お前っ!?」
スバルが取り出したのはなんとイクサナックル。思わず驚き、ジュンイチが声を上げる。
「お前なー、天下の管理局員がネコババかよ?」
「むむっ、失礼な。
甘寧さんが正式に持たせてくれたんだよ。『この世界を守らなければならない自分達の代わりに、他の世界を救ってほしい』って。
仮面ライダーらしくバイクももらったんだよ。イクサリオンってヤツ」
「甘寧のヤツ……今度会ったらあの鈴全部むしり取ってやる」
胸を張って答えるスバルの言葉にジュンイチが軽く復讐を決意して――
「はいはーいっ! 私もついていくわよ?」
「って、お前!?」
部屋に飛び込んできたのはキバーラだ。彼女にカイザとのマッチメイクをかまされたジュンイチが驚きの声を上げ――
「きゅくっ」
かぷっ。
「痛ァ――――――ッ!?」
とりあえずフリードがかみついた。
「ち、ちょっと、離れなさいよっ! 痛たたたっ!」
「って、コラっ! こっち来んなぁっ!」
痛みに暴れ、キバーラはフリードにかみつかれたままジュンイチの方へ。ジュンイチの制止もむなしく彼に激突して――ちょうどそのタイミングで、居間のふすまが輝き始めた。
前の世界からこの世界へと移動してきた時と同じだ……その直後、さっきまでふすまに描かれた呉王宮とキャッスルドランの絵が描かれた“ジャーニーライド”のカードが飛び出してくるところも含めて。
一同が見守る中、カードを排出したふすまの輝きが収まっていき――光が消えると、やはりふすまの絵は一変していた。
新たに描かれたその絵とは――
「何ですか? コレ……
紅い龍と……」
「拳銃と……PDA……?」
まったくもって解読不能なものだった。つぶやき、八重とジュンイチは思わず顔を見合わせるのだった。
Next World is “RYUUKI” and ……
次回、仮面ライダーディケイドDouble!
ジュンイチ | 「今回は、役割だけじゃなくてスタート地点もご指定ってワケか……?」 |
キャロ | 「まさか、龍騎もここにいるのかも……」 |
????(1) | 「あたしはこんなところじゃ死ねないんだ……っ! あたしが死んだら、妹は……っ!」 |
????(2) | 「さぁ……始めようじゃねぇか!」 |
第6話「シークレットゲーム」
戦わなければ生き残れない!
(初版:2011/03/30)
(第2版:2012/04/15)(書式修正)