「.hack//黄昏の腕輪伝説」バレンタインSS
「大切な日」
「バルムンクさん」
その日も、いつものようにイベントの準備を進めるバルムンクの元に、レキがやってきた。
「レキか……
イベントの準備は進んでいるか?」
「はい。滞りなく。
しかし……」
バルムンクに答え、レキはイベント企画書とは別に渡されたもう一通の書類に視線を落とし、
「こっちは……ちょっとひいきしすぎじゃないですか?」
しかし、バルムンクはそんなレキの声にも笑って答えた。
「あぁ、そっちは個人的な世話焼きだ」
「はぁ……」
バルムンクの答えにあきれ、レキは改めてその書類を見た。
そのタイトルにはこう書かれていた。
『バルムンク愛のキューピッド計画』と――
「あれ?」
街の広場にできた人だかりの中に兄シューゴの姿を見つけ、レナは彼に声をかけた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「あぁ、レナか。
ホラ、イベントの告知だよ」
レナに答え、シューゴが指さした先には、一日イベントの告知がされており――
『イベントぉ!?』
シューゴのその言葉に目を輝かせたのは、レナと共に彼とパーティーを組んでいるミレイユと凰花である。
「イベントってことは、クリアすればレアアイテムゲット!」
「イベントということは、高レベル設定モンスターと戦う機会もあるってことだな!」
「あ、あぁ……」
それぞれの理由でイベントに対して意欲を燃やすミレイユと凰花の言葉に、シューゴは思わず気圧されながらもそう答え――
「で……そもそも何のイベントなの?」
『……そういえば』
レナのその言葉に、二人は「イベント」という自分達が単語だけではしゃいでおり、肝心のイベントの内容をまったく把握していないことに気づいた。
と――
「バレンタイン、デスね」
告知内容を見てそう言ったのは彼らのパーティーメンバーの最後のひとり、ほたるである。
「バレンタイン?」
「ハイ。
まだよく読めない部分もありマスから、全部見たワケじゃないんデスけど……」
聞き返すレナにほたるが答え、一同は掲示板に目を通した。
『201X/2/X 0:10
「バレンタインデー・イベントのお知らせ」
管理者:バルムンク
>ALL
参加者は201X/2/14 0:00、カオスゲートから エリア(深き 恵みの 密林)に集合!
レアなチョコレートで恋のバトルに勝利せよ!
愛の心こそ勝利のカギだ!』
「……野郎も出れるのかよ、バレンタインデーイベントなのに」
「日本では男の人は関係ないデスか?
アメリカでは男の人もプレゼントを贈るんデスよ」
思わずつぶやくシューゴにほたるがつぶやくと、
「……バレンタイン、か……」
突然ポツリとつぶやいたのは凰花である。
「あ、やっぱり凰花もバレンタインに興味アリアリ?」
「当たり前だろう? 私だって女性プレイヤーなんだから――」
意外そうに尋ねるミレイユに答えかけ――彼女はミレイユの浮かべた不気味な笑みに気づいて思わず口をつぐんでいた。
「な、何だミレイユ、その笑顔は……」
「ふーん……ってことは……
凰花もチョコあげたい相手がいるってことだよねー♪」
「ばっ、バカ!
いきなり何言い出すんだ、ミレイユ!」
あわてて否定する凰花だったが、すでに遅かった。
彼女が気づくと、すでに周囲は興味津々な顔をしたシューゴ達によって完全に包囲されていた。
そんなことがあってから数日。いよいよバレンタインイベント当日――
「あれ? 凰花は?」
「来ないって連絡はなかったから、来てると思うんだけど……」
「まだ、姿を見かけないデス……」
レナ共々集合時間より少し遅れてエリア(深き 恵みの 密林)のスタート地点にやってきたシューゴの問いに、ミレイユとほたるが答える。
そう。いつもは時間通りにはきちんと姿を見せ、来れない場合はすぐに連絡を入れてくる凰花が、今日に限ってまだ現れていないのだ。
「この前、ちょっと質問攻めでいぢめすぎちゃったから、怒ってるのかな?」
「ミレイユ容赦なかったもんなー……」
首をかしげるミレイユにシューゴが答えると、
〈みなさん、ちゅうもぉーくっ!
お待たせしました!
バレンタインイベント、開催しまぁーす!〉
エリア入口に設置されたステージ上で、レキがマイクを片手に集まったプレイヤー達に声をかける。
〈あの子のハートをゲットせよ! バレンタインアイテム争奪レース!
名付けて、『チョコレートだよ全員集合! バレンタインだよサバイバル』!〉
「うっわー、七夕の時といいビミョーなタイトル……」
「こーゆー名付け好きだよなー、うちの管理者って……」
レキの半ばヤケクソ気味な宣言に、やはり辛辣なコメントを返すミレイユにシューゴが同意し、
(やっぱりそー思いますよね……!)
宣言した当のレキも脳裏で二人の意見に同意していた。
〈それでは、ルールを説明します!
このエリアは本イベントのために用意された特設エリアで、ルートはひたすら一直線になっています。
みなさんはこのコースに沿ってゴールを目指し、ゴール地点にあるバレンタイン限定アイテムをゲットしてもらいます!
レアアイテムをプレゼントして、気になるあの子を振り向かせるのは誰だ!?〉
すっかり開き直ったレキがルールを説明し、ステージの後ろのスクリーンにコースの全体図が表示される。
「ウフフフフ、レアアイテム、レアアイテム♪」
「あたしもがんばろーっと♪」
「そーだな。レナもやる気みたいだし、いっちょやるか!」
レアアイテムに目を輝かせるミレイユとバレンタインということでノリ気なレナの言葉に、シューゴもすっかりやる気になって言う。
と、そこへ、
「キッシッシッシッシッ♪」
「うっ、このキショい笑い声は……」
突然自分達に向けられた笑い声に、シューゴがうめき――
「キシシシシ、皆さんおそろいの様で♪」
言って現れたのは、やはり彼らの予想通りの人物だった。
「孤高王コミヤン3世、見参っ!」
高らかに宣言しつつ、彼――コミヤン3世は愛馬オスカルの上でポーズを決め――
「よっ、小宮山」
「ネットで本名呼ぶなぁぁぁぁぁっ!」
あっさり本名で呼ぶシューゴに、コミヤンは力いっぱい言い返す。
「ったく、そもそもお前何しに来たんだよ?」
「失礼な、バレンタインイベントに参加するために決まっているだろう」
シューゴの言葉にコミヤンがムッとして言うと、
「じゃあ、小宮山くんもバレンタインアイテムを?」
「その通り!」
レナの問いには、コミヤンはガラリと態度を変えてにこやかに答える。
「だが安心していいよ。このボクがキミにバレンタインアイテムをプレゼントしてあげるよ!」
「ふざけんな!
誰がお前なんかを勝たせてやるもんか!」
レナに微笑みかけて言うコミヤンにシューゴが言い返し、二人はしばしにらみ合い、
『――フンッ!』
互いにそっぽを向いてしまったのだった。
〈ではみなさん、準備はいいですね!?
バレンタイン・サバイバルレース、スタートします!〉
レキの言葉に、一同はスタートラインでいつでも駆け出せるよう腰を落とし――
〈それじゃ、みなさん――死なないでくださいね!〉
((え………………?))
レキのその言葉に、一同の脳裏に疑問符が浮かんだ。
だが、レキは彼らのそんな疑問も気にせず続けた。
〈スタート!〉
その瞬間、
ずどごぉぉぉぉぉんっ!
レキが引いた引き金により、スタートラインが一様に大爆発を起こしていた。
〈冒険に危険はつきもの! まずは軽くトラップの洗礼だぁっ!〉
まるで木の葉のように爆風に吹き飛ばされる参加プレイヤー達をステージ上から眺め、レキは高らかに実況し、
「……けどバルムンクさん。やっぱり火力、強すぎたんじゃないですか?
スタート直後に全プレイヤー脱落させる気ですか?」
マイクを手で隠すと、ステージの裏に控えていたバルムンクにそう尋ねる。
が、バルムンクに気にしている様子はない。平然とレキの問いに答えた。
「いや、十分だ。
……ほら、見てみろ」
その言葉にレキが見ると、爆発の中から比較的ダメージの少ないプレイヤー達が続々と駆け出していくのが見える。
ダメージが大きかったプレイヤー達も、回復アイテムを使って続々と復帰している。
「あの程度の障害でくじけるようなら、このゲームのプレイヤーはできんさ」
「……はぁ……」
思わず呆れるレキだったが、そのせいで彼はバルムンクのその後のつぶやきを聞き逃していた。
「それに……彼女ならこの程度はどうということはないだろうしな」
「な、何なんだ、このイベント……」
まだ爆発で頭からかぶるハメになったススも払いきらぬまま、シューゴもまた復活したプレイヤー達の後を追って駆け出していた。
レナはといえば、とうに復活し、彼の少し先を順調に走っている。
「とりあえず、見たところもうトラップもなさそうだし、少しぐらい急いでもいいかな……」
そのシューゴのつぶやきが聞こえたワケではないだろうが――バルムンクはたった一言だけつぶやいた。
「甘い」
「よぅし! いくぞ!
体育5をなめんなぁっ!」
ネットゲーの中で現実世界の体育の成績がどれほど意味を持つかは疑問だが、シューゴはそう言って自らに気合を入れ――惨劇が始まったのはちょうどその瞬間だった。
〈おぉっと! ここで先頭集団が2ndトラップゾーンに突入だ!〉
どぉんっ! どごぉんっ! ずどがぁぁぁぁぁんっ!
レキがそう告げるなり、シューゴやレナの進む先で次々に爆発が巻き起こる!
さらに、
〈そして、それに反応し、プレイヤーの退路を断つ魔のワナの数々が作動する!〉
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
レキの言葉と後方から上がった悲鳴は同時だった。
「ケルベロスだぁっ!」
「鎧超将軍だぁっ!」
「魔道ゴーレムだぁぁぁぁぁっ!」
絶叫の響く中、トラップによって召喚された高レベルモンスター達が、出遅れて後方にいたプレイヤー達を次々に蹴散らしていく。
そしてまた――
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
足元に仕掛けられた捕獲トラップに捕らえられ、シューゴの目の前でひとりのプレイヤーが空の彼方へと連れ去られていく。
また別の場所では、
どごぉぉぉぉぉんっ!
巻き起こる大爆発が、トラップモンスターもろともプレイヤーの集団を抹殺する。
他にも、落とし穴、虎ばさみ、パンジステークにスパイクボールetc……よく知られるものからマイナーどころまで、多彩で凶悪なワナの数々が次から次にプレイヤーに牙をむいている。
まさに周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図。レキの言う『サバイバルレース』の意味をしみじみと実感するシューゴだった。
「……今回のイベント、なんか異様に気合が入ってないか……?」
あまりにもシャレになっていないワナの数々に、シューゴは思わず冷や汗を流しながらつぶやき――
「キッシッシッシッシッ♪」
あの気色悪い笑い声と共に、コミヤンがオスカルに乗ってシューゴを追い抜いていく。
「国崎、悪いが先に行かせてもらうよ♪」
「くっそぉっ! させるかぁっ!」
コミヤンの言葉に、シューゴはムキになって後を追い――
どごぉんっ!
爆音と共に、コミヤンはオスカルや他のプレイヤー達と共に宙を舞っていた。
一方、数々のトラップによってすっかりふるいのかかった先頭集団では――
「レアアイテムはもらったぁっ!」
欲丸出しに咆哮しつつ、ミレイユはその動きづらそうな服装からは考えられないスピードで先頭を爆走していく。
アイテムなど何も使っていないはずなのに、「快速のタリスマン」を使っているシューゴ達が追いつくのがやっとというのだから、その凄まじさがわかるだろう。
しかも、それでいて仕掛けられたワナや立ちふさがるモンスターも軒並み蹴散らしているのだからさらにスゴイ。
その姿を見ていると、欲が人に与えるパワーとかそんなことをチラッと考えたくなってくる。
「は、速……」
「相変わらずレアアイテムが絡むとすごいよね、ミレイユって……」
シューゴとレナが感心してつぶやくと、
ドゴォンッ!
突如、背後から追ってきていたプレイヤー達の集団が轟音と共に蹴散らされる!
「な、何だぁ!?」
思わずシューゴが振り返ると、背後の集団のさらに後方から、何かがプレイヤーやトラップモンスター達を蹴散らしながら突進してきている。
「何? アレ……」
「わ、わかんないけど……」
レナのつぶやきにシューゴがつぶやくと、
――タンッ!
衝撃で舞い上がる砂ぼこりの中、飛び出してきた一頭の狼が彼らの脇を駆け抜けていく!
『――あれは!?』
「ランラランララン♪ レアアイテムが待っているぅ♪」
一方、後方の混乱などまったく気にも留めず、トップをひた走るミレイユは完全に勝利を確信し、上機嫌でそんな鼻唄を唄っていたりしていた。
とはいえ、もはやゴールは視界にとらえている。彼女が勝利を確信するのもムリのない話ではあるが。
だが、世の中そうそううまくはいかない。
「させるかぁっ!」
突然の咆哮が響き渡り、
――ダンッ!
背後から追いついてきた狼が、ミレイユの頭を思い切り踏みつける!
いや、この威力はもはや蹴りと言ってもいいだろう。
「い、いったぁい!」
これには舞い上がっていた思考も一発で目覚め、思わず頭を抱えてミレイユが痛がると、
――タンッ。
狼は姿を変え、ミレイユの前へと着地した。
凰花である。
「お、凰花! 何するのよ!」
「まずは七夕の時のお返しだ」
抗議の声を上げるミレイユに答え――凰花は彼女に向けてかまえ、
「そして――お前には悪いけど、今回のイベントは特別でね。
今回のアイテム……何が何でも手に入れる!」
「へぇ……そう来るんだ……」
そんな凰花に対して、ミレイユも杖や呪符をかまえ、
「誰にそんなにプレゼントしたいのかは知らないけど……レアハンターのミレイユちゃんをなめないでよ!」
「うっわー、やっぱり……」
激しく激突する両者へと追いつき、シューゴが最初にもらしたつぶやきがそれだった。
コースはすでに彼女達のためのリングへとその姿を変えており、その戦いの凄まじさによって、何人もその先へ進むのは不可能、という状態になってしまっている。
今や、二人の視界にはゴールへの障害となる互いしか見えていない。完全に「オレより強いヤツに会いに行く」状態である。
「けど、あの凰花さんがあそこまで……」
「誰にプレゼントするつもりなんだ……?」
レナのつぶやきにシューゴが思わず疑問の声をもらし――
「おやおや、気づいていないのか?」
「あ、バルムンクさん」
追いついてきたバルムンクのつぶやきに、レナが気づいて声をかける。
「気づいてないって……どういうことだよ?」
シューゴの問いに、バルムンクは思わずため息をつき、
「まぁ……それは私が言うことではないな」
「はぁ?」
バルムンクの答えになおも首をかしげるシューゴだったが、レナは何やら気づいたようだ。そんなシューゴへとキツい視線を投げかける。
が――ふとその表情が緩み、死闘の続く現場へと視線を向けてつぶやいた。
「けど……なんかわかるな、その気持ち……」
「そういえば、凰花とやり合うのって初めてなんだよね……
けっこうやるじゃない」
「ミレイユこそな。
拳闘士に転職したらどうだ? いいセンいってるぞ」
激しい戦いでもはや崩壊の一歩手前にまで陥っている周囲を気に留めることもなく、ミレイユと凰花はそう言って互いに笑みを交わす。
「そこまで凰花が本気になる人っていうのはちょっと気になるけど……あたしだってレアハンター!
そうそう譲るワケにはいかないね!」
「それはこっちのセリフだ!」
言ってかまえ――二人はそれぞれ己の持ちうる最大級の攻撃の態勢に入る!
「お、おい! いくらなんでもやりすぎだろソレは!」
そんな二人にさすがに危機感を覚え、シューゴはあわてて二人に向けて駆け出していく。
「シューゴ!?」
「バカ! 巻き込まれるぞ!」
突然のシューゴの乱入にミレイユと凰花が驚きの声を上げ――その時、シューゴの走る先にあるものに気づいたバルムンクが声を上げた。
「いかん! シューゴ、止まれ!」
「え――?」
バルムンクの言葉にシューゴは思わず振り向くが――遅かった。
――カチッ。
立ち止まった足が何かを踏み――
どごぉぉぉぉぉんっ!
シューゴの踏み抜いた地雷が、凰花とミレイユごと彼を吹き飛ばしていた。
「イテテ……酷い目にあった……」
爆発で受けたダメージに顔をしかめつつ、シューゴは爆発の煙の中で身を起こした。
ここまでミレイユのおかげでバトルをせずにすんでいただけあって、なんとか地雷の爆発から生き残ることができたようだ。
凰花とミレイユはといえば、死闘のために消耗していたのがたたり、完全に目を回してしまっている。
そう言う意味では、酷い目にあいはしたがシューゴは一応二人のバトルを止めるという目的は達したのだが……
「けど凰花さん、なんでここまでしたんだろ……」
その当初の疑問が頭から離れなかったのか、シューゴはまず凰花を回復させようと荷物の中から回復アイテムを探し――凰花がうわ言をつぶやいた。
「……シューゴに……贈るんだ……」
「え………………?」
その言葉に、シューゴはすべてを理解していた。
彼女が何でここまで猪突猛進に突っ込んで来たのかを――
そして、シューゴはしばし彼女を見つめていたが、
「………………よし」
決意を固め、シューゴは静かに立ち上がった。
「…………ん……」
気がついた凰花が目を開けると、
「大丈夫? 凰花さん」
そこには回復アイテムを手にしたシューゴの顔があった。
「シューゴ……?」
「まったく、ムチャするよ。
いつもと立場が逆じゃないか」
「ハハハ……面目ない……」
シューゴに言われ、凰花は苦笑しながら身を起こし――
「………………ん?」
自らの胸の上に置かれていた「それ」が転がり落ちた。
チョコレートである。
しかも、シューゴの持つ「カイトの腕輪」と同じデザインの。
「これは……?」
「あぁ、今回のレアアイテム。
『伝説の腕輪のチョコであの子のハートをゲット!』とか宝箱に書いてあった」
凰花に答え、シューゴは彼女に向けて苦笑してみせる。
「けど……なんで私がこれを?
ゲットしたのはシューゴだろう?」
思わず凰花が尋ねると、シューゴは答えた。
「……ほたるちゃんがさ、言ってた」
「………………?」
「アメリカじゃ、男の子もプレゼント渡すんだって……」
その言葉に――凰花は彼の言いたいことを理解していた。
「……いいのかい? 私で……」
尋ねる凰花に、シューゴは思わず顔を赤くして、
「だって……オレのためにがんばってくれたんだろ?
オレ……レベル低くて、いつも迷惑かけてて……だけど、すっごく感謝してる。
だからさ……受け取ってほしいんだ」
「シューゴ……」
そのシューゴの言葉に、凰花は微笑みを浮かべ、言った。
「シューゴ、ちょっとこっち向いてくれないか?」
「え――?」
凰花のその言葉に、シューゴは言われるままに振り向き――
次の瞬間、凰花の顔が至近距離にあり、唇に暖かな何かが触れていた。
――来年もまた、目の前の貴方とこの日を迎えられますように――
――End
おまけ
「バルムンクさん」
「ん?」
バレンタインイベントから数日。いつものように通常業務のシステムメンテナンスにいそしむバルムンクの元に、少し困った顔のレキがやってきた。
「どうした? レキ」
「例のバレンタインイベントのその後についての件ですが……」
「あぁ、あの二人のことか。
せっかくジャマ者をふるいにかけるためにあそこまでトラップを充実させたんだ。苦労の末に結ばれた二人はどうしている?」
「えぇ。デバガメしてるこっちが恥ずかしくなってくるぐらい仲良しでしたよ。
ですが……他のユーザーの反応でちょっと困ったことが……」
「ん? どうした?
難しすぎるとかいう苦情でも来たか?」
さすがに気になって聞き返すバルムンクの問いに、レキはため息をつき、
「いえ。
逆に闘志に燃えるユーザーが多くて……
『来年もやってくれ』というリクエストが後を断たないんです」
「……ホントにか?」
そして、このイベントが後に「バレンタイン地獄のサバイバルレース」として定番行事化していくことになるのは、また別の話――
今度こそ終わり
あとがき
まずはシューレナ派、シューミレ派以下、他のCP推進派のみなさんゴメンナサイ。私がシュー凰派なのでシュー凰バレンタインSSです。
バレンタインってことで、ひたすら甘くしようと思って書き始めたのですが――
薄っ! 内容薄っ! しかも全然甘くねぇっ! むしろ完全にギャグSS状態!(爆)
やはり作業時間2日間の突貫SSではこれが限界ですか(涙)。
(初版:2003/02/14)