最近、切に願う。
「では、転入生を紹介します」
「初めまして。
この度、このセント・テレジア学院に転入しました――」
「柾木純です」 |
――神様、どうかオレに人生のリセットボタンを――
「ちょっと待て!」
咆哮し、ジュンイチはバンッ!と机を叩いた。
「護衛の依頼はわかった!
けど――どーしてオレが“女装しなくちゃならない”んだ!?」
まくし立てるジュンイチだが――龍牙はサラリと答えた。
「護衛対象が全寮制の女子校の生徒だからだ。
自然にターゲットに近づくには、生徒として潜入するのが一番だ」
「そーゆー依頼がなんで男のオレに回ってくるんだよ!」
「そんなの決まっているだろう」
わめき立てるジュンイチだが――龍牙は動じることなく続ける。
「霞澄がお前を推薦したんだ」
「何考えてやがんだあのバカ母はぁぁぁぁぁっ!」
よりにもよって首謀者は実の母――認めたくない事実を前に、ジュンイチは天を仰いで絶叫し――
「それについては、霞澄から伝言を預かっている」
「………………何ですと?」
意外な龍牙の一言に、ジュンイチは思わず眉をひそめ――
「『四六時中女の子と行動を共にして、少しは女心を学びなさい』だそうだ」
「選べよ、方法を!」
告げられた“伝言”の内容に、ジュンイチは再び声を荒らげた。
「そりゃ、オレだって自分でも女心がわかんねぇとは思うけどさ――それにしたって、毎回毎回、なんでまっとうな方法をとらないんだよ、あの人は!
通販でエロゲ大量に送りつけてきたり、女装付きで女子校に潜入させたり! いくら何でも荒療治がすぎねぇか!?」
「“まっとうな方法”とやらではお前の朴念仁を治すには足りないからだろう?」
「うぅっ、否定できない要素に心当たりがありすぎる……!」
あっさりと答えられ、ジュンイチは力なくその場に崩れ落ち――
「大丈夫! ジュンイチならできるわ!」
「そっちも無責任にあおるんじゃねぇ!」
自信タップリに断言する翼に、ジュンイチはすかさず反論する。
「だいたいっ! こーゆーのは橋本の領分だろ!
アイツがウチの女装要員なんだからさ!」
いずれにせよ、こんな依頼は是が非でも避けたい――自分の安全のため、あっさりと級友でもある戦友を売るジュンイチだったが――
「それは違うわよ」
対し、翼はあっさりと告げた。
「橋本くんが女装要員なんじゃなくて――」
「橋本くんも女装要員なのよ♪」 |
抵抗むなしく、女学生“柾木純”としてセント・テレジア学院に潜入するハメになったジュンイチ。
護衛対象は二人。正体を悟られず、危機を知られず、命を賭して守り抜け!
「あなた、このセント・テレジアの生徒という自覚はあるのかしら?」
「あ、あはは……スミマセン。育ちが粗野なもので……」
「はぁ……仕方ないわね。
この私が直々に、セント・テレジアに相応しい淑女に育ててあげる!」
「は、ははは……お手柔らかに……
(うぅっ、育てなくていいですぅ……)」 |
春日崎雪乃――護衛対象1。麗しくも強烈な学生会長。
「あはは、ジュンはホントにカワイイなぁ」
「か――――――っ!?」
「ん? どうした?」
「いや……ちょっとばかり泣きたくなりまして……」
「そーかそーか、泣くほどうれしいか♪」
「いえ、そーゆーワケじゃ……」 |
椿原 蓮――護衛対象2。学園の凛々しき王子様役。
二人を守るジュンイチの周りに集まる、一クセも二クセもあるお嬢様達――
「フンッ、ジュンは鞠奈の下僕なんだからね!」
「誰も下僕になんてなった覚えはありません!」
「あー、そーゆーコト言う?
じゃあこの『純サマの恥ずかしい写真100選』を……」
「いつ撮ったんですか、そんなもの!」
「そんなものがあるの!?」
「雪乃様もそこで食いつかない!」 |
新城鞠奈――理事長の孫娘。小悪魔系のワガママ娘。
「そっちも大変ねー、女装して潜入なんて」
「まったくだ。
お前みたく、ついでに学園生活をエンジョイ、なんて余裕もねぇよ」
「あはは、そこだけは私の勝ちかな。
やっぱり負けっぱなしは悔しいし」
「負け、って……SSSランク傭兵に対抗意識なんか燃やすなよ」
「いや、エージェントのランクじゃなくて……」
「………………?」
「カワイさで」
「やかましいっ!」 |
穂村有里――ボロは出すまじ同業者。別の組織のエージェント。
「純様、なんだかお疲れのようですけど……大丈夫ですか?」
「え、えぇ、大丈夫ですから……」
「ご無理はなさらないでくださいね。
純様に何かあったら、私……!」
「設子様……!
お嬢様ってそうですよね! そうあるべきですよね!」
「え、えっと……?」 |
真田設子――たおやか一直線の真打ち・お嬢様。
男であることを隠すジュンイチと彼が女と思い込んでいるお嬢様達。
すれ違う思いは悲劇と喜劇を巻き起こす!
「えっと……雪乃様……?」
「…………悔しい……」
「は?」
「どうして物腰はすごくはしたないのに、こんなに上手に紅茶が淹れられるの!?」
「そ、それは……」
「いいわ。言わなくても。
その代わり――」
「…………な、何でしょうか……?」
「私があなたを超えられるまで、付き合ってもらうわよ!」
「そ、それって、今から特訓ってことですか!?
今深夜10時ですよ! 今から練習って、何時までやるつもりですか!?」
「大丈夫! すぐに追い越してあげるから!」
(すみません! 睡魔に襲われた今のあなたでは徹夜しても不可能だと断言します!) |
「お、お風呂ですか!?」
「そうよ!
みんなでお風呂に入って親睦タイム!
この鞠奈様のナイスアイデア、イヤとは言わせないわよ!」
「え、えっと……」
(ちょっと待て! 風呂っつったらハダカだろ!?
倫理上ヤバいのはもちろん――どーやって正体ごまかせっちゅーねん!)
「フフフ、純様、観念なさったら?」
「…………楽しんでますわね、有里様……」
(てめぇ、後で覚えてろよ……!)
(おとといきやがれ、よ♪)
「…………ジュンも有里も、何二人してアイコンタクトしてるのよ?」 |
「あー、蓮様、設子様も。
一体、コレはどのような料理なのでしょうか……?」
「えっと……パスタですが?」
「他の何に見えるって言うんだ?」
「………………パフェうどん?」
(うかつだった……!
まさか蓮だけじゃなく、設子さんまで料理音痴とは……!) |
苦労続きのジュンイチを助けるべく、駆けつけてくれる仲間達。
「まったく、ジュンイチさんは私達がいないとダメですね」
「助けてあげるんだから、感謝しなさいよ」
「ジーナ……ライカ……
礼を言う前にひとつ、言いたいことがある」
「何?」
「どうかしましたか?」
「そのデジカメの画像を今すぐ消せ!」 |
予想外の地での、宿敵との再会。
「い、イクト!?」
「まさか……柾木、なのか……!?」
「なんでお前が……!?」
「安心しろ。今回は瘴魔の作戦とは無関係――オレ個人が受けた護衛の仕事だ。
オレ達だってあくまでも人間だ――当然、日々の糧を得るために働かなければならんということだ」
「いや、問題はそこじゃなくて――」
「何………………?」
「なんでお前が男性教師でオレが女装なんだよ!」
「知るかっ!」 |
かしましくもおだやかな日々の中、密かに迫る“敵”の影――
(こいつは神経毒……痺れ薬か?
くそっ、いつの間に……!?) |
「蓮様、こちらに……!」
「え、ジュン……?」
(今のは……スコープの反射光か……!?)
「有里……」
「………………(コクリ)」
(有里も気づいたか……
となれば、ここは有里に任せて……狙撃手を叩く!) |
「まさか、あなたが刺客だったとは……思っても見ませんでしたよ」
「ボクもですよ。
ですが……だからといって退くつもりはないのでしょう?」
「当然」
「フフフ……そう殺気立たなくとも、あなたを寂しがらせはしませんよ。
すぐに、春日崎雪乃も同じところに送ってあげますから。女の子同士で仲良くしてください」
「…………二つ、訂正です」
「何ですか?」
「ひとつ。雪乃は死にはしない――あなたがここで倒れる以上はね。
二つ。私――いや、“オレと”雪乃は『女の子同士』じゃない」 |
「今回のことで、思い知ったことがいくつかある……」
「何だ?
自分の無能ぶりでも思い知ったか?」
「まぁね。自分の未熟を痛感させられたよ。
それと、他にももうひとつ――」
「………………?」
「殺すための戦いだけじゃない……
止めるための戦いでも、手加減は無用ってことさ!」 |
果たして、ジュンイチは彼女達を守り抜くことができるのか!?
残された時間はない――
「オレは男オレは男オレは男オレは男オレは男……!」 |
女装癖に目覚めてしまう前に決着をつけるのだ!
恋する乙女と精霊の楯
「ジュン、あなた……!」
「そんな、ジュンが……!」
「心配はいりません。
雪乃も、蓮も……オレがこの手で守り抜く!」 |
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