「……七夕?」
「うん」
尋ねるギャラクシーコンボイに、なのははうなずいた。
その答えにしばし考え――ポツリと一言。
「それがプラネットフォースなのか?」
「違います」
即答だった。
カップリング人気投票1位獲得記念SS
「夜空に託す願いなの」
「……っていうのが七夕です」
「なるほど……この近辺の国の伝統行事なのか……」
なのはから七夕についての一通りの説明を受け、ようやくギャラクシーコンボイは納得した。
「国によっていろいろやり方は違うんですけど、日本の場合は用意した笹に願い事を書いた短冊を吊るすんです。
それで、七夕の晩、無事晴れて天の川が見れたら、その願いが叶う、って言い伝えがあるんです」
「ふむふむ……」
だいたい何を言いたいかは理解できた。
確かに、科学的根拠は何もないが――この七夕を機にグランドブラックホール消滅の願掛けなどをすれば、少しは皆の士気も上がるかもしれない。
「……やってみるか」
「えへへ……」
ギャラクシーコンボイのその言葉に、なのはは自信タップリに胸を張り、
「実は、そんなこともあろうかと、もうガードシェルさんに笹を用意してきてもらってあるんです!」
「ほぉ、準備がいいな」
「はい!
じゃあ、さっそく短冊書いちゃいましょう!」
そう答えて、なのはは短冊と筆ペンを取り出した。
「……よし、と……」
短冊に願いを書き記し、笹にくくりつけるとなのはは満足げにうなずいた。
「ギャラクシーコンボイさん、短冊は――」
できたのか――そう尋ねようとなのはは振り向き――
「……書けます?」
「し、心配ない……」
なのはの問いに、緊張を隠しきれないまま短冊と向き合っているギャラクシーコンボイはそう答える。
なぜ緊張しているのか――? 答えはギャラクシーコンボイの手の中にあった。
よせばいいのに、ギャラクシーコンボイはなのは達のサイズに合わせた短冊に願い事を書こうとしているのだ。
おそらく地球の行事では先達に当たるなのはに気を遣ってのことなのだろうが――問題はそのサイズ比。人間で言うなら米粒に字を書くようなものだ。
だが――必死なギャラクシーコンボイは気づいていないが、これはなのは自身の失態でもある。ギャラクシーコンボイ達のサイズを考えず、いつも家で七夕を祝っている感覚で笹や短冊を用意していたのだから。
そしてそれを自覚しているなのはは、せめてもの妥協案を提示することにした。
「もっと大きな笹と短冊、用意しましょう」
「む、むぅ……」
なのはのその案に、ギャラクシーコンボイはうなずいた――かに見えたが、
「し、しかし、せっかく用意してくれたのに……」
意外に往生際が悪い。
「……なら、書けなかったら用意し直す、ってことで」
「うむ」
なのはに答え、ギャラクシーコンボイは再び短冊に視線を落とし――
白旗が揚がったのは、それから1時間後のことだった。
「えーっと……リンディさんの話だとこの辺りですね」
リンディから渡されたメモに目を通しながら、なのははギャラクシーコンボイにそう告げた。
結局あの後、なのは達はトランスフォーマー用の短冊を用意し、次は笹を用意することにしたのだが――そこで問題が発生した。
トランスフォーマーのサイズに合わせられるほどの笹がないのだ。
そこでリンディに相談したところ、巨大な笹の群生する次元世界を教えてもらったのだ。
「よし、行くか」
「そうですね」
ともかく、後は笹を見つけて持ち帰るだけだ。ギャラクシーコンボイの言葉になのはがうなずき――
「ところでギャラクシーコンボイさん」
突然、そのなのはが口を開いた。
「身長、どのくらいありましたっけ?」
「ほぼ6mといったところだが」
「じゃあ……」
もうすでに、ハッキリと感じることの出来る背後の気配をうかがいながら尋ねる。
「後ろの大きなパンダさんは、どのくらいあるんでしょうか……?」
「ざっと……30mはあるだろうな」
「実は……パンダさんって、熊の仲間だって知ってます?」
「一応は、な」
「やっつけるワケにはいきませんしね」
「向こうに罪はないからな」
しばし沈黙し――二人は同時にうなずき、
『全力、撤退ぃぃぃぃぃっ!』
叫んで走り出すと同時――追いかけっこが始まった。
「な、なんか……ドッと疲れましたね……」
「あ、あぁ……」
それでも、なんとか笹だけは確保した――命からがら基地に戻り、つぶやくなのはにギャラクシーコンボイがうなずく。
その巨体からなんとなく魔力が強いのは予想がついていたが、まさかランサー系の射撃魔法まで使ってくるとは思っていなかった。当初から離脱体勢に入っていたこともあり反撃もままならない決死の逃走劇――必死の思いで逃げ切った時には、すでに日は地平線に沈もうとしていたほどだ。
「とにかくこれで、笹も確保、と……
後は、当日晴れてくれれば準備は万端ですね」
「そういえば、そんなことを言っていたな……
しかし、なぜ晴れなければダメなんだ?」
「あ、そういえば言ってませんでしたね。
日本の七夕は織姫と彦星の伝説と一緒になってて……」
聞き返すギャラクシーコンボイに、なのははそう言って説明してやる。
「つまり、織姫と彦星は天の川で隔てられていて、年に一度、七夕の夜に会うことが出来る。
だが、雨が降ると天の川が増水して会えなくなる……」
「はい。その伝説になぞらえて、七夕の夜は夜空の天の川を観賞するんです。
だから、肝心の七夕に晴れないと意味がないんです」
「なるほどな……」
なのはの言葉に納得し――ふとギャラクシーコンボイは気づいた。
「………………ん?
だが、確か当日は――」
〈大型で強い勢力を保った台風3号は、九州の南を四国に向けて北上を続けています。
これに伴い、今夜は全国的に雨が予想され――〉
「………………やはりな……」
七夕当日――司令室でテレビのニュースの天気予報を見ながら、ギャラクシーコンボイがつぶやき、
「せっかくここまでがんばったのに……」
そのとなりで、なのはは思わず肩を落とした。
「さすがにこれはどうしようもないですよね……」
「むぅ………………」
つぶやくなのはの言葉に、ギャラクシーコンボイは思わずうめいた。
彼女が今日のためにいろいろ準備してきたことを知っている。さらにそれに付き合ってきただけに、今の彼女の落胆がよくわかる。
なんとかしてやりたいのが本音だが――相手が台風ともなればそうもいかない。
台風の影響圏外で、という手もあるが、全国的に雨模様である以上、そうすると国外に出なければならない。日本の行事であるなら日本でやりたいと思うのはごく自然な発想であろう。
どうしたものかと思考を巡らせ――ふと気づく。
「……なのは」
「はい?」
顔を上げるなのはに、ギャラクシーコンボイは尋ねた。
「七夕の祭事は地上からでなければならないのか?」
「ぅわぁ♪」
夜空いっぱいに広がる星空を見上げ、なのはは思わず感嘆の声を上げた。
「ここならばたとえ雨でも問題はないだろう」
「そうですね」
となりで告げるギャラクシーコンボイに答え、なのはは思い思いに短冊に願い事を書いている仲間達へと視線を向ける。
彼女達がいるのは、海鳴市上空に姿を現したアースラの上――確認を取ったギャラクシーコンボイがリンディと掛け合い、アースラを雨雲の上に飛ばしてもらったのだ。
たとえ地上が雨模様であろうと、その雨雲の上であれば問題はない。そこにギャラクシーコンボイは目をつけたのだ。
「ありがとうございます、ギャラクシーコンボイさん」
「礼には及ばない。
元々この行事を提案したのはなのはだ。私はただ手伝っただけにすぎない」
なのはに答えると、ギャラクシーコンボイは笹へと向かい、なのはと共に短冊に願い事を書き込み、くくりつける。
「何てお願いしたんですか?」
「もちろん、宇宙の平和だ」
尋ねるなのはにそう答え――ギャラクシーコンボイは逆になのはに尋ねた。
「そういうなのはは何を願ったんだ?」
「えへへ……わたしも同じです。
みんなが平和でいられますように、って」
ギャラクシーコンボイにそう答えると、なのはは彼のとなりを離れて友人達の元へと向かう。
その途中で――ポツリとつぶやいたその一言は、誰にも聞かれることはなかった。
「……だけじゃ、ないんですけどね」
ギャラクシーコンボイは気づいていなかった。
今書いたもの以外にも、すでになのはは短冊に願い事を書いていたことを。
そう――ギャラクシーコンボイが人間用の短冊に悪戦苦闘している間になのはが書いていた、あの短冊である。
先の笹から二人で採ってきた巨大笹に移されたその短冊は、葉の茂る中に分け入り、なおかつ意識して注視しなければ判別が困難なほど奥にくくりつけられていた。
そこに書き込まれていた願いは――
『ギャラクシーコンボイさんと、ずっと最高のパートナーでいられますように』
この願いが叶うかどうかは、まだ誰にもわからない
だが願わくば
彼らのその満面の輝きが
永久に曇らぬものでありますように――
<おわり>
特別編ということで用意された特設あとがき
カップリング人気投票1位獲得記念、ということで『なのは×ギャラクシーコンボイ』SSです。
他のメンツがぜんぜん出てきてませんが、あくまで『なのは×ギャラクシーコンボイ』ということであえて出番を削りまくった結果です。
本当は他のメンバー(何とサンダークラッカーも!)の出番もあったのですが、上記の理由によりあえて無視。描かれていないだけで、一応場面の中にはいるのでどうかご容赦を。
エピソード本体のテーマはズバリ『七夕』。作中の時期を一切無視してますが、まぁ単発SSならでは、ということで。
また、今回は日常の一幕ということで、あえて「砕けた(『壊れた』にあらず)ギャラクシーコンボイ」を描いてみました。
総司令官としての任務から離れた、年相応の若者としてのギャラクシーコンボイを楽しんでいただけたら幸いです。
(初版:2006/07/09)