平凡な小学3年生だったはずの私、高町なのはに訪れた小さな事件。
受け取ったのは勇気の心。
手にしたのは魔法の力。
悲しいことや、辛いこともあったけど、私はまた日常に戻ってくることができました。
かけがえのない、新しい絆と、共に……
「魔法少女リリカルなのは〜Galaxy Moon〜」、始まります。
プロローグ
「再会と新しい出会いなの?」
時空管理局本局での、プレシア・テスタロッサの起こした一連の事件の裁判は、首謀者の死亡によって永遠の謎となった点をいくつか残したものの、概ねの決着を見た。
そう――フェイト・テスタロッサ、並びにその使い魔アルフの無罪判決を含めて――
「おめでとう! フェイトちゃん、アルフさん」
「あ……ありがとう……ございます……」
アースラへと戻ったフェイトとアルフを真っ先に出迎えたのはリンディだった。もちろん事務仕事はクロノとエイミィに丸投げだ。
そんな二人に内心で同情しつつ、フェイトはリンディの祝辞に応え――リンディは唐突にフェイトへと告げた。
「これで二人は晴れて自由の身。というワケで――
それじゃあ、さっそく行きましょうか♪」
「え…………?
どこへ……ですか?」
突然の話にワケがわからず、聞き返すフェイトにリンディは答えた。
「あなたの一番会いたい人のところよ」
それ以上の説明はいらなかった。
そして――フェイトとアルフはクロノとリンディに連れられ、なのはの家へと到着していた。
リンディが呼び鈴を鳴らし、数秒後――反応があった。
〈はーい、高町です〉
その声の主を推察するのは簡単だった。
「なのは!」
〈え――?
フェイト、ちゃん……?〉
思わず声を上げたフェイトに、なのははインターフォンの向こうでつぶやいて――すぐに我に返った。
〈ち、ちょっと待ってて!〉
その言葉と同時にインターフォンが切られ――
ガシャーンッ! ゴロゴロッ! ドタァーンッ!
何やらモノスゴイ音が家の中で巻き起こった。
「なんだか、驚かせちゃったみたいね――そりゃもうものすごく」
「あ、あはははは……」
リビングへと案内され、告げるリンディにから笑いを返しつつ、なのはは出迎えの際にひっくり返してしまったゴミ箱とその中身を片付ける。
ちなみにユーノもいつものフェレットの姿から人間の姿へと戻って手伝っている。他の家族はみんな出払っているのでこの姿でもノープロブレムだ。
「それにしても、もう判決が出たんですね」
「もう少しかかると思ってたのに……」
「まぁ、それについてはクロノががんばってくれたからね」
話題を変え、つぶやくように告げるなのはとユーノの言葉にリンディが答え、一同の視線を浴びたクロノは照れくさくなって視線をそらす。
「ところでなのはさん、ご家族の皆さんは?」
「お父さんとお母さんはお店、お兄ちゃんは大学、お姉ちゃんは高校に行ってて、まだ帰ってきてないんです。
……もしかして、お父さん達にも用があったんですか?」
「えぇ」
聞き返すなのはにうなずき、リンディは告げた。
「実は……」
「フェイトちゃんとアルフさんを、なのはちゃんの家に住まわせてあげてもらいたいの」
その言葉に、なのはは一瞬意味がわからず呆けていたが――すぐにその言葉の意味を理解した。
「……えぇっ!?
じゃあ、フェイトちゃん達と一緒に暮らせるの!?」
「なのはさんや、ご家族さえよかったら、ね」
声を上げるなのはに、リンディは笑顔でそう答えた。
その晩、帰宅した高町家の面々に、リンディは事情を説明した。
重要な部分はもちろん話せないため、かなりかいつまんだ説明になってしまったが、士郎も桃子も、そして恭也や美由希もあっさりとフェイト達を受け入れてくれた。
『むしろあっさりしすぎだ』というクロノのコメント付ではあったが。
ともあれ、フェイトとアルフは高町家で暮らせることとなり、リンディとクロノもまた、士郎と桃子の厚意によってその日は高町家に一泊することとなった。
明けて翌日――幸いにも土曜日で休みだったこともあり、なのはとユーノはフェイトとアルフ、そして同行を申し出たクロノを伴って街へと繰り出していた。
フェイトやアルフが高町家で暮らす上で必要な生活用品を買い揃えるためである。
「んー、まずはどこに行こうか」
「とりあえずは歯ブラシとか、小物の生活用品からかな。
服については、フェイトはなのはの、アルフは美由希さんのものを借りれば当面はなんとかなるだろう? なら今はすぐに必要になるものを買うべきだ」
街を歩きながら尋ねるなのはに、クロノは少し考えた末にそう答える。
そして、一同が雑貨屋へと向かうことにした、その時――
「あれ、なのはじゃない」
突然の声と共に振り向くと、そこにはアリサとすずかの姿があった。
二人とも書店の紙袋を持っている。本を買いに行った帰りのようだ。
「アリサちゃん、すずかちゃん」
「どうしたの? なんだか見ない顔がいっぱいいる……けど……」
言って、フェイト達に視線を向けるアリサだったが、アルフを見たところで視線を止めた。
それを見て、なのははようやく思い出した――二人は海鳴温泉の一件で、かなり“悪い形”で面識があったことを。
「あぁぁぁぁぁっ!
アンタ、あの時の!」
「あ、アリサちゃん! 落ち着いて!」
アルフを指さし、声を上げるアリサをなのははあわてて制止する。
「あの時はちょっといろいろあっちゃったけど、今はもう仲良しだから!」
「そうなの?
なら、いいけど……」
なのはの説得に、アリサはそう言って納得――したかに見えたが、今度はクロノへと向き直り、
「それじゃあ……アンタはなのはとどういう関係!?」
「え!? 今度はボク!?」
アリサの言葉に思わず声を上げるクロノだが、アリサはかまわず続ける。
「まったく、よく考えてみればこっちの方が驚きよ。なのはが男の子連れてるなんて」
《ボクも男の子なんだけどなー》
《ユーノくんのことはバレてないからねぇ……》
アリサの言葉にユーノとなのはが『念話』で話している間にも、アリサとクロノのやり取りは続く。
「意外よねー、まさかなのはが年上趣味だったなんて」
「し、趣味って何だよ、趣味って!」
ほとんどからかうことが主目的となっているアリサの言葉にクロノが真っ赤になって言い返す――と、突然クロノの通信機が呼び出し音を立てた。
同時、その意味するところに気づいたクロノの顔に緊張が走る――ただの連絡ならば通信機を目立たせないように念話で伝えてくるはずだ。なのに通信機を使ったということは、
早急、且つ確実に連絡を取らなければならない、それほどに重要な、切羽詰った用件だということだ。
訝るアリサとすずかにかまわず、通信機を取り出して発信者を確認する――エイミィからだとわかると音声のみで応答した。
「こちらクロノ」
〈あ、クロノくん?
緊急事態! その街の一角に、空間の歪みが発生してる!
たぶん、後5分もしない内に、別空間に通じる穴が開くよ!〉
「なんだって!?」
そのエイミィの言葉にクロノが声を上げ、なのはとフェイトは思わず顔を見合わせた。
〈幸いっていうか、場所はクロノ達のすぐ近く!
ポイントを教えるから急行して!〉
「わかった!」
言って、クロノは通信を切り、
「なのははフェイト達と先に帰ってて!」
「クロノくん!?」
「大丈夫! たぶんボクひとりで片づくから!」
声を上げるなのはに答え、クロノはそのまま駆け出していってしまった。
「……なのはちゃん?」
「何なの? 空間の歪みとか、別空間とかって」
すずかとアリサに訊かれ、なのはは返答に困ってフェイトに念話で尋ねる。
《どうしよう、フェイトちゃん……》
《話すしか、ないと思う。
けど、今はそれよりも……》
そのフェイトの意見にはなのはも同意見だった。今の会話に立ち会われた以上、これ以上の隠し事は事実上不可能だろう。話すしかないだろうが――今はそれよりも問題への対処の方が先決だ。
「ごめん、アリサちゃん、すずかちゃん!
帰ってきてから説明するから!」
「アルフ、行こう!」
「OK!」
「あ、待ちなさいよ、なのは!」
「アリサちゃん、待ってよ!」
口々に言って駆け出すなのは達をアリサが追い、さらにそれを追ってすずかも駆け出した。
エイミィに教えられたポイントは公園の森の中だった。クロノは知る由もないが、かつてなのはとユーノが出会ったあの場所だ。
ともかく現場に到着し、クロノは上空に発生し始めた空間の歪みをにらみつけた。
「エイミィ、異界からの干渉か!?」
〈違うね。同一次元内でのワープゲートみたい〉
「こっちが出口ってことか……」
エイミィの答えにクロノがつぶやくと、
「クロノくん!」
「なのは!? それにフェイト達も!?」
到着し、声をかけるなのはにクロノが驚き――
「――なのは!」
「アリサちゃん、すずかちゃん!?」
今度はなのはが驚く番だった。すずかと共に追ってきたアリサの声に思わず声を上げる。
「クロノ……ここなの?」
「あぁ」
尋ねるフェイトにクロノが答え、二人は空間の歪みを見上げる。
と――そんな彼らに、突然声がかけられた。
「ふぅん、あたし以外にもいたんだ、コレに気づいたヤツが」
「え――――――?」
その声に、思わずなのはは振り向き――傍らの木の上で、金髪の女性が枝に腰かけているのを発見した。
その下には、彼女に連れてこられたのだろうか、メガネをかけた学生服姿の少年の姿もある。
「お、お姉さん達は……?」
「んー、ぶっちゃけ言えばヤジウマかな?
変な空間の歪みができたみたいだから、見に来たんだけど……」
尋ねるなのはに女性が答えた、その時――空間の歪みが活性化、数メートルに及ぶ円形の穴が開く。
そして――
その中から何かが飛び出してきた。
飛び出してきた飛来物は彼女達の頭上を駆け抜け、近くの地面に突っ込んだ。轟音と共に、もうもうと土煙が巻き起こる。
「あっちか!」
それを見て、クロノが真っ先に落下地点へと走り、なのは達や女性もその後を追う。
そして、彼女達の到着から間をおいて、徐々に煙が晴れていき――
「……ロボット……?」
落下点にできたクレーターの中央に倒れる、スカイブルーに染め抜かれた装甲を持った人型ロボットを前に、なのはは呆然とそうつぶやいていた。
(初版:2005/07/31)