「……ろ、ロボット……?」
 突如上空に発生したゲートから地面に落下した、青色のロボットを見て、なのはは呆然とつぶやいた。
「傀儡兵……?」
「けど、こんなタイプのヤツは見たことないよ」
 つぶやくフェイトにアルフが答えると、
「……う、うぅ……っ!」
「あ、動いた!」
 うめくように声を発したロボットを見て、アリサが声を上げる。
「……こ、ここは……?」
「しゃべった……?」
「自我があるのか? コイツ……」
 うめくロボットの言葉に女性とクロノがうめくと、
「大丈夫ですか!?」
 クレーターを駆け下り、なのはがロボットに駆け寄り、声をかける。
「な、なのは、危ないよ!」
「けど、苦しそうだよ!」
 あわてるアリサにそう答えると、なのはは今度はすずかに尋ねた。
「すずかちゃん! すずかちゃんって機械に強かったよね!?
 なんとか助けてあげられないかな!?」
「え? わ、私が……?
 えっと……どんなふうになってるか、一度見てからじゃないと……」
 すずかが戸惑いがちにそう答えると、
「………………ん?」
 何かに気づいて、女性が連れてきていた学生服の少年が顔を上げた。
「……マズいな……人の気配だ。
 さっきの衝撃を聞きつけたか……?」
 集まってくる人の気配を感じて少年が言うと、
「仕方ない。
 一度、みんなでアースラに移動しよう」
 ため息をついて言うと、クロノはアリサとすずかを見て付け加えた。
「ここまで見ちゃった以上、彼女達にも事情の説明は必要だろうからね」

 

 


 

第1話
「トランスフォーマーとの遭遇なの?」

 


 

 

「一応、頼まれた工具とパーツはこれで全部だよ。
 作業服はどう? 大きくない?」
「うぅん、大丈夫」
 工具箱を置いて尋ねるクロノに、更衣室から出てきた作業服姿のすずかは後ろ髪をまとめながらそう答える。
 なのは達は結局、女性や少年、ロボットを連れてアースラへと転移。格納庫でロボットの修理に取りかかることにした。
「じゃあ、始めようか、すずかちゃん」
「はい、志貴さん」
 声をかける、これまた作業服に着替えた学生服の少年――遠野志貴に答え、すずかは彼と二人で作業に取りかかる。
「それにしても、いつの間にかなのはが魔法使いになってたなんてねぇ……」
「ゴメンね、アリサちゃん。今まで黙ってて……」
「いいわよ。むしろ話してくれなかった理由までセットでわかってさらに納得だわ。
 そんな事情なら、話せなくっても当然よね。あたしだって多分話せないと思うわ」
 一連の事情説明の後、つぶやいた自分に謝るなのはに、アリサはパタパタと手を振りながらそう答えた。
 別に怒っている様子のない親友に、なのはがようやく安心すると、その肩の上で、ユーノが先ほどアルクェイド・ブリュンスタッドと名乗った女性に尋ねた。
「それにしても、アルクェイドさんは、どうしてあの空間の歪みを感知できたんですか?
 ひょっとして、ボク達と同じ魔法使いですか?」
「ううん、違うわよ。
 私は……」
 言いかけ――アルクェイドは何やら思いついたらしく、ニヤリと笑って告げた。
「――吸血鬼よ」
『えぇっ!?』
「アハハハハ、冗談よ、半分ね」
 予想通り、まともに驚いてみせるなのは達に、アルクェイドは笑って答える。
「半分……ですか?」
「そ、半分。血を吸うっていうのは事実だからね。
 私は一般に『吸血鬼』って言われてる存在すべての祖――真祖のひとりなの」
「真祖……?」
「うーん、その辺りの説明はまた今度ね。ややこしいから。
 とにかく、私はその真祖としての感覚のおかげで、あの空間の歪みを感知できたの。
 それで、後は興味本位。ちょうど一緒にいた志貴を連れて見に来て――あとはみんなも知ってる通り」
 言って、アルクェイドはすずか達へと視線を戻し――その先で、すずかはライトを手に取り、ロボットへと呼びかけた。
「それじゃあ、えっと……」
「……あぁ、名前か?
 エクシリオンだ」
「エクシリオンさん、だね。
 ちょっと傷口を見せてもらえませんか?」
「わかった」
 すずかに答え、エクシリオンと名乗ったロボットは身を起こし、背中に受けた傷を見せた。
「えっと……ここが動力ケーブルで、こっちがシリンダーで……」
「素材はわからないけど……機械そのものの仕組みはオレ達の使ってる機械と同じみたいだな……
 じゃあ、すずかちゃん、ちょっと下がって」
 すずかのつぶやきに、志貴はそう言って彼女を下がらせて眼鏡を外す。
 そのとたん――志貴の視界に無数の『線』が現れた。
 これが志貴の持つ能力――生物・物質を問わず、対象を本質的なレベルから『殺す』ことのできる線、『死線』を視ることができる眼――その名も『直死の魔眼』である。
 そして、志貴は見えた線にそって愛用の小刀『七夜』を走らせ、破損したパーツを『殺し』て取り外していく。
「じゃあ、月村さん、遠野さん、ここは任せるね」
 そう言うと、クロノはなのはやフェイトへと向き直り、
「ボク達はブリッジに戻ろう。
 彼の抜けてきたゲートについて、何かわかってるかもしれない」

「セイバートロン星?」
「えぇ」
 聞き返すなのはに、リンディがうなずいた。
「あなた達の世界の、地球から遠く離れた銀河にある惑星よ。
 彼――エクシリオンと言ったかしら? 彼はその星に住む、変形能力を持つ機械生命体『トランスフォーマー』なのよ」
「じゃあ、彼はその星から……?」
「おそらく、ね。
 予想されるゲートの反対側は、間違いなくセイバートロン星のはずなんだけど……」
 フェイトに答え、エイミィは少し困った顔になって続けた。
「どういうワケか、セイバートロン星方面の観測が不可能になってるの」

「………………っつ――!」
「あ、ごめんなさい、痛かったですか?」
「いや……大丈夫だ。少し痛覚センサーに通電しただけだ」
 あわてて声をかけるすずかに、エクシリオンは彼女を気遣うようにそう答える。
 そして、今度は自分の足元の装甲を開き、他に破損がないかチェックしている志貴や肩の上で装甲を磨いているアリサに尋ねた。
「だけど……キミ達は、オレが怖くないのか?」
「ぜんぜん!
 そりゃ、最初は驚いたけど、困ってる人を放っておけないもの」
 エクシリオンの問いにアリサが答えると、
「エクシリオンさん、少しよろしいですか?」
 なのは、フェイト、クロノを連れて現れたリンディがエクシリオンに声をかけた。
「私は、このアースラの艦長を任されている、リンディ・ハラオウンといいます」
「アンタが艦長か。オレは――」
「いいですよ、ムリしなくて」
 座ったままでは失礼だとでも思ったのか、立ち上がろうとしたエクシリオンをリンディが制した。
「それより……少しお話を聞かせてもらえませんか?
 どうして、あなたは故郷であるセイバートロン星から地球にやってきたんですか?」
「そ、それは……」
 尋ねるリンディの問いに、エクシリオンは思わず言葉を濁した。
「どうしたの?
 セイバートロン星で、何かあったの?」
 そんなエクシリオンの態度に、不思議に思ったなのはが尋ね――エクシリオンは答えた。
「セイバートロン星は……もうない……」
「え………………?
 もう、ないって……どういうこと……?」

「さっきの地震、すごかったわね」
「あぁ」
 翠屋の店先で臨時店員としてシュークリームを売りながら、声をかけてくる忍に恭也は上の空といった感じで答えた。
「……どうしたの?」
「あ、いや……
 地震っていうには、何か変な感じがしたんだが……」
 尋ねる忍に恭也が答えると、
「地震じゃないと思いますけど……」
 そんな彼らに告げたのは、高校時代の後輩でありこの翠屋のヘルプ要員であり月村家のヒラメイドでもある、神咲那美である。腕の中には飼い狐の久遠を抱いている。
「何か知ってるの?」
「はい……
 偶然見たんですけど、あの地震(?)の時、何かが臨海公園に落ちるのを見たんですよ」
「何か……?
 隕石かな?」
「隕石ならもっと大騒ぎになってるだろ」
 恭也が忍に答えると、
「それは確かなのか?」
 突然の声に振り向くと、そこには1台の消防車が、なぜか戦車を伴って停車していた。
「は、はい……
 何が落ちたか、まではわからないんですけど……」
「そうか。
 情報、感謝する」
 答える那美にそう告げると、消防車はゆっくりと発車、戦車と共に走り去っていった。
「……うちの街の消防署に、あんな消防車あったか……?」
「さぁ……」
 思わず尋ねる恭也に、忍もまた眉をひそめてそう答えた。

「グランド……ブラックホール?」
「そう。通常のものをはるかに上回るパワーを持った、まさに超絶的なブラックホールだ」
 その名を聞かされ、聞き返すなのはに、エクシリオンが答える。
「オレ達もなんとか阻止しようとしたんだが……オレ達トランスフォーマーの科学力でも止めることはできなくて、セイバートロン星は……」
「それで、仲間の人達は無事なんですか?」
「あぁ。
 皆、無事地球に移住してきている。
 地球人達を刺激しないよう、地球の乗り物にトランスフォームして……」
 尋ねるクロノにエクシリオンが答えると、
「はい、これでおしまい。
 とりあえず応急修理だけど……」
「そうか、すまない」
 告げるすずかに答え、エクシリオンは自己診断プログラムを走らせる。
 ――全機能、85%まで回復。
「あぁ、まだ本調子とは言えないが、もう大丈夫だ」
「よかったぁ……」
 エクシリオンの言葉に、すずかはようやく安堵し、微笑んだ。

 とはいえ、地球で暮らすために一番重要なトランスフォーム機能のチェックをするには、アースラの格納庫は手狭だった。そこで、一度海鳴臨海公園へと転移し、そこでテストを行うことになった。
 人目につかないよう、先のエクシリオンの落下騒ぎも収まった頃合を見計らって転移、いよいよテスト開始である。
「それじゃあ、危ないから少し下がっていてくれ」
 言って、エクシリオンはなのは達を下がらせると静かにかまえ、
「トランスフォーム!」
 咆哮と共にその身体が変形を開始、1台のスポーツカーへと変形する。
 彼が言うには、まだ地球の乗り物を『スキャニング』していないらしく、そのデザインはセイバートロン星でのものらしい。
「よし、トランスフォームも大丈夫だ。
 本当にありがとう、すずか。感謝するよ」
「えっと……志貴さんが手伝ってくれたおかげですよ」
「そんなことないさ。
 最後の方なんて、オレの手なんかほとんど必要なかったじゃないか」
 礼を言うエクシリオンにすずかが謙遜、そんなすずかに志貴が言うと、
「あら、すずか……?」
 その声に振り向くと、そこには恭也や那美を伴った忍の姿があった。先程の翠屋でのやりとりから興味を持って訪れたのだろう。
「お姉ちゃん!?」
 突然の登場に思わず声を上げるすずかだったが、忍は彼女よりもむしろ後ろのエクシリオンに興味を抱いた。
「そのスポーツカーは?
 見たことないデザインだけど」
「あ、えっと……
 ここに停めてあって、えっと……」
 まさかエクシリオンの正体を明かすワケにもいかず、答えに困るすずかだったが、忍はかまわずエクシリオンを調べ始める。
 だが、何事もなく調べ終えたようで、エクシリオンから降り立つ忍を見てなのは達は胸をなで下ろし――
「……どうすれば変形するのかしら?」
 ぴしっ。

 その一言に、なのは達は思わず硬直した。
「な、ななな、何言ってるの、忍さん!
 スポーツカーが変形するワケないじゃないですか!」
 なんとかごまかそうとするアリサだったが――
「それがしっかりついてるのよ、変形機構」
 思いっきりバレていた。
《ど、どうしよう……》
《うーん……》
 念話で尋ねるフェイトになのはが考え込み――
「――――――ん?」
 最初に気づいたのはアルクェイドだった。
「何アレ?」
『え………………?』
 つぶやき、アルクェイドの指さした先を見ると、1機の戦闘機がこちらに向かってくる。
「何だ……?」
 恭也が首をかしげると――その正体に気づいたエクシリオンは自分のことがバレるのもかまわず声を上げた。
「マズい!
 デストロンだ!」
「え……?
 デストロン……?」
 エクシリオンの言葉になのはが声を上げると――こちらに向けて戦闘機がミサイルを放つ!
 驚き、各々にデバイスをかまえるなのは達だが、発動させるよりも早くミサイルが迫り――爆発した。

 しかし、巻き起こった爆発はなのは達を襲いはしなかった。
 防いだのはなのは達でも、とっさに変形し、彼女達をかばったエクシリオンでもない。
 1台の消防車だった。
「な、何……?」
 思わず声を上げる忍だったが、恭也はその消防車に見覚えがあることに気づいた。
 そうだ――ここに来る前、翠屋で見かけたあの消防車だ。
 と――その消防車が声を発し、エクシリオンに問いかけた。
「大丈夫か? エクシリオン」
「は、はい、ギャラクシーコンボイ総司令官」
「ギャラクシー、コンボイ……」
「総司令官……?」
 答えるエクシリオンの言葉に志貴とアリサが声を上げると、消防車のトラック部分が分離し、
「ギャラクシーコンボイ、トランスフォーム!」
 咆哮と共に、人型ロボットへと変形する。
 一方、ミサイルを放った戦闘機も、彼らの無事とギャラクシーコンボイの登場に気づいた。
「クソッ、だったら!
 サンダークラッカー、トランスフォーム!」
 叫んで、戦闘機――サンダークラッカーも人型へと変形、着地すると同時に左手と一体になったビーム砲を撃つが、
「なんの!」
 ギャラクシーコンボイもビームガンで応戦、両者は銃撃戦へと突入する。
 と――サンダークラッカーの撃った流れ弾が1本の木を直撃、木は炎に包まれながらなのは達の方へと倒れてくる!
「危ない!」
 とっさに叫び、那美をかばって小太刀をかまえる恭也だったが――
「レイジングハート、お願い!」
「バルディッシュ!」
 叫んで、なのはとフェイトはラウンドシールドで倒れてきた木を受け止める。状況が状況だ。もう恭也達に正体がバレるから、などと言ってはいられない。
 そして、
「このっ!」
 跳躍し、志貴が『七夜』を振るい、『死線』をなぞって倒木を解体する。
「わー、志貴、相変わらずすっごぉい!」
「言ってる場合か!」
 のん気に拍手するアルクェイドに言い返し、着地した志貴は銃撃戦を繰り広げるギャラクシーコンボイとサンダークラッカーへと視線を向ける。
 一方、サンダークラッカーもこのままではラチがあかないと判断したか、跳躍すると戦闘機へとトランスフォームする。
「やっぱ地上戦はガラじゃねぇや!
 ここは空中から!」
 言って、上昇するサンダークラッカーだったが、
「逃がさん!」
 ギャラクシーコンボイはビークルモードへと変形、飛行ユニットに変形したキャリア部と合体すると急上昇し、体当たりでサンダークラッカーを弾き飛ばす!

「すごい!
 あの消防車、空飛んでるよ!」
 空中戦に転じたギャラクシーコンボイを見て、すずかが興奮して声を上げると、
「『消防車』じゃないでしょう?」
 そんな彼女に言うと、忍はエクシリオンへと向き直り、
「ギャラクシーコンボイ総司令官、よね?」
「あぁ」
 そうエクシリオンがうなずくと――
「そんなのどうでもいいわよ」
 告げるアルクェイドの表情は――かなりコワイ。どう見ても怒っている。
「あたしに向けてあんなものブッ放したむくいは、受けさせてやるんだから!」
「……手加減してやれよー」
 止めてもムダだと悟っているのか、志貴の制止は投げやりだ。
 そんな彼らの傍らで、なのはとフェイトは顔を見合わせ――互いにうなずいた。

「ギャラクシーコンボイ、スーパーモード!」
 咆哮し、ギャラクシーコンボイは分離したキャリア部との合体体勢に入る。
 展開された両足にレッグパーツが、背中にウィングパーツが合体し、それぞれがしっかりと固定される。
 最後にフェイスガードが閉じ、スーパーモードへとパワーアップしたギャラクシーコンボイは追い詰められたサンダークラッカーへと両腰の砲を向ける。
「逃げるなら撃たない。どうする!?」
「くっ……くっそぉっ!」
 ギャラクシーコンボイの言葉に、ヤケになったサンダークラッカーは左手の砲をかまえ――突然、その周囲にいくつもの魔法陣が出現する。
 なのはとフェイトが作り出した、足場用の魔法陣“フローターフィールド”である。
 そして――
「殺す――!」
 フローターフィールドを駆け上がった志貴が“直死の魔眼”を全開。破壊衝動のままに『七夜』を振るい、サンダークラッカーの砲を解体し、
「肉片も……残さないから!」
 ズガガガガァッ!
 アルクェイドが作り出した鎖の渦が、サンダークラッカーを弾き飛ばす!
「くっそぉ、覚えてやがれ!」
 切り札を破壊され、さらに上空にはフローターフィールドで志貴とアルクェイドを運んだなのはとフェイトまで控えている。その上目の前にはスーパーモードのギャラクシーコンボイ――さすがにこれ以上の戦闘継続は不可能と判断したか、サンダークラッカーは月並みなセリフを残すと展開したゲートの向こうへと消えていった。

 サンダークラッカーを撃退した後、公園の火災を消火したなのは達やギャラクシーコンボイ達は、忍やすずかの提案で月村邸の敷地内に存在する森の中にその身を隠していた。
 その場にはギャラクシーコンボイだけでなく、彼らの仲間のトランスフォーマーも呼び集められた。
 ジェット輸送機に変形するドレッドロック。
 ブルドーザーに変形するガードシェル。
 ジープに変形するジャックショット。
 戦車に変形するバックパック。
 ただひとりだけ地球の乗り物に変形しない、宇宙船に変形するベクタープライムと、彼の従者である4体のマイクロン、ホップ、バンパー、ブリット、ルーツ。
「そして……私が、サイバトロン軍総司令官、ギャラクシーコンボイだ」
「高町なのはです。
 よろしくお願いします。それから……」
 ギャラクシーコンボイに答えて名乗ると、なのはは笑顔で告げた。
「地球へ、ようこそ♪」

 そして、互いに自己紹介を済ませ、今後のことを話し合うこととなった。
「これからどうします? ギャラクシーコンボイ総司令官」
「ファストエイドに一任している現状だが、グランドブラックホールをどうにかしないと……」
 ドレッドロックの問いにそうつぶやき、ギャラクシーコンボイはしばし考え、
「それから、移住してきている仲間達の現状を確認しよう」
「それには基地がいりますね」
「うむ」
 バックパックの言葉にギャラクシーコンボイがうなずくと、
「それだったら、ボクらのアースラを基地にしたらどうでしょう?」
 そう提案するクロノだったが、ギャラクシーコンボイは首を左右に振った。
「エクシリオンの話では、キミ達の艦は時空間航行船らしいが、基地は行動の迅速性を考えた場合、できれば現地であるこの星に建造したい。
 それに、キミ達にこれ以上世話になるワケには……」
 クロノに告げるギャラクシーコンボイだったが、
「今さらそんなこと、言いっこなしですよ」
 そう答えたのは――なのは達ではなかった。
 アースラからこの場に転移してきたのだろう。一同が振り向いたその先にはリンディの姿があった。
「セイバートロン星の科学力ですら止められない――それだけの規模のブラックホールなんでしょう?
 そんなものがこれ以上この宇宙を飲み込みつづけたら、いずれは近隣の次元世界にまで影響が出ます」
 そう告げるリンディの表情に迷いはない――アースラの艦長としての、そして時空管理局の一員としての顔だった。
「事はこの世界だけの問題ではありません。
 私達時空管理局も、お手伝いさせていただきます」
「しかし……」
 リンディに言いかけるギャラクシーコンボイだが、なおも決意表明が上がった。
「このままグランドブラックホールとかいうのが成長したら、その内この星も巻き込まれるのよね?
 別に人間達がどうなってもかまわないけど……志貴と一緒にいられなくなるのは困るのよね」
「んー、オレにできることなんか限られてると思うけど……ほっとけないよ。他人事じゃないしね」
 アルクェイドと志貴である。
「ギャラクシーコンボイさん、みんなにとってもグランドブラックホールは大問題なんです。なんとかしないといけないって思うのは、みんな同じですよ」
 そう告げる恭也のとなりでうなずき――なのはもまた、ギャラクシーコンボイに告げた。
「えっと……志貴さんも言ってたみたいに、できることは少ないかもしれないけど……私達にも、きっとできることがあるはずです。
 だから、私にも……お手伝いさせてください!」
「むぅ……」
 なのはの言葉に、ギャラクシーコンボイは一同を見渡した。
 説得は――できそうになかった。
「……わかった。
 協力を、お願いしよう」
 あきらめてそう告げると、ギャラクシーコンボイは気を取り直してなのは達に尋ねた。
「では、さっそくですまないが……この近辺で基地にできそうな場所はないだろうか?」
「この近くに基地を作るんですか?」
「そうだ。
 我々が目立たないためにも、これ以上移動せずに基地をかまえたい」
 聞き返すフェイトにギャラクシーコンボイが答えると、
「だったら、いい場所があるわよ」
 ギャラクシーコンボイにそう告げるのは忍だ。
 その真意が読めず、顔を見合わせるなのは達だったが――恭也は気づいた。
「ひょっとして……国守山か?」
「正解。
 愛さんやさざなみのみんななら、事情を話せばわかってもらえるわよ」
 恭也の問いに忍はそう答え――
「それに……国守山には『アレ』もあるし
「ちょっと待て。国守山に何を作った、お前は」
 最後にポツリと付け加えた忍のつぶやきを、恭也は聞き逃してはいなかった。


 

(初版:2005/08/14)