「うーん……」
 さざなみ女子寮のリビングで、槙原耕介は新聞に目を通して唐突にうなり声を上げた。
「……どうしたの?」
 尋ねる従姉妹――かつてなのはがユーノを運び込んだ槙原動物病院の院長・槙原愛の問いに、耕介はその記事を見せた。
「あぁ、臨海公園の火災?」
「えぇ。
 幸い時間も遅かったからよかったんですけど……ほら、ここ」
 答え、耕介は記事の一角を指さし、傍らからのぞき込んできた古株の寮生・仁村真雪はそれを声に出して読み上げた。
「えっと……
 『目撃証言の中には「人型のロボットを見た」という証言もあり、関係者は何者かのイタズラの可能性があると見て』……
 なんかおかしな話だね、人型ロボットなんて……」
 ま、それはそれでマンガのネタにできそうだがね、と付け加え、真雪が新聞を耕介に返した、その時――
 プルルルル……
 電話がコール音を立てた。

 

 


 

第2話
「みんなで作る秘密基地なの」

 


 

 

『ぅわぁ……』
 呼び出され、訪れた月村邸で、耕介と愛はそろって声を上げた。
 目の前には、数体の人型ロボット――ギャラクシーコンボイ達サイバトロンが勢ぞろいしている。
「えっと……彼らが、電話で話した『お客さん』なんですけど……」
「ど、どうも……
 ギャラクシー、コンボイだ……」
 紹介する那美の言葉に、どう応じればいいのかわからず、ギャラクシーコンボイは少々あいまいなあいさつをするしかない。
 と、そんな彼らに代わり、忍が簡単に事情を説明する。
「それで……この人達、この近くに基地を作りたいらしいの。
 で、国守山の地下を使わせてもらえないかなー、って」
「うちの山を?」
「そ。
 あそこなら、あたしが作ってあげたシェルターがあったでしょ? あれを流用すれば……」
「ちょっと待て」
 聞き返す愛に答える忍の言葉に、恭也はすかさず待ったをかけた。
「何?」
「お前は一体何を作ってるんだ?」
「シェルター」
「いや、そんなにあっさり答えられても困るんだが……」
 即答する忍の言葉に恭也がうめくと、
「いいんじゃないか?」
 あっさりとそう答えるのは、同行してきた真雪である。
「どこの出身だろうと、困った時はお互い様、だろ?」
「それは、そうですけど……」
 真雪の言葉に、愛は言葉をにごす。
 別に、彼らに土地を提供することに抵抗があるワケではない。彼女の意図に気づいたからだ。
「……マンガのネタにするつもりですね」
「当たり前だろ」
 即答された。
 だが――真雪はポツリ、と最後に付け加えた。
「それに……ひとつ『聞きたいこと』もあるし、ね……」

 ともかく、愛が真雪に勝てるはずもなく、結局国守山の提供が決定。一同はそのまま現地へと移動した。
 事前に寮生達にも連絡を済ませ、すでに顔合わせも済んでいる。
「この辺なんかいいんじゃないかな?」
 寮生達の中でもこの国守山が庭同然となっている陣内美緒の案内で、やって来たのは国守山の一角――岩壁がむき出しになっている地区だ。眼下へと視線を向けると美緒が『たま池』と呼ぶ、名もなき池が見渡せる。
「岩盤をくり抜いて居住スペースを作るんでしょ? だったら、この辺り一体なら木を切る心配もないし、地盤も丈夫だと思うんだけど」
「……どうだ? バックパック」
 美緒の提案にギャラクシーコンボイが尋ねると、バックパックは岩盤のデータを解析し、
「……問題ありません。
 岩盤の強度も十分ですし、海に面した街ですから地球規模での戦略的価値も高い。
 加えて人間活動区域からの距離も手ごろですし……何より私有地というのがいい。一般人の立ち入りも心配する必要はありませんからね。
 まさに理想的なポイントと言えるでしょう」
「よし、なら決まりだな」
 そううなずくと、ギャラクシーコンボイは一同を見回し、正式に命令を下した。
「ここに、我々サイバトロンの地球前線基地を設置する!」
『了解!』

「ここがメインコントロールセンター、次にレーダー監視システム、あとはエネルギー発生炉と、メインコンピュータールーム、と……」
 つぶやきながら、バックパックは前面に投影した3次元画像に必要な設備を、効率よく配置していく。
 が――
「ちょっと待った!」
 そこに待ったをかけたのはアリサだった。
「何よ、この間取り! ぜんぜんなってないじゃない!」
「そ、そうか……?」
「当たり前よ! これからみんなで住もうってのよ! 言わばマイホーム! 殺風景にしちゃダメなの!
 だから、床はフローリング、キッチンは広めで、もちろんダイニングキッチン! ガーデニングもしたいし……」
「ち、ちょっと、アリサちゃん、ストップ、ストップ」
 バックパックに答えるなのはを、志貴はあわてて制止する。
「あのね、別にオレ達が住もうってワケじゃないんだから……」
「けど、あたし達も出入りするのよねー」
 あまりワガママを言わせては――と説得にあたる志貴だったが、それをあっさりぶち壊すのはアルクェイドだ。
「あのー、どちらにしても、多分泊り込む人とかも出てくると思いますから、私達人間の居住性も考えていただけると……」
「なら、私が」
 せめてもの妥協案を提示するなのはの言葉に、今度はホップが3D設計図を作り始める。
 だいぶ間取りが変わったが、今度はなのは達人間組にとっても過ごしやすい環境となっている。加えて忍が作ったという『シェルター』との便宜も図られており、月村邸やさざなみ寮からも容易に行けるようになっている。
「恭也の家にも路線引いてもらう?」
「……いや、いい」
 尋ねる忍の言葉に、恭也はため息をついてうめく。
 ともあれ、ホップの設計は人間組には概ね好反応。この設計で建設することが決定したが――
「こ、これが、地球流、ってヤツなのか……?」
「何がいいのか、よくわからないが……」
 トランスフォーマー達には今いち理解しがたい感性のようだ。ガードシェルとジャックショットが首をかしげ――
「文句ある?」
『………………いや』
 それを真雪が黙らせた。

 ともかく、トランスフォーマー各位は基地データをスキャン、いよいよ作業開始である。
 まずは岩盤のくり抜き作業。各自自分の火器や拳を繰り出し、岩盤を粉砕していく。
「す、すごい……」
「おやおや、豪快だねぇ」
 そんな彼らの様子に圧倒され、那美とさざなみ寮の住人のリスティ・槙原がつぶやくと、
「ブッ壊すのなら、あたしの出番かなー♪」
「お前だといらないところまで壊しそうだからダメ」
 ウズウズしてきたのか、参加しようとするアルクェイドが志貴に止められた。
「むー」
「限られたところだけを壊すのなら、むしろオレの出番だろう?」
 むくれるアルクェイドにそう言うと、志貴は眼鏡を外して『七夜』をかまえる。
 そして、バックパックから壊すべき場所の指示を受け、
「――そこっ!」
 見えた『死線』にそって『七夜』を走らせ、目標の岩盤を解体する。
「……大したものだ。
 そんな小刀で岩盤を……」
「そう自慢できるものじゃないですよ」
 感心し、つぶやく恭也に答えると志貴は告げた。
「見えちゃうんですよ、『死』が……」

「サンダークラッカーが?」
「そうだ。
 エクシリオンのワープ先を探索させていたサンダークラッカーから連絡が途絶えた」
 尋ねる声に、その存在は静かに答えた。
「あの星の文明レベルは6。我々を迎撃できる武器は存在しないはず……
 なるほど、サイバトロンがいる可能性がある、と……」
「そういうことだ。
 サンダークラッカーも放ってはおけんし……地球に出向くのも悪くなかろう」

「よし、バックパック、エクシリオン、ジャックショットは、6次元レーダーシステム、及び基地中枢システムの設置。残りのメンバーは壁面及び迎撃時に対デストロン用のステルスビームコートだ」
『了解!』
 一通り岩盤の破壊――もとい、くり抜き作業も終わり、ギャラクシーコンボイの指示でサイバトロン達は次の作業――基地システムの設置や内装作業へと移っていく。
「すてるす……?
 何? それ」
「ほら、マンガとかであるでしょ?
 敵に見つからないようにする、特殊処理のこと」
 首をかしげるユーノに答え、なのはは作業を始めたサイバトロン一同を見回し、
「けど……これだったら、お手伝いできるかな……?」

「よい、しょっと」
 掛け声と共に、エクシリオンが通信システムのボックスを置くと、
「ぅわぁ……」
 まさにSFの世界そのものなシステムの数々を前に、美緒は思わず感嘆の声を上げる。
「精密機器だらけだから、あまり触っちゃダメだぞ」
 そんな美緒にエクシリオンが釘を刺すが――
「って、言ってるそばから……」
 彼女にそんなものが通じるはずもない。同じく寮生の我那覇舞と共にいろいろといじり始めるのを見て、エクシリオンは思わずため息をつく。
「えっと……エクシリオンさん」
 と、そんなエクシリオンに、すずかが声をかけた。
「これって……通信システム、ですよね……?」
「すずか……それがわかるのかい?」
「えっと、お姉ちゃんほどじゃないけど……」
 尋ねるエクシリオンにすずかは謙遜まじりに答えるが――エクシリオンはしばしマジメに考え、
「……よし、それじゃあ、キミが指揮して、そのシステムの接続をみんなでやってもらえるか?」
「はい!」

「ここは、勢いよく飛び出すカタパルトにした方がいいわねぇ」
 発進システムの設置をしているドレッドロックの元には、忍と恭也がアドバイスに訪れていた。
「カタパルト……この星の発射システムか?」
「あぁ。
 加速をつけて飛び出すことで、よく速く目的地へと到着できるだろう?」
「なるほど……」
 答える恭也の言葉に、ドレッドロックはしばし考え、
「よし、その案で行こう」
「そうこなくっちゃ!」

「ホップ、こっちこっち!」
 レーダーシステムの設置は耕介の指導の下、真雪と愛、そしてフェイトとアルフがホップを手伝っていた。現在は耕介の誘導でホップがレーダー本体を運んでいるところだ。
 と、そこへガードシェルがやって来た。
「手伝うことはあるか?」
「あ、じゃあ、ホップが持ってきてくれたこのレーダーを運んでもらえないかな?
 重さは大したことないけど、あたしには大きすぎて運びづらいんだよ」
「了解だ」
 アルフに答え、ガードシェルはホップからレーダーを受け取り、フェイトの待つ設置ポイントへと運ぶ。
「ここでいいのか?」
「はい。
 じゃあ、愛さん、真雪さん、お願いします」
「はーい♪」
「任せな」
 ガードシェルに答えるフェイトの言葉に、愛と真雪は口々に言って工具を取り出し、レーダーの設置に取り掛かる。
「ほぉ……慣れたものだな」
「二人とも、車いじりで慣れてるからね」
 感心するガードシェルに答え、耕介もまた工具を取り出し、
「じゃあ、オレが配線関係をやるんで、ちょっと教えてもらえますか?」
「あぁ」

「美緒さぁん! こっちに持ってきてください!」
「OK、OK!」
 声をかけるすずかに答え、美緒は一抱えほどもある太いケーブルを運んでくる。
「ここにつなぐの?」
「はい、お願いします」
 なのはの答えにうなずき、美緒はケーブルをエクシリオンの持ってきた配線システムのソケットに差し込み――
 バチッ!
「くぅん!?」
 通電し、走った火花に那美と共にいた久遠が驚き――ぽんっ、と音を立てて少女の姿に変身する。
 そう。久遠はただの狐ではない。長い年月の中で霊的存在へとその身を昇華させた妖狐なのだ。かつては人間への恨みで祟りに取り憑かれたりもしていたが、今では祟りも祓われ、那美の良き家族となっている。
 だが――突然変身されてはそんな事情を知らない者からすれば驚きが先に立つ。那美はその場に居合わせたエクシリオンの反応を気にかけるが――
「へぇ……」
 予想に反してエクシリオンの反応は小さかった。変身し、こちらを見上げる久遠をまじまじと見つめ――ポツリ、と一言。
「この子もトランスフォーマーなのか?」
「違いますよ」
 よく考えれば、変形とはいえ彼らトランスフォーマーも複数の姿を使い分ける種族だ――彼ららしいと言えばらしいその反応に、那美は苦笑まじりにそう答えた。

「えっと……ここはリビングね。
 ジャックショット! こっちにソファ持ってきて!
 クロノくんはカーペット!」
「お、おぅ!」
「わかった」
 人間用のスペースの工事はアリサが仕切っていた。彼女の指示でジャックショットとクロノがそれぞれ指示されたものを持ってくる。
「アルクェイドさん、そっちはどうですか?」
「大丈夫よ」
 尋ねるアリサにアルクェイドが答え、
「よっこいしょ、と♪」
 平然とベッドを片手で持ち上げるのを見て――ジャックショットはクロノに尋ねた。
「……オレ達、いらないんじゃないか?」
「それ言ったらまた怒られますよ、間違いなく」

「ぅわぁ……
 すっかり基地っぽくなりましたね!」
「いや……一応、基地なんだけど……」
 内装もほぼ終了した指令室を見回し、声を上げる愛にエクシリオンは少し肩をコケさせてつぶやく。
「バックパックさん、できましたよー!」
「ありがとう、なのは。
 これで一通りのシステムが稼動するはずだ」
 ケーブルの接続とその点検を済ませたなのはの言葉に、バックパックは自分の方の作業も済ませ、
「アルフ、電源を入れてみてくれ」
「OK!」
 バックパックに答え、アルフはトランスフォーマー用に用意された電源レバーを引き下ろす。
 とたん、各システムに通電し、モニターが次々に起動、さらに指令室内の照明の点灯し、室内が明るく照らし出される。
「やったぁ!」
 無事システムが完成したことを喜び、すずかが声を上げ――しかし、突然の警報が急を告げた。
「どうしたんだ!?」
「どうやら、喜んでばかりもいられないみたいだ」
 声を上げる志貴に答え、バックパックはレーダーシステムを呼び出す。
 そして表示された画面は、衛星軌道上から何かが降下してくることを示していた。
 さらに識別を進め――バックパックは声を上げた。
「これは……デストロンだ!」

〈総司令官、大変です。
 デストロンが出現しました!〉
 バックパックの報せは、すぐにギャラクシーコンボイ達にももたらされた。
〈敵機影は2機。
 コンピュータの解析プログラムによると――マスターメガトロン、及び、スタースクリームと思われます!〉
〈誰なんだい? そいつらは〉
「デストロンのナンバー1とナンバー2だ。
 だが、なぜヤツらが地球に……?」
 尋ねる真雪に答え、考え込むギャラクシーコンボイだが、今はそれどころではない。
「だが……マズいことになった……」

「マズいこと……?
 どういうことですか?」
 ギャラクシーコンボイの言葉に耕介が聞き返すと、忍が彼に答えた。
「この基地はまだ未完成なんですよ。
 ステルス処理も済んでないし……事実上、敵の目から丸見えなんです」
「そうか……敵に見つかれば、『秘密基地』が『ただの基地』になってしまう……
 最悪、この基地を放棄することにもなりかねない」
「そんな……!
 せっかくここまで作ったのに……」
 つぶやく恭也になのはが声を上げると、クロノがバックパックに尋ねた。
「バックパック、デストロンの使ってるレーダーの有効範囲は、どのくらいですか?」
「特殊な装備を有していない限り……半径、約150kmが限界だ」
 バックパックが答えると、ギャラクシーコンボイはしばし考え、指示を下した。
〈私とドレッドロック、ガードシェル、ベクタープライムで迎撃に出て、時間を稼ぐ。
 その間に、残りのみんなで基地のステルスコート処理を完了させてくれ〉
『了解!』

「いいか、半径150km圏内に、敵を近づけるな!」
「了解!」
 飛行モードへと変形したギャラクシーコンボイの言葉にドレッドロックが答え、二人はベクタープライムと共に上空でマスターメガトロンとスタースクリームを待ち受ける。
 飛行能力を持たないガードシェルは彼らが突破された場合に備えて地上で待機である。
 一方、降下してくるデストロンもギャラクシーコンボイ達に気づいた。
「さっそくお出迎えのようですね」
「サイバトロンめ、返り討ちにしてくれる!
 トランスフォーム!」
 声をかけてくるスタースクリームに答え、マスターメガトロンは人型へとトランスフォームし、
「これでもくらえ!」
 ギャラクシーコンボイ達に向けてその手から雷撃を放つ!

「みんな! 作業状況は!?」
〈Aブロック、達成率57%!〉
〈Bブロック、65%!〉
 尋ねるバックパックの言葉に、ジャックショットとガードシェルが答え、
〈Cブロック、77%!
 後5分くらいで終わるわよ!〉
 機材を借りて作業に参加している人間組を代表して忍が報告する。

〈終わり次第みんなDブロックに回ってくれ!〉
《了解!》
 バックパックの言葉に一同が答え、再びそれぞれの場所で作業に戻る。
「けど、みんな大丈夫かな……?」
 迎撃に出たギャラクシーコンボイの身を案じて那美がつぶやくのを、なのはは作業を進めながら耳にしていた。
 見ると、となりでフェイトやクロノも自分と同様に何かを決意した視線をこちらに向けている。
 それを受け――なのはは決意し、忍からインカムを借りてバックパックに告げた。
「バックパックさん!」
〈どうした!? なのは!〉
「わたし達も、ギャラクシーコンボイさん達をお手伝いに行ってきます!」

「な、何言ってるんだ! 危険すぎる!」
〈けど、このままじゃ基地が見つかっちゃいます!〉
 突然の提案に、思わず声を上げるバックパックだが、なのはも譲るつもりはない。
〈大丈夫! わたし達も、けっこう戦えるんですよ!
 じゃあ!〉
「お、おい!」
 なおも制止しようとするバックパックだが、なのはは通信を切ってしまった。

「……よし、行こう、フェイトちゃん、クロノくん!」
「あぁ!」
「うん!
 アルフはみんなの手伝いをお願い!」
 インカムを忍に返し、告げるなのはにクロノがうなずき、フェイトはアルフに告げ――
「なのは」
 そんななのはの前に、恭也が立ちふさがった。
「お、お兄ちゃん……?」
 もしかしたら怒られるのではないか――と思わず身をすくませるなのはだったが、恭也はしばしの沈黙の後に告げた。
「……気をつけろよ」
「…………はい!」

「トランスフォーム!」
 咆哮し、ガードシェルはブルドーザーから人型へと変形、降下してきたスタースクリームへとビームを放つが、スタースクリームもそれをかわし、
「おぉぉぉぉぉっ!」
 さらに突っ込んできたベクタープライムをかわし、蹴り飛ばす!
 そして、ギャラクシーコンボイがコンボイガンで、ドレッドロックもミサイルでマスターメガトロンを狙うが、
「その程度で!」
 マスターメガトロンも雷撃でそれを迎撃する。
 と――
「マスターメガトロン様」
 スタースクリームがマスターメガトロンに声をかけた。
「敵の動きが妙です」
「妙、だと……?」
「ギャラクシーコンボイを中心に防衛線を張っています。
 おそらく、その先に何かあるのではないかと……」
「なるほど……」
 スタースクリームの言葉に、マスターメガトロンの口元に笑みが浮かんだ。
「ならば突破するまで。
 いくぞ!」
 言うと同時――マスターメガトロンはジェット機へと変形、同様に戦闘機へと変形したスタースクリームと共にギャラクシーコンボイ達を突破する!
「――いかん!
 気づかれたか!」
 自分達には目もくれずに先へと進むマスターメガトロン達を追い、ギャラクシーコンボイ達もまた加速した。

「なんとか、このペースなら間に合いそうだが……」
 各自の作業の様子をモニターし、つぶやくバックパックだが――再び鳴った警報が、マスターメガトロン達の急速接近を告げた。
「みんな、急いでくれ!
 敵が急速接近! 後50秒ほどで150km圏内に入る!」
 あわてて一同に報告し――バックパックはつぶやいた。
「こうなったら、彼女達だけが頼りだ……!」

「フンッ、貴様らにこのマスターメガトロン様が止められるものか!」
 ギャラクシーコンボイ達の追撃をかわし、マスターメガトロンは基地を目指して飛翔する。
 そして、限界ラインまであと少しというところまで迫り――
「………………む?」
 その行く手に人影を見つけた。
 なのは達である。
「何だ? 貴様ら」
 ジェット機形態からロボットモードへとトランスフォームし、マスターメガトロンはなのは達と対峙した。

〈こちらジャックショット!
 Dブロックに移る!〉
「了解!」
 通信してくるジャックショットに答え、バックパックはモニターを切り替え、なのは達の様子を映し出す。
「頼むぞ、なのは、フェイト、クロノ……!」

「いくよ、フェイトちゃん、クロノくん!」
「うん!」
「あぁ!」
 なのはの言葉にフェイトとクロノが答え、3人はそれぞれのデバイスをかまえる。
「このオレ様と戦うつもりか……?
 人間風情が、なめるなぁっ!」
 なのは達の戦意を前に、マスターメガトロンは雷撃を放って先制。なのは達は散開してそれをかわす。
「いっけぇっ!」
「フォトン、ランサー!」
 マスターメガトロンの両サイドへと回り込み、クロノがスティンガーレイ、フェイトがフォトンランサーで攻撃し、マスターメガトロンは防御もせずにそれに耐え――
「ディバイン、バスター!」
「そうくると思ってたぞ!」
 背後に回り込んでいたなのはが放った本命の一撃を防御する。
「そんな見え見えの連携で!」
 次いでマスターメガトロンは全方位に雷撃を放ち、なのは達をまったく寄せつけない。
 とはいえ、なのは達もマスターメガトロンの攻撃はモーションが大きすぎてかわしやすい。有効打を持たないなのは達と有効打を当てられないマスターメガトロン、両者の戦いは平行線をたどる。
 が――なのは達は失念していた。『もうひとり』の存在を。
「――フェイト、上!」
「え――――――?」
 気づいたクロノの叫びに、フェイトはとっさに上方にラウンドシールドを展開し――
「――くらえっ!」
 スタースクリームの放ったビームを防御する!
「フェイトちゃん!」
 あわてて援護に向かおうとするなのはだったが、マスターメガトロンの雷撃に阻まれて近づくことができない。
「このままじゃ……!」
 なのはの肩の上でユーノがうめき――それは現れた。
「ここから先へは、一歩も通さん!」
 ワープゲートを開いて現れた、ベクタープライムである。
「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮し、ベクタープライムが“力”を解放し――天空へと放たれた光が上空に渦を巻き起こす。
「何だ……!?」
 それを見て、クロノが声を上げ――反応があった。上空の渦の中から飛び出してきた、光り輝く何かがベクタープライムへと向かう。
 そして、それがベクタープライムの腹部のスロットのようなものの中へと差し込まれ――ベクタープライムが咆哮した。

 

「フォースチップ、イグニッション!」

 

 とたん――ベクタープライムのパワーが急激に上昇し、その全身が青く輝く光に包まれる。
「そんなこけおどしが!」
 対して、マスターメガトロンは臆することなく突っ込んでいくが――
「タキオン、フィールド!」
 ベクタープライムの展開したエネルギーの防壁に、その拳が阻まれる!
「こんな、バリアーなどで……!」
 それでも突破しようと、マスターメガトロンは叩きつけた拳に力を込め――ベクタープライムは告げた。
「私にばかり気を向けていていいのか?」
 その言葉にマスターメガトロンが気づくが――遅かった。すでになのはは必殺の一撃の体勢に入っている。
 そして――
「スターライト、ブレイカー!」
 退避しようとしたマスターメガトロンを逃がさず、なのはのスターライトブレイカーはその肩を撃ち抜いていた。
「マスターメガトロン様!」
「むぅ、肩のバランサーをやられた……」
 声を上げるスタースクリームに答え、マスターメガトロンはなのは達を見据え――決断した。
「地球人にも、なかなかに骨のあるヤツがいるらしい……
 ここは撤退するぞ。情報を集める」
「……了解しました」

「ありがとう、ベクタープライム、そしてなのは達も。
 キミ達のおかげで、基地の秘密は守られた」
 マスターメガトロン達の撤退を確認し、安堵しつつそう告げるとギャラクシーコンボイはかがみ込み、代表してなのはに握手を求め――ようとしたが彼女のサイズを思い出し、代わりに人さし指を差し出す。
「いえ、私も、お手伝いしたかっただけですから……」
 言って、なのはがその人さし指を握り返すと、クロノがベクタープライムに尋ねた。
「それにしても、あの光は何だったんですか?
 いきなり、あなたがパワーアップしたように見えたんですけど……」
「あの力は、フォースチップの力だ」
 そう答えると、ベクタープライムはギャラクシーコンボイ達へと向き直り、
「ギャラクシーコンボイ、キミ達にもチップスロットがついているはずだ。
 知らないのか?」
「いや、我々には、そのようなスロットは……」
 困ったように答えるギャラクシーコンボイに、ベクタープライムはしばし考えた末、剣を抜き放つと軽く振るう。
 と――剣から光が放たれ、ギャラクシーコンボイ達の周りを飛び回ると、ギャラクシーコンボイの腰のキャノンやドレッドロック、ガードシェルの背中のスロットのような部位が光を放つ。
「これが……チップスロットか……」
「そうだ。
 キミ達にも、フォースチップのスロットはあったようだな」
 つぶやくギャラクシーコンボイにベクタープライムがうなずくが――彼らは気づいていなかった。
 すでにウェイトモードとなり、それぞれの持ち主のポケットに収められたなのは達のデバイスも、光を放っていたことに――

「おかえり、なのは!」
「こっちはもう大丈夫。作業は全部終わったよ」
 ギャラクシーコンボイ達と共に基地に戻ると、真っ先に出迎えたアリサとすずかがなのはに告げる。
「とにかく、これで本格的な活動に入れそうだな」
 ギャラクシーコンボイがつぶやくと、そんな彼に志貴が尋ねた。
「それで、グランドブラックホールをなんとかする、具体的な策はあるんですか?」
「それは……」
 答えようとするギャラクシーコンボイだったが、
「私が話そう」
 それを制したのはベクタープライムだった。
「この危機を回避する方法はただひとつ。
 プラネットフォースを集めるのだ」


 

(初版:2005/09/11)