「キミ達の時間で言えば、何千万年も昔――古代のトランスフォーマー達は広大な宇宙と数々の平行世界をスペースブリッジで結ぼうという途方もない計画を立てた。
 それを可能にするものとして考えられたのが、5つのプラネットフォースだ」
 日を改め、後日指令室に人間組一同を集め、ベクタープライムはそう言って説明を始めた。
 志貴の姿はそこにはない。ドレッドロックに呼ばれ、地球に移民したトランスフォーマー達の現状を調べている彼の手伝いに出向いている。
「宇宙の創造主『プライマス』のスパーク――キミ達の言葉で言うところの『魂』か――そこから作られたもので、惑星を丸ごと初期化するといわれている。
 しかし計画は失敗し、5つのプラネットフォースは宇宙の各地に散ってしまった……」
「それを集めれば、宇宙は救われるんですか?」
「手段次第だが……少なくとも、あの宇宙規模の災厄を阻止するためには、宇宙を創造したプライマスのスパークから作り出された、プラネットフォースの持つ巨大なエネルギーがどうしても必要だ」
 聞き返すなのはに、ベクタープライムが答える。
「そして、そのプラネットフォースを集めるためにギャラクシーコンボイ達を訪ねたのだが……
 せっかく作り上げた、プラネットフォースを探すためのマップを、先日襲撃してきたマスターメガトロンに奪われてしまったのだ」
「で、その時の戦闘でエクシリオンが地球に飛ばされた、か……」
「面目ない……」
「まったく、勢い余って先走るからそういうことになるんだ。少しは自重しろ」
「まぁまぁ」
 納得する耕介の言葉に肩を落とすエクシリオンをガードシェルがたしなめ、さらにそれをクロノがなだめ――そんな彼らのやり取りから視線を外し、真雪はうんうんとうなずき、
「OK。だいたいの事情はわかった。説明ありがとさん」
 ベクタープライムにそう言うと、真雪は続いてギャラクシーコンボイへと向き直り、
「ま、そういうことなら協力するよ。
 いずれ地球も巻き込まれるんなら、あたしらだって他人事じゃないしね。
 あ、心配しなさんな。一応家族ぐらいには説明はいるだろうけど――関係ないヤツらに無闇にバラしたりはしないさ」
「……すまない」
 真雪の言葉にギャラクシーコンボイがうなずくと、
「あぁ、それからもうひとつ」
 そう切り出して、真雪はギャラクシーコンボイに尋ねた。
「アンタ達の中で……10年以上前に地球に来たことのあるヤツっている?」
「いや……そういう情報はないが……
 それがどうかしたのか?」
「あー、いや、知らないならいいんだ」
 聞き返すギャラクシーコンボイの問いに、真雪はそう答えて頭をかく。
 そんな彼女の言葉に、ギャラクシーコンボイは首をかしげ――その時、バックパックが彼らに告げた。
「総司令官、ファストエイドから通信です。
 実験準備、完了とのことです」
「そうか」
「実験……?」
 聞き返す恭也に答え、ギャラクシーコンボイはバックパックに指示を出した。
「ちょうどいい。
 彼らにも見てもらおう。
 メインモニターに回してくれ」
「了解」
 バックパックが答え――メインモニターにそれは映し出された。
 周囲のものを飲み込み続ける、巨大なブラックホールの姿を。
「あれが……グランドブラックホール……」
「そうだ。
 今から、あれの縮小作戦を開始する」
 つぶやくすずかに説明し、ギャラクシーコンボイはモニターへと視線を戻した。

 

 


 

第3話
「正しい地球の暮らし方なの」

 


 

 

 ドレッドロックは無言で天を仰いだ。
 打つべき手はすべて打ったはずだ。基地が完成してからというもの、各自の様子にも気を配ってきた。
 だが――何なのだろう。未だ矢継ぎ早に入ってくる、このトラブルの報告の山は。
「オレは……無力だ……」
 それが正直な感想だった。

「ギャラクシーコンボイ総司令官、準備整いました」
 地球から遠く離れた宇宙――かつてセイバートロン星のあった宙域の近くで、彼はモニターに映るギャラクシーコンボイに告げた。
 ファストエイド――救急車へトランスフォームするサイバトロンの技術者である。
「次元振動機の振動域を徐々に狭めながら、縮小を試みます」
〈成功の確率は?〉
「計算上では、60%……
 ですが、このグランドブラックホールは本来縮小するはずのブラックホールが拡大していることといい、通常のブラックホールの定義で考えることはできません。
 ですから……断言は、できません」
〈そうか……〉
 モニターの向こうで、ギャラクシーコンボイはしばし考え――告げた。
〈ファストエイド、実験を始めてくれ〉
「了解。
 次元振動機、始動します」

「うまくいく、のかしら……?」
「わからないけど……彼らの取れる、最後の手段であることだけは確からしいな」
 深刻な空気の中、つぶやくアリサの言葉にとなりに立つ耕介はそう答えた。
 誰だって故郷をムザムザと失いたくはない。セイバートロン星を守るために、彼らも使える手はすべて尽くしたはずだ。
 そのすべてが通じず、故郷を失ったその上で行うこの作戦――確かに彼の言う通り、これが最後の手段だろう。
 と――そこへドレッドロックと志貴が戻ってきた。
 だが、その表情は優れない。志貴はともかく、表情の見えないドレッドロックもどちらかというと肩を落としている。
「……どうしたんですか?」
「やはり、ムリがあったんだ……」
 尋ねる那美に、ドレッドロックはため息をついて答えた。
「あれだけの難民を、たとえトランスフォームさせたって、隠し通せるものじゃない」
「やっぱり……問題が起きてる?」
「あぁ。
 やはり、地球とセイバートロン星とのカルチャーギャップが大きすぎるのが原因のようだ」
 ドレッドロックがフェイトに答えるその一方で、実験は進んでいく。
 グランドブラックホールの周囲に配置された次元振動機が始動、お互いをエネルギーの鎖でつなぐとエネルギー網を形勢。徐々にそのサイズを縮め、グランドブラックホールを包み込もうとする。
 だが――止められない。若干圧縮したところで限界を迎え、次元振動機はひとつ残らずグランドブラックホールのパワーの前に粉砕されてしまった。
「……ダメか……
 せめて、これ以上の拡大だけでも抑えられれば、と思っていたのだが……」
 ため息をつき、ギャラクシーコンボイが言うと、
「やはり、プラネットフォースだけが、この宇宙を救う切り札のようだな」
「『だけ』と言われてもなぁ……
 まだ存在するのかどうかもハッキリしていないんだぞ。
 それに、たとえ過去に存在していたとしても、それが現存していなければ意味がない」
 告げるベクタープライムの言葉に、ドレッドロックが異を唱えた。
「だいたい、そんな古代の科学が、ホントにあてになるのか?」
 それに同意する形で美緒が言うと、
〈……いや。
 賭けてみる価値は、あると思う〉
 そう言い出したのは、意外にも科学者のはずのファストエイドだった。
「意外だな、科学者がそんなことを言うなんて」
〈科学者だからこそ、わかるんだ〉
 どちらかといえば信じている側だが、さすがに彼が同意するとは思っていなかったクロノの言葉に、ファストエイドが答える。
〈現代の科学にも、限界はある。
 現実に地球や、クロノ達の故郷であるミッドチルダをはるかに超える水準を持つ我々の科学力でも、グランドブラックホールを止められなかった〉
「そうですね」
 そうファストエイドに同意したのはユーノだ。
「古代科学が、現代の科学に劣るとは、必ずしも限りません。
 現に、ボクが見つけたジュエルシードの力は、現代のボクらの科学や魔法の力を超えていた……」
「ノエル達に使われてる自動人形の技術だって、今の技術水準なんかメじゃないしね」
「そうだね。
 信じてみようよ、みんな――わたし達の宇宙を作ったっていう、プライマスさんの力を」
 ユーノや忍に同意するなのはの言葉に、一同は顔を見合わせる。
 そして――最後に視線が集中したギャラクシーコンボイは、一同に告げた。
「……よし。
 我々は今後、プラネットフォースと、それを収めるというチップスクェアの探索を最優先の任務とする!」
『了解!』

 移民トランスフォーマー達への対応は、やはり現地のことを知っているなのは達がもっとも適任と判断された。そして、その教官役に抜擢されたのは――フェイトだった。
 彼女はミッドチルダからこちらに来て、すでに文化の違いに適応している――それが選出の理由だったが、彼女を推薦したなのはの狙いは他にあった。
 『プレシア・テスタロッサ事件』が無罪となり、なのはの元を訪れたとたんに一気に知り合いが増えた。元々人見知りの激しいフェイトに、早くみんなと慣れてもらおうというなのはなりの気遣いである。
 実際、最初に移民トランスフォーマー達にあいさつするフェイトの言葉は緊張感が見え見えだったが――
「地球に暮らすためには、やっぱり地球のことを知らないとダメ。
 だから……みんなには、これから地球のことを勉強してもらわないと……」
 自己紹介も兼ねてしばらく話しているうちにすっかり打ち解けたようだ。そうつぶやきながらフェイトはスーパーカーをスキャンしたトランスフォーマーへと視線を向け、
「まず、大切なのは目立たないこと。
 だから……こういうのはダメだね」
「あとは……やっぱり人間が乗ってないと不自然かな?」
「そうだね。
 とりあえず、人間の問題は後でみんなで考えよう」
 横で考えながらつぶやくアルフにうなずき、フェイトは雑誌をめくってみせて、当たり障りのない車を選ばせる。
 そんな彼らを微笑ましく見守っていたドレッドロックだったが、そんな彼の元にバックパックから通信が入った。
〈ドレッドロック、すぐ来てください。
 緊急事態です〉

「どうした?」
「空自の緊急通信を傍受しました。
 これを」
 指令室を訪れ、尋ねるドレッドロックに答えるとバックパックは録音しておいたそれを聞かせた。
〈未確認飛行物体は、現在高度3万フィートを東に向かって飛行中。
 第1航空団にスクランブル――〉
「未確認飛行物体、だって……?
 地球の航空機じゃないのか?」
「バックパック、識別を」
 指令室に残っていたリスティとギャラクシーコンボイの言葉に、バックパックは目標を識別し――
「これは……地球の航空機ではありませんね。
 ……サンダークラッカーです!」
「この間のヤツか!」
 バックパックの言葉に、彼を一度目にしている恭也が声を上げ――志貴がドレッドロックへと向き直った。
「行こう、ドレッドロック!」
「キミもか!?」
「地上に叩き落してくれれば、オレだって戦える!」
「だが……」
 志貴の言葉に反論しかけたドレッドロックだったが――前回の戦いでもなのは達に助けられたことを思い出した。
「……よし、頼もう」
「あぁ!」

「ちくしょう、サイバトロンのヤツら、よってたかっていじめやがって……
 だいたい、マスターメガトロン様はどこ行ったんだよぉ……いっつもほったらかしじゃんかよぉ、もう……」
 心の底から愚痴をこぼしつつ、サンダークラッカーはひとり寂しく飛行していた。
 どうやら、特に何かを企んでいるワケではないようだが――無計画に飛び回っている時点で人間にとっては大迷惑だ。
 現に、彼に対する対応のために、空自の戦闘機がすでにスクランブルしていた。
「……ん? 何だ?」
 そんな自衛隊機に気づき、サンダークラッカーが声を上げると――自衛隊機が機銃による威嚇射撃を開始する!
「ぅわっ!?
 何しやがんだ、コイツ!」
 うめいて、サンダークラッカーは銃撃をかわし、
「そんならいっちょ遊んでやるぜ!」
 真正面から自衛隊機へと突撃、彼らが回避した間を駆け抜けると素早く反転、自衛隊機の背後を取る。
「格が違うんだよ!」
 そして、自衛隊機に照準を合わせ――
 ――ドガァッ!
 轟音と共に、体当たりを受けて弾き飛ばされた。
「な、何だぁ!?」
「やめろ! 地球人に手を出すな!」
 驚くサンダークラッカーにそう告げたのは、ビークルモードへと変形し、志貴を乗せたドレッドロックだ。
「ドレッドロック、自衛隊機を巻き込めない!
 アイツをこっちに引きつけて!」
「了解だ!」
 志貴に答え、ドレッドロックは自衛隊機とサンダークラッカーとの間に割って入る。
「地球人に迷惑をかけることは、この私が許さん!」
「何だ、てめぇは!?」
 ドレッドロックの言葉に言い返し、サンダークラッカーは彼らに向けてミサイルを放つ!
 とっさに回避行動をとろうとするドレッドロックだが――
「くらっても耐えられるのか!?」
「当然だ、あの程度!」
「――なら!」
 ドレッドロックの言葉を聞くなり、志貴は操縦桿を固定、ドレッドロックの回避を許さず、あえてミサイルを受け止める!
「志貴!?」
「あのままかわしてたら、あの戦闘機に当たってた!」
「なるほど……すまない!」
 答える志貴の言葉に、ドレッドロックは今度は自らミサイルの盾となって自衛隊機を守る。
 眼下にはこちらに向かっているギャラクシーコンボイとベクタープライムの姿がある。彼らが追いついてくれば、なんとかなる――
 だが、それはサンダークラッカーが許さなかった。彼の放ったミサイルが、ドレッドロックを全弾直撃する!

「ドレッドロック!」
「志貴さん!」
 ドレッドロックが直撃を受けたのを見て、地上を走るギャラクシーコンボイと、なのはと共に彼に同乗しているアルクェイドが声を上げる。
「……アイツ――!」
 ドレッドロックと、そして中にいる志貴――二人を好き放題に攻撃するサンダークラッカーに、アルクェイドは殺意を込めた視線を向け――
「――待って!」
 最初に変化に気づいたのはなのはだった。アルクェイドを制止して声を上げる。
 そして、爆煙が晴れ――中からそれは現れた。
 真紅に輝く光に包まれた、ロボットモードのドレッドロックだ。
 その周囲を飛び回っている、小さな光は――
「あれは――フォースチップの光!?」
 ベクタープライムが声を上げると同時――そのフォースチップはドレッドロックのチップスロットに装填そうてん、ドレッドロックの背中のキャノンが起動する!
「な、何だ――このパワーは!?」
 突然のパワーアップに、ドレッドロックが声を上げると、
「一体なんだってんだ……!?
 くらえぇっ!」
 驚いているのはサンダークラッカーも同じだった。ドレッドロックへとミサイルを放つが――何かに導かれるまま、ドレッドロックと志貴が咆哮した。
ドレッドキャノン――バーストアタック!』
 とたん――ドレッドロックの背中のキャノンからすさまじいまでのエネルギーが放たれ、ミサイルもろともサンダークラッカーを吹き飛ばす!
「総司令官……私は、一体……!?」
「それは失われし、古の力――
 フォースチップによる、パワーアップだ」
 戸惑い、尋ねるドレッドロックにギャラクシーコンボイが答えると、
「くっそぉっ!」
 うめいて、サンダークラッカーは自衛隊機へと向かう。最後の意地か、彼らだけでも撃墜するつもりのようだ。
 だが――
「させん!」
 咆哮し、ベクタープライムが剣を振るうと――その空間が切り裂かれ、自衛隊機はその中へと消えていった。
「ベクタープライムさん!?」
「ワープさせたのだ。
 私の剣で、ゲートを開いて」
 声を上げる、出撃してきたなのはに答え、ベクタープライムはサンダークラッカーへと向き直り、
「とにかく――これで心置きなく戦える」
「ち、ちきしょうっ!」
 さすがにこちらの戦力は前回戦った時に思い知っているのか、サンダークラッカーは舌打ちして逃げに走る。
「逃がすか!」
 叫んで、ドレッドロックがその後を追い、ギャラクシーコンボイやなのはもまたそれを追おうとするが――そんな彼女達を雷撃が襲う!
「何だ!?」
 声を上げ、ギャラクシーコンボイが振り向いた先に――マスターメガトロンとスタースクリームが佇んでいた。

「くそっ、しつこいヤツだ!」
 後を追ってくるドレッドロックの姿に舌打ちし、サンダークラッカーは急上昇、ドレッドロックもその後を追う。
「志貴、いけるか!?」
「オレにかまわず、ヤツを!」
「お、おぅっ!」
 その身体には強烈なGがかかっているはず――にもかかわらず告げる志貴に答え、ドレッドロックはサンダークラッカーと共にまっすぐに上昇していく。
 だが――やがてどちらにも限界が訪れた。反転し、今度は急降下しながらドッグファイトを繰り広げる。
「逃げてもムダだ!
 あきらめろ、サンダークラッカー!」
「うるせぇっ!
 これでもくらえ!」
 ドレッドロックに言い返し、サンダークラッカーは急減速してミサイルを放つ。
 が――ドレッドロックはトランスフォームし眼前の湖の上をホバー走行、ミサイルをかわす。
 その時――飛来したミサイルがサンダークラッカーを直撃する!
「なんでオレだけ、こぉなるのぉぉぉぉぉっ!」
 叫びながら墜落していくサンダークラッカーを見て、ミサイルの主――バックパックは告げた。
「やったね、忍」
「シューティングならお任せ!」
「シューティング以外もお任せだろ、お前は」
 バックパックの車内で、ガッツポーズで答える忍に恭也はため息まじりにそう告げた。

「くっ、くっそぉっ!」
 しかし、サンダークラッカーもこのまま墜落するワケにはいかない。必死に体勢を立て直そうとするが、
「待ってたわよ♪」
 そんな彼の落下先には、すでにアルクェイドが控えていた。
 そして――彼女の振るった爪の一撃が、サンダークラッカーを空の彼方までブッ飛ばしていった。

「ぐわぁっ!」
「ベクタープライム!?」
 吹き飛ばされ、大地に倒れるベクタープライムを見てギャラクシーコンボイが声を上げると、
「ちょこまかと、うっとうしいヤツだ!」
 そんな彼にスタースクリームが襲いかかり、ガードの上から力任せに弾き飛ばす!
 それでもなんとか踏みとどまり、ギャラクシーコンボイとなのははスタースクリーム、そしてマスターメガトロンと対峙する。
「マップを渡せ、マスターメガトロン!」
「フッ、愚かな!」
 告げるギャラクシーコンボイの言葉を、マスターメガトロンは一笑する。
「私はプライマスの力を手に入れて――神をも超える完全な存在となり、すべてをひれ伏させてやるのだ!」
「そんな……!
 プラネットフォースがないと、この宇宙はグランドブラックホールに飲み込まれちゃうんだよ!」
「だからどうした」
 声を上げるなのはにも、マスターメガトロンは平然と答えた。
「こんな宇宙、勝手に滅んでしまえ。
 新たな宇宙なら、この私が創造してやる」
 そう告げるマスターメガトロンの言葉に迷いはない。完全に――その野望のためだけに、自らのためだけに動くことを決めた者の言葉だ。
 なのはが初めて対峙する、純粋な悪意――だが、なのはは退くワケにはいかなかった。
 かつてフェイトとジュエルシードを取り合っていた時は、それがフェイトのためなら、渡してもいいかとも思えた。
 だが――目の前のマスターメガトロンにだけは、そんな感情を抱けそうもない。
「あなたにだけは……プラネットフォースは渡さない!
 ギャラクシーコンボイさん!」
「うむ!」
 なのはに答え、ギャラクシーコンボイは大きくジャンプし、
「ギャラクシーコンボイ、スーパーモード!」
 叫んで、キャリアパーツを装着、スーパーモードへとトランスフォームする。
「いくぞ、なのは!」
「はい!」
 ギャラクシーコンボイに答え、なのはが彼と共に突っ込む――が、その前にスタースクリームが立ちはだかる!
 とっさに回避しようとするなのは達だが――間に合わない。スタースクリームのカウンターを受けて弾き飛ばされる!
「フッ、どこまでも甘いヤツらだ――」
 鼻で笑い、告げるスタースクリームだったが――その言葉が途切れた。
 ギャラクシーコンボイが、ドレッドロックの時のように真紅のエネルギーに包まれたからだ。
 そして、その光は弾き飛ばされたなのはを受け止めるとギャラクシーコンボイの肩の上へと降ろし、二人は導かれるままに叫ぶ。
『フォースチップ、イグニッション!』
 その瞬間――飛来したフォースチップがギャラクシーコンボイのチップスロットに飛び込み、かまえたギャラクシーコンボイのキャノンの外装が解放される。
「こ、これは……!?」
 目の前の事態にスタースクリームがうめき――そんな彼へと向き直り、ギャラクシーコンボイとなのはは咆哮した。
『ギャラクシーキャノン、フルバースト!』
 叫びと共に閃光が放たれ――かろうじてかわしたスタースクリームをその余波だけで吹き飛ばす!
 そして――ギャラクシーコンボイはマスターメガトロンへと向き直り、告げた。
「これが――プライマスの意志だ」
「何……?」
「この力は、この宇宙を救えという、創造主プライマスの大いなる意志だ!
 マップを渡せ、マスターメガトロン!」
「ぬかせ!」
 突っ込んでくるギャラクシーコンボイに向け、マスターメガトロンが雷撃を放つが、
「危ない!」
 それを受け止めたのは、なのはの展開したラウンドシールドだった。
「ムチャはよせ、なのは!
 キミに止められる攻撃じゃない!」
「だけど――ここで負けるワケにはいかないよ!」
 ギャラクシーコンボイの言葉に、なのはは気丈に言い返す。
「プラネットフォースを集めなきゃ、みんなが大変なことになっちゃうんだよ!
 私達ががんばればそれを止められるなら――たぶん、大丈夫!」
 なのはが言い――その瞬間、レイジングハートが光を放つとマスターメガトロンの雷撃を跳ね返し、
「いっ、けぇっ!」
 叫ぶと同時、レイジングハートから放たれた閃光が、マスターメガトロンを真っ向から直撃する!
「ぐっ……!
 小童が、またしても……!」
 直撃を受け、マスターメガトロンはたまらず後退し、
「……まぁいい。
 まずは最初のプラネットフォースを手に入れる」
「何だと!?」
 そのマスターメガトロンの言葉に、ベクタープライムは思わず声を上げた。
「プラネットフォースのある星を、突き止めたというのか!?」
「そうだ。
 宇宙を救うと言うのは勝手だが、プラネットフォースがなければ手も足も出まい」
 ベクタープライムに答えると、マスターメガトロンはゲートを展開し、その向こうへと消えていった。
「……大丈夫か? なのは」
「う、うん、大丈夫……」
 もう追撃は不可能だと判断し、尋ねるギャラクシーコンボイになのはが答えるが、
「……っととと……」
「おっと」
 思わずバランスを崩し落下しかけたなのはを、ギャラクシーコンボイがキャッチする。
「ムリをするな。
 私と二人がかりとはいえ、フォースチップのあれほどの力を制御したんだ。人間の身体では、かなりの消耗のはずだ」
「は、はい……
 けど……」
「そうだな……
 ヤツらは、最初のプラネットフォースの在り処を突き止めたらしい」
 ギャラクシーコンボイの言葉にうなずいて、なのはは戻ってきたベクタープライムに尋ねた。
「ベクタープライムさん、マップがないと、プラネットフォースは探せないの?」
「いや……手がかりがないワケではない。
 チップスクェアを探すのだ」
「チップスクェア……?
 さっきギャラクシーコンボイさんがプラネットフォースと一緒に探そうって言ってた?」
「そうだ。
 チップスクェアはプラネットフォースを収める台座――それがあって初めて、プラネットフォースはその力を発揮するのだ。
 そして――これを見てくれ」
 なのはに答えて、ベクタープライムはなのはの前にある図形を投影した。
「あ、これ……」
「知っているのか?」
「うん……」
 尋ねるギャラクシーコンボイに答え、なのはは説明した。
「何万年も前に滅んだって言う伝説の大陸――アトランティスのマークなの。
 この前、忍さんが着てたTシャツにもそのマークがついてたけど……」
「そうだ。
 だが、このマークはチップスクェアの形に酷似している」
「つまり……アトランティスに、チップスクェアの手がかりが?」
「おそらくそうだろう。
 チップスクェアを見つけることができれば、おそらくプラネットフォースを探す手がかりになるはずだ」
 なのはに答え、ギャラクシーコンボイは夕暮れの空を見上げた。
「なんとしても、デストロンよりも先に手に入れなければ……」

「じゃあ、あなたはこのスポーツカーね」
 言って、フェイトは忍がブリットと共に集めてきてくれたデータの中からスポーツカーのデータを投影、言われたトランスフォーマーがそれをスキャニングし、ビークルモードへと変形する。
 そんなフェイト達から視線を動かし――アルクェイドは先程からホップのホログラムを使って何やら撮影会をやらされている志貴、恭也、クロノの3人に尋ねた。
「で、そこの3人は何してるの?」
「あぁ、これかい?
 これはすずかのアイデアでね……」
 アルクェイドの問いに答えたのは撮影会を仕切っていた真雪だ。彼女の目配せですずかはホップに撮影したデータを投影してもらい――今しがたスキャニングを終えたばかりのトランスフォーマー、その運転席にダミーの運転手の映像が現れた。モデルは恭也だ。
「これなら、遠目にはわからないだろ?」
「なるほど……」
 真雪の言葉にうなずくアルクェイドだが――ひとつだけ尋ねた。
「クロノは運転手にするには幼くない?」
「そこは愛嬌ってことで♪」
 あっさりと答える真雪の言葉に、クロノは何だか遊ばれている気がしてため息をつく。
 だが、そのクロノの感想はおそらく正解だろう。それがわかりすぎるくらいにわかっている那美は久遠を抱いたまま苦笑した。

「では、これからみなさんには交通法規を覚えていただきます」
「地球で暮らすんだから、ルールは守らなくちゃいけませんよ」
 一通りの作業の済んだトランスフォーマー達の中でも、車にトランスフォームした面々はノエルとファリンの指導の下、交通法規の勉強である。
 アシスタントはバンパー。ノエルの指示によって青信号を示す青い球状のホログラムを投影する。
「これは?」
『進め!』
 次は黄色。
「これは?」
『可能ならば止まれ!』
 そして赤。
「これは?」
『止まれ!』
「声が小さいですよぉ!」
『止まれ!』
 そんな彼らの様子を見守り――ギャラクシーコンボイはドレッドロックに告げた。
「我々は、良い仲間にめぐり合えたようだな」
「えぇ……」

 だが――事態は悪い方向へと向かっていた。
「……あそこか……」
 マスターメガトロンは、眼前に見えるその星を見てつぶやいた。
「あれが、最初のプラネットフォースのある星――惑星スピーディアか……」


 

(初版:2005/10/23)