惑星スピーディア――そのハイウェイを走っている存在があった。
バイクと三輪のスピードバギー。しかし、どちらも無人だ。
だが――両者は会話していた。
そう。彼らもまたトランスフォーマーなのだ。
ランドバレットとガスケット――それが彼らの名である。
「今日も快調だな」
「天気もいいしな!」
「オレは雨が好きなんだけどな!」
「オレは雨が嫌いなんだな」
「そんなの100万回聞いたぜ!」
そんなことを言いながら走っていると、行く手に他のトランスフォーマーが走っているところに追いついた。
普通ならば避けて通るところだが――彼らはこの一帯で乱暴者として知られる二人組だった。
となれば当然――
「ジャマだ!」
「どけよ!」
口々に言って、二人は前方のトランスフォーマーを跳ね飛ばして先へと進む。
と――
「こら、お前ら! 何してる!」
「やっべぇ、パズソーのヤツだ!」
「さっさと振り切っちまおうぜ!」
上空から二人に怒りの声を上げるヘリコプター型のトランスフォーマー、パズソーの言葉に、二人はわずらわしそうにうめく。
元々は上空からのカーレースの中継を仕事としているパズソーだが、そのためかドライバーのマナーには人一倍うるさく、ランドバレット達のようなラフレーサー達にとっては目の上のコブ的な存在だった。
そんなパズソーを振り切るべく、2体はトンネルに入り――そこに彼はいた。
大型車にトランスフォームしている、見慣れないトランスフォーマーである。
「何だ? アイツら」
「見ない顔だな」
ガスケットとランドバレットが訝ると――突如、そのトランスフォーマーがミサイルを放つ!
『ぅわわわわっ!』
まさかいきなり攻撃されるとは思っていなかった。二人はあわててきびすを返し、ミサイルから逃亡する。
「とんでもないヤツに出会っちまった!
やっぱり雨の日はついてないぜ!」
うめくランドバレットだったが、謎のトランスフォーマーはジェット機形態へと変形すると彼らの逃げる先に回り込む。
そして、ロボットモードに変形した彼は――マスターメガトロンだった。
「こうなったら、やるしかないんだな!
ランドバレッド、トランスフォーム!」
「ガスケット、トランスフォーム!」
咆哮して、ランドバレットとガスケットが人型へとトランスフォームするが、マスターメガトロンは動ずることもなく、平然と尋ねた。
「プラネットフォースはどこだ?」
第4話
「チップスクェア大捜索なの」
一方、サイバトロン基地では――
「もう傷は大丈夫?」
「あぁ。おかげでだいぶよくなったよ」
なのは達と共に見舞いに訪れ、尋ねるすずかにエクシリオンは笑顔で答える。が――
「調子に乗るな」
そんなエクシリオンを軽く小突き、たしなめるのはガードシェルだ。
「治ったと言っても病み上がりなんだ。
パーツも十分に馴染んでいないし……しばらくはおとなしくしていろ」
「わ、わかってるよ……」
口をとがらせ、なのは達との会話に戻るエクシリオンを、少し離れたところでギャラクシーコンボイは静かに見守っていた。
「今のエクシリオンには、子供達との交流が必要なようだな」
「そうですね。
口にこそ出してないですけど……なんだか、焦ってるみたいですし」
同意する耕介の言葉にうなずくと、ギャラクシーコンボイは他のサイバトロンメンバーへと向き直り、
「さて、我々の今後だが……」
「確証のない話に振り回されるのはゴメンだけど、今はプラネットフォースとチップスクェアを探すしか、手はないんですよね」
「あのファストエイドが『可能性がある』と言ったぐらいだからな」
告げるバックパックに同意するのはドレッドロックだ。
「彼はそんなに発言力が強いのか?」
「こういう場面では、特にね。
彼はサイバトロン一の科学者だから」
尋ねる恭也にバックパックが答えると、
「だったら、とっとと探そうぜ」
「おい、探すといってもあてはあるのか?」
さっさと出て行こうとするジャックショットにドレッドロックが言うと、
「だったら、ちょっと寄り道してくれないかな?」
そんなジャックショットに駆け寄ってアルクェイドが言う。
「ちょっと志貴を迎えに行ってほしいんだけど」
「そういや、今日はアイツを見てないな」
「うん。
なんか、今日は家にカンヅメらしくって」
言って出て行く二人を見送り――ギャラクシーコンボイは傍らの忍に尋ねた。
「カンヅメ、とは?」
「家族の人に外出させてもらえないでいるってことですよ」
答えて、忍は苦笑と共に付け加えた。
「『遠野』の家のことは、私も少し知ってますからね……」
「じゃあ、ちょっと左足を上げてみて!」
「あぁ」
すずかの指示に従い、エクシリオンは右足1本で片足立ちになり――少しバランスを崩しかけるがすぐに立ち直る。
「どう? 傷は痛くない?」
「あぁ。大丈夫だ」
「よかった……順調に治ってきてるみたいだね」
エクシリオンの答えに、すずかは安心してそうつぶやいた。
実際、エクシリオンの傷の修理は彼女にとって手に負えないワケではなかったが、それでも未知の部分が多かったのも事実だ。特にトランスフォーマーの場合、ただ修理するだけでは完治はしない――人間のケガ人と同様に、修理した部位がなじむまでじっくりと経過を見ていかなければならなかった。
「これなら……プラネットフォース探し、参加できるかな?」
「うーん……戦うのはムリだと思うけど、そのくらいなら……」
「よぅし、それじゃあさっそく!」
すずかの言葉に、さっそくきびすを返すエクシリオンだが――
「あぁ、ちょっと、ストップ、ストップ!」
そんな彼を、アリサがあわてて止めた。
「そのカッコで出て行くつもり!?
忍さんに一発でバレたの、忘れたの!?」
「あ、そっか……」
アリサの言葉に、エクシリオンはそのことを思い出して肩を落とす。
「じゃあ、まずはビークルモードのスキャニングが先だね」
「えっと……データ、どこに置いたっけ……」
フェイトの言葉にアルフがデータディスクを取りに行こうとするが、
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
そんな彼女達をエクシリオンが止めた。
「実は……もう目をつけてる車があるんだ」
「まったく……
秋葉のヤツ、こんな時に……」
部屋の中でボンヤリと外を眺めつつ、志貴はため息まじりにつぶやいた。
妹・秋葉や使用人の琥珀と翡翠には、トランスフォーマー達のことは伝えていない――できることならば彼女達を巻き込まずにプラネットフォース探しに関わっていきたかった。
「まぁ……しばらくすれば秋葉も落ち着くだろう」
とりあえずは静観――そう決めて奥に戻ろうとしたその時、
「――――――ゲッ!?」
屋敷の外に見えたそれを見て、志貴は思わず声を上げた。
「ジャックショット!? それに――アルクェイド!?」
エクシリオンと共になのは達がやってきたのは、海鳴市から少し離れたところにあるサーキットである。
「スポーツカー、好きなの?」
「どうせなら、速い車になりたいからさ」
すずかに答え、物陰に隠れたエクシリオンは練習走行をしている車をしばし眺め――
「お、アレアレ!」
言って、ちょうどピットに入った、街中を走っていても当たり障りのないデザインのスポーツカーをスキャニングし、
「トランスフォーム!」
叫んで、スポーツカーへと変形し、なのは達の前に停車した。
「よく似合ってるよ、エクシリオン」
「ハハハ、ありがとう」
フェイトの言葉に少し照れながら答え、エクシリオンは彼女達に提案した。
「よかったら乗ってみるかい? キミ達が最初の、オレの乗客だ」
「え?
それはうれしいけど……みんな乗れるかなぁ?」
「大丈夫だよ、なのは」
言って一同を見回すなのはに、エクシリオンは笑って答えた。
「あー、えーっと……」
目の前の耐え難い空気を前に、志貴は正直リアクションに困っていた。
毎度毎度、アルクェイドと秋葉が顔を合わせると空気が重くてしょうがない――なんとかならないものだろうか、と考えるもムリだろうとすぐにあきらめる。
「まったく……あなたという人は、いつもいつも兄さんを連れ回して……」
「あら、いいじゃない。志貴がどこで何をしようと志貴の勝手で、あなたは関係ないんでしょ?」
秋葉の言葉にもアルクェイドは平然と答え、二人の間の空気がさらに冷えていく。
「あ、あー、えーっと……
まずは落ち着け、二人とも……」
なんとかその場を収めようと志貴が告げるが――
「兄さんは黙っててくださいっ!」
秋葉にピシャリとシャットダウンされてしまう。
「今日という今日は、この方に自分の立場というものをご理解いただくことにしましょう」
「あら、できると思ってるのかしら? あなたに」
秋葉の言葉にアルクェイドは平然と答え――
「志貴様」
そんな彼らの空気などきれいサッパリ無視して、使用人の翡翠が志貴に声をかけてきた。
「どうした? 翡翠」
この雰囲気の中でも平然としている翡翠の態度に内心感心しつつ、尋ねる志貴に翡翠はふと屋敷の外を見て、
「アルクェイド様の乗っていらした車ですが……あのままでは駐車違反になってしまいます」
「あ………………」
そういえばジャックショットを忘れていた――そのことをようやく思い出し、志貴はアルクェイドに声をかけた。
「アルクェイド、ジャッ……お前の車動かしとけ。あそこじゃ……」
思わずジャックショットのことをバラしかけながらも、当たり障りのない言い回しでアルクェイドに告げるが、
「あぁ、そーいえばジャックショットのことすっかり忘れてたわね。
ジャックショット! とりあえずジャマんなんないところで待機してて!」
「ここの駐車場じゃダメなのか?
ここは志貴の家なんだろ?」
「あああああああああ」
そんな志貴の気遣いをあっさりと粉砕し、大声で会話する二人に志貴は思わず頭を抱えたのだった。
「チップスクェアを探せ、って、それだけ言われてもねぇ……」
スタースクリームの後を飛行しながら、サンダークラッカーはため息まじりにつぶやいた。
「マスターメガトロン様がベクタープライムから奪ったマップには、なんて書いてあるんだ?」
「うるさい、黙って探せ」
「はいはい。
一口に地球って言っても、けっこう広いぜ」
ボヤくサンダークラッカーだが、スタースクリームは『相手にしていられない』とばかりに黙って加速し、先を急ぐ。
「お、おい、待てよ、スタースクリームぅ!」
「……ホントにみんな乗れちゃうなんてねぇ……」
実際、エクシリオンの中はなのは達がみんな乗っても大丈夫だった。感心してアリサがそうつぶやくと、エクシリオンが答えた。
「そうだろ?
みんなが乗れるように、シートを『作り直した』から」
「作り直した……?」
「『大きさ』って概念に関して、オレ達トランスフォーマーほどいい加減な種族もないからね。
サイズシフトっていって、中の空間をいじってみんなが乗れる大きさを確保、後はスキャニングで身体を作り変える時の要領でシートを人数分作ればOK、ってワケさ」
なのはの肩の上のユーノに答えると、エクシリオンは少し気合を入れ、
「さぁて、それじゃ、もう少し走ってみようか!」
『おーっ!』
「……なるほど……事情はわかりました」
そろいもそろってこちらの気遣いを無視され、すっかり意気消沈してしまった志貴から事情を聞き、秋葉はうなずきながら顔を上げた。
「ここ最近、兄さんの無断外出が増えていたのはそういう事情からだったんですね……」
「そーよそーよ。志貴はぜんぜん悪くないわよ。
むしろ地球の平和のためのやむを得ない犠牲ってヤツよ♪」
いつの間にかこちらに馴染んでしまっているアルクェイドに一瞬鋭い視線を向けるが、それで彼女がこたえるはずがないのは承知の上だ。秋葉はため息をつきつつ敷地内に移動してもらったジャックショットへと向き直った。
そして、彼女がジャックショットに告げた言葉は、志貴の予測を大きく外れたものだった。
「いいでしょう。
我々遠野家も、可能な限りあなた達のバックアップを行うことをお約束しましょう」
「秋葉!?」
まさか協力を申し出るとは思わなかった――思わず声を上げる志貴だが、秋葉はそんな彼に平然と答えた。
「まぁ、確かにこんなことは遠野の家の『役割』からは外れている気もしますけど……そんなことを言って、兄さんが止まるはずがありませんからね。
となれば、むしろこちらから関係していき、常に兄さんを監視した方がマシというものです」
「あ、そういうこと」
確かにムリに関係を絶って志貴に勝手に動かれるより、共にいた方が彼女としても志貴に対してアドバンテージを握りやすい――地球がどうこうというよりも、どうやらこちらが秋葉の本音のようだ。
「お茶が入りましたよー♪」
と、そんな彼らの間に新たな声が割って入った。
翡翠の双子の姉にして彼女と同じこの屋敷の使用人、琥珀である。
「ありがとう、琥珀。
……とにかく、今は話にあったアトランティスの手がかりを探すことから始めるしかないようですね……」
「だな……」
琥珀から紅茶を受け取り、つぶやく秋葉に志貴が答えると、
「アトランティス……ですか?」
そんな彼らの話を聞きつけ、琥珀が顔を上げた。
その声に自分に注目が集まる中、琥珀は告げた。
「でしたら、今ちょうど静岡の方でアトランティスの遺品らしいって話のオーパーツの展示をやってますけど……」
その報せはジャックショットによって基地でデータを集めていたクロノへと伝えられ、すぐさまギャラクシーコンボイに報告された。
〈静岡の博物館でアトランティスのものと思われるオーパーツの展示会が行われているらしい。
チップスクェアの可能性がある。全員直ちに急行してくれ!〉
「了解!」
全員に向けられたギャラクシーコンボイからの通信に答えると、エクシリオンはなのは達に声をかけた。
「それじゃあ、オレは現場に向かうから、みんなは降りてくれるかな?」
「え? けど……」
「もう時間も遅い。家族も心配するだろ。
それに、もし戦いになったりしたら、なのはやフェイトはともかく、アリサ達は戦えないだろう?」
思わず声を上げたアリサにエクシリオンが答えると、なのはとフェイトは顔を見合わせ――なのはがエクシリオンに告げた。
「エクシリオンさん、アリサちゃん達も……連れてってあげよう」
「なのは?
い、いや、だけど……」
思いもしなかったなのはからの反対に、反論しようとするエクシリオンだったが、そんな彼になのはは告げた。
「私も、ジュエルシードの時にアリサちゃん達に心配かけちゃったから、わかるんだ……やっぱり、心配になっちゃうと思う。
だって私達……友達なんだから」
「友達……」
なのはの言葉に、エクシリオンはしばし考え……決断した。
「司令官には、一緒に怒られてもらうからな」
「来た来た。こっちだよ!」
真っ先に到着していたのはバックパックやガードシェルに同行していた恭也と忍、そして耕介と真雪だった。遅れて到着したギャラクシーコンボイへと耕介が手を振る。
「人間はいないだろうな?」
「そりゃ、郊外とはいえある程度はいるだろうけど……」
「ま、こんな時間さ。みんな寝てるだろうね」
尋ねるギャラクシーコンボイに忍と真雪が言うと、恭也がベクタープライムに尋ねた。
「ところで……問題のオーパーツがチップスクェアかどうか、どうやって確認するんだ?」
「それは――」
だがその時、上空を何者かが駆け抜けた。
スタースクリームとサンダークラッカーである。
「おーい、ランドバレット! ガスケット!」
とりあえず説教のひとつもしてやろうかとトンネルの出口で待ちかまえていたが、いくら待っても出てこない――とりあえず入り口に戻ってみたが出て行った形跡もない。パズソーは首をかしげながらロボットモードに変形するとトンネル内を進んでいた。
と、突然前方から何かが飛んできて――激突。直撃を受けたパズソーはたまらず後方に転倒する。
「ぅわぁっ!?
な、何だぁ!?」
驚き、パズソーがぶつかってきたものを見ると、それはなんとガスケット。次いでランドバレットがすぐそばに叩きつけられる。
そして、そんな彼らの前にマスターメガトロンが姿を現した。
「な、なんだよ、コイツ!
お前ら、いったい何やったんだよ!?」
「今回は何もやってねぇよ!」
「そうなんだな!
今回はオイラ達は被害者なんだな!」
自分達で『今回は』と言い切るあたり、少なくともいつもは自分達が加害者である自覚はあるらしい。
と――
「……お前達」
突然、マスターメガトロンが口を開いた。
『な、なんでしょう!』
その迫力にすっかり萎縮し、声をそろえて聞き返す3人に、マスターメガトロンは告げた。
「私の部下になれ」
『………………は?』
「私の部下となり、この星を案内するのだ」
「はい、喜んで!」
「お、おい! ランドバレット!」
「何勝手に返事してるんだよ!?」
思わず即答するランドバレットにガスケットとパズソーが告げるが、
「しょうがないだろ。
逆らったらどうなると思う?」
ガスケット達に反論することはできなかった。
一方、ギャラクシーコンボイ達の前に現れたスタースクリームとサンダークラッカーはロボットモードへとトランスフォーム、その場に降り立った。
そして、サンダークラッカーがかまえ――その口から放たれた言葉に、ギャラクシーコンボイ達は驚愕することになる。
「フォースチップ、イグニッション!」
「な………………っ!?
フォースチップ!?」
思わず驚愕するドレッドロックの前で、サンダークラッカーの左腕のチップスロットに青色のフォースチップが飛び込み――左腕の砲が展開される。
「サンダー、ヘル!」
サイバトロンの間に衝撃が走り――そのスキを逃さなかった。サンダークラッカーの放ったビームが、ドレッドロックを弾き飛ばす!
「へっ、ざまぁみろ!」
「くっ……! やってくれたな!」
言い放ち、ビークルモードにトランスフォームして上空へ向かうサンダークラッカーをドレッドロックはにらみつけ、
「それならこちらも!
フォースチップ、イグニッション!」
しかし――
「バカな!?」
何も起こらない。予想外の事態にドレッドロックは驚きの声を上げ――しかしさすがは副司令。すぐにビークルモードへと変形し、サンダークラッカーを追う。
一方、ギャラクシーコンボイはスタースクリームと対峙し、
「スタースクリーム! チップスクェアはお前達には渡さない!」
「フッ、そううまくいくかな?」
告げるギャラクシーコンボイにそう答え――スタースクリームは叫んだ。
「フォースチップ、イグニッション!」
とたん、スタースクリームの背中のチップスロットにデストロンマークの刻まれたフォースチップが飛び込み――彼の両肩アーマーから左右1本ずつ、2本のブレードが展開された。
その名も――
「バーテックス、ブレード!」
「バカな!?
サンダークラッカーに続き、スタースクリームまでもが……!」
「たやすいことだ。
お前達にできて私にできないことなどあるものか」
驚くギャラクシーコンボイにスタースクリームが言い放つと、
「ギャラクシーコンボイ!」
声を上げ、恭也が彼の元へと駆けてきた。
「恭也!?
危険だ。下がっているんだ!」
「そうはいかない。
オレだって、こういう時のために協力を申し出たんだからな!」
ギャラクシーコンボイに答えると、恭也は愛用の小太刀『八景』を抜き放ち、かまえる。
「ほぉ……」
対して、スタースクリームはそんな恭也に興味を持ったようだ。センサーで恭也の身体をスキャンする。
(エネルギー反応は通常の人間とさほど変わらないか……この間の小娘達と違って、特別な力は持っていないようだな……)
「たかが人間の分際で、この私と戦うつもりか?」
「あぁ、そのつもりさ」
告げるスタースクリームに、恭也はあっさりと答える。
スタースクリームはこちらをただの人間だと侮っている。ならばそこに付け入るスキがあるはずだ。
確かに恭也にはなのはのような魔力はない――仮にあったとしてもそれを行使するためのデバイスを持たなければ無用の長物だ。
だが――戦う力、という意味では、決してなのはに引けを取るつもりはない。
人間の限界を超える――それが彼の振るう、御神の剣なのだから。
「ギャラクシーコンボイ、剣の扱いなら、オレだってアイツに負けるつもりはない。
とはいえ、火器を出されたらどうしてもやりづらいからな――オレがヤツと戦ってるスキに、スーパーモードへ。
ベクタープライムはオーパーツが本物かどうか確認を!」
「わ、わかった……頼むぞ、恭也!」
「あぁ!」
ギャラクシーコンボイにうなずき返し、恭也は地を蹴り、スタースクリームへと向かう。
対して、スタースクリームはバーテックスブレードで恭也を狙うが、恭也は跳躍してそれをかわし、逆に小太刀の一撃で斬りつける。
狙いは装甲の隙間、それがもっとも露出する関節部――それは見事目標をとらえ、スタースクリームのヒジに突き立てられた小太刀が内部のケーブルを傷つける。
「ぐっ……!
おのれぇっ!」
予想外の恭也の反撃に、スタースクリームは怒りに任せて剣を振るうが、そんなものに当たる恭也ではない。あっさりとかわして着地する。
そして――そんなスタースクリームを上空からのビームが襲った。
スーパーモードにトランスフォームしたギャラクシーコンボイだ。
「今度はこっちの番だ、スタースクリーム!
フォースチップ、イグニッション!」
叫んで、フォースチップを使おうとするギャラクシーコンボイだが――やはり何も起こらない。
「なぜだ!?
どうしてフォースチップを使えない!?」
なぜか発動しないフォースチップ――疑問が晴れずギャラクシーコンボイが声を上げると、
「ギャラクシーコンボイ総司令官!」
そんな彼らの闘いの場に、エクシリオンが乱入してきた。
なのは達はすでに降りている。アリサ達も今頃は退避していた真雪達と共に、博物館のガードに回ったバックパック達と合流しているはずだ。
「スタースクリーム! オレと勝負だ!」
「おもしろい。くたばりぞこないがこの私に戦いを挑むというのか」
「よせ、エクシリオン!」
立ちふさがるエクシリオンにスタースクリームが応えるが、そんな二人の間にギャラクシーコンボイが割って入る。
「まだ傷が完治していないんだ。ここは退け」
「し、しかし……!」
ギャラクシーコンボイの言葉になおも食い下がるエクシリオンだったが、
「戦闘中に口論など!」
そんなエクシリオンに狙いを定め、スタースクリームがビームを放つ!
だが――ギャラクシーコンボイがエクシリオンを救った。エクシリオンをかばってビームの直撃を受ける。
「ぐっ………………!」
「総司令官!」
傷つき、倒れるギャラクシーコンボイにエクシリオンは思わず駆け寄り、
「どうして、オレをかばったり……!」
「エクシリオン、お前はまだ本調子ではない。
ここは、私に任せておけ……!」
言って、立ち上がろうとするギャラクシーコンボイだが、やはりダメージは大きく動きは鈍い。
そんなギャラクシーコンボイを前に、エクシリオンはしばし立ち尽くしていたが、
「……すみません。総司令官。
いつものことですけど……今回も先走らせてもらいます!」
そうだ。自分のせいで傷ついたギャラクシーコンボイにこれ以上負担をかけるワケにはいかない――決意と共にエクシリオンは地を蹴り、スタースクリームへと突っ込む。
対して、スタースクリームは腹部のビームガンで迎撃するが、エクシリオンはそれをかわし、勢いに任せた蹴りをスタースクリームへと叩き込む!
「ちぃっ!」
うめいて、思わずたたらを踏むスタースクリームだが、すぐに体勢を立て直し、追撃してきたエクシリオンを投げ飛ばす。
「エクシリオン!」
とっさに恭也が援護に向かおうとするが、かまわずスタースクリームはそのままエクシリオンを襲う――かと思われたが、突然上昇するとビークルモードへと変形、その場から飛び去ってしまった。
「クソッ、アイツ……!」
突然のスタースクリームの動きに恭也が声を上げると、
「お兄ちゃん!」
そこへなのはがフェイトと共に追いついてきた。
「スタースクリームさんは!?」
「離脱した。
狙いはおそらく――」
なのはの問いに恭也が答え、その意味に気づいたフェイトがつぶやいた。
「チップスクェア……
――博物館に行ったみんなが危ない!」
「――来た!」
飛来したスタースクリームを視界に捉え、バックパック達と共に博物館前を守る耕介が声を上げた。
「大丈夫なの!?
ギャラクシーコンボイ達もいないのに!」
「心配いらないよ。
だからキミ達は下がってて」
物陰から尋ねるアリサに答え、バックパックはスタースクリームを見据え、
「ここは絶対に死守するぞ!
フォースチップ、イグニッション!」
そう叫ぶと同時――バックパックが真紅の光に包まれ、飛来した青色のフォースチップが背中のチップスロットに飛び込んだ。
とたん、チップスロットに直結した背中の武装がすべて展開、スタースクリームへと狙いを定める。
「グラウンド、ショット!」
咆哮と共にバックパックがすべての武装を発射する――が、スタースクリームはそのすべてをかわしていく。
そこへ、後方からギャラクシーコンボイやエクシリオン、そして恭也となのは、フェイトも追いついてきた。
「チッ、くたばりぞこないどもが……」
「エクシリオン達を、これ以上侮辱しないで!」
「それ以上言うと、本当に許さないぞ!」
露骨に舌打ちしてみせるスタースクリームにフェイトとユーノが怒りの声を上げると、
「ぅわぁぁぁぁぁっ! 来るな、来るなぁっ!」
そんな彼女らとは対照的な、あわてた声は上空から降ってきた。
ドレッドロックに追い掛け回されているサンダークラッカーである。
「ホントにしつこいんだよ!」
うめいて、サンダークラッカーはドレッドロックに向けてミサイルを放つが、ドレッドロックもまた機銃で迎撃する。
だが――いくつかのミサイルが難を逃れた。他のミサイルの爆発によって軌道を変え――その内の数発が避難していたアリサ達へと向かう!
「マズい!」
うめいて、耕介は霊刀“御架月”を抜き放ち、
「“御架月”、全力でいく!」
《はいっ!》
耕介の言葉に“御架月”に宿る御架月本人が答え、耕介と共に自らの霊力を限界まで高めていく。
「神咲楓月流! 真威・楓陣刃ぁっ!」
耕介が技を放ち、放たれた霊力の波動が一直線にミサイルへと向かい、直撃する。
だが――止めきれない。撃墜できたのは1発のみで、残りは依然アリサ達へと向かう!
もうダメだ――全員が思ったその時、
「させない!」
そんなアリサ達の前に、間一髪ですべり込んだ者がいた。
エクシリオンだ。彼女達をかばい、ミサイルの直撃を受ける。
「エクシリオン!」
「よかった……無事か、すずか……」
声を上げるすずかに告げるエクシリオンだが、やはりダメージは大きく、うめき声を上げながらヒザをつく。
「フンッ、ザコが実力もわきまえずに出てくるからだ」
「なんですって!?
ちょっと、アンタ! エクシリオンになんてコト言うのよ!」
そんなエクシリオンをあざ笑うスタースクリームに、アリサは思わず怒りの声を上げて前に出る。
だが、そんなアリサの言葉もスタースクリームには届きはしない。軽く鼻で笑うとバーテックスブレードをかまえ、
「ザコをザコと言って何が悪い。
そんなにソイツが大切なら、弱い者同士仲良くくたばれ!」
言うと同時、ブレードが振り下ろされ――
「まだまだぁっ!」
その一撃を、エクシリオンは白刃取りで受け止める!
「なんだと!?」
まさか、受け止められるとは思っていなかった。驚愕するスタースクリームに、エクシリオンは告げる。
「お前にとっては『ただの人間』でも、オレにとっては『助けてくれた恩人』で――『大切な友達』なんだ!」
言って、エクシリオンはスタースクリームの腹に蹴りを1発。スタースクリームはたまらず後ずさる。
「子供達は――オレが守る!」
そう宣言するエクシリオンの姿を見て――気づいたアリサは思わず声を上げた。
「――エクシリオン!?」
彼女が見上げたエクシリオンは、真紅の輝きに包まれている。これは――
「フォースチップ、イグニッション!」
叫ぶと同時、エクシリオンの背中のチップスロットに、バックパックのものと同じ青色のフォースチップが飛び込み、彼の手に1丁の銃が装備される。
「させん!」
それに対し、スタースクリームはとっさにミサイルを放つ。が――
「エクス、ボルト!」
エクシリオンがその銃から放った閃光が狙い違わずミサイルを直撃、まとめて薙ぎ払う!
「なんだと!?」
それを見て、スタースクリームが声を上げると、
「――――――っ!?」
直前で気づいて離脱、下方から放たれた閃光をかわす。
「あの小娘どもか――!?」
とっさに周囲を探るが、なのはやフェイトの姿は上空にある。
耕介のさっきの一撃かとも思ったが、耕介の位置も今の一撃の主の位置とは違う。
どういうことかと訝るスタースクリームだが、気づいた――いや、聞き取った。
(わずかな、だが力強い跳躍音――)
「――――来る!」
かまえるスタースクリームへと勢いよく突っ込み、姿を現したのはひとりの少女だった。
軍服か西洋の学生服を思わせるコスチュームに身を包んだ、紫の長い髪を三つ編みにまとめた少女だ。
「何者かは知らないが!」
対して、スタースクリームはバーテックスブレードをかまえるが――同時に少女も手を振るい、スタースクリームの腕に何かを巻きつけた。
よく見なければわからないほどに細い、何かの繊維だ。
そして、それを引く勢いで空中でさらに加速。一気に間合いを詰め――驚くスタースクリームを衝撃が襲った。
少女が使ったのは1丁の拳銃――だが、そこから放たれたのは強力な霊的エネルギー。それがスタースクリームの腹に一点集中で叩きつけられたのだ。
予想外の攻撃に、スタースクリームはたまらず着地、それに続く形で少女も着地する。
「まったく、秋葉の報せで来てみれば……」
「貴様……何者だ!?」
淡々と告げる少女を前に、スタースクリームは怒りも混じった問いをぶつける。
対して、その問いに、少女は相変わらず淡々と答えた。
「遠野志貴、という方を知っているでしょう? あなたの仲間と戦った、学生服で小太刀を振るう少年です。
その彼の知り合いですよ」
「志貴さんの?」
思わずつぶやくすずかにうなずき、少女は名乗った。
「シオン・エルトナム・アトラシアです。
よろしく」
言って、シオンは軽く微笑むとすずかの手を取り、握手する。
「貴様――調子に乗るな!」
そんな彼女の余裕の態度が気に触ったか、スタースクリームが改めてバーテックスブレードをかまえるが、
「感情の乱れは見えるものも見えなくしますよ」
「何………………?」
シオンの言葉にスタースクリームが疑問の声を上げ――
『トランスフォーム!』
咆哮と共に、駆け込みながら変形した2体のトランスフォーマーがスタースクリームを殴り飛ばす!
一方はジャックショット、そしてもうひとりは――
「ファストエイドさん!?」
「地球に到着したのか!?」
「はい、遅くなりました!」
声を上げるなのはとギャラクシーコンボイに、ファストエイドが答える。
そう。もっとも先に情報を得ていながらジャックショットの到着が遅れていたのは、地球に到着したファストエイドと合流するためだったのだ。
ともあれ、立て続けの逆襲劇にスタースクリームは完全に戦いの勢いを奪われた。たたらを踏んで後退し、しまいにはしりもちまでついてしまう。
「さぁ、総司令官、反撃開始です!」
「うむ!
なのは! フォースチップが使えない。同時攻撃だ!」
「はい!」
ファストエイドに答えたギャラクシーコンボイの言葉に、なのはは彼の肩に降り立ち――真紅の輝きが生まれた。
そう――なのはとギャラクシーコンボイの周りに。
「こ、これって……!?」
「フォースチップか!?」
「させるか!」
声を上げる二人に言い返し、立ち上がったスタースクリームが襲いかかるが、
『フォースチップ、イグニッション!』
なのは達の方が速い。サイバトロンマークの刻まれたフォースチップをイグニッションし、ギャラクシーキャノンをかまえる!
そして――
『ギャラクシーキャノン、フルバースト!』
放たれた閃光がスタースクリームを襲った。かろうじて直撃は免れたものの、かつて彼自身が体験したその威力はいささかも衰えていない。スタースクリームの全身に無数の傷を刻みながら吹き飛ばす!
「す、スタースクリーム!?」
それを見て、サンダークラッカーが降下してくるが、
「ドレッドロック! 今だ!」
「お、おぅっ!」
それを見て、後を追ってきたドレッドロックに告げるのはジャックショットから降りていた志貴だ。その言葉にドレッドロックがうなずくと同時――彼の身体もフォースチップの真紅の輝きに包まれる!
『フォースチップ、イグニッション!』
原理はわからないが、せっかくまた使えるようになったのだから利用しない手はない。志貴と共に轟かせたドレッドロックの叫びに、サイバトロンマークの刻まれたフォースチップが彼の背中のチップスロットへと飛び込み、
『ドレッドキャノン――バーストアタック!』
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
放たれた一撃がまともに直撃し、サンダークラッカーは空の彼方へと吹き飛ばされていった。
「さぁ、これで残るはお前ひとりだ!」
「降参してください、スタースクリームさん!」
ただひとり残されたスタースクリームに対し、ギャラクシーコンボイとなのはが告げるが、
「ギャラクシーコンボイ!」
そんな彼らに声をかけてきたのは、博物館の中でオーパーツを調べていたベクタープライムだ。
「これは本物のチップスクェアではない!
これは1万2千年前に作られたものだ。チップスクェアにしては新しすぎる。
それに、本物ならば私のフォースチップと共鳴するはずだ」
「あんたの……?
あぁ、あの歯車がいっぱいレイアウトされたアレか」
ベクタープライムの言葉に真雪が納得すると、
「チッ……ならばここには用はない」
ベクタープライムに一同の注意が向いたスキをつき、スタースクリームは上空へと離脱。戦闘機へとトランスフォームして飛び去っていった。
翌日、サイバトロン基地――
「まったく、ムチャするんだから……」
「ハハハ……すまない。
また修理してもらうハメになっちまったな」
肩をすくめて言いながら、修理の終わった部分にワックスをぬっているアリサの言葉に、エクシリオンは彼女と別の部位を修理しているすずかを交互に見ながら答える。
そして、志貴達は改めてシオンを一同に紹介していた。
「シオンは、古代から色々な技術を作り続けてきたアトラス院出身の錬金術師なんだ。
だから、その中にプラネットフォースの力を応用したものがあるかもしれないと思って呼んだんだ」
「残念ながら、アトラスにそういった技術の記録は残されていませんでしたが、事情を聞いた以上放っておくワケにはいきません。
元々世界の『終末』を防ぐことこそがアトラス院の目的です――私も、協力させていただきます」
「こちらこそ大歓迎だ。
今回の探索は空振りに終わったが、スタースクリームを撃退できた要因にはキミの活躍も含まれている。
その力、今後も頼りにさせてもらおう」
志貴の紹介に一礼するシオンに答え、ギャラクシーコンボイはそう言うとベクタープライムへと向き直る。
「やはり、オリジナルでなくて残念だな……
あまり大規模に動けない以上、早めに見つかってくれるのが最上だったのだが……」
「ま、そんな簡単に見つかるようなら、とっくにあたしら人間が見つけてるさ」
「そーそー。また気長に探すのだ!」
肩を落とすベクタープライムにアルフと共に告げるのは、今回留守番になってしまっていた美緒だ。退屈させられたうっぷんを晴らすかのように、次の探索には自分が同行すると言ってきかないのだ。
〈けど……〉
と、彼らの会話に割り込んだのは、提督としての通常業務のためにアースラに戻っているリンディからの通信だ。
〈少なくとも、そのオーパーツはオリジナルを元に作られたのでしょう?
なら、そこから得られた情報も少なからずあるんじゃないかしら?〉
「その通りだ」
リンディにうなずき、気を取り直したベクタープライムは一同――修理を受けているエクシリオン達も含めて――を見回して告げた。
「プラネットフォースのある最初の惑星とその位置が判明した。
惑星スピーディアだ」
「そこに、ひとつ目のプラネットフォースが……」
つぶやく志貴にギャラクシーコンボイがうなずくと、
「なら、オレが行きます!」
突然立候補したのはエクシリオンだ。
「む、ムチャだよ、エクシリオン!
まだ修理もすんでないのに……」
「キミ達に修理してもらえば、こんなケガ、ヘッチャラだ!」
あわてて止めるすずかにエクシリオンが答えると、
「……行かせた方が、いいかもしれないな」
そう告げたのは意外にも恭也だった。
「らしくないな。キミがそういうことを言い出すなんて」
「エクシリオンの性格を考えればこそ、ですよ」
耕介に答えると、恭也はギャラクシーコンボイに告げた。
「エクシリオンの性格を考えれば、ここでムリに立候補を却下すれば悪い形でストレスを溜め込んでしまう恐れがある――なら、むしろ彼の希望通りスピーディアに派遣するのが最善だろう。
もちろん、今回のダメージを完治させた上で、さらにまたムチャした時に備えた態勢を整えて、というのが前提だが」
「ふむ……」
恭也の言葉に、ギャラクシーコンボイはしばし考え、
「よし、恭也の意見を採用しよう。
エクシリオン。ダメージが完治し次第、惑星スピーディアに向かってくれ。
同行者はファストエイド。エクシリオンを頼んだぞ」
「了解しました」
ファストエイドが一礼して答えると、
「よぅし、腕が鳴るぜ!」
「エクシリオンと一緒か……先が思いやられるな」
ケガをものともしないで張り切るエクシリオンの言葉に、ファストエイドは思わず本音をもらしていた。
そんなこんなでさらに数日――エクシリオンもすっかり回復し、出発の日がやって来た。
「惑星スピーディアでは、キミ達がセイバートロン星のトランスフォーマーであることはくれぐれも秘密だ。
そのため、現地のトランスフォーマーとの接触は極力避けるように」
出発を前にした2人を前に、ギャラクシーコンボイはそう告げる。
「エクシリオン、気をつけてね」
「ムチャすんじゃないわよ。病み上がりなんだから」
「わかってるって」
心配そうに自分を見上げるすずかとアリサに、エクシリオンは笑顔で答える。
そうしている間にも、出発の準備は進む。ベクタープライムが剣で時空を斬り裂くのを見ながら、ギャラクシーコンボイは胸部ハッチを開くとそれを取り出した。
マトリクス――代々のコンボイに受け継がれてきた叡智の結晶である。
ギャラクシーコンボイの放つマトリクスの輝きを受け、ベクタープライムの剣によって作られた空間の裂け目が広がっていく。
そしてその向こうに見えたのは惑星スピーディアの風景。地表を縦横無尽にハイウェイが駆け巡っている。
「お、なんかオレにピッタリそうな星じゃないか!
早く行こうぜ、ファストエイド!」
「はいはい」
大はしゃぎのエクシリオンに、ファストエイドは呆れ半分でうなずき――
「ちょおっと待ったぁっ!」
突然の声がエクシリオンに待ったをかけた。
一同が振り向くと、そこにいたのは空色のボディのトランスフォーマー。
なのは達も移民トランスフォーマー達への『教習』の中で会っている顔だ。ドレッドロックの指揮下で移民トランスフォーマー達の監督をしているサイバトロン軍の一員――
混乱の中、彼の名をポツリ、とつぶやいたのはフェイトだった。
「ぶ、ブラー……?」
(初版:2005/11/27)