ギャラクシーコンボイの放つマトリクスの輝きを受け、ベクタープライムの剣によって作られた空間の裂け目が広がっていく。
そしてその向こうに見えたのは惑星スピーディアの風景。地表を縦横無尽にハイウェイが駆け巡っている。
「お、なんかオレにピッタリそうな星じゃないか!
早く行こうぜ、ファストエイド!」
「はいはい」
大はしゃぎのエクシリオンに、ファストエイドは呆れ半分でうなずき――
「ちょおっと待ったぁっ!」
突然の声がエクシリオンに待ったをかけた。
一同が振り向くと、そこにいたのは空色のボディのトランスフォーマー。
なのは達も移民トランスフォーマー達への『教習』の中で会っている顔だ。ドレッドロックの指揮下で移民トランスフォーマー達の監督をしているサイバトロン軍の一員――
混乱の中、彼の名をポツリ、とつぶやいたのはフェイトだった。
「ぶ、ブラー……?」
第5話
「ライバルという名の親友なの」
突然現れたブラーに、一同は驚きの色を隠せない。だが、ブラーはかまわずエクシリオンへと詰め寄り、
「エクシリオン! お前、何オレを差し置いてスピーディア行きなんか決めてるんだ!?」
「え? えーっと……」
「ギャラクシーコンボイ総司令官に代わって行くんだろ!? 言わばサイバトロン軍の代表!
それがよりにもよってお前だと!?」
戸惑うエクシリオンに言うと、ブラーは胸を張り、
「サイバトロンの代表ともなれば、サイバトロン最速のオレをおいて他にないだろ!」
「な、何だと!?」
それは、エクシリオンにとってまさに禁句とも言える一言だった。
「ブラー、それは聞き捨てならないな! サイバトロン最速はオレだ!」
「いーや、オレに決まってる!」
「……あー、えーっと……」
にらみ合うエクシリオンとブラーから視線を外し、志貴はドレッドロックに尋ねた。
「どういうこと?」
「見ての通りだ。
あの二人は仕官学校の同期でな……今でも何かにつけて張り合ってるんだ」
「ライバルってワケか……」
耕介がつぶやくと、なのははとなりの恭也に告げた。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「なんだか……ものすごくデジャビュめいたものを感じるんですけど……」
「……オレもだ」
同時刻、海鳴市のそれぞれの場所で2名ほどクシャミをしたとかなんとか。
だが、そんな彼らをほったらかしにして議論はますますヒートアップしていく。文字通り今にも相手につかみかからんといった勢いだ。
と――
「いい加減にしないか、二人とも!」
そんな二人を止めたのはギャラクシーコンボイだった。
「エクシリオンとファストエイドのスピーディア行きは私が決めたことだ。
確かに、恭也の助言でエクシリオンのワガママを聞き入れた形にはなったが、問題があるとは思えない」
「で、ですが……!」
ギャラクシーコンボイの言葉に反論しようとするブラーだったが、
「まぁ、いいじゃないか」
そんなブラーへの助け船を出したのは意外な人物だった。
「ブラーにもブラーなりの主張があるんだ。頭ごなしに却下、っていうのもかわいそうだろ」
そう言うと、真雪は思わず怪訝な顔をする一同を無視してエクシリオン達へと向き直ると、未だ一触即発の空気を保ち続けている二人に告げた。
「えっと、二人は自分達のどっちが上か、でモメてるんだよな? スピーディア行きうんぬんよりも。
だったら、どっちが上かハッキリさせればいいじゃんか」
「って、まぜっ返してどうするんですか!」
真雪の言葉に思わず声を上げる志貴だったが、
「恭也も言ってたろ。ヘタに却下してストレスを溜めさせるのはよくないって。
だったらいっそ思いっきりやらせて、白黒ハッキリさせるついでにスッキリさせた方がいいだろ」
「……そ、それは……」
ムチャクチャな言い回しだが、少なくとも言ってることは間違ってはいない――真雪の反論に志貴は思わず沈黙する。
「で? 具体的にはどうやって白黒つけるんですか?」
「やっぱり、スピード自慢で車にトランスフォームする二人だから、レースとか……」
続けて、今度は秋葉と愛が尋ねるが、真雪はニヤリと笑って、
「いや、それだとコースの確保が大変だろ。
どうせスピーディア行きは今日じゃなくてもいいんだ――ついでだし、せっかく知り合ったヤツらか出張で数を減らす前に、歓迎会も兼ねちまおうかね」
そんな真雪の言葉から、彼女の『本性』を知る者達が一斉に危機感を抱いたのはある意味当然といえた。
だが、現実は時に残酷だが別に非情だというワケでもない。今回はそんな彼らの不安をいい意味で裏切ってくれた。
そう。裏切ってくれたのだが――
「なんでドッジボールに落ち着いたんでしょうか……?」
その結果至った結論には大いに疑問が残った。腕のクローでガリガリとラインを引いているジャックショットを見ながら、耕介は思わず尋ねる。
だが、そんな彼に真雪はあっさりと彼女らしい、そして至極もっともな意見を述べた。
「だってアイツら、酒飲めないだろ」
「………………確かに」
「総司令官……我々は何をしているのでしょうか……?」
一方、事態についていけないでいる者は他にもいた。人であれば頭痛を覚えていたであろう頭を抱え、ドレッドロックはギャラクシーコンボイにそうごちた。
「そう言うな、ドレッドロック」
しかし、ギャラクシーコンボイの反応は彼と違って好意的なものだった。笑いながらドレッドロックの肩を叩き、
「聞けばルールも単純だし手軽にできる。
彼らとの交流のためのレクリエーションには最適だろう」
「ですが……」
「それに――」
反論しかけたドレッドロックを制し、ギャラクシーコンボイは告げた。
「団体競技にはチームワークも要求される。
エクシリオンやブラーの素養を見るには、うってつけだと思わないか?」
「あ………………
真雪はそこまで考えて?」
「どうなんでしょうね……実際のところ」
ドレッドロックに答え、肩をすくめたのは恭也だ。
「あの人、どこからが本気でどこからがジョークかわからないところがありますからね。
けどそれでいて、物事の本質をズバリとついてきますし……
結局、根っからのリーダーなんですよ、真雪さんは」
言って、チーム分けの方法を耕介と相談している真雪へと視線を向け――そんな恭也にドレッドロックは尋ねた。
「本当にそう思ってるか?」
「え?」
「セリフに抑揚がないように感じたが」
「………………気のせいです」
その『間』がすべてを物語っていた。
ともかく、サイバトロンは現在9名。その内の1名は審判を頼むとして、実質4対4のチーム分けとなる。だが、たった4人ずつではすぐに決着がついておもしろくないとの意見が一部から挙がり(誰から挙がったかはあえて言うまい)、結果、せめて選手のレベルだけでも上げよう、ということで人間組の中からパートナーを選出し、体内のライドスペースに乗せて二人三脚で行う、という変則ルールが採用されることとなった。
チーム分けのくじ引きによって決定。以下の通りとなった。
そして、ご丁寧に実況席まで用意されている。その実況席にいるのは――
「……艦の方はいいんですか?」
「いいのいいの♪」
思わず尋ねる恭也に、琥珀と共に実況席に座るエイミィは平然とうなずく。
だが、彼女だけではない。シオンやホップと共に解説席に座っているのはリンディだ。クロノもサイバトロン基地で居残っている以上、現時点でアースラのトップ3がここにせいぞろいしてしまっていることになる。
「さすがに、指揮官クラスがそろってこっち、っていうのはマズいんじゃ……」
「あら、いいのよ」
恭也の言葉にリンディはあっさりとうなずき、
「だってこの試合、アースラ艦内にも実況中継されてるし」
「仕事してください公務員」
このイベントのためだけに事実上職務放棄しているアースラ職員達を前に、恭也はムダと思いつつもツッコミを入れるのだった。
「よぅし、総司令官さえいてくれればこっちのもんだ!
この勝負、もらったぜ!」
チーム分けの結果に自分達の勝利を確信し、早くも勝ち誇るエクシリオンだったが、
「油断しちゃダメだよ、エクシリオン」
そんなエクシリオンをたしなめるのはすずかだ。
「向こうにはフェイトちゃんもいるし、ドッジボールはパワーがあれば勝てるってワケじゃないから、ギャラクシーコンボイがいるからって安心できないよ」
「そ、そうか……」
一方、ブラーと美緒は早くも意気投合。すでにやる気マンマンである。
「やるからには勝つぞ! 総司令官にも他のヤツにも!」
「オー! なのだ!」
そして、やる気に燃えているのは当事者たるエクシリオン、ブラーだけではなかった。
「フッ、うまく兄さんと別チームになりましたね……」
「あ、秋葉……?」
普段ならばむしろ同じチームになりたがるはずの秋葉が、自分と別チームになって満足している――その光景に違和感を覚え、志貴は恐る恐る声をかけ――
「何度言っても事あるごとに面倒事に首を突っ込む兄さんの性根、今度こそ徹底的に叩き直してあげます!
行くわよ、ファストエイド!」
「あ、あぁ……」
異様なまでにテンションの上がりまくっている秋葉を前に、ファストエイドは反論もはばかられてうなずくしかなく、
「……ガードシェル。頼むな」
「わ、わかった……」
一方でそんな秋葉を敵に回してしまった志貴はガードシェルとそんなやり取りを交わすしかない。
さらに――
「フッフッフッ……ついにこの日がやってきたわね」
自信に満ちた笑みと共に、アリサはビシッ! とフェイトを指さし、
「勝負よ、フェイト!」
「え? 私?」
「思えば、魔法についてはともかくとして、他のジャンルのフェイトの実力をまだ見てないのよね。
だからここでその実力、タップリと見極めさせてもらうわ!」
「う、うん……お手柔らかに……」
こちらも非常に高まっているアリサのテンションに、フェイトは少々気圧されながらうなずくしかない。
「大変だねー、フェイトちゃん」
そんなフェイトに同情を多分に含んだねぎらいの言葉をかけるのは耕介だ。
「けど、あれもアリサちゃんなりの友情表現なんだと思うよ。
友達と競い合うのも、大切なコミュニケーションだし――エクシリオンとブラーもそうなんだよ、きっと」
「友達と……競い合うのも……」
耕介の言葉をつぶやくように繰り返し――フェイトはなのはへと向き直り、
「なのは」
「何?」
「……負けないよ」
「うん!」
一方、デストロンはというと――
「まったくさー、マスターメガトロン様はスピーディアに行っちまったままだし、チップスクェア探しはぜんぜんはかどらないし、ヒマでしょーがねぇよなぁ……」
自分達が根城にしている、炎に包まれた異空間『ファイヤースペース』で、サンダークラッカーは空中を漂いながら足をぶらぶらと振って暇を持て余していた。
「だいたい、スタースクリームもどこ行ってんだよ。
『しばらくここで待機』とか言っといてさぁ……」
「私がどうかしたのか?」
その言葉に振り向くと、そこにはちょうど戻ってきたスタースクリームの姿があった。
「スタースクリーム!
どこ行ってたんだよ! 人にはずっと待機命令なんかカマしといて!」
「そうでもしなければ待ってなどいまい。貴様は」
サンダークラッカーに答え、スタースクリームは視線を背後に向け――サンダークラッカーは気づいた。
戻ってきたのはスタースクリームだけではない――もうひとり、そこには漆黒のボディに身を包んだトランスフォーマーが佇んでいた。
「お、お前……!?」
ドッジボールはルールが単純であること、始められる年齢が低いことから比較的和やかなイメージを抱かれやすいスポーツである。
しかし、実際のところはそうでもない。むしろ単純であるがゆえにエース同士の対決の構図ができやすい。しかもエース同士の直接対決ともなれば戦局が膠着するのは必至という熾烈なスポーツなのである。
だが逆を言えば、どちらかのエースが倒れれば流れは一方的なものとなる――つまり、ドッジボールとはエースが強いワンマンチームが強い、というワケではない。いかにエース同士の直接対決を避け、且つ迅速に相手のエースを倒すか、それがカギとなる全員参加競技なのだ。
と、いうワケで――
「ドレッドロック!」
「わかっている!
これでどうだ、エクシリオン!」
案の定、真っ先にターゲットとなったのはパワー・スピード共にバランスの取れた両チームのエース、エクシリオンとブラーだった。今もまた、フェイトのアドバイスでドレッドロックがエクシリオンを狙う。
だが――
「甘いぜ!」
エクシリオンはそれをあっさりとかわし、ボールはその背後にいたギャラクシーコンボイによって受け止められる。
全員による集中攻撃でまずエクシリオンを撃破しようとしたBチームだったが、エクシリオンはそれを逆手に取った。残り二人の内野、ギャラクシーコンボイとガードシェルを背後に配置するように動き回りボールを回避。キャッチはパワーのある二人に任せる作戦を取ったのだ。
攻撃に関しても外野のバックパック・アリサ組と連携、パスとフェイントを織り交ぜてBチームを翻弄する。ちなみにスポーツが得意なすずかのアドバイスであることは言うまでもない。
だが、Bチームも負けてはいない。ファストエイド(というよりはむしろパートナーの秋葉)の仕切りでジャックショットを中心とした防御陣形を展開、こちらはブラーとエクシリオンを直接対決させようと――持久戦に持ち込もうと狙う。
「向こうは守備を固めてきたか……
どうする? なのは」
「う〜〜ん……」
尋ねるギャラクシーコンボイの言葉に、なのははしばし考え込み――すずかとエクシリオンに声をかけた。
「すずかちゃん、エクシリオンさん」
「ん?」
「どうしたの? なのはちゃん」
「ちょっと考えがあるんだけど……」
「くらえ!」
叫んで、エクシリオンがボールを投げつけるが、重量のあるジャックショットには通じず、受け止められてしまう。
すかさずジャックショットはエクシリオンへと反撃、エクシリオンもそれをかわそうとするが――足がもつれてバランスを崩す!
「もらった!」
そのスキを狙い、ボールを投げつけるジャックショットだったが――
「危ない!」
エクシリオンをかばったのはギャラクシーコンボイだった。彼の代わりにボールを当てられてしまう。
「ギャラクシーコンボイ、アウトだ」
「うむ」
主審のベクタープライムの言葉に向かうと、ギャラクシーコンボイはなのはと共に外野へと向かう。
「これは意外! なんと最初にアウトになったのはギャラクシーコンボイ&なのはちゃん組です!
仮外野のバックパック&アリサちゃん組と交代し、外野で配置につきます!」
「これでAチームは不利になってしまいましたね」
実況席で戦況を見守るエイミィとホップが言うが――
「それはどうかしら?」
『………………?』
つぶやくリンディの言葉に、実況席の一同は思わず顔を見合わせた。
「よっしゃ! これで後怖いのはエクシリオンだけだな!」
「一気にたたみかけるのだ!」
ギャラクシーコンボイを討ち取ったことでBチームは完全に勢いに乗ってきた。ブラーと美緒が勢い込んで言うが、
「このっ!」
「ぅおっと!」
すかさず投げつけられたエクシリオンのボールを、ブラーはとっさにかわす。
「へっ、外野からの攻撃なんか大したコトぁねぇぜ!」
「さっさとキャッチして反撃よ!」
言って、ジャックショットとアルクェイドは外野の攻撃に備えて振り向き――
『――――――あ』
今、“外野に誰がいるのか”を忘れていた。ギャラクシーコンボイが振りかぶるのを思わず見送ってしまい――次の瞬間、その顔面に剛速球をくらい、受身も取れないままにブッ飛ばされた。
「ジャックショット、アウトだ」
「……なぁ、フェイト……」
「うん……」
ベクタープライムのジャッジが下る中、声をかけてくるドレッドロックにフェイトはうなずいた。
「なのはとギャラクシーコンボイをアウトにしたのって……ただ単に、外野を強力にしただけかもしれない……
ううん、なのはのことだから、きっと最初から狙ってた……!」
そう。これがなのはの『考え』――エクシリオンをかばうフリをしてワザとアウトになり、外野のバックパックと交代。内野と外野に強力な選手を配置してはさみ撃ちにしようというのだ(エクシリオンを外野に、とも思ったが、エクシリオンの性格上絶対に承諾しそうにないので早々にあきらめた)。
しかも内野から外野へは攻撃できないからギャラクシーコンボイとなのはにしてみれば攻撃し放題だ。外野が彼らしかいない以上、他の選手を討ち取って外野送りにしない限り内野へは戻ってこれないし、はさみ撃ちの態勢が成立した今となってはそれも難しい。
完全に、戦局はAチームに傾いていた。
「あー、さっき言ってたのはこれだったんですね」
「そういうこと」
納得する琥珀の言葉に、リンディ解説者席で満足げにうなずいてみせた。
「戦力の一点集中は好ましくない――実戦にも通じる戦術のセオリーよ。
それに気づいたなのはさんも大したものだけど、それを実践するための状況を相手に悟られることなく演出したギャラクシーコンボイとエクシリオンの連携も見事なものね」
リンディがそう告げると、
〈リンディ提督!〉
サイバトロン基地に居残っていた(もちろんエイミィによって基地にも試合は中継されている)クロノから通信が入った。
リンディを『母さん』ではなく『提督』と呼んだ。つまりプライベートではなく任務関係の連絡だろう。
と、いうことは――
「なるほど……確かに有効だな。
アドバイス感謝する、なのは」
「エヘヘ……どっちかっていうと前にすずかちゃんがやってた戦法の受け売りなんですけどね……」
感心するギャラクシーコンボイに、なのはは少し照れながらそう答える。
「さぁ、次はドレッドロックさんだよ!
フェイトちゃん、覚悟はいい!?」
「うぅ、こっちから攻撃できないからってぇ……」
なのはの言葉に、フェイトは少しばかりすねて見せ――
次の瞬間、爆発が巻き起こった。コートの中心を起点に炎と爆風が吹き荒れる。
「な、何!?」
驚いて声を上げ――上空を見上げたなのはは発見した。
スタースクリームと、サンダークラッカーである。
「ったく、また性こりもなく!」
「何度来たって同じだ!
たった二人で何ができるってんだ!」
デストロンが出現しては試合どころではない。すかさず戦闘態勢に入ったバックパックとジャックショットが言うが、
「……フンッ」
スタースクリームはそんな彼らの言葉を軽く笑い飛ばした。
「バカめ。
“いつまでも二人だけだと思うのか?”」
「何!?」
その言葉にベクタープライムが声を上げ――再びの攻撃が彼らを襲う。
だが、その攻撃は上空の二人からのものではなかった。
「ひゃっはぁっ!」
訝る一同の間を駆け抜けたのは、1台の漆黒の車だった。それはスタースクリーム達の真下まで走ると、
「ラナバウト、トランスフォーム!」
叫んで、ラナバウトと名乗ったトランスフォーマーはロボットモードへと変形、なのは達へと再度の攻撃を始める。
「クッ、いつの間に援軍を!」
うめいて、ドレッドロックはラナバウトへとかまえ、
「フォースチップ、イグニッション!」
咆哮するが――またしてもフォースチップは発動しない。
「くそっ、またか!」
「なら、私が!」
うめくドレッドロックに代わり、ギャラクシーコンボイは前に出て、
『フォースチップ、イグニッション!』
なのはとの叫びと共に、飛来したフォースチップがギャラクシーコンボイのチップスロットへと飛び込み、ギャラクシーキャノンが展開される。
『ギャラクシーキャノン、フルバースト!』
叫び、二人の放った閃光がラナバウトへと迫る。が――
「トランスフォーム!」
車へと変形したラナバウトはそのスピードで素早く回避、別の場所から再び攻撃を開始する。
「おぉりゃあっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
そんなラナバウトへと跳躍、上方から襲いかかるジャックショットとファストエイドだったが、ラナバウトはあっさりとかわし、さらにバックパックからの砲撃、ベクタープライムの斬撃もかわす。
「クッ、素早いヤツだ……!」
「あのスピードに対抗できるのは……!」
ガードシェルのうめきに、志貴はサイバトロンのスピードスター、エクシリオンとブラーへと振り向き――硬直した。
『フッフッフッ……』
二人の笑顔が怖い。とてつもなく怖い。
「え、エクシリオン……?」
中からはその表情を読み取ることはできない。だがそれでもただならぬ空気を察し、すずかが声をかけ――二人はまったく同時に吼えた。
『勝負のジャマ、しやがってぇぇぇぇぇっ!』
他の面々にとっては歓迎会を兼ねたレクリエーションでも、この二人にとってはライバルとの雌雄を決する重要な一戦だったのだ。それをジャマされたことで、二人の怒りはまさに爆発状態――というより暴発状態にあった。
「いくぞ、ブラー!
アイツら絶対、ブッツブす!」
「おぅよ!」
言って、二人は素早くビークルモードへと変形、ラナバウトを追うが、
「へっ、バーカ!
オレ達だっているんだぜ!」
彼らは上空の敵の存在を忘れていた。サンダークラッカーが上空から二人を狙い――
「させるもんですか!
バックパック!」
「あぁ!
フォースチップ、イグニッション!」
アリサの叫びに、バックパックがフォースチップを発動させ、背中の武装を全展開。そして――
「グラウンド、ショット!」
放たれたミサイルの群れはそのすべてがサンダークラッカーへと殺到し――全弾命中。前回すべてをかわしてみせたスタースクリームとはエライ違いである。
「なんでいつも、オレばっかりぃっ!」
わめいて墜落していくサンダークラッカーだが――当然のように彼の叫びは黙殺されるのだった。
一方、エクシリオン、ブラーVSラナバウトの戦いはカーチェイスの様相を呈し始めていた。国守山の山中を猛スピードで駆け抜けていく。
が――未だにラナバウトを捕まえられない。決してラナバウトが速いワケではないのだが、障害物の使い方が抜群に上手いのだ。
「あんにゃろ、チョコマカチョコマカ!」
「あぁも小回りされると、こっちも加速できないぜ!
アイツ、さてはこういう山道コース専門だな!?」
ブラーのうめきに同意しつつ、エクシリオンは打開策を探す。
(加速できない以上、スピードで捉えるのはムリだ。
となるとそれ以外の方法――こっちができることを最大限に活かして追うしか……)
元来スピードだけではなくテクニックも最大限に活かして走るエクシリオンである。高速で思考をまとめ――決断した。
「ブラー、回り込め!」
「オレがか!?」
思わず声を上げるブラーだったが、彼よりも先にすずかがその意図に気づいた。
「そうか、美緒さん!」
「え? あたし?」
その言葉に疑問の声を上げる美緒だが、
「そういうこと!」
エクシリオンはあっさりとうなずいた。
「この山を縄張りにしてる美緒なら、裏道なんていくらでも思いつく!」
「なるほど、了解だ!
頼むぞ、美緒!」
「らじゃったのだ!」
ブラーの言葉に美緒が答え、ブラーはコースを変えて奥へと消えていった。
「バーテックス、ストーム!」
咆哮し、スタースクリームがバーテックスブレードからエネルギーの嵐を放つが、それをかわし恭也が、次いで各々のパートナーから降りて白兵戦へと転じた志貴、アルクェイドが続く。
『神速』を持つ恭也とパワーのアルクェイド、一撃必殺の『直死の魔眼』を持つ志貴――この3人がそろった時の戦闘力はもはやスタースクリームにも匹敵するだろう。そこへ、さらにギャラクシーコンボイやなのは達の援護射撃も加わり、さすがのスタースクリームも防戦を余儀なくされる。
「クッ、この私が……!
1対1なら、こんなヤツら……!」
どんな状況であろうと、防戦一方という状態はプライドに障るのか、さすがのスタースクリームの口からも思わず愚痴がこぼれる。
「サンダークラッカー! 援護しろ!」
〈もうしばらく待ってぇ〜〜……〉
援護を要請するも、サンダークラッカーからは情けない返事が返ってくるのみ。
「もういい! 復活したらラナバウトの方へ行け!」
これでは復活したところでアテにはできまい――そう言い放つとスタースクリームはドレッドロックの射撃をかわし、バーテックスブレードで弾き飛ばす。
「くそっ、私もフォースチップが使えれば……!」
うめくドレッドロックをチラリと見やり――シオンはふと眉をひそめた。
ベクタープライムの話やギャラクシーコンボイ達の証言、そして先日見せてもらった地球での戦闘記録――様々な情報が重ね合わされ、ある仮説が浮上する。
「……もしかしたら……
志貴! ドレッドロックと合流してください!」
「シオン!?」
「説明は後でしますから! 早く!」
せかすシオンの言葉に促され、志貴はドレッドロックの元へと走る。
そして、ドレッドロックと志貴、両者の距離が縮まり――真紅のエネルギー流が巻き起こる。
もはや何事かと訝る必要もない。フォースチップの発動を示すエネルギーの発露である。
「これは……!?」
「シオンは、何か気づいたのか……!?」
「ボサッとすんな!」
驚き、呆然とする二人を一喝したのは真雪だった。
「ビビッてるヒマがあったらさっさと使え!
それでも男か、お前ら!」
『は、はいぃっ!
フォースチップ、イグニッション!』
真雪の言葉に思わず直立不動で答え、二人はその姿勢のままでフォースチップをイグニッションし、
『ドレッドキャノン――バーストアタック!』
背中のドレッドキャノンの一撃が、上空で釘付けにされていたスタースクリームを直撃する!
「クソッ、状況は不利、か……!」
うめいて、スタースクリームはサイバトロンを見回し、
(全員いる……まだ誰もスピーディアには行っていないようだな。
それでけ確認できれば、当初の目的は達成、か……)
胸中でつぶやくと、スタースクリームはビークルモードへと変形、飛び去っていった。
完全にサンダークラッカー達を無視して。
「………………ん?」
どれくらいカーチェイスに興じていただろうか――ラナバウトは気づいた。
(ひとり、いない……?)
「へっ、ドジりやがったか、バカが!」
余裕でラナバウトが告げた、その時――
「誰がバカだって!?」
言うと同時、横手の茂みの中からブラーが飛び出し、ラナバウトの前へと踊り出る!
「何だと!?」
「こっちは優秀なナビゲータがついてるんでな!」
驚くラナバウトに言い返し、ブラーは前方からラナバウトの動きを封じにかかる。
「クソッ、冗談じゃないぜ!」
これはレースではなく戦いだ。この状況では挟撃される――うめいて、ラナバウトはコースを変更、ちょうど出くわした脇道へと飛び込む。
だが――それこそがブラーと美緒の狙いだった。
「引っかかったな!」
「そっちはガケなのだ!」
ブラーと美緒が告げた時には、すでにラナバウトは宙を舞っていた。
「やったぜ!」
これでヤツは地面に叩きつけられるのみ――勝利を確信したエクシリオンが声を上げる。
が――まだ終わらない。落下していくラナバウトを何者かが受け止めたのだ。
復活したサンダークラッカーである。
「へっ! オレだって、たまには活躍するんだってーの!」
いつもいつも『やられ役』ではいられない――ようやく活躍の場を得られ、勝ち誇るサンダークラッカーはそのままラナバウトを伴って離脱しようとする。
だが――
「逃がすかぁっ!」
それを見過ごすつもりはブラーにはなかった。咆哮と共にガケに向かって全力で疾走する。
助走をつけて、サンダークラッカー達のところまで跳ぶつもりなのだ。
「む、ムリだよ、ブラー!
いくらなんでも、その距離は!」
ブラーの狙いに気づき、声を上げるすずかだが、
「大丈夫だ」
そう告げたのはエクシリオンだった。
「アイツなら――やれる!」
「いっけぇっ!」
跳躍に迷いはなかった。自分の限界速度まで加速し、ブラーは上空のサンダークラッカーの元へと飛び出していく。
だが――届かない。まだかなりの距離を残しながら、その勢いが衰えていく。
「くっそぉっ! まだだ!」
しかしブラーはあきらめない。
「いけるのだ!」
彼に搭乗している美緒も同様だ。
『届けぇぇぇぇぇっ!』
二人の声が交錯し――その身体が真紅の輝きに包まれる!
迷わず叫んだ。
『フォースチップ、イグニッション!』
とたん、ブラーの背中――車体後部のチップスロットに青色のフォースチップが飛び込み、車体後部が展開、ビームガンを装備した主翼が現れる。
『エヴォリューショナル、ブースター!』
そして、そのまま主翼の推進器で一気に加速、ブラーはサンダークラッカーへと突っ込み――主翼のビームガンを叩き込む!
「でぇぇぇぇぇっ! またこれかぁぁぁぁぁっ!」
「オレもかよぉぉぉぉぉっ!」
ダメージは軽微だったのか――軽口を残しつつ、サンダークラッカーとラナバウトは空の彼方へとブッ飛ばされていくのだった。
「やったのだ!
ブラー、お前大したヤツなのだ!」
運転席で大はしゃぎして美緒が告げるが、そんな彼女にブラーは告げた。
「……なぁ、美緒」
「何なのだ?」
「フォースチップ……エネルギー切れだ」
とたん――プスンッ、という情けない音と共にエヴォリューショナルブースターの噴射が停止。その身体が落下を始める!
「ぶ、ブラー! 美緒さん!」
「そりゃ、エネルギーなくなりゃ落ちるわな」
それを見て、思わず声を上げるすずかだが、エクシリオンの反応は落ち着いたものだ。
「そうじゃなくて、助けないと!」
「大丈夫だよ」
すずかの言葉に、エクシリオンは平然と答え――
「ほらな」
そうエクシリオンが告げた時には、ブラー達はドレッドロックに拾われていた。
「さて、わかったことがあるようだが……説明してくれるか?」
「はい」
基地へと引き上げ、尋ねるギャラクシーコンボイにうなずくと、シオンは一同に説明を始めた。
「皆さんの戦闘記録を確認したところ、頻繁にフォースチップの使用を試みている2名――ギャラクシーコンボイとドレッドロックにある共通点がありました。
ギャラクシーコンボイはなのはさんと、ドレッドロックは志貴と――それぞれの相手が比較的近距離にいる時はフォースチップが発動し、離れている時は発動していません」
「そういえば……さっきもそうだったよね?
志貴さんと離れていたドレッドロックさんはフォースチップを使えなくて、わたしを乗せてたギャラクシーコンボイさんは使えて……」
「どういうことだ? ベクタープライム」
シオンの言葉に納得するなのは――そんな二人から視線を動かし、ギャラクシーコンボイはベクタープライムに尋ねるが、
「私にも、ハッキリしたことは言えない」
そう否定するものの、「だが……」とベクタープライムは仮説を述べた。
「考えられるのはチップスクェアの影響だ。
チップスクェアのあるこの星で進化したことで、この星の人間達もフォースチップに適した進化をしたと考えられる。
だが、当然彼らにはチップスロットを持たない。その結果、代わりに得られた能力がおそらく――」
「フォースチップ能力の増幅……ですね?」
つぶやくように尋ねたリンディに、ベクタープライムは静かにうなずいた。
「つまり、キミ達人間にはトランスフォーマーのフォースチップ能力を強化する力が備わっているのかもしれない。
ギャラクシーコンボイ達はまだフォースチップを使い始めたばかりだから、発動になのは達の力を借りなければならないのだろう――そう考えれば、パートナーが不在の時に発動しないのも納得できる」
「なるほど……」
ベクタープライムの言葉に耕介が納得すると、それに顔を見合わせたのは美緒とブラーだ。
「ってことは、ブラーのイグニッションが発動したのは……」
「美緒とオレが、パートナーだったから、ってことか?」
互いにつぶやき――ニヤリと笑うと視線を交わし、サイズの違いすぎる拳を軽くぶつけ合う。
そんな二人を微笑ましく見守っていた恭也だったが――ふと思い出した。
今回の騒動の、そもそもの発端を――
「そういえばギャラクシーコンボイ。
エクシリオンとブラーの処遇はどうするんだ?」
『あ………………』
ようやくそのことを思い出した一同が声をそろえる中――ギャラクシーコンボイは裁定を下した。
そして、改めての出発当日――
「いいか、エクシリオン。
向こうに行ってしまえばもうこちらからのフォローは期待できない。
くれぐれも、ムチャだけはするんじゃないぞ」
「わかってますって」
告げるドレッドロックの言葉に、エクシリオンは肩をすくめてそう答える。
そして――
「ブラー、美緒。
エクシリオンのことは頼むぞ」
「了解しました、総司令官」
「あたし達がバッチリフォローするのだ!」
ギャラクシーコンボイの言葉に、自信タップリにそう答えるのはブラーと美緒だ。
そう。エクシリオンとブラーについてはコンビを組ませた方がより力を発揮するらしい――そう判断したギャラクシーコンボイは、スピーディアへの派遣メンバーにブラーも加えることにしたのだ。
そしてブラーのパートナーであることが判明した美緒も同行の意志を表明。それを渋ったギャラクシーコンボイやドレッドロックを相手に一悶着あったものの、結局美緒をあきらめさせることはできず、護衛(こちらはクロノとシオンが選ばれた)をつけてなら、ということで二人が折れる形で決着となった。
「クロノくん、気をつけてね」
「大丈夫だよ。このくらいの任務はこなせないと、時空管理局の執務官はやってられないよ」
なのはの言葉に、クロノは答えてウェイトモードのS2U――銀色のカードに姿を変えているそれをヒラヒラと振ってみせる。
「シオン、あのさ……」
「心配ならば無用です、志貴。
私の実力は知っているでしょう?」
一方、シオンの身を気遣い、声をかけようとした志貴はいともあっさりと一蹴されてしまう。
彼女は決して冷たいワケではないのだが、仕事や目的柄か論理的な思考に偏りすぎるところがある。この感情をはさみたがらない性格も相変わらずのようだ。
「改めて言うが、惑星スピーディアでは、キミ達の正体は秘密にするように。
ファストエイド。キミも極力一同の行動に気をつけてくれ」
「了解しました」
答えるファストエイドにうなずくと、ギャラクシーコンボイはベクタープライム視線を交わし、先日行ったようにベクタープライムの剣とギャラクシーコンボイのマトリクスでゲートを開いた。
「頼むぞ、お前達」
ギャラクシーコンボイの言葉にうなずくと、エクシリオン達は次々とゲートをくぐっていく。
そして、全員を通したゲートが閉じるのを、なのはとフェイトは心配そうに見送る。
「がんばってね、みんな……」
「大丈夫だよ、なのは……
クロノ達なら、きっとプラネットフォースを見つけてくれる……」
「うん……」
そして、舞台は惑星スピーディアへと移り――
「すっげぇ! ハイウェイだらけだ!」
「走り放題ってワケか!」
「よかったな、エクシリオン、ブラー!」
上機嫌でハイウェイを駆けるエクシリオンとブラーに美緒が言うと、
「あまりはしゃぎすぎるなよ、二人とも」
そう告げるのはシオンを乗せて後ろから続くファストエイドだ。
「ファストエイドの言う通りだ」
「これは観光ではなく、任務なのですから」
「はいはい、わかってますって!」
自分に乗っているクロノやシオンの言葉にエクシリオンが答えた、その時――ひとつの影が彼らの間を駆け抜けた。
「何だ!?
見たことがないスピードだ……」
驚き、声を上げるファストエイドだが――
「バカな……!?」
「オレ達より、速い……!?」
彼よりも驚いたのは自分達のスピードにプライドを持っていたエクシリオンとブラーだった。
「オレ達のどちらかが宇宙一速いはずなのに……!」
「今まで、ずっとそうだと信じてきたのに……!」
それが、この星でのプラネットフォース探索を大きく左右する出会いだったことに彼らが気づくのは、まだ先の話――
(初版:2005/12/16)