ファイヤースペース内で、スタースクリームは彼らと対峙していた。
 ギャラクシーコンボイ、ガードシェル、エクシリオン――そしてなのはとフェイト。
 なぜ彼らがここにいるのか――? だがそれに答える者はここにはいない。
 しばし両者はにらみ合い――同時に地を蹴った。
 先行するのはガードシェルとエクシリオン。だが、
「フォースチップ、イグニッション!」
 スタースクリームはフォースチップをイグニッションし、両腕のブレードを展開。
「バーテックス、ブレード!」
 咆哮と同時に刃を振るい、エクシリオンとガードシェルを斬り裂く。
 前衛二人を瞬く間に撃破され、ギャラクシーコンボイはあわてて後退しようとするが――遅い。あっという間に追いついたスタースクリームによって斬り捨てられる。
 残すはなのはとフェイトの二人。スタースクリームのバーテックスブレードを警戒したか、二人は左右に分かれてスタースクリームへと砲撃魔法を放つ。
 が――スタースクリームはそれをたやすくかわし、
「バーテックス、ストーム!」
 バーテックスブレードから放たれたエネルギーの渦がフェイトを吹き飛ばし、動揺したなのはに瞬時に肉迫、一刀の元に斬り捨てた。
 その瞬間――ファイヤースペース内にブザーの音が響き、敗れたギャラクシーコンボイやなのは達の姿が消えた。
 彼らはシュミレーションプログラムの作り出した立体映像だったのだ。
 訓練を終え、スタースクリームは息をつき――
「さすがだね、スタースクリームの旦那」
 そんなスタースクリームに、サンダークラッカーが声をかけた。
「ギャラクシーコンボイ達を瞬殺、あのクソ生意気な小娘達も簡単に片付けちまった。
 偉いね、大将♪」
 おだてるサンダークラッカーだったが、スタースクリームはかまわずジェット機へとトランスフォーム。展開したワープゲートの向こうへと消えていった。
「……何だよ、せっかく太鼓持ちしてやってんのに。感じ悪いの。
 な? ラナバウト」
 言って、ラナバウトへと話を振るサンダークラッカーだったが――ラナバウトもまたスポーツセダンにトランスフォームし、ゲートを潜っていく。
「……へいへい。どーせオレは嫌われ者ですよ、と……」
 そんな仲間達の態度に、サンダークラッカーはそうボヤき――
「……ギャラクシーコンボイ達みたいに相棒がいれば、見捨てないでくれるんだろうなぁ……」
 少しだけ、サイバトロンがうらやましく感じたサンダークラッカーだった。

「まだかな? お兄ちゃん」
「今朝聞いた予定だと……もうそろそろだな」
 尋ねるなのはに、恭也は時計で時間を確認しながらそう答えた。
「久しぶりだね、恭ちゃん」
「そうだな」
 となりでワクワクしながら告げる高町家長女・美由希に恭也が答えると、フェイトはなのはに尋ねた。
「えっと……美由希さんの、実のお母さん……なんだよね?」
「うん。美沙斗さんっていうの」
 フェイトの問いに、なのはは笑顔でうなずく。
 それは今朝のこと――突然美由希の実の母・美沙斗から連絡が入ったのだ。
 日本まで出張っての『仕事』が片付き、気を利かせてくれた上司から休みをもらったので、急ではあるが久しぶりに会いたい、とのこと。そこで、恭也を始めとする高町家三兄妹、そしてフェイトは出迎えのために海鳴駅へとやってきていたのだ。
「いろいろあって、お姉ちゃんはまだ赤ちゃんの頃からウチで育って……ついこの間、再会したばっかりなの」
「そう……なんだ……」
 なのはの答えに、フェイトはそうつぶやいて視線を落とす。
 どこか元気がない――その原因に心当たりのあったなのはは尋ねた。
「やっぱり……来ない方がよかった?
 えっと……プレシアさんのこととか……」
 その懸念は当初からあった。フェイトは母・プレシアの本当の娘ではなく、真の娘アリシアの複製――死んだアリシアを蘇らせる一縷の望みに賭けたプレシアにとっては望みをかなえるための道具でしかなかった。
 そのことを思い出すのではないか――そう考えたなのはは最初はフェイトに留守番しているように告げたのだが、意外なことにフェイトは自ら同行を申し出た。
 彼女なりに自分の家庭に対するトラウマと向き合おうとしているのを感じ、なのはも一度は快諾したのだが――目の前で沈まれるとさすがに後悔の念が浮かんでくる。
 しかし、なのはのその問いにもフェイトは首を振った。
「ううん。いいよ。
 わたしが、会いたいの。
 美由希さんの、お母さんに……」
 フェイトがそう告げると、
「あ、来たみたいだぞ」
 恭也が言うと同時、駅の改札をくぐって彼女は姿を見せた。
 腰まで届く黒髪。どこか冷めた、だが優しさの感じられる眼差し――
 彼女こそが美由希の実の母にして恭也の叔母、御神美沙斗である。

 

 


 

第8話
「それは密かな陰謀なの?」

 


 

 

「え?」
 琥珀や翡翠からそのことを聞かされ、アルフは思わず声を上げた。
「じゃあ、志貴達も今日は来ないのかい?」
「えぇ。
 秋葉様と――それから話を聞きつけてきたアルクェイドさんと3人で、お知り合いに会いに行かれました」
 聞き返すアルフに、琥珀はどこか楽しそうにそう答え、今度は逆に尋ねる。
「『も』っていうことは……ひょっとして、そちらも?」
「はい……
 なのはちゃん達、美由希さんの本当のお母さんが帰ってくるから、そのお迎えに……」
 今度はすずかが答え――それを聞いてジャックショットは思わず肩をすくめ、
「何だよ、どっちも水臭いな。
 そういうことなら声をかけてくれれば送ってやったのに」
「前にそれをやって、秋葉達に正体をバラしたのは誰だったかな?」
 肩をすくめるジャックショットに冷ややかなツッコミを下すのはバックパックだ。
「それで、志貴くん達はどこまで?」
「どこまで、というか……目的地は海鳴なんですけど……」
 尋ねる耕介に、翡翠はそう前置きして答えた。
「『ミニシアター系の映画でおもしろそうなものがある』と先方から連絡がありまして、みなさんでその映画を……」
「なるほど……」
 遠野家から見て、最寄のミニシアター系映画館はこの海鳴にある。
 と、そんな彼らの会話に興味を示したのはホップである。
「映画、ですか……
 私達もその映画をぜひ見に行ってみたいものですね」
「うん、いいわよ。
 今度みんなで見に行こう!」
 ホップの言葉にアリサが答えると、バンパーやブリットも見に行きたかったらしい。言葉をしゃべれない彼らだが、身振り手振りで喜んでみせる。
 が――
「おいおい、良くはないだろう」
 そんな彼らに待ったをかけるのはドレッドロックである。
「人間達に見つかったらどうするんだ」
「大丈夫よ。
 コスプレってことにするから」
 ドレッドロックの言葉にも、アリサは動じずにそう答える。
「こすぷれ……?」
「えーっと、わかりやすく言うと……仮装、でしょうか……?」
 ホップに答える那美の答えに、ドレッドロックはしばし考え、
「なるほど……
 総司令官。我々もその『こすぷれ』だということにすれば、地球での活動もやりやすくなるかもしれませんね」
 彼にしては珍しくイタズラ心が芽生えた。冗談半分でギャラクシーコンボイにそう告げるが――
「なるほど……さっそく試してみよう」
「え゛……」
 予想に反するギャラクシーコンボイの言葉に、ドレッドロックは思わず固まった。
「じ、冗談ですよ。我々のような大きな人間はいませんし――」
「私の方も冗談だ」
 どうやら、ギャラクシーコンボイの方が上手だったらしい――あっさりと返され、言葉に詰まるドレッドロックを見て、一同は思わず笑みをもらすのだった。

「スタースクリーム。
 オレへのことわりもなく、ラナバウトを召喚したそうだな?」
「はっ……」
 ワープゲートで地球へと戻り、尋ねるマスターメガトロンにスタースクリームはひざまずき、うなずいた。
「陸上機械へのトランスフォームを好むラナバウトなら、サイバトロンの対空砲火を抑えられると判断しまして……」
「なるほどな……
 そういうことなら、勝手な召喚は不問にしよう。
 それより、チップスクェアは見つかったか?」
「まだです」
 隠し立てする必要もない。素直に答える。
「お前にしては時間がかかっているな」
「申し訳ございません」
 そう謝罪すると、スタースクリームは逆にマスターメガトロンに尋ねた。
「して、マスターメガトロン様の方は……?」
「もうすぐ見つかるだろう。
 いい部下を見つけた」
「部下……?」
「ランドバレットとガスケット、それからパズソーとかいう3人組だ。
 クレイジーなヤツらだがよく働く。お前もうかうかしてはおれんぞ」
「はい……」
 自分がそんな新参者に負けるはずがない――そうは思うがあえて口に出すこともないと考え、スタースクリームは質問を変えた。
「ところで、第2の星は見つかりましたか?」
「まだだが、すぐに見つけ出す」
 言って、マスターメガトロンはそれを取り出した。
「これが、あることだしな……」
 ベクタープライムから奪った、プラネットフォースの在り処を示すマップである。
「とにかく、急ぐのだ。いいな?」
 ともかく用件はこれで済んだ。そう告げると、マスターメガトロンは再びワープゲートの向こうへと消えていった。
 やがて、スタースクリームは静かに立ち上がり――取り出したのは、マスターメガトロンの持っていたものと同じマップであった。
 かつてスタースクリームはマスターメガトロンからマップを預かったことがあった――データの古かったベクタープライムのマップに修正を加えるため、とマスターメガトロンには告げていたが真相は違う。
 データの更新ももちろん目的ではあったが、それ以上に自分がそのマップを手にするための口実だったのだ。マスターメガトロンには贋作を与えておけばいい――どうせ力に偏った思考の持ち主だ。気づくはずもないし気づかれたところでいくらでも理由などこじつけられる。
 なぜそんなことをするのか――
「マスターメガトロン……貴様は宇宙の支配者の器じゃない」
 それは彼のつぶやきが物語っていた。
「宇宙の支配者に真にふさわしいのは、この私をおいて他にない……」
 獅子身中の虫とはよく言ったものである――スタースクリームは、ゆくゆくはマスターメガトロンに反旗をひるがえすつもりなのだ。
 ともかく、スタースクリームはオリジナルのマップを懐に隠し、
「そっちはどうだ?」
〈進展なし、っスね……〉
 通信回線を開き、尋ねたスタースクリームの問いに答えたのはラナバウトだった。
〈チップスクェアの手がかりっぽいものは発見できず。
 ここまだ探しても見つからないんじゃ、日本周辺にはないんじゃないっスか?〉
「そうか……
 まぁ、とりあえず地道に探すしかあるまい。サイバトロンはもちろん――マスターメガトロンにも気づかれるワケにはいかんのだからな」
 そう――ラナバウトも彼の野望のための尖兵だ。すでに懐柔済みだから呼び寄せたに過ぎない。マップの贋作をマスターメガトロンに与えたことといい、彼の野望への布石は着実に積み重ねられていた。

「えーっと……」
「う〜〜ん……」
 目の前の『それ』を見て、なのはとフェイトは正直コメントに困っていた。
 美沙斗の歓迎会もつつがなく行われ(これにはサイバトロン基地から戻ってきた耕介達も合流した)、『久しぶりに帰ってきたんだから』と士郎、美沙斗以下剣術家一同が手合わせのために道場へ直行。他の面々も見学することになったのだが――
 ハッキリ言って、速すぎてなのは達の目にはまったく追いきれない。
「恭也さんだけじゃなくて、美由希さん達もあんなに速かったんだ……」
 現在行われているのは美由希VS美沙斗――しかしやはり目で追いきれず、思わずフェイトがつぶやく。
「御神流はみんなあんなもんさ」
 と、そんなフェイトに答えるのは真雪である。
「あたしも前に恭也とやり合ったことがあるんだけどな、もう速いのなんのって。
 あたしだってスピードにはけっこう自信あったんだけど、追いかけるので精一杯だったよ」
「それ以前に真雪さんはスタミナに問題が……いててっ!」
 横から口をはさんだ耕介の耳を思い切り抓り上げ、真雪は彼をにらみつけ、
「お前はスタミナがあってもスピードに問題があるだろうが。
 偉そうなことを言うんなら、お前も恭也みたいにスタースクリームとやり合ってみろ」
「ま、真雪さん。
 ここでトランスフォーマーの話はあまり……」
 あまりトランスフォーマーの事情を知らない両親には聞かれたくない話題だ――なるべく小声で真雪をなだめるなのはだが、幸いにも彼女達の会話は聞こえなかったようだ。 士郎も桃子も美由希と美沙斗の戦いに見入っている。
 と、いうことは――士郎はともかく、桃子にも少なからず見えている、ということで――何気にハイスペックぞろいな高町家の交友関係を前に、フェイトは思わずつぶやいた。
「みんなも、立派に戦えるかも……」

「ふーっ……」
 大きく背伸びして、秋葉は屋敷のベランダで息をつき、夜空を見上げた。
「遠坂様達、楽しんでおられましたか?」
「えぇ。
 彼女も衛宮さんも、十分に満喫していたわ」
 紅茶を入れながら尋ねる琥珀に、秋葉はそう答えて椅子に腰掛ける。
「たまには、あぁいう息抜きも悪くないわね……
 遠坂さん達の気遣いには感謝しなくちゃね」
 そうつぶやきながら、秋葉は紅茶を含み――
「――――――っ!」
 驚きで目を見開いた。思わずむせかけるが、なんとかこらえて琥珀に声をかける。
「こ、琥珀!」
「え!?
 ま、まだ何も入れてませんよ!」
(『まだ』……?
 『何も』……?)
 その反応にすさまじく引っかかる部分はあったがそれどころではない。
「あれ!」
 秋葉が指さした先にそれはあった。
 夜空に投影されたそれは――
「アトランティスの紋様……?
 秋葉様、なんであんなところに?」
「私が知るワケないでしょう!
 とにかくギャラクシーコンボイに連絡を!
 それから兄さんも起こしてください! 兄さんがいないとドレッドロックはイグニッションできないんですから!」

「ありがとう、琥珀」
 琥珀から連絡を受け、バックパックは振り向き、ギャラクシーコンボイに尋ねる。
「総司令官、ご指示を」
「うむ。
 光の正体を探る。総員出撃!」

 やはりというか、ギャラクシーコンボイ達地上部隊に先んじて現場に到着したのはドレッドロック達飛行部隊だった。上空から地上の光源を発見、接近していく。
〈どうだ? 光の正体は確認できたか?〉
「いえ……まぶしくて……」
 通信してくるギャラクシーコンボイにドレッドロックが答えると、
「ドレッドロックさん!」
「ベクタープライム!」
 声を上げ、なのはとフェイトが合流してきた。
 連絡を受け、恭也と耕介の手引きで抜け出してきたのだ。
 その恭也や耕介も、バンパーとブリットに乗ってこっちに向かっているはずである。
「あれが問題の?」
「そうだ。
 だが、こうもまぶしくては……」
 なのはの言葉にドレッドロックが答える――確かに地上から夜空にアトランティスの紋様を映し出している光源は強烈な光によって上空からはその正体を確認することはできない。
「じゃあ、わたし達が見てきます」
「十分に気をつけるんだぞ」
「はーい」
 ドレッドロックの言葉になのはが答え、フェイトと共に光源に向けてゆっくりと降下していく。
「何だろうね……?」
「さぁ……」
 つぶやくなのはに、彼女の肩の上でユーノも首をかしげ――突然、光源の向こうから何かが飛び出してくる。
 すぐにその正体はわかった。
「――エネルギー弾!?」
「なのは、フェイト、よけて!」
 フェイトとユーノが声を上げ、なのはとフェイトはあわてて光弾を回避する。
 その光景は、遅れて現場に駆けつけたギャラクシーコンボイ達にも見えていた。
「敵のワナか!」
「それよりも、マズいぞ、これは!」
 声を上げるガードシェルに、ギャラクシーコンボイはうめいた。
「街に近すぎる――人間達に知られるぞ!」

 夜空に浮かぶアトランティスの紋様――その光源にはサンダークラッカーの姿があった。
 紋様は、彼がサイバトロンをおびき出すために仕組んだワナだったのだ。
「向こうも来やがったな……」
 走ってくるギャラクシーコンボイ達を視界に捕らえ、サンダークラッカーは狙いを定め、
「これでもくらえ!」
 エネルギーミサイルを発射、それはギャラクシーコンボイ達へと向かい――突然軌道を変えると、彼らのすぐ脇のガケを直撃。落石を引き起こす!
「何っ!?」
 ギャラクシーコンボイが声を上げ――
「させない!」
 フェイトがその落石の前へと躍り出る!

「フォースチップ、イグニッション!」
 フェイトのその叫びに応え、黄色のフォースチップがフェイトの元へと飛来する。
 そして、フォースチップはバルディッシュのコアにまるで溶け込むように飛び込み、
〈Force-tip, Ignition!〉
 バルディッシュが告げると同時、バルディッシュの先端に輝く翼が展開される。
 そのまま、フェイトは落石に向けてバルディッシュをかざし、その周囲に無数のエネルギー球が生み出され、
「サンダーレイジ――ブレイク、ストーム!」
 咆哮と同時にフェイトはバルディッシュを振るい――エネルギー球が解き放たれた。それらは一斉に落石へと襲いかかり、粉々に粉砕する!
「サンキュー、フェイト!」
 フェイトのおかげで無事落石を突破し、ジャックショットがサンダークラッカーへと突っ込むが、
「そうはさせるか!」
 サンダークラッカーはアトランティスの紋様を投影していたライトを向け、ジャックショットはまぶしさに視界を奪われてしまう。
「ぅわっ!?」
 たまらずスピンし、ジャックショットが転倒するのを尻目に、サンダークラッカーはギャラクシーコンボイ達へと向き直り、
「次はてめぇらだ!
 フォースチップ、イグニッション!
 でもって――サンダー、ヘル!」
 青色のフォースチップをイグニッションし、左手のサンダーヘルを連射し、ギャラクシーコンボイ達を狙う。
「危ない!」
 その内の1発がフェイトへと迫る――が、それはギャラクシーコンボイが盾となって防ぐ。
「く……っ!
 もう1回!」
 うめいて、フェイトはもう一度フォースチップを使おうとするが、
「させねぇって言ってるだろ!」
 サンダークラッカーは彼女にライトを向け、その視界を奪う。
「くっ、ヤツにしては頭を使ってるな……
 総司令官。まずはあのライトをなんとかしなければ……!」
 ライトをうまく使って立ち回るサンダークラッカーの意外な戦術にガードシェルがうめくが、そもそもあのライトのおかげで照準もままならない。どうやって破壊したものか――
「へっ、どうした! 手も足も出ないのかよ!?」
 そんな彼らに対し、早くも勝利を確信したサンダークラッカーが勝ち誇り――
 ――ガシャァンッ!
「え………………?」
 突然、ライトが何者かによって割られた。
「だ、誰だ!?」
 あわてて周囲を見回すサンダークラッカーだが、攻撃の主と思われる者の姿はない。
「――今だ!」
 だが、それはサイバトロンにとって絶好の機会だった。ギャラクシーコンボイはロボットモードへとトランスフォーム。普段はフライトモード、スーパーモード用のパーツとして機能するキャリア部を展開、ギャラクシーキャノンを備えた砲台へと変形させる。
 そして、ギャラクシーコンボイはサンダークラッカーの脇のライトへと照準を定め、
「ギャラクシー、キャノン!」
 放たれたビームが、ライトごとサンダークラッカーを吹き飛ばす!
「またですかぁぁぁぁぁっ!?」
 巻き添えを受け、サンダークラッカーは大空へと飛ばされていく。
 普段ならこのままお空の星になって終わり――なのだが、今回は違った。
 何者かによって受け止められたのだ。
 その『何者か』とは――
「す、スタースクリーム!?」
「なぜ私の許可も受けず、こんなことをしでかした?」
 声を上げるサンダークラッカーだが、スタースクリームは気にすることもなく彼を叱責する。
 デストロンにしても人間達にその存在を知られるのは何かとマズい――そう考えたからこそ、スタースクリームは現時点ではチップスクェアの捜索、及びサイバトロンの捜索妨害にのみその行動を絞っていたのだ。
 だが、サンダークラッカーの行動はあまりにも軽はずみすぎた。こんな街の近くで戦闘を行えば、いつ人間達に自分たちのことが知られるかわかったものではない。
 しかし、そんなスタースクリームの叱責に、サンダークラッカーは答えた。
「な、なぜ、って……
 『ギャラクシーコンボイ達を倒すのに手段は選ばない』って、マスターメガトロン様が……」
 どうやら彼はマスターメガトロンにけしかけられたらしい――つくづく余計なことをしてくれる、とスタースクリームは内心で歯噛みする。
(それがヤツの愚かなところだ……)
 政治を重視する自分と違い、マスターメガトロンは力によって事態を解決することしか考えていない。絶対的な力を持つマスターメガトロンだからこそできることなのだが、それを『粗暴』と片づけるスタースクリームにとっては頭の痛い問題であり、そんなマスターメガトロンに従わねばならない現状もガマンのならないものだった。
 だが、サイバトロン達を前にしてはそんな愚痴などこぼしている場合ではない。スタースクリームはすぐにサンダークラッカーを放し、
「フォースチップ、イグニッション!
 バーテックス、ブレード!」

 デストロンマークの刻まれたフォースチップをイグニッションし、バーテックスブレードをかまえる。
「――いくぞ!」
 咆哮すると同時、スタースクリームは手始めに地上のギャラクシーコンボイへと襲いかかる。
 当然、ドレッドロックが立ちふさがるが――彼の敵ではない。あっさりと弾き飛ばす。
 そして、スタースクリームがギャラクシーコンボイに斬りかかり――
「――――――っ!」
 直前で気づいて離脱、なのはの放ったディバインバスターをかわす。
 一度間合いを取り、スタースクリームが着地し――
「はぁぁぁぁぁっ!」
 すでにそこには先客がいた。いつの間に到着していたのか――間合いの中に飛び込んできた恭也の小太刀をバーテックスブレードで受け止め、
「神咲楓月流! 真威・楓陣刃ぁっ!」
 耕介の放った霊力の渦を受け止め、弾き飛ばす。
「やるな……」
 さすがにシミュレーションプログラムのようにはいかない――手ごたえを感じ、スタースクリームは一旦間合いを取り、
「だが――甘い!」
 背後に迫ったフェイトの斬撃をかわし、蹴りを放つがこれはガードされ、間合いを離すのみで終わる。
 確かにシミュレーションプログラムよりも手ごわいが、勝てないレベルでもない。スタースクリームは仕掛けるスキをうかがい、慎重にかまえる。
 だが、なのは達には秘策があった。
「いける? なのは」
「うん!」
(………………?)
 確認するフェイトとうなずきなのは――二人のやり取りに、スタースクリームは思わず眉をひそめる。
「じゃあ――お願い!」
 だが、訝るよりも先にフェイトが動いた。スーパーモードとなったギャラクシーコンボイと共にスタースクリームへと襲いかかる。
「ちぃっ!」
 さすがに二人同時では優位に立てず、スタースクリームはジリジリと後退を余儀なくされ――そんな彼らに向けて、なのははレイジングハートをかまえた。
 フェイトに教えられた通りに“力”を高め、解き放つ。
 その発動となる一言キーワードは――
「フォースチップ、イグニッション!」
 その言葉と同時――フェイトのものと同じ黄色のフォースチップが飛来、レイジングハートのコアにまるで溶け込むように飛び込み、
〈Force-tip, Ignition!〉
 レイジングハートが告げると同時、その先端を起点とし、なのはの周囲で魔力の光が渦を巻く。
 しかもそれは彼女やフォースチップの“力”だけでなく、周囲にまき散らされた戦闘によるエネルギーの残滓まで取り込んでいく!
「何っ!?」
 フェイトだけでなく、なのはまでイグニッションする――予想外の事態にスタースクリームは思わず声を上げ、同時に思い至った。
 訓練しているのは、何も自分だけではないのだ。自分達がサイバトロンに対抗してフォースチップを獲得した前例もある――フェイトがイグニッションを可能としたならば、彼女に教わってなのはもまたイグニッションを習得していたとしても何の不思議もないではないか。
 自分の読みの甘さに舌打ちするスタースクリームの前で、なのははレイジングハートをかざし、
「フェイトちゃん、ギャラクシーコンボイさん、離れて!」
 その言葉に、フェイトとギャラクシーコンボイはスタースクリームを牽制しつつ離脱し――動きの止まったスタースクリームへとなのはが吼えた。
「イグニッション――ブレイカー!」
 叫ぶと同時に周囲に蓄えた全エネルギーを解放。放たれた“力”は荒れ狂う嵐となり、スタースクリームへと襲いかかる!
「ちぃっ!
 バーテックス、ストーム!」
 しかし、スタースクリームもバーテックスストームで対抗。なのはの一撃を相殺しようとする。
 だが、止められない。わずか数秒の拮抗でバーテックスストームを吹き散らし、エネルギーの渦はスタースクリームを吹き飛ばす!
「くっ……!」
 それでも、少しは威力を削ぐことに成功していた。スタースクリームはなんとか体勢を立て直し、なのはをにらみつける。
「やってくれたな、小娘!」
 2撃目など許しはしない。スタースクリームは瞬時に間合いを詰め、バーテックスブレードを振るい――
「させない!」
 その一撃は割って入ったギャラクシーコンボイによって受け止められていた。
「我々もいることを忘れるな、スタースクリーム!」
「なめるな!」
 咆哮と共にスタースクリームとギャラクシーコンボイが激突。両者はどちらもゆずらず組み合う形となる。
 なのはのイグニッションブレイカーによってそうとうのダメージを負っているはずだが、スタースクリームの動きには未だに衰えが見えない。
 やはり一筋縄ではいかない。なのは達やドレッドロック達もうかつに手出しするワケにもいかずただ見守るしかない。
 と――
「――――――え?」
 ふとなのはは違和感を覚えた。
「どうしたの? なのは」
 尋ねるユーノに、なのはは答えた。
「……誰か、いる……」
「誰か……?」
 フェイトが思わず聞き返すと、スタースクリームとギャラクシーコンボイは一度間合いを取って仕切り直す。
「しぶといヤツだ……
 だが、これで決める!」
「それは、こちらのセリフだ!」
 スタースクリームの言葉にギャラクシーコンボイが言い返し、両者は再び激突し――

 しかし、その両者の一撃がぶつかり合うことはなかった。
 突如その間に何者かが割って入り、互いの一撃を止めたのだ。
 しかもただ止めただけではない。二人の首筋には、乱入者が手にした小太刀の切っ先がピタリと突きつけられている。
『な………………っ!?』
「双方、そこまででござる」
 驚く二人に、乱入者は静かに告げた。
 漆黒に染め抜かれたボディを持つ、細身のトランスフォーマーである。
 接近にまったく気づかなかった――ギャラクシーコンボイとスタースクリームの背筋を寒気が走る。
「何者だ!」
 とっさに離脱し、スタースクリームはバーテックスブレードをかまえるが、
「そこまで――そう言ったはずでござる」
 漆黒のトランスフォーマーは動じることはない。あくまで淡々と先ほどの言葉を繰り返す。
「お主なら退く意味も理解できると思うでござるが。
 それとも、お主達は主君と同じく状況も見えぬ愚か者でござるか?」
「なん、だと……!?」
 その言葉に、スタースクリームの脳裏から理性が飛んだ。
「マスターメガトロンなどと……一緒にするなぁっ!」
 激昂し、突撃するスタースクリーム――だが、それでもトランスフォーマーは動じない。ため息をつき、告げた。
「警告は……したでござるよ。
 フォースチップ、イグニッション!」
 その瞬間――トランスフォーマーは背中のチップスロットにフォースチップをイグニッション。スタースクリームのバーテックスブレードと同様に両腕にブレードを展開する。
「シックス、ブレイド!」
 叫んで、ブレードをかまえるトランスフォーマー。だが――
「遅い!」
 スタースクリームはすでに彼の目の前まですべり込んでいた。バーテックスブレードの一撃でトランスフォーマーを斬り裂――こうとした瞬間、その姿がかき消える!
「何っ!?」
 思わずスタースクリームが声を上げ――
「ここでござるよ」
 その背後で、回り込んだトランスフォーマーはすでにかまえをとっていた。
 右手のブレードをまっすぐにスタースクリームに向け――放つ!
 零距離の、しかも超高速の刺突――回避はおろか反応すら許さず、その一撃はスタースクリームの右肩を打ち貫いていた。
「ぐ………………っ!」
 うめいて、スタースクリームが後退し――トランスフォーマーは改めて告げた。
「もう一度言うでござる。
 この戦いはここまで――双方刃を引くでござるよ。
 あのアトランティスの紋様を投影されたことで、すでにこの騒ぎは人間達に気づかれているでござる。早く離脱せねば、人間達にその正体を知られることになるでござる」
「な――――――っ!
 だったらそれを早く言え!
 それならばこちらも素直に退くというものを、このバカ者が!」
 その言葉に、スタースクリームは思わず声を上げた。
 確かに、人間達が気づいたとなれば、ここでこれ以上戦うのはリスクが大きい――いや、リスクしかない。
「引き上げるぞ、サンダークラッカー!」
「お、おうっ!」
 決断は早かった。スタースクリームの言葉にサンダークラッカーがうなずき、二人はそのまま離脱していく。
「お主達も早く撤退するでござる」
「待ってくれ。
 まさか、さっきのライトもキミが――?」
 告げるトランスフォーマーにギャラクシーコンボイが声をかけるが、
「拙者もこれにて!
 トランスフォーム!」
 それよりも早くトランスフォーマーはジェット機へとトランスフォームし、飛び去っていった。
「……仕方ない。我々も撤退するぞ」
 息をつき、ギャラクシーコンボイが一同に告げるが――なのはとフェイトはその場を動かない。
「……どうした?」
「あ、うぅん、なんでもない。
 行こう、フェイトちゃん」
「う、うん……」
 尋ねるギャラクシーコンボイにそう答え、なのははフェイトを促してようやく帰途についたのだった。

 その頃、スピーディアではエクシリオンとブラーがニトロコンボイとのレースを前にスキッズ、オートランダーのサポートの元でチューンナップを行っていた。
 放っておくこともできず、かといって出て行くワケにもいかず、ファストエイドとシオン、そしてクロノはその様子を物陰からうかがっていた。
「いくら軽量化するためとはいえ、安全のための自己診断システムを除去するなんて……
 エクシリオンのヤツ、なんてマネを……」
 しかし、彼らのチューニング、特にエクシリオン側の内容はきわめて危険なものだった――おそらくはエクシリオンが言い出したことなのだろうが、ファストエイドはうめかずにはいられなかった。
 自己診断システムは言ってみれば人間の痛覚のようなもの、自分の身体に起きた異常を感知するためには必要不可欠なものだ。これがなければ、もし身体に深刻なダメージを受けても気づかず、最悪の事態を招く危険すらある。
「ファストエイド、やはり止めた方が……」
「止めたって聞かないよ、今のエクシリオンは」
 提案するシオンに答え、クロノはニトロコンボイを待つエクシリオンへと視線を戻す。
「そう……止めても聞きはしない。だから彼の負担を避けることはできない。
 ボク達がすべきなのは、『最悪の事態』を防ぐことだけだよ」

「待たせたな」
 ニトロコンボイが現れたのは、それからすぐのことだった。
「準備はいいか?」
「あぁ!
 いつでもいいぜ!」
 尋ねるニトロコンボイにエクシリオンが答えると、スキッズがスターターを務めるべく彼らの前に出る。
「それじゃ、行くよ。
 レディ……」
 スキッズが手をかざし、エクシリオンとブラー、ニトロコンボイはエンジンをふかし――
「ゴー!」
 その手が振り下ろされると同時、エクシリオンとブラーは全速力で加速した。
 そう。“エクシリオンとブラーだけが”
 ニトロコンボイはスタートすることもなく、ただ静かに二人を見送っている。
「ゴーだよ、ゴー!
 ゴーだってば!」
「わかってるさ」
 発進しないニトロコンボイにスキッズが急かすが、ニトロコンボイはあっさりと答えるとようやくスタート。エクシリオン達を追う。
「ワシらも追うぞ!」
「うん!」
 そんな彼らをただ見送るつもりなどない。オートランダーの言葉にスキッズがうなずき、彼らもまたレースの行方を見届けるべく後を追ってスタートする。
 そして――ファストエイド達も。
 一方、先頭では――
「どうした? エンジントラブルでも起こしたか?」
「ハンデをくれてやったのさ」
「なめやがって!」
 余裕で告げるニトロコンボイに、エクシリオンとブラーはムキになって加速するが、ニトロコンボイはその後ろにピッタリと食いついていく。
 しかも――
「カスタマイズしてこの程度か……拍子抜けだな!」
 言うなり、二人をあっさりと抜き去り、しかも引き離していく!
「くそっ、オレも……!」
 うめいて、エクシリオンも加速しようとするが、今の彼ではこれが精一杯の速度だった。今のスピードを維持するので精一杯だ。
「くそっ!
 美緒、イグニッションだ!」
「おーなのだ!」
 このまま引き離されるワケにはいかない。ブラーの言葉に美緒がうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!
 エヴォリューショナル、ブースター!』

 フォースチップをイグニッションし、ブースターの加速でニトロコンボイを追う。
 だが――それでも追いつけない。どんどんその差が開いていく――

(オレ達じゃ、勝てないのか……?)
 自分はおろか、フォースチップを使ったブラーでさえも追いつけない、絶対的とも言えるスピードの差――エクシリオンの脳裏に思わず『敗北』の二文字がよぎる。
 だが――あきらめるワケにはいかなかった。
(そうだ……負けられないんだ……
 ニトロコンボイに勝てなければ、プラネットフォースは手に入らない……この宇宙を救えないんだ!)
 彼の脳裏に、地球で出会った人々――なのはやフェイト、アルクェイド、志貴、クロノ――そしてすずかの笑顔が浮かぶ。
 あの子達の未来を守るためにも――
(絶対に……負けられないんだ!)
 その瞬間――エクシリオンは叫んでいた。

 

「フォースチップ、イグニッション!」

 

「あれは!?」
 その瞬間、ファストエイドは自分の目を疑った。
 エクシリオンがフォースチップを使った。
 ただし――“赤色の”フォースチップを。
 彼が地球で得たフォースチップの色は青色のはず。なぜこの星の人々が使う赤色のフォースチップを彼が――?
 だが、そうしている間にもエクシリオンの新たな力が発動した。チップスロットにフォースチップをイグニッションし、車体後方にウィングを展開する。
 その名も――
「アクセル、ウィング!」
 エクシリオンが叫ぶと同時――彼は爆発的な加速と共にブラーの脇を駆け抜けるとニトロコンボイへと追いつき、一気に抜き去る!
「やった! 勝ったぞ!」
 もはやゴールゲートは目の前だ。勝利を確信し、エクシリオンが叫び――突然、彼のマフラーから火が吹いた。
 急激な加速とムリヤリ発動したフォースチップの力による負担――二つが重なり、エクシリオンの動力系が限界を超えたのだ。
「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」
 結果、ゴールを目前にしてエクシリオンはスピン。そのままフェンスを突き破ってコースアウトしてしまう。
「いてて……!」
 たまらずロボットモードに戻り、エクシリオンがぶつけた頭をさすっていると――そんな彼をしばし見下ろし、ニトロコンボイはそのまま走り去っていった。

「……アイツも、フォースチップを……」
 ハイウェイを走りながら、ニトロコンボイは独りつぶやいた。
 ファースチップを使い、加速したエクシリオン――そのスピードは自分と対等かそれ以上の勝負を期待させるほどのものだった。
 だが――
「……どいつもこいつも、そんなものに頼って……
 自分の力で走り抜こうとは思わないのか……!?」
 ニトロコンボイはそれを素直に喜ぶことはできなかった。フォースチップの力を借りて得た勝利を、歓迎するワケにはいかなかった。
「フォースチップなど……そんなもの……!」
 どうやら、彼はフォースチップを快く思ってはいないらしい――その理由が明かされるのは、まだ先の話であるのだが――

 その一方で、撤退を余儀なくされたスタースクリームは、応急手当が終わるなりスピーディアに呼び出されていた。
 サンダークラッカーやラナバウトよりも一足先に、ランドバレット達スピーディアのデストロンとの顔合わせをするためである。
「紹介しよう。
 スタースクリームだ」
「よろしくな、同志」
「よろしく」
「………………フンッ」
 調子よく握手を求めるガスケット、それをマネするランドバレット、なんとなくおもしろくなさそうなパズソー、三者三様の反応を前に、スタースクリームは尋ねた。
「マスターメガトロン様。
 少しの間、こいつらを私に預けてはもらえませんか?」
「なぜだ?」
「スピーディアと地球での仕事が終われば、その後は共に戦うワケですから、どの程度の実力か、今の内に知っておきたいのです」
 その言葉に、マスターメガトロンはしばし考え、
「……よかろう」

 スピーディアにも夜と昼の区別はある。日が沈み、真っ暗になった夜空の下――ファストエイド達はジャンク捨て場を訪れていた。
「どうするんですか?」
「やはりエクシリオンに自己診断システムを外させたままにはしておけない」
 尋ねるシオンに答え、ファストエイドはジャンクの山を見回し、
「とはいえ、単純に戻させようとしても、『重くなるから』と拒絶されるのがオチだ。
 ならせめて、今使っているものよりも軽いものを作ってやれば……」
 その言葉に、クロノはため息をついて肩をすくめ、
「とか言って……さっきエイミィに検索を頼んだのは、高速域での姿勢制御システムの設計図だったと思うんだけど」
「……素直じゃないですね」
「………………」
 二人の言葉に答えることもなく――ただし微妙に視線をそらし、ファストエイドは使えそうな部品を探し始める。
 と――そんな彼らが突然ライトの光で照らし出された。
「何だ……?」
 訝り、クロノが振り向くが、光がまぶしくてその正体を特定することができない。
 やがて――光の向こうから声がかけられた。
「あれあれ? 正義のサイバトロンがコソ泥のマネなんかしちゃっていいの?」
「いけないんだぁ。正義の味方は正義の味方らしく、もっと堂々としてなくちゃ」
「ま、待て!
 私はここが公共の場所と聞いたから――」
 あわてて弁明しようと立ち上がり――ファストエイドは気づいた。
 この声には覚えがある。
「ら、ランドバレットに、ガスケット!?」
「お前ら……どうしてファストエイドのことを!?」
 驚くファストエイドのとなりでクロノが問いかけると、彼らはライトを消し――二人の背後に彼はいた。
 傍らにパズソーを従えて佇んでいるのは――
「スタースクリーム!?」
 だが、スタースクリームはかまわず告げた。
「………………やれ」
「はいな!」
「いくぞぉっ!」
 その言葉を合図に、ガスケットとランドバレットはロボットモードへとトランスフォームし、
『フォースチップ、イグニッション!』
 いきなりフォースチップをイグニッション。それぞれの獲物をファストエイドに向ける。
「オレの青春、ランドバズーカ!」
「うなれ情熱、エグゾーストショット!」

 調子に乗って決めゼリフ化させた二人の掛け声と共に、放たれた閃光はファストエイドに襲いかかり、大爆発を巻き起こす。
「……バカが。
 やりすぎな上に戦略性のカケラもなしか……」
 それを見て、スタースクリームはあきれてつぶやき――
「まったく、いつもいつもやりすぎやがって……」
「む………………?」
 となりで同様の感想を抱いていたパズソーのつぶやきを聞きつけた。
(ほぉ、こちらは……)
 思わずスタースクリームが口許をほころばせた、その時――
「トランス、フォーム!」
 咆哮と共に、ビークルモードにトランスフォームしたファストエイドが炎の中から飛び出してくる!
 そのボンネットの上にはS2Uをかまえたクロノ。彼の展開したラウンドシールドによって直撃を免れていたのだ。
「お前ら――よくもやってくれたな!」
 叫ぶと同時、クロノはファストエイドの上から跳躍。上空からランドバレット達にスティンガーレイの雨を降らせる。
「こちらもいくぞ!」
「はい!」
 そして、ファストエイドの叫びにシオンが銃をかまえ――彼らが真紅の輝きに包まれ、
『フォースチップ、イグニッション!』
 二人の叫びが交錯し――青色のフォースチップをイグニッション。ファストエイドの車体、その両側面にビームガンが展開される。
『フォトン、ビーム!』
 叫ぶと同時にビームを発射。さらにシオンも自らの銃から閃光を放ち、二人の攻撃はランドバレットとガスケットを吹き飛ばす!
「次はお前だ!」
 彼方に吹き飛ばされ、星になった二人など完全に無視して、ファストエイドはスタースクリームに告げ――
「――――――フンッ」
 次の瞬間、すでに狙いを定めていたスタースクリームの腹部のビームガンの一撃が彼らの足元を吹き飛ばしていた。

(……使えることは使えるが……クレイジーすぎるか……
 手下には向かんな)
 傷ついた身体のままでムリに戦うこともない――ファストエイド達への攻撃を目くらまし程度で早々に切り上げ、パズソーと共にさっさと撤退したスタースクリームは胸中でつぶやいた。
 あの攻撃力なら、戦闘力としては申し分ない。だが、あの性格のキレっぷりは扱いが難しそうだ。組織の中に組み込むにはあまりにも危険な存在だと言わざるを得ない。
(まぁ、焦ることもないか……
 今までの苦労を水の泡にはしたくない……)
 あれならマスターメガトロンの配下のままで不協和音の元になってもらった方がはるかにマシだ。むしろ、彼らのやり口に辟易していたパズソーを懐柔するのが得策だろう。
(なぁに、時間はタップリある……
 それに、オリジナルのマップも私の手の中……)

 その晩は、帰ってもなかなか寝付くことはできなかった。
 フェイトを引き取ることが決まり、急遽なのはの部屋に設置された2段ベッド――その下の段で布団にもぐり込み、フェイトはもう何度目になるかわからない寝返りを打った。
 やはり気になる――フェイトは意を決し、上の段で同じくゴロゴロと寝返りを繰り返すなのはに声をかけた。
「ねぇ、なのは……
 あのトランスフォーマーが使ったフォースチップの色……」
「うん……」
 彼女も同じことを考えていた。フェイトの言葉に、なのはは静かにうなずく。
「エクシリオンさん達の青色でも、ギャラクシーコンボイさんのサイバトロンマーク入りでも――ベクタープライムさんの歯車模様でもない……
 わたし達のと同じ……黄色だった……」

 一方、あのトランスフォーマーが気になっているのはなのは達だけではなかった。
「さっきのあの技……」
 縁側で静かにつぶやき、恭也は先ほどあのトランスフォーマーが見せた技のことを思い返した。
 あのかまえ、動き、そして何よりあのスピード――
(まさか……
 いや、だけどあれは確かに……)
 あの技に、恭也は覚えがあった。
 いや――『覚えがある』どころの騒ぎではない。その身に受けたことすらある。
「なぜアイツは、“あの技”を……!?」

「……あれでよかったのでござるか? 師匠殿」
「上出来だよ。
 お疲れさま、シックスショット」
 漆黒のトランスフォーマー、シックスショットの問いに、彼のライドスペースから降りたパートナーはそう答えた。
 暗がりでその素顔は見えない。声からして女性のようだが――
「しかし、顔くらいは見せてあげてもよかったのではござらんか?」
「そういうワケにもいかないよ」
 尋ねるシックスショットにも、彼女はそう答えるのみ。
「理由は、話したよね?」
「……『このままサイバトロンとデストロンの戦いが激化すれば、いずれ地球人にその正体を知られてしまう。それを防ぐため、抑止力として両軍を牽制する第3勢力はどうしても必要になる』……
 確かに、師匠殿のそのお考えには賛同するでござるが……何も師匠殿がその役目を背負われることは……」
「けど、誰かがやらなきゃいけないことだから……」
 パートナーのその言葉に、シックスショットはため息をつき、
「……わかったでござる。
 師匠殿、このシックスショットが全身全霊をもって、あなたの力になるでござる」
 そう言うと、シックスショットはトランスフォーム。ただし、先ほどのジェット機とは違う姿――乗用車形態となり彼女の前に降り立った。
「乗るでござるよ。
 ご自宅の近くまでお送りいたす」
「ありがとう、シックスショット」
 そう答えると、彼女は夜空の月を見上げた。
「今はまだ、みんなの前に姿を現す時じゃない……
 縁の下の力持ちに、なってあげないとね……」


 

(初版:2006/02/12)