「またね、美沙斗さん」
「あぁ。また時間ができたら、戻ってくるよ」
 あいさつするなのはに、美沙斗はまだ慣れないながらも微笑みを浮かべてそう答える。
 そして、彼女はふと視線を動かし、
「フェイトちゃんも、またね」
「は、はい……」
 言いながら頭をなでてくれる美沙斗に、フェイトは少し頬を朱に染めてうなずく。
 短かった美沙斗の休暇も今日で終わり。帰路につく美沙斗を送って、恭也達は海鳴駅を訪れていた。
「本当なら、新しくできた友人達も紹介したかったんですけど……」
「いいさ。お互い急な話だったんだし、次の機会にでもゆっくりと、ね」
 結局、志貴達を美沙斗に紹介することはできなかった――苦笑する恭也に答えると美沙斗は荷物を持ち直し、
「じゃあ、また」
 そう言うと、美沙斗は改札の向こうへと消えていった。

 美沙斗を乗せ、走り去っていく電車――それを見送っているのは恭也達だけではなかった。

 藤見台にある共同墓地――そこからそう遠くない位置にある丘の上に、1台の戦車が停まっていた。
 と言っても、通常テレビのニュースや戦争映画などで見かけるようなものではない。2門の砲塔を備えた、SF的なデザインの戦車だ。
 その戦車はしばしの間、長距離砲撃用のスコープで美沙斗の乗る列車の姿を見送っていたが、
「トランスフォーム!」
 咆哮し、戦車はロボットモードへとトランスフォームした。
「やれやれ……ようやくでござるな。
 これで、少しは動きやすくなると良いのでござるが……」
 戦車の正体はシックスショットだった。

 月村邸の地下からサイバトロン基地に続く直通路線――それは今や月村邸だけでなく、遠野の屋敷にも延長されている。
 結果、志貴達がサイバトロン基地に向かう途中に立ち寄ることも多い。そして今日も、志貴と秋葉、そしてアルクェイドは忍達の元へと立ち寄っていた。

「そっか……恭也くん達の叔母さん、今日帰るのか……」
「で、なのはちゃん達はまとめてそのお見送りに行くので、今日は少し遅れるそうです」
 話を聞き、納得する志貴にファリンがそう答える。
「恭也達も、なんとか志貴くん達に紹介する時間を作りたかったみたいだけど……」
「まぁ、チップスクェア探しに同行して、そのまま夜明かしして帰ってくることも多かったからなぁ……」
 忍の言葉に答え、志貴は最近の自分達の動きを思い返す。
 最近では、夜のチップスクェア探索への同行者は志貴達が担当することが多かった――元々地元で起きていた様々な怪異の解決のため、以前から深夜に行動することが多かったのがその理由だが、結果として恭也達とは生活サイクルのズレが大きくなり、なかなか時間が合わせられなかったのだ。
「まぁ、もう会えないワケじゃないし、次の休暇に期待する、ってことで」
「そうだね」
 志貴が忍に答え――突然すずかの携帯が鳴った。
 この着メロは――
「サイバトロン基地から……?」
 つぶやいて、すずかは携帯の通話ボタンを押し、
「はい、すずかです」
〈あ、すずかちゃん?〉
「舞さん……?」
 連絡してきたのはさざなみ寮の寮生の我那覇舞。確かブラーの抜けた後の移民トランスフォーマーの監督業務を手伝っていたはずだが――
〈いきなりゴメンね。
 ちょっと、頼みがあるんだ〉

 

 


 

第10話
「そこは野性の惑星なの?」

 


 

 

「せー、のっ!」
 掛け声と共に、ジャックショットは思い切り後方にスタートするが、彼にウィンチでつながれたショベルカーはビクともしない。
 連絡を受け、アルクェイドに運んでもらったすずかが駆けつけた現場では、斜面に滑り落ち、立ち往生していた移民トランスフォーマーをジャックショットが救助しようとしているところだった。
 彼とはすずかも面識がある。ブラーの後任として移民トランスフォーマーの監督を担当している、ロングラックだ。監督業務では舞の上官にあたる。
 現場にはすでに那美が耕介によって連れてこられていた。修理はすずかや忍が、痛みを和らげるのは那美が“癒し”の術で担当するのが、彼らによるトランスフォーマーの治療パターンだ。いつもはロングラックによってすずか達が患者のもとへと案内されるのだが、今回はそのロングラックが患者となってしまったようだ。
 だが――今日はいつもと違う。那美がいつも連れている、久遠の姿がそこにはなかった。
「あれ……?
 那美さん、久遠ちゃんは?」
「え?
 あ、えっと、久遠は……」
「………………?」
 なぜか歯切れの悪い那美の反応に、すずかは思わず首をかしげる。
 その一方で、ジャックショットによる救助活動はやや難航気味だった。
 というのも、まるで何かがジャマしているかのように、ロングラックの身体が坂の途中から上がらなくなってしまったのだ。
 何事かと耕介は斜面をのぞき込み――気づいた。
「キャタピラが木の根っこに引っかかってる……
 ジャックショット、一旦中断してくれ。オレがなんとかしてくる」
 ムリヤリ引き上げるよりも根をなんとかした方が早いだろうと判断し、“御架月”を手にして耕介が言うが、
「なんの、これしき!」
 ジャックショットはそのまま力を入れ、木の根もろともロングラックをムリヤリ引き上げる。
「す、すみません……」
「いいってことよ」
 礼を言うロングラックに答え、ジャックショットはロボットモードへとトランスフォームし、
「それより、ケガはないか? ずいぶん強引に引き上げちまったが……」
「あ、それなら……」
「ちょっと診てみますね」
 尋ねるジャックショットにロングラックが答えようとするが、それよりも早くすずかが点検にとりかかる。
「毎日、忙しそうですね」
「ま、そりゃね。
 デストロンよりも先にチップスクェアを見つけなきゃいけないから。
 その上、シックスナイトとそのお仲間、なんてワケわかんない連中もいることだし」
 すずかのメンテナンスを受けながら告げるロングラックに、アルクェイドはそう答えて肩をすくめる。
 チップスクェア探しだけでも大変なのに、その上自分達のフォローまで――なんとなく申し訳ない気がして、ロングラックはすずかに尋ねた。
「よかったら……ボク達にも手伝わせてもらえませんか?」
「え………………?
 け、けど……」
 いきなりそんなことを言われても困る――ロングラックの言葉にすずかは背後へと振り向き、
「……オレに聞くな」
 その視線を向けられたジャックショットは、少し困った末にそう告げた。

「何? 協力したいだって?」
〈ご迷惑、ですか……?〉
 結局決定権は総司令官であるギャラクシーコンボイに委ねられた(丸投げされた、とも言う)。聞き返すギャラクシーコンボイに、ロングラックは恐る恐る聞き返す。
 だが、ギャラクシーコンボイはそんな彼に笑顔で答えた。
「とんでもない。
 むしろ、こちらから頼みたいと思っていたところだ、ロングラック」
 確かに、移民トランスフォーマー達が協力してくれるというのなら、その情報網は大きな力になるだろう。
 デストロンに襲われる危険性を考慮し、今までは関与を断ってきたが、デストロンだけでなく、未だに素性を明かさないシックスショットやシックスナイトのこともある。
 少なくとも敵ではなさそうだが、その確証もない。チップスクェア獲得のためにこちらを利用している可能性もあるのだ――彼らが敵か味方か決めかねている現状では、できるだけ大掛かりに動かずにチップスクェアの探索を行う必要があった。そのためには、彼ら民間のトランスフォーマー達や彼らを監督しているロングラックの協力はやはり不可欠だろうと、先日ドレッドロックと話し合ったばかりだったのだ。
「だが、デストロンには十分に気をつけさせてくれ。
 彼らはお前と違って、武装を有していないからな」
〈了解であります。
 ところで……〉
 ギャラクシーコンボイに答えると、ロングラックは先ほどから気になっていたことを尋ねた。
〈何かあったんですか? 後ろがずいぶん騒がしいようですが……〉
「い、いや……」
 その言葉にギャラクシーコンボイが思わず言葉をにごし――ロングラックの脇から那美が尋ねた。
〈もしかして……まだ捕まってませんか? 久遠……〉
「うむ……」
 そう――ギャラクシーコンボイの背後、というか指令室では現在、久遠とそれを追うアルフや舞、マイクロン達、そして基地に到着するなり巻き込まれた志貴達の追跡劇が繰り広げられていた。
 久遠は妖怪とはいえその本質は狐であり、那美に飼われている飼い狐である以上、衛生のために予防接種を受けなければならない。注射が大嫌いな久遠はそれを嫌がったあげく逃走――結果、現在の状況となったワケだ。
 当初は事態を収拾しようとドレッドロックやバックパック、ガードシェルも参戦したものの、久遠のフットワークの前に翻弄され、あえなく撃沈されていた。タバコの吸い過ぎでスタミナのない真雪や元々運動をあまりしない愛もすでにリタイアしている。
 そして今の現状は一進一退。アルフ達も何度か追い詰めるものの、久遠は小回りを活かして逃げ回る。
 だが、その追跡劇にもついに終わりが訪れようとしていた。
「ぜぇっ、ぜぇっ……!
 ようやく、追い詰めたよ……!」
 指令室の入り口付近に久遠を追い詰め、アルフは息を切らせてつぶやく。
 共に久遠を追い詰めた戦友達――舞や志貴達、そしてマイクロン達と視線を交わし、『せーの』で久遠に飛びつこうとした、その瞬間――
「ギャラクシーコンボイ、ちょっといいか?」
 そう言いながら、ベクタープライムが指令室に入ってきた。
 当然指令室の扉は開かれ――逃げ道を得た久遠はすかさずそこから飛び出していってしまった。
『あぁぁぁぁぁっ!』
「む………………?」
 声を上げる一同に、ベクタープライムは首をかしげるが、それが一同の怒りの火に油を注いだ。
『ベクタープライム(さん/様)っ!』
「な、何だ? 何だ!?」
 一同の怒りの声を受け、ベクタープライムは事態も理解できないまま思わず後ずさっていた。

 そして、遅れてサイバトロン基地へと姿を見せたなのは達が目にしたのは――
「……えっと……
 何がどうなって、こういうことになってるんでしょうか……?」
「いろいろと、込み入った事情があってな……」
 その場に正座させられ、真雪から延々と説教されているベクタープライム――その光景を前にして、首をかしげて尋ねるなのはのその問いに、ギャラクシーコンボイはそう答えて言葉をにごすしかなかった。
 と――そんな彼に、バックパックが声をかけた。
「ギャラクシーコンボイ総司令官。
 ファストエイド達から定期通信です」
「そうか。つないでくれ」
 ギャラクシーコンボイが告げると、メインモニターにファストエイドの姿が現れた。
「状況はどうだ?」
 尋ねるギャラクシーコンボイだが、ファストエイドは言いにくそうに答えた。
〈それが……進展がサッパリ……
 努力しては、いるのですが……〉
「そうか……
 とにかく急いでくれ」
 ギャラクシーコンボイが答えると通信は切られ――フェイトはふと、となりでなのはが首をかしげているのに気づいた。
「どうしたの? なのは」
「うん……
 ファストエイドさん、なんだか元気ないな、って……」
「そりゃ、意気揚々と出て行って進展なし、じゃ落ち込みもするだろ?」
 アルフが言うが、なのははなおも首をかしげた。
(うーん、なんだか、そういうのとも違う感じだったと思うんだけど……)
 だが――スピーディアから遠く離れた地球でそんなことを考えていても、答えなど出るはずもなかった。

「……今日も、言えなかったな……」
 通信を終え、ファストエイドは思わずため息をついた。
 『言えなかったこと』――もちろん、エクシリオン達のことである。
 もう、すでに何度も報告しようとした――だが、ファストエイドはもちろん、職務に忠実なクロノでさえそのことを報告しづらいものを感じていた。
「エクシリオン達も、自分達なりに考えて努力してる――そう信じよう」
「そうだな……」
 息をつき、告げるクロノにファストエイドが答えると、
「戻りました」
 そこへ、シオンが戻ってきた。
「どうだった? アイツら」
 尋ねるクロノに、シオンは答えた。
「知り合いらしきトランスフォーマーと接触しています。
 おそらく、仲間に引き込むつもりなのでは……」

「マスターメガトロンとか、プラネットフォースとか、ワケわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
 仲間にならないか――そう提案してきたランドパレットとガスケットの言葉に、そのトランスフォーマーは取りつく島もなく拒絶の意思を表明した。
 彼の名はインチアップ。一度ファストエイド達もその姿を目にしている、スピーディアでも名高いパワーレーサーである。
「てめぇらの手助けがなくたって、ニトロコンボイには負けねぇんだ!」
 言って、インチアップがロボットモードへとトランスフォームすると、
『トランス、フォーム!』
 対抗するように、ランドバレット達もロボットモードへとトランスフォームする。
 そして、両者はしばしにらみ合い――
「オラぁっ!」
 まずはインチアップが先制した。ガスケットに向けて殴りかかるが、ガスケットはそれをかわし、逆にインチアップを蹴り飛ばす。
 体格差をものともしない、強烈な蹴りを受けてインチアップがひるみ、
「おらよっ!」
 そこにランドバレットが追撃をかけた。インチアップを背後から殴り倒す。
「なめるなぁっ!」
 だが、インチアップもなんとか踏みとどまり、
「フォースチップ、イグニッション!」
 背中のチップスロットへ真紅のフォースチップをイグニッション。両肩にバルカン砲を装備する。
「ショルダー、バルカン!」
 咆哮し、ランドバレット達に一撃をお見舞いするインチアップだが――ランドバレット達には通じない。爆煙の中から平然とその姿を現す。
『フォースチップ、イグニッション!』
 今度はランドバレット達の反撃だ。二人はフォースチップをイグニッションし、
「エグゾーストショット!」
「ランドバズーカ!」

 二人の攻撃が、インチアップを吹っ飛ばす!
「くっ………………!」
 二人の横暴ぶりに、たまらず飛び出そうとするファストエイドだったが――その脳裏をエクシリオンやブラーとの確執、そしてギャラクシーコンボイからの命令が脳裏をよぎった。
「ファストエイド……?」
 彼の決断次第でいつでも飛び出せるよう待機しながらシオンが声をかける。が――ファストエイドは動けない。
「ダメだ……!
 エクシリオン達だけでなく、私までギャラクシーコンボイ総司令官の命令に背くワケには……!」
「しかし、このままでは……!」
 反論しかけたシオンだったが、クロノがそれを制した。
「今は手を出すべき時じゃない」
「クロノ……?」
 思わず声を上げるシオンだが、クロノは答えることなくファストエイドへと視線を向けた。
(命令か、人道か……
 ボクも通った道だからわかる――こればっかりは、人から諭されて解決できる問題じゃない。
 自分の意志で、答えを選び取らなきゃいけないんだ)

「いいから言う通りにしなって、インチアップ。
 代わりに、いい夢見させてやるからさ」
 倒れたインチアップを踏みつけ、告げるガスケットだったが、
「――トランスフォーム!」
 叫んで、ロボットモードとなってその場に降り立った者がいた。
 ニトロコンボイである。
「何をしている?」
「何って……見りゃわかんだろ?」
「転んだんで、助けてやってるのさ」
 いちいち尋ねるということは、事態に気づいて駆けつけたワケではなく、ただ偶然通りすがっただけらしい――それをいいことに、ガスケットとランドバレットはウソ八百な答えを返す。
「まったく……しょうがないな」
 だが、事情を知らないニトロコンボイはあっさりとそれを信じた。肩をすくめてインチアップへと手を差し伸べ、
「大丈夫か?」
 尋ねるニトロコンボイだが――インチアップは逆にそんなニトロコンボイをにらみつけた。
(事情も知らず、あっさりダマされて、その上オレに同情か!
 どこまで調子に乗ってやがる、お前は!)
 パワーでは定評のあるインチアップだが、あくまでもスピーディア最速はニトロコンボイ――何度挑んでも勝てない相手に情けをかけられ、インチアップは思わずニトロコンボイの手を振り払っていた。
「余計なお世話だ!」
 そんなインチアップの態度に、ニトロコンボイは自分が原因とも知らぬまま「やれやれ……」と肩をすくめると、そのままビークルモードにトランスフォームし、走り去っていった。
 立ち上がってそんなニトロコンボイを見送り――インチアップはガスケット達に告げた。
「さっきの話……乗ったぜ」

 なのは達が探している、そしてマスターメガトロン達が見つけた第2の星――その名を惑星アニマトロスという。
 空は厚い雲に覆われ雷鳴が轟き、地上では活発な火山活動が続いている――
 そんな自然の脅威を体現したその星を、マスターメガトロンとスタースクリームはビークルモードで飛行しながら探索していた。
「なんて星だ……文明のカケラも見えない」
 眼下に広がるのは広大なジャングル。都市のひとつも見つからない地上を眺めてスタースクリームがつぶやくと、
「……ん?
 どうやら、そうでもなさそうだぞ」
 前方にそれを発見したマスターメガトロンが彼にそう答えた。
 ジャングルのド真ん中にそびえ立つ、一際高い岩山――その中央には、岩盤を掘り抜いて作られたと思われる神殿があった。

『トランスフォーム!』
 ロボットモードとなってふもとに着地し、神殿への階段を昇ったマスターメガトロンとスタースクリームだったが、
「何ヤツ!?」
 その階段を昇りきったところで、2体のトランスフォーマーに呼び止められた。
 彼らの名はファングウルフ、そしてダイノシャウト――神殿の入り口を守る門番である。
「名を名乗れ!」
「マスターメガトロン」
「スタースクリーム」
 先に呼び止めたファングウルフに代わって尋ねるダイノシャウトの問いに、マスターメガトロン達は素直に答えて先に進む。
「ど、どこに行く!?」
 あわててその進路に立ちふさがり、尋ねるダイノシャウトだが、
「名乗ったのに、通してはもらえないのか?」
 スタースクリームはあくまで挑戦的だ。余裕の笑みと共にそう聞き返す。
「通りたければ、我らを倒してからにしてもらおうか!」
「フンッ。本気か?」
 同じく立ちふさがって告げるファングウルフに、マスターメガトロンはそう尋ねながら“力”を開放し――
「やめい!」
 突然の声が、今にも飛びかからんとしていたファングウルフやダイノシャウトを制止した。
 いったい何者か――振り向くマスターメガトロン達の前に、声の主は神殿の奥から悠々と姿を現した。
 野性的なオレンジ色に染め抜かれたボディの、大柄なトランスフォーマーである。
「ふ、フレイムコンボイ様……」
「『コンボイ』……?」
 うめくファングウルフの言葉に、スタースクリームは眉をひそめた。
 『コンボイ』の名を持つということは、スピーディアのニトロコンボイ同様、彼――フレイムコンボイがこのアニマトロスのリーダーということだろうか――?
 だが、そんなスタースクリームの疑問など気づくはずもなく、フレイムコンボイは彼らに尋ねた。
「何用だ? 他所者ども」
「プラネットフォースをいただきに来た」
 だが、その問いにマスターメガトロンはあっさりと答える。
 ためらいも遠慮もない、ストレートな要求――自分が手に入れるのが当然という、絶対的且つ独善的な、ある意味彼らしい思考によるものである。
「プラネットフォースを……?
 本気で言っているのなら、大した度胸だな」
 だが、そんなマスターメガトロンのプレッシャーを、フレイムコンボイは真っ向から受け止めた。どっしりとマスターメガトロンに対して身がまえ、
「どうしても欲しければ、力ずくで来いやぁっ!」
「よかろう」
 その言葉にマスターメガトロンも応じた。静かに腰を落とし、戦いに望むべくかまえる。
 そして――フレイムコンボイが動いた。
「フレイムコンボイ、トランス、フォーム!」
 咆哮すると同時、フレイムコンボイはトランスフォームした。
 だが――
「な、何だ、その姿は……!?」
 その姿に、マスターメガトロンは思わず驚愕の声をもらした。
 なぜなら、フレイムコンボイはマスターメガトロンの見たことのないトランスフォームを――“ドラゴン形態へのトランスフォーム”をしてみせたからだ。
 ロボット形態から動物形態へのトランスフォーム――少なくとも彼らセイバートロン星出身のトランスフォーマーにはこんなトランスフォームをする者はいない。
「フォースチップ、イグニッション!」
 だが、フレイムコンボイはかまわずフォースチップをイグニッション。これも今まで見たことのない、緑色のフォースチップをイグニッションすると、両肩にさらに2本の首がその姿を現す。
 続けて、
「ファングウルフ、トランスフォーム!」
「ダイノシャウト、トランスフォーム!」
 ファングウルフやダイノシャウトもトランスフォーム。それぞれ狼とスピノサウルスへと変形する。
「こんなトランスフォームは、見たことがない……!」
「見たことがない……?」
 マスターメガトロンと同様、戸惑いを隠しきれないスタースクリームの言葉を、フレイムコンボイは聞き逃さなかった。
「お前達……この星のトランスフォーマーじゃないな?
 どこから何のためにやって来たのか……話してもらおうじゃないか」
 いかにこちらに興味を示したからと言っても、あまりにもあっさりと警戒を解き、平然と尋ねるフレイムコンボイ――その言葉に、マスターメガトロンとスタースクリームは思わず顔を見合わせていた。

 一方、地球ではさっそく移民トランスフォーマー達によるチップスクェア探索が始まっていた。

「手がかりはアトランティスの紋様!」

「世界中の仲間達に伝えてくれ」

「ただし、デストロンには十分に気をつけること」

「ヤツらも、狙っているらしいからな」

 互いに連絡を取りながら、その探索網は拡大の一途をたどる。
 そんな中――
「それだったら知ってるよ!」
「本当?」
 答えるバイク型トランスフォーマー、アーシーの言葉に、仲間は思わず聞き返す。
「あぁ。
 ちょっとひとっ走りして、もう1回確認してくる!」
 そう答えると、アーシーは自分がアトランティスの紋様を見た場所へと移動を開始した。

 一方、同じくチップスクェアを探索していたはずのサンダークラッカーは――
「スタースクリームのバカがいなくて、羽伸ばせるぅ♪」
 思いっきりサボっていた。人目につかないよう 森の中の開けた空き地で寝そべり、のんびりと日向ぼっこを楽しんでいる。
「チップスクェア探しはラナバウトに任せて、オレはのんびり休ませてもらうとしようかね♪」
 そのラナバウトからは猛烈な抗議を受けそうだが、そんなことを気にする彼ではない。大きくアクビして――そんな彼の顔に、突然泥水がかけられた。
 すぐ近くの農道――サンダークラッカー同様人目を避けるためにその道を選んだアーシーが駆け抜けた際、その拍子に水溜りの泥水を跳ね飛ばしたのだ。
「ぅわっ!?
 ペッ、ペッ! 何だ!?」
 あわてて口に入った泥水を吐き出し、サンダークラッカーが身を起こすと、ちょうど走り去っていくアーシーが視界に入った。
「アイツか……
 どうも民間人のサイバトロンらしいが……人に泥水ブッかけて『ゴメンナサイ』もなしかよ!」
 うめいて、サンダークラッカーはジェット機へとトランスフォーム。アーシーを追い、
「オマケにスピード違反かよ!
 ちょいとお灸を据えてやる!」
 言うと同時、アーシーに向けてエネルギーミサイルを放つ!
「ぅわぁっ!」
 すぐ背後にミサイルが着弾、アーシーはバランスを崩しかけながらもなんとか踏みとどまるが、
「もういっちょ!」
 そんな彼に、サンダークラッカーはさらにミサイルを放つ!

 だがアーシーにとって幸運だったのは、その現場を目撃した者がいたことだった。

「兄者! あれを!」
「む………………?」
 ジェット機形態のシックスショットの言葉に、となりを並んで飛行していたシックスナイトは眼下を見下ろし――アーシーと彼を襲うサンダークラッカーの姿を発見した。
「すぐに助けねば!」
「まぁ待て、シックスショット」
 すぐに急降下しようとしたシックスショットを、シックスナイトは落ち着いた口調で制止した。
「見たところただの小競り合いのようだ。我らが出て行くほどのこともない。
 我々はあくまで『第3勢力』として行動しなければならない――すでに先日のサハラ砂漠でギャラクシーコンボイ達の味方をしてしまったからな。これ以上、表立って彼ら寄りの行動はとれない」
「しかし、あのままでは……」
「心配するな。何も見捨てろと言っているワケじゃない」
 反論しかけたシックスショットをなだめ、シックスナイトは告げた。
「直接出向かずに助ける方法をとれ、と言っているんだ。
 幸いにもサイバトロン基地にも近い。移民達のフリをして彼らに連絡を入れるのが最善だ。
 もちろん――間に合いそうにない時は助けるがな」

 彼からの連絡を受け、なのは達やギャラクシーコンボイはすぐさま出動、現場へと急行した。

「ぅわぁっ!」
 ついに至近弾を足元に受け、アーシーはその場に転倒してしまう。
「さぁて、これで終わりだ!
 オレ様に泥水ブッかけた罰だ。2、3日くらい――寝てやがれ!」
 言って、サンダークラッカーはアーシーへと照準を合わせ――
「させん!」
 アーシーの危機を救ったのはドレッドロックだった。体当たりでサンダークラッカーを弾き飛ばす!
「くそっ! やってくれたな!」
 うめいて、サンダークラッカーが着地すると、
『トランスフォーム!』
 叫んで、それぞれのパートナーを連れたギャラクシーコンボイ達がロボットモードへとトランスフォーム。サンダークラッカーを包囲する!
「そこまでだよ、サンダークラッカー!」
「弱い者イジメは、許さないんだから!」
 言って、フェイトとなのははそれぞれのデバイスをかまえ――
『フォースチップ、イグニッション!』
 むしろ他の面々の方が殺る気マンマンだった。一斉にフォースチップをイグニッションし、

『グラウンド、ショット!』
「ごめんなちゃ〜〜いっ!」

『アンカー、ショット!』
「もうしませぇんっ!」

『トルネード、カッター!』
「許してぇっ!」

『ドレッドキャノン、バーストアタック!』
「………………」(←声にならない)

「……あー、えーっと……」
「むしろ……こっちが弱い者イジメ?」
 次々に必殺技を叩き込まれ、まるでビーチボールのように宙を舞うサンダークラッカーの姿に、なのはとフェイトはなんだか気まずくなってそうつぶやく。
「さすがに……かわいそうになってきたんですけど……」
「うむ……このくらいにしてやろうか」
 なのはの言葉にギャラクシーコンボイはうなずき、
「ギャラクシーコンボイ、スーパーモード!」
 一気にケリをつけるべく、スーパーモードへとトランスフォームする。
 そして、なのは、フェイトと視線を交わし、
『フォースチップ、イグニッション!』
 3人同時にイグニッション。必殺技の体勢をとり、
「イグニッション、ブレイカー!」
「サンダーレイジ――ブレイクストーム!」
「ギャラクシーキャノン、フルバースト!」

 せめてもの温情で非殺傷モードに設定した3人の必殺技がサンダークラッカーを直撃し、
「原作より、多めに飛んでおりまぁぁぁぁぁぁすっ!」
 断末魔(?)と共に、サンダークラッカーは空の彼方へと消えていった。

「大丈夫?」
「うん。もう平気。
 むしろ治してもらう前より調子がいいよ!」
 アーシーのダメージはすずかと那美が手早く手当てしてくれた。尋ねるすずかの問いに、アーシーは元気にウィリーまでしながらそう答える。
 と――ロングラックが肩を落とし、ギャラクシーコンボイへと謝罪する。
「申し訳ありません、総司令官……
 引き受けて早々、こんなことに……」
「ロングラックが謝ることではない。気にするな」
「そうですよ。
 悪いのはサンダークラッカーさんなんですから」
 同意する那美の言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイは顔を上げ、
「では、我々も引き上げるとしよう」
 これ以上この場にとどまり、人目についてもマズい。一同に撤退を指示するギャラクシーコンボイだったが、
「ま、待って!」
 そんな彼らを、アーシーが呼び止めた。
「みんなが探してるアトランティスの紋様……見たことがあるんです!」

「グランドブラックホール?」
「そうだ。
 我らの故郷、セイバートロン星もその中に飲み込まれてしまった」
 こちらの話に眉をひそめ、聞き返すフレイムコンボイに、マスターメガトロンは悠々と答える。
「そして……この惑星もいずれは……」
「それを何とかするために、プラネットフォースが欲しい、か……」
 つぶやくと、フレイムコンボイは自分の背後にまつられた竜の神像へと視線を向けた。
 しばし考え――マスターメガトロンに向き直り、答える。
「譲る、譲らないは考える時間をもらうとして……本音を聞こうか」
「ん?」
「宇宙を救おうなんて、ホントは考えちゃいないんだろう?」
「何だと!?」
 フレイムコンボイの言葉に、スタースクリームが彼に食ってかかろうとする――が、それを手で制し、マスターメガトロンは答えた。
「そんなことはないさ。宇宙を救う意志はちゃんとある。
 ただし――」
 ニヤリと笑い、付け加えた。
「“オレのやり方”でな」

「問題の紋様というのは?」
「あれです」
 ギャラクシーコンボイから連絡を受け、駆けつけたベクタープライムの問いに、すずかは目の前の岩壁に刻まれたアトランティスの紋様のレリーフを指さした。
「本物……ですか?」
「今確認してみる」
 ユーノに答え、ベクタープライムは胸のスキャナでレリーフをスキャンしてみる。
 だが――
「……オリジナルではない、な……」
「そっか……ハズレか」
 ベクタープライムの言葉に志貴がつぶやくと、その言葉にアーシーは思わず頭を垂れて、
「ゴメン。早とちりしちゃって……」
「ううん、そんなことないよ。助かったんだから」
「そうそう。この調子でこれからもお願いね」
 謝罪するアーシーにすずかとアリサが答えると、
「その通りだ。
 オリジナルではなかったが、収穫はあった」
 そんな彼らにベクタープライムが告げた。
「このレリーフのデータから、第2の惑星の位置が特定できた」

 すでにマスターメガトロンも向かっている。時間はない――ギャラクシーコンボイはすぐにこの場でメンバーを選出し、第2の星に向かってもらうことにした。
 彼の目の前にはガードシェル、ジャックショット、ドレッドロック――派遣を志願した3名がそれぞれのパートナーと共に整列している。
 しかし、移民トランスフォーマーの監督任務があるロングラックはともかく、なぜかバックパックは志願せず――それを不思議に思い、アリサは尋ねた。
「バックパックは行きたくないの?」
「命令を受ければどこにだって行くさ。
 けど、志願までしておいて、外されたらショックだろう?」
 そんなことを話している間に、ギャラクシーコンボイは志願した3名を見回し、
「ジャックショットとアルクェイド。そしてガードシェル――キミ達に行ってもらおう」
 その言葉に、メンバーから外されたドレッドロックはロコツに肩を落とし――それを見てバックパックは『ほらね』と肩をすくめて見せる。
 だが、その裁定に納得のいかなかった人物がいた。
「おいおい、そりゃないだろ。
 あたしゃガードシェルのイグニッションパートナーなんだよ。なんでガードシェルが選ばれたのにあたしは外されるのさ?」
「そうは言っても、キミは地球で漫画の連載があるだろう」
 しかし、彼女の反論にもギャラクシーコンボイは毅然とした態度で答えた。
「キミの本来の仕事は漫画家だ。社会人として、自分の仕事をおろそかにしてはいけない」
「はいはい。わかりましたよ……
 せっかく締め切り地獄からしばしの別れ、と思ったのに……」
「だから外されたんですよ……」
 肩を落とし、あっさりと本音をぶちまける真雪に耕介が呆れてうめくと、
「あの……ギャラクシーコンボイ」
 ギャラクシーコンボイに向けて声をかけたのはフェイトだった。
「わたし達も……行っちゃダメかな?」
「キミも、か……?」
 思わず聞き返すギャラクシーコンボイに、フェイトはうなずき、
「向こうにはマスターメガトロンもいるんだし、戦力はひとりでも多い方が……」
「ほら、フェイトだってイグニッションできるし、前やってたジュエルシード探しのおかげで探索だって得意だし……」
 フェイトのやる気に気づき、アルフも横から援護するが、ギャラクシーコンボイが首を振った向きは――横向きだった。
「それは許可できない。
 マスターメガトロン達が向かっているからこそ、キミ達に危険が伴うことになる」
「けど、こっちはなのはががんばってくれるし、わたしだって……!」
 しかし、フェイトも食い下がる――両名共にデバイスへのイグニッションが可能だとはいえ、パートナーのいない、しかも海鳴以外の地理には正直明るくない自分は明らかになのはに比べサイバトロンに貢献していない――そんな想いがフェイトを駆り立てていた。
 もちろん、それはフェイトの思い込みなのだが、親友であるなのはのため、そして何より自分自身の『役に立ちたい』という想いのため――自分もみんなの力になりたいからこそ、彼女も意地になっていた。
 だがギャラクシーコンボイにしても、彼女のアニマトロス行きを認めるワケにはいかなかった。
「しかし、キミ達の安全を保証できない。
 キミにもしものことがあれば、なのは達に対しても申し訳が立たない」
「けど……」
「今回は辛抱するんだ、フェイト」
 なおも反論しようとしたフェイトを制したのはガードシェルだった。
「向こうの環境だって、今はまだ何もわかっていないんだ。
 言っちゃ何だが、キミ達は、その……我々ほど頑丈にはできていない。そもそも向こうで活動できる保証もないんだ」
「………………はい」
 もっとも根本的な問題――向こうの環境という前提条件を持ち出されてはどうしようもない。フェイトはしぶしぶうなずき――そんな彼らのやり取りを前に、アルクェイドはつぶやいた。
「それって、あたしがトランスフォーマー並みに頑丈ってこと?」
 答えたのはジャックショットだった。
「いや、頑丈だろ実際」

 ともかく、ベクタープライムはさっそく剣で空間を斬り裂き、ギャラクシーコンボイがマトリクスでその斬り口を広げてゲートを展開する。
「いくぞ、ジャックショット」
 言って、向こうでの相方となるジャックショットへと振り向き――ガードシェルは尋ねた。
「えっと……大丈夫か?」
「何の、これしき……!」
 アルクェイドの“空想具現化マーブル・ファンタズマ”をまともに食らい、出発前からすでにズタボロになっているジャックショットがそう答え――
「――――――っ!
 危ない!」
 それを察知したユーノが声を上げるが――間に合わなかった。突然飛来したエネルギーミサイルがガードシェルを吹っ飛ばす!
「敵――!?」
「ジャックショット、危ない!」
 さらに飛来したエネルギーミサイルの狙いはジャックショット――それに対してはフェイトとアルフが気づいた。ジャックショットの前に飛び出すとラウンドシールドでエネルギーミサイルを受け止める。
 だが、とっさのことで踏ん張りが足りなかった。衝撃で吹き飛ばされ、ジャックショットや彼のライドスペースに納まったアルクェイドと共に、ゲートの向こうへと叩き込まれてしまう!
「フェイトちゃん! アルフさん!」
 それを見てなのはが声を上げると、
「お前ら、さっきはよくもやってくれたな!」
 咆哮し、サンダークラッカーがその場に飛来した。
 今の攻撃は彼の手によるものだったのだ。
「てめぇら全員――泣かすぞオラぁっ!
 フォースチップ、イグニッション!」

 わめきつつ、ビークルモードのままでフォースチップをイグニッション。自身の怒りも多分に込め、展開されたサンダーヘルにエネルギーを集中させ、
「サンダーヘル、スーパー地獄スペシャル、DX!」
 放たれた閃光は今までのそれよりもはるかに強力だった。ギャラクシーコンボイとベクタープライムの間に着弾し、二人やその肩の上にいたなのは、ユーノを吹き飛ばす!
「す、すげぇじゃん、オレ!」
 この威力は放った本人にも予想外だった。一気に主力を薙ぎ払い、サンダークラッカーは思わず自らを褒め称える。
(このままギャラクシーコンボイやあの小生意気なガキをやっちゃえば……オレがスタースクリームの上官、なんてことも……♪)
「よっしゃあっ! やったるぜぇっ!」
 調子のいい妄想を交えつつ、サンダークラッカーはギャラクシーコンボイへと突っ込んでいき――
「ギャラクシー、キャノン!」
「え………………?」
 突然の声に疑問を抱く――が、その正体を確認する間もなく、サンダークラッカーは飛来したビーム、レーザーによって吹っ飛ばされる!
 放ったのは――
「ビンゴ!
 やるじゃん、バックパック!」
「そ、そりゃ、たまにはね……」
 肩の上でガッツポーズしてみせるアリサの言葉に、ギャラクシーキャノンを拝借しサンダークラッカーを撃ち落としたバックパックは少し照れてそう答える。
「くそっ、そんなのアリかよ!」
 うめいて、サンダークラッカーがその場に着地すると、
「アリですよ!」
 その目の前には、那美を連れたロングラックの姿があった。
「よくも総司令官達を!」
「少し、頭を冷やしてきてくださいっ!」
 サンダークラッカーに対して宣告し――二人は叫んだ。
『フォースチップ、イグニッション!』
 その言葉と同時、飛来した青色のフォースチップがロングラックの右腕のチップスロットに飛び込み、彼の右腕のショベルが大きく展開される。
「ロング、パワーアーム!」
 咆哮し、ロングラックはそのショベルアームでサンダークラッカーを捕まえ、
「空の彼方に――消えちゃってください!」
 那美の合図で、そのまま空高く投げ飛ばす!
「本日、2度目のフライトでございまぁぁぁぁぁすっ!」
 結局、いつものようにサンダークラッカーは空の彼方まで吹っ飛ばされ、星となったのだった。

「災難でしたね」
「う、うむ……すまない」
 ロボットモードに戻り、告げるロングラックに答え、ギャラクシーコンボイはなんとか身を起こし、なのはに尋ねる。
「キミ達は大丈夫か? なのは」
「は、はい……
 ユーノくんは?」
「ボクも大丈夫だけど……」
「うん……」
 ユーノの答えに、なのははゲートのあった場所へと視線を移し、
「フェイトちゃんやアルフさんは……」
「ジャックショットも一緒に飛ばされたみたいだし、連絡をとってみよう」
 不安げにつぶやくなのはを見かね、バックパックはそう言うと通信回線を開き、
「ジャックショット、ジャックショット。
 こちらバックパック、応答願います」

「こちらジャックショット!
 ギャラクシーコンボイ総司令官、応答願います!」
 一方、アニマトロスに飛ばされたジャックショットも、地球の仲間達との連絡を試みていた。
 が――
「……クソッ、ダメか……」
 通信がつながらない――思わず舌打ちすると、アルクェイドが声をかけてきた。
「とにかく移動しましょ。
 フェイトやアルフも探さないといけないし」
「そうだな」
 そう――そこにフェイトとアルフの姿はなかった。

「……なぜ、一思いにやってしまわないのですか?」
 結局、今日のところは一度引き上げることにした。神殿を立ち去るマスターメガトロンにスタースクリームが尋ねる。
 そして、その問いにマスターメガトロンはどこか楽しげに答えた。
「あやつ……只者ではないようだからな。
 もっとも、向こうもそう思っているだろうがな」
「……そうですか……」
 どうやら、新たに自分と対等に戦える相手が現れたことがうれしいらしい――マスターメガトロンの言葉に、戦いに嗜好を持たないスタースクリームはため息混じりにうなずき、
「それでは、私は地球へ。
 チップスクェアの探索もありますので」
「よかろう」

「くそっ、なんて道だ……!」
「エクシリオンなんか文句垂れ流しそうよねぇ……」
 アニマトロスの道は整備などされていない悪路ばかりだ。ジープにトランスフォームし、悪路には強いはずのジャックショットですら辟易し、アルクェイドと共に愚痴をこぼす。
 それに、先ほどから地面が不規則に揺れている。地震が頻発しているようだ。
「こんな場所、早いトコおさらばしてぇな」
 思わずジャックショットがつぶやくと、
「あぁっ!
 ジャックショット、アレ!」
 声を上げ、アルクェイドが指さした先では、今まさにスタースクリームがワープゲートをくぐり抜けたところだった。
「あれはスタースクリーム!?」
「まさか、また地球へ……!?」
 それを見て、ジャックショットとアルクェイドがうめいた、その時――
「ぅわぁっ!?」
 突然起きた大きな地震と共に大地が避け、ジャックショットがその裂け目に足を取られる!
「ジャックショット!」
「なんの!」
 声を上げるアルクェイドに答え、ロボットモードにトランスフォームしたジャックショットは地割れによってできたガケになんとかしがみつく。
 だが――災厄はそれだけではなかった。マグマが地の底から吹き上がり、二人の下へと迫り――!

「まったく、なんて電波状態なんだ。
 もらった通信機が何の役にも立たないじゃないか」
 バックパックと忍に作ってもらった携帯通信端末“サイバトロンPDA”をもってしても、地球どころか一緒に飛ばされたはずのジャックショット達とすら連絡が取れない――無事アニマトロスに降り立ったものの、アルフは焦りを隠しきれずにうめいた。
「どうする? フェイト」
「まずは二人を探そう。
 向こうだってわたし達の着地地点、わかってないと思うから、動かず救助を待つ、っていう手も使えないし」
 尋ねるアルフにフェイトが答え、二人はとりあえず振り向き――固まった。
 そこには、翼を備えた真っ白なネコ科の肉食獣――しかもすさまじく巨大なヤツが1体、じっと自分達を見下ろしている。
「な、何!?」
「トラか!? ライオンか!?」
 あわてて身を守るべく戦闘体勢をとるフェイトとアルフだったが――
「失敬な。
 こんな図体で翼もあるが、我輩のベースはれっきとした山猫だ。
 それにおぬし達を襲うつもりもない」
 肉食獣が口を開いた。フェイト達に敵対するつもりがないことを告げ、
「スカイリンクス、トランスフォーム!」
 叫んで、彼は――スカイリンクスはロボットモードへとトランスフォームしてみせる。
「と、トランスフォーマー……!?」
「ビーストモードからのトランスフォーム、だって……!?」
 マスターメガトロン達同様、見たことのないトランスフォーム・パターンにフェイトとアルフは思わず顔を見合わせる。
 だが、ここにマスターメガトロン達がいたなら、彼女達とは別の驚き方をしただろう。
 なぜなら、スカイリンクスのその容姿は、色やビーストモードの違いによる各部の差異こそあれ、その顔はあのフレイムコンボイとウリ二つだったのだから――

「……ダメですね。つながりません」
「そうか……」
 通信は一向につながらず、うめくバックパックにうなずくと、ギャラクシーコンボイはベクタープライムへと向き直り、
「ベクタープライム、もう一度ゲートを開けるか?」
「すまない……
 ゲートを開くには、もうしばし、“力”の回復を待たなければ……」
 その言葉に、フェイトの身を案じる一同は思わず視線を落とす。
「フェイトちゃん達、大丈夫かな……?」
「アルクェイドだっているんだ。大丈夫だよ、きっと」
 つぶやくなのはに志貴が答えた、その時――バックパックの無線がコール音を発した。
「ジャックショットから!?」
「いや、これは移民トランスフォーマーからだ」
 期待を込めて尋ねるアリサに答え、バックパックは通信に応答し、
「こちらバックパック。
 ……なんだ、ダイバーか。どうしたんだ?」
 どうやら知り合いらしい。バックパックは笑顔で応答するが――
〈ど、どうしよう……!?〉
 ダイバーの声は焦りに満ちていた。
〈み、見つけちゃったんですけど……〉
「見つけた……って、何を?」
 思わず聞き返すバックパックだが――すぐに気づいた。
 彼らが探していて、こちらに発見を報告してくるもの――ひとつしかないではないか。
 一同が思わず視線を交わす中、ダイバーはバックパックに答えた。
 そしてそれは、彼らの予想通りの回答だった。
〈アトランティスの、紋様です……!〉


 

(初版:2006/03/05)