「これが、新たに発見された、アトランティスの紋様です。
 深度300mの海底に眠っています」
 ともかく詳しい報告を受けるために基地に戻り、ダイバーから送られてきた映像をメインスクリーンに映し出しながらバックパックが報告する。
「またニセモノじゃないだろうな?」
「伝説じゃ、アトランティスは一夜にして海に沈んだ、っていうのが一般的なんだ。
 可能性は、あるんじゃないかな?」
「ですが、最近ではその伝説自体に否定的な説も出てきていますし……」
 ドレッドロックに答える形で耕介と秋葉が話していると、
「なのは様、大丈夫ですか?」
 翡翠が、元気のないなのはに声をかけた。
 理由は明白だ――アニマトロスに飛ばされてしまった面々、その中でもフェイトの身を案じているのだろう。
 そんななのはを見かね、アリサとすずかは顔を見合わせ、
「なのは……フェイトならきっと大丈夫よ」
「そうだよ。
 フェイトちゃん、強いもん。きっと守られるどころか、ジャックショット達を助けてくれるよ。
 ……まぁ、しばらくは家に帰れなくなっちゃうけど、それはリンディさんにフォローを頼めばいいんだし」
「……そう、だよね……」
 二人の励ましに、なのははようやく笑顔を見せた。
「フェイトちゃん、わたしの魔法の先輩だもんね。
 心配してちゃ、逆に失礼だよね」
 むろん、安心したワケではないだろう。だが、彼女も彼女なりに、フェイトの無事を信じようとしている――そう信じることにしたギャラクシーコンボイは、せめてこちらの事態を進展させようとバックパックに尋ねた。
「バックパック、遺跡の場所は?」
「大西洋フロリダ沖、バミューダ諸島の西、600kmの海底です」
 その答えに、地球出身のメンバーは思わず顔を見合わせた。
「ねぇ、バミューダって……」
「えぇ……
 魔の三角海域です……」
 忍の言葉に志貴がつぶやくと、それを聞きつけたドレッドロックが尋ねた。
「『マノサンカクカイイキ』?
 何だ? それは」
「えっと……『バミューダ・トライアングル』っていって、昔から魔の海域として恐れられているところなんです」
 愛の説明にうなずくと、那美がそれを引き継いで説明する。
「上空を飛んでいる飛行機が突然消えたり、船が突然行方不明になったり……」
「そ、そんな危険なところなのか……?」
「それもありますけど――それらの事故のほとんどが原因不明、っていうのが、魔の海域の所以でしょうか……」
 思わずうめくガードシェルに琥珀が答えると、
「そ、そんなことはないですよ」
 そう言い出したのはロングラックだった。
「この世に科学で解明できない謎などありはしないんです。
 地球人の科学力では解明できない、というだけで、我々が調査すれば……」
「――ロングラック」
 どこか必死さの見えるその言葉に、真雪はある確信を得た。ロングラックの言葉をさえぎり――告げた。
「怖いんだろ」
「こ、怖くなんかないですよ! 怖くなんか!」
「の割にはさっきから足がガクガク震えてるけど」
「怖くないったら怖くないんです!」
 真雪の言葉にロングラックがムキになって言い返す――そんな二人から視線を移し、ドレッドロックはギャラクシーコンボイに尋ねた。
「しかし、アトランティスかどうか、という以前に、いったい誰が何の目的でこんな海底に……?」
「世界各地に伝説やオーパーツが残っていることといい、まだ何か秘密がありそうですね」
 バックパックがつぶやくように答えると、なのははギャラクシーコンボイに告げた。
「行こう、ギャラクシーコンボイさん。
 フェイトちゃんが戻ってくる時のためにも、チップスクェアを見つけておかなくちゃ」
「うむ。
 では、全員で海底遺跡の調査に向かおう。
 総員、出動準備!」
 なのはの言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイは彼女と共に発進ゲートへと向かい――そんな二人を見送り、琥珀はとなりの耕介に声をかけた。
「……耕介さん」
「ん?」
「今、なのはちゃん……他3名の名前、挙げませんでしたね」
「………………」

 

 


 

第11話
「海底遺跡の攻防なの」

 


 

 

 ともかく、そんな経緯でギャラクシーコンボイ達は大西洋、バミューダ海域に向かうことにした。
 それぞれが地上ゲート、航空カタパルト、ロケット発射台から発進。前方に用意された転送魔法の魔法陣に飛び込み、アースラへと転送される。
 だが――その光景を監視している者がいた。
「動き出したか……」
 スタースクリームである。

「……う…………」
 意識を取り戻し、ジャックショットはメインカメラを起動――まず最初に視界に入ったのは、厚い雲で覆われたアニマトロスの空だった。
「ってて……」
 身体の痛みに耐えて身を起こすと、となりにアルクェイドが同様に寝かされているのに気づいた。
「おい、アルクェイド」
「う〜ん、あと5分〜……」
 どうやら心配はいらないらしい。むしろ完全に寝ぼけているアルクェイドを前に、ジャックショットはため息混じりに身を起こ――
「ぐ…………っ!」
 ――そうとしたが、全身に走った痛みに耐えかね、思わずヒザをつく。
 と――
「動かない方がいい」
 そんな彼に、突然声がかけられた。
「そちらのお嬢さんはともかく、お主は手ひどい傷を負っている」
 そう告げ、姿を現したのはサイ型のトランスフォーマーだった。
「お前は……!?」
 思わずジャックショットがうめくと、
「サイドス、トランスフォーム!」
 咆哮し、サイドスと名乗ったトランスフォーマーはロボットモードへとトランスフォームし、
人間ヒューマノイドを連れているということは、この星の者ではないだろうが……まずは自分達から名乗るのが、宇宙共通の礼儀ではないかな?」
「お、おう……
 ほら、起きろ、アルクェイド」
「あぅ〜〜、まだ眠いぃ……」
 サイドスに促されたジャックショットはアルクェイドを起こし、ようやく彼女は目を覚ました。まだ寝ぼけたままだがゆっくりと身を起こす。
「オレはジャックショット。セイバートロン星の生まれだ。
 で、こっちはアルクェイド。地球出身だ」
「はぁ〜い。アルクェイド・ブリュンスタッドでぇす……」
 まだ頭が覚醒していないらしい。アルクェイドはフラフラと揺れながらそう名乗る。
「セイバートロン星に、地球……?
 聞かん名だな……」
 だが、彼らの故郷はサイドスの認識の外だったようだ。そうつぶやくと、サイドスは改めて二人に名乗った。
「私はサイドス。
 そしてここはアニマトロス――辺境の惑星だ」
「アニマトロス……?」
 ようやく頭が起きてきたか、こめかみの辺りをコンコンと叩きながらアルクェイドがその名を復唱する。
 と――再び大地が揺れた。少し離れたところでジャングルが裂け、マグマが噴き出すのが見える。
「何だ、この星は……!?」
「この星は少々やんちゃが過ぎるようでな。時折あぁして、身をよじるように大地を動かす。
 キミ達はその裂け目にはまったのだ」
 うめくジャックショットにサイドスが答え――彼らはようやく、自分達が気を失う前どのような状況にあったのかを思い出した。
 そして――誰とはぐれてしまったのかも。
「しまった!
 フェイトとアルフ!」
「探しにいかねぇと!
 トランスフォーム!」
 アルクェイドに答え、ジャックショットはビークルモードへとトランスフォームし――それを見てサイドスは目を丸くした。
「その姿は一体……!?」
 セイバートロン星の者がビーストモードへのトランスフォームを知らなかったように、サイドス達アニマトロスのトランスフォーマー達にとってもビークルモードは初めて目にするもののようだ。サイドスは困惑もあらわにつぶやく。
 しかし、ジャックショットはかまわずエンジンをふかし――スタートできなかった。全身を再び痛みが襲い、思わずロボットモードに戻ってしまう。
「お主達は……一体何者なのだ……!?」
 そんなジャックショットを前にして、サイドスは思わず疑問の声を投げかけていた。

「ぅわぁ……すごかったね、今の噴火」
「あんなところにいたら危なかったね、わたし達……」
 ジャックショット達の見た噴火は彼女達も目の当たりにしていた――岩山の上でそれを眺め、アルフの言葉にフェイトが答えると、
「案ずるな。
 ここも絶対に安全とは言えぬが、ジャングルよりは岩盤が強い。噴火の可能性は低い」
 そんな二人を背の上に乗せ、ビーストモードのスカイリンクスは山を下りながら告げる。
「しかし、見れば見るほどとんでもない星だね、ここは……」
「我輩達トランスフォーマーにとっても過酷な星だからのぉ」
 つぶやくアルフに答え、スカイリンクスは目の前の岩を飛び越え、
「この星は昔からこうだ。
 星全体で地殻変動が繰り返され、平地が火山と化したり大地が海に没したりなどいつものこと。
 自然の猛威にさらされ、命を落とす者も少なくはないし、それでなくとも皆貧困にあえいでおる」
「大変なんですね……」
「それでも、昔に比べればマシになったのだがな」
 フェイトに答え、スカイリンクスは告げた。
「我が弟が、がんばっておるからな」

 その頃、王の神殿では、フレイムコンボイとマスターメガトロンが互いの実力を確かめるべく、闘いを始めようとしていた。
「いくぞぉっ!」
 咆哮し、ビーストモードのフレイムコンボイは正面からマスターメガトロンへと襲いかかる。
 対してマスターメガトロンは迎撃すべく拳を繰り出し――直前でフレイムコンボイは真上に跳躍する!
「何っ!?」
 とっさに頭上を見上げ――マスターメガトロンはその視界を奪われた。
 フレイムコンボイは太陽を背にするように跳び、逆光でマスターメガトロンの視界を奪ったのだ。
「もらったぁっ!」
 自らを見失ったマスターメガトロンにフレイムコンボイが襲いかかり――直前でマスターメガトロンが姿を消す!
「何ぃっ!?」
 必殺と思われた一撃をかわされ、着地したフレイムコンボイはマスターメガトロンの姿を探すが、そんな彼の死角からマスターメガトロンは拳を繰り出し――止めた。
 その眼前にはフレイムコンボイの尾が突きつけられている――直前で気づいたフレイムコンボイがカウンターを狙って放ったものだ。
「……なぜ止めた?」
「貴様こそ」
 尋ねるフレイムコンボイに答え、マスターメガトロンは拳を収める。
 まさに両者は実力伯仲。ほんの数合のやりとりで、どちらも様子見の段階だったようだが……もし全力でぶつかったとしても、その差はおそらくあるまい――そんな確信を見る者に抱かせる闘いだった。
 そして、フレイムコンボイはロボットモードに戻り、
「マスターメガトロン……なかなかのものよ。
 しかも、プライマスのスパークとやらを手に入れれば――まさに向かうところ敵なしだな」
「そうか?
 少なくとも貴様は手ごわそうだ」
「そう思うか?」
 言って、二人は笑みを交わし――そこへスタースクリームから通信が入った。
〈マスターメガトロン様〉
「どうした? スタースクリーム」
〈サイバトロンどもがチップスクェアの手がかりを見つけたようです〉
「わかった。そちらにいく」
 そして、通信を切るとマスターメガトロンは笑みを浮かべてフレイムコンボイに告げた。
「これも、宇宙を救うため、というヤツだ」
 だが――そんなマスターメガトロンの姿を、ファングウルフは複雑な表情で見つめていた。

「あのー、総司令官……?」
「どうした?」
 アースラの甲板の上で、声をかけるバックパックにギャラクシーコンボイが聞き返す。
「どうしても、いくんですか……?」
「当然だ」
 そしてあっさりと返答する。
 すでにアースラはバミューダ海域に到着し出発準備は完了。各自のライドスペースには、なのは達それぞれのパートナーが乗り込んでいる。
 あとは海底に潜り、問題の遺跡に向かうだけなのだが――バックパックは気乗りできないでいた。
 というのも――
「実は……海の中、というのは初めてなので……」
「セイバートロン星に、海はなかったからな」
 正直に告白するバックパックに相槌を打ったのはガードシェルだ。
 そう――バックパックはセイバートロン星ではずっと本部勤務で、他の惑星への遠征には一度も従軍していない。当然、海鳴にやって来るまでは海を訪れたこともなかった。海中探検などなおさら経験がない。
「もう少し、波の穏やかな日にした方が……」
 せめて、もう少し時間を置いて――そう提案するバックパックだが、
「何情けないコト言ってんのよ!」
 そんなバックパックに告げるのはアリサである。
「海が初めてだからって何ビビってんのよ!
 こんなのでっかい水溜り! 何を怖がるっていうの!?」
「あー、アリサ。
 忘れてるようだから言うけど……」
 そんなアリサに――バックパックは告げた。
「ここ、魔の海域だよ」
「………………
 そ、そんなのただのデタラメに決まってるわよ!」
「今の間は……?」
 などとボケとツッコミが交錯する二人だが――二の足を踏んでいるのは彼らだけではなかった。
「魔の海域……いくつもの船や飛行機が遭難……」
「ほ、ほら、必ず遭難するってワケじゃないんですから。だから大丈夫ですよ」
 ビークルモードのままガクガクと震えるロングラックを那美がなだめるが、
「本当に?」
「………………きっと」
「何で仮定形なんですかぁぁぁぁぁっ!?」

 聞き返したらポツリと小声で不吉な答えを返され、ロングラックは思わず絶叫する。
「……あぁ、もうっ!
 行くぞ! 総員、私に続け!」
 結局、ギャラクシーコンボイは彼らの相手をすることを放棄した――言うなり、ビークルモードのまま海に向けて飛び出す!
「よし、いくぞ!」
「えぇい、ままよ!」
「もう、どうにでもなれぇっ!」
 続けてガードシェルまで飛び出し――こうなっては行かないワケにはいかない。ロングラックとバックパックも飛び出し、海中へと飛び込んでいく。
 それを見送り――ドレッドロックに乗って上空を旋回していた志貴は相棒に尋ねた。
「……ドレッドロック」
「どうした? 志貴」
「ギャラクシーコンボイ達……泳げるのか?」
「『オヨゲル』……?
 何だ? それは」
「………………
 ……ちょっと待て!」

「そ、総司令官! バランスが取れませぇん!」
「ちょっと、あんまりバタつかないでよ! それこそどっち向くかわかんないじゃない!」
 ロボットモードにトランスフォームしたものの、海中でフラフラと漂い、あわてるバックパックにアリサが言うが、
「どこまでも沈んでいきますぅっ!」
「ろ、ロングラックさん! とにかくトランスフォームして!」
「わぁぁぁぁぁっ! ロングラック、久遠、那美ぃっ!」
 こっちもパニック寸前だった。ビークルモードのまま浮力も確保できず、自身の重量で沈んでいくロングラックを見て、那美やガードシェルが思わず声を上げる。
「ったく、どいつもこいつも……」
「仕方あるまい。我々はともかく、彼らは海など初めてなんだ」
 呆れてうめく真雪に、ガードシェルがため息まじりにそう答えると、
「落ち着け。
 体内のオイルの流れを調節して、バランスを取るんだ!」
 なんとか一同を落ち着かせようと、ギャラクシーコンボイがそう告げるが――
「わぁぁぁぁぁっ! 止めてくださぁぁぁぁぁいっ!」
「はわわわわっ! ロングラックさん、落ち着いてぇ〜〜っ!」
「目が、回る〜〜……」
 ロボットモードにトランスフォームし、脚部のバーニアで上昇しようとしたロングラックが、今度は変な方向に高速回転しながら浮上していった。

「まったく、先が思いやられますね……」
「えぇ、本当に」
 その光景をアースラのブリッジから眺め、リンディと秋葉が言うが、
「あー、二人とも」
 そんな二人に声をかけたのは耕介だ。
「そういうセリフは、肩を震わせながら言うべきじゃないと思うんですが」
 そう――二人は先ほどから、こみ上げてくる笑いをこらえるので必死の様子だ。
 やれやれ、と思わずため息をつき――耕介は気づいた。
「あれ……?
 エイミィちゃんは……?」

「大丈夫かしら……」
「さぁ、どうでしょうか……?」
 甲板から海面を眺め、つぶやく愛に翡翠が答えると、
「まったく、見てられないわね」
「ここは私達の出番ね!」
「その通り!」
 背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはエイミィと忍、そして琥珀が立っていた。
 ただし――水着姿で。
「水泳のノウハウがないっていうなら、ノウハウを与えればOK!」
「私達が手本を見せてあげる!」
「じっくり見ててくださいよ!」
 自信タップリに告げる3人だが――そんな3人にすずかが告げた。
「………………
 エイミィさんはともかく、お姉ちゃん達まで水着持参ってことは……最初から泳ぐつもりだったんだね?」
『………………』
 返事はない――だが、しばしの沈黙の後、3人は口々に告げた。
「だってぇ、“あの”バミューダ海域なのよ」
「来る機会だって稀なのに、その上しばらく停泊できるんだよ」
「泳がなきゃ、損じゃないですか♪」
「隠すことすらせずに本音ダダ漏れですか……」
 口々に言う忍達を前に、翡翠は思わずため息をついてつぶやいた。

 ともかく、そんなこんなで忍達による水泳のレクチャーが始まった。
「ほら、まずは平泳ぎ!」
 最初に手本を見せたのは忍だ。海面で実際に平泳ぎしてみせて、
「こ、こうか……?」
 ギャラクシーコンボイがそれを真似てみる。
 多少不恰好ではあるが、それなりにいけそうだ。
「じゃ、次はクロール!」
「えっほ、えっほ!」
 琥珀のクロールはロングラックがやってみる。
「背泳ぎ!」
「水中だと、さっきのクロールと変わらんな……」
 エイミィの背泳ぎにガードシェルが思わずつぶやき、
「バタフライ!」
「だんだんコツがつかめてきた!
 これは楽しい!」
 再び見本を見せる忍のバタフライを真似て、バックパックが楽しげに答える。
 ともあれ、これで水中での行動もなんとかなりそうだ。ギャラクシーコンボイは覚えたての泳ぎを楽しむ一同に告げた。
「よし、このくらいでいいだろう。
 アトランティス遺跡の調査に向かうぞ!」
『了解!』

「なるほど……それでお主達は、プラネットフォースを探してこの星に……」
 ジャックショットから一連の事情を聞き、サイドスはそうつぶやいて納得した。
「しかし……プラネットフォースが本当にプライマスのスパークから作られたものだとしたら、その力は計り知れないものだろう……
 危険なシロモノだな」
「え………………?」
 宇宙を救うために必要なプラネットフォースを『危険』と言う――サイドスのその言葉にアルクェイドは思わず首をかしげ――
「先生っ!
 サイドス先生っ!」
 そこへ、新たな声が乱入した――振り向くと、こちらにオオカミ型のトランスフォーマーが駆けてくる。
 ファングウルフである。
 だが、ファングウルフはサイドスのとなりのジャックショットに気づくなり立ち止まり、警戒もあらわに尋ねた。
「貴様……何者だ!?」
「心配いらん。私の客人だ」
 なだめるサイドスだが、ファングウルフは警戒を解かない。マスターメガトロンのことで、少々過敏になっているのだ。
「貴様も、あのマスターメガトロンとかいうヤツの仲間か!?」
「何っ!?」
「マスターメガトロンを知ってるの!?」
 思わず声を上げるジャックショットとアルクェイドだが、ファングウルフはかまわず告げる。
「『宇宙を救うためにプラネットフォースが必要だ』とか言っているが、オレは信用できないね!」
「あー、そりゃ信用できないわ。
 ギャラクシーコンボイならともかく、アイツが言うんじゃねぇ……」
 マスターメガトロンの人となりを知っているせいもあるが、ファングウルフの言葉には心の底から納得できた。アルクェイドは思わずうんうんとうなずいて納得する。
「アイツの目的は、プラネットフォースの力を手に入れることだけだ!
 宇宙を救うことなんて、これっぽっちも考えちゃいねぇ!」
「ハッハッハッ、そこまでじゃ」
 ムキになってファングウルフに告げたジャックショットを軽く制し、サイドスは笑いながらファングウルフを紹介した。
「紹介しよう。ワシの弟子のひとりで、ファングウルフと申す。
 独裁者フレイムコンボイの元で、少しでも民のために働こうとがんばっておる。
 先の態度もその責任感のあらわれ。許してやってくれ」
「失礼なことを言い、申し訳なかった」
「わかりゃいいけどよ……」
 謝罪するファングウルフに、ジャックショットは頭をかきながら答え、
「それで? マスターメガトロンはそのフレイムコンボイのところにいるのか?」
「あぁ。
 おそらくは、神殿に納められたプラネットフォースが狙いでしょう」
「やはり、か……」
 ファングウルフの言葉に、サイドスはため息をついた。
「新たな力は、新たな争いの元となるというのに……」
「し、しかし、宇宙を救うには必要な力だ!」
 反論するジャックショットだったが、その言葉にもサイドスは落ち着いた様子で答えた。
「力は使い方しだいで善にも悪にもなる――そのマスターメガトロンという者の力も、正しく使えば善となろう。
 フレイムコンボイもその力の使い方を誤ったひとりじゃ。この荒れ果てた星で、傷ついた民をさらに痛めつけて、一体何になるというのか……」
「気に入らなかったらやっつけちゃえばいいじゃない。
 相手が悪いんなら、遠慮なんかいらないでしょ」
「それでは争いになる」
「仕方ないさ!
 バカなヤツはどこにだっている!」
 アルクェイドに答えるサイドスにジャックショットが言うが、
「傷つくのは民だ。
 争いによって傷ついた民が、その元凶となった我らを支持すると思うのか?」
「そ、それは……」
 サイドスの的を得た反論に、ジャックショットは思わず言葉に詰まった。
「じゃあ、どうすればいいってのよ?
 相手はやりたい放題なのに、こっちは何もできないってことじゃない」
「ワシにも、それはわからん」
 アルクェイドにそう答え――サイドスは付け加えた。
「しかし、『わからない』ということを知っている。
 現状は、動くべき時ではないということだ」
「このアニマトロスに、真の協調をもたらすためなのだ。
 今は耐えるしかない」
 サイドス、そしてファングウルフの言葉に、ジャックショットとアルクェイドは顔を見合わせ、
「……何が言いたいのか、サッパリわからねぇ……」
「よね……」

 ギャラクシーコンボイ達が海底に向かい、ドレッドロックや恭也を乗せたベクタープライム、そして忍、すずか、琥珀を乗せたマイクロン達もその後に続いて海中に消えていくのを、タンクモードのシックスショットは最寄の海岸から望遠カメラで観察していた。
「どうやら、いけそうでござるな……
 では、拙者達も参りましょうか、師匠殿」
 どうやら彼らも海底遺跡に向かうつもりのようだ。シックスショットはゆっくりと発進し、ライドスペースにいるパートナーに告げるが、
「……シックスショット」
 そんなシックスショットに、彼女は静かに尋ねた。
「タンクモードのまま行こうとしてる――っていうことは、もしかしてシックスショットも……」
「恥ずかしながら、拙者も海は初めてで……」
 シックスショットがそう答えると、
「なら、今回は私の出番かな?」
 突然かけられた声にカメラをそちらに向けると、そこにはジェット機形態のシックスナイトが滞空していた。
「兄者……?」
「え? 兄さん……?」
「義理の、でござるがな」
 首をかしげるパートナーにシックスショットが答えると、
「シックスショットはここで待機していろ。アトランティスには海中での行動が可能な私が向かう。
 シックスナイト、トランスフォーム!」
 そうシックスショットに待機を命じると、シックスナイトは潜水艦形態へとトランスフォーム。海中へと飛び込んでいった。

「じゃあ、そのスカイリンクスの弟、っていうのが……この星のリーダーのフレイムコンボイなのかい?」
「その通り。
 この星のプラネットフォースは、フレイムコンボイの神殿に奉られている」
 移動の片手間にこの星の事情を説明してもらっていた中、聞き返すアルフの問いにスカイリンクスはうなずいてそう答える。
「とはいえ、譲ってもらうのは簡単なことではないぞ」
「どういうこと?」
 尋ねるフェイトに、スカイリンクスは空を見上げ、
「もう何度も説明したが、この星はトランスフォーマーにとっても過酷な星だ。
 故に生存競争も激しい。生きるために他を殺す――それがこの星の日常であり、すべてなのだ。
 だからこそ、この星では『力』が何よりも強いプライオリティを持つ。物事を進めるにはまず、自らの力を示さなければならない。
 いかに我輩がリーダーの兄と言えど、そこに例外は存在しない」
「力の弱い人達には、何の権利もない、っていうこと……?」
「というよりは……『権利を認めてはならない』、といったところだろうかの」
 フェイトに答え、スカイリンクスは息をつき、
「権利を得れば義務も発生する。
 強き力を持っていなければ、この星ではその義務を果たすこともままならぬ――強き者でなければ、民を守ることができぬのだ。
 故に、弱き者に義務を与えぬため、権利を与えるワケにはいかぬ、ということだ」
「え、えーっと……」
 スカイリンクスの言葉に、アルフはなんとかその言葉の意味を理解しようと頭を働かせるが、なかなか考えをまとめられず――かろうじて理解できた部分だけを確認することにした。
「つまり、プラネットフォースを譲ってもらうには、フレイムコンボイに自分達の力を示さないといけない、ってことだよね?」
「うむ。
 あやつの場合、それはおそらく闘いということになろう――遅かれ早かれ争いは避けられぬであろうし、楽には勝てぬぞ」
 そう答えると、スカイリンクスは唐突に足を止めた。
「……スカイリンクス?」
「二人とも、ここからは十分に気をつけよ」
 気になり、フェイトが声をかけると、スカイリンクスは答えた。
「ここからは、バンディットロン達の縄張りを通らねばならぬからの」
『バンディットロン?』
 顔を見合わせ、声をそろえる二人に、スカイリンクスは簡潔すぎる答えを返した。
「盗賊だ」

「さすがにここまで潜ると、視界はほとんど利かなくなりますね……」
「よし。各自ライトを点灯しろ」
 かなり深く潜り、光も届かなくなってきた――ドレッドロックの言葉にギャラクシーコンボイは一同に明かりをつけるよううながす。
 各自のライトの明かりを頼りに、さらに海底へと進むことしばし――ドレッドロックの視界を何かがよぎった。
「何だ!?」
「敵か!?」
 あわててドレッドロックが、そしてそのとなりにいたベクタープライムがライトを向けると、そこにいたのは――
「あれはクジラだよ。
 この地球で、一番大きな生き物なの」
「すごいな……」
 説明するなのはにギャラクシーコンボイがつぶやくと、クジラは鳴きながらその場を去っていく。
「素晴らしいな……
 地球はまさに、生き物の楽園だな」
 その後ろ姿を見送り、ガードシェルが感嘆の声を上げると、
「………………あれ?」
 ふと海底に視線を向けたすずかがそれに気づいた。
「ねぇ、みんな。
 海底の方向に、何か見えるよ」
 その言葉に、一同がさらに潜行すると、ついに目標の遺跡が目の前に見えてきた。
「巨大だな……
 この紋様だけで、我々と同じくらいの大きさがあるぞ」
 自分達の背丈ほどの大きさがある紋様を前に、ドレッドロックが思わずつぶやく。
 しかし、自分達の目的はこの紋様を見に来ただけではない――本格的な調査を行うべく、ギャラクシーコンボイは一同に指示を下した。
「ベクタープライム、計測してくれ。
 他の者はこの周囲の探索を。まだ何か見つかるかもしれない」
『了解!』

 そして、一同が散開、調査を開始してしばし――紋様の計測を行っていたベクタープライムの元に、忍を乗せたバンパーがやってきた。
「ベクタープライム、ちょっと来てくれない?」
「どうかしたのか?」
 忍の言葉に、ベクタープライムが彼女についていくと、そこには琥珀を乗せたブリット、すずかを乗せたホップが待っていた。
 見ると、岩壁に洞窟のような穴がある。
〈忍さん、何か見つけたの?〉
「入り口みたいなんだけど……」
 通信してくるなのはに忍が答えると、ベクタープライムはしばし洞窟の奥を観察し、
「……よし、入ってみよう」
 そう忍達に提案した、その時――突然海底の一角で衝撃が巻き起こった。
「どうした!?」
 思わず尋ねる恭也には志貴が答えた。
〈デストロンです!〉

「ご苦労、サイバトロンの諸君。
 おかげでチップスクェアを探す手間が省けた」
 スタースクリーム、サンダークラッカー、ラナバウトを従え、マスターメガトロンは堂々とした態度のままそう告げる。
「お前達に渡してたまるか!」
 言い返し、ドレッドロックが両手にかまえた銃、ドレッドガンを撃つ――が、ビームは海水によって乱反射してしまう!
「バカめ。水中でビームやレーザーが使えるものか!」
 言いながらスタースクリームがかまえ、サンダークラッカーとラナバウトも拳を握る。
 ビームが使えないのはどちらも同じ――向こうは完全に肉弾戦でくるつもりのようだ。
「ギャラクシーコンボイさん……!」
「やむを得ん。
 調査はベクタープライムに任せて、我々はここを死守するんだ!」
 なのはに答え、ギャラクシーコンボイはスーパーモードへとトランスフォーム。マスターメガトロンへと襲いかかる。
「ここは任せたぞ、みんな!」
 それを見て、ベクタープライムは忍達の安全を確保するためにも遺跡の内部に向かおうとするが、
「おっと、てめぇの相手はこのオレだ!」
 そんな彼らの前にサンダークラッカーが立ちふさがり――
「させるか!」
 ガードシェルが跳び(?)蹴りを一発。サンダークラッカーをブッ飛ばす!
「やっぱりこうなんのかぁっ!」
 わめきながら弾き飛ばされ、サンダークラッカーは思わず左手のビーム砲でガードシェルを狙うが――放たれたビームはやはり乱反射してしまう。
「あ、あれ? 何か変だぞ……?」
「ここが水中だということを忘れるなよ!
 ガードシェル!」
「トランスフォーム!」
 うめくサンダークラッカーに言い返した真雪の言葉に、ガードシェルはビークルモードとなり、
『フォースチップ、イグニッション!』
 後輪のチップスロットにフォースチップをイグニッション。2連に連なるタイヤの間から刃が飛び出し、
『トルネード、カッター!』
「いだだだだっ!」
 そのまま、後輪を高速回転させ、サンダークラッカーに叩きつける!

「む………………?」
 その様子は、潜水艦形態で海底を進むシックスナイトも気づいた。立て続けに巻き起こる衝撃に、戦闘が起きていることを知る。
「戦闘、か……?
 急ぐぞ!」
 相手がマスターメガトロンともなれば、ギャラクシーコンボイ達の苦戦は必至だ。速度を上げようとするシックスナイトだが――
「待って!」
 そう彼を制止したのは、彼の体内のライドスペースからの声――パートナーによるものだった。
「どうした?」
「……何かいる」
 尋ねるシックスナイトにパートナーが答えた、その時――
「チョッキンなぁっ!」
 それは突然だった――海底の岩陰から飛び出してきた何かが、シックスナイトにしがみつく!
「な、何だと!?」
 おどろき――シックスナイトは気づいた。
 襲撃者は巨大なカニだ。しかし、その身体は金属の甲羅で覆われ、しかも今、明らかに掛け声を上げていた。ということは――
「ビーストタイプのトランスフォーマーだと!?
 バカな、なぜアニマトロスにしかいないはずのビーストタイプが!?」
「おどれが知る必要はないんじゃ、ボケ!」
 うめくシックスナイトに、襲撃者はあっさりとそう答えた。
「ワシはこうしてここにいる! そして――これからおどれを、ブッ潰したるんじゃからのぉ!」
「させるか!
 シックスナイト、トランスフォーム!」
 襲撃者に言い返すと、シックスナイトはロボットモードへとトランスフォーム。襲撃者を振りほどく。
「何者だ、名を名乗れ!」
「心配せんでも、今すぐ正体見せたるわいっ!
 ランページ、トランスフォームじゃあっ!」
 シックスナイトに言い返し、ランページと名乗ったそのトランスフォーマーはロボットモードへとトランスフォームし、
「ミサイル、バーンじゃい!」
 手にしたミサイルランチャーを連射。放たれた魚雷がシックスナイトに襲いかかる!
 しかし――
『フォースチップ、イグニッション!』
 シックスナイトとパートナーの咆哮が交錯。フォースチップをイグニッションし――射出されたナイトキャリヴァーで魚雷を斬り落とす。
「貴様……デストロンか!?」
「ンなワケあるかい!
 じゃが――ありえないとも言い切れんのぉ!」
 シックスナイトにそう答え――ランページはさらに魚雷を撃ちまくる!

 一方、ベクタープライムは忍達を乗せたマイクロン達と共に、洞窟の奥へと急いでいた。
 だが――奥は行き止まりになっていた。無情にも岩壁が彼らの行く手をふさいでいる。
「ちょっと、ここまで来て行き止まり?」
「ま、待って!」
 口を尖らせる忍だったが、すずかは岩壁の中央にあるものを見つけた。
 岩壁に、明らかに何者かの手によって刻まれたそれは――
「これ……文字、だよね……?」
「何……?」
 すずかのつぶやきに、ベクタープライムはその文字らしきものを見て――顔色を変えた。
「これは……古代トランスフォーマー文字!?」
「何だって!?」
 思わず恭也が声を上げると、ベクタープライムは問題の文字へと手をかざし――突然、目の前の岩壁が音を立てて左右に開き始めた。
 そして現れたのは――整備された回廊だった。
「これ……ただの遺跡じゃないですよ」
「うむ……」
 つぶやく琥珀にベクタープライムがうなずくと、
「ベクタープライム様、奥にも扉が……」
 ホップが行く手の扉を指さして告げ、ベクタープライムは先ほどと同様に扉の中央に手をかざす。
 だが――動いたのは目の前の扉ではなかった。彼らの入ってきた扉が閉まり、一同はその場に閉じ込められる。
「ワナ!?」
「いや、違う……」
 思わず声を上げる忍に恭也が答えると、突然部屋のスミへと海水が吸い込まれ始めた。
「排水してるの……?」
 その目的に気づき、すずかがつぶやき――すぐに海水は床の下へと消えていき、ようやく目の前の扉が開いた。
「どうやらここは、宇宙船で言うところのエアロックみたいなところだったのね……」
 もう、この遺跡がトランスフォーマーの技術で作られていることは明白だ。海水がなくなったことでバンパーから降りた忍がそうつぶやくと、
「奥に行ってみよう。
 みんな、私から離れないように」
 恭也を降ろしたベクタープライムが告げ、彼らは遺跡の奥へと進んでいく。
 そのまましばし進むと、やがて彼らは指令室を思わせる部屋にたどり着いた。
 トランスフォーマーのサイズに合わせてあるのか、その指令室は恭也達に比べてかなりスケールの大きなものとなっている。
「制御室のようですね」
「うむ。
 行け、ルーツ」
 琥珀の言葉にうなずくと、ベクタープライムはルーツを射出。ルーツはコンソールのひとつに降り立つと、しばし辺りを見回し――目的のものを見つけたようだ。あるボタンへと駆け寄ると、それを両手でしっかりと押し込む。
 と――変化が起きた。室内のあちこちで装置が起動し、正面のメインモニターにメインシステムの起動を示す画面が表示される。
 その起動画面に目を通し――ベクタープライムはうなずいた。
「そうか……そういうことか……
 これですべての謎が解けた!」
「どういうこと?」
 尋ねるすずかに、ベクタープライムは逆に尋ねた。
「この遺跡がトランスフォーマーゆかりの地であることは、もう気づいているだろう?」
「はい……」
「だが……これは“遺跡”ではない」
「じゃあ、何なんですか?」
 聞き返す琥珀だが――それに答えたベクタープライムの言葉は、彼女の予想を超えるものだった。
「これは……“船”だ」
『船ぇ!?』
「そう。
 この船は――古代トランスフォーマー達の、スターシップだったのだ」
「こ、これが、宇宙船だっていうの……?」
 施設どころではなく宇宙船――驚く忍だが、それならばすべての不自然な点に説明がつく。
 世界各地にアトランティスの伝説があるのも、これが各地に直接出向いていたのならあり得る話だし、その際に地球人と交流があったとすれば、彼らとすごした人間達がアトランティスがらみのオーパーツを残していても不思議ではない。
 そうして各地を移動したスターシップ・アトランティスは、やがて何らかの理由でこの海底に没したのだろう。
 システムが今も稼動していることを考えると――おそらく人為的に。
 明らかになったアトランティス伝説の真相に、恭也達は思わず顔を見合わせ――突然、彼らの元を振動が襲った。
「何だ!?」
 ベクタープライムがうめくと、自動で作動したモニターが外の様子を映し出し――
「ギャラクシーコンボイ! なのは!」
 マスターメガトロンに追い詰められたギャラクシーコンボイの姿を前に、恭也は思わず声を上げた。

「くらえっ!」
 咆哮し、スタースクリームが体当たりでドレッドロックを弾き飛ばし、
「せー」
「のっ!」
 サンダークラッカーとラナバウトが、二人がかりでガードシェルを蹴り飛ばす。
「貴様達はおとなしくしていろ。
 チップスクェアはいただいていく」
「そうは、させない……!」
 マスターメガトロンの言葉に、立ち上がろうとするギャラクシーコンボイだが、ダメージが大きく思うように動けない。
「ごめんなさい。わたしが外で戦えれば……!」
「なのはのせいではない。気にするな……!」
 ライドスペースの中でどうすることもできないでいるなのはにギャラクシーコンボイが答えるが、そうしている間にもマスターメガトロンは悠々と遺跡へと歩を進める。
 だが、その時――突如、海底が鳴動を始めた。

「な、何をしたの――!?」
 その変化は、ベクタープライムがコンソールを操作するなり始まった――突然の揺れにふらつきながら忍が尋ねると、ベクタープライムは操作を続けながら答えた。
「何かにつかまるんだ!
 スターシップを、起動する!」

「な、何事だ……!?」
「何じゃい、これは!?」
 その変化は、少し離れたところで戦うシックスナイトとランページの元にも及んでいた。突如鳴動を始め、裂け始めた海底を前に、二人は驚いて声を上げる。
 そして――遺跡の方角に変化が現れた。
 海底がゆっくりと隆起していく――いや、隆起ではない。
 浮上していた。
「あれが、アトランティスなんか……?」
 その光景に戦いも忘れ、ランページがつぶやくと――
「スキあり!」
 そんな彼を、シックスナイトは背後から狙撃し、吹き飛ばす!
「シックスナイト……」
「私は隠密騎士――“騎士”である以前に“隠密”だ」
 うめくパートナーにあっさりとそう答え――シックスナイトは表情を引き締めた。
「それに、こうなってしまってはヤツの相手をしている場合ではない。卑怯だ何だと言わず、早々に片付けるのが最良だ」
 そう――このままアトランティスの浮上を許せば、これ以上目立つものはない。そうなれば、彼やシックスショットが最も恐れている事態――『地球人にトランスフォーマーの存在を知られること』が現実となってしまう。
「これは、早急に手を打たねばならん」
 そう言うと、シックスナイトは通信回線を開いた。
「シックスショット、聞こえるか!?」

「大丈夫? バックパックさん、アリサちゃん」
「な、なんとか……」
「ひどい目にあったわよ……
 ったく、こっちがフォースチップを使えないからっていい気になって……!」
 ギャラクシーコンボイがバックパックを助け起こし、尋ねるなのはにバックパックとアリサはうめきながら身を起こす。
 と、そこへ、ガードシェルやロングラックが戻ってきた。
「そ、総司令官、大変です!」
「ベクタープライムさんや、恭也さん達が、まだ中に……!」
「わかっているが……どうしようもない」
 ロングラックと那美の言葉に、ギャラクシーコンボイはうめくようにそう答え、
「とにかく、アトランティスが浮上する前に、海上に先回りするぞ!」
『了解!』

「え? 何?」
 突然入った通信に、まだ水着姿のままオペレータ席についていたエイミィは思わず声を上げた。
「どうしたの?」
「そ、それが……
 とにかく、通信回線、つなぎます!」
 リンディの言葉にも正直対応に困り、エイミィは通信をつなぎ――音声だけの通信が彼らに告げた。
〈こちらシックスショット!
 緊急事態につき、そちらからの対応を頼みたいでござる!〉
 その言葉に、リンディは思わずエイミィと視線を交わし――応答することにした。
「こちら、時空管理局所属の時空間航行艦“アースラ”艦長、リンディ・ハラオウンです。
 シックスショットさん……でいいかしら。あなたは、いったい何者なの?」
〈今は悠長に自己紹介をしている場合ではござらん!〉
 リンディの問いに、シックスショットは切羽詰った様子でそう言い返す。
〈現在、アトランティスがそちらに向けて急速に浮上しているでござる!
 このままでは、人間達に知られてしまう! 早急に封時結界の展開を!〉
「何ですって!?」
 シックスショットの言葉に、リンディは思わず腰を浮かせた。
 もし、シックスショットの言葉が真実なら――確かに自己紹介などしている場合ではない。
「わかりました。
 そちらに対する対応は、アースラの方で行います」
〈頼むでござる!〉

 そして、封時結界でバミューダ海域が覆われる中、ギャラクシーコンボイ達が浮上してきた。そのまま、すでに離水していたアースラの甲板の上に飛び乗る。
 と、その後を追うように海面が盛り上がり――弾けた。
 アトランティスが浮上してきたのだ。
「あれが、アトランティス……!?」
「まるで宇宙戦艦じゃないか……!」
 その威容を前に、ガードシェルと真雪がうめき――そんな彼らを、ビームの雨が襲った。
 一足先に浮上していたマスターメガトロン達による攻撃だ。
 ラナバウトの姿はない。どうやら海底に置き去りにされたようだ。
「そこまでだ、ギャラクシーコンボイ。
 アトランティスはいただいていく」
「何だと!?」
「満身創痍の貴様らに、一体何ができる?」
 うめくギャラクシーコンボイにマスターメガトロンが言い放ち――
「わたしは、満身創痍じゃないもんっ!」
「――――――っ!」
 その声にマスターメガトロンが上空を見上げ――そこにはなのはがレイジングハートをかまえて仁王立ちしていた。
 ユーノの使った“トランスポート”の魔法で転移していたのだ。
 とっさに対応しようとするマスターメガトロン達だが――間に合わない。なのははレイジングハートを振りかざし、
「フォースチップ、イグニッション!」
 その言葉と同時――天空より黄色のフォースチップが飛来、レイジングハートのコアにまるで溶け込むように飛び込み、
〈Force-tip, Ignition!〉
 レイジングハートが告げると同時、その先端を起点とし、なのはの周囲で魔力の光が渦を巻く。
 そして、マスターメガトロン達へと狙いを定めるとなのははレイジングハートをかざし、
「イグニッション――ブレイカー!」
 咆哮すると同時に“力”を開放。放たれた閃光がマスターメガトロン達を直撃、吹き飛ばす!
「ぐわぁっ!」
 これには、さすがのマスターメガトロンも海面スレスレまで叩き落され――その時だった。突然、アトランティスが光を放ち、その周囲の空間が歪み始める!

「貴様らに、アトランティスは渡さん!」
 原因はベクタープライムだった。彼の操作によって、アトランティスは超空間航行の準備を始めたのだ。
 すなわち――ワープの準備を。
 そして、驚愕する一同の前で、アトランティスはさらに空間を歪め――その中に消えていった。
「あ、アトランティスが……」
「ワープ、しました……」
 呆然としたまま、ロングラックとバックパックが報告すると、
「急いで探し出せ!
 サイバトロンに先を越されるんじゃない!」
 言うと同時、マスターメガトロンはジェット機へとトランスフォーム。スタースクリーム、サンダークラッカーと共に飛び去っていった。
「大丈夫ですか? ギャラクシーコンボイ」
「私は大丈夫だ」
 もう危険はないと判断したのか、甲板に姿を現して尋ねるリンディにそう答えると、ギャラクシーコンボイは空を見上げ、
「しかし……アトランティスは、一体どこへ……?」

 その様子を、岩陰から静かに観察する者達がいた。
 シックスショットでも、シックスナイトでも――海底でシックスナイトを襲ったランページでもない。まったく別の、見たことのない漆黒のトランスフォーマーである。
「さて、どうなることやら……」
 ポツリとそうつぶやくが――ここにいてももう何も得るものはないと考えたのか、彼は静かに立ち上がり、
「トランスフォーム!」
 ジェット機形態にトランスフォームし、飛び去っていった。


 

(初版:2006/03/12)