「では、あの遺跡はスターシップだったと言うのか?」
「おそらく、間違いないでしょう」
仮説を聞かされ、聞き返すギャラクシーコンボイにバックパックが答える。
現在彼らはアースラでバミューダ海域を後にし、手分けしてアトランティスの行方を追っている――ギャラクシーコンボイとなのは&ユーノ、そしてバックパックとアリサは共に日本国内の捜索を行っていた。
ドレッドロック・志貴組やロングラック・那美・久遠組、ガードシェル・真雪組もそれぞれに世界各地を捜索。さらに移民トランスフォーマー達も探索に協力してくれており、アースラはその指揮系統の統括を担当している。
「材質、ワープ時のエネルギーパターンからして、おそらくベクタープライムと同じ、古代のトランスフォーマーのものかと……」
〈それで、そのスターシップはどこに行ったんだ?〉
「わかりません……
惑星間レーダーも使って探索していますが、何処にも反応がないんです」
バックパックがドレッドロックに答えると、今度はユーノが尋ねた。
「ベクタープライムや恭也さん達からの連絡は?」
「それも、まだ……」
〈おいおい、しっかりしろよ、バックパック〉
答えるバックパックに告げるのは、ロシア北部に派遣されたガードシェルだった。
「あのバカデカいスターシップが、まるで煙みたいに消えたとでも言うのか?」
〈わかりませんよ。
だから困っているんです〉
雪原を走るガードシェルのライドスペースで、暖を取りながら告げる真雪に、バックパックはムッとしてそう答える。
と――行く手に合流しようとしていたロングラック達の姿が見えた。
だが、目の前には深く口を開けたクレバス――仕方なくガードシェルはロボットモードにトランスフォームするとそれをヒョイと跳び越え、
「ロングラック、那美、久遠。そっちはどうだ?」
「ダメですね……」
「ヨーロッパ北部は、移民トランスフォーマーさん達がしらみつぶしにあたってくれていますけど、未だに反応は……」
「どこにも、いない……」
尋ねるガードシェルに、ロングラック達は口々に答える。
「そうか……
総司令官。こちらは収穫なしです。
ロングラックと共に、一度そちらに合流しようと思うのですが……」
〈わかった。
カムチャッカ半島にフェリーをスキャンした者を向かわせるよう、リンディ提督に手配してもらう。
合流地点は若狭にしよう〉
「了解!」
第12話
「大混戦!
チップスクェア争奪戦なの」
ギャラクシーコンボイ達と連絡を取り、移動を開始したガードシェルとロングラック――だが、彼らは気づかなかった。
今さっきガードシェルが跳び越えたクレバスの底に、ビーストモードのランページの姿があったことに。
「まったく……アトランティスはどこに消えたんじゃい。
ワープするなら、行き先くらい教えてけばえぇのに……」
ムチャクチャなことをボヤきつつ、ランページはクレバスの間を進んでいき――突然通信が入った。
〈そっちはどうだ? ランページ〉
「おぉ、ノイズメイズか。
さっぱりじゃ。貴様の方は?」
〈こっちもだ〉
「まったく、貴様もあそこにいたんじゃろう? だったら一緒にワープに巻き込まれてくれれば手間も省けたんじゃが……」
「物騒なことをサラリとぬかすな」
ランページの言葉に、ノイズメイズと呼ばれた通信の相手はうめくように答えた。
アトランティスのワープを見送った場にいた、謎のトランスフォーマーである。
「とにかくお前は地上の探索を続けてろ。
オレはデストロンに張りつく。あのスタースクリームとかいうヤツなら、何か気づくだろ」
〈了解じゃ〉
ランページが回線を切るのを確認し――ノイズメイズは物陰からマスターメガトロン達の様子をうかがった。
「何? スターシップは太陽系の中にあるというのか?」
「おそらく」
聞き返すマスターメガトロンに、スタースクリームは迷わずうなずいた。
「システム起動からワープまでの時間、そしてワープ後に残された残量ワープ質量――古代トランスフォーマーの科学力を考慮に入れたとしても、ロクにエネルギーチャージもしないままエスケープワープを行ったのは明白。
となれば、太陽系の脱出はまず不可能――地球圏、あるいは限りなく近辺に探索範囲を絞り、マップを使って探し出すのが最良かと」
「ふむ……なるほどな」
スタースクリームの推論に、マスターメガトロンは納得しつつマップを取り出し、データを入力して探索を始める。
やがて――マップに新たな光点が現れた。
「地球上のほぼ全域をレーダースキャンしましたが、アトランティスはどこにも……」
〈極点にマリアナ海溝、その他もろもろの秘境――
各地を探索している移民トランスフォーマー達からも、発見の報告はないわね……〉
ギャラクシーコンボイ達と合流し、報告するガードシェルに付け加える形で、リンディもアースラ側の探索状況をそう伝える。
「アンチレーダーシステムや妨害電波でもごまかしは効きますし……」
「やはり、我々の目で直接探さなければならない、ということですか……」
「けど、それをやる時間もないだろう」
今後のことを話し合うバックパックとロングラックにドレッドロックが言うのを聞きながら、なのははリンディに尋ねた。
「リンディさん。
移民トランスフォーマーのみなさんは、どのくらいの範囲を調べてくれてるんですか?」
〈ほぼ地球全域よ。
中には気象衛星の観測データも使って調べてくれた人もいたけど……〉
「そっか……」
見落としたエリアがあるのでは――そう考えていたものの、リンディからそれを否定する答えを返され、なのはは思わず肩を落とす。
と――
(あれ………………?)
ユーノはふとある違和感に気づいた。
今までもたらされた探索の成果報告――その内容に、どこか腑に落ちないものを感じる。
自分達は何か、根本的なところでカン違いを犯している――そんな気がしてならない。
だが、その違和感の正体がわからない。ため息をついて夜空を見上げ――
「せめて、ベクタープライムが連絡してきてくれれば……」
「なんで連絡してこないのかしらね、ベクタープライムは」
(――――――っ!)
志貴とアリサの会話――そして見上げた先で視界に入ったものを見た瞬間、ユーノはある可能性に気づいた。
(もしかしたら――!)
「ち、ちょっと待って!」
あわてて話し合いを続ける一同に声をかけ、ユーノはバックパックに尋ねた。
「バックパック――あの状況から考えて、スターシップをワープさせたのはベクタープライムだと思っていいんだよね?」
「え?
そりゃ、まぁ……あのメンツでスターシップの操作ができそうなのはベクタープライムくらいだし……」
その答えに、ユーノの頭の中で推理のパズルが着々と組み上がっていく。
「だとすると、あのワープは浮上してしまったアトランティスを隠すため――というよりは、マスターメガトロン達からチップスクェアを守るため……
そうなると、マスターメガトロン達の追及の及ばないところ――そういう場所をワープ先に選んだと思っていい。
だとすれば、連絡がつかないのもわかる。いくらマスターメガトロン達から姿を隠しても、ヘタに連絡を取ってそれが傍受されたら意味がない――『連絡しない』んじゃなくて、『連絡できない』んだ」
「あ、そっか……」
アリサがつぶやく間にも、ユーノの推理は進む。
「さっきのリンディさんの話だと、移民トランスフォーマーの中には気象衛星のデータを使った人もいるらしい。
けど、彼らにできるってことは、当然デストロンにもそれができる――そういう意味ではアイツらに探せる場所はボクらとほぼ同一なんだから、ボクらが探せるような場所にはまずワープさせられない……
つまり、衛星でほぼ全域をカバーできる地球上は、まずワープ先の選択対象から外れる」
「じゃあ、どこにワープしたっていうんだ?
地球上以外で、アトランティスがワープできそうな場所なんて……」
〈他の次元世界、っていう手もないコトはないだろうけど、あの時点での緊急ワープじゃ、次元世界を越えてワープできたとも思えないし……〉
ユーノの言葉に真雪とエイミィが言うが、
〈……そういうことですか〉
何かに気づいたようだ。うなずくリンディにうなずき返すと、ユーノは告げた。
「『距離の限られたワープエリア』。
しかも、『レーダー網の監視をくぐり抜けられる場所』。
そして――『この次元世界で、地球上以外の場所』。
この3つの条件から考えられる、ワープアウトの場所は――」
言いながら夜空を見上げたユーノの視線の先をなのはも追って――気づいた。
「そうか……
アトランティスは――」
二人は同時に声を上げた。
『月の裏側だ!』
そのユーノの推理は的中していた。
地球からは決して直接見ることのできない場所――月の裏側に、アトランティスはその身を潜めていた。
「こ、ここは……!?」
すぐには現状を把握できず、恭也は思わずうめいた。
「外に見えるのは……宇宙……?」
「暗くてよくわからないけど、あれって……月だよね……?」
同じく事態を呑み込めず、モニターに映る外の様子を見て琥珀とすずかがつぶやくと、
「その通りです」
そんな彼らに告げたのはホップだった。
「ここは月の裏側。月面からおよそ100kmの上空です」
「どういうこと? ベクタープライム」
「ワープさせたのだ。このアトランティスをな」
尋ねる忍に答え、ベクタープライムは室内を見回し、
「やはり、地球にチップスクェアはあったのだ――このスターシップが、その何よりの証拠だ」
だが――その時、突然警報が鳴り響いた。
「接敵警報……!?
ワープしたばかりだというのに……!」
思った以上に相手の動きが速い――うめき、ベクタープライムは外部モニターで状況を確認する。
やはり、迫ってきているのはマスターメガトロン達だ。今回はサンガークラッカーに運んでもらう形でラナバウトもその姿を見せている。
「で、デストロン!」
「どうするんですか、ベクタープライム様!」
思わず忍と琥珀が声を上げると、ベクタープライムは「仕方ない……」とつぶやきながらコンソールに向かい、
「ヤツらを、迎撃する」
言うと同時――警報が止み、代わりに自分達の知らない言語でメッセージが告げられ始めた。
「何て言ってるの? これ……」
「古代トランスフォーマーの言語だ。
ホップ、翻訳を」
「わかりました」
すずかに答えるベクタープライムの言葉に、ホップはメッセージを翻訳し、恭也達に伝えた。
「『全クルーへ。警報レベル2。
本艦はこれより、“アサルトモード”への移行を開始する。
全クルーへ。警報レベル2。
“アサルトモード”への移行まであと8、7、6、5、……』」
そのまま、ホップはカウントダウンを続け――そのカウントが0となった瞬間、アトランティスが鳴動を始めた。
各部のユニットが展開され、その内側から次々に砲塔が顔を出す。
同時に、艦そのものが向きを変え、接近するマスターメガトロン達へと向き直る。
すべての迎撃準備が整い、アトランティスは“アサルトモード”への移行を完了した。
「す、すごい……」
「艦の上方なんて、一面武装の塊じゃない……!」
戦闘体勢の整ったアトランティスの外観をモニターで目の当たりにし、恭也と忍がつぶやくと、
「“アサルトモード”へと移行、さらに自動迎撃プログラムを起動させた。
時間稼ぎにはなるだろう」
「時間、稼ぎ……?」
ベクタープライムの言葉にすずかが首をかしげると、そんな彼女にベクタープライムは告げた。
「今のうちに、この船にあるチップスクェアを手に入れる」
「変形した……!?」
一面に砲塔を展開し、こちらに向けるアトランティスの姿に、スタースクリームは思わず声を上げる。
「へっ、それがどうした!」
「ま、待て、サンダークラッカー!」
かまわず突っ込むサンダークラッカーに、その背の上でラナバウトが声を上げるが――遅かった。アトランティスの対空砲火を集中的にくらい、あっという間に二人そろって脱落してしまう。
「ちっ、だからラナバウトは待てと言ったのだ……」
うめくスタースクリームだが――だからと言ってこのまま見ているだけ、というワケにもいかない。ビークルモードのままアトランティスを強襲。確実に砲塔をツブすべく攻撃を開始する。
だが――もっとおかまいなしに突っ込んでいく者がいた。
マスターメガトロンである。
「フンッ、こんな迎撃システムがあったとはな……
だが、こんな子供だましのシステムで、このオレを止められるとでも思っているのか!」
言うなり、衝撃波で眼下の砲塔を薙ぎ払い、さらにエネルギーミサイルで外壁を破ると、マスターメガトロンはそこから悠々と突入していった。
「分かれ道、ですね……」
アトランティス艦内を探索中、行く手の道が二手に分かれているのに気づき、琥珀がつぶやく。
「通路が長くて、奥の方はほとんど見えないな……」
「『ほとんど』でも見えるだけマシよ。
私なんかぜんぜん見えないもの」
「お姉ちゃんはただのゲームのやりすぎだと思うけど……」
通路の奥をうかがい、つぶやく恭也に忍とすずかがつぶやくと、ベクタープライムは通路に向けて剣をかざした。
と、一方の通路にかざした時は何の反応を示さなかった剣が、もう一方に向けるとうっすらと光を放った。
チップスクェアに共鳴しているのだろう。とすると――
「……こっちだな」
言って、ベクタープライムは恭也達を先導し、反応のあった方へと歩き出した。
「あらかた片づいたか……」
見当たる範囲にある砲塔はあらかた破壊した――確認してあった砲塔、その最後のひとつを破壊し、スタースクリームはそうつぶやいた。
「さて、ならオレも中に入るとするか」
巻き添えとなったラナバウトはともかく、警告を無視した挙句さっさと撃墜されたサンダークラッカーにかまうつもりなどない。スタースクリームはアトランティスへと転進し――
「させん!」
そんなスタースクリームへと、ドレッドロックが襲いかかる!
そして、ドレッドロックに続き、アースラから発進したギャラクシーコンボイ達も追いついてくる。
もちろん、ライドスペースにはなのは達の姿もある。
「ようやくお出ましか、ギャラクシーコンボイ!」
対して、スタースクリームは迎撃体勢に入る――マスターメガトロンを出し抜いてチップスクェアを手に入れたいのが本音だが、自分とマスターメガトロンがつぶし合いにでもなってギャラクシーコンボイに出し抜かれでもしたらそれこそ本末転倒だ。
「ヤツらをアトランティスに近づけるな!」
「り、了解!
ほら、ラナバウト、いつまで目を回してやがる!」
「誰のせいだ!?」
スタースクリームの言葉に、サンダークラッカーとラナバウトはギャラクシーコンボイ達への攻撃を始める。
口々に言い争いながらも、二人は見事に連携している。共にデストロンの古株同士、付き合いが長いためお互いの呼吸を知り尽くしているのだ。
一方、スタースクリームも二人に負けていない。ギャラクシーコンボイ達の足を止めつつ、アースラへの攻撃も忘れない――すでにアースラは何度も対空砲火をくぐり抜けられ、その度に被弾を許している。
「ギャラクシーコンボイさん!」
「くそっ、こう着状態か……!」
サンダークラッカー達もやられ役とはいえ、真っ向勝負では決してあなどれる相手ではない。アトランティスに近づくこともできない状況の中、なのはとギャラクシーコンボイがうめき――そんな彼らにスタースクリームが襲いかかる!
「スキだらけだぞ、ギャラクシーコンボイ!」
咆哮し、スタースクリームが照準を合わせ――突然、戦場を何かが駆け抜けた。
「シックスナイト達か!?」
真っ先にその可能性を考えるギャラクシーコンボイ――だが、それは彼らではなかった。
宇宙戦闘機にトランスフォームしたノイズメイズである――スタースクリームに牽制の一撃を叩き込むと、ロボットモードへとトランスフォームし、スタースクリームの前に立ちはだかる。
「何者だ!?」
尋ねるスタースクリームだが、ノイズメイズは答えない。無言のまま、静かに右手のウィングハルバードをかまえる。
「彼は……?」
「ギャラクシーコンボイ、それより!」
すでにシックス義兄弟のような正体不明な面々が闊歩している状態だ。気にしていてもキリがない――訝るギャラクシーコンボイをユーノが促し、彼らはアトランティスへと向かう。
「どうやら、形勢逆転のようだな」
「誰かは知らないが、助かった」
スタースクリームを牽制するドレッドロックのとなりでガードシェルが告げると、ノイズメイズは静かに告げた。
「フォースチップ……
――イグニッション!」
その瞬間――トランスフォーマーのシールドに備えられたチップスロットに“橙色の”フォースチップが飛び込み――シールド先端のウィング状のパーツが展開される。
「ブラインド、アロー!」
咆哮し、ノイズメイズがシールドに展開されたブラインドアローをかまえ――そこに刻まれたサイバトロンマークが“デストロンマークへと切り替わる”!
『何………………っ!?』
「ひゃあーっはっはっはっ!」
突然のエンブレムの切り替え――敵味方を問わず一同が驚愕する中、ノイズメイズは高笑いと共にドレッドロックをブラインドアローで、ガードシェルをウィングハルバードで弾き飛ばす。
「ち、ちょっと、何なのよ、アイツ!」
「わかんないよ!」
うめくアリサにバックパックが答えると、ノイズメイズは今度は彼らへと襲いかかる。
そのまま、ウィングハルバードを振り下ろし――しかし、その一撃がバックパックをとらえることはなかった。
「お主は……一体何者でござるか!?」
咆哮し、バックパックを守って一撃を受け止めたシックスショットは、シックスブレイドでノイズメイズを押し返す。
だが、ノイズメイズはかまわずウィングハルバードを振るうが、シックスショットもそれをかわし、逆にシックスブレイドでカウンターを狙う。
高速で繰り広げられる、どちらの勢力にも属さない両者の攻防に、一同は戸惑うばかりで行動を決めかね、ただ見守るしかない。
しばしそんな攻防が続き――先に刃をを引いたのはノイズメイズだった。
「……チッ、面倒なヤツが……」
時間を掛けすぎた。これ以上ここに留まっても奇襲をしかけた意味がない――自分のジャマをしてくれたシックスショットをにらみつけ、ノイズメイズは舌打ちするとビークルモードにトランスフォーム。そのまま飛び去っていった。
一体何者なのか――その場にいる一同がそんな疑問と共に見送る中――
「……アイツ……」
スタースクリームだけは、他の面々とは違う目でノイズメイズの消えた先を見つめていた。
「何者でござるか、アイツは……」
一同がノイズメイズに気を取られているスキに、シックスショットもまたすでに離脱していた。アトランティスの艦橋の影に身を潜め、思わずつぶやく。
「シックスショットの仲間……じゃないんだよね?」
「こちらに来ている者の名簿にはない顔でござるが……」
パートナーの問いにそう答え――シックスショットはつぶやくように付け加えた。
「それに、ヤツのフォースチップ、うまく言えぬでござるが……デストロンの比ではない、ひどく禍々しい気配を感じたでござる……」
「ここが……?」
「そう。
ここが台座の間だ」
通路の一番奥の部屋へとたどり着き、尋ねる忍にベクタープライムが答える。
そして、中央の台座の前に置かれた操作パネルに手を触れて情報を読み取り――
「こ、これは……!?」
「どうしたの?」
驚愕するベクタープライムにすずかが尋ねると、彼は振り向き、告げた。
「キミ達がいてくれて助かった」
「どういうことですか?」
「こういうことだ」
琥珀に答え、ベクタープライムはパネルを操作し――台座の周りにそれは現れた。
ベクタープライムのものと同じ操作パネルだ。
数は7。台座の左右に3つずつ、ベクタープライムの正面にひとつ。
ただし――ずいぶんと小さい。まるで人間サイズの――
「ひょっとして、これ、私達が……?」
「そうだ」
そう忍の問いにうなずくと、ベクタープライムは指示を出した。
「みんな、それぞれパネルの前に。
そして、私の合図で一斉にパネル中央の半球に手を触れるんだ。
そうすれば、チップスクェアはその姿を現す」
「わかりました!」
ホップがうなずくのを合図に、一同はそれぞれのパネルの前につき、ベクタープライムの合図を待つ。
「いくぞ。
3、2、1……
――今だ!」
ベクタープライムの合図で一同は一斉にパネルに手を触れ――台座が鳴動。輝きを放つ。
そして――ついにその時が訪れた。
光は台座の頂点に集まっていき――その中から、ついに本物のチップスクェアが姿を現したのだ。
「あれが、チップスクェア……」
「トランスフォーマーだけでも人間だけでも、封印を解除できないようになっていたのね……」
恭也の言葉に、忍は手元のパネルに視線を落としてつぶやく。
おそらく忍の予想は正しいだろう。マスターメガトロンのような悪意ある者達の手に渡らないよう、トランスフォーマーと人間、どちらが欠けてもチップスクェアの封印を解けないようにこの方式がとられていたのだろう。
とにかく、後はチップスクェアを持ち帰るだけだ。
「よし、後はチップスクェアにかけられたセーフティロックを――」
「ご苦労だったな!」
言いかけたベクタープライムの言葉がさえぎられ――飛び込んできたマスターメガトロンが、ベクタープライムを弾き飛ばす!
「よせ、マスターメガトロン!」
まだベクタープライムの言う『セーフティロック』を解除していない――恭也が声を上げるが、マスターメガトロンはかまわずチップスクェアの前に降り立ち、
「おかげで手間が省けた。
チップスクェアは――いただくぞ!」
言うと同時、チップスクェアに手をかけ、台座からむしり取る!
とたん――艦内の様子が一変した。真紅の警告灯が点灯し、警報が響く。
「何事だ……!?」
「だから、恭也は『待て』と言ったのだ……」
マスターメガトロンに答え、ベクタープライムはゆっくりと身を起こし、
「セーフティロックを解除しないままチップスクェアを奪ったために、アトランティスの自爆プログラムが作動したのだ」
『えぇっ!?』
彼の言葉に、忍達は思わず驚きの声を上げる。
「自爆プログラム……?
フンッ、こんなボロ船、どうなろうと知ったことではない」
対して、マスターメガトロンは余裕だ。チップスクェアを手に入れ、あとは脱出するだけなのだから当然だが。
「目的のものは手に入れた。
もう、ここに用はない」
言って、マスターメガトロンは手近な壁を破ろうとその手に雷撃を生み出し――
「そうは――させない!」
咆哮と同時、天井を突き破ってギャラクシーコンボイがその姿を現す!
その肩にはなのはもいる――すでにレイジングハートを起動させ、戦闘準備は万端だ。
「そんなコト言わないで、もう少し付き合ってください、マスターメガトロンさん!」
「フンッ、オレからチップスクェアを奪うつもりか……」
なのはの言葉に、マスターメガトロンは余裕の笑みでこちらへと向き直る。
「ベクタープライム、恭也達を!」
「わかった!」
「気をつけろ、なのは!」
ギャラクシーコンボイの言葉にベクタープライムと恭也が答え、彼らは一足先に離脱していく。
「なのは、キミも離脱を。
チップスクェアは私が取り返す」
マスターメガトロンとの戦い、さらに自爆の時が迫るアトランティス――危険が多すぎる状況の中、ギャラクシーコンボイはなのはにも撤退をうながすが、
「わたしも、ここに残ります」
なのはの答えは簡単明瞭だった。
「し、しかし……」
「だって、わたしがいなきゃイグニッションできないから、フルバーストが使えないじゃないですか。
マスターメガトロンさんに帰ってもらうには、やっぱりフルバーストが使えないと。
それに……」
ギャラクシーコンボイに答え、なのははレイジングハートをマスターメガトロンに向けてかまえ、
「わたしも、サイバトロンと一緒にがんばる『仲間』でしょ?」
「ボク達だって、ギャラクシーコンボイ達と一緒に戦えるんです!」
なのはとユーノのその言葉に、ギャラクシーコンボイはしばし考え込み、
「……そうだな。
我々は仲間であり、なのはとはパートナーでもある。
共に戦わねば、その意味もないか」
言って、ギャラクシーコンボイはマスターメガトロンへと向き直り、
「となると、後はマスターメガトロンを相手にどう手を打つか……」
「ですね……」
ギャラクシーコンボイの言葉にユーノが同意すると、
「二人とも、ちょっといい?」
そんな二人に声をかけたのはなのはだ。
「ひとつ、アイデアがあるんだけど……」
そう言うと、なのはは二人に念話で『アイデア』を伝えた。
「……なるほど。
試す価値はあるな」
「さすがなのは。ナイスアイデア!
あの超凶悪砲撃魔法を編み出したのはダテじゃないね!」
「うーん、ほめられてると思っていいのかなぁ……?」
ギャラクシーコンボイはともかく、微妙にほめ言葉になっていないユーノの賛辞に、なのはは思わず苦笑する。
「……作戦会議は終わったか?」
「そんなところだ」
完全に余裕と態度で待ちかまえるマスターメガトロンにギャラクシーコンボイが答え、彼らは改めてマスターガルバトロンを見据え、
「ここはなのはのアイデアでいく。
――いくぞ、なのは、ユーノ!」
『はい!』
すでに自爆は始まり、艦内各所が炎に包まれている。
その中を、恭也を乗せたベクタープライムは忍達を乗せたマイクロン達を抱え、外を目指して駆け抜けていく。
「だんだん爆発が激しくなってくる……!
なのはちゃん達、大丈夫なの!?」
「彼らを信じるんだ!」
すずかの問いにベクタープライムが答え、彼らは通路から一気にアトランティスの外へと飛び出していく。
「ベクタープライム!」
「忍さん達は!?」
「無事だ」
ドレッドロックと志貴に答え、ベクタープライムは爆発の続くアトランティスへと向き直り、
「しかし、ギャラクシーコンボイとなのは達がまだ中に……!」
「ぅおぉぉぉぉぉっ!」
咆哮と共に殴りかかってくるマスターメガトロンの拳を受け止め、すでにスーパーモードとなっているギャラクシーコンボイは逆にマスターメガトロンを投げ飛ばし、
「ディバイン――」
〈――Buster!〉
なのはがディバインバスターで追撃。マスターメガトロンはとっさにそれをかわして後退する。
「チョロチョロと!」
うめいて、マスターメガトロンはなのはに向けて雷撃を放つが、
「危ない!」
それにはユーノが対応した。展開したラウンドシールドで雷撃を防ぎ、
「ディバイン、シューター!」
〈Divine Shooter!〉
なのはの放ったディバインシューターがマスターメガトロンの周りを飛翔。背後からその手を叩くとチップスクェアを弾き飛ばし、チップスクェアは両者のちょうど中間に落下。自らの機能によるものなのか、床に激突することなく滞空する。
そうしている間にも、自爆はすでに彼らのいる台座の間にも及び、周囲は炎に包まれている。
「もう、時間がないようだな……」
「お互いにな」
これ以上アトランティスの破損が進めば、空気がもれてなのは達が動けなくなる――マスターメガトロンの言葉に同意し、ギャラクシーコンボイは拳を握り締める。
マスターメガトロンの言う通り、もう時間がない。なのはの『アイデア』、仕掛けるタイミングを慎重に計っていたが――もうここがラストチャンスだろう。
「なのは」
「――うん」
小声で声をかけられたなのはがうなずくのを確認し、ギャラクシーコンボイは跳躍。対するマスターメガトロンも地を蹴り――
「はぁぁぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
チップスクェアの真上で両者の拳が激突。巻き起こった衝撃波が周囲のガレキや炎を吹き飛ばす!
パワーは互角。両者は互いに譲らず拳を押し合い――動いた者がいた。
「フォースチップ、イグニッション!」
ギャラクシーコンボイの胸元にすべり込み、叫んだなのはの言葉にフォースチップが飛来。ギャラクシーコンボイのチップスロットに飛び込むとギャラクシーキャノンが展開され、銃口をマスターメガトロンに向ける。
「至近距離のフルバーストか!
だが――耐えられんと思っているのか!」
この距離ではかわせない――だが、耐えればいい。普段は攻撃に使う雷撃を全身に張り巡らせて防壁とし、マスターメガトロンは絶対の自信と共に告げるが――なのはは再び叫んだ。
「フォースチップ、イグニッション!」
「何ぃっ!?」
(もう一度、イグニッションだと――!?)
驚愕するマスターメガトロンの目の前で、なのははレイジングハートにフォースチップをイグニッション。解放されたエネルギーが渦を巻く!
「イグニッションブレイカーとギャラクシーキャノン――」
「同時零距離フルバースト!
耐えれらるものなら、耐えてみて!」
このままでは至近距離で攻撃を食らってしまう。だからと言って、ここで一方的に退いてはギャラクシーコンボイをチップスクェアの元に残すことになる――マスターメガトロンは進むも退くもならず、ただその場にとどまることしかできない。
そうしている間にもチャージは完了した。ギャラクシーキャノンの砲口やレイジングハートの先端に光球が生まれ、互いに反応し合って発生したスパークが3角形を描き出す。
これぞ、なのはの考え出した新合体技――なのは達の咆哮がその名を告げた。
『トライアングル、バースト!』
自爆はすでに最終局面に入っていた。爆発は中枢部にも及び、次第に大規模になっていく。
そして――最後の瞬間が訪れた。一際巨大な爆発と共に、アトランティスは閃光の中に消えていく。
「ギャラクシーコンボイや、なのは達は……!?」
「無事に決まってるわよ!」
アースラの甲板上に避難し、つぶやくベクタープライムにアリサが断言するように答えると、
「――あれ!」
閃光の中心――そこに小さな影が現れたのに気づき、すずかが声を上げる。
すぐにトランスフォーマーの面々が望遠映像でその正体を確認し――歓喜の声を上げた。
そこには、チップスクェアを抱えたギャラクシーコンボイの姿が確かに存在していた。
「大丈夫か?」
「なんとか……」
「わたしも、バリアジャケットが少し焦げちゃったぐらいで……」
尋ねるギャラクシーコンボイの問いに、間一髪でライドスペースに逃げ込んでいたユーノとなのはは疲れ切った様子でそう答える。
と言っても、別に爆発から逃げるのがギリギリだったワケではなく――
「もう少し……手加減覚えようね」
「うん……」
トライアングルバーストの余波によるダメージだった。
「マスターメガトロン様はどうなっちまったんだ……!?」
「知るか。こんな遠くからじゃ確認できねぇよ」
少し離れたところから様子をうかがい、つぶやくサンダークラッカーにラナバウトが答える。
一方、スタースクリームは無言でサイバトロンのようすを探っていたが――やがて決断した。
「引き上げるぞ」
「スタースクリーム……?」
「マスターメガトロン様はどうするんだよ?」
突然撤退を指示したスタースクリームにラナバウトは眉をひそめ、サンダークラッカーが疑問の声を上げるが、
「マスターメガトロン様がこの程度で終わるものか。
ここは撤退し、体勢を立て直す」
あっさりと答えてゲートを展開し――スタースクリームはつぶやいた。
「そう……これで終わると思うなよ……」
「ベクタープライム。チップスクェアの発動を」
「うむ」
ギャラクシーコンボイの言葉にうなずき、ベクタープライムはギャラクシーコンボイの手の中のチップスクェアに手を触れる。
そして、“力”を注ぎ込み――突然、チップスクェアが光を放った。
光はまるで柱のようにまっすぐ立ち昇り、ある一点を目指して突き進む。
その先にあるのは――スピーディアだった。
スピーディアでもっとも巨大なレースコース、ハイパーフリーウェイ。
そのゴール地点に、プラネットカップの納められた神殿があった。
チップスクェアから放たれた光は、まっすぐにその神殿へと突っ込み、プラネットカップにその“力”を注ぎ込む。
みなぎる力は神殿全域に及び――再び柱となって立ち昇った。
次に光が放たれた先はアニマトロス――フレイムコンボイのいる王の神殿へとたどり着いた。
“力”が注ぎ込まれたのは神殿に安置されたドラゴンの像。
何事かと皆が集まり、かつて自分がトランスフォーム・パターンをスキャンしたその像をフレイムコンボイが見守る中、再び光は放たれ――宇宙を駆け抜けたその光はグランドブラックホールの中に消えていった。
「何だったんだ……?」
「チップスクェアが発動したのは確かだが……一体何が起きたのか――」
発生した事態は彼にも理解の外にあった。つぶやくギャラクシーコンボイに、ベクタープライムは呆然とつぶやき――
「みんな、気をつけて!」
そんな一同に告げたのは、アースラのエイミィだった。
「どうしたんだ? エイミィ」
「すぐそばに時空の歪みが確認されたの。
何が起きるかわからないわ。十分に注意して!」
尋ねるドレッドロックに、エイミィに代わってリンディが答え――上空にそれは現れた。
デストロンの使うゲートにも似た、光り輝く時空の門だ。
そして――それはサイバトロンの面々には馴染みのあるものだった。ギャラクシーコンボイがその名をつぶやく。
「あれは……スペースブリッジ……!?」
同時刻、地球・海鳴市郊外――
「……なるほど……プラネットフォースか……」
「お前達が何の目的で“力”を集めているのかは知らないが……大量の“力”が必要なら、願ってもない話だろう?」
話を聞き、つぶやく女性の言葉に、アトランティスから引き上げてきたノイズメイズはそう答える。
「確かに……
しかし貴様は何のためにその情報を我々に?」
「なぁに、オレ達が用があるのはプラネットフォースそのものじゃない。
プラネットフォースはお前達にやる。どうぞお持ちください、ってことさ」
「つまり、在り処さえ突き止めてくれれば、お前達はそれでいい、ということか……」
ノイズメイズの言葉に女性はしばし考え――その背後から新たな声が割って入った。
「しかし、そもそも貴様を信じる理由が我々にはない」
「信じる、信じないはそちら次第さ」
ひょうひょうと声に答えると、ノイズメイズは上空に飛び立つとビークルモードにトランスフォームし、飛び立っていった。
しばし沈黙が辺りを支配し――声は女性に尋ねた。
「……どうする?」
「事実なら、願ってもないチャンスだ。
当面はいつもの流れにこの情報の裏づけを並行して進める。そしてもしそれが事実なら――」
「手に入れる、か……」
その言葉にうなずき、女性は手にした剣へと視線を落とし、つぶやくように――自らに言い聞かせるかのように告げた。
「我らが主のため――今はわずかでも時が惜しい。
より早く目的が果たせるのなら、それに望みを託すべきだ」
「我らヴォルケンリッターは、主のために存在しているのだから……」
(初版:2006/03/19)