「――――――っ!?」
一撃はなのはをとらえなかった――それどころか、ヴィータは驚愕し、間合いを取る。
突然なのはの前に現れた人影によって一撃が止められた――しかも、その受け止めた『獲物』が異常だった。
真紅の――髪の毛だ。
「仲間か……!?」
「まぁ、そんなところですね」
うめくヴィータに答え、彼女は優雅にかまえて見せた。
「ただし、正確な表現ではありませんね」
揺らめく髪は真紅に染まり――いや、輝いている。
「彼女は――戦友です」
キッパリと断言し、秋葉はヴィータに向けて殺気を解放した。
「私の身内に手を出した以上――すべてを奪い尽くして差し上げますわ!」
第14話
「武装合体!
強敵・ゴッドジンライさんなの!」
「なめんな!」
秋葉の言葉に、ヴィータは手の中に鉄球を生み出し――気づいた。
(しまった――!
今のままじゃシュワルベフリーゲンは――!)
グラーフアイゼンは鋭利なスパイクを備えたラケーテンフォルムのままだ。これでは鉄球を打ち出せない――思った以上に動揺している自分に、ヴィータは思わず舌打ちする。
だが――秋葉はかまわない。ヴィータに向けて手をかざし――それに従い、彼女の髪が伸び、ヴィータへと襲いかかる!
「な、何だよ、コイツ!?」
正体はわからないが、これが攻撃だということはわかる。ヴィータはとっさに後退するとグラーフアイゼンをハンマーフォルムに戻し、
「グラーフアイゼン!」
〈Schwalben Fliegen〉
鉄球を打ち出し、秋葉の髪を爆砕する。
が――それも氷山の一角にすぎなかった。難を逃れた髪が次々にヴィータに襲いかかる!
「くっ、このぉっ!」
とっさにグラーフアイゼンで振り払おうとするヴィータだが、本来殴打するグラーフアイゼンで迫り来る髪をどうにかできるワケがない。逆にからみつかれ、動きを封じられてしまう。
「これで――終わりです!」
ヴィータの捕獲を確認し、秋葉は髪に“力”を送り込み――グラーフアイゼンが蒸気を噴き出し始めた。
先のカートリッジ使用から排気されないまま、グラーフアイゼン内に残されていた熱が、秋葉の髪に吸収されているのだ。
視認したものを“力”の渦でからめ取り、その熱を奪う――それが“略奪”の混血たる秋葉の能力だ。伸びた髪のように見えるのがその“力”の渦であり、高密度な“力”で形成されたそれは物理的な干渉力すら有する。今ヴィータを拘束しているように、だ。
「くっ、くそ……!」
ついに秋葉の“力”はヴィータにも及び始めた。熱を奪われたことで急激な虚脱感が彼女を襲い――しかし、それでもヴィータは動いた。
「グラーフアイゼン!」
〈Jawohl.
Explosion!〉
彼女の言葉にグラーフアイゼンがカートリッジをロード。巻き起こった魔力の渦が秋葉の“髪”を吹き飛ばす。
そのまま、ヴィータは先のなのはとの戦いの時のように秋葉へと突っ込み、
〈Raketen――〉
「ハンマァァァァァッ!」
咆哮と共にグラーフアイゼンを振り下ろした。
が――
「な………………っ!?」
ヴィータは我が目を疑った。
グラーフアイゼンが再び止められた。
しかし――その一撃を止めた“髪”は秋葉から放たれたものではない。
その髪は“ヴィータの背後から”伸びていた。
「どうなってやがる!?」
あわてて周囲を見回し、ヴィータはようやく気づいた。
彼女達の戦いの場が、まるで牢獄のように“髪”に囲われている――自分の一撃を止めた“髪”も、その一部から伸びたものだったのだ。
「な、何だよ、コレ……!?」
「驚きましたか?
これぞ我が“略奪”の力の最大出力状態――“檻髪”です」
常軌を逸したその光景を前に、うめくヴィータにそう答えると、秋葉はさらに“髪”を伸ばし、ヴィータを完全にからめ取る。
「“髪”を周囲に張り巡らせ、脱出不可能な空間を形成する――文字通り“髪の檻”となったのがこの“檻髪”です。
この公園を中心に形成されたあなたの結界がどのような効果を持つかは知りませんが、この“檻髪”の中ではまったくの無力」
告げる間にも、“髪”はすでにヴィータからの“略奪”を始めている。
「誰かは知りませんが、少々オイタがすぎたようですね。
少しばかり、反省してもらいます」
そして、秋葉は本格的に“略奪”を――
「ヴィータ!」
しかし、そんな彼女を救うため、“檻髪”の外に締め出されていたジンライが動いた。手にした銃で秋葉へと攻撃。近くで巻き起こった爆発が秋葉を吹き飛ばす!
「秋葉さん!」
「だ、大丈夫です……!」
思わず声を上げるなのはに答える秋葉だが、ダメージは大きくその動きはぎこちない。
一方、秋葉の攻撃でヴィータもまた力を大きく削がれていた。肩で息をしながら、それでもジンライに苦情を申し立てる。
「くそっ、余計なことしやがって……!」
「あのままやられていた方がよかったのか?
死んだら騎士道どころじゃないだろ――さっき『こだわってられない』とか言って援護要請したのは誰だった?」
あっさりとそう答えると、ジンライはなのは達に向き直り、
「これ以上の抵抗はやめてもらいたい。
こっちはただ単にお前達を取り押さえたかっただけだ。命まで奪うつもりはない」
そう告げると、ジンライは牽制のつもりなのかなのは達へと銃を向け――突然、彼の足元を飛来したビームが叩いた。
「なんだ!?」
思わず後退し、ジンライがうめくと、
「ギャラクシーコンボイ、スーパーモード!」
咆哮と共に、スーパーモードへとトランスフォームしたギャラクシーコンボイが飛来する。
「ユーノ、なのはと秋葉を!」
「はい!」
着地し、告げるギャラクシーコンボイに答え、彼のライドスペースから飛び降りてきたユーノがなのはへと駆け寄る。
「ユーノくん、ギャラクシーコンボイさん……!」
「すまない。遅くなった。
こちらに戻り、すぐに駆けつけようとしたのだが……この結界によって発見が遅れてしまった」
心強い援軍の登場に、声を上げるなのはにギャラクシーコンボイが答えるが、
「ギャラクシーコンボイ……?」
なのはのその言葉に反応したのはジンライだった。
「お前か……“今の”サイバトロンの総司令官殿は」
「私を知っているのか?」
ジンライの言葉に、思わず聞き返すギャラクシーコンボイだが――ふと気づいた。
相手の顔に見覚えがある。以前、セイバートロン星で見た過去の記録映像の中にその姿を見たことがある。
「まさか……あなたは……!?」
「知ってるの?」
うめくギャラクシーコンボイになのはが尋ね――彼が答えるよりも早くジンライが動いた。
「その『まさか』だよ!」
叫ぶと同時に跳躍し――叫んだ。
「ジンライ、スーパーモード!
トランスフォーム!」
その咆哮に、彼がビークルモード時に牽引していたコンテナ部が動いた。ひとりでに走り出すと思い切り跳ね上がり、前方を上半身、後方を下半身としたより大型のボディへと変形する。
そして、ビークルモードとなり、さらに後部をたたんでブロック状に変形したジンライがそのボディに合体。本体の内部から新たな頭部がせり出す。
そして、スーパーモードへの合体を完了し、より巨大な姿となったジンライがギャラクシーコンボイの前に降り立った。
「スーパーモード……!?」
初めて見た、ギャラクシーコンボイ以外のスーパーモードを前に、なのはは思わずうめき――
「やはり、そうか……!」
対して、予感の的中したギャラクシーコンボイは、なのは達に彼の素性を告げた。
「彼は元サイバトロン総司令官、スーパージンライ、その人だ」
「も……!?」
「元、総司令官……!?」
「じゃあ、ギャラクシーコンボイさんの……先輩!?」
もたらされた、あまりにも予想外すぎるその肩書きに、ユーノと秋葉、そしてなのはは状況も忘れて呆然とつぶやく。
サイバトロンの――しかも元総司令官。つまりは、ギャラクシーコンボイと同じくセイバートロン星を統治していた者だということだ。
そんな人物がなぜ今自分達の前に立ちはだかっているのか――?
「やはり……
だがなぜ、あなたが今ここにいる!?」
「お前が知る必要はないさ」
一方、尋ねるギャラクシーコンボイにスーパージンライはあっさりとそう答える。
そして、肩の上に降り立ったヴィータへと視線を向け、
「過去の経緯なんか関係ない。オレとコイツは出会い、今お前とこうして相対している。
お前はサイバトロン総司令官ギャラクシーコンボイ。オレはベルカの騎士“ヴォルケンリッター”がひとり、“撃砲の騎士”ジンライ――それが現実だ。
ここがすでに、戦いの場であることを忘れるな」
言いながら、スーパージンライはギャラクシーコンボイへと銃を向けた。
「それとも、過ぎたことに気を取られてオレにやられるか?」
「く………………っ!」
相手は完全にやる気だ。戦いは避けられまい――うめき、ギャラクシーコンボイは足元でユーノから手当てを受けているなのはや秋葉へと視線を落とす。
まだ動かせそうもない。このままここで戦うと巻き込むことになるが――かと言って、素直に場所を移させてもらえるとは思えない。
「仕方あるまい……!
ユーノ、ひとまず二人を私のライドスペースへ」
言って、ギャラクシーコンボイがなのは達を手の上に乗せようとするが、
「悪いな。
そのお嬢ちゃんが、そもそものターゲットなんでね!」
叫び、スーパージンライはヴィータと共に上昇し、牽制すべく両肩のビームキャノンを乱射する。
「くっ……!」
この状況ではなのは達の収容はムリだ。仕方なくギャラクシーコンボイはなのは達をかばいつつスーパージンライへと向き直り、
「ユーノ、二人を連れて転移できるか!?」
「さっきからやってるんですけど……」
尋ねるギャラクシーコンボイに、ユーノはうめくように答えた。
「この結界、ボク達の魔法と術式が違って、なかなか破れないんです……!」
「戦うしかないということか……!」
もはや選択肢は他になさそうだ――そう判断し、ギャラクシーコンボイはなのはに尋ねる。
「なのは、デバイスがなくても、フォースチップは使えるな?」
「はい!」
尋ねるギャラクシーコンボイの言葉になのははうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
咆哮し、フォースチップをイグニッションしたギャラクシーキャノンをスーパージンライに向ける。
そして――
『ギャラクシーキャノン、フルバースト――
散弾バージョン!』
放たれたのは広域攻撃版――巻き起こった閃光の渦が弾け、無数の光弾となってスーパージンライとヴィータに迫る!
「――――――っ!」
「危ない!」
広範囲に放たれた閃光を前に、回避の間に合いそうにないヴィータ――だが、そんな彼女を救ったのはスーパージンライだった。彼女を守ってフルバーストの閃光の直撃を受ける!
「スーパージンライ!
――くそっ、アイツら……!」
自分をかばったパートナーの姿に、ヴィータはなのは達へと敵意を込めた視線を向け――
「安心しろ」
そんな彼女に、スーパージンライは告げた。
「ダメージは軽微だ。心配はいらない。
どうせかわしきれる攻撃じゃなかった。二人くらうぐらいならオレひとりで食らった方がマシってもんさ」
「け、けど……」
「それに――」
それでも何かを言いかけるヴィータに、スーパージンライはそう付け加えながらギャラクシーコンボイへと向き直り、
「オレにはこれがある」
言って、取り出したのは銀色に輝く1枚のカードだった。
「あれは……!?」
訝るギャラクシーコンボイの前で、スーパージンライはそのカードをかざし、叫んだ。
「来い! ゴッドボンバー!」
その瞬間、カードから光輝くエネルギーの渦が放たれた。
光はスーパージンライの前に集まり、やがて人型に形を作る。
そして――光が消えた時、そこには1体のトランスフォーマーがその姿を現していた。
「トランスフォーマーだと!?」
突然光と共に現れた、ゴッドボンバーと呼ばれたトランスフォーマーを前に、ギャラクシーコンボイは思わず声を上げるが、
「――待って!」
ある違和感を感じ、ユーノは声を上げた。
彼からある“力”を感じたからだ。
あの“力”は――
「魔力を感じる……
アイツ、トランスフォーマーじゃない――“デバイスだ”!」
「えぇっ!?」
ユーノの言葉に、なのはは思わず声を上げ――ふと自分の時を思い出した。
自分が始めてレイジングハートを起動させた時、自分のイメージした『魔法使いの杖』の形にレイジングハートはその形を変化させた。
それが基本設定として登録され、今のデバイスフォームの形状となっているのだが――もし、同じように“トランスフォーマー型になるように設定したとしたら”?
そう考えると納得がいく――差し詰め、目の前にいるのは“トランスフォーマー型のデバイス”といったところだろうか。
だが、ゴッドボンバーがトランスフォーマーだろうとデバイスだろうと、状況がさらに悪化したことに変わりはない。ただでさえスーパージンライとヴィータの二人を相手にしていたというのに、その上ゴッドボンバーまで加わった。なのはや秋葉は事実上リタイアと考えて、これで3対1ということになる。
相手の動きに気を配り、ギャラクシーコンボイは慎重になのは達を回収するチャンスをうかがう。
だが――スーパージンライはそんなギャラクシーコンボイにかまわず、ゴッドボンバーに告げた。
「いくぞ、ゴッドボンバー!
“パワードクロス”だ!」
「パワード、クロス――!?」
その指示の意味を図りかね、ギャラクシーコンボイがうめき――その答えをもたらすべく、スーパージンライとゴッドボンバーが動いた。
「パワード、クロス!」
スーパージンライが改めて指示を下し、ゴッドボンバーと共に上空へと飛び立ち――突然ゴッドボンバーがいくつものパーツに分離する。
それらのパーツはスーパージンライの周囲に集まり――なのはは気づいた。
(もしかして……“合体する”!?)
その通りだった。スーパージンライの周囲に集まったゴッドボンバーのパーツが、次々にスーパージンライへと合体していく。
両足、両腕、胸部、そしてバックユニット――
ユーノの考えた通り、ゴッドボンバーは“トランスフォーマー型のデバイス”である。
しかも、ただのデバイスではない――主と合体し、その能力を何倍にも引き上げることのできる装着型デバイス――“パワードデバイス”こそがゴッドボンバーの正体だった。
そして、パワードデバイス・ゴッドボンバーと合体を遂げたスーパージンライの新たな姿、その名は――
「ゴッド、ジンライ!」
「が、合体した……!?」
思わずうめくなのはの前で、合体したゴッドジンライはその場に着地する。
「こっちだって余計な争いはしたくない。
そっちの娘さんの魔力やギャラクシーコンボイ、お前の持つスパークの力を少しばかりわけてもらえればそれでいいんだ。
だが――」
言いながら、ゴッドジンライは銃をかまえ、
「抵抗するなら、容赦はしない」
「だからといって、『はい、そうですか』とやられるワケにはいかない!」
ゴッドジンライに答え、ギャラクシーコンボイは地を蹴る。
対して発砲するゴッドジンライだが、ギャラクシーコンボイはそれをかわして間合いを詰め――
しかし、繰り出した拳は素早く銃を手放したゴッドジンライによって片手で止められ、逆にその手をつかまれ、無造作に投げ飛ばされる!
「なんというパワーだ……!」
片手で自分をたやすく投げ飛ばすゴッドジンライのパワーに、ギャラクシーコンボイはなんとか着地し、両足の小型キャノン“ローラーショット”を放つが、ゴッドジンライの装甲には傷ひとつつかない。
「くっ……!」
生半可な攻撃では通用しない――思わずうめき、ギャラクシーコンボイはなのはへと告げた。
「なのは! イグニッションだ!」
「はい!」
その言葉になのはも迷わずうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
再びフォースチップをイグニッションし、ギャラクシーキャノンを展開する。
対するゴッドジンライは動かない。そして――なのはとギャラクシーコンボイが叫ぶ。
『ギャラクシーキャノン、フルバースト!』
咆哮と共に、二人の放った必殺の閃光がゴッドジンライへと迫り――たった一言、ゴッドジンライは告げた。
「ゴッドボンバー、防御」
〈鉄壁〉
返ってきたのはゴッドボンバーからのシステムボイス――瞬間、眼前に展開された魔法陣の盾が、ギャラクシーキャノンの一撃を弾き飛ばす!
「な………………っ!?」
「魔法…………!?」
思わずうめくギャラクシーコンボイとなのはだが――そもそもゴッドボンバーはデバイスだ。それを装着したゴッドジンライが魔法を使えても、何の不思議もない。
一方、ゴッドジンライは相変わらずその場に留まったまま――合体を遂げて以来、ギャラクシーコンボイはゴッドジンライを一歩も動かすことができずにいる。
そんなギャラクシーコンボイに、ゴッドジンライはまるで諭すように告げた。
「わからないか、ギャラクシーコンボイ。
オレ達は同じスーパーモードとして出力条件は互角――しかし、たとえ“マトリクス”の有無という差はあっても、オレはスーパーモードに加えゴッドボンバーと合体し、圧倒的にパワーを上げている。
その上、ゴッドボンバーがデバイスであることで魔導師としての力も手にしている――今のお前に、オレに勝つことはできない」
言って――ゴッドジンライは先ほど手放した銃を拾い、
「だが、だからと言って、お前が引くとも思えない。
不本意ではあるが――黙ってもらう」
そう告げると、ゴッドジンライはヴィータへと向き直り、
「やるぞ、ヴィータ」
「イグニッションだな! 任せとけ!」
告げるゴッドジンライにヴィータがうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!』
二人が咆哮、ゴッドジンライの背中のチップスロットに黄色いフォースチップが飛び込み――全身の火器にその力が行き渡る。
「――いかん!」
半ば直感的にその攻撃の危険性を察し、ギャラクシーコンボイはなのは達を抱えて離脱を試みる。
だが――ゴッドジンライも逃がすつもりはなかった。
「逃がさん!
ゴッド――マックス、バーニング!」
とたん、ゴッドジンライの両足、両肩、そして手持ち――すべての火器が同時に火を吹いた。ギャラクシーコンボイを包囲するように飛び――逃げ場を奪い、その全身に降り注ぐ!
「ぐわぁっ!」
なんとかなのは達への直撃は避けられたが、結果として攻撃をすべて自分の身体で受けることになった――ギャラクシーコンボイは背中のウィングパーツから火を吹きながら墜落。道路に叩きつけられる。
ウィングパーツはほぼ大破。ギャラクシーキャノンはおろか、通常の機動すらもはや不可能だろう。
「ぎ、ギャラクシーコンボイ、さん……!」
「無事か、3人、とも……!」
自らも傷を受けているのに、それでもこちらの身を案じてくれるなのはの声に、ギャラクシーコンボイは彼女達の無事を確認し、安堵の息をもらす。
だが、危機は去ったワケではない。ヴィータを肩に乗せたゴッドジンライはこちらに向けて歩を進める。
(とどめを、刺すつもりか……!?)
せめてなのは達だけでも逃がさなければ――ギャラクシーコンボイはなんとか立ち上がり、ゴッドジンライへと向き直る。
「ギャラクシーコンボイさん!」
「なのは……キミはユーノや秋葉と共に離脱しろ。
ここは、私が食い止める!」
答えるギャラクシーコンボイだが、彼だってまともに戦える状態ではない。食い止めるどころか、障害にすらならないだろう。
それがわかるからこそ――なのはも退くワケにはいかなかった。
「ダメだよ、そんなの!
今のギャラクシーコンボイさんじゃどうしようもないよ! やられちゃう!」
「しかし……キミ達をこれ以上危険にさらすワケにはいかない」
だが――なのははキッパリと答えた。
「そんなの関係ないよ!
傷だらけのギャラクシーコンボイさんを見捨てて、わたしだけ逃げるなんて、できないよ!」
だが、そんな彼らにゴッドジンライは無情にも銃口を向ける。
「ギャラクシーコンボイさんは、今までわたし達を守ってくれた!」
エネルギーを注ぎ込み、銃口の奥に光が生まれる。
「だから、今度はわたしがギャラクシーコンボイさんを守ってあげたい!」
照準が合わされ、発射準備が整う。
「だって――わたしは!」
「すまない」という小さなつぶやきと共に、トリガーに指をかけ――
「ギャラクシーコンボイさんの、パートナーだから!」
その瞬間、響いた音は銃声だけではなかった。
飛来した手裏剣がゴッドジンライの右手の銃を弾き、銃口をそらしたのだ。
その拍子にゴッドジンライは思わずトリガーを引いてしまい、放たれた閃光は上空、あさっての方向へと消えていく。
「誰だ!?」
突然の事態にヴィータが声を上げると、
「助っ人、とでも言えばよいでござるかな?」
そう告げて、彼女達の前に降り立ったのはシックスショットだった。
その肩の上には彼のパートナーである“師匠”の姿がある。
ただし――その顔には祭りなどで見かける狐の仮面を着けており、その素顔はわからない。
「師匠殿は彼女達を」
シックスショットの言葉に無言でうなずくと、彼女はなのは達の、そしてギャラクシーコンボイの元へと降り立つ。
「逃がすつもりか!?」
それを許すつもりなどなく、ゴッドジンライが地を蹴るが、
「おっと、そうはいかぬでござるよ」
その前に立ちはだかったのはシックスショットだ。
「お主にはしばし、ここで足を止めてもらうでござる!」
「キミ達、大丈夫!?」
「わ、私達は大丈夫ですけど、ギャラクシーコンボイさんが……!」
尋ねる“師匠”に答え、秋葉がギャラクシーコンボイへと視線を向ける。
その視線を受け、ギャラクシーコンボイはこちらへと振り向き、
「私なら、大丈夫だ……
生命維持に支障をきたす損傷は……ない……が……」
そう告げるギャラクシーコンボイだったが、最後まで告げることができず、その場に崩れ落ちる。
シックスショットの参戦で危機を脱し、緊張の糸が切れたのだろう。
「ギャラクシーコンボイさん!」
倒れたギャラクシーコンボイになのはが駆け寄ると、
「大丈夫。気を失っただけだから」
そんななのはに“師匠”が告げる。
「とにかく、ここは私とシックスショットに任せて、離脱した方がいいよ。
シックスショットが突入の時に結界に穴を開けてくれた――今なら転移の魔法で出られるはずだから」
「は、はい……
けど……」
彼女の言葉にうなずき――なのはは尋ねた。
「……あなた達はどこの人なんですか?
どうして、地球の人達にトランスフォーマーのことがバレないように手伝ってくれてるんですか?」
「そ、それは……」
なのはの言葉に、“師匠”は思わずうめいた。
それは、もっとも避けてもらいたかった問い――自らの素性を明かすことで起きる事態が容易に想像できるだけに。
(どうする……?)
彼女の脳裏を迷いがよぎる。
素直に正体を明かすか、それともシラを切るか――
しばし迷った後、決断した。
(ボケよう)
決してふざけているワケではない。冗談のひとつも飛ばして、意表をついた後にたたみかけ、ヘタに推理されない内に撤退をうながす――それが彼女の決断だった。
「詳しくは答えられないけど……名前だけなら。
彼はシックスショット。そして――」
そう告げた上で――名乗った。
「私の名は――美少女仮面ポワトリン」
ボケるにも限度があるような気もするが、これで当人は大マジメである。
案の定、秋葉はロコツに訝ってみせる――が、なのはとユーノの反応はさらにそれを上回った。
「ポワトリンさん……カワイイお名前ですね」
「地球じゃ聞かない名前だけど……よその次元世界の人なのかな……」
『………………は?』
あまりにもロコツすぎる偽名だったにも関わらず、疑うどころか素直に信じてしまった二人の反応に、秋葉と“師匠”だけでなく、対峙していたシックスショットやヴィータ、ゴッドジンライまでもが思わず間の抜けた声を上げていた。
「わたしは高町なのは。こっちは友達のユーノ・スクライアくんと、遠野秋葉さんです。
今回は助けてくださって、ありがとうございます」
「ど、どうも……
じ、じゃあ、ユーノ、なのは達とギャラクシーコンボイを連れて、早く」
「はい。
それじゃあ、ここはよろしくお願いします、ポワトリンさん!」
女性に答えると、ユーノは魔法陣を展開、なのはと秋葉、ギャラクシーコンボイを連れ、“トランスポーター”の魔法で離脱した。
「……ネタ、古すぎたかな……?」
「というか……純粋なお二人の心に、巨大な禍根を残したような気がするのでござるが……」
“師匠”の言葉にシックスショットがつぶやくと――そのすぐ脇を、ヴィータの打ち放った鉄球がかすめた。
「お前らの相手はこっちだ。
デカい獲物を逃してまで、律儀に待っててやったんだ。キッチリ相手してもらうぞ」
「……そうでござったな」
ヴィータの言葉に、シックスショットは彼女やゴッドジンライへと向き直り、
「それでは、存分に相手をしてやるでござるよ。
フォースチップ、イグニッション!」
咆哮し、シックスショットは背中のチップスロットにフォースチップをイグニッション。両腕にブレードを展開する。
「シックス、ブレイド!」
叫んで、ブレードをかまえるシックスショットだが――ゴッドジンライはそれを見てあることに気づいた。
「黄色いフォースチップ――
そうか、お前……」
「お主達は気づいたでござるか……」
ゴッドジンライの言葉に、シックスショットはそれを取り出した。
1本の苦無である。
「それならば……遠慮なく“これ”を使えるでござるな」
「何……?」
その言葉に、ゴッドジンライは疑問の声を上げ――ヴィータはその苦無の正体に気づいた。
「油断するなよ、ゴッドジンライ。
あれは――」
だが、ヴィータがその先を告げるよりも早く、彼女達の元に思念通話が届けられた。
《ヴィータ、聞こえるか》
「シグナムか!?
何の用だ!」
それは、彼女の仲間からのものだった。
《対応の練り直しだ。一旦切り上げて戻れ》
「何言ってるんだよ!
目の前にデカい獲物がいるんだぞ!」
反論するヴィータだが、シグナムは冷静に答えた。
《裏づけが取れた――
例のプラネットフォースがらみだ》
「………………っ!」
その言葉に、ヴィータの動きが止まった。
《プラネットフォースの力が得られれば、わざわざ地道に強い“力”を集めて回る必要もない。
我らの目的はあくまでも――》
「わかったよ」
シグナムの言葉に、ヴィータは答えた。
「そっちに行く。詳しい話はそこで」
《了解だ》
そして、念話通信を打ち切ると、ヴィータはシックスショットや仮面の女へと向き直った。
「命拾いしたな」
「それはどうでござるかな?
勝負とは、やってみなければわからぬもの――まぁ、命拾いしたか否か、それはまたいずれ対峙した時にでもハッキリさせればよいでござるが、な」
「………………フンッ。
いくぞ、ゴッドジンライ」
シックスショットの言葉に答えることもなく、ヴィータはゴッドジンライと共に姿を消した。
「……師匠殿。拙者達も撤退を。
じきに彼女達の展開した隔離結界も解けます故」
「そうだね……」
シックスショットの言葉にうなずくと、彼女は夜空を見上げ、
「今回は、なのは達を守れただけでもよしとする、か……」
(初版:2006/04/02)