なのは達がヴィータ達に襲われた、その一方で――事態はスピーディアでも動いていた。
「……なるほどねぇ……なかなかおもしろいことになってるじゃないか」
部下からその話を聞き、彼は静かにつぶやいた。
と、傍らに控える自らの右腕が尋ねた。
「プラネットカップを狙ってやってきた、ニトロコンボイにケンカを売ってるよそ者どもか……
どうするんスか?」
ゆっくりと立ち上がり、彼はその問いに答える。
「もちろん、叩きつぶすさ。
ニトロコンボイを倒す――そのためにしばらく鳴りを潜めてまで訓練を続けてきたんだ。手柄を掠め取られてたまるか。
準備をしろ、メナゾール。出かけるぞ」
「了解」
メナゾールと呼ばれたそのトランスフォーマーの同意にうなずき、彼はつぶやくように告げた。
「このオーバーライド様率いるスタントロン軍団を無視して、好き勝手できると思うなよ……」
作業の経過を示すランプが終了を表す青色に点灯。吹き出す蒸気の中カプセルのフタがゆっくりと開き――
「ふぅ……」
息をつきながら、ギャラクシーコンボイがその姿を現した。
「具合はどうですか?」
「やはりまだ微調整が必要なようだが……問題はない。だいぶ良くなった」
声をかけてきたのはエイミィの後輩でもある技術スタッフのマリーだ――彼女の問いに、ギャラクシーコンボイは各部の調子を確かめながら答える。
「マリー……だったか。ありがとう」
「よかった……
大型機材の整備システムをあわてて改造したんで、ちょっと不安だったんですが……」
答えて、マリーは今しがたギャラクシーコンボイが出てきたカプセル状のシステムへと視線を向ける。
ゴッドジンライに敗れ、ユーノによって急遽アースラに転送されたなのは達やギャラクシーコンボイは時空管理局の本部に運ばれ、そこで治療を受けることとなった。
彼らにとって馴染みのない魔法によるダメージを受けたなのは達のための措置だが、そのためにすずかや忍と連絡をとる時間の取れなかったギャラクシーコンボイはそうもいかなかった。
何しろ時空管理局にはトランスフォーマーの身体についての知識がほとんどないのだ。アースラのスタッフにしても、すずかや忍があまりにも易々とこなしてしまうため、実質彼女達に任せきりになってしまっていたのが現状だ。
そこで、エイミィがマリーに頼んで用意してもらったのがこのシステム――本来は艦艇整備用の大型機材の自動メンテナンスシステムだったそれを、急遽トランスフォーマー用に改造した再生カプセルである。
「元々軽傷だったせいでもあるでしょうけど……悪化させるようなことがなくて幸いでした」
「攻撃は、ほとんどがギャラクシーキャノンに行ってくれたからな。
おかげで1セット廃棄処分だが……命には代えられない」
マリーに答え、ギャラクシーコンボイはボロボロになったギャラクシーキャノンへと視線を向け、
「それで……なのはや秋葉は?」
「検査の結果、二人ともケガは特に大したことはないそうです」
手元に回ってきた報告書に目を通しながら、エイミィはリンディにそう報告した。
「ただ……なのはちゃんですが、全力でプロテクションを張っているところに、デバイスへの重度の破損が加えられてしまったことで、魔導師の魔力の源、“リンカーコア”にもけっこうな負荷が確認されたそうです」
「そう……
一連の事件のほぼ同じ流れね……リンカーコアへのダメージだけで済んだのは不幸中の幸いと言うべきかしら」
エイミィの言葉に、リンディはため息をついてつぶやく。
「やっぱり、休暇は延期ですかね……
流れ的に、ウチの担当になっちゃいそうですし」
「何言ってるの。
放り出すつもりなんかないクセに」
「あ、わかりました?」
「もうバレバレ」
ペロリと舌を出して尋ねるエイミィに、リンディは少し肩をすくめて答える。
「ギャラクシーコンボイのダメージも大したことはなかったみたいだし……まぁ、ギャラクシーキャノンが廃棄処分な分、しばらくビークルモードは不恰好なままでガマンしてもらうしかないかしら」
「ですね」
エイミィがうなずくと、エレベータが停止し、扉が開く。
「じゃあ、私はなのはちゃんのところへ」
「えぇ。お願いね。
私は秋葉さんの面会が済んでからそっちへ行くから」
エイミィにそう答え、リンディは彼女が降りたのを確認してエレベータの扉を閉めた。
〈大丈夫か? なのは〉
驚くことに個室が与えられた――手当てを終え休息を取っていたなのはに、通信してきたギャラクシーコンボイが尋ねる。
「わたしは大丈夫です。
秋葉さんも、ケガは大したことはないそうで……」
〈らしいな。すでに彼女にも連絡はとった〉
なのはに答えると、モニター上のギャラクシーコンボイは視線を落とし、
〈しかし……すまなかった。
よりによって、我らサイバトロンの同胞が敵に回るとは……〉
「気にしないでください。
別に、ギャラクシーコンボイさんが悪いワケじゃないんですから」
なのはがそう答えた、その時――
「なのはちゃん、ちょっといい?」
そこへ、エイミィがユーノと共にやってきた――と、モニターのギャラクシーコンボイに気づき、
「あ、ギャラクシーコンボイと話してたんだ……
ちょうどよかった、かな?」
〈「………………?」〉
第15話
「果たせなかった使命なの」
時空間航行船の航路からも外れた、時空間の一角――そこにそれは存在していた。
まるで地面にドッシリと腰を据えたかのような、重厚な威容を誇る要塞だ。
そして今、そこを転送魔法で訪れた者がいた。
ヴィータとジンライである。
「来たぞ」
「あぁ」
指令室に入り、告げるヴィータに、騎士服に身を包んだシグナムは最低限のあいさつで出迎えた。
と、そんなシグナムをたしなめたのは彼女のパートナーだ。
名はスターセイバー。ジェット機にトランスフォームする剣の達人である。
「シグナム。もう少し言い方があるだろう。
ヴィータも蒐集を中断してまでこちらに合流してくれたのだ。労いの言葉くらい……」
「すまなかったな。大物を逃がさせてしまったようだ。
……これでいいか? スターセイバー」
わざわざ確認をとるシグナムの言葉にスターセイバーはため息をつき、そんな彼にジンライは肩をすくめて見せる。
昔からだが、真面目が過ぎて少しキツいところのある彼女の扱いには未だ慣れない――だが、そんな彼女も根は優しいことをこの場にいる全員が知っている。特に誰かが咎めることもなく、シグナムは本題に入った。
「さて……以前、我々に接触してきた、ノイズメイズと名乗るトランスフォーマーの語った『プラネットフォース』の件だが……フォートレスの調査で事実であることが判明した。
フォートレス」
「うむ」
答えたのは、シャマルのパートナートランスフォーマー、フォートレス。現在は要塞モードとなっているここ――彼らの行動拠点である時空間航行母艦“マキシマス”の艦長にして整備責任者でもあり、開発者でもある。
ちなみに、彼がトランスフォームするところをヴィータ達は見たことがない。ずっとロボットモードのまま、マキシマスの中でデータの整理や各種のツールの発明に従事している――そんな印象の強いインドア派だ。
スターセイバー、ジンライ、フォートレス、そして図書館でシグナムと共にはやて達を出迎えたアトラス――彼ら4人、全員がかつてサイバトロンの総司令官を務めたことのある歴戦の勇士達であり、現在はトランスフォーマーでありながらシグナム達と同じ“ヴォルケンリッター”のメンバーという微妙な立ち位置にいる。
ともかく、フォートレスはメインモニターにプラネットフォースのデータを映し出した。
「現在その存在が確認されたものは二つ。
惑星スピーディアの『駆動』のプラネットフォースと、惑星アニマトロスの『生育』のプラネットフォースだ」
「で? 二つとも集めりゃいいのか?」
「でもないわ。ひとつでも十分よ」
尋ねるヴィータに答えたのはシャマルだ。となりでザフィーラもうなずき、
「フォートレスの計算では、ひとつでも十分に“闇の書”を完成させることができるだけの“力”を秘めているそうだ」
「よっしゃ、なら、それを手に入れてくればいいんだな!?」
「正解」
相変わらず単調な物言いでヴィータに答えるのはロボットモードのアトラス。彼はザフィーラのパートナーである。
そんなアトラスの言葉にうなずき、シグナムは一同に告げる。
「聞いての通りだ。
そこで我々は、今後二手に分かれ、スピーディア、及びアニマトロスでプラネットフォース探索にあたる。
もちろん、間に合わない時に備えて蒐集も行うが――現場はこの二つの惑星に固定だ。
時空管理局に察知される可能性が高くなるが、あちこちに手当たりしだいに回っている時間的余裕はない」
「分担は?」
尋ねるザフィーラに、シグナムはフォートレスへと尋ねた。
「フォートレス、それぞれの現地の環境は?」
「大気組成は、どちらも人間の生活可能なものだ。
スピーディアは乾燥した大地が広がり、ハイウェイが縦横無尽に走っている。
対してアニマトロスは緑には恵まれているが、絶えず繰り返される地殻変動によって過酷な自然環境が形成されており、激しい生存競争が行われている」
「わかった。
なら、アニマトロスは私とスターセイバーが担当する。スピーディアはヴィータとジンライ、それからザフィーラとアトラスに担当してもらおう。
シャマルとフォートレスはマキシマスで統制だ」
フォートレスの答えにメンバーを振り分けるシグナムだが――不満なのがヴィータだった。
「なんだよ、そのメンバー分け。
こっちが二組って……あたしが信用できないのかよ!?」
その問いに、シグナムはあっさりと答えた。
「大地が絶えず揺れ動く土地に、車両にトランスフォームするジンライとアトラスを放り込むつもりか?」
「……あたしが悪かった」
シグナムの人選の方が適切だったようだ。反論をあきらめてヴィータは素直に謝罪する。
「とにかく、さっさと行って、そのプラネットフォースとやらをズバッと手に入れてこようぜ、ジンライ」
「そうだな」
ヴィータに答え、ジンライが彼女と共に指令室を出て行こうとすると、
「ちょっと待て、ヴィータ」
シグナムがそんなヴィータを呼び止めた。
「主が心配する。長丁場になっても日帰りできるよう、ゲートは固定しておけ」
「りょーかぁい」
「やぁ、待っていたよ」
ギャラクシーコンボイにサイズを合わせるためか、会談の場には普段集会等に使われるホールが選ばれた――ギル・グレアム提督は、やってきたなのはやユーノ、そしてギャラクシーコンボイに対し笑顔で出迎えた。
「すまない。引っ切り無しに世話になってしまった」
「あれ?
ギャラクシーコンボイさん、知り合い?」
「先程会見した相手だ」
なのはに答え、ギャラクシーコンボイはグレアムへと向き直った。
「それで……再び会見の場を用意したのは、やはり……」
「うむ。
キミ達の遭遇したベルカの騎士“ヴォルケンリッター”についてだ」
ギャラクシーコンボイの問いに、グレアムは深刻な面持ちでそう答えた。
「ヴォルケンリッター?」
「そういえば、さっきゴッドジンライさんが自分達のことをそう名乗ってたよね……」
ユーノとなのはが顔を見合わせてつぶやくと、グレアムが説明を始めた。
「1級捜索指定ロストロギア“闇の書”――それを守護する、守護騎士達のことさ。
“闇の書”はかつて“ベルカ式魔法”によって作り出された魔導書――最大の特徴は、強い“力”を持つ者のそのエネルギー、中でも魔力を最大のエネルギーとしている点だ。
対象の魔導師の魔力資質を奪うために、“闇の書”は魔導師の持つ“リンカーコア”を取り込むのだ」
「だから、強い魔力を持つなのはが狙われた……
それなら、接近戦ではそのなのはの上を行く秋葉が、彼らに無視されたのも理解できる――聞いた話では、彼女の“力”は血筋による特殊能力であり、魔力とは直接関係のないものらしいからな」
納得し、つぶやくギャラクシーコンボイだが、そんな彼にユーノが尋ねた。
「けど、ギャラクシーコンボイさんは?
なんかもののついで、みたいな物言いだったけど、ジンライは確かにギャラクシーコンボイさんのマトリクス――というか、スパークもターゲットに追加していましたけど……」
「それは、スパークの持つ力と魔力が、極めてよく似ているからだ。
彼らの魂とも言うべきスパークは、組成、エネルギーの波形パターン、共にリンカーコアに極めてよく似ているんだ」
「だから、魔力の代用としてヴォルケンリッターに狙われた……
そういえば、ジンライもデバイスを使ってたし……」
「じゃあ、ギャラクシーコンボイさんも魔導師になれる、ってことですか?」
「それはわからない。
彼らのスパークにも、やはり魔導師としての適正の有無があるようでね。魔導師として魔法を行使できるかどうかは、各自検査してみないことにはどうとも言えない。
そもそも、まずは彼らのサイズに見合ったデバイスを用意しなければならないしね」
ユーノのとなりで尋ねるなのはの問いに、グレアムは肩をすくめてそう答える。
「しかも、ギャラクシーコンボイくんの場合は“マトリクス”がスパークと直結し、より強いパワーを持っている――ランクで言うならば、Sランクすら凌駕しているだろう。仮に適正があったとしても、デバイスが耐えられるかどうか……
まぁ、だからこそヤツらのターゲットとしては申し分なかった、というワケだが」
「あの……ひとついいですか?」
グレアムにそう告げると、なのははおずおずと手を挙げて尋ねた。
「さっき言ってた、“ベルカ式魔法”っていうのは……?」
「その昔、ミッドチルダ式と勢力を二分していたと言われる魔法勢力だよ」
そう説明したのはユーノだった。
「距離をおいての魔法運用よりも近距離での運用、特に対人戦闘に重点を置いた魔法で、中でも戦闘力に優れた者は、ゴッドジンライが名乗ったように“騎士”と呼ばれる」
「接近戦かぁ……
わたし、近距離苦手なんだよね……」
ユーノの説明になのはがため息をつくと、
「それで……管理局としての今後の対応は?」
「まだ検討中だ。
おそらくはトランスフォーマーがからんでいることで、リンディ提督に話が回るだろう――もちろん、彼女経由でキミ達にも」
尋ねるギャラクシーコンボイにグレアムが答えると、突然彼の元に地球から通信が入った。
緊急回線だ。
「失礼。
こちらギャラクシーコンボイ」
グレアムに断りを入れ、ギャラクシーコンボイが応答すると、
〈ギャラクシーコンボイ、無事だったか。
報せを聞いて心配したぞ〉
モニターに現れたのはベクタープライムだった。
「ベクタープライム。こちらは今その件で時空管理局の方と会談中なんだ。できれば後にしてもらいたい。
それとも――そちらでまた何かあったのか?」
〈うむ〉
尋ねるギャラクシーコンボイに、ベクタープライムはそううなずいた。
〈まず、スペースブリッジの開通先が判明した。
惑星スピーディアだ〉
「それだけなら、別に後で報告をしてくれれば十分だったんだが――」
〈ただそれだけなら、緊急回線を使って通信なんかしないさ!〉
と、脇からのぞき込んで来て告げるのは耕介だ。
〈そのスピーディアにいる、ファストエイド達から緊急通信が入ったんだよ!〉
「大丈夫か!? エクシリオン!」
取り急ぎ手近な岩壁にエクシリオンを寄りかからせ、ファストエイドはエクシリオンに呼びかけた。
「くそっ……ドジったぜ……!」
うめいて、立ち上がろうとするエクシリオンだが、そのダメージから思わずふらついてしまう。
「ムリをするな、エクシリオン。
今ギャラクシーコンボイ総司令官を呼んでもらった。合流して、体勢を立て直すんだ」
これ以上はムリがある――そう判断して告げるクロノだったが、それがかえって火に油を注ぐ結果となった。
「総司令官を!?
余計なことをするな!」
「ま、待ちなさい、エクシリオン!」
あわてて止めようとするシオンだったが、エクシリオンはビークルモードへとトランスフォームし、再び走り出す。
「くそっ、追うぞ!」
「はい!」
ファストエイドの言葉にシオンがうなずき、彼らもまたエクシリオンを追って走り出す。
そして、クロノは通信回線を開き、告げた。
「ブラー、美緒!
エクシリオンがそっちに行く! フォローを頼む!」
〈おぅっ!〉
〈らじゃったのだ!〉
すぐに視界にとらえた――前方を走るランドバレットとガスケット、インチアップ、そしてその3名を追うブラーと美緒へと、エクシリオンはすぐに追いついた。
「エクシリオン!
ムチャをするな、今は下がれ!」
「ここで退いてちゃ、話にならないだろ!」
エクシリオンの姿を見つけ、ブラーが告げるが、エクシリオンも退かない。むしろブラーのスリップストリームに入り加速、彼を追い抜いていく。
「まだチョロチョロしてたのか!
踏みつぶすぞ!」
「うるさい!
お前こそその図体、うっとうしいぜ!」
こちらに気づいたインチアップに言い返し、エクシリオンはさらに加速してインチアップのとなりに並ぶ。
「ニトロコンボイを倒すのはこのオレだ! 引っ込んでろ!」
「そうはいくか!
こっちはこっちの事情ってものがあるんだ!」
口々に言い争いながらも、二人は一歩も譲らない――そんな二人を後ろから追いながら、ランドバレットとガスケットはほくそ笑んでいた。
「『この中で一番速いヤツとニトロコンボイが、今度のグレートレースで勝負をしたがってる』って言っただけで、あんなに熱くなってくれちゃって!」
「でまかせも言ってみるもんだねぇ」
そう、このレースは二人が仕組んだものだった――彼らにしてみればブラーやエクシリオンはもっとも厄介なジャマ者だ。まずは事前にインチアップにつぶしてもらうつもりなのだ。
やがて、レースはハイウェイコースに突入した。元々オンロードが得意なエクシリオンは一気に抜き去ろうと加速するが――
「ここがお前の墓場だ!
フォースチップ、イグニッション!」
動きを見せたのはインチアップもまた同じだった――フォースチップをイグニッションするとトレッドを広げ、オンロード用の走行モードに変形し、
「どっ、せぇいっ!」
「ぅわぁっ!」
エクシリオンへと体当たり。フェンスに叩きつける!
「もういっちょ!」
さらにとどめを刺すべく、再び体当たりを仕掛けるインチアップだが、
「させるか!」
エクシリオンを救ったのはブラーだった。後方からエクシリオンを前方に押し出し、共にインチアップの体当たりをやり過ごす。
「ムチャをするな、エクシリオン!
負荷のたまったその身体で、これ以上のレースはムリだ!」
「これ以上走ったら、身体がバラバラになるかもしれないのだ!」
「黙っててくれ!」
撤退を促すブラーと美緒だが、エクシリオンはそれすらも拒絶した。
「このレースに勝った者だけがニトロコンボイに挑む資格があるというのなら――オレはそれに賭ける!」
そうエクシリオンが告げ――それに気づいたのは、後方にいたファストエイドだった。
「――危ない!」
その瞬間、エクシリオンとブラーを、さらに彼らだけでなくインチアップにもビームの雨が降り注ぐ!
「な、何だ!?」
「どこのドイツだ!」
思わず停車し、エクシリオンとインチアップが声を上げると、攻撃の主は彼らの前に降り立った。
エクシリオン達の見たことのないトランスフォーマーだ――しかし、インチアップには見覚えがあった。
「め、メナゾール!?
何でてめぇがここにいる!?」
「さぁてね」
インチアップの言葉にメナゾールと呼ばれたそのトランスフォーマーが答えると、
「話を、聞いたからな」
そんなメナゾールの背後から、新たな声がかけられた。
その言葉を合図にメナゾールは脇に退き、そのトランスフォーマーは姿を現した。
全身を頑強な装甲に包んだ、大柄なトランスフォーマーだ。メナゾールよりも一回り大きい――マスターメガトロン並だ。
「な、何者だ……!?」
「デストロンの、新手か……!?」
突然の襲撃に状況を把握できず、ブラーとファストエイドがうめき――クロノは気づいた。
「あれ……?
ガスケットとランドバレットは……!?」
そのガスケットとランドバレットは、物陰に隠れてエクシリオン達を襲った2体のトランスフォーマーの様子をうかがっていた。
「メナゾールに、オーバーライド……!?
おいガスケット、なんでアイツらまで出てきてるんだよ!?」
「知るかよ、そんなの!」
ランドバレットに答えると、ガスケットはきびすを返し、
「とにかく逃げるぞ!
アイツら“スタントロン”まで出てきたんじゃ、命がいくらあっても足りねぇぞ!」
「そ、そうだな」
ガスケットの言葉にランドバレットがうなずくと、
「それはなかなか――」
「興味深い話ですね」
「なのだ」
『――――――っ!?』
突然声をかけられ、あわてて振り向くと――そこにいたのはクロノとシオン、そして美緒だった。
「なんだ、お嬢ちゃん達か。
悪いな、ボクちん達はこれから帰って冬ソナの再放送見るからさ」
「ヨン様相手に歓声上げるんだな」
問題のスタントロンではないと知り、安心して告げるガスケット達だが――
「まぁまぁ、そう言わずに、詳しい話を聞かせてもらおうか」
そんな二人の肩を、ファストエイドがまるで解雇宣告でもするかのように叩いていた。
「このレースの勝者がニトロコンボイに挑んで倒す、だと?
このオーバーライド様を差し置いて、ずいぶんとデカい口を叩いてくれるな」
「うるさい! そこをどけ!」
新たなトランスフォーマー、オーバーライドの言葉に言い返し、インチアップが殴りかかるが――
「フンッ」
次の瞬間、インチアップの姿はオーバーライドの眼前から消えていた。
オーバーライドが無造作に振るった右腕の一撃で、ハイウェイの外まで弾き飛ばされたのだ。
さらに――
「こいつは、土産だ!」
そんなインチアップにメナゾールが追い討ちをかけた。手にしたビーム砲でインチアップにビームの雨を降らせる!
「や、やめろ!」
さすがに見かねて声を上げるエクシリオンだが、
「うるさい」
オーバーライドは突っ込んできたエクシリオンの体当たりをかわし、逆に蹴りの一発でハイウェイの壁に叩きつける。
「エクシリオン!
このぉっ!」
続いて、ブラーがオーバーライドへと突っ込むが、オーバーライドは彼の蹴りを易々と受け止め、インチアップのすぐとなりに叩きつける!
「バカめ。
このオレに挑むことといい、ニトロコンボイに速さで勝とうとすることといい、救い難い阿呆どもだな」
「な、何だと……!?」
うめくエクシリオンへと近づくと、オーバーライドはその顔面をつかんでエクシリオンを持ち上げ、
「どうせ速さじゃ勝てないんだ。
なら、こっちはパワーにモノを言わせて叩きつぶしてやればいいんだよ」
「そんなマネが、できるか!」
言い返し、捕まったまま至近距離から腕のミサイルを撃ち込むエクシリオン。だが――
「――なるほど。
この程度のパワーじゃそっちもムリか」
オーバーライドには傷ひとつついていない。笑みと共に告げ――エクシリオンを投げ飛ばし、再び反対側の壁に叩きつける。
そして、
「フォースチップ、イグニッション!」
告げると同時――彼はフォースチップをイグニッションした。
だが――チップが違った。刻まれた紋章は確かにスピーディアのものだが、縁には鋭利な突起がまるで円盤ノコギリのように並び、全体的に凶悪な印象を受ける。
そして何より色が違う。スピーディアのフォースチップが赤色なのに対し、彼が使ったチップは地球のフォースチップの青色よりもさらに濃い――藍色をしていた。
だが、そのことを詮索している余裕はない。オーバーライドはその背中に巨大なキャノン砲を展開し、エクシリオンに向け、
「ライド、バスター!」
放たれた閃光は、かろうじてかわすことができたエクシリオンの脇を直撃した。
なんとか直撃は避けられたが――衝撃で背後のガケが崩れた。無数の岩が、エクシリオンに降り注ぐ!
「ぅわぁっ!」
「レースなど、所詮最後にゴールをくぐった者が勝者――なら、相手がゴールをくぐる前に粉砕してやればいい。それで相手が死のうが知ったことか。
それが、オレ達スタントロンのやり方なんでな」
言って、オーバーライドは生き埋めとなったエクシリオンにもう一度照準を定め――突然、彼の足元をビームによる攻撃が叩いた。
そして、
「トランスフォーム!」
ロボットモードへとトランスフォームし、ギャラクシーコンボイがオーバーライドの前に立ちふさがった。
そのライドスペースにはなのはの姿もある。あの会談からそのままアースラ経由で直行してきたため、意図せずして連れてくる形となってしまったのだ。
そして、彼らに続いてサイバトロン基地から駆けつけてきたベクタープライムとガードシェルも着地し、オーバーライドと対峙する。
「ガードシェル、真雪。
エクシリオンを頼む」
「了解」
「はいよ」
「私も行こう」
ギャラクシーコンボイの言葉にガードシェル達やベクタープライムがエクシリオンの元に向かい、ギャラクシーコンボイはオーバーライドへと向き直り、
「お前は、一体何者だ!?」
その問いにオーバーライドは答えない。しばしギャラクシーコンボイを値踏みするかのように眺め、
「……フンッ。
帰るぞ、メナゾール」
「はい?
なんだ、もう引き上げですかい?」
「興ざめだ」
答えるオーバーライドの言葉に、ずっとインチアップとブラーをいたぶっていたメナゾールは肩をすくめてオーバーライドに合流する。
「待て!
何者なのかと聞いている!」
そんなオーバーライドにギャラクシーコンボイが告げると、オーバーライドは振り向き、ようやく名乗った。
「スタントロン・リーダー。
暴走大帝、オーバーライドだ」
「同じく、暴走公爵、メナゾール」
そう名乗ると、オーバーライドは多脚式の戦車に、メナゾールは大型の武装トレーラーにトランスフォームし、走り去っていった。
「ギャラクシーコンボイさん……」
「うむ」
もう危険はなさそうだ――ライドスペースから降り、声をかけるなのはにギャラクシーコンボイはうなずいた。
「彼は『暴走“大帝”』と名乗った……
『破壊大帝』であるマスターメガトロンと同じく『大帝』の名を継ぐ者、か……」
と、その時――
「トランスフォーム!」
咆哮し、こちらに向かってきていたファストエイドがロボットモードとなって着地した。
「あの人達は?」
「突然襲ってきたから、詳しいことは……
ただし、デストロンに協力している、ランドバレットとガスケットというはぐれ者を締め上げたところ、素性は判明した」
尋ねるなのはにそう答え、ファストエイドはギャラクシーコンボイに説明する。
「彼らは『スタントロン』と呼ばれる戦闘暴走グループのトップで、メナゾールとオーバーライドというそうです。
このスピーディアではレースに勝った者がより強いプライオリティを得る星なのですが――彼らはそのレースの勝利のために、他者への攻撃を最優先としている者の集団だそうです」
「それで……その情報をもたらした二人は?」
「逃げられました。
まったく、逃げ足の速い……」
ファストエイドがギャラクシーコンボイに答えると、
「ファストエイド。どういうことだ?」
救出したエクシリオン、そして倒れていたインチアップやブラーも救助し、ガードシェルが彼らに尋ねた。
「エクシリオン達は何でレースをしていたんだ?
お前達、プラネットフォースを探しに来ているんじゃなかったのか? 説明しろ」
「そ、それは……」
思わず口ごもるファストエイド――ガードシェルに抱えられたブラーも何も言えない。
まるで彼らの心情のように空に暗雲が立ち込める中、ギャラクシーコンボイはため息をつき、
「私も聞きたい。
どうやら、改めて報告を受け直す必要がありそうだ」
と、その時、
「ファストエイドも……ブラーも……
それに、クロノ達も、悪く……ありませんよ……」
そう口を開いたのはエクシリオンだった。
「これしか、なかったんです……
レースに勝てば、プラネットフォースが……手に、入ると……」
その言葉に、ベクタープライムとギャラクシーコンボイは思わず顔を見合わせる。
そして――ギャラクシーコンボイはエクシリオンに告げた。
「エクシリオン。
お前は当分の間、謹慎処分とする。
任務に関わる行動は、私の許可のない限り一切禁止だ」
「ギャラクシーコンボイさん!?」
傷つき、倒れたエクシリオンにその上謹慎処分――さすがに厳しすぎるのではないかと声を上げるなのはだったが、
「わかり……まし…た……」
本人はそれを素直に受け入れた。うなずいて――エクシリオンは意識を失い、その場に倒れ伏した。
空は完全に曇り、降り始めた雨がそんなエクシリオンの身体を冷たく叩いていた。
「礼は言わねぇからな。
あばよ!」
修理してくれたことに対しぶっきらぼうにそう告げると、インチアップはモンスタートラックにトランスフォームして走り去っていく。
それを見送り、ギャラクシーコンボイはガレージの中へと戻っていく。
そこでは、意識を失ったエクシリオンがメンテナンスベッドに寝かされていた。
「大丈夫? エクシリオンさん」
エクシリオンの顔をのぞき込み、尋ねるスキッズだがエクシリオンからの返事はない。
「スキッズ、今は寝かせておいてやるんじゃ」
そんなスキッズに言うと、オートランダーはギャラクシーコンボイへと向き直り、
「ギャラクシーコンボイさんといったね。
ワシらにはこのくらいのことしかできないが、明日には雨も上がるじゃろう。
むさくるしいところじゃが、好きに使ってくれ」
そう告げると、オートランダーはスキッズを連れて出て行く――それを見送った後、ギャラクシーコンボイはファストエイドに告げた。
「ファストエイド。
報告された内容と、ずいぶん違うようだな」
「すみません……
すべて、私の責任です……」
その言葉に、ギャラクシーコンボイはため息をつき、告げた。
「ファストエイド、ブラー。
二人もエクシリオンと同じ処分とする。謹慎だ」
「……なるほど、ね……」
すでに、提出するための詳しい経過報告は作成されていた。時空管理局本局――自身のオフィスでその書類に目を通し、リンディは目の前のクロノへと視線を戻した。
「事情は大体わかったわ」
「すみません、艦長。
彼らなら、なんとかできるだろうと思っていたのですが……」
職務上のやり取りであることを踏まえ、なるだけ私情を排して報告するクロノに、リンディはため息をつき、
「普段の任務上であれば、その判断でも問題はなかったのだろうけど……今回の任務の重要性は、クロノ執務官も理解していたはずです。
その上での事態放置と虚偽報告――覚悟がなかったとは、言わせません」
「どんな処分も、お受けします」
そのクロノの言葉に、リンディは告げた。
「そういうことなら、これより処分を通達します」
そして、リンディは立ち上がると、クロノに“処分”を告げた。
「ところで、プラネットフォースの捜索はどうなっているんだ?」
「まさか、ずっとレースばかりしていたワケじゃないよな?」
「いえ……プラネットフォースの在り処はわかっています」
オートランダーのガレージで、ファストエイドはギャラクシーコンボイとガードシェルの問いにそう答えた。
「ニトロコンボイというヤツが持っているんです」
「ニトロ、コンボイ……?」
「この星のリーダーです。
彼が、『レースで勝った者にプラネットフォースのついたトロフィーを渡す』と言っていたので……」
「それで、エクシリオンさんはレースを……」
ベクタープライムに答えるブラーの言葉に、なのはは眠ったままのエクシリオンへと視線を向ける。
「危険だ。
あまりに文化が違いすぎる――うかつな接触は、どんな事態を引き起こすか想像もつかない」
ベクタープライムが告げると、
「けど……それが悪い事態とも限らないでしょう?」
そう答え、彼女は突如現れた転送魔法の魔法陣から姿を現し――彼女に気づいたなのはが声を上げた。
「リンディ、さん……?」
「リンディ提督、なぜスピーディアに……?」
ギャラクシーコンボイも思わず声を上げるが、リンディはかまわずファストエイドに告げた。
「ファストエイド、謹慎中のところ申し訳ないんだけど……
私を、そのニトロコンボイのところに案内してくれないかしら?」
「リンディ提督を……?」
「宇宙どころか、近隣の次元世界をも巻き込む問題――この星だって、他人事ではないんです。
ニトロコンボイも、そのところを理解すれば、きっとわかってくれるわ」
「しかし……」
思わず反論しかけるファストエイドだったが、
「そういうことなら、代わりに私が同行しよう」
そう言い出したのはギャラクシーコンボイだった。
「なのは、エクシリオンを頼む。何かあったら連絡を」
「は、はい……」
異星のトランスフォーマーとの接触を禁じていたはずのギャラクシーコンボイから、まさか『自分が行く』という言葉が放たれるとは思っていなかった。彼の言葉に、なのはは思わずうなずいていた。
〈エンジンの吹き上がりOK。
前輪・後輪共にグリップOK。
制御システム、OKです。
ただし、シフトチェンジの時0.01秒タイムロスがあります〉
「問題ない。すぐに修正する」
ピットトランスフォーマーの言葉にそう答え、テスト走行を終えたニトロコンボイは雨の降り続く空を見上げた。
(サイバトロン、デストロン――どっちの言うことにも興味はない。
オレはただ、チューンの成果を試させてもらえればそれでいい。
くだらんこの星も、それで少しはおもしろくなるというものだ)
しかし――それでもまだ、素直に楽しめない部分があった。
(あの時、エクシリオンは――)
思い出したのは先のエクシリオンとのレースのことだ。
あの時、アクセルウィングを展開したエクシリオンのスピードは間違いなく自分の最高速度域と同等の域にあった。もし最初から全開で使えたら、もしあそこでスピンしていなかったら、勝負はどうなっていたかはわからなかった。
普通ならば対等に戦える強敵の出現におもしろみを感じるところだが――それが“フォースチップによるもの”だという点が気に入らなかった。
(あれほどのスピード――地力ならばどれだけ楽しませてくれたか……)
しかし、考えても仕方のないことだ。ニトロコンボイは自嘲気味にため息をつき――そこにやって来た者がいた。
リンディを乗せたギャラクシーコンボイである。
「……どう?」
「自己診断システムを外したこともあって、身体の各部にそうとうの負荷がかかっていた。
オーバーライドにやられた時のダメージだけじゃないな」
尋ねるなのはに、エクシリオンの診断を終えたファストエイドが彼の容態を説明する。
「ブラー、すまない。
お前のフォローがなければ、もっとひどいことになっていただろう」
「……ま、仲間だからな」
ファストエイドの言葉に、ブラーはプイとそっぽを向いて答え、
「良くはなるのか?」
「本音を言わせてもらえば、すずかや忍さんにも来てもらいたかった、というところですか……」
尋ねるベクタープライムに、ファストエイドは肩をすくめ、
「まぁ、多少荒療治になりますが、なんとかやってみます。
美緒、確かキミもバイクを扱っていたね。すまないが手伝ってくれ」
「らじゃったのだ!」
ファストエイドの言葉に美緒が答え、二人はエクシリオンの手当てに取り掛かった。
「エクシリオン、どうだって!?」
「今、ファストエイドと美緒が手術中だそうだ」
エクシリオンのことはサイバトロン基地にも報せが届いていた。駆けつけ、尋ねる忍にドレッドロックが答える。
「ファストエイドがそばにいたことが不幸中の幸いだった。
彼なら、何とかしてくれるだろう」
「よかった……」
ドレッドロックの言葉に、すずかは思わず安堵のため息をもらす。
そして、モニターに映し出されていたエクシリオン達の手当ての様子を見ながらつぶやいた。
「お願い、ファストエイド、美緒さん……
エクシリオンを助けて……!」
祈ることしかできない――すずかは、今の自分がどれだけ無力かを思い知らされていた。
一方、惑星アニマトロス――
「ここが、アニマトロスか……」
「そのようだな」
転送が終わって大地に降り立ち、つぶやくシグナムの言葉に、スターセイバーは静かにうなずいた。
「では、さっそくプラネットフォースを探すとしよう」
「あぁ。
トランスフォーム!」
シグナムに答え、スターセイバーはジェット機へとトランスフォーム。シグナムを乗せて火山の噴煙の立ち込めるアニマトロスの空へと飛び立った。
(初版:2006/04/09)