〈トップはニトロコンボイ! 続いてインチアップ!
 それを追うのはアトラス、そしてサイバトロンのレーサーコンビ、ブラーとエクシリオン!
 やはり、予想通りの展開になっています!〉
 パズソーの実況の中、ニトロコンボイを先頭としたトップグループはハイウェイを疾走していく。
「エクシリオン、ムリはするな!
 お前が全開で走っても走りきれる距離まで、オレ達が引っ張ってやる!」
「今は黙ってついてくるのだ!」
「わかった!」
 ブラーと美緒の言葉に答え、エクシリオンはブラーのスリップストリームの中で力を温存しながらニトロコンボイを追う。
「この勝負――絶対に勝つぞ!」
『おぅっ!』

 時空管理局本局――
 グレートレースの様子を、リンディは自分のオフィスに設置したモニターで観戦していた。
「スピーディアのプラネットフォースについては、彼らの活躍に期待するしかないようね……」
「そうですね……」
 つぶやくリンディにエイミィがうなずき、彼女のために煎れてきたお茶を差し出す。
 それをいつものように砂糖をしこたま入れて飲み干して――リンディは告げた。
「じゃあ、その間に私達は私達の仕事をしちゃいましょう」
「はい」

 そして、惑星アニマトロス――
「大丈夫かい? スカイリンクス」
「心配するな。
 この程度の傷、何ということはない」
 こちらの身を案じ、尋ねるアルフにスカイリンクスはそう答えた。
「すまぬ、油断してしまった」
「アンタが謝ることないよ。
 それより……」
「うむ……」
 アルフに答え、スカイリンクスは周囲を見回す。
 そこに――フェイトの姿はなかった。

 

 


 

第17話
「孤高の戦士
その名はビッグコンボイさんなの」

 


 

 

 事態は、ほんの少し前にまでさかのぼる――
「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮と共に、ビーストモードのスカイリンクスは目の前のバッタ型トランスフォーマーにかみつき、そのまま力いっぱい投げ飛ばす。
 そして――
「バルディッシュ、ランサー、セット!」
〈Get set!〉
 フェイトの言葉にバルディッシュが答えると同時、彼女達の周りに多数の雷光が生まれ、
「ファイア!」
〈Photon Lancer!〉
 放たれたそれらの雷光が別の1体、カブトムシ型トランスフォーマーを直撃。巻き起こった爆発で吹き飛ばす。
 フェイト達が降り立った地からフレイムコンボイのいる王の神殿にたどり着くためには、近隣の村を襲っている盗賊達“バンディットロン”達の縄張りを通らなければならなかった。危険を承知の上で足を踏み入れたフェイト達だったが、案の定、ガケに面した山道で襲撃を受けていた。
 とはいえ、幾度となく繰り返してきたデストロンとの戦いによって、すでに対トランスフォーマー戦でも百戦錬磨となりつつあるフェイト達の敵ではなかったのだが。
 しかし――事態は突然動いた。
「――――――っ!
 スカイリンクス、危ない!」
 とっさに叫び、フェイトがスカイリンクスの背後に飛び出し、
〈Defensor〉
 バルディッシュが防壁を展開。飛来した炎の弾丸を受け止める。
 そして、彼女達の前に攻撃の主が姿を現した。
 他のバンディットロン達よりも一回りも二回りも巨大な、T-REX型のビーストモードを持つトランスフォーマーである。
 その巨体から発せられる威圧感もケタが違う――どうやらこいつが親玉のようだが、一筋縄ではいきそうにない。
「こいつ……!」
「強い……!」
「気をつけろ、アルフ、フェイト」
 相手の実力を感じ取り、うめくフェイト達にスカイリンクスが告げた。
「あやつがバンディットロンの首領だ。
 略奪大帝スカージ――我輩やフレイムコンボイですら、楽には勝てん相手だぞ」
「偉そうに言ってくれるな」
 スカイリンクスに答え、スカージは不敵な笑みを浮かべた。
「しかし、珍しいものだな。余計な争いを好まぬ貴様がこんなところをうろついているとは。
 観光協会でバイトでも始めたか? なら、ウチのアジトもコースに加えてくれるとありがたいな、もちろん金は取るが」
「客人の案内中でな。
 すまぬが、通してもらえるとありがたい」
 告げるスカイリンクスだが、スカージはそんな彼の言葉を鼻で笑い飛ばし、
「盗賊が自分の縄張りに入った者を素直に通すと思っているのか?
 スカージ、トランスフォーム!」
 スカイリンクスに答え、ロボットモードにトランスフォームしたスカージは重心を落とし、今にも飛び掛らんと力を蓄える。
 対して、スカイリンクスも身を沈め――

「チョッキンなぁ……」
 仲間からは毛嫌いされている口癖と共に、ビーストモードのランページは木の陰からその様子をうかがっていた。
「地球の用事も済んでこっちに戻ってきたら……なかなかおもしろいことになっとるのぉ」
 『おもしろいこと』――もちろん、スカイリンクスとスカージの対峙である。
 どうしたものかと思考を巡らせ――決めた。
「ここは、あの魔導師の小娘でもつぶしておこうかのぉ」
 ミッドチルダの魔導師がいると後々厄介だ。ここで早々に退場してもらうことにし、ランページは攻撃態勢に入る。
「ランページ、トランスフォーム――タンクモードじゃあっ!」
 咆哮し、ランページはビースト形態からロボット形態――ではなく、ランチャーを腹部に備えた戦車形態へと変形し、
「よぉ〜〜く狙って……」
 言いながら、フェイトへとそのランチャーの狙いを定める。
 そして――
「ミサイル、バーンじゃあっ!」
 彼女に向けて、その一撃が放たれた。

「――――――っ!?」
 突然飛来したランページのミサイル――とっさにフェイトはバルディッシュをかまえる。
 が――防御は間に合わなかった。
「きゃあっ!」
 ディフェンサーが完全に発動するよりも前にミサイルは不完全な防壁を直撃。巻き起こった衝撃に吹き飛ばされたフェイトはすぐ脇のガケの下へと転落していく。
「フェイト!」
「何奴!?」
 あわてて声を上げるアルフとスカイリンクスだが、
「貴様らにも、ミサイル、バーンじゃいっ!」
 そんな彼らにもランページはミサイルをお見舞いした。とっさにスカイリンクスがアルフをかばうが、足元に着弾したミサイルの爆発によって足場が崩れ、二人もまたガケから転落していく。
「はんっ! ざまぁみろじゃい!」
 強敵に一撃を見舞うことに成功し、ランページが調子に乗って叫ぶが、
「貴様か……勝負に横槍を入れたのは!」
 そんなランページに怒りの声を上げたのはスカージだった。
「せっかく、久しぶりに暴れられると思ったのに、よくもジャマしてくれたな!
 フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮し――アニマトロスの紋章の刻まれた、“ガンメタルの”フォースチップをイグニッションしたスカージの背中――ビーストモード時の大腿部の装甲パーツが分離。それぞれが1本ずつ、巨大な鉤爪を備えた手甲となると、合体してスカージの左腕に接続される。
「ダイノ、スラッシュ!」
 そして、スカージはランページに向けて跳躍。とっさに後退したランページの足元をその一撃で粉々に粉砕する。
「おっとと、触らぬ神になんとやらじゃ。“仕事”もあるしのぉ。
 っつーワケで――貴様との勝負はおあずけじゃ!」
 しかし、ランページにはスカージとまで事をかまえるつもりはなかった。言うなり煙幕を噴射し、その場から姿を消していった。

 そして、時間は現在に戻る――

「ただでさえジャックショットやアルクェイドとはぐれちゃったのに、この上フェイトとまで……」
「お主はフェイトと精神がリンクしているのだったな?
 何かわからんのか?」
 うめくアルフにスカイリンクスが尋ねるが――アルフは首を左右に振った。
「わからない……
 たぶん、まだ気を失ってるんだと思うけど……そもそも、この星って生命力が強すぎるんだよ。おかげで自然の中の魔力も強すぎる上に安定してなくて、一種のジャミングフィールドになってるみたいなんだ。
 だから、フェイトが目を覚ましてもうまくリンクがつながるかどうか……」
「そうか……」
 アルフの言葉に、スカイリンクスはため息混じりにアルフをくわえて持ち上げ、半ば放り投げるように自分の背中に乗せる。
「とにかくフェイトを探そう。
 このままここにいてもどうにもなるまい」
「そう、だね……
 けど、どうやって探すんだい? 匂いで追えればいいけど、火山のせいで硫黄の匂いがキツくて……」
「案ずるな。
 我輩達アニマトロスのトランスフォーマーの嗅覚は、有機生命体のそれよりもはるかに優秀だ」
 答え、スカイリンクスはフェイトの匂いを嗅ぎ取ろうと鼻を鳴らし――ポツリと一言。
「……あ、田中さんち今日カレーだ」
「誰だよ!?」

「エクシリオン、聞こえるか?」
〈はい、ギャラクシーコンボイ総司令官!〉
 声をかけるギャラクシーコンボイに、エクシリオンからの返事はすぐさま返ってきた。
「エクシリオンさん、大丈夫?
 どこかおかしなところとかない?」
〈あぁ、問題ないさ!〉
 なのはの問いにも、エクシリオンは自信タップリにそう答える。
〈ギアを落としさえしなければ、ヤツらと互角――いや、それ以上の走りをしてやるさ!〉
〈おいおい、まだ飛ばすなよ。
 お前はオレ達の切り札なんだからな〉
〈わかってるよ!〉
 ブラーの言葉にエクシリオンが言い返すのを聞き、なのはは思わず笑みをこぼし――
「………………ん?」
 ふと、ユーノは後方からランドバレットとガスケットが迫ってきているのに気づいた。
「このデカブツ、超ジャマ。
 ミサイルとか撃っちゃおうか」
「スタントロンもやってることだし、意外と早いしな」
 ランドバレットの言葉にガスケットが同意するが――ユーノはつぶやいた。
「ムリだと思うけど」
 その瞬間――
『フォースチップ、イグニッション!』
 シオンとファストエイドの咆哮が響き、二人がフォースチップをイグニッション。フォトンビームを展開する。
「撃てるものなら、撃ってみろ!」
「その時はこちらも撃つ!」
 ファストエイドの言葉にガードシェルも同意。二人はランドバレット達の背後にピタリと張りついて照準を合わせる。
「おいおい、冗談よせよ」
「正義の味方が後ろから撃つなんてなしだぜ」
 しかし、まさか背後から無抵抗の相手を撃つワケがない――そんな確信の元にガスケットとランドバレットが告げるが、
「バレルレプリカ、フルパワー!」
 シオンの咆哮が響き――巻き起こった閃光が二人を吹き飛ばす!
『のえぇぇぇぇぇっ!?』
 予想だにしなかった一撃をくらい、二人はスピンしながら後方に消えていき――それをファストエイドから身を乗り出して見送りつつ、シオンは告げた。
「残念でしたね。
 私は『正義の味方』ではありませんから」

「にゃろうっ!」
「やってくれたな!」
 うめいて、スピン状態から回復したガスケットとランドバレットは再びレースに復帰する。
「そういうことなら、ボクちん達だって遠慮しないからな!」
「遠慮なく撃っちゃおうっと♪」
 ガスケットの言葉にランドバレットが同意し――
「同感だ」
 オーバーライドが告げると同時――彼らスタントロンの攻撃が二人に降り注いだ。

「クロノ」
「あ、艦長……」
 現れたリンディに声をかけられ、彼女に気づいたクロノは振り向いて応えた。
 その場には耕介や恭也の姿もある。今後のことについての連絡を受けるため、クロノによって呼ばれていたのだ。
「例の件についての事件資料、読んだ?」
「はい。さっき、全部……」
 リンディの問いに、クロノは静かにそううなずく。
 『例の件』が何を意味するか、今さら確認するまでもなかった。言うまでもなく――なのはとギャラクシーコンボイがヴォルケンリッターに襲われた件だ。同様に資料をもらっていた恭也がリンディにその内容の確認を取る。
「オレ達の世界が中心なんですよね。
 この、『魔導師襲撃事件』は……」
「えぇ。
 何ヶ所か遠出しているみたいだけど……基本的には恭也さん達の世界から、個人転送で行ける範囲に、ほぼ限定されているわね」
「つまり、オレ達の世界に拠点があるってことか……まずはそれを探さないといけないですね」
 恭也へ答えるリンディの言葉に耕介が言うが、それにはひとつ問題があった。
「けど、恭也さん達の世界はこの本局の次元座標からだとかなり遠いんです。
 中継ポートを使わないと対応しきれない……」
「アースラが使えないのは、大きな痛手だな……」
 その『問題点』を告げるクロノに耕介がつぶやくと、今度は恭也が尋ねた。
「代わりの艦船はないのか?」
「長期稼動できる艦は、2ヶ月先まで空きがないらしくて……
 時空管理局の艦船については、ほぼ手詰まりと思っていいと思います」
 クロノがそう答えると、
「……仕方ないわね」
 そう口を開いたのはリンディだった。
「ちょっと早いけど……“あの手”でいきましょうか♪」
『あの手……?』
 思わず顔を見合わせる耕介と恭也――しかし、クロノはもっと別の部分を聞きとがめていた。
「……“ちょっと早い”?
 艦長、また何か裏で手を回してたんですか?」
「あら、言ってなかった?」
「毎回言ってる気がしますけど……ちゃんと『報・連・相』を遵守してくださいよ艦長」
 あっさりと聞き返してくるリンディに、クロノはムダと思いつつもツッコミを入れるのだった。

 一方、アニマトロスでは、スカイリンクスとアルフは未だフェイトを発見できずにいた。
「ふ〜〜ん、佐藤さんちはラーメンか……」
「だから、誰なんだよソイツは?」
 フェイトの匂いを追っている(なんだか違うものまで嗅ぎ取っているようだが)スカイリンクスの言葉に、アルフは完全に毒気を抜かれてうめく。
 落下地点を中心にフェイトを探し回る二人だが――そのフェイトは、すでに彼らの近くにはいなかった。

「…………ん……」
 フェイトが目を覚ますと、彼女はどこか柔らかなものの上に寝かされていた。
 身を起こして確かめてみたところ、そこがやたらと巨大なベッドだとわかった。
 そして周囲を見回し――気づく。
 彼女がいるのは、アースラの自室を思わせる一室だ――しかし、このベッドを始め、置いてあるものはすべてが巨大だ。まるで、自分が縮んでしまったかのような錯覚すら覚える。
 同時に気づいた。自分が寝かされているのはただのベッドではない――まぁ、巨大な時点で『ただのベッド』なワケがないのだが――トランスフォーマー用のメンテナンスベッドだ。その一角にクッションを敷き、フェイトを寝かせるベッドにしていたのだ。
「ここは……?
 わたし、確かアニマトロスで……」
 思わずフェイトがつぶやくと、
「気がついたか」
 そんな彼女に、声をかけた者がいた。
 ひとりのトランスフォーマーだ。この部屋の主だろうか。
「ここはオレの住処だ。
 といっても、アニマトロスに立ち寄った時にしか利用しないから……どちらかといえば別荘、といったところか」
「あ、あなたは……?」
 尋ねるフェイトに、トランスフォーマーは答えた。
「オレの名は、ビッグコンボイだ」
「ビッグ……」
 告げられた彼の名を反芻し――フェイトは気づいた。思わず彼を見返し、驚きの声を上げていた。
「――“コンボイ”!?」

「くっそぉ……ひどい目にあった……」
「散々なんだな……」
 ズタボロになりながらも、なんとかスタントロンからは逃げおおせた――ボヤきながら、ガスケットとランドバレットは再びギャラクシーコンボイ達に追いついてきた。
「こいつらもさっさと抜いて、先を急ごうぜ」
「こんなところで油売ってなんかいられないっての」
「お前ら、また悪さするつもりか!?」
「こ、こら、真雪、危ない!」
 ガスケット達の言葉を聞きつけ、窓から身を乗り出してわめく真雪をガードシェルがたしなめるが、
「悪さなんかしないっての!
 トランスフォーム!」
 そう告げると、ガスケットはロボットモードとなってランドバレットの上に飛び乗り、
「いっけぇっ!」
 投げつけたロープのようなものが、彼らの前方のギャラクシーコンボイにからみついた。
「何だ……?」
「ロープ――でしょうか……?」
 それを見てファストエイドとシオンがうめくが――
「ブー。不正解」
 その言葉に、ガスケットはあっさりとダメ出しをしていた。
「ロープじゃなくて――」
 彼が告げる間にも、ロープはゆっくりと伸びていき――
「バネだよ!」
 その瞬間、限界まで伸びきったスプリングがガスケットを勢いよく前方に放り出す!
 そして、ガスケットは空中でビークルモードにトランスフォームするとギャラクシーコンボイの前に着地し、
「そぉれ、煙幕でもくらえ!」
「ぅわっ!?」
「わぁっ!」
 ガスケットの噴射した煙幕に視界を遮られ、ギャラクシーコンボイとなのはは思わずうめいて速度を落とす。
 そのスキにランドバレットもギャラクシーコンボイを抜き去り、二人で悠々と前方のニトロコンボイ達を追い――
〈ランドバレットとガスケット、スピーディアの鼻つまみコンビ、猛ダッシュ!
 人気はなくてもスピードはある!〉
「うるさい!」
「ほっとけ!」

 レース開始前から自分達を軽く扱いまくるパズソーの実況に、ランドバレットとガスケットは口々に言い返す。
「だいたい、お前も何か手伝えよ!」
「やかましいっ! オレの仕事は実況だ!」
 文句を言うガスケットに言い返し――パズソーは胸中で付け加えた。
(それに……手出しするな、ってスタースクリームの旦那に言われてるんでね。
 ま、アイツらと違ってオレが手出しすると目立ちすぎるからな、当然なんだけど)
 だがこの時――パズソーは気づいていなかった。
 スタースクリームの指示、その真意は別にあるということを――

「へっ、ざまぁみろ!」
「悪いが、先に行かせてもらうぞ!」
 若干距離を取っていたおかげで煙幕の被害にあわずに済んだ――なんとか体勢を立て直そうとするギャラクシーコンボイに言い残し、ヴィータとジンライは悠々と彼らを抜き去っていく。
「けほっ、けほっ……
 ギャラクシーコンボイさん、抜かれちゃったよ!」
「わ、わかっている……!」
 咳き込むなのはに答え、ギャラクシーコンボイがようやく機動を安定させると、
「総司令官、なのは!」
「二人とも無事か!?」
「う、うむ……」
「はぁい……」
 追いついてきて尋ねるファストエイドと真雪にギャラクシーコンボイとなのはが答え、
「一応、ボクもいるんだけど……」
「す、すまない、ユーノ……」
 そんな彼らにユーノから抗議の声が上がり、ガードシェルが思わず謝罪する。
「とにかく、彼らは我々で追います!」
「わかった!」
 気を取り直し、告げるファストエイドにギャラクシーコンボイが答えると、
「ギャラクシーコンボイさん、なのはちゃん!
 ボク達も行ってきます!」
「こ、こら、スキッズ!
 子供のお前が行ったところでどうにもなるまい! 安全運転を心がけるんじゃ!」
 そんな彼らに告げてスキッズやオートランダーも先行し――
「またボクだけ……」
 ユーノはまたしても忘れられていた。

 そのレースの様子を、スタースクリームとラナバウトは地球からモニターしていた。
「あいつら、なかなかやりますね」
「あぁ」
 ラナバウトに適当に相槌を打ちながらも、スタースクリームはモニターから目を離さない。
(フンッ、ご苦労なことだ。
 せいぜいがんばって、プラネットフォースを手に入れてくれよ……)
 しかし、彼にとって問題なのはあくまでプラネットフォースのみ。ランドバレット達の活躍など二の次にすぎない。
 パズソーの手出しを控えさせたのも将来のための布石だ。ガスケット達と距離をとらせ、時機を見て自分の側に引き抜こうというのだ。
 と――
「悪い悪い、遅くなった!」
 言って、そこにサンダークラッカーが飛来した。
「遅いぞ、サンダークラッカー。
 いったいどこに行ってたんだ?」
「ハハハ、まぁ、ヤボ用ってヤツだよ」
 遅刻を咎めるラナバウトにサンダークラッカーが答えると、
〈スタースクリーム〉
「マスターメガトロン様」
 突然マスターメガトロンから通信が入った。サンダークラッカーとラナバウトが姿勢を正す中、スタースクリームも座っていた岩から立ち上がる。
〈惑星スピーディアの様子を知っているか?〉
「はい。
 今モニターをしておりました」
〈そうか。なら話は早い。
 お前もラナバウトと共にスピーディアに向かえ。あの二人をサポートするのだ〉
 しかし――
「それはできません」
 スタースクリームはあっさりとそれを断った。
〈何?〉
「私は車にトランスフォームできません。行っても役には立てませんし――そもそも、もはやレースの始まった現状では選手として潜り込むこともできませんから、今さらラナバウトを送り込むのも得策ではないかと。
 それに、まだ地球ですることも残っております」
〈………………フンッ〉
 その言葉に、マスターメガトロンは何か答えるでもなく、口を尖らせて通信を切ってしまった。
「スタースクリームの旦那、いいんですか?
 マスターメガトロン様、しっぶい顔してましたよ」
「いいんだ」
 尋ねるサンダークラッカーにも、スタースクリームはあっさりと答えた。
「すべてに『はい』と答えるのがよい部下ではない」
「そういうもんですかねぇ……」
 なおも首をかしげて見せるサンダークラッカーに、スタースクリームは告げた。
「地球人が、おもしろい統計データを残している。
 リストラ対象者には、問題児よりもイエスマンの方がむしろ候補に挙がりやすい――何でも従うから、素直にやめてくれそうだから、とな」
 言って、飛び去るスタースクリームを見送り――サンダークラッカーはラナバウトに尋ねた。
「オレ、リストラされるの?」
「さぁて、ね」

〈先頭は依然ニトロコンボイ! その後を追うのはインチアップ、ブラー、エクシリオン!〉
 レースも中盤。S字カーブを駆け抜けていくニトロコンボイ達を、パズソーは上空から実況する。
〈その背後から、猛烈な追い上げを見せるのは、意外なことにランドバレットと、ガスケット!〉
「えぇっ!?」
 しかし、パズソーの挙げた名前には意外なメンツが混じっていた。あわてて美緒が後方をモニターで確認し――
「ぅわぁ……」
 思わずうめいた。
 なんと――ランドバレットがガスケットを運転する形でこちらを追い上げてきていたのだ。
 確かにガスケットの方が基本スペック上ではスピードで上回っている。悠長にランドバレットと二人で追ってくるよりは効率がいいのだが――
「よく落ちないのだ……」
 ランドバレットが乗るには、ガスケットはあまりにも小さすぎる――美緒はいろいろな意味で感嘆の声をもらしていた。

 一方、舞台は再び地球――
 信号待ちをしていた1体のトランスフォーマーの脇を、車線を無視して1台の車が猛スピードで駆け抜けていった。
 犯罪者の乗る逃走者だ。目の前の信号も平然と無視し――横から突っ込んできた別の車と衝突。追ってきたパトカーに包囲される。
「……まったく……地球人とはなんと秩序のない生き物なのだ……」
 その光景は、秩序を重んじる彼には理解しがたいものだった。すぐに交通整理に取り掛かる警官の誘導に従い、彼はその場を通り過ぎていった。

 彼の名はデモリッシャー。かつてサイバトロン軍にも従軍していた経験のあるトランスフォーマーである。
 そんな彼も今や移民トランスフォーマーのひとりにすぎない――軍を離れ、自由となったデモリッシャーにとって、この暮らしには何の責任も伴ってはいなかった。
 結果――ごく自然に現状への愚痴をこぼせてしまう。
「自分達で信号を作っておきながら、それを守らずに事故を起こす――矛盾している。
 地球人とは、何と愚かなのだ……」
 と――そんな彼の頭上を何かが駆け抜けた。
『トランスフォーム!』
 咆哮し、自らの前に着地した二人のトランスフォーマーの姿に、デモリッシャーは見覚えがあった。
 忘れもしない。従軍時代に何度も戦った相手なのだから。
「スタースクリームに、サンダークラッカー!」
 驚いて声を上げるデモリッシャーだが、さらにそこへ背後からラナバウトが追いついてくる。
 つまり――完全に挟撃の体勢だ。
「おのれ、デストロンめ!
 デモリッシャー、トランスフォーム!」
 咆哮し、デモリッシャーはロボットモードへとトランスフォームし――そんな彼を、スタースクリームは意味ありげな笑みと共に見返した。

「やった!
 ついにとらえた!」
 スピーディアでのレースに動きがあった――エクシリオンをスリップストリームで引っ張りながらではあったが、ブラーはついにインチアップのとなりに並ぶことができた。
 さらに、
「追いついたわよ!」
「後尾追従」
 その後方にはシャマルの運転で猛烈な追い上げを見せていたアトラスがいた。こちらはインチアップのスリップストリームに入り、いつでも追い抜く準備は万端だ。
「くっそぉ……!」
 このままでは抜かれる――思わずうめくインチアップだったが、
「………………ん?」
 ブラーのその向こう側に、意外な顔を見つけた。
 ランドバレットとガスケットである。
「んじゃ、やりますか?」
「やりますか♪」
「お、おい! 何やるんだよ!?」
 ガスケットの言葉にランドバレットが答えるのを聞きつけ、インチアップは思わず聞き返し――
「もちろん、レースのジャマよ!」
 ガスケットが答えると同時に後退し――その向こう側から、ランドバレットの体当たりがブラーを襲う!
 さらに、弾かれたブラーはそのままとなりのインチアップに激突。さらに後方のエクシリオンやアトラスもそれに巻き込まれ、彼らは一斉にスピンしてしまう。
「へへん、おっ先ぃ♪」
「バイバイなんだなぁ♪」
 言って、置き土産とばかりに煙幕まで放つと、ガスケット達はそのまま走り去っていく。
「ぅわわわわっ、目が回るぅ〜〜っ!」
「くそっ、大丈夫か、エクシリオン!?」
 わめくインチアップのとなりで、ブラーが後方のエクシリオンに尋ねるが、
「心配するな!
 オレはこんなところで止まるワケにはいかない!」
 その問いに、エクシリオンはキッパリと答えた。
「止まったら加速に時間がかかる――ここまで引っ張ってくれたお前らや、4速につないでくれたファストエイドに申し訳が立たないぜ!」
 うめいて、エクシリオンはなんとか姿勢を回復させ、そのまま再び先頭グループを追う。
「ぶ、ブラー、エクシリオン行っちゃうのだ!」
「お、おぅっ!」
 エクシリオンをフォローしなければ――あわてた美緒の言葉に、ブラーはなんとか体勢を立て直してエクシリオンを追う。
「しっかりするのだ、ブラー!
 あたしのパートナーがそんなザマなんてまっぴらなのだ!」
「わかってるよ!」

「大丈夫か!? シャマル!」
「な、なんとかね……」
 なんとかクラッシュは免れたものの、大きくペースダウンしてしまったシャマルは、追いついてきたジンライの問いにそう答える。
「まったく、油断してるからそうなるんだ」
「わ、わかってるわよ!」
 ヴィータの言葉に思わず言い返すと、シャマルはハンドルを握り直し、
「あの二人――絶対許さないんだから!
 アトラス、スピード全開!」
 言うと同時に一気に加速。アトラスのタイヤが悲鳴を上げるのにもかまわずトップグループを追ってい――それを見送りながら、ジンライはヴィータに尋ねた。
「……ヴィータ」
「ん?」
「たまに思うんだが……アイツ、アトラスが自分のパートナーじゃないってこと、忘れてないか?」
 その言葉に、ヴィータは思わずコメントに困り――
「追いついたぞ!」
「――――――っ!?」
 かけられた声に振り向くと――そこにはギャラクシーコンボイの姿があった。

「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮し、デモリッシャーはサンダークラッカーに向けて左手のクレーンを思い切り伸ばして突きを繰り出す。
 だが、サンダークラッカーはその突きをあっさりかわし、
「オラぁっ!」
 逆に、デモリッシャーを蹴り飛ばす!
「おのれぇっ!」
 だが、デモリッシャーも『元』とはいえ軍人だ。やすやすとやられはしない――なんとか体勢を立て直し、咆哮した。
「フォースチップ、イグニッション!」
 その叫びに応えて青色のフォースチップが飛来。デモリッシャーのチップスロットに飛び込むと、左手のクレーンが伸び、その先端に巨大な刃が現れる。
「メガクレーン、ブレード!」
 叫ぶと同時に斬りかかるデモリッシャーに対し、サンダークラッカーはあわててその場から離脱する。
 すかさず、大地に叩きつけたメガクレーンブレードを利用して棒高跳びのように跳躍。デモリッシャーはサンダークラッカーに追撃の蹴りを放つ。
 が――当たらない。蹴りをかわされ、逆に無防備となった背中を蹴り飛ばされる。
「とどめだ」
 現役と退役――その差が戦闘力に如実に現れた。サンダークラッカーはとどめを刺そうと左手のビーム砲をかまえ、
「フォースチップ、イグニッ――」
「すとぉーっぷっ!」
 今まさにフォースチップをイグニッションしようとしていたサンダークラッカーを、ラナバウトの放ったドロップキックが襲った。
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
「端役は引っ込め。主役の出番だ」
 ラナバウトの豪快な制止を受け、ゴロゴロと転がっていくサンダークラッカーにそう言い放ち、スタースクリームはデモリッシャーへと向き直った。
「貴様の実力を試させてもらうためとはいえ、サンダークラッカーが失礼した。大変申し訳ない」
「試す、だと……?」
 ガラにもなく丁寧に告げるスタースクリームに、デモリッシャーは怪訝な顔をして立ち上がる。
 そんな彼に――スタースクリームは告げた。
「なぜ我々トランスフォーマーが、愚かな人間達に気を使って生きなければならないのだ?」
「何……?」
「ギャラクシーコンボイが宇宙を救うためにさっそうと活躍している一方で、お前は地球でみじめにも人間達から隠れて暮らしている――
 自分が無様とは思わないのか?」
「む、むぅ……」
 その言葉に、デモリッシャーは答えることができない。
 当たり前だ。彼自身、自分で決めたルールすら守れない人間達を軽蔑していたのだから。
 そんなデモリッシャーの心情を見透かしたのか、スタースクリームは笑みを浮かべて告げた。
「私の仲間になれ、デモリッシャー。
 そうすれば、愚かな人間達に気を使って生きる必要もなくなる」
「し、しかし……」
 スタースクリームの言っていることが正しいとは思えない。だが、間違っているとも断言できず、デモリッシャーは言葉をにごす。
 だが――
「むろん、無理強いはしない。お前が好きにすればいい。
 ついて来るもよし、拒否するもよし――決めるのはお前だ」
 スタースクリームはそんな彼を見てあっさりと退いた。意外そうに顔を上げるデモリッシャーに対し、軽く肩をすくめて見せる。
「しかし、これだけは忘れるな。
 我々とて、宇宙を救う意志はある。我々の暮らす宇宙なのだからな。
 ただ、ギャラクシーコンボイとはやり方が違うだけだ」
「………………」
 その言葉に、デモリッシャーは再び視線を落とす。
 だが――それが意味するものは、先程とは違った。
 そして、顔を上げた時――デモリッシャーの決意は固まっていた。
「……わかった。
 仲間になろう」
 そう告げると、デモリッシャーは自分の内部プログラムの識別データをサイバトロンからデストロンに変更。加えてサイバトロンのエンブレムもデストロンのそれと交換する。
 と――そこへ転がって言ったはずのサンダークラッカーが戻ってきた。
「さすがスタースクリームの旦那。
 部下が増えて、きっとマスターメガトロン様も喜びますぜ♪」
 ようやくスタースクリームの狙いに気づいたのか、上機嫌で言うとデモリッシャーへと向き直り、
「オレ達のアジトに案内するぜ。ついてきな。
 トランスフォーム!」
 そう言って、ジェット機へとトランスフォームするサンダークラッカーだが――
「うむ!」
 うなずくなり、デモリッシャーはその巨体でサンダークラッカーに飛び乗る。
「こっ、こら! 誰が乗っていいって言った! 重いぃっ!」
「ならば!」
「ぶら下がってもダメぇっ!」
「あ、いい場所が」
「今度はテメェかラナバウト!」
 などとわめきながらサンダークラッカー達がワープゲートをくぐって行くのを、スタースクリームは黙って見送っていた。

『部下が増えて、きっとマスターメガトロン様も喜びますぜ♪』

 その脳裏に、サンダークラッカーの言葉が繰り返される。
「……『マスターメガトロンが喜ぶ』だと……?」
 どんな目的で自分がデモリッシャーを引き込んだのかも知らないで、よくも言う――こみ上げる笑いを隠し切れず、スタースクリームは高らかに笑い声を上げていた。

「やっと追いついた!」
「なんだ、てめぇは!」
 ギャラクシーコンボイがジンライに追いついたおかげでようやく接触できた――声を上げるなのはに、ヴィータはうっとうしげに声を上げる。
「お話、聞かせてほしいの!
 どうして、あんなことしたの!? なんで“闇の書”を完成させようとしてるの!?」
「うるさい! お前には関係ないだろ!」
 言い返すヴィータだが、なのはも退かない。
「関係あるよ! そのせいで襲われたんだから!」
「ぐっ……!
 だからって、答えてられるか! レース中だぞ!」
「順位低くたって、完走すればいいんだからいいじゃない!」
「それでも負けるのはムカツク!」
「だったらわたしだって負けたくないよぉっ!」
 だんだんとレベルが低下していく二人の言い争いに――ジンライはため息まじりにギャラクシーコンボイに告げた。
「……重ね重ね、迷惑をかけるな」
「いや……それはこちらも同様だろう」
 早くも共感し始めている二人だった。

「じゃあ、ビッグコンボイはこの星の生まれじゃないの?」
「あぁ。
 この星には、たまの休みに訪れるんだ。訓練のためにな」
 聞き返すフェイトに、ビッグコンボイと名乗ったそのトランスフォーマーは自分用の(フェイトの視点から見て)巨大なイスに座ってそう答える。
「そっか……よその星のコンボイなんだ……
 それで、フレイムコンボイ以外にもこの星にコンボイが……」
「そういうことだ。
 オレはこの星のリーダーじゃない。あくまでリーダーはフレイムコンボイだ」
 フェイトに答えると、ビッグコンボイはフェイトに念を押すように告げた。
「だが、この星のトランスフォーマー達には言うなよ。
 オレがよその星のトランスフォーマーであることを知る者はフレイムコンボイを含めてかなり少ないし、その中でも生まれた星について、となると知る者はひとりもいない」
「どうして?」
「別にオレ自身はバレてもどうということはないが、それを快く思わない者もいるだろうからな」
「それって……バンディットロンのスカージとか?」
「なんだ、ヤツを知ってるのか?」
「うん……
 さっき、ちょっとモメて……」
 意外そうに聞き返すビッグコンボイに、フェイトは先の戦闘でのことを説明した。
「……なるほど。それであんなところでひとりで倒れていたのか……」
「うん……
 なんとか、アルフ達と合流しないと……それに、アルクェイドさんやジャックショットとも……」
 納得するビッグコンボイにフェイトがつぶやくと、
「それならば、フレイムコンボイの元に向かうのが最善だろう。そいつらも最終的には向かうはずだからな。
 幸い、オレはヤツと面識がある」
 そう言うと、彼は壁際のスイッチを操作してハッチを開き、
「拾った以上、最後まで面倒を見るのが義理というものだ――フレイムコンボイの元まで案内しよう」
「いいの?」
「ここはバンディットロンの縄張りから出てこそいるが、かなり近い位置にある。ヤツらとの鉢合わせも可能性として捨てきれない。
 トランスフォーム!」
 そう言って、ビッグコンボイがトランスフォームしたのは――マンモス型のアニマルロボットだった。
「あ、やっぱりビースト形態なんだ……」
「一時的なものとはいえ、この星で過ごすのにビースト形態は必須だからな」
 つぶやくフェイトに答え、ビッグコンボイは彼女をその鼻で背中に乗せる。
「いくぞ。
 落とされないようにしっかりつかまっているんだぞ」
「うん」
 ビッグコンボイの言葉にうなずき――フェイトは気づいた。
 そういえば、根本的なところを聞いていない。
 彼の出身地だ。
「そういえば……ビッグコンボイって、アニマトロスの生まれじゃないとしたら、どこの星のトランスフォーマーなの?」
 もしかしたら、他の星のプラネットフォースの情報が得られるかも――そんな期待と共に尋ねるフェイトだったが、彼の答えはそんなフェイトの想像すら超えていた。
「オレの生まれか?
 知ってる星かどうかは知らないが……オレは――」
 そして、その一言が放たれた。
“セイバートロン星の生まれだ”

 グレートレース第1ラウンドもついに終盤。完走さえすればいいこのラウンドを勝ち抜くべく、サイバトロン一同はエクシリオンを守るようにフォーメーションを組んで走行していた。
 おかげでジンライには先行されてしまった。なのはは不服そうだったが、エクシリオンのフォローが本来の目的だ。彼女には悪いがギャラクシーコンボイは無視させてもらうことにした。
 前方を走るのはランドバレットとガスケット――追いついてきたジンライにちょっかいを出したところヴィータにあっさりと反撃を喰らい、ここまで順位を落としていたのだ。
 一方、後方にはスタントロンのメナゾールとオーバーライド。後方に控え続けているのは追いついた者達に一斉攻撃をしかけるためだろう。彼らもこのラウンドで勝とうとは考えず、完走とライバルの蹴落としに重点を置いているようだ。
「いいか、あの二人――後ろの二人もだが、何をするかわからんぞ。気をつけろ!」
『了解!』
 ギャラクシーコンボイの言葉に一同が答え、彼らはやがてゴールに続く峡谷へと差し掛かる。
 と――
「トランスフォーム!」
「って、またかよ!?」
 ランドバレットがうめくのにもかまわず、ガスケットはロボットモードにトランスフォームすると彼の上に飛び乗り、
「フォースチップ、イグニッション!
 エグゾーストショット!」
 フォースチップをイグニッションし、エグゾーストショットを展開する。
 そして、ビームを持続発射モードにセットすると横薙ぎにビームを放ち――自分が駆け抜けたばかりの橋を斬り落とす!
「み、みんな、止まって!
 あの二人、この先の橋を落とした!」
 あわてて声を上げるユーノの言葉に、一同はあわてて停車し――いや、ひとりだけ停まらなかった者がいた。
 エクシリオンだ。
「停まるんだ、エクシリオン!」
「そのままじゃ落ちちゃうのだ!」
 あわてて声を上げるブラーと美緒だが、
「オレは停まるワケにはいきません!
 あんな橋、飛び越してみせます!」
「む、ムチャだよ、エクシリオンさん!」
「いくらお前でも、飛び越せない!」
 エクシリオンを制止するべく後を追うギャラクシーコンボイとなのはが驚いて声を上げるが――エクシリオンに停まるつもりなどなかった。むしろ逆に加速していく。
「どうしよう、なのは……」
「うーん……」
 うめくユーノの言葉に、なのはは思わず考え込み――閃いた。
「そうだ!
 エクシリオンさん、ギャラクシーコンボイさん、ちょっと聞いて!」
 そう言うと、なのはは“アイデア”の要となる二人にその内容を告げた。
「今言ったみたいに……できる?」
「わかった。その手でいこう」
 確認するなのはにギャラクシーコンボイが答えるが、エクシリオンは納得できなかった。
 というのも――
「し、しかし、それでは総司令官達が……」
「私達のことはかまうな。
 お前は最終ラウンドまで勝ち上がることを考えればいい」
「別に死んじゃうとか、ケガしちゃうとかじゃないんだもん。気にしないで!」
 こちらの身を案じるエクシリオンに答えると、ギャラクシーコンボイは“アイデア”の準備として背中のハシゴを起き上がらせる。
 そして、エクシリオンよりも先行して峡谷へと突入し――その身を放り出す!
「今だ!」
「“跳んで”!」
「おぅっ!」
 タイミングは今――ギャラクシーコンボイとなのはに答え、エクシリオンは跳躍し――“ギャラクシーコンボイの上を駆け抜け”、さらにもう一度ジャンプする!
 そう。なのははギャラクシーコンボイを踏み台にしてエクシリオンを向こう岸に渡すことを考えたのだ。
 が――わずかに届かない。エクシリオンの車体が失速し――
「ユーノくん!」
「うん!」
 なのはの指示でユーノがフローターフィールドを展開。彼の術の有効範囲ギリギリに作られた、特大のその魔法陣を更なる踏み台にして、エクシリオンは向こう岸への最後のジャンプ!
 そして――エクシリオンの身体は向こう岸のコースの上に着地していた。
 一方、ギャラクシーコンボイはフライトモードに変形、落下の速度を抑えた後、ロボットモードにトランスフォームして着地した。
「……失格、だね」
「飛行モードへの変形は、唯一の反則らしいからな」
 ユーノに答え、ギャラクシーコンボイは軽く肩をすくめて見せる。
 そんなギャラクシーコンボイに思わず笑みを浮かべ、なのはは頭上のコースを見上げてつぶやいた。
「エクシリオンさん、がんばってね……」

――ギャラクシーコンボイ&高町なのは組。反則(飛行モードへの変形)により失格リタイア――

 

 一方、ランドバレットとガスケットは――
「後ろからは当分来ないし」
「完走は確実♪」
 後ろの障害を排除したことで完全に余裕となっていた。悠々とゴールへの道を駆け抜けていく。
 だが――彼らの認識は甘かった。
「お前らぁっ!」
『………………ん?』
 突然の声に、二人は思わず顔を見合わせ――

「どすこいっ!」

 オフロード走行形態で峡谷を越えてきたインチアップが、二人を思い切り踏みつけていた。
「お前ら、よくもオレ様まで巻き添えにしてくれたな!」
 そのまま、さらにグリグリと踏みつけ――すっかりペシャンコになってしまった二人を残してインチアップは走り去っていった。
「あ、あのやろ……!」
「覚えてろ……!」
 しかし、そこはさすがトランスフォーマーというべきか――ギャグマンガのように真っ平にされても、二人はしぶとく生きていた。復活すべくその身を膨らませ――
『ぶぎゃっ!?』
 今度はエクシリオンに踏みつぶされた。
 さらに、ブラー、ファストエイド、ガードシェル――最後のスタントロンに二人に至るまで、次々に踏みつぶしていってくれた。
 結果――
「うっす〜い……」
「しあわせ……」
 すっかり紙のように薄く伸ばされてしまい――それでも二人は生きていた。

「この辺りまでこれば、少なくともバンディットロンの襲撃はなさそうだな……」
 とりあえずの安全圏に到達し、ビーストモードのビッグコンボイは鼻を叩く掲げて周囲の様子を探る。
 ビーストモード時、彼の鼻は高感度のセンサーユニットとなる、索敵には最適の装備なのだ。
 やはり周囲にバンディットロンの識別反応はない。ビッグコンボイはとりあえず安堵のため息をつき――
「しかし……さっきから何をパニクってるんだ? お前は」
 頭上でしきりに首をかしげ、疑問符をまき散らすフェイトにそう尋ねた。
「だ、だって、ビッグコンボイはセイバートロン星のコンボイで、だけどセイバートロン星にはギャラクシーコンボイがいて……」
「なんだ、何が不思議なのかと思えばそんなことか」
 だが、答えるフェイトの言葉に、ビッグコンボイは思わず拍子抜けしていた。
「“元”だ、オレは。
 ギャラクシーコンボイの前に司令官の任についていたのがオレなんだ。
 今やオレは自由の身――オレが抜けた後に総司令官になったのがギャラクシーコンボイ、というワケだ」
「じゃあ……ギャラクシーコンボイの、先輩?」
「そんな大したものじゃないよ、オレは――っと」
 フェイトに答えかけ――ビッグコンボイは表情を引き締めた。
 彼の鼻に――センサーに反応があったのだ。
「……フェイト、オレから降りて下がっていろ」
「敵ですか?
 じゃあ、私も――」
「下がっていろと言っている」
 言いかけたフェイトに、ビッグコンボイはやや高圧的ともとれる態度でそう告げた。
「悪いが連携戦は苦手なんだ。
 ヘタに一緒に戦えば、オレの攻撃にお前を巻き込みかねない」
「え……?
 連携戦が苦手、って……元リーダーなのに?」
“だから降ろされたんだ”
 あっさりとそう答えると、ビッグコンボイはフェイトを降ろして下がらせ、
「……もういいだろう。
 姿を見せたらどうだ!?」
「……なんじゃい、バレとったんかい」
 その言葉に、相手はあっさりと茂みの中から姿を見せた。
 ビーストモードのランページである。
「アイツ、さっきの……」
「『さっきの』……?
 そうか……どうやら、お前さんにはこっちの娘さんが世話になったようだな」
 うめくフェイトの言葉に、ビッグコンボイはだいたいの事情を察した。ランページに向けて敵意を見せながら告げる。
 しかし――
「そんなのどうでもいいんじゃ。
 お前さん達にフレイムコンボイのところに行かれたら困るんでのぉ、ここで沈んでもらうぞ!
 ランページ、トランスフォーム! チョッキンなぁっ!」
 あっさりと言い返すと、ランページはロボットモードへとトランスフォームし、手にしたミサイルランチャーをかまえる。
 だが――ビッグコンボイはあわてなかった。むしろ今の発言に気になる部分を見つけ、ランページに尋ねる。
『フレイムコンボイのところに行かれたら困る』……?
 貴様、ヤツの部下か? その割には見覚えがないが……」
「ンなワケなかろうが! あんなのどうでもえぇわい!
 今んトコ、アイツはいろいろと泳がせとかんといかんのじゃ! 今相手されると、何かと面倒なんじゃい!」
「『どうでもいい』、ねぇ……」
 その会話に――フェイトは気づいた。
 ビッグコンボイはただ疑問をぶつけているだけではない。そう見せかけて――見覚えのない顔であるランページから情報を聞き出そうとしている。
 さっき、彼は『リーダーを降ろされた』的な発言をしていたが――今の姿を前にしては、とてもリーダーの座を降ろされた人物とは思えなかった。
「ひょっとしてお前……フレイムコンボイに反逆するつもりか?」
「反逆も何もないわい! ワシゃワシの好きにやるまでじゃ!
 用が済めばアイツはワシがブッ倒したる――ジャマするとお前から先にいてもぉたるぞ、ワレ!」
 だが、当のランページはまったく気づかない。ビッグコンボイの口車に乗って、自分の事情をベラベラとしゃべっていく。
「用、だと……?」
「おう、そうじゃ。
 アイツが持っちょる――プラネットフォースの在り処がわかるまでじゃ!」
「ぷ、プラネットフォース!?」
 その言葉に、フェイトは思わず驚きの声を上げていた。
(じゃあ、アイツも、プラネットフォースを狙ってるの……?
 けど、マスターメガトロンの部下にしては、今まで見なかった顔だし――)
 またしても新たな疑問――フェイトの頭は次々に浮上する謎を前に、もはやパンク寸前である。
 しかし、それに対してビッグコンボイは落ち着いていた。息をつき――告げる。
「ありがとう。
 だいたいの事情は呑み込めた」
 もう知るべきことは知った。後は帰ってもらうだけ――ビッグコンボイは戦闘体勢に入り、咆哮した。
「ビッグコンボイ、トランスフォーム!」
 ロボットモードへとトランスフォームすると同時に素早く跳躍。一足飛びにランページの目前に迫る!
 巨体に似合わぬ素早い動きに、戦慄したランページはランチャーで防御しようとするが――
「マンモストンファー!」
 ビッグコンボイの方が速い。腕の内部から展開されたトンファーでランページを殴り飛ばし、
「マンモスハーケン!」
 両足から放たれた錨型のハーケンが吹っ飛ぶランページを追撃。さらに跳ね返ってきたそれを両手それぞれにつかむとビッグコンボイはランページに追いつき、ランページを大地に叩きつける!
「つ、強い……!」
 パワーもスピードも段違い。ヘタをすれば――いや、間違いなくギャラクシーコンボイ以上の実力を持つと確信させるビッグコンボイの闘いぶりを前に、フェイトは驚きを隠せず、呆然とつぶやくしかない。
 そして――
「フォースチップ、イグニッション!」
 一気に決着をつけるべく、ビッグコンボイが動いた。背中の大型のキャノン砲をかまえるとそこにアニマトロスのフォースチップをイグニッションする。
「殺しはしない――さっさとブッ飛べ!
 ビッグキャノン――GO!」
 咆哮すると同時、放たれたビームはランページを直撃。巻き起こった爆発はランページを空高く吹き飛ばしていく。
「今回ワシがこの役かぁぁぁぁぁっ!」
 緊張感のない断末魔と共に丘の下の森に落下していくランページを見送り――ビッグコンボイはフェイトへと向き直った。
「余計な手間だったな。
 先を急ごう」
「う、うん……」
 告げるビッグコンボイにうなずくが――フェイトの胸中では疑問が消えなかった。
(なんでだろう……
 どうして、こんなすごい人が、総司令官を降ろされちゃったんだろう……)
 しかし――いくら考えても、答えは出なかった。

 そして――
〈ニトロコンボイ、ゴール!〉
 パズソーの実況の元、後方の小競り合いによって首位独走となったニトロコンボイは悠々とゴールゲートをくぐった。
〈やはりニトロコンボイが1着! さすがに速い!〉
「あぁ〜あ、やっぱり1着はムリだったか」
 例の『連絡』も終わり、リンディのオフィスで観戦していた耕介がつぶやくと、エイミィとリンディが肩をすくめて彼に答えた。
「ま、気にするほどでもないですよ」
「要は、最終ラウンドにまで残って、そこで勝てばいいんだから」
「そりゃまぁ、そうなんですけど……」
 耕介が答えると、続いてシャマルの運転するアトラスが2位でゲートをくぐる。
 そして――
〈3位集団が来ました!
 勝つのはエクシリオンか、インチアップか、それともジンライか!〉

 ガスケット達の妨害の難を逃れていたジンライにインチアップとエクシリオンが追いついてきた。3体は一丸となってゴールに向けて突き進む。
「おぉぉぉぉぉっ! 負けるかぁぁぁぁぁっ!」
「負けるなよ、ジンライ!
 負けたらシャマルのお小言が待ってるぞ!」
「絶対に、それだけは阻止だ!」
 口々に言い、インチアップやジンライ達はゴールを目指す。
 もちろん――エクシリオンもだ。
「みんながここまでつないでくれたんだ――これ以上、順位を落としてたまるか!」
 決意した。
(まだ使いこなせないが――ゴールは目前。この距離なら!)
「フォースチップ、イグニッション!」
 エクシリオンの咆哮と共に、スピーディアの真紅のフォースチップが飛来。エクシリオンのチップスロットに飛び込み――
「アクセル、ウィイング!」
 背中にアクセルウィングを展開。猛スピードで二人を追い抜き――姿勢を崩しながらもゴールを駆け抜けていった。

 

グレートレース第1ラウンド
最終順位(5位まで)
1位: ニトロコンボイ
2位: アトラス&シャマル組
3位: エクシリオン
4位: ジンライ&ヴィータ組
5位: インチアップ

 

 翌日、舞台は惑星アニマトロスに戻り――

「フレイムコンボイ。
 頼む。彼らの話を聞いてくれ」
 ファングウルフとダイノシャウト、そしてもうひとりの従者テラシェーバーを引き連れて視察に出たフレイムコンボイに、サイドスはジャックショットとアルフを引き合わせていた。
 そして、彼の言葉にフレイムコンボイが振り向くと、ジャックショットはどう告げたものはしばし考え――
「えっと、えっと……
 ……プラネットフォースよこせ!」
「って、何でそんな単刀直入なんだ!」
 結局ストレートな一言しか出なかったジャックショットに、サイドスはあわてて告げる。
「話はちゃんと最初から……」
「じゃ、今度は私が」
 うめくサイドスにアルクェイドが言うが――そんな彼らにフレイムコンボイはあっさりと背を向けた。
「な、何よ!
 話はまだ途中なのよ!」
 その言葉に、フレイムコンボイはようやく反応した――苛立ちを隠しもしないでアルクェイド達へと振り向き、
「誰にモノを言ってるんだ? あぁ!?」
「もちろんアンタに決まってるでしょ、フレイムコンボイ!」
「あああああ……」
 アルクェイドやジャックショットはもちろん、フレイムコンボイも――どちらも完全にケンカ腰だ。およそ『交渉』とは言えるはずもない両者のやり取りに、サイドスは思わず頭を抱える。
 そんな彼らに、フレイムコンボイは手にしたフレイムアックスをかまえ――告げた。
「プラネットフォースが欲しければ――力ずくで来い!」
「上等よ!
 行くわよ、ジャックショット!」
「おぅっ!」
 アルクェイドに答え、ジャックショットは彼女と共にかまえ――もはや、激突は避けられそうになかった。


 

(初版:2006/04/23)