「………………ん?」
 ファイヤースペースに戻って来たスタースクリームだったが――そこにいるはずの顔がないことに気づいた。
 周囲を見回し――彼らに合わせたサイズのラジカセで音楽を聞き、鼻歌まで口ずさんでいるラナバウトに尋ねる。
「ラナバウト。
 サンダークラッカーはどうした?」
「あぁ、こっちに一旦戻るなり、また出かけていきましたよ」
 あっさりと答えが返ってくる。
「まったく、どこでサボッてんだか……」
「……そうか……」
 まぁ、自分達のジャマさえしなければそう目くじらを立てることもあるまい――そう納得することにして、この話題を忘れることにしたスタースクリームは質問を変えた。
「そして貴様は何をしている?」
「あぁ、今このラジオ番組、CSSの特集やってんスよ」
「CSS……?」
 その略称に眉をひそめ――スタースクリームはすぐにその正式名称を思い出した。
「クリステラ・ソングスクールか……」
 地球の情報を仕入れようと傍受し始めたラジオ番組の数々――そのおかげでそれが何なのかはスタースクリームも知っていた。『世紀の歌姫』と称えられたティオレ・クリステラと彼女が校長を務める歌手業界の登竜門たるCSSの存在は、音楽に興味のない者でも名前くらいは知っているほどに有名なものだ。
「いやー、聞いててよかったっスよ。
 さっきちょうどSEENAの新曲がかかりましてね」
「またSEENA、か……」
 その名もまた、スタースクリームはラナバウトによって耳にタコができるほど聞かされていた。CSS出身の歌手の中でも数少ない日本人で――その歌声に魅了され、ラナバウトはすっかり彼女に傾倒していた。
「まぁ、いいが……ほどほどにしておけ。
 貴様に音楽番組を聞かせるために、ラジオ番組の傍受を始めたワケではない」
 このままここに留まれば、またラナバウトに『SEENAの魅力』とやらを延々聞かされるハメになる――スタースクリームは早々にその場を後にしようときびすを返し――
「………………ん?」
 ふと、耳に入ってきたメロディに気を取られて足を止めた。
 しばし耳を傾け――ラナバウトに尋ねる。
「ラナバウト」
「はい?」
「その曲は?」
「あぁ、ティオレ校長の秘蔵っ子、フィアッセ・クリステラっスよ」
「ふむ……」
「あれ、興味わいたんスか?」
「まさか。ふと気になって聞いただけだ」
 あっさりとラナバウトに答えると、スタースクリームは今度こそその場を後にした。

「トランス、フォーム!」
 咆哮し、ロボットモードとなったサンダークラッカーはその場に着地した。
 時は夕暮れ、場所は海鳴――八束神社から少し離れた森の中である。
 どうしてサンダークラッカーがここに現れたのか? それは――
「………………ん?
 ……来たか……」
 ある人物に会うためだった。
 相手がやって来たのに気づき、サンダークラッカーはその場にヒザをつくようにしゃがみ込み――
「まったく……もう少し目立たずに飛んでこれないのかよ?」
 そう言いながら、彼女は姿を現した。
「ちょうどこっちを見てた人がいたら、ここに何かが着地したってバレバレだろ」
 青い髪を短く切りそろえた、勝気そうな印象のあるひとりの少女――
「仕方ないだろ。
 オレぁカモフラージュシールドを持ってないんだからさ」
「そういうことじゃなくて……もう少し、来る方法を考えろって言ってんだよ。
 確かお前、ワープ使えたんだろ? それで直接ここに来ればいいじゃんか」
 悪びれることもなく答えるサンダークラッカーに、彼女は――城島晶はため息まじりにそう答えた。

 

 


 

第18話
「それは密かな3日間なの」

 


 

 

 時はしばしさかのぼる。
 ゴッドジンライとヴィータに敗れたなのは達やギャラクシーコンボイが時空管理局に保護され 、スピーディアでグレートレースに向けての動きが着々と進んでいたあの頃まで――

「えー?
 じゃあ、なのちゃん達今いないんですか?」
〈そうなのよ。
 なんだか、リンディさんのお仕事のお手伝いとかで……〉
 尋ねる晶に、桃子は電話の向こうでそう答えた。
「たしか、それって春先にも行ってたんですよね?」
〈まぁね……
 とはいえ、リンディさんもいい人だし今回は恭也もついて行ってるし、今夜には一度戻ってくるっていう話だから、心配はしてないんだけど……〉
 そう答えると、桃子はため息をつき、
〈期待してたのに、ゴメンね。
 こないだ話したフェイトちゃんも付き添ってるみたいで、なのはよりも少し前から留守にしてるのよ〉
「ようやく会えると思ってたんですけど……そういうことじゃ仕方ないですね」
 肩をすくめて告げると、晶は気を取り直して今後の予定を伝える。
「とにかく、まずは一度家に戻って、それからお店に顔を出しますから」
〈わかったわ。
 久しぶりに、桃子さん特製のシュークリーム、用意しといてあげるからね♪〉
「はい!」
 元気よく返事すると、晶は終話ボタンを押して携帯電話を閉じ、
「それじゃ――行くか!」
 そして、晶は久しぶりとなる海鳴の街の中へと元気に走り出した。

「あー、ちくしょぉ……」
 海鳴市の上空を飛行しながら、サンダークラッカーは力なく毒づいた。
「ぜんぜん調子出ねぇ……
 それもこれも、全部アイツらのせいだぁ……」
 アイツら――前日に自分を襲ったトランスフォーマーとそのパートナーのことを思い出し、サンダークラッカーはため息をつき――ふらついた。
「っとと、さすがに少し休むか……」
 うめいて、サンダークラッカーは地上へと降下。ロボットモードになって着地した。
「ったく、スパークの回復まで、まだかかりそうだなぁ……
 なんでオレばっかこんな目に……」
 突然の災難に思わずうめき――気づいた。
「………………何だ? コレ……」
 傍らの木の下にサンドバックが吊るされている。誰かのトレーニング場なのだろうか?
「人に見つかる前に、トンズラするか」
 以前の『サイバトロンおびき出し作戦』以来、スタースクリームからは地球人に見つからないようにしつこく言われている。厄介事になる前に移動しようかと考えるが――
「なぁぁぁぁぁっ!?」
 すでに遅かった。突然挙がった声に振り向くと、そこにはひとりの人間の姿があった。

 最初はなんとなくだった。
 家に戻る途中、八束神社の裏の森の中――いつもトレーニングに使っている広場に立ち寄ることにした。
 だが――そこにはとんでもないものがいた。
 青色のボディの、人型ロボットだ。
「な、ななな……!?」
 思わず声を上げるが、思考は未だまとまらない。そうとう混乱しているようだ。
 一方、自分の上げた声に気づいてロボットもこちらへと振り向いた。驚きとも戸惑いともとれる表情を浮かべている――

 

それが、晶とサンダークラッカーの出会いだった。

 

「な、何だ、お前!?」
 先に我に返ったのはサンダークラッカーだった。あわてて立ち上がると晶から離れるように後ずさる。
「そ、そっちこそ何なんだよ!?
 オレ達のトレーニング場で、何してんだよ!?」
 対して、晶も聞き返すが――こちらはまだ動揺しているようだ。少しばかり場違いな問いを返す。
「何してるって、そんなのオレの勝手だろうが!
 とっとと消えろ! ブッ飛ばされたいか!」
 そんな晶に言い返し、サンダークラッカーは左手の砲をかまえ――
「……ぐ…………っ!」
 スパークの消耗による疲れが彼を襲った。目まいを覚え、サンダークラッカーはその場にヒザをつく。
「お、おい、大丈夫かよ!?」
「るせぇっ!」
 あわてて駆け寄る晶に言い返すサンダークラッカーだが、消耗は思ったよりもひどく立ち上がることすらままならない。
「あー、くそっ……! こんな時に……!」
「おいおい、ムリするなよ!」
 それでも長居は無用とばかりに立ち上がろうとするサンダークラッカーに晶が告げるが、
「あー、もうっ! うるさいな!
 消えろっつったの、このガキ!」
 対して、サンダークラッカーもムキになって反論。勢いよく立ち上がり――
「……あ、もダメ……」
 限界が訪れた。そのまま仰向けにひっくり返り、サンダークラッカーは意識を手放した。

 意識が回復し、メインカメラが再びオンになる――
 サンダークラッカーが身を起こすと、そこに晶の姿はなかった。
「……ま、そりゃそうだよな」
 思わずつぶやき――気づいた。
 目の前に積み上げられた、ポリタンクの山に。
「……何だ?」
 事態が呑み込めず、サンダークラッカーは眉をひそめ――
「あれ、やっぱガソリンじゃエネルギーにならないのか?」
「なるか!」
 新たなポリタンクを持ってきた晶の問いに、サンダークラッカーは思わずツッコんでいた。

 正直なところ、サンダークラッカーは困惑していた。
 原因はもちろん――目の前で菓子(しゅーくりーむ、というらしい。なんでも居候先が営んでいる喫茶店の特製なんだとか)を食べている晶の存在である。
 これがサイバトロンならまだ違和感のない光景だっただろう。あのお人好し集団なら地球人と馴染まない方がむしろおかしい。パートナーまで確保しているのがその証拠だ。
 だが、自分はデストロンだ。そんな仲良しごっことは無縁……だったはずだ。ついさっきまでは。
 だが――目の前の晶は違った。先ほども『あっち行け』的なオーラをガンガンまき散らしたというのに、晶は物怖じすることもなくここに居座り続けている。
 そればかりか、勝手に自己紹介するとこちらのことについて次から次に質問の嵐を浴びせてくる。しかもそれが諜報活動でもなんでもなく、ただの興味本位なのが丸わかりのため、サンダークラッカーもその扱いに困っていた。
「じゃあ、お前らって、メシ食わないのか?」
「あぁ、食わないよ」
 そして今も、尋ねる晶の問いにサンダークラッカーは投げやり気味に答えていた。
「一応食えるシステムは持ってるけど、エネルゴンでエネルギーを補充した方が早いからな」
「なんだ、もったいない」
「オレ達にゃお前ら人間と違って、食い物に嗜好を求めるシュミはねぇんだよ」
 肩をすくめる晶にサンダークラッカーが答えると、
「なら、試しにコレ食ってみろよ」
 言って晶が差し出してきたのは、持ってきていたシュークリームのひとつだ。
「いらねぇよ」
「そんなコト言うなよ。うまいんだぜ」
 渋るサンダークラッカーに対し、晶は彼のヒザの上に飛び乗ると再びシュークリームを差し出す。
 引き下がりそうにない――素直に食べるのがさっさと済ませる最善の策だろうと判断し、サンダークラッカーは指先にシュークリームを乗せてもらい、口の中へと運ぶ。
 ――美味い。
 皮も柔らかすぎず堅すぎず、さらにクリームも甘すぎず薄味すぎず――絶妙なバランスを保っている。味覚に対し頓着のないトランスフォーマーに対しても十分に惹きつける魅力を持っていた。
「……イケるな」
「だろ? オススメなんだぜ、コレ!」
 思わずもらしたその言葉を聞き逃さず、晶はすかさずサンダークラッカーに詰め寄る。
「待ってろ、次もらってくるから!」
「あ、おいっ!」
 喜び勇んで駆け出す晶をあわてて呼び止めるが――かまわない。晶はそのまま山道を駆け下りていってしまった。
「……オレを餌付けでもするつもりか? アイツ……」
 それが正直な感想だった。

 その晩――
「ただいまー♪」
 グレートレースへの参加も決まって気合も十分。なのははユーノを肩に乗せ、恭也と共に元気に玄関をくぐる。
 と――
「あぁ、おかえり、なのちゃん、師匠」
「あ、晶ちゃん!
 おかえりなさぁい♪」
 出迎えたのは懐かしい家人だった。声をかけてくる晶に、なのはは満面の笑みで答える。
「晶、海外遠征お疲れさま」
「はい!」
 労う恭也に、晶は元気にうなずく。
「ヨーロッパ選手権でベスト16だって?」
「そんな大したことないですよ。ベスト8にも進めなかったんですから」
「そんなことはないさ。ヨーロッパ中から選手が集まる大会でそこまで勝ち進めたんだ。大したものだ」
 この春先から高町家を留守にしていた晶――その理由がこの“海外遠征”である。
 晶の通っている空手道場“明心館”が新たに始めた試みの一環であり、半年以上かけて世界各地を回り各地の選手権に出場するという豪快なもので、晶はその最年少メンバーとして選抜されたのだ。
 無論、学生である晶は学校もあるのだが――彼女の選抜に大喜びした面々のひとりに晶の担任・鷹城唯子がいた。彼女が働きかけたおかげでなんとか学校側の許可も取りつけ、晴れて遠征参加となったのだ。
「けど、さすがに全米で予選落ちしたのは悔しかったですね……」
「向こうは護身術として盛んだし、K-1だ何だと格闘技のレベル自体が高いからな。やはりハードルは高いだろう」
 晶の言葉に肩をすくめる恭也のとなりで、ユーノは念話でなのはに声をかけた。
《なのは……》
《何?》
《つくづくスゴいね、この家の人って……》
《わたしも、たまにそう思う……》

 翌日も、晶はサンダークラッカーを訪ねていた。
 もはや追い払うことをあきらめ、サンダークラッカーも嫌々ながら晶の相手をしていた。
 そんな中で晶の遠征の話になったのだが――
「空手、ねぇ……」
 その話を聞き、サンダークラッカーは眉をひそめてみせた。
 別に嫌がっているワケではなさそうだ。どちらかと言うと困惑しているような――
「……どうしたんだ?」
「いや、なんで空手なんかやってるんだ、って思ってな……」
 尋ねる晶に、サンダークラッカーは肩をすくめてみせる。
「だってさ、別にどっかの敵と戦ってるワケじゃないんだろ? なんで強くなる必要があるんだよ?」
 それは永くサイバトロンとの戦いの中に身を置いてきたサンダークラッカーならではの疑問だった。彼にとってはサイバトロンと戦うために強くなるのは当然のこと――逆に言えば、『サイバトロンと戦うこと』だけが彼にとっての強くなる理由であり、それ以外の理由など考えもつかない。
 ただ戦えればそれでいい――そんなサンダークラッカーだからこそ、戦うべき敵を持たない晶が強くなろうとすることには疑問を抱かずにはいられなかった。
「んー、何で強くなるのか、って言われるとオレだって『これ』っていう答えはないけど……」
 対して、晶もその問いには思わず首をひねっていた。しばし考え――思いついた答えを返す。
「まず……『こいつには負けたくない』ってヤツがいるから、かな……」
「けど、敵はいないんだろ?」
「まぁ、敵じゃないけどさ……それでもアイツより弱いのはイヤなんだ」
 サンダークラッカーの問いに苦笑しつつ、晶はそう答えると逆に聞き返した。
「お前はいないのか? そーゆーヤツ。
 敵とかじゃなくて、実力を競い合うライバル、みたいな……」
「オレか………………?」
 晶のその問いに、サンダークラッカーは思わず考え込んだ。
 まず真っ先に思い浮かぶのはサイバトロンだが――なんだか考えれば考えるほど気分がへこんでくるし、彼女との会話からして対象はむしろ身内のライバルだ。とゆーワケでデストロンの面々に目を向けてみる。

 マスターメガトロン――負けん気以前に勝てる気がしない。
 スタースクリーム――同じく。
 ラナバウト――ライバル意識特になし。
 スピーディア組――そもそも正式な対面すらまだだ。

「……いないな」
 しばし考えた末の答えに、晶は肩をすくめ、
「なんだ、仲間と仲いいんだな、お前」
「ンなワケあるかよ」
 晶にそう答えると、サンダークラッカーはため息をつき、
「負けたくない相手がいないってだけで仲良しにされてたまるか――どいつもこいつも、『仲がいい』なんて言葉とは無縁の連中だっての。
 この間だって……」

 (中略)

「だいたい、マスターメガトロン様のために一番働いてるのはオレなんだよ。
 なのに、スタースクリームはラナバウトを使ってばっかだしガスケット達も好き勝手やらせてもらって。
 そもそもオレなんてここしばらくほったらかしだっての」
「大変なんだな、お前も……」
 晶と話していてスイッチが入ったのか、かれこれ1時間は愚痴を垂れ流しているサンダークラッカーに、晶は多分に同情の込められた視線を投げかける。
「ま、がんばってりゃそのうち何とかなるって。
 オレ達も、昔言われたからな」
「言われた……?」
「あぁ」
 聞き返すサンダークラッカーにうなずき、晶は告げた。
「『できない、って思わなければ、きっとなんだってできる』ってさ。
 実際、あきらめなかったからそれまでできなかったこともできた、ってこともあったし。
 だからサンダークラッカーのことだって、あきらめなきゃなんとかなるって、絶対」
「なんだって……できる……」
 晶の励ましに、サンダークラッカーは静かにその言葉を反芻し、
「……よっしゃ! そういうことなら、やったるか!」
「おぅっ、その意気だ!」
 気を取り直したサンダークラッカーの言葉に、晶もまた元気に答えるのだった。

 そして翌日――
「よっ、ほっ、はっ!」
 元気に跳躍し、サンダークラッカーは右手1本で器用にバック転してみせる。
「よっしゃ、完治!」
 実際のところ『完治』にはまだまだ時間がかかるのだが――動けるレベルになれば彼にとっては『完治』らしい。
「よかったな、サンダークラッカー!」
 ともかく彼が順調に回復しているのは確かだ。祝福する晶だが――
「おぅ! これでファイヤースペースに帰れるぜ!
 世話になったな!」
「あ……」
 サンダークラッカーの言葉に、その事実に思い至った。
(そうか……帰っちゃうんだ……)
 元々サンダークラッカーはここに住んでいるワケではなく、スパークの消耗が回復するまで隠れていたにすぎない――わかってはいたが……
 なんとなく寂しくなり、晶は視線を落とし――
「あ、そうそう」
 飛び立とうとしたところで突然思いとどまり、サンダークラッカーは振り向き、晶に告げた。
「シュークリーム」
「え………………?」
「次来る時も、ちゃんと用意しとけよ」
 あっさりと告げるサンダークラッカーの言葉に、晶は思わず目を丸くした。
(それって……つまり……)
 その言葉が意味するところに思い至り――晶は告げた。
「そう思うんなら、事前に連絡しろよ」

「さて、と……そんじゃ、慣らしに軽く飛んでから帰るとするか!」
 晶と別れ、ビークルモードのサンダークラッカーは上機嫌で海鳴市の上空を飛行していた。
 潜伏していた3日間、ずっと飛ばずにいたのだ。ファイヤースペースに戻る前に気晴らしに飛んでおこうと考えるが――
「………………ん?」
 ふとレーダーに反応を見つけた。
「ドレッドロック……?」
 その反応はどんどんこちらに近づいてきている。それはつまり――
「見つかってんじゃん、オレ!」
 余計なトラブルなどこちらもゴメンだ。あわてて転進しようとするがすでに遅かった。ドレッドロックは全速力でサンダークラッカーに追いついてくる。
「こんなところで、一体何をやっている、サンダークラッカー!?」
「また悪さしようっていうんじゃないだろうな!?」
「通りかかっただけだっての!」
 ドレッドロックや彼に乗っている志貴に答え、離脱を試みるサンダークラッカーだが、ドレッドロックも逃がすつもりはないらしい。執拗にサンダークラッカーを追いかける。
「くそっ、しつこいっ!」
「あいにく、これが仕事なんでな!」
 言い返し、ドレッドロックはミサイルを発射。サンダークラッカーを追尾し――至近距離で爆発する!
 その衝撃でサンダークラッカーはバランスを崩し、錐もみ回転しながら落下していく。
「あー、もうっ! またコレかよ!」
 また墜落か――サンダークラッカーがそんなことを考え、毒づいた刹那――

『できない、って思わなければ、きっとなんだってできる』

 晶に言われた言葉が脳裏をよぎった。
(できないって……)
 思えば、自分はいつも被弾した時どうしていただろう?
(思わなければ……)
 『立て直せない』とあっさりとあきらめて墜落していなかっただろうか?
(なんだって――)
 なら――

 あきらめなければ?

 

(――できる!)

 

 気がつくと、サンダークラッカーは姿勢を立て直し、ドレッドロックに向けて急上昇していた。
「何っ!?」
「今のを立て直すか!?」
「こっちだって、やる時ゃやるんだ!」
 驚くドレッドロックと志貴に言い返し、サンダークラッカーはロボットモードへとトランスフォームし、
「フォースチップ、イグニッション!」
 青色のフォースチップをイグニッション。左手にサンダーヘルを展開する。
 そして――
「サンダーヘル――
 オレ様快気祝いスペシャルヴァージョン、エクセレント!」
 放たれた閃光がドレッドロックを直撃、巻き起こった爆発が彼らを吹き飛ばす!
「ぅわっ!?」
「ぐぅ……っ!
 しっかり捕まっていろ、志貴!」
 吹き飛ばされながらも、志貴に告げてなんとか体勢を立て直すドレッドロックだが、すでにサンダークラッカーの姿はない。
「逃がしたか……」
「ま、何かしようとしてたワケでもないみたいだし、いいんじゃないか?」
 うめくドレッドロックに答え、志貴は先ほどのサンダークラッカーの機動を思い返した。
(にしても……動きのキレが今までとは違ったな……
 まるで、何かに対して吹っ切れたみたいな……何かあったのか?)

 一方、サンダークラッカーは――
「……いてぇ」
 自分もしっかり吹っ飛ばされていた。森の木々をなぎ倒し、その一角に逆さ吊りで引っかかったままポツリとつぶやく。
「やっぱ、いきなりカッコよくはいかねぇか……」
 逆さのままため息をつき――それでもどこかスッキリしている自分に気づいて苦笑する。
「ま、気長にやるとしますかね。
 トランスフォーム!」
 ともかく、気を取り直したサンダークラッカーはビークルモードへとトランスフォームし、大空へと飛び立っていった。


 

(初版:2006/04/30)