惑星スピーディアでグレートレースの第2戦が行われていたあの日、惑星アニマトロスでは――

「……起きたか」
「うん……
 おはよう、ビッグコンボイ……」
 夜明けと共に、目を覚ましたフェイトは傍らに座るロボットモードのビッグコンボイにそう答えた。
「ずっと見張っててくれたの……?」
「でもない。
 トランスフォーマーとて睡眠はとる――有機生命体との中間とも言える、ビーストモードを持つトランスフォーマーは特にな。
 多少見回った後、ちゃんと仮眠はとった。心配するな」
 フェイトに答えると、ビッグコンボイは立ち上がり、
「では出かけよう。
 ビッグコンボイ、ビークルモード!」
 告げると同時、ビッグコンボイはビーストモードへとトランスフォームするとそこからさらに変形、たたんだ四肢にキャタピラが巻きつき、背中にビッグキャノンを備えた戦車形態となる。
「食事はオレの背中の上ですればいい。
 フレイムコンボイの神殿には、今日中にはたどり着けるだろう」
「うん」

 一方、草原で対峙するジャックショットとアルクェイド、そしてフレイムコンボイ――その様子を、オーバーホールを終えたマスターメガトロンは彼らに気づかれることなく、丘の上から見物していた。
「さて、どうなることやら……」

 

 


 

第20話
「芽生えたキモチと転生なの」

 


 

 

「よすんだ、ジャックショット!」
「ヤなこった!
 いくぞ!」
 先陣を切ったのはジャックショットだった。サイドスの制止を無視し勢いよく跳躍。フレイムコンボイへと襲い掛かるが、
「トランスフォーム!」
 フレイムコンボイはドラゴン形態へとトランスフォームし、尻尾の一撃でカウンターを見舞う。
 だが、ジャックショットも負けてはいない。ビークルモードにトランスフォームして着地するとフレイムコンボイの脇を駆け抜け――
「そこっ!」
 ジャックショットに気を取られた一瞬のスキに、アルクェイドが滑り込んでいた――至近距離から放った爪による一撃が、フレイムコンボイをのけぞらせ、
『フォースチップ、イグニッション!
 アンカー、ショット!』

 すかさず、二人はそこにアンカーショットで追撃をかける。
「どんなもんよ!」
「ギブアップしても、いいんだぜ!」
 自分達の有利を確信し、余裕で告げるアルクェイドとジャックショットだが――
「フンッ、言わせておけば。
 フォースチップ、イグニッション!」
 ついにフレイムコンボイが本気を出した。背中にアニマトロスのフォースチップをイグニッションし、三つ首竜へとパワーアップする。
「何っ!?」
 そして、驚くジャックショットに襲いかかり、かみついて持ち上げると力任せに振り回す!
「ジャックショット!」
 とっさにジャックショットを救おうとするアルクェイドだが、
「甘いわぁっ!」
 そのな彼女に、フレイムコンボイはジャックショットを叩きつける!
「きゃあっ!
 こ、このぉっ!」
 大地に叩きつけられながらも、真祖である彼女には『この程度』でしかなかった。再びフレイムコンボイに向けて地を蹴り、一撃を叩き込むが――
「甘いと、言ったろうがぁっ!」
 フレイムコンボイにとっても、その一撃は『この程度』だった。逆に爪の一撃でアルクェイドを殴り飛ばす!
 そして、
「デス、フレイム!」
 アルクェイドに向けて、両肩の竜が炎を吐き放った。紅蓮の炎がアルクェイドに迫り――
「アルクェイド!」
 とっさに身体が動いていた――ジャックショットがアルクェイドをかばい、代わりにその炎を浴びる!
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
「ジャックショット!」
 炎に包まれ、うめくジャックショットを見てアルクェイドが声を上げ――
「とどめだ!」
 そんな二人にとどめを刺すべく、フレイムコンボイは大きく跳躍。二人を踏みつぶそうと真上から落下し――

 しかし、その瞬間、二人の姿はフレイムコンボイの下から消えていた。
 突然駆け抜けた影に連れ去られて――

「どうやら、完全に縄張りから逃げられたようだな……」
 縄張り中に部下を走らせ、捜索したが発見の報告はなし――スカイリンクス達の姿を見失い、スカージはため息まじりにつぶやいた。
「よそ者を連れていたようだが……」
「『案内中』とか言ってましたよね?
 どこ行ったんスかねぇ……?」
 傍らで首をかしげるのは、オオカミにトランスフォームする腹心、ウィアードウルフだ。
 だが――彼の言葉にはスカージも同意だった。この星に、わざわざ案内するような場所が果たしてあるだろうか――?
「仕方あるまい。
 ヤツがねぐらに戻るためには、もう一度この辺りを通るはずだ。その時にでも締め上げて……」
 スカージが言いかけた、その時――
「スカージ様!」
 駆け込んできたのは、ウィアードウルフと同じスカージの腹心のひとり、コウモリ型のワイプだった。
「縄張りに、また別の侵入者です!」
「そんなもの適当に襲っとけ!」
 告げるスカージだったが――ワイプは困ったように告げた。
「そ、それが……」

「がはぁっ!?」
 一撃を受け、フェイトに敗れたばかりのカブトムシ型トランスフォーマー、ボンブシェルは近くの木に叩きつけられた。
「こんな役、ばっかかよ……」
 うめいて、気を失うボンブシェルを完全に無視し、シグナムは周囲を取り囲むバンディットロンに注意を払いながらスターセイバーに告げた。
「スパークのリンカーコア特性は低い。
 いくら倒したところで、“闇の書”の足しにはなりそうにないな」
「そのようだ。
 とりあえず、プラネットフォースについて知ってることを聞き出すとしようか」
 スターセイバーが答えると――
「プラネットフォース、だと?」
 その言葉にシグナム達が振り向くと――そこにはロボットモードのスカージが立っていた。

「やめておけ、ジャックショット」
「うるせぇ!」
 制止するファングウルフの言葉に、ジャックショットはムキになって言い返す。
 難を逃れたジャックショットとアルクェイド、そして彼らを救った影――ファングウルフは近くの火山の中に身を潜めていた。
 だが、それはただフレイムコンボイから逃れるためではなかった。対フレイムコンボイの――特訓のための離脱だった。
 その内容は――
「ぅわちゃあっ!」
 マグマの中に足を突っ込むものの、ジャックショットは熱さに耐えかねて思わず飛び上がっていた。
 トランスフォーマーぐらいになれば、平気とは言いがたいもののマグマの中でもその身を焼かれることはない――だが、逆を言えばそんな彼らを苦しめるフレイムコンボイのデスフレイムに対抗するには、そのマグマ並みの熱量をあてにしなければ特訓にならないのだ。
「だから言ったんだ」
「お、驚いただけだ!」
 呆れるファングウルフに言い返し、ジャックショットは再びマグマの海の中にその身を沈めていく。
「フレイムコンボイの火炎攻撃デスフレイムに耐えるための特訓、っていうのはわかるが……やりすぎじゃないのか?」
「黙ってろ」
 呆れるファングウルフに言い返し、ジャックショットはマグマの海につかり続ける。
「そーそー。好きにやらせてあげたら?
 ジャックショット、けっこうワガママだからね、言い出したら最後、いくら言っても聞かないわよ」
 そう告げるのは、フレイムコンボイにボロボロにされてしまった服を修復したアルクェイドだが――
「キミが言えた義理でもないと思うが……」
「どういう意味よ!?」
 うめくファングウルフの言葉に、アルクェイドは思わず聞き返す。
 そんな彼女に、ファングウルフはため息混じりに告げた。
「キミも、敗れて心中穏やかではないのではないか?」
「そ、そんなことないわよ!
 私はまだ負けたワケじゃないんだから! 何をイラつくっていうのよ!」
 その言葉に、ファングウルフは視線を動かし――
「これだけ暴れて、『機嫌が悪くない』とでも言うつもりか? キミは」
「う゛………………」
 アルクェイドの爪の跡が幾重にも重ねられ、大きく穿たれた岩壁を前にしては、さすがのアルクェイドも否定できずに黙り込む。
 だが――ムチャなことに変わりはない。この特訓も、フレイムコンボイに挑もうと言うのも。
 それに――
「とにかく、もうやめておけ。
 サイドス先生もおっしゃっていただろ。『暴力は暴力の連鎖を生むだけだ』と……」
「黙れって言ってるだろ!」
 なおも説得しようとするファングウルフに、ジャックショットは言い返しながら振り向いた。
「さっきだって、出しゃばったマネしやがって!」
「勝負は見えていた。
 あのまま二人そろってフレイムコンボイに踏みつぶされるのを、見殺しにはできない」
「見殺しにしてくれても良かったんだよ!」
 ファングウルフの言葉に、ジャックショットはムキになって言い返していた。
「おかげでオレは、戦いの最中に逃げ出す卑怯者になっちまった!」
 そうだ――確かに勝負は見えていた。あのままでは自分は命を落としていただろう。
 だが、自分は戦士だ。戦いこそが自分を表現する手段なのだ。
 その戦いの場で逃げ出してしまった――それが何よりも、ジャックショットには耐えがたかった。
 だが――そんな彼に答えたのはファングウルフではなかった。
「いいんじゃない? 卑怯者でも」
「アルクェイド……?」
 まさか彼女が異を唱えるとは思っていなかった――怪訝な顔をするジャックショットに、アルクェイドは告げた。
「別にいいじゃない。卑怯でも。
 だって戦いじゃない。勝てば官軍でしょ?」
「そ、そりゃまぁ……」
「あたし達の目的は、宇宙を守るために、フレイムコンボイに勝ってプラネットフォースを手に入れること。
 幸い向こうが戦いをOKしてくれてるんだし、何度もケンカ売って、最後に勝てば万事解決。それでいいんじゃないの?」
 うめくジャックショットに答え、アルクェイドは肩をすくめて笑って見せる。
 要するに、彼女が言いたいのは――
「だから、特訓さっさと済ませて、もう一度フレイムコンボイとケンカしに行くわよ!
 で、負けたら逃げてまた特訓! それでいいわね!?」
「おぅっ!」
 結局、戦いを避けるつもりはないらしい――そんな二人の会話に、ファングウルフは思わずため息をもらすのだった。

「プラネットフォースのことを、知っているらしいな」
「まぁ、いろいろあってな」
 告げるスカージの言葉に、スターセイバーは冷静にそう答える。
「貴様、プラネットフォースを知っているのか?」
「まぁな」
 逆に尋ねるシグナムの問いに、スカージはあっさりとうなずく。
「在り処を教えてもらいたいのだが」
「どうするつもりだ?」
「無論――手に入れる」
「断る、と言えば?」
「言うまでも、ないだろう?」
 スカージに答え、スターセイバーは剣をかまえる。
 対し、スカージもまた腰を沈め――
『ゆくぞ!』
 地を蹴ったのは同時だった。一瞬にして間合いが詰まり、スカージの右手の竜の牙とスターセイバーの剣が激突する。
 だが、パワーはスカージが圧倒的に勝っていた。そのまま力任せにスターセイバーを弾き飛ばす。
「はぁぁぁぁぁっ!」
 続いてシグナムが手にした剣を振りかざし、スカージへと迫る――だが、スカージはその斬撃をかわし、
「フォースチップ、イグニッション!
 ダイノ、スラッシュ!」

 フォースチップをイグニッションし、装着したダイノスラッシュでシグナムの刃を受け止め、弾き飛ばす。
「くっ、さすがに親玉ともなると一筋縄ではいかないか……!」
 うめいて、着地するとシグナムはスターセイバーへと目配せし――それを受け、スターセイバーは叫んだ。
「来い! Vスター!」
 その叫びに呼応し、上空にそれは飛来した。
 Vスター。スターセイバーがサイバトロン従軍時代から愛用している、ギャラクシーコンボイのウィングパーツやジンライのコンテナと同じスーパーモード合体用の強化ユニットである。
 そして、スターセイバーはVスターを追って飛び立ち、再び叫ぶ。
「スターセイバー、スーパーモード!
 トランスフォーム!」

 とたん、Vスターが変形を始めた。両サイドの推進ユニットが分離、前後に分割されるとそれぞれが両腕、両足に変形。再びVスター本体に合体する。
 そして、ジンライと同様にコアブロックに変形したスターセイバーが合体し、本体の内部から新たな頭部がせり出す。
「フンッ、でかくなったところで!」
 だが、スーパーモードとなったスターセイバーを前にしてもスカージは臆することはなかった。真っ向から突っ込み――左手のダイノスラッシュを振るう。
 しかし、スターセイバーはそれをバックダッシュでかわし、
「シグナム!」
「あぁ!」
 告げるスターセイバーにシグナムがうなずき、二人は同時に叫ぶ。
 すなわち――
『フォースチップ、イグニッション!』
 同時、スターセイバーの背中のチップスロットに黄色いフォースチップが飛び込み――バックユニットの一角が展開され、そこから一振りの剣が射出された。
 スターセイバーの愛刀、スターブレードである。
 そして、スターセイバーは手にした刃でスカージの追撃を受け止め、その腹部に蹴りを入れて後退させる。
「へぇ、やるじゃないか」
「教えてくれる気になったか? プラネットフォースについて」
 どうせ教えてくれるつもりなどないだろうが、感心するスカージにスターセイバーはそう尋ね――
「いいだろう」
「………………何?」
 スカージの反応は、そんなスターセイバーやシグナムの予想を裏切るものだった。あっさりとかまえを解き、告げるスカージに、スターセイバーは思わず聞き返す。
 だが、そんなスターセイバーに、そしてシグナムに、スカージは告げた。
「貴様ら、気に入ったぞ。
 だから教えてやるよ、プラネットフォースのことを」
 すでに敵意は感じられない――スカージの言葉に、シグナムとスターセイバーは思わず顔を見合わせるが、
「ただし」
 そんな二人に、スカージは交換条件を提示した。
 それは――
「どうしてプラネットフォースが欲しいのか、聞かせてもらってからだ」

「いいんですかい? 教えちまって」
 情報を得て、シグナムを乗せて飛び去っていくスターセイバーを見送るスカージに、ワニ型にトランスフォームする部下、スカルが尋ねる。
 だが、そんなスカルにスカージは答えた。
「いいんだよ。
 フレイムコンボイの神殿の位置はデタラメを教えておいた。
 よその星から来たヤツらにとって、それが真実か確かめるには自分の目で確認するしかない――しばらくは見当違いのところを探してくれるはずさ」
 そう言うと、スカージは彼らに背を向け、
「では、オレは出かけてくる。
 しばらく留守にするが、指揮はウィアードウルフに任せる。サポートはキックバックにやらせろ」
「どちらへ?」
 尋ねるウィアードウルフに、スカージは答えた。
「無論――プラネットフォースをいただきにな」

 それから数時間。すでに、日は地平線に落ちようとしていた。
 そんな中――
「あれが、フレイムコンボイの神殿だ」
「やっとついた……」
 ようやく神殿を視界にとらえた――告げるビッグコンボイの言葉に、フェイトは彼の背の上で安堵のため息をつく。
 そして――
「ホントにフェイトは来てるんだろうね?」
「あれだけ探して見つからなかったのだ。おそらくは最終目的地であるフレイムコンボイの神殿に向かったはずだ」
 アルフとスカイリンクスもまた到着していた。神殿のある盆地を囲むガケの上に降り立ち、フレイムコンボイの神殿を見据える。
 と――アルフはそれに気づいて声を上げた。
「あぁっ!」
「どうした?」
「あそこ! 神殿に続く階段!」
 そこには、彼女が捜し求めていたもう一組の仲間達の姿があった。
「ジャックショットと、アルクェイドだ!」

「フレイムコンボイ、勝負しろ!」
「今度は、負けないわよ!」
 神殿を前にして、ジャックショットとアルクェイドはフレイムコンボイと対峙し、真っ向から挑戦状を叩きつけた。
「ずいぶんと過酷な特訓を積んできたようだが……所詮は付け焼刃。
 後悔しても知らんぞ」
「後悔するのはそっちだぜ!」
「ほざけ!」
 言い返したジャックショットの言葉に、ダイノシャウトが彼へと襲いかかる!
「ファースチップ、イグニッション!」
 そして、ダイノシャウトはフォースチップをイグニッション。頭部の中央に巨大な刃を出現させる。
「クレスト、ソード!」
 咆哮し、一直線にジャックショットに突っ込むダイノシャウト。だが――
「ジャマ!」
 そんなダイノシャウトを、アルクェイドは爪の一撃で空の星へと変えてしまう。
 続けてテラシェーバーにも同様に『退場』してもらい、アルクェイドはジャックショットと共にフレイムコンボイと対峙する。
 そんな二人に、フレイムコンボイは腕組みを解き、
「いいだろう……相手をしてやる」
「望むところだ!
 アルクェイド!」
「OK!」
 告げるジャックショットにアルクェイドがうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!
 アンカー、ショット!』

 いきなりのイグニッション。アンカーショットを放つが、それはフレイムコンボイの持つフレイムアックスに弾かれてしまい――
「甘いのよ!」
 そのスキにアルクェイドが肉迫していた。ダイノシャウトとテラシェーバーの二人を星に変えた爪の一撃が、フレイムコンボイの顔面に叩きつけられる。
 そしてさらに、ジャックショットも蹴りを一発。これにはさすがのフレイムコンボイも後退を余儀なくされる。
 しかし、決定打ではない――そしてそれが悪い兆候であることを、柱の陰に隠れて見守るファングウルフは見抜いていた。
(ダメだ……!
 そんな中途半端な攻撃では、フレイムコンボイを怒らせるだけだ……!)
 しかし、フレイムコンボイの臣下である自分が表立ってジャックショット達を助けるワケにはいかない。先の戦いでフレイムコンボイに気づかれぬよう、高速で二人を連れ去ったのもそのためだ。
 どうすることもできず、ファングウルフは思わず歯噛みし――
「なるほどな」
「――――――っ!?」
 その言葉にすかさず振り向くと、そこにはマスターメガトロンの姿があった。
「ジャックショットを助けた裏切り者は、お前だったのか。
 フォースチップ、イグニッション!」
 告げると同時、マスターメガトロンはフォースチップをイグニッション。左肩のチップスロットに飛び込んだフォースチップは彼の左肩のバックユニットを分離させ、それはマスターメガトロンの左腕に鋭い鉤爪として装着される。
「デス、クロー!」
 そして、マスターメガトロンはその爪で一撃。ファングウルフを隠れていた柱もろとも殴り飛ばす!
「ファングウルフ!」
 それを見て、思わずジャックショットが声を上げ――
「戦いの最中に、どこを見ている!
 フォースチップ、イグニッション!」
 そのスキをついて、フレイムコンボイが動いた。フォースチップをイグニッションし、両肩に新たな龍の頭を生み出し、
「デス、フレイム!」
 そこから放たれた炎が、ジャックショットに襲いかかる!
「ジャックショット!
 こんのぉっ!」
 炎に包まれるジャックショットを救おうと、アルクェイドはフレイムコンボイに襲いかかるが――
「ジャマだぁっ!」
 そんな彼女を、フレイムコンボイはフレイムアックスで斬り飛ばす!
 一方、ファングウルフもなんとか立ち上がるものの、反撃もままならずマスターメガトロンにいいようにいたぶられるばかりである。
「アルクェイド、ファングウルフ……!
 くっ、そぉっ!」
 なんとかしなければ――ジャックショットは状況を打開するべく、炎の中をフレイムコンボイめがけて突き進む!
「何ぃっ!?」
「これが――特訓の成果だ!」
 驚くフレイムコンボイに言い返すと、ジャックショットは彼の目の前で炎を振り払い――その腹に、強烈な拳の一撃を叩き込む!
 このままたたみかければ、勝てるかもしれない――その瞬間、そんな考えが脳裏をよぎる。
 少し前までなら、彼は迷わずそうしていただろうが――
「アルクェイド!」
 しかしそうはしなかった。吹っ飛ぶフレイムコンボイを尻目に、ジャックショットはまずアルクェイドへと駆け寄った。助け起こし、容態を確認する。
「だ、大丈夫よ……!
 真祖の生命力、なめないでよ……!」
 血まみれではあるが、とりあえず命に別状はない――安堵するジャックショットは彼女をライドスペースに納め、続いてファングウルフを救うべくマスターメガトロンへと向き直るが、
「………………ん?」
 彼のことなど知ったことではなかった――ファングウルフをいたぶっていたマスターメガトロンは彼とは別の、何かに気づいて顔を上げた。
 そして――自分に向かってくるジャックショットへと向き直り、
「そら……仲間を返してやるぞ!」
 告げて、マスターメガトロンはファングウルフを蹴飛ばしてよこした。ファングウルフに激突され、ジャックショットは耐え切れずに転倒してしまう。
「フレイムコンボイ。
 二人まとめて始末してしまえ」
「うむ」
 言い残して立ち去るマスターメガトロンの言葉にうなずき、フレイムコンボイはフレイムアックスをかまえ――
「己の無力さを、悔やむがいいわ!」
 振り下ろした。

「ビッグコンボイ、急いで!」
「わかっている!」
 それが誰かは知る由もないが、神殿で戦いが行われていることだけは理解できた。フェイトがビッグコンボイを急かし、二人は急ぎ神殿へと向かう。
 そして、神殿への階段までたどりつくとビッグコンボイはビーストモードにトランスフォーム、そのまま駆け上がっていく。
 だが、彼らが階段を上りきると――
「ほぉ、貴様も来ていたのか、小娘」
 その前に立ちはだかったのはマスターメガトロンだ――フェイトの姿を見て、不敵な笑みと共に告げる。
 彼が感じ取ったのは、フェイトの魔力の気配だったのだ。
 だが――マスターメガトロンと因縁があるのは、フェイトだけではなかった。
「貴様……マスターメガトロン!」
「ん?」
 驚き、声を上げるビッグコンボイだが、ビーストモードのままではマスターメガトロンはそれが誰なのかは判別できない。怪訝な顔で眉をひそめてみせる。
「久しぶりだな、マスターメガトロン!
 ビッグコンボイ、トランスフォーム!」
 そんな彼に告げ、ビッグコンボイはロボットモードへとトランスフォーム。ようやくマスターメガトロンは相手が何者なのかを悟っていた。
「ほぉ、誰かと思えばビッグコンボイか。
 ずいぶんと久しいな。貴様の後釜のギャラクシーコンボイには、少々退屈させられていたぞ」
「相手がお前では、アイツには確かに荷が重いかもな」
 マスターメガトロンに答え、ビッグコンボイはマンモストンファーをかまえ、
「フェイト、貴様は仲間を助けろ」
「うん!」
 ビッグコンボイに答え、ジャックショットの元に向かおうとするフェイトだが――
「させん!」
 マスターメガトロンがそれを阻んだ。雷撃を広範囲に放ってフェイトの援護を封じる。
「ヤツらの元に向かいたいのなら、オレ様を倒してからにするんだな」
「月並みなセリフだな……大歓迎だが、な!」
 マスターメガトロンに答え、ビッグコンボイは地を蹴った。

「フェイトもいる!」
「共にいるのは――ビッグコンボイか?」
 その場にフェイトとビッグコンボイの姿も見つけ、アルフとスカイリンクスは上空から神殿へと急降下し、声を上げる。
 だが――
「――――――っ!
 アルフ、振り落とされるな!」
 とっさにスカイリンクスは機動を変え、飛来した火球をかわす。
「この攻撃って……!
 アイツ、フレイムコンボイと敵対してるんじゃ!?」
 攻撃の正体には察しがついた。アルフがうめく前で予想通りの相手が――スカージがフレイムコンボイの神殿の屋根の上に着地した。
「貴様、どうしてここにいる!?」
「フレイムコンボイに用があってな」
 スカイリンクスに答え、スカージは左手のダイノスラッシュをかまえたまま、右手の竜の口の中に火球を生み出す。
「少々おもしろい話を聞いてな……
 ヤツの持っているプラネットフォースは、オレがいただくことにしたのさ!」
「そうはさせぬ!」
 答えて、スカイリンクスはスカージの前に降り立ち、
「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮と同時にアニマトロスのフォースチップをイグニッション。フレイムコンボイと同様に、頭部の両側に新たな獣の頭を生み出し、まるで神話のケルベロスのような姿となる。
「くらえ!
 ダイノ、ブレイズ!」
 対し、スカージはスカイリンクスに向けて火球を放ち――スカイリンクスも一撃を放った。
「デス、ブリザード!」
 咆哮と共に左右の獣の口から光球が放たれ、スカージの火球と衝突、相殺する。
 すさまじい蒸気が巻き起こる――『デス“ブリザード”』の名の通り、放たれた光球は冷凍エネルギーの塊のようだ。
「貴様の炎と我輩の凍気――
 互いに真逆の力を持つ者同士――飛び道具での決着はないと心得よ!」
「上等だ――叩きつぶしてくれる!」

「何ぃっ!?」
 目の前の光景に、フレイムコンボイは思わず声を上げた。
 ファングウルフの下敷きになっていたジャックショットが、体勢を入れ替えてファングウルフを守ったのだ。
 だが――それも今のフレイムコンボイには『弱者の馴れ合い』にしか見えなかった。再びフレイムアックスを振り上げ、
「今さら何のマネだ。
 死に急ぎたいのなら、そのまま斬り刻んでやる!」
 叫びながら、フレイムコンボイはそのままジャックショットへとフレイムアックスを幾度となく叩きつける!

(オレは……何もできないのか……!?)
 フレイムコンボイの猛攻の中、ジャックショットは自分自身に問いかけた。
(私は……こんな時に動けないの……!?)
 遅々として修復の進まない身体を呪い、アルクェイドは自分自身に告げた。

 脳裏に浮かぶのは、桃色の輝きの中で仲間を守るために戦うひとりの少女の姿――

(オレは、オレを気遣ってくれた仲間さえ、助けることができないのか……!?)
(パートナーが殺されそうなのに……私には守ることすらもできないって言うの……!?)

 その想いに、人知れず反応したものがあった。

(オレの力は、こんなものなのか……!?)
(私の力は……何も守れないって……壊すことしかできないって言うの……!?)

 それは静かに、その“力”を高め始めた。

(力が……力が欲しい……!)
(仲間を……みんなを……ジャックショットを守るための力が……!)

 彼らの想いを感じ取る度、その力がまるで鼓動のように跳ね上がっていく。

(オレは――)
(私は――)

 そして――

 

『力が、欲しい!』

瞬間――“力”が放たれた。

 

「何ぃっ!?」
 突然の異変に、フレイムコンボイは驚いて後ずさった。
 何の前触れもなく――ジャックショットが緑色の光に包まれたのだ。
〈適合対象、スキャニング〉
 ジャックショットのメインシステムが命令を下し――ジャックショットの目からスキャニング用のレーザーが放たれた。それは周囲の様々なものを探りながら神殿の中へと飛び込み、そこに飾られていた壁画の獅子の姿を読み取っていく。
〈適合対象、決定〉
 システムボイスと共に、光はその強さを増していく。
 そして――

 

転生Evolution

 

 一際大きな光が放たれ――それが消えた時、ジャックショットの姿はその場から消えていた。
「な、何が起きた!?」
 うめいて、フレイムコンボイはジャックショットの姿を探し――それを見つけた。
 神殿の屋根の上に佇む、ライオン型のトランスフォーマーの姿を。
 だが――彼らにはなぜかそれが何者なのかわかった――いや、確信できた。
 となりに佇むのは一瞬にして傷の癒えたアルクェイドだ。つまり彼は――
 ジャックショットだ。
「グァオォォォォォッ!」
 彼らに向けて高らかに咆哮し――新たな姿を得たジャックショットは地を蹴り、動揺するフレイムコンボイに前足の爪で一撃を加える。
 さらにビッグコンボイと対峙するマスターメガトロン、スカイリンクスと戦うスカージにも反撃の一撃を浴びせると、そのままファングウルフを背の上に乗せ、神殿から一気に眼下のジャングルへと消えていった。
「じ、ジャックショット……!?
 アルクェイド、さん……!?」
 その光景に、フェイトが思わず声を上げると、
「オレ達も引き上げだ」
 そんな彼女に告げ、ビッグコンボイはフェイトを持ち上げるとスカイリンクスに引き渡す。
「スカイリンクス、フェイトを頼む」
「び、ビッグコンボイ!?」
「義理は果たした。オレが同道するのはここまでだ」
 同行してくれるのではないのか――驚くフェイトに答えると、ビッグコンボイもジャングルに向けて跳び降りていく。
「ビッグコンボイさん!」
 あわててその後を追おうとするフェイトだったが、
「待て、フェイト。
 今はこの場を離れるのが先決だ」
 我に返り、こちらへと振り向くマスターメガトロンやフレイムコンボイを見ながら、スカイリンクスが彼女に告げる。
「逃げるつもりか、スカイリンクス!」
「『逃げる』? 異なことを言う。
 『帰る』のだよ、我輩は」
 声を上げるフレイムコンボイに答えると、スカイリンクスはビーストモードへとトランスフォーム。フェイトとアルフを乗せて神殿から飛び去っていった。

 神殿を遠く離れ、ジャックショットは追っ手がないか確かめるべく岩山へと駆け上がった。
 だが、追撃の手がかかっている様子はない――安堵し、ファングウルフをその場に下ろす。
「これが、オレ……」
「新しい、ジャックショット……」
 つぶやき、視線を交わし――ジャックショットとアルクェイドは互いにうなずいた。
 そして――こちらに向かって跳んでくるスカイリンクスへと向き直り、高らかに名乗りを上げた。
 その名は――

『ライガージャック!』


 

(初版:2006/05/14)