惑星スピーディアでの次なるレースは、砂漠を含む大荒野のレース。
 それに備え、ギャラクシーコンボイ達はエクシリオンに砂漠での走行に備えた訓練を課すことにした。
 もっともエクシリオンの苦手とする、砂地での走行訓練――砂地を掘り返して作ったバンカー(ガードシェル作)の中からエクシリオンに脱出してもらおう、というものである。

〈焦っちゃダメだよ、エクシリオン。
 キミ達は人間のドライバーと違って、タイヤのコンディションを直に感じられるんだから〉
「わ、わかってる!」
 通信モニター越しにアドバイスするすずかに答え、エクシリオンは意識を集中する。
 4つのタイヤがどういう状態にあるか――どう地面に接しているかを感じ取る。そして――
「これで、どうだ!」
 叫ぶと同時、エクシリオンは砂地からの脱出に成功していた。

「さすがエクシリオン、飲み込みが早いわね」
「あぁ」
 練習に励むエクシリオンを一同がモニター越しに応援する中で、忍のつぶやきに恭也がうなずくが、
「けど……」
 そんな彼らとは対照的に、運転とメンテナンス、双方の心得のある耕介の表情は優れない。
(本当なら、そんな一朝一夕に覚えられることじゃない……
 向こうにいる美緒にアドバイスを頼むか……ダメだ。アイツは4輪にあまり詳しくない。
 せめて――オレが直接向こうへ行ければいいんだけど……)

 

 


 

第21話
友情合体リンクアップ
ライガーコンボイさん見参なの!」

 


 

 

 なおもエクシリオンは練習を続け、それをギャラクシーコンボイ達は静かに見守る――そんなことをしばらく続けていると、
「………………ん?」
 ファストエイドが何かに気づいた。
「どうした? ファストエイド」
「少し、問題が起きたようだ」
 クロノの問いに、ファストエイドはそう答えるとギャラクシーコンボイに声をかけた。
「ギャラクシーコンボイ総司令官。
 ジャックショットのいる、惑星アニマトロスから救難信号を受信しました」
「なんだと?」
 ギャラクシーコンボイが聞き返すと、ファストエイドはそのメッセージを再生した。
〈ジャックショットに危機迫る。サイバトロンの味方より〉
「……これだけ?」
「あぁ。
 しかし、通信周波数は間違いなくサイバトロンのものだ」
 単調極まりない通信の内容に、尋ねる美緒にファストエイドがうなずく。
「ふむ……」
「我々が向かいましょうか?
 元々、私が派遣されるはずだったワケですし……」
 考え込むギャラクシーコンボイにガードシェルが提案するが、彼は首を左右に振り、
「いや、ゲートを開ける私とベクタープライムで行った方がいいだろう。
 その代わり、留守は頼んだぞ」
 ギャラクシーコンボイがそう言うと、
〈あの、ギャラクシーコンボイさん〉
 突然、通信モニター上のなのはが口を開いた。
〈私も、行ってもいいですか?〉
「キミも?
 だが……」
 言いかけ――ギャラクシーコンボイは口をつぐんだ。
 アニマトロスにはなのはの親友のフェイトがいる。彼女がその身を案じるのは当然のこと――それが救難信号まで発せられているともなればなおさらだ。
 それに、救難信号が発せられているということは、逆に言えば彼らを襲う危機との交戦も考えられる。デバイスも直っておらず、魔力も依然消耗したままではあるが、自分のイグニッションパートナーであるなのはがいてくれると助かるのもまた事実だ。だが彼女を危険にさらすワケにも――
「ふむ……どうしたものか……」
 頭ごなしになのはの希望を却下するのもためらわれ、ギャラクシーコンボイは考え込み――決断した。
「……仕方がない。
 トランスフォーマー1名に保護者1名。その同伴が条件だ。
 スペースブリッジの出口をこちらへ。合流した後出発だ」
〈はい!〉

「それじゃあ……なのは、誰について行ってもらうの?」
「うーん……」
 とりあえずギャラクシーコンボイの了解は取り付けた。後は同行するメンバーを誰にするかだ――尋ねるアリサになのはが考え込むと、
「ボクが同行しようか」
 そう言い出したのはバックパックである。
「アニマトロスは悪路が多い土地らしいからね、戦車にトランスフォームできるボクが適任だろう?」
 だが――
「待て、バックパック。
 お前にはスペースブリッジの監視という任務があるだろう」
 あっさりとそれにダメ出しをするのはドレッドロックだ。
「じゃあ誰が行くんですか?
 副司令が行ってくれると? 副司令もこの基地の留守を任されているのに? 志貴が最近基地を空けがちなのに?」
「む……」
 反撃とばかりに告げるバックパックにドレッドロックがうめくと――
「なら、ボク達が行きましょう」
 名乗りを挙げたのはロングラックだった。
「ボクなら、イグニッションパートナーの那美さんと共に向かえます」
「それに悪路もキャタピラを持ってるロングラックさんならヘッチャラですよ」
「ま、まぁ……確かに適任だが……」
 ロングラックと彼に賛同する那美の言葉に、ドレッドロックがうめくように答えるが――彼が言い出せないでいることを真雪はズバリと言い切った。
「お前と那美のドジコンビじゃイマイチ不安なんだよな」
『どっ………………!?』
 その言葉に思わず固まる二人だが、心当たりがありすぎて反論もままならない。
 と――
「なら、オレも行こう」
 そう名乗りを挙げたのは――
「お兄ちゃん……?」
「フェイトのことを放っておけないのはお前だけじゃないんだぞ、なのは」
 意外と言えば意外な人物の立候補に、思わず声を上げるなのはに恭也は彼なりの笑顔でそう答えた。

 一方――
「むぅ……」
 宇宙空間の一角――グランドブラックホールの近辺で、マスターメガトロンはマップを片手に思わずうめいた。
 どうしたものかとしばし思案し――スタースクリームへと通信する。
「スタースクリーム」
〈どうしました? マスターメガトロン様〉
「第3のプラネットフォースのある星は、グランドブラックホールに飲み込まれてしまった可能性が高い」
〈それは困りましたね……〉
「うむ……」
 さすがにこれは優秀な副官もどうしようもないらしい――肩を落とすスタースクリームにさしものマスターメガトロンも思わずうなずき――突然、通信に割り込みがかかり、ウィンドウの映像が薄暗い空間のそれに切り替わった。
「何者だ、貴様!?」
〈あなたの味方、とだけお答えしましょう〉
 尋ねるマスターメガトロンに、その通信の主はそれだけしか答えない。
 首をかしげるマスターメガトロンだったが――続けて放たれた言葉に眉をひそめた。
〈それより、ご存知ですか?
 ギャラクシーコンボイ達が惑星アニマトロスに現れました〉
「ほぉ……」
〈この通信を信じるか、そしてどうなさるかは、あなたのご自由に〉
 そう言うと、通信の主は回線を切り、ウィンドウの映像は元のスタースクリームの姿に戻った。
〈マスターメガトロン様、今のは……?〉
「わからんが……今の情報が真実なら放ってはおけん。
 確認の意味も込め、一度惑星アニマトロスに引き返す。お前も一緒に来い」
〈了解しました〉

「ぉおりゃあっ!
 おぉりゃりゃりゃりゃあっ!」
 その頃、ファイヤースペース内ではデモリッシャーが特訓中。一方でラナバウトはといえば上機嫌で音楽――SEENAの新曲だ――を楽しんでいる。
 そしてサンダークラッカーは相変わらず留守にしているが――今やいつものことだし通信で呼び出せば(間に合うかどうかはともかく)ちゃんと戻ってくるので、もはや追求するものは誰もいない。
 と――そこへマスターメガトロンとの通信を終えたスタースクリームが姿を見せた。
「どうしたんスか? スタースクリーム」
「うむ。
 マスターメガトロン様の要請で、惑星アニマトロスに向かわねばならないのだが……」
 ラナバウトの問いにスタースクリームが答え――それを聞いて張り切ったのがデモリッシャーだ。
「よっしゃ! 特訓の成果を見せてやる!
 暴れてやろうぜ、ラナバウト!」
「お、オレもか!?」
 デモリッシャーの言葉にいきなり巻き込まれたラナバウトが声を上げるが、
「……そこにいたのか、ノイズメイズ」
 スタースクリームが目をつけたのは、ワープゲートから姿を現したノイズメイズだった。
 あのアトランティスでの邂逅の後、何を思ったのか仲間入りを志願してきたのだ。
「アニマトロスに向かう。ラナバウトと一緒について来い。
 デモリッシャーは残れ。地球のサイバトロンの動向の監視を頼みたい」
「急な話ですね……何かあったんですか?」
 その言葉に、スタースクリームは答えかけ――やめた。
 例の通信の主が不可解なことが引っかかる。余計なことを言って動揺させることもないだろう。
「時間がない。
 行くぞ」
 結果、何も説明せずにワープゲートの向こうに消えるスタースクリームを見送り――ノイズメイズはつぶやいた。
「ワケあり、ってヤツね……
 ……了解」
 その口調にはどこか楽しげなものが感じられたが――ラナバウトは戦いを楽しみにしているからだろうと解釈し、彼と共にワープゲートをくぐっていった。

 そして、舞台はアニマトロスに移り――
「これでっ!」
 ギャラクシーコンボイの放ったビームが突き刺さり、巨大植物は炎を上げて炎上した。
「くそっ、キリがない!
 大丈夫か!? なのは!」
「はい!
 けど……数が多すぎますよ!」
 うめくギャラクシーコンボイに答え、なのはは未だ自分達を囲む巨大植物達を見回す。
「大丈夫ですか!?」
「私もなんとか無事だ。
 だが、このままでは……」
 別の場所で共に戦い、恭也とベクタープライムが言うと、
「ぅわぁっ!」
「ロングラックさん!」
「ろんぐらっく!」
 食人植物に捕まったロングラックの姿に、那美と久遠が声を上げる。
「くっ――!」
「待って! ロングラックさんに当たっちゃう!」
 とっさにコンボイガンをかまえたギャラクシーコンボイになのはが言うと、
「グァオォォォォォンッ!」
 突然の咆哮と共に、ライオン型のトランスフォーマーが乱入してきた。
 そして――咆哮が響いた。
「フォースチップ、イグニッション!」
 女性の声――しかも、なのは達にとって聞き覚えのある声――で響いたその言葉と同時、ライオン型トランスフォーマーの前足にフォースチップが飛び込み、より巨大な爪が装着される。
「プラティナム、クロー!」
 叫び、ライオン型トランスフォーマーが爪を振るい――叩きつけられた一撃の下に、食人植物は根元から斬り倒された。
「大丈夫か? ロングラック」
「は、はい……」
 駆け寄る恭也に触手から解放されたロングラックが答えると、彼の無事を確認したギャラクシーコンボイは改めてライオン型トランスフォーマーへと向き直った。
「助けてくれてありがとう。
 ところで……キミは何者なんだ?」
「オレですよ、オレ。
 トランスフォーム!」
 答え、ロボットモードへと変形したトランスフォーマーのその顔に、その正体に気づいたなのはは思わず声を上げた。
「あぁぁぁぁぁっ!
 じ、じ、じ……ジャックショットさん!?」
「何だって!?」
「えぇっ!?」
 その言葉にベクタープライムと那美が声を上げると、
「その通りよ」
 その言葉と同時、トランスフォーマーの胸に移動していたライオンの口が開き、
「よっこらしょ、っと……」
 中から姿を現したのは――
「アルクェイド・ブリュンスタッドと新生ジャックショットライガージャック、只今合流よ♪」
「お、お前達だったのか……?」
 改めて告げるアルクェイドの言葉に、ギャラクシーコンボイは驚くしかない。
 だが、そんなギャラクシーコンボイのリアクションがおもしろかったのか、アルクェイドは笑いながらその肩の上のなのはへと向き直り、
「それで……なのは。
 ギャラクシーコンボイが来てるってことはどうせ来てるだろうと思って、お目当ての相手、連れてきてるわよ」
「え? じゃあ……!」
 その言葉に顔を輝かせるなのはに、アルクェイドは笑顔でライガージャックの胸の口を開け、
「えっと、なのは……
 心配、かけちゃったかな……?」
 なのはの予想通り、その中からはフェイトが姿を現した。
「フェイトちゃん!
 よかった! 心配してたんだよ!」
 それを見て、なのははすぐさまライガージャックへと飛び移り、フェイトへと飛びつく。
「だが――どうしてそんな姿に……?」
「いや、それがですね……」
 尋ねるベクタープライムにライガージャックが答えようと口を開き――そんな彼らの元に、新たな影が飛び込んできた。
『トランスフォーム!』
 咆哮し、ロボットモードへとトランスフォームしたファングウルフとサイドス、そしてスカイリンクスだ。傍らにはアルフの姿もある。
「説明なら、私がしよう」
 そのサイドスの言葉に、ギャラクシーコンボイとなのはは思わず顔を見合わせた。

「そうか……そんなことがあったのか……」
 サイドスのねぐらである洞窟に案内され、サイドスから一連の事情を聞かされたギャラクシーコンボイは納得してうなずいた。
「他の惑星の者に干渉すべからず、という規則があるようだが、干渉したのは我輩達の方だ。
 だから彼を責めないでもらいたい」
「それはもちろんですよ。
 オレ達はそもそも、ジャックショット……じゃない、ライガージャックやフェイト達を助けにこの星に来たんですから」
 スカイリンクスの言葉に恭也がうなずくと、ファングウルフがギャラクシーコンボイに尋ねた。
「ところで、マスターメガトロンから聞き、ライガージャックにも確認したんだが……グランドブラックホールの話は本当なのか?
 そう――キミ達の故郷であるセイバートロン星も、その中に消えたって……」
「本当だ」
「いずれ、この惑星アニマトロスも同じ運命をたどるのじゃろうか……」
「大丈夫ですよ、サイドスさん」
 うつむくサイドスに答えたのは那美だ。
「そのためにギャラクシーコンボイさん達が、必死になってがんばってくれてるんです。
 それに、私達もがんばってそのお手伝いをしてますから……」
「なら、オレ達にも手伝わせてくれ!」
「もちろんですよ。
 ね? ギャラクシーコンボイさん」
「うむ」
「ふぁんぐうるふも、さいどすも、すかいりんくすも、みんな久遠たちのともだち♪」
 ファングウルフに答える那美にギャラクシーコンボイがうなずき、久遠が笑顔でそう付け加えた。

「トランスフォーマーって、乗り物だけじゃなくて、動物にもトランスフォームできたのね……」
 そのやり取りは、通信回線を通じて地球のサイバトロン基地だけでなく、リンディのオフィスでもモニターされていた。腕組みしてうんうんと納得しながらエイミィが言うと、
〈いや、普通ではムリだ〉
 それに異を唱えたのはスピーディアにいるファストエイドだ。
〈少なくとも、セイバートロン星出身のトランスフォーマーはビークルモードにしかトランスフォームできない。
 彼らが動物型にトランスフォームするのは――プラネットフォースの影響によって、あの惑星独自の進化を遂げた結果だろう〉
「どういうこと?」
 尋ねるリンディの言葉に、ファストエイドは一息ついた後に説明を始めた。
〈惑星スピーディアに来て、クロノに言われてからずっと気になっていたんですが――リンディ提督、フォースチップの色には、プラネットフォースの影響があるのではないでしょうか?〉
「そういえば……あなた達が地球で手に入れたフォースチップは青色だけど、エクシリオンが惑星スピーディアで手に入れたものは赤色で、惑星アニマトロスで獲得したライガージャックのフォースチップが緑……」
「シックスショットとシックスナイトは、なのはちゃん達と同じ黄色でしたね。
 確か、ヴォルケンリッターのジンライも……
 で、スタントロンのオーバーライド達が藍色で……」
〈アニマトロスで出会ったバンディットロンは、ガンメタルで統一されてました〉
「確かに、色が惑星ごとに共通してますね。
 2色確認されたスピーディアやアニマトロスでも、勢力ごとにハッキリと区分されていて、しかも、逆に言えばその2色以外確認されていない」
 リンディの言葉にエイミィ、そしてフェイトが付け足すのを聞き、クロノが納得する。
 と――
〈けど、ギャラクシーコンボイやベクタープライムは?〉
 そう言って割り込んでくるのはアリサである。
〈ギャラクシーコンボイのにはサイバトロンマークが入ってるし、ベクタープライムのは歯車模様……二人とも、どの色でもないわよ?〉
 その問いに、ファストエイドはしばし考えた末に答えた。
〈総司令官にはマトリクス、ベクタープライムは剣を持っている。
 どちらも時空ゲートを開けるほどの力を持ったものだから――その影響だと思っていいだろう。
 プライマスのスパークから作られ、惑星を初期化するほどの力を持ったプラネットフォースだ。チップスクェアが地球人にイグニッションパートナーとしての力を与えたように、フォースチップはもちろん、トランスフォームにも何らかの影響を及ぼしていたと考えて、間違いないだろう〉

「しかし、ビッグコンボイ元司令がこの星に……」
「オレも、フェイトから聞いてビックリしましたよ」
 ファストエイドによるフォースチップの解説も済み――話の内容を改めて思い返し、うめくギャラクシーコンボイにライガージャックが答える。
 と、なのはがそんなギャラクシーコンボイに尋ねた。
「ギャラクシーコンボイさん、そのビッグコンボイさんって誰さんなんですか?」
「ギャラクシーコンボイの前の、司令官だって言ってたけど……」
 なのはのとなりでつぶやくフェイトにうなずき、ギャラクシーコンボイは説明を始めた。
「ビッグコンボイ――かつて“一人軍隊ワンマンズ・アーミー”とまで言われた、サイバトロン史上における生きた伝説だ。
 そして……私の先代の総司令官であり、直属の上官――そして師でもある」
「そ、そんなにすごい人なんですか?」
「確かに、戦士としちゃ、最強だったんだがな……」
 なのはの言葉に、ライガージャックはため息をついた。
「どういうこと?」
「オレも大概ムチャクチャだったが――それに輪をかけてトンデモナイ人だったんだよ」
 尋ねるフェイトにライガージャックが答えると、ギャラクシーコンボイが説明を引き継いだ。
「さっき言っただろう。“一人軍隊ワンマンズ・アーミー”と呼ばれていたと。
 それは決して比喩ではない――文字通り、ひとりで戦っていたのだ」
「え………………?」
 その言葉に、恭也は彼らの言いたいことに気づいた。
「つまり……司令官でありながら、組織を放り出して単独で、っていうことか?」
「そうだ」
 恭也にうなずくギャラクシーコンボイの言葉に、実際に彼と面識のあるフェイトはその意味を理解していた。
 彼は極めて優秀だ。戦いに関わることなら、何でも自分でこなせてしまう。
 つまり――部下がいなくても、人手以外の問題はすべて自分で解決できてしまうのだ。
 故に部下を必要とせず、持とうとしない――そんなことをしていたのであれば、司令官の任を解かれても当然だ。
「ウワサによれば、司令官の任を解かれた後は傭兵として各地で転戦していたらしい。
 協力してくれれば、確かに心強い戦力になってくれるだろうが……」
「あ奴の性格を考えれば、難しいであろうな」
 ギャラクシーコンボイに告げるスカイリンクスの言葉に、一同は思わずため息をつく。
「それにしても、みんな無事でよかった……」
「まったくだ。
 救難信号が来た時は驚いたぞ」
 それはともかく、改めて一同の無事に安堵するなのはに恭也がうなずいて同意し――しかし、ライガージャックやアルクェイドはその言葉に顔を見合わせた。
「救難信号?」
「何の話?」
「先輩達じゃないんですか!?」
「あたしらじゃないよ」
 驚いて声を上げるロングラックに、アルフはキッパリと否定する。
「では、誰が……」
 ベクタープライムが言いかけた、その時――突然、地響きが轟いた。
「何だ!?」
 ギャラクシーコンボイが声を上げ、一同が洞窟から外に出ると、
「見つけたぞ。
 裏切り者のファングウルフよ」
 そこにいたのは、ダイノシャウトとテラシェーバーを従えたフレイムコンボイだった。
「アイツがフレイムコンボイよ!」
「そうか……
 ファングウルフを、どうするつもりだ!」
 アルクェイドの言葉にギャラクシーコンボイが尋ねるが、対するフレイムコンボイは取り付く島もない。
「誰だ? てめぇは。
 関係ないよそ者は引っ込んで、おとなしくファングウルフを引き渡してもらおうか。
 それとも、オレ達とやる気か!?」
「そんなつもりはない。
 確かに我々はキミ達とファングウルフの関係の詳しいところは知らない。だが、まずは平和的に話し合うべきだ!」
 それでも説得を試みようとするギャラクシーコンボイだが、フレイムコンボイはそれを鼻で笑う。
「おい、野郎ども、聞いたか?
 『平和的に』だとよ」
 そう言うと、部下達と共にひとしきり笑い飛ばし――フレイムコンボイは改めてギャラクシーコンボイに告げた。
「悪いが、この星での『平和的な解決』とやらは、勝負で勝ち取るものなんだ。
 それが、この星の掟だ」
 と――
「相変わらずおめでたいヤツだな、ギャラクシーコンボイ」
 そう告げ、ワープゲートから姿を現したのは――
「マスターメガトロン!?」
「何だ、知り合いか?」
「まぁな」
 ギャラクシーコンボイが声を上げるのを見て尋ねるフレイムコンボイに、スタースクリーム達を従えたマスターメガトロンはあっさりとうなずく。
「しかし……さっき連絡をよこしたのはお前の仲間か?」
「何の話だ?」
 逆に、尋ねるマスターメガトロンにフレイムコンボイは首をかしげるのみ。
 サイバトロンと同様に、デストロンもまた何者かに呼び出されたらしい。だが、それが一体誰なのか――
「さて、それはともかく――」
 しかし、フレイムコンボイはあっさりと気持ちを切り替えた。ギャラクシーコンボイへと視線を戻し、告げる。
「さっき言った通り、この星で意見を通そうとするからには、この星の掟に従ってもらう。
 マスターメガトロン達と――戦ってもらおうか」

「よし、と……」
 一通りの準備を終え、耕介は荷物をバンパーに積み込んだ。
 と――
「耕介さん」
「こっちも準備OKよ」
 忍とすずかがやってきた。それぞれ自分達の荷物もバンパーへと積み込む。
 と――
「やっぱり、思いとどまってはもらえませんか?」
 そんな彼らに告げるのはホップである。
「もしものことがあったら……」
「大丈夫だって。
 もし見つかって怒られるようなことがあっても、ホップのせいにはしないから♪」
 こちらを心配してくれるホップの言葉に、忍は彼の額を軽くつついてそう答える。
「忍お嬢様、こちらも準備は万端です」
「いつでも出発できますよ!」
 さらにはノエルやファリンまで現れた。こちらもブリットに荷物を積み込み、準備は万全である。
 そして、耕介は振り向き――そこにいたトランスフォーマーに告げた。
「じゃあ、道中頼むよ、ハイブロウ」
「まぁ、戦いにならないなら、かまわないけどね……」
 そう答える彼の名はハイブロウ。移民トランスフォーマーのひとりであり、仕官学校はエクシリオン達の同期にあたる。
 ヘリコプターにトランスフォームできることから、忍が今回のことに関して協力を頼んだのだ。
 そして、耕介は元気よく――ただし、他の面々には気づかれないように小声で――宣言した。
「それじゃあ、スピーディアに向けて、しゅっぱぁつ!」
『おー!』
 忍達の返事もやっぱり小声だった。

「さぁ、やれ」
 フレイムコンボイの言葉に、まずはスタースクリームがギャラクシーコンボイの前に降り立った。
 傍らでは、ファングウルフとサイドスがテラシェーバーとダイノシャウトに取り押さえられている――ギャラクシーコンボイ達にしてみれば人質を取られた形だ。
「く………………っ!」
 ファングウルフを助けなければ――とっさに駆け出そうとするライガージャックだが、
「待て、ライガージャック」
 それを止めたのはギャラクシーコンボイだった。
「戦いで、どちらが正義かを決めるべきではない」
「し、しかし……!」
 そんな彼らの様子を見て、フレイムコンボイはしばし考え――告げた。
「腰抜けめ……試合放棄するつもりか?
 それならオレ達は、デストロンと組むまでよ」
「待ってくれ! まずは話を聞いてくれ!」
 それでもフレイムコンボイに懸命に訴えるギャラクシーコンボイだったが、そんな彼に戦いを主張するのはライガージャックとアルクェイドだ。
「戦いましょう! 総司令官!
 でないと、ファングウルフが!」
「そうよ!
 勝てない相手じゃない――いけるわよ!」
 しかし――その言葉を聞き逃さなかったのがスタースクリームだ。
「言ってくれるな。
 フォースチップ、イグニッション!」
 言いながら、フォースチップをイグニッションしてバーテックスブレードを展開。スタースクリームはこちらに向けて戦闘体勢を整える。
「やらせてください、総司令官!」
「ダメだ、挑発に乗るな!」
 なおも食い下がるライガージャックにギャラクシーコンボイが答えると、
「なら、ここは我輩の出番かのぉ」
 言って、一歩を踏み出したのはスカイリンクスだった。
「スカイリンクス……?」
 思わず声を上げるフェイトに、スカイリンクスは笑って、
「我輩はこの星の“力の掟”に従う者。問題はなかろう?」
「いや、そういう問題では……」
 スカイリンクスの言葉にギャラクシーコンボイがうめくと、
「どうする? やるか、やらないか!」
「誰がやらぬと言った!?
 ゆくぞ、アルクェイド、ライガージャック!」
「そうこなくっちゃ!」
「いくぜ!」
「ま、待て!」
 フレイムコンボイに答え、地を蹴る3人――もはやギャラクシーコンボイの制止も届かない。
 しかし――
「フォースチップ、イグニッション!」
 ライガージャックとアルクェイドの前には、フォースチップをイグニッションしながらマスターメガトロンが立ちふさがった。そのまま左手にデスクローを装備し、二人をまとめて殴り飛ばす!
 だが、ライガージャック達も負けてはいない。ビーストモードにトランスフォームするとアルクェイドを口腔内からライドスペースへ。そのまま空中で身をひねって着地し、
『フォースチップ、イグニッション!
 プラティナム、クロー!』

 フォースチップをイグニッションし、プラティナムクローを手にマスターメガトロンに反撃の一撃を見舞う。
 そして、一方でスカイリンクスもビーストモードとなってスタースクリームに襲いかかり、
「フォースチップ、イグニッション!」
 素早くフォースチップをイグニッション。ケルベロス形態へと変形し、
「デス、ブリザード!」
 放たれた凍結エネルギー弾が、スタースクリームを直撃する!
「バカめ!
 こんな灼熱の星で、凍結攻撃など何の意味がある!」
 しかし、アニマトロスの高い気温の前に、スタースクリームはすぐに凍結状態から脱出した。反撃に転ずるべくスカイリンクスに向けてバーテックスブレードを振るい――
「バカな!?」
 直撃を確信していたその刃は、スカイリンクスの牙によって止められていた。
「バカは貴様だ!
 トランスフォーマーとて生命体。環境への順応には時間がかかる!
 この高温の気候に慣れていたところにいきなり身体を凍結されれば、すぐに解放されようと動きは鈍るものよ!」
 驚くスタースクリームに答え、スカイリンクスは彼に襲いかかり、
「フレイムコンボイですら、デスブリザードに対しては直撃を受けないよう気を遣うのだ!
 この星で戦う限り――我輩のデスブリザードを受けて、影響を免れるトランスフォーマーなどいはしない!」
 そのままスタースクリームにかみつき、投げ飛ばす!
 さらに――動いた者は他にもいた。
「二人を助けます!
 ロングラック!」
「は、はい!」
 告げる那美にロングラックがあわててうなずき、
『フォースチップ、イグニッション!
 ロング、パワーアーム!』

 右腕のアームを展開すると襲ってきたラナバウトを投げ飛ばし――ラナバウトはサイドスを取り押さえていたダイノシャウトに激突。二人はまとめてガケ下まで落下していく。
「き、貴様!」
 そんなロングラックに、テラシェーバーが向き直り――
「こっちだ!」
 そんなテラシェーバーには恭也が襲いかかった。背後から翼の駆動部のケーブルを断ち切り、テラシェーバーはたまらず墜落する。
「くっ、くそっ、やってくれたな!」
 うめいて、テラシェーバーはロボットモードにトランスフォームして立ち上がり――
「フォースチップ、イグニッション!
 ブラッディ、ホーン!」

 フォースチップをイグニッションし、額の角を伸ばしたサイドスがテラシェーバーをブッ飛ばす!

「ライガージャックさん、待って!」
「なのは、キミは私の中に!」
 すでに戦端は開かれている――それでもあわててライガージャックを制止しようとするなのはをギャラクシーコンボイは自分のライドスペースに乗り込ませ、
「ギャラクシーコンボイ、スーパーモード!」
 スーパーモードへと合体し、なのはに代わってライガージャックの救出に向かうギャラクシーコンボイだが、その前にはノイズメイズが立ちふさがる。
「ギャラクシーコンボイ、ライガージャックは私が!」
「私も行きます!」
「フェイトが行くんならあたしも!」
「頼む!」
 代わってライガージャックの元に向かおうとするベクタープライム、フェイト、アルフの3人にギャラクシーコンボイが告げるが――
「――危ない!」
 とっさにベクタープライムはフェイト達をかばい、その足元にビームが直撃する。
「何!?」
 突然の攻撃にうめき、フェイトが頭上を見上げると――そこにはスーパーモードに合体したスターセイバーと、シグナムの姿があった。
「あの人は――!?」
 ヴォルケンリッターのことは先程聞いた。なのはを襲った面々と特徴は違うが、おそらく仲間だろう――うめくフェイトに向けて、シグナムは一直線に突っ込み、
「レヴァンティン! カートリッジ、ロード!」
〈Explosion!〉
 シグナムの言葉に答え、レヴァンティンと呼ばれた彼女の剣型デバイスがカートリッジをロード。その刀身がすさまじいエネルギーに包まれる。
「紫電、一閃!」
「バルディッシュ!」
〈Defensor!〉
 振りかぶるシグナムに対し、フェイトはバルディッシュにディフェンサーを展開させて対抗する。
 だが――叩きつけられたレヴァンティンの刃は、確実にディフェンサーの防壁をえぐっていく。
(結界破壊効果――!?)
 このままでは防壁を破られる――とっさにその刃を受け流すとフェイトはバルディッシュをかざし、
「フォースチップ、イグニッション!」
 その言葉に応え、黄色のフォースチップがフェイトの元へと飛来。バルディッシュのコアにまるで溶け込むように飛び込み、
〈Force-tip, Ignition!〉
 バルディッシュが告げると同時、バルディッシュの先端に輝く翼が展開される。
 そのまま、フェイトはシグナムに向けてバルディッシュをかざし、その周囲に無数のエネルギー球が生み出され、
「サンダーレイジ――ブレイク、ストーム!」
 咆哮と同時にフェイトはバルディッシュを振るい――エネルギー球が解き放たれた。それらは一斉に飛翔し、シグナムへと襲いかかる!
「くっ!
 レヴァンティン!」
〈Panzer Geist!〉
 対して、シグナムは防壁を展開、フェイトの放った光球を受け止める。
 すさまじい衝撃が防壁越しにも伝わってくる。このままでは――
(パンツァーガイストが――破られる!?)
 とっさに離脱しようとするが、間に合わなかった。防壁に叩きつけられていた光球が一斉に爆発。巻き起こった衝撃がシグナムを吹き飛ばす!
「くっ……!」
 うめき、後退するシグナムに向けて、フェイトは静かにバルディッシュをかまえる。
 そんなフェイトを見すえ、シグナムは告げた。
「……デバイスへのイグニッションを修得しているとは、なかなかやるようだな。ミッドの魔導師。
 その力に敬意を表し、名乗ろう――私はヴォルケンリッター、“烈火の将”シグナム。そしてアームドデバイス、レヴァンティンだ。
 貴様の名は?」
「ミッドチルダ、嘱託魔導師――フェイト・テスタロッサ。
 そしてこの子は、バルディッシュ」
「テスタロッサに、バルディッシュか……」
 告げられた名を反芻するシグナムに、フェイトは静かに告げる。
「あなた達のカートリッジロードよりも、フォースチップ・イグニッションの方がパワーの増幅力は上――このままぶつかっても、あなたに勝ち目はありません。
 もう、降参してください」
 だが――フェイトは気づいた。
 シグナムに焦りの色は見えない――それどころか、未だ余裕に見える。
「それはまだ早計というものだぞ。テスタロッサよ」
 再びカートリッジをロードしながら、シグナムはフェイトに告げた。
「確かに、フォースチップの力はカートリッジの力を上回る。
 だが――“その条件が同じだとしたら”?」
「――――――っ!?」
 その意味を悟り、戦慄するフェイト――だが、シグナムはレヴァンティンに告げた。
「レヴァンティン、フォースチップ、イグニッション!」
〈Force-tip, Ignition!〉
 とたん――彼女の元に純白のフォースチップが飛来した。ロードしたばかりのカートリッジを排莢したレヴァンティンのカートリッジ装填そうてん部に飛び込み、その力を何倍にも引き上げる!
 そして、シグナムはレヴァンティンをかまえ、
「紅蓮一閃!」
 咆哮と共に振り下ろしたレヴァンティンが、とっさにフェイトの防壁に叩きつけられる!
 先ほどディフェンサーを破られかけたことを思い出し、受け流そうとするフェイトだが――
「叩っ斬れ、レヴァンティン!」
〈Jawohl!〉
 シグナムとレヴァンティンの言葉と同時、二人の一撃はディフェンサーを粉砕。刃がバルディッシュの本体に食い込む!
 とっさに踏ん張ろうとするフェイトだが――止めきれない。刃を振り抜いたシグナムのパワーに負け、そのまま大地に叩き落される!
「フェイトちゃん!」
 シグナムに圧倒されるフェイトの姿に声を上げるなのはだが、ギャラクシーコンボイはノイズメイズのトリッキーな機動に翻弄されて援護もままならない。
「ライガージャック、フェイトが!」
「何だって!?」
 一方、こちらもフェイトの危機に気づいていた。アルクェイドの言葉にライガージャックが声を上げるが、
「どこを見ている!」
 それが一瞬のスキを生んだ。マスターメガトロンのデスクローをまともにくらい、殴り飛ばされる!
「いかん!」
 それを見て、ベクタープライムが援護に向かおうとするが、その前にはスターセイバーが立ちふさがる。
 時空監視者として永遠の時を監視してきたベクタープライムにとって、彼のことは面識こそなかったが知らない顔ではない。
「キミは……スターセイバー!?
 やはり――キミもジンライやアトラスと同じく、ヴォルケンリッターに協力していたのか!?」
「そういうことだ」
 ベクタープライムに答え、スターセイバーはスターブレードをかまえる。
「この際だから教えておこう。
 あとひとり――フォートレスも我らが同胞だ」
「フォートレスまで……!?
 サイバトロン軍歴代の総司令官であるキミ達が、なぜこんなことを!」
「お前達が――知る必要はない!」
 答えると同時――スターセイバーの刃がベクタープライムに襲いかかる!

「恨みはないが――我々もプラネットフォースを欲している。
 故に、そちらに渡すワケにはいかない」
 大地に叩きつけられ、なんとか身を起こそうとするフェイトを見下ろし、上空のシグナムはレヴァンティンに再びカートリッジをロードさせる。
「これで――詰みだ!」
 だが、その時――
「ぐあぁっ!」
「――――――っ!?」
 マスターメガトロンに殴り飛ばされたライガージャックがこちらに飛ばされてきた。とっさにシグナムは離脱し、ライガージャックはフェイトのすぐそばに叩きつけられる。
「ら、ライガージャック!?」
「よかった……フェイト、無事?」
 声を上げるフェイトに、アルクェイドはライガージャックのライドスペースの中から告げ――気づいた。
「フェイト、バルディッシュが!」
 先のシグナムの一撃はバルディッシュの基部に納められた本体にまでダメージを及ぼしていた。弱々しく警告の光を発している。
「早くしまって離脱しなさい!
 そのまま戦い続けたら、バルディッシュが!」
「う、うん……」
 答えて、バルディッシュを収めようとするフェイト――だが、
「え………………?」
 ウェイトモードに変形しない。バルディッシュは通常のデバイスフォームを留めたままだ。
 変形システムが破壊されたのか――そんな考えが一瞬浮かぶが、フェイトはすぐにそれを否定した。
(まだ……戦うつもりなの? バルディッシュ)
 こんな状態になりながらも、バルデッシュは勝負を捨ててはいなかった。あくまでも最後まで、フェイトを守るつもりなのだ。
 だが――
「終わりだな、貴様ら」
 その前に立ちふさがる相手はあまりにも最悪だった――ライガージャック達とフェイトを見下ろし、マスターメガトロンはその手の中に雷撃を生み出す。
「くそ………………っ!」
「このままじゃフェイトまで――!」
 うめいて、攻撃を阻止しようとするライガージャックとアルクェイドだが、ダメージが大きすぎる。立ち上がるだけで精一杯だ。
「だったら……」
「よね」
 それなら、できることはひとつしかない――ライガージャックのつぶやきにアルクェイドが答え、二人はマスターメガトロンの前に仁王立ちで立ちふさがる。
 その目的など、推察するまでもない。
 フェイトの盾となるつもりなのだ。
「ライガージャック! アルクェイド!」
「しかたねぇだろ、動くに動けねぇんだからよ!」
「なんとか耐えてあげるわよ!」
 思わず声を上げるフェイトに答える二人だが、相手はあのマスターメガトロンだ。ライガージャックには悪いが、彼の攻撃に今のボロボロの身体で耐えられるとは思えない。
「フェイトちゃん! アルクェイドさん!」
「ライガージャック!」
 絶体絶命の3人――気づき、なのはとギャラクシーコンボイはノイズメイズを振り切って彼らの元へと向かう。
 だが――
「死ねぇっ!」
 間に合わない。マスターメガトロンの雷撃が、広範囲にわたって荒れ狂いながらフェイト達に迫る!

「く………………っ!」
 迫り来る、自分達に死をもたらすであろう雷の嵐を前に、フェイトは思わずバルディッシュを握り締めた。
(これで……終わりなの……!?)
 胸中をよぎるのはぬぐいがたい無力感。
(みんなに、何もしてあげられないまま……!)
 地球ではギャラクシーコンボイやなのはに、アニマトロスに来てからもスカイリンクスやビッグコンボイに救われてばかりで――
(このまま、終わりたくない……!)
 彼らの、なのは達の想いに応えないまま、ここで終わりたくはなかった。
(守りたい……みんなを……!)
 そうだ――終われない。
 まだ何もできていないのだ。この世界を救っていない。プラネットフォースも手に入れていない。そして――
(なのはを、守りきれてない!)
 なのはがいなければ今の自分はなかっただろう。
 ただ盲目的に母に従うだけの人形だったはずだ。
 母に捨てられたあの時、もう一度立ち上がることなど出来なかったはずだ。
 自分達のすべては、まだ始まってもいない――そう立ち上がることができたのは、なのはがいたから――
 なのはのおかげで始まった、自分の『今』を――
(まだ――終わらせられない!)
 そのためにも――

 

(みんなを守る――力を!)

 

その瞬間――

 

〈Link up Navigator, Get set!〉

 

「え――――――?」
 バルディッシュが告げたその言葉に戸惑うフェイトだが――瞬間、“力”があふれた。マスターメガトロンの雷撃を吹き飛ばし、シグナムをたまらず後退させ、自分やライガージャック、アルクェイド――そしてギャラクシーコンボイとなのはを包み込む!
「こ、これって……!?」
 突然のことに戸惑うフェイトだが――決意した。
 これはおそらくバルディッシュのやったこと――ならば、主である自分が信じなくてどうすると言うのだ。
「……そうだね。
 やろう、バルディッシュ!」
 決意に導かれるまま、フェイトはバルディッシュをかまえた。

「いくよ――みんな!」
 言って、フェイトがバルディッシュをかざし――その中枢部から光が放たれる。
 その中で、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『ギャラクシー、コンボイ!』
 なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが右腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
 次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な右腕に変形する。
 そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
 フェイトを加えた5人の叫びと共に、右腕となったライガージャックがギャラクシーコンボイに合体する!
 背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャックの変形した右腕に拳が作り出され、5人が高らかに名乗りを上げる。
 その名も――

 

『ライガァァァァァ、コンボイ!』

 

「な、何……!?」
「どうなってるんだ!?」
「ど、どうもこうも……」
「ライガージャック先輩と、総司令官が……」
「がったい、しちゃった……!?」
 突然合体したギャークシーコンボイとライガージャック――ライガーコンボイを前に、敵も味方も関係なく驚きを隠せなかった。一様に呆然とし、口々につぶやく。
 が――
「そんな、こけおどしが!」
 かまわず動いた者もいた。マスターメガトロンがライガーコンボイへと襲いかかるが、
「甘い!」
 ライガーコンボイはその拳を受け止め、逆に思いきり殴り飛ばす!
「な、なんてパワーだ……!?」
 劇的に向上したライガーコンボイのそのパワーに、思わずベクタープライムがうめくが――それに対し、動いた者がいた。
「ならば、そのパワーに慣れない内に――」
「討たせてもらう!」
 告げると同時、スターセイバーとシグナムがライガーコンボイへと斬りかかるが――
「――そっち!」
 シグナムにはなのはが反応していた。彼女の指示でライガーコンボイはギャラクシーロックキャノンでシグナムを迎撃する。
 そのスキに、スターセイバーは反対側からライガーコンボイへとスターブレードを振るい――止められた。
 刃が届くよりも速く、ライガーコンボイが新たな右腕でスターセイバーの腕をつかんで受け止めた――斬撃に気づいたライガージャックが自らの変形した右腕を操り、防御したのだ。
「何――!?」
 パワーだけではない――驚きのあまり、一瞬スターセイバーの動きが止まり――
「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮と共に、ライガーコンボイはそのままスターセイバーを力任せに振り回し――渾身の力で大地に叩きつける!
「が………………っ!?」
 うめき――しかしこの一撃だけで大きなダメージを受け、動きを止めるスターセイバーを尻目に、ライガーコンボイは自らの右腕に語りかけた。
「意識はあるようだな。ライガージャック、アルクェイド」
「は、はい……」
「なんとかね……」
 あっさりと返事が返ってくる。
「まさか、お前達が私の右腕になるとはな」
「光栄です!」
 ギャラクシーコンボイの言葉にライガージャックがそう答えると、
「フンッ、その程度で!」
 うめいて、殴り倒されていたマスターメガトロンが立ち上がる。
 だが――そんな彼に告げたのはなのはだった。
「一応、警告します。
 マスターメガトロンさん。素直に降参して、帰っちゃってください!」
「な………………っ!?」
 その言葉に、マスターメガトロンは思わず言葉を失った。
 今まで何度も戦場で相対しているが、なのははどちらかと言えば戦いには自信のない方だった。自分にそれなりの傷を与えるほどの実力を持っているクセに、不安そうに 、とまではいかないもののどこか自信に欠け、それゆえにいつも全力で――
 よりにもよって、そんななのはに『降参しろ』と言われたのだ。それはつまり――自信に欠けるなのはが自信を持てるほど、自分が格下に見られていると言うことだ。
「な……何を、偉そうにぃっ!」
 そんななのはの言葉に――当然マスターメガトロンは激昂した。怒りの声と共にデスクローを振りかぶり、ライガーコンボイへと襲いかかる!
 そんな彼に――なのはは告げた。
「警告は、したよ!
 合体なんか初めてで――こっちは“手加減なんかできないんだから!”

『フォース――』
『――チップ!』
「イグニッション!」

 ライガーコンボイとなのは、ライガージャックとアルクェイド、そしてフェイト――3組の声が響き、飛来したアニマトロスのフォースチップがライガーコンボイの右腕のチップスロットに飛び込む。
 そして、右腕のプラティナムクローを展開したライガーコンボイはそれを天高く掲げ――その全身がフォースチップの“力”の輝きに包まれる!
「す、すごい……!」
 荒れ狂うエネルギーの中思わずつぶやき――フェイトはバルディッシュを正眼にかまえ、イメージする。
 このすさまじい“力”を余すことなく使いこなすことができれば、マスターメガトロンにも決して引けは取るまい。
 そのための攻撃――フェイトには心当たりがあった。
(この力を、あの人みたいに……!)
 先程のシグナムの“紅蓮一閃”のように、“力”をプラティナムクローの先端に集め、叩きつけるイメージ――
 渦巻くエネルギーに導かれ、浮き上がったライガーコンボイは一気にマスターメガトロンへと突っ込み、
『ライガー、グランド、ブレェイク!』
 渾身の力で振るった一撃が、マスターメガトロンの身体を深々と斬り裂く!
 同時――叩きつけられたエネルギーが爆裂し、マスターメガトロンを吹き飛ばす!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
「マスターメガトロン様!」
 宙を舞うマスターメガトロンを目の当たりにし、スタースクリームはあわてて飛び立ち、落下を始めたマスターメガトロンを受け止める。
 完全に意識を失っている。まさかライガーコンボイの一撃がこれほどまでとは――
「チッ……
 ノイズメイズ、ラナバウト! 撤退するぞ!」
「り、了解!」
「わかった!」
 スタースクリームの言葉にうなずき、ノイズメイズとラナバウトはビークルモードにトランスフォームして撤退していく。
 と――ライガーコンボイの右腕が勝手に動き、フレイムコンボイを指さした。
 ライガージャックによるものである。
「フレイムコンボイ! ファングウルフ達に手を出すと――!」
「わかったわかった。
 今日のところは見逃してやる。
 いいものを見せてもらった、お礼にな」
 そんなライガージャックに答えると、フレイムコンボイはダイノシャウトやテラシェーバーを助け、3人で引き上げていく――

 気づくと、すでにスターセイバーとシグナムの姿もなかった。

「ライガーコンボイ……なんというパワーだ……」
 離れた岩山に離脱、望遠映像で必殺の一撃を目の当たりにして、スターセイバーは思わずうめいた。
「ダメージは大丈夫か?」
「私自身は問題ない」
 尋ねるシグナムに、スターセイバーはそう答え――付け加えた。
「ただ、Vスターのダメージは深刻だ。
 一度マキシマスに戻り、修理する必要がありそうだ」
「そうか……
 仕方ない。今日のところはここまでにして、撤退しよう」
「うむ」
 シグナムの言葉にうなずくと、スターセイバーはビークルモードのジェット機へとトランスフォーム。Vスターと合体して大型のジェット機となるとシグナムを乗せ、飛び去っていく。
 そして――スターセイバーは胸中で付け加えた。
(それに、ギャラクシーキャノンで反撃されたお前のダメージも軽くはあるまい。
 仲間に気を遣わせまいと自身のダメージをヒタ隠しにする――キミの悪いクセだぞ、シグナム)

「チョッキンなぁ……」
 いつもの口癖と共に、ランページはその様子をうかがっていた。
「なかなか、おもしろいモンができるようになったみたいじゃのぉ……」
 『おもしろいモン』――もちろん、ギャラクシーコンボイとライガージャックのリンクアップである。
「仲間ン中に『ナビゲータ』ができるモンがいたとは、運のいい連中じゃ。
 おかげで、こっちもいろいろ動きやすくなったようじゃしのぉ……」
 何か知っているらしい――同時に、何かを思いついたらしい。ランページはそうつぶやくと通信回線を開き、
「ノイズメイズ、聞こえるか?
 ちょいと、おもしろいことを思いついたんじゃがのぉ」
 そう告げ――ランページのエンブレムが、デストロンからサイバトロンへと変化した。


 

(初版:2006/05/21)