惑星アニマトロス、フレイムコンボイの神殿――
「むぅんっ!」
 マスターメガトロンの振り下ろした拳は、一撃の下に床の敷石を破壊していた。
「……八つ当たりか?」
「へっへっへっ、まぁ、ムリもない」
「うむ」
 笑いながらテラシェーバーに答えるダイノシャウトの言葉に、フレイムコンボイは先の戦いのことを思い返した。
 考えるのはもちろん――
「ライガーコンボイ、か……
 ヤツと、戦ってみたいもんだ……」
 つぶやくと、フレイムコンボイはダイノシャウトを軽く小突き、告げた。
「ボサッとするな。
 オレ達も、訓練だ!」
「は、はい!」

「……ようやく、回復したか……」
 ダメージは決して軽くはなかったものの、ようやく回復したようだ――身体の調子を確かめ、マスターメガトロンがつぶやくが、
「マスターメガトロン様、まだ様子を見た方が……」
 それを止めたのはスタースクリームだった。
「まだ病み上がりです。今戦ってもおそらく……」
「負ける、と言いたいのか?」
「いえ、そんなことは……」
 マスターメガトロンの言葉に引き下がるスタースクリームだったが――
(そうさ。負けるって言ってるのさ)
 内心ではまったく正反対のことを考えていた。
 だが――まだマスターメガトロンには利用価値がある。まだまだがんばってもらわなければならない以上、ここでライガーコンボイに負けてもらうワケにはいかない。なんとか自重してもらわなければ……
 そんなことをスタースクリームが考えている脇で、ノイズメイズは訓練としてテラシェーバーとダイノシャウトを二人まとめて相手しているフレイムコンボイへと視線を向けた。
(ライガーコンボイとやりたくて、たまらないらしいな……
 まぁ、すぐに舞台は整うだろうが、な……)

 

 


 

第22話
「動き始める策略なの」

 


 

 

 一方、なのは達はというと――
「トランスフォーマー同士が合体する……
 聞いたことがあるか? ベクタープライム」
「いや……」
 尋ねるギャラクシーコンボイに、ベクタープライムは首を左右に振って答える。
 現在彼らはフレイムコンボイの追及をかわすべく、サイドスのねぐらを後にしてジャングルに身を潜めていた。
 そこで前回の戦いの中でのギャラクシーコンボイとライガージャックの合体――リンクアップについての情報をまとめようとしていたのだ。
 だが、時の番人たるベクタープライムにもこの現象の正体はわからないらしい。芳しくない答えを返すしかなく――
「細かいことはいいじゃないですか」
 そんな彼らにそう言い出すのはライガージャックである。
「オレ達は強くなったんです。
 マスターメガトロンや、フレイムコンボイを一捻りできるくらいに!」
「そう簡単な問題じゃないぞ、ライガージャック」
 そんなライガージャックを、恭也は軽く叩いてたしなめる。
 そして、スカイリンクスも恭也の言葉にうなずき、ライガージャックに告げる。
「あれだけの力だ。何の代償も制約もないとは考えづらい。
 うかつに頼れば、そこにスキが生まれる――しばらくは、あの力を知ることから始めるのだ。多用は禁物だ」
「そりゃまぁ、そうだけど……」
 あれだけの力、使わなければもったいない――そうは思うが、スカイリンクスの言うことももっともだ。ライガージャックはため息をつき、しぶしぶ同意したのだった。

「じゃあ、確かに預かったよ」
「お願いね、クロノ」
 ウェイトモードのバルディッシュを受け取ったクロノの言葉に、フェイトが告げる――
 先の戦いでシグナムに破壊されてしまったバルディッシュは早急な修復が必要な状態だった。そこでクロノがバルディッシュを時空管理局に届ける役を引き受けてくれたのだ。
 最初はフェイト本人も保護する予定だったが、フェイトはアニマトロスに残ることを希望した。
 原因は――やはり今回もなのはである。
 自分と同じようにデバイスが破壊されても、アニマトロスでギャラクシーコンボイに協力しているなのはを前にしては、フェイトとしてもそう簡単に退くワケにはいかなかった。
 もちろん、ギャラクシーコンボイ達は強硬に反対したのだが――リンディはそれを承諾した。学校に通うため平日はちゃんと日帰りすること、アニマトロスでは必ずギャラクシーコンボイ達と行動すること、その他いくつかの条件付で二人のアニマトロスでの活動を承認していた。
「それから――なのはにはこれ」
 ともかく、管理局に戻ろうとしたクロノだったが、その前になのはにそれを渡した。
 簡易型のストレージデバイスである。
「地球とアニマトロスを往復するための転移魔法の他に、この間ギャラクシーコンボイ達をリンクアップさせた、フェイトのナビゲート魔法のプログラムソースをコピーしてある。
 リンカーコアにダメージを受けたままだけど、ギャラクシーコンボイのパートナーであるキミが持っていた方がいいだろう」
「うん……
 ありがと、クロノくん」
 満面の笑みでなのはから礼を言われ、クロノは赤くなってそっぽを向く――とたん、なのはの肩の上のユーノから怒りの視線が飛ぶがそんなものは当然のことながら無視していた。

「せっかくのチャンスなんだけどなぁ……」
 ボヤきながら、アルクェイドと共に周囲の見回りに出たライガージャックはジャングルの中を進んでいた。
「そうよねぇ……
 マスターメガトロンさえ倒しちゃえば、宇宙を救う仕事もやりやすくなるだろうし……」
 となりのアルクェイドも同意見のようだ。肩をすくめてライガージャックに同意する。
 スカイリンクスの『リンクアップのことを知るべきだ』という意見にはもちろん賛成だ。もし反動があれば真っ先にそれが返ってくるのは自分達なのだから。
 しかし、その力のことを知る時間が必要なのは、デストロンも同様なのだ。敵にこの能力の特性を知られては、対策を練られてしまう。
 一か八か、たとえリスクがあろうと、ここはリンクアップの力で一気に――というのが、二人の意見だった。
 と――
「………………ん?」
 アルクェイドの持つ、真祖ならではの超感覚がそれを捉えた。
「どうした?」
「……誰かいるわよ」
 尋ねるライガージャックにアルクェイドが答え、静かにかまえを取る。
「敵か……?」
「わかんないけど……」
 ライガージャックにアルクェイドが答え――
「た、助けてくれ!」
 あわてて飛び出してきたのは、ひとりのトランスフォーマーだった。
「な、何だ!?」
「ここは世界の中心!?」
 敵かと思っていたところにいきなり助けを求められ、驚く二人だが、トランスフォーマーはかまわず告げる。
「この先の谷で、仲間が岩の下敷きになったんだ!」
「何だと!?」
「私は、先に行って待っている!」
 声を上げるライガージャックに答えると、そのトランスフォーマーは森の奥――谷のある方角へと消えていった。
 そして、ライガージャックとアルクェイドは顔を見合わせ、ギャラクシーコンボイ達に知らせるべくきびすを返す――

 その光景を、そのトランスフォーマーは森の奥から眺めていた。
「あのトランスフォーマー、確かマスターメガトロンの部下と一緒にいた……
 確か、ノイズメイズといったか……」
 そう――今ライガージャックに危機を伝えたトランスフォーマーは、エンブレムをサイバトロンのそれに変更し、シールドで巧みに顔を隠したノイズメイズだったのだ。
「……まぁいい。
 それならそれで、利用させてもらおうか――」
 つぶやき、そのトランスフォーマーは立ち上がり、
「トランスフォーム!」
 ビーストモード――ではなく、“ミサイルトレーラーに”トランスフォームし、ジャングルの奥へと走り去っていった。

 その頃、ジャングルの別の一角では――
「つまり……こういうこと?
 あなたは、私達に仲間になれ、と?」
「そうだ」
 尋ねるそのトランスフォーマーに、スタースクリームはあっさりとうなずいてみせた。
 スタースクリームと対峙するのは4名――それぞれサメ、猟犬、ヴェロキラプトル、ハチをスキャニングしている。
 ただし――その風貌は他のアニマトロスのトランスフォーマーとは明らかに違った。
 有機体の部分が多すぎるのだ。一部にロボットとしての装甲部分が見られるものの、ほとんどの部分は有機生命体としての皮膚や体毛に覆われている。
「お前達は、スキャニングの失敗で有機体の部分がより強く現れてしまった。結果、異端として社会にとけ込めずにいるはぐれ者――
 だが、それはあくまで“アニマトロスでの話”だ」
「どういうことよ?」
 尋ねるリーダー格のサメ型トランスフォーマーにスタースクリームは答えた。
「お前達はビーストモードに有機生命体としての部分が強く現れた――だが、トランスフォーマーとしてのロボットの部分は健在だ。
 つまり――お前達はトランスフォーマーと有機生命体、二つの特徴を併せ持つ、まったく新しい存在と言える。
 お前達のような存在は、このアニマトロスという狭い世界にとどまる器ではない」
 そして、スタースクリームはサメ、猟犬、ラプトル、ハチへと順に視線を向けていき、
「ヘルスクリーム。
 マックスビー。
 スラストール。
 ダージガン。
 私が、お前達に外の世界での活躍の場を与えてやる」
 その言葉に、ヘルスクリーム達は顔を見合わせ――再びスタースクリームへと視線を向けた時にはすでに結論は出ていた。
「……いいわ。
 その話、乗ってあげる」
「マックス、ラジャー」
 告げるヘルスクリームの言葉に、となりの猟犬――マックスビーが同意する。
「そうか……」
「で? ワイらは具体的には何をすればえぇんや?」
 うなずくスタースクリームへと横から口をはさんでくるのは、ラプトルをスキャンしたスラストールだ。
「まずは地球に向かってもらおう。
 ただし――今の段階では目立った行動は控えてもらいたい」
「何や、コソコソせんでもえぇようにしてくれるんやないんか?」
 聞き返すハチ――ダージガンに、スタースクリームは答えた。
「何事にも順序がある、ということだ。
 まだお前達も我々も、台頭する時機ではない――機が満ちるその時に備え、密かに探しておいてもらいたいものがある」
「なるほど。
 今まで人里から隠れ住んできた私達なら、隠密行動はお手の物……それを活かして探し物をしてもらいたい、と……」
 スタースクリームの言葉につぶやくと、ヘルスクリームはマックスビーと顔を見合わせる。
「地球にはすでに我が同士がいる。詳しくはそいつに聞けばいい」
「マックス、ラジャー」
 マックスビーの言葉にうなずき――スタースクリームはワープゲートを展開した。
 4人がワープゲートをくぐり、スタースクリームはゲートを閉じるとマスターメガトロンの元に戻ろうときびすを返し――
「――む?」
 ふと気配を感じて足を止めた。
「……何者だ?」
 尋ねるスタースクリームの問いに、そのトランスフォーマーは茂みの中から姿を現した。
 彼の見覚えのないトランスフォーマーだ。エンブレムは――サイバトロンだ。
「お前さん、マスターメガトロンとかいうヤツの仲間じゃな?
 ちと、ギャラクシーコンボイからフレイムコンボイへの伝言を預かってるんじゃがなぁ」
 そう言って、そのトランスフォーマーは――ランページはニヤリと笑みを浮かべた。

「はぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮し、繰り出した蹴りが目標の岩を粉砕し、続けて放った拳でその破片を殴り飛ばし、的に命中させる――
 フェイトをフレイムコンボイの神殿へと送り届けた後、ビッグコンボイはいつもの休暇の日常へ――訓練の日々へと戻っていた。
 だが――
「……ふむ」
 イマイチ気が乗らない。現在の状況が気になって集中できないのだ。
「フェイト……ギャラクシーコンボイの知り合いだったようだが……」
 いくら放り出していたとはいえ一応直属の部下であり弟子だったのだ。思い入れがないと言えばウソになる。
 そして、つい先日出会った少女がその弟子の知り合いだと言う――イヤでも思い出されるというものだ。
 どうしたものかとため息をつき――突然、彼の『別荘』の方から電子音が聞こえてきた。
 電文の着信を知らせる信号音だ。
「何だ……?」
 首をかしげ、『別荘』に戻るとビッグコンボイは電文に目を通し――眉をひそめた。

 ノイズメイズの言葉に従い谷へとやってきたギャラクシーコンボイ達だったが、当然ながら要救助者の姿はない。とりあえず谷全体を探すことにして、彼らは谷の奥へと向かっていた。
「いないなぁ……」
「この辺りに谷はここしかない。
 もう少し奥まで行ってみよう」
 つぶやくライガージャックにサイドスが答える――その光景を、ノイズメイズはガケの上から眺めていた。
「来た来た……
 で、あっちは、と……」
 つぶやき、ノイズメイズは谷の奥へと視線を向け――そこにフレイムコンボイ達の姿を見つけていた。
「ランページのヤツ、うまくやったみたいだな……」

「『勝負しよう』とは、なかなか味な提案をしてくれるわ」
 ようやく念願のライガーコンボイとの戦いができるとあって、フレイムコンボイは上機嫌で谷を進んでいく。
 ランページがスタースクリームへと伝えた伝言――それはギャラクシーコンボイからフレイムコンボイへの挑戦状だった。
 もちろん、ノイズメイズと共謀したランページのデマカセなのだが、フレイムコンボイはそんなことを考えもしない。あっさりと信じてこうして呼び出された谷へと姿を見せたのだ。
 だが――さすがにギャラクシーコンボイを古くから知るマスターメガトロンは腑に落ちないものを感じていた。
(ギャラクシーコンボイらしくない……
 ヤツはビッグコンボイの副官だった頃から、余計な戦闘は避ける男だった……)
 考えられるのは――
(誰かのワナ、か……
 しかし、誰の……?)
 だが、マスターメガトロンもノイズメイズが腹に一物を抱えていることやそのためにランページと共謀していることなど知る由もない。推理を巡らせるものの答えは出ず――
(……まぁいい。
 ワナならワナで、真っ向から叩きつぶしてやるまでだ)
 結局、いつもの思考に落ち着くのだった。

 遭遇の時が近づく両者を悠々と眺めるノイズメイズ――だが、彼をさらに監視する者がいた。
 先程ノイズメイズがライガージャックに危機を伝えたあの場にいたトランスフォーマーだ。
 と――
「……来たか」
「あぁ」
 現れたパートナーの問いに、トランスフォーマーはそう答えた。
 仮面をつけた男だ。
「ヴォルケンリッターの方は?」
「ヤツらにも、バンディットロンにも――ビッグコンボイにも情報を流した。
 じきに、ここは乱戦の真っ只中になる」
「さすがだ、ダブルフェイス」
 トランスフォーマーに――ダブルフェイスにそう答えると、仮面の男はガケの下のサイバトロンの面々へと視線を向けた。

「――――――っ!」
 その攻撃には直前で気づいた。飛来したビームを跳躍してかわし、ギャラクシーコンボイはあわてて後退する。
「な、何!?」
「敵襲……!?」
 ギャラクシーコンボイのライドスペースの中で、思わずなのはとフェイトが声を上げると――爆煙の向こうから、彼は姿を現した。
 マスターメガトロン達を引き連れた、フレイムコンボイである。
「さぁ、来てやったぞ。
 かかって来い」
 一方、フレイムコンボイはというと、決闘相手との対面に、満面の笑みを浮かべてそう告げる。
 だが――当然ながら、だまされて誘い出されたギャラクシーコンボイ達には何のことかわからない。
「何のことだ!?」
「『来てやった』って……わたし達、フレイムコンボイさん達なんか呼んでないですよ!」
 あわてて声を上げるギャラクシーコンボイとなのはだが、フレイムコンボイはそんな二人の態度に眉をひそめた。
「てめぇから決闘を申し込んでおいて、『何のことだ』はねぇだろ?」
「そんなことしてないよ!」
 続いてユーノが反論するが、もはやフレイムコンボイは聞く耳を持つつもりなどなかった。
「ビビったか……
 遅いわぁっ!」
 言うなり、フレイムアックスを抱え、ギャラクシーコンボイへと斬りかかる!
「くっ……!
 仕方あるまい!」
 うめいて、ギャラクシーコンボイはスーパーモードへとトランスフォーム。フレイムコンボイと対峙する。
 と――そんな彼になのはが告げた。
「ギャラクシーコンボイさん、リンクアップしよう!」
「し、しかし……」
「たとえ危険があっても、少しの間なら大丈夫でしょう!?
 フレイムコンボイさんに一撃入れて、その間に逃げちゃえば!」
「……そうだな。
 なのは、リンクアップ・ナビゲータを!」
「うん!」
 ギャラクシーコンボイに答え、なのははストレージデバイスをかまえ――
「……あ、あれ……?」
 魔法が発動しない――試しに簡単な照明魔法を使ってみるが、それは問題なく発動する。
 と、いうことは――
(リンクアップ・ナビゲータだけが、使えない……!?)

 その光景を、ノイズメイズはガケの上から悠々と眺めていた。
「始まった始まった♪
 ………………ん?」
 と――ノイズメイズは戦場に向かってくるその姿に気づいた。
「あれは……?」

『トランスフォーム!』
 一方、戦いは他のメンバー同士の間でも始まっていた。咆哮し、ダイノシャウトとファングウルフは同時にビーストモードへとトランスフォームする。
「フォースチップ、イグニッション!」
 まず先手を打ったのはダイノシャウト。フォースチップをイグニッションし、背中のヒレにクレストソードを装備する。
「くらえ!」
 そのまま、ファングウルフへと襲いかかるが――
「でぇいっ!」
 そこにアルフが割って入った。渾身の右ストレートが、ファングウルフに迫るダイノシャウトを殴り飛ばす。
 と――突然、ファングウルフとアルフが緑色に輝くエネルギーの渦に包まれた。
 アニマトロスのフォースチップと同じ色のエネルギー流、つまり――
(パートナー・イグニッションの発現、か……!?)
 そう見当をつけるなり――テラシェーバーを牽制していた恭也はアルフとファングウルフに告げる。
「二人とも、イグニッションだ!」
「あ、あぁ!」
「わかった!」
 そろって恭也に答えると、アルフとファングウルフは顔を見合わせ、
『フォースチップ、イグニッション!』
 アニマトロスのフォースチップをイグニッションし、ファングウルフはその口に鋭い牙を生み出す。
『パワー、ファング!』
 そして、ダイノシャウトへとかみつくと、そのまま力任せに投げ飛ばす!
「す、すごいパワーだ……!
 これが、キミ達の言っていたパートナー・イグニッションの力……!」
「そういうこと。
 どうやら、あたしとアンタは相性がいいみたいだね」
 自分の身体にみなぎる力にうめくファングウルフに、アルフは笑顔でそう告げる。
「フォースチップ、イグニッション!
 スラッシュナイフ!」

 一方、テラシェーバーもイグニッション。翼にナイフを生み出して恭也に襲いかかるが、
「そんなもの!」
 恭也のスピードの前には、飛行能力を持つテラシェーバーのスピードすら問題ではなかった。あっさりとかわすと、逆にカウンターで首筋に斬りつける!
「ぅわぁっ!」
 たまらずバランスを崩し――それでも何とか持ち直し、テラシェーバーは上空から抗議の声を上げる。
「くそっ、何しやがる!
 絶対右足ネンザしちまってるぞ、コレ!」
「み……!?」
 なぜ首を攻撃して右足のネンザなのか。思わず声を上げ――恭也はその意味に思い当たった。
「そういえば、ロボットモードの時は右足だったな、お前のその頭は……」

「我々も!」
「もちろんです!」
 みんなにばかり戦わせてはおけない――ベクターソードを抜き放つベクタープライムに、ロングラックのライドスペース内の那美が答えるが、
「――――――っ!
 危ない!」
 とっさにロングラックをかばい、ベクタープライムはベクターソードで飛来した火球を斬り裂いた。
 そして――
「ほぉ、何やら知らない顔が増えてるな」
 言いながら現れたのは、ウィアードウルフを連れたスカージだった。
「貴様は……?」
「初対面のようだから名乗ってやろう。
 オレ様はスカージ。バンディットロンの略奪大帝だ」
「略奪大帝、だと……?」
 スカージの自己紹介にうめき、ベクタープライムは警戒してベクターソードをかまえ直し――
「やる気か……
 ならば、トランスフォーム!」
 そんなベクタープライムに対し、スカージもまたロボットモードへとトランスフォームし、
「フォースチップ、イグニッション!」
 そのままイグニッションし、ダイノスラッシュを装備し――
「どうやら貴様らもフレイムコンボイと戦う理由があるみたいだが……ヤツを倒そうなんて、そうは佐世保は長崎県!」
「駄洒落!?」
「なんで長崎知ってるんですか!?」
 シリアスな場面でも容赦なく駄洒落を披露したスカージに、ロングラックと那美は思わず声を上げ――
「させぼ……?」
 今のネタのツッコみどころのわからない久遠は、ひとり首をかしげていた。

「あそこか……!」
 戦いの場に駆けつけたのはスカージ達だけではなかった。ビッグコンボイもまたビークルモードにトランスフォームし、谷に向かって全力で疾走していた。
 原因は――『別荘』に送られた電文である。
(『フェイト・テスタロッサを狙う者あり』だと……?
 オレとフェイトのつながりを知っている者の仕業か……だが、誰が……!?)
 いくら考えても心当たりはない。あのランページがそんな回りくどいマネをするとも思えない――見えない状況を前にビッグコンボイは舌打ちし――
「――――――っ!?」
 突然気配を感じ、その場から飛びのき、後退する。
 そして、彼の目の前に現れたのは――
「また見ない顔のお出ましか」
「油断するな、スターセイバー。
 できるぞ、このトランスフォーマー」
 “Vスター”の応急修理を終え、アニマトロスへと戻ってきたスターセイバーとシグナムだ。
「貴様は……?」
 初めて見る顔を前に、眉をひそめるビッグコンボイだが――そんな彼にかまわず、シグナムとスターセイバーはビッグコンボイへと斬りかかる!
「く……っ!
 ビッグコンボイ、トランスフォーム!」
 それを跳躍してかわすと、ビッグコンボイはロボットモードにトランスフォームし、
「マンモスハーケン!」
 両足からマンモスハーケンを取り出し、スターセイバーのスターブレードを、シグナムのレヴァンティンを受け止める。
 そして――
「ビッグミサイル!」
 両肩アーマーの裏に装備されたミサイルが一斉に火を吹いた。とっさにシグナムをかばったスターセイバーにそのすべてが降り注ぐ!
「ぐぅ……っ!」
 強烈なカウンターを受け、スターセイバーはシグナムをかばったまま後退を余儀なくされ――
「遅い!」
 ビッグコンボイは逃がすつもりなどなかった。すぐさま追いつき――叩きつけたマンモスハーケンでガードの上からスターセイバーを弾き飛ばし、谷底へと叩き落す!
「あれは!?」
「スターセイバー、シグナム……ビッグコンボイ!?」
 突然戦いに乱入してきたシグナム達に気づき、ギャラクシーコンボイとフェイトは思わず声を上げ――それがスキにつながった。フレイムコンボイの一撃を受け、吹っ飛ばされる!

「くらえ!」
「誰が!」
 混乱する戦場の中、スカイリンクスと対峙したのはスタースクリームだった。前回の借りを返さんと襲いかかるスタースクリームの斬撃をかわし、スカイリンクスもまた前足で放ったカウンターをかわされる。
 そして――
「そらよっと!」
 ライガージャックとアルクェイドはラナバウトと交戦していた。ラナバウトの飛び蹴りをまるで馬跳びのようにかわし、ライガージャックは逆にその後頭部に蹴りを一発お見舞いする。
「ライガージャック、ナイス!」
「へへっ、ざっとこんなもんよ!」
 アルクェイドの賛辞に応え、ライガージャックは岩山の中腹に着地し――
「……む?」
 戦いを観戦しているノイズメイズに気づいた。
「アイツは――?」
 自分に危機を伝えたトランスフォーマーではないか。ということは――
「ワナだった、ってこと……!?」
 思わずアルクェイドがうめき――
「ぐわぁっ!」
 聞こえたうめき声に眼下を見下ろすと、フレイムコンボイの一撃でギャラクシーコンボイが岩壁に叩きつけられたところだった。
「総司令官!」
「なのは、フェイト!」
 あわてて、二人はギャラクシーコンボイの前に着地し、
「総司令官、リンクアップを!」
「け、けど、リンクアップの魔法、使えなくて……!」
 告げるライガージャックになのはが答えると、
「……私がやってみる」
 言って、フェイトがなのはの手からデバイスを受け取る。
「フェイトちゃん……?」
「わたしなら、きっと……!」
 答えるフェイトの言葉に、なのははしばし考え――決めた。
「うん。
 お願い、フェイトちゃん!」
 そんななのはにうなずき、フェイトはストレージデバイスを受け取り――
〈Link up Navigator, Get set!〉
 “リンクアップ・ナビゲータ”が起動した。

「いくよ――みんな!」
 言って、フェイトがストレージデバイスをかざし――その中枢部から光が放たれる。
 その中で、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二人のスパークがさらなる輝きを放つ。
『ギャラクシー、コンボイ!』
 なのはとギャラクシーコンボイが叫び、ギャラクシーキャノンを分離させたギャラクシーコンボイが右腕を後方にたたむ。
『ライガー、ジャック!』
 次いでアルクェイドとライガージャックの叫びが響き、ライガージャックは両腕を分離、両足を折りたたむとそこに分離していた両腕が合体し、巨大な右腕に変形する。
 そして、両者が交錯し――
『リンク、アップ!』
 フェイトを加えた5人の叫びと共に、右腕となったライガージャックがギャラクシーコンボイに合体する!
 背中に分離していたギャラクシーキャノンが合体。最後にライガージャックの変形した右腕に拳が作り出され、5人が高らかに名乗りを上げる。
『ライガァァァァァ、コンボイ!』

「あれは……!?」
 初めて見るリンクアップを前に、ビッグコンボイは思わず声を上げた。
 そのスキを逃さず、斬りかかるスターセイバーだが――ビッグコンボイは彼らへの注意を逸らしたワケではなかった。スターセイバーの斬撃をマンモストンファーで弾き飛ばすと、次いで迫るシグナムの“紫電一閃”を投げつけたマンモスハーケンで迎撃する。
 しかも、その二つの攻防は“ライガーコンボイに視線を向けたまま”行われた。つまり、スターセイバーとシグナムを気配だけで迎撃したのだ。
「なんという男だ……!」
「我々二人を相手に、ここまで戦えるとは……!」
 うめいて、スターセイバーとシグナムは合流し、
「どうする?」
「決まっている」
 尋ねるスターセイバーに、シグナムはキッパリと答えた。
「確かにヤツは強い。
 しかし――私達なら、勝てる」
「……そうだな」
 スターセイバーがうなずくと、それを合図にしたかのように、ようやくビッグコンボイは彼らへと向き直った。
「すまないな、よそ見などして。
 だが――これからはちゃんと相手をしてやろう」
 言って、ビッグコンボイは地を蹴り――シグナム達も跳躍した。

「そうだ……それでいい」
 ようやくのリンクアップを遂げたライガーコンボイを前に、フレイムコンボイは満足げにつぶやいた。念願の相手と戦える喜びもあらわにフレイムアックスをかまえ――その刃にエネルギーを集中させる。
「くらえ!
 フレイム、ストライク!」
 咆哮し、斬りかかってくるフレイムコンボイをかわすと、ライガーコンボイは後退してフレイムコンボイとの距離を取り、
「みんな――速攻で決めるぞ!」
『了解!』

『フォース――』
『――チップ!』
「イグニッション!」

 ライガーコンボイとなのは、ライガージャックとアルクェイド、そしてフェイト――3組の声が響き、飛来したアニマトロスのフォースチップがライガーコンボイの右腕のチップスロットに飛び込む。
 そして、右腕のプラティナムクローを展開したライガーコンボイはそれを天高く掲げ――その全身がフォースチップの“力”の輝きに包まれる!
 渦巻くエネルギーに導かれ、浮き上がったライガーコンボイは一気にフレイムコンボイへと突っ込み、
『ライガー、グランド、ブレェイク!』
 渾身の力で振るった一撃が、フレイムコンボイの身体を深々と斬り裂く!
 同時――叩きつけられたエネルギーが爆裂し、フレイムコンボイを吹き飛ばす!
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
 かなりの距離を吹き飛ばされ、フレイムコンボイはそのまま大地に叩きつけられる――かと思われたが、
「どわぁぁぁぁぁっ!?」
 着地点にはベクタープライムと斬り結ぶスカージがいた。二人はまともに激突し、そのまま大地に転がる。
「ふ、フレイムコンボイ!
 なんで貴様が飛んでくる! 貴様はむしろ飛ばす側だろうが!」
「知るか!」
 スカージに言い返し、フレイムコンボイは身を起こし――すでになのは達は離脱した後だった。
「あの強さ……気に入ったぞ。
 本当の勝負が楽しみだ」
 決着は逃したが、楽しみであることには違いない。湧き上がる笑いをこらえきれず、フレイムコンボイはつぶやき――そんな彼を、今回傍観者に徹していたマスターメガトロンは複雑な表情で見つめていた。
「……いいかげん、どけ……!」
 フレイムコンボイの下敷きになったスカージを、完全に無視して。

「やれやれ。もう終わりか」
 撤退していってしまったなのは達を見送り、ノイズメイズは少し残念そうにつぶやいた。
 そのまま、自分も帰ろうと立ち上がり――その眼前に影が落ちた。

「……向こうは終わったようだな……」
 ギャラクシーコンボイ達の撤退に気づき、ビッグコンボイはそう告げるなり跳躍。一足飛びに谷の上へと跳び上がる。
「なら、オレもここにはもう用はない。引き上げさせてもらうぞ」
 言って、立ち去ろうとするビッグコンボイだが――
「待て!」
 彼のことを逃がすつもりなどなかった。スターセイバーもまた跳躍し、ビッグコンボイの前に立ちふさがる。
「すまないが、こちらの目論見が外れた時に備えてスパークの“力”も蒐集しなければならない。
 お前のその強力なスパーク――分けてもらうぞ」
「悪いが身体に悪そうだ。遠慮させてもらう」
 答えるビッグコンボイだが、スターセイバーはかまわずスターブレードをかまえる。
 そして――スターセイバーは跳躍。素早くビッグコンボイとの間合いを詰め――
「――――――何っ!?」
 その動きを、ビッグコンボイは完全に読んでいた。後方に跳躍すると同時にブースターで加速、スターセイバーとの間合いを保ちつつ後退する。
「悪いが、そっちの土俵で戦ってやるつもりなどない!」
 言って、ビッグコンボイは着地すると同時に背中のビッグキャノンをかまえ、
「フォースチップ、イグニッション!」
 咆哮と同時、アニマトロスのフォースチップをイグニッション。スターセイバーへと狙いを定め、
「ビッグキャノン――GO!」
 放たれた閃光は、高速ダッシュが仇となり動きの限られたスターセイバーへと迫り――
「レヴァンティン!」
〈Explosion!
 Force-tip, Ignition!
 Panzer Geist!〉

 システム音声が響き――ビッグキャノンの閃光はスターセイバーの眼前に展開された防壁に激突、爆裂した。
 爆発が収まり、煙が晴れ――
「いかにトランスフォーマーのイグニッション・ウェポンでも――着弾時の爆裂だけなら、カートリッジとフォースチップを併用すれば意外と防げるものだな」
 スターセイバーの前には、レヴァンティンをかまえたシグナムが佇んでいた。
 カートリッジとフォースチップの“力”で防御結界“パイツァーガイスト”を強化し、ビッグキャノンの攻撃を防いだのだ。
「すまないな、シグナム」
「礼ならいい。
 それよりも――確実に勝つぞ」
「うむ!」
 互いにうなずき、かまえるシグナムとスターセイバーを前に、ビッグコンボイは静かにビッグキャノンをかまえる。
「またそれか……
 防がれたのを忘れたか?」
「悪いが、オレの切り札はこのビッグキャノンなんでな。
 フォースチップ、イグニッション!」
 スターセイバーに答えると、ビッグコンボイは再びイグニッションし、
「ビッグキャノン――GO!」
 放ったビッグキャノンは――
〈Explosion!
 Force-tip, Ignition!
 Panzer Geist!〉

 またしてもシグナムのパンツァーガイストに止められてしまう。
「何度やってもムダだ。
 カートリッジをロードし、さらにイグニッションまでした私のパンツァーガイストなら、お前のビッグキャノンを止められる」
 告げるシグナムだが――
「フォースチップ、イグニッション!
 ビッグキャノン――GO!」

 かまわず、ビッグコンボイは三度ビッグキャノンを発射。しかし、それでもシグナムに止められてしまう。
「気は済んだか?」
「どうかな?」
 シグナムに答え――ビッグコンボイは再びビッグキャノンをかまえる。
「言ったはずだ。
 オレの切り札は、このビッグキャノンだと」
「そうか……」
 その言葉に、シグナムは再びレヴァンティンをかまえる。
「ならば好きなだけ撃つがいい。
 すべて――止めてみせる」
「あぁ。
 ならば、遠慮なく撃たせてもらう」
 淡々と応じ、ビッグコンボイはビッグキャノンをかまえ――
「フォースチップ、イグニッション!」
 フォースチップをイグニッションした。
 “サイバトロンマークの刻まれたフォースチップを”。
「チップが――」
「違う――!?」
 さっきまでは確かにアニマトロスのフォースチップでイグニッションしていたはず――初めてシグナム達の間に動揺が走るが、ビッグコンボイはかまわずビッグキャノンをかまえ――
「ビッグキャノン――GO!」
 放たれた閃光は、とっさに展開したシグナムのパンツァーガイストを直撃し――粉砕、大爆発を巻き起こす!
「オレは確かにビッグキャノンが切り札だと言った――だが、“ビッグキャノンの攻撃が1パターンだけだ”とは言ってない」
 爆発の向こうに消えたスターセイバーとシグナムに、ビッグコンボイはビッグキャノンを下ろして告げた。
「オレのビッグキャノンは少し特別なイグニッション・ウェポンでな――イグニッションで強化されることはないが、代わりにイグニッションするチップによって特性が付加されるんだ。
 アニマトロスのチップで着弾時の爆裂性、そして――セイバートロン星のチップで、結界破壊効果、というワケだ」
「なるほど、な……」
 ビッグコンボイの言葉に答える声は、爆煙の中から聞こえてきた。
 そして、煙が晴れ――
「執拗にアニマトロスのチップでビッグキャノンを放ったのは――今の一撃のための布石だった、というワケか……!」
 そこには、右腕を犠牲にしてシグナムを守ったスターセイバーの姿があった。
「運がよかったな――その右腕がスーパーモード用のパーツで。
 だが、もはやオレを追うことはできまい。帰らせてもらうぞ」
 言って、彼らに背を向けるビッグコンボイだが――
「待て」
 それでも、スターセイバーはビッグコンボイを呼び止めた。
 振り返るビッグコンボイとしばし視線がぶつかり合い――スターセイバーは自らの名を名乗った。
「今後もぶつかることもあろう。
 一応名乗っておく――ヴォルケンリッター、“雷光の将”スターセイバーだ」
「……元サイバトロン軍総司令官、ビッグコンボイ。
 いずれまた会おう。“元サイバトロン軍総司令官”スターセイバー殿」
 スターセイバーの言葉に名乗り返し、ビッグコンボイは改めてその場を後にしていった。

「ぐわぁっ!」
 ライガージャックにのしかかられ、ノイズメイズは大地に叩きつけられた。
 その場にはギャラクシーコンボイ達やなのは達、スカイリンクスやサイドス達――サイバトロン・アニマトロス組一同が集合している。
「おい、下敷きになったトランスフォーマーってのはどこだ!?」
「ここ、ここ!」
 告げるライガージャックに、自分を指さして答えるノイズメイズ――まぁ、ライガージャックの下敷きになっているのだから、ウソは言っていないのだが……
「デストロンのワナだったのか……」
「どうするの? ギャラクシーコンボイさん」
「食っちゃおうか」
「おいしいの?」
 ギャラクシーコンボイとなのはに告げるライガージャックへとフェイトが尋ねると、
「ノイズメイズ!」
 そこに、ランページが駆けつけてきた。
「おどれら! ノイズメイズを放さんかい!」
「そうはいくかよ!」
 ランページの言葉にライガージャックが言い返し、両者は一歩も退かずににらみ合い――
「待て! 私の話を聞け!」
「今さら何を言いやがる!」
 今度はノイズメイズに言い返すライガージャックだが――続いて放たれた言葉に思わず自分の耳を疑った。
「私は、“キミ達の味方だ”!」
「な――――――っ!?
 い、いい加減なことを――」
「まぁ待て。
 『味方だ』というからには、まず話を聞いてみようではないか」
 言い返そうとしたライガージャックをスカイリンクスがいさめると、ノイズメイズはライガージャックの下から脱出し、デストロンマークの刻まれた盾を見せ――
「フォースチップ、イグニッション!」
 オレンジ色のフォースチップをイグニッションすると、そのエンブレムがサイバトロンのそれに切り替わった。
「我々は、トランスフォーマー特命刑事、ノイズメイズと、ランページ!」
「特命、刑事……?」
「聞いたことがないな」
 そのノイズメイズの言葉に、なのはとギャラクシーコンボイは顔を見合わせてつぶやく。
「デストロンはマスターメガトロンだけではなく――サイバトロンもまたキミ達だけではない、ということだ」
「そ、そうじゃ。
 長い歴史の中で、サイバトロンもデストロンも何度も派閥が分裂しとる――ワシらはそんなトランスフォーマーの分家集団が集まった一派なんじゃ。
 ノイズメイズはマスターメガトロンの動向を探るために、そしてワシは一番の中心であるプラネットフォースの在り処をつかめため、それぞれ潜入捜査しとったんじゃ。
 ……まぁ、アトランティスの時にはノイズメイズの手伝いで地球に出向いたりもしたがのぉ」
 その言葉に、なのはとフェイトは思わず顔を見合わせ――その困惑をノイズメイズは見逃さなかった。
「では、さらばだ!
 トランスフォーム!」
「また連絡するからのぉっ!」
 素早くノイズメイズはトランスフォーム。同じくタンクモードにトランスフォームしたランページを抱えて飛び去っていく。
「ア、アイツ!」
「もう追いかけてもムダだ。今回は放っておけ」
 後を追おうとしたライガージャックを制止すると、スカイリンクスはギャラクシーコンボイへと向き直り、
「しかし……解せんと思わんか?」
「何が?」
 聞き返すなのはだが、それにはアルフが答えた。
「出てきたのが、マスターメガトロン達だけじゃなかった――ってことじゃないかな?」
「その通り」
 アルフの言葉にうなずき、スカイリンクスは続けた。
「もしこれが本当にマスターメガトロンの命令で仕掛けられたワナだったとすれば、おびき出すのは我輩達だけで十分のはず。
 しかし、この場にはスカージ達だけでなく、スターセイバーや、ビッグコンボイまでもが姿を見せていた……
 わざわざ混戦にすることに意味があるとは思えんし……どう考えても腑に落ちん」
「確かに。
 こっちは戦いたいワケじゃないんだ。乱戦になんかしたらドサクサに紛れて逃げられる」
 現にこうして離脱できたワケだし、と付け加え、恭也はギャラクシーコンボイへと視線を向け、
「ギャラクシーコンボイ……
 どうもこの一件、ただ単純なプラネットフォースの奪い合いじゃなくなってきたみたいだぞ」
「そうだな……」
 恭也の言葉にうなずき、ギャラクシーコンボイは彼らの不安を象徴するかのように立ち込める、空の暗雲を見上げていた。

「……とりあえずはこれでよし、と……」
 仮面の男のとなりで、ダブルフェイスは立ち上がった。
「これで、ビッグコンボイも関与せざるを得まい。
 加えて乱戦になったおかげでギャラクシーコンボイ達も離脱に成功――急ごしらえの策にしては上出来かな」
「あぁ」
 ダブルフェイスの言葉にうなずくと、仮面の男は谷底を去っていくフレイムコンボイやマスターメガトロン達を見送りつつつぶやいた。
「我々の目的のため――しばしピエロになってもらうぞ、お前達には……」


 

(初版:2006/05/28)