惑星スピーディアでのグレートレースも、すでに第3ラウンド。
このレースに勝ち残った者だけが、最終の決勝レース“ファイナルレース”へと駒を進めることができるのである。
〈いよいよ、予選最終レースの開始です!
ここまで残ったのは、ヴォルケンリッターの限界レーサー、アトラス、ザフィーラ、シャマル組!
パワーレーサー、インチアップ!
サイバトロンのロケットコンビ、ブラー&ミオ・ジンナイ組!
パワーとテクを兼ね備えた万能レーサー、ジンライ&ヴィータ組!
限界スピード! 弾丸野郎、エクシリオン!
最速戦士、ニトロコンボイ!〉
パズソーが紹介していく度、観客席のボルテージはどんどん上昇していき――
〈ベテランレーサー、オートランダー!
破壊の申し子、オーバーライドとメナゾール!
……でもってランドバレットとガスケット〉
「ちょっと待て!」
「だからなんでオイラ達だけ紹介カルいんだよ!?」
相変わらずなパズソーの紹介に、相変わらずの抗議の声が上がる。
だが、そんな彼らも含め、レーサー達には観客席からの熱烈な声援が送られている。
そしてここでも――
「エクシリオーンッ!」
「がんばれーっ!」
「ち、ちょっと、二人とも」
オーロラビジョンの影から声援を送るすずかと忍に、耕介はあわてて待ったをかけた。
「見つかっちゃうって、みんなに」
言って、指さした先にはそう遠くない観客席に座るファストエイド達の姿があった。
「ご、ゴメン……」
「興奮しちゃって……」
「まったく……」
謝る二人にため息をつく耕介だが、二人の気持ちもわからないでもなかった。スタート位置についた面々へと視線を向け、つぶやく。
「がんばれよ、エクシリオン、ブラー、美緒……」
そして――レースは開始された。
第23話
「想いと新たな転生なの」
「いっけぇっ!」
「させるか!」
「負けるな、ブラー!」
レースが始まるなり、真っ先に飛び出したのはエクシリオンとブラーだ。スタートダッシュに難があるインチアップを抑え、ニトロコンボイと共にトップを競いながら走り出す。
3人そろってオンロード仕様――皆砂漠を苦手としている以上、ここでついた差がそのまま最後まで響くのは想像に難くない。
だが――そんな彼らの周囲で、突然爆発が巻き起こった。
オーバーライドとメナゾール――スタントロンの二人による攻撃だ。彼らもまた、砂漠に入られる前にこちらをつぶしてしまおうという腹づもりなのだろう。
「くそっ、いきなりこれか!」
「いつものことだ、気にするな!」
「ムリなのだ!」
エクシリオンに答えるニトロコンボイに美緒が反論すると、
「エクシリオン、先に行け!」
言うなり、いきなりブラーは減速、スタントロンの前に躍り出る。
「ブラー!?」
「こいつはオレが引き受ける!
お前はレースに完走することだけを考えろ!」
声を上げるエクシリオンに答えると、ブラーは後方のスタントロンへと告げた。
「お前らの相手はオレだ!
ニトロコンボイやエクシリオンをつぶしたいなら、先にオレをつぶすんだな!
――ま、どーせお前らのスピードじゃムリだろうがな!」
「何だと!?」
「オレ達が、貴様ごときつぶせねぇってのか!?」
ブラーの言葉――特にその中の『どうせムリ』という言葉に、オーバーライド達は激しく反応した。
バトルレースを信条とする彼らにとって、相手をつぶす、という実績は自らのプライドに直結しているはず――そう読んだブラーはその点を刺激することで二人の意識を自分に向けることに成功したのだ。
そして、ブラーの狙い通り、オーバーライドとメナゾールは彼を追ってコースを外れ始める。
「――すまん、ブラー!」
自ら危険を引き受けてくれたブラーの気持ちをムダにはできない。エクシリオンは一気に加速し、砂漠地帯へと突入していった。
「ち、ちょっと、何なの、コレ!?」
一方、ヴォルケンリッター側では――シャマルが思わず声を上げていた。
スタートと同時、一気に飛び出そうとしたものの――車体の後部につながれたロープによってアトラスの動きが止められたのだ。
そのロープの反対側は――ジンライにつながっている。
「どういうつもり!? ヴィータちゃん、ジンライ!」
「どうもこうも、シャマル、いつも通りカッ飛ばすつもりだったろ?」
「当然よ!」
キッパリとヴィータに即答するシャマルの言葉に、ジンライはため息をついて告げる。
「そんな調子でこの砂漠レースに挑まれたらたまったものじゃない。
今回はトップはあきらめて完走することに専念する。そのためにも全速力は禁止。念のためオレとアトラスをつながせてもらった、というワケだ」
「そんなぁ!
アトラス、あんなロープ切っちゃいなさい!」
「拒否。我もジンライに同意」
「裏切り者ぉっ!」
「心外。我、貴殿のパートナーにあらず」
「それでも仲間じゃないの、もぉっ!」
「あきらめろ、シャマル。
今回は普通に走るだけで終わっておけ」
アトラスの言葉に憤慨するシャマルだったが――当然のごとく彼女の抗議は黙殺。ザフィーラはそんな彼女になだめるように告げるが、
「だからってこれはないじゃない!
先行する私達をロープで牽引なんて、これじゃまるで……ザフィーラみたいじゃない!」
「どういう意味だ!?」
シャマルのその言葉には、さすがのザフィーラも思わずツッコミの声を上げていた。
「くそっ、スピードが……!」
レース開始からしばし――トップグループでは、ニトロコンボイとインチアップが首位を争っていた――その後方、少し遅れた位置にいるエクシリオンだが、追いつこうと加速してもすぐにバランスを崩してどうにもならない。
バランスを立て直しては崩し、立て直しては崩し――フラフラと走り回るエクシリオンの様子を、彼らはホップと共に上空から見守っていた。
耕介達を乗せたビークルモードのハイブロウ――左右にローターを備えたヘリコプターである。
耕介達が彼に協力を求めたのはこのため。サイズシフトを駆使してもさすがに多人数は乗せられないホップに代わり、自分達を運んでもらうためだったのだ。
「エクシリオンったら、せっかく覚えた走りを見失ってる……!」
「教えてあげなきゃ!
ハイブロウ、降下して!」
「わ、わかった!」
忍とすずかの言葉に、ハイブロウが降下するが――
「――っと、いけないいけない。
焦っちゃダメダメ」
そんな彼らに気づくことなく、エクシリオンは落ち着きを取り戻した。スピードを落とし、安定性を重視した走行に切り替える。
「……心配、いらないみたいですね」
「よかった……」
再び上昇したハイブロウのライドスペースで、ファリンの言葉にすずかは胸をなで下ろす――が、耕介はまだ不安をぬぐいきれなかった。
(けど……あの短気なエクシリオンが、あんな安全運転をいつまでも続けられるんだろうか……?)
だが、そんな彼の思考を断ち切ったのは、忍の上げた驚きの声だった。
「な、何よ、アレ!?」
「………………?」
その言葉に、耕介は顔を上げ――それを発見した。
行く手の砂漠で、幾つも渦を巻いているのは――
「……流砂、でしょうか……?」
そんなノエルのつぶやきに答えるかのように、パズソーの実況が前方のエリアの解説をしてくれた。
〈流砂エリアだ!
渦巻き流砂を迂回して、直線流砂に乗れればここはクリアだ!〉
「迂回して、って……」
だが、渦巻き流砂はひとつではない。すべてを一斉に迂回すると果てしなく遠回りとなり、渦巻き流砂の間を駆け抜けるのもかなりの危険を伴う――行く手のコースの危険を察し、すずかは思わずうめいていた。
「うぁ〜〜、あぢぃ〜〜……」
「頭がクラクラする……」
一方、こちらはまだ前方の危険とは無縁だった――が、ランドバレットとガスケットは、砂漠の暑さを前に、トップグループとは別の意味で危険域に突入していた。
「せめて、風でも吹けばなぁ……」
ボヤくランドバレットだったが、そうそう都合よく風が――
『どわぁっ!?』
吹いた。突然の突風が二人を巻き込み、舞い上げた砂で埋めてしまう。
「く、苦しかったぁ……」
砂の中から顔を出し、ランドバレットがつぶやくと、そこへガスケットからの抗議の声が飛んだ。
「ランドバレット! お前が余計なコト言うからだぞ!」
「何だよ、オイラが言ったから砂嵐が来たって――」
反論しかけ――ランドバレットはふと思いついた。
「……なら、水が欲しいな。
雨よ降れぇっ!」
………………
…………
……
「……えーっと……」
「バカなコト言ってないでさっさと行こうぜ!」
「おい! ちょっと今期待しただろ! えぇ!?」
などとバカをやりながら、二人は砂漠を駆けていく――
とりあえず、砂漠を無事通過するのでいっぱいいっぱいで、二人の頭からはエクシリオン達への妨害工作のことはキレイサッパリ消え去っていた。
「へっへぇんっ、ざまぁみろ!」
砂漠の走行なら自分に分がある――ニトロコンボイを追い抜き、インチアップは余裕の態度で告げる。
〈おぉっと、ここでインチアップがトップに躍り出た!
ワイルドなコースを得意とするインチアップなら当然か!?
逆に、ニトロコンボイに何か秘策はあるのか!〉
そのパズソーの実況を、エクシリオンは渦巻き流砂をかわしながら聞いていた。
(渦巻き流砂をかわしていくより、ムリヤリ突っ切っていった方が、危険は大きいがアイツらよりも前に出られる――どうする……?)
確実に完走するか、ニトロコンボイ達に勝つか――迷いが生じる。
だが――エクシリオンは決断した。
(――いや、行こう!
ニトロコンボイはオレより速いんだ! ここで安全策なんて消極的な心がまえでいたら、ファイナルでだって勝てやしない!)
「いっけぇっ!」
そのままエクシリオンが渦巻き流砂に突っ込んでいく姿を、ホップやハイブロウ、そしてハイブロウに乗る耕介達は上空から発見していた。
「エクシリオン様、渦に向かって一直線です!」
「まったく……すぐにムチャをする……!
ハイブロウ!」
「よし来た!」
ホップの言葉に耕介が告げ、ハイブロウはエクシリオンを止めるべく降下を始めた。
しかし――
「し、しまった!」
耕介達の制止は間に合わなかった。3つの渦巻き流砂をクリアしたものの、ハイブロウが追いつくよりも早く、エクシリオンは4つ目の渦巻き流砂に捕まってしまっていた。
「エクシリオンを助けて!」
「わかってる!」
このままでは完走どころか命も危ない――すずかの言葉に答え、降下しようとするハイブロウだったが、エクシリオンの巻き上げる砂に視界をふさがれ、うかつに接近することができない。
「ホップ、そっちはどうだ!?」
「ダメです! こちらからも何も見えません!」
ハイブロウの言葉に答えるホップも身動きが取れず、両者は再びの上昇を余儀なくされる。
「くっ、トランスフォーム!」
ロボットモードなら何とか――わずかな望みと共にトランスフォームするエクシリオンだが――やはりムリだ。流砂に足を取られて動きが止まってしまう。
ブラーはスタントロンに対する囮としてコースをかなり外れているはず――助けとしては期待できない。
「ここまでか……!」
思わずうめくエクシリオンだが――
「トランスフォーム!」
まだ味方は残っていた。ロボットモードにトランスフォームし、オートランダーが流砂のフチに降り立った。
「つかまれ、エクシリオン!」
「あ、あぁ!」
手を伸ばすオートランダーに答え、エクシリオンもまた手を伸ばす――が、届かない。
(何か、ロープになるものでもあれば……)
手だけで救うのはムリだ。せめてロープか、それに代わるもの――必死に思考をめぐらせ――
「そうじゃ!」
思いついた。それを取り出し、エクシリオンに向けて放り投げる。
「それにつかまれ、エクシリオン!」
「わ、わかった!」
それが何なのかはわからない――だが、迷っている余裕もない。エクシリオンはオートランダーに促されるまま、その紐状の何かを手に取った。
「このレース、いただきだな!」
ニトロコンボイを大きく引き離し、インチアップは余裕で砂漠を疾走していた。
もう直線流砂は目の前だ――と、
「ん………………?」
ふと、インチアップは視界のすみにそれを見つけた。
エクシリオンと、彼を救おうとしているオートランダーだ。
普段なら何てことのない光景としてスルーしていただろう――だが、今の彼には、トップを独走していることで油断が生じていた。
「……よぅし、トランスフォーム!」
ロボットモードへとトランスフォームすると、エクシリオン達へと向き直り、
「行きがけの駄賃だ!
フォースチップ、イグニッション!」
スピーディアの真紅のフォースチップをイグニッションし、肩にショルダーバルカンを展開する。
「二人とも……くたばりな」
そして――ターゲットスコープを起動させた。
「――――――っ!
耕介さん、あれ!」
そのインチアップの様子に、最初に気づいたのは忍だった。狙いを定めるインチアップを指さして声を上げる。
「ハイブロウ! 降下して!」
「ち、ちょっと待ってよ!
ボクは『戦闘にはならないから』っていうから協力したんだよ!」
忍の言葉に反論するハイブロウだが、そんな言葉で忍が止まるワケがない。
「だったら、力ずく!」
「ぅわぁっ!」
ムリヤリ操縦桿のコントロールを奪うと思い切り倒し、ハイブロウを急降下させる。
そして――
「ショルダー、バルカン!」
インチアップが一撃を放ち――その射線上にハイブロウが飛び込む!
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
このままでは自分に当たる――忍のムチャに文句のひとつも言いたいが今はそれどころではない。ハイブロウは思わず絶叫し――突然、その身体が真紅の輝きに包まれる!
(これって――?)
時間にすればほんの一瞬だっただろう。だがその一瞬の内に、忍は現象の正体に見当をつけていた。
覚えがある。フォースチップイグニッションに慣れない内に巻き起こる、余剰エネルギーの発露――しかもこの激しさはパートナーイグニッションによるものだ。
ということは、自分達の中に彼のパートナーがいるということだ。視線を巡らせると、思った通りハイブロウ同様にフォースチップのエネルギーに包まれている者を発見したが――
(え――――――?)
あまりにも予想外な人物だった。忍の思考は思わず停止するが――
『フォースチップ、イグニッション!』
かまわず、ハイブロウはパートナーと共に叫んでいた。真紅のフォースチップがハイブロウの背中のチップスロットに飛び込み――ローターの基部に銃口が現れた。
そして、ローターの回転に併せてエネルギーがチャージされ、
『デュアルローター、キャノン!』
放たれた閃光が、インチアップのビームを弾き、逆にインチアップを吹き飛ばす!
そのスキにエクシリオン達は無事脱出するが――耕介達にしてみればそれどころではなかった。判明したハイブロウのパートナーへと注目し――忍が呆然とつぶやく。
「の、ノエル……!?
ハイブロウと、イグニッションしたの……!?」
「そのようです」
忍の問いに、ノエルはただ事実のみを受け止め、淡々と答える。
だが――そんな落ち着いて納得できる問題なワケがない。
「け、けど、自動人形のノエルがどうして……!?」
そう。人間でないノエルがイグニッションパートナーとしての“力”を使ったのだ。信じられない事態を前に、すずかが思わずその謎を提示し――
「よくも、やってくれたな!」
それどころではなかった。そんな彼らに対し、インチアップが立ち上がり、狙いを定める!
「ぅわぁっ! 怒ってる! 怒ってるよ!」
そんなインチアップにおののくハイブロウだが――突然、彼らの脇をそれは駆け抜けた。
大きく遅れていたニトロコンボイである。この騒ぎのドサクサで追いついていたのだ。
「し、しまった!
トランスフォーム!」
道草を食っている間に抜かれてしまった――自分の慢心に舌打ちし、インチアップはハイブロウを無視してビークルモードにトランスフォーム。ニトロコンボイの後を追う。
「オラオラオラァッ!」
しかし、さすがはオフロード専門。インチアップはあっさりとニトロコンボイへと追いつき、抜き去っていく。
「へっ、ざまぁみろ!」
再びトップに立ち、余裕の咆哮を上げるインチアップだが――ニトロコンボイは余裕だった。
「そろそろやるか……
タイヤロック!」
言うと同時、4つのタイヤすべてをロック。勢いのままに前進し――
「ニトロブースト!」
その勢いが生きている内に車体後部のニトロブーストでさらに加速。そのまま砂漠を“滑走し”、一気にインチアップを追い抜く!
「な、何ぃっ!?」
突然急加速したニトロコンボイを見て驚きの声を上げ――しかしそれでもインチアップはすぐに反応した。追い抜かれてたまるかとばかりにロボットモードへとトランスフォーム。ニトロコンボイの上に飛び乗る。
「このヤロ、止まれっての!」
そのまま、ニトロコンボイの体勢を崩してやろうと上から殴りつけるインチアップだが、
「無礼なヤツ……!」
言うなり、ニトロコンボイはロボットモードへとトランスフォームしてインチアップを跳ね飛ばし――すぐにビークルモードに戻るとインチアップの顔面を自身のタイヤで思い切り踏みつける!
と――
「助太刀するぜ!」
そこに駆けつけてきたのはランドバレットを連れたガスケットだ。インチアップを救うべくビームを放つ。
だが、直前でニトロコンボイは離脱。結果――ガスケット達のビームはインチアップへと降り注ぐ!
「どわぁっ!?
てめぇら、何しやがる!」
「ち、ちょっと手元が狂っただけだろうが!」
「そのくらいわかれよな!」
身を起こし、わめくインチアップに言い返しながら、ガスケット達は彼の怒りの攻撃から逃げまどう。
「……何やってるんだか」
「同感だな」
その光景を眺めて呆れているヴィータとジンライ、そして彼らにつながれたアトラスが通り過ぎていくのにも気づかずに。
ちなみにシャマルはというと――
「……走りたい……飛ばしたい……ブッチギりたい……」
アトラスの中で禁断症状に襲われていた。
「オートランダー」
「ん?」
二人で併走してゴールを目指し――どうしても気になったエクシリオンはオートランダーに尋ねていた。
「さっきオレを助けてくれたロープは、何だったんだ?」
「さぁな」
あっさりと答えるオートランダーだが――エクシリオンはその正体に気づいていた。
「冷却用の、ファンベルトじゃないのか?」
「な、何を――」
バカなことを――と告げたくてもそれはかなわなかった。オートランダーはそれ以上走ることができず、ロボットモードにトランスフォームしてその場にひざまずく。
エクシリオンの読みは当たっていた――冷却に使うファンを動かすファンベルトを外してしまったオートランダーは身体の放熱がうまくいかなくなっていた。
その上この砂漠レースだ。彼の身体はもはや限界に違いない。
「やっぱりか!
なんでそんなムチャを!」
あわててトランスフォームして駆け寄り、告げるエクシリオンだが――オートランダーはその問いにあっさりと答えた。
「お前さんと同じじゃろ。
お前さんだって、上官の命令を破ってまでワシらを助けてくれたじゃろ」
「だからって、アンタまでムチャをする理由には……!」
言いかけるエクシリオンだが、オートランダーはかまわず立ち上がり、
「さぁ、いくぞ……!」
「いくって……その身体じゃムチャだ!」
あわててエクシリオンは彼を制止し――そこに彼らは舞い降りてきた。
ホップと、そしてハイブロウだ。
「ほ、ホップ!?
それに、ハイブロウまで!?」
〈エクシリオン、いい考えがあるんだ〉
「耕介さんまで……!
いったい、いつこっちに!?」
驚くエクシリオンだが、そんな彼にかまわず、耕介と交代したすずかが告げる。
「エクシリオン、オートランダーをレッカー移動してあげて!
そうすれば、二人一緒にゴールできるよ!」
「すずかまでいるのか……
まぁいい、了解だ」
ツッコみたいことは山ほどありそうだが、今はレースに勝ち残るのが第一だ。エクシリオンはオートランダーを助け起こそうと手を差し伸べ――
「いらんお世話じゃ!」
言って、オートランダーはその手をはねのけた。
「ワシを年寄りだと思って、情けをかけるつもりか!」
「い、いや、そんなつもりは……」
突然の剣幕に動揺するエクシリオンだが――
「冗談じゃよ。
ワシにかまわず行くんじゃ、エクシリオン」
そんな彼に笑って答え、オートランダーは告げた。
「ワシみたいな老いぼれにとっては、『宇宙の破滅』など大した問題ではない」
もう十分長生きしたしの、と付け加えると、オートランダーはハイブロウへ――その中のすずかへと視線を向け、
「しかし、スキッズやそこのお嬢さんみたいな若い世代には重大な問題じゃ。
ワシのためではなく……この子達の未来のために、ゴールしてくれ、エクシリオン」
「オートランダー……
……わかった! 先に行く!」
「わ、私達がナビゲートします!」
言って、走り去っていくエクシリオンと、彼をサポートすべくついていくホップやハイブロウを見送り――オートランダーはその場に座り込んでつぶやいた。
「やれやれ、今回はダメじゃったか。
しかし、次こそは優勝じゃ!」
まだまだ引退するつもりはない。やる気もあらわにオートランダーが自身に喝を入れ――彼の西方、少し離れたエリアで爆発が起きた。
「何じゃ!?」
「何だって!?」
結局、その後は何事もなくゴールした――だが、そこで知らされた事実を前に、エクシリオンは思わず声を上げた。
「“ニトロコンボイがゴールしてない”って、どういうことだよ!?」
「知らないよ、そんなの」
食ってかかるエクシリオンに、パズソーは思わず気圧されながらそう答える。
「トップを走ってたと思ったらいきなり何かに気づいたみたいにUターンして、そのまま走り去っていったんだよ。
追いかけようかとも思ったけど、後続のアトラス達の実況もしなきゃならなかったから……」
「そ、そうか……」
パズソーの言葉にエクシリオンがうめくと、
「何だ、何だ?」
「何かあったのか?」
そこにガスケットやインチアップも現れた。多少ゴタついたものの、彼らも無事ゴールしたようだ。
「お前ら、ニトロコンボイに何かしたんじゃないだろうな!?」
「な、何もしてねぇよ!」
「正確にはしたけど、結局逃げられたって! ホントだ!」
エクシリオンの剣幕を前に、ガスケット達もまた敵同士だということを忘れてあわてて弁明する。
「ニトロコンボイ……何があったんだ……!?」
「ぐあぁっ!」
爆発が巻き起こり、ブラーは砂漠に叩きつけられた。
オーバーライドとメナゾールを炊きつけ、見事先頭集団から引き離すことに成功したブラーだったが、彼らの追跡を許したことで窮地に追い込まれていた。
作戦を用意していたのはブラーだけではなかった――オーバーライド達スタントロンもまた、獲物を確実に仕留めるための伏兵を用意していた。そうとも知らず、ブラーはスタントロンのメンバー達の待ち伏せている場にまんまと追い込まれてしまったのだ。
「よくやったぞ、オートローラーズ」
「へんっ、ざっとこんなもんですよ」
ねぎらうオーバーライドに答えるのはオートスティンガー。オーバーライドの親衛隊“オートローラーズ”のメンバーである。
ブラーの周囲には同じく“オートローラーズ”のメンバーであるオートランチャーにオートクラッシャー。そして上空にもメンバーのひとり、オートジェッター。オートスティンガーやオーバーライド達も加えれば、ブラーの包囲網は完全に完成した形である。
「くそっ、待ち伏せていやがったか……!」
「伏兵とは卑怯なのだ! 正々堂々と勝負なのだ!」
「知るか、そんなの!
こっちは勝てばいいんだ。卑怯でもな!」
ブラーと彼から放り出された美緒に言い返し、メナゾールは手にしたビームガンでブラーを吹っ飛ばす!
と――
「何をしている、お前達!」
突然聞こえたその声は――本来ならばこの場に現れることなど考えられない人物の声だった。
「何だと!?」
驚き、オーバーライドが振り向くと――その視界が衝撃と共に閉ざされた。
駆けつけ、ロボットモードとなったニトロコンボイが走ってきた勢いのまま跳躍、振り向いたオーバーライドの顔面に蹴りをお見舞いしたのだ。
「ぅおぉぉぉぉぉっ!?
顔面が蹴りでも喰らったかのように痛いぃぃぃぃぃっ!」
「お気を確かに!
実際蹴られてますよ、オーバーライド様!」
強烈な一撃にのたうち回るオーバーライドとそれをなだめるメナゾール――二人を完全に無視すると、ニトロコンボイはブラー達の前に着地し、
「大丈夫か? お前達」
「あ、ありがとう、なのだ……」
予想外の救援に戸惑いながらも、美緒はニトロコンボイに応え――ブラーはニトロコンボイに尋ねた。
「……どういうことだ?」
「どういう、とは?」
「どうして、レースで勝つことしか興味のなかったアンタが……」
「簡単な話だ」
ブラーの問いに、ニトロコンボイは肩をすくめ、
「アイツらのやり方は、オレとしても気に食わん」
どうせファイナルレースで勝てばいいんだしな、と付け加える。
しかし、状況は好転したとは言いがたかった。スタントロンの包囲網は未だ健在。オーバーライドも蹴りの衝撃から立ち直り、メナゾールと共にニトロコンボイをにらみつける。
「貴様……ジャマをするか!」
「当然だ。
オレはお前らのバトルレースを容認していない」
メナゾールに答えるニトロコンボイだが、オーバーライドは余裕の笑みで(ただし蹴られた顔をさすりながら)告げた。
「フンッ、大した口を。
“イグニッションもできないクセに”、リーダーを気取ってオレに挑むか」
「え――――――?」
その言葉を聞き逃さなかった――美緒は思わず疑問の声を上げる。
(それって……ニトロコンボイは、フォースチップを使えないってこと……!?)
「ちょっと、ニトロコン――」
「うるさい!
そんなもの、やってみなければわかるまい!」
声をかけようとする美緒に気づかず、ニトロコンボイはオーバーライドに言い返して地を蹴るが――
「フォースチップ、イグニッション!
ライド、バスター!」
対して、オーバーライドはカウンターで放ったライドバスターでニトロコンボイを吹き飛ばす!
「ニトロコンボイ!」
思わず声を上げるブラーの目の前で、オーバーライドは大地に叩きつけられたニトロコンボイを踏みつけ、
「所詮貴様はレーサーだ。レースならともかく、バトルで戦士のオレにかなうものか、バカめ!」
告げると、オーバーライドは右手の内蔵ビームガンを展開し――突然、背後から衝撃を受けて吹っ飛ばされる!
「のぉぉぉぉぉっ!?
背骨が体当たりでも喰らったかのように痛いぃぃぃぃぃっ!」
「落ち着いてください、オーバーライド様!
背骨ではなくメインフレームです!」
再びのたうち回るオーバーライドとそれをなだめるメナゾールはまたもや無視され、体当たりの主は着地した。
ビークルモードのオートランダーである。
「オートランダー!?
なんでアンタまで!?」
「仕方なかろう! 気づいてしまったんじゃから!」
ブラーに言い返すと、オートランダーはロボットモードへとトランスフォームするなり地を蹴り、オーバーライドへと突っ込む!
「フンッ、貴様のような老いぼれなど、オーバーライド様が相手すると思ってんのか!」
そんなオートランダーの前に立ちふさがり、メナゾールが告げるが、
「フォースチップ、イグニッション!
モーター、ブレード!」
オートランダーはかまわずイグニッション。右腕にモーターブレードを展開する。
そして、繰り出したメナゾールの拳をかわして背後に回り込むと、背後から斬りつける!
「老いぼれだからと、甘く見るな!」
続けて、オーバーライドへと突っ込むオートランダーだが、
「しかし老いぼれだよ、貴様は!」
告げるなり、オーバーライドはライドバスターでオートランダーを吹き飛ばす。
「貴様っ!」
吹っ飛ぶオートランダーを前に、ニトロコンボイが再びオーバーライドへと突っ込むが、
「しつこいんだよ!」
武装がなければどうしようもない。そのニトロコンボイも、オードーライドは簡単に殴り倒す。
そして――
「どうせ貴様もターゲットだったんだ――まとめて消し飛べ!
ライドバスター、フルパワー!」
オーバーライドが咆哮し――ライドバスターの放った閃光が、ニトロコンボイやブラー達へと襲い掛かった。
「………………ん?」
直撃を受けたはずだ――だが、一向に自分を襲わない衝撃に、美緒は思わず顔を上げ――
「ぶ、ブラー!?」
目の前に立っていた、傷だらけになったブラーに気づいて声を上げた。
オーバーライドの一撃は、一同をかばったブラーが代わりに受けていたのだ。
「ぐ…………っ!」
だが、ブラーの受けたダメージは決定的だった。全身の装甲がひび割れ、あちこちからオイルが吹き出している。
「お前、なんてムチャを……!
どうしてそこまでして……!?」
よりにもよって大帝クラスの相手の攻撃を受けたのだ。ヘタをすれば命に関わる――第2ラウンドのエクシリオンの助けなど比較にならないその行為に、思わずニトロコンボイは疑問の声を上げる。
だが――そんな彼にブラーは告げた。
「エクシリオンが、言っただろうが……!
『誰かが困っていたら助ける』のが、オレ達の、やり方だ……!」
「お前……!」
「それに、お前だってさっき助けてくれただろ。
借りの作りっぱなしは、ガラじゃないんだよ」
言葉を失うニトロコンボイに気を使う余裕などない。ブラーは一方的にそう告げるとニトロコンボイから視線を外し、周囲の状況に思考をめぐらせる。
強がってはみたものの、やはり自分のダメージは尋常ではない。もはや戦闘はもちろん通常の稼働にすら支障を来たし、すでに自己修復モードに入るようシステムが再三の警告を発している。この状況で皆を守る手段があるとすれば――
決意を固め、ブラーは突然美緒へと向き直り――告げた。
「美緒……お前は逃げろ。
ニトロコンボイとオートランダーはまだ余力がある。二人となら、逃げられるはずだ……!」
そして、オーバーライドを見すえ、
「ここは……オレが食い止める」
「な、何言い出すのだ!?
そんな身体じゃ……!」
「わかってるだろうが、この状況がどれだけヤバいか!
走って逃げられないオレ以外に、誰が足止めを引き受けるんだ!」
しかし、美緒も退かない。毅然と言い返す。
「それでもイヤなのだ!
ブラーが残って戦うって言うなら……あたしもブラーと一緒に戦う!」
「『戦う』とか言うな!」
反論した美緒を、ブラーはピシャリと一括した。
「お前は、本当なら海鳴で平和に暮らしてなきゃいけなかった人間なんだ!
こんな死地にまで付き合う理由なんかない! 地球に帰って――」
「理由ならあるのだ!」
だが、美緒は真っ向からブラーに向けて反論した。
「あたしは、あたしがそうしたいからブラーと一緒にいるのだ!
あたしの勝手で一緒にいるんだから――『帰れ』なんて言われても帰るつもりなんかないのだ!」
「どういう勝手だよ!」
なおも言ってくるブラーに、美緒は――
「ブラーが好きだからなのだ!」
思わず――口に出していた。
「…………美…緒……!?」
思いもよらない一言に言葉を失うブラーに対し、美緒はさらに続けた。
「……地球で出会って、ブラーと組んで、スピーディアに来て、一緒に走って、一緒にニトロコンボイに負けて、一緒にエクシリオンを助けて……」
一番の想いの中心を告げてしまって落ち着いてきたのか、美緒の声のトーンが下がっていく――
「そうしてたら、最初はおもしろそうで参加したプラネットフォース探しも、いつの間にかどうでもよくなって……
いつの間にか、ブラーと一緒にいたいって……そう思ってたのだ……!」
いや――彼女は泣いていた。
「だから……一緒にいたいのだ……一緒に戦いたいのだ……
ブラーと一緒に、宇宙を救いたいのだ!
宇宙が助かっても……ブラーが一緒じゃなきゃイヤなのだ!」
「美緒……」
だが、そうしている間にもオートローラーズは包囲を狭め、オーバーライドとメナゾールもトドメを刺すべく近づいてくる。
彼らが自分を射程内に収めたら今度こそ終わりだろう――しかし、
「………………っ!」
ブラーはもう美緒を逃がそうとはしなかった。彼女をかばうようにオーバーライド達へと向き直る。
そして――告げた。
「オレもだ」
拳を握り、取り落とした銃の位置を確認する。
今の傷ついた身体では、全力で走ったとしても所要時間は――
(10秒、ってところか……)
しかし――ためらいはない。
(ったく、こんなところで決定打を決めてくれやがって……)
胸中のその言葉は先の一撃を見舞ってくれたオーバーライドに向けたものではなかった。
(おかげで、カッコ悪いところ見せられなくなっただろうが……)
背後の――自分を想ってくれるひとりの少女に向けてのものだった。
宇宙ではない。正義でもない。
自分を助けようとしてくれたオートランダーやニトロコンボイでもなく――ただひとりのその少女のために、ブラーは今そこに立っていた。
(『守りたい』じゃない――『守る』んだ)
決意は、もはや何者にも崩すことは叶わなかった。
(オレが――美緒を守る!)
その瞬間――彼の想いに“それ”が反応した。
「何だ!?」
目の前で巻き起こった異変に、オーバーライドは思わず一歩後ずさっていた。
突然、ブラーがすさまじいエネルギーの渦に包まれたのだ。
「な、何が……!?」
同じく事態を把握できずにオートランダーがうめくと、
〈適合対象、スキャニング〉
ブラーのメインシステムが命令を下し――両目から放たれた緑色の光がオートランダーに向けられた。
スキャニングレーザーだ。
〈適合対象、決定〉
システムボイスと共に、ブラーを包み込むエネルギーの渦はその強さを増していく。
「何が起きてんスか!?」
「知るか!
何だかわからんが――不愉快だ!」
メナゾールに答え、オーバーライドは両肩のライドバスターを向けた。
「消えろ、小童!」
そして、放たれた閃光がブラーへと迫り――
〈転生〉
その言葉と同時、彼と、その背後の美緒の姿が射線上から消えた。
「何っ!?」
自分の一撃がむなしく大地を薙ぐのを目の当たりにし、オーバーライドがうめくと――
「どぉりゃあっ!」
「ぐわぁっ!」
反撃は突然襲ってきた。強烈な体当たりをくらい、オーバーライドの巨体が中を舞う。
「オーバーライド様!?」
それを見たオートスティンガーが思わず声を上げ――次の瞬間、彼らオートローラーズやメナゾールもまた、体当たりを受けてまとめて吹っ飛ばされる!
スタントロンを一通り弾き飛ばし――彼らの前にそれは停車した。
オートランダーのビークルモードによく似た、青色のドラッグカーである。
そして――
「トランスフォーム!」
咆哮と共にロボットモードへとトランスフォームし、彼はスタントロンの前に立ちはだかる。
見たことのないトランスフォーマーだ――しかし、その顔にニトロコンボイは覚えがあった。
「お、お前……
ブラー、なのか……!?」
「らしいぞ、どーも」
そう答える声も、確かにブラーのものだ。
「い、一体、何が……!?」
「わかんないっスけど……アニマトロスじゃウチの仲間が同じように姿を変えたっていうし、たぶんその類なんじゃないっスか?」
オートランダーに答えると、ブラーは自分の胸元へと視線を落とし、
「で……お前は大丈夫か? 美緒」
「そう思うんなら、体当たりなんかするな!」
尋ねるブラーに、美緒はライドスペースの中で額を押さえ、涙を浮かべて抗議する。
どうやらブラーがスタントロンに対し敢行した体当たりによって、額をしこたまぶつけたらしい。
「なら、ちゃんとシートベルトしてろ。
こっからは――さらにギアを上げるぜ!」
言うと同時、ブラーは地を蹴り――次の瞬間には、オーバーライドの目の前にすべり込んでいた。
「な――――――っ!?」
あまりにも速い――ほぼ瞬間的に間合いの中に飛び込んだブラーのスピードに、オーバーライドが戦慄し――ブラーはオーバーライドの横っ面に回し蹴りをお見舞いする!
「き、貴様!」
そんなブラーにメナゾールが咆哮。ばらまいたミサイルが全方位からブラーに迫り――
「遅いぜ!」
ブラーはそのすべてを平然とかわし、逆にメナゾールに突っ込み再び蹴りを一発。吹っ飛ばされたメナゾールは目を回すオートローラーズの上に落下し、ブラーはニトロコンボイ達を守るようにオーバーライドと対峙する。
「は、速い……!?
それに、あの力強さ……」
ニトロコンボイすら驚嘆するブラーのスピードと強さに、オートランダーは思わずその名をつぶやいていた。
「……ロディマス殿……」
「ロディマス?」
その言葉を聞きつけ、振り向くブラーにオートランダーはうなずいた。
「この星の先代のリーダー、ホットロディマス殿……
お前さんのスピード、パワー、その猛々しさ――何もかもロディマス殿を彷彿とさせる」
そう答え――思いついたオートランダーはブラーに告げた。
「……よし。
ブラー、お前さんこそその名を継ぐに相応しい。
今日からは、ロディマスブラーを名乗るがいい」
「お、オレがか!?
それならむしろ今のリーダーの――」
「ニトロコンボイならリーダー就任時に辞退しおったわい」
オートランダーの答えに思わずニトロコンボイをにらみつけるブラーだったが、ニトロコンボイは事態についていけずに呆然としている。これでは今抗議してものれんに腕押しだ。
「と、ゆーワケで、今日からお前さんはロディマスブラーじゃ」
「これからもよろしくなのだ、ブラー……じゃない、ロディマスブラー!」
「………………はい」
その上美緒にまで納得されてはもはや拒否などできない。ブラー改めロディマスブラーは力なくうなずき――
「貴様らぁ……!」
そんな彼らに対し、オーバーライドが怒りの声を上げた。
「このオレ様を……どこまでコケにしてくれる!」
完全に逆上し、オーバーライドがライドバスターをかまえ――
「やるぞ、美緒!」
「もちろんなのだ!」
『フォースチップ、イグニッション!』
対して、ロディマスブラーと美緒はフォースチップをイグニッション。両肩にウィングが展開され、さらにそこから分離したビームガンを両手につかむ。
『ロディマスショット!』
咆哮と同時に引き金を引き、放たれたビームは一直線にオーバーライドへと飛翔し――ライドバスターの銃口へと飛び込んだ。
とたん――爆発。チャージしたエネルギーを誘爆され、オーバーライドはたまらず後退。すぐさまロディマスブラーはロディマスショットをウィングに再度合体させ、
『ロディマス、ブースター!』
ブースターと化したロディマスショットで推進力を得て跳躍。一気にオーバーライドへと突っ込み、
「これで――」
「決まりなのだぁっ!」
渾身のドロップキックが、オーバーライドをブッ飛ばす!
「オーバーライド様!」
あわててメナゾールが駆け寄ると、オーバーライドはなんとか身を起こし、
「くそっ、このまま続けるのは分が悪いか……
仕方あるまい。ヤツらの始末はファイナルに持ち越す」
「し、しかし……」
「言う通りにしろ。
体勢を立て直すには余力はともかく時間がない――早くゴールしなければリタイア扱いで失格になるぞ」
うめくメナゾールに答えると、オーバーライドは彼やオートローラーズと共に離脱していった。
「追いかけるのだ、ブラー!」
「おいおい、ムチャ言うなよ」
このまま逃がすものかとばかりに告げる美緒に、ロディマスブラーはため息まじりに答える。
「こっちは戦えないヤツ二人も抱えてるんだぞ。
それに、今からアイツら追いかけて、悠長にトドメなんか刺しててみろ。アイツらが言ってたみたいに、時間切れで失格扱いになるぞ」
「あう……わかったのだ……」
ロディマスブラーの言葉にうめき――それでもその通りだと判断し、美緒は素直に引き下がる。
そして、ロディマスブラーはニトロコンボイとオートランダーへと向き直り、
「んじゃ、先行ってるぜ!」
「あ、あぁ……」
言って、ビークルモードにトランスフォームして走り去っていくロディマスブラーを、ニトロコンボイは呆然としたまま見送る。
「一体……なぜ、彼らは……?」
転生のことを理解できず、思わずつぶやくニトロコンボイだったが――そんな彼にはオートランダーが答えた。
「さぁての。
陳腐な言い方じゃが……あきらめなかった、あきらめることをやめたあの二人への、創造主プライマス様のご褒美だったのかもしれんの」
「……プライマスの……
結局、また借り物の力ということか。フォースチップと同じ……」
そのニトロコンボイのつぶやきに、オートランダーは告げた。
「それは違うぞ、ニトロコンボイ」
「違う……?」
「フォースチップは確かにプライマス様の力を分け与える。
しかし――それによって発動する力は、紛れもなくそのトランスフォーマーが元々持っている力じゃ。フォースチップはその潜在能力を解放するための鍵でしかないんじゃ。
だから、たいていの場合イグニッションしても問題なく使いこなせる。借り物の力ではそうはいくまい?
転生も、それと同じなのではないかの? フォースチップでは引き出しきれない潜在能力を解放するための、フォーマット書き換え――それが転生なのじゃろうて。
彼らは、二人とも最後まであきらめなかった――最後まで、互いを支え合おうとした。そんな二人の、力を合わせようという気持ちにプラネットフォースが応え、転生を遂げることができたんじゃろうな」
「………………」
オートランダーの言葉に、ニトロコンボイは再びロディマスブラーの走り去っていった方向へと視線を向け、つぶやいた。
「二人の力を、合わせて……」
その頃、アニマトロスでは――
「つまり、リンクアップ・ナビゲータはフェイトしか使えない……ということか?」
「はい……」
尋ねるギャラクシーコンボイに、なのはは少し自信なさげにうなずいてみせる。
「どういうことだ……?」
「わかんないよ、アタシ達にも」
眉をひそめるスカイリンクスにアルフが答えると、
「……突拍子もない話だが……私にひとつ、仮説がある」
そう答えると、ベクタープライムはフェイトへと向き直った。
「フェイト、キミのことはリンディ提督から聞いている。
確かキミは、キミの母親が真の娘から作り出したコピーだということだな?」
「は、はい……」
ベクタープライムの問いに、フェイトは視線を落としてうなずいた。
「それと……リンクアップとどういう関係が?」
おそらくプレシアのことを考えているのだろう――彼女のことを案じつつなのはが尋ねると、ベクタープライムは今度はアルフへと視線を向け、
「以前、アルフとそのことを話していた時のことを思い出したのだ。
フェイトは、母プレシアと遊びに出かけたという記憶を持っている。
だが――フェイトが生まれたのは、プレシアが娘アリシアを失い、狂気に走った後だと推測される」
「ま、実の娘をコピーしようなんざ、まともな精神じゃ思いつかないだろうからな」
「ライガージャック!」
「っと、すまん……」
あわててたしなめるアルフの言葉に、ライガージャックは素直にフェイトに謝罪する。
それを見て、ベクタープライムは続けた。
「まぁ……多少表現がストレートすぎたが、ライガージャックの言い分ももっともだ。
だが、重要なのはそこだ」
「どういうことだ?」
「まともな精神でない人間に、遊びに出るような精神の余裕は見込めない、ということだ」
尋ねるギャラクシーコンボイにベクタープライムが答え――その事実に思い至ったのは恭也だった。
「そうか……となれば、フェイトは実際に母親と遊んだことはないはず……
だが、だとすると“どうしてその記憶があるのか”、という問題が生じる」
「えぇ……
なのはちゃんの話だとプレシアさんはフェイトちゃんにアリシアちゃんの記憶を植えつけたらしいですけど……それでも魂が別物な以上、ズレはどうしても生じるはず――ヘタをすれば、それが精神と魂のズレを引き起こして、命の危険にもつながるはずです。
それなのにフェイトちゃんは呼ばれ方が違うことが気になっていた、というくらいで、その記憶をほぼ違和感なく受け止めていた……」
「そうだ」
恭也に同意する那美の言葉にうなずき、ベクタープライムは改めてフェイトへと向き直り、
「これは仮説だが……フェイト、キミの中に、アリシアの精神も宿っている可能性はないだろうか?」
「アリシア、の……?」
意外な仮説につぶやくフェイトに、ベクタープライムはうなずいてみせる。
「結果的にコピーは不完全でフェイト、キミの人格が生まれることになったが……もし、少なからずアリシアの精神のコピーも成功していて、それがキミの記憶の違和感を緩和していたとしたら?」
「だとすると、フェイトちゃんの身体にはフェイトちゃんとアリシアちゃんの二つの精神が宿ってるってことで……」
言いかけて――なのはは気づいた。
「リンクアップしてる時と同じ状態だ!」
「そうだ。
ひとつの身体に二つの精神――リンクアップによって生じたその状態は奇しくも、フェイトの身体と共通している。
逆に言えば、その条件にあるフェイトがいたからこそ、ギャラクシーコンボイとライガージャック、二つの身体をひとつにすることができたのではないだろうか」
その言葉に、なのはは思わずフェイトへと視線を向け――そのフェイトは、自分の胸元を見下ろした。
「わたしの中に……アリシアが……?」
正直、信じられなかった。だが、もし真実なら――
「フェイトちゃん……?」
黙り込むフェイトを見て、なのはは恐る恐る声をかけ――フェイトが口を開いた。
「……なのは」
「な、なに?」
「わたしは……本当のことを知ってから、お母さんのことをどう思っていいか……正直言って、わからなくなってた。
けど……お母さんに、アリシアの記憶とか、精神とか、いろんなものを与えられて……そのおかげで、今、なのはの力になれるんだよね……」
つぶやくフェイトの声に、悲壮感はなかった。
「なら……わたしは、前よりも、お母さんのことが好きになれそうな気がする」
「……うん!」
結局、心配はいらなかったようだ――笑顔を見せた親友の姿に、なのはもまた満面の笑みでうなずく。
と――
〈ギャラクシーコンボイ総司令官〉
突然、ガードシェルからの通信が入った。
「ガードシェル、だったかのぉ……いったいどうした? そちらで行われている“駆け事”の結果報告か?」
「そうだな。
ガードシェル、レースの結果は?」
尋ねるスカイリンクスとギャラクシーコンボイの言葉に、ガードシェルはなぜかため息をついた。
「とりあえず……エクシリオンもブラーも、無事完走しました。
しかし、残念ながらオートランダーはリタイアです」
「ニトロコンボイも問題なし。
他にはランドバレット達デストロンの3バカに、ヴォルケンリッターの二組――ヤなことにスタントロンの連中も残ってるよ」
〈そうか〉
ガレージの前で告げるガードシェルと真雪の言葉に、ギャラクシーコンボイがうなずく後ろでなのは達も手を打ち合わせて大喜びだ。
〈では、次はいよいよファイナルレースか〉
「そ、それなんですが……
その前に、少々問題が……」
ギャラクシーコンボイの言葉にガードシェルがうめくと、彼の足元から姿を現したのは――
〈耕介……忍達に、ノエル達まで!?〉
「わ、悪い、ギャラクシーコンボイ……
どうしても、エクシリオン達の力になりたくて……」
驚きの声を上げるギャラクシーコンボイに、耕介はバツが悪そうに謝罪する。
〈お前達、姿を見ないと思ったらそんなところに!
すぐに帰ってこい!〉
通信を聞いていたのだろう。すぐさま割り込んできてドレッドロックが言うが――
「あのさ、ドレッドロック……」
口を開いたのはエクシリオンだった。
「相談なんだけど……
彼らに、正式にバックアップを頼んじゃダメか?」
「え………………?」
思わず声を上げる忍だが、エクシリオンはかまわずドレッドロックへの説得を続ける。
「オレは、まだまだだ……
前は、宇宙で一番速いと思ってたけど、この星にはオレ達より速いヤツはわんさといる。
何でも自分でできるって思ってた……けど、それも間違いだった。
総司令官となのはがパートナーとして助け合っているように、オレもみんなに助けられて、みんなに支えられて、ここにいるんだ。
同じように、耕介のレースの知識や、すずかや忍のメカニックの知識は、きっとオレ達を助けてくれる。だから……!」
〈うぅむ……〉
その言葉に、ドレッドロックは思わず考え込み――そのとなりのウィンドウでギャラクシーコンボイが告げた。
〈結論は、出たようだな〉
「じ、じゃあ……!」
表情を輝かせるすずかに、ギャラクシーコンボイはうなずき、
〈すずか、忍、耕介……そしてノエルとファリン。
みんな、エクシリオンとブラーを頼むぞ〉
「任せてよ!」
「私達もお手伝いします!」
「当然です」
その言葉に忍が、ファリンが、ノエルがそれぞれに答え――
〈……あれ?〉
地球側のウィンドウの向こうで、ドレッドロックの肩に登って声援を送ろうとしていたアリサが気づいた。
〈ところで……ブラーと美緒さんは?〉
「そ、それが……」
アリサの問いにガードシェルが言葉をにごすと、
「ここですよ」
「ここなのだーっ!」
元気にウィンドウの前に進み出るロディマスブラーと美緒だが、彼の転生を知らないギャラクシーコンボイ達はロディマスブラーを見て首をかしげる。
〈キミは……?〉
「オレですよ、オレ。
ブラーです」
〈ぶ、ブラーさん!?〉
〈ブラーも、転生しちゃったの……?〉
「どうもそうらしいんだ。これが。
これからは、ロディマスブラーと呼んでくれ!」
驚くなのはとフェイトに答えると、ロディマスブラーは元気にサムズアップして見せ、
〈しかし、なぜブラーまで転生を……?〉
「そんなの、決まってるのだ!」
首をかしげるベクタープライムに、美緒はキッパリと断言した。
「あたしとブラーの、愛の奇跡なのだ!」
「……お前、よくそーゆー赤面モノのセリフを遠慮なく吐けるな……」
美緒の言葉に思わずうめくロディマスブラーだったが――美緒はかまわず“爆弾”を投下した。
「何しろ、今日からあたしとブラーは――」
「アツアツラブラブの、恋人同士なんだから!」
『は………………?』
《え………………?》
《へ………………?》
場の空気が、一瞬にして凍結した。
(初版:2006/06/04)